(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 4/40 20060101AFI20220328BHJP
C08F 20/00 20060101ALI20220328BHJP
A61K 6/30 20200101ALI20220328BHJP
A61K 6/50 20200101ALI20220328BHJP
A61K 6/61 20200101ALI20220328BHJP
A61K 6/62 20200101ALI20220328BHJP
A61K 6/84 20200101ALI20220328BHJP
A61K 6/887 20200101ALI20220328BHJP
【FI】
C08F4/40
C08F20/00
A61K6/30
A61K6/50
A61K6/61
A61K6/62
A61K6/84
A61K6/887
(21)【出願番号】P 2019551235
(86)(22)【出願日】2018-10-25
(86)【国際出願番号】 JP2018039650
(87)【国際公開番号】W WO2019082964
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2020-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2017207083
(32)【優先日】2017-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】三田村 健範
(72)【発明者】
【氏名】小杉 洋子
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-088108(JP,A)
【文献】特開2014-152107(JP,A)
【文献】国際公開第2014/156138(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
A61K 6/00- 6/90
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性基を有する重合性単量体(a)と、
遷移金属化合物(b)と、
ベンゾオキサゾール化合物およびベンゾチアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種
の化合物(c)と、
還元剤(d)(但し、前記化合物(c)を含まない)と
を含有し、
前記酸性基を有する重合性単量体(a)が、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリ
ルアミド基、スチリル基、ビニル基およびアリル基から選ばれる1種の不飽和基を有する
酸性基含有ラジカル重合性単量体であり、
前記遷移金属化合物(b)が、1価~2価の銅化合物および3価~5価のバナジウム化合物から選ばれる少なくとも1種であり、
前記化合物(c)が、ベンゾオキサゾール環の2位にメルカプト基を有
しない化合物
またはベンゾチアゾール環の2位にメルカプト基を有
しない化合物
であり、
前記還元剤(d)が、芳香族スルフィン酸および芳香族スルフィン酸の塩から選ばれる少なくとも1種の化合物である、
硬化性組成物。
【請求項2】
前記化合物(c)が、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、および下記式(1)で
示される化合物から選ばれる少なくとも1種である、請求項
1に記載の硬化性組成物。
【化1】
[式(1)中、Xは酸素原子または硫黄原子を表し、Yは水酸基またはアミノ基を表し、
R
1およびR
2はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~4の炭化水素
基を表す。]
【請求項3】
酸性基を有さない重合性単量体(e)をさらに含有する、請求項1
または2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
過酸化物(f)を実質的に含有しない、請求項1~
3のいずれか1項に記載の硬化性組
成物。
【請求項5】
過酸化物(f)をさらに含有する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の硬化性組成物
。
【請求項6】
前記過酸化物(f)が、ハイドロパーオキサイド化合物およびパーオキシエステル化合
物から選ばれる少なくとも1種である、請求項
5に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
光重合開始剤(g)、フィラー(h)、有機溶剤(i)および水(j)から選ばれる少
なくとも1種をさらに含有する、請求項1~
6のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項8】
前記遷移金属化合物(b)、前記化合物(c)および前記還元剤(d)の合計が、重合
性単量体100質量部に対して、0.1~40質量部である、請求項1~
7のいずれか1
項に記載の硬化性組成物。
【請求項9】
前記遷移金属化合物(b)の含有量が、重合性単量体100質量部に対して、0.00
1~5質量部である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項10】
前記化合物(c)の含有量が、重合性単量体100質量部に対して、0.1~20質量
部である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項11】
前記還元剤(d)の含有量が、重合性単量体100質量部に対して、0.01~20質
量部である、請求項1~
10のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項12】
歯科用途に用いられる、請求項1~
11のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか1項に記載の硬化性組成物を含有し、歯科用接着性レジンセ
メント、歯科用コンポジットレジン、歯科用ボンディング材、歯科用裏層材、歯科用根幹
充填材、歯列矯正用接着材、動揺歯固定材、歯科用シーラント、歯科用仮着セメントまた
は歯科用充填材料である、歯科用組成物。
【請求項14】
請求項1~
12のいずれか1項に記載の硬化性組成物または請求項
13に記載の歯科用
組成物の硬化物。
【請求項15】
第1剤(A)と第2剤(B)とを含む重合開始用キットであり、
前記第1剤(A)が、酸性基を有する重合性単量体(a)と、遷移金属化合物(b)と
を含有し、
前記第2剤(B)が、ベンゾオキサゾール化合物およびベンゾチアゾール化合物から選
ばれる少なくとも1種の化合物(c)と、還元剤(d)(但し、前記化合物(c)を含ま
ない)とを含有し、
前記酸性基を有する重合性単量体(a)が、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリ
ルアミド基、スチリル基、ビニル基およびアリル基から選ばれる1種の不飽和基を有する
酸性基含有ラジカル重合性単量体であり、
前記遷移金属化合物(b)が、1価~2価の銅化合物および3価~5価のバナジウム化合物から選ばれる少なくとも1種であり、
前記化合物(c)が、ベンゾオキサゾール環の2位にメルカプト基を有
しない化合物
またはベンゾチアゾール環の2位にメルカプト基を有
しない化合物
であり、
前記還元剤(d)が、芳香族スルフィン酸および芳香族スルフィン酸の塩から選ばれる少なくとも1種の化合物である、
重合開始用キット。
【請求項16】
ベンゾオキサゾール化合物およびベンゾチアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種
の化合物(c)と、還元剤(d)(但し、前記化合物(c)を含まない)とを含有し、
前記化合物(c)が、ベンゾオキサゾール環の2位にメルカプト基を有
しない化合物
またはベンゾチアゾール環の2位にメルカプト基を有
しない化合物
であり、
前記還元剤(d)が、芳香族スルフィン酸および芳香族スルフィン酸の塩から選ばれる少なくとも1種の化合物である、
重合開始剤。
【請求項17】
酸性基を有する重合性単量体(a)と、
遷移金属化合物(b)と、
ベンゾオキサゾール化合物およびベンゾチアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種
の化合物(c)と、
還元剤(d)と
を含有し、
前記酸性基を有する重合性単量体(a)が、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリ
ルアミド基、スチリル基、ビニル基およびアリル基から選ばれる1種の不飽和基を有する
酸性基含有ラジカル重合性単量体であり、
前記遷移金属化合物(b)が、1価~2価の銅化合物および3価~5価のバナジウム化合物から選ばれる少なくとも1種であり、
前記化合物(c)が、ベンゾオキサゾール環の2位にメルカプト基を有しない化合物またはベンゾチアゾール環の2位にメルカプト基を有しない化合物であり、
前記還元剤(d)が、
芳香族スルフィン酸
および芳香族スルフィン酸の
塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、
硬化性組成物。
【請求項18】
酸性基を有する重合性単量体(a)と、
遷移金属化合物(b)と、
ベンゾオキサゾール化合物およびベンゾチアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種
の化合物(c)と、
還元剤(d)(但し、前記化合物(c)を含まない)と
を含有し、
前記酸性基を有する重合性単量体(a)が、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリ
ルアミド基、スチリル基、ビニル基およびアリル基から選ばれる1種の不飽和基を有する
酸性基含有ラジカル重合性単量体であり、
前記遷移金属化合物(b)が、1価~2価の銅化合物および3価~5価のバナジウム化合物から選ばれる少なくとも1種であり、
前記化合物(c)が、ベンゾオキサゾール環の2位にメルカプト基を有しない化合物またはベンゾチアゾール環の2位にメルカプト基を有しない化合物であり、
前記還元剤(d)が、芳香族スルフィン酸および芳香族スルフィン酸の塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、
過酸化物(f)を実質的に含有しない、
硬化性組成物。
【請求項19】
第1剤(A)と第2剤(B)とを含む重合開始用キットであり、
前記第1剤(A)が、酸性基を有する重合性単量体(a)と、遷移金属化合物(b)と
を含有し、
前記第2剤(B)が、ベンゾオキサゾール化合物およびベンゾチアゾール化合物から選
ばれる少なくとも1種の化合物(c)と、還元剤(d)とを含有し、
前記酸性基を有する重合性単量体(a)が、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリ
ルアミド基、スチリル基、ビニル基およびアリル基から選ばれる1種の不飽和基を有する
酸性基含有ラジカル重合性単量体であり、
前記遷移金属化合物(b)が、1価~2価の銅化合物および3価~5価のバナジウム化合物から選ばれる少なくとも1種であり、
前記化合物(c)が、ベンゾオキサゾール環の2位にメルカプト基を有しない化合物またはベンゾチアゾール環の2位にメルカプト基を有しない化合物であり、
前記還元剤(d)が、
芳香族スルフィン酸
および芳香族スルフィン酸の
塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、
重合開始用キット。
【請求項20】
第1剤(A)と第2剤(B)とを含む重合開始用キットであり、
前記第1剤(A)が、酸性基を有する重合性単量体(a)と、遷移金属化合物(b)と
を含有し、
前記第2剤(B)が、ベンゾオキサゾール化合物およびベンゾチアゾール化合物から選
ばれる少なくとも1種の化合物(c)と、還元剤(d)(但し、前記化合物(c)を含ま
