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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】速度検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01P 3/46 20060101AFI20220328BHJP
   G01P 3/49 20060101ALI20220328BHJP
   G01P 3/52 20060101ALI20220328BHJP
   G01P 3/64 20060101ALI20220328BHJP
   G01P 3/66 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
G01P3/46 Z
G01P3/49
G01P3/52
G01P3/64 A
G01P3/66 A
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018102405
(22)【出願日】2018-05-29
(65)【公開番号】P2019207150
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 康
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル、フランクル
(72)【発明者】
【氏名】アルダ、トウスズ
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン、ベー.コラー
(72)【発明者】
【氏名】塚田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】中村 和人
【審査官】森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-233843(JP,A)
【文献】特許第3015689(JP,B2)
【文献】特許第4380708(JP,B2)
【文献】特開平8-211085(JP,A)
【文献】特許第5114913(JP,B2)
【文献】特表2002-540414(JP,A)
【文献】特開2004-219383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P3
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的に磁気極性又は磁界強度が変化する磁束を発生させる磁束発生部と、
前記磁束中を移動する導電体からなる相対移動体の移動又は回転速度に応じて前記相対移動体上に発生される渦電流による磁束に応じた誘起電圧を検出する複数の磁束検出部と、
前記複数の磁束検出部で検出される誘起電圧に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する速度推定部と、
前記磁束発生部及び前記複数の磁束検出部に対向する前記相対移動体の一主面上の着磁の強さを均一化する着磁均一化部と、を備える、速度検出装置。
【請求項2】
前記着磁均一化部は、第1永久磁石を有し、
前記第1永久磁石、前記磁束発生部及び前記複数の磁束検出部は、前記相対移動体の一主面から離隔かつ対向して配置される、請求項1に記載の速度検出装置。
【請求項3】
前記第1永久磁石は、前記相対移動体の一主面を通過する磁束を発生させ、この磁束により前記一主面の着磁の強度が均一化される、請求項2に記載の速度検出装置。
【請求項4】
移動又は回転する導体である相対移動体の一主面上に離隔して配置され、前記相対移動体の移動又は回転方向に応じて発生させるローレンツ力によって所定の回転軸回りに回転する第2永久磁石を有する回転体を備え、
前記着磁均一化部は、前記第2永久磁石により前記相対移動体の一主面上に生じた不均一な着磁の強さを均一化させる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【請求項5】
前記着磁均一化部は、前記相対移動体の一主面上に形成され周囲とは着磁の強さが異なる一つ以上の着磁パターンを消去する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【請求項6】
磁性体からなる相対移動体の一主面上のそれぞれ別の場所に対して離隔して対向配置され、それぞれが誘起電圧を発生させる2つの誘起電圧発生部と、
前記2つの誘起電圧発生部で発生された各誘起電圧の波形が同一の場合における、各誘起電圧の発生時刻の差と、前記2つの誘起電圧発生部同士の距離と、に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する速度推定部と、を備え、
前記2つの誘起電圧発生部のそれぞれは、
周期的に磁気極性又は磁界強度が変化する磁束を発生させる磁束発生部と、
前記磁束中を移動する前記相対移動体の移動又は回転速度に応じて前記相対移動体上に発生される渦電流による磁束に応じた誘起電圧を検出する複数の磁束検出部と、を有する、速度検出装置。
【請求項7】
前記速度推定部は、前記相対移動体の一主面上に形成され周囲とは着磁の強さが異なる特定の着磁パターンに前記2つの誘起電圧発生部のそれぞれが対向配置される時間差と、前記2つの誘起電圧発生部の間の距離と、に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する、請求項6に記載の速度検出装置。
【請求項8】
前記速度推定部は、
