(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】制御器設計方法
(51)【国際特許分類】
G01M 15/02 20060101AFI20220328BHJP
G01M 13/02 20190101ALI20220328BHJP
G05B 13/04 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
G01M15/02
G01M13/02
G05B13/04
(21)【出願番号】P 2018187160
(22)【出願日】2018-10-02
【審査請求日】2021-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】山口 崇
(72)【発明者】
【氏名】劉 康志
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/016628(WO,A1)
【文献】特開2012-113676(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0225383(US,A1)
【文献】SAKAMOTO Noboru et al.,γ-Passive System and Its Phase Property and Synthesis,IEEE TRANSACTIONS ON AUTOMATIC CONTROL,1996年06月,Vol.41,No.6,pp.859-865
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 15/02
G01M 13/02
G05B 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象の入出力特性を模した公称プラント及び当該公称プラントに含まれる少なくとも1つのモデルパラメータに対し変動を与える変動部を含む一般化プラントと、前記一般化プラントからの出力に基づいて当該一般化プラントへの入力を与える制御器と、を備えるフィードバック制御系において、所定の設計条件を満たすようにコンピュータによって前記制御器を設計する制御器設計方法であって、
前記公称プラントは、所定の入力信号に前記モデルパラメータの公称値を乗算する公称値乗算部と、前記変動部の変動出力信号と前記公称値乗算部の出力信号とを合算する合算部と、を備え、
前記変動部は、複素変動のケーリー変換による写像を用いることによって前記変動出力信号を生成することを特徴とする制御器設計方法。
【請求項2】
前記変動部は、所定の入力信号に前記写像を乗算することにより有界の変動信号を生成する有界変動生成部と、位相調整伝達関数を用いて前記変動信号の位相を変化させる位相調整部と、前記位相調整部の出力信号と前記公称値乗算部の入力信号とを用いて前記変動出力信号のノルムを所定範囲内に制限する正規化部と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の制御器設計方法。
【請求項3】
前記変動信号から前記有界変動生成部への入力信号までの伝達関数が正実関数になるように前記コンピュータによって前記位相調整伝達関数を設定する位相調整伝達関数設定工程と、
前記設計条件を満たすように前記コンピュータによって前記制御器を設計する制御器設計工程と、を備えることを特徴とする請求項2に記載の制御器設計方法。
【請求項4】
前記位相調整伝達関数設定工程では、メタヒューリスティックアルゴリズムによって前記位相調整伝達関数を設定することを特徴とする請求項3に記載の制御器設計方法。
【請求項5】
前記公称プラントは、所定の慣性モーメントで特徴付けられる2つ以上の慣性体を所定のばね剛性及び減衰係数で特徴付けられる1つ以上の軸体で直列に連結して構成される多慣性系に基づいて構築され、
前記モデルパラメータは、前記慣性モーメント、前記ばね剛性、及び前記減衰係数の少なくとも何れかであることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の制御器設計方法。
【請求項6】
前記制御対象は、供試体入力に応じてトルクを発生する供試体と、トルク電流指令信号に応じてトルクを発生するダイナモメータと、前記供試体と前記ダイナモメータとを接続する結合軸と、前記結合軸における軸トルクに応じた軸トルク検出信号を生成する軸トルクメータと、を備える試験システムであり、
前記公称プラントは、2つ以上の慣性体を所定のばね剛性で特徴付けられる1つ以上の軸体で直列に連結して構成される多慣性系に基づいて構築され、
前記モデルパラメータは、前記ばね剛性であり、
