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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】水銀を含むカーボン含有飛灰の処理方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/70 20220101AFI20220328BHJP
【FI】
B09B3/00 304G
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018176238
(22)【出願日】2018-09-20
(65)【公開番号】P2020044513
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2020-10-12
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 浩士
(72)【発明者】
【氏名】寺田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】河合 功治
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-272591(JP,A)
【文献】特開2018-015677(JP,A)
【文献】特開2006-095409(JP,A)
【文献】特開2003-245633(JP,A)
【文献】特開2017-127830(JP,A)
【文献】特開2018-065063(JP,A)
【文献】特開2003-117521(JP,A)
【文献】特開2008-272557(JP,A)
【文献】特開2006-136805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン含有量が7質量%以上であり、かつ、水銀を含むカーボン含有飛灰の処理方法であって、
硫酸バンドを含有する薬剤を使用せず、
ピペラジン系またはポリアミン系の化合物のうちのいずれかからなるジチオカルバミン酸塩を主成分とする薬剤と、前記カーボン含有飛灰に対して25質量%以上150質量%以下の水を前記カーボン含有飛灰と共に混練した処理灰を、温度0℃超80℃未満、湿度10%以上で静置または撹拌する後処理を4日以上行って、水銀の溶出を安定的に抑制する、カーボン含有飛灰の処理方法。
【請求項2】
カーボン含有量が7質量%以上であり、かつ、水銀を含むカーボン含有飛灰の処理方法であって、
硫酸バンドを含有する薬剤を使用せず、
ジエチルジチオカルバミン酸塩を主成分とする薬剤と、前記カーボン含有飛灰に対して25質量%以上150質量%以下の水を前記カーボン含有飛灰と共に混練した処理灰を、温度0℃超80℃未満、湿度10%以上で静置または撹拌する後処理を30日以上行って、水銀の溶出を安定的に抑制する、カーボン含有飛灰の処理方法。
【請求項3】
混練後に湿度30%以上で後処理する、請求項1または2に記載のカーボン含有飛灰の処理方法。
【請求項4】
混練後に温度25℃以上60℃以下で後処理する、請求項1~3のいずれか一項に記載のカーボン含有飛灰の処理方法。
【請求項5】
ジチオカルバミン酸塩がピペラジン系の化合物であり、混練後に30日以上後処理する、請求項1に記載のカーボン含有飛灰の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水銀を含むカーボン含有飛灰の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ごみや産業廃棄物等の焼却処理の際に発生する飛灰中には、水銀等の人体に有害な重金属が多量に含有されている場合がある。家庭ごみの分別回収が進んでいるが、乾電池、体温計、蛍光灯等の混入は完全には避けられず、焼却施設において焼却した際に発生する飛灰中には水銀等の重金属が含有され、この重金属が地下水、河川、海水に溶出すると重大な環境汚染を生じることが問題となっている。
【0003】
水銀および水銀化合物の人為的な排出から人の健康および環境を保護することを目的として、2013年には水銀に関する水俣条約の採択・署名が行われ、2017年に発効し、大気、土壌および水への水銀排出を規制する気運が高まっている。
【0004】
焼却飛灰は、特別管理一般廃棄物であり、薬剤処理等の中間処理が義務付けられている。焼却飛灰は重金属を含有しており、埋め立て処理を行った後に、雨水等によって重金属が溶出してしまうため、固定化して溶出を抑制する方法が一般的に用いられている。
【0005】
薬剤処理による方法は、薬剤と水と焼却飛灰を混練し、有害な重金属を固定化する方法である。この目的で用いられる薬剤としては、ジチオカルバミン酸塩等の有機キレート剤や、鉄化合物等の無機系薬剤がある。水銀を対象とする飛灰固定化処理の薬剤として、トリアゾール化合物も提案されている(特許文献1)。 焼却場において、ダイオキシン対策として、ごみ焼却施設のろ過式集じん器の入口に活性炭を吹き込むことも行われている(特許文献2)が、近年、活性炭を吹き込む技術は、飛灰中の水銀を固定化し、排ガス中に含まれる水銀を低減する側面からも検討されている(特許文献3)。
【0006】
このような活性炭を含む飛灰など、カーボンを含有する飛灰は、カーボンの多孔質構造による重金属の吸着と再溶出や、水と混合した際における挙動において、従来の飛灰とは異なる特性を持ち、従来の有機キレート剤をそのまま適用しても水銀の溶出を安定して抑制することが困難である。そのため、活性炭等のカーボンを含有する飛灰の特性を考慮し、有機キレート剤によって水銀の溶出を安定的に抑制できる新たな技術が望まれていた。
【0007】