前記磁束発生部で磁束を発生させた状態で、前記相対移動体の移動又は回転速度に応じて前記相対移動体の一主面上に発生される渦電流による磁束に応じた誘起電圧を前記複数の磁束検出部にて検出し、検出された誘起電圧に基づいて前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する第1期間と、
前記磁束発生部で磁束を発生させない状態で、前記相対移動体の一主面上の着磁パターンによる誘起電圧が前記2つの誘起電圧発生部で発生される時間差に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する第2期間と、を有する、請求項6又は7に記載の速度検出装置。
【請求項9】
前記磁束発生部に電流を流す第1期間と、電流を流さない第2期間とを交互に設け、前記速度推定部が前記相対移動体の移動又は回転速度を推定するのに必要な時間長さ以上に前記第1期間を設定する電流制御部を備える、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【請求項10】
前記速度推定部は、前記第1期間が開始されてから所定時間が経過した後に前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する、請求項9に記載の速度検出装置。
【請求項11】
前記磁束検出部が検出する前記磁束が変化する周波数は、前記相対移動体を備える機器の振動を含めた前記相対移動体の周囲の環境ノイズの周波数帯域とは異なる周波数を有する、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【請求項12】
前記相対移動体の周囲の環境ノイズを検出する環境ノイズ検出部と、
前記磁束発生部で発生させる前記磁束が変化する周波数を、前記環境ノイズ検出部にて検出された環境ノイズの周波数帯域とは異なる周波数に調整する励磁周波数調整部と、を備える、請求項11に記載の速度検出装置。
【請求項13】
前記相対移動体は、列車の車輪であり、
前記磁束発生部で発生させる前記磁束が変化する周波数は、前記列車の振動周波数帯域とは異なる周波数を有する、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【請求項14】
前記相対移動体は、列車のレールであり、
当該速度検出装置は、前記列車に搭載されており、
前記磁束発生部で発生させる前記磁束が変化する周波数は、前記レールに対する前記列車の振動周波数帯域とは異なる周波数を有する、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【請求項15】
前記磁束発生部で発生させる前記磁束の磁気極性又は磁界強度の時間変化は、正弦波波形を有する、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【請求項16】
前記複数の磁束検出部のうち一部は、前記磁束発生部を挟んで第1方向の両側に配置され、前記複数の磁束検出部のうち前記一部を除く残りは、前記磁束発生部を挟んで前記第1方向に交差する第2方向の両側に配置される、請求項1乃至15のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【請求項17】
前記磁束発生部は、交流電流に応じて磁束を発生させる励磁コイルであり、
前記複数の磁束検出部は、それぞれ別々の場所に配置され、前記相対移動体の移動又は回転速度に応じて前記相対移動体上に発生される渦電流による磁束に応じた誘起電圧を発生させる複数の検出コイルである、請求項1乃至16のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触で速度を検出する速度検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触式の速度センサは、機械加工、組み立て、移動体など、広範囲の産業分野で使用されている。一般的に、これらの速度センサは、光学(カメラ、エンコーダ)若しくは電磁気(磁気抵抗、ホール素子)の技術を応用している。より具体的には、従来の速度センサは、計測対象の移動体の光学的又は磁気的な不連続特性の時間変化から速度を算出する。このため、不連続特性を持たない完全に平坦な移動体に対しては速度計測が不可能である。
【0003】
完全に平坦な移動体の移動又は回転速度を検出する方式として、渦電流による誘起電力を利用した速度センサが知られている(特許文献1、2参照)。この種の速度センサでは、励磁コイルの両側に2つの検出コイルを配置し、励磁コイルに交流電流を流したときに移動体上に発生する渦電流による磁束を2つの検出コイルで検出する。移動体の速度に応じて、2つの検出コイルの誘起電圧に差違が生じるため、誘起電圧同士の差分電圧を検出して、速度を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-233843号公報
【文献】特開平8-146024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
励磁コイルに流れる交流電流によって移動体上に発生される渦電流と、この渦電流による磁束によって検出コイルに発生される誘起電圧はそれほど大きくないため、励磁コイルと検出コイルの周囲にヨークを設けて、磁束の漏れを防止して磁気効率を向上させるのが望ましい。
【0006】
しかしながら、ヨークの形状や、励磁コイルと検出コイルの配置、移動体までの距離などの種々の条件を最適化しないと、移動体の移動又は回転速度を精度よく検出することはできない。例えば、励磁コイルや検出コイルと移動体とのギャップが変動した場合には、移動体の移動又は回転速度の推定結果が変化してしまうおそれがある。