前記制御器は、前記軸トルク検出信号及び当該軸トルク検出信号に対する軸トルク指令信号が入力されると前記トルク電流指令信号を出力する軸トルク制御器であることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の制御器設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御器設計方法、制御器、及び軸トルク制御器に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンベンチシステムは、供試体であるエンジンとダイナモメータとを結合軸によって連結し、ダイナモメータをエンジンの動力吸収体として用いながら、スロットルアクチュエータによってエンジンのスロットル開度を制御することによって、エンジンの様々な特性を測定する。結合軸にはそのねじれトルクである軸トルクを検出する軸トルクメータが設けられており、ダイナモメータを動力吸収体として用いる際には、この軸トルクを所定の軸トルク指令に一致させる軸トルク制御が行われる。
【0003】
特許文献1には、I-PD制御法による軸トルク制御器の設計方法が示されている。エンジンベンチシステムでは、エンジンにおいて発生する脈動トルクに起因して結合軸に共振が発生する場合がある。そこで特許文献1の設計方法では、エンジンベンチシステムの特性を2慣性系伝達関数で表現するとともに、この伝達関数とI-PD制御装置との結合によって得られる4次の閉ループ伝達関数の極の周波数を、エンジンベンチシステムの機械共振周波数程度に指定することによってI-PD制御で用いられるゲインパラメータを設定している。これにより特許文献1の設計方法によれば、共振抑制効果のある軸トルク制御が可能な軸トルク制御器を設計することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで一般的なエンジンベンチシステムにおいて、エンジンとダイナモメータとを接続する結合軸には、そのばね剛性が大きく変動する特性があるクラッチが含まれている。特許文献1の軸トルク制御器によれば、結合軸のばね剛性が変動する場合であっても安定制御が可能である。しかしながら特許文献1の設計方法では、ばね剛性が低い場合における機械共振周波数を目安としてゲインパラメータを設定する。このため特許文献1の設計方法では保守的な結果しか得られず、これによって設計される軸トルク制御器は制御応答性が低い。
【0006】
本発明は、制御対象の入出力特性を特徴付けるパラメータの変動範囲を陽に指定しながら設計できる制御器設計方法、並びにこの制御器設計方法によって設計される制御器及び軸トルク制御器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る制御器設計方法は、制御対象の入出力特性を模した公称プラント(例えば、後述の公称プラントN)及び当該公称プラントに含まれる少なくとも1つのモデルパラメータに対し変動を与える変動部(例えば、後述の変動部Δ)を含む一般化プラント(例えば、後述の一般化プラントP)と、前記一般化プラントからの出力に基づいて当該一般化プラントへの入力を与える制御器(例えば、後述のコントローラK、軸トルク制御器7)と、を備えるフィードバック制御系(例えば、後述のフィードバック制御系8)において、所定の設計条件を満たすように前記制御器を設計する方法であって、前記公称プラントは、所定の入力信号に前記モデルパラメータの公称値を乗算する公称値乗算部(例えば、後述の公称値乗算部51)と、前記変動部の変動出力信号と前記公称値乗算部の出力信号とを合算する合算部(例えば、後述の合算部52)と、を備え、前記変動部は、複素変動(例えば、後述の複素変動Δg)のケーリー変換による写像(例えば、後述の写像Δp)を用いることによって前記変動出力信号を生成することを特徴とする。
【0008】
(2)この場合、前記変動部は、所定の入力信号に前記写像を乗算することにより有界の変動信号を生成する有界変動生成部(例えば、後述の有界変動生成部61)と、位相調整伝達関数(例えば、後述の位相調整伝達関数Wscope(s))を用いて前記変動信号の位相を変化させる位相調整部(例えば、後述の位相調整部62)と、前記位相調整部の出力信号と前記公称値乗算部の入力信号とを用いて前記変動出力信号のノルムを所定範囲内に制限する正規化部(例えば、後述の正規化部63)と、を備えることが好ましい。
【0009】
(3)この場合、前記変動信号から前記有界変動生成部への入力信号までの伝達関数(例えば、後述の伝達関数M(s))が正実関数になるように前記位相調整伝達関数を設定する位相調整伝達関数設定工程(例えば、後述の
図8のS2)と、前記設計条件を満たすように前記制御器を設計する制御器設計工程(例えば、後述の
図8のS3)と、を備えることが好ましい。
【0010】
(4)前記位相調整伝達関数設定工程では、メタヒューリスティックアルゴリズムによって前記位相調整伝達関数を設定することが好ましい。
【0011】
(5)この場合、前記公称プラントは、所定の慣性モーメントで特徴付けられる2つ以上の慣性体を所定のばね剛性及び減衰係数で特徴付けられる1つ以上の軸体で直列に連結して構成される多慣性系に基づいて構築され、前記モデルパラメータは、前記慣性モーメント、前記ばね剛性、及び前記減衰係数の少なくとも何れかであることが好ましい。
【0012】