特に、カーボン含有飛灰は、その多孔質構造による重金属の吸着と再溶出の性質を考慮すると、一般的な飛灰処理条件と同量の水分量では水銀が良好に固定化されない虞があったり、薬剤と水と飛灰を混練した後、処理灰が周囲の温度や湿度の変化、風雨に曝される場所に保管された場合、水銀が良好に固定化されない虞があり、ごみ焼却施設において検査のために行われる溶出試験や、ごみ焼却施設から搬出され埋め立て処理された後に、水銀の溶出を安定的に抑制できない懸念がある。また特許文献4、5には、薬剤と水と焼却飛灰を混練した後、高温で養生することで重金属の溶出を抑制する技術が提案されているが、温度を室温から上昇させるための設備や管理等を要し、このような特別な条件を付加することなく水銀の固定化を行えることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-193039号公報
【文献】特開2003-1221号公報
【文献】特開2004-160306号公報
【文献】特開2006-150339号公報
【文献】特開2005-118617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、カーボン含有飛灰からの水銀の溶出を安定的に抑制できる処理方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明のカーボン含有飛灰の処理方法は、水銀を含むカーボン含有飛灰の処理方法であって、ジチオカルバミン酸塩と、前記カーボン含有飛灰に対して20質量%以上150質量%以下の水を前記カーボン含有飛灰と共に混練した処理灰を、温度0℃超80℃未満、湿度10%以上で後処理して水銀の溶出を安定的に抑制することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カーボン含有飛灰からの水銀の溶出を安定的に抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の対象となる飛灰は、特に限定されないが、例えば、都市ごみ、産業廃棄物、下水汚泥等を焼却炉で焼却した際に、燃焼排ガスに同伴して発生する焼却飛灰、焼却灰や飛灰を溶融炉で溶融する際に発生する溶融飛灰、金属の精錬電気炉から発生する電気炉ダスト等が挙げられる。これらは焼却施設において、隔壁式のバグフィルタ、流通式の電気集塵機やサイクロン等で捕集される。
【0014】
本発明において「カーボン含有飛灰」とは、焼却施設で生じるカーボンを含む飛灰であり、カーボンの由来は特に限定されるものではないが、例えば、焼却施設において吹き込む活性炭、未燃炭等の吸着能を持つ炭素物質等が包含される。カーボン含有飛灰には、例えば、カーボンを飛灰全量に対して1質量%以上含有する飛灰が包含され、カーボンの含有量は、3質量%以上であってよく、更に7質量%以上であってよく、特に9質量%以上であってよい。
【0015】
本発明は、ジチオカルバミン酸塩および水と混練直後の処理灰の水銀溶出量が0.0005mg/L超の飛灰であると、その効果が一層顕著となる。
【0016】
本発明においてカーボン含有飛灰からの水銀の溶出を安定的に抑制する作用は、これに限定されることを意図しないが、水銀溶出の原因と固定化のメカニズムから次のように考察される。
(1)水銀の形態
飛灰中の水銀は、Hg、Hg2+(HgCl、HgO)、Hg(HgCl)、Hg(OH)(コロイド状)、HgCl・HgO(複塩)等の形態で存在している。これらのうちHg2+はジチオカルバミン酸塩で固定化が可能である。その他(0価、1価、複塩)はジチオカルバミン酸塩では固定化できず、活性炭等への吸着や灰の固化により固定化する。しかし、吸着等では環境の変化などによって再溶出する虞がある。本発明では、混練後の経時変化により0価、1価の水銀は酸化して2価の水銀となるため、ジチオカルバミン酸基の存在下で固定化されると考えられる。また、複塩の水銀は、炭素表面のカルボキシル基と飛灰中のカルシウムの結合や、表面に吸着した炭酸カルシウムが水酸化物となることで吸着している水銀も安定化する。
(2)炭素表面構造や吸着物質
飛灰に含まれる炭素や活性炭表面は、カルボキシル基や、炭酸カルシウムが吸着している。活性炭表面のカルボキシル基と反応している水銀は、経時で灰中のカルシウム等とイオン交換し再溶出する虞がある。しかしジチオカルバミン酸基の存在下では再溶出する水銀はジチオカルバミン酸基と反応することにより、再溶出する水銀は固定化される。
【0017】
本発明に使用されるジチオカルバミン酸塩としては、一般的な製造方法で得られる化合物が使用でき、例えば、塩基存在下でアミン類に二硫化炭素を反応させ、アミン類の窒素にジチオ酸塩を導入して得られる化合物が挙げられる。
【0018】
本発明では、例えば、次のアミン類を用いることができる。
(アルキル系)
アルキル系のアミン類としては、例えば、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン等が挙げられる。
モノアルキルアミンとしては、例えば、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノプロピルアミン、モノイソプロピルアミン、モノブチルアミン、モノイソブチルアミン、アミルアミン、2-エチルヘキシルアミン等が挙げられる。
ジアルキルアミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、エチルメチルアミン、メチルプロピルアミン、イソプロピルメチルアミン、ブチルメチルアミン、イソブチルメチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルイソプロピルアミン、ブチルエチルアミン、エチルイソブチルアミン、イソプロピルプロピルアミン、ブチルプロピルアミン、ブチルイソブチルアミン、ジアミルアミン、ジ-2-エチルヘキシルアミン等が挙げられる。
その他、アルキル系のアミン類には、シクロへキシルアミン等の脂環式系や、ベンジルアミン等のアルキル基に炭化水素系置換基を有する化合物を含むものとする。
【0019】
(アルキルフェニル系)
アルキルフェニル系のアミン類としては、例えば、メチルフェニルアミン、エチルフェニルアミン、フェニルプロピルアミン、イソプロピルフェニルアミン、ブチルフェニルアミン、イソブチルフェニルアミン等が挙げられる。
【0020】
