(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/04 20060101AFI20220328BHJP
C08K 3/18 20060101ALI20220328BHJP
H01B 7/295 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
C08L101/04
C08K3/18
H01B7/295
(21)【出願番号】P 2019531326
(86)(22)【出願日】2017-10-19
(86)【国際出願番号】 EP2017076758
(87)【国際公開番号】W WO2018108362
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-08-25
(32)【優先日】2016-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514163756
【氏名又は名称】エスシージー ケミカルズ カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128484
【氏名又は名称】井口 司
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】テアンサワン,レヌカ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィラチャポーン,ワンティネー
(72)【発明者】
【氏名】ウォンガリヤカウェー,アンチャレー
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-174270(JP,A)
【文献】特開平05-287145(JP,A)
【文献】特開平06-271730(JP,A)
【文献】特開2000-007864(JP,A)
【文献】特開平01-178543(JP,A)
【文献】特開2002-003848(JP,A)
【文献】特開平10-110077(JP,A)
【文献】特開平06-080849(JP,A)
【文献】国際公開第2007/074729(WO,A1)
【文献】特開平11-092607(JP,A)
【文献】特開平01-256553(JP,A)
【文献】Fire Mater.,2011年,Vol.37,pp.35-45
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
H01B 7/29-7/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
100重量部のハロゲン含有ポリマーと、
10~70重量部の可塑剤と、
2~10重量部の安定剤と、
1~15重量部の下記式を有する層状複水酸化物(LDH)と、
[(Mg
pZn
qSn
(II)
r)
1-x(Al
sSn
(IV)
t)
x(OH)
2]
a+(X
n-)
a/n・bH
2O・c(溶媒)
(式中、p+q+r=1、p=
0より大きく0.33以下、q=
0.67以上1未満、r=0~1、s+t=1、s=0~1、t=0~1、x=0.10~0.40、b=0~10、c=0~1、Xはアニオンであり、nは前記アニオン上の電荷であり、a=[(2p+2q+2r)(1-x)]+[(3s+4t)x]-2;溶媒は、水素結合供与体または受容体の機能を有する有機溶媒である。)
を含むポリマー組成物。
【請求項2】
前記LDHが、下記式を有する、請求項1に記載のポリマー組成物。
[(Mg
pZn
q)
1-xAl
x(OH)
2]
a+(X
n-)
a/n・bH
2O・c(溶媒)
(式中、p+q=1、p=
0より大きく0.33以下、q=
0.67以上1未満、x=0.10~0.40、b=0~10、c=0~1、Xは無機オキシアニオンであり、nは前記アニオン上の電荷であり、a=[(2p+2q)(1-x)]+3x-2;溶媒はエタノールである。)
【請求項3】
Xは、ハロゲン化物、無機オキシアニオン、アニオン性界面活性剤、アニオン性発色団およびアニオン性UV吸収剤のうちの少なくとも1つから選択されるアニオンである、請求項1または2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
水素結合供与体または受容体の機能を有する前記有機溶媒が、エチルアセテート、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、エタノール、m-クレゾール、o-クレゾール、p-クレゾール、メタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)、tert-アミルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、アニソール、ブチルカルビトールアセテート、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソアミルケトン、メチルn-アミルケトン、イソホロン、イソブチルアルデヒド、フルフラール、メチルホルメート、メチルアセテート、イソプロピルアセテート、n-プロピルアセテート、イソブチルアセテート、n-ブチルアセテート、n-アミルアセテート、n-ヘキシルアセテート、メチルアミルアセテート、メトキシプロピルアセテート、2-エトキシエチルアセテート、2-ブトキシエチルアセテート、n-ブチルプロピオネート、n-ペンチルプロピオネート、トリエチルアミン、2-ニトロプロパン、アニリン、N,N-ジメチルアニリン、ニトロメタン、テトラヒドロフラン、およびそれらの2つまたはそれ以上の混合物からなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
式(1)で定義される前記LDHが0~1の範囲のb+cを有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
前記可塑剤が、フタレート、メリテート、アジペート、アゼレート、マレエート、セバケート、エポキシ化オイル、塩素化パラフィンオイル、ポリマー可塑剤またはそれらの混合物の群から選択される少なくとも1つの可塑剤を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
前記安定剤が、鉛系安定剤、混合金属系安定剤またはそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの安定剤を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項8】
前記LDHがさらに表面処理剤を含み、前記表面処理剤が、前記層状複水酸化物の少なくとも1つの表面と共有結合またはイオン結合することができ、前記層状複水酸化物の表面特性を変更する有機部分である、請求項1から7のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項9】
前記表面処理剤が、少なくとも4個の炭素原子と、前記層状複水酸化物の少なくとも1つの表面と共有結合またはイオン結合することができる少なくとも1つの官能基とを含む有機部分である、請求項8に記載のポリマー組成物。
