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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】炭化水素油用流動接触分解触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/06 20060101AFI20220328BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20220328BHJP
   C10G 11/05 20060101ALI20220328BHJP
   C10G 11/18 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
B01J29/06 M
B01J35/10 301A
C10G11/05
C10G11/18
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018160549
(22)【出願日】2018-08-29
(65)【公開番号】P2020032352
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】特許業務法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 隆喜
(72)【発明者】
【氏名】三津井 知宏
(72)【発明者】
【氏名】田中 千鈴
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-087204(JP,A)
【文献】特開平09-000934(JP,A)
【文献】特表2016-527076(JP,A)
【文献】特開平11-000564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C10G 11/05
C10G 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライトとアルミナバインダーとを含む炭化水素油用流動接触分解触媒であって、
(a)擬平衡化を施した後の細孔分布において、細孔径が4nm以上50nm以下である細孔容積(PV1)の、細孔径が50nmより大きい細孔容積(PV2)に対する割合(PV1/PV2)が0.8以上1.5以下であり、かつ
(b)ルイス酸量(L酸量)が35μmol/g以上であって、そのルイス酸量とブレンステッド酸量(B酸量)との割合(B酸量/L酸量)が0.2以上であることを特徴とする炭化水素油用流動接触分解触媒。
【請求項2】
前記細孔分布は、さらに、細孔径が4nmより大きい細孔容積(PV3)と、細孔径が30nm以上100nm以下の細孔容積(PV4)との割合(PV4/PV3)が0.20以上であることを特徴とする請求項1に記載の炭化水素油用流動接触分解触媒。
【請求項3】
前記触媒は、触媒組成基準で、前記ゼオライトを15~60質量%、前記アルミナバインダーを5~30質量%含有していることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化水素油用流動接触分解触媒。
【請求項4】
前記アルミナバインダーは、下記(a)~(c)から選ばれるいずれか少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項3に記載の炭化水素油用流動接触分解触媒。
(a)塩基性塩化アルミニウム。
(b)重リン酸アルミニウム。
(c)アルミナゾル。
【請求項5】
前記ゼオライトは、FAU型(フォージャサイト型)、MFI型、CHA型、およびMOR型のいずれか1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の炭化水素油用流動接触分解触媒。
【請求項6】
前記FAU型のゼオライトは、水素型Y型ゼオライト(HY)、超安定化Y型ゼオライト(USY)、レアアース交換Y型ゼオライト(REY)、およびレアアース交換超安定化Y型ゼオライト(REUSY)のいずれかであることを特徴とする請求項5記載の炭化水素油用流動接触分解触媒。
【請求項7】