(アルコール系)
アルコール系のアミン類としては、例えば、モノアルコールアミン、ジアルコールアミン等が挙げられる。
モノアルコールアミンとしては、例えば、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、モノブタノールアミン、モノイソブタノールアミン等が挙げられる。
ジアルコールアミンとしては、例えば、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン、ジイソブタノールアミン等が挙げられる。
【0021】
(芳香族系)
芳香族系のアミン類としては、例えば、フェニレンジアミン、o-,m-,p-キシリレンジアミン、3,5-ジアミノクロロベンゼン、アニリン等が挙げられる。
【0022】
(複素環系)
複素環系のアミン類としては、例えば、ピペラジン系、ピペリジン系、モルホリン系、チオモルホリン系、イミダゾリジン系、ピラゾリジン系、ピロリジン系、イミダゾール系、ピラゾール系、ピロール系等が挙げられる。
[ピペラジン系]
ピペラジン系のアミン類としては、例えば、ピペラジン、モノアルキルピペラジン、ジアルキルピペラジン、トリアルキルピペラジン、テトラアルキルピペラジン、ホモピペラジン等が挙げられる。
モノアルキルピペラジンとしては、例えば、1-メチルピペラジン、1-エチルピペラジン、1-プロピルピペラジン、1-イソプロピルピペラジン、1-ブチルピペラジン、2-メチルピペラジン、2-エチルピペラジン、2-プロピルピペラジン、2-イソプロピルピペラジン、2-ブチルピペラジン、2-イソブチルピペラジン等が挙げられる。
ジアルキルピペラジンとしては、例えば、2,3-ジメチルピペラジン、2,5-ジエチルピペラジン、1,3-ジエチルピペラジン等が挙げられる。
トリアルキルピペラジンとしては、例えば、2,3,5-トリメチルピペラジン、1,2,5-トリメチルピペラジン、2,3-ジメチル-5-エチルピペラジン等が挙げられる。
テトラアルキルピペラジンとしては、例えば、2,3,5,6-テトラメチルピペラジン、1,3,5,6-テトラプロピルピペラジン、3-エチル-2,5,6-トリメチルピペラジン等が挙げられる。
[ピペリジン系]
ピペリジン系のアミン類としては、例えば、ピペリジン、モノアルキルピペリジン、ジアルキルピペリジン、トリアルキルピペリジン、テトラアルキルピペリジン、ペンタアルキルピペリジン等が挙げられる。
モノアルキルピペリジンとしては、例えば、2-メチルピペリジン、2-エチルピペリジン、2-プロピルピペリジン、2-イソプロピルピペリジン、2-ブチルピペリジン、2-イソブチルピペリジン、3-メチルピペリジン、3-エチルピペリジン、3-プロピルピペリジン、3-イソプロピルピペリジン、3-ブチルピペリジン、3-イソブチルチピペリジン、4-メチルピペリジン、4-エチルピペリジン、4-プロピルピペリジン、4-イソプロピルピペリジン、4-ブチルピペリジン、4-イソブチルピペリジン等が挙げられる。
ジアルキルピペリジンとしては、例えば、2,3-ジメチルピペリジン、2,5-ジエチルピペリジン、2,4-ジプロピルピペリジン、2-メチル-4-プロピルピペリジン等が挙げられる。
トリアルキルピペリジンとしては、例えば、2,4,6-トリメチルピペリジン、2,4-エチル-6-プロピルピペリジン等が挙げられる。
テトラアルキルピペリジンとしては、例えば、2,3,5,6-テトラメチルピペリジン、2,3,4,6-トリエチルピペリジン等が挙げられる。
ペンタアルキルピペリジンとしては、例えば、2,3,4,5,6-ペンタメチルピペリジン、2,3,4,5,6-ペンタエチルピペリジン等のペンタアルキルピペリジン等が挙げられる。
[モルホリン系]
モルホリン系のアミン類としては、例えば、モルホリン、モノアルキルモルホリン、ジアルキルモルホリン、トリアルキルモルホリン、テトラアルキルモルホリン等が挙げられる。
モノアルキルモルホリンとしては、例えば、2-メチルモルホリン、2-エチルモルホリン、2-プロピルモルホリン、2-イソプロピルモルホリン、2-ブチルモルホリン、2-イソブチルモルホリン、3-メチルモルホリン、3-エチルモルホリン、3-プロピルモルホリン、3-イソプロピルモルホリン、3-ブチルモルホリン、3-イソブチルモルホリン等が挙げられる。
ジアルキルモルホリンとしては、例えば、2,3-ジメチルモルホリン、2,5-ジエチルモルホリン、2-エチル-5-メチルモルホリン等が挙げられる。
トリアルキルモルホリンとしては、例えば、2,3,5-トリメチルモルホリン、2,3-ジメチル-6-エチルモルホリン等が挙げられる。
テトラアルキルモルホリンとしては、例えば、2,3,5,6-テトラエチルモルホリン、2-エチル-3,5,6-トリメチルモルホリン等が挙げられる。
[チオモルホリン系]
チオモルホリン系のアミン類としては、例えば、チオモルホリン、モノアルキルチオモルホリン、ジアルキルチオモルホリン、トリアルキルチオモルホリン、テトラアルキルチオモルホリン等が挙げられる。
モノアルキルチオモルホリンとしては、例えば、2-メチルチオモルホリン、2-エチルチオモルホリン、2-プロピルチオモルホリン、2-イソプロピルチオモルホリン、2-ブチルチオモルホリン、2-イソブチルチオモルホリン、3-メチルチオモルホリン、3-エチルチオモルホリン、3-プロピルチオモルホリン、3-イソプロピルチオモルホリン、3-ブチルチオモルホリン、3-イソブチルチオモルホリン等が挙げられる。
ジアルキルチオモルホリンとしては、例えば、2,3-ジメチルチオモルホリン、2,5-ジエチルチオモルホリン、2,6-ジプロピルチオモルホリン、2-エチル-3-メチルチオモルホリン、2-メチル-6-プロピルチオモルホリン等が挙げられる。
トリアルキルチオモルホリンとしては、例えば、2,3,5-トリメチルチオモルホリン、2,3,6-トリエチルチオモルホリン等が挙げられる。
テトラアルキルチオモルホリンとしては、例えば、2,3,5,6-テトラメチルチオモルホリン、2-エチル-3,5,6-トリメチルチオモルホリン等が挙げられる。
