(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】マイクロニードル
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20220328BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
A61M37/00 505
A61M37/00 514
A61L31/06
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018114224
(22)【出願日】2018-06-15
【審査請求日】2021-05-26
(32)【優先日】2017-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512221197
【氏名又は名称】エスピーティーエス テクノロジーズ リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケリー ロバーツ
(72)【発明者】
【氏名】ヒューマ アシュラフ
(72)【発明者】
【氏名】ペン フェン イング
【審査官】中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/059437(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0126707(US,A1)
【文献】国際公開第2009/097660(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
A61L 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベベル付き先端を有する複数のシリコンマイクロニードルを製造する方法であって、前記方法が、
前面と後面とを有するシリコン基体を用意する工程と、
前記基体の前記前面上に、1つ又は2つ以上のギャップを画定する第1マスク配列を形成する工程と、
前記第1マスク配列の前記ギャップを通して、前記前面にSF
6系プラズマエッチングを施すことにより、傾斜面を有する1つ又は2つ以上のエッチングフィーチャを提供し、前記SF
6系プラズマエッチングは、対応するエッチングフィーチャの深さの少なくとも10%であるアンダカットを有するように、前記第1マスク配列にアンダカットを施す工程と、
マイクロニードルの位置を画定するために前記エッチングフィーチャ上に第2マスク配列を形成し、前記第2マスク配列は前記エッチングフィーチャの傾斜面上に全体的に配置される工程と、
前記基体のエッチング済前面に、DRIE(深掘り反応性イオンエッチング)異方性プラズマエッチングを施すことにより、ベベル付き先端を有する複数のマイクロニードルを形成し、前記エッチングフィーチャの前記傾斜面が少なくとも部分的に、前記マイクロニードルの前記ベベル付き先端を生じさせる工程と、
を含む、ベベル付き先端を有する複数のシリコンマイクロニードルを製造する方法。
【請求項2】
前記SF
6系プラズマエッチングが、SF
6と側壁不動態化前駆体とを含むガス状混合物中で形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記側壁不動態化前駆体が、C
4F
8及びCHF
3のうちの少なくとも一方である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ガス状混合物が本質的にSF
6、CHF
3、及びC
4F
8から成る、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ガス状混合物がさらにO
2を含む、請求項2から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ガス状混合物が本質的にSF
6、O
2、及びC
4F
8から成る、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記SF
6系プラズマエッチングが、SF
6と不活性希釈剤とを含むガス状混合物中で形成される、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ガス状混合物が本質的にSF
6、O
2、C
4F
8、及びArから成る、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記エッチング済前面への前記DRIEプラズマエッチングが、異方性周期的エッチング・デポジションプロセスである、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1マスク配列が酸化物マスクである、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記第2マスク配列が、PE-CVD(プラズマ支援化学蒸着)によって前記エッチングフィーチャ上へ堆積される、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記後面にDRIEプラズマエッチングを実施することにより、前記シリコン基体に複数のチャネルを形成し、前記チャネルは、前記複数のマイクロニードルが形成された後で、前記チャネルが前記マイクロニードルを通って延びる孔通路として作用するように位置決めされる工程をさらに含む、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記後面にDRIEプラズマエッチングを実施する前記工程が、前記エッチング済前面のDRIEプラズマエッチングを実施する工程の前に行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記マイクロニードルの前記ベベル付き先端が、シングルベベル構造として形成される、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記マイクロニードルの前記ベベル付き先端が、ダブルベベル構造として形成される、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記ダブルベベル構造が、前記前面にSF
