(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
A61F 13/511 20060101AFI20220328BHJP
A61F 13/53 20060101ALI20220328BHJP
A61F 13/534 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
A61F13/511 300
A61F13/53 100
A61F13/53 300
A61F13/534 100
A61F13/534 110
(21)【出願番号】P 2019217693
(22)【出願日】2019-12-02
【審査請求日】2019-12-02
【審判番号】
【審判請求日】2021-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2018227309
(32)【優先日】2018-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金田 悠太郎
(72)【発明者】
【氏名】相樂 幸治
【合議体】
【審判長】久保 克彦
【審判官】平野 崇
【審判官】西村 泰英
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-62227(JP,A)
【文献】特開2015-92916(JP,A)
【文献】特開2016-140559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F13/15~13/84
A61L15/16~15/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の股下に装着される吸収性物品であって、
吸収体と、
前記吸収体の前記着用者側の面を覆う液透過性のシートと、
前記吸収体の前記着用者側とは反対側の面を覆う液不透過性のバックシートと、を備え、
前記吸収体は、パルプ量が60g/m
2以上で長手方向に500mm以上、幅方向に100mm以上の大きさ
に形作られるパルプ製のコアを有し、
前記液透過性のシートは、
前記着用者に接触する面の静止摩擦係数が0.59~0.98であり、
前記吸収体を包むコアラップシートの一部と、前記コアラップシートに包まれた前記吸収体を覆うトップシートとを重ねた積層部分を有しており、前記積層部分における各部材の通気抵抗が
0.0352kPa・sec/mより小さい、
吸収性物品。
【請求項2】
前記液透過性のシートは、前記コアラップシートと前記トップシートとの間に1又は複数の所定部材を有し、該所定部材における前記積層部分の通気抵抗がそれぞれ
0.0352kPa・sec/mより小さい、
請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記吸収体は、少なくとも2以上の層を有しており、前記着用者側の層に他の層より多量の高吸収性重合体であるSAPの粒子が含有されている、
請求項1又は2に記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記吸収体は、2以上の層を有しており、少なくとも何れかの層がSAP粒子の層である、
請求項1から3の何れか一項に記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙おむつやパッド、生理用ナプキンといった吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吸収性物品には、例えば、特許文献1に開示されているように、着用者の腹部側と背部側とを結ぶ長手方向に延びる吸収体が設けられている。この吸収体によって、排泄される尿や経血といった液体が吸収される。吸収性物品は、この吸収体を液透過性のトップシートと液不透過性のバックシートとの間に配置することにより、トップシートに排泄される尿を吸収体で吸収し、吸収体で吸収された尿の漏出をバックシートで防ぐ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、トップシートを構成する液透過性の素材としては、例えば、不織布が用いられる。不織布であれば、柔らかい肌触りを実現可能なため、着用者の肌に触れるトップシートの素材として好適である。しかし、着用者から排泄されるものとしては、尿や経血の他に、大便及び水様便がある。大便は大部分が固形物であり、水様便は固形物と液体との混合物である。そして、吸収性物品の吸収体は、固形物を吸収できるものではない。よって、吸収性物品の着用者が大便又は水様便を排泄した場合、当該吸収性物品は交換される。