【請求項10】
請求項1から
9のいずれか一項に記載のポリマー組成物を含む物品であって、前記物品が、電気または電子回路部品、輸送および建築用の構造要素、あるいは屋内の日常用品である物品。
【請求項11】
請求項1から
10のいずれか一項に記載のポリマー組成物でコーティングされた電線またはケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃特性を有するポリマー組成物、そのポリマー組成物でコーティングされた電線またはケーブル、およびそのポリマー組成物を含む物品に関する。
【背景技術】
【0002】
難燃性挙動は様々な用途、特にワイヤおよびケーブル産業では極めて重要である。材料の火災挙動には、熱分解の容易さ、着火の容易さ、火炎伝播、発熱速度、および消火の容易さが含まれ、これらは煙の発生、毒性、および他の特性によって複雑化し得る。より速い発熱速度は、急速な着火および火炎伝播を引き起こす。さらに、発熱速度は火の強さを制御するので、着火性、煙毒性または火炎伝播よりもさらに重要である。典型的には、難燃剤がこれらの火災リスクに対処するために使用される場合、それらはそれぞれの火災リスクシナリオを満たすように特別に調整される。
【0003】
ポリ塩化ビニルのようなハロゲン含有ポリマーは、ハロゲン原子を含むその化学組成のために自己消火性材料と考えられている。しかしながら、可塑剤を添加して材料を軟化させる場合、難燃性能は著しく低下し、火炎伝播を遅延させるために難燃添加剤が必要とされる。特に塩素含有ポリマーを含有するポリマー組成物の難燃性は、そうでなければ着火時に放出される可能性がある有毒ガスのために極めて重要である。当分野では、典型的には、三酸化アンチモンを使用して、ハロゲン含有材料、例えばPVCと相乗的に作用させ得る。しかしながら、市販品では、その高価格のために少ない添加量でのみ三酸化アンチモンが添加される。それ故、良好な難燃性を達成するために、他の鉱物難燃剤、例えば金属酸化物が通常は高添加量で必要とされる。そのような高い充填剤/添加剤添加量は機械的特性、すなわち引張強度および破断点伸びを悪化させる。難燃剤を含有するポリマー組成物の難燃性に加えて、押出後のポリマー組成物の色安定性もまた必須の要件である。
【0004】
当分野の難燃剤、例えば二水酸化マグネシウム(MDH)またはアルミニウム三水和物(ATH)は、これらの親水性化合物がポリマーとの相溶性が低く、ポリマーとコンパウンドするために追加の添加剤を必要とするというさらなる欠点を有する。典型的には、必要とされる難燃性能を得るためには、常に高添加量が必要とされ、これが、複合体の機械的特性に影響を及ぼし、ポリマー中の不十分な分散液を示し得る。さらに、難燃剤は化学的に非柔軟性であり、吸熱反応を行って水を生成するだけである。
【0005】
ごく最近では、無機/有機ナノ複合体の合成におけるハイドロタルサイトまたは層状複水酸化物(LDH)の使用が台頭しつつある新しい種類の材料となっている。
【0006】
層状複水酸化物は、少なくとも2つの金属カチオンを含み、層状構造を有する化合物の一種である。LDHについては、Structure and Bonding; Vol 119, 2005 Layered Double Hydroxides ed. X Duan and D.G.Evansに総説されている。ハイドロタルサイトは、おそらく最も周知のLDHの例であり、長年にわたって研究されている。LDHは構造の層間にアニオンをインターカレートすることができる。
【0007】
LDHの比較的高い表面電荷および親水特性のために、通常合成されたLDHの粒子または微結晶は一般に高度に凝集している。この結果、製造される場合に、LDHは凝集して、数百ミクロンまでの大きな粒径および一般に5~15m2/gの低い比表面積を有する「石のような」非多孔質体を形成する(例えば、Wang et al Catal.Today 2011, 164, 198に開示されるように)。これらにより、LDHは、LDHポリマー複合体を形成することが困難になるだけでなく、ポリマー中の不十分な分散液をもたらし、これが不十分な機械的特性につながる。
【0008】
安定な分散液または良好な複合体を形成することを可能にするためにLDHを変性する試みがなされてきた。国際公開第2009/080597A2号パンフレットには、アルカリ度およびアグロメレート形成が低減された有機的に変性された層状複水酸化物の調製プロセスが開示されている。国際公開第2007/065861A号パンフレットは、ポリマーとの相溶性を促進するために、脂肪酸アニオンをそこにインターカレートしたLDHに関する。しかし、これらの有機変性LDH材料は、比較的低温で分解することが多く、それらをポリマーマトリックスに組み込む前に適切および高価なLDH処理を必要とする。国際公開第2013/117957A2号パンフレットは、可燃性および発煙指数を低減するための溶媒混合法によるLDHポリマー複合体における難燃剤としてのLDHの使用を開示している。しかしながら、溶媒混合法は実際には工業的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2009/080597A2号パンフレット
【文献】国際公開第2007/065861A号パンフレット
【文献】国際公開第2013/117957A2号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【文献】Structure and Bonding; Vol 119, 2005 Layered Double Hydroxides ed. X Duan and D.G.Evans
【文献】Wang et al Catal.Today 2011, 164, 198
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、少量の難燃剤が添加されるが、改善された難燃性、ならびに好ましくは経時的に改善された色安定性を、特に溶融混合プロセスを介して有するポリマー組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、100重量部のハロゲン含有ポリマー、10~70重量部の可塑剤、2~10重量部の安定剤、1~15重量部の下記式
[Mz+
1-xM’y+
x(OH)2]a+(Xn-)a/n・bH2O・c(溶媒) (I)
式中、MおよびM’は異なり、それぞれ少なくとも1つの金属カチオンであり、z=1または2;y=3または4、0<x<0.9、b=0~10、c=0~10、Xはアニオンであり、nはアニオン上の電荷であり、a=z(1-x)+xy-2;溶媒は、水素結合供与体または受容体機能を有する有機溶媒である
を有する層状複水酸化物(LDH)を含むポリマー組成物によって達成される。
【0013】
一実施形態では、式(I)において、zが2である場合、Mは、Mg、Zn、Fe、Ca、Sn、Ni、またはこれらのうちの2つまたはそれ以上の混合物であり、あるいはzが1である場合、MはLiである。
【0014】
さらなる実施形態では、式(I)において、yが3である場合、M’は、Al、Ga、Y、In、Fe、Ti、またはそれらの混合物であり、あるいはyが4である場合、M’は、Sn、TiまたはZrまたはそれらの混合物である。