ない)とを含有し、
前記酸性基を有する重合性単量体(a)が、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリ
ルアミド基、スチリル基、ビニル基およびアリル基から選ばれる1種の不飽和基を有する
酸性基含有ラジカル重合性単量体であり、
前記遷移金属化合物(b)が、1価~2価の銅化合物および3価~5価のバナジウム化合物から選ばれる少なくとも1種であり、
前記化合物(c)が、ベンゾオキサゾール環の2位にメルカプト基を有しない化合物またはベンゾチアゾール環の2位にメルカプト基を有しない化合物であり、
前記還元剤(d)が、芳香族スルフィン酸および芳香族スルフィン酸の塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、
過酸化物(f)を実質的に含有しない、
重合開始用キット。
【請求項21】
ベンゾオキサゾール化合物およびベンゾチアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種
の化合物(c)と、還元剤(d)とを含有し、
前記化合物(c)が、ベンゾオキサゾール環の2位にメルカプト基を有しない化合物またはベンゾチアゾール環の2位にメルカプト基を有しない化合物であり、
前記還元剤(d)が、
芳香族スルフィン酸
および芳香族スルフィン酸の
塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、
重合開始剤。
【請求項22】
ベンゾオキサゾール化合物およびベンゾチアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種
の化合物(c)と、還元剤(d)(但し、前記化合物(c)を含まない)とを含有し、
前記化合物(c)が、ベンゾオキサゾール環の2位にメルカプト基を有しない化合物またはベンゾチアゾール環の2位にメルカプト基を有しない化合物であり、
前記還元剤(d)が、芳香族スルフィン酸および芳香族スルフィン酸の塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、
過酸化物(f)を実質的に含有しない、
重合開始剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
重合性単量体を重合することにより硬化性組成物を与える技術は、産業的に広く用いられており、具体的には、熱重合、光重合、常温化学重合が挙げられ、重合性単量体を含む組成物に配合される各種重合触媒に対応する手法により実施される。これら重合手法は歯牙治療分野においても広く利用されており、例えば、レジン系修復材料に分類される歯科用接着性レジンセメント、歯科用コンポジットレジン(自己接着性を有するものを含む)、歯科用接着材、歯科用常温重合レジン、歯科用コンポジットレジン、歯科用裏層材、歯科用根幹充填材、歯列矯正用接着材、動揺歯固定材、歯牙小窩裂溝封鎖材(歯科用シーラント)等の各種接着性材料および充填材料の重合技術として実際に使用されている。
【0003】
歯牙治療用材料に汎用される硬化性組成物に配合される重合開始剤には、主に可視光線を照射して重合・硬化させる光重合開始剤と、別々に保存した2種以上の剤を使用直前に混合して重合・硬化させる化学重合開始剤があり、最近では、その両方の開始剤を併用した材料を歯科臨床に使用する例も増加している。これらのうち化学重合開始剤は、常温付近で重合触媒成分を混合・練和することのみにより重合反応を開始し、さらには常温付近で重合性単量体を重合・硬化させる必要があり、他の開始剤系と比較して高い重合活性が要求される。
【0004】
歯科分野において汎用される一般的な化学重合開始剤系の一例として、酸化剤と還元剤を組み合わせたレドックス重合開始剤が挙げられる。レドックス重合開始剤を配合した硬化性組成物は、通常は酸化剤を含む第1剤と還元剤を含む第2剤とに分割した複数の組成物、いわゆる分包型硬化性組成物として、使用する直前まで保存され、使用時に第1剤と第2剤とを混合させることにより化学重合反応が開始し、混合物の硬化が進行する。そのため、レドックス反応を生起しうる酸化剤と還元剤との組み合わせを、通常、同一製剤中に保存することができないため、場合によっては3剤以上に分割した分包型硬化性組成物として保存する必要がある。
【0005】
高活性な化学重合開始剤を含む硬化性組成物として、例えば、過酸化物と還元性物質とを組み合わせたレドックス重合開始剤系が知られ、歯科材料分野においても汎用されている。例えば、前記過酸化物として過酸化ベンゾイル等のジアシルパーオキサイド化合物を含む第1剤と、前記還元性物質として芳香族アミン化合物を含む第2剤とから構成される歯科用硬化性組成物が知られている(特許文献1)。この化学重合開始剤を含む硬化性組成物は、常温の口腔内でも硬化反応が円滑に進行する混合物が調製できることから、歯科材料分野においても従来から広く使用されている。
【0006】
しかし、過酸化ベンゾイルを含む硬化性組成物は、過酸化ベンゾイルの重合活性の高さから、常温での保管中に分解してラジカルを生成する場合が多いため、保管中に組成物が硬化する、あるいは前記分解により失活して長期保管後の充分な重合性を維持できないという問題があった。
【0007】
上記問題を解決する化学重合開始剤を配合した硬化性組成物として、過酸化物を熱力学的に安定なハイドロパーオキサイド化合物を使用したものが提案されている(特許文献2および3)。この化学重合型硬化性組成物は、熱的に安定な過酸化物を使用することにより、過酸化ベンゾイルを使用した組成物と比較して常温での保存安定性に優れるという特徴を有している。しかしながら、過酸化ベンゾイル等と比較すると活性が低く、その硬化時間には改良の余地があった。
【0008】
また、特許文献4および5には、過酸化物としてハイドロパーオキサイド化合物を使用し、還元剤としてチオ尿素化合物、促進剤として遷移金属化合物から構成される化学重合開始剤を含む硬化性組成物が提案されている。これらの硬化性組成物は熱に対する安定性が比較的高く、室温での保存安定性が高い特徴を有している。一方、これら化学重合開始剤系は、過酸化ベンゾイル-芳香族アミン化合物で構成される従来の化学重合触媒系と比較すると、依然として重合反応性が低く、硬化時間も長い。さらに、これら硬化性組成物は保存後の操作可能時間の経時的な変化が大きく、保存後の第1剤および第2剤を混合して得られる混合物は固化しやすくなるという問題があった。
【0009】
特許文献6には、ルイス酸性化合物、第三級アミン化合物およびスルフィン酸化合物から構成される、過酸化物を実質含まない化学重合開始剤も提案されている。この化学重合開始剤を含む硬化性組成物は、実質的に過酸化物を含まないことにより、その保存安定性が過酸化物の化学的安定性に左右されることが無く、常温保管時の保存安定性が大きく改善されている。しかしながら、前記硬化性組成物は過酸化物を含まないために、その硬化時間が長く、その重合性には改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第3449843号公報
【文献】特許第5683337号公報
【文献】特許第5846883号公報
【文献】特許第5773557号公報
【文献】特開第2009-144054号公報
【文献】特許第4646264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
硬化性組成物が所望の性能を発揮するためには、夫々の材料の使用環境において確実に重合し、硬化物を与える重合性を有することが望まれている。
【0012】
すなわち、本発明の目的は、酸性条件においても充分な重合性を有する硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記構成を有する硬化性組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は以下[1]~[19]に記載の事項を含む。
【0015】
[1]酸性基を有する重合性単量体(a)と、遷移金属化合物(b)と、ベンゾオキサゾール化合物およびベンゾチアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(c)と、還元剤(d)とを含有する硬化性組成物。
【0016】
[2]前記化合物(c)が、ベンゾオキサゾール環の2位にメルカプト基を有する化合物およびベンゾチアゾール環の2位にメルカプト基を有する化合物を含まない、前記[1]に記載の硬化性組成物。
【0017】
[3]前記還元剤(d)が、スルフィン酸、スルフィン酸の塩、アスコルビン酸およびアスコルビン酸の塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、前記[1]又は[2]に記載の硬化性組成物。
【0018】
[4]前記化合物(c)が、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、および下記式(1)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0019】
【0020】
[式(1)中、Xは酸素原子または硫黄原子を表し、Yは水酸基またはアミノ基を表し、R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~4の炭化水素基を表す。]
[5]前記遷移金属化合物(b)が、銅化合物およびバナジウム化合物から選ばれる少なくとも1種である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0021】
[6]酸性基を有さない重合性単量体(e)をさらに含有する、前記[1]~[5]のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0022】
[7]過酸化物(f)を実質的に含有しない、前記[1]~[6]のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0023】
[8]過酸化物(f)をさらに含有する、前記[1]~[6]のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0024】
[9]前記過酸化物(f)が、ハイドロパーオキサイド化合物およびパーオキシエステル化合物から選ばれる少なくとも1種である、前記[8]に記載の硬化性組成物。
【0025】
[10]光重合開始剤(g)、フィラー(h)、有機溶剤(i)および水(j)から選ばれる少なくとも1種をさらに含有する、前記[1]~[9]のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0026】
[11]前記遷移金属化合物(b)、前記化合物(c)および前記還元剤(d)の合計が、重合性単量体100質量部に対して、0.1~40質量部である、前記[1]~[10]のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0027】
[12]前記遷移金属化合物(b)の含有量が、重合性単量体100質量部に対して、0.001~5質量部である、前記[1]~[11]のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0028】
[13]前記化合物(c)の含有量が、重合性単量体100質量部に対して、0.1~20質量部である、前記[1]~[12]のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0029】
[14]前記還元剤(d)の含有量が、重合性単量体100質量部に対して、0.01~20質量部である、前記[1]~[13]のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0030】
[15]歯科用途に用いられる、前記[1]~[14]のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0031】