前記触媒は、粘土鉱物を含むことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の炭化水素油用流動接触分解触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリンや中間留分(LCO)の収率を高く維持しつつ、重質留分の低減に特に有効な炭化水素油の流動接触分解触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、炭化水素油の接触分解に用いられる接触分解用触媒は、固体酸であるゼオライトを含んでいる。かかる接触分解用触媒としては、常圧蒸留残油などの重質炭化水素油に対する分解能力(「ボトム分解能」ともいう)が高いこと、あるいは、触媒表面に析出するコークの析出量が少ないことなど、種々の観点で高い性能を発揮できるものが求められている。一方で、この接触分解用触媒については、ボトム分解能を向上させるためにゼオライトの含有割合を増加させると、耐摩耗性が低下したり、コークの析出量が増加したりするなどの問題がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、残油(ボトム)分解活性流動接触分解用触媒として、ゼオライトとケイ素系酸化物とアルミナバインダーとを含み、(a)マクロ孔の細孔容積に対するメソ孔の細孔容積の割合を規定し、(b)細孔容積を0.25~0.35ml/gの範囲内に規定し、さらに、(c)水蒸気処理した触媒について、全固体酸量および全固体酸量に対する吸着熱が特定の範囲内の固体酸量の割合を規定した残油分解活性流動接触分解用触媒が開示されている。
【0004】
また、特許文献2および3には、石油原料をより低沸点の生成物に転化するための流動接触分解方法に用いられる触媒として、その触媒成分にルイス酸性を高める化合物を添加した結晶性微孔質酸化物触媒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-87204号公報
【文献】特表2004-507347号公報
【文献】特表2004-507608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の前記流動接触分解触媒は、実際には、低重質留分を十分に達成し、かつ、ガソリンや中間留分(軽油や灯油:LCO)を高収率で得る触媒になっていないのが実情である。
【0007】
そこで、本発明は、従来材が抱えている前述した事情を考慮して開発したものであって、ガソリンや中間留分(LCO)の収率を高く維持しつつ、重質留分の低減に特に有効な炭化水素油の流動接触分解触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような技術的背景のもと、発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の細孔分布(細孔径―細孔容積分布)を持ち、特定の種および量の固体酸を有する流動接触分解触媒では高い重質油分解能を示すことを見出した。
【0009】
前記課題を解決し上記の目的を実現するため開発した本発明は、下記のとおりのものである。すなわち、本発明は、ゼオライトとアルミナバインダーとを含む炭化水素油用流動接触分解触媒であって、
(a)擬平衡化を施した後の細孔分布において、細孔径が4nm以上50nm以下である細孔容積(PV1)の、細孔径が50nmより大きい細孔容積(PV2)に対する割合(PV1/PV2)が0.8以上1.5以下であり、かつ
(b)ルイス酸量(L酸量)が35μmol/g以上であって、そのルイス酸量とブレンステッド酸量(B酸量)との割合(B酸量/L酸量)が0.2以上であることを特徴とする炭化水素油用流動接触分解触媒である。
【0010】
なお、本発明に係る上記流動接触分解触媒については、
(1)前記細孔分布は、さらに、細孔径が4nmより大きい細孔容積(PV3)と、細孔径が30nm以上100nm以下の細孔容積(PV4)との割合(PV4/PV3)が0.20以上であること、
(2)前記触媒は、触媒組成基準で、前記ゼオライトを15~60質量%、前記アルミナバインダーを5~30質量%含有していること、
(3)前記アルミナバインダーは、下記(a)~(c)から選ばれるいずれか少なくとも1種を含むこと、(a)塩基性塩化アルミニウム、(b)重リン酸アルミニウム、(c)アルミナゾル、
(4)前記ゼオライトは、FAU型(フォージャサイト型)、MFI型、CHA型、およびMOR型のいずれか1種又は2種以上であること、
(5)前記FAU型のゼオライトは、水素型Y型ゼオライト(HY)、超安定化Y型ゼオライト(USY)、レアアース交換Y型ゼオライト(REY)、およびレアアース交換超安定化Y型ゼオライト(REUSY)のいずれかであること、
(6)前記触媒は、粘土鉱物を含むこと、
などがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、適切な細孔分布を有すると共に、適切な固体酸量、比率を有する流動接触分解触媒とすることにより、液体であるガソリンの収率やLCOの収率を高く維持しつつ、特に重質留分を低減することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明触媒の細孔径-ログ微分細孔容積dVp/dlogd分布の一例を示す図である。
図2】本発明触媒の細孔径-細孔容積分布(PV1/PV2)が炭化水素油の分解に与える影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は重質留分(ボトム)の分解性能に優れた炭化水素油用流動接触分解触媒(以下、「本発明触媒」という)であり、以下に本発明触媒について、説明する。
【0014】
本発明触媒は、ゼオライトとアルミナバインダーとを含む炭化水素油用流動接触分解触媒である。
【0015】
<ゼオライト>
本発明触媒は、基本的にゼオライト(結晶性アルミナシリケート)を含有するものである。このゼオライトは、接触分解プロセス、特に流動接触分解プロセスにて炭化水素油に対する接触分解活性を持つゼオライトであれば、特段の限定はない。例えば、FAU型(フォージャサイト型。例えば、Y型ゼオライト、X型ゼオライト等)、MFI型(例えば、ZSM-5、TS-1等)、CHA型(例えば、チャバサイト、SAPO-34等)、およびMOR型(例えば、モルデナイト、Ca-Q等)のいずれか1又は2以上であり、特にFAU型が好適である。なお、フォージャサイト型のゼオライトとしては、水素型Y型ゼオライト(HY)、超安定化Y型ゼオライト(USY)や、HYおよびUSYにそれぞれ希土類金属をイオン交換等により担持させたレアアース交換Y型ゼオライト(REY)、あるいはレアアース交換超安定化Y型ゼオライト(REUSY)が例示される。
【0016】
<アルミナバインダー>
本発明触媒は、基本的にアルミナバインダーを含有するものである。このアルミナバインダーの原料としては、例えば塩基性塩化アルミニウム([Al(OH)Cl6-n(但し、0<n<6、m≦10))を用いられる。その他、重リン酸アルミニウム溶液やジブサイト、バイアライト、ベーマイト、ベントナイト、結晶性アルミナなどを酸溶液中に溶解させた粒子、ベーマイトゲル、無定形のアルミナゲルを水溶液中に分散させた粒子、あるいはアルミナゾルも使用することができる。これらは単独もしくは混合して、または複合して用いることができる。なお、塩基性塩化アルミニウムは、ゼオライトなどに含まれるアルミニウムやナトリウム、カリウムなどのカチオンの存在下で200~450℃程度の比較的低温で分解する。その結果、該塩基性塩化アルミニウムの一部は分解して、水酸化アルミニウムなどの分解物が存在するサイトがゼオライトの近傍に形成されるものと考えられる。さらに分解した塩基性塩化アルミニウムというのは、300~600℃の範囲の温度で焼成すると、アルミナバインダー(アルミナ)を形成する。このとき、ゼオライト近傍の分解物が焼成されてアルミナバインダーになる際に、細孔径が4nm以上、50nm以下の範囲のメソ孔が比較的多く形成され、本発明触媒の比表面積の増大に寄与すると推定される。一方で、このとき、細孔径が50nmより大きく1000nm以下の範囲にある、耐摩耗性を低下させる要因となるマクロ孔の形成を抑えることも確認している。
【0017】
本発明触媒において、前記アルミナバインダーは、マトリックス成分中のアルミナとして検出される。したがって、アルミナバインダーは、マトリックス成分の一部を構成すると共に、ゼオライトとマトリックス成分を結合する目的で添加することが好ましい。
【0018】
<添加物>
前述のゼオライト、アルミナバインダーに加え、本発明触媒は、マトリックス成分の原料として、種々の添加物を添加することができる。その添加物としては、活性マトリックス成分、粘土鉱物、メタルトラップ剤などを用いることができる。
【0019】
前記活性マトリックス成分としては、活性アルミナやシリカ-アルミナ、シリカ-マグネシア、アルミナ-マグネシア、シリカ-マグネシア-アルミナなどの固体酸を有する物質を含むものを用いることが好ましい。
【0020】
前記粘土鉱物としては、カオリンやベントナイト、カオリナイト、ハロイサイト、モンモリロナイトなどを用いることが好ましい。さらに好ましくはカオリンが用いられる。
【0021】
前記メタルトラップ剤としては、アルミナ粒子やリン-アルミナ粒子、結晶性カルシウムアルミネート、セピオライト、チタン酸バリウム、スズ酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、酸化マンガン、マグネシア、マグネシア-アルミナなどを用いることが好ましい。また、該メタルトラップ剤の原料としては、酸化雰囲気で焼成することによりアルミナなどとなるベーマイトなどの前駆体物質を用いることができる。