(6)この場合、前記制御対象は、供試体入力に応じてトルクを発生する供試体(例えば、後述のエンジンE)と、トルク電流指令信号に応じてトルクを発生するダイナモメータ(例えば、後述のダイナモメータ2)と、前記供試体と前記ダイナモメータとを接続する結合軸(例えば、後述の結合軸3)と、前記結合軸における軸トルクに応じた軸トルク検出信号を生成する軸トルクメータ(例えば、後述の軸トルクメータ5)と、を備える試験システム(例えば、後述の試験システムS)であり、前記公称プラントは、2つ以上の慣性体を所定のばね剛性で特徴付けられる1つ以上の軸体で直列に連結して構成される多慣性系に基づいて構築され、前記モデルパラメータは、前記ばね剛性であり、前記制御器は、前記軸トルク検出信号及び当該軸トルク検出信号に対する軸トルク指令信号が入力されると前記トルク電流指令信号を出力する軸トルク制御器であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
(1)H∞制御やμ設計等の従来のロバスト制御器設計方法では、一般化プラントや公称プラントに含まれるモデルパラメータに対し非有界の複素変動を与える変動部等が規定されたフィードバック制御系を定義し、このフィードバック制御系に対し小ゲイン定理に基づいて導かれるロバスト安定性に関する十分条件を設計条件として課すことによって、この設計条件を満たすように制御器を設計する(例えば、劉康志著、「線形ロバスト制御」、コロナ社、2002年、を参照)。このように従来のロバスト制御器設計方法では非有界の複素変動を扱っているが、これは設計上モデルパラメータの変動範囲を虚数軸上で無限遠まで考慮することに相当し、現実的ではない。これに対し本発明の制御器設計方法では、変動部から出力される変動出力信号によって、公称プラントのモデルパラメータに対し加法的変動を与えるとともに、変動部では、複素変動のケーリー変換による写像を用いることによって上記変動出力信号を生成する。ケーリー変換によれば、複素平面の右半平面にわたる非有界の複素変動は、単位円内に写像される。このため本発明の制御器設計方法によれば、ケーリー変換によって得られる有界の複素変動を変動出力信号として用いることができるので、モデルパラメータの変動範囲を陽に指定しながら制御器を設計できる。
【0014】
(2)本発明の制御器設計方法では、所定の入力信号にケーリー変換による写像を乗算することにより有界の変動信号を生成する有界変動生成部と、位相調整伝達関数を用いて変動信号の位相を変化させる位相調整部と、位相調整部の出力信号と公称値乗算部の入力信号とを用いて変動出力信号のノルムを所定範囲内に制限する正規化部とを備える変動部を用いることによってモデルパラメータに対する変動を与える。本発明の制御器設計方法によれば、モデルパラメータの変動範囲の上限や下限が予め判明している場合には、正規化部において変動出力信号のノルムをこれら上限及び下限を用いて定められる範囲内に制限することにより、現実に即した制御器を設計できる。
【0015】
(3)本発明の制御器設計方法では、変動部と公称プラントとを含む一般化プラントにおいて、有界変動生成部の出力である有界の変動信号から、有界変動生成部への入力信号までの伝達関数が正実関数になるように位相調整部における位相調整伝達関数をコンピュータによって設定する工程と、設計条件を満たすようにコンピュータによって制御器を設計する工程と、を経て制御器を設計する。本発明の制御器設計方法によれば、上記変動信号から入力信号までの伝達関数が正実関数になるように位相調整伝達関数を設定することにより、安定かつ高応答な制御を実現できる制御器を設計できる。
【0016】
(4)本発明の制御器設計方法では、メタヒューリスティックアルゴリズムによって、上記変動信号から上記入力信号までの伝達関数が正実関数になるように位相調整伝達関数を設定する。これにより、設計者のスキルによらず速やかに位相調整伝達関数を設定できる。
【0017】
(5)本発明の制御器設計方法では、2つ以上の慣性体を1つ以上の軸体で直列に連結して構成される多慣性系に基づいて公称プラントを構築し、上記慣性体の慣性モーメント、並びに上記軸体のばね剛性及び減衰係数の少なくとも何れかを、変動部によって変動を与えるモデルパラメータとし、上記多慣性系を制御対象とする制御器を設計する。これにより、慣性モーメント、ばね剛性、及び減衰係数等が変動する場合であっても安定かつ高応答な制御を実現できる制御器を設計できる。
【0018】
(6)本発明の制御器設計方法では、供試体入力に応じてトルクを発生する供試体と、トルク電流指令信号に応じてトルクを発生するダイナモメータと、供試体とダイナモメータとを接続する結合軸と、結合軸における軸トルクに応じた軸トルク検出信号を生成する軸トルクメータとを備える試験システムを制御対象とし、2つ以上の慣性体を1つ以上の軸体で直列に連結して構成される多慣性系を公称プラントとし、上記多慣性系の軸体のばね剛性を変動部によって変動を与えるモデルパラメータとし、軸トルク検出信号及び軸トルク指令信号に応じてトルク電流指令信号を出力する制御器を設計する。上述のように供試体とダイナモメータとを接続する結合軸にはクラッチが含まれており、そのばね剛性が大きく変動する特性がある。これに対し本発明の制御器設計方法によれば、安定かつ高応答な制御を実現できる試験システムの制御器を設計できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る制御器設計方法を適用して設計された軸トルク制御器を搭載する試験システムの構成を示す図である。
