(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩
(51)【国際特許分類】
C07D 207/06 20060101AFI20220328BHJP
A61K 31/65 20060101ALI20220328BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220328BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20220328BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20220328BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
C07D207/06 CSP
A61K31/65
A61P31/04
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/19
(21)【出願番号】P 2018538082
(86)(22)【出願日】2017-01-20
(86)【国際出願番号】 EP2017051203
(87)【国際公開番号】W WO2017125557
(87)【国際公開日】2017-07-27
【審査請求日】2019-12-02
(32)【優先日】2016-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】305008042
【氏名又は名称】サンド・アクチエンゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レンガウアー,ハンネス
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】RONN, M. et al.,ORGANIC PROCESS RESEARCH AND DEVELOPMENT,2013年,Vol. 17,pp. 838-845
【文献】大島寛,結晶多形・擬多形の析出挙動と制御,PHARM STAGE,2007年01月15日,Vol.6, No.10,p.48-53
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.15419nmの波長を有するCu-Kα
1,2
線を用いて、20~30℃の温度範囲及び30%の相対湿度で測定したとき、(5.6±0.2)°、(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°及び(8.6±0.2)°の2θ角に反射を含む粉末X線回折図を有する、エラバサイクリンビス塩酸塩或いはその溶媒和物又は水和物の結晶。
【請求項2】
前記エラバサイクリンビス塩酸塩の結晶が不定比水和物である、請求項1に記載のエラバサイクリンビス塩酸塩の結晶。
【請求項3】
8.0%~12.5%の範囲の含水量を有し、カールフィッシャー電量分析により測定して30%の相対湿度及び25.0±0.1℃で平衡状態にある、請求項1
又は2に記載のエラバサイクリンビス塩酸塩の結晶。
【請求項4】
(i)エラバサイクリンビス塩酸塩を水及び少なくとも1つの有機貧溶媒中に含み、少なくとも0.1の水分活性を有する水溶液を用意し;
(ii)(i)で用意した溶液中に請求項1~
3のいずれか1項に記載のエラバサイクリンビス塩酸塩種結晶を添加する;
ことを含む請求項1~
3のいずれか1項に記載のエラバサイクリンビス塩酸塩の結晶の製造方法。
【請求項5】
医薬組成物を製造するための請求項1~
3のいずれか1項に記載のエラバサイクリンビス塩酸塩の結晶の使用。
【請求項6】
前記医薬組成物が経口又は非経口用に意図されている、請求項
5に記載の使用。
【請求項7】
有効量の請求項1~
3のいずれか1項に記載のエラバサイクリンビス塩酸塩の結晶及び少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項8】
経口固体剤形である、請求項
7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
錠剤又はカプセル剤である、請求項
8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
(i)請求項1~
3のいずれか1項に記載のエラバサイクリンビス塩酸塩の結晶、及び任意に糖及び/又は糖アルコールの群から選択される少なくとも1つの安定剤を用意するステップ;
(ii)ステップ(i)で用意したエラバサイクリンビス塩酸塩の結晶及び任意の少なくとも1つの安定剤を水を含む溶媒中に溶解させるステップ;
(iii)少なくとも1つの酸及び/又は塩基を添加することによりステップ(ii)で得られた前記溶液又は懸濁液のpHを調節するステップ;
(iv)任意に、ステップ(iii)で得られた前記溶液又は懸濁液を濾過するステップ;及び
(v)ステップ(ii)~(iv)の1つで得られた前記溶液又は懸濁液を凍結乾燥して、エラバサイクリンを含む医薬組成物を得るステップ;
を含む非経口用に意図されているエラバサイクリンを含む医薬組成物の製造方法。
【請求項11】
薬剤として使用するための、請求
7~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
細菌感染症の治療及び/又は予防に使用するための請求項
7~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記細菌感染症が、複雑性腹腔内感染症及び複雑性尿路感染症の群から選択される、請求項
12に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩及びその製造方法に関する。更に、本発明は、医薬組成物を製造するための結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の使用に関する。本発明は更に、有効量の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を含む医薬組成物に関する。本発明の医薬組成物は薬剤として、特に例えばグラム陰性菌又はグラム陽性菌に起因する細菌性感染症、特に多剤耐性グラム陰性菌に起因する細菌性感染症の治療及び/又は予防のために使用され得る。よって、本発明の医薬組成物は、例えば複雑性腹腔内及び尿路感染症の治療のための薬剤として使用され得る。
【背景技術】
【0002】
エルバサイクリンは、(4S,4aS,5aR,12aS)-4-(ジメチルアミノ)-7-フルオロ-3,10,12,12a-テトラヒドロキシ-1,11-ジオキソ-9-[2-(-ピロリジン-1-イル)アセトアミド]-1,4,4a,5,5a,6,11,12a-オクタヒドロテトラセン-2-カルボキサミドと化学的に指定されるテトラサイクリン抗生物質であり、以下の式(I)
【0003】
【0004】
エルバサイクリンはグラム陰性菌及びグラム陽性菌、特に多剤耐性(MDR)グラム陰性菌に対して抗菌活性を有し、現在複雑性腹腔内感染症(cIAI)及び尿路感染症(cUTI)を患っている患者においてフェーズIII臨床トライアルを受けている。
【0005】
WO 2010/017470 A1は、エラバサイクリンを化合物34として開示している。エラバサイクリンは方法に従って製造されると記載されているが、その方法は関連化合物についてしか詳細に記載されていない。この方法の最終ステップは、希塩酸/アセトニトリルを用いるカラムクロマトグラフィー、その後の凍結乾燥を伴う。
【0006】
WO 2012/021829 A1は、概説的にエラバサイクリンの薬学的に許容される酸及び塩基付加塩、及びエラバサイクリン遊離塩基をそれぞれ対応する酸及び塩基と反応させることを含む該塩を製造するための一般的方法を開示している。15ページ、3~6行目には、エラバサイクリン塩及びマンニトールを含有する凍結乾燥粉末が開示されている。
【0007】
Xiaoら,“Fluorocyclines.1.7-Fluoro-9-pyrrolidinoacetamido-6-demethyl-6-deoxytetracycline:A Potent,Broad Spectrum Antibacterial Agent”,J.Med.Chem.,2012,55,597-605は、p.603では化合物17e及び17iに関する手順に従ってエラバサイクリンを合成した。分取逆相HPLC後、化合物17e及び17iの両方をビス塩酸塩として黄色固体の形態で得た。
【0008】
Ronnら,“Process R&D of Ervacyclne:The First Fully Synthetic Fluorocycline in Clinical Development”,Org.Process Res.Dev.,2013,17,838-845は、エラバサイクリンビス塩酸塩を最終生成物として得る方法を記載している。最終ステップは、エラバサイクリンビス塩酸塩をエタノール/メタノール混合物中に含む溶液に貧溶媒として酢酸エチルを添加することによるエラバサイクリンビス塩酸塩の沈殿を伴う。著者は、エラバサイクリンのビス塩酸塩の製造中の諸難題を少し詳しく記載している。Ronnらによれば、「酢酸エチルを部分添加すると、懸濁している塩及び反応容器の底部のガム状の塩を含有している混合物が生じる。この段階で、追加のエタノールを添加し、ガム状物質も懸濁した固体になるまで混合物を激しく攪拌しながらエージングした。」加えて、真空下で乾燥した後、固体は「許容されるレベル以上のエタノール」を含有していた。「その後、得られた固体を含有しているトレーを減圧下(...)、開放容器の水の存在下で真空オーブン中に置くことによりエタノールを水と置換した。」最終的に、約4~6%の残留水分を含有するエラバサイクリンビス塩酸塩が得られた。著者は、大規模製造に適した単離ステップに加えて方法に対して追加の改善が必要であると結論づけている。
【0009】
エラバサイクリン又はその塩が結晶質固体であるとはどこにも記載されておらず、エラバサイクリンを製造するために使用される製造方法は典型的には非晶質物質を生ずる凍結乾燥、分取カラムクロマトグラフィーや沈殿のような方法であることに注目すべきである。
【0010】
Ronnらの厄介な方法は、エラバサイクリンビス塩酸塩を適当な固体状態で得る際の問題、利用可能な製造方法のスケーラビリティーの問題、及びエラバサイクリンの単離及び乾燥ステップの問題に向けられている。
【0011】
加えて、非晶質固体は低い化学的安定性、低い物理的安定性、吸湿性、乏しい単離及び粉末特性等を示し得る。これらの特性は活性医薬成分として使用するためには欠点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2010/017470号
【文献】国際公開第2012/021829号
【非特許文献】
【0013】
【文献】J.Med.Chem.,2012,55,597-605
【文献】Org.Process Res.Dev.,2013,17,838-845
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
よって、医薬組成物として製剤化するための関連特性の好ましいプロフィール、例えば高い化学的及び物理的安定性、水分と接触時の改善された特性、より低い吸湿性及び改善された粉末特性を示す固体形態の活性医薬成分に対する薬学上の開発が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、結晶質形態のエラバサイクリンビス塩酸塩を提供することにより上記した問題の1つ以上を解決する。特に、本発明は、20~30℃の範囲の温度で0.15419nmの波長を有するCu-Kα1,2線を用いて測定したとき、(5.6±0.2)°、(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°及び(8.6±0.2)°の2θ角に反射を含む粉末X線回折図を有することを特徴とする結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を提供する。本発明は更に、本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の製造方法に関する。本発明は更に、医薬組成物の製造における及び/又はそのための本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の使用に関する。本発明は更に、有効量の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を含む医薬組成物に関する。
