(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】女性の性機能障害を治療するための新規のペプチド群
(51)【国際特許分類】
C07K 7/06 20060101AFI20220328BHJP
A61K 38/06 20060101ALI20220328BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20220328BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220328BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20220328BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20220328BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220328BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20220328BHJP
【FI】
C07K7/06
A61K38/06
A61K38/08
A61K9/08
A61K47/18
A61P15/00
A61P43/00 111
C12N15/09
C12N15/09 ZNA
(21)【出願番号】P 2019521738
(86)(22)【出願日】2017-10-02
(86)【国際出願番号】 RU2017050099
(87)【国際公開番号】W WO2018080349
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-09-10
(32)【優先日】2016-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(73)【特許権者】
【識別番号】521378749
【氏名又は名称】オゥ・ブイ・ビィ・(アイルランド)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】OVB (IRELAND) LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミャソエドフ,ニコライ・フェドロビチ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリーバ,リュドミラ・アレクサンドロブナ
(72)【発明者】
【氏名】ゴリコフ,ドミトリー・ビクトロビチ
(72)【発明者】
【氏名】ロモノーソフ,ミハイル・ユリエビチ
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-515855(JP,A)
【文献】特表2012-528856(JP,A)
【文献】URSZULA GALASIK‐BARTOSZEK et al.,”[Hyp3]‐tuftsin([Hyp3]‐TU)synthesis and biological activity”,International Journal of Peptide and Protein Research,1991年 月 日,Vol.38、No.2,Page.176-180
【文献】Steve Peigneur et al.,”δ-Conotoxins Synthesized Using an Acid-cleavable Solubility Tag Approach Reveal Key Structural Determinants for NaV Subtype Selectivity”,Journal of Biological Chemistry,2014年 月 日,Vol.289、No.51,Page.35341-35350
【文献】S.Thakur et al.,”Influence of different tripeptides on the stability of the collagen triple helix. II. An experimental approach with appropriate variations of a trimer model oligotripeptide”,Biopolymers,1986年 月 日,Vol.25、No.6,Page.1081-1086
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/06
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
A-Thr-Lys-Hyp-B-C-D-X(配列番号8) 式(I)
からなるペプチドまたは薬学的に許容されるその塩。
(式中、