[イミダゾリジン系]
イミダゾリジン系のアミン類としては、例えば、イミダゾリジン、モノアルキルイミダゾリジン、ジアルキルイミダゾリジン、トリアルキルイミダゾリジン、テトラアルキルイミダゾリジン等が挙げられる。
モノアルキルイミダゾリジンとしては、例えば、1-メチルイミダゾリジン、1-エチルイミダゾリジン、1-プロピルイミダゾリジン、1-イソプロピルイミダゾリジン、1-ブチルイミダゾリジン、1-イソブチルイミダゾリジン、2-メチルイミダゾリジン、2-エチルイミダゾリジン、2-プロピルイミダゾリジン、2-イソプロピルイミダゾリジン、2-ブチルイミダゾリジン、2-イソブチルイミダゾリジン、3-メチルイミダゾリジン、3-エチルイミダゾリジン、3-プロピルイミダゾリジン、3-イソプロピルイミダゾリジン、3-ブチルイミダゾリジン、3-イソブチルイミダゾリジン、4-メチルイミダゾリジン、4-エチルイミダゾリジン、4-プロピルイミダゾリジン、4-イソプロピルイミダゾリジン、4-ブチルイミダゾリジン、4-イソブチルイミダゾリジン、5-メチルイミダゾリジン、5-エチルイミダゾリジン、5-プロピルイミダゾリジン、5-イソプロピルイミダゾリジン、5-ブチルイミダゾリジン、5-イソブチルイミダゾリジン等が挙げられる。
ジアルキルイミダゾリジンとしては、例えば、2,3-ジメチルイミダゾリジン、2,5-ジエチルイミダゾリジン、4,5-ジプロピルイミダゾリジン、1-メチル-4-プロピルイミダゾリジン等が挙げられる。
トリアルキルイミダゾリジンとしては、例えば、2,4,5-トリメチルイミダゾリジン、3,4-ジエチル-5-プロピルイミダゾリジン等が挙げられる。
テトラアルキルイミダゾリジンとしては、例えば、2,3,4,5-テトラメチルイミダゾリジン、1,2,4,5-テトラメチルイミダゾリジン等が挙げられる。
[ピラゾリジン系]
ピラゾリジン系のアミン類としては、例えば、ピラゾリジン、モノアルキルピラゾリジン、ジアルキルピラゾリジン、トリアルキルピラゾリジン、テトラアルキルピラゾリジン等が挙げられる。
モノアルキルピラゾリジンとしては、例えば、1-メチルピラゾリジン、1-エチルピラゾリジン、1-プロピルピラゾリジン、1-イソプロピルピラゾリジン、1-ブチルピラゾリジン、1-イソブチルピラゾリジン、2-メチルピラゾリジン、2-エチルピラゾリジン、2-プロピルピラゾリジン、2-イソプロピルピラゾリジン、2-ブチルピラゾリジン、2-イソブチルピラゾリジン、3-メチルピラゾリジン、3-エチルピラゾリジン、3-プロピルピラゾリジン、3-イソプロピルピラゾリジン、3-ブチルピラゾリジン、3-イソブチルピラゾリジン、4-メチルピラゾリジン、4-エチルピラゾリジン、4-プロピルピラゾリジン、4-イソプロピルピラゾリジン、4-ブチルピラゾリジン、4-イソブチルピラゾリジン、5-メチルピラゾリジン、5-エチルピラゾリジン、5-プロピルピラゾリジン、5-イソプロピルピラゾリジン、5-ブチルピラゾリジン、5-イソブチルピラゾリジン等が挙げられる。
ジアルキルピラゾリジンとしては、例えば、3,4-ジメチルピラゾリジン、3,5-ジエチルピラゾリジン、2,5-ジプロピルピラゾリジン、3-メチル-5-プロピルピラゾリジン等が挙げられる。
トリアルキルピラゾリジンとしては、例えば、3,4,5-トリメチルピラゾリジン、2,4-ジエチル-5-プロピルピラゾリジン等が挙げられる。
テトラアルキルピラゾリジンとしては、例えば、2,3,4,5-テトラメチルピラゾリジン、1,4-ジエチル-3,5-ジプロピルピラゾリジン等が挙げられる。
[ピロリジン系]
ピロリジン系のアミン類としては、例えば、ピロリジン、モノアルキルピロリジン、ジアルキルピロリジン、トリアルキルピロリジン、テトラアルキルピロリジン等が挙げられる。
モノアルキルピロリジンとしては、例えば、2-メチルピロリジン、2-エチルピロリジン、2-プロピルピロリジン、2-イソプロピルピロリジン、2-ブチルピロリジン、2-イソブチルピロリジン、3-メチルピロリジン、3-エチルピロリジン、3-プロピルピロリジン、3-イソプロピルピロリジン、3-ブチルピロリジン、3-イソブチルピロリジン等が挙げられる。
ジアルキルピロリジンとしては、例えば、2,3-ジメチルピロリジン、2,4-ジエチルピロリジン、2-エチル-3-メチルピロリジン等が挙げられる。
トリアルキルピロリジンとしては、例えば、2,3,4-トリメチルピロリジン、2,3-ジメチル-5-エチルピロリジン等が挙げられる。
テトラアルキルピロリジンとしては、例えば、2,3,4,5-テトラメチルピロリジン、2-エチル-3,4,5-トリメチルピロリジン等が挙げられる。
[イミダゾール系]
イミダゾール系のアミン類としては、例えば、イミダゾール、モノアルキルイミダゾール、ジアルキルイミダゾール、トリアルキルイミダゾール等が挙げられる。
モノアルキルイミダゾールとしては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-プロピルイミダゾール、2-イソプロピルイミダゾール、2-ブチルイミダゾール、2-イソブチルイミダゾール、4-メチルイミダゾール、4-エチルイミダゾール、4-プロピルイミダゾール、4-イソプロピルイミダゾール、4-ブチルイミダゾール、4-イソブチルイミダゾール、5-メチルイミダゾール、5-エチルイミダゾール、5-プロピルイミダゾール、5-イソプロピルイミダゾール、5-ブチルイミダゾール、5-イソブチルイミダゾール等が挙げられる。
ジアルキルイミダゾールとしては、例えば、2,4-ジメチルイミダゾール、2,5-ジエチルイミダゾール、2,4-ジプロピルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-メチル-5-プロピルイミダゾール等が挙げられる。
トリアルキルイミダゾールとしては、例えば、2,4,5-トリメチルイミダゾール、2,4,5-トリエチルイミダゾール等が挙げられる。
[ピラゾール系]
ピラゾール系のアミン類としては、例えば、ピラゾール、モノアルキルピラゾール、ジアルキルピラゾール、トリアルキルピラゾール等が挙げられる。