【0015】
一実施形態では、LDHは下記式を有する
[(MgpZnqSn(II)
r)1-x(AlsSn(IV)
t)x(OH)2]a+(Xn-)a/n・bH2O・c(溶媒)
式中、p+q+r=1、p=0~1、q=0~1、r=0~1、s+t=1、s=0~1、t=0~1、x=0.10~0.40、b=0~10、c=0~1、Xはアニオンであり、nはアニオン上の電荷であり、a=[(2p+2q+2r)(1-x)]+[(3s+4t)x]-2;溶媒は、水素結合供与体または受容体機能を有する有機溶媒である。
【0016】
別の実施形態では、LDHは、下記式を有する
[(MgpZnq)1-xAlx(OH)2]a+(Xn-)a/n・bH2O・c(溶媒)
式中、p+q=1、p=0~1、q=0~1、x=0.10~0.40、b=0~10、c=0~1、Xは無機オキシアニオンであり、nはアニオン上の電荷であり、a=[(2p+2q)(1-x)]+3x-2;溶媒はエタノールである。
【0017】
一実施形態では、LDHの式において、xは、好ましくは0.10~0.33、より好ましくは0.25~0.33であり;bは、好ましくは0.1~1、より好ましくは0.1~0.6であり;cは、好ましくは0~0.01、より好ましくは0~0.0001、最も好ましくは0~0.000005;pは、好ましくは0~0.67、より好ましくは0~0.33であり;qは、好ましくは0.33~1、より好ましくは0.67~1であり;rは、好ましくは0.33~1、より好ましくは0.67~1であり;sは、好ましくは0.33~1、より好ましくは0.7~1であり;tは、好ましくは0~0.67であり、より好ましくは0~0.3である。
【0018】
別の実施形態では、LDH中の溶媒の量は、0~5,000mg/LDHの総質量kg、好ましくは0~50mg/LDHの総質量kg、より好ましくは0~10mg/LDHの総質量kgの範囲である。
【0019】
別の実施形態では、Xは、ハロゲン化物、無機オキシアニオン、アニオン性界面活性剤、アニオン性発色団およびアニオン性UV吸収剤のうちの少なくとも1つから選択されるアニオンであり、ここで無機オキシアニオンは、好ましくはカーボネート、ビカーボネート、水素ホスフェート、二水素ホスフェート、ニトライト、ボレート、ニトレート、サルフェート、ホスフェートまたはこれらの2つまたはそれ以上の混合物である。
【0020】
他の点では、LDH中のアニオンは、任意の適切なアニオン、有機または無機、例えばハロゲン化物(例えば、塩化物、臭化物)、無機オキシアニオン(例えば、XmOn(OH)p
-q;m=1~5;n=2~10;p=0~4、q=1~5;X=B、C、N、S、P:例えばカーボネート、ビカーボネート、水素ホスフェート、二水素ホスフェート、ニトライト、ボレート、ニトレート、ホスフェート、サルフェート)、アニオン性界面活性剤(例えばドデシル硫酸ナトリウム、脂肪酸塩またはステアリン酸ナトリウム)、アニオン性発色団および/またはアニオン性UV吸収剤、例えば4-ヒドロキシ-3-10-メトキシ安息香酸、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸(HMBA)、4-ヒドロキシ-3-メトキシケイ皮酸、p-アミノ安息香酸および/またはウロカニン酸であってもよい。
【0021】
水素結合供与体または受容体機能を有する有機溶媒は、いかなる量でも水と混和性である。水素結合供与体基は、R-OH、R-NH2、R2NHを含み得るが、水素結合受容体基は、ROR、R2C=O、RNO2、R2NO、R3N、ROH、RCF3を含み得る[Rはヒドロカルビル基である]。例示的な有機溶媒としては、エチルアセテート、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、エタノール、m-クレゾール、o-クレゾール、p-クレゾール、メタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)、tert-アミルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、アニソール、ブチルカルビトールアセテート、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソアミルケトン、メチルn-アミルケトン、イソホロン、イソブチルアルデヒド、フルフラール、メチルホルメート、メチルアセテート、イソプロピルアセテート、n-プロピルアセテート、イソブチルアセテート、n-ブチルアセテート、n-アミルアセテート、n-ヘキシルアセテート、メチルアミルアセテート、メトキシプロピルアセテート、2-エトキシエチルアセテート、2-ブトキシエチルアセテート、n-ブチルプロピオネート、n-ペンチルプロピオネート、トリエチルアミン、2-ニトロプロパン、アニリン、N,N-ジメチルアニリン、ニトロメタン、テトラヒドロフラン、およびそれらの2つまたはそれ以上の混合物が挙げられる。好ましくは、溶媒はエタノールまたはアセトンである。
【0022】
一実施形態において、LDHは、b+cとして、0~1、好ましくは0~0.6の範囲で示される揮発成分含有量を有する。揮発成分含有量は、揮発性物質が水、溶媒またはそれらの混合物である場合の揮発性物質の量を指す。揮発成分含有量は、水含量に関してはカール・フィッシャ滴定技術によって、および溶媒含有量に関してはガスクロマトグラフィ/質量分析GC/MSヘッドスペース技術よって測定される。
【0023】
ハロゲン含有ポリマーは、ハロゲンを含有するホモポリマーまたはコポリマー、好ましくは塩素含有ポリマーである。塩素含有ポリマーとしては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エチレン-塩化ビニルコポリマー、塩化ビニル-プロピレンコポリマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、塩素化ブチルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンなどが挙げられる。より好ましい実施形態において、塩素含有ポリマーはポリ塩化ビニルである。
【0024】
一実施形態において、LDHは、ハロゲン含有ポリマー100重量部に対して3~10重量部の範囲でポリマー組成物中に存在する。
【0025】
さらなる実施形態において、LDHの粒径分布は、0.05~5μm、好ましくは0.1~3μmの範囲である。粒径分布はレーザー回折粒径分析技術により測定される。
【0026】
さらなる実施形態では、LDHは、50~500m2/gの範囲、好ましくは80~100m2/gの範囲の比表面積を有する。比表面積は、Brunauer Emmett-Teller(BET)分析技術によって測定される。
【0027】