【0016】
定義
明示的に別段の定めをした場合を除き、本発明の関係において以下の定義は示されている意味を有する。
【0017】
本明細書中で使用されている用語「室温」は、20~30℃の範囲の温度を指す。
【0018】
本明細書中で使用されている用語「エルバサイクリン」は、本明細書中に開示されている式(I)に従う(4S,4aS,5aR,12aS)-4-(ジメチルアミノ)-7-フルオロ-3,10,12,12a-テトラヒドロキシ-1,11-ジオキソ-9-[2(-ピロリジン-1-イル)アセトアミド]-1,4,4a,5,5a,6,11,12a-オクタヒドロテトラセン-2-カルボキサミドを指す。
【0019】
本明細書中で使用されている用語「エルバサイクリンビス塩酸塩」は、本明細書中に開示されている式(II)に従う(4S,4aS,5aR,12aS)-4-(ジメチルアミノ)-7-フルオロ-3,10,12,12a-テトラヒドロキシ-1,11ジオキソ-9-[2(-ピロリジン-1-イル)アセトアミド]-1,4,4a,5,5a,6,11,12a-オクタヒドロテトラセン-2-カルボキサミド二塩酸塩を指す。
【0020】
本明細書中で使用されている用語「物理的形態」は、化合物の結晶質及び/又は非晶質相を指す。
【0021】
本明細書中で使用されている「溶媒和物」は、結晶格子構造に取り込まれた1つ以上の溶媒の分子を更に含む結晶質形態の分子、原子及び/又はイオンを指す。溶媒和物中の溶媒分子は規則配列及び/又は非秩序配列で存在し得る。溶媒和物は化学量論量又は非化学量論量の溶媒分子を含み得る。例えば、非化学量論量の溶媒分子を有する溶媒和物は溶媒和物から溶媒を部分的に損失させることにより生じ得る。溶媒が水の場合、溶媒和物はしばしば「水和物」と称されている。溶媒が化学量論量で存在している場合には、溶媒和物はギリシャ数字接頭辞を加えることにより称され得る。例えば、水和物は、水/エラバサイクリン化学量論に応じて一水和物、二水和物、三水和物、四水和物等と称され得る。溶媒含量は、例えばガスクロマトグラフィー(GC)、1H-NMR、熱重量分析(TGA)により、又は水の場合にはカールフィッシャー(KF)電量分析により測定され得る。
【0022】
本明細書中で使用されている「非晶質」は、結晶質でない化合物の固体形態を指す。非晶質化合物は長距離規則度を持たず、反射を有する明確なX線回折パターンを示さない。
【0023】
粉末X線回折に関して本明細書中で使用されている用語「反射」は、X線回折図中のピークを意味し、これらのピークは特定の回折角度(ブラッグ角)に長距離位置規則度に秩序及び反復パターンで分布している固体物質中の原子の平行面により散乱するX線からの強め合う干渉により生ずる。このような固体物質は結晶質物質と分類され、非晶質物質は長距離規則度を欠き、短距離規則度しか示さず、よってブロード散乱を生ずる固体物質として定義される。文献によれば、長距離規則度は例えば約100~1000個及びそれ以上の原子に広がり、短距離規則度は数個の原子にしか広がっていない(“Fundamentals of Powder Diffraction and Structural Characterization of Materials”,Vitalij K.Pecharsky and Peter Y.Zavalijによる,Kluwer Academic Publishers,2003,p.3を参照されたい)。
【0024】
粉末X線回折に関して用語「本質的に同一」は、反射位置及び反射の相対強度のばらつきを考慮することを意味する。例えば、2θ値の典型的な精度は±0.2°2θの範囲、好ましくは±0.1°2θの範囲である。よって、通常例えば5.6°2θに現れる反射は標準条件下で多くのX線回折計で5.4°~5.8°2θ、好ましくは5.5~5.7°2θに現れる。更に、当業者は、相対反射強度は装置間の違い、及び結晶度、好ましい配向、サンプル作成及び当業者に公知の他の要因による変化を示し、定性的測定値としてのみ採用すべきであることを認めている。
【0025】
結晶形状を表すために本明細書中で使用されている用語「ラス」は、細長く薄い刀様結晶を指す。
【0026】
結晶形状を表すために本明細書中で使用されている用語「ニードル」は、類似の幅及び広がりを有する針状の薄く、非常に細長い結晶を指す。
【0027】
結晶形状を表すために本明細書中で使用されている用語「カラム」は、ニードルよりも広い幅及び厚さを有する細長い角柱結晶を指す。
【0028】
本明細書中で使用されている用語「母液」は、固体の結晶化後に残っている溶液を指す。
【0029】
本明細書中で使用されている用語「貧溶媒」は、溶媒中のエラバサイクリンビス塩酸塩の溶解度を低下させる液体を指す。
【0030】
本明細書中で使用されている用語「水分活性」(aw)は、同一温度での純水の蒸気圧(p0)に対する液体中の水の蒸気圧(p)の比を指す。水分活性は式aw=p/p0で表示され得、よって0.0aw(水存在せず)~1.0aw(純水)の範囲にある。
【0031】
具体的物理的形態に関して本明細書中で使用されている用語「実質的に純粋な」は、物理的形態が他の物理的形態の化合物を10%未満、好ましくは5重量%未満、より好ましくは3重量%未満、最も好ましくは1重量%未満しか含んでいないことを意味する。
【0032】
本明細書中では、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は図に示すグラフィックデータにより特徴づけられると言及され得る。前記データには、例えば粉末X線回折図(PXRD)、示差走査熱量測定(DSC)サーモグラム及び熱重量分析(TGA)が含まれる。当業者は、計器タイプの違い、応答、及びサンプル指向性、サンプル濃度、サンプル純度、サンプル履歴及びサンプル作成の違いのような要因により、グラフの形で提示したときのデータの変化、例えば正確なピーク位置及び強度に関する変化が生じ得ることを理解している。しかしながら、本明細書の図のグラフィックデータを未知の物理的形態について作成したグラフィックデータと比較すること、及び2組のグラフィックデータが同じ結晶に関することを確認することは当業者の知識の十分範囲内である。
【0033】
本明細書中で使用されている「減圧」は、10mbar~900mbarの範囲の圧力である。
【0034】
本明細書中で使用されている「相対湿度」は、同一温度での平衡水蒸気圧に対する水蒸気の部分圧の比を指す。相対湿度は当該システムの温度及び圧力に依存する。別段の特定がない限り、温度は25℃であり、圧力は1013mbarである。
【0035】
本明細書中で使用されている「安定剤」は、凍結乾燥中及び凍結乾燥物の保存中エラバサイクリンの安定化を助ける薬学的賦形剤である。安定剤は、エラバサイクリンが唯一の有機化合物であり、pH4.8で作成した凍結乾燥物と比較して、エラバサイクリン及び安定剤が唯一の有機化合物であり、同一のpHで作成した凍結乾燥物中のエピマー形成を低減させることができる有機化合物である。
【0036】
本明細書中で使用されている用語「約」は、値の統計学的に有意な範囲内を意味する。前記範囲は、示されている値又は範囲の一桁の範囲内、典型的には10%以内、より典型的には5%以内、更により典型的には1%以内、最も典型的には0.1%以内であり得る。ときには、前記範囲は、典型的には所与の値又は範囲の測定及び/又は定量に使用する標準方法の実験誤差の範囲内であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の代表的粉末X線回折図を例示する。x軸は散乱角(単位:°2θ)を示し、y軸は散乱X線ビームの強度(単位:検出された光子の数)を示す。粉末X線回折図は室温及び30%の相対湿度で記録した。
【
図2】約25~30%の範囲の相対湿度及び室温で平衡化した結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の代表的熱重量分析曲線を例示する。x軸は温度(単位:セルシウス度(℃))を示し、y軸はサンプルの質量(減量)(単位:パーセント(%))を示す。
【
図3】約25~30%の範囲の相対湿度及び室温で平衡化した結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の代表的示差走査熱量測定曲線を例示する。x軸は温度(単位:セルシウス度(℃))を示し、y軸は熱流量(単位:ワット/グラム(W/g))を示す(吸熱ピークは上昇している)。
【
図4】偏光顕微鏡を用いて撮影したエラバサイクリンビス塩酸塩結晶の顕微鏡写真(スケールバー=50μm)を示す。
【
図5】本明細書の比較例1に従って製造した非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の粉末X線回折図を例示する。x軸は散乱角(単位:°2θ単位)を示し、y軸は散乱X線ビームの強度(単位:検出された光子の数)を示す。
【
図6】0~80%の範囲の相対湿度での結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の代表的吸湿(三角付き実線)及び放湿(四角付き実線)重量測定曲線を例示する。x軸は(25.0±0.1)℃の温度で測定した相対湿度(単位:パーセント(%))を示し、y軸は平衡質量変化(単位:重量パーセント(w-%))を示す。0%の相対湿度でのサンプル重量を参考重量として使用した。
【
図7】0~80%の範囲の相対湿度での本発明の非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の代表的吸湿(三角付き実線)及び放湿(四角付き実線)重量測定曲線を例示する。x軸は(25.0±0.1)℃の温度で測定した相対湿度(単位:パーセント(%))を示し、y軸は平衡質量変化(単位:重量パーセント(w-%))を示す。0%の相対湿度でのサンプル重量を参考重量として使用した。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、結晶質形態のエラバサイクリンビス塩酸塩を提供する。
【0039】
エラバサイクリンビス塩酸塩の結晶化は簡単でなかった。種結晶が非常に特殊な条件下でのセレンディピティにより初めて得られるまで、エラバサイクリンビス塩酸塩結晶を得るための多くの試みはうまくいかなかった。これらの種結晶を初めて手に入れて、本発明の発明者らは中間体としてガム状物質を経由する欠点を被らない結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を製造するためのスケラブル方法を開発することができた。加えて、本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は優れた単離特性、例えば良好な濾過特性を示し、単離後容易に乾燥され得る。
【0040】
更に、本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は、非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩と比較して広い湿度範囲にわたって改善された化学的及び物理的安定性を示す。非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の1つの問題点は例えばその潮解傾向である。非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は25.0±0.1℃で測定したとき85%の相対湿度で液化することが知見された。対照的に、本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は25.0±0.1℃で測定したとき95%のより高い相対湿度で液化する。このことは、本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を保存及び輸送のために使用するのに好都合である。
【0041】
非晶質エラバサイクリンの別の問題点は、水を再び放出するよりも早く周囲大気から水を吸収するという特性である。非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩のこの特殊な特性のために、その含水量は周囲大気の相対湿度に依存するだけでなく、サンプルの前歴(例えば、以前の乾燥及び貯蔵条件)にも依存する。大気の相対湿度のコントロールが特定の含水量を調節するのに十分でないことがあるので、これにより均一の医薬品の製剤化が非常に厄介となる。