【0022】
本発明触媒には、希土類金属(Rare Earth:RE)をイオン交換したものを含有させてもよい。その希土類金属としては、例えば、セリウム(Ce)やランタン(La)、プラセオジウム(Pr)、およびネオジム(Nd)などの使用が可能である。これらは単独ないし2種以上の金属酸化物としてもよい。なおこれらは、ゼオライトをイオン交換したものでもよく、それは希土類金属を含むことで、ゼオライトの耐水熱性が向上するからである。
【0023】
<組成比>
本発明触媒は、ゼオライト、アルミナバインダーおよび添加物由来の上述した物質を多種類含むことから、その組成を一概に特定することは困難であるが、以下に、本発明触媒の典型的な組成例を挙げる。
【0024】
前記ゼオライトは、15~60質量%が好ましい。より好ましくは20~50質量%である。さらに好ましくは20~40質量%である。その理由は、触媒に対するゼオライトの含有量が、15%未満では接触分解活性が低くなる傾向があり、また、60質量%を超えると接触分解活性が高くなりすぎてコークの析出量が多くなり、また、嵩密度が高くなると共に強度が低くなるためである。
【0025】
前記アルミナバインダー成分は、5~30質量%含有することが好ましい。より好ましくは10~25質量%である。その理由は、バインダー成分が5質量%より少ないと接触分解活性が高くなるものの、触媒のアトリッション(摩耗)強度が十分に保てない。一方、30質量%より多いと、十分な接触分解活性が得られないおそれがある。
【0026】
前記希土類金属を用いる場合、REを、10.0質量%以下、好ましくは0.5~5.0質量%となるように含有させる。ここで、触媒としては、RE/ゼオライト質量比が一定となるように、REの添加量を調整する。
【0027】
さらに、本発明触媒には、粘土鉱物を15~45質量%含有させることができる。その理由は、粘土鉱物が15質量%未満では、活性成分が多くなるため、コーク生成が過剰となり十分な性能を示さない場合があるためであり、一方、45質量%を超えると触媒中の固体酸量が少なくなりすぎて触媒活性が低下する恐れがある。また、本発明触媒がメタルトラップ剤を含む場合、その含有量は、各組成物中に0.1~10質量%、好ましくは0.1~5質量%の範囲内とする。
【0028】
<擬平衡化処理>
炭化水素油の流動接触分解触媒の性能を実験室の反応装置で評価する際には、前処理として擬平衡化と呼ばれる処理を行う。この擬平衡化処理は、流動接触分解触媒にVやNi等のメタルを担持してスチーム処理を行うことで、活性を平衡触媒と同等のレベルまで低下させる処理である。この擬平衡化の処理により、平衡触媒の性状を再現することは、より精度の高い活性評価を得るためには重要である。
【0029】
<比表面積の測定>
擬平衡化処理を施した触媒は、BET法、例えば、MOUNT ECH社製Macsorb HM model―1200を用いて、比表面積を測定する。また、マトリックス成分の比表面積は、例えば、日本ベル製ベルソープmini―II型を用いて、窒素の吸着等温線を測定し、得られた吸着側の等温線からVa-tプロットにより求める。なお、全体の比表面積からマトリックス成分の比表面積を差し引くことでゼオライト成分の比表面積を求めることができる。本発明では、触媒全体の比表面積(SA)は、100~200m/gの範囲にあることが好ましい。マトリックス成分の比表面積は45m/g以上が好ましく、さらに50m/g以上であることがより好ましい。
【0030】
<細孔径-細孔容積分布の測定>
擬平衡化処理を施した触媒は、水銀圧入法により細孔径-細孔容積分布を測定する。測定装置としては、例えば、Quanta chrome社製Pore Master-60GTを用いて、細孔径-細孔容積分布を測定する。細孔径は、水銀の表面張力480dyne/cm、接触角150°を用いて計算した値である。また、各細孔径範囲の細孔容積(PVn)は、水銀圧入法により測定した各細孔直径範囲における細孔容積の積算値である。本発明では、触媒の全細孔容積(PV)は、0.15ml/g以上、さらに好ましくは0.20~0.40ml/gの範囲にあることが好ましい。
【0031】
上記試験により測定した触媒の細孔径-細孔容積分布の一例を図1に示す。横軸に細孔径(nm)を、縦軸にログ微分細孔容積dVp/dlogdを取っている。後述する実施例に基づき、aおよびbは本発明触媒の分布を、cは比較例の触媒の分布を表す。図1によれば、本発明触媒aは細孔径5nm~300nmまで0.1ml/g以上のログ微分細孔容積分布を持っており、比較例触媒cに比べ、バランスの良い細孔径-細孔容積分布を持っているといえる。