別の実施形態では、可塑剤は、フタレート、メリテート、アジペート、アゼレート、マレエート、セバケート、エポキシ化オイル、塩素化パラフィンオイル、ポリマー可塑剤またはそれらの混合物の群から選択される少なくとも1つの可塑剤を含む。好ましくは、フタレートおよびメリテートの混合物。例示的な可塑剤としては、ビス(2-エチルヘキシル)フタレート(DEHP)、ビス(2-プロピルヘプチル)フタレート(DPHP)、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジ-n-ブチルフタレート(DBP)、ブチルベンジルフタレート(BBzP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジイソオクチルフタレート(DIOP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジイソブチルフタレート(DIBP)、ジ-n-ヘキシルフタレート、トリメチルトリメリテート(TMTM)、トリ-(2-エチルヘキシル)トリメリテート(TEHTM)、トリ-(n-オクチル、n-デシル)トリメリテート、トリ-(ヘプチル、ノニル)トリメリテート、n-オクチルトリメリテート(OTM)、ビス(2-エチルヘキシル)アジペート(DEHA)、ジメチルアジペート(DMAD)、モノメチルアジペート(MMAD)、ジオクチルアジペート(DOA)、ジブチルセバケート(DBS)、ジブチルマレエート(DBM)、ジイソブチルマレエート(DIBM)、ポリエステル可塑剤、およびそれらの2つまたはそれ以上の混合物が挙げられる。
【0028】
さらなる実施形態では、安定剤は、鉛系安定剤、混合金属系安定剤またはそれらの混合物、好ましくは鉛系安定剤からなる群から選択される少なくとも1つの安定剤を含む。鉛系安定剤の例としては、四塩基性硫酸鉛、三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、二塩基性フタル酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛、通常のステアリン酸鉛、カルシウム-亜鉛安定剤、バリウム-亜鉛安定剤、カルシウム-バリウム-亜鉛安定剤およびそれらの2つまたはそれ以上の混合物が挙げられる。
【0029】
ポリマー組成物に含まれる可塑剤は、可塑性を高めるため、またはポリマー組成物の粘度を下げるためのものである。可塑剤はまたポリマーのガラス温度を下げる。したがって、ポリマーは可塑剤を添加する場合に加工処理が容易である。さらに、可塑剤は硬質ポリマーを軟質ポリマー、例えばPVCにすることができ、これはワイヤおよびケーブルシースを調製するのに有用である。
【0030】
安定剤は、高温および高圧下での加工処理中および加工処理後にポリマー組成物を安定化させるためにポリマー組成物中に含まれる。安定剤がないと、ポリマーは容易に劣化/変色する。
【0031】
さらなる実施形態では、LDHは表面処理剤を含んでいてもよく、それにより、以下の式を有する層状複水酸化物が得られる:
[Mz+
1-xM’y+
x(OH)2]a+(Xn-)a/n・bH2O・c(溶媒)・d(表面処理剤)
式中、MおよびM’は異なり、それぞれ少なくとも1つの金属カチオンであり、z=1または2;y=3または4、0<x<0.9、b=0~10、c=0~10、0<d≦10、Xはアニオンであり、nはアニオン上の電荷であり、a=z(1-x)+xy-2;溶媒は、水素結合供与体または受容体機能を有する有機溶媒である。
【0032】
表面処理剤は、層状複水酸化物の少なくとも1つの表面と共有結合またはイオン結合することができ、層状複水酸化物の表面特性を変更する有機部分である。LDHの少なくとも1つの表面は、外面または内面であってもよい(すなわち、表面処理剤をカチオン層の間にインターカレートさせてもよい)ことが理解される。表面処理剤は、表面処理剤上に位置する極性基または荷電基を介してLDHの表面とイオン的に結合していてもよい。あるいは、表面処理剤は、LDHの表面、例えばLDHの表面に位置する1つまたはそれ以上のヒドロキシル基に共有結合していてもよい。適切には、表面処理剤は、層状複水酸化物の少なくとも1つの表面と共有結合的またはイオン的に結合している。一実施形態では、表面処理剤は、少なくとも4個の炭素原子と、層状複水酸化物の少なくとも1つの表面と共有結合またはイオン結合することができる少なくとも1つの官能基とを含む有機部分である。別の実施形態では、表面処理剤はオルガノシラン化合物、界面活性剤またはそれらの混合物である。あるいは、表面処理剤はクエン酸またはその塩(例えばクエン酸ナトリウム)であり得る。オルガノシラン化合物は、ヒドロキシシラン、アルコキシシラン、シロキサン、またはポリシロキサン(例えば、ポリジメチルシロキサン)であり得る。一実施形態では、オルガノシラン化合物は、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、(3-グリシジルオキシプロピル)トリエトキシシラン(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシラン、トリエトキシビニルシラン、トリエトキシフェニルシラン、トリメトキシ(オクタデシル)シラン、ビニル-トリス(2-メトキシエトキシ)シラン、g-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、g-アミノプロピルトリメトキシシラン、b(3,4-エポキシシクロヘキシル(epxycryclohexyl))エチルトリメトキシシラン、g-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、g-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン、N-(3-トリエトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、3-アミノプロピル-メチル-ジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、クロロトリメチルシラン、塩化tert-ブチルジメチルシリル、トリクロロビニルシラン、メチルトリクロロシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、クロロメチルトリメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、プロピルトリメトキシシランおよびγ-ピペラジニルプロピルメチルジメトキシシランからなる群から選択される。適切には、オルガノシラン化合物は、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、(3-グリシジルオキシプロピル)トリエトキシシラン(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシランからなる群から選択される。トリエトキシビニルシラン、トリメトキシメチルシランおよびトリエトキシフェニルシラン。本明細書で表面処理剤に関して使用される場合、界面活性剤という用語は、LDHの表面とイオン結合または共有結合することができる親水性部分、および親油性部分を有する任意の化合物を意味することが理解される。一実施形態では、界面活性剤は、カチオン性、アニオン性、非イオン性または両性界面活性剤である。例示的な界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。別の実施形態では、界面活性剤は、好ましくは4~22個の炭素原子を有する脂肪酸、またはその塩、脂肪酸/リン酸エステル、または多価アルコールエステルである。例示的な界面活性剤としては、酪酸、カプロン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、アラキジン酸、オレイン酸、リノール酸、マレイン酸、またはそれらの塩が挙げられる。適切には、界面活性剤は、ステアリン酸、ラウリン酸、またはそれらの塩(例えば、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩)から選択される。好ましくは、LDHはステアリン酸カルシウムまたはステアリン酸亜鉛で表面処理されている。表面処理剤は、貯蔵期間中に湿分および/または揮発性物質がLDH構造および/またはLDH表面に吸収されるのを防ぐためにLDHの表面に付着する。
