(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】マルチプロテアーゼ法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20220328BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20220328BHJP
C07K 7/00 20060101ALI20220328BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20220328BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20220328BHJP
C12Q 1/37 20060101ALI20220328BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
G01N33/53 D ZNA
C07K16/00
C07K7/00
G01N33/531 A
G01N27/62 V
C12Q1/37
C07K16/28
(21)【出願番号】P 2019518531
(86)(22)【出願日】2017-10-06
(86)【国際出願番号】 EP2017075532
(87)【国際公開番号】W WO2018065599
(87)【国際公開日】2018-04-12
【審査請求日】2020-09-14
(32)【優先日】2016-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】517344169
【氏名又は名称】オブリーク セラピューティクス アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】オーヴァル, オーヴェ
(72)【発明者】
【氏名】トルクリア, カロリーナ
(72)【発明者】
【氏名】デビッドソン, マックス
(72)【発明者】
【氏名】ヘグルンド, ジェシカ
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-537703(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0072251(US,A1)
【文献】X Guo et al,A multiprotease map of the hela proteome for comprehensive proteomics,Molecular & Cellular Proteomics,2014年04月02日,vol 13,1573-1584
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体によって結合されうるタンパク質上のエピトープを同定する方法であって、
(i)単一の第1のプロテアーゼ又は第1のプロテアーゼの組み合わせを用いて、前記タンパク質に対して限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解を行うこと;
(ii)単一の第2のプロテアーゼ又は第2のプロテアーゼの組み合わせを用いて、前記タンパク質に対して非限定タンパク質分解を行うこと又は限定タンパク質分解若しくは制限的タンパク質分解を行うことであり、前記第2のプロテアーゼはステップ(i)で使用されたプロテアーゼとすべて異なるプロテアーゼである;
(iii)ステップ(ii)で前記タンパク質から遊離したペプチドを分析し、一端が前記第1のプロテアーゼによって切断されており、もう一端が前記第2のプロテアーゼによって切断されているペプチドを同定すること;
(iv)ステップ(iii)で同定された前記第1のプロテアーゼの切断部位を含む又は隣接する前記タンパク質の領域にある1つ以上のエピトープを、前記エピトープに対する1つ以上の抗体を用いて探索し、それによって、抗体によって結合されうる前記タンパク質上の1つ以上のエピトープを同定すること
を含む方法。
【請求項2】
ステップ(ii)において非限定タンパク質分解が行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
単一の第1のプロテアーゼがステップ(i)で使用される、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
単一の第2のプロテアーゼがステップ(ii)で使用される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(ii)において非限定タンパク質分解が行われ、ステップ(i)の後で、ステップ(ii)より前に、ステップ(ii)で使用される前記単一の第2のプロテアーゼ又は第2のプロテアーゼの組み合わせを使用して、前記タンパク質に対して限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解を行う追加ステップをさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記単一の第1のプロテアーゼ又は前記第1のプロテアーゼの組み合わせが、トリプシン、Arg-C、Lys-C、及びLys-Nからなる群より選択される請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記単一の第1のプロテアーゼ又は前記第1のプロテアーゼの組み合わせが、ペプシン、キモトリプシン、及びGlu-Cからなる群より選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記単一の第2のプロテアーゼ又は前記第2のプロテアーゼの組み合わせが、ペプシン、キモトリプシン、及びGlu-Cからなる群より選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記単一の第2のプロテアーゼ又は前記第2のプロテアーゼの組み合わせが、トリプシン、Arg-C、Lys-C、及びLys-Nからなる群より選択される、請求項1~5又は7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(ii)の前、その間、又はその後に実施される変性ステップをさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ペプチドが質量分析を用いて分析される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
複数のエピトープが探索される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(iii)で同定された前記第1のプロテアーゼの切断部位を含む、又は隣接する前記タンパク質の領域にある前記タンパク質上の1つ以上のエピトープに対応する配列を有する1つ以上の単離されたエピトープを生成し、前記単離されたエピトープに対する抗体を生成し、ステップ(iv)で前記抗体を前記タンパク質上の1つ以上のエピトープを探索するために用いる、ステップ(iv)より前のステップをさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記エピトープが、前記第1のプロテアーゼの前記切断部位の20個のアミノ酸の範囲内にある、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
複数のエピトープが探索され、前記複数のエピトープがエピトープのセットであり、前記セットの各エピトープの配列が、前記セットの別のエピトープに対して、1個、2個、又は3個のアミノ酸についてオフセットしている、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ステップ(i)及び(ii)における前記タンパク質分解が、細胞に由来するプロテオリポソームに存在するタンパク質で行われる、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記プロテオリポソームが、前記タンパク質の固定相を形成するためにフローセルに固定化される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ステップ(i)及びステップ(ii)において前記タンパク質から遊離したペプチドを分析することをステップ(iii)に含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか一項によって同定されたエピトープに対する抗体を作製するステップをさらに含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、限定されないが、抗体(例えば、機能性抗体)産生に利用される、標的タンパク質のエピトープを選択するためのいくつかの新しい方法に関する。よって本発明はいくつかの態様において抗体を産生する方法に関する。そのような方法は典型的に、抗原性エピトープの同定及びその抗原性エピトープに対する抗体の産生を含む。また本発明は、抗原性エピトープ及びそのような抗原性エピトープに結合する抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
いくつかのモノクローナル抗体(mAb)療法、例えば、ヒュミラ、アバスチン、ハーセプチン、並びにアリロクマブ及びエボロクマブなどの、有望なPCSK9を標的にする新しいコレステロール降下mAb治療で臨床的成果がみられることに大きく起因して、抗体治療薬が急成長している。しかし、現在市場にあるすべての抗体及び臨床開発の進んだ段階にあるすべての抗体は、概して細胞外の標的を対象としており、それらの抗体は概してアフィニティー又は結合強度に重点を置いたスクリーニングプラットホームを用いて発見及び開発されている。しかし、細胞内で作用する抗体及び「難しい標的」、すなわち、従来の抗体発見方法が不成功に終ってきた標的に対する抗体の開発は困難な課題であり、有効な抗体を発見及び開発するための新しい技術の進歩が必要である。細胞内で作用する抗体には、適切な標的臓器の細胞に抗体が内在化するための新しい手段もまた必要である。さらに、現在の抗体発見及び開発プラットフォームは、疾患などの所与の生体系における特定の抗体の働きを予測できる機能的、薬理学的、及び作用機序を関連づけることを、通常、欠いている。
【0003】
今日、成功している抗体治療薬の開発及び発見に向けた方策はフルサイズモノクローナル抗体に限定されない。タンパク質工学の進歩により、この20年間に幅広い種類の改変抗体断片が産生されてきた。例えば、Fab断片、ScFv断片、ダイアボディ(diabodies)、テトラボディ(tetrabodies)、タンパク質複合体で機能化された抗体断片、及び2つの抗原に結合する二重特異性断片が挙げられる。これらの新しい構築物は、高い特異性及びアフィニティー、深い組織浸透、高い安定性、並びに低い毒性をもつ抗体及び抗体由来生物製剤に開発を試みる際に、かなり大きいツールボックスを提供する。しかし、抗体療法に伴う主要な障害の1つは依然として残る。抗体療法が一般的に細胞外の標的に限定されることである。抗体は大きすぎて、且つ極性がありすぎて細胞膜を通って入ることができない。くわえて、抗体は一般に細胞質基質の還元性環境中で不安定である。細胞内の標的にアクセスするためにいくつかの技術が開発されてきており、例えば、さまざまな輸送媒介物、例えば、トランスフェクション試薬及びタンパク質形質導入ドメイン(PTD)を用いて細胞膜を横切る抗体の輸送、並びに標的細胞内への直接的な抗体の発現、いわゆる細胞内抗体がある。抗体に対しては低分子及び遺伝物質ほど広くはないが、エレクトロポレーション技術もまた使用されてきた。細胞内抗体は、細胞内抗体の遺伝子配列を細胞内輸送シグナルと融合することによってさまざまな細胞コンパートメントを標的にするように構築することができる。それでもなお、細胞内抗体をコードする遺伝子材料は標的細胞への送達に依然として必要であるので、効率のよい送達ベクターの必要性は細胞内抗体治療の極めて重要なステップである。
【0004】
ハイブリドーマ技術によるモノクローナル抗体の作製は1975年に初めて開発された。簡単に説明すると、哺乳類に対象の抗原を注入して、その免疫応答を誘発する。次いで動物の脾臓から脾細胞を取り出し、その後不死化骨髄腫細胞と融合させる。細胞は単一細胞にまで希釈されて、マルチウェルプレートに分けられる。1個の細胞が各々独立したコロニーを生じるので、単一ウェル中に作製された抗体はモノクローナルであることになる。次のステップは、抗原に結合する最良の候補について、相異なるウェルのすべてをスクリーニングすることである。
【0005】
フルサイズ抗体と比較した小さい抗体断片の大きな利点は、それらの抗体断片はさまざまな発現系、例えば、大腸菌、酵母、及び哺乳類細胞で作製でき、もはやハイブリドーマ技術を用いた作製に限定されない。これにより、低コストで大量の作製が可能になり、遺伝子的に抗体の特性を改変できる可能性が大きくなる。抗体断片は繊維状ファージの表面にディスプレイすることができ、いわゆるファージディスプレイすることができる。該ディスプレイは所望の抗原に対してスクリーニングされる大きな抗体ライブラリーの作製に使用可能である。スクリーニング手順が抗原に結合する抗体候補を評価する。最初のサイクルでは非特異的に結合するため、数サイクル繰り返されることが多い。ある特定の環境に対して最も好適な候補を見つけるためにスクリーニングサイクルの間の条件は変えることができ、例えば、より安定した抗体は条件の厳しい環境を用いることによって選択することができる。アフィニティーが非常に高い抗体を選択する別の方法は、非常に低い濃度の抗原を用いてスクリーニングを行うことであり、結果としてそのような条件の間に結合できる抗体のみが残る。数社がその会社独自のスクリーニング技術を開発してきており、多くの場合大きな抗体ライブラリーをもっている。例えば、Regeneron社(regeneron.com)又はAlligatorbioscience社(alligatorscience.se)を参照されたい。
【発明の概要】
【0006】
1つの態様では、本発明はタンパク質に対する抗体を産生する方法を提供し、その方法は、
(i)前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供し、前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成し、前記表面露出ペプチドに基づく抗原性エピトープを産生することにより、前記タンパク質の抗原性エピトープを同定すること、及び
(ii)前記抗原性エピトープに対する抗体を産生すること
を含む。
【0007】
別の態様では、本発明はタンパク質に対する抗体を産生する方法を提供し、その方法は、
(i)前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成し、前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供すること、及び
(ii)前記ペプチドが前記限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に前記タンパク質から切断若しくは除去された際に前記タンパク質の生物学的機能の欠如又は著しい変化をもたらす前記タンパク質中の領域にある前記少なくとも1つの表面露出ペプチドで表面露出エピトープを同定することによって抗原性エピトープを同定すること、又は
バイオインフォマティクス及び/又は前記タンパク質の生物学的機能の既知データに基づいて前記タンパク質内の少なくとも1つの標的領域を選択し、前記少なくとも1つの標的領域にある前記少なくとも1つの表面露出ペプチドのうちで表面露出エピトープを同定することによって抗原性エピトープを同定すること、及び
(iii)前記抗原性エピトープに対する抗体を産生すること
を含む。
【0008】
別の態様では、本発明は抗原性エピトープを同定する方法を提供し、その方法は、
(i)前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成し、前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供すること、及び
(ii)前記ペプチドが前記限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に前記タンパク質から切断若しくは除去された際に前記タンパク質の生物学的機能の欠如又は著しい変化をもたらす前記タンパク質中の領域にある前記少なくとも1つの表面露出ペプチドで表面露出エピトープを同定することによって抗原性エピトープを同定すること、又は
バイオインフォマティクス及び/又は前記タンパク質の生物学的機能の既知データに基づいて前記タンパク質内の少なくとも1つの標的領域を選択し、前記少なくとも1つの標的領域内にある前記少なくとも1つの表面露出ペプチドで表面露出エピトープを同定することによって抗原性エピトープを同定すること
を含む。
【0009】
本発明はタンパク質のアミノ酸配列を検出及び同定する方法に関し、前記アミノ酸配列は良好に露出され、且つ機能的に関連し、少なくともそれらのアミノ酸配列は良好に露出される。よって、我々が「ホットスポット」と呼ぶこれらのアミノ酸配列は、抗体ターゲティング、発見、開発を導く抗原性エピトープとして利用されうる。さらに、これらのアミノ酸配列はタンパク質分解消化後のその出現に基づいて、且つバイオインフォマティクスのデータ又は機能/薬理学的試験から既に既知の機能的な関連に基づいてランク付けることができる。よって、タンパク質分解消化から生じる数個のアミノ酸配列のリストから、(機能及び構造的アーギュメント(arguments)に基づく)最適なアミノ酸配列を抗原性エピトープ発見及び開発のために選ぶことができる。タンパク質分解消化は、限定条件下で行われる。すなわち、ほんの1個又数個の表面露出ペプチドだけが標的タンパク質から一度に切断される程度でプロテアーゼ又はいくつかのプロテアーゼの活性は非常に低い。すなわち、プロテアーゼは標的タンパク質に結合する抗体についてのドラッガビリティープローブとして使用される。
【0010】
ある実施形態では、抗体は薬理学的に活性である。別の実施形態では、抗体は薬理学的に活性であり、治療利用に開発される。より具体的に、そのような方法は、標的タンパク質のホットスポットエピトープを明らかにするプロテオミクスツールを含む。
【0011】
本発明の態様では、タンパク質はプロテアーゼ作用を通して消化、分解、及び/又はトランケートされ、良好に露出されたアミノ酸配列はすべて抗原性エピトープ産生に使用され、前記抗原性エピトープに基づいて開発された抗体は、製薬業界で用いられる抗体発見の慣用として、効力、有効性、薬理学的プロフィリング、及び他の試験が試される。
【0012】
本発明の態様では、タンパク質はプロテアーゼ作用を通して消化、分解、及び/又はトランケートされ、並行して同時に消化、分解、及び/又はトランケートされたタンパク質に関する機能的なアッセイによって精査され、タンパク質の機能的に重要である領域を明らかにする。関連タンパク質は本明細書において時として標的タンパク質を意味する。
【0013】
ある実施形態では、標的タンパク質の消化、分解及び/又はトランケーションは並行して同時に行われ、抗体産生ためのエピトープ選択を導く標的タンパク質の機能的に重要である領域を明らかにする。
【0014】
ある実施形態では、消化、分解、及び/又はトランケーとされたタンパク質並びに天然の標的タンパク質の消化、分解、及び/又はトランケーション、並びに機能的なアッセイは、タンパク質機能に関する他のバイオインフォマティクスによる事実及び別な方法では既知の事実と組み合わせて、抗体産生ためのエピトープ選択を導く標的タンパク質の機能的に重要である領域を明らかにする。
【0015】
ある実施形態では、単一のプロテアーゼが標的タンパク質を消化、分解、及び/又はトランケートするのに使用されうる。別の実施形態では、複数のプロテアーゼが標的タンパク質を1個ずつ順番に又は並行して同時に消化、分解、及び/又はトランケートするのに使用されうる。そのようなプロテアーゼとしては、Arg-Cプロテイナーゼ、Asp-Nエンドペプチダーゼ、クロストリパイン、グルタミルエンドペプチダーゼ、Lys-C、Lys-N、トリプシン、キモトリプシン、プロテイナーゼK、及びテルモリシンが例となるが、これらに限定されない。いくつかのプロテアーゼによって容易に消化される領域はタンパク質の露出領域であるはずで、単一のプロテアーゼによってのみ消化される領域は恐らく、より隠れた領域に位置する。代替的に、プロテアーゼは独特の切断特異性又は/及び物理化学的特性又は/及び構造的特徴をもち、他のプロテアーゼが識別できない標的タンパク質の表面露出ペプチドを識別することができる。よって、複数のプロテアーゼの使用が好ましく、各々の異なるプロテアーゼは、抗原性エピトープとしての表面露出ペプチド適性に関する補完的又は独特の情報を生み出すことができる。
【0016】
実施形態は、薬理学的研究に使用できる、薬理学的に活性がある抗体の迅速で且つ的確な開発のための新しい方法論/技術を可能にし、例えば、それらの抗体は、例えば、細胞での方法又はインビトロアッセイにおいて生体化合物を検出するツールとして使用することができる。さらに重要なことには、前記抗体はヒト及び動物の疾患を治療するのに使用しうる。実施形態は、可溶性又は膜結合、細胞外又は細胞内のすべてのタンパク質に適用することができる。さらに実施形態は、タンパク質機能の新らたな基本的理解を生むのに利用することができる。
【0017】
また本発明は、本発明の方法によって産生される抗体を提供する。
【0018】
また本発明は、本発明の方法によって同定される抗原性エピトープを提供する。
【0019】
また本発明は、本発明の抗原性エピトープに対する抗体を提供する。
【0020】
他の本発明の特徴及び利点は以下の詳細な説明から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
添付図面と共に以下の説明を参照することによって実施形態並びにさらなる目的及び利点が良く理解されるであろう。
【
図1】5μg/mlトリプシンを用いた室温での限定タンパク質分解後にTRPV1から検出されたペプチド、n=6。A:TRPV1の3Dモデルに示された検出されたペプチドの位置。ペプチドは0.5分(マゼンタ)、5分(オレンジ)、及び15分(青)後に検出された。B:TRPV1の略図に示された検出されたペプチドの位置。ペプチドは0.5分(マゼンタ)、5分(オレンジ)、及び15分(青)後に検出された。C:5μg/mlトリプシンを用いた限定タンパク質分解後にTRPV1から消化され、検出されたペプチドのバープロット、どの時点でそれらのペプチドが確認されたかを示している。
【
図2】5μg/ml、20μg/ml、又は40μg/mlトリプシン(Tr)への5分間露出後の、TRPV1から消化されたペプチド及びそれらを除去した後の電流応答の変化。A~C:TRPV1の消化されたペプチドの位置。フローセル内で消化されたペプチド(シアン)及びフローセル内で消化された後に一晩完全消化されたペプチド(黄)を示す。D:1μM カプサイシン(Cap)で活性化された後にバッファー又はトリプシンのいずれかに5分間供され、カプサイシンでさらに活性化された際のTRPV1のインサイド-アウト記録の代表的なトレース。上段から下段に:それぞれ5μg/ml、20μg/ml、及び40μg/mlトリプシンに5分間供した。図での提示のみを目的として、トレースは100Hzでデジタル方式フィルター処理を施されている。
【
図3】バッファーn=11又は抗体n=6のいずれかで処理した後、カプサイシンでの第1の活性化に関する積分の%割合として計算された、カプサイシンでの第2の活性化に関する電流トレース時間積分を示すTRPV1機能の電気生理学パッチクランプ記録。データは平均値±SEMとして提示されている。
【
図4】hTRPV1の表面モデルにおける可視化されたOTV1の抗原決定基(赤)、ペプチドaa96~117の位置。A:各単量体が青色と紫色とで交互に色付けされているTRPV1の側面図。B:各単量体が青色と紫色とで交互に色付けされているTRPV1の上面図。
【
図5】hTRPV1の表面モデルにおける可視化されたOTV2の抗原決定基(赤)、ペプチドaa785~799の位置。A:見やすいように、2個の単量体が省かれているTRPV1の側面図。B:各単量体が青色と紫色とで交互に色付けされているTRPV1の底面図。
【
図6】TRPV1の発現が有る(A)及び発現が無い(B)の固定細胞でのOTV1(左)及びOTV2(右)の局在。OTV1及びOTV2はヤギ抗ウサギAlexa488二次抗体を用いて可視化された。細胞を横切る線分(黒)に沿った強度値が各画像の下に与えられている。異なるレーザー設定がOTV1とOTV2とに使用され、それら抗体間の比較はなされるべきではない。
【
図7】抗体での処理した後のTRPV1機能の電気生理学パッチクランプ記録。A:バッファー(n=11)又はOTV1(n=6)のいずれかで処理した後、カプサイシンでの第1の活性化に関する積分の%割合として計算された、カプサイシンでの第2の活性化に関する電流トレース時間積分。B:カルモジュリンのみ(n=11)又はカルモジュリン及びOTV2のいずれかで処理した後、カプサイシンでの第1の活性化に関する積分の%割合として計算された、カルモジュリン(CaM)及びOTV2の存在下におけるカプサイシンでの第2の活性化に関する電流トレース時間積分。OTV2での処理は、チップ超音波処理の15分以内の測定(n=4)とチップ超音波処理チップ超音波処理の30分以内の測定(n=7)とに分けられている。データは平均値±SEMとして提示されている。
【
図8】A:カルシウムを含まないリン酸緩衝生理食塩水中のOTV1でエレクトロポレーション後のTRPV1媒介YO-PRO取り込み。上段:OTV1の蛍光強度(n=11)及び対照(n=11)。下段:OTV1及び対照の対応蛍光強度率。B:50μM Ca
2+の存在下においてOTV2でエレクトロポレーションした後のTRPV1媒介YO-PRO取り込み。上段:OTV2の蛍光強度(n=9)及び対照(n=7)。下段:OTV2(緑)及び対照(赤)の対応蛍光強度率。データは平均値±SEMとして提示されている。
【
図9】蛍光を用いた、エレクトロポレーションによる抗体の内在化の検証。細胞は、エレクトロポレーション、固定、透過処理し、且つヤギ抗ウサギAlexa488二次抗体とインキュベーションした。蛍光強度は共焦点顕微鏡法で測定した。OTV1又はOTV2のいずれかに供した、エレクトロポレーションした細胞とエレクトロポレーションしなかった細胞、及び二次抗体にのみ供した細胞との間で強度を比較した。異なるレーザー設定がOTV1とOTV2とに使用され、強度値の比較はなされるべきではない。データは平均値±SEMとして提示されている。
【
図10】トリプシンを用いた限定タンパク質分解後のTRPV1の検出されたペプチド。TRPV1の3Dモデルに示された検出されたペプチドの位置。実験の詳細は実施例3に与えられている。最初に消化されたペプチドは黒で示される。のちに遅れて消化されたペプチドは灰色で示される。
【
図11】Asp-Nを用いた限定タンパク質分解後のTRPV1の検出されたペプチド。TRPV1の3Dモデルに示された検出されたペプチドの位置。実験の詳細は実施例3に与えられている。最初に消化されたペプチドは黒で示される。のちに遅れて消化されたペプチドは灰色で示される。
【
図12】キモトリプシンを用いた限定タンパク質分解後のTRPV1の検出されたペプチド。TRPV1の3Dモデルに示された検出されたペプチドの位置。実験の詳細は実施例3に与えられている。最初に消化されたペプチドは黒で示される。のちに遅れて消化されたペプチドは灰色で示される。
【
図13】ペプシンを用いた限定タンパク質分解後のTRPV1の検出されたペプチド。TRPV1の3Dモデルに示された検出されたペプチドの位置。実験の詳細は実施例3に与えられている。最初に消化されたペプチドは黒で示される。のちに遅れて消化されたペプチドは灰色で示される。
【
図14】プロテイナーゼKを用いた限定タンパク質分解後のTRPV1の検出されたペプチド。TRPV1の3Dモデルに示された検出されたペプチドの位置。実験の詳細は実施例3に与えられている。最初に消化されたペプチドは黒で示される。のちに遅れて消化されたペプチドは灰色で示される。
【
図15】見逃された切断部位を調べるのに適した(d)を示し、好適な領域(例えば切断部位の周囲の-20~+20個のアミノ酸)を範囲に含めるために(入れ子になったエピトープのセットを用いる)フレームシフト法(frame shift approach)を用いて、見逃された切断部位を含む7~8アミノ酸長の配列に対する抗体を作製する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書で提供される説明及び方法論に関連して本発明の前述及び他の態様をより詳細に記載する。本発明はさまざまな形で具体化され、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈されるべきはないことが理解されるべきである。むしろ、これらの実施形態は本開示が徹底的且つ完全であり、本発明の範囲を当業者に十分に伝えることになるように提供される。
【0023】
別に定義されない限り、本明細書で使われる専門用語及び科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されているのと同じ意味をもつ。明細書では、単数形は文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り複数形も含む。本明細書に記載のものと同様又は等価な方法及び材料が本発明の実行又は試験に使用できるが、好適な方法及び材料が下に記載される。本明細書で言及される刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、参照により組み込まれる。本明細書で引用される参考文献は、特許請求された発明に対する先行技術であることを認めない。矛盾する場合には、定義を含めて本明細書が優先することになる。くわえて、材料、方法、及び例は説明のためだけであり、限定することを意図されていない。
【0024】
本明細書で本発明の記載に使用される術語は、特定の実施形態を記載する目的のためであり、本発明を限定することを意図されていない。本発明の実施形態の記載に使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り、複数形も包含することが意図される。また、本明細書では「及び/又は(and/or)」は、1つ以上の関連列挙事項のあらゆる考えられる組み合わせを指し、且つ包含する。さらに、本明細書で「約」という用語は、化合物の量、投与量、時間、温度などの測定可能な値に言及するとき、指定された量の20%、10%、5%、1%、0.5%、又はひいては0.1%の変動を包含することを意味する。範囲(例えば、x~yの範囲)が用いられる場合、測定可能な値が約x~約yの範囲又は約x1~約y1などのその中のいずれかの範囲を意味する。さらに、本明細書で使用される場合、「含む(comprises)」及び/又は「含む(comprising)」という用語は、規定された特徴、整数、ステップ、操作、要素、及び/又は構成要素の存在を特定するが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、操作、要素、構成要素、及び/又はその群の存在又は追加を排除しないことが理解されるであろう。別に定義されない限り、本明細書で使われる専門用語及び科学用語を含む用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されているのと同じ意味をもつ。
【0025】
1つの態様では、本発明はタンパク質に対する抗体を産生する方法を提供し、その方法は、
(i)前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供し、前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成し、前記表面露出ペプチドに基づく抗原性エピトープを産生することにより、前記タンパク質の抗原性エピトープを同定すること、及び
(ii)前記抗原性エピトープに対する抗体を産生すること
を含む。
【0026】
別の態様では、本発明はタンパク質に対する抗体を産生する方法を提供し、その方法は、
(i)前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成し、前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供すること、及び
(ii)前記ペプチドが前記限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に前記タンパク質から切断若しくは除去された際に前記タンパク質の生物学的機能の欠如又は著しい変化をもたらす前記タンパク質中の領域にある前記少なくとも1つの表面露出ペプチドで表面露出エピトープを同定することによって抗原性エピトープを同定すること、又は
バイオインフォマティクス及び/又は前記タンパク質の生物学的機能の既知データに基づいて前記タンパク質内の少なくとも1つの標的領域を選択し、前記少なくとも1つの標的領域内にある前記少なくとも1つの表面露出ペプチドで表面露出エピトープを同定することによって抗原性エピトープを同定すること、並びに
(iii)前記抗原性エピトープに対する抗体を産生すること
を含む。
【0027】
代替的に見ると、本発明はタンパク質に対する抗体を産生する方法を提供し、その方法は、
(i)前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成し、前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供すること、及び
(ii)前記タンパク質にとって機能的に重要であるか、又はそうであると予測されるアミノ酸配列を有する切断された表面露出ペプチドを同定することによって抗原性エピトープを同定し、そのような表面露出ペプチドに基づいて抗原性エピトープを産生すること、並びに
(iii)前記抗原性エピトープに対する抗体を産生すること
を含む。
【0028】
別の態様では、本発明はタンパク質に対する抗体を産生する方法を提供し、その方法は、
(i)前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供し、前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つのペプチドを形成することによって、前記タンパク質の表面露出ペプチドを同定すること、並びに
(ii)少なくとも1つの表面露出ペプチドに基づいて線状又は立体構造抗原性エピトープを構築すること、並びに
(iii)前記抗原性エピトープに対する抗体を産生すること
を含む。
【0029】
別の態様では、本発明はタンパク質に対する抗体を産生する方法を提供し、その方法は、
(i)前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供し、前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成することによって、前記タンパク質の表面露出ペプチドを同定すること、及び
(ii)限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に、タンパク質から切断又は除去され、前記タンパク質の生物学的機能において、欠如又は著しい変化をもたらす、表面露出ペプチドを同定すること、又は
前記表面露出ペプチドのバイオインフォマティクス及び/若しくはタンパク質の生物学的機能の既知データとの関連付けに基づいて、少なくとも1つの同定された(i)の表面露出ペプチドを選択すること、並びに
(iii)少なくとも1つの表面露出ペプチドに基づいて線状又は立体構造抗原性エピトープを構築すること、並びに
(iv)前記抗原性エピトープに対する抗体を産生すること
を含む。
【0030】
別の態様では、本発明はタンパク質に対する抗体を産生する方法を提供し、その方法は、
(i)前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供し、前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成することによって、前記タンパク質の抗原性エピトープを同定すること、及び
(ii)前記抗原性エピトープに対する抗体を産生すること
を含む。
【0031】
本発明による抗体を産生する方法は、別の態様では代替的に、タンパク質に特異的に結合する抗体を作製する方法として見られうる。また、本明細書に記載の抗体を産生する方法の例示的且つ好ましい実施形態は、変更すべきところは変更して、タンパク質に特異的に結合する抗体を作製する方法に適用される。
【0032】
別の態様では、本発明は抗原性エピトープを同定する方法を提供し、その方法は、
(i)前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成し、前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供すること、及び
(ii)前記ペプチドが前記限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に前記タンパク質から切断若しくは除去された際に前記タンパク質の生物学的機能の欠如又は著しい変化をもたらす前記タンパク質中の領域にある前記少なくとも1つの表面露出ペプチドで表面露出エピトープを同定することによって抗原性エピトープを同定すること、又は
バイオインフォマティクス及び/又は前記タンパク質の生物学的機能の既知データに基づいて前記タンパク質内の少なくとも1つの標的領域を選択し、前記少なくとも1つの標的領域内にある前記少なくとも1つの表面露出ペプチドで表面露出エピトープを同定することによって抗原性エピトープを同定すること
を含む。
任意選択で、本発明の方法は前記抗原性エピトープに対する抗体を産生するステップをさらに含む。
【0033】
代替的に見ると、本発明は抗原性エピトープを同定する方法を提供し、その方法は、
(i)前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成し、前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供すること、及び
(ii)前記タンパク質にとって機能的に重要であるか、又はそうであると予測されるアミノ酸配列を有する切断された表面露出ペプチドを同定することによって抗原性エピトープを同定し、そのような表面露出ペプチドに基づいて抗原性エピトープを産生すること
を含む。
任意選択で、本発明の方法は前記抗原性エピトープに対する抗体を産生するステップをさらに含む。
【0034】