【0032】
流動接触分解触媒の比表面積が小さすぎ、全細孔容積が小さすぎる場合には、所望の分解反応活性が得られないことがある。比表面積の増大の観点からは、径の小さい細孔が多数あることが好ましい。ただし、4nm未満の細孔径では重質油の接触分解への寄与が小さいので、4nm以上の細孔径を有することが好ましい。また、炭化水素油の接触分解においては、コーク収率を低減する反応面からは、触媒の細孔は細孔直径が10nmより大きい方が反応物の拡散性がよくなるので望ましい。一方、細孔直径が1000nmより大きい細孔は、触媒の耐摩耗性を悪くすることがあるので少ない方が望ましい。
【0033】
本発明触媒は、擬平衡化が施された後の細孔径-細孔容積分布について、細孔径が4nm以上50nm以下の範囲のメソ細孔容積(PV1)の、細孔径が50nmより大きい範囲のマクロ細孔容積(PV2)に対する割合(PV1/PV2)が0.8以上1.5以下であり、このような細孔構造をとることによって、高い重質留分の分解能をもつことになる。
その理由は前記(PV1/PV2)が0.8未満では重質留分の分解能が十分ではなく、(PV1/PV2)が高すぎるとコーク生成が増加する恐れがあるので1.5以下とする。好ましくは、(PV1/PV2)が1.0~1.3の範囲である。
【0034】
さらに、細孔径が4nmより大きい範囲の細孔容積(PV3)に対する、細孔径が30nm以上100nm以下の範囲の細孔容積(PV4)割合(PV4/PV3)が0.20以上であることが好ましい。(PV4/PV3)が0.20以上とすることで、ガソリンやLCOの収率向上が望める。
(PV4/PV3)の上限は特に定めないが、触媒に含まれる構成成分のサイズに起因するため0.50を上回ることは難しい。さらに好ましくは、(PV4/PV3)が0.20~0.30の範囲である。
【0035】
<固体酸量、L酸量、B酸量>
固体酸とは、触媒が使用される温度領域において固体酸性を示すものであり、固体酸性の確認は、アンモニアを用いた昇温脱離法や、アンモニア又はピリジンを用いる in situ FTIR(フーリエ変換赤外線吸収スペクトル)法によりなされる。固体酸は、電子対受容体であるルイス酸(L酸)とプロトン供与体であるブレンステッド酸(B酸)に分類される。以下の説明におけるL酸量およびB酸量の測定は、ピリジンを用いる in situ FTIR法で実施した。
【0036】
試料粉末40mgを20mmφのディスクに成型した後、真空ラインに接続されたIRセル(赤外分光分析用セル)に設置して、500℃で一時間真空排気処理を行った。前処理後、150℃に降温して、ピリジン蒸気の導入前後の試料ディスクのIR(赤外吸収)スペクトルを日本分光社製FT/IR-4600で測定した。ブレンステッド酸点とルイス酸点の定量はC.A.Emeis,J.Catal.,141,347-354(1993)に基づいて行った。
【0037】
本発明触媒は、L酸量を35μmol/g以上とする。L酸量が35μmol/g未満では、良好な重質留分分解性能が得られない。好ましくはL酸量の上限を60μmol/gとする。これ以上増やすと活性が高くなりすぎて、水素等ガス成分が増加してしまうのでガソリン等の収率が下がってしまう。より好ましくは、L酸量:40~55μmol/gの範囲である。
【0038】
また、本発明触媒は、B酸量/L酸量を0.2以上とする。B酸量/L酸量が0.2未満では、ガソリンやLCOの収率が十分ではない。好ましくは、B酸量/L酸量:0.25~0.60、さらに好ましくは0.30~0.50の範囲である。
【0039】
[接触分解用触媒の製造方法]
次に、本発明触媒の好適な製造方法について説明する。
1.調整工程
前記した塩基性塩化アルミニウム水溶液(アルミナバインダー原料の一例)を純水で希釈し、超安定化Y型ゼオライトおよび添加剤として、カオリン、活性アルミナを加えて、よく撹拌した後、塩化ランタン溶液を添加し、調合スラリーを調整する。添加物の組成は、予め、上記細孔分布、L酸量およびB酸量割合となるように把握したものを用いる。
【0040】
2.噴霧乾燥工程
上記の調合したスラリーを噴霧乾燥機の原料貯槽に充填し、200~450℃の範囲の例えば230℃に調整された気流(例えば空気)が流れる乾燥チャンバー内に原料スラリーを噴霧することにより、噴霧乾燥粒子が得られる。原料スラリーの噴霧乾燥によって前記気流の温度は低下するが、乾燥チャンバーの出口の温度は、ヒーターなどを用いて110~350℃の範囲の例えば130℃に維持される。このとき、原料スラリー中のゼオライトに含まれる骨格外アルミナ中のアルミニウム及び当該ゼオライトから遊離したナトリウムとの反応により、アルミナバインダー原料である塩基性塩化アルミニウムの分解反応が進行する。