Aは、非存在、Mеt、Mеt(O)、Тhr、Аla、His、Phe、Lys、またはGlyであり;
Bは、非存在、Gly、Asp、Trp、Gln、Asn、Tyr、Hyp、またはArgであり;
Cは、非存在、Аrg、Рhе、Тyr、Gly、Нis、Hyp、またはLysであり;
Dは、非存在、Val、Gly、Тyr、Тrp、Рhe、またはНisであり;
Xは、ОН、ОСН
3、またはNH
2基であり;
(i)Aが存在する場合、B、C、Dの少なくともいずれかも存在するか、または、Bが存在する場合、C、Dの少なくともいずれかも存在し、(ii)ペプチドはテトラペプチドРhe-Тhr-Lys-Hyp-Gly
(配列番号9)、Тhr-Lys-Hyp-Hyp-Аrg
(配列番号10)およびТhr-Lys-Hyp-Аrg-Gly
(配列番号11)ではない。)
【請求項2】
ペプチドがThr-Lys-Hyp-Arg-Hyp-X(配列番号12)である、請求項1に記載のペプチドまたは薬学的に許容されるその塩。
【請求項3】
ペプチドがThr-Lys-Hyp-Arg-Hyp-Phe-X(配列番号13)である、請求項1に記載のペプチドまたは薬学的に許容されるその塩。
【請求項4】
ペプチドがThr-Lys-Hyp-Xである、請求項1に記載のペプチドまたは薬学的に許容されるその塩。
【請求項5】
ペプチドが
Thr-Lys-Hyp-Arg-Hyp-Gly-Hyp-X(配列番号14)である、請求項1に記載のペプチドまたは薬学的に許容されるその塩。
【請求項6】
Thr-Lys-Hyp-Arg-Hyp-X(配列番号12)、
Thr-Lys-Hyp-Arg-Hyp-Phe-X(配列番号13)、
Thr-Lys-Hyp-X、
Тhr-Lys-Hyp-Аrg-Gly(配列番号11)および
Thr-Lys-Hyp-Arg-Hyp-Gly-Hyp-X(配列番号14)
(ここにおいて、Xは、ОН、ОСН
3
、またはNH
2
基である。)
からなる群から選ばれるペプチドまたは薬学的に許容されるその塩。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載のペプチドまたは薬学的に許容されるその塩、ならびに、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物であって、ここにおいて前記ペプチドは性機能および生殖器機能の刺激に有効な量で組成物中に存在する、医薬組成物。
【請求項8】
前記薬学的に許容される賦形剤は、ビヒクル、保存剤、および/または溶媒である、請求項
7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
液体剤形である請求項
7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記液体剤形は鼻腔内投与用の液剤である、請求項
9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
2~20g/lの前記ペプチド、0.095~0.105g/lの塩化ベンザルコニウムを含む、請求項
10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
2~20g/lの前記ペプチド、0.095~0.105g/lの塩化ベンザルコニウムを含む、請求項
7に記載の医薬組成物。
【請求項13】
鼻腔内投与用のスプレー剤である請求項
7に記載の医薬組成物。
【請求項14】
女性の性機能障害、HSDD、FSADまたはFSIADの治療および/または予防方法のための医薬を製造するための請求項
7に記載の医薬組成物の使用であって、前記方法は請求項
7に記載の医薬組成物を患者に投与することを含む、使用。
【請求項15】
前記性機能障害は性欲減退または性欲の完全欠如を特徴とする、請求項
14に記載の使用。
【請求項16】
前記性機能障害はオルガスム機能障害である、請求項
14に記載の使用。
【請求項17】
前記性機能障害は性交への嫌悪感および性的満足感の欠如を特徴とする、請求項
14に記載の使用。
【請求項18】
前記性機能障害は腟痙、排尿障害またはヒポリビデミアである、請求項
14に記載の使用。
【請求項19】
前記医薬組成物は鼻腔内に投与される、請求項
14に記載の使用。
【請求項20】
必要とされる患者の性機能および生殖器機能の刺激方法のための医薬を製造するための請求項1~
6のいずれか1項に記載のペプチドの使用であって、前記方法は有効量の請求項1~
6のいずれか1項に記載のペプチドを患者に投与することを含む、使用。
【請求項21】
女性の性機能障害、HSDD、FSADまたはFSIADの治療および/または予防方法のための医薬を製造するための医薬を製造するための請求項1~
6のいずれか1項に記載のペプチドの使用であって、前記方法は有効量の請求項1~
6のいずれか1項に記載のペプチドを患者に投与することを含む、使用。