タンパク質内の表面に露出された機能的に活性なエピトープに関する詳細な知見は、有効な抗体の開発の助けとなり、抗体候補の量を減らすことによって複雑なスクリーニング手順の必要性を減少させうる。タンパク質の表面トポロジーを評価するのに可能な方法は、限定及び制御されたタンパク質分解を行うことによってプロテアーゼの活性を制限して、タンパク質の最も柔軟性で且つ表面に露出された部分のみを消化することである。このアイデアは、ペプチドが1つずつ又は一度に最大で数個切断される程度でプロテアーゼ活性のキネティックスを落とすことである。次いで、切断されたペプチドはプロテアーゼに供された後に出現する順序に基づいてランク付けすることができる。最初にタンパク質から切断されるペプチドはタンパク質によって良好に露出され、容易にプロテアーゼによってアクセスすることができる。我々はこれらのペプチドに高いランクを与え、我々は、容易にプロテアーゼによって切断されるペプチドはまた、容易に抗体によって認識されるという仮説をたてた。後に遅れた切断されるペプチドに我々は低いランクを与え、その間のすべてのペプチドに、プロテアーゼに供された後の時間を単位とする出現に基づいて高いスコアから低いスコアを与える。よって、該方法はアミノ酸配列に基づき、配列は我々に既知であるので、抗体が前記標的タンパク質のどこに結合するかが具体的に分かる。第2のステップでは、タンパク質中で標的にされる具体的なアミノ酸配列を知っているので、我々は既報のデータ若しくは既知の他のバイオインフォマティクスデータ又はトランケートされたタンパク質の薬理学的研究から、前記アミノ酸配列の機能的意義を調べることができる。アミノ酸配列が機能的重要性、例えば結合部位、調節部位、構造的に重要な部位、チャネル領域などをもつ既知のアミノ酸配列と一致又は関連又は重複する場合、前記ペプチドは高いスコアを与えられ、抗原性エピトープ及び後の抗体開発の良好な候補と判断される。具体的には、例えば、低い温度、低い濃度、及び/又は短い消化時間を用いてプロテアーゼの活性を制御することによって、これは達成することができる。限定タンパク質分解が既知の構造をもつタンパク質で行われる場合、主に3つの構造決定因子がどこでタンパク質分解活性が起こるかに影響を及ぼすと理解されている。それらは柔軟性、表面露出、及び局所相互作用の数を含む。ペプチド鎖がプロテアーゼ内の活性部位に入るために、柔軟性及びタンパク質が局所的に折り畳み構造をほどく能力が必要とされる。表面における領域はより容易に折り畳み構造がほどけ、且つ立体障害がより少ないという事実に起因して、表面露出はタンパク質分解のための切断部位を与える可能性が高い。水素結合及びジスルフィド架橋の点で局所相互作用の量も重要である。局所相互作用が少ないほうがタンパク質分解に都合がよい。これらの3つの構造決定因子はすべて、通常タンパク質内で互いに関連する。したがって、限定タンパク質分解は、前記タンパク質鎖は局所的に折り畳み構造がほどけうるものとして、主に表面露出領域を切断することになる。限定タンパク質分解は詳細構造が未知のタンパク質の表面露出領域を決定する方法として使用されてきた。
【0035】
脂質に基づいたタンパク質固定(LPI)技術により、柔軟性のある化学を膜タンパク質上で行うことができる。細胞からプロテオリポソームを得て、それをフローセル内に固定することによって、膜タンパク質の固定相が作り出され、それは一連の溶液に数回供され、且つ例えば、酵素によるさまざまなタイプの化学修飾に供することができる。プロテオリポソームの段階的な酵素消化から生じるペプチドを液体クロマトグラフィーとタンデム質量分析法(LC-MS/MS)とで分析するプロテオミクスによる特徴付け用の逐次連続トリプシン消化プロトコールが開発されている[1~3]。
【0036】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、タンパク質は、プロテオリポソーム(例えば、細胞、例えば、ヒト細胞由来のプロテオリポソーム)中に(例えば、プロテオリポソームの脂質二重層中に)存在するタンパク質(例えば、膜タンパク質)である。したがって、いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解はプロテオリポソームで行われる。プロテオリポソームはタンパク質を含む脂質小胞である。プロテオリポソームは精製された膜タンパク質及び脂質から再構築することができるか、又は細胞膜から(例えば、小胞形成を通して)若しくは細胞の溶解を通して直接的に得ることができる。好ましくは、プロテオリポソームは溶解した細胞の細胞膜から得られる(から調製される)。プロテオリポソームはどの対象の細胞タイプからでも得られうる。簡便な細胞タイプはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。
【0037】
プロテオリポソームを調製する方法は当該技術分野において公知であり、それらのいずれを使用してもよい(例えば、Jansson et al.Anal.Chem.,2012, 84:5582-5588に記載の方法)。プロテオリポソームを調製する例示的且つ好ましい方法は本明細書で実施例に記載されている。典型的には、直径が約50nm~約150nmのプロテオリポソームが好ましい。
【0038】
溶解細胞の細胞膜から生じた(調製された)プロテオリポソームを使用することは、(例えば、実施例で言及される方法を用いて)そのようなやり方で調製されたプロテオリポソームは、プロテオリポソームの外側の膜タンパク質の細胞内の部分(又はドメイン)に存在しうるので、そうでなければプロテアーゼにアクセスできないタンパク質のいくつかの部分を蛋白質分解切断(及び結果として抗原性エピトープ同定)に利用可能にするので好ましい。
【0039】
1つの態様では、我々は、LPIマイクロフルイディクスプラットフォーム[1、4]を利用して潜在的なエピトープ候補を産生することによって標的抗体技術を開発してきた。これはスクリーニングに基づくよりもむしろ機構に基づいた方法論である。簡単に説明すると、LPI技術は限定タンパク質分解などの柔軟性のある化学が膜タンパク質で行わることを可能にする。細胞からプロテオリポソームを得て、フローセル内に固定することによって、膜タンパク質の固定相を作り出す。プロテオリポソームの段階的な酵素消化から生じるペプチドをLC-MS/MSで分析するプロテオミクスによる特徴付け用の逐次連続消化プロトコールが開発されている。そのようなペプチドは、LPIフローセル内で速度論的に制御された消化から産生され、標的タンパク質内に露出され且つアクセス可能な領域、抗体結合に利用しされやすい潜在性をもつ領域を明らかにする。さらにこれらの潜在的なエピトープは、優れた結合特性及び生物学的効率をもつ抗体をもたらすことになるエピトープを見出すために既知の機能データに対して関連付けられる。最後に、選ばれたエピトープ/ペプチドは、抗体を作製するためにホスト動物を免疫するのに使用しうることが言及されるべきである。限定タンパク質分解消化を行う他の方法及び技術は当技術分野において公知であり、例えば、可溶性タンパク質に使用されうる。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態では、前記タンパク質(例えば、膜タンパク質)は限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の前に(例えば、固体担体上に)固定化されてタンパク質の固定相を作り出す。よって、いくつかの実施形態では、タンパク質は表面に結合している。
【0041】
いくつかの実施形態では、前記タンパク質(例えば、膜タンパク質)はプロテオリポソーム(例えば、細胞由来のプロテオリポソーム)中に存在し、前記プロテオリポソームは、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の前に(例えば、固体担体上に)固定化されてタンパク質の固定相を作り出す。
【0042】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、タンパク質は細胞由来のプロテオリポソームに存在する膜タンパク質であり、前記プロテオリポソームはフローセルに固定化されて膜タンパク質の固定相を作り出す。好適なフローセルは当技術分野において公知であり、例えば、Janssonら(Anal.Chem.,2012, 84:5582-5588)によって記述されたフローセルがある。
【0043】
いくつかの実施形態では、タンパク質(例えば、膜タンパク質)はプロテオリポソーム(例えば、細胞由来のプロテオリポソーム)中に存在し(又はプロテオリポソーム上に存在し)、前記プロテオリポソームは懸濁液中にある(例えば、溶液に懸濁されている)。
【0044】
いくつかの実施形態では、前記タンパク質は、表面に結合しているか、又は懸濁液中にある(例えば、溶液に懸濁されている)タンパク質含有脂質小胞中にある(又はタンパク質含有脂質小胞上に存在する)。
【0045】
いくつかの実施形態では、前記タンパク質は、その機能的又は天然コンフォメーションが保存されるように、いずれの適切なエンティティの一部であるか、又はいずれの適切なエンティティ上に存在し、例えば、脂質二重層若しくは膜の一部であるか、又はスキャホールド若しくは粒子上に存在する。
【0046】
いくつかの実施形態では、前記タンパク質は、表面に結合しているか、又は懸濁液中にある(例えば、溶液に懸濁されている)ナノ粒子又は他のコロイド粒子などの粒子中にある(又は粒子上に存在する)。
【0047】
いくつかの実施形態では、前記タンパク質、表面に結合しているか、又は懸濁液中にある(例えば、溶液に懸濁されている)スキャホールド又はケージ化化合物などの他の化学エンティティにある(又はその上に存在する)。
【0048】
いくつかの実施形態では、前記タンパク質、表面に結合しているか、又は懸濁液中にある(例えば、溶液に懸濁されている)無傷細胞(生体細胞、例えば、ヒト細胞)中にある(又は無傷細胞上に存在する)。
【0049】
プロテオリポソーム中のタンパク質に関連して、小胞又は無傷細胞を含有するタンパク質は、プロテオリポソーム、脂質小胞又は細胞を含有するタンパク質の外側に延びる(且つ結果として外側に露出される)タンパク質を包含する。
【0050】
いくつかの実施形態では、前記タンパク質は溶液中にある。溶液は、精製されたタンパク質の溶液であってもよく、タンパク質の混合物を含んでもよい。
【0051】
いくつかの実施形態では、細胞(例えば、CHO細胞)は、例えば、制御可能な(例えば、テトラサイクリンで制御可能な)発現系を介してタンパク質を過剰発現する。いくつかの実施形態では、そのような細胞に由来するプロテオリポソームが使用される。
【0052】
我々は、一過性受容体電位バニロイド1(TRPV1)イオンチャネルの機能を変化させる能力を有する生物学的に活性のある抗体を開発するための潜在的なエピトープを見出すことを目的として、このイオンチャネルの限定タンパク質分解から産生されたペプチドを調べた。TRPV1は2つの異なるプロテアーゼでの限定タンパク質分解に供され、消化されたペプチドは機能データと関連付けされた。我々はこの情報を使って、ヒトTRPV1(hTRPV1)イオンチャネルの細胞内側で作用する2つのポリクローナル抗体、OTV1及びOTV2を開発した。両抗体は薬理学的に活性があり、それらの標的エピトープ領域は、それらの消化されやすさ(又は表面露出(限定タンパク質分解後に高くランク付けされたペプチド))及び機能的な重要性に基づいて選ばれた。作動剤カプサイシンで刺激したとき、OTV1はタンパク質に対して強い阻害作用を示す。OTV2は、TRPV1を通したカルシウム流入によって誘発される過程であるTRPV1のカルモジュリン/Ca2+依存脱感作を妨害する。OTV1及びOTV2の有効性は、TRPV1の細胞内側を抗体溶液に曝露できるインサイド-アウトパッチクランプ及び抗体が生細胞内にエレクトロポレーションされた後のTRPV1媒介蛍光取り込みアッセイの両方で調べた。
【0053】
パッチクランプ実験に適した迅速な溶液交換のため、LPIフローセルとオープンボリュリームマイクロフルイディクスフローセルとを併用する方法が以前から報告されてきている。この長所は細胞膜を裏返しにでき、イオンチャネルの細胞内ドメインを直接調べられることができることである。この方法では、限定タンパク質分解及び制御タンパク質分解を用いて関連する構造及び機能データを得ることができる。TRPV1は侵害受容一次感覚ニューロンに発現する陽イオンチャネルである。全長タンパク質については詳細な結晶構造は得られていないが、N末端のアンキリンリピートドメイン(ARD)は結晶化がラットTRPV1で成功している。TRPV1で限定タンパク質分解を行った際に短い時間で消化されたペプチドが、既知の機能的に活性がある領域に比較されている。検出されたペプチドの3分の1が、機能的に重要であると示唆される残基を含んだ。
【0054】
技術分野の概説(the survey of the field)に記載されているTRPV1表面トポロジーのスクリーニングを、TRPV1を含むプロテオリポソームをフローセルに固定し、さらにそれを限定トリプシンタンパク質分解に曝露することによって行った[1、4]。トリプシンの活性は室温でさまざまな消化時間を用いることによって制御した。累積インキュベーション時間と逐次プロトコールが使用され、消化されたペプチドはLC-MS/MSで検出された。ペプチド数の増加が時間とともに検知され、アクセス可能で容易に消化されるタンパク質の領域及び堅い領域を明らかにした。これは
図1に示されている。LPIフローセルでのTRPV1の限定タンパク質分解後に、切断されたペプチドとしてLC-MS/MSで見られた数個の領域が、カルモジュリン、ATP、及びPIP2に関する既知の相互作用部位と関連する。
【0055】
また、我々はトリプシン消化でさまざまな構造セグメントを取り除いた後に、TRPV1の機能性を調べた[4]。TRPV1イオンチャネルの活性はインサイド-アウトパッチクランプ記録及びフローセル消化に続いて、化学的なトランケーションの構造的効果を評価するプロテオミクス解析で調査した。我々はインサイド-アウトパッチクランプ記録構成を使用し、それによりTRPV1の細胞内の部分をトリプシンに曝露でき、トリプシン濃度の増加に伴う電流応答の減少を測定することができる(
図2)。
【0056】
我々は、イオンチャネルTRPV1は同一の実験条件下で2つの異なるマイクロフルイディクスフローセル中で限定トリプシンタンパク質分解及び制御トリプシンタンパク質分解に曝露できることを示す。1つの例では、パッチクランプ記録は薬理学的研究のために行われ、オープンボリュリームマイクロフルイディクス装置でチャネル機能動態に関する情報を得た。この設計により、パッチクランプピペット及び細胞パッチが灌流チャネルにアクセスを得ることが可能になる。別の例では、同等のクローズドボリュリームフローセルを用いて試料が薄まることなくイオンチャネルのペプチドを消化した。切断されたペプチドはLC-MS/MSで同定された。次いで、2つの実験からのデータが比較されて、構造機能関係が評価することができた。我々はこの方法論的アプローチを使って、柔軟性が高いTRPV1の領域及びその作動剤カプサイシンで活性化された間に機能的チャネル特性に影響を及ぼす極めて重要な領域を同定した。
【0057】
また、このタイプの方法論は他のタンパク質(すなわち、TRPV1ではないタンパク質)にも使用することができる。
【0058】
hTRPV1のアミノ酸配列を下に示す(配列番号1)。
MKKWSSTDLGAAADPLQKDTCPDPLDGDPNSRPPPAKPQLSTAKSRTRLFGKGDSEEAFPVDCPHEEGELDSCPTITVSPVITIQRPGDGPTGARLLSQDSVAASTEKTLRLYDRRSIFEAVAQNNCQDLESLLLFLQKSKKHLTDNEFKDPETGKTCLLKAMLNLHDGQNTTIPLLLEIARQTDSLKELVNASYTDSYYKGQTALHIAIERRNMALVTLLVENGADVQAAAHGDFFKKTKGRPGFYFGELPLSLAACTNQLGIVKFLLQNSWQTADISARDSVGNTVLHALVEVADNTADNTKFVTSMYNEILMLGAKLHPTLKLEELTNKKGMTPLALAAGTGKIGVLAYILQREIQEPECRHLSRKFTEWAYGPVHSSLYDLSCIDTCEKNSVLEVIAYSSSETPNRHDMLLVEPLNRLLQDKWDRFVKRIFYFNFLVYCLYMIIFTMAAYYRPVDGLPPFKMEKTGDYFRVTGEILSVLGGVYFFFRGIQYFLQRRPSMKTLFVDSYSEMLFFLQSLFMLATVVLYFSHLKEYVASMVFSLALGWTNMLYYTRGFQQMGIYAVMIEKMILRDLCRFMFVYIVFLFGFSTAVVTLIEDGKNDSLPSESTSHRWRGPACRPPDSSYNSLYSTCLELFKFTIGMGDLEFTENYDFKAVFIILLLAYVILTYILLLNMLIALMGETVNKIAQESKNIWKLQRAITILDTEKSFLKCMRKAFRSGKLLQVGYTPDGKDDYRWCFRVDEVNWTTWNTNVGIINEDPGNCEGVKRTLSFSLRSSRVSGRHWKNFALVPLLREASARDRQSAQPEEVYLRQFSGSLKPEDAEVFKSPAASGEK
【0059】
したがって本発明は、その天然の脂質環境に存在する標的膜タンパク質に関して、具体的なエピトープの機能的研究又は新規抗体の推定結合部位の評価を可能にする。
【0060】
本発明においては、抗原性エピトープは典型的に、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間にタンパク質からの切断された表面露出ペプチドに基づく。代替的に見ると、表面露出ペプチドは典型的に抗原性エピトープを産生するのに使用される。
【0061】
これに関して、抗原性エピトープは表面露出ペプチドのアミノ酸配列又はそれらに実質的に相同な配列を含みうる。抗原性エピトープは表面露出ペプチドのアミノ酸配列又はそれらに実質的に相同な配列から成りうる。抗原性エピトープは表面露出ペプチドのアミノ酸配列又はそれらに実質的に相同な配列とオーバーラップしうる。
【0062】
表面露出ペプチドに「実質的に相同な」アミノ酸配列としては、所与の表面露出ペプチドのアミノ酸配列と比較して、1個、2個、又は3個のアミノ酸置換(好ましくは、1個又は2個、より好ましくは1個)をもつ配列を有する又は含む配列が挙げられる。
【0063】
表面露出ペプチドに「実質的に相同な」アミノ酸配列としては、表面露出ペプチドの少なくとも5個若しくは少なくとも6個の連続したアミノ酸含む(又はから成る)(又は表面露出ペプチドの少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも12個、少なくとも15個、少なくとも20個、若しくは少なくとも25個)連続したアミノ酸を含む若しくはから成る)配列が挙げられる。6個のアミノ酸が、抗体によって認識又は結合されるペプチド/タンパク質配列の典型的な長さである。
【0064】
表面露出ペプチドに「実質的に相同な」アミノ酸配列としては、所与の表面露出ペプチド配列に対して、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも98%の配列相同性をもつ配列を有する又は含む配列が挙げられる。少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも98%の配列相同性が好ましい。
【0065】
抗原性エピトープは、表面露出ペプチドの伸長型、又は表面露出ペプチドに実質的に相同なアミノ酸配列の伸長型を含みうる(又はから成りうる)。例えば、1つ以上のさらなるアミノ酸(例えば、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも15個、又は少なくとも20個のアミノ酸)が、表面露出ペプチド配列(又はそれらに実質的に相同な配列)の一端又は両端に存在してよい。いくつかの実施形態では、最大で2個、最大で3個、最大で4個、最大で5個、最大で6個、最大で7個、最大で8個、最大で9個、最大で10個、最大で15個、又は最大で20個のアミノ酸が、表面露出ペプチド配列(又はそれらに実質的に相同な配列)の一端又は両端に存在してよい。
【0066】
抗原性エピトープは、表面露出ペプチドのトランケート型、又は表面露出ペプチドに実質的に相同なアミノ酸配列のトランケート型を含みうる(又はから成りうる)。例えば、1個以上のアミノ酸(例えば、少なくとも2個、少なくとも個3、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、又は少なくとも10個)が、表面露出ペプチド配列(又はそれらに実質的に相同な配列)の一端又は両端になくてもよい。いくつかの実施形態では、最大で2個、最大で3個、最大で4個、最大で5個、最大で6個、最大で7個、最大で8個、最大で9個、最大で10個、最大で15個、又は最大で20個のアミノ酸が、表面露出ペプチド配列(又はそれらに実質的に相同な配列)の一端又は両端になくてもよい。
【0067】
表面露出ペプチドが空間的に互いに接近して配置される場合、抗原性エピトープは、例えば、1個又は数個の表面露出ペプチドに実質的に相同な環状ペプチドでありうる。
【0068】
抗原性エピトープは長さが、少なくとも5個、又は少なくとも6個、又は少なくとも7個のアミノ酸、例えば、長さが6~10個、6~12個、6~15個、6~20個、6~25個、6~30個、6~40個、6~50個、6~60個、又は6~75個のアミノ酸でありうる。抗原性エピトープは長さが、例えば、最大で7個、最大で8個、最大で9個、最大で10個、最大で15個、最大で20個、最大で25個、最大で30個、最大で35個、又は最大で40個のアミノ酸でありうる。抗原性エピトープは長さが、例えば、5~30個、6~30個、7~30個、5~25個、6~25個、又は7~25個のアミノ酸でありうる。抗原性エピトープは長さが、例えば、5~7個、又は5~8個、又は5~9個(例えば、7~9個のアミノ酸)でありうる。誤解を避けるために、より長いタンパク質又はポリペプチド、例えば、長さが100個のアミノ酸を超えるものは、本発明においてはエピトープとは見なされない。
【0069】
相同性(例えば、配列相同性)はいずれの簡便な方法でも評価されうる。しかし、配列間の相同性(例えば、同一性)の度合いを決定するには、複数の配列のアラインメントを作成するコンピュータプログラムが有用であり、例えば、クラスタルダブル(Clustal W)(Thompson, Higgins, Gibson, Nucleic Acids Res.,22:4673-4680, 1994)がある。所望の場合、クラスタルダブル(Clustal W)アルゴリズムは、BLOSUM62スコア行列(Henikoff and Henikoff, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 89:10915-10919, 1992)並びにギャップ開始ペナルティーを10及びギャップ伸長ペナルティーを0.1として使用することができ、結果として、最上位の一致が2つの配列間で得られ、配列の1つの全長の少なくとも50%がアラインメントに含まれる。配列をアラインメントするのに使用されうる他の方法は、Smith及びWaterman(Smith and Waterman, Adv.Appl.Math.,2:482, 1981)によって改変されたNeedleman及びWunschのアラインメント方法(Needleman and Wunsch, J.Mol.Biol.,48:443,1970)であり、最上位のマッチが2つの配列間で得られ、同一アミノ酸の数が2つの配列間で決定される。2つのアミノ酸配列間の同一性の%率を計算する他の方法は一般に当該技術分野において認識されており、例えば、Carillo及びLipton(Carillo and Lipton, SIAM J.Applied Math.,48:1073, 1988)によって記載のもの及びComputational Molecular Biology, Lesk, e.d.Oxford University Press, New York, 1988, Biocomputing: Informatics and Genomics Projectsに記載にものが挙げられる。
【0070】
一般に、そのような計算にはコンピュータプログラムが採用されることになる。ALIGN(Myers and Miller, CABIOS, 4:11-17, 1988)、FASTA(Pearson and Lipman, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 85:2444-2448, 1988; Pearson, Methods in Enzymology, 183:63-98, 1990)、及びギャップBLAST(Altschul et al.,Nucleic Acids Res.,25:3389-3402, 1997)、BLASTP、BLASTN、又はGCG(Devereux, Haeberli, Smithies, Nucleic Acids Res.,12:387, 1984)といった、一対の配列を比較及びアラインメントするプログラムもこの目的のために有用である。さらに、欧州バイオインフォマティクス研究所のDaliサーバーはタンパク質配列の構造に基づいたアラインメントを提供する(Holm, Trends in Biochemical Sciences, 20:478-480, 1995; Holm, J.Mol.Biol.,233:123-38, 1993; Holm, Nucleic Acid Res.,26:316-9, 1998)。
【0071】
本発明による抗原性エピトープは、線状エピトープ又は立体構造エピトープでありうる。
【0072】
いくつかの実施形態では、本発明による抗原性エピトープは環化されたエピトープでありうる。
【0073】
免疫に使用される線状抗原性エピトープを調製するのに用いられる一般的な手法はFmoc SPPS(ペプチド固相合成)である。SPPSでは、その上にペプチド鎖が洗浄-カップリング-洗浄の反復サイクルを用いて構築できる小さな多孔性ビーズが官能性リンカーで処理される。次いで合成されたペプチドは化学開裂を用いてビーズから切り離される。環状ペプチドの合成については、一般的な方法は、ジスルフィド架橋(架橋が2つのシステインによって形成された架橋である)の形成によって又は架橋が典型的なペプチド結合から成る「頭-尾(head-to-tail)」架橋の形成によって環化を利用する。環状ペプチドは固体担体上で形成することができる。一般的には、立体構造エピトープに対する抗体はタンパク質全体又はタンパク質の大部分を用いて産生される。
【0074】
限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解は、完了まで進まないタンパク質のタンパク質分解性の消化を含む。よって、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解を介して、所与のタンパク質は単に部分的に消化される(又は部分的に分解される又は部分的にトランケートされる)だけでありうる。限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解は部分的タンパク質分解とみなされてよい。限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解下で、所与のタンパク質が、あるいくつかの数の所与のプロテアーゼに対する潜在的な切断点(すなわち、切断のために所与のプロテアーゼによって認識可能な部位)をもつ場合、そのプロテアーゼはそれらの切断部位の一部でのみ切断しうる。
【0075】
また、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解は、プロテアーゼ活性のキネティックスがタンパク質からペプチドが1個ずつ又は一度に最大で数個切断される程度に落とされる限定条件下で行われるタンパク質分解を含む。いくつかの実施形態では、前記少なくとも1つのプロテアーゼの速度論的活性は、前記表面露出ペプチドが、1個ずつ又は一度に最大で数個、例えば、一度に最大で8個(1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、若しくは8個)(例えば、本明細書において別のところに記載されているように、例えば、試料中の最大で8個のペプチド又は最大で8個の独特のペプチド)、又は一度に最大で7個(1個、2個、3個、4個、5個、6個、若しくは7個)(例えば、本明細書において別のところに記載されているように、例えば、試料中の最大で7個のペプチド又は最大で7個の独特のペプチド)、又は一度に最大で5個(1個、2個、3個、4個、若しくは5個)(例えば、本明細書において別のところに記載されているように、例えば、試料中の最大で5個のペプチド又は最大で5個の独特のペプチド)切断される程度に落とされる。そのような実施形態のいくつかでは、前記タンパク質が所与のプロテアーゼによって切断できるペプチドが使い尽くされるようにタンパク質分解反応は完了まで進みうる。
【0076】
本明細書において別のところに記載されているように、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解は典型的に、前記タンパク質の最も柔軟性がある部分及び/又は表面露出部分のみがプロテアーゼによって切断されるという結果になる。
【0077】
本発明のいくつかの実施形態では、前記少なくとも1つのプロテアーゼは、最大で8個の表面露出ペプチド(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、又は8個の表面露出ペプチド)(例えば、本明細書において別のところに記載されているように、例えば、試料中の最大で8個のペプチド又は最大で8個の独特のペプチド)が前記プロテアーゼの作用によってタンパク質から切断されるという結果になる条件下で使用される。
【0078】
好ましい実施形態では、前記少なくとも1つのプロテアーゼは、最大で7個の表面露出ペプチド(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、若しくは7個の表面露出ペプチド)又は最大で5個の表面露出ペプチド(例えば、1個、2個、3個、4個、若しくは5個の表面露出ペプチド)(例えば、本明細書において別のところに記載されているように、例えば、試料中の最大で7個若しくは最大で5個のペプチド又は最大で7個若しくは最大で5個の独特のペプチド)が前記プロテアーゼの作用によってタンパク質から切断されるという結果になる条件下で使用される。
【0079】
本発明による限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解は典型的に、例えば、プロテアーゼ活性のキネティックスを、前記タンパク質からペプチドが1個ずつ又は一度に最大で数個切断される程度に落とすことによって達成することができる。いくつかの実施形態では、前記少なくとも1つのプロテアーゼの速度論的活性は、前記表面露出ペプチドが、1個ずつ又は一度に最大で数個、例えば、上記のように、一度に最大で8個(1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、若しくは8個)、又は一度に最大で7個(1個、2個、3個、4個、5個、6個、若しくは7個)、又は一度に最大で5個(1個、2個、3個、4個、若しくは5個)切断される程度に落とされる。
【0080】
前記タンパク質の最も柔軟性がある及び/又は表面露出部分のみがプロテアーゼによって切断されるという結果、例えば、最大で8個の表面露出ペプチド、又は最大で7個の表面露出ペプチド、又は最大で5個の表面露出ペプチドがプロテアーゼによって切断されるという結果になるために、どの好適な条件を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に用いてもよい。限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解を導く条件は、消化反応の温度及び/又はプロテアーゼの濃度及び/又は消化反応の時間及び/又はバッファー条件に変化をもたせることによって確定しうる。特定の条件下でペプチドから切断されるペプチドの数は(例えば、質量分析又はタンパク質化学又は生化学に基づいて)当業者によって決定することができる。また、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に適切な条件を確立する好適な方法は本明細書において別のところに記載されている。適切な限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解条件は、さまざまなタンパク質又はさまざまなプロテアーゼ又は使用されるタンパク質及びプロテアーゼの特定の組み合わせについて確立することができる。限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に特に好ましい条件は本明細書の実施例に記載されている。典型的には、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に用いられる条件は前記タンパク質の天然の構成(天然型)を変えない(又は著しく変えない)。前記タンパク質の補因子は、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に存在してもよいが、必ずしも存在する必要はない。
【0081】
限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に適切な条件はプロテアーゼ及び/又はタンパク質に依存して異なりうるが、一般には、当該プロテアーゼに対する最適以下の条件、例えば、プロテアーゼ活性のキネティックスが著しく遅くなるか減じられる程度の条件である。
【0082】
低い(例えば、最適タンパク質分解活性より低いか、著しく低い)プロテアーゼのタンパク質分解活性を与える(又はもたらす)条件が一般に用いられる。そのような条件としては、プロテアーゼの低い濃度及び/又は当該プロテアーゼにとって最適以下である作業温度及び/又は当該プロテアーゼに標準的ではないバッファー若しくは最適以下のバッファー及び/又はプロテアーゼのタンパク質との短い接触(インキュベーション)時間を用いることが挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解(例えば、トリプシンを用いて、又は例えば、37℃以上の最適作業温度のプロテアーゼを用いて)は室温(例えば、約20℃若しくは17~23℃若しくは20~25℃)で行われた。
【0084】
いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解は、使用されるプロテアーゼの最適作業温度より少なくとも2℃、少なくとも5℃、少なくとも10℃、又は少なくとも20℃高い若しくは低い、又は著しく高い若しくは低い、(好ましくは低い)温度で行われる。いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解は、使用されるプロテアーゼの最適作業温度より2oC~5oC、2oC~10oC、2oC~20oC、2oC~30oC、5oC~10oC、5oC~20oC、5oC~30oC、10oC~20oC、10oC~30oC、20oC~30oC高い又は低い(好ましくは低い)温度で行われる。
【0085】
いくつかの実施形態では、最大で5μg/mlのプロテアーゼ(例えば、トリプシン)の濃度が限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に用いられる。いくつかの実施形態では、最大で0.5μg/ml、最大で1μg/ml、最大で2μg/ml、最大で5μg/ml、最大で10μg/ml、又は最大で20μg/mlのプロテアーゼの濃度が限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に用いられる。好ましくは、5μg/ml 未満のプロテアーゼの濃度(例えば、最大で1μg/ml、最大で2μg/ml、最大で3μg/ml、最大で4μg/ml、又は最大で5μg/ml)が限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に用いられる。いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解反応は、5分間、10分間、15分間、30分間、1時間、又は5時間以下で進めることができ、短いインキュベーション時間のほうが一般に好ましい。例えば、いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解反応は、5分間、10分間、15分間、30分間以下で進めることができる。いくつかの好ましい実施形態では、限定タンパク質分解反応は、5分間未満(例えば、4分間未満、3分間未満、2分間未満、又は1分間未満)で進めることができる反応である。典型的には、高濃度(またはより高い濃度)のプロテアーゼが使用される場合、短い(またはより短い)インキュベーション時間が使用される。純粋に例として、20μg/mlの(またはそれより高い)濃度のプロテアーゼが使用される場合、5分以下のインキュベーション時間が使用されうる。そのような実施形態のいくつかでは、限定タンパク質分解は室温で行われる。よって、いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解は、最大で5μg/mlプロテアーゼ(例えば、約5μg/mlプロテアーゼ)の濃度で室温にて最大で約5分間(例えば、約5分間)行われる。
【0086】
いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解または制限的タンパク質分解は、使用されるプロテアーゼによって潜在的に切断可能(消化可能)であるタンパク質中の部位(結合)の15%以下、または10%以下、または5%以下(例えば、1%, 2%, 3%, 4%、若しくは5%)の切断をもたらす(または達成する)タンパク質分解(タンパク質分解反応)である。別の見方をすると、いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解は15%以下、または10%以下、または5%以下(例えば1%、2%、3%、4%、若しくは5%)のタンパク質分解を達成する。使用されるプロテアーゼによって潜在的に切断可能である所与のタンパク質中の部位は、(例えばPeptidecutter(Expasy、SIBスイスバイオインフォマティクス研究所)などのコンピュータを使用することによって)タンパク質配列および使用されるプロテアーゼの基質特異性の知識に基づいて当業者によって容易に同定されうる。典型的には、タンパク質の直鎖アミノ酸配列中のすべての潜在的部位での切断は「100%」値を表すことになる・であろう(代替的に、「100%」値は、切断されると、使用機器、例えば使用MS機器によって容易に検出可能な長さのペプチドが遊離する(または生じる)タンパク質中の潜在的部位の総数として設定されうる)。代替的に、「100%」値は、(例えば、タンパク質の細胞外部分またはドメインであるか、又は例えば細胞膜内にあるタンパク質の一部または領域またはドメインでもなく、タンパク質のシステインリッチな部分でもなく、タンパク質の翻訳後修飾部分でもなく、ベータシートでもない)タンパク質分解酵素にアクセス可能な領域内あることが知られている(または、例えばタンパク質モデリングツールを用いることによってその領域内にあることが予測される)タンパク質中の潜在的に切断可能な部位の数として設定されうる。さらに、プロテアーゼによって実際に切断される部位の数(および位置)は当業者によって容易に決定でき、したがって実際に切断される潜在的に切断可能な部位の割合を容易に決定することができる。
