(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】工作機械の制御装置および工作機械
(51)【国際特許分類】
B23B 1/00 20060101AFI20220328BHJP
B23Q 15/013 20060101ALI20220328BHJP
G05B 19/4093 20060101ALI20220328BHJP
B23B 3/30 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
B23B1/00 D
B23Q15/013
G05B19/4093 M
B23B3/30
(21)【出願番号】P 2019509957
(86)(22)【出願日】2018-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2018012685
(87)【国際公開番号】W WO2018181447
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-11-20
(31)【優先権主張番号】P 2017065302
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】特許業務法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北風 絢子
(72)【発明者】
【氏名】村松 正博
(72)【発明者】
【氏名】野口 賢次
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-076357(JP,A)
【文献】特開2016-182654(JP,A)
【文献】特許第3451800(JP,B2)
【文献】米国特許第05287607(US,A)
【文献】特開昭60-062439(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146945(WO,A1)
【文献】特開2016-177493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 1/00
B23B 3/30
B23Q 15/013
G05B 19/4093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の切削工具とワークとの相対的な移動を各々独立して制御する制御部を備え、該制御部による前記移動の制御によって、所定の切削工具および該切削工具とは別の他の切削工具がそれぞれ振動を伴って前記ワークの切削加工を行う工作機械の制御装置であって、
前記制御部が、
前記所定の切削工具の刃先経路が前周を加工した前記他の切削工具の刃先経路と交差して空振り動作が生じ、かつ、前記他の切削工具の刃先経路が前周を加工した前記所定の切削工具の刃先経路と交差して空振り動作が生じるように前記各切削工具の振動波形の位相をそれぞれ設定して前記ワークの切削加工を行う工作機械の制御装置。
【請求項2】
前記各切削工具は、前記ワークの径方向への切り込み量が同じ値に設定されている、請求項1に記載の工作機械の制御装置。
【請求項3】
前記制御部が、前記各切削工具の設置位置に基づいて、前記切削工具各々に対して、前記ワーク1回転あたりの振動回数、または前記振動の振幅あるいは位相を制御する、請求項1または2に記載の工作機械の制御装置。
【請求項4】
前記各切削工具が、前記ワークに対して対向した位置に配置されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の工作機械の制御装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の工作機械の制御装置を備えた工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の制御装置および工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工具でワークを旋削する場合、いわゆる流れ形の連続的な切屑が生成されて周囲に排出される。この連続的な切屑がワークや工具に巻きつくと、ワークや工具の損傷を招く。そのため、例えば特許文献1には、ワークを工具に対して往復移動させ、切屑を分断した切粉の状態で排出可能な振動切削加工の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1には、1つの工具台(バイトホルダ)に2つの工具(チップ)を設置したものである。このため、切屑を分断するために設定される、例えばワークが1回転する間に工具が往復移動する回数(回転毎の振動回数ともいう)は、工具を2つ設置しても1つの同じ値にしか設定できない。これでは、回転毎の振動回数を容易に設定できない。