【0007】
また、移動体の一主面に不均一な着磁パターンが形成されている場合、その着磁パターンの影響を受けて、検出コイルに励起される励起電圧が変動するおそれがあり、移動体の移動又は回転速度を精度よく推定できなくなる。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、移動体の一主面に不均一な着磁パターンが形成されていても、精度よく移動体の速度を推定可能な速度センサを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明による一実施形態では、周期的に磁気極性又は磁界強度が変化する磁束を発生させる磁束発生部と、
前記磁束中を移動する導電体からなる相対移動体の移動又は回転速度に応じて前記相対移動体上に発生される渦電流による磁束に応じた誘起電圧を検出する複数の磁束検出部と、
前記複数の磁束検出部で検出される誘起電圧に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する速度推定部と、
前記磁束発生部及び前記複数の磁束検出部に対向する前記相対移動体の一主面上の着磁の強さを均一化する着磁均一化部と、を備える、速度検出装置が提供される。
【0010】
前記着磁均一化部は、第1永久磁石を有し、
前記第1永久磁石、前記磁束発生部及び前記複数の磁束検出部は、前記相対移動体の一主面から離隔かつ対向して配置されてもよい。
【0011】
前記第1永久磁石は、前記相対移動体の一主面を通過する磁束を発生させ、この磁束により前記一主面の着磁の強度が均一化されてもよい。
【0012】
移動又は回転する導体である相対移動体の一主面上に離隔して配置され、前記相対移動体の移動又は回転方向に応じて発生させるローレンツ力によって所定の回転軸回りに回転する第2永久磁石を有する回転体を備え、
前記着磁均一化部は、前記第2永久磁石により前記相対移動体の一主面上に生じた不均一な着磁の強さを均一化させてもよい。
【0013】
前記着磁均一化部は、前記相対移動体の一主面上に形成され周囲とは着磁の強さが異なる一つ以上の着磁パターンを消去してもよい。
【0014】
本発明の他の一態様では、磁性体からなる相対移動体の一主面上のそれぞれ別の場所に対して離隔して対向配置され、それぞれが誘起電圧を発生させる2つの誘起電圧発生部と、
前記2つの誘起電圧発生部で発生された各誘起電圧の波形が同一の場合における、各誘起電圧の発生時刻の差と、前記2つの誘起電圧発生部同士の距離と、に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する速度推定部と、を備え、
前記2つの誘起電圧発生部のそれぞれは、
周期的に磁気極性又は磁界強度が変化する磁束を発生させる磁束発生部と、
前記磁束中を移動する前記相対移動体の移動又は回転速度に応じて前記相対移動体上に発生される渦電流による磁束に応じた誘起電圧を検出する複数の磁束検出部と、を有する、速度検出装置が提供される。
【0015】
前記速度推定部は、前記相対移動体の一主面上に形成され周囲とは着磁の強さが異なる特定の着磁パターンに前記2つの誘起電圧発生部のそれぞれが対向配置される時間差と、前記2つの誘起電圧発生部の間の距離と、に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定してもよい。
【0016】
前記速度推定部は、
前記磁束発生部で磁束を発生させた状態で、前記相対移動体の移動又は回転速度に応じて前記相対移動体の一主面上に発生される渦電流による磁束に応じた誘起電圧を前記複数の磁束検出部にて検出し、検出された誘起電圧に基づいて前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する第1期間と、
前記磁束発生部で磁束を発生させない状態で、前記相対移動体の一主面上の着磁パターンによる誘起電圧が前記2つの誘起電圧発生部で発生される時間差に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する第2期間と、を有していてもよい。
【0017】
前記磁束発生部に電流を流す第1期間と、電流を流さない第2期間とを交互に設け、前記速度推定部が前記相対移動体の移動又は回転速度を推定するのに必要な時間長さ以上に前記第1期間を設定する電流制御部を備えてもよい。
【0018】
前記速度推定部は、前記第1期間が開始されてから所定時間が経過した後に前記相対移動体の移動又は回転速度を推定してもよい。
【0019】
前記磁束発生部で発生させる前記磁束が変化する周波数は、前記相対移動体を備える機器の振動を含めた前記相対移動体の周囲の環境ノイズの周波数帯域とは異なる周波数を有してもよい。
【0020】
前記相対移動体の周囲の環境ノイズを検出する環境ノイズ検出部と、
前記磁束発生部で発生させる前記磁束が変化する周波数を、前記環境ノイズ検出部にて検出された環境ノイズの周波数帯域とは異なる周波数に調整する励磁周波数調整部と、を備えてもよい。
【0021】
前記相対移動体は、列車の車輪であり、
前記磁束発生部で発生させる前記磁束が変化する周波数は、前記列車の振動周波数帯域とは異なる周波数を有してもよい。
【0022】
前記相対移動体は、列車のレールであり、
当該速度検出装置は、前記列車に搭載されており、
前記磁束発生部で発生させる前記磁束が変化する周波数は、前記レールに対する前記列車の振動周波数帯域とは異なる周波数を有していてもよい。
【0023】
前記磁束発生部で発生させる前記磁束の磁気極性又は磁界強度の時間変化は、正弦波波形を有してもよい。
【0024】