【0041】
3.焼成工程
300~600℃の範囲の例えば400℃に調整された空気雰囲気下で前記噴霧乾燥粒子の焼成を行う。その結果、前記分解反応により分解した塩基性塩化アルミニウムの分解物がアルミナバインダーに変化する。このとき、先行する噴霧乾燥工程では、ゼオライトの表面で塩基性塩化アルミニウムの分解反応を進行させているので、ゼオライトの表面には分解反応で発生した分解物が付着する。このゼオライト表面の分解物を焼成してアルミナバインダーに変化させると、既知のメカニズムにより、接触分解用触媒となる焼成粒子の表面にメソ孔が多く形成される。また焼成粒子は、ゼオライトの表面に、接触分解活性を持つアルミナバインダーが積層された構造となる。
【0042】
4.洗浄・乾燥工程
前記焼成粒子を例えば純水中に分散させて焼成粒子スラリー液を形成し、次いで焼成粒子スラリーから水分を濾別して洗浄粒子ケーキを得る。さらに、当該洗浄粒子ケーキに純水を供給して再度の洗浄を行う。得られたケーキを120~600℃の温度範囲例えば140℃に加熱された空気中で乾燥することにより本発明触媒が得られる。得られた触媒粒子の平均粒子径は、50~100μm程度である。
【0043】
本発明に係る流動接触分解触媒によれば、重質炭化水素油の分解能力が高く、ガソリンやLCOの収率を高めることができる。
【0044】
<流動接触分解方法>
本発明に係る流動接触分解触媒を用いる流動接触分解については、通常の炭化水素油の流動接触分解条件を採用することができ、例えば、以下に述べる条件が好適である。
【0045】
接触分解に使用される原料油としては、通常の炭化水素原料油、例えば、水素化脱硫減圧蒸留軽油(DSVGO)や、減圧蒸留軽油(VGO)を用いることができる他、常圧蒸留残渣油(AR)、減圧蒸留残渣油(VR)、脱硫常圧蒸留残渣油(DSAR)、脱硫減圧蒸留残渣油(DSVR)、脱アスファルテン油(DAO)等の残渣油も使用することができ、これらの単独又は混合したものも使用できる。なお、本発明に係る流動接触分解触媒においては、ニッケルおよびバナジウムがそれぞれ0.5ppm以上含まれている残渣油も処理可能であり、原料油として残渣油を単独で用いる残渣油接触分解装置(Resid FCC。RFCC)にも使用できる。ここで、従来の流動接触分解触媒をRFCCで使用した場合には、残渣油中のニッケルおよびバナジウムが触媒に付着して活性が低下するが、本発明の流動接触分解触媒では、バナジウムおよびニッケルがそれぞれ0.5ppm以上含有している残渣油を処理しても、優れた触媒性能を保持できる。また、本発明の流動接触分解触媒は、バナジウムおよびニッケルがそれぞれ300ppm以上含有されていても触媒性能を保持できる。本発明の流動接触分解触媒に含有されるバナジウムおよびニッケルの上限は、それぞれ10000ppm程度である。
【0046】
また、前述の炭化水素原料油を接触分解する際の反応温度は470~550℃の範囲が好適に採用され、反応圧力は一般的にはおよそ1~3kg/cm2の範囲が好適であり、触媒/油の質量比(触媒/油比)は2.5~9.0の範囲が好ましく、更に接触時間は10~60hr-1の範囲が好ましい。
【実施例
【0047】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。
(実施例)
<触媒a>
a.調合工程
23.5質量%の塩基性塩化アルミニウム水溶液531.9gと純水299.3gを混合した。次いで、この混合溶液をよく攪拌しながら、カオリン(固形分濃度:84%質量)452.4g、活性アルミナ粉末(固形分濃度:81%質量)61.7g、事前に硫酸を用いてpHを3.1に調整した活性アルミナスラリー(ベーマイトゲルスラリー。固形分濃度:10質量%)1500gおよび超安定化Y型ゼオライト粉末(固形分濃度:75質量%)333.3gを順次添加した。その後、塩化ランタン溶液(La濃度:29.1質量%)を154.6g添加し、よく撹拌し、調合スラリーを得た。得られた調合スラリーは、ホモジナイザーを用いて分散処理を行い、固形分濃度が30質量%、pHが3.4であった。
【0048】
b.噴霧乾燥、焼成、洗浄、乾燥工程
調合スラリーを液滴として、入口温度が230℃、出口温度が130℃の噴霧乾燥機で噴霧乾燥を行い、平均粒子径が68μmの球状粒子を得た。この乾燥粉末は電気炉にて空気雰囲気下、400℃で1時間焼成した後、焼成品に対して質量にて10倍量の温水(60℃)に懸濁させ、脱水濾過を施した。さらに、質量で10倍量の温水(60℃)を掛水した後、ケーキを回収し、雰囲気温度140℃に保持した乾燥機にて10時間乾燥させ、触媒aを得た。