[16]前記[1]~[15]のいずれかに記載の硬化性組成物を含有し、歯科用接着性レジンセメント、歯科用コンポジットレジン、歯科用ボンディング材、歯科用裏層材、歯科用根幹充填材、歯列矯正用接着材、動揺歯固定材、歯科用シーラント、歯科用仮着セメントまたは歯科用充填材料である、歯科用組成物。
【0032】
[17]前記[1]~[15]のいずれかに記載の硬化性組成物または前記[16]に記載の歯科用組成物の硬化物。
【0033】
[18]第1剤(A)と第2剤(B)とを含む重合開始用キットであり、前記第1剤(A)が、酸性基を有する重合性単量体(a)と、遷移金属化合物(b)とを含有し、前記第2剤(B)が、ベンゾオキサゾール化合物およびベンゾチアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(c)と、還元剤(d)とを含有する、重合開始用キット。
【0034】
[19]ベンゾオキサゾール化合物およびベンゾチアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(c)と、還元剤(d)とを含有する重合開始剤。
【発明の効果】
【0035】
本発明の硬化性組成物は、化学重合型の硬化性組成物として充分な重合性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリルまたはメタクリルを意味し、例えば「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸」または「メタクリル酸」の意味である。同様に、「(メタ)アクリロイル」とは「アクリロイル」または「メタクリロイル」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」または「メタクリレート」を意味する。
【0037】
[硬化性組成物]
本発明の硬化性組成物は、酸性基を有する重合性単量体(a)と、遷移金属化合物(b)と、ベンゾオキサゾール化合物およびベンゾチアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(c)と、還元剤(d)とを含有し、必要に応じて以下に説明する(e)~(j)の成分およびその他の成分から選ばれる少なくとも1種を含有する。
【0038】
本発明の硬化性組成物は、化学重合型の硬化性組成物として充分な重合性を有する。また、本発明の硬化性組成物は、歯科材料用硬化物として充分な強度を有する硬化物を与えることができる。さらに、本発明によると、光重合開始剤を併用するデュアルキュア型の硬化性組成物を提供することも可能である。
【0039】
本発明において、遷移金属化合物(b)、化合物(c)および還元剤(d)の全部又はこれらのうち一部の組合せは、いわゆる化学重合開始剤として作用する。したがって、本発明の硬化性組成物は、化学重合開始剤を含有する。
【0040】
本発明の硬化性組成物は、一つの剤からなり、当該剤中に前記各成分を全て含有する態様でもよく、第1剤(A)および第2剤(B)のように複数の剤に分包されている態様(分包型硬化性組成物)でもよい。前者の態様、および後者の態様において分包された前記複数の剤を混合して得られた混合物を、特に「重合性混合物」ともいう。本発明では、常温以上において前記各剤を長期間保存した後に混合して調製される重合性混合物が、充分な重合活性を維持する硬化性組成物を与えることができる。
【0041】
(酸性基を有する重合性単量体(a))
酸性基を有する重合性単量体(a)が硬化性組成物に含まれることにより、接着性に優れる本発明の硬化性組成物が得られる。
【0042】
酸性基を有する重合性単量体(a)としては、例えば、酸性基含有ラジカル重合性単量体が挙げられ、歯科用接着性単量体として従来用いられている重合性単量体が使用できる。
【0043】
酸性基含有ラジカル重合性単量体に含まれるラジカル重合可能な不飽和基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基、スチリル基、ビニル基、アリル基が挙げられる。口腔内における加水分解等による重合性基の脱離のし易さなどの点から、これらのラジカル重合可能な不飽和基の中でも、(メタ)アクリロイル基および(メタ)アクリルアミド基が好ましく、メタクリロイル基および(メタ)アクリルアミド基がより好ましく、メタクリロイル基がさらに好ましい。
【0044】
酸性基を有する重合性単量体(a)に含まれる酸性基としては、例えば、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、リン酸基、チオリン酸基、ピロリン酸基、チオピロリン酸基、ホスホン酸基、チオホスホン酸基およびスルホン酸基が挙げられる。なお、これらの酸性基は、酸塩化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等の形態になっていてもよい。
【0045】
リン酸基を有する重合性単量体としては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート等のビス〔(メタ)アクリロイルオキシアルキル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシ-(1-ヒドロキシメチル)エチル〕ハイドロジェンホスフェート、ペンタアクリロイルジペンタエリスリトールハイドロジェンホスフェート、およびこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。また、これらの化合物におけるリン酸基をチオリン酸基に置き換えた化合物も挙げられる。
【0046】
ピロリン酸基を有する重合性単量体としては、例えば、ピロリン酸ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕、およびこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。また、これらの化合物におけるピロリン酸基をチオピロリン酸基に置き換えた化合物も挙げられる。
【0047】
ホスホン酸基を有する重合性単量体としては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノプロピオネート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノアセテート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノアセテート、およびこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。また、これらの化合物におけるホスホン酸基をチオホスホン酸基に置き換えた化合物も挙げられる。
【0048】
スルホン酸基を有する重合性単量体としては、例えば、2-スルホエチル(メタ)アクリレート、2-スルホ-1-プロピル(メタ)アクリレート、1-スルホ-2-プロピル(メタ)アクリレート、1-スルホ-2-ブチル(メタ)アクリレート、3-スルホ-2-ブチル(メタ)アクリレート、3-ブロモ-2-スルホ-2-プロピル(メタ)アクリレート、3-メトキシ-1-スルホ-2-プロピル(メタ)アクリレート、1,1-ジメチル-2-スルホエチル(メタ)アクリルアミド、およびこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。
【0049】
カルボン酸基またはカルボン酸無水物基を有する重合性単量体としては、例えば、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸およびテトラカルボン酸またはこれらの誘導体が挙げられ、これらの例としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、p-ビニル安息香酸、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸(メタクリレートの場合:「MAC10」)、1,4-ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルピロメリット酸、6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,2,6-トリカルボン酸、4-(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメリット酸およびその無水物、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸(メタクリレートの場合:「4-MET」)およびその無水物(メタクリレートの場合:4-META)、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリット酸およびその無水物、4-[2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシ]ブチルトリメリット酸およびその無水物、2,3-ビス(3,4-ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピル(メタ)アクリレート、N,O-ジ(メタ)アクリロイルチロシン、O-(メタ)アクリロイルチロシン、N-(メタ)アクリロイルチロシン、N-(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-O-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸(メタクリレートの場合:「5-MASA」)、N-(メタ)アクリロイル-4-アミノサリチル酸、2または3または4-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとピロメリット酸二無水物の付加生成物(メタクリレートの場合:「PMDM」)、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと無水マレイン酸または3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(メタクリレートの場合:「BTDA」)または3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の付加反応物、2-(3,4-ジカルボキシベンゾイルオキシ)-1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパン、N-フェニルグリシンまたはN-トリルグリシンとグリシジル(メタ)アクリレートとの付加物、4-[(2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸、3または4-[N-メチル-N-(2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸、およびこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。
【0050】
酸性基を有する重合性単量体(a)の中でも、歯質に対する接着性の観点から、4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸、4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物、10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートが好ましい。
【0051】
酸性基を有する重合性単量体(a)は1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
本発明の硬化性組成物中の酸性基を有する重合性単量体(a)の含有量は、重合性単量体の合計100質量部中、好ましくは1~50質量部、より好ましくは3~35質量部、さらに好ましくは5~25質量部である。このような態様であると、重合性混合物の重合性に優れ、かつ得られる硬化物の接着強度および機械的物性に優れる傾向にある。
【0053】