モノアルキルピラゾールとしては、例えば、3-メチルピラゾール、3-エチルピラゾール、3-プロピルピラゾール、3-イソプロピルピラゾール、3-ブチルピラゾール、3-イソブチルピラゾール、4-メチルピラゾール、4-エチルピラゾール、4-プロピルピラゾール、4-イソプロピルピラゾール、4-ブチルピラゾール、4-イソブチルピラゾール、5-メチルピラゾール、5-エチルピラゾール、5-プロピルピラゾール、5-イソプロピルピラゾール、5-ブチルピラゾール、5-イソブチルピラゾール等が挙げられる。
ジアルキルピラゾールとしては、例えば、3,4-ジメチルピラゾール、3,5-ジエチルピラゾール、3,4-ジプロピルピラゾール、3-エチル-5-メチルピラゾール等が挙げられる。
トリアルキルピラゾールとしては、例えば、3,4,5-トリメチルピラゾール、3,4,5-トリエチルピラゾール等が挙げられる。
[ピロール系]
ピロール系のアミン類としては、例えば、ピロール、モノアルキルピロール、ジアルキルピロール、トリアルキルピロール、テトラアルキルピロール等が挙げられる。
モノアルキルピロールとしては、例えば、2-メチルピロール、2-エチルピロール、2-プロピルピロール、2-イソプロピルピロール、2-ブチルピロール、2-イソブチルピロール、3-メチルピロール、3-エチルピロール、3-プロピルピロール、3-イソプロピルピロール、3-ブチルピロール、3-イソブチルピロール等が挙げられる。
ジアルキルピロールとしては、例えば、2,3-ジメチルピロール、2,5-ジエチルピロール、2,4-ジプロピルピロール、2-エチル-4-メチルピロール、2-メチル-3-プロピルピロール等が挙げられる。
トリアルキルピロールとしては、例えば、2,3,4-トリメチルピロール、2,3,5-トリエチルピロール等が挙げられる。
テトラアルキルピロールとしては、例えば、2,3,4,5-テトラメチルピロール、2-エチル-3,4,5-トリメチルピロール等が挙げられる。
【0023】
(ポリアミン系)
2以上のアミノ基を有するポリアミン系のアミン類としては、以上に例示した化合物の他、例えば、脂肪族アミン系、シクロアルカン系、環状イミン重合体、不飽和アミンの重合体等が挙げられる。
脂肪族アミン系のアミン類としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、ジブチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミン、トリブチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、テトラプロピレンペンタミン、テトラブチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、ヘプタエチレンオクタミン、イミノビスプロピルアミン、モノメチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジエチルプロピレンジアミン、N,N’-ジエチルエチレンジアミン、N,N’-ジエチルプロピレンジアミン等が挙げられる。
シクロアルカン系のアミン類としては、例えば、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。
環状イミン重合体としては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリ-3-メチルプロピルイミン、ポリ-2-エチルプロピルイミン等が挙げられる。
不飽和アミンの重合体としては、例えば、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等が挙げられる。
また、ポリアミン系のアミン類としては、例えば、ビニルアミン、アリルアミン等の不飽和アミンと、ジメチルアクリルアミド、スチレン、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンスルホン酸等およびその塩類等の、不飽和アミンと共重合可能な不飽和結合を有する他のモノマーとの共重合体、ポリエチレンイミン・塩化ベンジル縮合物等も挙げられる。
【0024】
上記のアミン類は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
上記のアミン類の中でも、本発明の効果がより顕著となる傾向から、ピペラジン系、アルキル系、ポリアミン系が好ましく、ピペラジン系、ポリアミン系がより好ましく、ピペラジン系が特に好ましい。ピペラジン系の中でもピペラジンが、アルキル系の中でもジエチルアミンが、ポリアミン系の中でもジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン・塩化ベンジル縮合物が好ましく、ポリアミン系の中でもテトラエチレンペンタミンがより好ましい。
【0026】
ジチオカルバミン酸塩は、アミン類の窒素原子にジチオ酸基の塩が結合した化合物(塩型官能基)である。またアミン類1分子中に、2個以上のジチオ酸基の塩が導入されているものであってもよい。塩型の官能基としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、アミン塩等が挙げられるが、通常はナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。このような化合物は、アミン類と二硫化炭素とを反応させることにより得ることができ、アミン類と二硫化炭素との反応を上記に塩として例示したような金属の水酸化物等のアルカリの存在下で行うか、反応後アルカリで処理することにより、塩型の官能基を有する化合物とすることができる。ジチオカルバミン酸塩は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