【請求項22】
前記性機能障害は性欲減退または性欲の完全欠如を特徴とする、請求項
21に記載の使用。
【請求項23】
前記性機能障害はオルガスム機能障害である、請求項
21に記載の使用。
【請求項24】
前記性機能障害は性交への嫌悪感および性的満足感の欠如を特徴とする、請求項
21に記載の使用。
【請求項25】
前記性機能障害は腟痙、排尿障害またはヒポリビデミアである、請求項
21に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ペプチドの化学、薬理学、および薬に関し、具体的には、性機能および生殖器機能を刺激する特性を有し、かつ高い保存安定性を有する新規のペプチド群、医薬組成物を得る上でのそれらの使用、ならびにこれらのペプチドを含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術
女性の性機能障害(FSD)とは、性的活動への関心の喪失、性的興奮を得るまたは持続することの反復性の不能、および適切な興奮後にオルガスムに達することができないことを招く性機能の種々の障害に関するものである。
【0003】
女性の性機能障害の治療のために多くの異なる治療方法が提案され、使用されてきているが、成功の程度は多様である。これらの治療方法は完全に成功であったというわけではなく、またはそれらの副作用を忍容するのが困難でもあった。診療で使用される最も効果的な薬物はフリバンセリンである。それにもかかわらず、女性の性機能障害の治療のための新しい薬物の開発が必要である。
【0004】
治療用ペプチドは医療現場で広く使用されている。かかる治療用ペプチドを含有する医薬組成物は、実用化に適するためには数年間の有効期間を有する必要がある。しかし、ペプチド組成物は、化学的または物理的な分解を受けやすいために、まさにその本質により不安定である。化学的分解には、酸化、加水分解、ラセミ化または架橋結合などの共有結合の変化が含まれる。物理的分解には、ペプチドの天然構造に関して、表面への凝集、沈澱または吸着にいたる可能性のある立体構造の変化が含まれる。
【0005】
内因性ペプチドタフトシンの合成類似体である一般式Thr-Lys-Pro-Arg-Pro-Gly-Proのヘプタペプチド(heptopeptide)「Selank」は、生殖器機能障害および性機能障害の予防および治療のための薬物として使用できることは既に確立されている(RU2404793)。
【0006】
文献RU2507212により、生殖器機能および性機能を刺激する特性を有するペプチド群:
A-Thr-Lys-Pro-B-C-D-X
(式中、Aは、0、Меt、Меt(0)、Тhr、Аla、His、Phe、Lys、Glyであり;
Bは、0、Gly、Asp、Trp、Gln、Asn、Tyr、Pro、Argであり;
Cは、0、Аrg、Рhе、Тyr、Gly、Нis、Pro、Lysであり;
Dは、0、Val、Gly、Тyr、Тrp、Рhe、Нisであり;
Xは、ОН、ОСН3、NH2であり;ここで、0はアミノ酸残基の非存在であり、ただし、A≠0の場合、Bおよび/またはCおよび/またはD≠0であり、B≠0の場合、Cおよび/またはD≠0である)であって、テトラペプチド、ならびにРhe-Тhr-Lys-Pro-Gly、Тhr-Lys-Pro-Pro-АrgおよびТhr-Lys-Pro-Аrg-Glyの各ペプチドを除くペプチド群が知られている。
【0007】
一般式A-Thr-Lys-Pro-B-C-D-Xに対応する合成ペプチド、特にトリペプチドThr-Lys-Pro、ペンタペプチドThr-Lys-Pro-Arg-Pro、およびヘキサペプチドThr-Lys-Pro-Arg-Pro-Phe、は、生殖器機能および性機能の刺激剤として推奨し得ることが確立されている。
【0008】
生殖器機能および性機能の刺激剤として推奨されている、一般式А-Thr-Lys-Pro-B-C-D-Xに関する文献RU2507212のすべてのペプチド(テトラペプチド、ならびにまたPhe-Thr-Lys-Pro-Gly、Thr-Lys-Pro-Pro-ArgおよびThr-Lys-Pro-Arg-Glyの各ペプチドを除く)は、共通の特徴、すなわち、ペプチド分子の構造中のトリペプチドThr-Lys-Proの存在を有する。しかし、これらすべてのペプチドをベースとする剤形は、+10℃までの温度でのみ保たれた場合に許容される安定性を有し、このことが、それらの商業的可能性を減少させ、薬物の保存、使用、流通および販売において不都合を招く。
【0009】
上記のペプチドはそれらの保存条件および有効期間に制限があるので、保存条件に関するこれらの制限を軽減し、薬物の服薬遵守の程度(患者の行動および医師によって与えられた推奨の遵守の程度)を高めることが必要である。
【0010】
