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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】新規なオーステナイト系ステンレス合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220328BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/60
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018519837
(86)(22)【出願日】2016-10-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-11-22
(86)【国際出願番号】 EP2016075117
(87)【国際公開番号】W WO2017067999
(87)【国際公開日】2017-04-27
【審査請求日】2019-08-19
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-28
(31)【優先権主張番号】15190386.1
(32)【優先日】2015-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519372032
【氏名又は名称】エービー サンドビック マテリアルズ テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】キヴィサック, ウルフ
(72)【発明者】
【氏名】アントンソン, カーリン
(72)【発明者】
【氏名】ステンヴァル, ペータル
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-060603(JP,A)
【文献】特開昭57-203737(JP,A)
【文献】特表2005-509751(JP,A)
【文献】国際公開第2012/128258(WO,A1)
【文献】特表2003-534456(JP,A)
【文献】特開2009-007627(JP,A)
【文献】特開平01-275738(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0028893(US,A1)
【文献】特開2011-117024(JP,A)
【文献】特開平6-256921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C 0.03重量%未満;
Si 0.01-1.0重量%;
Mn 0.01-1.1重量%;
Cr 26.0-30.0重量%;
Ni 29.0-37.0重量%;
Mo 6.1-7.1重量%;
N 0.25-0.36重量%;
P 0.04重量%以下
S 0.03重量%以下;
Cu 0.001-0.4重量%;
を含み、
残部がFe及び不可避な不純物である、オーステナイト系ステンレス合金であって、
1.0重量%以下の総含有量の、Al、V、Nb、Ti、O、Zr、Hf、Ta、Mg、Pb、Co、Bi、Ca、La、Ce、Y及びBの群から選択される一又は複数の元素を含んでいてもよい、オーステナイト系ステンレス合金。
【請求項2】
Siの含有量が0.5重量%未満である、請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス合金。
【請求項3】
Siの含有量が0.1-0.3重量%である、請求項1又は2に記載のオーステナイト系ステンレス合金。
【請求項4】
Mnの含有量が0.6-1.1重量%である、請求項1から3の何れか一項に記載のオーステナイト系ステンレス合金。
【請求項5】
Niの含有量が、31-36重量%である、請求項1から4の何れか一項に記載のオーステナイト系ステンレス合金。
【請求項6】
Niの含有量が、34-36重量%である、請求項1から5の何れか一項に記載のオーステナイト系ステンレス合金。
【請求項7】
Crの含有量が、26-29重量%である、請求項1から6の何れか一項に記載のオーステナイト系ステンレス合金。
【請求項8】
Crの含有量が、26-28重量%である、請求項1から7の何れか一項に記載のオーステナイト系ステンレス合金。
【請求項9】
Crの含有量が26重量%を超える、請求項1から8の何れか一項に記載のオーステナイト系ステンレス合金。