【0087】
いくつかの実施形態では、限定または制限的タンパク質分解は、限定または制限的タンパク質分解に関連して本明細書に記載の1つ以上の条件下で行われるタンパク質分解ステップと見なされうる。
【0088】
いくつかの実施形態では、タンパク質分解消化反応はギ酸又はアンモニア水を用いて止められうる。例えば、トリプシン、Asp-N、プロテイナーゼK、及びキモトリプシンはギ酸を用いて止められうる。ペプシンはアンモニア水を用いて止められうる。
【0089】
本発明のいくつかの実施形態では、切断された表面露出ペプチドは、前記少なくとも1つのプロテアーゼと接触した後に出現する順序に基づいてランク付けられ、最初に(又は早期に)切断され、且つ最初の(又は早期の)サンプリングポイントで検出される表面露出ペプチドは高いランクが与えられ、後に遅れて切断され、後のサンプリングポイントで検出される表面露出ペプチドは低いランクが与えられる。短時間で標的タンパク質から外れ、機能的な重要性も有する、高くランク付けられたペプチドが典型的に、エピトープ開発、免疫、及び後に続く抗体産生に使用されうる。
【0090】
本発明のいくつかの実施形態では、本明細書に記載されているように低い(過酷ではない)タンパク質分解活性の条件下で切断される表面露出ペプチド(例えば、低い(より低い)プロテアーゼ濃度、低い(より低い)インキュベーション温度、及び/又は短い(より短い)インキュベーション時間、概して容易に消化されたペプチド)は高いランクが与えられ、本明細書に記載されているように高い(より過酷な)タンパク質分解活性の条件下で切断される表面露出ペプチド(例えば、高い(より高い)プロテアーゼ濃度、高い(より高い)インキュベーション温度、及び/又は長い(より長い)インキュベーション時間、概して容易には消化されないペプチド)は低いランクが与えられる。
【0091】
いくつかの実施形態では、タンパク質分解消化材料(若しくはタンパク質分解消化反応からの溶離液)の複数の試料が、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解反応(例えば、順次)の間に採取されてよく、及び/又は複数の試料(例えば、複数の限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解反応)が別々に進行(若しくは処理)されうる(例えば、並行して同時に進行(若しくは処理)されうる)。
【0092】
いくつかの実施形態では、タンパク質分解消化材料(又はタンパク質分解消化反応からの溶離液)の複数の試料は、タンパク質の限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に時間間隔(例えば、1分、2.5分、または5分間隔)で採取されうる(又は得られうる)。そのような実施形態のいくつかでは、プロテアーゼと接触(又はインキュベーション)の時間(又は期間)に基づいて試料が変動すると共に、プロテアーゼ及び/又は(典型的には「及び」)プロテアーゼ濃度(及び/又は本明細書において別のところに記載されているようにタンパク質分解をもたらす他の条件)は、試料各々について(又は試料各々において)一定でありうる。そのような実施形態のいくつかでは、試料は順番に得られうる(連続消化)。
【0093】
いくつかの実施形態では、複数の試料(例えば、複数の限定消化反応又は制限的消化反応)は別々に進行(又は処理)され、各試料はタンパク質の限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解のための相異なるタンパク質分解条件又はタンパク質分解活性をもち、例えば、本明細書において別のところで論じられているように、例えば、相異なるプロテアーゼ及び/又は相異なるプロテアーゼ濃度及び/又は相異なる温度及び/又は相異なるインキュベーション時間が相異なる試料に使用されうる。そのような実施形態のいくつかでは、プロテアーゼとの接触(又はインキュベーション)の時間(又は期間)は典型的には(及び好ましくは)、試料各々について(又は試料各々において)一定である。そのような実施形態のいくつかでは、試料は並行して同時にプロセス(若しくは処理)されうる。
【0094】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、前記プロテアーゼの作用によってタンパク質から切断される表面露出ペプチドの数は一定のプロテアーゼ濃度で時間によって調節され、いくつかの試料が時間とともに採取されるか、又は前記プロテアーゼの作用によってタンパク質から切断される表面露出ペプチドの数は一定の時間でプロテアーゼの濃度によって調節され、いくつかの試料がプロテアーゼのいくつかの相異なる濃度で採取(又は処理)できるか、又は前記プロテアーゼの作用によってタンパク質から切断される表面露出ペプチドの数は時間と前記プロテアーゼの濃度との両方によって調節される。
【0095】
各試料(又は好ましい試料)は、タンパク質から切断された1個又は数個のペプチド(例えば、最大8個のペプチド若しくは最大8個の独特のペプチド)を好ましくは含む。よって、タンパク質から切断された1個又は数個のペプチド(例えば、最大8個のペプチド若しくは最大8個の独特のペプチド)は各試料で検出されうる。独特のペプチドは、前試料に存在しないか、又はより弱い(若しくは厳しさを抑えた)タンパク質分解条件で試料に存在しない(例えば、前試料に存在するか、又はより弱いタンパク質分解条件で試料に存在するペプチドと異なる又は違った)ペプチドである。したがって、最大8個の独特なペプチドを含有する試料は8個を超える相異なるペプチドを含みうるが、これらのペプチドの1つ以上は前試料又はより弱いタンパク質分解条件で試料中に検出されうる(よって、これらのペプチドの1つ以上は独特でないペプチドでありうる)。
【0096】
理想的且つ好ましくは、各試料は単一の切断されたペプチドのみを含むことになる。例えば、単一の切断されたペプチドは最初の試料(又はサンプリングポイント)で検出されうる。単一の切断されたペプチドは1つ以上の後の試料(又はサンプリングポイント)で検出されうる。他の例では、複数の切断されたペプチド(例えば、最大8個のペプチド又は最大で8個の独特のペプチド)は、最初及び/又は後の試料(サンプリングポイント)で検出されうる。1つの試料につき1個又は数個の切断されたペプチド(例えば、1つの試料につき最大8個のペプチド又は最大で8個の独特のペプチド)を生じさせる条件は、短いサンプリング間隔、さまざまなプロテアーゼ濃度、さまざまなバッファー組成、さまざまな温度、さまざまな塩濃度、又はプロテアーゼ阻害剤(又はそれらの組み合わせ)を用いることによって確立することができる。切断されたペプチドは、それらのペプチドが出現する試料(サンプリングポイント)に基づいてランク付けされうる。例えば、サンプリングポイント当たり1個のペプチドのみが検出されるという結果になる条件下で、最初に採取された試料のペプチドは最高のランクが与えられ、2番目に採取された試料のペプチドはランク2が与えられるなどである。各サンプリングポイントで単一の切断されたペプチドのみが検出される条件を用いて、個々のペプチドをランク付けすることが可能である。各サンプリングポイントで複数の切断されたペプチドのみが検出される条件を用いて、ペプチド群をランク付けすることが可能である。
【0097】
いくつかの実施形態では、より高いランクの表面露出ペプチド(切断されたペプチド)が好ましい。いくつかの実施形態では、本発明による表面露出ペプチド(例えば、高いランクのペプチド)は、最初に採取された試料で検出される(又は存在する)切断されたペプチドである。いくつかの実施形態では、本発明による表面露出ペプチド(例えば、高いランクのペプチド)は、タンパク質の限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に採取された試料に出現する順序の点から、ランク上位8個のペプチド(例えば、ランク上位8個の独特のペプチド)の1個であるか、又はランク上位8個ペプチド(例えば、ランク上位7個若しくはランク上位5個のペプチド)(例えば、上位8個、上位7個、若しくは上位5個の独特のペプチド)の1個を含有する試料に存在する切断されたペプチドである。そのようなペプチドは最初に採取された試料中に検出される(又は存在する)こともあり、1つ以上のその後に採取された試料に存在することもある。
【0098】
最初に(又は早期に)タンパク質から切断されるペプチド(例えば、上記のように最初(最初のサンプリングポイント)に採取された試料中のもの又は上記のように限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に出現する順序に基づいてランク上位8個のペプチド(例えば、ランク上位8個の独特のペプチド)にランク付けされるもの))は典型的に、良好に露出され(例えば、表面に露出され)、よってプロテアーゼによって容易にアクセスされるものである。そのような最初に(又は早期に)消化されたペプチドは、高いランクが与えられる(例えば、最初に出現するペプチドはランク1が与えられ、2番目に出現するペプチドはランク2が与えられるなどである)。後に遅れて(例えば、早期ペプチドより後のサンプリングポイントで)タンパク質から消化されたペプチドは典型的に、良好に露出されておらず、よってプロテアーゼによって容易にアクセスされないものである。そのような後に遅れて消化されたペプチドはより低いランクが与えられる。本発明では、高いランクをもつペプチドが典型的に好まれる。
【0099】
いくつかの実施形態では、タンパク質の表面で最も露出されているアミノ酸配列を有する切断されたペプチド(表面露出ペプチド)が抗原性エピトープ開発に好ましい。
【0100】
いくつかの実施形態では、ペプチド(切断されたペプチド)は、タンパク質とってのそのペプチドの機能的重要性又は予測される機能的重要性に基づいてランク付けされうる。典型的には、タンパク質にとって機能的に重要である又は機能的に重要であると予測されるアミノ酸配列を有するペプチドは、機能的に重要でない又は機能的に重要でないと予測されるものと比べてより高いランクが与えられる。いくつかの実施形態では、より高いランクのペプチドが好ましい。
【0101】
いくつかの実施形態では、タンパク質にとって機能的に重要であるか又は機能的に重要であると予測されるアミノ酸配列をもち(例えば、機能的重要性に関して高いランクをもち)、くわえて、表面露出に基づく高いランクをもつ(例えば、上記のように最初に採取された試料(最初のサンプリングポイント)ペプチド又は上記のように限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に出現する順序に基づいて上位8個のペプチドランク付けされたペプチド(例えば、上位8個にランク付けされた独特のペプチド))が、抗原性エピトープ開発に好ましい(又は言い換えれば、抗原性エピトープの基礎となる好ましいペプチドである)。
【0102】
いくつかの実施形態では、タンパク質にとって機能的に重要であるか又は機能的に重要であると予測されるアミノ酸配列をもつ(例えば、機能的重要性に関して高いランクをもつ)が、くわえて表面露出に基づく高いランクをもつ(例えば、上記のように最初に採取された試料(最初のサンプリングポイント)ペプチドでもなく、上記のように限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に出現する順序に基づいて上位8個のペプチドランク付けされたペプチド(例えば、上位8個にランク付けされた独特のペプチド)でもないペプチドが、抗原性エピトープ開発に使用されうる。
【0103】
いくつかの実施形態では、タンパク質にとって機能的に重要でないか又は機能的に重要でないと予測されるアミノ酸配列をもつ(例えば、機能的重要性に関して低いランクをもつ)が、表面露出に基づく高いランクをもつ(例えば、上記のように最初に採取された試料(最初のサンプリングポイント)のペプチド又は上記のように限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に出現する順序に基づいて上位8個のペプチドランク付けされたペプチド(例えば、上位8個にランク付けされた独特のペプチド))が、抗原性エピトープ開発に使用されうる。
【0104】
いくつかの実施形態では、抗原性エピトープは、切断されたペプチドのアミノ酸配列の機能的重要性又は予測される機能的重要性に関係なく、上記のように最初に(又は早期に)前記タンパク質から切断された表面露出ペプチド(例えば、上記のように最初に採取された試料(最初のサンプリングポイント)のペプチド、又は上記のように限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に出現する順序に基づいて上位8個のペプチドにランク付けされたペプチド(例えば、上位8個にランク付けされた独特のペプチド))に基づく。
【0105】
いくつかの実施形態では、抗原性エピトープは、タンパク質にとって機能的に重要である、又は機能的に重要であると予測されるアミノ酸配列をくわえてもつペプチドの、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に出現する順序に基づいて上位8個のペプチドにランク付けされたペプチド(例えば、上位8個にランク付けされた独特のペプチド)に基づく。これらのペプチドは(上記のように)出現する順序のみに基づいて絶対的に上位にランク付けされた8個のペプチドのセットと必ずしも同じである必要はない(が同じでありうる)。
【0106】
いくつかの実施形態では、タンパク質にとって機能的に重要であるか、又はそうであると予測されるタンパク質上の対象の領域が特定又は選択され、且つ抗原性エピトープは、前記対象の領域から切断されたアミノ酸配列をくわえて有するペプチドの、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に出現する順序に基づいて上位8個のペプチド(例えば、上位8個にランク付けされた独特のペプチド)にランク付けされた表面露出ペプチドに基づく。これらのペプチドは(上記のように)出現する順序のみに基づいて絶対的に上位にランク付けされた8個のペプチドのセットと必ずしも同じである必要はない(が同じでありうる)。
【0107】
いくつかの実施形態では、抗体産生のための抗原性エピトープは、限定タンパク質分解の間にプロテアーゼの作用によって前記タンパク質から最初に(又は早期に)切断され、よって高いランクをもつペプチド(表面露出ペプチド)(例えば、上記のように最初に採取された試料(最初のサンプリングポイント)のペプチド又は上記のように限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に出現する順序に基づいて上位8個のペプチドにランク付けされたペプチド(例えば、上位8個にランク付けされた独特のペプチド))のアミノ酸配列に基づく。
【0108】
よって、いくつかの実施形態では、本発明の方法は、抗原性エピトープ開発のために高いランクをもつ表面露出ペプチド(例えば、上記のように最初に採取された試料(最初のサンプリングポイント)のペプチド又は上記のように限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に出現する順序に基づいて上位8個のペプチドにランク付けされたペプチド(例えば、上位8個にランク付けされた独特のペプチド))を選ぶこと、並びに前記表面露出ペプチドに基づく(又は前記表面露出ペプチドから開発された)前記抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む。
【0109】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、高いランクをもつ表面露出ペプチド(例えば、上記のように最初に採取された試料(最初のサンプリングポイント)のペプチド又は上位8個のペプチドにランク付けされたペプチド(例えば、上記のように限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に出現する順序に基づいて上位8個にランク付けされた独特のペプチド))を選ぶこと、前記表面露出ペプチドに基づく抗原性エピトープを構築すること、並びに前記抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む。
【0110】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、高いランクをもつ表面露出ペプチド(例えば、上記のように最初に採取された試料(最初のサンプリングポイント)のペプチド又は上記のように限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に出現する順序に基づいて上位8個のペプチドにランク付けされたペプチド(例えば、上位8個にランク付けされた独特のペプチド))を選び、それをタンパク質の定義された生物学的特性(又は生物学的機能)と関連付けること、前記表面露出ペプチドに基づく抗原性エピトープを構築すること、並びに前記抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む。タンパク質の定義された生物学的特性(又は機能)と関連するアミノ酸配列をもつペプチドが典型的に好ましい。
【0111】
切断されたペプチド(表面露出ペプチド)を同定するどの手段を採用してもよい。いくつかの実施形態では、切断されたペプチドは質量分析を用いて同定される。いくつかの実施形態では、質量分析と併用して液体クロマトグラフィーが使用される。好ましくは、切断されたペプチド(表面露出ペプチド)はLC-MS/MS(液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法)を用いて特定される。例示的で且つ好ましい質量分析方法論が実施例で記載されている。タンデム質量分析スペクトルは、MASCOT(マトリックスサイエンス社、ロンドン、英国)によって、例えば、実施例に記載の適切なデータベースに対して検索されうる。
【0112】
本明細書でいう消化、分解、又はトランケートされたタンパク質は、プロテアーゼによってその長さに沿って1つ以上の部位で切断されたタンパク質である。そのようなタンパク質切断は、タンパク質から切断された(すなわち、切り離された)1つ以上のペプチド(表面露出ペプチド)をもたらす。よって表面露出ペプチドは、プロテアーゼの作用によってタンパク質から切断されたペプチドである。「表面に露出された」という用語は、通常、全長タンパク質(すなわち、切断されていないタンパク質)に照らして、切断された(切り離された)ペプチド配列に対応するタンパク質の部分が良好に露出され、プロテアーゼにアクセス可能であることを示す。
【0113】
本発明は、治療用抗体発見のための新しい方法及びヒトTRPV1タンパク質に対する新らたな薬理学的に活性のある抗体を提供する。
【0114】
本発明は、良好に露出され、よって抗体ターゲティングのガイドとして利用しうるタンパク質のエピトープを検出する方法に関する。
【0115】
本発明のいくつかの方法は、前記タンパク質にとって機能的に重要(例えば、生物学的重要)であるか、又はそうであると予測されるアミノ酸配列を有する切断された表面露出ペプチドを同定することによって抗原性エピトープを同定し、そのような表面露出ペプチドに基づいて抗原性エピトープを産生するステップを含む。いくつかの実施形態では、抗体はそのような抗原性エピトープに対して産生される。
【0116】
前記タンパク質から切断された表面露出ペプチドが前記タンパク質にとって機能的に重要であるか又は機能的に重要であると予測されるアミノ酸配列を有するか否かを識別することは、いずれの好適な手段によっても行うことができ、当業者であれば容易にそれを実行することができる。
【0117】
例えば、いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に消化、分解、又はトランケートされたタンパク質は機能的なアッセイで調べられ、その機能又機能活性(例えば、生物学的機能)が変化したかどうか評価できる。これは、消化、分解、又はトランケートされたタンパク質の機能活性のレベルを、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供されていないタンパク質の機能活性のレベルと比較することによってなされうる(限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供されていないタンパク質の機能活性のレベルは対照レベルとみなすことができる)。もしタンパク質の生物学的機能が限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の後に(又は間に)変化していたら、これは、切断されたペプチド(表面露出ペプチド)がタンパク質に機能的な関連のある(例えば、生物学的に重要である)タンパク質の領域から切断された(切り離された)ことを示す。したがって、切断された表面露出ペプチドはタンパク質における機能的重要性を評価するための機能的データと関連付けられる。切断されたペプチドは、例えば、並行実験で、本明細書において別のところに記載されているように(例えば、LC-MS/MSによって)同定することができる(例えば、切断されたペプチドの配列を明らかにすることができる)。タンパク質からのペプチド(表面露出ペプチド)の切断がタンパク質の機能活性の変化をもたらした場合、これは、表面露出ペプチドが本発明の抗原性エピトープ産生に特に有用でありうることを示す。代替的に見ると、そのような表面露出ペプチドに基づく抗原性エピトープは抗体産生に特に有用であり好ましい可能性がある。
【0118】
1つの実施形態では、タンパク質はTRPV1であり、TRPV1にとっての切断されたペプチドの機能的重要性を決定するアッセイは本明細書において別のところに記載されているようにインサイド-アウトパッチクランプアッセイである。
【0119】
「変化させた」機能若しくは機能活性、又は機能若しくは機能活性「の変化」は、いずれの測定可能な変化、好ましくは、顕著な変化、より好ましくは、統計的に有意な変化であることができる。「変化させた」機能又は「機能の変化」は機能の増加又は減少でありうる。機能の例示的な変化は、≧2%、≧3%、≧5%、≧10%、≧25%、≧50%、≧75%、≧100%、≧200%、≧300%、≧400%、≧500%、≧600%、≧700%、≧800%、≧900%、≧1000%、≧2000%、≧5000%、又は≧10,000%の変化である。変化は典型的に、適切な対照レベルの機能又は機能活性と比べて、例えば、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供されていない同等のタンパク質の機能又は機能活性と比べて評価される。
【0120】
いくつかの実施形態では、抗原性エピトープは、タンパク質から切断されたときに、タンパク質の機能又は機能活性の変化をもたらす表面露出ペプチドのアミノ酸配列に基づく。
【0121】
いくつかの実施形態では、表面露出ペプチド配列が機能的に重要(例えば、生物学的に重要)であるか否かは、バイオインフォマティクス的手段及び/又はタンパク質の機能的に重要な領域について既に知られている(例えば、学術文献中の)他の情報を利用することによって予測又は決定される。したがって、切断された表面露出ペプチドは、タンパク質の機能的に重要な領域に関する既知データと関連付けてタンパク質にとっての切断されたペプチドの機能的重要性を予測又は決定することができる。表面露出ペプチドのアミノ酸配列が機能的に重要であることが知られている(又は機能的に重要であると予測される)なら、これは、表面露出ペプチドが本発明の抗原性エピトープ産生に特に有用でありうることを示す。代替的に見ると、そのような表面露出ペプチドに基づく抗原性エピトープは抗体産生に特に有用であり好ましい可能性がある。
【0122】
よって、いくつかの実施形態では、抗原性エピトープは、例えば、バイオインフォマティクス分析に基づいて、且つ/又はタンパク質の機能的に重要な領域について既に知られている(例えば、学術文献中の)他の情報に基づいて機能的に重要であることが知られている(又はそうであることが予測される)表面露出ペプチドのアミノ酸配列に基づく。
【0123】
いくつかの実施形態では、抗原性エピトープは、TRPV1のカルモジュリン結合配列又はTRPV1のカプサイシン結合部位と関連する(又は対応する)表面露出ペプチドのアミノ酸配列に基づくTRPV1の抗原性エピトープである。
【0124】
いくつかの実施形態では、バイオインフォマティクス的手段及び/又はタンパク質の機能的に重要な領域について既に知られている(例えば、学術文献中の)他の情報を用いることによって表面露出ペプチドの機能的重要性を予測又は決定することにくわえて、表面露出ペプチドの機能的重要性を決定する機能的なアッセイが行われる。
【0125】
「バイオインフォマティクス的手段」、「バイオインフォマティクス分析」、「バイオインフォマティクスデータ」、及び「バイオインフォマティクス情報」としては、データベース検索(例えば、BLAST検索)、構造モデリング、又は構造生物学、及びそれらによって得られたデータ/情報が挙げられるが、これらに限定されない。
【0126】
機能(例えば、生物学的機能)は、当該タンパク質に関するいずれの生物学的又は生理学的に関連する機能を含むことができる。機能(例えば、生物学的機能)としては、(リガンド又は受容体などの)標的又は他の結合パートナー、例えば、補因子に結合するタンパク質の能力、シグナル伝達活性、タンパク質の酵素活性、イオンチャネル活性、トランスポーター活性、遊離、例えば、インスリン放出、及び取り込み機構などが挙げられるが、これらに限定されない。よって、タンパク質の機能的に関連する領域又は機能的に重要な領域としては、(リガンド又は受容体などの)標的又は他の結合パートナー、例えば、補因子に結合するタンパク質の能力を与える領域、シグナル伝達活性を与える領域、タンパク質の酵素活性を有する領域、イオンチャネル活性を与える領域、トランスポーター活性を与える領域、並びに分子(例えば、インスリン)の放出及び取り込みをもたらす領域が挙げられるが、これらに限定されない。
【0127】
1つの実施形態では、本発明の方法はさらに、(例えば、前記1つ以上のプロテアーゼの既知の認識配列に基づいてタンパク質の切断点を同定できるコンピュータプログラムを用いることによって)1つ以上のプロテアーゼによってタンパク質から切断されうる一連の推定ペプチド(例えば、すべての推定ペプチド)をインシリコにおいて産生するステップ、及び任意選択で、前記インシリコにおいて産生された一連の推定ペプチドをフィルターして、(例えば、配列データベース、例えば、BLAST検索又は他の文献において)以前に記載されているペプチドを除外することによって推定ペプチドのフィルターをかけた後のリストを得ること、推定ペプチドのフィルターをかけた後のリストをタンパク質の限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解によって同定されたペプチドのリストと比較すること、前記フィルターをかけた後のリストと前記タンパク質の限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解によって同定されたペプチドのリストとの両方に共通するペプチドを同定すること、両リストに共通するペプチドに基づいた抗原性エピトープを同定(又は構築)すること、及び任意選択で、前記抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む。
【0128】
別の態様では、本発明は抗原性エピトープを同定する方法を提供し、その方法は、
(i)第1のタンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって第1のタンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供し、前記プロテアーゼの作用によって第1のタンパク質から切断された少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の第1のタンパク質及び少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成すること、
(ii)第1のタンパク質から切断された表面露出ペプチドのアミノ酸配列と同一又は実質的に相同な第2のタンパク質の領域(又は一部又は部分)のアミノ酸配列を同定すること、並びに
(iii)第1のタンパク質から切断された表面露出ペプチドのアミノ酸配列と同一又は実質的に相同な前記第2のタンパク質の前記領域(又は一部又は部分)のアミノ酸配列に基づいて抗原性エピトープを産生すること、並びに任意選択で
(iv)その抗原性エピトープに対する抗体を産生すること
を含む。
【0129】
実質的に相同な配列の例示的な種類は本明細書において別のところで議論されている。そのような方法は、異なるタンパク質(第1のタンパク質)で行われた限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に基づいてタンパク質(第2のタンパク質)の抗原性エピトープ産生を促進することができる。特にこれは、第1のタンパク質及び第2のタンパク質が同じタンパク質ファミリーにあるか、そうでなければ関連する場合に有用でありうる。例えば、TRPV1で行われた限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解からのデータはTRPV2抗原性エピトープを同定するのに使用されうる。第2のタンパク質の実質的に相同なタンパク質を決定(又は同定)することは、いずれの好適な手段(例えば、コンピュータプログラム)を用いても行われうる。当業者ならそれらについて精通しているであろう。単に例として、EMBL-EBIによって提供されているEMBOSS Needleプログラムは好適なコンピュータプログラムである。EMBOSS Needleは、2つのインプット配列を読み込み、Needleman-Wunschアラインメントアルゴリズムを用いてそれらの全長に沿って2つの配列の最適なアラインメント(ギャップを含む)を見出した計算結果である最適グローバル配列アラインメントを書き出す。
【0130】
本発明のいくつかの実施形態では、抗原性エピトープは、他のタンパク質と保存されているアミノ酸配列(例えば、進化的に保存された配列又は表面露出ペプチドのアミノ酸配列に同一若しくは実質的に相同な配列)を有する表面露出ペプチドに基づかない。これにより、そのような抗原性エピトープに対して産生された抗体の交差反応(又は非特異的結合)が最小限になりうる。言い換えれば、独特のアミノ酸配列(又は他のタンパク質に見られない配列)に基づいた抗原性エピトープはいくつかの実施形態で使用することができる。
【0131】
本発明は、機能的に関連があり、よって抗体ターゲティングのための指針として利用されうるタンパク質のエピトープを検出する方法に関する。より具体的に、そのような方法は、標的タンパク質のホットスポットエピトープを明らかにするプロテオミクスツールを含む。抗体の作製における抗原として使用される可能性があるこれらのエピトープは、本明細書において抗原性エピトープを意味する。
【0132】
本発明の態様では、タンパク質はプロテアーゼ作用を通して消化、分解、及び/又はトランケートされ、且つ並行して同時に消化、分解、及び/又はトランケートされたタンパク質に関する1つ以上の機能的なアッセイによって探索してタンパク質の機能的に重要な領域を明らかにする。
【0133】
ある実施形態では、タンパク質の消化、分解、及び/又はトランケーションは機能的なアッセイによって並行して同時に行われ、抗体産生のためのエピトープ選択を導くタンパク質の機能的に重要である領域を明らかにする。
【0134】
ある実施形態では、単一のプロテアーゼが使用されてタンパク質を消化、分解、及び/又はトランケーションしうる。別の実施形態では、複数のプロテアーゼが標的タンパク質を1個ずつ順番に又は並行して同時に消化、分解、及び/又はトランケートするのに使用されうる。そのようなプロテアーゼとしては、Arg-Cプロテイナーゼ、Asp-Nエンドペプチダーゼ、クロストリパイン、グルタミルエンドペプチダーゼ、Lys-C、Lys-N、トリプシン、キモトリプシン、プロテイナーゼK、及びテルモリシンが例となるが、これらに限定されない。いくつかのプロテアーゼによって容易に消化される領域はタンパク質の露出領域であるはずで、単一のプロテアーゼによってのみ消化される領域は恐らく、より隠れた領域に位置する。代替的に、プロテアーゼは独特の切断特異性又は/及び物理化学的特性又は/及び構造的特徴をもち、他のプロテアーゼが識別できない標的タンパク質の表面露出ペプチドを識別することができる。よって、複数のプロテアーゼの使用が好ましく、各々の異なるプロテアーゼは、抗原性エピトープとしての表面露出ペプチド適性に関する補完的又は独特の情報を生み出すことができる。
【0135】
複数のプロテアーゼの連続的な使用とは、さまざまなプロテアーゼがタンパク質と次々とインキュベーションされる、すなわち、1つのプロテアーゼがインキュベーションされ、続いて別のプロテアーゼが後の時点でインキュベーションされ、任意選択で1つ以上の他の異なるプロテアーゼが後の時点でインキュベーションされることを意味する。
【0136】
単一のプロテアーゼの連続な使用とは、同一のプロテアーゼ(例えば、同じ濃度のプロテアーゼ)がタンパク質と、例えば、いくつかの異なる(逐次連続した)時点で数回インキュベーションされるか、又はいくつかの試料がタンパク質分解消化反応から時間とともに採取され、反応で産生された新しい又は独特のペプチドの出現が経時的に検出及び追跡されることを意味する。
【0137】
並行使用とは、複数の別個の単一プロテアーゼ消化反応が行われ、各反応は異なるプロテアーゼで行われるか、又はプロテアーゼは同じであるが相異なるタンパク質分解条件、例えば、本明細書において別のところに記載されているように、例えば、異なるプロテアーゼ濃度及び/若しくは温度及び/若しくは時点で行われることを意味する。
【0138】
複数のプロテアーゼは、オーバーラップしている、補完的である、又は独特である表面露出ペプチドを同定するために使用されうる。これに関連して「オーバーラップしている」とは、1つのプロテアーゼでの限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解を介して同定された表面露出ペプチドが、1つ以上の他の(すなわち異なる)プロテアーゼでの限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解を介して同定された表面露出ペプチドのアミノ酸配列と(部分的又は完全に)重複するアミノ酸配列を有することを意味する。これに関連して、「補完的である」とは、1つのプロテアーゼを用いた限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解を介して同定された表面露出ペプチドが、全タンパク質配列(すなわち、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解前の全タンパク質配列)に照らして、1つ以上の他の(すなわち、相異なる)プロテアーゼを用いた限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解を介して同定された表面露出ペプチドのアミノ酸配列に隣接又は近接(又は該アミノ酸配列と部分的にオーバーラップしさえする)アミノ酸配列を有することを意味する。「独特である」表面露出ペプチドとは、試験したプロテアーゼの1個又は数個(少数)を用いて限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解した後にのみ同定される表面露出ペプチドである。
【0139】
理論に拘束されるものではないが、複数のプロテアーゼによって切断されたタンパク質の領域はタンパク質の良好に露出された(例えば、表面露出)領域にある可能性が高い。よって、複数のプロテアーゼによって切断されたタンパク質の領域からの表面露出ペプチドは、抗原性エピトープの基礎となる、特に有用な表面露出ペプチドを表わしうる。
【0140】
複数のプロテアーゼを使用することとしては、限定されないが、2個、3個、4個、5個のプロテアーゼを使用することが挙げられる。
【0141】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、プロテアーゼは、トリプシン、Arg-Cプロテイナーゼ、Asp-Nエンドペプチダーゼ、クロストリパイン、グルタミルエンドペプチダーゼ、Lys-C、Lys-N、キモトリプシン、プロテイナーゼK、テルモリシン、ペプシン、カスパーゼ1、カスパーゼ2、カスパーゼ3、カスパーゼ4、カスパーゼ5、カスパーゼ6、カスパーゼ7、カスパーゼ8、カスパーゼ9、カスパーゼ10、エンテロキナーゼ、第Xa因子、グランザイムB、好中球エラスターゼ、プロリン-エンドペプチダーゼ、ブドウ球菌ペプチダーゼI、及びトロンビンからなる群より選択される。
【0142】
いくつかの好ましい実施形態では、プロテアーゼは、トリプシン、Asp-Nエンドペプチダーゼ、キモトリプシン、ペプシン、及びプロテイナーゼKからなる群より選択される。好ましい実施形態では、プロテアーゼはトリプシンである。
【0143】
本発明のさらに別の態様では、いくつかのプロテアーゼの混合物が、一定濃度又は1つあるいはいくつかのプロテアーゼのさまざまな濃度における単回又は時間間隔を空けた複数回の曝露に使用される。よって、いくつかの実施形態では、複数のプロテアーゼの単一の混合物(混和物)が使用される。
【0144】
複数のプロテアーゼが使用される場合、ランク付けリストが個々のプロテアーゼについて作られる。
【0145】
この方法は、タンパク質機能の新らたな基本的理解並びにヒト及び/又は動物の疾患を治療するのに使用できる薬理学的に活性のある抗体の迅速で且つ的確な開発のための新しい方法論/技術を生むことになる。該方法は、可溶性又は膜結合、細胞外又は細胞内のすべてのタンパク質に汎用することができる。
【0146】