【0005】
吸収性物品を交換する場合、トップシートに残留する排泄物を吸収性物品から落とさないように交換作業を行う必要がある。しかし、水様便の場合、液体が固形物と混在しているため、尿と比較した場合、トップシートにおける液体の透過に時間を要する。このため、水様便は、尿及び大便と比較した場合、吸収性物品が着用者から取り外された際に漏れ出る可能性が高い。
【0006】
そこで、本発明は、水様便の吸収性を向上可能な吸収性物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明では、吸収体を、パルプ量が60g/m2以上で長手方向に500mm以上、幅方向に100mm以上の大きさのパルプを有するものとし、吸収体の着用者側の面を覆う液透過性のシートを、着用者に接触する面の静止摩擦係数を0.59以上にすると共に、吸収体を包むコアラップシートの一部と、コアラップシートに包まれた吸収体を覆うトップシートとを重ねた積層部分における各部材の通気抵抗を0.0962kPa・sec/mより小さくした。
【0008】
詳細には、本発明は、着用者の股下に装着される吸収性物品であって、吸収体と、吸収体の着用者側の面を覆う液透過性のシートと、を備え、吸収体は、パルプ量が60g/m2以上で長手方向に500mm以上、幅方向に100mm以上の大きさのパルプを有し、液透過性のシートは、着用者に接触する面の静止摩擦係数が0.59以上であり、吸収体を包むコアラップシートの一部と、コアラップシートに包まれた吸収体を覆うトップシートとを重ねた積層部分を有しており、積層部分における各部材の通気抵抗が0.0962
kPa・sec/mより小さい。
【0009】
なお、液透過性のシートは、コアラップシートとトップシートとの間に1又は複数の所定部材を有し、該所定部材における積層部分の通気抵抗がそれぞれ0.0962kPa・sec/mより小さいものであってもよい。
【0010】
また、吸収体は、少なくとも2以上の層を有しており、着用者側の層に他の層より多量の高吸収性重合体であるSAPの粒子が含有されていてもよい。
【0011】
また、吸収体は、2以上の層を有しており、少なくとも何れかの層がSAP粒子の層であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
上記の吸収性物品であれば、水様便の吸収性を向上可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施形態に係るおむつの斜視図である。
【
図3】
図3は、非装着状態におけるおむつを、長手方向の中心を幅方向に沿って切断した場合の断面図である。
【
図4】
図4は、水様便の吸収性を検証する試験の方法を解説した図である。
【
図5】
図5は、検証で用意した試験サンプルのコアラップシートの種類を示した図である。
【
図7】
図7は、通気抵抗の測定結果を示した第1の図である。
【
図8】
図8は、通気抵抗の測定結果を示した第2の図である。
【
図11】
図11は、コアの検証に用いたトップシートとコアラップシートの物性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態に係る吸収性物品について説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本発明はこれらの実施の形態の構成に限定されるものではない。
【0015】
<実施形態>
本実施形態では、テープ型使い捨ておむつ(本願でいう「吸収性物品」の一例であり、以下、単に「おむつ」という)について、着用者の腹部に対向して配置される前身頃と背部に対向して配置される後身頃とを結ぶ方向を長手方向とする。これらの前身頃(長手方向の一側)と後身頃(長手方向の他側)との間(長手方向の中央)には、着用者の股下に配置(股間に対向して配置)される股下部が位置する。また、紙おむつが着用者に装着された状態(以下「装着状態」と略称する)において、着用者の肌に向かう側(装着された状態で内側)を肌面側とし、肌面側の反対側(装着された状態で外側)を非肌面側とする。さらに、肌面側と非肌面側とを結ぶ方向を厚み方向とし、長手方向と厚み方向の何れにも直交する方向を幅方向とする。そのほか、厚み方向から視ることを平面視とする。
【0016】
図1は、本実施形態に係るおむつの斜視図である。おむつ1は、装着状態において着用者の陰部を覆う股下領域に対応する部位である股下領域1Bと、股下領域1Bの前側に位