【0042】
対照的に、本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は均等に迅速に水を吸収し、放出する。よって、その含水量はサンプルを特定の相対湿度で平衡化するだけで調節され得る。
【0043】
その上、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩と比較して低吸湿性である。
【0044】
よって、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は、本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を均一の医薬組成物、特に経口投与のために有効量の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を含む医薬組成物、又は非経口用途に意図されているエラバサイクリン、例えばエラバサイクリン塩酸塩を含む医薬組成物の製造のための、及び/又はその製造のために使用することができる優れた物理化学的特性を有する。更に、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩により、これを含む医薬組成物が貯蔵期間中連続的に高いバイオアベイラビリティーを有することが保証される。更に、本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は、製薬プロセス中の取り扱いがより便利である、例えば化学合成の最終ステップにおける単離がより容易であり、医薬品の製剤化中の取り扱いがより容易であるエラバサイクリンの固体形態である。
【0045】
1つの態様において、本発明は結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩に関する。
【0046】
好ましくは、本発明は、式(II)
【0047】
【化2】
(式中、nは2であり、好ましくはnが1.8~2.2、より好ましくは1.9~2.1の範囲であり、最も好ましくはnが2.0である)
を有する結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩に関する。
【0048】
更なる実施形態において、本発明は、式(II)
【0049】
【化3】
(式中、nは2であり、好ましくはnが1.8~2.2、より好ましくは1.9~2.1の範囲であり、最も好ましくはnが2.0である)
を有する結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩に関し、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は好ましくは溶媒和物又は水和物、より好ましくは不定比水和物である。
【0050】
本発明は、式(III)
【0051】
【化4】
(式中、nは2であり、好ましくはnが1.8~2.2、より好ましくは1.9~2.1の範囲であり、最も好ましくはnが2.0であり、mは約0.0~9.0の範囲である)
を有する結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩にも関する。
【0052】
好ましい実施形態では、本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は、0.15419nmの波長のCu-Kα1,2線を用いて室温で測定したとき、好ましくは30%の相対湿度で測定したとき、
(a)(5.6±0.2)°及び(8.6±0.2)°;又は
(b)(5.6±0.2)°、(6.0±0.2)°及び(8.6±0.2)°;又は
(c)(5.6±0.2)°、(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°及び(8.6±0.2)°;又は
(d)(5.6±0.2)°、(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°及び(8.6±0.2)°;又は
(e)(5.6±0.2)°、(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°、(8.6±0.2)°及び(12.1±0.2)°;又は
(f)(5.6±0.2)°、(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°、(8.6±0.2)°、(12.1±0.2)°及び(26.3±0.2)°;又は
(g)(5.6±0.2)°、(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°、(8.6±0.2)°、(12.1±0.2)°、(26.3±0.2)°及び(26.9±0.2)°;又は
(h)(5.6±0.2)°、(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°、(8.6±0.2)°、(11.5±0.2)°、(12.1±0.2)°、(26.3±0.2)°及び(26.9±0.2)°;又は
(i)(5.6±0.2)°、(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°、(8.6±0.2)°、(11.5±0.2)°、(12.1±0.2)°、(14.3±0.2)°、(26.3±0.2)°及び(26.9±0.2)°;又は
(j)(5.6±0.2)°、(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°、(8.6±0.2)°、(11.5±0.2)°、(12.1±0.2)°、(14.3±0.2)°、(15.2±0.2)°、(26.3±0.2)°及び(26.9±0.2)°;
(k)(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°、(8.6±0.2)°、(12.1±0.2)°、(26.3±0.2)°及び(26.9±0.2)°;
(l)(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°、(8.6±0.2)°、(12.1±0.2)°及び(26.3±0.2)°;
(m)(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°、(8.6±0.2)°及び(12.1±0.2)°;
(n)(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°及び(8.6±0.2)°;
(o)(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°、(8.6±0.2)°、(12.1±0.2)°、(26.3±0.2)°及び(26.9±0.2)°;
(p)(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°、(8.6±0.2)°、(12.1±0.2)°及び(26.3±0.2)°;
(q)(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°、(8.6±0.2)°及び(12.1±0.2)°;
(r)(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°及び(8.6±0.2)°;
から選択される2θ角に反射を含む粉末X線回折図を有することを特徴とし得る。
【0053】
或いは、本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は、0.15419nmの波長を有するCu-Kα
1,2線を用いて室温で測定したとき、好ましくは30%の相対湿度で測定したとき、本発明の
図1に示すものと本質的に同一の粉末X線回折図を有することを特徴とし得る。
【0054】
好ましい実施形態では、本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は、本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の重量に基づいて多くとも20重量%、好ましくは多くとも10重量%、より好ましくは多くとも5重量%、更により好ましくは多くとも2重量%、最も好ましくは多くとも1重量%の他の物理的形態のエラバサイクリンビス塩酸塩を含む。最も好ましくは、他の物理的形態のエラバサイクリンビス塩酸塩は非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩である。
【0055】
或いは又は加えて、本発明は、約25~30%の範囲の相対湿度及び25℃で平衡化した後、25~170℃の範囲の温度及び10K/分の加熱速度での熱重量分析により分析したとき、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の重量に基づいて10.0~10.5重量%、好ましくは10.2~10.4重量%の範囲の質量損失を示すことを特徴する結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩に関する。
【0056】
或いは又は加えて、本発明は、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を約25~30%の範囲の相対湿度及び室温で平衡化したとき、カールフィッシャー電量分析により測定して、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の重量に基づいて約10.0~10.5重量%、好ましくは約10.2~10.4重量%の範囲の含水量を有することを特徴とする結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩に関する。
【0057】
本発明は、約0~90%の範囲の相対湿度及び25.0±0.1℃で平衡化したとき、カールフィッシャー電量分析により測定して、約0.0~約20.1%の範囲の含水量を有することを特徴とする結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩にも関する。
【0058】
好ましくは、本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は不定比水和物である。
【0059】
更なる実施形態では、本発明は、10K/分の加熱速度で測定したとき、約35~170℃の温度範囲に吸熱ピークを含み、前記ピークは好ましくは前記温度範囲に亘って広がっている幅広ピークである示差走査熱量測定曲線を示すことを特徴とする結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩に関する。
【0060】
本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は、更にニードル、ラス及び/又はカラム形状の結晶を含むことを特徴とする。
【0061】
好ましい実施形態では、本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は、30μm以下、好ましくは20μm以下、例えば10μm以下の長さを有することを特徴とするニードル、ラス及び/又はカラム形状結晶を含む。
【0062】
本発明は、組成物の全重量に基づいて少なくとも90重量%の本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を含む組成物にも関する。好ましくは、組成物は、組成物の全重量に基づいて5重量%未満の非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩、例えば2重量%未満の非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を含む。
【0063】
本発明は、組成物の全重量に基づいて少なくとも95重量%の本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を含む組成物にも関する。好ましくは、組成物は、組成物の全重量に基づいて4重量%未満の非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩、例えば2重量%未満の非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を含む。