6系プラズマエッチングを実施する前記工程中に、エッチング条件を制御することによって形成される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記前面にSF
6系プラズマエッチングを実施する前記工程が、シングルベベル構造を製造し、そして前記ダブルベベル構造は、前記エッチング済前面へのDRIEプラズマエッチングを実施する工程中に製造される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記第2マスク配列が、厚さ3~5ミクロンの酸化物マスクを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記エッチング済前面へのDRIEプラズマエッチングが、前記マイクロニードルから離隔した1つ又は2つ以上のリッジ構造を形成する、請求項1から18までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
複数のマイクロニードル包囲フェンス構造を提供するために、相互接続された複数のリッジ構造が形成され、前記複数のマイクロニードル包囲フェンス構造のそれぞれがマイクロニードルを取り囲み、且つマイクロニードルから離隔している、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記SF
6系プラズマエッチングが、前記第1マスク配列内のギャップを通してエッチングを行うことにより、対向する傾斜面対を有する1つ又は2つ以上のエッチングフィーチャを提供し、そして
前記エッチング済前面へのDRIEプラズマエッチングは、前記対向する傾斜面対のうちの一方が少なくとも部分的にマイクロニードルのベベル付き先端を生じさせ、且つ前記対向する傾斜面対のうちの他方が少なくとも部分的に前記マイクロニードルから離隔したリッジを生じさせるように実施される、
請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
前記マイクロニードルの前記ベベル付き先端のベベル角度が少なくとも60°である、請求項1から21までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記第1マスク配列によって画定された前記ギャップがそれぞれ幅を有し、前記エッチングフィーチャがそれぞれ基底幅を有し、そしてそれぞれのエッチングフィーチャの前記基底幅が、前記第1マスク配列内の、前記エッチングフィーチャに対応するギャップの幅に対して実質的に等しい、請求項1から22までのいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のマイクロニードルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物を患者に送達するための伝統的なシリンジ及び皮下注射針に代わるものとしてマイクロニードルアレイを製作することがよく知られている。マイクロニードルは、伝統的な皮下注射針よりも著しく小さく、マイクロスケールで製作される。マイクロニードルは、種々の方法を用いて、そして種々の材料、例えば金属、シリコン、二酸化ケイ素、ポリマー材料、及びガラスから製作されている。薬物送達メカニズムは、他の経皮薬物送達製品におけるような拡散には基づいていない。それどころか、薬物送達メカニズムは、皮膚の一時的な機械的破壊と、上皮内部における薬物の配置とに基づく。このようにすると、薬物はその作用部位により容易に到達することができる。薬物はマイクロニードル内部に封入されていてよい。マイクロニードルは次いで皮膚内へ挿入され、その後、薬物を放出する。何千本ものマイクロニードルをただ1つのプロセスで製作することができ、そしてこのことは、高い精度と、良好な再現性と、適度な製作コストをもたらすことができる。マイクロニードルはまた、正確な量を投与することができ、局所的に送達することができ、そして正確に制御され得るマイクロ体積の薬物を貯蔵することによって生物学的薬物安定性を向上させることができる。マイクロニードルはさらに、複合的な薬物放出パターンが達成されるのを可能にする。長さ数百ミクロンのマイクロニードルは、神経受容体の密度が低い皮膚表層内にのみ貫通する。その結果、皮膚内へのマイクロニードルの挿入は無痛のものとして知覚される。皮膚貫通深さ要件は、患者の年齢、注射部位、及び用途に応じてほぼ300ミクロンから500ミクロンであるのが典型的である。
【0003】