前記複数の磁束検出部のうち一部は、前記磁束発生部を挟んで第1方向の両側に配置され、前記複数の磁束検出部のうち前記一部を除く残りは、前記磁束発生部を挟んで前記第1方向に交差する第2方向の両側に配置されてもよい。
【0025】
前記磁束発生部は、交流電流に応じて磁束を発生させる励磁コイルであり、
前記複数の磁束検出部は、それぞれ別々の場所に配置され、前記相対移動体の移動又は回転速度に応じて前記相対移動体上に発生される渦電流による磁束に応じた誘起電圧を発生させる複数の検出コイルであってもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、相対移動体の一主面に不均一な着磁パターンが形成されていても、精度よく相対移動体の速度を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の第1の実施形態による速度検出装置の概略構成を説明する図。
図2A】相対移動体が停止しているときの渦電流を模式的に示す図。
図2B】相対移動体が移動しているときの渦電流を模式的に示す図。
図3】相対移動体が移動する最中の磁束を示す図。
図4A】差分電圧の波形図。
図4B】速度推定部の出力信号の波形図。
図4C】励磁コイルを流れる交流電流の波形図。
図5】相対移動体の一主面に回転体を対向配置させて発電させる例を示す図。
図6図5の回転体により発生する相対移動体の一主面上の着磁パターンを模式的に示す図。
図7図1の一変形例による速度検出装置を説明する図。
図8図7の速度検出装置の一変形例を示す図。
図9】第2の実施形態による速度検出装置を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本開示の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺及び縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0029】
さらに、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0030】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態による速度検出装置1の概略構成を説明する図である。図1の速度検出装置1は、励磁コイル2と、2つの検出コイル3と、速度推定部4と、励磁コイル2に流す電流を生成する電流源15と、永久磁石10とを備えている。2つの検出コイル3の巻数は同数である。励磁コイル2の数と検出コイル3の数は任意であるが、図1では、励磁コイル2が1個で、検出コイル3が2個の例を示している。励磁コイル2は、交流電流に応じた磁束を発生する。検出コイル3は、磁束中を移動する導体からなる相対移動体6の移動速度に応じて相対移動体6上に発生される渦電流による磁束に応じた誘起電圧を発生する。
【0031】
なお、励磁コイル2を用いる代わりに、周期的に磁気極性又は磁界強度が変化する磁束を発生する種々の構成の磁束発生部を用いてもよい。より具体的には、磁束発生部は、モータにて回転される永久磁石であってもよい。あるいは、磁束発生部は、永久磁石を振動させるボイスコイルであってもよい。磁束発生部がボイスコイルである場合、相対移動体の一主面と永久磁石との間隔が振動により変動し、一主面上の磁界の強さが変動する。
【0032】
同様に、検出コイル3を用いる代わりに、相対移動体6の移動又は回転速度に応じて相対移動体6上に発生される渦電流による磁束に応じた誘起電圧を発生する種々の構成の磁束検出部を用いてもよい。より具体的には、磁束検出部はホール素子等であってもよい。以下では、磁束発生部として励磁コイル2を用い、磁束検出部として検出コイル3を用いる例を説明する。
【0033】
励磁コイル2と2つの検出コイル3は、ヨーク5の周囲に配置されている。ヨーク5は、励磁コイル2と2つの検出コイル3を鎖交する磁束を集中的に通過させる磁束集中部材である。より具体的には、ヨーク5の一方向(長手方向)に沿って、励磁コイル2を挟んで両側に2つの検出コイル3が配置されている。ヨーク5は、図1に示すように、3つの凸状部5aを備えており、これら凸状部5aに励磁コイル2と2つの検出コイル3が巻回されている。ヨーク5の形状は任意であり、図1のヨーク5は一例にすぎない。各凸状部5aに各コイルを巻回することで、磁束の漏れを抑制できる。また、各凸状部5aに銅線を巻き付けるだけで各コイル2,3を生成できるため、励磁コイル2と検出コイル3を作製する際の作業性がよくなる。
【0034】
ヨーク5の凸状部5aの先端部からギャップgmを隔てて相対移動体6が配置されている。この相対移動体6は導体である。相対移動体6は、導体であればよく、磁性体でも非磁性体でもよい。相対移動体6は、一方向(ヨーク5の長手方向)に移動自在とされている。ギャップは、典型的にはエアギャップであるが、本明細書では単にギャップと呼ぶ。以下では、ギャップが、励磁コイル2と相対移動体6との距離、及び検出コイル3と相対移動体6との距離に等しいものとする。
【0035】
速度検出を行う際には、励磁コイル2に所定の周波数の交流電流が供給される。この交流電流は、等価的には図1に示すように電流源15から供給される。励磁コイル2に流れる交流電流によって磁束が発生し、この磁束は、相対移動体6を通って検出コイル3を鎖交して励磁コイル2に戻る経路p1,p2に沿って流れる。図1は、相対移動体6が停止している例を示している。本実施形態では、紙面の裏から表に向かう方向の電流を「●」で表記し、紙面の表から裏に向かう方向の電流を「×」で表記する。また、磁束のN極側を矢印の矢先にしている。
【0036】