前記重合性単量体とは、酸性基を有する重合性単量体(a)、および後述する酸性基を有さない重合性単量体(e)を包含する。
【0054】
なお、本明細書において各成分の含有量を記載しているが、後述する分包型硬化性組成物の場合は、分包された前記複数の剤中のそれぞれの成分量を合計したときの各成分の合計量が本明細書に記載する範囲に入ればよい。
【0055】
(遷移金属化合物(b))
遷移金属化合物(b)が硬化性組成物に含まれることにより、本発明の硬化性組成物に充分な重合性を付与することができる。遷移金属化合物(b)としては、例えば、銅化合物、バナジウム化合物、コバルト化合物、ニッケル化合物、鉄化合物、モリブデン化合物が挙げられる。
【0056】
銅化合物としては、例えば、銅アセチルアセトナート、オレイン酸銅、酢酸銅、グルコン酸銅、クエン酸銅、フタル酸銅、ナフテン酸銅、水酸化銅、銅メトキシド、銅エトキシド、銅イソプロポキシド、塩化銅、臭化銅等の1価または2価の銅化合物が挙げられる。
【0057】
バナジウム化合物としては、3価~5価のバナジウム化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましく、例えば、バナジウム(III)アセチルアセトナート、ナフテン酸バナジウム(III)、バナジルステアレート、バナジウムベンゾイルアセトネート、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、オキソビス(1-フェニル-1,3-ブタンジオネート)バナジウム(IV)、バナジル(IV)アセチルアセトナート、四酸化二バナジウム(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1-フェニル-1,3-ブタンジオネート)バナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、バナジウム(V)オキシトリイソプロポキシド、五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸アンモニウム(V)が挙げられる。
【0058】
コバルト化合物としては、例えば、コバルトアセチルアセトナート、酢酸コバルト、ナフテン酸コバルト、オレイン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、2-エチルヘキサン酸コバルト、安息香酸コバルト、シュウ酸コバルト、クエン酸コバルト、炭酸コバルト、硝酸コバルト、硫酸コバルト、リン酸コバルト、過塩素酸コバルト、チオシアン酸コバルト、酸化コバルト、硫化コバルト、フッ化コバルト、塩化コバルト、臭化コバルト、水酸化コバルト、コバルトイソプロポキシドが挙げられる。
【0059】
ニッケル化合物としては、例えば、ニッケルアセチルアセトナート、ビス(ジチオベンジル)ニッケル、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル、ギ酸酢酸ニッケル、酢酸ニッケル、乳酸ニッケル、ナフテン酸ニッケル、2-エチルヘキサン酸ニッケル、シュウ酸ニッケル、クエン酸ニッケル、ステアリン酸ニッケル、過塩素酸ニッケル、酸化ニッケル、硫化ニッケル、フッ化ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、炭酸ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、水酸化ニッケル、ニッケルエトキシドが挙げられる。
【0060】
鉄化合物としては、例えば、鉄アセチルアセトナート、フェロセン、酢酸鉄、ステアリン酸鉄、2-エチルヘキサン酸鉄、シュウ酸鉄、クエン酸鉄、グルコン酸鉄、硝酸鉄、硫酸鉄、リン酸鉄、過塩素酸鉄、酸化鉄、硫化鉄、フッ化鉄、塩化鉄、臭化鉄、ヘキサシアノ鉄酸カリウム、鉄エトキシドが挙げられる。
【0061】
モリブデン化合物としては、例えば、酸化モリブデン、酸化モリブデンアセチルアセトナート、モリブデニウムエトキシド、ビス(2,4-ペンタジオナト)酸化モリブデニウム、モリブデニルジエチルジチオカルバメートが挙げられる。
【0062】
遷移金属化合物(b)の中でも、重合性混合物の重合性および保管中の安定性に優れる点から、銅化合物およびバナジウム化合物から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。また、重合性単量体への溶解度および取り扱いの観点から、1価または2価の塩化銅、臭化銅、酢酸銅、バナジウム(III)アセチルアセトナート、バナジル(IV)アセチルアセトナートが好ましい。
【0063】
遷移金属化合物(b)は1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
本発明の硬化性組成物中の遷移金属化合物(b)の含有量は、重合性単量体100質量部に対して、好ましくは0.001~5質量部、より好ましくは0.005~3質量部、さらに好ましくは0.01~1質量部である。遷移金属化合物(b)の含有量が前記下限値よりも少ない場合には、遷移金属化合物(b)を含ませたことによる効果が得られないおそれがあり、前記上限値よりも多い場合には、後述する第1剤(A)に含まれる重合性単量体が保存中に重合しやすくなる傾向がある。
【0065】
(ベンゾオキサゾール化合物およびベンゾチアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(c))
本発明の硬化性組成物は、ベンゾオキサゾール化合物およびベンゾチアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(c)を含有する。化合物(c)は、遷移金属化合物(b)の重合触媒活性を高める効果を有している。化合物(c)を本発明の硬化性組成物に配合することにより、重合性混合物の重合性が向上する。さらに、機械的強度の良好な硬化物が得られるとともに、硬化物の変色も起こりにくくなり、審美的に良好な硬化物が得られる。その理由は、ベンゾオキサゾール化合物およびベンゾチアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(c)が、遷移金属化合物(b)に対して配位子として機能し、重合性を向上させているからであると推測される。
【0066】
一実施態様において、還元剤(d)のうち、化合物(c)にも分類されえる化合物を還元剤(d)として使用する場合、当該化合物以外のベンゾオキサゾール化合物およびベンゾチアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を化合物(c)として使用することができる。また、一実施態様において、化合物(c)のうち、還元剤(d)にも分類されえる化合物を化合物(c)として使用する場合、当該化合物以外の還元剤(d)を選択して使用することができる。
【0067】
また、ベンゾオキサゾール環の2位にメルカプト基を有する化合物およびベンゾチアゾール環の2位にメルカプト基を有する化合物は、チオール由来の反応性を有しており、硬化性組成物中の重合性単量体とチオールとの反応物が生じるおそれがある。そのため、化合物(c)からは、ベンゾオキサゾール環の2位にメルカプト基を有する化合物およびベンゾチアゾール環の2位にメルカプト基を有する化合物を除くことが好ましい。
【0068】
ただし、本発明の硬化性組成物は、一実施態様において、化合物(c)として、ベンゾオキサゾール環の2位にメルカプト基を有する化合物およびベンゾチアゾール環の2位にメルカプト基を有する化合物を含んでもよい。
【0069】
化合物(c)は、ベンゾオキサゾール環および/またはベンゾチアゾール環を有していれば無置換であってもいずれの官能基を有していてもよく、公知の化合物を制限無く使用することができる。
【0070】
化合物(c)としては、例えば、ベンゾオキサゾール、2-メチルベンゾオキサゾール、2-フェニルベンゾオキサゾール、2-(2-ベンゾオキサゾリル)酢酸、2-(2-ベンゾオキサゾリル)マレイン酸、7-アミノベンゾオキサゾール、ベンゾオキサゾール4-カルボン酸、ベンゾオキサゾール7-カルボン酸、2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾオキサゾール、2-(2-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、2-メチルベンゾチアゾール、2-フェニルベンゾチアゾール、2-(2-ベンゾチアゾリル)酢酸、2-(2-ベンゾチアゾリル)マレイン酸、7-アミノベンゾチアゾール、ベンゾチアゾール4-カルボン酸、ベンゾチアゾール7-カルボン酸、2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾール、2-(2-アミノフェニル)ベンゾチアゾールが挙げられる。
【0071】
化合物(c)は、下記式(1)で示される化合物であることが好ましい。
【0072】
【0073】
式(1)中、Xは酸素原子または硫黄原子を表し、Yは水酸基またはアミノ基を表す。R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~4の炭化水素基を表す。
【0074】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0075】
炭素数1~4の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等のアルキル基が挙げられる。
【0076】
式(1)で示される化合物の具体例としては、2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾオキサゾール、2-(2-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾール、2-(2-アミノフェニル)ベンゾチアゾールが挙げられる。
【0077】
化合物(c)の中でも、組成物の重合性や保存安定性の観点から、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、式(1)で示される化合物が好ましく、ベンゾオキサゾール、2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾールがより好ましい。
【0078】
化合物(c)は1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
本発明の硬化性組成物中の化合物(c)の含有量は、重合性単量体100質量部に対して、好ましくは0.1~20質量部、より好ましくは0.5~10質量部、さらに好ましくは1~5質量部である。前記下限値よりも化合物(c)の含有量が少ない場合には、本発明の硬化性組成物に充分な重合性の向上の効果が得られないおそれがある。
【0080】
(還元剤(d))
本発明において使用される還元剤(d)としては、例えば、硫黄系還元剤、ホウ素系還元剤、アスコルビン酸又はその塩、アルデヒド類、シュウ酸又はその塩、芳香族アミン化合物が挙げられる。
【0081】
硫黄系還元剤としては、例えば、スルフィン酸又はその塩、亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩、亜硫酸水素ナトリウム等の亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸ナトリウム等のピロ亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム等のチオ硫酸塩が挙げられる。
【0082】
ホウ素系還元剤としては、例えば、テトラアルキルホウ素、トリアルキルフェニルホウ素、ジアルキルジフェニルホウ素、モノアルキルトリフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素等のアリールボレート化合物又はその塩が挙げられる。
【0083】
アルデヒド類としては、例えば、テレフタルアルデヒドおよびベンズアルデヒド誘導体が挙げられる。
【0084】