シリコンから製作されるマイクロニードルは、開発が見込まれる分野である。しかしながら、ウエハースケールのシリコンをベースとする中空マイクロニードルをプラズマエッチングプロセス技術によって製作するプロセス技術はこれまでのところ、機械的故障を被りやすい。加えて、このタイプのマイクロニードルは、長さ及びピッチの変更という点でフレキシビリティが制限されており、しかも皮膚を信頼性高く貫通することもない。ベベルが付けられたこのタイプのマイクロニードルを製造することが望ましい。ベベル付きマイクロニードルであれば、ニードルが皮膚を容易に貫通し、また形成される皮膚外傷を最小限に抑えるのを可能にするはずである。しかしながら、プラズマエッチング技術を用いて、ベベル付きシリコンマイクロニードルを製造することは以前は可能ではなかった。水酸化カリウムを使用したウェットエッチングによってベベル付き先端マイクロニードルを形成することが知られている(Gardeniers et al, Journal of Microelectromechanical Systems, Vol. 12, No. 6, 2003 及び米国特許出願公開第2016/0264408号明細書)。しかしながら、ウェットエッチング技術によって形成されるベベル角度は、エッチングの結晶学的性質に基づき57.4°で固定される。この固定されたベベル角度は厳しい制約である。なぜならば、これは、より長いニードル長さ、より大きいベベル角度、及びより短いピッチを形成するためのフレキシビリティを制限するからである。これらのパラメータの変更は、マイクロニードルの構成全体を大幅に変えることによってのみ達成することができる。さらなる制約は、ウェットエッチングと関連する長い処理時間である。
【0004】
プラズマエッチングによってシリコン内に傾斜プロフィールを達成するための周知の技術は典型的にはアンダカットを制限し、且つ/又は、マスク腐食が壁の角度を規定するように、マスキング材料に対する選択性を合わせる。これらの技術は、極めて低いエッチング速度を招き、基底部粗さ品質が低いものになり、或いはこれらの技術では、関連するエッチング深さが、利用可能なマスク厚さによって厳しく制限される。エッチング深さが300ミクロンを上回る場合(マイクロニードル製作のために典型的に必要とされる)、100ミクロンを上回る厚さのマスクが必要となる。このことはまったく現実的ではなく、ベベル付きマイクロニードルを形成するための、上記ウェットエッチング技術に代わる実行可能なプラズマエッチングが現在なぜ存在しないのか、その理由を説明するものといえるかもしれない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
必要とされるのは、制御可能なベベル角度、すなわち使用者によって選択可能であり、且つ基体の結晶方位とは無関係なベベル角度を有するシリコンマイクロニードルを形成し得る製造方法であることに、本発明者は気づいた。関連する要件は、皮膚への進入時に一般的に直面する挿入力に対して、損傷なしに信頼性高く耐え得るシリコンマイクロニードルのためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明、及びその実施態様の少なくともいくつかは、これらの必要性及び要件に対処する。
【0007】
本発明によれば、ベベル付き先端を有する複数のシリコンマイクロニードルを製造する方法であって、前記方法が、
前面と後面とを有するシリコン基体を用意する工程と、
前記基体の前記前面上に、1つ又は2つ以上のギャップを画定する第1マスク配列を形成する工程と、
前記第1マスク配列の前記ギャップを通して、前記第1面にSF6系プラズマエッチングを施すことにより、傾斜面を有する1つ又は2つ以上のエッチングフィーチャ(etch feature)を提供し、前記SF6系プラズマエッチングは、対応するエッチングフィーチャの深さの少なくとも10%であるアンダカットを有するように、前記第1マスク配列にアンダカットを施す工程と、
前記マイクロニードルの位置を画定するために前記エッチングフィーチャ上に第2マスク配列を形成し、前記第2マスク配列は前記エッチングフィーチャの傾斜面上に全体的に配置される工程と、
前記基体のエッチング済前面に、DRIE(深掘り反応性イオンエッチング(deep reactive ion etch))異方性プラズマエッチングを施すことにより、ベベル付き先端を有する複数のマイクロニードルを形成し、前記エッチングフィーチャの前記傾斜面が少なくとも部分的に、前記マイクロニードルの前記ベベル付き先端を生じさせる工程と、
を含む、ベベル付き先端を有する複数のシリコンマイクロニードルを製造する方法が提供される。
【0008】
このようにすると、上記必要性及び要件を満たすことができる。本発明は、構成フレキシビリティが改善され、且つアレイの特徴がより良好に制御されるマイクロニードルアレイが製造されるのを可能にする。例えば、上皮のより深い層へ薬物又は細胞を注射する用途には、浅いベベル角度が一般にはより適している。急勾配のベベル角度は、ピッチが低減されたマイクロニードルアレイを生じさせることができる。さらなる利点は、ウェットエッチングを用いる技術よりも処理時間を短くできることである。さらなる利点はまた、本発明が、有利な先端形状を有するマイクロニードルを製造することである。具体的には、先端形状は「非対称的(asymmetrical)」ベベル形状を有するように製造することができる。このベベル形状において、先端は鋭利な尖端を有し、この尖端は、マイクロニードルの直立した側壁と直接に結合している。このタイプのマイクロニードルは優れた貫通特性を有する。
【0009】
マイクロニードルは概ね3000ミクロン未満の長さであり、そして1000ミクロン未満の長さであってよい。マイクロニードルは概ね100ミクロン超の長さである。典型的には、マイクロニードルの長さはほぼ300~800ミクロンである。