相対移動体6上には、励磁コイル2にて発生された磁束による渦電流が発生する。この渦電流は、励磁コイル2にて発生された磁束の変化を妨げる方向に磁束を発生するものである。渦電流は、励磁コイル2に流れる交流電流の振幅、周波数、励磁コイル2と相対移動体6とのギャップ、励磁コイル2の巻き数、相対移動体6の速度及び材料に応じて変化する。渦電流は、相対移動体6が停止している間は、図2Aに示すように、励磁コイル2を挟んで両側で対称になる。
【0037】
励磁コイル2の両側に設けられる2つの検出コイル3には、励磁コイル2を流れる交流電流による磁束と、相対移動体6上の渦電流による磁束とが鎖交する。相対移動体6が停止している状態では、2つの検出コイル3を鎖交する相対移動体6上の渦電流による磁束は同一である。よって、2つの検出コイル3を鎖交する磁束の総量は同一になり、各検出コイル3の誘起電圧は互いに打ち消し合って、速度推定部4に入力される電圧はゼロになる。よって、速度推定部4は相対移動体6が停止していると推定する。
【0038】
ここで、図3に示すように、相対移動体6が矢印の向き(図示の右方向)に、移動速度vで移動すると、図2Bに示すように相対移動体6上の渦電流に歪みが生じる。図3では、図1と同様に、励磁コイル2を上向きに鎖交する磁束が発生する例を示している。この渦電流の歪は、相対移動体6が励磁コイル2により発生される磁束中を移動することで生じる。具体的には、相対移動体6上の渦電流は、相対移動体6が停止している状態で励磁コイル2の磁束によって発生する渦電流と、相対移動体6が励磁コイル2の磁束中を移動することによって発生する渦電流との和になる。相対移動体6が励磁コイル2の磁界中を移動することによって発生する渦電流は主に、励磁コイル2の直下に紙面裏から表方向の向きに流れる。この渦電流により発生される磁束は、相対移動体6の進行方向前方に配置された右側の検出コイル3を上向きに鎖交し、また相対移動体6の進行方向後方に配置された左側の検出コイル3を下向きに鎖交する。これにより、相対移動体6の進行方向前方の検出コイル3を鎖交する磁束量と、相対移動体6の進行方向後方の検出コイル3を鎖交する磁束量とに差違が生じ、2つの検出コイル3の誘起電圧の差分電圧がゼロでなくなる。相対移動体6の移動速度が速いほど、上述した検出コイル3を鎖交する磁束量の差異が大きくなり、その結果検出コイル3に発生する差電圧は大きくなる。よって、速度推定部4は、上述した差分電圧に応じて、相対移動体6の速度を推定することができる。
【0039】
このように、相対移動体6が移動すると、励磁コイル2の両側の相対移動体6上で渦電流が非対称になり、この非対称性により、2つの検出コイル3を鎖交する磁束にわずかな差違が生じる。この磁束の差違が誘起電圧の差分電圧として速度推定部4にて検出される。
【0040】
速度推定部4は、図1に示すように、バンドパスフィルタ4aと、増幅復調部4bとを有する。バンドパスフィルタ4aは、2つの検出コイル3の誘起電圧同士の差分電圧に含まれるノイズを除去する。増幅復調部4bは、バンドパスフィルタ4aでフィルタリングした後の電圧信号に基づいて、相対移動体6の移動速度を検出する。
【0041】
図4Aは差分電圧udiffの波形図、図4Bは速度推定部4の出力信号ulpの波形図、図4Cは励磁コイル2を流れる交流電流iinjの波形図である。図4Aの波形w1(v1)と図4Bの波形w2(v1)は、相対移動体6が停止している状態を示し、図4Aの波形w1(v2)と図4Bの波形w2(v2)は、相対移動体6がゆっくりとした速度v2で移動している状態を示し、図4Aの波形w1(v3)と図4Bの波形w2(v3)は、相対移動体6が速い速度v3で移動している状態を示している。これらの波形図からわかるように、相対移動体6の移動速度が速くなるほど、差分電圧udiffの振幅が大きくなり、速度推定部4の出力信号の振幅も大きくなる。よって、速度推定部4は、差分電圧udiffの振幅により、相対移動体6の速度を推定できる。
【0042】
検出コイル3の共振周波数を励磁コイル2に流す電流の周波数と一致させるように設計することで、検出コイル3に発生する誘起電圧を大きくし、速度検出の感度を上げることができる。
【0043】
このように、速度推定部4は、励磁コイル2の両側に配置された2つの検出コイル3の誘起電圧同士の差分電圧に基づいて、相対移動体6の移動又は回転速度を推定する。このため、2つの検出コイル3を鎖交する磁束が何らかの要因で変動した場合には、2つの検出コイル3の誘起電圧同士の差分電圧が変動することになり、相対移動体6の移動又は回転速度の推定値も異なったものになる。特に、相対移動体6の一主面上に不均一な着磁パターン16があると、各検出コイル3を鎖交する磁束が着磁パターン16の影響で変動してしまう。着磁パターン16とは、着磁の強さが略同一の範囲であり、着磁パターン16内の着磁の強さは、着磁パターン16の外側の領域の着磁の強さとは異なっている。相対移動体6の一主面上に複数の着磁パターン16がある場合、個々の着磁パターン16ごとに着磁の強さは異なっている可能性がある。着磁の強さが大きいほど、検出コイル3を鎖交する磁束の変動量も大きくなる。よって、相対移動体6の一主面上に着磁の強さがそれぞれ異なる複数の着磁パターン16がある場合には、各着磁パターン16に対向配置された検出コイル3を鎖交する磁束量はそれぞれ異なったものとなる。
【0044】