【
図2】結合軸のねじれ角と軸トルクとの関係の一例を示す図である。
【
図3】軸トルク制御器を設計する際に用いられるフィードバック制御系の構成を示す図である。
【
図4】
図3のフィードバック制御系に基づいて導出されるコントローラの構成を示す図である。
【
図7】複素変動のケーリー変換による写像を示す図である。
【
図8】制御器設計方法の具体的な手順を示すフローチャートである。
【
図9】公称プラントにコントローラを接続して構成されるプラントの開ループ特性を示す図である。
【
図10】
図8の制御器設計方法によって設計された軸トルク制御器の特性を示す図である。
【
図11】軸トルク制御器を用いて軸トルク制御を行った場合における閉ループ特性(軸トルク指令信号から軸トルク検出信号まで)を示す図である。
【
図12】軸トルク制御器を用いて軸トルク制御を行った場合における閉ループ特性(軸トルク指令信号に対する外乱から軸トルク検出信号まで)を示す図である。
【
図13】軸トルク制御器を用いて軸トルク制御を行った場合における閉ループ特性(軸トルクメータのノイズから軸トルク検出信号まで)を示す図である。
【
図14】軸トルク制御器を用いて軸トルク制御を行った場合における閉ループ特性(軸トルクメータのノイズからトルク電流指令信号まで)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る制御器設計方法を適用して設計された軸トルク制御器7を搭載する試験システムSの構成を示す図である。試験システムSは、供試体であるエンジンEと、ダイナモメータ2と、結合軸3と、インバータ4と、軸トルクメータ5と、スロットルアクチュエータ6と、軸トルク制御器7と、を備える。試験システムSは、スロットルアクチュエータ6によってエンジンEのスロットル開度を制御しながら、ダイナモメータ2をエンジンEの動力吸収体として用いることにより、エンジンEの様々な特性を測定する所謂エンジンベンチシステムである。
【0021】
スロットルアクチュエータ6は、エンジンEのスロットル開度に対する指令に相当するスロットル開度指令信号が入力されると、これを実現するようにエンジンEのスロットル開度を制御し、これによりスロットル開度指令信号に応じたエンジントルクをエンジンEで発生させる。
【0022】
結合軸3は、エンジンEの出力軸とダイナモメータ2の出力軸とを接続する。結合軸3はクラッチを含み、したがってそのばね剛性は所定の範囲内で変動する特性がある。
図2は、結合軸のねじれ角[rad]と軸トルク[Nm]との関係の一例を示す図である。
図2では、傾きがばね剛性に相当する。
図2に示すように結合軸のばね剛性は、ねじれ角が0[rad]を含む低剛性領域内では小さく、この低剛性領域外である高剛性領域内では大きくなる特性がある。すなわち、
図2の例では、ばね剛性の変動範囲の下限値k
minは結合軸が低剛性領域内にある状態におけるばね剛性に相当し、上限値k
maxは結合軸が高剛性領域内にある状態におけるばね剛性に相当する。
【0023】
図1に戻り、軸トルクメータ5は、結合軸3における軸トルクに応じた軸トルク検出信号を生成し、軸トルク制御器7へ送信する。軸トルク制御器7は、所定の軸トルク指令信号と軸トルクメータ5からの軸トルク検出信号との差である軸トルク制御偏差が無くなるように、これら軸トルク指令信号及び軸トルク検出信号を用いることによってダイナモメータ2で発生させるトルクに対する指令に相当するトルク電流指令信号を生成し、インバータ4に入力する。インバータ4は、軸トルク制御器7から入力されるトルク電流指令信号に応じた電力をダイナモメータ2に供給し、これによりトルク電流指令信号に応じたダイナモトルクをダイナモメータ2で発生させる。
【0024】
以上のような軸トルク制御を行う軸トルク制御器7は、
図3に示すようなフィードバック制御系8を定義し、このフィードバック制御系8において所定の設計条件が満たされるように設計されたコントローラをデジタルシグナルプロセッサやマイクロコンピュータ等の入出力ポートを備えるハードウェアに実装して構成される。
【0025】
以上のように構成された試験システムSにおいて、後述のコントローラKが実装された軸トルク制御器7は、図示しない上位コントローラから通信を介して送信される軸トルク指令信号と、ダイナモメータ2に装備された軸トルクメータ5から送信される軸トルク検出信号とが入力されると、トルク電流指令信号を生成し通信を介してインバータ4へ入力する。ダイナモメータ2と電気的に接続されているインバータ4は、軸トルク制御器7からトルク電流指令信号が入力されると、このトルク電流指令信号に応じたトルクをダイナモメータ2に発生させる。なおこの際に想定される外乱要素は、軸トルクメータ5において軸トルクを計測する際に発生するノイズや、各通信経路における時間の遅れ、インバータ4の制御応答等によるトルク電流指令信号と発生トルクとの間の非線形性のずれ等がある。なお上述の軸トルク指令信号は、上述のように軸トルク制御器7とは別の上位コントローラによって生成してもよいし、軸トルク制御器7の内部においてコントローラKとは別に構築されたモジュールによって生成してもよい。