【0010】
SF6系プラズマエッチングは、SF6と側壁不動態化前駆体とを含むガス状混合物中で形成されてよい。側壁不動態化前駆体は、C4F8及びCHF3のうちの少なくとも一方であってよい。ガス状混合物は本質的にSF6、CHF3、及びC4F8から成っていてよい。
【0011】
気体状混合物はさらにO2を含んでよい。ガス状混合物は本質的にSF6、O2、及びC4F8から成っていてよい。
【0012】
SF6系プラズマエッチングは、SF6と不活性希釈剤とを含むガス状混合物中で形成されてよい。不活性希釈剤は、希ガス、例えばArであってよい。他の不活性希釈剤、例えば窒素も考えられる。ガス状混合物は本質的にSF6、O2、C4F8、及びArから成っていてよい。
【0013】
エッチング済前面のDRIEプラズマエッチングは、異方性周期的エッチング・デポジションプロセス(anisotropic cyclical etch and deposition process)であってよい。「ボッシュ(Bosch)法」として一般に知られているタイプの周期的エッチング・デポジションプロセスを用いてよい。模範的な参考となるのは米国特許第5501893号明細書、米国特許第7648611号明細書、及び米国特許第8133349号明細書であり、これらの内容全体は参照することにより本明細書中に援用される。
【0014】
第1マスク配列は酸化物マスクであってよい。酸化物マスクは熱酸化物マスクであってよい。
【0015】
第2マスク配列は複数の硬質マスクを含んでよい。硬質マスクは酸化物マスクであってよい。
【0016】
第2マスク配列は、PE-CVD(プラズマ支援化学蒸着(plasma enhanced chemical vapour deposition))によってエッチングフィーチャ上へ堆積されてよい。これは、硬質マスク、例えば酸化物硬質マスクを堆積する好適な方法である。或いは、第2マスク配列はフォトレジスト、又は複数の金属マスクを含んでもよい。
【0017】
一般に、DRIE異方性プラズマエッチングを使用して第2マスクに前側プラズマエッチングを施すことは、前側キャビティエッチング(cavity etch)を達成するために行われる。
【0018】
この方法はさらに、後面のDRIEプラズマエッチングを実施することにより、シリコン基体に複数のチャネルを形成し、これらのチャネルは、複数のマイクロニードルが形成された後で、チャネルがマイクロニードルを通って延びる孔通路として作用するように位置決めされる工程を含んでもよい。後面のDRIEプラズマエッチングは、周期的エッチング・デポジションプロセスであってよい。「ボッシュ(Bosch)法」として一般に知られているタイプの周期的エッチング・デポジションプロセスを用いてよい。後面のDRIEプラズマエッチングを実施する工程は、エッチング済前面のDRIEプラズマエッチングを実施する工程の前に行われてよい。或いは、後面のDRIEプラズマエッチングを実施する工程は、エッチング済前面のDRIEプラズマエッチングを実施する工程の後に行われてもよい。換言すれば、後面のDRIEプラズマエッチングを実施する工程と、エッチング済前面のDRIEプラズマエッチングを実施する工程とは互いに交換可能である。
【0019】
後面のDRIEプラズマエッチングを実施する工程の前に、後面上に第3マスク配列が形成されてよい。典型的には、第3マスク配列は第2マスク上の対応フィーチャと整合する。このようにすれば、第3マスク配列は、シリコン基体内の複数のチャネルの位置に対応する複数のギャップを画定することができる。第3マスク配列は硬質マスクを含んでよく、硬質マスクは酸化物マスクであってよい。第3マスク配列はPE-CVDによって背面上へ堆積されてよい。これは硬質マスク、例えば酸化物マスクを堆積する好適な方法である。或いは、第3マスク配列はフォトレジスト、又は金属マスクを含んでもよい。
【0020】
典型的には、第1マスク配列内のギャップを通して第1面にSF6系プラズマエッチングを施すことにより、対向する傾斜面対を有する1つ又は2つ以上のエッチングフィーチャを提供する。第2マスク配列は、それぞれのエッチングフィーチャの対向する傾斜面対のうちの一方にのみ形成されてよい。
【0021】
マイクロニードルのベベル付き先端はシングルベベル構造として形成されてよい。
【0022】
或いは、マイクロニードルのベベル付き先端はダブルベベル構造として形成されてもよい。ダブルベベル構造は、皮膚貫通性能を向上させることができる。ダブルベベル構造は、前面のSF6系プラズマエッチングを実施する工程中にエッチング条件を制御することによって形成することができる。
【0023】
或いはまた、前面のSF6系プラズマエッチングを実施する工程は、シングルベベル構造を製造することもできる。次いで、エッチング済前面のDRIEプラズマエッチングを実施する工程中に、ダブルベベル構造を製造することができる。第2マスク配列は、厚さ3~5ミクロンの酸化物マスクを含んでよい。これは、ダブルベベル構造を製造する効果的な方法である。
【0024】
エッチング済前面のDRIEプラズマエッチングは、マイクロニードルから離隔した1つ又は2つ以上のリッジ構造(ridge structure)を形成してよい。リッジ構造は、剪断力により良好に耐え得るより堅牢な構造を提供することができる。それぞれのマイクロニードルは、その最も近いリッジ構造から100~1000ミクロン、好ましくは100~600ミクロン離隔していてよい。複数のマイクロニードル包囲フェンス構造を提供するために、相互接続された複数のリッジ構造を形成することができる。複数のマイクロニードル包囲フェンス構造のそれぞれはマイクロニードルを取り囲み、且つマイクロニードルから離隔している。