【0005】
本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたもので、回転毎の振動回数の設定が容易になる工作機械の制御装置および工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第1に、複数の切削工具とワークとの相対的な移動を各々独立して制御する制御部を備え、該制御部による前記移動の制御によって、所定の切削工具および該切削工具とは別の他の切削工具がそれぞれ振動を伴って前記ワークの切削加工を行う工作機械の制御装置であって、前記制御部が、前記所定の切削工具の刃先経路が前周を加工した前記他の切削工具の刃先経路と交差して空振り動作が生じ、かつ、前記他の切削工具の刃先経路が前周を加工した前記所定の切削工具の刃先経路と交差して空振り動作が生じるように前記各切削工具の振動波形の位相をそれぞれ設定して前記ワークの切削加工を行うことを特徴とする。
第2に、前記各切削工具は、前記ワークの径方向への切り込み量が同じ値に設定されていることを特徴とする。
【0008】
第3に、前記制御部が、前記各切削工具の設置位置に基づいて、前記切削工具各々に対して、前記ワーク1回転あたりの振動回数、または前記振動の振幅あるいは位相を制御することを特徴とする。
【0009】
第4に、前記各切削工具が、前記ワークに対して対向した位置に配置されていることを特徴とする。
【0010】
第5に、上記いずれかの工作機械の制御装置を備えた工作機械であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は以下の効果を得ることができる。
(1)一方の工具の刃先経路が前周を加工したもう一方の工具の刃先経路と交差し、もう一方の工具の刃先経路が前周を加工した一方の工具の刃先経路と交差するように、各工具の振動波形の位相がそれぞれ設定されており、これら各工具が、互いに独立して往復移動可能に設けられている。これにより、振動切削加工する場合に、1つの振動回数に限定されずに済む。また、切屑が分断できない振動回数領域を気にせず主軸回転数を選択することが可能となる。よって、振動切削加工を実行するための条件設定が容易になり、作業を速やかに開始することができる。
また、切削加工時に生ずる負荷も2つの切削工具で分担するので、工具寿命が向上するとともに、加工力や加工反力による工具やワークの変動量も、1つの切削工具を設けた場合に比べて減るため、ワークの加工精度の向上も図ることができる。
(2)各工具の切り込み量が同じ値に設定されており、一方の工具の刃先経路と他方の工具の刃先経路が交差して切屑を分断可能となる。
【0013】
(3)制御部が、各切削工具各々に対して、ワーク1回転あたりの振動回数、または振動の振幅あるいは位相を制御することにより、振動切削加工を実行するための条件設定が容易になる。
【0014】
(4)各切削工具を対向位置に配置すれば、仮に一方の工具による加工力でワークが押し出されたとしても、もう一方の工具による反対方向の加工力でワークを押し出すことになるため、ワークの変動を抑制することが可能となる。
【0015】
(5)振動切削加工を実行するための条件設定が容易な工作機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施例による工作機械の概略を示す図である。
【
図2】本発明の一実施例による切削工具とワークとの関係を示す概略図である。
【
図3】切削工具の往復移動および位置を説明する図である。
【
図4】1本の切削工具を用いた場合における主軸のn回転目、n+1回転目、n+2回転目の各回転時の刃先経路の関係を示す図である。
【
図6】(A)は第1の切削工具の刃先経路を示す図、(B)は第2の切削工具の刃先経路を示す図である。
【
図7】(A)は第1,2の切削工具の刃先経路を示す図、(B)は、(A)の180°対向した位置の第1,2の切削工具の刃先経路を示す図である。
【
図8】(A)は第1の切削工具の刃先経路を示す図、(B)は第2の切削工具の刃先経路を示す図である。
【
図9】第1,2の切削工具の刃先経路を示す図である。
【
図10】(A)は1本の切削工具で振動切削した場合の刃先経路を示す図、(B)は実施例1による第1,2の切削工具の刃先経路を示す図である。
【
図11】(A)は1本の切削工具で振動切削した場合の刃先経路を示す図、(B)は実施例1による第1,2の切削工具の刃先経路を示す図である。
【
図12】(A)は1本の切削工具で振動切削した場合の刃先経路を示す図、(B)は実施例1による第1,2の切削工具の刃先経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の工作機械の制御装置および工作機械について説明する。
