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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】光学機器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20220328BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20220328BHJP
   C03C 17/42 20060101ALI20220328BHJP
   G02B 1/18 20150101ALI20220328BHJP
   G02B 27/01 20060101ALI20220328BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20220328BHJP
   G03B 21/14 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
G02B5/30
B32B7/023
C03C17/42
G02B1/18
G02B27/01
G02F1/1335 510
G03B21/14 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018147167
(22)【出願日】2018-08-03
(62)【分割の表示】P 2017186493の分割
【原出願日】2017-09-27
(65)【公開番号】P2019061226
(43)【公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-09-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆広
【審査官】沖村 美由
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-180975(JP,A)
【文献】特開2014-085516(JP,A)
【文献】特開2008-216956(JP,A)
【文献】特開2012-108468(JP,A)
【文献】特開2008-077056(JP,A)
【文献】特開2014-109753(JP,A)
【文献】特開2014-063135(JP,A)
【文献】特開2016-126291(JP,A)
【文献】特開2006-330476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B5/30
B32B1/00-43/00
C03C15/00-23/00
G02B1/10-1/18
G02B27/00-30/60
G02F1/1335;1/13363
G03B21/00-21/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤグリッド構造を有する偏光板と、前記偏光板を固定する固定枠と、を備え
前記偏光板は、透明基板と、前記偏光板の一方の面側における前記透明基板上に使用帯域の光の波長よりも短いピッチで配列され、所定方向に延在する格子状凸部と、を備え、
前記格子状凸部は、前記透明基板側から順に、反射層と、誘電体層と、吸収層を備え、
前記偏光板の一方の面には、前記透明基板の表面及び前記格子状凸部の表面を覆う撥水層が形成され、
前記偏光板の他方の面には、撥水層が形成され、
前記偏光板の側面には、撥水層が形成されておらず、前記偏光板の側面において、前記透明基板が露出しており、
前記偏光板は、前記固定枠に対して、縦置きの状態で、前記偏光板の側面に前記固定枠が当接するようにして嵌め込まれており、接着剤により、前記固定枠に固着されている光学機器
【請求項2】
前記格子状凸部は、高さが10nm以上である請求項1に記載の光学機器。
【請求項3】
前記偏光板の側面には、識別用のマーキングが施されている請求項1又は2に記載の光学機器
【請求項4】
前記格子状凸部は、幅が35~45nmであり、ピッチが100~200nmである請求項1から3いずれかに記載の光学機器。
【請求項5】
前記撥水層は、前記透明基板側から順に、シリカからなるシリカ層と、シランカップリング剤からなるシランカップリング層と、を有し、
前記シリカ層は、厚みが20nm以下である請求項1から4いずれかに記載の光学機器
【請求項6】
前記シランカップリング層は、フッ素を含む請求項5に記載の光学機器
【請求項7】
前記透明基板は、前記使用帯域の光の波長に対して透明であり、且つ、ガラス、水晶又はサファイアで構成される請求項1から6いずれかに記載の光学機器