したがって、生殖器機能および性機能を刺激する特性を有し、良好な有効性および保存中の改善された安定性を有する新しいペプチドを創製する必要が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
発明の開示
本発明が解決する問題とは、生殖器機能および性機能を刺激する特性を有し、高い有効性および保存中の安定性を有し、かつ診療での使用に対して期待される新しいペプチドの開発および創製である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によって達成される技術的結果とは、生殖器機能および性機能を刺激する特性を有し、高い有効性および保存中の高い安定性を有する、新しいペプチドの開発および製造であり、これにより、本発明によるペプチドをベースとした薬物の保存条件に関する制限を軽減することが可能となる。さらに、さらなる技術的結果とは、それらのペプチド類似体と比較して、本発明によるペプチドの作用により、好ましい(治療)効果が発現する速度がより速いことである。
【0013】
この技術的結果は、一般式(I):
A-Thr-Lys-Hyp-B-C-D-X 式(I)
の化合物または薬学的に許容されるそれらの塩
(式中、Aは、0、Меt、Меt(0)、Тhr、Аla、His、Phe、Lys、Glyであり;
Bは、0、Gly、Asp、Trp、Gln、Asn、Tyr、Hyp、Argであり;
Cは、0、Аrg、Рhе、Тyr、Gly、Нis、Hyp、Lysであり;
Dは、0、Val、Gly、Тyr、Тrp、Рhe、Нisであり;
Xは、ОН、ОСН3、NH2であり;
ここで、0はアミノ酸残基の非存在であり、ただし、A≠0の場合、Bおよび/またはCおよび/またはD≠0であり、B≠0の場合、Cおよび/またはD≠0である)であって、テトラペプチド、ならびにРhe-Тhr-Lys-Hyp-Gly、Тhr-Lys-Hyp-Hyp-АrgおよびТhr-Lys-Hyp-Аrg-Glyの各ペプチドを除く化合物の開発および製造によって達成される。
【0014】
驚くべきことに、本発明によるペプチド中にProの代わりにヒドロキシプロリン(Hyp)が存在することによって、ペプチドの酸化および分解のレベルが顕著に低下し、それによってこれらのペプチドをベースとする薬物を室温に保つことが可能になることを発見した。さらに、ペプチド中でProの代わりにНурを使用してもそれらの安全性には影響を及ぼさない。さらに、驚くべきことに、これらのペプチドの作用による効果が文献RU2507212に記載のペプチド類似体と比較して2倍の速さで達成されるので、本発明によるペプチドの使用によって、患者の治療過程を著明に短縮できることが確立された。
【0015】
本発明はまた、女性の性機能障害の治療のための性機能および生殖器機能を刺激する特性を特徴とする医薬組成物を得るための本発明によるペプチドの使用に関する。
【0016】
本発明はまた、女性の性機能障害、HSDD、FSADまたはFSIADを治療するための性機能および生殖器機能を刺激する特性を有し、本発明の主題である少なくとも1つの治療有効量と少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤とを含有する医薬組成物を含む。特に、賦形剤はビヒクル、保存剤、および/または溶媒とすることができる。
【0017】
本発明のある特定の変形実施形態では、本発明による医薬組成物は液体剤形である。本発明の一部の変形実施形態では、液体剤形は鼻腔内投与用の液剤である。本発明のある特定の好ましい変形実施形態では、医薬組成物は、次の成分を、濃度、g/l
一般式(I)のペプチド - 2~20;
塩化ベンザルコニウム - 0.095~0.105
で含む水溶液である。
【0018】
本発明のある特定の変形実施形態では、性機能障害は性欲減退または性欲の完全欠如を特徴とする。本発明のいくつかの特定の変形実施形態では、性機能障害は性的欲望または性的魅力の減退または欠如を特徴とする。本発明の好ましい変形実施形態では、性機能障害はヒポリビデミア(hypolibidemia)である。本発明の他の変形実施形態では、性機能障害はオルガスム機能障害である。
【0019】
本発明のある特定の変形実施形態では、女性の性機能障害は、性的嫌悪感および性的満足感の欠如、生殖器反応の不十分または欠如、非器質性の原因による腟痙、非器質性の原因による排尿障害である。
【0020】
本発明はまた、器質性障害または疾患(身体的または心理的)に起因しない他の種類の性機能障害も含む。
【0021】
本発明のまた別の態様は、組成物を鼻腔内に与えることを特徴とする、本発明による組成物を投与する方法であり、ある特定の変形形態では、組成物をスプレー剤の形態で鼻腔内に与える。
【0022】
本発明はまた、本発明による医薬組成物を患者に投与することを含む、女性の性機能障害の治療および/または予防方法に関する。