本明細書で提案する方法によって産生されたエピトープのリストは、精選されたバイオインフォマティクスデータ及び機能的なアッセイに対して分類されることが好ましい。該方法は実験及びバイオインフォマティクス情報の両方からの入力データを用いることが好ましい。ある実施形態では、膜タンパク質及び膜結合性タンパク質に着目することになる。そのようなタンパク質としては、ヒト侵害受容器TRPV1、TRPスーパーファミリーの他のイオンチャネル、NMDA受容体を含むいくつかの興奮性アミノ酸受容体、及びGタンパク質が例となるが、これらに限定されない。これらのタンパク質(例えば、イオンチャネル)には、例えば、パッチクランプを用いて詳細にわたって直接的に調べることができるという利点がある。対象のタンパク質の他のクラスは、発がん性低分子量GTPアーゼであるKRAS、NRAS、及びHRASを含む、発がん性タンパク質に関係する。KRASは膵臓癌、結腸癌、及び肺癌を含むいくつかの転移性悪性腫瘍の鍵となるタンパク質である。GTPアーゼ活性は、例えば、GTPを放射性同位体標識した後に、GTPがGDPに加水分解した後の遊離32Pを測定すること、プルダウンアッセイした後にウェスタンブロッティングすることによって調べることができる。さらに、他の興味深いタンパク質クラスは、ほんの数例としてPD1、PDL1、CD40などのがん治療における免疫調節に関与する免疫調節タンパク質である。
【0147】
本発明による「タンパク質」はどんなタンパク質であってもよい。
【0148】
本発明のいくつかの実施形態では、タンパク質は、膜結合タンパク質、可溶性(例えば、循環)タンパク質、細胞外タンパク質、又は細胞内タンパク質である。
【0149】
いくつかの実施形態では、タンパク質は膜タンパク質又は膜結合性タンパク質である。
【0150】
いくつかの実施形態では、タンパク質は、イオンチャネル、例えば、TRPスーパーファミリーのイオンチャネル(例えば、TRPV1又はTRPV2)である。好ましい実施形態では、タンパク質はTRPV1である。
【0151】
いくつかの実施形態では、タンパク質は興奮性アミノ酸受容体である。そのような実施形態のいくつかでは、タンパク質はNMDA受容体又はGタンパク質である。
【0152】
いくつかの実施形態では、タンパク質は発がん性タンパク質である。そのような実施形態のいくつかでは、タンパク質は、KRAS、NRAS、及びHRASからなる群より選択される発がん性低分子量Gタンパク質である。
【0153】
いくつかの実施形態では、タンパク質は免疫調節タンパク質である。そのような実施形態のいくつかでは、タンパク質は、PD1、PDL1、CD40、OX40、VISTA、LAG-3、TIM-3、GITR、及びCD20からなる群より選択される。
【0154】
いくつかの実施形態では、タンパク質は、本明細書の表9、表10、表11、または表12のいずれか1つに含まれるタンパク質である。したがって、いくつかの実施形態では、タンパク質は、マンノシルオリゴ糖1,2-α-マンノシダーゼIA、脂肪アルデヒドデヒドロゲナーゼ、CD81抗原、嗅覚受容体1B1、塩素チャネルCLIC様タンパク質1、高可能性(Probable)Gタンパク質共役型受容体83、PRA1ファミリータンパク質3、グリセロール-3-リン酸アシルトランスフェラーゼ4、POTEアンキリンドメインファミリーメンバーF、NADHチトクロームb 5レダクターゼ3、キニノーゲン-1、Rho関連GTP結合タンパク質RhoC、ナトリウム/水素交換輸送体6、アミロイド様タンパク質2、膜結合プロゲステロン受容体成分1、ホスホリパーゼD4、マトリックスメタロプロテイナーゼ-14、アトラスチン-3、タンパク質YIF1A、小胞結合膜タンパク質1、塩素チャネルCLIC様タンパク質1、ゴルジンサブファミリーBメンバー1、デヒドロゲナーゼ/レダクターゼSDRファミリーメンバー7B、アニオン交換輸送体、膜貫通タンパク質192、膜貫通およびユビキチン様ドメイン含有タンパク質1、ポリピリミジン管結合タンパク質1、RNA結合タンパク質Musashiホモログ2、デスドメイン関連タンパク質6、推定ユビキチン結合酵素E2 N様、ユビキチン結合酵素E2 N、アルファセントラクチン、AP-2複合体サブユニットベータ、mRNAデキャッピング酵素1A、カルメニン、及びRNA結合タンパク質14からなる(または含む)群から選択されるタンパク質である。
【0155】
いくつかの実施形態において、タンパク質は、ウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター受容体(u-PAR)でも、トランスグルタミナーゼ3(TGase3)でも、ナイセリア髄膜炎菌タンパク質でも、カンナビノイド受容体(例えば、CB1)でもない。
【0156】
いくつかの実施形態では、タンパク質は真核生物タンパク質である。例えば、いくつかの実施形態では、タンパク質は哺乳類タンパク質、好ましくはヒトタンパク質である。
【0157】
いくつかの実施形態では、タンパク質はヒトプロテオームの任意のタンパク質である。言い換えれば、ヒトタンパク質が好ましい。
【0158】
単一又は複数のプロテアーゼの限定消化プロトコールをその標的に使用することは、ホットスポットエピトープに対する新しい抗体の発見につながることになるであろう。相異なるプロテアーゼはさまざまな切断されたペプチドを生じることになる。ある実施形態では、膜タンパク質は分解され、このひとつひとつのトランケーションの効果は、タンパク質機能に対する効果について探索される。ある種のプロテアーゼでのみ見られる稀なスポットも同定されることになる。次いで同定されたデータは、精選されたバイオインフォマティクスのデータ対して解析され、トランケートされたタンパク質の機能的なアッセイからも解析され、当該タンパク質の機能的に重要である領域を認識することになる。
【0159】
実施形態の態様は、タンパク質の抗原性エピトープを同定する方法に関する。該方法は、タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼに接触させることによってタンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供し、少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型のタンパク質及び少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成することを含む。別の実施形態では、該方法はまた、タンパク質の少なくとも1つの生物学的機能を試験、確認、又は検証する機能的なアッセイにおいて少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型のタンパク質を探索することを含む。さらに該方法は、少なくとも1つの表面露出ペプチドのなかで、機能的なアッセイに基づいて決定されたタンパク質の生物学的機能の発現に関与するタンパク質の領域にある表面露出ペプチドとしてタンパク質の抗原性エピトープを同定することを含む。
【0160】
ある実施形態では、タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に曝露することは、タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼに、i)選ばれた温度若しくは温度範囲にて、ii)少なくとも1つのプロテアーゼの(タンパク質の濃度に相対的な)選ばれた濃度若しくは濃度範囲で、且つ/又はii)選ばれた時間で接触させることを含む。これにより今度は、少なくとも1つのプロテアーゼがタンパク質の表面露出領域を切断するがタンパク質の柔軟な領域及び/又は内部領域は切断しないことが可能になる。
【0161】
タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼに接触させることによってタンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供することは、タンパク質が穏やかなタンパク質分解に供されることを示唆する。結果として、タンパク質の特に表面に露出されている柔軟性のあるペプチド部分が、少なくとも1つのプロテアーゼの作用によってアミノ酸配列から切断されることになる。タンパク質分解に用いられる温度、濃度、及び/又は時間は典型的に、特定のプロテアーゼ及び今般のタンパク質に依存する。よって実施形態では、タンパク質分解条件の候補のセットが、消化に用いられる好適な温度、プロテアーゼの濃度、及び/又は時間、並びにタンパク質を分解又はトランケートして少なくとも1つの表面露出ペプチドを得るバッファー条件を選択又は特定するために最初に試験される。例えば、タンパク質及びプロテアーゼの今般の組み合わせに最も適切なタンパク質分解条件を特定するために、タンパク質分解は、複数の、すなわち少なくとも2つの異なる反応温度にて、複数の相異なるプロテアーゼ濃度(タンパク質の濃度に相対的な)、及び/又は複数の相異なる反応時間、例えば、
図1で示されるようにさまざまなバッファー条件で行うことができる。
【0162】
好適なプロテアーゼ条件は、例えば、タンパク質を1個又は最大でN個の表面露出ペプチドにする消化、分解、又はトランケーションをもたらす温度、濃度、及び/又は時間である。パラメーターNの典型的な値は7であり、好ましくは、6若しくは5、より好ましくは、4若しくは3、又はさらに好ましくは、2若しくは1である。
【0163】
ある実施形態では、機能的なアッセイは、タンパク質の少なくとも1つの生物学的機能を試験、確認、又は検証する。そのような生物学的機能の非限定的な例としては、タンパク質のリガンド又は受容体などの標的に結合する能力、タンパク質の酵素活性、イオンチャネル活性などが挙げられる。
【0164】
ある実施形態では、タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供することは、タンパク質を複数のプロテアーゼに接触させることによってタンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供し複数の消化型、分解型、又はトランケート型のタンパク質及び複数の表面露出ペプチドを形成することを含む。特定の実施形態では、タンパク質は複数のプロテアーゼに連続して、すなわち、次から次へと順々に接触する。別の特定の実施形態では、タンパク質は複数のプロテアーゼに並行して同時に接触する。
【0165】
ある実施形態では、抗原性エピトープを同定することは、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間にその領域がタンパク質から切断又は除去された際にタンパク質の生物学的機能の欠如又は著しい改変をもたらす領域にある少なくとも1つの表面露出ペプチドのなかで表面露出エピトープを同定することを含む。
【0166】
ある実施形態では、該方法はまた、バイオインフォマティクス及び/又はタンパク質の生物学的機能の既知データに基づいてタンパク質内の少なくとも1つの標的領域を選択することを含む。そのような場合では、抗原性エピトープを同定することは、少なくとも1つの標的領域の中でタンパク質の領域にある少なくとも1つの表面露出ペプチドのなかで表面露出ペプチドを同定することを含む。
【0167】
この実施形態では、バイオインフォマティクス及び/又は生物学的機能の他の既知データが抗原性エピトープ選択を導くのに使用される。これは、選ばれた標的領域の1つにある表面露出ペプチドのみが抗原性エピトープを同定又は選択する際に候補として使用されることを意味する。したがって、いずれかの生物学的機能を欠くことが知られている領域及び/又はタンパク質の生物学的機能を発現するのに関与しないことが知られている領域にある表面露出ペプチドを除去又は除外することによって候補の数を減らすことができる。
【0168】
実施形態の別の態様は、タンパク質の抗原性エピトープを同定する上記の方法に従って同定された、抗原性エピトープに関する。
【0169】
1つの実施形態では、本発明は、
LLSQDSVAASTEK(配列番号2)、
LLSQDSVAASTEKTLR(配列番号3)、及び
QFSGSLKPEDAEVFKSPAASGEK(配列番号4)
からなる群より選択されるアミノ酸配列又はその配列に実質的に相同な配列を含む(又はから成る)TRPV1の抗原性エピトープを提供する。
【0170】
別の実施形態では、本発明は、
LLSQDSVAASTEKTLRLYDRRS(配列番号5)及び
GRHWKNFALVPLLRE(配列番号6)
からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む(又はから成る)TRPV1の抗原性エピトープを提供する。
【0171】
1つの実施形態では、本発明は、LVENGADVQAAAHGDF(配列番号7)のアミノ酸配列又はそれらに実質的に相同な配列を含む(又はから成る)TRPV1の抗原性エピトープを提供する。
【0172】
別の実施形態では、本発明は、
DGPTGARLLSQ(配列番号8)及び
DAEVFKSPAASGEK(配列番号9)
からなる群より選択されるアミノ酸配列、又はその配列に実質的に相同な配列を含む(又はから成る)TRPV1の抗原性エピトープを提供する。
【0173】
別の実施形態では、本発明は、
SQDSVAASTEKTL(配列番号10)及び
SGSLKPEDAEVF(配列番号11)
からなる群より選択されるアミノ酸配列又はその配列に実質的に相同な配列を含む(又はから成る)TRPV1の抗原性エピトープを提供する。
【0174】
1つの実施形態では、本発明は、
VSPVITIQRPGD(配列番号12)、
VSPVITIQRPGDGPTGA(配列番号13)、
LNLHDGQNTTIPLLL(配列番号14)、
YTDSYYKGQ(配列番号15)、
SLPSESTSH(配列番号16)、
EDPGNCEGVKR(配列番号17)、
DRQSAQPEEVYLR(配列番号18)、及び
QSAQPEEVYLR(配列番号19)
からなる群より選択されたアミノ酸又はそれに実質的に相同な配列を含む(又はから成る)TRPV1の抗原性エピトープを提供する。
【0175】
いくつかの実施形態では、本発明は本明細書の実施例3の表2、表3、表4、表5、及び表6の各表における2番目の見出し項目(二重アスタリスク(**)で印付けされた見出し項目)に提示されているアミノ酸配列を含むTRPV1の抗原性エピトープ又はそれらに実質的に相同な配列を提供する。そのようなペプチドは、より高いタンパク質分解活性(又はより厳しい若しくはより強いタンパク質分解条件)を用いて消化されており、より低いタンパク質分解活性(又は厳しさを抑えた若しくはより弱いタンパク質分解条件)(例えば、1番目の見出し項目(表2、表3、表4、表5、及び表6の各表における単一アスタリスク(*)で印付けされている見出し)に提示されているような、例えば、より短い時間及び/又はより低い濃度)を用いて消化されたペプチドと比べて、一般的には好ましくない。しかし、もしそれらのペプチドが、タンパク質にとって機能的に重要であるか又は機能的に重要であると予測されるなら、特に興味をひくものでありうる。表2、表3、表4、表5、及び表6における2番目の見出し項目(**)に提示されているペプチドは後に遅れて消化されたペプチドとみなされうる。表2、表3、表4、表5、及び表6における1番目の見出し項目(*)に提示されているペプチドは最初に消化されたペプチドとみなされうる。
【0176】
上記TRPV1の抗原性エピトープに関連して、前記実質的に相同な配列は、所与のアミノ酸配列と比較して1個、2個、3個、4個、5個、若しくは6個(好ましくは、1個、2個、若しくは3個)のアミノ酸の置換又は削除を含む配列、又は所与のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列相同性を有する配列、又は所与のアミノ酸配列の少なくとも6個の連続したアミノ酸を有する配列でありうる。「実質的に相同な」配列の他の例は、表面露出ペプチドに「実質的に相同な」アミノ酸配列と関連して本明細書において別のところで記載されており、それらの「実質的に相同な」配列の例はまた、上述の具体的なペプチド配列にも適用可能である。上述の具体的なペプチド配列は表面露出ペプチド配列である。
【0177】
いくつかの実施形態では、本発明は、伸長型、トランケート型、又は環状型の上述のペプチド配列(又はそれらに実質的に相同な配列)を含む(又はから成る)抗原性エピトープを提供する。伸長型、トランケート型、及び環状型のペプチドは、伸長、トランケート、及び環状表面露出ペプチドに関連して本明細書において別のところで論じられ、その論考は上述のペプチド配列にも適用可能である。上述の具体的なペプチド配列は表面露出ペプチド配列である。
【0178】
1つの実施形態では、本発明は、
FAPQIRVNLNYRKGTG(配列番号20)、
ASQPDPNRFDRDR(配列番号21)、
LNLKDGVNACILPLL(配列番号22)
CTDDYYRGH(配列番号23)、
LVENGANVHARACGRF(配列番号24)、
EDPSGAGVPR(配列番号25)、及び
GASEENYVPVQLLQS(配列番号26)
からなる群より選択されたアミノ酸又はそれに実質的に相同な配列を含む(又はから成る)TRPV2の抗原性エピトープを提供する。例示的な実質的に相同な配列は本明細書の別のところで議論されている。
【0179】
実施形態のさらなる態様は、抗体の作製に使用されるように構成された複合体に関する。複合体は、ペプチド担体に結合させるか又はペプチド担体と混ぜられたと定義され、少なくとも1つの抗原性エピトープを含む。
【0180】
よって、1つの態様では、本発明の抗原性エピトープ又は本発明によって同定された(若しくは作製された)抗原性エピトープを含む複合体を本発明は提供する。複合体は、抗原性エピトープ及びいずれの別個のエンティティ(すなわち、抗原性エピトープと異なるいずれのエンティティ)、例えば、標識又はペプチド担体を含みうる。典型的には、複合体は抗原性エピトープ及びペプチド担体を含み、前記抗原性エピトープは前記ペプチド担体に結合させるか、ペプチド担体と混ぜられる。
【0181】
ある実施形態では、ペプチド担体はキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)及びオボアルブミンからなる群より選択される。結合は、例えば、共有結合又はジスルフィド架橋であることができる。1つの実施形態では、キーホールリンペットヘモシアニンが好ましいペプチド担体である。いくつかの実施形態では、抗原性エピトープは、そのN末端又はC末端(好ましくは、N末端)にシステイン残基を備えうる。そのようなシステイン残基は、抗原性エピトープのペプチド担体(例えば、KLH)への結合を容易にしうる。
【0182】
実施形態のさらに別の態様は、タンパク質に特異的に結合する抗体の作製のための抗原性エピトープ及び/又は上記による複合体の使用に関する。
【0183】
実施形態のさらに別の態様は、タンパク質に特異的に結合する抗体を作製する方法に関する。方法は、抗原性エピトープ及び/又は上記による複合体に対する抗体を産生すること、並びにその抗体を単離することを含む。抗体を単離することは、抗体が産生若しくは作製された細胞(例えば、宿主細胞)及び/又は成長培地/上清から抗体を単離することを含みうる。
【0184】
特定の実施形態では、該方法は、タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによってタンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供し、少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型のタンパク質及び少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成することを含む。また該方法は、タンパク質の少なくとも1つの生物学的機能を試験、確認、又は検証する機能的なアッセイにおいて、少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型のタンパク質を探索することを含む。さらに該方法は、少なくとも1つの表面露出ペプチドのなかで、機能的なアッセイに基づいて決定されたタンパク質の生物学的機能の発現に関与するタンパク質の領域にある表面露出ペプチドとしてタンパク質の抗原性エピトープを同定することを含む。さらに該方法は、その抗原性エピトープに対する抗体を産生すること及びその抗体を単離することを含む。
【0185】
抗原性エピトープに対する抗体を産生することは、本明細書においてすでに記載されているように、ハイブリドーマ技術、ファージディスプレイ技術などを含む当該技術分野において公知である技術に従って行うことができる。
【0186】
実施形態のさらなる態様は、抗原性エピトープ及び/又は上記による複合体に対する抗体に関する。その抗体はそのタンパク質に特異的に結合する。
【0187】
よって1つの態様では、本発明は、本発明の方法によって産生された(又は作製された)抗体を提供する。
【0188】
別の態様では、本発明は本発明の抗原性エピトープに対する抗体を提供する。別の見方では、本発明は本発明の抗原性エピトープに結合する抗体を提供する。別の見方では、本発明は本発明の抗原性エピトープに特異的に結合する抗体を提供する。
【0189】
例として、本発明は、LLSQDSVAASTEKTLRLYDRRS(配列番号5)及びGRHWKNFALVPLLRE(配列番号6)からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む(又はから成る)抗原性エピトープに対する抗体を提供する。1つの実施形態では、アミノ酸配列LLSQDSVAASTEKTLRLYDRRS(配列番号5)を含む(又はから成る)抗原性エピトープに対する抗体は、TRPV1に対するアンタゴニスト(阻害)抗体であり、好ましくは、実施例の項に記載された抗体OTV1に関する1つ以上の機能的特性を有する。このエピトープはTRPV1のN末端細胞内ドメインに位置するアミノ酸配列にあたる。1つの実施形態では、アミノ酸配列GRHWKNFALVPLLRE(配列番号6)を含む(又はから成る)抗原性エピトープに対する抗体は、TRPV1に対するアゴニスト抗体であり、好ましくは、実施例の項に記載された抗体OTV2に関する1つ以上の機能的特性を有する。このエピトープはTRPV1のC末端細胞内ドメインに位置するアミノ酸配列にあたる。
【0190】
いくつかの実施形態では、抗体は細胞内のTRPV1エピトープ(又はドメイン)に対する場合がある。そのような実施形態のいくつかでは、抗体は細胞内のTRPV1エピトープ(又はドメイン)に対するアンタゴニスト(阻害)抗体でありうる。他のそのような実施形態では、抗体は細胞内のTRPV1エピトープ(又はドメイン)に対するアゴニスト抗体でありうる。
【0191】
ある実施形態では、抗体のタンパク質への結合は、タンパク質の生物学的機能の欠如又は著しい変化をもたらす。
【0192】
よって、抗体は機能性抗体、例えば、アゴニスト抗体又はアンタゴニスト抗体(例えば、TRPV1又はTRPV2に対するアンタゴニスト抗体又はアゴニスト抗体)でありうる。アンタゴニスト抗体は、タンパク質に結合し、タンパク質の機能を阻害するか又は低下させることができる。アゴニスト抗体は、タンパク質に結合し、タンパク質の機能を増強するか又は増加させることができる。TRPV1又はTRPV2(又は他のいずれのイオンチャネル)の場合、関係している機能はイオン輸送活性でありうる。例えば、抗体のカプサイシン又はカルモジュリンとの結合を阻止する(減少させる)又は強化する(増加させる)抗体の能力が評価されうる。そのような能力をもつ抗体は本発明の好ましい実施形態を形成する。
【0193】
実施形態の関連する態様は、上記のような薬剤としての使用に従って、抗体と定義する。
【0194】
抗原性エピトープに対する抗体及び/又は複合体は、実施形態による1つ以上の抗原性エピトープ及び/又は1つ以上の複合体で動物を免疫することによって得られうる。免疫される動物は、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ヒト以外の霊長類、ヤギ、ウマ、及び家禽を含む群から選択されうる。
【0195】
実施形態による抗体は、実施形態による1つ以上の抗原性エピトープ及び/又は1つ以上の複合体を用いるインビトロにおける免疫法によっても得られうる。
【0196】
本発明による抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。
【0197】
抗体は、リガンド、Fab(抗原結合性フラグメント)断片、F(ab)’2断片(2つのFabを含有する断片)、ScFv断片(一本鎖可変断片)、二特異性抗体、四特異性抗体などの抗体の1つ以上の断片、又は完全抗体でありうる。
【0198】
本発明の抗体は一般的に、タンパク質の全長型、例えば、(例えば、細胞内又は細胞上の)天然の形態のタンパク質の全長型に対して、結合(例えば、特異的に結合)することができる。
【0199】
いくつかの実施形態では、抗体は、本明細書において別のところに記載されているタンパク質(又はタンパク質の種類)の1つに対する抗体である。
【0200】
抗体及び抗原性エピトープは単離又は精製されてよい。この文脈で使用される「単離された」又は「精製された」という用語は、その自然環境から単離されるか、精製されるか、若しくはその自然環境に関して制約が実質的にない、例えば、(確かにそれらの分子が天然に存在する場合)生物から単離又は精製された場合、そのような分子を指し、又は技術的な方法で作製された場合、そのような分子を指し、つまり、組換え及び合成的に作製された分子を含む。よって、「単離された」又は「精製された」という用語は典型的に、由来する源からの細胞物質又は他のタンパク質を実質的に含まない抗体又は抗原性エピトープを指す。いくつかの実施形態では、そのような単離又は精製された分子は組換え技術で作製される場合には培養培地を実質的に含まず、化学合成される場合には前駆的化学物質又は他の化学物質を実質的に含まない。
【0201】
本発明によって産生された抗体のその標的タンパク質に対する機能的効果は評価されることがあり、当業者なら、例えば、標的タンパク質の性質に基づいて使用する好適なアッセイを容易に決定することができるであろう。例えば、抗体がTRPV1(又は他のいずれのイオンチャネル)に対する抗体である場合、その抗体の機能的効果は、例えば、本明細書において実施例2に記載の電気生理学及び/又はYO-PRO取り込みアッセイを用いて評価しうる。
【0202】
本発明の方法は、多様な下流用途のために単離、作製、又は製造できる抗体を産生するのに使用することができる。よって本発明のさらなる態様は、抗体を作製若しくは製造及び/又は単離する方法を提供する。
【0203】
本発明の方法によって1つ以上の抗体が、産生、作製、選択、同定、単離及び/又は精製されてきた場合、これらの抗体、又はその構成要素、断片、変異体、若しくは誘導体は、所望の場合には、少なくとも1つの薬理学的に許容される担体又は賦形剤と共に製造されうる。製造されたそのような分子、又はその構成要素、断片、変異体、若しくは誘導体もまた本発明によって包含される。代替的に、これらの分子は前記抗体をコードする核酸の形をとってもよく、その核酸は次に適切な発現ベクターに組み込まれてもよく且つ/又は好適な宿主細胞に含まれてもよい。よって、前記抗体をコードする核酸分子又は前記核酸分子を含有する発現ベクターは本発明のさらなる態様を形成する。
【0204】
本発明に即して特定の抗体、又はその構成要素、断片、変異体、若しくは誘導体が産生又は作製されると、抗体をコードする発現ベクターは容易に使用(又は使用に適合)されて、適切な宿主細菌又は系での発現、及び宿主細胞若しくは系、又はその成長培地若しくは上清から抗体を適宜単離することによって充分な量の分子を作製することができる。ポリクローナル抗体については、抗体は免疫した動物の血清から単離又は精製しうる。
【0205】
よって、本発明のさらなる態様は、上記の本発明の方法に従って抗体を産生又は作製するステップ、前記抗体、又はその構成要素、断片、変異体、若しくは誘導体を製造又は作製するステップ、及び前記製造された抗体を少なくとも1つの薬理学的に許容される担体又は賦形剤と任意選択で製剤するステップを含む抗体を作製又は製造する方法を提供する。
【0206】
抗体の前記変異体又は誘導体としては、ペプトイド等価物、非ペプチド性合成骨格をもつ分子、及びポリペプチドが挙げられる。元の同定されたポリペプチドに関連又は由来するポリペプチドにおいて、アミノ酸配列は、例えば、脱グリコシル化又はグリコシル化によって化学的に修飾されたアミノ酸での置換又は付加を、代替的又は付加的には含みうる単一又は複数のアミノ酸置換、付加、及び/又は削除によって改変されている。好都合なことに、そのような誘導体又は変異体は、それらが由来する元のポリペプチドに対して少なくとも60、70、80、90、95、又は99%の配列相同性を有しうる。
【0207】
本発明は抗体の産生に関するので、前記変異体又は誘導体はさらに、抗体分子の1つのフォーマットから別のフォーマットへの変換(例えば、FabからscFvへの変換若しくはその逆の変換、又は本明細書において別のところに記載されている抗体分子のいずれのフォーマットの間での変換、例えば、本明細書において記載されている他のいずれのタイプの抗体断片への変換)、又は抗体分子の特定のクラスへの抗体分子の変換(例えば、特に治療用抗体に適したIgG又はそのサブクラス、例えば、IgG1若しくはIgG3への抗体分子の変換)又はいずれの抗体のヒト化若しくはキメラ型の形成を含む。
【0208】
前記変異体又は誘導体はさらに、例えば、前記抗体の下流用途に有用でありうる、さらなる機能的構成要素を伴う抗体の結合を含む。例えば抗体は、体内の特定の部位に抗体を向かわせる構成要素、又は例えば、イメージング若しくは他の診断用途に有用な検出可能な部分、又は免疫複合体の形で放射性同位体、毒素、又は化学療法剤などのペイロードと結合しうる。
【0209】
明らかに、パートナー分子又は標的エンティティに結合するそのような構成要素、断片、変異体、又は誘導体の主要な要件は、それらが結合能の点で元来の機能活性を保持すること又は機能活性が向上することである。
【0210】
本発明の方法を用いて産生又は作製又は製造された抗体分子は、標的エンティティに特異的な抗体(例えば、特定の抗原に特異的な抗体)が必要とされるいずれの方法にも使用されうる。よって、抗体は分子ツールとして使用でき、本発明のさらなる態様は、本明細書で定義されるそのような抗体を含む試薬を提供する。くわえて、そのような分子は、生体内における治療またはは予防用途、生体内またははインビトロにおける診断若しくはイメージング用途、あるいはインビトロにおけるアッセイに使用することができる。
【0211】
本発明のいくつかの特定の実施形態を以下に記載する。
1.タンパク質に対する抗体を産生する方法であって、
(i)前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供し、前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成し、前記表面露出ペプチドに基づく抗原性エピトープを産生することにより、前記タンパク質の抗原性エピトープを同定すること、及び
(ii)前記抗原性エピトープに対する抗体を産生すること
を含む方法。
【0212】
2.タンパク質に対する抗体を産生する方法であって、
(i)前記プロテアーゼの作用によって少なくとも1つの消化型、分解型、又はトランケート型の前記タンパク質及び前記タンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドを形成し、前記タンパク質を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって前記タンパク質を限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供すること、並びに
(ii)前記ペプチドが前記限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の間に前記タンパク質から切断若しくは除去された際に前記タンパク質の生物学的機能の欠如又は著しい変化をもたらす前記タンパク質中の領域にある前記少なくとも1つの表面露出ペプチドで表面露出エピトープを同定することによって抗原性エピトープを同定すること、又は
バイオインフォマティクス及び/又は前記タンパク質の生物学的機能の既知データに基づいて前記タンパク質内の少なくとも1つの標的領域を選択し、前記少なくとも1つの標的領域内にある前記少なくとも1つの表面露出ペプチドで表面露出エピトープを同定することによって抗原性エピトープを同定すること、並びに
(iii)前記抗原性エピトープに対する抗体を産生すること
を含む方法。
【0213】
3.前記少なくとも1つのプロテアーゼが、最大で8個又は最大で7個又は最大で5個の表面露出ペプチド、若しくは、最大で8個又は最大で7個又は最大で5個の独特の表面露出ペプチドが、タンパク質分解消化材料の試料中の前記プロテアーゼの作用によって前記タンパク質から切断される結果になる条件下で使用され、任意選択でさまざまな時間及び/又は前記プロテアーゼのさまざまな濃度で複数の試料が任意選択で順次又は並行して同時に採取又は処理される実施形態1又は実施形態2に記載の方法。
4.最大で8個又は最大で7個又は最大で5個の表面露出ペプチドが前記プロテアーゼの作用によって前記タンパク質から切断されるという結果になる条件下で、前記少なくとも1つのプロテアーゼが使用される実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0214】
5.前記少なくとも1つのプロテアーゼの動的活性が、試料中で前記表面露出ペプチドが一度に1個又は最大で一度に数個、例えば、一度に最大で8個又は最大で7個、又は最大で5個切断される程度にまで落とされ、任意選択で複数の試料が順次又は並行して同時に採取又は処理される実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
6.前記切断された表面露出ペプチドが前記少なくとも1つのプロテアーゼと接触した後の出現の順に基づいてランク付けされ、最初に切断されるか、又は前記プロテアーゼの最低濃度で切断される前記表面露出ペプチドが高いランクを与えられ、後に遅れて切断されるか、又は前記プロテアーゼの最高濃度で切断される前記表面露出ペプチドが低いランクを与えられ、任意選択で、中間に切断される表面露出ペプチドがその出現の順にランク付けされうる実施形態1~5のいずれか1つに記載の方法。
【0215】
7.抗原性エピトープ開発にランクの高い表面露出ペプチドを選ぶこと及び前記抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む実施形態6の方法。
8.ランクの高い表面露出ペプチドを選ぶこと、前記表面露出ペプチドに基づく抗原性エピトープを構築すること、及び前記抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む実施形態6の方法。
9.ランクの高い表面露出ペプチドを選ぶこと、前記表面露出ペプチドを前記タンパク質の定義されている生物学的特性と互いに関係づけること、前記表面露出ペプチドに基づく抗原性エピトープを構築すること、及び前記抗原性エピトープに対する抗体を産生することを含む実施形態6の方法。
【0216】
10.単一のプロテアーゼが、前記タンパク質を消化、分解、及び/又はトランケートするのに使用される実施形態1~9のいずれか1つに記載の方法。
11.複数のプロテアーゼが、前記タンパク質を消化、分解、及び/又はトランケートするのに使用される実施形態1~9のいずれか1つに記載の方法。
12.前記複数のプロテアーゼが、1個ずつ順番に使用される、並行して同時に使用される、又は複数のプロテアーゼの単一のカクテル中で使用される実施形態11の方法。
13.前記複数のプロテアーゼが、オーバーラップする、補完的な、又は独特の表面露出ペプチドを同定するのに使用される実施形態11又は実施形態12に記載の方法。
【0217】
14.前記プロテアーゼが、トリプシン、Arg-Cプロテイナーゼ、Asp-Nエンドペプチダーゼ、クロストリパイン、グルタミルエンドペプチダーゼ、Lys-C、Lys-N、キモトリプシン、プロテイナーゼK、テルモリシン、ペプシン、カスパーゼ1、カスパーゼ2、カスパーゼ3、カスパーゼ4、カスパーゼ5、カスパーゼ6、カスパーゼ7、カスパーゼ8、カスパーゼ9、カスパーゼ10、エンテロキナーゼ、第Xa因子、グランザイムB、好中球エラスターゼ、プロリン-エンドペプチダーゼ、ブドウ球菌ペプチダーゼI、及びトロンビンからなる群より選択される実施形態1~13のいずれか1つに記載の方法。
【0218】
15.前記プロテアーゼがトリプシンである実施形態1~14のいずれか1つに記載の方法。
16.前記タンパク質が細胞由来のプロテオリポソームに存在する膜タンパク質である実施形態1~15のいずれか1つに記載の方法。
17.前記プロテオリポソームがフローセルに固定されて膜タンパク質の固定相を作る実施形態1~16のいずれか1つに記載の方法。
18.前記タンパク質が、表面に結合しているか、溶液に懸濁されているタンパク質含有脂質小胞にある実施形態1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0219】
19.前記タンパク質が、表面に結合しているか、溶液に懸濁されている無傷細胞にある実施形態1~15のいずれか1つに記載の方法。
20.前記タンパク質が溶液にある実施形態1~15のいずれか1つに記載の方法。
21.前記タンパク質がヒトプロテオームのいずれかのタンパク質である実施形態1~20のいずれか1つに記載の方法。
22.前記タンパク質が、膜結合タンパク質、可溶性タンパク質、細胞外タンパク質、又は細胞内タンパク質である実施形態1~21のいずれか1つに記載の方法。
【0220】
23.前記タンパク質が、膜タンパク質又は膜結合タンパク質である実施形態1~22のいずれか1つに記載の方法。
24.前記タンパク質がTRPスーパーファミリーのイオンチャネルである実施形態1~23のいずれか1つに記載の方法。
25.前記タンパク質がTRPV1又はTRPV2である実施形態24の方法。
26.前記タンパク質が興奮性アミノ酸受容体である実施形態1~23のいずれか1つに記載の方法。
27.前記タンパク質がNMDA受容体又はGタンパク質である実施形態26の方法。
【0221】
28.前記タンパク質が発がん性タンパク質である実施形態1~23のいずれか1つに記載の方法。
29.前記タンパク質が、KRAS、NRAS、及びHRASからなる群より選択される発がん性低分子量GTPアーゼである実施形態28の方法。
30.前記タンパク質が免疫調節タンパク質である実施形態1~23のいずれか1つに記載の方法。
31.前記タンパク質が、PD1、PDL1、CD40、OX40、VISTA、LAG-3、TIM-3、GITR、及びCD20からなる群より選択される実施形態30の方法。
【0222】
32.前記切断されたペプチドが質量分析を用いて同定される実施形態1~31のいずれか1つに記載の方法。
33.前記切断されたペプチドがLC-MS/MSを用いて同定される実施形態24の方法。