【0049】
c.擬平衡化工程
前記のようにして得られた触媒aを予め雰囲気温度600℃にて2時間焼成した。その後、ニッケルオクチル酸塩およびバナジウムオクチル酸塩をそれぞれ金属換算で1000ppm(ニッケルの質量を触媒の質量で除算している)および2000ppm(バナジウムの質量を触媒の質量で除算している)の量で、焼成した触媒粒子に沈着させた。次いで、触媒aを雰囲気温度110℃で乾燥した後、雰囲気温度600℃で1.5時間焼成し、その後、触媒aに雰囲気温度780℃で13時間のスチーム処理を施し、触媒aの擬平衡化処理品を得た。
【0050】
d.細孔径-細孔容積分布の測定
擬平衡化を施した触媒aについて、前述の水銀圧入法による細孔径-細孔容積分布測定を行った。擬平衡化を施した触媒aは測定前に空気雰囲気下、600℃で1時間焼成した。全細孔容積は0.31ml/gであり、細孔径が4nm以上50nm以下の範囲のメソ細孔容積(PV1)の、細孔径が50nmより大きい範囲のマクロ細孔容積(PV2)に対する割合はPV1/PV2=1.14であった。また、細孔径が4nmより大きい範囲の細孔容積(PV3)に対する、細孔径が50nm以上100nm以下の範囲の細孔容積(PV4)割合は、PV4/PV3=0.25であった。擬平衡化を施した触媒aの細孔径[nm]に対するログ微分細孔容積dV/dlogdの分布を図1に示す。
【0051】
e.比表面積
擬平衡化した触媒aについて、前述の比表面積測定を行ったところ160m/gであった。マトリックス成分の表面積は87m/gであり、計算されるゼオライト成分の比表面積は73m/gであった。
【0052】
f.L酸量、B酸量[測定は擬平衡化した触媒でしょうか、それとも擬平衡化しない触媒でしょうか]
触媒aについて、前述のピリジンを用いる in situ FTIR法によりL酸量およびB酸量割合を求めた。L酸量が49μmol/g、B酸量/L酸量が0.32であった。
【0053】
<触媒b>
a.調合工程
23.5質量%の塩基性塩化アルミニウム水溶液531.9gと純水1138.0gを混合した。次いで、この混合溶液をよく攪拌しながら、カオリン(固形分濃度:84%質量)452.4g、活性アルミナ粉末(固形分濃度:81%質量)246.9gおよび超安定化Y型ゼオライト粉末(固形分濃度:75質量%)333.3gを順次添加した。その後、塩化ランタン溶液(La濃度:29.1質量%)を154.6g添加し、よく撹拌し、調合スラリーを得た。得られた調合スラリーは、ホモジナイザーを用いて分散処理した結果、固形分濃度は35質量%、pHは3.8であった。
【0054】
b.噴霧乾燥、焼成、洗浄、乾燥工程
前記のようにして得られた調合スラリーを液滴として、入口温度が230℃、出口温度が130℃の噴霧乾燥機で噴霧乾燥を行い、平均粒子径が70μmの球状粒子を得た。この乾燥粉末は電気炉にて空気雰囲気下、400℃で1時間焼成した後、焼成品に対して質量にて10倍量の温水(60℃)に懸濁させ、脱水濾過を施した。さらに、質量で10倍量の温水(60℃)を掛水した後、ケーキを回収し、雰囲気温度140℃に保持した乾燥機にて10時間乾燥させて、触媒bを得た。
【0055】
c.擬平衡化工程
得られた触媒bは、触媒aと同様の条件で擬平衡化処理を施した。
【0056】
d.細孔径-細孔容積分布の測定
擬平衡化を施した触媒bについて、触媒aと同様に、前述の水銀圧入法による細孔径-細孔容積分布測定を行った。全細孔容積は0.39ml/gであり、細孔径が4nm以上50nm以下の範囲のメソ細孔容積(PV1)の、細孔径が50nmより大きい範囲のマクロ細孔容積(PV2)に対する割合はPV1/PV2=1.53であった。また、細孔径が4nmより大きい範囲の細孔容積(PV3)に対する、細孔径が30nm以上100nm以下の範囲の細孔容積(PV4)割合は、PV4/PV3=0.11であった。擬平衡化を施した触媒bの細孔径[nm]に対するログ微分細孔容積dV/dlogdの分布を図1に示す。
【0057】
e.比表面積
擬平衡化した触媒bについて、前述の比表面積測定を行ったところ166m/gであった。マトリックス成分の表面積は90m/gであり、計算されるゼオライト成分の比表面積は76m/gであった。
【0058】
f.L酸量、B酸量
触媒bについて、前述のピリジンを用いる in situ FTIR法によりL酸量およびB酸量割合を求めた。L酸量が48μmol/g、B酸量/L酸量が0.29であった。
【0059】
(比較例)
<触媒c>
a.調合工程