図1に示すように、工作機械100は、主軸110と、ワークWを振動切削加工(以下、加工と称する)するバイト等の切削工具130,230と、制御装置180とを備えている。
主軸110の先端にはチャック120が設けられており、ワークWはチャック120を介して主軸110に保持されている。主軸110は、主軸台110Aに回転自在に支持され、例えば主軸台110Aと主軸110との間に設けられた主軸モータ(例えばビルトインモータ)の動力によって回転する。
【0018】
切削工具130は第1の工具台130Aに装着され、チップ131(
図2参照)が切削工具130の先端に取り付けられている。なお、切削工具130が本発明の第1の切削工具に相当する。
工作機械100のベッドには、Z軸方向送り機構160、X軸方向送り機構150が設けられている。
【0019】
Z軸方向送り機構160は、ベッドと一体のベース161と、Z軸方向送りテーブルをスライド自在に支持するZ軸方向ガイドレールとを備えている。Z軸方向送りテーブルが、リニアサーボモータ(いずれも図示省略)の駆動によって図示のZ軸方向(ワークWの回転軸線方向に一致する)に沿って移動すると、第1の工具台130AがZ軸方向に移動する。
【0020】
X軸方向送り機構150は、例えばZ軸方向送り機構160を介して工作機械100のベッドに搭載されており、X軸方向送りテーブルをスライド自在に支持するX軸方向ガイドレールを備えている。X軸方向送りテーブルが、リニアサーボモータ(いずれも図示省略)の駆動によって図示のZ軸方向に対して直交するX軸方向に沿って移動すると、第1の工具台130AがX軸方向に移動する。
【0021】
また、
図1や
図2(B)に示すように、切削工具130と切削工具230が、ワークに対して180°対向した位置に配置されている。詳しくは、切削工具230は第2の工具台230Aに装着され、チップ231が切削工具230の先端に取り付けられており、チップ231とチップ131が対向して配置されている。なお、切削工具230が本発明の第2の切削工具に相当する。
【0022】
工作機械100のベッドには、Z軸方向送り機構260、X軸方向送り機構250も設けられている。
Z軸方向送り機構260は、Z軸方向送り機構160と同様に構成され、ベッドと一体のベース261と、Z軸方向送りテーブルをスライド自在に支持するZ軸方向ガイドレールとを備えている。Z軸方向送りテーブルが、リニアサーボモータ(いずれも図示省略)の駆動によって図示のZ軸方向に沿って移動すると、第2の工具台230AがZ軸方向に移動する。
【0023】
X軸方向送り機構250は、X軸方向送り機構150と同様に構成され、例えばZ軸方向送り機構260を介して工作機械100のベッドに搭載されており、X軸方向送りテーブルをスライド自在に支持するX軸方向ガイドレールを備えている。X軸方向送りテーブルが、リニアサーボモータ(いずれも図示省略)の駆動によって図示のX軸方向に沿って移動すると、第2の工具台230AがX軸方向に移動する。
【0024】
なお、Y軸方向送り機構を工作機械100に設けてもよい。Y軸方向は図示のZ軸方向およびX軸方向に直交する方向である。Y軸方向送り機構もリニアサーボモータによって駆動可能なY軸方向送りテーブルを有する。Y軸方向送り機構を例えばZ軸方向送り機構160、X軸方向送り機構150を介して工作機械100のベッドに搭載し、Y軸方向送りテーブルに例えば第1の工具台130Aを搭載すると、切削工具130をZ軸、X軸方向に加えてY軸方向にも移動させることができる。Z軸方向送り機構160、X軸方向送り機構150をY軸方向送り機構を介して工作機械100のベッドに搭載してもよい。
Z軸方向送り機構160等にリニアサーボモータを用いた例を挙げて説明したが、公知のボールネジとサーボモータを用いてもよい。
【0025】
主軸110の回転、および、Z軸方向送り機構160,260、X軸方向送り機構150,250やY軸方向送り機構(以下、Z軸方向送り機構160等と称する)の移動は、制御装置180で制御される。制御装置180は、主軸モータを駆動してワークWを切削工具130,230に対して
図2(A)の矢印方向に回転させ、Z軸方向送り機構160,260をそれぞれ駆動して切削工具130,230をワークWに対して
図2(A)のZ軸方向に往復移動させる。
【0026】
図2(A)では、例えば、ワークWが切削工具130,230に対して回転し、切削工具130,230がワークWに対してZ軸方向に往復移動する例を示している。
1本の切削工具130だけを想定した場合、制御装置180は、切削工具130を所定の前進量で移動(往動)させた後、切削工具130を所定の後退量で移動(復動)させる。これにより、