【0033】
一実施形態では、dは、式0.01<d≦5に従う値を有する。適切には、dは、式0.01<d≦3に従う値を有する。dはまた、式0.1<d≦3または1<d≦3に従う値を有してもよい。
【0034】
さらなる実施形態において、ポリマー組成物は、潤滑剤、加工助剤、LDH以外のさらなる難燃剤、充填剤、顔料(例えば、酸化鉄顔料、カーボンブラック)、酸化防止剤またはそれらの混合物を含み得る。
【0035】
潤滑剤は、酸アミド(例えば、エルカミド、オレアミド、ステアラミド)、酸エステル(例えば、ステアリルステアレート、ジステアリルフタレート)、脂肪酸(例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸)、オレイン酸、エルカ酸)、炭化水素ワックス(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、パラフィン)、金属石鹸(例えばステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム)またはそれらの混合物から選択され得る。
【0036】
加工助剤は、アクリル系加工助剤、フルオロポリマー、シリコーン加工助剤またはそれらの混合物から選択され得る。
【0037】
難燃剤は、有機リン化合物(例えば、ホスフェート、ホスホネート)、ハロゲン化難燃剤(例えば、臭素化難燃剤)、三酸化アンチモン、二酸化ケイ素、有機カチオン性クレー、水和鉱物、例えば水酸化物、水和酸化物、または金属の水和塩(例えば、アルミナ三水和物(ATH)、二水酸化マグネシウム(MDH))、またはそれらの混合物から選択され得る。
【0038】
充填剤は、炭酸カルシウム、シリカ、バライト、タルク、マイカ、炭酸マグネシウムまたはシリカから選択され得る。
【0039】
一実施形態では、ポリマー組成物は、PVC100重量部、可塑剤10~70重量部、安定剤3~7重量部、潤滑剤0.1~1重量部、充填剤0~80重量部、加工助剤0~3重量部、LDH3~10重量部、顔料0~2重量部、およびその他の難燃剤0~10重量部を含む。
【0040】
一実施形態では、ポリマー組成物は、PVC100重量部、フタレート可塑剤10~35重量部、メリテート可塑剤5~30重量部、鉛系安定剤3~7重量部、酸化PEワックス0.1~1重量部、炭酸カルシウム20~70重量部、アクリル系加工助剤0~3重量部、LDH3~10重量部、顔料0~2重量部、およびその他の難燃剤0~10重量部を含む。
【0041】
一実施形態では、ポリマー組成物は、高温、好ましくは150~190℃、より好ましくは160~180℃で、30~100rpm、好ましくは40~60rpmの範囲の加工処理速度で溶融混合プロセスによってコンパウンドされる。溶融混合プロセスは、例えば、一軸スクリュー押出プロセス、二軸スクリュー押出プロセスまたは射出プロセスである。
【0042】
本発明のポリマー組成物を含む物品も本発明に従い、ここでこの物品は、電気または電子回路部品、輸送および建築用の構造要素、あるいは屋内の日常用品である。
【0043】
最後に、本発明に従うポリマー組成物でコーティングされた電線またはケーブルも、本発明に従う。
【0044】
驚くべきことに、本発明のポリマー組成物は優れた難燃特性ならびに改善された色安定性および機械的特性を提供することが見出された。加えて、ポリマー組成物は、優れた難燃特性を付与され得るが、難燃剤は少量で添加される。また、驚くべきことに、一実施形態では、色安定性は、LDHにおいてZnまたはSnの含有量が高い程、良好であることを見出した。本発明のポリマー組成物はまた、ポリマー中のLDHの良好で安定および透明な分散液、押出プロセスにおけるプレートアウト形成(ダイビルドアップ)の減少、ボイドまたはピンホールの減少、および加工性の改善を有する。
【0045】
本発明のポリマー組成物に使用されるLDHは、[(Mg0.33Zn0.66)0.75Al0.25(OH)2][CO3]0.125・bH2O・c(溶媒)、[Zn0.67Al0.33(OH)2][B4O7]0.17・bH2O・c(溶媒)または[Mg0.75(Al0.7Sn0.3)0.25(OH)2][CO3]0.16・bH2O・c(溶媒)であってもよい。特に、これらの化合物は、当分野の難燃剤に比べて、色安定性に関して最良の結果を示し、難燃剤として活性であるために低用量のみを必要とし、良好な難燃性能および高い熱安定性を示す。
【0046】
LDHは、当分野において公知の方法に基づいて調製することができる。例えば、方法は国際公開第2015/144778A1号パンフレットに開示されており、以下の工程を含む:
a)金属MおよびM’のカチオンならびにアニオンXn-を含有する溶液から次式を有する層状複水酸化物を沈殿させる工程
[Mz+
1-xM’y+
x(OH)2]a+(Xn-)a/n・bH2O(式中、M、M’、z、y、x、a、bおよびXは式(I)について上で定義した通りである);
b)工程a)で得られた層状複水酸化物沈殿物を元の溶液中で熟成(エージング)させる工程;
c)層状複水酸化物沈殿物を集め、次いで洗浄する工程;
d)湿った層状複水酸化物を溶媒に分散させて、溶媒中の層状複水酸化物のスラリーを製造する工程;
e)工程d)で得られた分散液を維持する工程;
f)任意に、表面処理剤中に分散させる工程;
g)任意に、工程f)で得られた分散液を維持する工程;
h)層状複水酸化物を回収し乾燥する工程;および
i)任意に、工程h)で得られた層状複水酸化物を熱処理する工程。
【0047】
上記方法の工程a)において、層状複水酸化物は、典型的には、溶液のpHを所定の値、典型的には7を超える、好ましくは8を超える、より好ましくは9~10に調整するために、金属MおよびM’のイオンを含有する水性前駆体溶液を、NaOHをさらに含有し得るまたはそこにNaOH溶液が別個に添加され得るアニオンXを含有する溶液に添加することによって製造される。好ましい実施形態によれば、これがLDHの急速な核形成を促進するので、激しく撹拌しながら急速にアニオン溶液に金属前駆体溶液を添加することが望ましい。一実施形態では、アニオンXを含有する溶液中への水性前駆体の添加速度は、1,200ml/分を超える、好ましくは1,400ml/分を超える、より好ましくは1,400~1,600ml/分の範囲である。別の実施形態では、撹拌速度は300rpmを超える、好ましくは400rpmを超える、より好ましくは500~800rpmである。本発明者らは、この迅速な添加および速やかな共沈段段階が、形成されたLDHコロイドをより小さく、薄い粒径を有するようにすることを見出した。LDHは、元の反応溶液中での熟成に供され、好ましくは沈殿したLDHを含有する溶液を12時間未満、好ましくは1~5時間、より好ましくは3~4時間熟成させる。方法の工程c)では、沈殿した層状複水酸化物は集められ、次いで洗浄される。典型的には、沈殿物は濾過、好ましくは真空濾過によって集められる。集めた後、洗浄液が実質的に中性のpH、例えばpH7±0.5になるまで沈殿物を洗浄する。洗浄は典型的には脱イオン水を用いて行われる。