置し、着用者の前身頃に対応する部位である前身頃領域1Fと、股下領域1Bの後ろ側に位置し、着用者の後身頃に対応する部位である後身頃領域1Rとを有する。後身頃領域1Rの左右両側の縁には、前身頃領域1Fの非肌面側の面に設けられたフロントパッチ2Fへ貼着可能なテープ2L,2Rが設けられている。よって、おむつ1は、前身頃領域1Fが着用者の腹側に配置され、後身頃領域1Rが着用者の背側に配置された状態でテープ2L,2Rがフロントパッチ2Fに貼着されると、着用者の腹囲と大腿部を取り巻く状態で着用者の身体に固定される。おむつ1がこのような形態で着用者の身体に固定されるので、着用者はおむつ1を着用した状態で立ち歩き可能である。
【0017】
おむつ1には、液体を吸収して保持することができるマット6が主に股下領域1B付近を中心に配置されている。また、おむつ1には、おむつ1と着用者の肌との間に液体の流出経路となる隙間が形成されるのを抑制するべく、着用者の大腿部を取り巻く部位に立体ギャザー3BL,3BRが設けられ、着用者の腹囲を取り巻く部位にウェストギャザー3Rが設けられている。立体ギャザー3BL,3BRとウェストギャザー3Rは、糸ゴムの弾性力で着用者の肌に密着する。よって、着用者の陰部から排泄される液体は、おむつ1から殆ど漏出することなくおむつ1のマット6に吸収される。
【0018】
図2は、おむつ1の分解斜視図である。また、
図3は、非装着状態におけるおむつ1を、長手方向の中心を幅方向に沿って切断した場合の断面図である。おむつ1は、装着状態において外表面を形成するカバーシート4を有する。カバーシート4は、長辺に相当する部位に括れ4KL,4KRを設けた略長方形の外観を有するシート状の部材であり、おむつ1の外装面を形成する。括れ4KL,4KRは、着用者の大腿部が位置する箇所に設けられる。カバーシート4は、バックシート5の補強や手触りの向上のために設けられ、例えば、排泄物の漏れを抑制するために、液不透過性の熱可塑性樹脂からなる不織布をその材料として用いることができる。液不透過性の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等が例示できる。カバーシート4は、単層構造に限らず、インナカバーシートおよびアウターカバーシートを有する多層構造であってもよい。
【0019】
そして、おむつ1は、カバーシート4の肌面側の面において順に積層されるバックシート5、マット6、トップシート7を有する。バックシート5、マット6、トップシート7は、何れも略長方形の外観を有するシート状の部材であり、長手方向がカバーシート4の長手方向と一致する状態でカバーシート4に順に積層されている。バックシート5は、カバーシート4と同様に、排泄物の漏れを抑制するために液不透過性の熱可塑性樹脂を材料として形成されたシートである。また、トップシート7は、マット6の吸水面を被覆するように着用者の肌面側に配置される、シート状の部材である。このトップシート7は、その一部又は全部において液透過性を有する。そのため、おむつ1が装着された状態において、着用者から排泄された液体は、着用者の肌に接触し得るトップシート7を通ってマット6に進入し、そこで吸収される。例えば、織布、不織布、多孔質フィルムがトップシート7の材料として材用できる。トップシート7は親水性を有していてもよい。
【0020】
バックシート5、マット6、トップシート7は、何れも前身頃領域1Fから後身頃領域1Rにまで延在する。よって、バックシート5とマット6とトップシート7が積層されているカバーシート4で着用者の陰部を覆うと、バックシート5とマット6とトップシート7の各長手方向の両端部は、着用者の腹側と背側に位置する状態となる。すなわち、着用者の陰部は、着用者の腹側から背側までマット6に覆われる状態となる。したがって、着用者が腹を下へ向けた姿勢と背を下へ向けた姿勢の何れの姿勢で液体を体外へ排泄しても、排泄された液体はトップシート7を介してマット6に接触することになる。
【0021】
また、おむつ1は、上述した立体ギャザー3BL,3BRを形成するための細長い帯状のサイドシート8L,8Rを有する。サイドシート8L,8Rは、トップシート7の長辺
の部分に設けられる液不透過性のシートである。サイドシート8L,8Rには、おむつ1の立体ギャザー3BL,3BRと同様、着用者の大腿部が位置する箇所に括れ8KL,8KRが設けられる。そして、サイドシート8L,8Rには糸ゴム8EL,8ERが長手方向に沿って編み込まれている。よって、サイドシート8L,8Rは、おむつ1が装着状態の形態、すなわち、おむつ1が側面視U字状の形態になると、糸ゴム8EL,8ERの収縮力で長手方向に引き寄せられてトップシート7から立ち上がり、液体の流出を防ぐ立体ギャザーとなる。
【0022】