図3に示すように、切削工具130をワークWに対して前進量と後退量との差(進行量)だけ送ることができる。
【0027】
ここで、切削工具130,230のうち、切削工具130だけを用いて、振動切削加工を実現する方法について説明する。ワークWは、主軸モータにより、所定の方向に回転される。一方、切削工具130は、Z軸方向送り機構160により主軸台110Aに対してZ軸方向への往動と復動とを繰り返しており、ワークWの1回転分、すなわち、主軸位相0°から360°まで変化する間の上記進行量の合計が送り量になる。このとき、切削工具130が加工を開始する点を主軸位相0°とし、ワークWの回転方向を主軸位相が進む方向を主軸位相方向とする。
これにより、ワークWの周面は、切削工具130によって正弦曲線状に加工される。
図4は、ワークWが1回転する間に切削工具130が往復移動する回数(回転毎の振動回数D1ともいう)が3.5(回/r)の例を示す。
【0028】
切削工具130で加工された、主軸110のn(nは1以上の整数)回転目におけるワークWの周面形状(
図4に実線で示す)と、主軸110のn+1回転目におけるワークWの周面形状(
図4に破線で示す)とは、振動の位相が反転しており、主軸位相方向(
図4のグラフの横軸方向)でずれている。各正弦曲線状の波形が逆になっているので、同じ主軸位相において、
図4に破線で示したワークWの周面形状の谷の最低点(切削工具130における山の最高点)の位置が、
図4に実線で示したワークWの周面形状の山の最高点(切削工具130における谷の最低点)の位置に対向している。
【0029】
この結果、1本の切削工具130の刃先軌跡は、今回の往復動時の加工部分と次回の復往動時の加工部分とが重複し、例えば主軸110のn+1回転目におけるワークWの周面形状に、主軸110のn回転目におけるワークWの周面形状が含まれるので、切削工具130にはワークWを加工しない空振り動作が生じる。この空振り動作時に、ワークWから生じた切屑は分断されて切粉になる。このように、一つの切削工具で切屑が分断されるように振動切削加工を行うためには、振動回数D1を整数ではなく、3.5(回/r)のように例えば0.5だけずれるように設定しなければならない。
【0030】
ところで、本実施例では、第2の工具台230Aが、第1の工具台130Aとは独立して、ワークWに対してZ軸方向に往復移動可能である。このため、制御装置180は、切削工具230についても、所定の前進量で移動(往動)させた後、所定の後退量で移動(復動)させることができる。
これにより、ワークWが1回転する間に切削工具130が往復移動する回数(回転毎の振動回数D1)と、ワークWが1回転する間に切削工具230が往復移動する回数(回転毎の振動回数D2)とを異なる値に設定できる。よって、ワークWを加工する場合に、1つの振動回数に限定されずに済み、また、後述のように、振動回数を整数に設定しても切粉が発生し、加工を実行するための条件設定が容易になる。
【0031】
また、加工時に生ずる負荷も2つの切削工具130,230で分担するので、工具寿命が向上するとともに、ワークWからの反力を受けた切削工具130,230の押し戻し量も減るため、ワークWの加工精度の向上も図ることができる。
さらに、切削工具130,230を180°対向位置に配置すれば、仮に一方の切削工具による加工力でワークWが押し出されたとしても、もう一方の切削工具による反対方向の加工力でワークWを押し出すことになるため、ワークWの変動を抑制することが可能となる。
【0032】
図5に示されるように、制御装置180は、制御部181、入力部182、記憶部183を有し、これらはバスを介して接続される。
制御部181は、CPU等からなり、各モータの作動を制御するモータ制御部190と、Z軸方向送り機構160,260の往復移動を設定する振動調整部191とを備える。
制御部181は、記憶部183の例えばROMに格納されている各種プログラムやデータをRAMにロードし、各種プログラムを実行することにより、モータ制御部190、振動調整部191を介して、工作機械100の動作を制御することができる。
【0033】
切削工具130,230の往復移動は、所定の指令周期Tに基づく振動周波数fで実行される。
制御部181が、例えば1秒間に250回の動作指令を送ることが可能であった場合、動作指令は1÷250=4(ms)周期(基準周期ITともいう)で出力可能である。一般的には、指令周期Tはこの基準周期ITの整数倍である。
【0034】