【0064】
更なる態様において、本発明は、本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の製造方法に関し、その方法は、
(i)エラバサイクリンビス塩酸塩、及びケトン及びエーテルの群から選択される少なくとも1つの有機貧溶媒を含み、少なくとも0.1の水分活性を有する水溶液を用意し;
(ii)ステップ(i)で用意した溶液に本発明のエラバサイクリンビス塩酸塩種結晶を添加し、溶解しているエラバサイクリンビス塩酸塩を結晶化させ;
(iii)任意に、ステップ(ii)で得た懸濁液に追加の貧溶媒を添加し;
(iv)任意に、(ii)又は(iii)で得た結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の少なくとも一部をその母液から分離し;
(v)任意に、ステップ(iv)で得た単離結晶を洗浄し;
(vi)任意に、ステップ(ii)~(v)のいずれか1つで得たエラバサイクリンビス塩酸塩結晶を乾燥する;
ことを含む。
【0065】
ステップ(i)のエラバサイクリンビス塩酸塩を含む水溶液は、非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を水性溶媒中に溶解させることにより、又はその場でエラバサイクリンビス塩酸塩を得るためにエラバサイクリン遊離塩基を水性溶媒の存在下で塩酸と反応させることにより製造され得る。後者の場合、遊離塩基を少なくとも1.7モル当量、好ましくは少なくとも2.0当量、例えば少なくとも2.2当量の塩酸と反応させる。好ましくは、反応のために水性塩酸を使用する。溶液は室温又は高温で、最も好ましくは室温で調製され得る。
【0066】
出発物質として使用され得る非晶質エラバサイクリン遊離塩基及び非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩はいずれも、例えばRonnら,“Process R&D of Eravacycline:The First Fully Synthetic Fluorocycline in Clinical Development”,Org.Process Res.Dev.,2013,17,838-845に開示されている手順に従って製造され得る(化合物7はエラバサイクリン遊離塩基に対応し、化合物7・2HClはエラバサイクリンビス塩酸塩に対応する)。
【0067】
ステップ(i)の水溶液の最終エラバサイクリンビス塩酸塩濃度は、好ましくは約5~50g/L、より好ましくは約5~25g/L、最も好ましくは約5~15g/Lの範囲である。
【0068】
少なくとも1つの有機貧溶媒はケトン及びエーテルの群から選択され得る。有利に使用され得る適当な貧溶媒の具体例はアセトン及び1,2-ジメトキシエタンであり、アセトンが好ましい。
【0069】
その後、結晶化を開始するためにエラバサイクリンビス塩酸塩の種結晶を溶液に添加する。種結晶は本明細書の実施例2に記載されている手順に従って製造され得る。
【0070】
最初の種結晶の作成は非常に厄介であった。最初の結晶質物質が得られた実施例2の方法の以前には、エラバサイクリンビス塩酸塩の種結晶を作成するための多くの他の各種方法は失敗した。手に入れた結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を用いて、種結晶は本明細書の実施例1に開示されている手順に従っても作成され得る。
【0071】
使用される種結晶の量は、ステップ(i)で用意した水溶液中に存在するエラバサイクリンビス塩酸塩の量に基づいて好ましくは1~10重量%、より好ましくは2~5重量%の範囲である。
【0072】
種結晶を入れた後、混合物に攪拌期間を設けることが好ましい。攪拌期間は、非限定的に例示されるかき混ぜ、攪拌、混合、振とう、振動、音波処理、湿式ミリング等により生ずる溶媒中に懸濁している固体物質の運動を包含し、好ましくは室温で実施される。通常、懸濁液を好ましくは1~48時間、より好ましくは2~24時間、最も好ましくは3~12時間の範囲の期間攪拌する。
【0073】
任意に、後続のステップでは、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の収率を上げるために懸濁液に少なくとも1つの追加貧溶媒を添加してもよい。少なくとも1つの追加貧溶媒はステップ(i)で用意した最初の溶液中にすでに使用したものと同一であることが好ましい。
【0074】
任意に、後続のステップでは、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の少なくとも一部をその母液から分離する。好ましくは、エラバサイクリンビス塩酸塩結晶をその母液から濾過、遠心、溶媒蒸発又はデカンテーションのような常法により、より好ましくは濾過又は遠心により、最も好ましくは濾過により分離する。
【0075】
任意に、更なるステップでは、単離した結晶を適当な溶媒で洗浄する。適当な溶媒はアセトン及び1,2-ジメトキシエタンからなるが、これらに限定されない。
【0076】
得られた結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩結晶を任意に乾燥させてもよい。乾燥は約40℃以下、好ましくは約30℃以下の温度で実施され得、最も好ましくは乾燥を室温で実施される。乾燥は約1~72時間、好ましくは約2~48時間、より好ましくは約4~24時間、最も好ましくは約6~18時間の範囲の期間実施され得る。乾燥は大気圧及び/又は減圧下で実施され得る。好ましくは、乾燥は約100mbar以下、より好ましくは約50mbar以下、最も好ましくは約30mbar以下の圧力下、例えば約20mbar以下の真空下で実施される。
【0077】
上記した方法中ガム状残渣は観察されない。このことは、ガム状物質が反応器壁及び攪拌機に粘着する傾向にあり、収率のロス及びその後の装置の厄介なクリーニング作業をもたらす恐れがあるので有利である。Ronnらによれば、この手順中に観察されるガム状残渣は激しく攪拌しながらエージングすることによってのみ除去され得、これは時間を消費するだけでなく、機械的ストレスのために粒子の形状及びサイズに強く影響を与え、従って物質の単離特性に負の影響を与える。
【0078】
対照的に、本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は良好な濾過特性のような優れた単離特性を示し、単離後容易に乾燥され得る。これは、主に物質のバルクがはっきりしたラス状結晶から構成されている(本明細書中の
図4を参照されたい)という事実による。方法中ガム状物質が避けられるのは、時間及び努力を軽減し、改善された純度及び/又は改善された粉末特性を有する物質が得られるので、有利である。
【0079】
結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は、Ronnらに記載されている物質と比較して物理化学的特性を発揮し、この物理的形態は医薬組成物の製造のために及び/又はその製造において使用するのに好都合である。改善された化学的安定性(本明細書中の比較例2を参照されたい)に加えて、本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は物理的により安定である。例えば、本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は約0~90%の範囲の相対湿度及び25.0±0.1℃にかけられても液化せず、固体状態のままである。対照的に、非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は85%の相対湿度で潮解を示し、この物理的形態の取り扱いがより困難になり、湿度に対する予防策が必要となる。
【0080】
本発明者らは、非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩に関する別の問題を同定した。非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は再び水を放出するよりも早く周囲大気から水を吸収する。非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩のこの特殊な特性のために、その含水量は周囲大気の相対湿度だけでなく、サンプルの前歴(例えば、以前の乾燥及び保存条件)にも依存する。大気の相対湿度のコントロールは特定の含水量を調節するのに十分でないことがあるので、このことから均一の医薬品の製剤化は厄介となる。
図7から分かるように、非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の吸放湿重量測定曲線は明らかなヒステリシスを示す。例えば40%の相対湿度では、含水量は吸湿曲線における約8.9重量%から放湿曲線における14.3%に変化し得る。
【0081】
対照的に、本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は水を等しく急速に吸収し、放出する。よって、その含水量は、単にサンプルを特定相対湿度で平衡化することにより調節され得る。
図6から分かるように、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の吸放湿重量測定曲線は明らかなヒステリシスを示さない。例えば40%の相対湿度では、約13重量%の含水量が吸放湿サイクル中に測定された。結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩のこの独自な特性により、独自の医薬品を簡単に製剤化することができる。
【0082】
その上、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩と比較して低吸湿性である。非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は0から80% RHの吸湿サイクル中約26.1重量%の質量増加を示したのに対して、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の同一の範囲での重量増加は17.7重量%であった。全体として、本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は、例えば保存のために、輸送のために、医薬組成物の製造において中間体として使用するために、又は医薬組成物中の活性医薬成分として使用するために有利な物理化学的特性の組合せを示す。
【0083】
従って、更なる態様において、本発明は、有効量の本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩及び1つ以上の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物に関する。医薬組成物は、好ましくは錠剤又はカプセル剤のような経口固体剤形である。
【0084】
医薬組成物は1つ以上の薬学的に許容される賦形剤及び任意に他の活性医薬成分と一緒に製剤化され得る。薬学的に許容される賦形剤は例えばヨーロッパ薬局方(Ph.Eur.)から公知の物質に関する。使用され得る薬学的に許容される賦形剤は、例えば担体、フィラー、希釈剤、滑沢剤、甘味剤、安定化剤、可溶化剤、抗酸化剤及び保存剤、着香剤、結合剤、着色剤、浸透剤、緩衝剤、界面活性剤、崩壊剤、造粒剤、コーティング材及びその組合せの群から選択される。
【0085】
本発明の医薬組成物は湿式又は乾式加工法により製造され得る。特定の実施形態では、医薬組成物は湿式加工法により製造され、これらの方法には湿式造粒法が含まれるが、これに限定されない。適当な湿式造粒方法は高剪断造粒又は流動床造粒を含む。別の実施形態では、医薬組成物は、非限定的に例示される直接圧縮法又は乾式造粒法のような乾式加工法により製造される。乾式造粒の例はローラー圧縮である。乾式又は湿式加工法により得た医薬組成物は錠剤に圧縮され、カプセル封入され、又はサッシェに計量され得る。
【0086】