これらのうち、特に重合性を向上させることが可能であることから、スルフィン酸、スルフィン酸の塩、アスコルビン酸およびアスコルビン酸の塩から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0085】
前記塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩、アミン塩、アンモニウム塩、ピリジニウム塩が挙げられる。
【0086】
また、芳香族アミン化合物は、還元剤として硬化性組成物に配合した場合に、優れた重合促進効果を有している。しかしながら、酸性基を有する重合性単量体(a)とともに芳香族アミン化合物を用いると、前記芳香族アミン化合物が中和により失活し、その重合促進効果が低下することがある。本発明の硬化性組成物は、このような態様であっても充分な重合性を示すことができるが、前記失活の観点から、芳香族アミン化合物以外の還元剤を用いることが好ましい。
【0087】
また、重合性を向上させつつ、変色等を抑制して審美性が良好となり、歯科用途に適していることから、スルフィン酸又はその塩が特に好ましい。スルフィン酸又はその塩について、下記に詳述する。
【0088】
《スルフィン酸およびその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物(d1)》
スルフィン酸およびその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物(d1)が硬化性組成物に含まれることにより、本発明の硬化性組成物の重合性が向上する効果が得られる。
【0089】
スルフィン酸およびその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物(d1)としては、例えば、メタンスルフィン酸、エタンスルフィン酸、プロパンスルフィン酸、ヘキサンスルフィン酸、オクタンスルフィン酸、デカンスルフィン酸、ドデカンスルフィン酸等のアルカンスルフィン酸;シクロヘキサンスルフィン酸、シクロオクタンスルフィン酸等の脂環族スルフィン酸;ベンゼンスルフィン酸、o-トルエンスルフィン酸、p-トルエンスルフィン酸、エチルベンゼンスルフィン酸、デシルベンゼンスルフィン酸、ドデシルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、ナフタリンスルフィン酸等の芳香族スルフィン酸;およびこれらのナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩、アミン塩、アンモニウム塩、ピリジニウム塩等の前記スルフィン酸の塩が挙げられる。これらの中でも、硬化性組成物の保存安定性と重合性混合物の重合活性の観点で、芳香族スルフィン酸およびその塩が好ましい。
【0090】
還元剤(d)は1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0091】
本発明の硬化性組成物中の還元剤(d)の含有量は、重合性単量体100質量部に対して、好ましくは0.01~20質量部、より好ましくは0.1~10質量部、さらに好ましくは1~5質量部である。このような態様であると、重合性混合物の硬化時間、操作可能時間を考慮した重合性、得られる硬化物の接着強度に優れる傾向にある。特に、還元剤(d)が、スルフィン酸およびその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物(d1)である場合、上記の含有量であることが好ましい。
【0092】
また、本発明の硬化性組成物中の遷移金属化合物(b)、化合物(c)および還元剤(d)の合計は、重合性単量体100質量部に対して、好ましくは0.1~40質量部、より好ましくは0.5~23質量部、さらに好ましくは1~10質量部である。このような態様であると、硬化性組成物の重合性および保存安定性、硬化性組成物が与える硬化物の機械的強度に優れる傾向にある。
【0093】
(酸性基を有さない重合性単量体(e))
酸性基を有さない重合性単量体(e)が硬化性組成物に含まれることにより、得られる硬化物の様々な物性、例えば機械的強度や接着強度を向上させることができる。また、酸性基を有さない重合性単量体(e)が硬化性組成物に含まれていることにより、本発明の硬化性組成物の流動性を向上させることができる。
【0094】
酸性基を有さない重合性単量体(e)としては、例えば、酸性基を有さないラジカル重合性単量体が挙げられる。酸性基を有さないラジカル重合性単量体に含まれるラジカル重合可能な不飽和基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基、スチリル基、ビニル基、アリル基が挙げられる。口腔内における加水分解等による重合性基の脱離のし易さなどの点から、これらのラジカル重合可能な不飽和基の中でも、(メタ)アクリロイル基および(メタ)アクリルアミド基が好ましく、メタクリロイル基および(メタ)アクリルアミド基がより好ましく、メタクリロイル基がさらに好ましい。
【0095】
酸性基を有さないラジカル重合性単量体としては、例えば、
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、N-メチル-N-フェニルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-エチル-N-フェニルアミノエチル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N、N-(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2,3-ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムクロライドおよび(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド等の1官能性単量体;
2,2-ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(通称「Bis-GMA」)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、1,4-ビス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテート等の芳香環を有する2官能性単量体;
グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-ビス(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、1,6-ビス(メタクリロキシエチルオキシカルボニルアミノ)-2,2,4-トリメチルヘキサン(通称「UDMA」)、1,2-ビス(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン等の脂肪族炭素鎖を有する2官能性単量体;
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリス(2-(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラアクリロイルオキシメチル-4-オキシヘプタン等の3官能以上の多官能性単量体;
ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHMDI)等のイソシアネート基(-NCO)を有する化合物と、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N、N-(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、1,2-ビス〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリールのトリまたはテトラ(メタ)クリレート等の水酸基(-OH)を有する(メタ)アクリレート化合物とを付加反応させることにより合成される重合性単量体(例えば、国際公開第2012/157566号、国際公開第2015/015220号、国際公開第2015/015221号、特開2016-094482号公報に記載);
が挙げられる。
【0096】
酸性基を有さないラジカル重合性単量体(e)の中でも、物性や取扱いの容易さの観点から、1,6-ビス(メタクリロキシエチルオキシカルボニルアミノ)-2,2,4-トリメチルヘキサン(UDMA)、ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート(Bis-GMA)、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパンのうち、エトキシ基の平均付加モル数が2.6である化合物(通称「D-2.6E」)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、グリセロールジメタクリレート(GDMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)が好ましい。
【0097】
酸性基を有さない重合性単量体(e)は1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0098】
本発明の硬化性組成物中の酸性基を有さない重合性単量体(e)の含有量は、重合性単量体の合計100質量部中、好ましくは50~99質量部、より好ましくは65~97質量部、さらに好ましくは75~95質量部である。このような態様であると、硬化性組成物の流動性を向上でき、その重合性混合物から得られる硬化物の機械的強度や接着強度などを向上させることができる。
【0099】
(過酸化物(f))
本発明の硬化性組成物は、過酸化物(f)を実質的に含有しなくてもよいが、実施形態次第では過酸化物(f)を含有していてもよい。硬化性組成物に過酸化物(f)を配合することにより、その重合性混合物の重合性が向上し、得られる硬化物の機械的強度や接着強度に優れる傾向にある。
【0100】
過酸化物(f)としては、公知の化合物を何の制限を受けることなく使用することができる。例えば、過酸化ベンゾイル等のジアシルバーオキサイド化合物、t-ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル化合物、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等のアルキル過酸化物、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド化合物、過流酸塩等の無機過酸化物が挙げられる。本発明の硬化性組成物へ配合した場合に得られる効果の高さから、特にパーオキシエステル化合物およびハイドロパーオキサイド化合物が好ましい。遷移金属化合物(b)としてバナジウム化合物を用いる場合は、特にハイドロパーオキサイド化合物を用いることが好ましい。
【0101】
パーオキシエステル化合物としては、ペルオキシ基(-OO-基)の一方にアシル基、もう一方に炭化水素基(またはそれに類する有機基)を有するものであれば公知のものを何ら制限なく使用することができる。具体的には、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシイソノナノエート、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(m-トルオイルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン等が挙げられる。これらの中でも、保存安定性と重合活性の観点から、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソノナノエートが好ましい。
【0102】