【0026】
図3のフィードバック制御系8は、エンジンEへの入力及びダイナモメータ2への入力から軸トルクメータ5の出力までの試験システムSの入出力特性を模した公称プラントNを有する一般化プラントPと、この一般化プラントPに対し入出力を与えるコントローラKと、公称プラントNに対し変動を与える変動部Δと、を組み合わせることによって構成される。
【0027】
一般化プラントPには、第1外乱入力w1、第2外乱入力w2、及び第3外乱入力w3で構成される入力と、第1評価出力z1、第2評価出力z2、及び第3評価出力z3で構成される出力とが定義されている。以下では、第1外乱入力w1、第2外乱入力w2、及び第3外乱入力w3を成分とするベクトル量をwと表記し、第1評価出力z1、第2評価出力z2、及び第3評価出力z3を成分とするベクトル量をzと表記する。なお、一般化プラントPの具体的な構成については、後に
図5及び
図6を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
また一般化プラントPとコントローラKとの間には、軸トルク検出信号に相当する第1観測出力y1及び軸トルク指令信号に相当する第2観測出力y2と、トルク電流指令信号に相当する制御入力uとが定義されている。一般化プラントPとコントローラKとの間に以上のような入出力信号を設定することにより、
図4に示すように、2つの伝達関数Ky1(s)及びKy2(s)を組み合わせて構成され、第1観測出力y1及び第2観測出力y2から制御入力uを出力する2自由度制御系のコントローラKが導出される。
【0029】
図3に戻り、一般化プラントPと変動部Δとの間には、スカラ量である変動入力ηとスカラ量である変動出力ξとが定義されている。変動部Δは、一般化プラントPから出力される変動入力ηに基づいて変動出力ξを生成し、この変動出力ξを一般化プラントPに与えることにより、公称プラントNに対し変動を与える。なおこの変動部Δの具体的な構成については、後に
図6を参照して詳細に説明する。
【0030】
図5は、一般化プラントPの構成を示す図である。一般化プラントPは、制御対象である試験システムSの入出力特性を模した公称プラントNと、公称プラントNに含まれる少なくとも1つのモデルパラメータに対し変動を与える変動部Δと、複数の重み関数We(s),Wu(s),Wy(s),Wd(s),Wr(s),Wn(s)と、を組み合わせて構成される。
【0031】
公称プラントNは、
図1の試験システムSにおいて、トルク電流指令信号に応じたダイナモトルクから軸トルク検出信号に応じた軸トルクまでの入出力特性を模した入出力特性を備える。
【0032】
公称プラントNは、例えばエンジンEの慣性モーメントJ
Eを有する第1慣性体と、ダイナモメータ2の慣性モーメントJ
Dを有する第2慣性体とを、所定の公称値k
0のばね剛性及び所定の減衰係数Dを有する軸で連結して構成される2慣性系の運動方程式に基づいて構築される。この公称プラントNは、図示しないエンジントルクと軸トルクとの和からエンジンに相当する第1慣性体の回転数(エンジン回転数)までの伝達関数G
a1(s)(下記式(1-1)参照)と、ダイナモトルクと軸トルクとの差からダイナモメータに相当する第2慣性体の回転数(ダイナモ回転数)までの伝達関数G
a2(s)(下記式(1-2)参照)と、エンジン回転数とダイナモ回転数との差から軸トルクまでの伝達関数G
a3(s)(下記式(1-3)参照)と、を
図5に示すように組み合わせることによって構成される。
【数1】
【0033】
3つの伝達関数を組み合わせて構成される公称プラントNにおいて、慣性モーメントJ
E,J
Dは、それぞれ既知の方法によって取得されたエンジンEの慣性モーメント及びダイナモメータ2の慣性モーメントが用いられる。軸の減衰係数Dは、予め定められた正の値が用いられる。また、軸のばね剛性の公称値k
0は、試験システムSで用いられる結合軸3のばね剛性に想定される変動範囲の下限値k
minに定められる(k
0=k
min)。ここでばね剛性の変動範囲の下限値k
minとは、
図2の例では、結合軸が低剛性領域内にあるときにおけるばね剛性の値である。
【0034】
以上のように、公称プラントNでは、エンジンの慣性モーメントと、ダイナモメータの慣性モーメントと、結合軸の減衰係数と、結合軸のばね剛性と、の4つのモデルパラメータが定義されている。変動部Δは、これら4つのモデルパラメータのうちの1つであるばね剛性に対し変動を与える。より具体的には、公称プラントNは、結合軸の回転速度に相当する入力信号ηにばね剛性の公称値k0を乗算する公称値乗算部51と、変動部Δの出力信号である変動出力信号ξと公称値乗算部51の出力信号とを合算する合算部52と、を備える。変動部Δは、公称値乗算部51に対する入力信号ηが入力されると、変動出力信号ξを生成し、合算部52へ入力する。これにより変動部Δは、公称プラントNのモデルパラメータであるばね剛性に対し加法的変動を与える。