指令周期Tが例えば基準周期4(ms)の4倍の16(ms)である場合、モータ制御部190は、切削工具130,230が16(ms)毎に往復移動を実行するように、Z軸方向送り機構160,260に駆動信号を出力する。この場合、切削工具130,230は振動周波数f=1/T=1÷(0.004×4)=62.5(Hz)で往復移動を行える。切削工具130,230を往復移動させるための振動周波数は、使用可能な限られた値(指令周波数fcともいう)の中から選択される。
【0035】
制御部181では、例えば入力部182の入力値あるいは加工プログラムに基づいて所定の振動波形を得ることができる。
振動調整部191が第1の工具台用データ192から、例えば、振動回数D1を1(回/r)に設定する。なお、送り量に対する振動振幅の比である振幅送り比率Qは1.5とする。切削工具130は、
図6(A)に示すように、主軸110(ワークW)のn回転目の加工領域(
図6(A)に実線で示す)、n+1回転目の加工領域(
図6(A)に破線で示す)が得られる。この場合、振動回数D1が整数であり、切削工具130のn回転目の加工領域とn+1回転目の加工領域は交差しないので、切削工具130のみでは切屑を分断できない。
【0036】
また、振動調整部191が第2の工具台用データ193から、例えば、切削工具130と同じ値、つまり、振動回数D2を1(回/r)、振幅送り比率Qを1.5に設定する。切削工具230は、切削工具130の開始位置から180°対向した位置より開始し、振動回数D2で駆動する。このため、
図6(B)に示すように、主軸110のn回転目の加工領域(
図6(B)に実線で示す)、n+1回転目の加工領域(
図6(B)に破線で示す)が得られる。この場合も、切削工具230のn回転目の加工領域とn+1回転目の加工領域も交差しないので、切削工具230のみでも切屑を分断できない。
【0037】
しかしながら、切削工具130と切削工具230は、振動の位相が反転した状態でワークWを交互に加工しているため、ワークWへの刃先経路は、
図6(A),(B)を合わせた
図7(A)に示すように、切削工具230による細めの実線、切削工具130による太めの実線、切削工具230による細めの破線、切削工具130による太めの破線の順に形成される。
【0038】
このように、切削工具130の刃先経路(例えば太めの破線)は、前周を加工した切削工具230の刃先経路(例えば細めの破線)と交差して空振り動作が生じ、切削工具230の刃先経路(例えば細めの破線)は、前周を加工した切削工具130の刃先経路(例えば太めの実線)と交差して空振り動作が生じるので、振動回数D1,D2が整数であっても切屑を分断でき、切粉が発生することが分かる(
図7(A)には1個の切粉の一例として加工量200で示す)。
なお、
図7(A)では切粉の形状の理解を助けるために、切削工具130,230ともに加工途中での刃先経路の例を示した。しかし、
図2で説明したように、切削工具230が切削工具130から180°対向した位置より加工を開始した場合には、
図7(B)に示すように、切削工具230は、主軸110のn回転目の加工領域として主軸位相180°~360°に細めの実線で示され、n+1回転目の加工領域として主軸位相0°~360°に細めの破線で示され、n+2回転目の加工領域として主軸位相0°~180°に細めの1点鎖線で示される。このため、
図7(A)で説明した加工量200は、主軸位相180°を跨いだ位置ではなく、0°(360°)を跨いだ位置で発生することになる。
【0039】
次に、振動調整部191が、整数に非常に近い振動回数、例えば、振動回数D1,D2をいずれも1.1(回/r)に設定する場合を想定する。なお、振幅送り比率Qは1.5とする。
図6と同様に、切削工具130,230ともに加工途中での刃先経路の例で示すと、切削工具130は、
図8(A)に示すように、主軸110のn回転目の加工領域(
図8(A)に実線で示す)、n+1回転目の加工領域(
図8(A)に破線で示す)が得られる。この場合、振動回数D1が整数に非常に近い値なので、切削工具130のn回転目の加工領域とn+1回転目の加工領域は交差せず、切削工具130のみでは切屑を分断できない。
【0040】
切削工具230は、
図8(B)に示すように、主軸110のn回転目の加工領域(
図8(B)に実線で示す)、n+1回転目の加工領域(
図8(B)に破線で示す)が得られる。この場合も、切削工具230のn回転目の加工領域とn+1回転目の加工領域も交差せず、切削工具230のみでも切屑を分断できない。
しかしながら、切削工具130と切削工具230によるワークWへの刃先経路は、
図8(A),(B)を合わせた
図9に示すように、切削工具230による細めの実線、切削工具130による太めの実線、切削工具230による細めの破線、切削工具130による太めの破線の順に形成されて交差する。
【0041】
