(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素に特異的に結合する抗体及び使用方法
(51)【国際特許分類】
C07K 16/12 20060101AFI20220328BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220328BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220328BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220328BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
C07K16/12
C12N15/13 ZNA
A61P11/00
A61P31/04
A61K39/395 R
(21)【出願番号】P 2020108083
(22)【出願日】2020-06-23
(62)【分割の表示】P 2018127340の分割
【原出願日】2012-02-07
【審査請求日】2020-07-21
(32)【優先日】2011-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504333972
【氏名又は名称】メディミューン,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【氏名又は名称】田中 夏夫
(72)【発明者】
【氏名】セルマン,ブレット
(72)【発明者】
【氏名】トカツィク,クリスティーン
(72)【発明者】
【氏名】フア,レイ
(72)【発明者】
【氏名】チャウダリー,パーサ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァーキー,リーナ
(72)【発明者】
【氏名】ダムシュローダー,メリッサ
(72)【発明者】
【氏名】ペン,リー
(72)【発明者】
【氏名】オガネスヤン,ヴァエ
(72)【発明者】
【氏名】ヒリアード,ジェームズ,ジョンソン
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-538015(JP,A)
【文献】Infect. Immun.,2009年,Vol. 77,p. 2712-2718
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00 - 16/46
C12N 15/00 - 15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素に免疫特異的に結合する単離された抗体又はその抗原結合断片であって、
前記抗体又はその抗原結合断片が、α毒素オリゴマーの形成を阻害し、
前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号39の残基T261、T263、N264、K266及びK271と接触する、
前記単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
前記単離された抗体又はその抗原結合断片が配列番号39の残基T261、T263、N264、K266、K271、N177、W179、G180、P181、Y182、D183、D185、S186、W187、N188、P189、V190、Y191及びR200と接触する、請求項1に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
前記黄色ブドウ球菌α毒素に免疫特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片が、
(a) 配列番号69のアミノ酸配列を含むVH CDR1、
(b) 配列番号70のアミノ酸配列を含むVH CDR2、
(c) 配列番号71のアミノ酸配列を含むVH CDR3、
(d) 配列番号1のアミノ酸配列を含むVL CDR1、
(e) 配列番号2のアミノ酸配列を含むVL CDR2、及び
(f) 配列番号68のアミノ酸配列を含むVL CDR3、
を含む、請求項1又は2に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
α毒素オリゴマーの形成を阻害する方法に使用するための、
請求項1~3のいずれか1項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片を含む、組成物。
【請求項6】
被験体における肺炎を予防する、治療する、又は管理する方法に使用するための、
請求項1~3のいずれか1項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項7】
被験体における肺炎を予防する、治療する、又は管理する方法に使用するための、請求項
5の記載の組成物。
【請求項8】
前記被験体における肺炎を予防する、治療する、又は管理する方法が、前記抗体又はその抗原結合断片を抗生物質と組み合わせて投与することを含む、請求項
6に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項9】
前記被験体における肺炎を予防する、治療する、又は管理する方法が、前記抗体又はその抗原結合断片を抗生物質と組み合わせて投与することを含む、請求項
7に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、一部において抗体に関し、特定の実施形態では、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素に特異的に結合する抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は、一般に健康なヒトの鼻及び皮膚に定着する、グラム陽性で通性好気性の、凝集塊を形成する球菌である。常に人口の約20~30%に黄色ブドウ球菌(S.aureus)が定着している。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)細菌は、ときに「スタフ(staph)」、「スタフ・アウレウス(Staph.aureus)」、又は「S.アウレウス(S.aureus)」とも称され、軽度の感染症(例えば、面皰、せつ)及び全身感染症を引き起こす日和見病原菌と見なされている。
【0003】
粘膜及び表皮のバリア(皮膚)は、通常、黄色ブドウ球菌(S.aureus)の感染を防御する。傷害(例えば、火傷、外傷、外科手技など)を受けた結果としてこれらの天然のバリアが分断されると、感染のリスクが劇的に高まる。感染のリスクはまた、免疫系が損なわれる疾患(例えば、糖尿病、末期腎疾患、癌など)によっても高まる。日和見性の黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染は重症化することもあり、非限定的な例として菌血症、蜂巣炎、眼瞼感染症、食中毒、関節感染、皮膚感染、熱傷様皮膚症候群、毒素性ショック症候群、肺炎、骨髄炎、心内膜炎、髄膜炎及び膿瘍形成が含まれる様々な疾患又は病態を引き起こし得る。