好ましい実施形態では、本発明は、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩がエラバサイクリン遊離塩基として計算して50mg、60mg、70mg、80mg、90mg、100mg、110mg、120mg、130mg、140mg、150mg、160mg、170mg、180mg、190mg、200mg、210mg、220mg、230mg、240mg、250mg、260mg、270mg、280mg、290mg、300mg、350mg、400mg、450mg又は500mgの用量で存在している上記した医薬組成物に関する。
【0087】
更なる好ましい実施形態では、本発明は、医薬組成物を1日1回又は2日に1回投与する上記した医薬組成物に関する。
【0088】
好ましくは、本発明は、医薬組成物を何も食べずに投与する上記した医薬組成物に関する。
【0089】
さらに別の態様において、本発明は、エラバサイクリンを含む医薬組成物を製造するための本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の使用に関する。好ましくは、本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は、非経口用途に意図されているエラバサイクリン、例えばエラバサイクリン塩酸塩を含む医薬組成物を製造するための方法において使用され得る。好ましくは、本発明の非経口用途に意図されている医薬組成物は輸液用粉末であり、最も好ましくは輸液用凍結乾燥粉末である。当業者は、輸液用凍結乾燥粉末は通常本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩そのものを含んでいないが、本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は前に中間体として、又はエラバサイクリンを含む輸液用凍結乾燥粉末を作成するための方法のための出発物質として使用されることを認識している。
【0090】
よって、更なる態様において、本発明は、非経口用途に意図されているエラバサイクリンを含む医薬組成物の製造方法に関し、その方法は、
(i)本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩及び任意に糖及び/又は糖アルコールの群から選択される少なくとも1つの安定剤を用意するステップ;
(ii)ステップ(i)で用意した結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩及び任意の少なくとも1つの安定剤を水を含む溶媒中に溶解又は懸濁させるステップ;
(iii)ステップ(ii)で得た溶液又は懸濁液のpHを少なくとも1つの酸又は塩基を添加することにより調節するステップ;
(iv)任意に、ステップ(iii)で得た溶液又は懸濁液を濾過するステップ;
(v)ステップ(ii)~(iv)のいずれか1つで得た溶液又は懸濁液を凍結乾燥して、エラバサイクリンを含む医薬組成物を得るステップ;
を含む。
【0091】
上記ステップ(i)、(ii)、(iii)、(iv)及び(v)の順序は逐次であり得るが、この方法の変更は当業者の範囲内である。例えば、ステップ(i)及び(ii)の変更では、エラバサイクリンビス塩酸塩を溶解安定剤を含む溶液中に溶解させてもよい。或いは、少なくとも1つの安定剤をエラバサイクリンビス塩酸塩を含む溶液中に溶解させてもよい。
【0092】
上記した方法のステップ(iii)におけるpH調節のための酸の例は塩酸、好ましくは水溶液の形態である。ステップ(iii)におけるpH調節のための塩基の例は水酸化ナトリウム、好ましくは水溶液の形態である。
【0093】
1つの態様において、pH環境は3.0~7.0、例えば約4.0~約5.0、又は約4.2~約4.8のpH値である。
【0094】
安定剤は、好ましくは糖のような炭水化物である。好ましい糖には、単糖類及び二糖類、より好ましくはマンノースやグルコースのような単糖類、及びラクトースやスクロースのような二糖類が含まれる。安定化糖はD-グルコースやL-グルコースのような各種エナンチオマー、及び/又は各種固体形態として用意され得る。例えば、ラクトースには、ラクトースの各種固体形態、例えば無水ラクトース、ラクトース一水和物、又はラクトースの別の水和物又は溶媒和物形態が含まれる。
【0095】
上記方法のステップ(i)において安定剤として添加され得る糖の例はラクトース、好ましくはラクトース一水和物てある。上記方法のステップ(i)において安定剤として添加され得る糖アルコールの例はマンニトールである。
【0096】
凍結乾燥粉末又はケーキ中の安定剤、例えばラクトースに対するエラバサイクリンの好ましいモル比は1.0(エルバサイクリン):0.3(安定剤)~1:4である。安定剤に対するエラバサイクリンのモル比は1.0:1.0~1.0:3.0の範囲でもあり得る。
【0097】
本発明の医薬組成物を製造するための方法の1例では、溶液を形成するために結晶質エラバサイクリン二塩酸塩を水に溶解させる。その後、この溶液のpHを酸又は緩衝液を添加することによりpH約4.0~約5.0とする。その後、安定剤、例えばラクトースのような炭水化物を溶液に溶解させ、溶液を濾過、例えば滅菌濾過し、凍結乾燥して、凍結乾燥した粉末又はケーキを得る。
【0098】
本発明の医薬組成物を製造するための方法の別の例では、ラクトース、例えば106mgのラクトース一水和物を水に溶解し、窒素をパージしながら2~8℃に冷却する。本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を冷却ラクトース溶液中に溶解して、溶液を形成する。その後、溶液のpHを4.0~5.5、例えば4.9のpHが得られるように塩酸を添加することにより低下させる。次いで、pH調節した溶液を滅菌濾過する。次いで、1バイアル当たり約3.5mLの溶液(53mgのエラバサイクリンビス塩酸塩を含む)を凍結乾燥バイアルに充填する。次いで、含水量が低く、例えば多くとも1% w/wになるまで、凍結乾燥を-40℃以下の温度で実施する。バイアルに窒素を約500mbarまで充填した後、本質的に溶出性亜鉛を含有していない薬学的に許容されるストッパーで閉じ、次いでクリンピングキャップでクリンプする。
【0099】
更なる態様において、本発明は、上記した方法により得られ得るか又は得られる、好ましくは上記した方法に従って製造される医薬組成物に関する。
【0100】
本発明の医薬組成物には、例えば生理食塩水を用いて再構成することにより凍結乾燥物から作成した溶液も含まれる。本発明の非経口用途に意図されている医薬組成物は、好ましくは注射用塩化ナトリウム(例えば、9mg/mL(0.9%))溶液、注射用デキストロース(例えば、50mg/mL(5%))溶液、又は注射用乳酸リンゲル液を用いて再構成した後、静脈注射により投与される。
【0101】
本発明は更に、薬剤として使用するための、特にグラム陰性又はグラム陽性菌、特に多剤耐性グラム陰性菌に起因する細菌性感染症の治療及び/又は予防に使用するための本発明の医薬組成物に関する。本発明の医薬組成物は、例えば複雑性腹腔内及び複雑性尿路感染症の治療及び/又は予防に適している。
【0102】
実施形態
本発明の態様、有利な特徴及び好ましい実施形態を以下の項目に要約する:
1) 結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0103】
2) 式(II)
【0104】
【化5】
(式中、nは1.8~2.2の範囲である)
を有する結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0105】
3) 式(II)
【0106】
【化6】
(式中、nは1.9~2.1の範囲である)
を有する結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0107】
4) 式(II)
【0108】
【化7】
(式中、nは2.0である)
を有する結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0109】
5) 結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩が溶媒和物である、項目1~4のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0110】
6) 結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩が水和物である、項目1~4のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0111】
7) 式(III)
【0112】
【化8】
(式中、nは1.8~2.2の範囲であり、mは0.0~9.0の範囲である)
を有する結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0113】
8) 式(III)
【0114】
【化9】
(式中、nは1.9~2.1の範囲であり、mは0.0~9.0の範囲である)
を有する結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0115】
9) 式(III)
【0116】
【化10】
(式中、nは2.0であり、mは0.0~9.0の範囲である)
を有する結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0117】
10) 0.15419nmの波長を有するCu-Kα1,2線を用いて20~30℃の範囲の温度で測定したとき、(5.6±0.2)°及び(8.6±0.2)°の2θ角に反射を含む粉末X線回折図を有する、項目1~9のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0118】
11) 0.15419nmの波長を有するCu-Kα1,2線を用いて20~30℃の範囲の温度で測定したとき、(5.6±0.2)°、(6.0±0.2)°及び(8.6±0.2)°の2θ角に反射を含む粉末X線回折図を有する、項目1~9のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0119】
12) 0.15419nmの波長を有するCu-Kα1,2線を用いて20~30℃の範囲の温度で測定したとき、(5.6±0.2)°、(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°及び(8.6±0.2)°の2θ角に反射を含む粉末X線回折図を有する、項目1~9のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0120】
13) 0.15419nmの波長を有するCu-Kα1,2線を用いて20~30℃の範囲の温度で測定したとき、(5.6±0.2)°、(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°及び(8.6±0.2)°の2θ角に反射を含む粉末X線回折図を有する、項目1~9のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0121】
14) 0.15419nmの波長を有するCu-Kα1,2線を用いて20~30℃の範囲の温度で測定したとき、(5.6±0.2)°、(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°、(8.6±0.2)°、(12.1±0.2)°及び(26.3±0.2)°の2θ角に反射を含む粉末X線回折図を有する、項目1~9のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0122】
15) 0.15419nmの波長を有するCu-Kα1,2線を用いて20~30℃の範囲の温度で測定したとき、(5.6±0.2)°、(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°、(8.6±0.2)°、(12.1±0.2)°、(26.3±0.2)°及び(26.9±0.2)°の2θ角に反射を含む粉末X線回折図を有する、項目1~9のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0123】