本発明において、ジチオカルバミン酸塩の使用量は、特に限定されないが、カーボン含有飛灰に対して0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましく、1質量%以上が特に好ましい。また、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下が更に好ましく、10質量%以下が特に好ましい。使用量がこの範囲内であると、本発明の効果を得るのに適している。ジチオカルバミン酸塩を過剰に使用すると、ジチオカルバミン酸塩によって固定化した水銀が再溶出する虞がある。また水との合計量が多くなることにより、処理灰の外観が塊状にならずスラリー状になり、水銀の固定化が不十分となる虞がある。
【0028】
重金属とジチオカルバミン酸塩の反応効率の点から、処理灰が乾燥した粉状であると重金属イオンとジチオカルバミン酸塩が円滑に移動できず、接触頻度が低下するため反応が十分に進行しない。また、粉状の飛灰では、ジチオカルバミン酸塩と反応しない0価、1価、複塩の水銀が酸化されずに溶出する。処理灰が液状であると、重金属イオンとジチオカルバミン酸の濃度が薄くなり、接触頻度が低下するため、反応の確率(頻度)が低下する。そのため、水銀を適正に処理するためには、最適な水分量を添加し、適度な水分を有する塊状、スラリー状とすることが望ましく、塊状とすることがより望ましい。
【0029】
本発明において、水の使用量は、カーボン含有飛灰に対して20質量%以上であり、25質量%以上が好ましく、30質量%以上が更に好ましい。また、カーボン含有飛灰に対して150質量%以下であり、100質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、60%以下が更に好ましく、40質量%以下が特に好ましい。カーボン含有飛灰は、通常の飛灰に比べて水と均一に混合しにくいが、添加量を特定量以上とすることで、キレート剤であるジチオカルバミン酸塩がカーボン含有飛灰中の水銀と効率良く接触し、錯体の形成が促進される。これにより、混練後の後処理による水銀の溶出抑制効果が低下したり、固定化が過度に遅延したりすることなく、本発明の効果を得ることができる。水の使用量が過剰になると、塊状にならずスラリー状になり、水銀の固定化が不十分となる虞がある。水の使用量が、カーボン含有飛灰に対して20質量%以上60質量%以下であると、本発明の効果は顕著となる傾向があり、25質量%以上40質量%以下であると、より顕著となる傾向がある。
【0030】
本発明において、ジチオカルバミン酸塩と水をカーボン含有飛灰と混練する際には、ジチオカルバミン酸塩と水をカーボン含有飛灰に同時に添加してもよく、これらを別々に添加してもよい。通常はジチオカルバミン酸塩と水をカーボン含有飛灰に添加するが、ジチオカルバミン酸塩、水、およびカーボン含有飛灰の添加、混合の手順は任意である。ジチオカルバミン酸塩と水をカーボン含有飛灰に添加する際には、その方法は特に限定されないが、例えば、噴霧する方法等が挙げられる。
【0031】
本発明では、その効果を損なわない範囲内において、ジチオカルバミン酸塩と水と共に、その他の成分を使用することができる。このようなその他の成分としては、特に限定されないが、例えば、凝集剤、pH調整剤、防錆剤等が挙げられる。
【0032】
本発明においては、後処理後の飛灰からの水銀の溶出量を埋立基準値の点から、昭和48年環境庁告示13号に準拠し埋立基準値の0.005mg/L以下とすることが好ましく、0.002mg/L以下とすることがより好ましく、0.001mg/L以下とすることがさらに好ましく、0.0005mg/L以下とすることが特に好ましい。平成3年環境庁告示46号における環境基準値の点から、溶出量を0.0005mg/L以下とすることが望ましい。
【0033】
本発明において、飛灰をジチオカルバミン酸、水等で混練した後の後処理は、静置または撹拌して水銀の溶出を安定的に抑制する。例えば、後処理の時間は、特に限定されないが、水銀溶出を安定的に抑制する観点では、1日以上が好ましく、4日以上がより好ましく、7日以上が更に好ましく、14日以上が特に好ましく、30日以上が殊更好ましい。後処理の時間が1日以上であると、水銀溶出濃度の低下が顕著となる。後処理の時間を更に長くすると、再溶出の影響も小さくなり、水銀溶出濃度はより安定的に低下する。後処理の時間が上記のような範囲であると、後処理によって水銀を十分に固定化し、かつ長期にわたり保管することなく埋め立て等による廃棄処理が可能である。ジチオカルバミン酸塩がアミン類としてピペラジンより得られる化合物であり、混練後に30日以上後処理すると、本発明の効果はより顕著となる傾向がある。
【0034】
本発明において、後処理の温度は0℃超80℃未満である。上述のとおりジチオカルバミン酸と重金属イオンの反応が進行するためには適度な水分が必要である。後処理の温度が80℃以上では水分が蒸発して乾燥が進行するため、0℃以下では氷結のためにジチオカルバミン酸塩と重金属イオンの反応が進行しない。後処理は室温付近での静置が可能であることから、加熱や冷却のための特段の設備を用いないことも可能であり、屋内のピット等やコンテナにおいて放置することで水銀を十分に固定化できる。この点においては後処理の温度は5℃以上、10℃以上、20℃以上、あるいは25℃以上であってよい。本発明の効果の点においては、後処理の温度は0℃超60℃以下が好ましく、0℃超40℃以下がより好ましい。後処理の温度がこの範囲内であると、水銀をより安定的に固定化できる。混練後に温度25℃以上60℃以下、更に25℃以上40℃以下で後処理すると、本発明の効果は顕著となる傾向がある。
【0035】
本発明は、カーボン含有飛灰中の水銀の溶出を安定的に抑制可能であるが、それ以外の重金属、例えば鉛の溶出も抑制可能である。
【0036】