34.前記生物学的機能が、リガンド又は受容体などの標的に結合する前記タンパク質の能力、前記タンパク質の酵素活性、イオンチャネル活性、トランスポーター活性、並びにインスリン放出などの放出及び取り込み機構からなる群より選択される実施形態2~33のいずれか1つに記載の方法。
【0223】
35.抗原性エピトープに対する抗体を産生することが、ハイブリドーマ技術、ファージディスプレイ技術によって、又は動物を前記抗原性エピトープで免疫することによって行われる実施形態1~34のいずれか1つに記載の方法。
36.前記抗体がモノクローナル又はポリクローナルである実施形態1~35のいずれか1つに記載の方法。
37.実施形態1~36のいずれか1つの前記方法によって生成される抗体。
【0224】
38.LLSQDSVAASTEK(配列番号2)、
LLSQDSVAASTEKTLR(配列番号3)、及び
QFSGSLKPEDAEVFKSPAASGEK(配列番号4)
からなる群より選択されたアミノ酸配列又はその配列に実質的に相同な配列を含むTRPV1の抗原性エピトープであって、
前記実質的に相同な配列が、所与のアミノ酸配列と比較して1つ、2つ、または3つのアミノ酸置換又は削除を含む配列、又は所与のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列相同性を有する配列、又は所与のアミノ酸配列の少なくとも6個の連続したアミノ酸を有する配列である抗原性エピトープ。
【0225】
39.LLSQDSVAASTEKTLRLYDRRS(配列番号5)及び
GRHWKNFALVPLLRE(配列番号6)
からなる群より選択されたアミノ酸配列を含むTRPV1の抗原性エピトープ。
40.LVENGADVQAAAHGDF(配列番号7)のアミノ酸配列又はそれに実質的に相同な配列を含むTRPV1の抗原性エピトープであって、
前記実質的に相同な配列が、所与のアミノ酸配列と比較して1つ、2つ、若しくは3つのアミノ酸置換又は削除を含む配列、又は所与のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列相同性を有する配列、又は所与のアミノ酸配列の少なくとも6個の連続したアミノ酸を有する配列である抗原性エピトープ。
【0226】
41.DGPTGARLLSQ(配列番号8)及び
DAEVFKSPAASGEK(配列番号9)
からなる群より選択されたアミノ酸配列又はその配列に実質的に相同な配列を含むTRPV1の抗原性エピトープであって、
前記実質的に相同な配列が、所与のアミノ酸配列と比較して1つ、2つ、若しくは3つのアミノ酸置換又は削除を含む配列、又は所与のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列相同性を有する配列、又は所与のアミノ酸配列の少なくとも6個の連続したアミノ酸を有する配列である抗原性エピトープ。
【0227】
42.SQDSVAASTEKTL(配列番号10)及び
SGSLKPEDAEVF(配列番号11)
からなる群より選択されたアミノ酸又はその配列に実質的に相同な配列を含むTRPV1の抗原性エピトープであって、
前記実質的に相同な配列が、所与のアミノ酸配列と比較して1つ、2つ、若しくは3つのアミノ酸置換又は削除を含む配列、又は所与のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列相同性を有する配列、又は所与のアミノ酸配列の少なくとも6個の連続したアミノ酸を有する配列である抗原性エピトープ。
【0228】
43.VSPVITIQRPGD(配列番号12)、
VSPVITIQRPGDGPTGA(配列番号13)、
LNLHDGQNTTIPLLL(配列番号14)、
YTDSYYKGQ(配列番号15)、
SLPSESTSH(配列番号16)、
EDPGNCEGVKR(配列番号17)、
DRQSAQPEEVYLR(配列番号18)、及び
QSAQPEEVYLR(配列番号19)、
からなる群より選択されたアミノ酸又はそれに実質的に相同な配列を含むTRPV1の抗原性エピトープであって、
前記実質的に相同な配列が、所与のアミノ酸配列と比較して1つ、2つ、若しくは3つのアミノ酸置換又は削除を含む配列、又は所与のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列相同性を有する配列、又は所与のアミノ酸配列の少なくとも6個の連続したアミノ酸を有する配列である抗原性エピトープ。
【0229】
44.FAPQIRVNLNYRKGTG(配列番号20)、
ASQPDPNRFDRDR(配列番号21)、
LNLKDGVNACILPLL(配列番号22)、
CTDDYYRGH(配列番号23)、
LVENGANVHARACGRF(配列番号24)、
EDPSGAGVPR(配列番号25)、及び
GASEENYVPVQLLQS(配列番号26)
からなる群より選択されたアミノ酸又はそれに実質的に相同な配列を含むTRPV2の抗原性エピトープであって、
前記実質的に相同な配列が、所与のアミノ酸配列と比較して1つ、2つ、若しくは3つのアミノ酸置換又は削除を含む配列、又は所与のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列相同性を有する配列、又は所与のアミノ酸配列の少なくとも6個の連続したアミノ酸を有する配列である抗原性エピトープ。
45.実施形態38~44のいずれか1つの抗原性エピトープに対する抗体。
【0230】
上記で概説したように、我々は、速度論的に(kinetically)制御されたタンパク質分解(すなわち限定又は制限的タンパク質分解)を用いて薬理学的に活性のある抗体を生じる表面露出抗原性エピトープを同定するための方法論を開発した。理想的には、タンパク質分解ステップ(限定又は制限的タンパク質分解ステップ)は非常にゆっくりと行われるので、プロテアーゼはその時点で単一又は少数のペプチドを切り離す。最初に来るペプチド、特にそのそれぞれの切断部位は表面に露出されており、抗体に容易にアクセス可能であり、したがって、一般にはあとに来るペプチドよりも有利である。次いで、これらのペプチドは、キュレートされたバイオインフォマティックデータ及びトランケート型タンパク質に対して行われた機能アッセイを用いて、配列に基づく機能的意義について相互相関させることができる。
【0231】
しかし、本発明はまた、エピトープ設計のさらなる最適化及び/又はさらなる(追加の)エピトープの同定を可能にする上記の方法に対して改良が加えられた方法も提供する。そのような改良法が下に記載され、方法Cとも呼ばれる。
【0232】
この改良法は、同定されたエピトープの数を最大にするために、同じタンパク質上に複数のプロテアーゼを順次使用するマルチプロテアーゼ法である。この改良法は2つの異なるタンパク質分解ステップを利用している。限定タンパク質分解または制限的タンパク質分解のステップに、例えば上記のように、限定または制限的タンパク質分解ステップで使用されたものとは異なる1つまたは複数のプロテアーゼ(例えば、異なる特異性をもつプロテアーゼ)を使用するさらなるタンパク質分解ステップ(例えば非限定タンパク質分解ステップ)が続く。有利なことに、このような方法は、ペプチドが遊離せず、したがって上記に示した単一の限定タンパク質分解ステップに基づく方法によって必ずしも同定または検出されないため、プロテアーゼがアクセス可能な切断部位を同定するために使用することができる。したがって、この方法は、プロテアーゼがアクセス可能な切断部位またはその近くで、ペプチドが遊離しない場合に天然タンパク質のエピトープを同定する手段を提供する。
【0233】
全体として、これらの改良法は抗体開発を向上し、病気と闘うための新規の治療用の薬理学的に活性な抗体を生じるはずである。細胞内及び細胞外の両方で作用する薬理学的に活性な抗体は、本明細書に記載の方法を用いて作り出すことができる。
【0234】
本発明の方法では、新規抗体を発見するための多くの既知の技術とは異なり、一般に機能性ではなく親和性に重点が最初に置かれるところで盲目的に行われるのではなく、最初から特定の部位に結合して任意選択で特定の機能を果たすように抗体を設計でき、良好な結合特性を示す抗体のサブセットはのちに、薬理学的効果及び生物学的効果について試験される。
【0235】
抗体結合のためのアクセス可能な領域を検証するためのツールとして本明細書に記載の限定タンパク質分解法を用いる場合、タンパク質からのペプチドの遊離に依存する、すなわち、プロテアーゼが、例えば質量分析による検出に適切なサイズの配列を囲む2つのアクセス可能な部位で切断することに依存する。そのような実験から得られる情報は、消化されてペプチドの遊離を引き起こした2つの切断部位のアクセス性を検証することができる。しかし、タンパク質の目的の領域には、これらの基準を満たさないものがいくつかありうる。プロテアーゼは1つの部位のみを切断し、切れ目を作り出すだけでペプチドを遊離しないことがある。ペプチドの遊離には2回の切断が必要である。ペプチドが遊離しない場合、結合事象又はタンパク質分解活性の証拠(例えばMSに基づいた証拠)は存在しない。単一の切断は検出されないまま残る。検出されない他の理由としては、ペプチド上のグリコシル化、又はペプチドがイオン結合若しくは共有結合によってタンパク質に結合したままであることが挙げられうる。この問題を回避する1つの方法は、そのような切断部位が存在する配列に対する抗体を作り出すことである。しかし、まず、ペプチドが遊離しないこれらのアクセス可能な切断部位を検出又は同定する方法を見つける必要がある。本発明はこれを行う方法を提供する。
【0236】
いくつかの遊離しないペプチドがあるために、以前の方法ではいくつかの潜在的な抗体結合部位(エピトープ)を見逃す可能性があるので、発明者らはさらなる改良法を開発した。例えばこの遊離しないペプチドは、プロテアーゼがある特定のアミノ酸配列を囲む2つの切断部位の1つだけを切断する場合、又はプロテアーゼが1つの部位で切断し、何らかの理由でペプチドが遊離しない場合に起こりうる。下記の改良法(方法C)では、独自でかつ新規の抗体結合部位(エピトープ)を発見でき、くわえて、天然のタンパク質及び部分的に消化されたタンパク質に関する新しい構造データを得ることができる。したがって、この技術はタンパク質の構造及び機能を探索するための包括的なツールを提供することができる。
【0237】
方法C
1つの態様では、本発明は、抗体によって結合されうるタンパク質上のエピトープを同定する方法を提供し、前記方法は、
(i)単一の第1のプロテアーゼ又は第1のプロテアーゼの組み合わせを用いて、前記タンパク質に対して限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解を行うこと;
(ii)単一の第2のプロテアーゼ又は第2のプロテアーゼの組み合わせを用いて、前記タンパク質に対して非限定タンパク質分解を行うこと又は限定タンパク質分解若しくは制限的タンパク質分解を行うことであり、前記第2のプロテアーゼはステップ(i)で使用されたプロテアーゼとすべて異なるプロテアーゼである;
(iii)ステップ(ii)で前記タンパク質から遊離したペプチドを分析し、一端が前記第1のプロテアーゼによって切断されており、もう一端が前記第2のプロテアーゼによって切断されているペプチドを同定すること;
(iv)ステップ(iii)で同定された前記第1のプロテアーゼの切断部位を含む又は隣接する前記タンパク質の領域にある1つ以上のエピトープを、前記エピトープに対する1つ以上の抗体を用いて探索し、それによって、抗体によって結合されうる前記タンパク質上の1つ以上のエピトープを同定すること
を含む。
【0238】
1つの態様では、本発明は、抗体によって結合されうるタンパク質上のエピトープを同定する方法を提供し、前記方法は、
(i)単一の第1のプロテアーゼ又は第1のプロテアーゼの組み合わせを用いて、前記タンパク質に対して限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解を行うこと;
(ii)単一の第2のプロテアーゼ又は第2のプロテアーゼの組み合わせを用いて、前記タンパク質に対して非限定タンパク質分解を行うことであり、前記第2のプロテアーゼはステップ(i)で使用されたプロテアーゼとすべて異なるプロテアーゼである;
(iii)ステップ(i)及びステップ(ii)で前記タンパク質から遊離したペプチドを分析し、一端が前記第1のプロテアーゼによって切断され、もう一端が前記第2のプロテアーゼによって切断されているペプチドを同定すること;
(iv)ステップ(iii)で同定された前記第1のプロテアーゼの切断部位を含む又は隣接する前記タンパク質の領域にある1つ以上のエピトープを、前記エピトープに対する1つ以上の抗体を用いて探索し、それによって、抗体によって結合されうるタンパク質上の1つ以上のエピトープを同定すること
を含む。
【0239】
別の態様では、本発明は、抗体によって結合されうるタンパク質上のエピトープを同定する方法を提供し、前記方法は、
(i)単一の第1のプロテアーゼ又は第1のプロテアーゼの組み合わせを用いて、前記タンパク質に対して限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解を行うこと、
(ii)単一の第2のプロテアーゼ又は第2のプロテアーゼの組み合わせを用いて、前記タンパク質に対して非限定タンパク質分解を行うこと又は限定タンパク質分解若しくは制限的タンパク質分解を行うことであり、前記第2のプロテアーゼはステップ(i)で使用されたプロテアーゼとすべて異なるプロテアーゼであること;
(iii)ステップ(i)及びステップ(ii)で前記タンパク質から遊離したペプチドを分析して、一端が前記第1のプロテアーゼによって切断され、もう一端が前記第2のプロテアーゼによって切断されているペプチドを同定すること;
(iv)ステップ(iii)で同定された前記第1のプロテアーゼの切断部位を含む又は隣接する前記タンパク質の領域にある1つ以上のエピトープを、前記エピトープに対する1つ以上の抗体を用いて探索し、それによって、抗体によって結合されうるタンパク質上の1つ以上のエピトープを同定すること
を含む。
【0240】
ステップ(i)
限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解のステップ(方法Cのステップ(i))は、本明細書の他の箇所に記載されているような任意の適切な限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解の方法又はステップによって実施することができる。そのようなステップはまた、限定若しくは制限プロテアーゼ消化、又は選択されたタンパク質が限定タンパク質分解若しくは制限的タンパク質分解に曝されるステップとも呼ぶことができる。別の言い方をすれば、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解のステップは、完了に向かっていない、完了までいかない、完了まで実行されていないタンパク質分解ステップ(又はタンパク質分解消化)である。したがって、このステップにおいて、所与のタンパク質は部分的にのみ消化されうる(又は部分的タンパク質分解を受けうる)。このステップは、(本明細書の他の箇所に記載されるように)限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解をもたらす条件下で選択されたタンパク質(天然タンパク質)を1つ以上の適切なプロテアーゼと接触させることによって都合よく行われる。そのような条件下でタンパク質とプロテアーゼを接触させると、少なくとも1つの消化された、分解された、又はトランケートされたタンパク質、及び前記プロテアーゼの作用によってタンパク質から切断された少なくとも1つの表面露出ペプチドが結果として形成される。
【0241】
単一のプロテアーゼをこのステップに使用することができる。代替的に、複数のプロテアーゼを一緒に組み合わせて使用することができる(例えば、同時にタンパク質試料に添加するか又はタンパク質試料と接触させるプロテアーゼのカクテルを使用することができる)。いくつかの実施形態では、単一のプロテアーゼの使用が好ましい。このステップで使用される1つ以上のプロテアーゼは、本明細書において「第1のプロテアーゼ」又は「プロテアーゼA」とも呼ばれる。これは、これらのプロテアーゼを方法のステップ(ii)で使用されるもの(本明細書において「第2のプロテアーゼ」又は「プロテアーゼB」とも呼ばれる)と区別するためである。本方法のステップ(ii)で使用されるプロテアーゼはステップ(i)で使用されるものとは異なることになる、すなわちそれらは異なる特異性(異なる基質特異性)を有することになる。
【0242】
任意の適切なプロテアーゼを使用することができ、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解のステップで使用されうる好適なプロテアーゼは、本明細書の他の箇所に記載されている。一般に、好ましいプロテアーゼは、頑強な若しくは高い特異性を有する(例えば、それらの特異性を超えてアミノ酸を消化する傾向がない)もの及び/又は特異性に関して十分に検証され、特徴付けられている(言い換えると、プロテアーゼによって消化又は切断されるアミノ酸配列が既知であり、一貫性がある)ものである。
【0243】
限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解のステップ(i)で使用するためのプロテアーゼのある好ましい群(すなわち、第1のプロテアーゼ、プロテアーゼA、又は第1の消化ステップのためのプロテアーゼの例)は、1つ以上のトリプシン、Arg-C、Lys-C、及びLys-Nを含む(本明細書においてグループ1プロテアーゼと呼ぶことがある)。
【0244】
限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解のステップ(i)で使用するためのプロテアーゼの別の好ましい群(すなわち、第1のプロテアーゼ、プロテアーゼA、又は第1の消化ステップのためのプロテアーゼの例)は、1つ以上のペプシン、キモトリプシン、及びGlu-Cを含む(本明細書においてグループ2プロテアーゼと呼ぶことがある)。
【0245】
いくつかの実施形態では、プロテアーゼAsp-Nも、これらのグループのいずれかと組み合わせて使用することができる(本明細書においてグループ3プロテアーゼと呼ぶことがある)。
【0246】
いくつかの実施形態では、トリプシン、キモトリプシン、及びプロテイナーゼKからなる(又はそれらを含む)群より選択されるプロテアーゼが、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解ステップ(i)で使用される。
【0247】
上述したように、本明細書に記載の限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解条件のいずれも、この態様(方法C)に従って使用することができる。いくつかの実施形態では、最大で2μg/ml、例えば、約0.5μg/ml、1μg/ml、又は約2μg/mlのプロテアーゼの濃度がステップ(i)で使用される。いくつかのそのような実施形態では、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解は室温で行われる。
【0248】
いくつかの実施形態では、最大で5μg/ml、例えば、約1μg/ml、約2μg/ml、約3μg/ml、約4μg/ml、又は約5μg/mlのプロテアーゼの濃度がステップ(i)で使用される。いくつかのそのような実施形態では、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解は室温で行われる。
【0249】
いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解ステップ(i)は、最大で5分間(例えば、1分間、2分間、3分間、4分間、又は5分間)行われる。いくつかのそのような実施形態では、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解は室温で行われる。
【0250】
いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解ステップ(i)は、2μg/mlのキモトリプシンを用いて室温で5分間行われる。
【0251】
いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解ステップ(i)は、5μg/mlのトリプシンを用いて室温で5分間行われる。
【0252】
いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解ステップ(i)は、2μg/mlのプロテイナーゼKを用いて室温で5分間行われる。
【0253】
ステップ(ii)
いくつかの好ましい実施形態では、上記方法(方法C)のステップ(ii)は、非限定タンパク質分解のステップであり、ステップ(i)で限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に供されたタンパク質に対して行われる。すなわち、ステップ(i)及び(ii)は、同じタンパク質試料に対して逐次的に実施され、分析されているタンパク質は逐次的タンパク質分解に供される。
【0254】
限定的タンパク質分解ステップ(i)が実施された後、タンパク質は、限定タンパク質分解のステップの間に消化された(切断された)が、例えばこの部位(切断部位)に十分に近いプロテアーゼの別の部位が存在しないために、又はペプチドが他のいくつかの手段、例えば分子間相互作用又は分子間力、例えばイオン結合によってタンパク質上に保持されているために、ペプチドが結合したままである(すなわち遊離しない)、ステップ(i)で使用されたプロテアーゼのいくつかの追加部位を含む可能性が高いであろう。そのような切断部位は、天然タンパク質中の露出した(アクセス可能な)プロテアーゼ部位である部位を表し(例えば表面露出部位であり)、したがって、抗体が標的にできる有用なエピトープの一部を形成するものとして潜在的に興味深いものである。しかし、この切断部位を一端にもつペプチドは、プロテアーゼの作用によってタンパク質から切り離されないことになるので、本明細書の他の箇所に記載の限定タンパク質分解を含む他の方法を用いて見逃される可能性があり、したがって切断部位(及びそれに対応するエピトープ)は(例えばMSを用いて)同定されないことになる。しかし、第2のプロテアーゼステップ(第2の消化ステップ)、方法Cのステップ(ii)は、これらのペプチドを遊離させるために使用できる。したがって、例えば本明細書に記載の方法Cの後続のステップを用いて、天然タンパク質における切断部位の同定及びその切断部位又はその周辺のエピトープの探索を可能にする。
【0255】
第2の消化ステップ(ステップ(ii))は、タンパク質の最大のシーケンスカバレッジを検索する(retrieve)ために、非限定タンパク質分解ステップとして実行されうる。
【0256】
いくつかの実施形態では、本方法(方法C)のステップ(ii)は、非限定タンパク質分解(又は非制限的若しくは非限定タンパク質分解)のステップであるタンパク質分解ステップである。このステップは、ステップ(i)で実施された限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解とはまったく対照的である。例えば、ステップ(i)は一般に、可能な限り天然タンパク質の構造を保存することを目的として、温和なタンパク質分解条件下で行われる一方、本方法のステップ(ii)の目的はできるだけ多くのプロテアーゼ部位を消化(切断)する(したがって、できるだけ多くのペプチドを遊離させる)こと、例えば最大数のペプチドを遊離させるので、ステップ(ii)ではタンパク質の天然構造は保存される必要はない(実際、タンパク質の完全性はしばしば著しく損なわれるか又は構造は保存されない)。しかし、遊離したペプチドは本方法のステップ(iii)で例えば質量分析(MS)によって分析する必要がある。したがって、ステップ(ii)は一般に、できるだけ多くのプロテアーゼ部位を消化(切断)し、できるだけ多くの検出可能(例えばMSによって検出可能)なペプチドを遊離させるために実施される。言い換えると、目的は、検出、例えばMS検出(MS検出に最適な消化)に最適化された消化により、最大数のペプチドがもたらす最大限の数の消化部位を切断することである。
【0257】
したがって、いくつかの実施形態では、方法Cのステップ(ii)で実施される非制限的(非限定)タンパク質分解のステップは、タンパク質分解ステップが完了するまで実施されるステップ、又は所与のタンパク質が完全に消化される(これは完全タンパク質分解と呼ばれることがある)ステップであることが好ましい。しかし、そのような完全な消化が、例えば短すぎるので、例えばMSによって検出不可能であるかなりの数のペプチドをもたらすことになる場合、その時点に達する前に、例えば、最大数又はかなりの数のペプチドが依然として検出されうるときに、消化が停止されること、言い換えると、ほぼ完全な消化が行われることになることが好ましい。
【0258】
タンパク質分解反応が、(例えば、できるだけ多くの検出可能なペプチドが遊離する段階まで)完了若しくはほぼ完了するか否か、又は適切な数のペプチドが検出可能であったか否かは、当業者によって容易に決定されうる。これは例えば、使用される機器の検出能力、例えば質量分析計の質量範囲に依存するであろう。質量分析計の典型的なペプチド長は少なくとも4個、5個、6個、7個、又は8個のアミノ酸であろう。したがって、消化(タンパク質分解)は、切断されたペプチドの大部分(又は最大数)が例えば質量分析によって検出可能になった時点で停止することが好ましいことになる。
【0259】
ステップ(i)の限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に使用される条件と比較した、非限定タンパク質分解ステップ(ii)のための適切な条件は、当業者には容易に明らかであろう。例えば、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解のステップが、適切なプロテアーゼの至適以下の(sub-optimal)/至適以下の(sub-optimum)条件下で実施されるのに対して、非限定タンパク質分解のステップは、適切なプロテアーゼの至適な(又は至適に近い、又は通常の、又は推奨、例えば製造元の推奨による、又は標準的な)条件下で実施されうる。
【0260】
ステップ(ii)の適切な条件の例は、緩衝液、pH、及び温度のうちの1つ以上(又はすべて)でありうる。別の適切な条件は、プロテアーゼの濃度(例えば、高濃度又は飽和濃度又は最大濃度又は最適濃度)でありうる。したがって、非限定タンパク質分解ステップは、所与のプロテアーゼ、至適pH、及び/又は至適消化温度について1つ又は複数(又はすべて)の至適緩衝液を使用することによって達成されうる。非限定タンパク質分解ステップ(ii)で使用される適切な濃度のプロテアーゼに関しては、(限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に使用されうる至適以下の活性を与える濃度とは対照的に)適切な濃度は一般に、最大又は至適又は完全(complete)(完全(full))又は(適切な場合)ほぼ完全なプロテアーゼ活性、例えば最大又は至適又は完全(又は適切であればほぼ完全な)ペプチド切断を生じる濃度に対応する。
【0261】
非限定タンパク質分解ステップ(ステップ(ii))は、所与のプロテアーゼに至適な条件を用いて行われうるが、非限定タンパク質分解ステップにおいてプロテアーゼに至適な条件を必ずしも使用する必要はない。所与のプロテアーゼの至適以下の条件は、(例えば、本明細書の他の箇所に記載されるように)適量のタンパク質切断が依然として起こる限り、非限定タンパク質分解ステップで使用されうる。純粋に例として、ステップ(ii)でプロテアーゼが至適以下の温度で使用される(例えばトリプシン又はキモトリプシンが<37℃、例えば室温で使用される)場合に、例えば、高濃度(若しくはより高い濃度)のプロテアーゼが使用され、且つ/又は長い(若しくはより長い)インキュベーション時間が用いられるならば、タンパク質分解はやはり非限定的であると考えることができる。典型的には、この文脈における高濃度(又はより高い濃度)のプロテアーゼは、ステップ(i)で使用されるプロテアーゼ濃度よりも高い(例えば有意に高い)濃度あることになる。典型的には、この文脈における長い(又はより長い)インキュベーション時間は、ステップ(i)で用いられるインキュベーション時間よりも長い(例えば有意に長い)インキュベーション時間であることになる。純粋に例として、限定タンパク質分解反応(ステップ(i))が5μg/ml又はそれ未満(例えば0.5μg/ml、1μg/ml、2μg/ml、3μg/ml、4μg/ml、又は5μg/ml)のプロテアーゼを用いて、室温(例えば 20~25℃)で5分間又はそれ未満行われる場合、室温でより高濃度のプロテアーゼ(例えば20μg/mlのプロテアーゼ)及び/又はより長いインキュベーション時間(例えば1時間)行われるステップ(ii)は、非限定タンパク質分解のステップであると考えることができる。
【0262】
したがって、特定のプロテアーゼによる非限定タンパク質分解のいくつかの例示的な条件は、例えば本明細書の他の箇所に記載の、そのプロテアーゼによる限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解のための適切な条件と比較することによって導き出すことができる。例えば、トリプシンの至適使用温度は37℃であり、したがって、非限定タンパク質分解のステップにトリプシンを使用する実施形態では、この温度が好ましい。
【0263】
しかし、いくつかの実施形態では、ステップ(i)及び(ii)のタンパク質分解に使用される温度はあってもよい(例えば室温)。ステップ(ii)が非限定タンパク質分解ステップであり、同じインキュベーション温度がステップ(i)及びステップ(ii)の両方に使用される実施形態では、ステップ(i)と比較してステップ(ii)においてより過酷な(又はより完全な又はほぼ完全な)タンパク質分解を達成するために、例えば、ステップ(i)で使用されるプロテアーゼの濃度より高いステップ(ii)でのプロテアーゼの濃度を使用すること、及び/又はステップ(i)のインキュベーション時間より長いステップ(ii)でのインキュベーション時間を有すること(及び/又はステップ(ii)でより過酷な(又はより完全な又はほぼ完全な)タンパク質分解を達成するためにステップ(ii)のその他の条件を調整すること)によって、典型的には、ステップ(ii)のタンパク質分解の条件はステップ(i)に使用される条件に対して調整される。
【0264】
例えば、特定の濃度のプロテアーゼが限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に使用されることになる実施形態では、例えば、より高い濃度、好ましくは有意に高い濃度、例えば、少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、又は10倍(又はそれ以上)高い濃度が非限定タンパク質分解に使用することができる。
【0265】
いくつかの実施形態では、所与の濃度の第1のプロテアーゼ(又は第1のプロテアーゼの組み合わせ)が限定タンパク質分解ステップ(ステップ(i))で使用される場合、より高い濃度、好ましくは有意により高い濃度、例えば、少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、又は10倍(又はそれ以上)高い濃度の第2のプロテアーゼ(又は第2のプロテアーゼの組み合わせ)が非限定タンパク質分解(ステップ(ii))に使用される。一例として、いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に使用される第1のプロテアーゼ(又は第1のプロテアーゼの組み合わせ)の濃度が5μg/ml以下である場合、非限定タンパク質分解(ステップ(ii))に使用される第2のプロテアーゼ(又は第2のプロテアーゼの組み合わせ)の濃度は20μg/ml以上でありうる。
【0266】
例えば、プロテアーゼとの特定のインキュベーション時間が限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に使用されることになる実施形態では、例えば、より長いンキュベーション時間、好ましくは有意により長いインキュベーション時間、例えば、少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、20倍(又はそれ以上)長いインキュベーション時間であり、非限定タンパク質分解にこのプロテアーゼを使用することが望ましい場合に使用することができる。例えば、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解のための特定のプロテアーゼのインキュベーション時間が数分程度であることになる場合に、このプロテアーゼを非限定タンパク質分解に使用することが望ましいときには、少なくとも1時間(例えば少なくとも1時間、2時間、3時間、4時間、若しくは5時間、又は一晩)のインキュベーション時間が用いられうる。代替的に、反応は完了まで、例えば、プロテアーゼの活性が尽きるまで、若しくはそれ以上消化が不可能になるまで、又は(適切な場合には)ほぼ完了まで継続させることができる。
【0267】
いくつかの実施形態では、第1のプロテアーゼ(又は第1のプロテアーゼの組み合わせ)の所与のインキュベーション時間が限定タンパク質分解のステップ(ステップ(i))で使用される場合、第2のプロテアーゼ(又は第2のプロテアーゼの組み合わせ)のより長い、好ましくは有意に長いインキュベーション時間、例えば、少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、又は10倍(又はそれ以上)長いインキュベーション時間が非限定タンパク質分解(ステップ(ii))に使用される。一例として、いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解に使用される第1のプロテアーゼ(又は第1のプロテアーゼの組み合わせ)のインキュベーション時間が5分以下の場合、少なくとも1時間(例えば、少なくとも1時間、2時間、3時間、4時間、若しくは5時間、又は一晩)のインキュベーション時間が第2のプロテアーゼ(又は第2のプロテアーゼの組み合わせ)(ステップ(ii))による非限定タンパク質分解のステップに用いられうる。
【0268】
ステップ(ii)の消化(タンパク質分解)が完了若しくはほぼ完了になること(又は例えば、最大又は相当数の検出可能なペプチド、例えばMSで検出可能なペプチドを得るために、タンパク質中の可能な限り多くの数のプロテアーゼ部位が切断/消化されること)が好ましいので、上記のように、インキュベーション時間は、非限定的なタンパク質分解を確実にするか又は実行するための例示的な条件であり、条件としては例えば、プロテアーゼの活性が尽きるまで、又はそれ以上消化できなくなるまで、又はそれ以上の消化が、例えば(例えば、それらが、例えばMSで検出するには短すぎるために)検出不可能なペプチドの数若しくは割合の増加、例えば測定可能な若しくは有意な増加をもたらすようになるまで、例えば、消化を長時間行うことである。
【0269】
広義には、非限定タンパク質分解ステップ(ii)は、ステップ(i)より多い、好ましくは有意に多いタンパク質分解が行われ、それに応じて適切なプロテアーゼ(及び条件)が、相異なるプロテアーゼ、すなわち異なる特異性を有するプロテアーゼがステップ(i)及びステップ(ii)で使用されることを考慮して選択できるステップと見なすことができる。別の見方をすると、非限定タンパク質分解ステップ(ii)は、タンパク質分解(又はタンパク質分解条件)が、ステップ(i)で使用されたタンパク質分解(又はタンパク質分解条件)より過酷な(又はより強い又はより厳しい)ステップであると見なすことができる。さらに別の見方をすると、非限定タンパク質分解ステップ(ii)は、ステップ(i)のタンパク質分解と比較してより過酷な(又はより強い又はより厳しい)タンパク質分解として考えることができる。
【0270】
したがって、所与のタンパク質が、ある特定の数の所与のプロテアーゼの潜在的な切断点/部位(すなわち、切断のために所与のプロテアーゼによって認識可能な部位)を有する場合、選ばれた限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解条件下で、プロテアーゼはそれらの切断部位のサブセットでのみ切断しうる。それに対して、そのプロテアーゼが非限定タンパク質分解条件下での使用に代わりに選ばれた場合、そのような条件は、プロテアーゼが、すべて(若しくは有意にすべて(significantly all))の切断部位、又は限定タンパク質分解若しくは制限的タンパク質分解の条件下で切断されるであろう切断部位よりも増加した数、好ましくは有意に増加した数の切断部位で切断しうるように選ばれることになる。
【0271】
したがって、所与のタンパク質が、所与のプロテアーゼAについてある特定の数の潜在的切断点/部位(すなわち、切断のために所与のプロテアーゼによって認識可能な部位)をもつ場合、選択された限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解条件下で、プロテアーゼはそれらの切断部位のサブセットでのみ切断しうる。一方で、異なるプロテアーゼであるプロテアーゼBを用いたステップ(ii)の選択された非限定タンパク質分解条件下では、プロテアーゼは、すべて(若しくは有意にすべて)その切断部位で、又は限定タンパク質分解若しくは制限的タンパク質分解のための条件下で切断されるであろうよりも増加した、好ましくは有意に増加した数の切断部位で切断しうる。
【0272】
所定のプロテアーゼについての潜在的な切断点/部位の数を予測するために、インシリコにおけるプロテアーゼ消化のステップ、又はタンパク質のプロテアーゼ消化を予測するためのその他の適切な方法、若しくは技術を使用することができる。例えば、タンパク質のアミノ酸配列を目でチェックし、予測切断部位(すなわち、プロテアーゼによって切断されると予測される部位)を、所与のプロテアーゼの特異性及び規則の知識に基づいて同定できうる。代替的であり簡便な、所与のプロテアーゼの特異性及び規則に基づくコンピューターベースの予測方法が好ましい。これらの方法はすべて、プロテアーゼの特異性及び規則、例えば、トリプシンがアルギニン又はリジンのC末端位置でのみ切断することを考慮に入れる。消化に関する規則及び例外は、ほとんどのプロテアーゼについて得ることができ、例えば、Peptidecutter(Expasy、SIBスイスバイオインフォマティクス研究所)を参照されたい。
【0273】