【0004】
黄色ブドウ球菌(S.aureus)はまた、動物にも感染症及び疾患を引き起こし得る。例えば、黄色ブドウ球菌(S.aureus)は、多くウシ乳腺炎に関連する。
【0005】
黄色ブドウ球菌(S.aureus)は、莢膜多糖類及びタンパク毒素を含む多くのビルレンス因子を発現する。細胞毒性の主因物質である、黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染と関連付けられることの多い一つのビルレンス因子は、α毒素(α溶血素又はHlaとしても知られる)であり、これは、ほとんどの病原性黄色ブドウ球菌(S.aureus)株が産生する膜孔形成性及び溶血性の菌体外タンパク質である。この毒素は、白血球細胞、血小板、赤血球、末梢血単球、マクロファージ、ケラチノサイト、線維芽細胞及び内皮細胞などの感受性細胞の膜にヘプタマーの孔を形成する。α毒素の膜孔形成は、多くの場合に細胞の機能障害又は溶解を引き起こす。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
特定の実施形態では、精製又は単離抗体、又はその抗原結合断片が提供され、この抗体又は断片は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合する。用語「α毒素ポリペプチド」、「α毒素モノマー」及び「α毒素オリゴマー(例えばヘプタマー)」は、本明細書では、それぞれ「AT」、「ATモノマー」及び「ATオリゴマー」と称される。用語「可変重鎖」は「VH」と称される。用語「可変軽鎖」は「VL」と称される。
【0007】
一部の実施形態では、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合する単離抗体又はその抗原結合断片は、(a)配列番号7、10、13又は69と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR1;(b)配列番号8、11、14、17、70又は75と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR2;及び(c)配列番号9、12、15、18、16、65、66、67、71、72、76又は78と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR3を含む。
【0008】
詳細な実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片は、配列番号7、8及び9;配列番号10、11及び12;配列番号13、14及び15;配列番号7、17及び18;配列番号7、8及び16;配列番号7、8及び65;配列番号7、8及び66;配列番号7、8、及び67;配列番号7、8及び78;配列番号69、70及び71;配列番号7、8及び72;配列番号69、75及び71;配列番号69、75及び76;又は配列番号69、70及び71と同一の、又はそれと比べて各CDRに1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR1、VH CDR2及びVH CDR3を含む。
【0009】
一部の実施形態では、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合する単離抗体又はその抗原結合断片は、(a)配列番号1又は4と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVL CDR1;(b)配列番号2、5、73又は77と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVL CDR2;及び(c)配列番号3、6、64、68又は74と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVL CDR3を含む。
【0010】
詳細な実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片は、配列番号1、2及び3;配列番号4、5及び6;配列番号1、2及び64;配列番号1、2及び68;配列番号1、73及び74;又は配列番号1、77及び74と同一の、又はそれと比べて各CDRに1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVL CDR1、VL CDR2及びVL CDR3を含む。
【0011】
一部の実施形態では、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合する単離抗体又はその抗原結合断片は、(a)配列番号7、10、13又は69のアミノ酸配列を含むVH CDR1;(b)配列番号8、11、14、17、70又は75のアミノ酸配列を含むVH CDR2;(c)配列番号9、12、15、18、16、65、66、67、71、72、76又は78のアミノ酸配列を含むVH CDR3;(d)配列番号1又は4のアミノ酸配列を含むVL CDR1;(e)配列番号2、5、73、又は77のアミノ酸配列を含むVL CDR2;及び(f)配列番号3、6、64、68又は74のアミノ酸配列を含むVL CDR3と同一の、又はそれと比べて各CDRに1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR1、VH CDR2、VH CDR3、VL CDR1、VL CDR2及びVL CDR3を含む。
【0012】
詳細な実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片は、配列番号7、8、9、1、2及び3;配列番号10、11、12、1、2及び3;配列番号13、14、15、4、5及び6;配列番号7、17、18、1、2及び3;配列番号7、8、16、1、2及び64;配列番号7、8、65、1、2及び64;配列番号7、8、66、1、2及び64;配列番号7、8、67、1、2及び68;配列番号7、8、67、1、2及び64;配列番号7、8、78、1、2及び64;配列番号7、8、65、1、2及び68;配列番号69、70、71、1、2及び68;配列番号7、8、72、1、73及び74;配列番号69、75、71、1、2及び68;配列番号69、75、76、1、2及び68;配列番号69、75、76、1、77及び74;配列番号69、70、71、1、77及び74と同一の、又はそれと比べて各CDRに1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR1、VH CDR2、VH CDR3、VL CDR1、VL CDR2、及びVL CDR3を含む。