【請求項8】
前記偏光板は、前記透明基板の他方の面上に配置され、サファイアからなる熱伝導板をさらに備える請求項1から7いずれかに記載の光学機器
【請求項9】
ワイヤグリッド構造を有する偏光板と、前記偏光板を固定する固定枠と、を備える光学機器の製造方法であって、
前記偏光板を製造する第1工程と、前記偏光板を前記固定枠に固定する第2工程と、を有し、
前記第1工程は、前記偏光板の使用サイズよりも大きい透明基板の一方の面側において、前記透明基板側から順に、反射層と、誘電体層と、吸収層を備えるとともに、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで所定方向に延在する格子状凸部を形成する格子状凸部形成工程と、前記透明基板の一方の面側において前記透明基板の表面及び前記格子状凸部の表面を覆うとともに、前記偏光板の他方の面全体を覆う撥水層を形成する撥水層形成工程と、前記撥水層が形成された透明基板を前記使用サイズに切断する切断工程と、を有し、
前記第2工程は、前記固定枠に対して、縦置きの状態で、前記偏光板の側面に前記固定枠が当接するようにして前記偏光板を嵌め込む工程と、前記固定枠と前記偏光板の側面との間に接着剤を供給し、前記偏光板を前記固定枠に固着する工程と、を有する光学機器の製造方法。
【請求項10】
前記第1工程は、前記切断された透明基板の側面に識別用のマーキングを施すマーキング工程をさらに有する請求項9に記載の光学機器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学機器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は、吸収軸方向の偏光を吸収し、これと直交する透過軸方向の偏光を透過させる光学素子である。近年では、液晶プロジェクタ等の光学機器において、ワイヤグリッド構造を有する吸収型の偏光板が使用されている。この吸収型の偏光板は、可視光帯域において所望の光学特性を満たすために、グリッドの周期をサブミクロンオーダーにする必要がある。そのため、グリッドを構成する反射層、誘電体層及び吸収層の各層の幅は、数10nmとなる。
【0003】
ところで、上記偏光板は、高湿、ダスト(PM2.5等)環境下で使用されるうえ、吸収型であるが故に実使用下ではグリッドが高温に晒される。そのため、グリッド表面の酸化や腐食が生じ、仮に表面のみの酸化や腐食であってもサイズがナノオーダーであるため光学特性は大きく影響を受ける。そこで、光学特性に対する悪影響を回避しつつ、偏光板の耐久性を向上させる技術が種々提案されている。
【0004】
例えばワイヤグリッド構造を有する偏光板の表面に、腐食防止剤からなる単分子層を備える偏光板が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この偏光板によれば、単分子層の厚さを約100オングストローム未満とすることにより、光学特性に悪影響を与えることなく腐食を防止できるとされている。
【0005】
また、例えばワイヤグリッド構造を有する偏光板の表面に、偏光板の中央に配置され標準的な特性を有する標準領域と、偏光板の端部に配置され標準的な特性とは異なる特性を有する修正領域と、を備える偏光板が開示されている(例えば、特許文献2参照)。この偏光板によれば、修正領域におけるグリッドを潰すことで隣接するグリッド同士が互いに溶合されることにより、毛細管現象による端部からの脂や水等の流体の浸入によるグリッドの腐食を防止できるとされている。
【0006】
また、例えばワイヤグリッド構造を有する偏光板の表面に、シリカ等の無機系微粒子をコートした偏光板が開示されている(例えば、特許文献3参照)。この偏光板によれば、表面にシリカ層等の無機系保護膜を備えるため、耐久性を向上できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2006-507517号公報
【文献】特開2013-218294号公報
【文献】特開2012-103728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、例えば3LCD型の液晶プロジェクタでは、青、緑及び赤の各色に対応した3種類の液晶パネルが使用され、各液晶パネルを挟むように入射側と出射側のそれぞれに偏光板が配置される。また、各偏光板の熱負荷を軽減するために、プリ偏光板と呼ばれる消光比の低い偏光板が入射側の偏光板の前段に配置される場合があり、偏光板の使用枚数はプリ偏光板を含めると最大で9枚となる。そのため、偏光板の識別を容易にすることは、ヒューマンエラーの防止、ひいては液晶プロジェクタ等の光学機器の生産性向上の観点から重要である。