いくつかの実施形態では、非限定タンパク質分解(ステップ(ii))は、使用されるプロテアーゼによって潜在的に切断可能(消化可能)なタンパク質中の部位(結合)の少なくとも60%、又は少なくとも65%、又は少なくとも70%、又は少なくとも75%、又は少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%、又は少なくとも95%、又は少なくとも98%、又は少なくとも99%、又はさらに100%の切断をもたらす(又は達成する)タンパク質分解(タンパク質分解反応)である。別の見方をすると、いくつかの実施形態では、非限定タンパク質分解は、少なくとも60%、又は少なくとも65%、又は少なくとも70%、又は少なくとも75%、又は少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%、又は少なくとも95%、又は少なくとも98%、又は少なくとも99%、又はさらに100%のタンパク質分解を達成する。使用されるプロテアーゼによって潜在的に切断可能である所与のタンパク質中の部位は、例えば、Peptidecutter(Expasy、SIBスイスバイオインフォマティクス研究所)などのコンピュータを使用することによって、タンパク質配列及び使用されるプロテアーゼの基質特異性の知識に基づいて当業者によって容易に同定されうる。典型的には、(「100%」値は代替的に、切断されると、使用機器、例えば使用MS機器によって容易に検出可能な長さのペプチドを遊離(又は生成)するであろうタンパク質中の潜在的部位の総数として設定されうるが)タンパク質の直鎖アミノ酸配列中のすべての潜在的部位での切断は「100%」値を表すことになる。代替的に、「100%」値は、プロテアーゼにアクセス可能なタンパク質の領域(例えば、タンパク質の細胞外部分若しくはドメインであるか、又は例えば、細胞膜内にあるタンパク質の一部若しくは領域若しくはドメインでもなく、若しくはタンパク質のシステインリッチ部分でもなく、若しくはタンパク質の翻訳後修飾部分でもなく、若しくはベータシートでもない)にあることが知られている(又は例えばタンパク質モデリングツールを使用することによってそれが予測される)タンパク質中の潜在的に切断可能な部位の数として設定されうる。プロテアーゼによって実際に切断される部位の数(及び位置)も当業者によって(例えば質量分析法で)容易に決定することができ、したがって実際に切断される潜在的に切断可能な部位の%割合を容易に決定することができる。
【0274】
いくつかの実施形態では、非限定タンパク質分解(ステップ(ii))は、例えば、より長いインキュベーション(又は反応)時間が使用される場合、及び/又はより高濃度のプロテアーゼが使用される場合、及び/又はプロテアーゼに最適な温度により近い温度が使用されている場合、及び/又はプロテアーゼに対する最適条件により近い1つ以上の他の条件(例えば、本明細書の他の箇所に記載されるような1つ以上の他の条件)が使用される場合に、(例えばMSによって決定されたタンパク質からのペプチドの遊離又は切断によって評価されたとき、)タンパク質切断のレベル(又は量)が増加しない(又は有意に増加しない)ことが達成されるタンパク質分解(タンパク質分解反応)である。
【0275】
限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解は、それによって、プロテアーゼ活性のキネティクス(kinetics)は、ペプチドがタンパク質から一度に1個、又はせいぜい数個ずつ切断される程度まで減速される、限定条件(限定キネティクス(limiting kinetics)下で行われたタンパク質分解が含まれる。一方で、非限定タンパク質分解のステップは、プロテアーゼ活性のキネティクスが減速若しくは低下しない(若しくは有意に若しくは測定可能に減速若しくは低下しない)、又は最適化された条件、通常の条件、若しくは最大化された条件を含む。したがって、いくつかの実施形態では、そのような非限定タンパク質分解ステップにおける前記プロテアーゼ活性のキネティクスは、複数(好ましくは8個以上)又はできるだけ多くのペプチドが一度に切断されるようなものである。
【0276】
上記のように、広義では、非限定タンパク質分解は、同じプロテアーゼを代わりに限定タンパク質分解に使用しようとした場合よりも(例えば切断部位の数に関して)多くの、好ましくは有意に多くのタンパク質分解が実施されるステップと見なすことができる。したがって、限定タンパク質分解条件が、前記表面露出ペプチドが一度に1個ずつ又は最大で数個、例えば一度に最大で8個(1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、若しくは8個)(例えば、本明細書の他の箇所に記載されているように、例えば 最大で8個のペプチド若しくは試料中の最大で8個の独自のペプチド)切断するほど非常に遅くなるように設定される実施形態では、同じプロテアーゼが代わりにステップ(ii)で使用されることになっていた場合に、非限定タンパク質分解の条件を、限定タンパク質分解条件下よりも一度に多くの、好ましくは有意により多くの(例えば、適宜一度に2、3、4、5、6、7、又は8個を超える)ペプチドが切断されるように設定することができる。
【0277】
好ましい実施形態では、非限定タンパク質分解反応は、タンパク質が所与のプロテアーゼによって切断されうるペプチドを使い尽くされるように、又はそれ以上消化できなくなるまで、又はそれ以上の消化が、(例えばそれらが例えばMSによって検出されるには短すぎるために)検出不可能なペプチドの数、若しくは割合の増加、例えば測定可能若しくは有意な増加をもたらすようになるまで完了することができる。
【0278】
単一のプロテアーゼを非限定タンパク質分解ステップ(ii)に使用することができる。代替的に、複数のプロテアーゼを使用することができる。そのような複数のプロテアーゼは一緒に組み合わせて使用することができ(例えばタンパク質試料に同時に添加又は接触させるプロテアーゼのカクテルを使用することができる)、又はそのような複数のプロテアーは逐次的に、例えば順々に使用することができる(逐次使用がいくつかの実施形態では好ましい)。このステップで使用される1つ以上のプロテアーゼは、本明細書において「第2のプロテアーゼ」又は「プロテアーゼB」と呼ばれる。これは、これらのプロテアーゼを本方法のステップ(i)で使用されるもの(本明細書では「第1のプロテアーゼ」又は「プロテアーゼA」と呼ぶ)と区別するためである。本方法のステップ(ii)で使用されるプロテアーゼはステップ(i)で使用されるものとは異なることになる、すなわちそれらは異なる特異性を有することになる。
【0279】
任意の適切なプロテアーゼを使用することができ、非限定タンパク質分解のそのようなステップで使用できる好適なプロテアーゼは当業者に周知であろう。一般に、好ましいプロテアーゼは、強固な又は高い特異性を有する(例えば、それらの特異性を超えてアミノ酸を消化する傾向がない)及び/又は例えば特異性に関して十分に検証され、特徴付けられている(言い換えると、プロテアーゼによって消化又は切断されるアミノ酸配列が既知であり、一貫している)。本明細書の他の箇所に論じられているプロテアーゼのいずれも、非限定タンパク質分解に使用することができる。
【0280】
非限定タンパク質分解ステップ(ii)で使用するためのプロテアーゼのある好ましい群(すなわち、第2のプロテアーゼ、プロテアーゼB、又は第2の消化ステップのためのプロテアーゼの例)は、1つ以上のトリプシン、Arg-C、Lys-C、及びLys-N(グループ1プロテアーゼ)を含む。
【0281】
非限定タンパク質分解ステップ(ii)で使用するためのプロテアーゼの別の好ましい群(すなわち、第2のプロテアーゼ、プロテアーゼB、又は第2の消化ステップのためのプロテアーゼの例)は、1つ以上のペプシン、キモトリプシン、及びGlu-C(グループ2プロテアーゼ)を含む。
【0282】
いくつかの実施形態では、プロテアーゼAsp-Nも、これらのグループのいずれかと組み合わせて使用することができる(グループ3プロテアーゼ)。
【0283】
したがって、例えば、本方法を実施するために、グループ1からの1つ又はいくつかのプロテアーゼを組み合わせて、第1のステップ(ステップ(i))の限定タンパク質分解に使用し、続いて、第2のステップ(ステップ(ii))の非限定タンパク質分解の間に、グループ2からの1つ又はいくつかのプロテアーゼを組み合わせて使用すること(又は逐次的に使用すること)ができる。
【0284】
代替的に、グループ2からの1つ又はいくつかのプロテアーゼを組み合わせて、第1のステップ(ステップ(i))で限定タンパク質分解に使用し、続いて第2のステップ(ステップ(ii))の非限定タンパク質分解の間に、グループ1からの1つ又はいくつかのプロテアーゼを組み合わせて使用すること(又は逐次的に使用すること)ができる。
【0285】
グループ3プロテアーゼは、任意選択で、グループ1又はグループ2のいずれかと組み合わせることができる。
【0286】
いくつかの実施形態では、非限定タンパク質分解は、非限定タンパク質分解に関連して本明細書に記載の1つ以上の条件下で行われるタンパク質分解ステップと見なされうる。
【0287】
上記のように、本明細書に記載の非限定タンパク質分解条件のいずれも、この態様(方法C)に従って使用することができる。いくつかの実施形態では、約20μg/mlのプロテアーゼ(例えばトリプシン又はキモトリプシン)の濃度がステップ(ii)で使用される。いくつかのそのような実施形態では、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解は室温で行われる。
【0288】
いくつかの実施形態では、非限定タンパク質分解ステップ(ii)は約1時間行われる。いくつかのそのような実施形態では、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解は室温で行われる。
【0289】
いくつかの実施形態では、非限定タンパク質分解ステップ(ii)は、20μg/mlのキモトリプシンを用いて室温で1時間行われる。
【0290】
いくつかの実施形態では、非限定タンパク質分解ステップ(ii)は、20μg/mlのトリプシンを用いて室温で1時間行われる。
【0291】
純粋に例として、適切なプロテアーゼ及び条件の具体例は、
ステップ(i):キモトリプシンを用いた限定タンパク質分解- 5μg/ml、5分、緩衝液:例えば、100mM NH4HCO3、pH8.0、21℃
ステップ(ii):トリプシンを用いた非限定タンパク質分解- 20μg/ml、2時間、緩衝液:例えば、100mM NH4HCO3、pH8.0、37℃
でありうる。
【0292】
別の例として、適切なプロテアーゼ及び条件の具体例は、
ステップ(i):キモトリプシンを用いた限定タンパク質分解- 2μg/ml、5分、室温、緩衝液:例えば、トリス-HCl 100mM及びCaCl2 10mM、pH8.0
ステップ(ii):トリプシンを用いた非限定タンパク質分解- 20μg/ml、1時間、室温、緩衝液:例えば、100mM 重炭酸アンモニウム、pH8
でありうる。
【0293】
別の例として、適切なプロテアーゼ及び条件の具体例は、
ステップ(i):トリプシンを用いた限定タンパク質分解- 5μg/ml、5分、室温、緩衝液:例えば、100mM 重炭酸アンモニウム、pH8
ステップ(ii):キモトリプシンを用いた限定タンパク質分解- 20μg/ml、5分、室温、緩衝液:例えば、トリス-HCl 100mM及びCaCl2 10mM、pH8.0
でありうる。
【0294】
別の例として、適切なプロテアーゼ及び条件の具体例は、
ステップ(i):プロテイナーゼKを用いた限定タンパク質分解- 2μg/ml、5分、室温、緩衝液:例えば、トリス-HCl 100mM及びCaCl2 10mM、pH8.0
ステップ(ii):トリプシンを用いた非限定タンパク質分解- 20μg/ml、1時間、室温、緩衝液:例えば、100mM 重炭酸アンモニウム、pH8
でありうる。
【0295】
限定タンパク質分解ステップ(i)又は非限定タンパク質分解ステップ(ii)のいずれにおいても同じプロテアーゼが使用に適している可能性があることが分かる。この方法(方法C)のいくつかの実施形態を実施する際の重要な点は、タンパク質がプロテアーゼに曝される条件が、使用されるプロテアーゼに応じて、限定タンパク質分解又は非限定タンパク質分解のいずれかを達成するように適宜選択されることである。これらの方法では、異なるプロテアーゼ(異なる特異性をもつプロテアーゼ)が2つのステップに使用されることも重要である。異なる特異性をもつプロテアーゼとは、プロテアーゼが異なるアミノ酸配列で消化又は切断することを意味する。
【0296】
本明細書に記載の複数のプロテアーゼの使用は、2個、3個、4個、5個の異なるプロテアーゼの使用が挙げられるが、これらに限定されない。
【0297】
本方法のいくつかの実施形態では、2つの相異なるプロテアーゼ、ステップ(i)の単一プロテアーゼとステップ(ii)の異なるプロテアーゼのみが使用される。本方法のいくつかの実施形態では、2つのタンパク質分解ステップ(1つのタンパク質分解ステップ(i)と1つのタンパク質分解ステップ(ii))のみが行われる。
【0298】
ステップ(ii)で非限定タンパク質分解が行われるこの方法(方法C)のいくつかの実施形態では、前記方法は、ステップ(ii)で使用されている(使用される)前記単一の第2のプロテアーゼ又は第2のプロテアーゼの組み合わせを使用することによって、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解を前記タンパク質に対して行う追加ステップ(例えば1つ又は複数のステップ)を、ステップ(i)の後で、ステップ(ii)より前にさらに含む。そのような方法は、ステップ(ii)より前に行われる追加の限定的タンパク質分解ステップで前記タンパク質から遊離したペプチドを分析し、任意選択でステップ(i)及び/又はステップ(ii)で前記タンパク質から遊離したペプチドも分析して一端が前記第1のプロテアーゼによって切断され、もう一端が前記第2のプロテアーゼによって切断されているペプチドを同定するステップを含む。前記第1のプロテアーゼの前記同定された切断部位を含む又は隣接する前記タンパク質の領域にある1つ以上のエピトープを、前記エピトープに対する1つ以上の抗体を用いて探索し、それによって、抗体によって結合されうるタンパク質上の1つ以上のエピトープを同定することも行うことができる。理論に縛られることを望むものではないが、非限定タンパク質分解ステップ(ii)で遊離するペプチドの数と比較して、そのような追加の限定タンパク質分解のステップで遊離するペプチドは典型的には少ないことになるので、ステップ(ii)で使用されている(使用される)第2のプロテアーゼ又は第2のプロテアーゼの組み合わせを使用する限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解のそのような追加ステップを含むことは有益でありうると考えている。したがって、一端が前記第1のプロテアーゼによって切断され、もう一端が前記第2のプロテアーゼによって切断されているペプチドは、両端が第2のプロテアーゼによって切断されている遊離ペプチドの数の減少に起因して「ノイズ(noise)」が少ないことになるので、ステップ(ii)の後より追加の限定タンパク質分解ステップの後のほうが(例えばMSによる)検出が容易であることになる。
【0299】
当業者ならば、本方法のさまざまなステップで使用するための適切なプロテアーゼを選択するのに十分な知識をもっているだろう。一般に、好ましいプロテアーゼは、強固な若しくは高い特異性を有する(例えば、それらの特異性を超えてアミノ酸を消化する傾向がない)もの及び/又は特異性に関して十分に検証され、特徴付けられている(言い換えると、プロテアーゼによって消化又は切断されるアミノ酸配列が既知であり、一貫性がある)ものである。本明細書の他の箇所に記載されているように、主な基準の1つは、ステップ(i)で使用されるプロテアーゼが、消化/切断されたアミノ酸配列に関して、ステップ(ii)で使用されるプロテアーゼと異なる特異性を有することである。
【0300】
この理由(例えば、強固で高く確かな特異性)から、上記のグループ1、2、3のプロテアーゼが好まれ、それらのプロテアーゼは1つ以上のアミノ酸のサブセットの後ろで消化するので、同じグループに入れられます。したがって、一群のプロテアーゼは、単一又は比較的小さい群(サブセット)のアミノ酸(例えば、1、2、3、4、又は5個のアミノ酸、例えば最大で2、3、4、又は5個のアミノ酸))での消化の特性に基づいてまとめる(選択する)ことができる。したがって、グループ1プロテアーゼはすべてアルギニン及び/又はリジンの後ろで消化する。グループ2のプロテアーゼはチロシン、トリプトファン、フェニルアラニン、及び/又はロイシンの後ろで消化する。これは、2つのグループが完全に異なる特異性を有し、例えばアルギニンの後ろでの切断をもつすべてのペプチドは、グループ1によって消化されるように(したがって、グループ1プロテアーゼのうちの1つ以上が使用される方法のどのステップでも消化されるように)割り当てることできることを意味する。グループはさらに分割されうる。例えば、グループ1は、アルギニン(すなわち単一のアミノ酸)の後ろで消化するプロテアーゼのグループとリジンの後ろで消化する異なるグループに分けられうる。したがって、所望の場合、代替の且つ適切な単一のプロテアーゼ又はプロテアーゼの群は当然、当業者によって提供又は選択されうる。
【0301】
タンパク質中の最大数のプロテアーゼ部位が切断されるという見込みを増やすために(又は本方法によるシーケンスカバレッジをさらに上げるために)、追加の変性ステップを任意選択で実施することができる。そのような変性ステップは、非限定タンパク質分解のステップの前に(それより前に(prior))、それと同時に(その間に)、又はその後に実施することができる。タンパク質の変性を促進又は誘導するために使用される適切な条件は、例えば適切な変性剤、緩衝液、pH、及び/又は温度を用いることであり、当業者に周知であろう。変性条件はタンパク質によって異なるが、一般的に使用される薬剤は、尿素及び塩化グアニジニウム、高塩濃度若しくは低塩濃度及び/又は高pH若しくは低pHの緩衝液、並びに40℃を超える温度である。
【0302】
第1のタンパク質分解ステップ(ステップ(i))が限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解ステップであり、第2のタンパク質分解(ステップ(ii))が非限定タンパク質分解ステップである方法が好ましいが、いくつかの実施形態では、例えば本明細書の他の箇所に記載されているように、限定タンパク質分解の2つのステップ、すなわち、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解のステップである上記方法(方法C)のステップ(i)及び(ii)を含む方法は、ペプチドを生成し、エピトープを同定するのに有用でありうる。
【0303】
1つの態様では、本発明は、抗体によって結合されうるタンパク質上のエピトープを同定する方法を提供し、前記方法は、
(i)単一の第1のプロテアーゼ又は第1のプロテアーゼの組み合わせを用いて、前記タンパク質に対して限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解を行うこと;
(ii)単一の第2のプロテアーゼ又は第2のプロテアーゼの組み合わせを用いたタンパク質分解を前記タンパク質に対して行うことであり、前記第2のプロテアーゼはステップ(i)で使用されたプロテアーゼとすべて異なるプロテアーゼであること;
(iii)ステップ(i)及びステップ(ii)で前記タンパク質から遊離したペプチドを分析し、一端が前記第1のプロテアーゼによって切断されており、もう一端が前記第2のプロテアーゼによって切断されているペプチドを同定すること、
(iv)ステップ(iii)で同定された前記第1のプロテアーゼの切断部位を含む又は隣接する前記タンパク質の領域にある1つ以上のエピトープを、前記エピトープに対する1つ以上の抗体を用いて探索し、それによって、抗体によって結合されうるタンパク質上の1つ以上のエピトープを同定すること
を含む。
【0304】
本明細書に記載の他の方法の好ましい特徴は、必要な変更を加えて本発明のこの態様に適用することができる。
【0305】
別の態様では、本発明は、抗体によって結合されうるタンパク質上のエピトープを同定する方法を提供し、前記方法は、
(i)単一の第1のプロテアーゼ又は第1のプロテアーゼの組み合わせを用いて前記タンパク質に対してタンパク質分解を行うこと;
(ii)単一の第2のプロテアーゼ又は第2のプロテアーゼの組み合わせを用いたタンパク質分解を前記タンパク質に対して行うことであり、前記第2のプロテアーゼはステップ(i)で使用されたプロテアーゼとすべて異なるプロテアーゼであること;
【0306】
ステップ(ii)で行ったタンパク質分解は、ステップ(i)で行ったタンパク質分解より過酷(又はより完全又はより厳しい)であり;
【0307】
(iii)ステップ(i)及びステップ(ii)で前記タンパク質から遊離したペプチドを分析し、一端が前記第1のプロテアーゼによって切断され、もう一端が前記第2のプロテアーゼによって切断されているペプチドを同定すること;
(iv)ステップ(iii)で同定された前記第1のプロテアーゼの切断部位を含む又は隣接するタンパク質の領域にある1つ以上のエピトープを、前記エピトープに対する1つ以上の抗体を用いて探索し、それによって、抗体によって結合されうるタンパク質上の1つ以上のエピトープを同定すること
を含む。
【0308】
当業者は、例えば本明細書の他の箇所の考察に基づいて、ステップ(i)で使用されるタンパク質分解条件よりも過酷なステップ(ii)のタンパク質分解条件を容易に決定することができる。本明細書に記載の他の方法の好ましい特徴は、必要な変更を加えて本発明のこの態様に適用することができる。
【0309】
いくつかの実施形態では、消化、遊離、又は切断されたペプチド、例えばステップ(i)及びステップ(ii)でタンパク質から切断又は遊離したペプチドは、ステップ(iii)を行うより前に凍結される(又はそうでなければ適切に保存される)。
【0310】
ステップ(iii)
本方法のステップ(iii)では、消化、遊離、又は切断されたペプチド、例えばステップ(ii)でタンパク質から切断又は遊離したペプチド(及び任意選択で、ステップ(i)でタンパク質から切断又は遊離したペプチド)が分析される、例えば収集及び分析される。そのような分析は、任意の適切な技術によって実行されうるが、例えば、本明細書の他の箇所及び実施例に記載のように、質量分析を使用して簡便且つ好ましく実施される。
【0311】
このステップは、一端(例えばN末端又はC末端)が前記第1のプロテアーゼ、すなわち限定タンパク質分解ステップで使用されたプロテアーゼ(プロテアーゼA)によって切断され、もう一端(例えば、適宜C末端又はN末端)が前記第2のプロテアーゼ、すなわち非限定タンパク質分解ステップで使用されたプロテアーゼ(プロテアーゼB)によって切断されたペプチドを同定するのに使用される。次いでこれによって、前記第1のプロテアーゼ、すなわち、限定タンパク質分解ステップで使用されたプロテアーゼによって切断された末端に対応する天然タンパク質中の部位の同定が可能になる。天然タンパク質中のこれらの部位は、プロテアーゼのアクセス可能部位であり、限定タンパク質分解ステップでプロテアーゼによって切断される(切断部位)が、ペプチドが遊離しない部位に対応する可能性が高い。これらの部位はまた、抗体(又は他の特異的結合剤)によって結合されうるか又は標的にされうる1つ以上の有用なエピトープを含みうる天然タンパク質の領域を同定する。したがって、上記方法のパート(iii)で同定された部位は切断部位と呼ぶことができる。
【0312】
したがって、このステップでは、両端で同じプロテアーゼによって切断されたペプチドを同定することは一般的には望まれず、例えば、制限タンパク質分解ステップで使用されたプロテアーゼのうちの1つによって両端で切断される、又は非限定タンパク質分解ステップで使用されたプロテアーゼのうちの1つによって両端で切断されることは望まれない。しかしながら、いくつかの実施形態では、限定タンパク質分解ステップで使用されるプロテアーゼの1つによって両端で切断されている、ステップ(ii)で生成されるがステップ(i)で生成されないペプチドを同定することは有用でありうる。そのようなペプチドは、限定的タンパク質分解ステップでプロテアーゼによって両端で切断される部位(切断部位)(すなわち、両端で第1のプロテアーゼ、プロテアーゼAによって切断される、すなわちA---Aペプチド)に対応する可能性が高いが、ペプチドが他のいくつかの手段、例えば分子間相互作用又は分子間力、例えばイオン結合でタンパク質に保持されているためにペプチドが遊離しない天然タンパク質中のプロテアーゼのアクセス可能部位に対応する可能性がある。これらのペプチド(A---Aペプチド)はステップ(ii)で遊離する可能性があり、さらに抗体(又は他の特異的結合剤)によって結合されうるか又はそれによって標的にされうる1つ以上の有用なエピトープを含みうる天然タンパク質の領域を同定することができる。いくつかの実施形態では、本方法は、限定タンパク質分解ステップ(ステップ(i))で使用される第1のプロテアーゼの1つによって両端で切断された、ステップ(ii)で遊離するがステップ(i)で遊離しないペプチドの同定を、ステップ(iii)にさらに含む(又は代替的にステップ(iii)に含む)。
【0313】
ステップ(i)及びステップ(ii)の後に別の分析又は同定ステップを実施することができ、一般にこれが好ましい。しかし、ステップ(i)及び(ii)でタンパク質から遊離したペプチドに対してステップ(ii)の後に単一の分析ステップを実施することができる。実際には、限定タンパク質分解のステップ(ステップ(i)は、ステップ(ii)(例えば非限定タンパク質分解ステップ(ii)))が開始される前に止められる必要がある。したがって、限定的タンパク質分解を実施するために使用されるプロテアーゼは、ステップ(ii)(例えば非限定タンパク質分解ステップ)のためのプロテアーゼが添加される前に(例えば洗浄によって)除去することができる。好適な洗浄緩衝液の例は、本明細書の実施例のセクションに記載されている。本方法のタンパク質分解ステップを実施するためのフローセルの使用はこのための便利な手段を提供する。
【0314】
上記方法(方法C)のステップ(ii)のプロテアーゼ消化によってタンパク質から遊離したペプチド(ペプチド配列)(及び任意選択でステップ(i)のプロテアーゼ消化によってタンパク質から遊離したペプチド)の分析又は同定は、例えば、一端が前記第1のプロテアーゼ(プロテアーゼA)によって切断され、他端が前記第2のプロテアーゼ(プロテアーゼB)によって切断されているペプチド、この場合はA---B又はB---Aペプチドを同定するために、例えば、質量分析(例えばLC-MS/MS)によって、任意の適切な方法又は技術によって行うことができる。前記タンパク質から遊離した(又は切断された)ペプチド(ペプチド配列)を同定すると、タンパク質分解によってタンパク質から遊離する(例えば、質量分析法によって同定される)ペプチド配列の知識は、例えば、配列を天然タンパク質の配列に逆マッピングすることによって切断部位の情報を与えるので、1つ以上のプロテアーゼが前記タンパク質を切断した天然タンパク質上の部位(切断部位)は容易に同定される。これに関して、遊離したペプチド(切断されたペプチド)の末端の残基は、タンパク質中の(例えば天然又は全長タンパク質中の)切断部位の情報を与える。
【0315】
好ましい実施形態では、例えば、本明細書の他の箇所に記載の通り、消化されたペプチドは収集され、質量分析法を用いて分析される。ペプチドスペクトルの同定は、限定されないがMASCOTなどの検索エンジンを使用して行うことができる。検索エンジンは、使用されたすべてのプロテアーゼ及び/又は特定のプロテアーゼなしの消化の規則に基づいてペプチドを同定するように設定することができる。明確な例として、そのような組み合わせが実験的に使用された場合、MASCOTに適用された消化の規則性は、トリプシン切断又はペプシン切断のいずれかをもつペプチドの検索を特定することができた。ステップ(i)及びステップ(ii)で同定されたすべてのペプチドからの配列データを組み合わせて、天然タンパク質に対する限定タンパク質分解を用いて消化されたが、ペプチドは遊離しなかった、又はペプチドは依然として結合していた切断部位(これらのペプチドは、本方法で使用される第1及び第2のプロテアーゼに対応する末端をもつペプチド、例えば、A---Bペプチド若しくはB---Aペプチド、又は場合によっては上記のA---Aペプチドに対応する)について、天然タンパク質に対する限定タンパク質分解を使用して消化されたが、本方法のステップ(i)でプロテアーゼの作用によってペプチドが天然タンパク質から遊離/切断された切断部位(これらのペプチドは一般に、両端が本方法の限定タンパク質分解ステップで使用された第1のプロテアーゼ、A---Aペプチドに対応するペプチドに対応し、本方法のステップ(i)の後に検出可能であることになる)と区別することができる。
【0316】
本方法のいくつかの実施形態において、ステップ(iii)では、ステップ(ii)で(又はその後に)前記タンパク質から遊離するペプチドのみが分析される(例えば、ステップ(i)で(又はその後に)遊離するペプチドは分析されない)。しかし、いくつかの実施形態では、ステップ(iii)は、ステップ(i)及びステップ(ii)でタンパク質から遊離したペプチドを分析することを含む。
【0317】
本発明のいくつかの方法では、(例えば、本明細書の他の箇所に記載されているように)ステップ(i)の後で、ステップ(ii)より前に、前記単一の第2のプロテアーゼ又は第2のプロテアーゼの組み合わせを用いて行われる限定タンパク質分解の追加ステップでタンパク質から遊離するペプチドのみが分析される。本発明のいくつかの方法では、(例えば、本明細書の他の箇所に記載されているように)ステップ(i)の後で、ステップ(ii)より前に、前記単一の第2のプロテアーゼ又は第2のプロテアーゼの組み合わせを用いて行われる限定タンパク質分解の追加ステップでタンパク質から遊離するペプチドが分析され、ステップ(i)及び/又はステップ(ii)でタンパク質から遊離するペプチドが分析される。
【0318】
ステップ(iv)
本方法のステップ(iv)は、ステップ(iii)で同定された前記第1のプロテアーゼの切断部位を含む又は隣接するタンパク質の領域にある1つ以上のエピトープを、前記エピトープに対する1つ以上の抗体を用いて探索し、それによって、抗体によって結合されうるタンパク質上の1つ以上のエピトープを同定するステップを含む。別の見方では、本方法のステップ(iv)は、ステップ(iii)で同定された前記第1のプロテアーゼの切断部位を含む又は隣接するタンパク質の領域にある1つ以上のエピトープを1つ以上の抗体を用いて探索すること及び前記1つ以上の抗体が前記1つ以上のエピトープに結合するか否かを識別し、それによって、抗体によって結合されうるタンパク質上のエピトープを同定することを含む。
【0319】
上記方法(方法C)のステップ(iv)に従う「切断部位」は、ステップ(iii)に関して上記に記載されている。いくつかの実施形態では、「切断部位」は、(ステップ(i))におけるプロテアーゼによる切断部位(切断部位)に対応するが、ステップ(i)ではそこからペプチドが遊離しない、タンパク質のアミノ酸配列(例えば、天然タンパク質、若しくは全長タンパク質、若しくは野生型タンパク質、若しくはインサイチュタンパク質、若しくは非変性タンパク質)中の部位(又は位置)と考えることができる。別の見方をすると、いくつかの実施形態では、上記方法(方法C)のステップ(iv)における「切断部位」は、第1のプロテアーゼによって切断された、ステップ(iii)で同定されたペプチドの末端に対応する、タンパク質(例えば、天然タンパク質、若しくは完全なタンパク質、若しくは野生型タンパク質)のアミノ酸配列中の部位(又は位置)と考えることができる。
【0320】
本明細書に記載されているように1つ以上(例えば複数)のエピトープを探索することは、タンパク質(例えば天然又は完全長タンパク質)上の1つ以上のエピトープ(又は潜在的なエピトープ)が、タンパク質上のそのエピトープ(又は潜在的なエピトープ)に対応する単離されたエピトープに対して生成された(又はそれに結合する)抗体によって結合されるそれらの能力に関して分析(又は評価又は研究)されることを意味する。好ましい実施形態では、複数(又は一連)のエピトープが探索される。
【0321】
いくつかの実施形態では、本方法は、ステップ(iii)で同定された前記第1のプロテアーゼの切断部位を含む又は隣接するタンパク質の領域にある前記タンパク質上の1つ以上のエピトープ(又は配列)に対応する配列を有する1つ以上(例えば、複数、例えば、2個以上、3個以上、5個以上、10個以上、20個以上、50個以上、例えば、最大で3個、最大で4個、最大で5個、最大で10個、最大で20個、又は最大で50個)の単離されたエピトープを生成(又は合成)し、前記単離されたエピトープに対する(結合する)抗体(例えばポリクローナル抗体)を生成する(産生する)ステップを(ステップ(iv)より前に)さらに含みうる。好ましい実施形態では、複数(又は一連の)のエピトープが生成され、複数(又は一連)の抗体が生成される。次いで、そのような抗体は、前記タンパク質上の(例えば天然又は完全長タンパク質中の)1つ以上のエピトープを探索するための上記方法のステップ(iv)で使用されうる。単離されたエピトープを生成するための又は抗体を生成するための(例えば本明細書の他の箇所に記載されているような)任意の適切な方法又は技術も使用することができ、当業者ならばこれらに精通しているであろう。
【0322】
いくつかの実施形態では、エピトープはさまざまな長さ及び/又は配列を有する。したがって、複数の(又は一群の)エピトープ内に、互いに異なる長さ及び/又は配列を有するエピトープが存在しうる。他の実施形態では、エピトープは同じ(又は類似の)長さ及び通常は異なる配列を有する。したがって、いくつかの実施形態では、複数の(又は一群の)エピトープ内で、エピトープは同じ(又は類似の)長さを有する。
【0323】
エピトープは任意の適切な長さとすることができる。いくつかの実施形態では、単離エピトープは長さが7~8アミノ酸であるか、本明細書の他の箇所に記載されているような長さを有する。
【0324】
好ましい実施形態では、エピトープは切断部位を含む(又はそれと重なる又はそれを囲む)。その他の実施形態では、エピトープは切断部位に隣接する。
【0325】
典型的には、エピトープ(又は任意の所与のエピトープの少なくとも一部)は、切断部位(プロテアーゼアクセス可能切断部位である可能性が高いが、ペプチドが遊離しない、ステップ(iii)で同定された前記第1のプロテアーゼ、プロテアーゼAの切断部位である切断部位)の50個のアミノ酸の範囲内、すなわち切断部位に対して+50から-50のアミノ酸にあることになる。好ましくは、エピトープ(又は任意の所与のエピトープの少なくとも一部)は、切断部位(ステップ(iii)で同定された前記第1のプロテアーゼの切断部位である切断部位)の20個のアミノ酸の範囲内、すなわち切断部位に対して+20から-20のアミノ酸、又は切断部位の10個のアミノ酸の範囲内、すなわち切断部位に対して+10から-10のアミノ酸、又は切断部位の5個のアミノ酸の範囲内、すなわち切断部位に対して+5から-5のアミノ酸にあることになる。
【0326】
いくつかの実施形態では、「切断部位を含む又は隣接するタンパク質の領域」は、切断部位の50個のアミノ酸の範囲内、すなわち切断部位に対して+50から-50のアミノ酸、好ましくは、切断部位の20個のアミノ酸の範囲内、すなわち切断部位に対して+20から-20のアミノ酸、又は切断部位の10個のアミノ酸の範囲内、すなわち切断部位に対して+10から-10のアミノ酸、又は切断部位の5個のアミノ酸の範囲内、すなわち切断部位に対して+5から-5のアミノ酸を意味する。
【0327】
いくつかの実施形態では、複数のエピトープ(2つ以上のエピトープ)はエピトープのセット(又は一群)のであり、そのセットの各エピトープの配列は、そのセットの別のエピトープから1個又は数個(例えば1個、2個、又は3個)のアミノ酸、好ましくは1個のアミノ酸だけオフセットしている。言い換えると、いくつかの実施形態では、エピトープのセット(複数のエピトープ)では、各エピトープ配列は、そのセットの別のエピトープ配列に対して、1個又は数個の(例えば、1個、2個、又は3個)のアミノ酸、好ましくは1個のアミノ酸だけシフトされている。したがって、複数のエピトープは、例えば
図15に示されるように入れ子になったセットのエピトープでありうる。典型的には、そのような入れ子になったセットのエピトープは、切断部位(プロテアーゼアクセス可能な切断部位である可能性が高いが、ペプチドが遊離しない、ステップ(iii)で同定された前記第1のプロテアーゼの切断部位)に対して(又はそれを囲む)いずれかの方向(又は両方向)でタンパク質配列の最大で約50個のアミノ酸を含むことになる。好ましくは、そのような入れ子になったセットのエピトープは、切断部位(ステップ(iii)で同定された前記第1のプロテアーゼの切断部位)に対して(又はそれを囲む)いずれかの方向(又は両方向)でタンパク質配列の最大で約20個のアミノ酸を含むことになる。いくつかの実施形態では、そのような入れ子になったセットのエピトープは、切断部位(ステップ(iii)で同定された前記第1のプロテアーゼの切断部位)に対して(又はそれを囲む)いずれかの方向(又は両方向、好ましくは両方向)でタンパク質配列の最大で約6個のアミノ酸を含むことになる。
【0328】
入れ子になったセットのエピトープが使用される場合、好ましい実施形態では、相当数のエピトープが切断部位を含み、好ましくは入れ子になったセットの実質的にすべてのエピトープが切断部位を含み、より好ましくは入れ子になったセットのすべてのエピトープが切断部位を含むことになる。
【0329】
上記のように、切断部位間を含む若しくはそれと重なる、又は切断部位に隣接する領域にあるタンパク質上のエピトープを探索することは、前記エピトープに対する抗体を用いて行うことができる(すなわち、その抗体はプローブとして機能する)。実際には、抗体(例えばFab断片又は他の抗体断片)を用いた探索が好ましい。しかし代替的に、他の結合エンティティをプローブとして使用してもよい(例えば、他のアフィニティープローブ又は結合剤を使用してもよい)。アフィボディ(Affibodies)は、使用されうるアフィニティープローブの一例である。
【0330】
1つの態様では、本発明は、エピトープ(又は抗原性エピトープ)、例えば、上記の、抗体によって結合されうるタンパク質上のエピトープを同定する方法(方法C)によって同定された単離エピトープを提供する。エピトープの例示的且つ好ましい特徴は、本明細書の他の箇所に記載されている。1つの態様では、本発明は、タンパク質上のそのようなエピトープに結合(特異的に結合)する抗体を提供する。抗体の例示的且つ好ましい特徴は、本明細書の他の箇所に記載されている。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の切断部位の近傍、例えば、切断部位の5、10、20、又は50アミノ酸以内に結合する抗体が好ましい。当業者は、エピトープ(例えば単離されたエピトープ)及び所与のエピトープに対する抗体を生成するための方法又は技術に精通しており、(例えば、本明細書の他の箇所に記載のように)任意の適切な方法を使用することができる。好ましいタイプの抗体も本明細書の他の箇所に記載されている。したがって、本発明の方法(例えば方法C)は、同定された1つ以上のエピトープに対して抗体を産生又は生成される追加のステップを含む方法を含む。したがって、タンパク質に対する抗体(複数の抗体)を生成する方法もまた提供される。そのような抗体生成(又は産生又は製造)の方法はまた、抗体若しくはタンパク質生成物を精製する、且つ/又は抗体若しくは生成物を薬学的に許容される担体若しくは賦形剤などの少なくとも1つの追加成分を含む組成物に製剤化するステップを含みうる。