【0035】
図5の一般化プラントPには、第1外乱入力w1、第2外乱入力w2、第3外乱入力w3、第1評価出力z1、第2評価出力z2、第3評価出力z3、制御入力u、第1観測出力y1、第2観測出力y2、変動入力η、及び変動出力ξから成る複数の入出力信号が定義されている。これら入出力信号と
図1の試験システムSとの対応関係は以下の通りである。
【0036】
第1外乱入力w1は、一般化プラントPへの入力信号であり、コントローラKから出力される制御入力uに対する外乱に相当する。第1外乱入力w1は、予め設定された重み関数Wd(s)によって重み付けされる。第2外乱入力w2は、一般化プラントPへの入力信号であり、コントローラKに入力される軸トルク指令信号に相当する。第2外乱入力w2は、予め設定された重み関数Wr(s)によって重み付けされる。第3外乱入力w3は、一般化プラントPへの入力信号であり、コントローラKに入力される軸トルク検出信号に対する外乱に相当する。第3外乱入力w3は、予め設定された重み関数Wn(s)によって重み付けされる。
【0037】
制御入力uは、コントローラKから一般化プラントPへの入力信号であり、トルク電流指令信号に相当する。この制御入力uと、重み関数Wd(s)で重み付けされた第1外乱入力w1とを合算したものは、公称プラントNに入力される。第1観測出力y1は、一般化プラントPからコントローラKへの入力信号であり、軸トルク検出信号に相当する。この第1観測出力y1には、公称プラントNの出力と、重み関数Wn(s)で重み付けされた第3外乱入力w3とを合算したものが用いられる。第2観測出力y2は、コントローラKへの入力信号であり、軸トルク指令信号に相当する。この第2観測出力y2には、重み関数Wr(s)で重み付けされた第2外乱入力w2が用いられる。
【0038】
第1評価出力z1は、一般化プラントPの出力信号であり、重み付きの軸トルク制御偏差に相当する。この第1評価出力z1には、軸トルク指令信号に相当する第2観測出力y2からトルク電流指令信号に相当する制御入力uを減算して得られる偏差を、予め設定された重み関数We(s)で重み付けしたものが用いられる。第2評価出力z2は、一般化プラントPの出力信号であり、重み付きのトルク電流指令信号に相当する。この第2評価出力z2には、上述のようにトルク電流指令信号に相当する制御入力uを予め設定された重み関数Wu(s)によって重み付けしたものが用いられる。第3評価出力z3は、一般化プラントPの出力信号であり、重み付きの軸トルク検出信号に相当する。この第3評価出力z3には、公称プラントNの出力を予め設定された重み関数Wy(s)で重み付けしたものが用いられる。
【0039】
図6は、変動部Δの構成を示す図である。変動部Δは、有界変動生成部61と、位相調整部62と、正規化部63と、を備え、これらを用いることにより、公称プラントNから入力される入力信号ηから変動出力信号ξを生成し、公称プラントNへ入力する。
【0040】
有界変動生成部61は、正規化部63から入力される入力信号η1に、非有界の複素変動Δgのケーリー変換による写像を乗算することにより有界の変動信号ξ1を生成し、位相調整部62へ出力する。より具体的には、有界変動生成部61は、下記式(2)に示すように、複素変動Δgのケーリー変換による写像Δpを入力信号η1に乗算することによって変動信号ξ1を生成する。下記式(2)に示すケーリー変換によれば、複素平面の右半平面にわたる非有界の複素変動Δgは、
図7に示すように、原点を中心とした半径が1の単位円内に写像される。
【数2】
【0041】
位相調整部62は、有界変動生成部61によって生成された有界の変動信号ξ1に所定の位相調整伝達関数W
scope(s)を乗算することによって変動信号ξ1の位相を変化させる。後に
図8を参照して説明するように、この位相調整伝達関数W
scope(s)の関数形は、有界変動生成部61から出力される変動信号ξ1から有界変動生成部61へ入力される入力信号η1までの伝達関数M(s)が正実関数になるように設定される。ここで伝達関数M(s)について下記不等式(3)が成立する場合、伝達関数M(s)は正実関数であると定義される。ここでM
*(s)は、M(s)の複素共役である。
【数3】
【0042】
正規化部63は、位相調整部62の出力信号と公称プラントNから入力される入力信号ηとを用いて、変動部Δから出力される変動出力信号ξのノルムを所定範囲内に制限する。正規化部63は、入力信号ηに所定の第2ノルムN2を乗算したものから位相調整部62の出力信号に所定の第1ノルムN1を乗算して得られる信号η1を有界変動生成部61へ入力するとともに、位相調整部62の出力信号に所定の第3ノルムN3を乗算することによって変動出力信号ξを生成し、公称プラントNへ入力する。ここで各ノルムN1,N2,N3は、例えば下記式(4)に示すように設定される。これにより、変動部Δによって生成される変動出力信号ξのノルムは0~k
max-k
minの間に制限される。
【数4】