【0009】
偏光板の識別方法としては、偏光板の表面又は裏面の無効工リアや、偏光板の端部の側面に対して、レーザーマーキングやマーキングペン、ダイヤモンドカッター等を用いて製品情報を印字する手法が挙げられる。無効エリアが小さく印字が難しい場合には、端部の側面に必然的に印字されることになる。この点、従来一般的な保護膜の形成では、偏光板の表面のみならず側面にも保護膜が形成されるところ、かかる側面に印字すると保護膜が剥がれてダストの原因になるおそれがある。特に保護膜が撥水膜の場合には、そもそもマーキングペンで印字できないおそれがある。さらには特許文献2のような偏光板では、潰れたグリッドが端部の側面を覆う結果、マーキングに支障をきたすおそれがある。
【0010】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、偏光板の耐久性を向上できるとともに、光学機器の生産性を向上できる偏光板及びその製造方法並びに光学機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため本発明は、ワイヤグリッド構造を有する偏光板(例えば、後述の偏光板1)であって、透明基板(例えば、後述の透明基板2)と、前記偏光板の一方の面側における前記透明基板上に使用帯域の光の波長よりも短いピッチで配列され、所定方向に延在する格子状凸部(例えば、後述の格子状凸部3)と、を備え、前記偏光板の一方の面には、前記格子状凸部の表面を覆う撥水層(例えば、後述の撥水層4,41)が形成され、前記偏光板の側面には、撥水層が形成されていない偏光板を提供する。
【0012】
前記偏光板の側面において、前記透明基板が露出してもよい。
【0013】
前記偏光板の側面には、識別用のマーキングが施されてもよい。
【0014】
前記偏光板の他方の面には、撥水層(例えば、後述の撥水層42,4)が形成されてもよい。
【0015】
前記撥水層は、前記透明基板側から順に、シリカからなるシリカ層と、シランカップリング剤からなるシランカップリング層と、を有してもよい。
【0016】
前記シランカップリング層は、フッ素を含んでもよい。
【0017】
前記透明基板は、前記使用帯域の光の波長に対して透明であり、且つ、ガラス、水晶又はサファイアで構成されてもよい。
【0018】
前記透明基板の他方の面上に配置され、サファイアからなる熱伝導板をさらに備えてもよい。
【0019】
また本発明は、ワイヤグリッド構造を有する偏光板の製造方法であって、前記偏光板の使用サイズよりも大きい透明基板の一方の面側において、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで所定方向に延在する格子状凸部を形成する格子状凸部形成工程と、前記透明基板の一方の面側において前記透明基板の表面及び前記格子状凸部の表面を覆う撥水層を形成する撥水層形成工程と、前記撥水層が形成された透明基板を前記使用サイズに切断する切断工程と、を有する偏光板の製造方法を提供する。
【0020】
また本発明は、ワイヤグリッド構造を有する偏光板の製造方法であって、前記偏光板の使用サイズと同等の大きさの透明基板の一方の面側において、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで所定方向に延在する格子状凸部を形成する格子状凸部形成工程と、前記透明基板の一方の面側において前記透明基板の表面及び前記格子状凸部の表面を覆う撥水層を形成する撥水層形成工程と、前記透明基板の側面に形成された撥水層をエッチングにより除去する除去工程と、を有する偏光板の製造方法を提供する。
【0021】
また本発明は、上記いずれかの発明に係る偏光板を備える光学機器を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、偏光板の耐久性を向上できるとともに、光学機器の生産性を向上できる偏光板及びその製造方法並びに光学機器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る偏光板の斜視図である。
図2】上記実施形態に係る偏光板の断面図である。
図3A】上記実施形態に係る偏光板の製造方法を説明するための図である。
図3B】上記実施形態に係る偏光板の製造方法を説明するための図である。