【0025】
リッジ構造は次のように形成することができる。すなわち、
SF6系プラズマエッチングが、第1マスク配列内のギャップを通してエッチングを施すことにより、対向する傾斜面対を有する1つ又は2つ以上のエッチングフィーチャを提供することができ、そして
エッチング済前面のDRIEプラズマエッチングは、対向する傾斜面対のうちの一方が少なくとも部分的にマイクロニードルのベベル付き先端を生じさせ、且つ対向傾斜面対のうちの他方が少なくとも部分的に、前記マイクロニードルから離隔したリッジを生じさせるように実施することができる。
【0026】
マイクロニードルのベベル付き先端のベベル角度は50~85°であってよい。
【0027】
マイクロニードルのベベル付き先端のベベル角度は少なくとも60°であってよい。ベベル角度は少なくとも70°であってよい。ベベル角度は85°以下であってよい。
【0028】
一般に、ベベル付き先端は尖っている。ベベル付き先端はダイヤモンド形であってよい。
【0029】
第1マスク配列によって画定されたギャップはそれぞれ幅を有してよい。エッチングフィーチャはそれぞれ基底幅を有してよい。それぞれのエッチングフィーチャの基底幅は、第1マスク配列内の、エッチングフィーチャに対応するギャップの幅に対してほぼ等しくてよい。それぞれのエッチングフィーチャの基底幅は、第1マスク配列内の対応ギャップの幅から10%以内にあることが好ましい。
【0030】
本発明のマイクロニードルは、幅広い範囲の用途において使用することができる。マイクロニードルは中空、ポケット付き、又は中実であってよい。マイクロニードルは皮膚内へ挿入されたときに、任意の所望の有益物質、例えば薬物、細胞、又は他の治療物質を送達してよい。原理上は、マイクロニードルはむしろ、有益物質を送達するために使用されなくてもよい。
【0031】
本発明を上述したが、これは上記特徴及び下記の説明、図面、又は請求項における特徴の任意の発明的組み合わせにまで範囲が及ぶ。
【0032】
添付の図面を参照しながら、本発明に基づく方法の実施態様を以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、(a)第1マスクを備えたシリコン基体を示す平面図、及び(b)SF
6系プラズマエッチング終了時のシリコン基体を示す断面図である。
【
図2】
図2は、前面上に第2マスク配列を備えたシリコン基体を示す(a)平面図及び(b)断面図である。
【
図3】
図3は、後面上に第3マスクを備えた、後ろ側エッチング終了時のシリコン基体を示す(a)平面図及び(b)断面図である。
【
図4】
図4は、前面エッチング終了時に形成されたマイクロニードルを示す(a)平面図及び(b)断面図である。
【
図5】
図5は、第2マスク配列除去後のマイクロニードルを示す(a)平面図及び(b)断面図である。
【
図6】
図6は、SF
6系プラズマエッチング後の(a)第1エッチングフィーチャ及び(b)第2エッチングフィーチャを示すSEM(走査電子顕微鏡)顕微鏡写真である。
【
図7】
図7は、SF
6系プラズマエッチング中のプロセス圧力の、ベベル角度に対する影響を示す図である。
【
図8】
図8は、SF
6系エッチング後の(a)第3エッチングフィーチャ及び(b)第4エッチングフィーチャを示すSEM顕微鏡写真である。
【
図9】
図9は、ベベル角度(57°及び75°)の、マイクロニードル幅に対する影響を示す図である。
【
図10】
図10は、(a)バルクシリコン基体内にエッチングされた孔チャネル、及び(b)バルクシリコン基体の前面エッチング終了時に形成されたマイクロニードルを示す注釈付きSEM顕微鏡写真である。
【
図11】
図11は、シングルベベル付きマイクロニードルを示すSEM顕微鏡写真である。
【
図12】
図12は、(a)フェンスの前面に位置するダブルベベル付きマイクロニードルを示す高解像度SEM顕微鏡写真、及び(b)フェンス構造が存在するダブルベベル付きマイクロニードルアレイを示す低解像度SEM顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1~5は、本発明の代表的な、しかし非制限的な方法における工程を示している。
図1Aは、シリコン基体12上に形成された第1マスク10の一部を示している。第1マスク10は、シリコン基体12の前面の暴露部分を露出させるために複数のアパーチャ14を画定している。
図1Aに示された第1マスク10は一行のアパーチャ14から成っている。下述するように、これは一行のマイクロニードルを生じさせる。現実には、行及び列を成すアパーチャ14を画定する、より延長された第1マスクを使用するのが一般的である。このタイプのより複雑な第1マスクは、行及び列の両方を成すマイクロニードルを有するマイクロニードルアレイを生じさせる。当業者が読めば明らかなように、第1マスクは、任意の具体的な用途に望まれるマイクロニードルの好ましい形状に応じて、数多くの様々な形状を成すことができる。
【0035】
第1マスク10を有するシリコン基体12に次いで、SF
6系プラズマエッチング15を施す。これは
図1Bに示されている。プラズマエッチングは第1マスク10内のアパーチャ14を通してエッチングを行うことにより、複数のエッチングフィーチャを製造する。
図1Bは、SF
6系プラズマエッチングの終了に向かうシリコン基体/第1マスクを示す断面図である。この時点では、複数のエッチングフィーチャ16が形成されている。これらのエッチングフィーチャ16は、対向する傾斜面対16A,16Bを含む。図から判るように、SF