【0023】
本発明はまた、一般式(I)の化合物の製造を含む。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】トリペプチドThr-Lys-Hypの合成のダイアグラムである。
【
図2】ペンタペプチドThr-Lys-Hyp-Arg-Hypの合成のダイアグラムである。
【
図3】ヘキサペプチドThr-Lys-Hyp-Arg-Hyp-Pheの合成のダイアグラムである。
【
図4】ラットの求交尾的行動に対するペプチドThr-Lys-Hypの影響をペプチドThr-Lys-Proと比較した図である。
【
図5】ラットの求交尾的行動に対するペプチドThr-Lys-Hyp-Arg-Hypの影響をペプチドThr-Lys-Pro-Arg-Proと比較した図である。
【
図6】ラットの求交尾的行動に対するペプチドThr-Lys-Hyp-Arg-Hyp-Pheの影響をペプチドThr-Lys-Pro-Arg-Pro-Pheと比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な開示
定義と用語
本発明をよりよく理解するために、本発明で使用するいくつかの用語を下に提示する。
【0026】
女性の性機能障害は、第一相での興奮段階、オルガスムまたは解放の段階での性的反応の過程における障害、および性交痛である。主観的要因および客観的要因を含め、障害は、満足感の獲得を妨げる。さらに、これは、不妊にいたることもあり、または不妊と多少とも関連している。
【0027】
性欲(ラテン語に由来:「魅力、欲望、情熱」)とは、性的欲望または性的本能を意味する。これは性的魅力の心理的要素である。
【0028】
ヒポリビデミア、性無欲症は、性的魅力の欠如または喪失である。ヒポリビデミアは、器質性障害または疾患に起因しない性機能障害のうちの1つである(MKB-10のコードF52.0)。
【0029】
HSDDとは性的欲求低下障害である。
FSADとは女性の性的興奮障害である。
【0030】
FSIADとは女性の性的関心/興奮障害である。
服薬遵守とは、治療へのアドヒアランス、患者の行動と医師によって与えられた推奨との間の一致の程度である。
【0031】
本文書におけるMet(0)は、メチオニンスルホキシドを意味する。
本発明の実施
本発明を使用する場合の技術的結果の客観的な顕現の可能性については、実験性質の情報を含む、実施例に提示される信頼性のあるデータによって確認される。本出願の資料に提示されたこれらおよびすべての実施例は限定するものではなく、本発明の例示としてのみ与えられることを理解されたい。
【実施例】
【0032】
本発明によるペプチドを得る方法の調査
実施例1.トリペプチドThr-Lys-Hypの合成。
【0033】
トリペプチドThr-Lys-Hypの合成は、
図1に提示のダイアグラムに従って行う。トリペプチドThr-Lys-Hypの合成は、最新の保護基および先行技術から既知の溶液中でペプチド結合を創製する方法を使用して行う。ペプチド結合を創製するために、活性化エステルの方法およびTBA(テトラブチルアンモニウム)塩の方法を使用する。ペプチド鎖は段階的に成長させる。
【0034】
実施例2.ペンタペプチドThr-Lys-Hyp-Arg-Hypの合成。
ペンタペプチドThr-Lys-Hyp-Arg-Hypの合成は、
図2に提示のダイアグラムに従って行う。ペンタペプチドThr-Lys-Hyp-Arg-Hypの合成は、最新の保護基および先行技術から既知の溶液中でペプチド結合を創製する方法を使用して行う。ペプチド結合を創製するために、活性化エステルの方法およびカルボジイミドの方法を使用する。ペプチド鎖の段階的成長およびブロック法の両方を使用する。
【0035】
実施例3.ヘキサペプチドThr-Lys-Hyp-Arg-Hyp-Pheの合成。
ヘキサペプチドThr-Lys-Hyp-Arg-Hyp-Pheの合成は、
図3に提示のダイアグラムに従って行う。ヘキサペプチドThr-Lys-Hyp-Arg-Hyp-Pheの合成は、最新の保護基および先行技術から既知の溶液中でペプチド結合を創製する方法を使用して行う。ペプチド結合を創製するために、TBA塩の方法、活性化エステルの方法、カルボジイミドの方法および混合無水物の方法を使用する。ペプチド鎖の段階的成長およびブロック法の両方を使用する。
【0036】
実施例1~3に提示のペプチドの合成のために、保護されたおよび遊離の両方のL-アミノ酸の誘導体を使用する。ペプチドの合成中に使用される溶媒を対応する方法で脱水する。溶液の煮詰めを、40℃で真空蒸発器で行う。得られた中間体化合物および合成したペプチドを、Silufol社(チェコ共和国)製のシリカゲルプレート上でTLC分析を用いてチェックする。ニンヒドリンおよび(または)o-トリジンの溶液をプレートに噴霧することによって、得られた化合物を検出する。得られたペプチドの均一性の確認を、液体マイクロカラムクロマトグラフMillichrom A-02での高速液体クロマトグラフィー(HELC)を用いて行う。合成ペプチドの構造を、ThermoElectron社製のLCQ Advantage MAX質量分析計での質量分析を用いて特徴付ける。