16) 0.15419nmの波長を有するCu-Kα1,2線を用いて20~30℃の範囲の温度で測定したとき、(5.6±0.2)°、(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°、(8.6±0.2)°、(11.5±0.2)°、(12.1±0.2)°、(26.3±0.2)°及び(26.9±0.2)°の2θ角に反射を含む粉末X線回折図を有する、項目1~9のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0124】
17) 0.15419nmの波長を有するCu-Kα1,2線を用いて20~30℃の範囲の温度で測定したとき、(5.6±0.2)°、(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°、(8.6±0.2)°、(11.5±0.2)°、(12.1±0.2)°、(14.3±0.2)°、(26.3±0.2)°及び(26.9±0.2)°の2θ角に反射を含む粉末X線回折図を有する、項目1~9のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0125】
18) 0.15419nmの波長を有するCu-Kα1,2線を用いて20~30℃の範囲の温度で測定したとき、(5.6±0.2)°、(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°、(8.6±0.2)°、(11.5±0.2)°、(12.1±0.2)°、(14.3±0.2)°、(15.2±0.2)°、(26.3±0.2)°及び(26.9±0.2)°の2θ角に反射を含む粉末X線回折図を有する、項目1~9のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0126】
19) 0.15419nmの波長を有するCu-Kα1,2線を用いて20~30℃の範囲の温度で測定したとき、(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°、(8.6±0.2)°、(12.1±0.2)°、(26.3±0.2)°及び(26.9±0.2)°の2θ角に反射を含む粉末X線回折図を有する、項目1~9のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0127】
20) 0.15419nmの波長を有するCu-Kα1,2線を用いて20~30℃の範囲の温度で測定したとき、(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°、(8.6±0.2)°、(12.1±0.2)°及び(26.3±0.2)°の2θ角に反射を含む粉末X線回折図を有する、項目1~9のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0128】
21) 0.15419nmの波長を有するCu-Kα1,2線を用いて20~30℃の範囲の温度で測定したとき、(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°、(8.6±0.2)°及び(12.1±0.2)°の2θ角に反射を含む粉末X線回折図を有する、項目1~9のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0129】
22) 0.15419nmの波長を有するCu-Kα1,2線を用いて20~30℃の範囲の温度で測定したとき、(6.0±0.2)°、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°及び(8.6±0.2)°の2θ角に反射を含む粉末X線回折図を有する、項目1~9のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0130】
23) 0.15419nmの波長を有するCu-Kα1,2線を用いて20~30℃の範囲の温度で測定したとき、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°、(8.6±0.2)°、(12.1±0.2)°、(26.3±0.2)°及び(26.9±0.2)°の2θ角に反射を含む粉末X線回折図を有する、項目1~9のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0131】
24) 0.15419nmの波長を有するCu-Kα1,2線を用いて20~30℃の範囲の温度で測定したとき、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°、(8.6±0.2)°、(12.1±0.2)°及び(26.3±0.2)°の2θ角に反射を含む粉末X線回折図を有する、項目1~9のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0132】
25) 0.15419nmの波長を有するCu-Kα1,2線を用いて20~30℃の範囲の温度で測定したとき、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°、(8.6±0.2)°及び(12.1±0.2)°の2θ角に反射を含む粉末X線回折図を有する、項目1~9のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0133】
26) 0.15419nmの波長を有するCu-Kα1,2線を用いて20~30℃の範囲の温度で測定したとき、(7.1±0.2)°、(7.6±0.2)°及び(8.6±0.2)°の2θ角に反射を含む粉末X線回折図を有する、項目1~9のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0134】
27) 0.15419nmの波長を有するCu-Kα
1,2線を用いて20~30℃の範囲の温度で測定したとき、本発明の
図1に示すものと本質的に同一の粉末X線回折図を有する、項目1~9のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0135】
28) 粉末X線回折図が0.15419nmの波長を有するCu-Kα1,2線を用いて20~30℃の範囲の温度及び30%の相対湿度で測定されている、項目10~27のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0136】
29) 結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の重量に基づいて多くとも20重量%の他の物理的形態のエラバサイクリンビス塩酸塩を含む、項目1~28のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0137】
30) 結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の重量に基づいて多くとも10重量%の他の物理的形態のエラバサイクリンビス塩酸塩を含む、項目1~28のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0138】
31) 結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の重量に基づいて多くとも5重量%の他の物理的形態のエラバサイクリンビス塩酸塩を含む、項目1~28のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0139】
32) 結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の重量に基づいて多くとも2重量%の他の物理的形態の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を含む、項目1~28のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0140】
33) 結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の重量に基づいて多くとも1重量%の他の物理的形態のエラバサイクリンビス塩酸塩を含む、項目1~28のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0141】
34) 他の物理的形態のエラバサイクリンビス塩酸塩が非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩である、項目29~33のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0142】
35) 結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を25~30%の範囲の相対湿度及び25℃の温度で平衡化し、質量損失を25~170℃の範囲の温度及び10K/分の加熱速度で熱重量分析により測定したとき、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の重量に基づいて10.0~10.5重量%の範囲の質量損失を示す、項目1~34のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0143】
36) 結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を25~30%の範囲の相対湿度及び25℃の温度で平衡化し、質量損失を25~170℃の範囲の温度及び10K/分の加熱速度で熱重量分析により測定したとき、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の重量に基づいて10.2~10.4重量%の範囲の質量損失を示す、項目1~34のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0144】
37) 結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を25~30%の範囲の相対湿度及び25℃の温度で平衡化し、質量損失を25~170℃の範囲の温度及び10K/分の加熱速度で熱重量分析により測定したとき、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の重量に基づいて10.3重量%の質量損失を示す、項目1~34のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0145】
38) 25~30%の範囲の相対湿度及び25℃の温度で平衡化した、含水量をカールフィッシャー電量分析により測定したとき、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の重量に基づいて10.0~10.5重量%の範囲の含水量を有する、項目1~37のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0146】
39) 25~30%の範囲の相対湿度及び25℃の温度で平衡化し、含水量をカールフィッシャー電量分析により測定したとき、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の重量に基づいて10.2~10.4重量%の範囲の含水量を有する、項目1~27のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0147】
40) 25~30%の範囲の相対湿度及び25℃の温度で平衡化し、含水量をカールフィッシャー電量分析により測定したとき、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の重量に基づいて10.3重量%の含水量を有する、項目1~27のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0148】
41) 0~90%の範囲の相対湿度及び25.0±0.1℃で平衡化し、含水量をカールフィッシャー電量分析により測定したとき、0.0%~20.1%の範囲の含水量を有する、項目1~40のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0149】
42) 10K/分の加熱速度で測定したとき、約35~170℃の温度範囲に広がる吸熱ピークを含む示差走査熱量測定曲線を示す、項目1~41のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0150】