6系プラズマエッチングは第1マスク10にアンダカットを施す。このアンダカットはマスクの下側の横方向エッチング量である。実際には、達成されるアンダカットは、対応するエッチングフィーチャ16の深さの少なくとも10%である。
【0036】
第1マスク10は取り除かれ、そして対向する傾斜面対16A,16Bの一方の傾斜面16A上に第2マスク18が形成される(
図2A及びB)。対の他方の傾斜面16Bはマスクによって保護されてはいない。シリコン基体12の後面12A上には第3マスク20が形成される。第3マスク20はマスク内に複数のアパーチャ20aを有するように形成される。これらのアパーチャ20aは、傾斜面16A上の第2マスク18の位置と整合する。
図3A及びBに示されているように、シリコン基体のマスキングされた後面12Aの後ろ側プラズマエッチング21を次いで実施することにより、複数の孔チャネル22を形成する。これらの孔チャネル22は、アパーチャ20からシリコン基体12を通って延びることにより、第2マスク18へ達する。孔チャネル22を形成するために用いられるプラズマエッチングは、任意の好都合なエッチング法であってよい。DRIEエッチング、例えばボッシュ型エッチングを用いることが極めて好都合である。次に、シリコン基体12の前側のDRIEプラズマエッチングを行う。
図4A及びBは、シリコン基体12の前面のDRIEプラズマエッチング24を示している。プラズマエッチング24は第2マスク18の周りでバルクシリコンをエッチングすることにより、基底層28から直立する複数のベベル付きマイクロニードル構造26を残す。基底層28の深さ及びマイクロニードル構造26の高さを制御するようにプラズマエッチング24を制御し得ることは明らかである。プラズマエッチング24がまた、マイクロニードル構造26から離隔した複数のリッジ構造30を形成すると有利である。リッジ構造は、少なくとも傾斜面16Bを含む、シリコン基体の前面部分のエッチングと関連するものである。
【0037】
第2マスク18を次いで取り除くことにより、
図5A及びBに示されたマイクロニードルアレイ32を製造する。マイクロニードルアレイ32は複数のベベル付きマイクロニードル構造26を含む。
図5A及びBに示された実施態様では、マイクロニードル構造26は、これを貫通する孔チャネル20が存在することに基づいて中空である。
図5A及びBに示された実施態様はまた複数のリッジ構造30を含む。実際には、マイクロニードルアレイは遙かにより多数のマイクロニードル構造を有するように形成されるのが普通である。
図5A及びBに示された実施態様では、後面12A上の第3マスク20は所定の場所に留まっている。任意には、第3マスク20を取り除くこともできる。
【0038】
数百ミクロンの深さまでシリコン基体内に傾斜側壁を形成するドライエッチング法を提供することが望ましいものの、実際にはこれは達成するのが極めて難しい。本発明は、傾斜側壁を形成し、これらの側壁をさらに処理することによって、複数のベベル付きマイクロニードルを提供することができる、SF
6系ドライプラズマエッチングを提供する。好適なSF
6系ガス混合物の例は、SF
6/O
2/C
4F
8、SF
6/O
2/C
4F
8/Ar、SF
6/O
2/Ar、及びSF
6/CHF
3/C
4F
8を含む。他のSF
6系ガス状組成物を使用してもよい。これらの組成物は、酸素を含んでも含んでいなくてもよく、且つ/又は不活性希釈剤、例えばアルゴンを含んでも含んでいなくてもよい。成分の相対比率は所望のプロフィールを達成するために変化させてもよい。SF
6系プラズマは異方性エッチングの基礎を形成する。ある程度の側壁不動態化を達成するために、C
4F
8及び/又はCHF
3のような成分を添加することが望ましい。側壁不動態化は横方向のエッチングを制限し、そして「オーバーハング(overhang)」のないプロフィールを維持するのを助ける。典型的にはエッチングは第1マスクの下方に大きいアンダカットを達成するが、しかし側壁は、エッチングフィーチャの基底部から側壁へポリマー部分のイオン支援型移動又は拡散が生じることに基づき不動態化されるようになる。
図6A及びBは、SF
6/C
4F
8系第1プラズマエッチングのための典型的なプロセス条件を用いて達成されたエッチングフィーチャを示すSEMである。両事例において、第1マスクは、各
図6A及びBの上部に、本質的に水平方向の白線として明確に見ることができる。
図6Aは第1マスクによって画定されたギャップを示している。
図6Aからは、第1マスクによって画定された開口の幅が、エッチングフィーチャの基底幅と同様であることが明らかである。このことは典型的ではあるが、しかし非制限的な結果である。
図6aにおいて、SF
6系プラズマエッチングは、60.9°のプロフィール角度を有する対向する傾斜側壁対を備えたほぼ平らな基底部を生成している。SF
6系プラズマエッチングは、200ミクロン超の、第1マスクのアンダカットをもたらした。
図6Bでは、プロフィール角度69.1°及び深さ188ミクロンの傾斜側壁が生成されている。
【0039】
SF6系プラズマエッチングのための典型的なプロセス内容は、プラテン温度20℃、圧力60mTorr、4kWソースRF、10WプラテンRF、575sccm SF6流量、100sccm C4F8流量、80sccm O2流量である。典型的なエッチング速度は10~20ミクロン/分であり、プロセス時間は約20分である。
【0040】