【0043】
図8は、本実施形態に係る制御器設計方法の具体的な手順を示すフローチャートである。
【0044】
始めにS1では、コンピュータを用いることによって
図5及び
図6に示すように公称プラントN、変動部Δ、及び重み関数Wd(s),Wr(s),Wn(s),We(s),Wu(s),Wy(s)を設定する。
【0045】
次にS2では、コンピュータを用いることによって、変動部Δの有界変動生成部61から出力される変動信号ξ1から有界変動生成部61へ入力される入力信号η1までの伝達関数M(s)が正実関数になるように位相調整伝達関数Wscope(s)を設計する。より具体的には、遺伝的アルゴリズムや粒子群最適化法等の既知のメタヒューリスティックアルゴリズムを利用することによって上記伝達関数M(s)が正実関数になるように位相調整伝達関数Wscope(s)を設計する。
【0046】
次にS3では、以上のようにして構築された一般化プラントPとコントローラKとを組み合わせて構成されるフィードバック制御系8において、ロバスト安定性が実現するように定められた所定の設計条件が満たされるように、コンピュータによってコントローラKを設計する。より具体的には、このようなコントローラKは、例えばコンピュータ上でD-Kイタレーション法に基づく反復演算を行うことによって導出される。
【0047】
次にS4では、S3において設計されたコントローラKをデジタルシグナルプロセッサに実装することによって軸トルク制御器7を設計する。
【0048】
次に、以上のような制御器設計方法によって設計された軸トルク制御器7の効果について、
図9~
図14を参照しながら説明する。
【0049】
図9は、公称プラントNにコントローラKを接続して構成されるプラントの開ループ特性(軸トルク指令信号から軸トルク検出信号まで)を示す図である。
図9には、公称プラントNのばね剛性の公称値k
0をk
minからk
maxまで段階的に変化させたときにおける開ループ特性を、線種を変えて図示する。
図9に示すように、エンジンEとダイナモメータ2とを結合軸3で連結した試験システムSでは、所定の共振周波数でゲインが上昇する共振現象が発生する。またこの共振周波数は、結合軸3のばね剛性が高くなるほど高くなる特性がある。
【0050】
図10は、
図8の制御器設計方法によって設計された軸トルク制御器7の周波数応答特性を示す図である。
図10には、軸トルク制御器7の軸トルク指令信号に対する周波数応答を実線で示し、軸トルク制御器7の軸トルク検出信号に対する周波数応答を破線で示す。
図10に示すように、軸トルク制御器7によれば、100~500[Hz]程度における共振点から離れた低域において、コントローラ入出力間の制御偏差が発生しない軸トルク制御が実現される。
【0051】
図11~
図14は、
図10に示す周波数応答特性を備える軸トルク制御器7を用いて軸トルク制御を行った場合における閉ループ特性を示す図である。
図11は、軸トルク指令信号から軸トルク検出信号までの伝達特性を示し、
図12は、軸トルク指令信号に対する外乱から軸トルク検出信号までの伝達特性を示し、
図13は、軸トルクメータ5のノイズから軸トルク検出信号までの伝達特性を示し、
図14は、軸トルクメータ5のノイズからトルク電流指令信号までの伝達特性を示す図である。
【0052】
図11及び
図12と
図9とを比較して明らかなように、
図9では共振ピークゲインは約20dBであったのに対し、
図11及び
図12の例によれば、k
min~k
maxの間の何れのばね剛性でもゲインは10dB以下に抑制される。また
図13及び
図14に示すように、軸トルクメータ5におけるノイズからの影響は、全て0dB以下に抑制されており、ノイズがフィードバックによって増幅されることもない。以上より、
図5及び
図6を参照して説明した公称プラントN及び変動部Δが規定された一般化プラントPに基づいて
図8に示す制御器設計方法に従って設計された軸トルク制御器7によれば、ばね剛性がk
min~k
maxの間で変化する場合であっても、このばね剛性の変動範囲内においてロバスト安定な軸トルク制御を実現できる。
【0053】
本実施形態に係る制御器設計方法によれば、以下の効果を奏する。
(1)本実施形態に係る制御器設計方法では、変動部Δから出力される変動出力信号ξによって、公称プラントNのモデルパラメータであるばね剛性に対し加法的変動を与えるとともに、変動部Δでは、非有界の複素変動Δgのケーリー変換による写像Δpを用いることによって上記変動出力信号ξを生成する。ケーリー変換によれば、複素平面の右半平面にわたる非有界の複素変動Δgは、単位円内に写像される。このため制御器設計方法によれば、ケーリー変換によって得られる有界の複素変動を変動出力信号ξとして用いることができるので、ばね剛性の変動範囲を陽に指定しながら軸トルク制御器7を設計できる。
【0054】