また、上述したウェストギャザー3Rを形成するための糸ゴム9ERは、マット6の端部よりも更に背側の位置において、バックシート5とトップシート7の間に設けられる。糸ゴム9ERは、伸縮方向となる長手方向がおむつ1の左右方向となる向きでバックシート5とトップシート7の間に設けられる。よって、糸ゴム9ERの左右両側に設けられるテープ2L,2Rが、着用者の腹側においてフロントパッチ2Fに貼着されると、糸ゴム9ERは、収縮力を発揮しておむつ1を着用者に密着させ、おむつ1と着用者の腹囲との間に隙間が形成されるのを防ぐ。なお、カバーシート4にも、おむつ1と着用者の腹囲との間に隙間が形成されるのを防ぐ糸ゴム4SL,4SRが長手方向に沿って設けられている。糸ゴム4SL,4SRは、おむつ1において設計上要求される弾性力(収縮力)などに応じて決定された適宜の本数で適宜の位置に設けられる。
【0023】
マット6は、パルプ繊維、レーヨン繊維、またはコットン繊維のようなセルロース系繊維の短繊維や、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはポリエチレンテレフタレート等の合成繊維に親水化処理を施した短繊維の隙間に、水を吸収し保持することのできる架橋構造を持つ親水性ポリマーであるSAP(高吸収性重合体:Super Absorbent Polymer)等の粒状の吸収性樹脂を保持させた構造を有する。よって、マット6では、液体を吸収する前後の吸収性樹脂の体積変動は、基本的には吸収性樹脂を隙間に保持する短繊維内で行われることになる。したがって、マット6全体を俯瞰してみると、液体を吸収したマット6の厚みの膨張率は、吸収性樹脂自体の膨張率ほど大きくはないと言える。
【0024】
本実施形態のSAP粒子とは、SAPを含む樹脂組成物を粒状としたものを指す。ここで言う「SAPを含む樹脂組成物」とは、SAPのみからなる組成物、SAPを主成分とし、これに吸水性に悪影響を及ぼさない程度に他の物質が含まれた組成物、の双方を包含する概念である。「他の物質」としては、添加剤(粒子表面を疎水化する目的で添加される表面改質剤等)、SAPの合成時に残存した未反応のモノマー等を挙げることができる。
【0025】
ところで、上記実施形態のマット6は、
図3に示すように、粉砕されたパルプ(いわゆる「フラッフパルプ」)にSAPが混合されたコア6C(本願でいう「吸収体」の一例である)をコアラップシート6Wで被包したものである。そして、おむつ1では、コア6Cの肌面側の面(本願でいう「着用者側の面」に相当する)が、コア6Cを包むコアラップシート6Wの一部と、コアラップシート6Wに包まれたコア6Cを覆うトップシート7とを重ねた積層部分によって覆われている。コアラップシート6Wとトップシート7は、何れも液透過性のシートであるため、当該積層部分は液透過性を有する。当該積層部分では、トップシート7とコアラップシート6Wとの間に1又は複数のシート(本願でいう「所定部材」の一例である)が設けられていてもよい。また、コア6Cは、1層構造であってもよいし、或いは、2以上の層を有する複層構造であってもよく、後者の場合には少なくとも何れかの層がSAP粒子で構成される層であってもよい。このようなSAP粒子で構成される層が設けられていれば、着用者から排出される尿や水様便の水分をマット6が速やかに吸収し、水分が着用者の肌に触れる時間を可及的に抑制することができる。コア6Cが、例えば、粉砕されたパルプによって構成される2つの層と、これらの層の間に配置
されるSAP層の計3層構造になっている場合、中間層であるSAP層が上下の層間となるため毛細管現象により水分を拡散させることができ、かつ、当該領域においてSAPによる水分の吸収及び保持が行われることになるので、コア6Cに吸収された水分の逆流による着用者の肌への水分の接触が抑制できる。
【0026】
そして、本実施形態のおむつ1では、コア6Cの肌面側の面を覆うコアラップシート6Wとトップシート7の積層部分において各部材それぞれの通気抵抗が0.0962kPa・sec/mより小さい値となっている。この通気抵抗は、カトーテック株式会社製の通気性試験機(KES-F8-AP1)によって測定される値である。また、本実施形態のおむつ1では、トップシート7表面の静止摩擦係数が0.59以上となっている。このため、本実施形態のおむつ1は、通気抵抗或いは静止摩擦係数がこの範囲外にある比較例のおむつに比べて、水様便が排泄された場合の吸収性が以下のように優れている。
【0027】
<液流れの検証>