図3C】上記実施形態に係る偏光板の製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して詳しく説明する。
【0025】
[偏光板1]
本発明の一実施形態に係る偏光板1は、ワイヤグリッド構造を有する無機偏光板である。本実施形態に係る偏光板1は、透明基板2と、偏光板1の一方の面側における透明基板2上に使用帯域の光の波長よりも短いピッチ(周期)で配列され所定方向に延在する格子状凸部3と、を備える。また、偏光板1の一方の面には、格子状凸部3の表面を覆う撥水層4が形成されている一方で、偏光板1の側面には撥水層が形成されていないことを特徴としている。
【0026】
図1は、本実施形態に係る偏光板1の斜視図である。図2は、本実施形態に係る偏光板1の断面図である。
図1及び図2に示すように格子状凸部3の延在する方向(所定方向)を、Y軸方向と称する。また、Y軸方向に直交し、透明基板2の主面に沿って格子状凸部3が配列する方向を、X軸方向と称する。この場合、偏光板1に入射する光は、透明基板2の格子状凸部3が形成されている側において、好適にはX軸方向及びY軸方向に直交する方向から入射する。
【0027】
偏光板1は、透過、反射、干渉及び光学異方性による偏光波の選択的光吸収の4つの作用を利用することで、Y軸方向に平行な電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させ、X軸方向に平行な電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させる。従って、Y軸方向が偏光板1の吸収軸の方向であり、X軸方向が偏光板1の透過軸の方向である。
【0028】
透明基板2としては、使用帯域の光に対して透光性を示す基板であれば特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。「使用帯域の光に対して透光性を示す」とは、使用帯域の光の透過率が100%であることを意味するものではなく、偏光板としての機能を保持可能な透光性を示せばよい。使用帯域の光としては、例えば、波長380nm~810nm程度の可視光が挙げられる。
【0029】
透明基板2の主面形状は特に制限されず、目的に応じた形状(例えば、矩形形状)が適宜選択される。透明基板2の平均厚みは、例えば、0.3mm~1mmが好ましい。
【0030】
透明基板2の構成材料としては、屈折率が1.1~2.2の材料が好ましく、ガラス、水晶、サファイア等が挙げられる。コスト及び透光率の観点からは、ガラス、特に石英ガラス(屈折率1.46)やソーダ石灰ガラス(屈折率1.51)を用いることが好ましい。ガラス材料の成分組成は特に制限されず、例えば光学ガラスとして広く流通しているケイ酸塩ガラス等の安価なガラス材料を用いることができる。
【0031】
また、熱伝導性の観点からは、熱伝導性が高い水晶やサファイアを用いることが好ましい。これにより、強い光に対して高い耐光性が得られ、発熱量の多いプロジェクタの光学エンジン用の偏光板として好ましく用いられる。あるいは、透明基板2の他方の面上に、サファイアからなる熱伝導板が配置されてもよい。かかる熱伝導板を透明基板2の他方の面に当接させて配置することにより、高い耐熱性が得られ、偏光板1の耐久性が向上する。
【0032】
なお、水晶等の光学活性の結晶からなる透明基板を用いる場合には、結晶の光学軸に対して平行方向又は垂直方向に格子状凸部3を配置することが好ましい。これにより、優れた光学特性が得られる。ここで、光学軸とは、その方向に進む光のO(常光線)とE(異常光線)の屈折率の差が最小となる方向軸である。
【0033】
格子状凸部3は、透明基板2の一方の面上に使用帯域の光の波長よりも短いピッチで一次元状に配列され、所定方向に延在する。格子状凸部3は、透明基板2から垂直に延びる四角柱状に形成される。格子状凸部3は、透明基板2側から順に、いずれも図示しない反射層と、誘電体層と、吸収層と、が積層されて構成される。即ち、本実施形態に係る偏光板1は、ワイヤグリッド構造を有する吸収型の偏光板である。
【0034】
そのため、偏光板1の格子状凸部3が形成された側から入射した光は、吸収層及び誘電体層を通過する際に一部が吸収されて減衰する。吸収層及び誘電体層を透過した光のうち、偏光波(TM波(P波))は高い透過率で反射層を透過する。一方、吸収層及び誘電体層を透過した光のうち、偏光波(TE波(S波))は反射層で反射される。反射層で反射されたTE波は、吸収層及び誘電体層を通過する際に一部は吸収され、一部は反射して反射層に戻る。また、反射層で反射されたTE波は、吸収層及び誘電体層を通過する際に干渉して減衰する。以上のようにして、偏光板1は、TE波の選択的減衰を行うことにより、所望の偏光特性が得られる。