本発明において、処理灰を適切な湿潤状態にするために後処理の湿度は10%以上であり、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、60%が更に好ましい。なお、本発明において湿度は、相対湿度(RH)のことであり、ある気温における飽和水蒸気圧に対する実際の空気の水蒸気圧の比である。後処理の湿度がこの範囲内であると、水銀を安定的に固定化できる。後処理は、大気での静置が可能であることから、湿度を調整するための特段の設備を用いないことも可能であり、屋内のピット等やコンテナにおいて放置することで水銀を十分に固定化できる。後処理の湿度の上限は特に限定されないが、風雨等によって過剰な水分に曝されると、水銀を安定的に処理できない虞がある。
【0037】
本発明のカーボン含有飛灰におけるカーボンは、活性炭、未燃炭等の吸着能を持つ炭素物質である。本発明におけるカーボン含有飛灰は、通常の飛灰より活性炭を多く含む場合に、本発明の効果は顕著である。
【0038】
上記の温度、湿度環境で処理灰の湿潤状態を維持していると、カーボンからの溶出や、さらに酸化反応およびジチオカルバミン酸塩と水銀とのキレート反応が促進されるため、より早く、良好に水銀を処理することができる。上記の温度、湿度環境下で後処理することによりジチオカルバミン酸塩と水銀との反応が進行する点から、特定条件での後処理は連続で行っても、断続的に行ってもよい。断続的に特定条件で後処理する場合は、その合計時間を後処理時間とする。
【0039】
ごみ焼却施設においては、焼却炉での焼却によって発生する飛灰は排ガスと共に、隔壁式のバグフィルタ、流通式の電気集塵機、サイクロン等に移送され、捕集される。捕集された飛灰は、例えば、サイロに貯留された後、バッチ式や連続式の混練機へ移送され、ジチオカルバミン酸塩と水が添加され、均一に混練される。混練機から出た混練物は、コンベアで搬出されピットへ送られる。混練物の後処理は、混練機から出た混練物が屋内で移送および保管される、コンベア、ピット等の屋内設備や、コンテナ等の収容体内で行うことができる。後処理後は、トラック等で最終処分場等に移送後、埋立処理されるが、本発明の方法で処理されたカーボン含有飛灰は、雨水等の水分や高温等の温度変化に曝されても、後処理によって水銀が安定して固定化され、溶出が抑制される。
【実施例
【0040】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
以下の実施例、比較例において用いた薬剤は以下のとおりである。
(ジチオカルバミン酸塩)
ピペラジン系 ピペラジンN,N’-ジチオカルバミン酸カリウム
ジエチル系 ジエチルジチオカルバミン酸カリウム
ポリアミン系 N(1),N(2),N(3),N(5)-テトラ(ジチオカルボキシ)テトラエチレンペンタミンナトリウム塩
(無機系薬剤)
塩化第二鉄(40ボーメ)
硫酸バンド(8% 酸化アルミニウム換算)
【0042】
試験方法
容器として磁製乳鉢を用い、ごみ焼却場において生じた飛灰100g当たり、表1および表2に示す薬剤と水分を同表に示す量で添加して、10分間混練し、均一に混合した。更に、同表に示す温度、湿度、および時間で混練後の飛灰を静置した。処理後の飛灰について、水銀および鉛の溶出量を環境庁告示第13号試験法に基づいて測定した。併せて処理後の飛灰のpHも測定した。
【0043】
なお、土壌の環境基準においては総水銀0.0005mg/L以下とされ、溶出量基準は水銀およびその化合物0.0005mg/L以下、かつ、アルキル水銀は検出されないこととされている。鉛については特別管理産業廃棄物の判定基準において0.3mg/Lとされている。
【0044】
カーボン含有量の異なる、表1および表2に示す国内各地のごみ焼却施設からの飛灰A~Cについて、薬剤と水を混練した後、水銀および鉛の溶出量を測定した。その結果を表1および表2の静置後0日の欄に示す。カーボン含有量はJIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」の強熱減量の測定方法に準拠して測定し、水銀含有量は昭和63年環境水管第127号「底質調査方法」5.1、総水銀分析法に準拠して測定した。
【0045】
カーボン含有量が少ない飛灰は、混練後、直ぐに水銀および鉛の溶出量が基準値未満となり、静置せずとも十分な固定化が可能であるのに対してカーボン含有飛灰A~Cは、いずれも混練後、鉛の溶出量は直ぐに基準値未満となったが、水銀の溶出量は基準値未満とはならなかった。混練直後では、ジチオカルバミン酸系薬剤で十分に固定化できないことから、Hg2+以外の水銀(0価、1価、複塩)が多く含まれ、それらの水銀が十分に飛灰に固定化されておらず、溶出試験でろ過水に溶出してくることが示唆された。特にカーボン含有量および水銀含有量が多い飛灰Aは、混練直後の水銀溶出量が多いことが確認され、Hg2+以外の水銀(0価、1価、複塩)がより多く含まれることが示唆された。このことから、ジチオカルバミン酸塩の代わりに活性炭を使用しても、経時でHg2+に変化すると、溶出してくるため、水銀を十分に固定化することは困難と考えられる。
【0046】
次に、飛灰A~Cを用いて、表1および表2に示す量の薬剤と水分を添加、混練した後、同表の条件で静置し、処理後の飛灰からの水銀および鉛の溶出量を測定した。その結果を表1および表2に示す。
【0047】
実施例1ではピペラジン系薬剤を用い、水分40質量%、静置条件を温度25℃、湿度60%とした。混練15時間後では、水銀の溶出量に変化が無かった。静置1日以上で水銀溶出濃度が低下し、4日、7日では更に低下し、静置7日~14日で基準値未満となった。静置30日でも基準値未満であり、再溶出せず安定して固定化していることが分かる。この結果より、静置の効果が認められた。鉛溶出量は、混練直後から基準値未満となった。
【0048】
ジエチル系の実施例2では、静置1日~30日まで水銀の溶出量が0.002mg/Lとなり、基準値以下にならなかったものの、表1に示した原灰の溶出量より溶出量が低くなった。
【0049】
ポリアミン系の実施例3も、実施例1と同様に、静置1日以上で水銀溶出濃度が低下し、更に長時間静置することで基準値付近まで低下した。
【0050】
実施例4は、実施例1から静置の温度を40℃に変更した。静置により水銀溶出濃度は低下する傾向を示したが、実施例1と比べると基準値以下に固定化するのに時間を要した。実施例1より混練直後の溶出量が高いことを考慮すると、静置の効果が高いことが示唆される。