【0037】
実施例1~3に提示の本発明によるペプチドのクロマトグラフィー分析および質量分析の結果を表1に示す。HELC法により合成ペプチドを分離するためのグラジエントのフォームを表2に示す。
【0038】
【0039】
表1に、液体マイクロカラムクロマトグラフMillichrom A-02で得られたデータ(HELC)および質量分析計ThermoElectron LCQ Advantage MAXを用いて得られた合成ペプチドの質量分析の特徴を示す。
【0040】
展開したクロマトグラフィー条件により、クロマトグラフィー的に純粋な生成物を容易に得ることが可能になる。
【0041】
ペプチド分析用のクロマトグラフィー条件:
Chromatograph Millichrom A-02
カラム:Prontosil 120-5С18аq、2*75mm
溶離液А:0.2M LiClO4+5mM НClO4
溶離液B:メタノール
【0042】
【0043】
流速: 150mcl/分
検出器波長設定:210、220、230、240nm
質量分析の分析条件:
機器:ThermoElectron LCQ Advantage MAX;
イオン源:エレクトロスプレー;5mcl/分の速度で0.1%酢酸中の10mcg/mlの濃度のペプチド溶液のソースに直接供給する;
イオン衝突法(Не)による35eVでの分子イオンのフラグメント化。ソースの温度 250℃、イオン化ポテンシャル +3.5kV。
【0044】
化合物の治療的使用方法
本発明の主題には、治療有効量の一般式(I)のペプチドを、相応する治療が必要な対象に投与することも含まれる。
【0045】
用語「治療有効量」とは、単剤療法または併用療法として投与された場合に、女性の性機能障害の治療に十分な治療効果を引き出すペプチドの量であると理解される。本発明のペプチドを併用療法で使用する場合、用語「治療有効量」とは、連続してまたは同時に摂取した場合にその摂取が予防効果または治療効果をもたらす有効成分の量の組み合わせを指す。必要とされる正確な量は、患者の年齢および全身状態、病気の重症度、薬物を投与する技法、他の薬物との併用治療等に応じて、対象毎に異なってもよい。
【0046】
本発明はまた、本発明によるペプチドと少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤、特にビヒクル、保存剤、および/または溶媒とを含有する医薬組成物にも関する。このような賦形剤は、本発明の本質を構成するペプチドと一緒に患者に与えることができ、有効量のペプチドを送達する適切な用量で与えた場合、前記ペプチドの生物学的活性を乱さず、かつ無毒である。
【0047】
薬学的に許容されるペプチド誘導体
本発明の化合物は、それらの加工の過程で遊離形態で存在してもよく、またはかかる必要のある場合、薬学的に許容される塩または他の誘導体の形態で存在してもよい。本明細書で使用する用語「薬学的に許容される塩」とは、医学的評価の文脈において、過度の毒性、刺激、アレルギー反応等を示さずにヒトのおよび動物の組織と接触して使用するのに適しているとともに、合理的なリスク/ベネフィット比を有する、そうした塩に関連する。塩は、本発明による化合物の合成、分離または精製の過程で得ることができ、また、本発明の化合物の遊離酸または遊離塩基をそれぞれ適切な塩基または酸と反応させることによって別個に得ることもできる。薬学的に許容される、酸の非毒性塩の例は、特に、酢酸塩、塩酸塩、クエン酸塩等である。
【0048】
医薬組成物
本発明はまた、本明細書に記載の化合物(またはプロドラッグ形態、薬学的に許容される塩もしくは他の薬学的に許容される誘導体)のうちの少なくとも1つと1つまたは複数の薬学的に許容されるビヒクル、溶媒および/または充填剤とを含有する医薬組成物に関する。前記組成物はまた、1つまたは複数のさらなる治療剤を含有してもよい。一方、本発明の化合物を、1つまたは複数の他の治療レジメンと組み合わせて相応する療法を必要とする患者に与えてもよい。
【0049】
本発明において提案された医薬組成物は薬学的に許容されるビヒクルと一緒に本発明の化合物を含有し、ビヒクルとしては、特定の剤形に適する、所与の任意の溶媒、希釈剤、分散剤または懸濁液、界面活性剤、等張剤、保存剤等を挙げることができる。通常のビヒクルの媒体が本発明の化合物と非相溶性であるかかる場合、例えば望ましくない生物学的効果または医薬組成物の他の任意の成分との他の望ましくない相互作用が出現した場合を除いて、かかる組成物の使用は本発明の範囲内である。