【0048】
上記の方法によれば、集められ、洗浄されたLDHは溶媒に再分散されて溶媒中のLDHスラリーを製造する。好ましくは、溶媒はエタノールである。
【0049】
溶媒中のLDHの分散液は、30分~2時間、好ましくは1~2時間の範囲で維持され、分散液は、かき混ぜ(agitation)および/または撹拌(stirring)下で維持されるのが好ましい。好ましくは少なくとも300rpm、より好ましくは500~800rpmである撹拌速度にて、オーバーヘッドミキサを用いて撹拌が行われ得る。
【0050】
さらなる実施形態では、工程f)は様々な手段によって実施され得る。その最も単純な形態では、工程f)は工程e)で提供されたLDHを表面処理剤と混合することを含む。別の実施形態では、工程e)で与えられたLDHは、工程f)における表面処理剤と混合する前に焼成される。
【0051】
好ましい一実施形態によると、LDHを回収および乾燥する工程h)は、LDHを有機溶媒から濾過し、次いで集められたLDHを乾燥に供することを含む。乾燥は、真空を適用してまたは適用せずにオーブン中で8~16時間行われ得る。典型的には、オーブン乾燥は、有機溶媒が蒸発する温度に依存する比較的低い温度で行われる。好ましくは、溶媒がエタノールである場合、乾燥工程は、室温(20℃)~70℃の範囲の温度で行われる。エタノールが有機溶媒として使用される好ましい実施形態において、一晩約65℃のオーブン温度が集められたLDHを乾燥させるために使用され得ることを本発明者らは見出した。
【0052】
異なる好ましい実施形態によれば、方法の工程h)は、有機溶媒中のLDHの分散液を噴霧乾燥装置に通し、次いで、典型的には窒素などの不活性雰囲気を用いて分散液を噴霧乾燥して、噴霧乾燥LDHを製造する工程を含む。
【0053】
好ましい一実施形態によれば、LDHを熱処理する工程i)は、溶媒および水を蒸発させるためにLDHを加熱することを含む。熱処理されたLDHは、0~5,000mg/LDHの総質量kg、好ましくは0~50mg/LDHの総質量kg、より好ましくは0~10mg/LDHの総質量kgの範囲の溶媒量を有してもよい。熱処理は、オーブン、真空オーブン、および/またはディスクドライヤ中で行われてもよい。好ましくは、熱処理工程は、溶媒がエタノールである場合、100℃~110℃の温度で行われる。
【0054】
本発明のさらなる特徴および利点は、実施例によって以下の詳細な説明において例示され、図面によってさらに例示される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】実施例2に従って調製されたポリマー組成物の熟成前の引張強度を示す。
【
図2】実施例2に従って調製されたポリマー組成物の熟成前の破断点伸びを示す。
【
図3】実施例2に従って調製されたポリマー組成物の熱熟成後の引張強度の保持率を示す。
【
図4】実施例2に従って調製されたポリマー組成物についての熱熟成後の破断点伸びを示す。
【
図5】実施例2に従って調製されたポリマー組成物のオイル熟成後の引張強度の保持率を示す。
【
図6】実施例2に従って調製されたポリマー組成物についてのオイル熟成後の破断点伸びの保持率を示す。
【
図7】実施例2に従って調製されたPVC組成物の煙濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下の実施例および表において使用される略語は以下の意味を有する。
LDH-CO3:式(I)を有するが、アニオン(Xn-)はカーボネートであるLDH
LDH-B4O7:式(I)を有するが、アニオン(Xn-)はボレートであるLDH
Mg3Al-CO3[(Mg0.75Al0.25(OH)2][CO3]0.5・nH2O;溶媒処理なしの一般的なハイドロタルサイト
Mg2.5Zn0.5Al-CO3:[(Mg0.83Zn0.17)0.75Al0.25(OH)2][CO3]0.125・bH2O・c(溶媒)
Mg2ZnAl-CO3:[(Mg0.66Zn0.33)0.75Al0.25(OH)2][CO3]0.125・bH2O・c(溶媒)
Mg1.5Zn1.5Al-CO3:[(Mg0.5Zn0.5)0.75Al0.25(OH)2][CO3]0.125・bH2O・c(溶媒)
MgZn2Al-CO3:[(Mg0.33Zn0.66)0.75Al0.25(OH)2][CO3]0.125・bH2O・c(溶媒)
Mg3Al0.7Sn0.3-CO3:[(Mg)0.75(Al0.7Sn0.3)0.25(OH)2][CO3]0.16・bH2O・c(溶媒)
Zn2Al-B4O7:[(Zn)0.67(Al)0.33(OH)2][B4O7]0.17・bH2O・c(溶媒)
ATH:アルミニウム三水和物
【0057】
本発明のLDHの合成
LDH-CO3の合成(LDH-C1~5)
LDH-C1~5は、金属前駆体溶液を1.4Lの1.5MのNa2CO3溶液に36ml/分の滴下速度で滴下することにより合成した。沈殿溶液のpHを、NaOH溶液(12M)を用いて10に制御した。元の溶液中で4時間熟成させた後、得られたスラリーを真空濾過技術で濾過し、pHが7になるまで脱イオン水で洗浄した。濾過したスラリーをエタノールで1時間洗浄し、次いで真空オーブンにより65℃で一晩乾燥した。金属前駆体溶液は、表1に記載したように金属を1.4Lの水中に溶解することによって調製した。
【0058】
【0059】
Zn2Al-B4O7(LDH-B1)の合成
LDH-B1は、金属前駆体溶液を1.4Lの1.5MのNa2B4O7溶液に36ml/分の滴下速度で滴下することにより合成した。沈殿溶液のpHは、NaOH溶液(12M)を用いて9に制御した。元の溶液中で4時間熟成させた後、得られたスラリーを真空濾過技術で濾過し、pHが7になるまで脱イオン水で洗浄した。濾過したスラリーをエタノールで1時間洗浄し、次いで真空オーブンにより65℃で一晩乾燥した。金属前駆体溶液は、379.3gのZn(NO3)2・6H2O、239.1gのAl(NO3)3・9H2Oを1.4Lの水中で混合することによって調製した。
【0060】
特性評価方法
a)調製されたLDH充填PVC組成物の色安定性を、押出後に、目によっておよび分光光度計CM-3600A(Konica Minolta)により評価した。白色度指数(WI)、黄色度指数(YI)、L*、a*、b*、C、hおよびデルタEを分光光度計で測定するために、LDH充填PVC組成物を均一な厚さ(約3mm)の11×11cm2の正方形プラークに圧縮成形した。
【0061】