【0051】
実施例5は、実施例1から静置温度を60℃に変更したところ、静置1日で溶出量が低下し、その後7日後まで溶出量に変化が見られなかったが、14日後では0.0006mg/L、30日後では0.0005mg/L未満となり、実施例1と比べると基準値以下に固定化するのに時間を要した。60℃で静置すると、処理灰が乾燥し、ジチオカルバミン酸塩とHg2+の接触頻度が低下したために、反応が効率よく進行しなかったことが示唆された。実施例1、4、5の後処理における温度条件の対比から適度な湿潤状態が、効率的な反応に必要であることが示唆された。
【0052】
実施例6は、ジエチル系を用い、実施例2から静置温度を60℃に変更したところ、静置1日で溶出量が低下したが、その後溶出量に変化が見られなかった。
【0053】
実施例7は、実施例1から静置の湿度を30%に変更した。静置により水銀溶出濃度は低下する傾向を示したが、実施例1と比べると溶出量の低下に時間を要する結果となった。
【0054】
実施例8は、実施例1から水分量を25質量%に変更したところ、実施例1に比べると基準値以下に固定化するのに時間を要した。
【0055】
実施例9は、実施例1から水分量を100質量%に変更したところ、静置によって水銀溶出量は低下したが、7日後の溶出量が0.0019mg/Lと実施例1より高い値であった。
【0056】
実施例10は、実施例1から水分量を150質量%に変更したところ、静置によって水銀溶出量は低下したが、7日後の溶出量が0.0017mg/Lと実施例1より高い値であった。混練後の飛灰の外観はスラリー状であった。そのため、ジチオカルバミン酸塩とHg2+の濃度が低くなり接触頻度が低下したために反応が効率よく進行せず、溶出量の低下に時間を要したことが示唆された。
【0057】
飛灰B(カーボン含有量7.2質量%)を用いた実施例11は、飛灰A(カーボン含有量9.3質量%)を用いた実施例1と同じ処理および後処理条件で4日後に水銀が基準値以下となった。
【0058】
飛灰C(カーボン含有量3.3質量%)を用いた実施例12は、飛灰A(カーボン含有量9.3質量%)を用いた実施例1と同じ処理および後処理条件で1日後に水銀が基準値以下となった。
【0059】
実施例1、11、12から、カーボン含有量が3%以上の飛灰では、後処理1日以上で水銀の溶出量を基準値以下に処理することができ、カーボン含有量が7%以上の飛灰は4日以上、カーボン含有量9%以上では14日以上で処理することができた。この結果から、水銀の溶出量の時間当たりの低減率の点では、カーボン含有量が多い飛灰ほど、本発明の後処理の効果が顕著になることが確認された。
【0060】
ピペラジン系ジチオカルバミン酸塩を用いた飛灰Aの処理において、実施例1、4、5、7~10のうち、実施例1、4、5、7では後処理時の飛灰が適度な水分を有した塊状となり、実施例8は粉状、実施例9、10はスラリー状であった。そのため、実施例1、4、5、7は、実施例8、9、10に比較して効率よくジチオカルバミン酸塩と水銀が反応し、固定化が早く進行したことが示唆された。
【0061】
比較例2、3は無機系薬剤を用いた。静置によって水銀溶出量はある程度低下したが、ジチオカルバミン系薬剤に比べると低下は少なく不安定で、鉛は基準値以下に固定化できない。
【0062】
表1および表2より、ジチオカルバミン酸塩を用いた実施例1~10では、無機系薬剤を用いた比較例2、3と比較して処理直後、および、静置後の水銀溶出濃度が低かった。このことから、無機系薬剤よりジチオカルバミン酸塩が、処理直後および静置後の水銀固定化性能が高いことが確認された。
【0063】
ピペラジン系を用いた実施例1は、ジエチル系、または、ポリアミン系を用いた実施例2、3と比較して、短い静置日数で水銀溶出濃度を基準値以下に固定化できることが確認された。
【0064】
ピペラジン系を用いた実施例1、8、9、10のうち、添加した水分が40質量%の実施例1は、それよりも添加した水分が少ない実施例8(水分25質量%)や、水分が多い実施例9(水分100質量%)、10(水分150質量%)と比較して、短い静置日数で水銀を基準値以下に固定化できることが確認された。これらの結果から、本発明において飛灰処理の水分量は、ジチオカルバミン酸塩と水銀の効率的な反応の点から、20質量%以上であり、25質量%以上とするのが良く、30質量%以上とするのがより良く、また、150質量%以下であり、100質量%以下がよりよく、さらに40質量%以下がよいことが確認された。
【0065】
ピペラジン系を用いた実施例1、7のうち、湿度が60%の実施例1は、低湿度30%の実施例7と比較して、静置4日後以降の水銀濃度が低かった。このことから、湿度30%より、湿度60%で静置すると、より早く水銀を固定化することが確認され、後処理時に適度な水分があると反応が効率的に進行することが示唆された。
【0066】
ピペラジン系を用いた実施例1、4、6のうち、温度が25℃の実施例1は、より高温度での実施例4(40℃)、実施例6(60℃)と比較して、短い静置時間で水銀を基準値以下に固定化することが確認された。また、実施例4、6を比較すると、温度40℃の実施例4の方が静置4日後以降の水銀濃度が低かった。この結果から、温度25℃以上60℃以下で後処理を行うと水銀を固定化することができ、後処理時の飛灰の乾燥を抑えるとより効率よく水銀の固定化が進行することが示唆された。
【0067】
ピペラジン系を用いた実施例1、4、5、7~12は、静置1日から4日で水銀溶出濃度が低下し、4日から7日では更に低下し、7日以上で更に低下した。更に、14日以上、および、30日以上でも再溶出せず水銀を固定化することが確認された。これらの結果から、カーボン含有飛灰の水銀の固定化において、後処理時間を1日以上とするのが良く、4日以上がよりよく、7日以上がさらによく、14日以上が特によく、30日以上が殊更よいことが確認された。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】