ハイドロパーオキサイド化合物としては、ペルオキシ基(-OO-基)の一方に炭化水素基(またはそれに類する有機基)、もう一方に水素を有するものであれば公知のものを何ら制限なく使用することができる。具体的には、p-メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-へキシルハイドロパーオキサイド、t-アミルハイドロパーオキサイドが挙げられる。これらの中でも、保存安定性と重合活性の観点から、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドが好ましい。
【0103】
過酸化物(f)は1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0104】
本発明の硬化性組成物に過酸化物(f)を配合する場合、重合性混合物の硬化時間、操作可能時間、得られる硬化物の色調安定性に悪い影響を与えない範囲で配合することが好ましい。本発明の硬化性組成物中の過酸化物(f)の含有量は、重合性単量体100質量部に対して、好ましくは0.01~5質量部、より好ましくは0.05~3質量部、さらに好ましくは0.1~1質量部である。
【0105】
いくつかの実施形態では、本発明の硬化性組成物は、過酸化物(f)を実質的に含有しなくてよい。本発明の硬化性組成物が過酸化物(f)を実質的に含有しないとは、具体的には、本発明の硬化性組成物中の過酸化物(f)の含有量が、重合性単量体100質量部に対して、0.01質量部未満であることを意味する。
【0106】
(光重合開始剤(g))
本発明の硬化性組成物は、光重合開始剤(g)が含有することが好ましい一態様である。本発明の硬化性組成物に光重合開始剤(g)を配合することにより、デュアルキュア型の硬化性組成物の提供が可能となり、光照射による組成物の硬化が可能になる。
【0107】
光重合開始剤(g)としては、公知のものを何ら制限なく使用することができ、例えば、α-ジケトン/還元剤、ケタール/還元剤、チオキサントン/還元剤、アシルホスフィンオキサイド化合物が挙げられる。α-ジケトン/還元剤とは、α-ジケトンと還元剤との組合せを意味し、その他の用例も同様である。また、α-ジケトン/還元剤中の「還元剤」は、光重合開始剤(g)における還元剤を意味し、化学重合開始剤における還元剤として使用される上述の還元剤(d)は含まない。その他の用例も同様である。
【0108】
光重合開始剤(g)がα-ジケトン/芳香族アミン化合物である場合、芳香族アミン化合物は芳香環に結合する水素原子のうち少なくともひとつが電子求引性基(ハロゲン基を含む)で置換された芳香族アミン化合物を含むことがさらに好ましい。
【0109】
α-ジケトンとしては、例えば、ジアセチル、2,3-ペンタジオン、2,3-ヘキサジオン、ベンジル、4,4'-ジメトキシベンジル、4,4'-ジエトキシベンジル、4,4'-オキシベンジル、4,4'-ジクロルベンジル、4-ニトロベンジル、α-ナフチル、β-ナフチル、カンファーキノン(CQ)、カンファーキノンスルホン酸、カンファーキノンカルボン酸、1,2-シクロへキサンジオン、メチルグリオキザール、フェニルグリオキザール、ピルビン酸、ベンゾイルギ酸、フェニルピルビン酸、ピルビン酸メチル、ベンゾイルギ酸エチル、フェニルピルビン酸メチル、フェニルピルビン酸ブチルが挙げられる。
【0110】
ケタールとしては、例えば、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールが挙げられる。
【0111】
チオキサントンとしては、例えば、2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-ヒドロキシ-3-(9-オキシ-9H-チオキサンテン-4-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(1-メチル-9-オキシ-9H-チオキサンテン-4-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(1,3,4-トリメチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライドが挙げられる。
【0112】
アシルホスフィンオキサイド化合物としては、例えば、ベンゾイルジメトキシホスフィンオキシド、ベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2-メチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシドが挙げられる。
【0113】
上記還元剤としては、例えば、過酸化水素等の過酸化物、ミヒラーケトン;
シトロネラール、ラウリルアルデヒド、フタルジアルデヒド、ジメチルアミノベンズアルデヒドおよびテレフタルアルデヒド等のアルデヒド類;
デカンチオール、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、4-メルカプトアセトフェノン、チオサリチル酸、チオ安息香酸等のメルカプタン類;
N,N-ジメチルアミノ安息香酸メチル、N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル(DMABAE)、N,N-ジメチルアミノ安息香酸ブトキシエチル(DMABABE)などのN,N-ジメチルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステル、N,N-ジエチルアミノ安息香酸(DEABA)およびそのアルキルエステル、N,N-ジメチルアミノベンズアルデヒド(DMABAd)、N,N-ジメチルアミノベンゾフェノン、N,N-ジメチル-p-フルオロアニリン等の、芳香環に結合する水素原子のうち少なくともひとつが電子求引性基(ハロゲン原子を含む)で置換された芳香族アミン化合物;
が挙げられる。
【0114】
光重合開始剤(g)の中でも、可視光領域に吸収波長を有し、可視光線で重合させることが可能な観点から、カンファーキノンおよび/またはアシルホスフィンオキサイド化合物を含有する光重合開始剤が好ましく、特に、468nmに吸収波長を有するカンファーキノンを含有する光重合開始剤がより好ましい。
【0115】
カンファーキノン/還元剤を含有する光重合開始剤としては、例えば、カンファーキノン/芳香族アミン化合物を含有する重合開始剤、カンファーキノン/過酸化水素等の過酸化物を含有する光重合開始剤、カンファーキノン/アルデヒド類を含有する重合開始剤、カンファーキノン/メルカプタン類を含有する重合開始剤が挙げられる。これらの中でも、カンファーキノン/芳香族アミン化合物を含有する重合開始剤が好ましい。用いる芳香族アミン化合物としては、光重合の重合促進効果と取り扱いの観点から、DMABAE、DMABABEが好ましい。
【0116】
光重合開始剤(g)は1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0117】
本発明の硬化性組成物中の光重合開始剤(g)の含有量は、重合性単量体100質量部に対して、好ましくは0.001~5質量部、より好ましくは0.005~2質量部、さらに好ましくは0.01~1質量部である。光重合開始剤(g)の含有量が前記下限値よりも少ないと、硬化性組成物の光照射による硬化が充分に進行しない場合があり、前記上限値よりも多いと、重合性混合物が光重合開始剤(g)由来の色調に呈色したり、保存中に組成物が硬化したりする場合がある。
【0118】
(フィラー(h))
本発明の硬化性組成物は、フィラー(h)を含有してもよい。硬化性組成物にフィラー(h)が含まれていることにより、例えば、硬化性組成物の流動性、稠度、色調および硬化性などを調整することができ、X線不透過性の付与、得られた硬化物の機械的強度を向上させることができる。フィラー(h)としては、一般的に汎用される公知のフィラーを制限無く使用することができる。
【0119】
フィラー(h)は、通常、有機フィラーと無機フィラーに大別される。
【0120】
有機フィラーとしては、例えば、重合体の粉砕または重合性単量体の分散重合によって得られた粉末重合体のフィラーや、架橋剤を含む重合性単量体を重合させた後、粉砕して得られるフィラーが挙げられる。有機フィラーとしては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸プロピル、ポリメタクリル酸ブチル(PBMA)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリエチレングリコール(PEG)やポリプロピレングリコール(PPG)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリウレタン、ポリウレア、メタクリル酸メチル-メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、エチレン-酢酸ビニル共重合体およびスチレン-ブタジエン共重合体等の重合性単量体の単独重合体または共重合体の微粉末が挙げられる。また、有機フィラーは、有機フィラーの調製時に、公知の色素や生物活性成分、重合開始剤などの成分を添加して得られた物であってもよい。
【0121】
無機フィラーとしては、例えば、各種ガラス類(二酸化珪素を主成分とし、必要に応じ、重金属、ホウ素およびアルミニウム等の酸化物を含有する)、各種セラミック類、珪藻土、カオリン、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、活性白土、合成ゼオライト、マイカ、フッ化カルシウム、フッ化イッテルビウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、酸化バリウム、酸化ランタン、酸化ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化ビスマス、酸化イットリウム、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、水酸化アルミニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化イッテルビウム等の微粉末が挙げられる。このような無機フィラーの具体例としては、例えば、バリウムボロシリケートガラス微粉末(キンブルレイソーブT3000、ショット8235、ショットGM27884、ショットG018-053およびショットGM39923など)、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス微粉末(レイソーブT4000、ショットG018-093、ショットG018-163およびショットGM32087など)、ランタンガラス微粉末(ショットGM31684など)、フルオロアルミノシリケートガラス微粉末(ショットG018-091およびショットG018-117など)、ジルコニウムおよび/またはセシウム含有のボロアルミノシリケートガラス微粉末(ショットG018-307、G018-308およびG018-310など)が挙げられる。
【0122】
また、これら無機フィラーに重合性単量体を予め添加し、ペースト状にした後、重合・硬化させ、粉砕して得られる有機無機複合フィラーを用いても差し支えない。有機無機複合フィラーとしては、例えば、無機質フィラーのうちの微粉末シリカまたは酸化ジルコニウムなどをトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(TMPT)を主成分とする重合性単量体で重合被覆し、得られた重合体を粉砕したフィラー(TMPT・f)が挙げられる。
【0123】
粒径が0.1μm以下のミクロフィラーが配合された歯科材料は、歯科用コンポジットレジンに好適な態様の一つである。かかる粒径の小さなフィラーの材質としては、シリカ(例えば、商品名アエロジル)、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどが好ましい。このような粒径の小さい無機フィラーの配合は、硬化物の研磨滑沢性および耐摩耗性を得る上で有利である。
【0124】