b)ポリマー複合体の物理的特性の決定
1.引張強度および%伸びはIEC60502で測定される。試験機U.T.Mを用いて、ダンベル形状の試験片を200mm/分のクロスヘッド速度で伸張させる。破断点が測定される。引張強度および伸びは次式により計算される。
【数1】
2.熱熟成後の引張強度および%伸びはIEC60502によって測定される。試験機U.T.M.を用いて、ダンベル形状の試験片を200mm/分のクロスヘッド速度で伸張させる前に100℃で168時間加熱する。破断点が測定される。引張強度および破断点伸びの保持率は次式により計算される。
【数2】
3.オイル熟成後の引張強度および%伸びはIRM902によって測定される。試験機U.T.M.を用いて、ダンベル形状の試験片を200mm/分のクロスヘッド速度で伸張させる前に70℃で4時間オイル中で加熱する。破断点が測定される。引張強度および破断点伸びの保持率は、2に示す式で計算される。
【0062】
c)調製されたLDH充填PVC組成物の難燃性能は、コーン熱量測定(Toyoseiki)を使用して評価された。試験を行う前に、約30gのPVC組成物を均一な厚さ(約3mm)の10cm×10cm正方形のプラークに圧縮成形した。50kW/m2の入射流束を有するコーン形状のヒーターを使用し、スパークは試料が着火するまで連続的であった。コーン熱量計からの結果は、一般に+/-10%まで再現可能であると考えられている。これにより、ピーク発熱速度(PHRR)および着火時間が得られる。防火性能指数(FPI)は、着火時間およびピーク発熱速度の比である。
【0063】
d)調製したLDH充填PVC組成物のコンゴーレッド試験を、180℃の加熱ブロック内に配置される試験管に1gの試料を入れることによって評価した。リトマス紙は管の上部に配置する。紙が赤く変わったら、組成物からの酸ガスの放出を示す時間が記録される。
【0064】
e)煙濃度試験はASTM E 662により測定される。試料を3×3インチ、厚さ3mmに調製した。試験は、試料を熱源(2.5W/cm2)で輻射した非火炎モードで実施した。煙が発生したときに、光透過率を測定した。次いで比光学密度(Ds)を計算し、時間に対してプロットする。
【実施例】
【0065】
実施例1
PVC組成物、比較例1~7(Com.Ex.1~7)および実施形態1~14(Em.1~14)は、100重量部のPVC樹脂、4重量部の三塩基性硫酸鉛、20重量部の1,2-ベンゼンジカルボン酸ジイソデシルエステル、10重量部のトリス(2-エチルヘキシル)トリメリテート、5重量部の塩素化パラフィンオイル、5重量部のエポキシ化大豆オイル、50重量部のCaCO3、0.2重量部のエポキシ化PEワックス、3重量部の三酸化アンチモン、2重量部の二酸化ケイ素、1重量部のアクリル加工助剤、および調製されたLDH-CO3、調製されたLDH-B4O7、一般的なハイドロタルサイト(Mg3Al-CO3)またはATH(表2および3に示されるような量で)、500~2,000rpmでの高速ミキサにおいてドライブレンドし、120℃まで加熱して均一な粉末混合物を製造することによって調製した。次いで、ドライブレンドを160~180℃の温度で60rpmのスクリュー速度で一軸スクリュー押出機によって溶融混合してLDH充填PVCペレットを形成した。調製した組成物を試験し分析したが、結果を以下の表2および3に示す。
【0066】
【0067】
表2のように、本発明のポリマー組成物(Em.1~6)について、好ましい実施形態ではLDH中のZn含有量の増加およびLDH中のSn(IV)の組み込みが、高温および高圧での加工処理の後でポリマー/LDH組成物の黄色化(褐色化)を少なくする一方で、一般的なハイドロタルサイト、Mg3Al-CO3(Com.Ex2)は、LDHを含まないPVC組成物(Com.Ex1)と比較して加工処理後に暗褐色/黒色材料を与えることを見出した。
【0068】
【0069】
表3のように、LDHの使用(Em.7~14)は着火時間を延長し、ピーク発熱速度(PHRR)を減少させる。防火性能指数(FPI)は、燃焼状況下で材料のフラッシュオーバーまでの時間との相関関係である。その結果、FPIは逃避に利用できる時間を予測するために使用できる。したがって、指数が高いほど、材料は難燃性に関して優れている。LDHシステムLDH-CO3(Em.7~10)、およびLDH-B4O7(Em.11~14)の両方では、既存のPVC配合物(Com.Ex3)のためのATHの30重量部添加と比較して、FPIの100%を超える改善を得るために、5~10重量部の添加のみが必要である。加えて、一般的なハイドロタルサイト(Com.Ex4~7)は、同じ添加量でのLDHと比較して、より悪いFPI、引張強度および破断点伸びを示す。
【0070】
LDHの使用により、例えば複合体中のATHの使用と比較してLDHの量を減少させ、それにもかかわらず改善された難燃特性を提供することを可能にすることも見出した。例えば、30重量部のATHの使用と比較して、5または7または10重量部を使用する本発明のLDHについてより良好な難燃特性が得られ得る。
【0071】
さらに、LDHの使用はコンゴーレッド値を低下させることも見出した。コンゴーレッド試験は、PVC組成物ペレットの加熱からのHCl放出速度である脱塩化水素速度を評価するために使用される。放出されたHClはPVC分解を促進し、これが最終的に架橋材料を生成する。この架橋材料はまた、火炎の広がりを遅らせるための障壁としても作用し得る。PVC/LDHにおいて、この場合により良好な難燃性能は、火炎伝播をより良好に保護するための障壁形成が速くなるようにコンゴーレッド値を低下させることに関連し得る。ただし、コンゴーレッド値は加工処理中の材料の滞留時間よりもまだ長いため、コンゴーレッド値が低くても加工処理には影響しない。
【0072】
実施例2
PVC組成物、PVC/ATHおよびPVC/LDHは、100重量部のPVC樹脂、4重量部の三塩基性硫酸鉛、20重量部の1,2-ベンゼンジカルボン酸ジイソデシルエステル、10重量部のトリス(2-エチルヘキシル)トリメリテート、5重量部の塩素化パラフィンオイル、5重量部のエポキシ化大豆オイル、50重量部のCaCO3、0.2重量部のエポキシ化PEワックス、3重量部の三酸化アンチモン、2重量部の二酸化ケイ素、1重量部のアクリル加工助剤、0.8重量部のカーボンブラック、および30重量部のATHまたは7重量部の調製されたMgZn
2Al-CO
3を、500~2,000rpmでの高速ミキサにおいてドライブレンドし、120℃まで加熱して均一な粉末混合物を製造することによって調製した。次いで、ドライブレンドを160~180℃の温度で60rpmのスクリュー速度で一軸スクリュー押出機によって溶融混合してLDH充填PVCペレットを形成した。調製した組成物を試験し分析したが、結果を
図1~7に示す。
【0073】
図1~7のように、LDHの添加は、ATH充填PVC組成物と比較して煙の発生を減少させる。さらに、PVC/LDHはPVC/ATHシステムよりも優れた機械的性能を示す。
【0074】
前述の説明および特許請求の範囲に開示された特徴は、別々におよび任意の組み合わせの両方で、本発明をその多様な形態で実現するための材料であり得る。
本願発明には以下の態様が含まれる。
項1.