(2)本実施形態に係る制御器設計方法では、所定の入力信号η1にケーリー変換による写像Δpを乗算することにより有界の変動信号ξ1を生成する有界変動生成部61と、位相調整伝達関数Wscope(s)を用いて変動信号ξ1の位相を変化させる位相調整部62と、位相調整部62の出力信号と公称値乗算部51の入力信号ηとを用いて変動出力信号ξのノルムを所定範囲内に制限する正規化部63とを備える変動部Δを用いることによってばね剛性に対する変動を与える。制御器設計方法によれば、ばね剛性の変動範囲の上限や下限が予め判明している場合には、正規化部63において変動出力信号ξのノルムをこれら上限及び下限を用いて定められる範囲内に制限することにより、現実に即した軸トルク制御器7を設計できる。
【0055】
(3)本実施形態に係る制御器設計方法では、変動部Δと公称プラントNとを含む一般化プラントPにおいて、有界変動生成部61の出力である有界の変動信号ξ1から、有界変動生成部61への入力信号η1までの伝達関数M(s)が正実関数になるように位相調整部62における位相調整伝達関数W
scope(s)をコンピュータによって設定する工程(
図8のS2)と、所定の設計条件を満たすようにコンピュータによってコントローラKを設計する工程(
図8のS3)と、を経て軸トルク制御器7を設計する。制御器設計方法によれば、上記変動信号ξ1から入力信号η1までの伝達関数M(s)が正実関数になるように位相調整伝達関数W
scope(s)を設定することにより、安定かつ高応答な制御を実現できる軸トルク制御器7を設計できる。
【0056】
(4)本実施形態に係る制御器設計方法では、メタヒューリスティックアルゴリズムによって、上記変動信号ξ1から上記入力信号η1までの伝達関数M(s)が正実関数になるように位相調整伝達関数Wscope(s)を設定する。これにより、設計者のスキルによらず速やかに位相調整伝達関数Wscope(s)を設定できる。
【0057】
(5)本実施形態に係る制御器設計方法では、2つの慣性体を1つの軸体で直列に連結して構成される2慣性系に基づいて公称プラントNを構築し、この公称プラントの4つのモデルパラメータのうちの1つであるばね剛性k0を、変動部Δによって変動を与え、上記2慣性系を制御対象とする軸トルク制御器7を設計する。これにより、ばね剛性が変動する場合であっても安定かつ高応答な制御を実現できる軸トルク制御器7を設計できる。
【0058】
(6)本実施形態に係る制御器設計方法では、スロットル開度指令信号に応じてトルクを発生するエンジンEと、トルク電流指令信号に応じてトルクを発生するダイナモメータ2と、エンジンEとダイナモメータ2とを接続する結合軸3と、結合軸3における軸トルクに応じた軸トルク検出信号を生成する軸トルクメータ5とを備える試験システムSを制御対象とし、2つの慣性体を1つ以上の軸体で直列に連結して構成される2慣性系を公称プラントNとし、上記2慣性系の軸体のばね剛性k0を変動部Δによって変動を与えるモデルパラメータとし、軸トルク検出信号及び軸トルク指令信号に応じてトルク電流指令信号を出力する軸トルク制御器7を設計する。上述のようにエンジンEとダイナモメータ2とを接続する結合軸にはクラッチが含まれており、そのばね剛性k0が大きく変動する特性がある。これに対し制御器設計方法によれば、安定かつ高応答な制御を実現できる試験システムSの軸トルク制御器7を設計できる。
【0059】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限らない。本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜変更してもよい。
【0060】
例えば上記実施形態では、変動部Δによって、公称プラントNにおいて定義される4つのモデルパラメータのうちの1つであるばね剛性に対し変動を与える場合について説明したが、本発明はこれに限らない。変動部Δによって変動を与えるモデルパラメータの数は、1つに限らず2つ以上であってもよい。また変動部Δによって変動を与えるモデルパラメータは、結合軸のばね剛性の他、エンジンの慣性モーメント、ダイナモメータの慣性モーメント、及び結合軸の減衰係数等であってもよい。
【0061】
また上記実施形態では、公称プラントNを、慣性モーメントJ
E,J
Dで特徴付けられる2つの慣性体をばね剛性k
0及び減衰係数Dで特徴付けられる1つの軸体で直列に連結して構成される2慣性系に基づいて構築した場合について説明したが、本発明はこれに限らない。公称プラントは、所定の慣性モーメントで特徴付けられる2つ以上の慣性体を所定のばね剛性及び減衰係数で特徴付けられる1つ以上の軸体で連結して構成される多慣性系に基づいて構築してもよい。
図15には、慣性モーメントJ
1,J
2,J
3,J
4で特徴付けられる4つの慣性体をばね剛性k
1,k
2,k
3,k
4及び減衰係数D
1,D
2,D
3,D
4で特徴付けられる3つの軸体で直列に連結して構成される4慣性系に基づいて公称プラントN
4を構築した場合について示す。
【符号の説明】
【0062】
P…一般化プラント
N…公称プラント
51…公称値乗算部
52…合算部
Δ…変動部
61…有界変動生成部
62…位相調整部
63…正規化部
K…コントローラ
S…試験システム
E…エンジン(供試体)
2…ダイナモメータ
3…結合軸
5…軸トルクメータ
7…軸トルク制御器