これらのフィラーに対して、目的に応じて、シランカップリング剤などにより表面処理が施される。無機フィラーまたは有機無機複合フィラーを用いる場合、本発明に使用される重合性単量体との親和性や分散性を良好にするため、公知の表面処理剤でフィラー表面を処理して用いるのが好ましい。かかる表面処理剤としては、公知のシランカップリング剤を制限無く使用することができる。例えば、γ-メタクリルオキシアルキルトリメトキシシラン(メタクリルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12)、γ-メタクリルオキシアルキルトリエトキシシラン(メタクリルオキシ基と珪素原子との間の炭素数:3~12)、ビニルトリメトキシシラン、ビニルエトキシシランおよびビニルトリアセトキシシラン等の有機珪素化合物が使用される。表面処理剤の濃度は、フィラー100質量部に対して、通常0.1~20質量部、好ましくは0.5~10質量部の範囲で使用される。また、シランカップリング剤以外にも、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、ジルコ-アルミネート系カップリング剤等により表面処理して用いてもよい。さらには、充填材粒子表面に前記ラジカル重合性単量体をグラフト重合させて用いてもよい。表面処理の方法としては、公知の方法を特に限定されずに用いることができる。
【0125】
これらのフィラー(h)は、本発明の硬化性組成物の用途に応じて、適宜添加することができる。フィラー(h)は1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0126】
フィラー(h)の含有量はその用途に応じて適宜設定できる。例えば分包型硬化性組成物の場合には、フィラー(h)の含有量は、第1剤(A)および第2剤(B)に含まれる重合性単量体の合計100質量部に対して、好ましくは10~900質量部、より好ましくは40~400質量部、さらに好ましくは60~240質量部である。このような態様であると、本発明の分包型硬化性組成物を歯科用接着性レジンセメントまたは歯科用コンポジットレジン等として用いる場合に好ましい。
【0127】
(有機溶剤(i)及び/又は水(j))
本発明の硬化性組成物は、有機溶剤(i)を含有してもよい。有機溶剤(i)としては、例えば、アセトン、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ヘキサン、トルエン、酢酸エチル、ジクロロメタンが挙げられる。本発明の硬化性組成物を歯科材料用途に使用する場合、接着性および歯面に対する親和性の観点から、アセトン、エタノール、イソプロパノール等の水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。水溶性有機溶剤とは、任意の割合で水と均一な溶液を形成する有機溶剤のことである。
【0128】
本発明の硬化性組成物は、水(j)を含有してもよい。水(j)としては、重合性ならびに接着性に悪影響を与える不純物が無いように、蒸留水やイオン交換水を用いることが好ましい。
【0129】
本発明の硬化性組成物に有機溶剤(i)を配合する場合、その含有量は、重合性単量体と、有機溶剤(i)と、水(j)との合計100質量部中、好ましくは5~95質量部、より好ましくは10~90質量部、さらに好ましくは20~75質量部である。このような態様であると、本発明の硬化性組成物の均一性や流動性、接着強度を向上することができる。
【0130】
本発明の硬化性組成物に水(j)を配合する場合、その含有量は、重合性単量体と、有機溶剤(i)と、水(j)との合計100質量部中、好ましくは0.5~50質量部、より好ましくは1~40質量部、さらに好ましくは5~30質量部である。このような態様であると、本発明の硬化性組成物の均一性や流動性、接着強度を向上することができる。
【0131】
(その他の成分)
本発明の硬化性組成物には、硬化性組成物としての保存安定性や機能を損なわない限り、上記以外のその他の成分を、目的に応じて適宜含有してもよい。
【0132】
例えば、硬化性組成物の保存安定性等を向上させるために、重合禁止剤、紫外線吸収剤等の各種安定剤を含有してもよく、色調を調整するために、公知の顔料、染料、蛍光剤等を含有してもよい。また、塩化カルシウム等のカルシウム含有化合物、フッ化ナトリウム等のフッ素含有化合物、防カビ剤、抗菌剤、治療および生物活性成分などを含有してもよい。さらに、得られる硬化物の機械的強度を向上させるために、公知のファイバー等の補強材を含有してもよい。
【0133】
上記その他の成分それぞれの含有量は、本発明の効果を損なわないこと、およびその他の成分の特性を発揮する観点から、重合性単量体100質量部に対して、好ましくは0.00001~10質量部、より好ましくは0.00005~5質量部、さらに好ましくは0.0001~1質量部である。
【0134】
[分包型硬化性組成物]
本発明の硬化性組成物は、例えば、第1剤(A)および第2剤(B)のように複数の剤に分包されていてもよく、すなわち分包型硬化性組成物であってもよく、これら各剤の形態としては、例えば、ペースト、液等の形態が挙げられる。
【0135】
取り扱いの容易性の観点から、第1剤(A)および第2剤(B)ともにペースト状または液状であることが好ましい。本発明の硬化性組成物が、第1剤(A)および第2剤(B)ともにペースト状製剤である2ペースト型組成物である場合は、歯科用接着性レジンセメントに好適である。また、本発明の硬化性組成物が、第1剤(A)および第2剤(B)ともに液状製剤である2液型組成物である場合は、歯科用接着材に好適である。分包型硬化性組成物は、第3剤(C)等のその他の剤を有してもよい。
【0136】
本発明の硬化性組成物は、通常、第1剤(A)と第2剤(B)とから構成され、夫々の成分が必要に応じて各々の製剤に別々に保存される。第1剤(A)に含まれる各成分が複数の剤にさらに分包されていてもよい。第2剤(B)に含まれる各成分が複数の剤にさらに分包されていてもよい。
【0137】
(第1剤(A))
第1剤(A)は、酸性基を有する重合性単量体(a)と、遷移金属化合物(b)とを含有することが好ましい。また、第1剤(A)に酸性基を有する重合性単量体(a)、および遷移金属化合物(b)が含まれることにより、保存中にその性能が損なわれることがなく、第2剤(B)に含まれる成分に悪影響を与えることがない。
【0138】
(第2剤(B))
第2剤(B)は、ベンゾオキサゾール化合物およびベンゾチアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(c)と、還元剤(d)(例えば、スルフィン酸およびその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物(d1))とを含有することが好ましい。
【0139】
酸性基を有さない重合性単量体(e)は、第1剤(A)および第2剤(B)のどちらか一方に含まれていても両方に含まれていてもよく、両方に含まれていることが好ましい。第1剤(A)と第2剤(B)の両方に酸性基を有さない重合性単量体(e)が含まれる場合には、第1剤(A)に含まれるものと第2剤(B)に含まれるものとは同一でも異なっていてもよい。
【0140】
本発明の硬化性組成物に過酸化物(f)が含まれる場合には、過酸化物(f)は第2剤(B)に含まれることが好ましい。第2剤(B)中で過酸化物(f)を保存することにより、保存中に第1剤(A)中の成分に悪い影響を与えず、保存中にその活性が低下しない傾向にある。
【0141】
本発明の硬化性組成物に光重合開始剤(g)が含まれる場合には、保存安定性の観点から、光重合開始剤(g)は第2剤(B)に含まれることが好ましい。また、光重合開始剤(g)は、第1剤(A)および第2剤(B)以外の別の剤(例えば第3剤(C))に含ませることも好ましい態様である。例えば、光重合開始剤(g)としてカンファーキノン、アシルホスフィンオキサイド化合物が第3剤(C)等に含まれる場合、第2剤(B)に含まれ得る酸性基を有さない重合性単量体(e)の保存安定性をより向上することができる。
【0142】
フィラー(h)、有機溶剤(i)および水(j)は、第1剤(A)および第2剤(B)のどちらか一方または両方に含まれていてもよい。第1剤(A)と第2剤(B)の両方にフィラー(h)および/または有機溶剤(i)が含まれる場合には、第1剤(A)に含まれるものと第2剤(B)に含まれるものとは同一でも異なっていてもよい。
【0143】
第1剤(A)と第2剤(B)との混和質量比は、得られる重合性混合物の硬化性および接着操作に使用できる時間(操作可能時間)などから適宜設定できるが、1:10~10:1が好ましく、1:5~5:1がより好ましく、1:2~2:1がさらに好ましい。
【0144】
本発明の硬化性組成物は、分包された各剤を混合して得られた重合性混合物を、20~50℃、例えば、常温または体温(37℃)付近で硬化させることができ、得られる硬化物は、歯科治療用途等の歯科用途に用いることができる。また、本発明の硬化性組成物は、常温以上でも硬化させることができる。一実施態様では、本発明の硬化性組成物は、例えば10~120℃で硬化させることもできる。
【0145】
また、硬化性組成物の成分として光重合開始剤(g)が含まれる場合は、分包された各剤を混合して得られた重合性混合物を所定の形状に加工したのち、公知の光照射装置を用いて所定の時間可視光を照射することにより、所望の硬化物を得ることができる。照射強度、照射時間等の条件は、本発明の分包型硬化性組成物の硬化性に合わせて適切に変更することができる。また、光照射後の硬化物を、さらに適切な条件で熱処理をすることにより、得られる硬化物の機械的物性を向上させることもできる。
【0146】
本発明の硬化性組成物は、種々の歯科治療用途等の歯科用途に好適に用いることができる。本発明の硬化性組成物は、例えば、歯科用接着性レジンセメント、歯科用コンポジットレジン(自己接着性を有するものを含む。以下同じ)、歯科用ボンディング材、歯科用裏層材、歯科用根幹充填材、歯列矯正用接着材、動揺歯固定材、歯牙小窩裂溝封鎖材(歯科用シーラント)、歯科用仮着セメント、歯科用充填材料などとして用いることができる。
【0147】
本発明の硬化性組成物は、歯科材料の使用方法として一般に知られている方法で使用することができる。例えば、本発明の分包型硬化性組成物を、歯科用接着性レジンセメント、歯科用コンポジットレジン等として使用する場合には、分包型硬化性組成物に含まれる各剤を混合して得た重合性混合物を単独で接着面に塗布して用いることができる。また、本発明の硬化性組成物を歯科材料として使用する場合には、さらに他の歯科材料とともに使用してもよい。例えば、被着体の接着面にボンディング材やプライマー等の他の組成物で処理した後に、本発明の硬化性組成物から調製される重合性混合物を塗布して用いることもできる。さらには、本発明の硬化性組成物をボンディング材として、被着体の被着面に対して直接塗布した後、歯科用コンポジットレジン等の他の硬化性組成物を充填して用いることもできる。
【0148】
本発明の硬化性組成物は、良好な重合性を有する。また、過酸化物を実質的に含有しない硬化性組成物である場合も充分な機械的強度を有する硬化物を与える硬化性組成物を調製することができる。さらに、常温以上の長期保存安定性に優れる硬化性組成物を調製することもできる。
【0149】
本発明の硬化性組成物の37℃における硬化時間は、0.5~4分が好ましく、0.8~3.5分がより好ましく、1~3分がさらに好ましい。また、本発明の硬化性組成物から形成された硬化物の三点曲げ強度は、50MPa以上が好ましく、70MPa以上がより好ましく、80MPa以上がさらに好ましい。三点曲げ強度は高い方が好ましく、その上限は特に限定されないが、例えば240MPa等であってもよい。さらに、本発明の硬化性組成物を55℃で3週間保存した後の37℃における硬化時間が3分以内であることが好ましく、1~3分がより好ましい。なお、本発明の硬化性組成物の硬化時間、三点曲げ強度、保存安定性の評価は実施例に記載された方法により求めたものである。
【0150】
[重合開始用キット]
上述の本発明の分包型硬化性組成物は、重合開始用キットとして用いることができる。すなわち、本発明の重合開始用キットは、第1剤(A)と第2剤(B)とを含む。第1剤(A)は、酸性基を有する重合性単量体(a)と、遷移金属化合物(b)を含有する。第2剤(B)は、ベンゾオキサゾール化合物およびベンゾチアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(c)と、還元剤(d)とを含有する。