100重量部のハロゲン含有ポリマーと、
10~70重量部の可塑剤と、
2~10重量部の安定剤と、
1~15重量部の下記式を有する層状複水酸化物(LDH)と、
[Mz+
1-xM’y+
x(OH)2]a+(Xn-)a/n・bH2O・c(溶媒) (I)
(式中、MおよびM’は異なり、それぞれ少なくとも1つの金属カチオンであり、z=1または2;y=3または4、0<x<0.9、b=0~10、c=0~10、Xはアニオンであり、nは前記アニオン上の電荷であり、a=z(1-x)+xy-2;溶媒は、水素結合供与体または受容体の機能を有する有機溶媒である。)
を含むポリマー組成物。
項2.
式(I)において、zが2である場合、Mは、Mg、Zn、Fe、Ca、Sn、Ni、またはこれらのうちの2つまたはそれ以上の混合であり、あるいはzが1である場合、MはLiである、項1に記載のポリマー組成物。
項3.
式(I)において、yが3である場合、M’は、Al、Ga、Y、In、Fe、Ti、またはそれらの混合であり、あるいはyが4である場合、M’は、Sn、TiまたはZrまたはそれらの混合である、項1または2に記載のポリマー組成物。
項4.
前記LDHが、下記式を有する、項1から3のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
[(MgpZnqSn(II)
r)1-x(AlsSn(IV)
t)x(OH)2]a+(Xn-)a/n・bH2O・c(溶媒)
(式中、p+q+r=1、p=0~1、q=0~1、r=0~1、s+t=1、s=0~1、t=0~1、x=0.10~0.40、b=0~10、c=0~1、Xはアニオンであり、nは前記アニオン上の電荷であり、a=[(2p+2q+2r)(1-x)]+[(3s+4t)x]-2;溶媒は、水素結合供与体または受容体の機能を有する有機溶媒である。)
項5.
前記LDHが、下記式を有する、項1から4のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
[(MgpZnq)1-xAlx(OH)2]a+(Xn-)a/n・bH2O・c(溶媒)
(式中、p+q=1、p=0~1、q=0~1、x=0.10~0.40、b=0~10、c=0~1、Xは無機オキシアニオンであり、nは前記アニオン上の電荷であり、a=[(2p+2q)(1-x)]+3x-2;溶媒はエタノールである。)
項6.
Xは、ハロゲン化物、無機オキシアニオン、アニオン性界面活性剤、アニオン性発色団およびアニオン性UV吸収剤のうちの少なくとも1つから選択されるアニオンであり、前記無機オキシアニオンは、好ましくはカーボネート、ビカーボネート、水素ホスフェート、二水素ホスフェート、ニトライト、ボレート、ニトレート、サルフェート、ホスフェートまたはこれらの2つまたはそれ以上の混合物である、項1から5のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
項7.
水素結合供与体または受容体の機能を有する前記有機溶媒が、エチルアセテート、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、エタノール、m-クレゾール、o-クレゾール、p-クレゾール、メタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)、tert-アミルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、アニソール、ブチルカルビトールアセテート、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソアミルケトン、メチルn-アミルケトン、イソホロン、イソブチルアルデヒド、フルフラール、メチルホルメート、メチルアセテート、イソプロピルアセテート、n-プロピルアセテート、イソブチルアセテート、n-ブチルアセテート、n-アミルアセテート、n-ヘキシルアセテート、メチルアミルアセテート、メトキシプロピルアセテート、2-エトキシエチルアセテート、2-ブトキシエチルアセテート、n-ブチルプロピオネート、n-ペンチルプロピオネート、トリエチルアミン、2-ニトロプロパン、アニリン、N,N-ジメチルアニリン、ニトロメタン、テトラヒドロフラン、およびそれらの2つまたはそれ以上の混合物からなる群から選択される、項1から6のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
項8.
式(1)で定義される前記LDHが0~1の範囲のb+cを有する、項1から7のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
項9.
前記可塑剤が、フタレート、メリテート、アジペート、アゼレート、マレエート、セバケート、エポキシ化オイル、塩素化パラフィンオイル、ポリマー可塑剤またはそれらの混合物の群から選択される少なくとも1つの可塑剤を含む、項1から8のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
項10.
前記安定剤が、鉛系安定剤、混合金属系安定剤またはそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの安定剤を含む、項1から9のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
項11.
前記LDHがさらに表面処理剤を含み、前記表面処理剤が、前記層状複水酸化物の少なくとも1つの表面と共有結合またはイオン結合することができ、前記層状複水酸化物の表面特性を変更する有機部分である、項1から10のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
項12.
前記表面処理剤が、少なくとも4個の炭素原子と、前記層状複水酸化物の少なくとも1つの表面と共有結合またはイオン結合することができる少なくとも1つの官能基とを含む有機部分であり、前記好ましい表面処理剤が、オルガノシラン化合物、脂肪酸またはその塩、脂肪酸/リン酸エステル、多価アルコールエステルまたはそれらの混合物から選択される、項11に記載のポリマー組成物。
項13.
前記ポリマー組成物が、高温、好ましくは150~190℃、より好ましくは160~180℃で、30~100rpm、好ましくは40~60rpmの範囲のスクリュー速度での押出プロセスによってコンパウンドされる、項1から12のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
項14.
項1から13のいずれか一項に記載のポリマー組成物を含む物品であって、前記物品が、電気または電子回路部品、輸送および建築用の構造要素、あるいは屋内の日常用品である物品。
項15.
項1から14のいずれか一項に記載のポリマー組成物でコーティングされた電線またはケーブル。