つまり、この場合にも、切削工具130の刃先経路(例えば太めの破線)は前周を加工した切削工具230の刃先経路(例えば細めの破線)と交差して空振り動作が生じ、切削工具230の刃先経路(例えば細めの破線)は前周を加工した切削工具130の刃先経路(例えば太めの実線)と交差して空振り動作が生じるので、振動回数D1,D2が整数に非常に近い値であっても切屑を分断できることが分かる(
図9に加工量300で示す)。
【0042】
図10(A)は1本の切削工具で加工した場合の刃先経路であり、振動回数Dが1.5(回/r)、振幅送り比率Qが1.5の例である。この場合、主軸110のn回転目の加工領域(
図10(A)に実線で示す)と、n+1回転目の加工領域(
図10(A)に破線で示す)は交差し、主軸110のn+1回転目の加工領域(
図10(A)に破線で示す)と、n+2回転目の加工領域(
図10(A)に1点鎖線で示す)は交差して空振り動作が生じるので、切粉が発生する(
図10(A)に加工量200’で示す)。
【0043】
これに対し、
図10(B)は
図7(A)と同じ値、つまり、振動回数D1,D2が1(回/r)、振幅送り比率Qが1.5の例である。
図6と同様に、切削工具130,230ともに加工途中での刃先経路の例で示すと、
図7(A)で説明した加工量200で示した切粉が発生するとともに、切削工具230の刃先経路(例えば細めの破線)は、前周を加工した切削工具130の刃先経路(例えば太めの実線)と交差して空振り動作が生じ、切削工具130の刃先経路(例えば太めの実線)は、前周を加工した切削工具230の刃先経路(例えば細めの実線)と交差して空振り動作が生じるので、加工量201で示した切粉も発生する。
【0044】
加工量200,201と
図10(A)の加工量200’とを比べると、加工量200,201の厚みは加工量200’の半分程度に薄くなることが分かる。つまり、2つの切削工具を往復移動させると、各切削工具への負荷を減らせるので、この点も工具寿命の向上、およびワークの加工精度の向上に貢献する。
【0045】
また、本発明によれば、振幅送り比率Qが小さな値でも切屑の分断が可能である。
詳しくは、
図11(A)は1本の切削工具で加工した場合の刃先経路であり、振動回数Dが1.5(回/r)、振幅送り比率Qが0.5の例である。この場合、主軸110のn回転目の加工領域(
図11(A)に実線で示す)、n+1回転目の加工領域(
図11(A)に破線で示す)は交差しないことから、切屑を分断できない。
【0046】
これに対し、
図11(B)は
図11(A)と同じ値、つまり、振動回数D1,D2が1.5(回/r)、振幅送り比率Qが0.5の例である。
図7(B)と同様に、切削工具130と切削工具130から180°対向した位置より加工を開始する切削工具230の刃先経路の例で示すと、切削工具230の刃先経路(例えば細めの破線)は、前周を加工した切削工具130の刃先経路(例えば太めの実線)と交差して空振り動作が生じ、切削工具130の刃先経路(例えば太めの実線)は、前周を加工した切削工具230の刃先経路(例えば細めの実線)と交差して空振り動作が生じるので、加工量400で示した切粉が発生する。このように、振幅送り比率Qが小さな値であっても切屑を分断でき、この点も一つの工具に着目すれば使用可能な期間が延長されることになる。さらに、振幅送り比率Qを小さくできれば、工作機械自体の振動を小さくすることができ、工作機械の寿命向上に貢献できる。また、同じ送り量でも振幅が小さく工作機械への振動の影響が少なくなるため、Z軸方向への送り量Fを大きな値に設定可能になる。
【0047】
また、本発明によれば、切粉の長さを短くすることが可能である。
詳しくは、
図12(A)は1本の切削工具で加工した場合の刃先経路であり、
図10(A)で説明した例と同様に、振動回数Dが1.5(回/r)、振幅送り比率Qが1.5の例である。この場合、加工量200’で示す切粉は、図示の左右に長い扇面を有した形状になっている。
【0048】
これに対し、
図12(B)は、
図12(A)と同じ値、つまり、振動回数D1,D2が1.5(回/r)、振幅送り比率Qが1.5の例である。
図6と同様に、切削工具130,230ともに加工途中での刃先経路の例で示すと、切削工具130の刃先経路(例えば太めの破線)は、前周を加工した切削工具230の刃先経路(例えば細めの破線)と交差して空振り動作が生じ、切削工具230の刃先経路(例えば細めの破線)は、前周を加工した切削工具130の刃先経路(例えば太めの実線)と交差して空振り動作が生じる。さらに、切削工具130の刃先経路(例えば太めの実線)は、前周を加工した切削工具230の刃先経路(例えば細めの実線)と交差して空振り動作が生じるので、加工量501で示した切粉が発生する。
【0049】
加工量501と