43) ニードル、ラス及び/又はカラムの形状を有する結晶を含む、項目1~42のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0151】
44) 結晶が30μm以下の長さを有する、項目43に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0152】
45) 結晶が20μm以下の長さを有する、項目43に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0153】
46) 結晶が10μm以下の長さを有する、項目43に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩。
【0154】
47) 組成物の全重量に基づいて少なくとも90重量%の項目1~46のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を含む組成物。
【0155】
48) 組成物の全重量に基づいて5重量%未満の非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を含む、項目47の組成物。
【0156】
49) 組成物の全重量に基づいて2重量%未満の非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を含む、項目47の組成物。
【0157】
50) 組成物の全重量に基づいて少なくとも95重量%の項目1~46のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を含む組成物。
【0158】
51) 組成物の全重量に基づいて4重量%未満の非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を含む、項目50の組成物。
【0159】
52) 組成物の全重量に基づいて2重量%未満の非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を含む、項目50の組成物。
【0160】
53)(i)水及び1つの有機貧溶媒中でエラバサイクリンビス塩酸塩の水溶液を用意し、該水溶液が少なくとも0.1の水分活性を有するステップ;及び
(ii)ステップ(i)で用意した水溶液に項目1~46のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩種結晶を添加するステップ;
を含む項目1~46のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の製造方法。
【0161】
54) ステップ(i)で用意した水溶液のエラバサイクリンビス塩酸塩濃度が5~50g/Lの範囲である、項目53に記載の方法。
【0162】
55) ステップ(i)で用意した水溶液のエラバサイクリンビス塩酸塩濃度が5~25g/Lの範囲である、項目53に記載の方法。
【0163】
56) ステップ(i)で用意した水溶液のエラバサイクリンビス塩酸塩濃度が5~15g/Lの範囲である、項目53に記載の方法。
【0164】
57) 少なくとも1つの有機貧溶媒がケトン及びエーテルの群から選択される、項目53~56のいずれか1項に記載の方法。
【0165】
58) ケトンがアセトンである、項目57に記載の方法。
【0166】
59) エーテルが1,2-ジメトキシエタンである、項目57に記載の方法。
【0167】
60) ステップ(ii)で適用する種結晶の量がステップ(i)で用意した水溶液中に存在するエラバサイクリンビス塩酸塩の量に基づいて1~10重量%の範囲である、項目53~59のいずれか1項に記載の方法。
【0168】
61) ステップ(ii)で適用する種結晶の量がステップ(i)で用意した水溶液中に存在するエラバサイクリンビス塩酸塩の量に基づいて2~5重量%の範囲である、項目53~59のいずれか1項に記載の方法。
【0169】
62) 更に、ステップ(ii)で得た懸濁液に少なくとも1つの貧溶媒を添加するステップ(iii)を含む、項目53~61のいずれか1項に記載の方法。
【0170】
63) 少なくとも1つの貧溶媒が有機貧溶媒である、項目62に記載の方法。
【0171】
64) 有機貧溶媒がケトン及びエーテルの群から選択される、項目63に記載の方法。
【0172】
65) ケトンがアセトンである、項目64に記載の方法。
【0173】
66) エーテルが1,2-ジメトキシエタンである、項目64に記載の方法。
【0174】
67) ステップ(iii)における少なくとも1つの貧溶媒及びステップ(ii)における少なくとも1つの有機貧溶媒が同一である、項目62~66のいずれか1項に記載の方法。
【0175】
68) 更に、項目1~46のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の少なくとも一部をその母液から分離することを含む、項目53~67のいずれか1項に記載の方法。
【0176】
69) 結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩をその母液から濾過、遠心、デカンテーション又は溶媒蒸発により分離する、項目68に記載の方法。
【0177】
70) 結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩をその母液から濾過又は遠心により分離する、項目68に記載の方法。
【0178】
71) 更に、単離したエラバサイクリンビス塩酸塩結晶を洗浄することを含む、項目68~70のいずれか1項に記載の方法。
【0179】
72) 更に、エラバサイクリンビス塩酸塩結晶を乾燥させることを含む、項目53~71のいずれか1項に記載の方法。
【0180】
73) 乾燥を40℃以下の温度で実施する、項目72に記載の方法。
【0181】
74) 乾燥を30℃以下の温度で実施する、項目72に記載の方法。
【0182】
75) 乾燥を20~30℃の範囲の温度で実施する、項目72に記載の方法。
【0183】
76) 乾燥を1~72時間の範囲の期間実施する、項目72~75のいずれか1項に記載の方法
77) 乾燥を2~48時間の範囲の期間実施する、項目72~75のいずれか1項に記載の方法。
【0184】
78) 乾燥を4~24時間の範囲の期間実施する、項目72~75のいずれか1項に記載の方法。
【0185】
79) 乾燥を6~18時間の範囲の期間実施する、項目72~75のいずれか1項に記載の方法。
【0186】
80) 項目1~46のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の医薬組成物の製造のための使用。
【0187】
81) 医薬組成物が経口用途又は非経口用途に意図されている、項目70に記載の使用。
【0188】
82) 有効量の項目1~46のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩又は項目47~52のいずれか1項に記載の組成物、及び少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
【0189】
83) 少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤が担体、フィラー、希釈剤、滑沢剤、甘味剤、安定化剤、可溶化剤、抗酸化剤及び保存剤、着香剤、結合剤、着色剤、浸透剤、緩衝剤、界面活性剤、崩壊剤、造粒剤、コーティング材及びその組合せの群から選択される、項目82に記載の医薬組成物。
【0190】
84) 湿式加工法により製造される、項目82又は83に記載の医薬組成物。
【0191】
85) 乾式加工法により製造される、項目82又は83に記載の医薬組成物。
【0192】
86) 経口固体剤形である、項目82~85のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【0193】
87) 錠剤又はカプセル剤である、項目86に記載の医薬組成物。
【0194】
88) エラバサイクリンビス塩酸塩がエラバサイクリン遊離塩基として計算して50mg、60mg、70mg、80mg、90mg、100mg、110mg、120mg、130mg、140mg、150mg、160mg、170mg、180mg、190mg、200mg、210mg、220mg、230mg、240mg、250mg、260mg、270mg、280mg、290mg、300mg、350mg、400mg、450mg、又は500mgの用量で存在している、項目82~87のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【0195】
89) 医薬組成物を1日1回投与する、項目82~88のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【0196】
90) 医薬組成物を2日に1回投与する、項目82~89のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【0197】
91) 医薬組成物を何も食べずに投与する、項目82~90のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【0198】
92) エラバサイクリンを含む医薬組成物を製造するための、項目1~46のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の使用、又は項目47~52のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【0199】
93) エラバサイクリンを含む医薬組成物がエラバサイクリン塩酸塩を含む医薬組成物である、項目92に記載の使用。
【0200】
94) 医薬組成物が非経口用途に意図されており、特に医薬組成物は点滴用注射のための粉末である、項目92又は93に記載の使用。
【0201】
95) 医薬組成物が点滴用注射のための凍結乾燥粉末である、項目92~94のいずれか1項に記載の使用。
【0202】
96)(i)項目1~46のいずれか1項に記載の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩又は項目47~52のいずれか1項に記載の組成物、及び任意に糖及び/又は糖アルコールの群から選択される少なくとも1つの安定剤を用意し;
(ii)ステップ(i)で用意した結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩及び任意の少なくとも1つの安定剤を水を含む溶媒中に溶解又は懸濁し;
(iii)ステップ(ii)で得た溶液又は懸濁液のpHを少なくとも1つの酸又は塩基を添加することにより調節し;
(iv)任意に、ステップ(iii)で得た溶液又は懸濁液を濾過し;
(v)ステップ(ii)~(iv)のいずれか1つで得た溶液又は懸濁液を凍結乾燥して、エラバサイクリンを含む医薬組成物を得る;
ことを含む非経口用途医薬組成物の製造方法。
【0203】
97) 糖がラクトースである、項目96に記載の方法。
【0204】
98) 糖がラクトース一水和物である、項目97に記載の方法。
【0205】
99) 糖アルコールがマンニトールである、項目96~98のいずれか1項に記載の方法。
【0206】
100) 項目96~99のいずれか1項に記載の方法により得られ得るか又は得られる医薬組成物。
【0207】
101) 細菌性感染症の治療及び/又は予防に使用するための、項目82~91のいずれか1項又は項目100に記載の医薬組成物。
【0208】
102) 細菌性感染症がグラム陰性菌に起因する、項目101に記載の医薬組成物。
【0209】
103) 細菌性感染症が多剤耐性グラム陰性菌に起因する、項目103に記載の医薬組成物。
【0210】
104) 細菌性感染症が複雑性腹腔内及び複雑性尿路感染症から選択される、項目102~104のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【実施例】
【0211】
以下の非限定的実施例は本発明の好ましい実施形態の例示である。これらは本発明を決して限定すると解釈されるべきでない。
【0212】
粉末X線回折
粉末X線回折を、集光ミラー及び固体PIXcel検出器を有する透過幾何配置のθ/θ結合ゴニオメーター,Cu-Kα1,2線(波長0.15419nm)を備えたPANalytical X’Pert PRO回折計を用いて実施した。