【請求項10】
Moの合金含有量が、6.1-7.1重量%である、請求項1から9の何れか一項に記載のオーステナイト系ステンレス合金。
【請求項11】
Moの合金含有量が、6.3-6.8重量%である、請求項1から10の何れか一項に記載のオーステナイト系ステンレス合金。
【請求項12】
請求項1から11の何れか一項に記載のオーステナイト系ステンレス合金を含む物体の、石油及びガス産業、石油化学産業並びに/又は化学産業に関連する用途における使用。
【請求項13】
請求項1から11の何れか一項に記載のオーステナイト系ステンレス合金を含む物体。
【請求項14】
前記物体が、チューブ、パイプ、棒、ワイヤ、板、薄板及び/又はストリップである、請求項13に記載の物体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、低含有量のマンガンを、高含有量の窒素と組み合わせて含む新規なオーステナイト系ステンレス合金に関する。本開示はまた、前記オーステナイト系ステンレス合金の、特に腐食性の高い環境における使用、及びそれから製造された製品に関する。
【背景技術】
【0002】
腐食性の高い用途において、ニッケルベースの合金は従来のステンレス合金に比較して高い耐食性を有するので、従来のステンレス合金の代わりに、ニッケルベースの合金が物体の製造に通常使用される。さらに、従来のステンレス合金は、所要の耐食性及び所要の構造安定性を有さないことがある。
【0003】
しかし、ニッケルベースの合金を用いる欠点が存在する。なぜなら、ニッケベースの合金は高価であり、また製造が困難であるからである。したがって、高い耐食性及び優れた構造安定性を有し、また安価であり、製造が容易である合金が求められている。
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様は、上記の欠点を解決するか、又は少なくとも低減することである。したがって、本開示は、以下の組成重量%(wt%):
C 0.03未満;
Si 1.0未満;
Mn 1.2以下;
Cr 26.0-30.0;
Ni 29.0-37.0;
Mo又は(Mo+W/2) 6.1-7.1;
N 0.25-0.36;
P 0.04以下
S 0.03以下;
Cu 0.4以下;
残り Fe及び不可避な不純物
を有するオーステナイト系ステンレス合金を提供する。
【0005】
以上又は以下に本明細書で定義されたこのオーステナイト系ステンレス合金は、高い耐食性及び優れた構造安定性を有する。さらに、前記オーステナイト系ステンレス合金は、従来のNiベースの合金と同様の機械的強度及びまた優れた引張強度並びに優れた延性を有する。加えて、本発明者らは、得られたオーステナイト系ステンレス合金が高い延性と機械的強度(図1A及び1Bを参照されたい)の組合せを有する、元素組成を予想外に見出しており、これは非常に驚くべきである。なぜなら、通常、機械的強度を高くすると、延性は低下するからである。本オーステナイト系合金では、驚くべきことに延性及び降伏強度の両者が増加する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1A-1B】表1の組成物に対する、窒素含有量の関数としての降伏強度及び引張強度、並びに伸びを示すグラフである。
図2】表1の組成物に対する、Mn含有量の関数としての表1のオーステナイト系ステンレス合金の引張強度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
したがって、本開示は、以下の組成重量%:
C 0.03未満;
Si 1.0未満;
Mn 1.2以下;
Cr 26.0-30.0;
Ni 29.0-37.0;
Mo又は(Mo+W/2) 6.1-7.1;
N 0.25-0.36;
P 0.04以下
S 0.03以下;
Cu 0.4以下;
残り Fe及び不可避な不純物
を有するオーステナイト系ステンレス合金を提供する。
【0008】
以上又は以下に本明細書で定義されたオーステナイト系ステンレス合金は、高い耐食性及び優れた構造安定性を有する。優れた構造安定性とは、製造過程の間にオーステナイト系ステンレス合金中にほとんど金属間相の析出が形成されないことを意味する。さらに、以上又は以下に本明細書で定義されたオーステナイト系ステンレス合金は、高い強度、例えば、降伏強度及び引張強度、並びに優れた延性、極めて優れた腐食特性及び優れた溶接性の組合せを有する。