【0035】
ここで、格子状凸部3の高さとは、透明基板2の主面に垂直な方向の寸法を意味し、格子状凸部3の幅とは、格子状凸部3の延びる方向に沿うY軸方向から見たときに、高さ方向に直交するX軸方向の寸法を意味する。また、偏光板1を格子状凸部3の延びる方向に沿うY軸方向から見たときに、格子状凸部3のX軸方向の繰り返し間隔をピッチPと称する。
【0036】
格子状凸部3の高さは、10nm以上であることが好ましい。格子状凸部3の高さが10nm以上であることにより、所望の光学特性が得られるとともに、より良好な撥水性が発現する。この格子状凸部3の高さは、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。例えば、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を用いて、任意の4箇所について格子状凸部3の高さを測定し、その算術平均値を格子状凸部3の高さとすることができる。以下、この測定方法を電子顕微鏡法と称する。
【0037】
格子状凸部3の幅は、35~45nmであることが好ましい。格子状凸部3の幅がこの範囲内であることにより、所望の光学特性が得られるとともに、より良好な撥水性が発現する。この格子状凸部3の幅は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
【0038】
格子状凸部3のピッチP(図2参照)は、使用帯域の光の波長の半分よりも短ければ特に制限されない。作製の容易性及び安定性の観点から、格子状凸部3のピッチPは、例えば、100nm~200nmであることが好ましい。格子状凸部3のピッチPがこの範囲内であることにより、所望の光学特性が得られるとともに、より良好な撥水性が発現する。この格子状凸部3のピッチPは、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
【0039】
反射層は、吸収軸であるY軸方向に帯状に延びた金属膜で構成される。反射層は、反射層の長手方向に平行な方向に電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させ、反射層の長手方向に直交する方向に電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させる。
反射層の構成材料としては、使用帯域の光に対して反射性を有する材料であれば特に制限されず、例えば、Al、Ag、Cu、Mo、Cr、Ti、Ni、W、Fe、Si、Ge、Te等の元素単体又はこれらの1種以上の元素を含む合金が挙げられる。中でも、反射層は、アルミニウム又はアルミニウム合金で構成されることが好ましい。なお、これらの金属材料以外にも、例えば着色等により表面の反射率が高く形成された金属以外の無機膜や樹脂膜で反射層を構成してもよい。
【0040】
誘電体層は、反射層上に形成され、吸収軸であるY軸方向に帯状に延びた誘電体膜が配列されてなる。誘電体層を構成する材料としては、SiO等のSi酸化物、Al、酸化ベリリウム、酸化ビスマス、等の金属酸化物、MgF、氷晶石、ゲルマニウム、二酸化チタン、ケイ素、フッ化マグネシウム、窒化ボロン、酸化ボロン、酸化タンタル、炭素、又はこれらの組み合わせ等の一般的な材料が挙げられる。中でも、誘電体層は、Si酸化物で構成されることが好ましい。
【0041】
吸収層は、誘電体層上に形成され、吸収軸であるY軸方向に帯状に延びて配列されたものである。吸収層の構成材料としては、金属材料や半導体材料等の光学定数の消衰定数が零でない、光吸収作用を持つ物質の1種以上が挙げられ、適用される光の波長範囲によって適宜選択される。金属材料としては、Ta、Al、Ag、Cu、Au、Mo、Cr、Ti、W、Ni、Fe、Sn等の元素単体又はこれらの1種以上の元素を含む合金が挙げられる。また、半導体材料としては、Si、Ge、Te、ZnO、シリサイド材料(β-FeSi、MgSi、NiSi、BaSi、CrSi、CoSi、TaSi等)が挙げられる。これらの材料を用いることにより、偏光板1は、適用される可視光域に対して高い消光比が得られる。中でも、吸収層は、Fe又はTaを含むとともに、Siを含んで構成されることが好ましい。
【0042】