図4は、水様便の吸収性を検証する試験の方法を解説した図である。本検証では、マット6に相当する試験サンプルとして、横幅が280mmで長さが560mmのマットを用いた。そして、傾斜角が30度の斜面に、長手方向が斜面の上下方向と一致するような向きでマットを載置し、水様便を模擬した試薬50gを、マットの下端から450mmの位置でマットに落とした。そして、本検証では、水様便を模擬した試薬がマット表面を流れる距離(拡散長さ)と、マットに吸収された量を確認した。本検証では、試薬50gが全てマットに吸収され、更に、拡散長さのより短いものが優れていることになる。
【0028】
本検証では、試験サンプルを10種類用意し、それぞれの吸収性を比較した。10種類の試験サンプルは、コアを包むコアラップシートの種類を互い違いにしたものであり、何れもコアは共通である。コアは、何れもSAPを含有しない目付量260g/cm
2のパルプ(横幅が280mmで長さが560mm)である。
図5は、本検証で用意した試験サンプルのコアラップシートの種類を示した図である。
【0029】
図5では、10種類の試験サンプルのうち、上記実施形態のマット6に相当するものを「実施例1~6」とし、比較例に相当するものを「比較例1~4」としている。
【0030】
実施例1~3及び比較例4では、コアラップシートにエアスルー方式で作成した不織布を用いている。エアスルー方式の不織布は、原料となる繊維をカーディング(開繊)した後に熱風処理で熱融着させることにより形成される。コアラップシートの目付量は、実施例1,3が20.0g/m2であり、実施例2が22.0g/m2であり、比較例4が21.0g/m2である。
【0031】
また、実施例4,5では、コアラップシートにスパンボンド方式で作成した不織布を用いている。コアラップシートの目付量は、実施例4が18.0g/m2であり、実施例5が17.5g/m2である。スパンボンド方式の不織布とは、原料となる繊維をカーディングした後に高圧の水で繊維同士を絡ませてシート化し、乾燥させることにより形成される。
【0032】
また、比較例1~3及び実施例6では、コアラップシートにティッシュを用いている。ティッシュの目付量は、比較例1が19.5g/m2であり、比較例2が16.0g/m2であり、比較例3が14.0g/m2であり、実施例6が14.0g/m2である。
【0033】
また、本検証に用いた試薬は、イオン交換水にベントナイトを入れて撹拌させたものであり、作成後3日以内のものを水様便の模擬品として使用した。試薬は、水分量が重量比で94%である(例えば、1kgの試薬であれば940gの水と60gのベントナイトを
混合して作成される)。
【0034】
これらの10種類の試験サンプルについて、水様便の吸収性を検証したところ、実施例1~6は、何れも比較例1~4より良好な結果が得られた。
図6は、試験結果を示した第1の図である。
図6の「拡散範囲」の欄に示すものは、試験サンプルの表面を撮影した写真である。また、
図6の「拡散長さ」の欄に示すものは、マットの表面における、試薬が落ちた位置から試薬が流れ着いた位置までの距離を表している。また、
図6の「モレ量」の欄に示すものは、マットから漏れた試薬の量を表している。
図6の「モレ量」の欄において「漏れ無し」と記載されているのは、試薬が全てマットに吸収されたことを意味する。
【0035】
図6を見ると判るように、比較例1~4では何れも試薬が450mmよりも長い距離を流れ、試薬がマットの外側へ流出した。一方、実施例1~6では何れも試薬が450mm以内に留まり、試薬がマットの外側へは流出しなかった。特に、エアスルー方式で作成した不織布をコアラップシートに用いた実施例1~3では、試薬が流れた距離が最長でも138mm以内であり、比較例1~4に比べると、水様便の吸収性が著しく高いことが確認された。また、スパンボンド方式で作成した不織布をコアラップシートに用いた実施例4,5についても、実施例1~3よりは劣るが、比較例1~4に比べると、水様便の吸収性が高いことが確認された。また、ティッシュをコアラップシートに用いた実施例6についても、実施例1~3と同様に、水様便の吸収性が著しく高いことが確認された。
【0036】
以下、上記の試験サンプルでコアラップシートとして用いた各素材の物性を確認したので、その確認結果を以下に示す。水様便がマットから流出せずにコアラップシートの表面に留まるか否かは、主に、コアの表面を覆う素材が形成する微細な開口の大きさと、トップシート表面の摩擦係数の2つの要素による影響が大きいと考えられる。そこで、本確認では、開口の大きさに直接的な相関があると考えられる通気度(通気抵抗)、及び、素材表面の摩擦係数の2点について確認を行った。
【0037】
<通気度>