【0009】
以上又は以下に本明細書で定義されたこのオーステナイト系ステンレス合金は、チューブ、棒、パイプ、ワイヤ、ストリップ、板及び/又は薄板等の物体の製造に使用される。これらの製品は、高い耐食性及び優れた機械的特性を必要とする、石油及びガス産業、石油化学産業、化学産業、製薬産業並びに/又は環境工学等の用途に使用されることを目的にしている。これらの製品を製造するのに使用される方法は、限定するものではないが、溶融、AODコンバーター、鋳造、鍛造、押出、引き抜き、熱間圧延及び冷間圧延等の従来の製造工程である。
【0010】
下文に、以上又は以下に本明細書で定義されたオーステナイト系ステンレス合金の合金化元素を考察するが、ここでwt%は重量%である。
【0011】
炭素(C):0.03wt%以下
Cはオーステナイト系ステンレス合金に含まれている不純物である。Cの含有量が0.03wt%を超す場合、粒子境界における炭化クロムの析出のために耐食性が低下する。したがって、Cの含有量は、0.03wt%以下、例えば、0.02wt%以下である。
【0012】
ケイ素(Si):1.0wt%以下
Siは、脱酸のために添加することができる元素である。しかし、Siはシグマ相等の金属間相の析出を促進し、その結果、Siは、1.0wt%以下、例えば、0.5wt%以下の含有量で含まれている。一実施態様によれば、Siは0.01wt%を超える。一実施態様によれば、Siは0.3wt%未満である。さらなる実施態様によれば、Siは0.1-0.3wt%である。
【0013】
マンガン(Mn):1.2wt%以下
Mnはほとんどのステンレス合金に使用される。なぜなら、MnはMnSを形成し、MnSは熱間延性を改善するからである。Mnはまた、多量に(例えば、およそ4wt%)添加された場合、ほとんどのオーステナイト系ステンレス合金の強度を増加させるのに有利であると考えられる。しかし、以上又は以下に本明細書で定義されたオーステナイト系ステンレス合金に対して、1.5wt%を超えるMnの含有量は、オーステナイト系ステンレス合金の強度を低下させることが驚くべきことに見出されており、したがって、Mnの含有量は、1.2wt%以下、例えば、1.1wt%以下、例えば1.0wt%以下である。一実施態様によれば、Mnの含有量は0.01-1.1wt%である。別の実施態様によれば、Mnは0.6-1.1wt%である。
【0014】
ニッケル(Ni):29wt%-37wt%
ニッケルは、Cr及びMoとともに、オーステナイト系ステンレス合金中の応力腐食割れに対する耐性を改善するために有利である。さらに、ニッケルはまた、オーステナイト安定化元素であり、また、特に600-1100℃の温度間隔に曝露された場合、オーステナイト系ステンレス鋼の粒子境界における金属間相の析出を低減する。粒子境界析出物は、耐食性に悪影響及ぼすことがある。したがって、ニッケル含有量は、少なくとも29wt%であるかそれに等しく、例えば、少なくとも31wt%、例えば、少なくとも34wt%である。しかし、高いニッケル含有量は、Nの溶解度を低下させる。したがって、Niの最大含有量は、37wt%以下、例えば、36wt%以下である。一実施態様によれば、Ni含有量は34-36wt%である。
【0015】
クロム(Cr):26-30wt%
Crは不働態膜を生じさせて、ステンレス合金を腐食から保護するのに必須であるので、Crはステンレス合金中の最も重要な元素である。また、Crを添加するとNの溶解度を増加させる。Crの含有量が26wt%未満である場合、本オーステナイト系ステンレス合金に対する耐孔食性は不十分である。さらに、Crの含有量が30wt%を超える場合、窒化物及びシグマ相等の二次相が形成され、二次相は耐食性に悪影響を及ぼす。したがって、Crの含有量は、26-30wt%、例えば、26wt%超、例えば、26-29wt%等、例えば、26-28wt%、例えば、26wt%超-29wt%、例えば、26wt%超-28wt%である。
【0016】
モリブデン(Mo):6.1-7.1wt%
Moは、オーステナイト系ステンレス合金の表面に形成される不働態膜を安定化させるのに有効であり、また、耐孔食性を改善するのに有効である。Moの含有量が6.1wt%未満の場合、孔食に対する耐食性は、以上又は以下に本明細書で定義されたオーステナイト系ステンレス合金に対しては十分高くない。しかし、Moの高すぎる含有量は、シグマ相等の金属間相の析出を促進し、また熱間加工性を劣化させる。したがって、Moの含有量は、6.1-7.1wt%、例えば、6.3-6.8wt%である。