図12(A)の加工量200’とを比べると、加工量501の長さが加工量200’の2/3程度に短くなることが分かる。つまり、振動回数が同じ大きさでも、切粉の長さを短くできれば、主軸110(ワークW)の回転数Rを大きな値に設定可能になる。
【0050】
ところで、上記実施例では、切削工具130,230の振動回数D1,D2を同じ値に設定した例を挙げて説明したが、本発明はこの例に限定されない。本発明は、切削工具130の振動回数D1を例えば1(回/r)とし、切削工具230の振動回数D2を例えば3(回/r)とするような、異なる振動回数に設定してもよい。
【0051】
上記実施例では、切削工具130,230の送り量に対する振動振幅の比である振幅送り比率Qを同じ値に設定した例を挙げて説明したが、切削工具130の振幅送り比率Qを例えば1とし、切削工具230の振幅送り比率Qを例えば1.5とするような、異なる振幅送り比率を設定してもよい。例えば、切削工具130と切削工具230の刃先経路を浅い振幅に設定し、それぞれの切削経路が交差しない場合に、切削工具230の刃先経路が深い振幅となるように振幅送り比率Qを設定すれば、切削工具130の刃先経路は前周を加工した切削工具230の刃先経路と交差して空振り動作が生じ、切削工具230の刃先経路は前周を加工した切削工具130の刃先経路と交差して空振り動作が生じるので、振動回数D1,D2および振動の位相が同じまたは近い値であっても切屑を分断しながら切削加工が行える。
【0052】
切削工具130,230の振動回数Dおよび振幅送り比率Qを同じ値に設定した場合でも、振動の位相を切削工具130と切削工具230とで異なるように設定してもよい。上記実施例では、
図2を用いて切削工具130の刃先経路と切削工具230の刃先経路とが、反転した例を説明したが、振動の位相差としては、切削工具130の刃先経路が前周を加工した切削工具230の刃先経路と交差して空振り動作が生じ、切削工具230の刃先経路が前周を加工した切削工具130の刃先経路と交差して空振り動作が生じるような振動の位相差であればよく、切削工具130および切削工具230の設置位置に応じて各切削工具の振動の位相差(例えば、1/4周期や1/8周期ずらす)を設定し、振動の開始タイミングを切削工具130および切削工具230で個別に制御すればよい。
また、切削工具130と切削工具230との振動を開始する方向を異ならせることで、振動の位相を制御することができる。例えば切削工具130および切削工具230を近接した位置に設置した場合、振動を開始する方向を切削工具130では、往動方向に設定し、切削工具230では、復動方向に設定することで、切削工具130の刃先経路と切削工具230の刃先経路とをほぼ反転させた状態とすることができ、振動の位相を異ならせることができる。
【0053】
上記実施例では、切削工具130,230を180°対向した位置に配置した例で説明した。しかしながら、本発明はこの例に限定されるものではなく、180°以外の位置に設置した場合でも、第1の工具台および第2の工具台の設置位置に基づいて、第1の工具台と第2の工具台の設置位置それぞれの振動回数D、振幅送り比率Qおよび振動の位相の少なくとも一つを振動調整部で調整することにより、上記説明と同様の効果を得ることができる。
また、上記説明では、ワークWが切削工具130,230に対して回転し、切削工具130,230がワークWに対してZ軸方向に往復移動する例を挙げて説明した。しかし、本発明は、ワークWが切削工具130,230に対して回転し、ワークWと例えば切削工具130が切削工具230に対してZ軸方向に往復移動する場合にも当然に適用される。
また、上記説明では、ワークWと切削工具との相対的な加工送り方向をワークWの回転軸線方向(Z軸方向)としてワークWまたは切削工具を往復移動させた場合について説明したが、加工送り方向をワークWの径方向(X軸方向)としてワークWまたは切削工具を往復させても同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0054】
100 ・・・ 工作機械
110 ・・・ 主軸
110A・・・ 主軸台
120 ・・・ チャック
130 ・・・ 切削工具
130A・・・ 第1の工具台
131 ・・・ チップ
150 ・・・ X軸方向送り機構
151 ・・・ ベース
160 ・・・ Z軸方向送り機構
161 ・・・ ベース
180 ・・・ 制御装置
181 ・・・ 制御部
182 ・・・ 入力部
183 ・・・ 記憶部
190 ・・・ モータ制御部
191 ・・・ 振動調整部
192 ・・・ 第1工具台用データ
193 ・・・ 第2工具台用データ
230 ・・・ 切削工具
230A・・・ 第2の工具台
231 ・・・ チップ
250 ・・・ X軸方向送り機構
251 ・・・ ベース
260 ・・・ Z軸方向送り機構
261 ・・・ ベース