撥水層4は、偏光板1の一方の面、即ち格子状凸部3が形成されている面上に形成され、格子状凸部3の表面を覆っている。本実施形態では、図2に示すように隣接する格子状凸部3間の各溝内にも撥水層4が形成されており、偏光板1の一方の面全体を覆うように撥水層4が形成されている。これにより、例えば結露等により偏光板1の一方の面に水滴が付着した場合であっても、液晶プロジェクタ等の光学機器内で通常は縦置き(偏光板1の厚み方向が略水平方向となるように配置)される偏光板1の一方の面に水滴が長時間留まることなく速やかに流れて除去される。そのため、水滴が長時間付着したままの状態で大気中のゴミ等を吸収することによりシミ等が生じ、光学特性に悪影響を及ぼす事態を回避できる。即ち、優れた耐湿性が得られ、偏光板1の耐久性を向上できる。
【0043】
また、格子状凸部3の表面が撥水層4で覆われることにより、格子状凸部3の表面を保護できる。そのため、格子状凸部3の表面における酸化及び腐食を防止でき、偏光板1の耐久性を向上できる。
【0044】
また本実施形態では、撥水層4は、偏光板1の他方の面にも形成されており、偏光板1の他方の面全体を覆うように形成されている。これにより、偏光板1の他方の面においても、水滴が長時間付着したままの状態で大気中のゴミ等を吸収することによりシミ等が生じ、光学特性に悪影響を及ぼす事態を回避できる。即ち、より優れた耐湿性が得られ、偏光板1の耐久性をより向上できる。
【0045】
上記撥水層4の厚みは、特に限定されない。偏光板1の光学特性に悪影響を及ぼさない範囲で適宜設定可能である。具体的には、撥水層4の好ましい厚みは、1~3nmである。
【0046】
上記撥水層4は、透明基板2側から順に、シリカからなるシリカ層(不図示)と、シランカップリング剤からなるシランカップリング層(不図示)と、を有することが好ましい。
【0047】
シリカ層は、シリカで構成される。シリカ層は、透明基板2の表面及び格子状凸部3の表面の全体を覆うように形成されている。このシリカ層の表面には、シラノール基が存在しており、シリカ層の表面を覆うように積層される後述のシランカップリング層中のシランカップリング剤と縮合反応する。これにより、シランカップリング層がシリカ層上に強固に結合される結果、シランカップリング層の剥離を防止できる。従って、本実施形態に係る偏光板1は、優れた耐水性、耐湿性及び防汚性を長期間維持でき、高い耐久性を有する。
【0048】
シリカ層は、厚みが20nm以下であることが好ましい。シリカ層の厚みが20nm以下であれば、所望の光学特性を維持しつつ、優れた耐水性、耐湿性、及び防汚性を長期間維持できる。また、シリカ層の厚みは、ピッチPの1/10以下であることが好ましい。これにより、より優れた耐水性、耐湿性、及び防汚性を長期間維持できる。なお、このシリカ層は、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)やALD(Atomic Layer Deposition)を利用することにより形成可能である。
【0049】
シランカップリング層は、シランカップリング剤で構成される。シランカップリング層は、シリカ層の表面全体を覆うように形成される。上述したように、シランカップリング層を構成するシランカップリング剤は、シリカ層の表面に存在するシラノール基との縮合反応により、強固に結合している。
【0050】
シランカップリング層は、フッ素を含むことが好ましい。より具体的には、シランカップリング層は、パーフルオロデシルトリエトキシシラン(FDTS)等のフッ素系シランカップリング剤で構成されることが好ましい。これにより、より優れた耐水性、耐湿性及び防汚性が長期間得られる。なお、このシランカップリング層は、例えば上述のCVDやALDの他、ディッピング等を利用することにより形成可能である。
【0051】
一方、偏光板1の側面には、撥水層が形成されていない。より詳しくは、偏光板1の側面には、撥水層が形成されておらず、透明基板2が露出している。そのため、偏光板1の側面は、親水性を有する。ここで、偏光板1の側面とは、偏光板1の厚み方向に延びる面を意味し、偏光板1の外周端部の側面を構成する。
【0052】
上述のように偏光板1の側面に撥水層等の被覆層が形成されていないことにより、例えば光学機器への取付作業時に、従来の偏光板のような保護膜の脱落を回避でき、偏光板の取り扱いを容易化できる。なお、偏光板1の側面は透明基板2が露出している状態であるが、偏光板1の側面は外周端部に位置するため、使用時であっても光が入出射する偏光板1の中央部に比してさほど高温にはならず、酸化や腐食の問題は生じ難いと言える。
【0053】