【0017】
(Mo+W/2):6.1-7.1wt%
存在する場合、WはMo(重量%単位)の半分の効果であり、これはPREの式Cr+3.3(Mo+0.5W)+16Nによって立証されている。
Mo及びWは、オーステナイト系ステンレス合金の表面に形成される不働態膜を安定化するのに有効であり、また、耐孔食性を改善するのに有効である。(Mo+W/2)の含有量が6.1wt%未満の場合、孔食に対する耐食性は、以上又は以下に本明細書で定義されたオーステナイト系ステンレス合金にとっては十分高くない。しかし、Mo及びW/2の高すぎる含有量は、シグマ相等の金属間相の析出を促進し、また、熱間加工性を劣化させる。存在する場合、本合金中のWの含有量は、0.001から3.0wt%の間、例えば、0.1-3.0wt%である。この場合、本合金のMoの含有量は、(Mo+W/2)が6.1-7.1である条件を満たす範囲であると理解すべきである。一実施態様によれば、(Mo+W/2)は6.3-6.8wt%である。
【0018】
窒素(N):0.25-0.36wt%
Nは、固溶硬化を用いることによってオーステナイト系ステンレス合金の強度を増加させるのに有効な元素である。Nはまた、構造安定性に対して有益である。さらに、Nは冷間加工の間の変形硬化を改善する。Nの含有量が0.25wt%未満の場合、強度も又は延性も十分高くない。Nの含有量が0.36wt%を超える場合、効率的な熱間加工性を得るためには、流動応力が高すぎる。このようにして、本開示において、本発明者らは、Nの含有量が0.25-0.36wt%、例えば、0.26wt%-0.33wt%、例えば、0.26-0.30である場合、改善された延性及び降伏強度の両者の組合せを有するオーステナイト系ステンレス合金が得られることを驚くべきことに見出している。
【0019】
リン(P):0.04wt%以下
Pは不純物であると考えられ、Pが熱間加工性に悪影響を及ぼすことがよく知られている。したがって、Pの含有量は、0.04wt%以下、例えば、0.03wt%以下に設定されている。
【0020】
硫黄(S):0.03wt%以下
Sは、熱間加工性を劣化させるので、不純物と考えられる。したがって、許容しうるSの含有量は、0.03wt%以下、例えば、0.02wt%以下である。
【0021】
銅(Cu):0.4wt%以下
Cuは、任意選択の元素であり、不純物と考えられる。本ステンレス合金は、製造材料として使用される原材料に起因してCuを含む。Cuの含有量は、可能な限り低くあるべきであり、したがって、本合金に対するCuのレベルは0.4wt%以下であり、0.4wt%のレベルを超えると機械的特性が悪影響を受ける。一実施態様によれば、Cuは0.001-0.4wt%の量で存在してもよい。
【0022】
以上又は以下に本明細書で定義されたオーステナイト系ステンレス合金は、以下のAl、V、Nb、Ti、O、Zr、Hf、Ta、Mg、Pb、Co、Bi、Ca、La、Ce、Y及びBの群から選択される一又は複数の元素を任意選択的に含んでいてもよい。これらの元素は、例えば、脱酸、耐食性、熱間延性及び/又は機械加工性を強化するために製造過程の間に添加してもよい。しかし、当技術分野で周知されているように、これらの元素の添加は、存在する元素に応じて制限されなければならない。したがって、添加される場合、これらの元素の総含有量は、1.0wt%以下である。
【0023】
本明細書で言及される場合、「不純物」という用語は、オーステナイト系ステンレス合金が工業的に製造された場合、鉱石及びスクラップ等の原材料によって、及び製造過程における様々な他の要因によってそれを汚染し、以上又は以下に本明細書で定義されたオーステナイト系ステンレス合金に悪影響を及ぼさない範囲内で汚染することが許容される物質を意味するものである。
【0024】
一実施態様によれば、以上又は以下に本明細書で定義された合金は、以下の組成(重量%):
C 0.03未満;
Si 1.0未満;
Mn 1.2以下;
Cr 26.0-30.0;
Ni 29.0-37.0;
Mo又は(Mo+W/2) 6.1-7.1;
N 0.25-0.36;
P 0.04以下
S 0.03以下;
Cu 0.4以下;
並びに、任意選択的の、Al、V、Nb、Ti、O、Zr、Hf、Ta、Mg、Pb、Co、Bi、Ca、La、Ce、Y及びBの群の一又は複数の元素 1.0以下;