【0050】
生殖器機能および性機能を刺激する特性を有するペプチドを含有する剤形の安定性の調査
本実験により、本発明によるペプチドを含有する組成物の安定性を調査した。調査の結果を、ヒドロキシプロリンを含有する本発明によるいくつかのペプチドの例、特にThr-Lys-Hyp、Thr-Lys-Hyp-Arg-Hyp、Thr-Lys-Hyp-Arg-Hyp-PheおよびThr-Lys-Hyp-Arg-Hyp-Gly-Hypによって例示する。
【0051】
RU2507212に記載のペプチド、特にThr-Lys-Pro、Thr-Lys-Pro-Arg-Pro、Thr-Lys-Pro-Arg-Pro-PheおよびThr-Lys-Pro-Arg-Pro-Gly-Proも入手した。
【0052】
得られた化合物から、次の成分比:それぞれ0.2と0.01質量%とであるペプチドと保存剤塩化ベンザルコニウムとを含み、残りは水である、液体剤形(液剤)を調製した。試料を2つの温度レジメ、すなわち+4℃および+25℃で保存した。ペプチドの安定性の調査は、1、3、6、12、および24カ月の保存後に行った。安定性用試料の調査において、単一の不純物の量および不純物の総量を評価し、ペプチドの分解を証明した。不純物について当社の薬学的要件は次のとおりである:任意の単一の不純物、1.5%以下;不純物総含有量、3.0%以下。不純物含有量が上記の値を超えた場合、剤形は安定性試験に不合格であったと見なした。調査結果を表3に提示する。
【0053】
【0054】
表3から、プロリンの代わりにヒドロキシプロリンを含有するペプチドが、保存安定性試験に合格することにおいてはるかに好成績であったことが明らかであり(ヒドロキシプロリン含有ペプチドを有する試料中の不純物含有量はプロリン含有ペプチドを有する試料中の不純物含有量より数分の1である)、これはいずれの温度でも明らかである。したがって、ヒドロキシプロリン含有ペプチドはそれらのペプチド類似体(RU2507212)よりも分解に対して安定であり、このことによって、本発明のペプチドをベースとする最終剤形を+25℃までの温度で少なくとも24カ月間に保つことが可能となる。
【0055】
生殖器機能および性機能を刺激する手段としての本発明のペプチドの有効性の調査
生殖器機能および性機能を刺激する手段としての有効性を確認するために、本発明によるペプチド、特にトリペプチドThr-Lys-Hyp、ペンタペプチドThr-Lys-Hyp-Arg-Hyp、およびヘキサペプチドThr-Lys-Hyp-Arg-Hyp-Pheを合成し、適正な前臨床モデルでのインビボでの有効性に関して試験を行った(Lordozテスト)。さらに、ペプチドThr-Lys-Pro、Thr-Lys-Pro-Arg-Pro、およびThr-Lys-Pro-Arg-Pro-Pheの群の有効性も調べた。
【0056】
前述のペプチド群の有効性を、雌性ラットの性行動に関して100mcg/ラットの用量で調べた。性的に活発な雄と直接接触した場合およびかかる接触が不可能であった場合の、卵巣摘出ホルモン刺激雌において、0~16日の過程にわたって性行動を記録した。Thr-Lys-Hyp、Thr-Lys-Hyp-Arg-Hyp、およびThr-Lys-Hyp-Arg-Hyp-Phe群のペプチドによって、雌の求交尾的行動の強度が、記録期間中に行為12±4回から24±4~36±6回までに高まることがわかった(p=0.028、ウィルキンソンの基準)。本結果は、ペプチドThr-Lys-Hyp、Thr-Lys-Hyp-Arg-Hyp、およびThr-Lys-Hyp-Arg-Hyp-Pheの作用下での性的動機の高まりを証明する。試験結果を表4に提示する。
【0057】
【0058】
さらに、動的方法で得られたデータ(ペプチドを投与して5、11および16日目の雌性ラットの求交尾的行動の比較)を比較すると、本発明のペプチドの作用からの効果が、RU2507212に記載のペプチドの作用からの効果の2倍の速さで生じることは明白である(
図1~
図3)。
【0059】
したがって、得られたデータが証明することは、ヒドロキシプロリンを含有する本発明のペプチドがRU2507212からのペプチド類似体と比較して、より大きな安定性を有するばかりではなく、好ましい(治療)効果を達成するのもより速く、このことによって、本発明のペプチドをベースとする医薬を使用すれば患者の治療過程を短縮することが可能となるということである。さらに、その効果は特異的であり、適切な行動状況で発現する。
【0060】
本発明を開示された変形実施態様を参照することで特定してきたが、詳細に記載された特定の実験は単に本発明を例示する目的のために与えられており、本発明の範囲をいかようにも限定するものとしてみなされるべきではないことは当業者であれば明らかである。本発明の本質から逸脱することなく、様々な修正を施すことができることを理解されたい。
【配列表】