【0213】
回折図を、周囲条件で2°~40°2θの角度範囲において40s/ステップ(255チャネル)で0.013°2θを段階的に適用して、45kVの管電圧及び40mAの管電流で記録した。2θ値の典型的な精度は±0.2°2θ、好ましくは±0.1°2θの範囲である。よって、例えば5.6°2θに現れる結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の回折ピークは、多くのX線回折計において標準条件下で5.4~5.8°2θの範囲、好ましくは5.5~5.7°2θの範囲に現れ得る。測定を室温及び30%の相対湿度で実施した。
【0214】
熱重量分析
熱重量分析をMettler TGA/DSC 1計器を用いて実施した。サンプル(6.67mg)をアルミニウム蓋で閉じた100μLアルミニウムパンにおいて加熱した。測定の開始時に蓋に自動的に穴をあけた。サンプルを10K/分の速度で25から200℃に加熱した。窒素(パージ速度50mL/分)をパージガスとして使用した。
【0215】
示差走査熱量測定
示差走査熱量測定をMettler Polymer DSC R計器を用いて実施した。サンプル(3.02mg)を穴あきアルミニウム蓋を有する40μLアルミニウムパンにおいて10K/分の速度で25から200℃に加熱した。窒素(パージ速度50mL/分)をパージガスとして使用した。
【0216】
カールフィッシャー電量分析
含水量をMetrohm 831 KF電量計を用いて測定した。
【0217】
吸湿重量測定
吸湿等温線を、SPSx-1μ吸湿アナライザー(proUmid,ウルム)を用いて測定した。測定サイクルは25%の周囲相対湿度(RH)で始め、まず5% ステップで5%RH、1ステップで3% RH、更なるステップで0% RHに低下させた。次いで、RHを5% ステップで0%から95%に上昇させた。ステップ当たりの時間を2時間の最短時間、6時間の最長時間に設定した。すべての試験サンプルについて最長時間の前1時間以内に一定質量±0.01%の平衡状態に達したならば、6時間の最長時間の前に連続湿度ステップを適用した。平衡に達しなかったならば、6時間の最長時間後連続的湿度ステップを適用した。温度は25±0.1℃であった。
【0218】
GMS実験の開始時及び各RHステップの終了時に、サンプル中の視覚的変化を検出するために各サンプルの写真を撮影した。写真を、吸湿アナライザーのカバープレートに直接接続させた35mm/F 1.4レンズに取り付けた2046×2046ピクセルCMOSイメージセンサーを用いて撮影した。
【0219】
塩酸塩アッセイ(銀滴定)
エラバサイクリンビス塩酸塩の塩酸塩アッセイを次の手順に従って測定した:
試薬及び装置:
水 蒸留又は脱塩
容量標準物質 塩化ナトリウム
容量液 0.1M 硝酸銀溶液
電極 複合銀電極,Methrom 6.0450.100
計器 Methorom 796チトロプロセッサー、又はMethrom 685 dosimat
【0220】
手順:
0.1M 硝酸銀溶液の係数の決定:
0.01mgに正確に秤量した40~60mgの塩化ナトリウム容量標準物質を滴定容器中の約50mLの水に溶解させる。0.1M 硝酸銀溶液を用いて滴定する。
【0221】
試験溶液:
0.01mgに正確に秤量した140~160mgのエラバサイクリンビス塩酸塩を滴定容器中の約50mLの水に溶解させ、混合する。0.1M 硝酸銀溶液を用いて滴定する。
【0222】
容量液の係数の計算:
【0223】
【数1】
f=容量液の係数
m
R=塩化ナトリウムの初期質量(単位:mg)
C=容量標準物質中の塩化ナトリウムの含量(単位:%)
V
R=塩化ナトリウムの滴定のための容量液の消費(単位:mL)
58.44=塩化ナトリウムの分子量(単位:g/mol)
0.1=容量液のモル濃度
100=%に変換。
【0224】
塩酸塩(HCl)アッセイ(単位:%)の計算:
【0225】
【数2】
m
T=試験したエラバサイクリンビス塩酸塩の初期質量(単位:mg)
V
T=エラバサイクリンビス塩酸塩の滴定のための容量液の消費(単位:mL)
F=容量液の係数
36.46=塩酸塩の分子量(単位:g/mol)
0.1=容量液のモル濃度
100=%に変換。
【0226】
高速液体クロマトグラフィー
計器:ケムステーション付きAgilent HP 1100
カラム:YMC-Pack Pro C18 RS;150×4.6mm;3ミクロン
溶媒:A:水中40mmol アミドスルホン酸
B:75% アセトニトリルを含む水中40mmol アミドスルホン酸
勾配:
【0227】
【0228】
注入量:5μL
流速:0.8mL/分
オーブン温度:40℃
波長:254nm。
【0229】
[実施例1]:結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の製造
Ronnらに従って得た非晶質エラバサイクリン遊離塩基(1.00g,HPLCによると96.8面積%)を水(15mL)中に懸濁させた。濃塩酸(37%水溶液,0.326mL)を添加後、透明な溶液が得られた。溶液が僅かに濁るまで、溶液にアセトン(100mL)を添加した。その後、得られた乳白色溶液に(本明細書の実施例2に従って得た)エラバサイクリンビス塩酸塩種結晶を添加した後、追加のアセトン(86mL)を6時間かけて添加した。生じた懸濁液を室温で24時間攪拌した後、固体を濾過により集め、真空(30mbar)下室温で20時間乾燥して、0.92gの結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を得た。
【0230】
収率:理論値の81%;Cl含量:9.9重量%。
【0231】
実施例1に従って得た結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の粉末X線回折図を
図1に示す。反射リストを対応する相対強度と共に表1に示す。最も特徴的なピークをボールド体で表す。
【0232】
【0233】
熱分析的研究及び含水量
サンプルを約25~30%の相対湿度及び室温で平衡化した後、熱分析的研究及びカールフィッシャー電量分析を実施した。
【0234】
本明細書の実施例1に従って得たエラバサイクリンビス塩酸塩の示差走査熱量曲線は約35~170℃の温度範囲で広い脱水吸熱を示す(本明細書の
図3も参照されたい)。熱重量分析によれば、約10.3重量%(約4モルの水に相当する)が約170℃の温度までに失われた(本明細書の
図2を参照されたい)。カールフィッシャー電量分析によれば、サンプルは10.3重量%の含水量を有していた。
【0235】
吸湿重量分析から、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩が0%の相対湿度で約0重量%の水、90%の相対湿度で約20.1%の水を含有する不定比水和物であることが分かった。サンプルは95%の相対湿度で液化した。
【0236】
[実施例2]:エラバサイクリンビス塩酸塩種結晶の調製
ステップA:
25~0℃の間の温度を循環させながら、非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩(25mg,HPLCによると97.2面積%)を1-プロパノール(0.5mL)中に含む懸濁液を攪拌した。懸濁液をまず25℃で1時間攪拌した後、1時間で0℃に冷却し、0℃で1時間攪拌し、再び1時間で25℃に加熱した。このサイクルを全部で48時間にわたって繰り返した。その後、固体を遠心により単離した。こうして得られたサンプルは偏光顕微鏡検査で非常に弱い複屈折を示した。これは物質の低結晶性のためであった。しかしながら、この物質は、よりもっと結晶質の物質を作成するために使用され得るエラバサイクリンビス塩酸塩の種結晶を含有していた。この物質を更に実施例2Bの手順において種結晶として使用した。
【0237】
ステップB:
非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩(50mg,先のステップAに従って製造した)を0.1M 水性塩酸(0.25mL)中に溶解させた。僅かに濁るまで溶液にアセトン(3mL)を添加した。その後、得られた乳白色溶液にエラバサイクリンビス塩酸塩結晶(本明細書中の実施例2Aに従って得た)を入れ、混合物を0~5℃の温度の冷蔵庫中に120時間保存した。その後、得られた懸濁液に追加のアセトン(6mL)を添加し、更に0~5℃の温度の冷蔵庫中に更に96時間保存した。最後に、アセトン(1mL)を添加した後、得られた固体を濾過により単離し、アセトン(1mL)で洗浄し、乾燥のために室温で3時間放置した。PXRDにより、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩が得られたことが初めて確認された。
【0238】
[参考例1]:非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の製造
非晶質エラバサイクリン遊離塩基(2.00g,例えばRonnらに従って製造した)を0.1M 水性塩酸(80mL)中に含む溶液を水(80mL)で希釈し、凍結乾燥した。生じたふわふわの、静電的に帯電した非晶質粉末をジイソプロピルエーテル(100mL)中に1時間懸濁させ、固体を濾過により集めて、非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を得た。これは粉末X線回折(本明細書中の
図5を参照されたい)により非晶質であると確認された。
【0239】
[比較例1]:吸湿重量測定
本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩及び非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩の両方をSPSx-1μ吸湿アナライザー(ProUmid,ウルム)を用いて吸放湿重量測定実験にかけた。測定サイクルは20%の周囲相対湿度(RH)で始め、RHをまず5%ステップで5% RHに、1つのステップで3% RHに、更なるステップで0% RHに低下させた。次いで、RHを0%から80%に上昇させ、5% ステップで80%から0% RHに低下せた。最後に、相対湿度を約7%ステップの3ステップで20%の周囲相対湿度に上昇させた。
【0240】
1ステップ当たりの時間を最短2時間、最長6時間に設定した。すべての試験サンプルについて最長時間前1時間以内に±0.01%の一定質量の平衡条件に達したら、6時間の最長時間の前に連続的湿度ステップを適用した。平衡に達しなかったら、6時間の最長時間後に連続的な湿度ステップを適用した。温度は(25±0.1)℃であった。
【0241】
図6及び7は、それぞれ0~80%の相対湿度間の吸湿/放湿サイクルを示す。
図7から分かるように、非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は0~80% RHの吸湿サイクルの間約26.1重量%の質量増加を示す。吸収/放湿曲線のヒステリシスは、水を放出するよりも速く水を吸収することを示している。
【0242】
図6によると、本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は0~80% 相対湿度の吸湿サイクル中約17.7重量%の質量増加を示す。非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩とは対照的に、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は吸湿/放湿曲線の間に明らかなヒステリシスを示さず、このことから水が等しく速く吸収され、放出されることが示される。
【0243】
[比較例2]:化学的安定性
本発明の結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩及び非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩を40℃及び75%の相対湿度の加速ストレス条件にかけた。サンプルをガラスバイアル中に蓋を開けて保存し、上記実験欄に記載した方法を用いて254nmで高速液体クロマトグラフィーにより分析した。結果を以下の表2に要約する。
【0244】
【0245】
表2から分かるように、結晶質エラバサイクリンビス塩酸塩は非晶質エラバサイクリンビス塩酸塩よりも化学的に安定である。