プロセスパラメータを変更することによって、傾斜面のプロフィール角度を制御することができる。例えば、プラテンに印加される電力を増大させればさせるほど、プロフィール角度を増大させることができる。C
4F
8の流量を変化させると、フィーチャのサイズ及びジオメトリに応じてプロフィール角度を増減させることができる。加えて、プロセス圧力もプロフィール角度に影響を与えることができる。そしてこのプロフィール角度は、最終的に製造されるマイクロニードルのベベル角度に影響を与える。
図7は、プロセス圧力の関数としてのベベル角度の変化を示している。図から判るように、プロセス圧力が低いほど、ベベル角度は急勾配になる。特定の理論又は推測によって制限されたくはないが、プロセス圧力を増大させ、且つ/又はプラテン電力を低減すると、エッチング剤種(etchant species)の分布角度が変化し、これがベベル角度に直接に影響を与えると考えられる。このことは側壁の同時の不動態化と相俟って、プロフィール全体を制御する。同時の不動態化は側壁の全て、又は側壁の一部に対して行うことができる。こうしてSF
6系プラズマエッチングのプロセス条件を変えることにより、シングルベベル先端又はダブルベベル先端を有するマイクロニードルを製造することができる。或いは、浅いプロフィール角度を生成するように側壁の上側部分にエッチングを施す一方で、側壁の下側部分及び基底部を横方向エッチングから保護する不動態化工程と相俟って、ダブルベベル先端を達成することもできる。
【0041】
図8A及びBは、SF
6/C
4F
8/O
2プラズマエッチング化学作用を用いて達成されたさらなるベベルエッチングフィーチャを示すSEMである。
図8Aでは、「ストロベリー(strawberry)」エッチングプロフィールが達成されており、傾斜側壁の主プロフィール角度は59.4°である。エッチングフィーチャの深さは420ミクロンであり、16.8ミクロン/分のエッチング速度が達成された。
図8Bでは、急勾配のプロフィール角度75°が達成され、エッチング深さは331ミクロンである。プロフィール角度、ひいてはベベル角度を、本発明のエッチング方法を用いて容易に制御し得ることは極めて有利である。加えて、本発明が急勾配のプロフィール角度、ひいては急勾配のベベル角度を供給し得ることも極めて有利である。
図9は、ベベル角度を57°から75°へ変えることの、マイクロニードル幅へ与える影響を示している。図から明らかなように、固定されたベベル長さに対してベベル角度を57°から75°へ増大させると、マイクロニードルの直径は2.5分の1に小さくなる。これは高密度シリコンマイクロニードルアレイを製造する上で主要なファクタとなる。57°は、ウェットエッチング技術を使用して生成されるベベル角度に相当する。このベベル角度は、ウェットエッチングの結晶学的性質に基づいて設定される。その結果、従来のウェットエッチング技術は、マイクロニードルアレイの構成を根本的に制約する。本発明は従来技術のこのような制約を克服する。本発明により提供されるドライエッチング方法のさらなる利点は、標準的なKOHウェットエッチングと比較してプロセス時間が大幅に短縮されることである。長さ400ミクロンのマイクロニードルを製造するための、本発明のドライエッチングの処理時間は20分前後である。対照的に、KOHウェットエッチングは同じ長さのマイクロニードルの場合、約22時間かかることになる。加えて、本発明のドライエッチング方法は、ウェットエッチング技術によって引き起こされる粗さに関連する問題を回避する。本発明は50°~80°のプロフィール角度を生成し、150~400ミクロンのフィーチャ深さをエッチングすることができる。しかしながら本発明はこれらの角度及び深さに制限されることはない。
【0042】
第1エッチングを完了した後、周知の手段を使用して第1マスクを除去する。
図10A及びBは、マイクロニードルの製造におけるさらなる段階を示す注釈付きSEMである。
図10Aは、後ろ側プラズマエッチング100に暴露した後のシリコン基体106を示している。後ろ側プラズマエッチングのためのエッチングストップとして作用するように、傾斜側壁上に部分的に第2マスク104が位置決めされている。第3マスク104はシリコン基体104の後面上に位置決めされており、孔チャネル108を形成するために後ろ側プラズマエッチングにシリコン部分を暴露するようにパターニングされている。マスク102,104は、孔チャネル108のエッチングが第2マスク104で止まることを保証するように整合されている。シリコン基体106は、第3マスク102がプラズマ100に面した状態で配置されており、第3マスク内のアパーチャの上方に位置するシリコンの全てが除去される結果、孔チャネル108がもたらされたら、孔チャネルエッチングが完了する。
図10Bは、DRIEプラズマエッチング110を用いて、シリコン基体の前面に対して続いて行われるプラズマエッチングを示している。第2マスク104はその下のシリコンをプラズマ110から保護するのに対して、非マスク領域内ではプラズマ110によってバルクシリコンが除去される。プラズマ110は、実質的に異方性であり、中空のベベル付きマイクロニードル112を形成することになる。プラズマ110はまたリッジ114を生成する。リッジ114は、マイクロニードル112を生成する傾斜面とは反対側のエッチングフィーチャの傾斜面と関連する。プラズマ110の処理が完了した後、第2マスク、そして任意には第3マスクを周知の手段を用いて除去することができる。典型的には、PE-CVD酸化物を使用して硬質第2マスク104を形成する。しかしながら、別の材料、例えばフォトレジスト又は金属マスクを代わりに使用することもできる。第3マスク102は硬質マスク、フォトレジスト、又は金属マスクから形成されてもよい。第2及び第3マスクが同じ材料から形成されると好都合である。マイクロニードルを形成する前側プラズマエッチングはDRIEプラズマエッチングである。ICP HFソース電力3~6kW、バイアス電力0.12~1.5kW、プロセス圧力40~50mT、サイクル時間1~5秒で、そして主としてエッチングサイクル中にはSF