また、偏光板1の側面には、識別用のマーキングが施されている。具体的には、レーザーマーキングやマーキングペン、ダイヤモンドカッター等を用いて製品情報が印字されている。上述したように、本実施形態に係る偏光板1は、その側面には撥水層4が形成されておらず透明基板2が露出しているため、側面が親水性を有するところ、マーキングペン等によるインクが馴染みやすく、確実にマーキングできる。また、側面を被覆する層が形成されていないため、レーザーマーキングやダイヤモンドカッター等による印字の際に、従来のように保護膜等が剥がれてダストの原因となることもない。従って、本実施形態によれば、マーキングを確実にでき、偏光板1の識別が容易且つ確実に可能である。
【0054】
[偏光板1の製造方法]
(第1の製造方法)
上述の偏光板1の第1の製造方法は、格子状凸部形成工程と、撥水層形成工程と、切断工程と、を有する。以下、各工程について、図3A図3Cを参照して詳しく説明する。
ここで、図3A図3Cは、本実施形態に係る偏光板1の製造方法を説明するための図である。
【0055】
先ず、格子状凸部形成工程では、偏光板1の使用サイズよりも大きい透明基板2の一方の面側において、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで所定方向に延在する格子状凸部3を形成する。即ち、第1の製造方法では、偏光板1の使用サイズよりも大きい大判の透明基板2上に格子状凸部3を形成する。
【0056】
格子状凸部形成工程は、例えば、反射層形成工程と、誘電体層形成工程と、吸収層形成工程と、エッチング工程と、を有する。なお、上述したように、誘電体層形成工程と吸収層形成工程を統合して誘電体層と吸収層とを一体形成してもよい。
【0057】
反射層形成工程では、透明基板2上に、反射層を形成する。誘電体層形成工程では、反射層形成工程で形成された反射層上に、誘電体層を形成する。吸収層形成工程では、誘電体層形成工程で形成された誘電体層上に、吸収層を形成する。これらの各層形成工程では、例えばスパッタ法や蒸着法により、各層を形成可能である。
【0058】
エッチング工程では、上述の各層形成工程を経て形成された積層体を選択的にエッチングすることにより、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで透明基板2上に配列される格子状凸部3を形成する。具体的には、例えばフォトリソグラフィ法やナノインプリント法により、一次元格子状のマスクパターンを形成する。そして、上記積層体を選択的にエッチングすることにより、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで透明基板2上に配列される格子状凸部3を形成する。エッチング方法としては、例えば、エッチング対象に対応したエッチングガスを用いたドライエッチング法が挙げられる。
【0059】
撥水層形成工程では、図3Aに示すように、格子状凸部3が形成された大判の透明基板100Aの一方の面を覆うように撥水層4を形成する。撥水層形成工程は、例えば、シリカ層形成工程と、シランカップリング層形成工程と、を有する。
【0060】
シリカ層形成工程では、格子状凸部3が形成された大判の透明基板100Aの一方の面を覆うように、シリカからなるシリカ層を形成する。具体的には、例えば上述のCVDやALDを利用することにより、シリカ層を形成する。このとき、シリカ層の成形方法上、透明基板100Aの一方の面のみならず、他方の面も含めた全体を覆うようにシリカ層が形成される。
【0061】
シランカップリング層形成工程では、図3Aに示すように、シリカ層形成工程により形成されたシリカ層の表面に、シランカップリング剤9からなるシランカップリング層を形成する。具体的には、例えば上述のCVDやALDの他、ディッピング等を利用することにより、シランカップリング層を形成する。このとき、シランカップリング層の成形方法上、透明基板100Aの一方の面のみならず、他方の面も含めた全体を覆うようにシランカップリング層が形成される。
【0062】
切断工程では、図3Bに示すように、撥水層4が形成された大判の透明基板100Bを、偏光板1の使用サイズに切断する。具体的には、先ず、例えばスクライバー8を用いたスクライブ加工等により、透明基板100Bの表面に分断用の溝(クラック)を形成する。次いで、形成された分断用の溝に沿って、透明基板100Bを個片に分断(ブレーク)することで、所望のサイズとする。
【0063】