【0331】
1つの態様では、本発明は、抗体の生成(又は産生)に使用できる複合体を提供する。複合体は、ペプチド担体に結合させた又はペプチド担体と混ぜられた、本明細書で定義される少なくとも1つのエピトープを含みうる。複合体の他の特徴は本明細書の他の箇所に記載されている。
【0332】
1つの態様では、本発明は、本発明の抗体又はエピトープを含む組成物(例えば医薬組成物)を提供する。典型的には、そのような組成物は、1つ以上の希釈剤、賦形剤、及び/又は緩衝剤を含む。
【0333】
1つの態様では、本発明は、配列番号82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、及び184のいずれか1つからなる(若しくはそれを含む)群より選択されるアミノ酸配列又はそれに実質的に相同な配列を含む(又はそれからなる)抗原性エピトープを提供する。配列番号82~184は本明細書の表9~14に記載されている。「それに実質的に相同な」配列は本明細書の他の箇所に記載されている。
【0334】
いくつかの実施形態では、本発明は、配列番号82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、及び184のいずれか1つからなる(若しくはそれを含む)群より選択されるアミノ酸配列又はそれに実質的に相同な配列を含む(又はそれからなる)抗原性エピトープを提供し、前記実質的に相同な配列は、所与のアミノ酸配列と比較して1つ、2つ、若しくは3つのアミノ酸置換若しくは欠失を含む配列であるか、又は所与のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列であるか、又は所与のアミノ酸配列の少なくとも6個の連続したアミノ酸を有する配列である。
【0335】
1つの態様では、本発明は、配列番号82、88、90、94、95、96、98、99、102、104、107、110、114、115、121、122、126、130、132、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、163、165、167、168、169、171、173、174、175、176、178、180、181、及び182のいずれか1つからなる(若しくはそれを含む)群より選択されるアミノ酸配列又はそれに実質的に相同な配列を含む(又はそれからなる)抗原性エピトープを提供する。「それに実質的に相同な」配列は本明細書の他の箇所に記載されている。
【0336】
いくつかの実施形態では、本発明は、配列番号82、88、90、94、95、96、98、99、102、104、107、110、114、115、121、122、126、130、132、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、163、165、167、168、169、171、173、174、175、176、178、180、181、及び182のいずれか1つからなる(若しくはそれを含む)群より選択されるアミノ酸配列又はそれに実質的に相同な配列を含む(又はそれからなる)抗原性エピトープを提供し、前記実質的に相同な配列は、所与のアミノ酸配列と比較して1つ、2つ、若しくは3つのアミノ酸置換若しくは欠失を含む配列であるか、又は所与のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列であるか、又は所与のアミノ酸配列の少なくとも6個の連続したアミノ酸を有する配列である。
【0337】
いくつかの実施形態では、本発明は、配列番号82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、及び106からなる(若しくはそれらを含む)群より選択されるアミノ酸配列、又はそれに実質的に相同な配列を含む(又はそれからなる)抗原性エピトープを提供する。
【0338】
いくつかの実施形態では、本発明は、配列番号107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136からなる(若しくはそれらを含む)群より選択されるアミノ酸配列、又はそれに実質的に相同な配列を含む(又はそれからなる)抗原性エピトープを提供する。
【0339】
いくつかの実施形態では、本発明は、配列番号137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、及び155からなる(若しくはそれらを含む)群より選択されるアミノ酸配列、又はそれに実質的に相同な配列を含む(又はそれからなる)抗原性エピトープを提供する。
【0340】
いくつかの実施形態では、本発明は、配列番号156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、及び184からなる(若しくはそれらを含む)群より選択されるアミノ酸配列、又はそれに実質的に相同な配列を含む(又はそれからなる)抗原性エピトープを提供する。
【0341】
1つの態様では、本発明は、タンパク質上のエピトープに結合(特異的に結合)する抗体を提供し、前記エピトープは、配列番号82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、及び184のいずれか1つからなる(若しくはそれを含む)群より選択されるアミノ酸配列、又はそれに実質的に相同な配列を含む(又はそれからなる)。好ましい実質的に相同な配列は本明細書の他の箇所に記載されている。そのような配列が見出される(したがって本発明のある特定の抗体が結合できる)タンパク質が本明細書の表9~12に記載されている。
【0342】
1つの態様では、本発明は、タンパク質上のエピトープに結合(特異的に結合)する抗体を提供し、前記エピトープは、配列番号82、88、90、94、95、96、98、99、102、104、107、110、114、115、121、122、126、130、132、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、163、165、167、168、169、171、173、174、175、176、178、180、181、及び182のいずれか1つからなる(若しくはそれを含む)群より選択されるアミノ酸配列、又はそれに実質的に相同な配列を含む(又はそれからなる)。好ましい実質的に相同な配列は本明細書の他の箇所に記載されている。そのような配列が見出される(したがって本発明のある特定の抗体が結合できるタンパク質が本明細書の表9~12に記載されている。
【0343】
1つの態様では、本発明は、(プロテアーゼアクセス可能切断部位である可能性が高いが、ペプチドは遊離しない)ステップ(iii)で同定された前記第1のプロテアーゼの切断部位である切断部位を含む又はそれに隣接する(好ましくはそれを含む)タンパク質上のエピトープに結合する抗体を提供する。
【0344】
タンパク質上のエピトープ(好ましくは複数のエピトープ)を標的とする抗体(例えば、抗体の一団若しくは一連の抗体、又は多数の抗体)は、例えば、タンパク質に対するそれらの結合親和力又は(例えば、本明細書の他の箇所に記載されているような)他の機能的効果を評価するために、タンパク質に結合するそれらの能力について試験することができる。したがって、抗体をスクリーニングして最も良く結合するものを同定することができる。したがって、特に有用なエピトープ(例えば、抗体によって標的にされるもの)を同定でき、例えば、そのエピトープは、高親和性抗体によって標的にされるのに特に適しているか、又はその標的化が標的タンパク質に対して有意な又は測定可能な機能的効果(例えば、アンタゴニスト効果若しくはアゴニスト効果)をもたらす。したがって、(例えば抗体による標的化のため)最適なエピトープを同定することができる。したがって、別の見方をすると、本発明は、エピトープ設計を最適化する、又は(例えば、それに対して産生又はそれを標的とする抗体のための)最適なエピトープを選択するための方法を提供する。その方法は、切断部位に対するエピトープの最適な長さ及び位置の決定を可能にしうる。
【0345】
方法Cによって同定されたエピトープに結合する抗体(又は方法Cによって同定されたエピトープ)は、治療に使用することができる。
【0346】
本発明の実施形態及び利点を示すためのより具体的な説明を以下に概説する。
【0347】
プロテアーゼAを用いたステップ(i)では、切断されたペプチド(同定されたペプチド)は、両端にプロテアーゼAの切断部位をもつペプチド(両端がプロテアーゼAによって切断されたペプチド、A---Aペプチド)であることになる。しかし、一端がプロテアーゼAによって切断されていても、何らかの理由で、例えば、この部位(切断部位)に十分に近い、プロテアーゼのための他の部位が存在しないため、又は他のいくつかの手段、例えば分子間相互作用又は分子間力、例えばイオン結合によってペプチドがタンパク質上に保持されるために、ペプチドが遊離していない(切り離されていない)ペプチドを得られない(同定しない)ことになる。
【0348】
プロテアーゼBを用いたステップ(ii)では、切断されたペプチド(同定されたペプチド)は、両端にプロテアーゼBの切断部位をもつペプチド(両端がプロテアーゼBによって切断されたペプチド、B---Bペプチド)と、一端にプロテアーゼB、もう一端にプロテアーゼAの切断部位をもつペプチドであることになる(一端が第1のプロテアーゼによって切断され、もう一端が第2のプロテアーゼによって切断されたペプチド、B---Aペプチド、A---Bペプチド、また、本明細書の他の箇所に記載のように追加のA---Aペプチドが同定されることもある)。B-A(又はA-B)ペプチド(又は時には追加のA-Aペプチド)を研究することは、ペプチドがタンパク質から物理的に切断(遊離)されなかったために普通ならステップ(i)で検出されないプロテアーゼAの切断部位の同定を可能にする(ステップ(iii))。
【0349】
ステップ(iii)で同定されたこれらのプロテアーゼA切断部位は、表面に露出したペプチド及びアミノ酸残基を標的とするように設計できる、本明細書の他の箇所に記載の限定タンパク質分解ステップで生成されるので、それらの切断部位が通常天然ペプチド中で表面露出されているという理由から興味深い(例えば、それらの切断部位は、本明細書の他の箇所に記載の好ましい表面露出ペプチド、好ましくは高ランクを有する表面露出ペプチド、例えば、最初に、又は最低濃度のプロテアーゼで、又は最も至適ではない(most non-optimum)若しくは穏やかなプロテアーゼ条件で切断され、他の要因が切断を許さなかったという事実、例えば別のプロテアーゼA部位が十分近くになかったこと以外の理由で切断されたであろうものを表す)。そのような部位は天然のタンパク質の表面上にあるか、そうでなければアクセス可能であり、したがってそのような部位はまた、エピトープ設計の基礎となる又はそれを標的とするタンパク質の大部分を表すことができる。
【0350】
重要なことには、いくつかの実施形態では、プロテアーゼBステップ(ステップ(ii))は非限定的な条件下で完了(又はほぼ完了)まで実施される。これは、すべて(又は有意にすべて又は多数)のB-A、A-B、又は追加のA-Aタイプペプチドが遊離し、したがってすべて(又はほぼすべて又は多数)の、限定タンパク質分解ステップ(i)で切断されたが遊離しなかったプロテアーゼA部位を同定することになることを意味する。このようにして、限定タンパク質分解ステップのみが行われた場合又はステップ(ii)が限定タンパク質分解条件下で実施された場合と比較して、潜在的に有用な部位、例えば表面露出部位及びしたがって潜在的に有用なエピトープの数の増加を同定することができる。
【0351】
というわけで、限定タンパク質分解の2つのステップ、すなわち限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解のステップである上記方法(方法C)のステップ(i)及び(ii)を含む方法は、例えば本明細書の他の場所に記載されるように、ペプチドを生成し、エピトープを同定するのに有用であることができる。
【0352】
本明細書に記載の他の方法の好ましい特徴は、必要な変更を加えて本発明のこの態様(方法C)に適用することができる。例えば、方法Cを用いてエピトープが同定できる好適なタンパク質は本明細書の他の箇所に記載されている。くわえて、好適で好ましい方法論、例えば、切断されたペプチドを分析するための質量分析の使用並びにタンパク質分解ステップを実施するためのフローセル、例えばマイクロ流体セル若しくはマイクロ流体プラットフォーム及び/若しくはプロテオリポソームの使用は本明細書の他の箇所に記載されている。くわえて一般には、本方法(方法C)のステップはインビトロで実施される。
【0353】
方法Cは、タンパク質の表面上のプロテアーゼアクセス可能で/切断されるが、遊離しないエピトープを同定ために有利に使用することができる。本方法は、非限定タンパク質分解のステップ又は(1つ若しくは複数のプロテアーゼを用いる)限定タンパク質分解のさらなるステップがあとに続く(1つ若しくは複数のプロテアーゼを用いる)限定タンパク質分解のステップにおけるいくつかの(2つ又はそれより多い)プロテアーゼを逐次的に使用するインビトロプロテアーゼ消化を利用する。本方法は、本明細書の他の箇所に記載されているように、消化にマイクロ流体プラットフォームを使用することができる。質量分析法(MS)、好ましくはLS-MS/MSを、標的タンパク質からプロテアーゼによって遊離したペプチドを同定するのに使用することができる。実験的に決定された切断部位は、例えばMSにより得られたペプチドマップから解明される。目的の切断部位、すなわち、限定タンパク質分解ステップで使用されるが、ペプチドが遊離しないプロテアーゼの切断部位は、切断部位を包含する配列(例えば、切断部位の周囲の-20~+20のアミノ酸)に対する抗体を用いて探索することができる。
【0354】
本方法の目的は、プロテアーゼアクセス可能で/切断されるが、遊離しないエピトープを同定するために抗体が使用される新規の手順を用いて抗体結合部位(エピトープ)を同定且つ/又はタンパク質構造を解明することである。本方法は、非限定タンパク質分解のステップ又は(1つ若しくは複数のプロテアーゼを用いる)限定タンパク質分解のさらなるステップがあとに続く(1つ若しくは複数のプロテアーゼを用いる)限定タンパク質分解のステップにおけるいくつかの(2つ又はそれより多い)プロテアーゼを逐次的に使用するインビトロプロテアーゼ消化に基づく。マイクロ流体プロテアーゼ消化をMS-MS検出を伴って使用することができる。この手順は、独自で且つ新規の抗体結合部位(エピトープ)の発見を可能にすることになり、天然のタンパク質及び部分的に消化されたタンパク質についての新しい構造データを生み出すことができる。
【0355】
典型的には、タンパク質分解のステップはインビトロで実施される。したがって、インビトロにおいてタンパク質分解実験が行われた。膜結合タンパク質については、天然タンパク質を含んだプロテオリポソームをマイクロ流体フローセル(LPI、Nanoxis Consulting AB)内で消化することができる。フローセル技術は、限定タンパク質分解及び非限定タンパク質分解などの柔軟な化学的性質(flexible chemistry)を、固定相に含まれる膜タンパク質に対して行うことを可能にし(Jansson ET, Trkulja CL, Olofsson J, et al. Microfluidic flow cell for sequential digestion of immobilized proteoliposomes. Anal Chem. 2012;84(13):5582-5588)、その膜タンパク質は、溶液と例えば酵素によるさまざまなタイプの化学的調節との一連の過程に数回(several rounds)供することができる。したがって、限定タンパク質分解及び非限定タンパク質分解のステップは逐次的に実施することができる。限定タンパク質分解のステップは、非限定タンパク質分解又はさらなる限定タンパク質分解ステップが開始される前に止める必要がある。したがって、限定タンパク質分解を実施するのに使用されたプロテアーゼは、非限定タンパク質分解ステップ又はさらなる限定タンパク質分解ステップのためのプロテアーゼを加える前に(例えば洗浄によって)除去することができる。細胞膜は裏返しにすることができ、膜貫通タンパク質の細胞内ドメインと細胞外ドメインの両方を直接調べることができる。可溶性タンパク質は、標準的な溶液中(in-solution)手法を用いて限定タンパク質分解及び非限定タンパク質分解に供することができる。
【0356】
できるだけ多くの配列を網羅するために、さまざまな特異性をもつ複数のプロテアーゼを並行反応で使用することができる。既に確立された限定条件、例えば2~5μg/mLの範囲のプロテアーゼ濃度及び5分間の消化は、タンパク質分解をタンパク質表面に限定するために使用されうる。遊離したペプチドは、好ましくは高分解能質量分析計(例えば、Q Exactive、サーモフィッシャー)及びMascotペプチド/タンパク質同定を用いることによって、質量分析(例えば、LC-MS/MS)で同定することができる。手元にペプチドマップがあれば、我々はどの切断部位がプロテアーゼによって物理的にアクセス可能であるかを決定することができる。次いで、本明細書の他の箇所に記載の非限定タンパク質分解のステップを実施する。
【0357】
プロテアーゼのアクセス可能で/切断されるが遊離しない部位を正確に特定するために、非限定タンパク質分解ステップの後に、遊離したペプチドを質量分析で分析して、一端が限定タンパク質分解ステップで使用されたプロテアーゼの1つによって切断され、もう一端が非限定タンパク質分解ステップで使用されたプロテアーゼによって切断されているペプチドを同定することができる(これは、タンパク質のアミノ酸配列及び遊離したペプチドの末端を調べること並びに使用されるプロテアーゼの特異性の規則を知ることによって容易に行うことができる)。
【0358】
ポリクローナル抗体(pAb)を作製するために、これらの部位を含む、好ましくは長さが7~8個のアミノ酸のペプチド配列を合成して用いることができる。その長さを選択する理由は、標的配列を最小にすることによってpAbの多クローン性(polyclonality)を最小限にするが、その配列が免疫原性に乏しくなるほど短くないことである。
【0359】
単一アミノ酸フレームシフトを使用して、切断部位のそれぞれの側の設定距離内にこの長さの直鎖配列を選択することができる(例えば6アミノ酸)。次いで、これらを用いて、一連の配列標的pAbを作製でき、続いて天然の完全な(intact)タンパク質への結合について、例えばELISAを用いてスクリーニングすることができる。
【0360】
本明細書に記載の他の方法の好ましい特徴は、必要な変更を加えて本発明のこの態様(方法C)に適用することができる。
【0361】
1つの態様では、本発明は、タンパク質上の表面露出部位(又は表面アクセス可能部位、例えばプロテアーゼ若しくは抗体によってアクセス可能な部位)を同定するための方法を提供し、前記方法は、
(i)単一の第1のプロテアーゼ又は第1のプロテアーゼの組み合わせを用いて、前記タンパク質に対して限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解を行うこと、
(ii)前記タンパク質に対して、単一の第2のプロテアーゼ又は第2のプロテアーゼの組み合わせを用い、前記第2のプロテアーゼはステップ(i)で使用されたプロテアーゼとすべて異なって、非限定タンパク質分解を行うこと又は限定タンパク質分解若しくは制限的タンパク質分解を行うこと、
(iii)ステップ(ii)で前記タンパク質から遊離するペプチドを分析して、一端が前記第1のプロテアーゼによって切断され、もう一端が前記第2のプロテアーゼによって切断されているペプチドを同定すること
を含み
前記第1のプロテアーゼによって切断されたステップ(iii)で同定されたペプチドの末端(例えば末端の残基)がタンパク質(天然タンパク質又は野生型タンパク質又は全長タンパク質)の表面露出部位に対応し、それによってタンパク質上の表面露出部位が同定される。
本明細書に記載の他の方法の好ましい特徴は、必要な変更を加えて本発明のこの態様に適用することができる。
【0362】
本発明の他の特徴及び利点は下記の例から明らかである。提供された例は本発明を実行するのに有用なさまざまな構成要素及び方法論を説明する。それらの例は特許請求された発明を限定しない。本開示に基づいて、当業者は本発明を実行するのに有用な他の構成要素及び方法論を特定して採用することができる。
【実施例】
【0363】
実施例1
この実施例では、我々が提案した発明及び包含する方法に基づいて、ヒトTRPV1イオンチャネルの細胞内側に作用するポリクローナル抗体OTV1の作用の発見及び開発に成功した方法を記載する。抗体は薬理学的に活性があり、作動剤カプサイシンで刺激された際にタンパク質に対する強い阻害作用を示す。我々の知る限りでは、TRPV1の細胞内ドメインを標的にする阻害抗体の最初の発見である。このことから、コンセプトが高い確率で実際に使えることや、仮により豊富な複数のプロテアーゼデータセットに由来するエピトープの出発マトリックスが利用可能であれば、より良好で且つ最適化された抗体が同定されうることが証明される。限定タンパク質分解及びバイオインフォマティクス分析の多くのヒットから抗体が選択された。抗体は最初に選択され、それは有効性の強力な証拠を示した。これは、薬理学的に活性のある抗体によって標的にできる独特のエピトープを直接もたらし、スクリーニングステップが必要ないので、著しい進歩であり、現在の抗体を同定する試みを補完する。
【0364】
標的エピトープ領域は、LPIマイクロフルイディクスプラットフォームの最適化プロトコールを用いて標的タンパク質の限定消化に基づいて選び、さらに最適化した。標的ペプチドエピトープをシステイン残基で修飾し、それをキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)に結合することによってポリクローナル抗体を産生した。特異的抗体の作製は、特異的なペプチドと結合したKLHの注射を受けて特定の病原体が存在しない(SPF)ウサギを免疫することによって行った。抗体を精製し、標準プロトコールに従ってELISAテストに供した。線状エピトープに対する抗体価をELISAで行い、0.25μg/mlの濃度という結果になった。天然TRPV1に対する抗体の有効性は、TRPV1の細胞内側を抗体溶液に供することができるインサイド-アウトパッチクランプで調べた。パッチクランプ記録用マイクロフルイディクス装置(Dynaflow、Cellectricon AB、ヨーテボリ、スウェーデン)を用いてインサイド-アウト記録を行った。電流振幅は、いくつかのイオンチャネルを含有するパッチを抗体有り無し両方でカプサイシンに供することによって測定した。対照は1μMのカプサイシンに30秒間供した後、バッファーに70秒間、続いて再度1μMカプサイシンに30秒間供した。抗体で処理したパッチは、1μMカプサイシンに30秒間供した後、0.14mg/ml抗体に70秒間、続いて0.14mg/ml抗体と共に1μMカプサイシンに30秒間供した。すべての測定について、脱感作又は増強のいかなる影響も除外するために、抗体有りの活性をバッファーのみに供した後の活性と比較した。電流時間積分面積を計算し、第2及び第1の電流に関する積分面積の比を計算し、処理間で比較した。抗体で処理した細胞に関して、バッファーのみ処理と比較して電流応答の50%減少が見られた(
図3)。統計的有意性はスチューデントのt検定(p>0.05)を用いて計算した。
【0365】
実施例2
治療用モノクローナル抗体市場は急速に成長しており、2020年には約1250億米ドルの価値になると予想されている。新規モノクローナル抗体が次々と当局の承認を得て、PD1阻害剤などの免疫に基づいたモノクローナル抗体はある特定のタイプの難治転移がんの転帰を大きく改善するので、現在それらがかなり話題になっている。しかし、治療目的の新規抗体の発見は主にスクリーニングに依存し、手さぐりで行われている。アフィニティーに着目し、良好な結合特性を示す抗体のサブセットについての生物学的効果をさらに調べる。結合相互作用、抗原決定基、及び作用機序の詳細はわかっていない。
【0366】
マイクロフルイディクス法及び質量分析を用いる限定タンパク質分解のキネティックチャレンジ(kinetic challenge)に基づいて抗原エピトープを選択する方法を我々は提示する。タンパク質分解ステップは、プロテアーゼへ供した後、抗原がその時点で1個又は数個のペプチドを分離させる程度に十分ゆっくりと行う。最初に生じるペプチドは、容易にポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体にアクセス可能あり、したがって、より到達し難いと思われるタンパク質の領域に存在する、あとで遅れて生じるペプチドより好ましい。次いで、これらのペプチドをランク付けし、精選されたバイオインフォマティクスデータを用いて配列に基づいた機能的意義に対して相互に関連付けする。標的タンパク質から短時間で離れ、且つ機能的意義を有し、高いランクを付けられたペプチドが、エピトープ開発、免疫、及びそれに続く抗体産生に使用される。また、トランケートされたタンパク質は薬理学的試験に使用することができる。この方法は、配列に基づいた情報に依存し、抗体発見の薬理学的な作用機序に基づいた方法であり、細胞内標的、循環標的、及び細胞外標的のどれにも使用することができる。我々はこの方法を用いて2つ抗体、カルモジュリン結合配列に対応し活性化するもの、及びヒトTRPV1イオンチャネルの細胞内領域のN末端のカプサイシン結合部位に対応し阻害するものを開発してきた。
【0367】
治療用抗体を開発する際に2つの重要なパラメーターは、結合アフィニティー及び生物学的効率である。抗体は約150kDaの大きなタンパク質であり、タンパク質表面にある抗原性部位に主に結合する。天然タンパク質構造の表面の近くのアミノ酸の位置が、それらの部位の特定及び予測を導くことができる。我々はタンパク質の表面露出及び柔軟性を探索するのに限定タンパク質分解を使用した。限定タンパク質分解は、プロテアーゼの活性を温度、濃度、及び/又は消化時間を制御することによって限定する方法である。局所的に折り畳み構造をほどき、プロテアーゼを収容できる柔軟な領域、表面露出領域、並びに水素結合及びジスルフィド架橋などの局所的な相互作用がほとんどない領域のみが、そのような条件下で消化されることになる。構造に関する情報の取得を最大にするために、我々は数種のプロテアーゼを並行して使用した。数種のプロテアーゼによって簡単に消化される領域は、タンパク質の最も露出され、最もアクセス可能な領域に位置するはずであり、その後の抗体開発に適合性が高いはずである。単一のプロテアーゼによってのみ消化される領域はタンパク質の隠れた領域に位置し、アクセスしにくい可能性が高い。それら領域に達して消化できるプロテアーゼの生理化学的特性は、そのような場合における抗体開発を導く可能性がありうる。我々は、どのパラメーターがタンパク質分解を限定するのに用いられたかに応じた、消化されやすさに基づいて、消化されたペプチドをランク付けした。それは、タンパク質が消化された時点、どの濃度又は温度が使用されたかでありうる。次いで、タンパク質の最もアクセス可能な領域に由来するそれらのペプチドを見出すために、各プロテアーゼから消化されたペプチドを関連付けした。
【0368】
従来の抗体開発の間では、生物学的効率は一般的に明確な結合が抗体と抗原との間で確認された後に調べられる。抗体開発は、可能性のある抗原決定部位をすべて標的する抗体を作り出すよりもむしろ、生物学的活性部位中又はその近くのアクセス可能部位に免疫を集中させることによる早期機序主導の(early mechanistic driven)アプローチのほうに利点があることになると我々は考える。このアプローチは、スクリーニング手順及び生物学的活性部位から離れた領域に高い結合アフィニティーを有する抗体を最適化するリスクを最小限にする。我々は標的タンパク質にとって機能的重要性も有するアクセス可能なエピトープを見つけることを望んだ。それは、タンパク質分解からのランク付けされたペプチドをバイオインフォマティクスデータと比較することによってなされた。
【0369】
我々はヒトTRPV1イオンチャネルをモデルタンパク質として用いて機構主導アプローチを示した。TRPV1は低pH、高温(T>42℃)、カプサイシン、及びいくつかの炎症性メディエーターなどの侵害刺激に感受性が高いイオンチャネルである。TRPV1イオンチャネルは主に末梢神経系の侵害受容ニューロンに位置し、四量体のコンフォメーションに配置される。その4つの単量体の各々は、6回膜貫通領域から成り、そのN末端及びC末端の両方が細胞膜の細胞内側に向いている。ポア領域は5番目と6番目の膜貫通領域に含まれる。TRPV1の細胞内部分は熱活性化、感作、及び脱感作に重要な多くの調節領域を保持する。
【0370】
エピトープ産生
TRPV1を含むプロテオリポソームをCHO細胞から得て、トリプシン及びAsp-Nを別々に用いてLPIフローセル内でタンパク質分解に供した。プロテアーゼの活性は室温及び低濃度を使って数個のペプチドのみが消化される程度に制限した。次いで、消化したペプチドを液体クロマトグラフィーとタンデム質量分析法(LC-MS/MS)とで検出した。3個のペプチドがトリプシンでのタンパク質分解後に検出され、1個のペプチドがAsp-Nでのタンパク質分解後に検出された。それらのペプチドを既知の機能データに比較して、表1に挙げたようにいくつかのペプチドを機能的に重要な領域と関連付けた。2個のペプチド、aa96~117及びaa785~799をさらなる抗体開発に選び、それぞれOTV1及びOTV2と名付けた。TRPV1構造内でのエピトープを可視化したものを
図4及び5に見ることができる。OTV1のペプチド配列は、カプサイシン又はプロトンでの活性化に重要であることが示されているarg115(rTRPV1についてはarg114)を含む。両プロテアーゼはともにこのアミノ酸に近い領域を消化し、タンパク質三次構造の露出領域である可能性が上がった。OTV2のペプチド配列はカルモジュリン結合部位aa786~aa798(rTRPV1についてaa785~aa797)を含み、トリプシンによってのみ消化された。TRPV1の部分には、Asp及びCysのN末端側を切断するAsp-Nの消化部位はない。aa96~117とaa785~799の合成ペプチドをリンペットヘモシニアン(KLH)に結合して、KLH結合ペプチドの注射を受けたウサギの免疫によってポリクローナル抗体を作製するのにさらに使用した。作製した抗体は凍結したとき及び溶液中で時間とともに凝集する傾向を示す。結果として、新たに融かした抗体は使用前にチップ超音波処理し、すべての実験はチップ超音波処理から30分以内に行った。
【0371】
表1-Asp-N及びトリプシンで消化されたペプチド、及びそれらの生物学的関連性
【0372】
【0373】
免疫細胞化学
TRPV1発現CHO細胞内の抗体分布を可視化するために免疫細胞化学を行った(
図6)。未誘発細胞を非特異的結合の対照とした。細胞を固定し、OTV1又はOTV2のいずれかで染色し、続いてヤギ抗ウサギAlexa488二次抗体で染色した。細胞膜の明らかな染色は誘導細胞のみ見られ、OTV1及びOTV2の両方で観察された。二次抗体の非特異的結合は無視できる程度であった(データ示さず)。
【0374】
電気生理学
カプサイシン誘導TRPV1活性に対するOTV1の機能的効果及びカルモジュリン/Ca
2+依存脱感作に対するOTV2の効果をインサイド-アウトパッチクランプ記録を用いて評価した。いくつかのイオンチャネルを含む膜パッチをCHO細胞から切り取り、抗体がTRPV1の細胞内領域に露出するのを可能にした。OTV1については、TRPV1をカプサイシンで活性化して、次いでOTV1で処理し、続いてOTV1の存在下においてカプサイシンで活性化した。対照はカプサイシンで活性化して、バッファーで処理し、再びカプサイシンで活性化した。OTV1での処理をバッファーのみでの処理と比較すると、カプサイシン媒介電流の50%の減少が見られた(
図7)。カルモジュリン/Ca
2+依存脱感作を妨げるその能力についてOTV2を調べた。TRPV1をカプサイシンで活性化して、次いでカルモジュリン、Ca
2+、及びOTV2で処理し、続いてカルモジュリン、Ca
2+、及びOTV2の存在下においてカプサイシンで活性化した。対照はカプサイシンで活性化し、カルモジュリン及びCa
2+で処理し、カルモジュリン及びCa
2+の存在下においてカプサイシンで活性化した。カルモジュリンはカルシウムの存在下でTRPV1を脱感作する。OTV2での処理はこの効果を45%減少させた(
図7)。
【0375】
TRPV1媒介YO-PRO取り込みアッセイ
全細胞内の抗体の有効性を、エレクトロポレーションを送達法として用いた後、TRPV1媒介YO-PRO取り込みをレーザー走査共焦点顕微鏡法で測定して調べた。OTV1、OTV2、又はバッファーのいずれかの存在下でネオントランスフェクションシステム(ライフテクノロジーズ)を用いて細胞をエレクトロポレーションした。OTV1又はバッファーでエレクトロポレーションした細胞を、カルシウムキレート剤を含有するリン酸緩衝生理食塩水中のカプサイシン及びYO-PROに供した。それに続いてTRPV1媒介YO-PRO取り込みに起因した細胞内の蛍光の増加をモニターした。OTV1で処理した細胞の取り込み率において60%の減少が活性化の最初の12秒間観察できた。最も高い取り込み率は、対照の8秒後に対してOTV1で処理した細胞では20秒後に見られた(
図8)。OTV2又はバッファーでエレクトロポレーションした細胞を、カルシウムを含有リン酸緩衝生理食塩水中のカプサイシン及びYO-PROに供し、加えたカルシウムによって誘発された内在性カルモジュリンを通して脱感作をした。取り込み率において80%の増加がOTV2で処理した細胞の活性化の15秒後に観察できた。免疫細胞化学を用いてエレクトロポレーションでの抗体のインターナリゼーションを確認した(
図9)。
【0376】
我々は、標的タンパク質の機能的に重要な領域の中及び/又は近くの、露出されてアクセス可能な抗原決定部位の位置を特定する抗体産生のためのマイクロフルイディクス法を開発した。アクセス可能な領域はLPIフローセル内の速度論的に制限されたタンパク質分解を用いて精査される。例えば、補因子が存在することを許容することによってその環境の複雑さが注意深く調節される間に標的タンパク質はその天然の状態で保たれる。これにより、精製タンパク質を用いる結合アッセイと比較して、抗原決定部位へのアクセスしやすさがより良好なものとなる。本方法は、別な方法では界面活性剤なしで精製して結合アッセイに使用するのが難しい膜貫通標的に良好に適している。この方法を用いて細胞内ドメイン及び細胞外ドメインの両方を標的にすることができる。
【0377】
抗原決定部位の位置及びその生物学的機能に関する知見は、他のタンパク質との非特異的結合及び交差反応性の予測及び評価に非常に重要である。交差反応性を最小限にするために、非常によく保存された領域にあるエピトープは潜在的なエピトープ候補の分析から除外されうる。
【0378】
本明細書で開発された抗体は、全タンパク質での免疫から生じてはいないが、ポリクローナルである。我々の方法は、ハイブリドーマ及びそれに続くスクリーニング手順を用いるモノクローナル抗体の作製のための従来のプロトコールに匹敵する。最初のステップとして、ポリクローナル抗体を使用していくつかの有望なエピトープ候補から生物学的効率を実験的に検証した後に、最良のエピトープ/エピトープ(複数)を用いてモノクローナル抗体を作製し、そして高い結合アフィニティーによってスクリーニング手順が続くことで、両方の良いところを合わせている。
【0379】
抗体インターナリゼーションの検証
エレクトロポレーションを用いた抗体のインターナリゼーションは、エレクトロポレーションの24時間後に免疫細胞化学で検証した。リン酸緩衝生理食塩水中で0.14mg/ml OTV1又は0.27mg/ml OTV2の存在下で細胞をエレクトロポレーションした。次いでエレクトロポレーションした細胞をガラス底ディッシュ(Willco Wells)で24時間培養した。2つの異なる対照を作製した。1つのセットはエレクトロポレーションせず、それ以外は同様に処理して同じ抗体溶液に供した。もう1つのセットはOTV1及びOTV2に供さなかった。後者は二次抗体の非特異的結合を定量するために使用した。24時間培養後、細胞を注意深くリン酸緩衝生理食塩水で洗い、固定の間に細胞に入りうる残存抗体を除去した。次いで細胞を固定し、Image-iT(登録商標)固定/透過処理キット(インビトロジェン)を用いて透過処理した。固定し、透過処理した細胞をヤギ抗ウサギAlexa488二次抗体(インビトロジェン)と室温で30分間インキュベーションした。最終の洗浄ステップの後に細胞を可視化し、蛍光強度をエレクトロポレーションした細胞、エレクトロポレーションしなかった細胞、及び二次抗体にのみに供した細胞、で比較した(
図9)。強度値の明らかな違いがエレクトロポレーションした細胞とエレクトロポレーションしなかった細胞との間で見られた。統計解析はスチューデントのt検定を用いて行い、p<0.05を統計的に有意であるとした。低いレベルの一次抗体がエレクトロポレーションしなかった細胞で見られ、恐らく固定及び透過処理中に入った残存抗体である可能性が高い。
【0380】
我々は本明細書において、マイクロフルイディクスと限定タンパク質分解とを組み合わせて活用することによって、アフィニティーが高く、生物学的に活性のある抗体を産生する方法を提示した。ヒトTRPV1イオンチャネルを用いてその方法を実証し、2つの抗体を開発した。両抗体はそれぞれのエピトープの領域の機能的重要性に基づき、TRPV1応答において予測された変化を引き起こした。
【0381】
材料と方法
試薬
細胞培養培地(グルタミンを含むDMEM/Ham’s F12)、ウシ胎仔血清、及びアクターゼはPAAから購入した。ゼオシン、Na4BAPTA、K4BAPTA、及びヤギ抗ウサギAlexa488二次抗体はインビトロジェンから購入した。シークエンシンググレード修飾化トリプシン及びシークエンシンググレードAsp-Nはプロメガから購入した。他の化学薬品はすべてシグマから購入した。次のバッファーを使用した。A:300mM NaCl、10mMトリス、pH8.0、B:20mM NH4HCO3、pH8.0、C:140mM NaCl、5mM KCl、1mM MgCl2、10mM HEPES、10mM D-ブドウ糖、10mM Na4BAPTA pH7.4、D:140mM NaCl、2.7mM KCl、10mM Na2HPO4、10mMK4BAPTA pH7.2、E:140mM NaCl、2.7mM KCl、10mM Na2HPO4、pH7.2、F:140mM NaCl、2.7mM KCl、10mM Na2HPO4、pH7.4、G:120mM KCl、2mM MgCl2、10mM HEPES、10mM K4BAPTA pH8.0