6を、そしてデポジションサイクル中にはC
4F
8を使用して、典型的な周期的エッチング・デポジションプロセスを用いることができると好都合である。
【0043】
前側プラズマエッチングは望ましくは実質的に異方性であり、そして実際に、完全に鉛直方向に直立する壁を有するマイクロニードルを製造することが可能である。しかしながら、リエントラント(re-entrant)形状(より広い頂部、より狭い基部)を有するマイクロニードルを提供することが概ね好ましい。なぜならば、リエントラント角度を形成するプラズマエッチングプロセスは一般的には本来ポリマー性が少なく、それゆえにより反復可能であり且つ強固(robust)であるからである。後ろ側プラズマエッチングは、マイクロニードルを製造するために用いられる前面プラズマエッチングと同じタイプであってよい。いくつかの実施態様では、後ろ側及び前面双方のエッチングのために同じエッチングプロセスが用いられる。
【0044】
前面プラズマエッチングはシングル又はダブルベベル付きマイクロニードル先端を得るために用いることができる。厚さ5ミクロン超の比較的厚い酸化物第2マスクが使用されると、
図11から判るように、シングルベベル構造が得られることが判っている。前記のように、SF
6系第1エッチングの適切な制御によってダブルベベル付きマイクロニードル先端を得ることができる。マイクロニードルを生成するシリコン基体の前面エッチングを制御することによりダブルベベル先端を得ることもできることが判っている。エネルギーイオンの入射量がより高いことに基づき、ベベル付き構造の底部に位置する第2マスクのエッチング速度は頂部よりも著しく高い。その結果、ベベル付き構造の底部に位置する第2マスクの部分は、頂部に位置するマスクの部分よりも著しく高いエッチング速度を被る。従って、ベベル構造の底部に位置する第2マスクの部分はより急速に消費され、下部に位置するシリコンのエッチングをもたらす。このことはダブルベベル付き構造を形成することになる。厚さ3~5ミクロンの酸化物第2マスクの使用によって、ダブルベベル付き構造が生じることが判っている。異なる材料から形成された第2マスクは、ダブルベベル付き構造を製造するために、異なる厚さ範囲を用いることが必要となる場合がある。シングル及びダブル双方のベベル付き構造は実用性があり、本発明がいずれかの構造を有するマイクロニードルを提供し得ることが有利である。ダブルベベル付き構造は、改善された皮膚貫通量(skin penetration yields)を有する。
図12A及びBは、ダブルベベル付きマイクロニードルのSEM画像を示している。これらのマイクロニードルでは、頂部ベベル角度は約60°であり、底部ベベル角度はより急勾配で約80°である。ダイヤモンド形状のベベル付き先端を有するマイクロニードルは、最も効果的な皮膚穿刺をもたらす。
図12A及びBに示されたマイクロニードルは所望のダイヤモンド形先端を有しており、実際に、ダイヤモンド形先端を備えたマイクロニードルは本発明を用いて容易に製造することができる。
【0045】
上述のように、隣接するマイクロニードルから離隔したリッジを形成することが可能である。行及び列を成すアパーチャを含む第1マスクを使用してマイクロニードルアレイを製造するときには、リッジは、マイクロニードルを取り囲む複数のフェンス構造を形成することができる。これは
図12Bから特に明らかである。第1マスクによってマスキングされたシリコン基体の周囲は、マイクロニードルアレイを取り囲むフレーム構造を形成する。リッジは隣接するマイクロニードルの基部から100~200ミクロンの距離のところに形成されるのが典型的である。しかしながら、主として第1マスクの適切な構成によって、さらにエッチングプロセスの制御によっても、より小さい又はより大きい距離を利用することができる。リッジ/フレーム構造の存在は、数多くの理由から有利である。マイクロニードルの破断可能性(主として、マイクロニードルの皮膚内への注射中の剪断力によって引き起こされる)は低減される。リッジ/フェンス構造はまた、マイクロニードルの場所の皮膚領域の伸張及び集束(bunching)をもたらし、より良好な皮膚貫通をもたらすのを可能にする。別の利点は、リッジ/フェンス構造を使用してニードル貫通深さを規定し得ることである。リッジ/フェンス構造と並んでマイクロニードルシャフトを位置決めすることによって、マイクロニードル高さとリッジ高さとの差に関連するニードル貫通深さが規定される。このことは目標薬物送達深さが達成されるのを可能にする。
【0046】
上記方法に対する数多くの変更形が当業者に容易に示唆される。例えば中空のマイクロニードルが製造されることはさほど重要ではない。代わりに、後ろ側エッチング工程を省くことにより、中実のマイクロニードルを製造してもよい。或いは、先端内又はマイクロニードル本体内にポケット又はキャビティが形成されたポケット付きマイクロニードルが製造されてもよい。上で例示されたマイクロニードルは円筒体形状を有してはいるものの、その代わりに、種々の形態の非円筒体形状を有するマイクロニードルを製造することもできる。