相対移動体6の一主面上の着磁パターン16は、種々の要因で形成されるが、例えば、図5に示すように、相対移動体6の一主面に離隔して回転体7を配置することによっても形成されうる。この回転体7は、相対移動体6の一主面上に離隔して配置されている。回転体7は、相対移動体6の移動又は回転方向に応じて発生するローレンツ力によって所定の回転軸回りに回転する永久磁石7aを有する。回転体7は、所定の回転軸回りに回転自在とされている。回転体7は相対移動体6の移動又は回転方向に合わせて、時計回り又は反時計回りに回転する。回転体7の永久磁石7aは、周状に配置された複数の磁極7bを有する。永久磁石7aが有する磁極7bの数は、2つ以上であればよく、数には特に制限はない。回転体7の回転軸には発電機8が接続されている。発電機8は、回転体7の回転エネルギを電気エネルギに変換する。発電機8が発電した電気エネルギは、駆動制御部9にて交流電圧や直流電圧に変換させて、種々の負荷20の駆動に用いられる。また、発電機8が発電した電気エネルギを不図示の蓄電器に蓄電してもよい。
【0045】
回転体7の永久磁石7aは、相対移動体6の一主面に離隔して対向配置されながら、相対移動体6の移動又は回転に合わせて回転する。これにより、回転体7の永久磁石7aからの磁力によって、相対移動体6の一主面上に着磁パターン16が形成される。相対移動体6と回転体7との間隔は理想的には一定であるが、相対移動体6が偏芯するなどして相対移動体6と回転体7との間隔が変動すると、回転体7の永久磁石7aからの磁力による相対移動体6の一主面上の着磁の強さも変動し、相対移動体6の一主面上に複数の着磁パターン16が形成されることになる。
【0046】
図6図5の回転体7によって相対移動体6の一主面上に形成される着磁パターン16を模式的に示す図である。図6に示す複数の着磁パターン16のそれぞれは、着磁の強さが周囲とは異なる領域であり、隣り合う着磁パターン16の着磁の強さは異なっている可能性がありうる。また、各着磁パターン16の大きさや形状はそれぞれ異なっている可能性がありうる。
【0047】
本実施形態では、図1に示すように、強力な磁束を発生させる永久磁石10を相対移動体6の一主面に離隔して対向配置することで、相対移動体6の一主面上の着磁の強さを均一化させるようにしている。図1に示す永久磁石10は、例えばヨーク5の先端に取り付けられている。永久磁石10は、相対移動体6の一主面上の着磁の強さを均一化する着磁均一化部を構成している。永久磁石10を設けることで、相対移動体6の一主面上に着磁パターン16が形成されていたとしても、永久磁石10の磁極から発生される磁力線が相対移動体6の一主面を通過することにより、相対移動体6の一主面上の着磁の強さを均一化できる。すなわち、永久磁石10によって、相対移動体6の一主面上の着磁パターン16を消去することができる。なお、永久磁石10の代わりに、電磁石を着磁均一化部として用いてもよい。
【0048】
相対移動体6の一主面上に形成されていた着磁パターン16を消去して、一主面上の着磁の強さを均一化するには、相対移動体6の一主面を通過する永久磁石10による磁力線の強さが相対移動体6の一主面上に形成されていた着磁パターン16の着磁の強さよりも大きくなければならない。永久磁石10と相対移動体6の一主面との間隔が広がると、磁力線の強さも弱まるため、永久磁石10は相対移動体6の一主面からできるだけ近接した位置に配置するか、あるいは磁力の大きい永久磁石10を設けるのが望ましい。
【0049】
図1に示すように、回転ではなく、一方向に移動する相対移動体6の場合には、相対移動体6の各位置に励磁コイル2や検出コイル3が一度だけ対向配置されるため、励磁コイル2や検出コイル3が相対移動体6の各位置に対向配置される前に、永久磁石10が各位置の着磁の強さを均一化する必要がある。このためには、永久磁石10を、励磁コイル2や検出コイル3よりも、相対移動体6の移動方向の後方側に配置する必要がある。これにより、相対移動体6の一主面上の各位置は、相対移動体6の移動に伴って、励磁コイル2や検出コイル3が対向配置されるより前に、永久磁石10が対向配置されることになる。よって、相対移動体6の一主面上の各位置は、永久磁石10により着磁の強さが均一された後に励磁コイル2や検出コイル3が対向配置されるため、励磁コイル2の両側の2つの検出コイル3を鎖交する磁束が相対移動体6の一主面上の着磁の影響を受けるおそれがなくなり、相対移動体6の移動又は回転速度を精度よく推定できる。また、相対移動体6がバックすることも考慮し、永久磁石10を、励磁コイル2や検出コイル3よりも、相対移動体6の移動方向の後方側と先方側の両方に配置してもよい。
【0050】
一方、相対移動体6が回転体7の場合には、永久磁石10は、相対移動体6の回転中心位置から所定の径方向位置に配置されることになり、この径方向位置を通過して周状に繰り返し相対移動体6の着磁の強さを均一化することになる。よって、この径方向位置を通過する周方向の任意の場所に励磁コイル2と検出コイル3を対向配置することで、励磁コイル2は相対移動体6の一主面上の着磁の不均一さの影響を受けることなく、相対移動体6の移動又は回転速度を推定することができる。ただし、永久磁石を有する回転体7にて着磁された着磁パターンが励磁コイル2や検出コイル3の直下に到達する前に、永久磁石10を配置して、相対移動体6の一主面上の着磁の強さを均一化する必要がある。
【0051】
ここで、相対移動体6上の渦電流による誘起電圧を検出して相対移動体6の移動速度を推定する速度センサの検出感度はギャップの大きさに依存する。このため、相対移動体6の移動又は回転速度を精度よく推定するには、ギャップに応じて、誘起電圧と相対移動体6の推定速度とを相関づける必要がある。
【0052】
図7図1の一変形例による速度検出装置1を説明する図である。図7の速度検出装置1は、ヨーク5の周囲に配置された励磁コイル2及び検出コイル3と、速度推定部4と、励磁コイル2に流す電流を生成する電流源15と、励磁コイル2に流れる交流電流iinjを測定する電流計11と、励磁コイル2の両端の電圧を測定する電圧計12と、ギャップ推定部13とを備えている。電流計11と電圧計12を合わせたものが電流電圧計測部14である。