上述したように第1の製造方法では、大判の透明基板を使用するため、本工程により液晶パネル等のサイズに適した所望の大きさに透明基板100Bを切断する。このとき、撥水層4が形成された透明基板100Bを切断するため、切断されて得られた偏光板1の側面には、撥水層が存在せずに透明基板が露出した状態となる。
以上により、図3Cに示すような所望のサイズからなり、側面において透明基板が露出した偏光板1が製造される。
【0064】
(第2の製造方法)
上述の偏光板1の第2の製造方法は、格子状凸部形成工程と、撥水層形成工程と、除去工程と、を有する。以下、各工程について詳しく説明する。
【0065】
格子状凸部形成工程では、偏光板1の使用サイズと同等の大きさの透明基板の一方の面側において、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで所定方向に延在する格子状凸部3を形成する。即ち、第2の製造方法では、偏光板1の使用サイズと同等サイズの小さい小判の透明基板上に格子状凸部3を形成する。なお、格子状凸部3の形成手順自体は第1の製造方法と同様であり、例えば、反射層形成工程と、誘電体層形成工程と、吸収層形成工程と、エッチング工程と、により、格子状凸部3が形成される。
【0066】
撥水層形成工程では、格子状凸部3が形成された小判の透明基板の一方の面を覆うように撥水層4を形成する。この撥水層形成工程は、第1の製造方法における撥水層形成工程と同様である。このとき、撥水層4の成形方法上、透明基板の一方の面のみならず、他方の面も含めた全体を覆うように撥水層4が形成される。
【0067】
除去工程では、透明基板の側面に形成された撥水層4を、エッチングにより除去する。上述したように第2の製造方法では、偏光板1の使用サイズと同等サイズの小さい小判の透明基板を使用するため、第1の製造方法のような切断工程が不要である。また上述したように偏光板1の側面にも撥水層4が形成されてしまうところ、本工程により、偏光板1の側面に形成された撥水層4を除去する。具体的には、所望のエッチング等により、側面の撥水層4を除去する。
以上により、側面において透明基板が露出した偏光板1が製造される。
【0068】
[光学機器]
本実施形態に係る光学機器は、上述の偏光板1を備える。光学機器としては、液晶プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイ、デジタルカメラ等が挙げられる。本実施形態に係る偏光板1は、有機偏光板に比べて耐熱性に優れる無機偏光板であるため、耐熱性が要求される液晶プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイ等の用途に好適である。
【0069】
例えば、偏光板1は、液晶プロジェクタ等の光学機器の内部に設けられた取付枠(固定枠)に対して、縦置きの状態で、その側面に取付枠が当接するようにして嵌め込まれる。そして、例えば取付枠と偏光板1の側面との間に接着剤が供給され、これにより、偏光板1は取付枠に固着される。このとき、本実施形態に係る偏光板1の側面は、透明基板2が露出して親水性を有することから、接着剤に馴染み易く高い接着強度が得られ、取付枠に対して強固に固着できる。また、側面に撥水層が存在しないため、グリッドの毛細管現象によって接着剤が偏光板1の中央へ流れ込むのを防止でき、接着作業の作業性向上によって光学機器の生産性を向上できる。
【0070】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形及び改良は本発明に含まれる。
【0071】
上記実施形態では、偏光板1が吸収型の偏光板であり、格子状凸部3が反射層、誘電体層、吸収層の積層体で構成されているが、これに限定されない。例えば、誘電体層と吸収層が一体化されていてもよい。あるいは、格子状凸部が反射層で構成され、偏光板1が反射型の偏光板であってもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、偏光板1の他方の面(格子状凸部3が形成された面とは反対側の面)にも撥水層4が形成されているが、これに限定されない。撥水層4は、偏光板1の少なくとも一方の面(格子状凸部3が形成された面)に形成されていればよい。
【0073】
また、上記実施形態では、隣接する格子状凸部3間の各溝内を含め、偏光板1の一方の面全体を覆うように撥水層4が形成されているが、これに限定されない。撥水層4は、少なくとも格子状凸部3の表面を覆うように配置されていればよい。
【符号の説明】
【0074】
1 偏光板
2 透明基板
3 格子状凸部
4 撥水層
図1
図2
図3A
図3B
図3C