上記の検証では、トップシートを配置しないで試薬をコアラップシートへ直接落とす形態であった。しかし、本確認では、実際の使用形態により近い形態、すなわち、トップシートとコアラップシートの積層部分における各部材それぞれの通気抵抗を確認した。但し、実施例1~6と比較例1~4の各コアラップシートの通気抵抗の違いを比較するのが本確認の目的なので、各コアラップシートに重ねるトップシートとしては、何れも同種の不織布(RNP社製のKNT20)を用いた。通気抵抗は、カトーテック株式会社製の通気性試験機(KES-F8-AP1)を用いて測定した。
図7は、通気抵抗の測定結果を示した第1の図である。また、
図8は、通気抵抗の測定結果を示した第2の図である。
【0038】
図7を見ると判るように、実施例1~6では、何れも積層部分における各部材の通気抵抗が0.0962kPa・sec/mより小さい値となることが確認された。一方、比較例1~3では、何れも通気抵抗が0.0962kPa・sec/m以上となっている。このことから、コアの肌面側の面を覆う液透過性のシートは、少なくとも通気抵抗が0.0962kPa・sec/mより小さければ、トップシートの表面に付着した水様便が当該シートを速やかに透過し、吸収体に吸収されることが判る。また、
図7を見ると判るように、コアの肌面側の面を覆う液透過性のシートは、少なくとも通気抵抗が0.0352kPa・sec/m以下であることがより好ましいことが判る。
【0039】
また、
図8を見ると判るように、コアの肌面側の面を覆う液透過性のシートは、何れも、通気抵抗が0.0050kPa・sec/m以上であれば、SAP漏れが発生しないことが判る。
図8の「SAP漏れ」は、吸収体につながる孔をテープで塞ぎ、長手方向端部
を持ち、拍手する要領で端部同士を合わせたり離したりする動作を3回繰り返し、SAPの粒子が20粒以上こぼれたらSAP漏れがあるとし、19粒以下こぼれたらSAP漏れが無しとした。また、
図8の「強度」は、日衛連規定に基づき適切な体型の被験者に5時間装着させた後、破れの有無を目視で確認した結果である。
【0040】
この確認結果から、上記実施形態のおむつ1のように、吸収体の肌面側の面を覆うコアラップシートとトップシートの積層部分における各部材それぞれの通気抵抗が0.0050~0.0962kPa・sec/mの範囲内の吸収性物品は、この範囲外の吸収性物品に比べて、水様便が排泄された場合の吸収性に優れ、また実用的な強度を有していると認められる。
【0041】
<静止摩擦係数>
次に、トップシート表面の静止摩擦係数の確認結果について説明する。静止摩擦係数は、新東科学株式会社製の表面性測定機(トライボギアTYPE:14DR)を用いて測定した。測定方法は、JISK7125に準拠した。本確認では、トップシート表面の静止摩擦係数が水様便の吸収性に及ぼす影響を検証するため、上記検証において水様便の吸収性が最も優れることが確認された実施例1について、静止摩擦係数を互い違いにした複数種のトップシートを重ね、その状態で上述の液流れの検証を行った。
図9は、試験結果を示した第2の図である。
【0042】
図9に示す試験体の各トップシートの材料は、左から順に、スパンボンド方式で作成した不織布:目付け16.0g/m
2、スパンボンド方式で作成した不織布:目付け18.0g/m
2、スパンボンド方式で作成した不織布:目付け20.0g/m
2、エアスルー方式で作成した不織布:目付け25.0g/m
2、エアスルー方式で作成した不織布:目付け22.0g/m
2、エアスルー方式で作成した不織布:目付け20.0g/m
2、エアスルー方式で作成した不織布:目付け18.0g/m
2、エアスルー方式で作成した不織布:目付け16.0g/m
2である。
【0043】
図9を見ると判るように、トップシート表面の静止摩擦係数が0.59以上のものは、何れも試薬が450mm以内に留まり、試薬がマットの外側へは流出しなかった。一方、トップシート表面の静止摩擦係数が0.34以下のものは、試薬が450mmよりも長い距離を流れ、試薬がマットの外側へ流出した。このことから、トップシート表面の静止摩擦係数が0.59以上のものであれば、静止摩擦係数が0.59未満の吸収性物品に比べて、水様便が排泄された場合の吸収性が優れていると認められる。
【0044】
また、上記実施形態では、テープ型の使い捨ておむつが例示されていたが、その他の形態の吸収性物品においても適用可能である。このような吸収性物品としては、例えば、パンツ型の使い捨ておむつ、尿パッド、軽失禁パッドといったギャザー付きの各種形態の吸収性物品や、ギャザーの無いフラットな吸収性物品を挙げることができる。
【0045】