【0013】
一部の実施形態では、(i)3つのCDRを含むVH鎖ドメインと3つのCDRを含むVL鎖ドメインとを含み;及び(ii)黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合する単離抗体又はその抗原結合断片を含む組成物が提供され、ここでVH鎖ドメインの3つのCDRは、(a)配列番号7、10、13又は69のアミノ酸配列を含むVH CDR1;(b)配列番号8、11、14、17、70又は75のアミノ酸配列を含むVH CDR2;及び(c)配列番号9、12、15、18、16、65、66、67、71、72、76又は78のアミノ酸配列を含むVH CDR3を含む。詳細な実施形態では、VH CDR1、VH CDR2及びVH CDR3は、配列番号7、8及び9;配列番号10、11及び12;配列番号13、14及び15;配列番号7、17及び18;配列番号7、8及び16;配列番号7、8及び65;配列番号7、8及び66;配列番号7、8、及び67;配列番号7、8及び78;配列番号69、70及び71;配列番号7、8及び72;配列番号69、75及び71;配列番号69、75及び76;又は配列番号69、70及び71に対応する。
【0014】
また、特定の実施形態では、(i)3つのCDRを含むVH鎖ドメインと3つのCDRを含むVL鎖ドメインとを含み;及び(ii)黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合する単離抗体又はその抗原結合断片を含む組成物も提供され、ここでVL鎖ドメインの3つのCDRは、(a)配列番号1又は4のアミノ酸配列を含むVL CDR1;(b)配列番号2、5、73、又は77のアミノ酸配列を含むVL CDR2;及び(c)配列番号3、6、64、68又は74のアミノ酸配列を含むVL CDR3を含む。詳細な実施形態では、VL CDR1、VL CDR2及びVL CDR3は、配列番号1、2及び3;配列番号4、5及び6;配列番号1、2及び64;配列番号1、2及び68;配列番号1、73及び74;又は配列番号1、77及び74に対応する。
【0015】
また、一部の実施形態では、(i)黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、(ii)配列番号20、22、24、26、28、41、43、45、47、49、51、53、55、57、79、59、61、又は62のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を含む重鎖可変ドメインを含み、及び(iii)配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を含む軽鎖可変ドメインを含む単離抗体又はその抗原結合断片を含む組成物も提供される。
【0016】
一部の実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片は、配列番号20、22、24、26、28、41、43、45、47、49、51、53、55、57、79、59、61、又は62の重鎖可変ドメインと、配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63の軽鎖可変ドメインとを含む。
【0017】
詳細な実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片はVHとVLとを含み、ここでVH及びVLは、配列番号20及び19;配列番号22及び21;配列番号24及び23;配列番号26及び25;配列番号28及び27;配列番号41及び42;配列番号43及び44;配列番号45及び46;配列番号47及び48;配列番号47及び48;配列番号49及び50;配列番号51及び52;配列番号51及び52;配列番号53及び54;配列番号55及び56;配列番号57及び58;配列番号59及び60;配列番号61及び58;配列番号62及び58;配列番号62及び63;配列番号79及び63と各々同一であるか、又はそれと各々少なくとも90%、95%又は98%の同一性を有する。
【0018】
一部の実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、且つ(a)黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに対して約13nM以下の親和性定数(KD);(b)黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドのオリゴマー形成を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、又は95%阻害する;及び(c)A549(肺上皮)溶解又はTHP-1(単球)及び赤血球溶解を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、又は95%低減する、からなる群から選択される特性の1つ以上を有し、ここで単離抗体又は抗原結合断片及び黄色ブドウ球菌(S.aureus)毒素は約1:1のモル比で存在する。
【0019】
一部の実施形態では、赤血球は血液由来の細胞である。特定の実施形態では、血液由来の細胞は赤血球細胞である。一部の実施形態では、溶解は、インビトロ溶血アッセイにより決定される。他の実施形態において、溶解は、インビトロ乳酸デヒドロゲナーゼ放出アッセイにより決定される。これらのアッセイについては以下にさらに記載され、又は当業者によりルーチンに実施され得る。
【0020】
一部の実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片は診断用薬剤を含む。特定の実施形態では、診断用薬剤は造影剤を含む。診断用薬剤は、一部の実施形態では、検出可能標識を含む。特定の実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片は、診断用薬剤にリンカーを介して連結される。
【0021】
一部の実施形態では、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドは天然の毒素ポリペプチドである。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドは、一部の実施形態では、天然の毒素ポリペプチドと比べて1つ以上のアミノ酸欠失、付加及び/又は置換(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個のアミノ酸挿入、欠失及び/又は置換)を含む。一部の実施形態では、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドは組換えタンパク質である。特定の実施形態では、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドは、配列番号39のアミノ酸配列、又はその断片を含む。特定の他の実施形態において、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドは弱毒化形態のポリペプチド、例えばH35Lであり、ここでは、配列番号40により示されるとおり、例えば野生型ポリペプチドの35位のヒスチジンがロイシンに置換されている。