【0053】
図7の励磁コイル2と検出コイル3の配置は、上述した図1と同じである。なお、励磁コイル2と検出コイル3の配置は、図1図7に示したもの以外にも種々の配置が適用可能である。図7では、最も簡易的な構成として、中央に励磁コイル2を配置し、その両側に2つの検出コイル3を配置した例を示している。図7の場合においても、励磁コイル2に流れる交流電流iinjによって磁束が発生し、この磁束により相対移動体6上に渦電流が発生する。この状態で相対移動体6が移動すると、別の渦電流が相対移動体6上に発生し、この渦電流による磁束が2つの検出コイル3を鎖交する。相対移動体6の速度によらない渦電流による磁束にて2つの検知コイル3に誘起される誘起電圧の向きは互いに逆であるため、打ち消し合う。これに対して、相対移動体6の移動又は回転による渦電流による磁束にて2つの検知コイル3に誘起される誘起電圧の向きは同じであるため、2つの誘起電圧が足し合わせることになる。本実施形態では、2つの検知コイル3で打ち消しあうか、あるいは足し合わされる誘起電圧を差分電圧udiffと呼んでおり、この差分電圧udiffが速度推定部4に供給される。速度推定部4は、これら誘起電圧同士の差分電圧udiffに基づいて、相対移動体6の移動速度を推定する。
【0054】
また、相対移動体6が移動している最中に励磁コイル2に流れる電流を電流計11で測定するとともに、励磁コイル2の両端の電圧を電圧計12で測定し、測定された電流と電圧はギャップ推定部13に入力される。ギャップ推定部13は、測定された電流と電圧に基づいて、導体と励磁コイル2とのギャップを推定する。すなわち、ギャップ推定部13は、励磁コイル2に流れる電流及び励磁コイル2の両端の電圧に基づいて、相対移動体6と励磁コイル2とのギャップを推定する。
【0055】
ギャップ推定部13は、インピーダンス解析手法によってギャップを推定する。より具体的には、ギャップ推定部13は、励磁コイル2に流れる電流及び励磁コイル2の両端の電圧に基づいて算出した励磁コイル2のインダクタンスと、予め定めたギャップの基準値に対応する励磁コイル2のインダクタンスとの対比に基づいてギャップを推定する。あるいは、ギャップ推定部13は、励磁コイル2に流れる電流及び励磁コイル2の両端の電圧に基づいて算出した励磁コイル2のインピーダンスと、予め定めたギャップの基準値に対応する励磁コイル2のインピーダンスとの対比に基づいてギャップを推定する。あるいは、ギャップ推定部13は、励磁コイル2の電流と電圧との位相差に基づいてギャップを推定してもよい。ギャップ推定部13の詳細な動作原理は、相対移動体6の材料により最適化されうる。
【0056】
速度推定部4は、複数のギャップのそれぞれごとに、検出コイル3の誘起電圧同士の差分電圧udiffと相対移動体6の移動速度との相関関係を示すルックアップテーブルを予め用意して、ギャップ推定部13で推定されたギャップに対応するルックアップテーブルに差分電圧udiffを与えて、対応する移動速度を取得する。あるいは、速度推定部4は、複数のギャップのそれぞれごとに、差分電圧udiffと移動速度との相関関数を求めておき、ギャップ推定部13で推定されたギャップに対応する相関関数に差分電圧udiffを与えて、移動速度を計算する。
【0057】
なお、本実施形態において、ギャップを考慮に入れて相対移動体6の移動速度を推定するか、ギャップを考慮に入れずに相対移動体6の移動速度を推定するかは任意である。また、相対移動体6の移動速度を推定する際に、ギャップを考慮に入れるか入れないかを切り替えることができるようにしてもよい。
【0058】
図7の速度検出装置1の一変形例として、検出された環境ノイズに応じて励磁周波数を切り替えてもよい。図8図7の速度検出装置1の一変形例を示す図である。図8の速度検出装置1は、図7の構成に加えて、環境ノイズ検出部17と励磁周波数調整部18とを備えている。
【0059】
環境ノイズ検出部17は、圧電素子や加速度センサ等を用いて速度検出装置1の周辺の環境ノイズを検出する。なお、環境ノイズの検出には種々の手法があり、いずれを採用してもよい。例えば、検出コイル3の誘起電圧からノイズ成分を推定してもよい。励磁周波数調整部18は、検出した環境ノイズの周波数帯域とは異なるように励磁コイル2の励磁周波数を調整する。また、励磁周波数調整部18は、調整した励磁周波数に合わせて、速度推定部4内のバンドパスフィルタ4aの通過周波数帯域も調整する。
【0060】
図8の速度検出装置1によれば、ギャップの推定結果に加えて、周囲の環境ノイズの周波数帯域とは重複しない励磁周波数を用いて相対移動体6の移動速度を推定するため、環境ノイズの影響を受けずに精度よく移動速度を推定できる。
【0061】
このように、第1の実施形態では、相対移動体6の一主面に対して永久磁石10を対向配置するため、相対移動体6が移動や回転をしたときに、相対移動体6の一主面上の着磁パターン16を永久磁石10で消去して一主面上の着磁の強さを均一化できる。よって、励磁コイル2と検出コイル3は、相対移動体6の一主面上の着磁パターン16の影響を受けることなく、精度よく相対移動体6の移動又は回転速度を推定できる。
【0062】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、相対移動体6の一主面上の着磁パターン16を積極的に利用して、相対移動体6の移動速度を推定するものである。
【0063】