【0151】
本発明の重合開始用キットにおいて、第1剤(A)および第2剤(B)は、通常、別々の容器に収容される。第1剤(A)に含まれる各成分が複数の剤にさらに分包されていてもよい。第2剤(B)に含まれる各成分が複数の剤にさらに分包されていてもよい。
【0152】
すなわち、第1剤(A)に含まれる各成分は、同一の容器に収容されていてもよく、別々の容器に収容されていてもよい。例えば、第1剤(A)に含まれる酸性基を有する重合性単量体(a)および遷移金属化合物(b)が、同一の容器に収容されていてもよく、別々の容器に収容されていてもよい。また、第2剤(B)に含まれる各成分は、同一の容器に収容されていてもよく、別々の容器に収容されていてもよい。例えば、第2剤(B)に含まれる化合物(c)および還元剤(d)が、同一の容器に収容されていてもよく、別々の容器に収容されていてもよい。
【0153】
本発明の重合開始用キットは、上述の本発明の硬化性組成物同様の用途に使用でき、好適な用途も同様である。
【0154】
[重合開始剤]
上述の本発明の分包型硬化性組成物における第2剤(B)は、重合開始剤として用いてもよい。すなわち、本発明の重合開始剤は、ベンゾオキサゾール化合物およびベンゾチアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(c)と、還元剤(d)とを含むことができる。
【実施例】
【0155】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例に使用した化合物の略号を以下に示す。
【0156】
[酸性基を有する重合性単量体(a)]
4-MET:4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸
(サンメディカル株式会社製)
MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート(富士フィルム和光純薬株式会社製)
[遷移金属化合物(b)]
VO(acac)2:バナジル(IV)アセチルアセトナート
(東京化成工業株式会社製、使用前に乳鉢で粉砕したものを使用)
V(acac)3:バナジウム(III)アセチルアセトナート
(シグマ-アルドリッチ社製)
Cu(OAc)2:酢酸銅(II)(富士フィルム和光純薬株式会社製)
CuCl:塩化銅(I)(富士フィルム和光純薬株式会社製)
CuCl2:塩化銅(II)(富士フィルム和光純薬株式会社製)
CuBr2:臭化銅(II)(シグマ-アルドリッチ社製)
[ベンゾオキサゾール化合物およびベンゾチアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(c)]
HPBO:2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾオキサゾール
(東京化成工業株式会社製)
HPBT:2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾール
(東京化成工業株式会社製)
BO:ベンゾオキサゾール(東京化成工業株式会社製)
BT:ベンゾチアゾール(富士フィルム和光純薬株式会社製)
PBT:2-フェニルベンゾチアゾール(東京化成工業株式会社製)
APBT:2-(2-アミノフェニル)ベンゾチアゾール
(シグマ-アルドリッチ社製)
[ベンゾイミダゾール化合物]
HPBI:2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾイミダゾール
(シグマ-アルドリッチ社製)
[還元剤(d)]
[スルフィン酸およびその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物(d1)]
p-TSS:p-トルエンスルフィン酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社製、購入後70℃で減圧乾燥し、乳鉢で粉砕したもの)
[芳香族アミン化合物]
DEPT:N,N-ジエタノール-p-トルイジン
(富士フィルム和光純薬株式会社製)
[酸性基を有さない重合性単量体(e)]
UDMA:1,6-ビス(メタクリロキシエチルオキシカルボニルアミノ)-2,2,4-トリメチルヘキサン(公知のウレタン化反応の手法に従い、HEMAと2,2,4-トリメチルヘキシルジイソシアネートとの2:1とで自製した化合物)
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
(新中村化学工業株式会社製)
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
(三菱ケミカル株式会社製)
[過酸化物(f)]
TMBHP:1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド(アルケマ吉富株式会社製、商品名「ルペロックス215」)
BPO:過酸化ベンゾイル(東京化成工業株式会社製)
[光重合開始剤(g)]
CQ:d,l-カンファーキノン(富士フィルム和光純薬株式会社製)
DMABAE:N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル
(富士フィルム和光純薬株式会社製)
[フィラー(h)]
F1:シラン処理バリウムガラス粉、シラン処理フルオロアルミノシリケート粉など(SCHOTT社製、商品名「GM8235」、「G018-117」など)
R812:微粒子シリカ
(日本アエロジル株式会社製、商品名「エアロジルR812」)
[有機溶剤(i)]
Acetone:アセトン(富士フィルム和光純薬株式会社製)
EtOH:エタノール(富士フィルム和光純薬株式会社製)
[水(j)]
蒸留水:蒸留水製造装置(東京理化器械株式会社製)により製造したもの
[その他の成分:重合禁止剤]
BHT:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール
(東京化成工業株式会社製)
MEHQ:4-メトキシフェノール(富士フィルム和光純薬株式会社製)
下記表1および表2に記載の各配合(表の各数値は質量部)にしたがって、各成分を混合して第1剤(A)および第2剤(B)を調製し、これら2剤の総質量比が1:1の分包型硬化性組成物を作製した。
【0157】
【0158】
【0159】
<硬化時間測定法(ISO4049準拠)>
各実施例および比較例の硬化時間は、示差走査熱量計(DSC)を用いた示差熱分析法により測定した。なお、測定装置としては、DSC 3500 Sirius(NETZSCH社製)を用いた。
【0160】
具体的には、20~25℃に設定した室温下、歯科用練和紙上に等量(質量基準)採取した第1剤(A)と第2剤(B)を歯科用スパチュラで10秒間混合して、重合性混合物を得て、得られた重合性混合物をDSC測定用のAl製サンプルパンに充填した。
【0161】
重合性混合物を充填したAl製サンプルパンを、37±1℃に設定したDSCの恒温槽に測定直前に設置し、練和開始40秒後に測定を開始した。重合性混合物の硬化反応によって温度が上昇し、最高温度に達した時点までの時間を硬化時間として記録した。
【0162】
<三点曲げ強度測定法(ISO4049準拠)>
20~25℃に設定した室温下、歯科用練和紙上に等量(質量基準)採取した第1剤(A)と第2剤(B)を歯科用スパチュラで10秒間混合して、均一な重合性混合物とした。得られた重合性混合物を2mm×2mm×25mmの試験体作用の型に充填し、裏表両面からルミラーフィルムで圧接し、対応する重合方法で重合させた。
【0163】
化学重合のみで試験体を作成する場合、重合性混合物を充填した型を37±1℃に設定した恒温器で1時間重合させて得られた硬化物を試験体とした。
【0164】
光重合により試験体を作成する場合、前記室温下において技工用LED照射器により裏表1分30秒ずつ光照射して得られた硬化物を試験体とした。尚、技工用LED照射器は「アルファライトV(株式会社モリタ社製/光源:LEDランプ、400~408nm;465~475nm)」であり、紫外線積算光量計「UIT-250/ウシオ電機株式会社製」で測定した光源405nmの照度:60mW/cm2及び1分30秒間の集積光量:5,100mJ/cm2の装置を使用した。
【0165】
各々の試験体を型から外して蒸留水に浸漬して、37±1℃の恒温器中で18時間保管後、試験体を取り出し、万能試験機(株式会社インテスコ社製)を用いて三点曲げ破壊強度を測定した。前記破壊強度測定試験はクロスヘッドスピード1mm/minの荷重速度で試験体が破折するまで荷重を加えて実施し、得られた最大点応力より硬化物の強度を算出した。また、この試験において、本発明の硬化性組成物により得られた硬化物の弾性率も併せて算出した。尚、曲げ強度および弾性率の測定結果は、同一条件で複数の試験体を用いて、測定した各測定値の平均値として算出したものである。
【0166】
<保存安定性試験>
調製直後の第1剤(A)と第2剤(B)について、上述の方法で硬化時間を測定した後、これとは別に準備した第1剤(A)と第2剤(B)を55℃に設定した恒温器内に3週間保存した。2週間または3週間後にそれぞれの第1剤(A)および第2剤(B)を取り出し、上述した方法に従って硬化時間を測定した。
【0167】
硬化時間が3分以内であれば、評価した重合性混合物が充分な硬化性を有すると判断することができる。また、得られた硬化物の三点曲げ強度が、80MPa以上であれば充分な強度を有する硬化物を与えると判断できる。さらに、保存安定性を評価した重合性混合物の硬化時間が、保存安定性試験後に3分以内であれば、硬化性組成物は充分な重合性を維持しており、保存安定性に優れると判断できる。
【0168】
[実施例1~24、比較例1~5]
表3に示すように、表1および表2で作成した第1剤(A)および第2剤(B)の組み合せの硬化性組成物それぞれについて、上述の方法にしたがって、硬化時間を測定した。
【0169】
【0170】
過酸化物(f)を含有しない実施例1~19は、良好な硬化時間を示した。一方、遷移金属化合物(b)を含有しない比較例1は、10分以内に硬化せず、ベンゾオキサゾール化合物およびベンゾチアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(c)を含有しない比較例2、3は、重合性が低下した。化合物(c)ではないベンゾイミダゾール化合物を用いた比較例4は、充分な重合促進効果は得られなかった。また、比較例5のように、過酸化物(f)の配合量が少ない過酸化物系の化学重合開始剤を含む硬化性組成物においても、充分な重合性を示さなかった。
【0171】
過酸化物(f)を配合した実施例20は、重合性が向上した。さらに、有機溶剤(i)および水(j)を配合した実施例21~24においても、良好な硬化時間を与えた。
【0172】
[実施例25~37、比較例6]
表4に示すように、表1および表2で作成した第1剤(A)および第2剤(B)の組み合せの硬化性組成物それぞれについて、上述の方法にしたがって、三点曲げ強度および弾性率を測定した。表4の括弧内には、各測定結果の標準偏差を記述した。
【0173】
【0174】
化学重合で硬化させた実施例25~31の硬化物は、良好な機械的強度を示した。また、光重合開始剤(g)を配合したデュアルキュア材料である実施例32~37の硬化物も、充分な機械的強度を示した。一方、比較例6のように、過酸化物(f)の配合量が少ない過酸化物系の化学重合開始剤を含む硬化性組成物からなる硬化物の機械的強度は、実施例25~37と比較して低下した。
【0175】
[実施例38~44]
表5に示すように、表1および表2で作成した第1剤(A)および第2剤(B)の組み合せの硬化性組成物それぞれについて、前述の方法により保存安定性を評価した。実施例38~44で作成した硬化性組成物は、55℃、3週間保管後も充分な重合性を維持しており、優れた保存安定性を示した。
【0176】