残り Fe及び不可避な不純物
からなる。
【0025】
さらに、「未満」という表現が使用された場合、別の規定がなければ、下限値は0wt%と理解すべきである。
【0026】
本開示を以下の非限定的実施例によってさらに例示する。
【実施例
【0027】
実施例1
17種の様々な合金を、高周波誘導炉で270kgのヒートとして溶融し、次いで9インチの鋳型を用いてインゴットに鋳造した。ヒートの化学組成を表1に示す。
【0028】
鋳造した後、鋳型を取り外し、インゴットを水中で急冷した。化学分析用の試料を各インゴットから採取した。ヒート番号605813-605821を鋳造し、鋳型を取り外した後、インゴットを1170℃において1時間焼入れ焼なましした。化学分析をX線蛍光分光法及びスパーク原子発光分光分析並びに燃焼技術を用いて実施した。
【0029】
得られたインゴットを4メトリックトンのハンマーで150×70mmのビレットに鍛造した。鍛造に先立って、インゴットを1220℃-1250℃まで加熱し、3時間保持した。次いで得られた鍛造ビレットを150×50mmのビレットに機械加工し、ビレットをRobertsonローリングミルで10mmまで熱間圧延した。熱間圧延に先立って、ビレットを1200℃-1220℃で加熱し、2時間保持した。
【0030】
オーステナイト系ステンレス合金は、様々な保持時間で1200-1250℃において熱処理し、続いて水で急冷した。
【0031】
ヒートの引張特性をSS-EN ISO 6892-1:2009に従って室温で測定した。試験片の直径が5mmであるSS 112113(1986)における試験片タイプ5C50に従って、旋盤で仕上げた試験片を用いることによって、熱間圧延し、焼入れ焼なましした厚さ10mmの板で引張試験を実施した。3個の試料を各ヒートに対して使用した。
【0032】
図1A及び1Bにおいて、熱間圧延及び熱処理された条件における変数、降伏強度(Rp0.2)、引張強度(R)及び伸び(A)を、実験ヒートの窒素含有量に対してプロットする。図1Bから示されるように、伸び(A)は窒素含有量の増加とともに驚くべきことに増加しており、通常は、窒素含有量が本開示におけるのと同じ多さの場合伸びが減少する。また、図1Aは、本開示のヒートは高い降伏強度(Rp0.2)及び高い引張強度(R)を有することを示している。
【0033】
図2において、引張強度をMn含有量に対してプロットする。図から示されるように、Mnの含有量は引張強度に影響を及ぼし、本開示の範囲内のMnの含有量を有するすべてのヒートは、およそ739MPa以上の引張強度を有し、一方、2.90を超えるMn含有量を有するヒートは、およそ717MPa以下の引張強度を有する。通常Mnは、多量に(例えば、およそ4wt%)添加された場合、オーステナイト系ステンレス合金の強度を増加させるのに有利であると考えられているので、このことは非常に驚くべきことである。
【0034】
実施例2
他の合金との比較
【0035】
表2及び表3のデータを比較することによって示されるように、本開示の合金は、ニッケルベースの合金の強度に相当する強度を有し、この強度はまた、従来のオーステナイト系ステンレス鋼より高いことが驚くべきことに見出されている。
【0036】
実施例3
孔食試験
孔食におけるCrの影響を調査した。孔食は腐食の最も損傷を与える形態の1つであり、とりわけ石油及びガス用途、化学及び石油化学産業、製薬産業並びに環境工学におけるこの腐食を制限することが最も重要である。
【0037】
孔食試験のために、熱間圧延及び焼きなましされた(実施例1を参照されたい)ヒート番号605875、605881及び605882の試料を冷間圧延し、次いで、保持時間10分で1200℃において焼きなまし、続いて水で急冷した。
【0038】
各ヒートに対する臨界孔食温度(CPT)を測定することによって、耐孔食性を調査した。使用した試験方法は、ASTM G150に記載されているが、この特定の試験において、電解質を、本来の電解質1M NaClに比較してより高温における試験を可能にする3M MgClに変更した。試料を試験の前にP600紙やすりで研磨した。
【0039】
表4に耐孔食性に及ぼすクロム含有量の影響を示す。
【0040】
この表に示すように、Cr含有量は孔食性に大きな影響を有する。優れた耐孔食性を有するためには、108℃超の孔食温度が望ましい。
図1A-1B】
図2