図9は第2の実施形態による速度検出装置1を説明する図である。図9の速度検出装置1は、2つの誘起電圧発生部21と、速度推定部4とを備えている。2つの誘起電圧発生部21は、磁性体からなる相対移動体6の一主面上のそれぞれ別の場所に対して離隔して対向配置され、それぞれが誘起電圧を発生する。各誘起電圧発生部21は、交流電流に応じた磁束を発生する励磁コイル2と、磁束中を移動する相対移動体6の移動又は回転速度に応じて相対移動体6上に発生される渦電流による磁束、又は相対移動体6の一主面上の着磁パターン16の移動による磁束変化に応じた誘起電圧を発生する複数の検出コイル3とを有する。
【0064】
本実施形態では、励磁コイル2で磁束を発生させて相対移動体6の移動又は回転速度を推定する第1期間と、着磁パターンによる誘起電圧を検出コイル3に発生させて相対移動体6の移動又は回転速度を推定する第2期間とを交互に設けて、これらの推定結果を用いて、相対移動体6の最終的な移動又は回転速度を推定する。第1期間では、2つの誘起電圧発生部21のそれぞれが、第1の実施形態と同様に、励磁コイル2で磁束を発生させるとともに、相対移動体6の移動又は回転速度に応じて相対移動体6上に発生される渦電流による磁束に基づいて2つの検出コイル3に誘起電圧を発生させ、発生させた誘起電圧に基づいて速度推定部4が相対移動体6の移動又は回転速度を推定する。第2期間では、2つの誘起電圧発生部2内の検出コイル3が着磁パターンに応じた誘起電圧を発生させる時間差により、相対移動体6の移動又は回転速度を推定する。第2期間内に励磁コイル2で磁束を発生させると、着磁パターンが変化してしまうおそれがあるため、第2期間内は励磁コイル2に磁束を発生させない方が望ましい。
【0065】
速度推定部4は、上述した第2期間では、2つの誘起電圧発生部21で発生された各誘起電圧の波形が同一の場合における、各誘起電圧の発生時刻の差と、2つの誘起電圧発生部21同士の距離とに基づいて、相対移動体6の移動又は回転速度を推定する。すなわち、速度推定部4は、相対移動体6の一主面上に形成され周囲とは着磁の強さが異なる特定の着磁パターン16に2つの誘起電圧発生部21のそれぞれが対向配置される時間差と、2つの誘起電圧発生部21の間の距離と、に基づいて、相対移動体6の移動又は回転速度を推定する。
【0066】
より詳細には、速度推定部4は、同一波形検出部22と、角速度計算部23と、を有する。同一波形検出部22は、2つの誘起電圧発生部21で同一の誘起電圧波形が検出される時間差を検出する。角速度計算部23は、同一波形検出部22で検出された時間差tと、2つの誘起電圧発生部21の間隔に対応する角度θとに基づいて、角速度ω=θ/tを計算する。
【0067】
相対移動体6の一主面上に複数の着磁パターン16が形成されている場合、各着磁パターン16の着磁の強さに応じて、検出コイル3に誘起される誘起電圧の電圧波形が変化する。相対移動体6の移動又は回転に応じて着磁パターン16の位置も変動し、それぞれ別々の場所に設けられる2つの誘起電圧発生部21は、それぞれ異なる時刻に、相対移動体6の一主面上の同一の着磁パターン16に対向配置されることになる。そこで、速度推定部4は、一方の誘起電圧発生部21内の検出コイル3に誘起されたある誘起電圧波形の検出時刻と、他方の誘起電圧発生部21内の検出コイル3に誘起された同一の誘起電圧波形の検出時刻との時間差を計測するとともに、2つの誘起電圧発生部21間の距離を予め求めておき、これら時間差と距離とに基づいて、相対移動体6の移動又は回転速度を推定する。
【0068】
例えば、相対移動体6が回転中心位置回りに回転する回転体7であり、かつ2つの誘起電圧発生部21が回転中心位置から同じ径位置にある場合、2つの誘起電圧発生部21間の距離は、相対移動体6の回転中心位置回りの角度θで表すことができる。一方の誘起電圧発生部21の検出コイル3に誘起された誘起電圧波形と同じ誘起電圧波形が他方の誘起電圧発生部21の検出コイル3に誘起されるまでの時間差がtである場合、この間に相対移動体6は角度θ移動しているため、相対移動体6の角速度ω=θ/tとなる。
【0069】
このように、第2の実施形態では、相対移動体6の一主面上に形成された着磁パターン16を積極的に利用して、2つの誘起電圧発生部21にて同一の着磁パターン16を検出するまでの時間差と2つの誘起電圧発生部21の距離とに基づいて、相対移動体6の移動又は回転速度を推定する。これにより、着磁パターン16を消去しなくても、着磁パターン16の影響により相対移動体6の移動又は回転速度の推定精度が低下するおそれがなくなる。
【0070】
上述した第1及び第2の実施形態における相対移動体6は、それ自体が移動又は回転するものだけでなく、速度検出装置1に対して相対的に移動するものも含む概念である。よって、第1及び第2の実施形態においては、速度検出装置1が列車等に搭載されている場合、列車等に対して相対的に移動するレール等の固定物も相対移動体6に含めて解釈される。なお、第1及び第2の実施形態における相対移動体6は、導電体である。
【0071】
本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本発明の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容及びその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更及び部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 速度検出装置、2 励磁コイル、3 検出コイル、4 速度推定部、5 ヨーク、6 相対移動体、7 回転体、7a、10 永久磁石、15 電流源
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9