【0382】
細胞培養
テトラサイクリン制御発現系(T-REx)をもつ付着性チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を、10%ウシ胎仔血清、ゼオシン(350μg/ml)とブラストサイジン(5μg/ml)とを補充した培地(グルタミンを含むDMEM/F12)中にてガラススライド有り無し両方で、培養フラスコ又は培養ディッシュ(Nunc)で培養した。使用前18~24時間、ヒトTRPV1の発現を誘導するために、細胞を10%ウシ胎仔血清とドキシサイクリン(1μg/ml)を加えた培地(グルタミンを含むDMEM/F12)で培養した。細胞株は常にマイコプラズマ感染の検査をした。
【0383】
プロテオリポソーム調製
プロテオリポソームは既に参考文献[1]に記載されている通りにバッファーA中で調製した。各プロテオリポソーム調製物はいくつかの相異なる培養フラスコに由来した。
【0384】
消化プロトコール
フローセル内での単一消化は参考文献[1]に記載の通りに行った。5μg/mlトリプシン及び5μg/ml Asp-NをそれぞれバッファーG及びBに溶かした。各プロテアーゼでのフローセル内消化を室温で5分間行った。ギ酸を最終濃度で12%加えることによって溶離液中でのさらなる消化を阻害した。
【0385】
液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析
CHO-プロテオリポソームの消化由来のペプチド試料は、ヨーテボリ大学にあるプロテオミクスコア施設(ヨーテボリ、スウェーデン)で、参考文献[1]に記載の方法で分析した。すべてのタンデムマススペクトルはUniProtKBを参照したMASCOT(マトリックスサイエンス、ロンドン、英国)で検索した。UniProtKBの参照については、トリプシンでの消化は、リリース2013_04(ヒト、[ホモサピエンス])、Asp-Nでの消化は、リリース2015_06(ヒト、[ホモサピエンス])とした。ペプチドとタンパク質の同定に基づいてMS/MSを確認するためにThermo Proteome Discovererバージョン1.3(サーモサイエンティフィック)を使用した。ペプチドレベルで0.01の誤発見率を使用し、リバースドデータベース(reversed database)を検索することによって決定した。
【0386】
抗体開発
hTRPV1のアミノ酸配列を参照してaa96~117及びaa785~799の合成ペプチドを、N末端側の追加のシステイン残基を含めて合成し精製した。次いで、ペプチドをシステイン残基によってキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)に結合させた後、KLH結合ペプチドの注入に伴い、特定の病原体が存在しない(SPF)ウサギを免疫することによってポリクローナル抗体を産生した。抗体を精製し、ELISAテストに供した。両合成ペプチド及びポリクローナル抗体の産生はInnovagen AB(ルンド、スウェーデン)によって行われた。
【0387】
抗体は、チップ超音波処理から30分以内の新しい抗体を使用した。抗体はSonics & Materials Inc.(ニュータウン、コネチカット州、アメリカ合衆国)のVibra Cell VCX600を用いて14%振幅で1分の休止を間に挟んで3回超音波処理した。総超音波処理時間は40秒で、パルス時間は0.5秒で、プローブによる加熱を減らすために休止時間は0.5秒であった。
【0388】
電気生理学
インサイド-アウト記録は、パッチクランプ記録用マイクロフルイディクス装置(Dynaflow、Cellectricon AB、ヨーテボリ、スウェーデン)をHEKA EPC10(Heka Elektronik、ドイツ)パッチクランプアンプと共に用いて行った。槽及びピペット溶液はバッファーCを含んでいた。パッチを+60mVに保ち、電流シグナルを20kHzのサンプリング周波数及び5kHzのローパスフィルターで記録した。
【0389】
OTV1については、いくつかのイオンチャネルを含まれるパッチを、抗体有り無しの両方でカプサイシンに供することによって電流振幅を測定した。対照はバッファーD中の1μMカプサイシンに30秒間供した後、バッファーDに70秒間、次いでバッファーD中の1μMカプサイシンに30秒供した。OTV1で処理したパッチはバッファーD中の1μMカプサイシンに30秒間供した後、バッファーD中の0.14mg/ml抗体に70秒間、続いてバッファーD中の0.14mg/ml抗体と共に1μMカプサイシンに30秒間供した。OTV2については、抗体とカルモジュリン/Ca2+の有り無し両方でパッチをカプサイシンに供することによって電流振幅を測定した。対照はバッファーE中の1μMカプサイシンに30秒間供した後、バッファーE中の0.5μMカルモジュリン及び50μM Ca2+に70秒間、続いて再びバッファーE中の1μMカプサイシンに30秒間供した。抗体で処理したパッチはバッファーE中の1μMカプサイシンに30秒間供した後、バッファーE中の0.14mg/ml抗体、0.5μMカルモジュリン、及び50μM Ca2+に70秒間、次いでバッファーE中の0.14mg/ml抗体、0.5μMカルモジュリン、及び50μM Ca2+と共に1μMカプサイシンに30秒間供した。処理後にシール抵抗(seal resistance)の大きなシフトがある測定はさらなる分析から除外した。
【0390】
データ解析電気生理学
測定すべてに関して、反復する活性化に起因する脱感作又は増強のいかなる影響も排除するために、抗体処理の活性をバッファーのみに供した後の活性と比較した。電流トレースを含むデータに関して、Fitmaster(HEKA Elektronik、ドイツ)及びMatlab(Mathworks、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)を用いて、OTV1については添加と除去との間、及びOTV2については完全活性化(10秒後)と除去との間の電流-時間積分面積をカプサイシンでの活性化について各々計算した。第2及び第1の電流の積分面積の比を計算し、処理間で比較した。OTV2に関して、効果が時間依存的に減少したので、データ点を2つのカテゴリー(チップ超音波処理の<15分及びチップ超音波処理後の<30分)にグループ分けした。
【0391】
統計解析は、一元配置分散分析と、適用対象となる場合はダネットの事後検定とスチューデントのt検定とを併用して行う。p<0.05を統計的に有意とみなした。データは平均値±SEMとして提示されている。
【0392】
エレクトロポレーション
細胞基質の抗体送達はネオントランスフェクションシステム(ライフテクノロジーズ)を用いて行った。アクターゼを用いて付着性CHO細胞を剥離し、バッファーFで洗浄した。105個の細胞をペレット化し、バッファーF、バッファーF中の0.14mg/ml OTV1、又はバッファーF中の0.27mg/ml OTV2のいずれかに再懸濁した。ネオンピペットチップを用いて10μlの細胞/抗体懸濁液を移し、そのシステムのピペットステーションでエレクトロポレーションに供した。細胞を1550Vに10ミリ秒間、3回のパルスに曝露する抗体送達用に最適化されたプロトコール[5]を使用した。エレクトロポレーションした細胞をガラス底ディッシュ(Willco Wells)に移した。
【0393】
イメージング
免疫細胞化学による抗体局在及びTRPV1媒介YO-PRO取り込みは蛍光顕微鏡写真から関心領域(ROI)測定を用いて測定した。顕微鏡写真は、ThorImageLSソフトウェアに記録するGalvo:Resonantスキャナー及び高感度GaAsP PMTを備えたThorlabs CLSシステム(Thorlabs Inc.、ニュージャージー州、アメリカ合衆国)を用いて形成した。スキャナーユニットを油浸オイル63×A 1.47 ライカHCX PL APO対物レンズをつけたライカDMIRB顕微鏡に取り付けた。蛍光検出は、Coherent Sapphire 488 LPレーザー(Coherent Inc.、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を用いて488nmで励起して単一細胞から測定した。発光は500~550nmで集めた。ROIデータはImage J及びMatlab(Mathworks、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)を用いて解析した。
【0394】
免疫細胞化学
細胞をガラス底ディッシュ(Willco Wells)で培養し、いくつかのディッシュではTRPV1発現を使用の18~24時間前に誘導した。TRPV1を発現する細胞の入ったディッシュ及び誘導しなかった細胞の入ったディッシュはともに、Image-iT(登録商標)固定/透過処理キット(インビトロジェン)を用いてバッファーFで洗浄、固定、及び透過処理した。固定及び透過処理した細胞をバッファーF中の25μg/ml抗体に37℃で30分間供し、次いでバッファーFで洗浄した後、ヤギ抗ウサギAlexa488二次抗体と室温で30分間インキュベーションした。最後の洗浄ステップの後に細胞を可視化し、抗体分布を誘導した細胞と誘導しなかった細胞との間で比較した。
【0395】
TRPV1媒介YO-PRO取り込み
10μlのエレクトロポレーションした細胞の入ったガラス底ディッシュを顕微鏡にセットした。記録は0.5Hzのレートで初期化した。OTV1については、バッファーF中にカプサイシン、YO-PRO、及びK4BAPTAを含む20μlの液滴を、剥離を最小限にするために注意深くピペットを用いて、エレクトロポレーションした細胞の上に移した。最終濃度がカプサイシンは1μM、YO-PROは1μM、及びK4BAPTAは10mMとなった。OTV2については、バッファーF中にカプサイシン、YO-PRO、及びCa2+を含む20μlの液滴を、エレクトロポレーションした細胞の上に同様にピペットで移した。最終濃度がカプサイシンは1μM、YO-PROは1μM、及びCa2+は50μMとなった。
【0396】
上記実施形態は本発明の少数の例示実施例として理解されるべきである。さまざまな変形、組み合わせ、及び変更が本発明の範囲から逸脱することなく実施形態になされうることを当業者なら理解するであろう。特に、相異なる実施形態における相異なる部分的解決は、技術的に可能であるならば、他の構成と組み合わせることができる。
【0397】
参考文献
1 Jansson, E. T.; et. al., Anal. Chem. 2012, 84: 5582-5588
2 国際公開第2006/068619号
3 欧州特許出願第2174908号(EP 2174908)
4 Trkulja, C. L., et al., J. Am. Chem. Soc. 2014, 136: 14875-14882
5 Freund, G. et al., MAbs, 2013, 5: 518-522
【0398】
実施例3
複数のプロテアーゼを用いた、CHO細胞に発現したイオンチャネルTRPV1の限定消化及び質量分析によるペプチド同定
この実施例は、TRPV1由来のペプチドのプロテアーゼ特異的なセットを同定するために、並行した複数のプロテアーゼの使用について記す。この実施例で使用したプロテアーゼは、トリプシン、Asp-N、ペプシン、プロテイナーゼK、及びキモトリプシンである。相互に比較したとき、ペプチドのプロテアーゼ特異的なセットはオーバーラップしている可能性、補完的である可能性、又は独特である可能性がある。さまざまなタンパク質分解活性が、さまざまなプロテアーゼ濃度を用いることによって、少数の例ではさまざまなインキュベーション時間を用いることによって得られた。
【0399】
材料と方法
細胞培養
簡単に説明すると、CHO細胞をTrkuljaら(J.Am.Chem.Soc.2014, 136, 14875-14882)の通りに培養した。簡単に説明すると、テトラサイクリン制御発現系(T-REx)をもつ付着性チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を、T175若しくはT500培養フラスコ(Nunc)中又はガラスディッシュ上で、10%FBS、ゼオシン(350μg/mL)、及びブラストサイジン(5μg/mL)を添加した培地(グルタミンを含むDMEM/F12)で培養した。使用前(18~24時間)、ヒトTRPV1の発現を誘導するために、10%FBSとドキシサイクリン(1μg/mL)を添加した培地(グルタミンを含むDMEM/F12)中で、細胞を培養した。細胞株は常にマイコプラズマ感染の検査をした。細胞を採集した後、細胞を凍結し、-80度で保存した。細胞をさらに下記のように処理した。
【0400】
細胞溶解及びホモジナイゼーション
細胞懸濁液を580xgで3分間遠心分離した。上清を破棄し、4mlの氷冷リン酸緩衝生理食塩水をチューブに注いだ。細胞ペレットを注意深く懸濁し、次いでチューブを氷冷リン酸緩衝生理食塩水で14mlにした。再び細胞懸濁液を580xgで3分間遠心分離し、その手順を2回繰り返した。
【0401】
細胞ペレット(体積~800μl)を約6mlの溶解バッファー(10mM NaHCO3、pH7.4)に懸濁し、氷上で10分間保持した。
【0402】
次いで、溶解バッファー中の細胞を、各細胞懸濁液に対して1つのDounceホモジナイザー(7ml)に移した。次いで、隙間の狭いペストルを用いて20ストロークで細胞をホモジナイゼーションに供した。ホモジナイゼーション後、溶解した細胞を580xgで3分間の遠心分離した。上清を集め、細胞ペレットは破棄した。上清を580xgで3分間の2回目の遠心分離ステップに供し、細胞ペレット(少量)は破棄した。
【0403】
上清を集め、ベックマン遠心分離チューブ(50ml)に移し、溶解バッファーを20mlになるまで加えた。上清を7300xgで10分間遠心分離してミトコンドリア及び細胞残屑を除去した。上清を2本のファルコンチューブ(各10ml)に分け、さらなる処理のために-80度の冷凍庫で凍結した。
【0404】
超遠心分離
上清を氷上で融かし、2本のベックマン透明超遠心分離チューブ(ベックマン・コールター、品目番号344057)に移した。チューブを氷冷バッファー(10mMトリス、300mM NaCl、pH8)で満たし、注意深くバランスをとった後、SW55 Tiローター(ベックマン・コールター)を用いて100,000xg(32900rpm)で45分間遠心分離した。上清を破棄し、ペレットを氷冷バッファー(10mMトリス、300mM NaCl、pH8)に懸濁し、再びチューブを同じ氷冷バッファーで満たした。注意深くバランスをとり、100,000xg(32900rpm)で45分間遠心分離した後、上清を捨て、ペレット当たり約800μlで氷冷バッファー(10mMトリス、300mM NaCl、pH8)にペレットを懸濁した。合計で約1.6mlの膜調製物を集め、-80度で凍結した。
【0405】
チップ超音波処理
凍結した膜調製物を氷上で融かして合わせ後、ソニケーター(Vibracell)を用いて氷冷コニカルバイアル中で超音波処理した。最初に膜調製物を氷冷バッファー(10mMトリス、300mM NaCl、pH8)で4mlに希釈し、15%振幅、0.5秒パルス/休止サイクルを用いる30秒の超音波処理に供した。次いで、コニカルバイアル及び膜調製物を氷上で数分間冷やし、その後、膜調製物をさらに15%振幅、0.5秒パルス/休止サイクルを用いる30秒間のサイクルに供し、これを再度繰り返した。結果として生じた膜調製物(プロテオリポソーム)を310μlに分注して-80度で凍結した。
【0406】
プロテアーゼ
プロテアーゼはすべてプロメガから購入した。溶液はすべて、フィッシャーサイエンティフィックのLC-MSグレード水を用いて作製した。
カタログ番号V1621
Asp-N、シークエンシンググレード、2μg
カタログ番号V1959
ペプシン、250mg
カタログ番号V3021
プロテイナーゼK、100mg
カタログ番号V1062
キモトリプシン、シークエンシンググレード、25μg
カタログ番号V5111
シークエンシンググレード修飾化トリプシン、20μg
トリプシン
トリプシンを100mM炭酸水素アンモニウム、Ambicに溶かした。pH8
Asp-N
Asp-Nを100mM炭酸水素アンモニウム、Ambicに溶かした。pH8
ペプシン
ペプシンを100mM炭酸水素アンモニウム、Ambicに溶かした。pH8
プロテイナーゼK
プロテイナーゼKを100mM炭酸水素アンモニウム、Ambicに溶かした。pH8
キモトリプシン
キモトリプシンを100mMトリス-HCl、10mM CaCl2に溶かした。pH8
【0407】
LPIプロセス
実験は消化用LPI HexaLaneチップを用いて行った。各チップ内で1つのレーンを1つの消化に使用した。簡単に説明すると、分注したプロテオリポソームを室温に融かし、100μlピペットを用いて手作業でレーンに注入し、1時間固定した。
【0408】
レーンの洗浄も100μlピペットを用いて手作業で行った。各々のウェルを200μlの洗浄バッファーで洗浄した。(ペプシン消化プロトコール以外の消化バッファーと同じバッファー。ペプシン消化プロトコールでは100mM Ambic pH8を洗浄バッファーとして使用した。これはフローセルを長時間、低pHにすることを避けるためである)。次いで、100μlピペットを用いて4×100μlの洗浄バッファーでレーンを洗浄した。
【0409】
次に、プロテアーゼをレーンに注入し、下記明細に従って培養した。消化後、200μlの消化バッファー(2×100μl)を用いてレーンからペプチドを溶出させた。4μlのギ酸を加えて、酸性化することでプロテアーゼ活性を止めた。結果としてペプチド溶液は約pH2となった。この操作をペプシン以外のすべての試料で行った。ペプシンでは溶液を塩基性(pH9)にするため16μlのアンモニア溶液(25%)を代わりに加えた。
【0410】
以下の消化条件を各レーンに1つ実行した。
トリプシン
0.5μg/ml 2.5分間
0.5μg/ml 5分間
2μg/ml 5分間
5μg/ml 5分間
10μg/ml 5分間
20μg/ml 5分間
Asp-N
20μg/ml 5分間
2μg/ml 24時間
キモトリプシン
5μg/ml 5分間
10μg/ml 5分間
20μg/ml 5分間
プロテイナーゼ-K
5μg/ml 5分間
10μg/ml 5分間
20μg/ml 5分間
ペプシン
2μg/ml 5分間
5μg/ml 5分間
10μg/ml 5分間
20μg/ml 5分間
【0411】
試料にラベルをして-80℃で凍結した。
【0412】
MS分析
製造業者のガイドラインに従ってPepClean C18スピンカラム(サーモフィッシャーサイエンティフィック、ウォルサム、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)でトリプシンペプチドを脱塩し、乾燥して、0.1%ギ酸(シグマアルドリッチ、セントルイス、ミズーリ州)を15μl含む3%グラジエントグレードアセトニトリル(メルク KGaA、ダルムシュタット、ドイツ)で再溶解した。Easy-nLCオートサンプラー(サーモフィッシャーサイエンティフィック、ウォルサム、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)で試料を2μl注入し、インターフェースQ Exactiveハイブリッド質量分析計(サーモフィッシャーサイエンティフィック)で分析した。ペプチドはプレカラム(45×内径0.075mm)に通してから、室内で充填した逆相カラム、200×0.075mm、3μm Reprosil-Pur C18-AQ粒子(Dr.Maisch、アンマーブーフ、ドイツ)で分離した。ナノLC(液体クロマトグラフィー)グラジエントは200nl/分とし、0.2%のギ酸を含む7%アセトニトリル(ACN)から開始し、25分間で27%ACNに上げ、次いで5分間で40%に上げ、そして最後に5分間で80%ACNにし、80%ACNを10分間保持した。
【0413】
データ依存的陽イオンモード分析では、1.8kVの電圧と摂氏320度のキャピラリー温度下でイオンを作り出し、質量分析計に噴霧している。オービトラップでは、m/z400-1,600の範囲、2~6の電荷範囲で、分解能70,000、最大値250msの場合、1e6のAGC標的値をフルスキャン(MS1)スペクトルで得た。MS/MSスペクトルは、m/z110から30%での高エネルギー衝突解離(HCD)を用いて得られ、110msの注入時間の間、1e5のAGC標的値まで2Daのプリカーサー単離質量幅を用いて、分解能35,000の場合において、上位10個の最も存在量の多い親イオンについてスペクトルを得た。MS/MS選択後30秒間のダイナミックエクスクルージョンにより、可能な限り多くのプリカーサーの検出が可能であった。
【0414】
結果のまとめ
図10は、トリプシンによる限定タンパク質分解後に検出されたペプチドのTRPV1の3Dモデルにおける位置を示す。トリプシンよる限定タンパク質分解後に検出されたペプチドの配列を下記の表2に示す。0.5μg/mlトリプシンで2.5分間消化したペプチドを最初に示す。0.5μg/mlトリプシンで5分間、2μg/mlトリプシンで5分間、5μg/mlトリプシンで5分間、10μg/mlトリプシンで5分間、及び20μg/mlトリプシンで5分間、それぞれ消化したペプチドを提示のために集め、その次に示す。
【0415】
【0416】
図11は、Asp-Nによる限定タンパク質分解後に検出されたペプチドのTRPV1の3Dモデルにおける位置を示す。Asp-Nよる限定タンパク質分解後に検出されたペプチドの配列を下記の表3に示す。20μg/ml Asp-Nで5分間消化したペプチドを最初に示す。2μg/ml Asp-Nで24時間消化したペプチドをその次に示す。
【0417】
【0418】
図12は、キモトリプシンによる限定タンパク質分解後に検出されたペプチドのTRPV1の3Dモデルにおける位置を示す。キモトリプシンよる限定タンパク質分解後に検出されたペプチドの配列を下記の表4に示す。5μg/mlキモトリプシンで5分間消化したペプチドを最初に示す。10μg/mlキモトリプシンで5分間、及び20μg/mlキモトリプシンで5分間、それぞれ消化したペプチドを提示のために集め、その次に示す。
【0419】
【0420】
図13は、ペプシンによる限定タンパク質分解後に検出されたペプチドのTRPV1の3Dモデルにおける位置を示す。ペプシンよる限定タンパク質分解後に検出されたペプチドの配列を下記の表5に示す。5μg/mlキモトリプシンで2分間消化したペプチドを最初に示す。5μg/mlペプシンで5分間、10μg/mlペプシンで5分間、及び20μg/mlペプシンで5分間、それぞれ消化したペプチドを提示のために集め、その次に示す。
【0421】
【0422】
図14は、プロテイナーゼKによる限定タンパク質分解後に検出されたペプチドのTRPV1の3Dモデルにおける位置を示す。プロテイナーゼKよる限定タンパク質分解後に検出されたペプチドの配列を下記の表6に示す。5μg/mlプロテイナーゼKで5分間消化したペプチドを最初に示す。10μg/mlプロテイナーゼKで5分間、及び20μg/mlプロテイナーゼKで5分間、それぞれ消化したペプチドを提示のために集め、その次に示す。
【0423】
【0424】
表2、表3、表4、表5、及び表6では、「始点」及び「終点」という用語はTRPV1配列におけるアミノ酸残基の位置を指す。
【0425】
データの評価は、Results Filters(ペプチド)下でMascotでの有意な閾値を0.01に設定して行った。
【0426】
トリプシンはペプチド数の増加をもたらし、プロテアーゼ濃度の増加とともに信頼度の増加をもたらした。
【0427】
ペプシン及びキモトリプシンはともに低濃度でもより高い濃度でも多くのペプチドを生じた。
【0428】
実施例4
この実施例は方法Cに関連する。
【0429】
材料と方法
細胞培養、細胞回収、及びプロテオリポソーム調製
ヒト胎児腎細胞は、ウシ胎児血清(PAA、カタログ番号A15-649)、非必須アミノ酸(インビトロジェン、カタログ番号11140035)を補充したHam’s F12培地(インビトロジェン、カタログ番号31765)中で、5%CO2及び37℃にて、標準的な細胞培養法に従ってプラスチックフラスコ中で培養した。細胞は常にマイコプラズマ感染の検査をした。細胞をアクターゼ(PAA、カタログ番号L11-007)を用いて剥離し、PBSで3回洗浄し、ペレット化した。ペレットを、マンニトール(225mM)、スクロース(75mM)、EGTA(0.1mM)、及びトリス-HCl(30mM)、pH7.4を含んだ1:1溶解バッファーに再懸濁した。細胞回収後、細胞を凍結させ、マイナス80℃で保存した。
【0430】
細胞ペレットを氷上で解凍し、溶解バッファー用いて体積を調整した。細胞懸濁液を溶解し、ぴったりした(tight)乳棒でDounceホモジナイザーを用いてホモジナイズした。JA-3050ローターを備えたBeckman Avanti J-301遠心分離機を用いて7000xgで20分間の2回の遠心分離を繰り返すことによって、上清をミトコンドリア及び細胞残屑から除去した。細胞膜を含む細胞内膜を、SW41 Tiローターを備えたBeckman Optima(商標)XE-90を用いて100,000xgで2回の超遠心分離によって上清からペレット化した。超遠心分離を4℃で45分間行った。上清を捨て、ペレットを氷冷PBS中に再懸濁し、さらに使用するまで-20℃で凍結した。
【0431】
膜調製物を氷上で解凍し、ソニケーター(Vibracell)を使用して氷冷コニカルバイアル中で超音波処理してプロテオリポソームを作製した。得られたプロテオリポソーム調製物をリン酸緩衝食塩水(pH7.4)に希釈し、さらに使用するまで-20℃で保存した。
【0432】
試料処理
フローセル(Nanoxis Consulting AB、ヨーテボリ、スウェーデン)を用いて実験を行った。簡単に説明すると、試料の50μLアリコートを室温に解凍し、手動でフローセルレーンに注入し、1時間固定化した。各レーンを200μlの洗浄バッファー(100mM Ambic pH8)で洗浄して未結合物質を除去し、続いて特定プロトコールにそれぞれ従ってプロテアーゼの溶液又は洗浄溶液をくわえた。限定消化では、100μLの100mM重炭酸アンモニウム、pH8を用いてフローセルからプロテアーゼ溶液を溶出することによって、5分後にプロテオリポソーム試料の消化を停止した。トリフルオロ酢酸を直ちに加えてpHを下げた後、試料を凍結させた。
【0433】
プロテアーゼはプロメガ製(キモトリプシン、シークエンシンググレード、25μg、カタログ番号V1062;シークエンシンググレード修飾トリプシン、20μg、カタログ番号V5111;プロテイナーゼK、100mg、カタログ番号V3021)であった。トリプシン作業溶液を100mM重炭酸アンモニウム、pH8で調製した。プロテイナーゼK及びキモトリプシン作業溶液を100mM トリス-HCl+10mM CaCl2、pH8.0で調製した。
【0434】
各プロトコールに3つのレプリケートチャネルを使用した。ペプチド試料をMS分析の前に併せた。
【0435】
MS分析
表7のプロトコールのステップ1と3でタンパク質分解によって遊離したペプチドを分析した。ステップ1のタンパク質分解後に得られた試料を、ステップ3のタンパク質分解後に得られた試料とは別に分析した。
【0436】
ペプチドを、PepClean C18スピンカラム(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、ウォルサム、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)で製造元のガイドラインに従って脱塩し、乾燥し、3%勾配グレードアセトニトリル(メルク KGaA、ダルムシュタット、ドイツ)中の15マイクロリットルの0.1%ギ酸(シグマアルドリッチ、セントルイス、ミズーリ州)で再溶解した。
【0437】
Easy-nLCオートサンプラー(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、ウォルサム、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)を用いて2マイクロリットルの試料注入を行った。試料を高精度オービトラップ装置で分析した。オービトラップFusion Tribrid、Q-Exactive又はオービトラップElite質量分析計(サーモフィッシャーサイエンティフィック)をEasy nanoLC 1200液体クロマトグラフィーシステムと接続した。3μmのReprosil-Pur C18-AQ粒子(Dr.Maisch、ドイツ)を充填した自社製の分析カラム(300×内径0.075mm)を使用して、35、50、又は75分かけて5~7%から30~32%のBの勾配を用い、続いて300nL/分の流量で5分間100%のBまで増加させてペプチドを分離した。溶媒Aは水中0.2%ギ酸であり、溶媒Bは80%アセトニトリル中0.2%ギ酸であった。MS/MS分析は、電荷状態2~7の最も強い前駆イオンをフラグメンテーションのために選択したデータ依存モードで行った。ダイナミックエクスクルージョンを30秒に設定した。
【0438】
各試料を3回注入し、3回の注入のMSデータを併せて1つの試料として扱った。
【0439】
Proteome Discovererバージョン1.4(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を利用してデータ分析を行った。Mascot 2.3.2.0(マトリックスサイエンス)を、5ppmのプリカーサー質量許容差及び0.6Daのフラグメント質量許容差をもつ検索エンジンとして使用し、配列データベースをUniProt(Swissprotセクション、分類学区分(taxonomic division)=ヒト、バージョン2017_03、約20,100個のタンパク質配列)から入手した。1~3個の見逃された切断並びにメチオニン酸化、システインアルキル化、及びPNGaseFのバリアブル・モディフィケーション(variable modifications)をもつペプチドを許容した。逆データベースに対して検索することによってソフトウェアの検出ペプチド閾値を1%の偽陽性率に設定した。高い同定信頼度のペプチドのみを考慮した。組み入れ基準は以下の通りであった:19以上のスコア、及び2又は3のペプチド信頼度(3が最良で1が最悪)をもつペプチドを組み入れた。これらの基準は、既報のプロテオミクスデータに使用される標準的な基準である0.01以上のMascotの有意性を表します。この設定では、誤っている可能性があるペプチド同定は1%にのみである。ペプチドスコアはMascotによって割り当てられ、信頼値はProteome Discovererによって割り当てられた。
【0440】
膜結合を含むタンパク質注釈は、The Universal Protein Resource(UniProt)から取得した。UniProtは、欧州バイオインフォマティクス研究所(EMBL-EBI)、SIBスイスバイオインフォマティクス研究所、及びタンパク質情報資源(PIR)のコラボレーションである。
【0441】
結果
本例のマルチプロテアーゼプロトコールを用いて、第1のステップで使用されるプロテアーゼは、その基質特異性によって決定付けられるさまざまな位置でタンパク質を切断する。全ペプチドが切断され、質量分析によって検出可能であることもあり、それらの検出可能なペプチドは一般に、分析方法の性質に依存して少なくとも8個のアミノ酸、最大で30~40個のアミノ酸の長さである。他の場合、特に限定消化が用いられる場合、プロテアーゼは切断するが、ペプチドは遊離しない。別の見方をすると、これはプロテアーゼが切れ目を生み出すことである。例えば、キモトリプシンは、アミノ酸F、W、L、及びYのC末端側に切れ目を作ることになる。限定消化の場合、表面の切れ目が最も発生しやすくなる。第1のタンパク質分解ステップで作り出され、そのステップでは検出されない切断は、1つ以上の後続のステップが第1のもの以外の基質特異性をもつプロテアーゼを使用する場合、後続のステップで検出することができる。例えば、第1のステップがキモトリプシンを使用し、第2のステップがアミノ酸KとRのC末端側で切断するトリプシンを使用する場合、第2のステップで検出されたペプチドはキモトリプシンが一方の端で切断し(切れ目)、トリプシンがもう一方を切断したこと示しうる。後続のステップは、ペプチドが遊離することを確実にするために非限定消化条件を利用しうるが、いくつかの逐次的限定消化ステップを使用することが可能である。好ましくは、1つ以上の後続ステップのプロテアーゼは、どの切断が第1のステップで生成されたかが明らかであるように第1のステップで使用されたものとは異なる特異性を有することが好ましい。第1のプロテアーゼによって作られた切断又は切れ目は表面露出の証拠であり、したがってエピトープ発見に使用することができる。
【0442】
以下の例では、表7のプロトコールを使用して取得したデータを示し、第1のステップで限定消化によって生成された切断が消化の第2のステップでどのように検出されるかを示す。表8は、加えたプロテアーゼの切断特異性を列挙する。表9~13は、これらのプロトコールを用いて同定されたタンパク質及びペプチドを示す。
【0443】
【0444】
マルチプロテアーゼプロトコール1、2、及び3(表7を参照されたい)において、「ステップ1」と「ステップ3」はともに室温(20℃~25℃)で行った。
【0445】
マルチプロテアーゼプロトコール1、2、及び3のそれぞれにおいて、「ステップ1」は限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解のステップである。
【0446】
マルチプロテアーゼプロトコール1及び3のそれぞれにおいて、「ステップ3」は非限定タンパク質分解のステップである。マルチプロテアーゼプロトコール2において、「ステップ3」は、限定タンパク質分解又は制限的タンパク質分解のステップである。
【0447】
【0448】
表9~12において、Acc#及びタProtein Nameは、UniprotKBの用語体系に従って、それぞれタンパク質アクセッション番号及びタンパク質名を示す。開始(Start)及び終止(Stop)は、ペプチドのN末端及びC末端の、タンパク質配列内のアミノ酸位置を与える。Lフランク(L#flank)は、タンパク質配列中のペプチドに隣接する左側(N末端)アミノ酸を示す。Rフランク(R#flank)は、ペプチド配列の最後の(C末端)アミノ酸を示す。
【0449】
表9は、マルチプロテアーゼプロトコール1(キモトリプシン2μg/mL 5分、続いてトリプシン20μg/mL 1時間)のトリプシン消化ステップ後に検出された膜貫通タンパク質とそのそれぞれのペプチドのサブセットを示す。試料は、トリプシンによってのみ切断されたペプチドを含んでいた。試料はまた、一端をキモトリプシンで、他端をトリプシンで切断されているペプチドも含んでいた。これらのペプチドは、MultiProtCut、すなわちマルチプロテアーゼ切断という名前の列にアスタリスクで示されている。一例として、タンパク質、マンノシル-オリゴ糖1,2-アルファ-マンノシダーゼIA由来のペプチドSSPAGGVLGGGLGGGGGRがある。左側のアミノ酸はFであり、ペプチドの最後のアミノ酸はRである。タンパク質は、第1のタンパク質分解ステップにおいてキモトリプシンによってFの後ろを切断され、第2のタンパク質分解工程においてトリプシンによってRの後ろを切断された。
【0450】
各タンパク質の大きさ、量、切断部位の利用可能性に応じて、タンパク質ごとに異なる数のペプチドが検出される。列挙したタンパク質は、第1のタンパク質分解ステップ(ステップ1)では検出されなかった。
【0451】
表10は、マルチプロテアーゼプロトコール1の非膜貫通タンパク質サブセットを示す。本方法は、膜タンパク質及び非膜タンパク質の両方に対して同様にうまく機能する。一方の端がキモトリプシンで、もう一方の端がトリプシンで切断されているペプチドは、MultiProtCutという名前のカラムのアスタリスクで示されている。
【0452】
表11は、マルチプロテアーゼプロトコール2(トリプシン5μg/mL 5分、続いてキモトリプシン20μg/mL 5分)のキモトリプシン消化ステップで検出された膜貫通タンパク質とそのそれぞれのペプチドのサブセットを示す。試料は、キモトリプシンによってのみ切断されたペプチドを含んでいた。試料はまた、一端をトリプシンで、他端をキモトリプシンで切断されているペプチドも含んでいた(アスタリスクで印付け)。
【0453】
表12は、マルチプロテアーゼプロトコール2の非膜貫通タンパク質のサブセットを示す。試料はまた、一端をトリプシンで、他端をキモトリプシンで切断されているペプチドも含んでいた(アスタリスクで印付け)。
【0454】
上記2つの例(プロトコル1及び2)において、プロテアーゼは同じであるが、使用順序が逆になっており、本方法がプロテアーゼの順序とは無関係に機能することを示している。
【0455】
さらに、2つの異なるプロテアーゼによるタンパク質の切断によって遊離したペプチド配列を含む、すなわち、一端がプロテイナーゼKによって切断され、もう一端がトリプシンによって切断されているペプチド配列を含むペプチド配列もマルチプロテアーゼプロトコール3を用いて同定された。
【0456】
表13は、一端がトリプシンで切断され、もう一端がプロテイナーゼKで切断されたペプチドに基づく、プロテイナーゼKがマルチプロテアーゼプロトコール3で切断するアミノ酸及びアミノ酸あたりの頻度(the frequency per amino acid)を示す。切断部位のリストは、ペプチドスコアが19と等しいまたは19を超える高い信頼性のあるペプチド同定によって得られた。ここに見られるように、特異性は非常に広く、よってプロテイナーゼKは限定消化ステップの1つにおいて有益に使用できるプロテアーゼのタイプである。広い特異性をもつプロテアーゼは、タンパク質の表面上のアクセス可能な切断部位の数及び位置に対してそれほど敏感ではない。
【0457】
表9 マルチプロテアーゼプロトコール1(キモトリプシン2μg/mL 5分、続いてトリプシン20μg/mL 1時間)。膜貫通タンパク質。
【表9A】
【表9B】
【0458】
表10 マルチプロテアーゼプロトコール1(キモトリプシン2μg/mL 5分、続いてトリプシン20μg/mL 1時間)。非膜貫通タンパク質。
【表10A】
【表10B】
【0459】
表11 マルチプロテアーゼプロトコール2(トリプシン5μg/mL 5分、続いてキモトリプシン20μg/mL 5分)。膜貫通タンパク質。
【表11A】
【表11B】
【0460】
表12 マルチプロテアーゼプロトコール2(トリプシン5μg/mL 5分、続いてキモトリプシン20μg/mL 5分)。非膜貫通タンパク質。
【表12A】
【0461】
【0462】
表13 プロテイナーゼK切断特異性、マルチプロテアーゼプロトコール3
【表13】
【配列表】