水ガラス(SiO濃度:17質量%)2941gと硫酸(硫酸濃度:25質量%)1059gを同時に連続的に加えて、SiO濃度が12.5質量%のシリカゾル(シリカ系バインダーの一例)4000gを調整した。このシリカゾルにカオリン(固形分濃度:84%質量)893g、活性アルミナ粉末(固形分:81%質量)556gを加え、さらに、硫酸にてpHを3.9に調整した超安定化Y型ゼオライトスラリー(固形分濃度:33%質量)を2424g加えて混合スラリーを調整した。
【0060】
b.噴霧乾燥、洗浄、乾燥工程
前記混合スラリーを液滴として、入口温度が230℃、出口温度が130℃の噴霧乾燥機で噴霧乾燥し、平均粒径が70μmの球状粒子を得た。得られた噴霧乾燥粒子を質量で10倍量の温水(60℃)に懸濁し、脱水濾過した。次いで、質量で10倍量の温水(60℃)を掛水した後、さらに懸濁し、希土類金属(RE)塩化物の水溶液(セリウムおよびランタンの塩化物を含む)と接触させて、REとして2.1質量%となるようにイオン交換処理した。その後、触媒粒子を雰囲気135℃の乾燥機で乾燥して、触媒cを得た。
【0061】
c.擬平衡化工程
得られた触媒cは、触媒aと同様の条件で擬平衡化処理を施した。
【0062】
d.細孔径-細孔容積分布の測定
擬平衡化を施した触媒cについて、触媒aと同様に、前述の水銀圧入法による細孔径-細孔容積分布測定を行った。全細孔容積は0.28ml/gであった。細孔径が4nm以上50nm以下の範囲のメソ細孔容積(PV1)の、細孔径が50nmより大きい範囲のマクロ細孔容積(PV2)に対する割合はPV1/PV2=0.56であった。擬平衡化を施した触媒cの細孔径[nm]に対するログ微分細孔容積dV/dlogdの分布を図1に示す。
【0063】
e.比表面積
擬平衡化した触媒cについて、前述の比表面積測定を行ったところ169m/gであった。また、マトリックス成分の表面積は48m/gであり、ゼオライト成分の比表面積は121m/gであった。
【0064】
f.L酸量、B酸量
触媒cについて、前述のピリジンを用いる in situ FTIR法によりL酸量およびB酸量割合を求めた。L酸量が22μmol/g、B酸量/L酸量が0.45であった。
【0065】
[触媒活性評価試験]
<性能評価試験>
前記した実施例、比較例に係る各触媒について、ACE-MAT(Advanced Cracking Evaluation-Micro Activity Test)を用い、同一原油、同一反応条件下で触媒の性能評価試験を行った。ただし、評価にあたって、すべて、前記の擬平衡化処理を施したものを用いた。
性能評価試験における運転条件は以下の通りである。
反応温度:520℃
再生温度:700℃
原料油:脱硫常圧残渣油(DSAR)50%:水素化脱硫減圧蒸留軽油(DSVGO)50%
触媒/油比:3.75,5.0
但し、
・転化率(質量%)=(A-B)/A×100
A:原料油の重量
B:生成油中の216℃以上の留分の重量
・水素(質量%)=C/A×100
C:生成ガス中の水素の重量
・C1+C2(質量%)=D/A×100
D:生成ガス中のC1(メタン)、C2(エタン、エチレン)の重量
・LPG(液化石油ガス、質量%)=E/A×100
E:生成ガス中のプロパン、プロピレン、ブタン、ブチレンの重量
・ガソリン(質量%)=F/A×100
F:生成油中のガソリン(沸点範囲:C5~216℃)の重量
・LCO(質量%)=G/A×100
G:生成油中のライトサイクルオイル(沸点範囲:216~343℃)の重量
・HCO(質量%)=H/A×100
H:生成油中のヘビーサイクルオイル(沸点範囲:343℃以上)の重量
・コーク(質量%)=I/A×100
I:触媒上に析出したコーク重量
【0066】
上記で調整した本発明触媒aおよびbならびに比較触媒cについて、触媒活性評価試験の結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
表1の結果によれば、実施例aおよびbのように(PV1/PV2)が0.8以上であれば、HCO収率が低い、つまり、重質油の分解性能に優れていることがわかる。一方、比較例cのように(PV1/PV2)が0.8未満であればHCO収率が高くなり、重質油の分解性能が劣っている。横軸に(PV1/PV2)を縦軸にHCO収率を取って、表1の結果を図2に示す。また、実施例は、LPG、ガソリン、LCOの収率が比較例とほぼ同等である。
【0068】
触媒aは、重質油の分解性能が同等の触媒bと比較し、ガソリン収率およびLCO収率がやや優れていることがわかる。
【0069】
以上説明したように、本発明によれば、軽質液体油であるガソリンの収率やLCOの収率を高く維持しつつ、特に重質留分を低減することができる。
図1
図2