上記の検証結果からも判るように、上記実施形態のおむつ1であれば、着用者とコア6Cとの間に介在するトップシート7やコアラップシート6W等の積層部分における各液透過性シートの通気抵抗が0.0962kPa・sec/mより小さいため、水分が着用者からコア6Cへ速やかに移動できる。また、トップシート7表面の静止摩擦係数が0.59以上となっているため、水様便に含まれる固形分がトップシート7の表面を滑りにくい。このため、上記実施形態のおむつ1であれば、水様便の吸収性の向上により、おむつ1が着用者から取り外された際に排泄物が漏れ出る可能性を可及的に抑制することが可能となる。
【0046】
なお、トップシート表面の静止摩擦係数と着用感との関係について測定を行ったので、
その結果を以下に示す。
図10は、着用感の測定結果を示した表である。着用感の測定については、20名のパネラーにより、装着時の不快感のなさについて、「不快感がない」又は「不快感がある」の選択で調査を行い、以下の基準により評価を行い、◎及び○を合格とした。
◎:「不快感がない」が16人以上20人以下のとき
○:「不快感がない」が11人以上15人以下のとき
△:「不快感がない」が6人以上10人以下のとき
×:「不快感がない」が0人以上5人以下のとき
【0047】
図10の測定結果に示されるように、トップシートについては、表面の静止摩擦係数が2.52より小さいものが良好であり、より好ましくは1.91以下、更に好ましくは0.98以下が良いことが確認された。
【0048】
なお、コアの条件について検証を行ったので、その結果を以下に示す。上記検証では、コアは、何れもSAPを含有しない目付量260g/cm
2のパルプ(横幅が280mmで長さが560mm)であったため、本検証では目付量を互い違いにしたサンプルを複数用意し、各コアにおける水様便の吸収性を検証した。
図11は、コアの検証に用いたトップシートとコアラップシートの物性を示した図である。本検証では、単位面積あたりのパルプ量を互い違いにした4種類のコアに、
図11に示す物性のトップシートとコアラップシートを重ね、その状態で液流れの検証を行った。
図12は、試験結果を示した第3の図である。
【0049】
図12に示す試験体の各コアは、単位面積あたりのパルプ量が左から順に40g/m
2、50g/m
2、60g/m
2、70g/m
2のパルプで形成されている。
図12を見ると判るように、コアのパルプ量が60g/m
2以上のものは、何れも試薬が長手方向において450mm以内に留まり、試薬がマットの外側へは流出しなかった。一方、コアのパルプ量が60g/m
2未満のものは、試薬が長手方向において450mmよりも長い距離を流れ、試薬がマットの外側へ流出した。また、4種類の何れも試薬が幅方向において100mm以下に留まった。このことから、コアのパルプ量が少なくとも60g/m
2以上であれば、水様便が排泄された場合に優れた吸収性が発揮されると認められる。また、コアが、長手方向に少なくとも500mm以上の長さを有し、且つ、幅方向に少なくとも100mm以上の長さを有するものであれば、排泄された水様便がマットの外側へ流出しないと認められる。幅方向の長さについては、着用時における幅方向の位置ずれ、着用者の臀部の大きさの個人差等を考慮し、150mm以上、より好ましくは200mm以上であってもよい。左右各々の臀部の頂部間に形成される隙間により、マットに吸収された便が肌に触れにくくなるようにするには、このように幅方向の長さを長めにすることが有効であり、例えば、コアがおむつ1の股下領域1Bの左右両端まで存在していてもよい。
【0050】
上述した各検証結果より、コア6Cが、パルプ量が60g/m2以上で長手方向に500mm以上、幅方向に100mm以上の大きさのパルプで形成されており、トップシート7の表面の静止摩擦係数が0.59以上であり、コアラップシート6Wとトップシート7とが重なる積層部分における各部材の通気抵抗が0.0962kPa・sec/mより小さいおむつ1であれば、水様便の吸収性が向上すると認められる。このような水様便の吸収性向上効果は、コアラップシート6Wとトップシート7とが重なる積層部分における水分の透過性能と、当該積層部分の下側にあるコア6Cにおける水様便の吸収性能との相乗効果によるものである。
【符号の説明】
【0051】
1・・おむつ
1B・・股下領域
1F・・前身頃領域
1R・・後身頃領域
2F・・フロントパッチ
2L,2R・・テープ
3BL,3BR・・立体ギャザー
3R・・ウェストギャザー
4・・カバーシート
4KL,4KR・・括れ
5・・バックシート
6・・マット
6C・・コア
6W・・コアラップシート
7・・トップシート
8・・サイドシート
8KL,8KR・・括れ
4SL,4SR,8EL,8ER,9ER・・糸ゴム