【0022】
特定の実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、且つ配列番号9、12、15、18、16、65、66、67、71、72、76又は78と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR3を含み、ここで抗体又はその抗原結合断片は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドを中和する。一部の実施形態では、単離抗体又は単離抗体の抗原結合断片は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、且つ配列番号3、6、64、68又は74と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVL CDR3を含み、ここで抗体又はその抗原結合断片は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドを中和する。
【0023】
特定の実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、且つ配列番号9、12、15、18、16、65、66、67、71、72、76又は78と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR3を含み、ここで抗体又はその抗原結合断片は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドのオリゴマー形成を阻害する。一部の実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、且つ配列番号3、6、64、68又は74と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVL CDR3を含み、ここで抗体又はその抗原結合断片は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドのオリゴマー形成を阻害する。特定の実施形態では、オリゴマー形成の阻害は、インビトロ結合及び電気泳動移動度アッセイにより決定される。
【0024】
また、本明細書には、(a)単離抗体又はその抗原結合断片を含む組成物、及び(b)組成物の使用説明書又は組成物の使用説明書の入手方法指図書を含むキットも提供される。一部の実施形態では、組成物中の抗体は固体担体に連結される。特定の実施形態では、固体担体はビーズであり、一部の実施形態では、ビーズはセファロースビーズである。一部の実施形態では、使用説明書には、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドの単離、精製、検出及び定量化の1つ以上が収録される。
【0025】
特定の実施形態では、キットは、ウエスタンブロットに好適な緩衝液及び膜を含む。一部の実施形態では、キットは、負荷緩衝液及び溶出緩衝液を含む。特定の実施形態では、キットは、酵素結合免疫吸着(enzyme-linked immunosorbant)アッセイ(ELISA)に好適な緩衝液を含む。
【0026】
本明細書ではまた、対象における肺炎の予防、治療又は管理方法も提供され、これは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を含む組成物を、それを必要とする対象に対し、肺炎を予防、治療又は管理するのに有効な量で投与するステップを含む。
【0027】
一部の実施形態では、この方法は肺炎を予防する。特定の実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、ブドウ球菌α毒素ポリペプチドのアミノ酸1~293の、又はアミノ酸51~293の1つ以上の残基を含む線状若しくは立体構造エピトープ又は一部分若しくは断片に免疫特異的に結合する。特定の実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は断片と結合し、ここで抗体又は抗原結合断片は、配列番号39のT261、T163、N264、K266及びK271に接触残基を有する。さらなる実施形態では、抗体又はその抗原結合断片はα毒素の断片に結合し、ここで抗体又は抗原結合断片は、配列番号39のN177、W179、G180、P181、Y182、D183、D185、S186、W187、N188、P189、V190、Y191及びR200にさらなる接触残基を有する。
【0028】
特定の実施形態では、抗体又は抗原結合断片は、配列番号39のN177、W179、G180、P181、Y182、D183、D185、S186、W187、N188、P189、V190、Y191、R200、T261、T163、N264、K266及びK271に接触残基を有する。他の実施形態において、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号39のアミノ酸261~272を含む断片に結合する。さらなる実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号39のアミノ酸248~277を含む断片に結合する。他の実施形態において、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号39のアミノ酸173~201を含む断片及び配列番号39のアミノ酸261~272を含む断片に結合し、又は配列番号39のアミノ酸173~201を含む断片及び配列番号39のアミノ酸248~277を含む断片に結合する。
【0029】
特定の実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は断片と結合し、ここで抗体又は抗原結合断片は、配列番号40のT261、T163、N264、K266及びK271に接触残基を有する。さらなる実施形態では、抗体又はその抗原結合断片はα毒素の断片と結合し、ここで抗体又は抗原結合断片は、配列番号40のN177、W179、G180、P181、Y182、D183、D185、S186、W187、N188、P189、V190、Y191及びR200にさらなる接触残基を有する。
【0030】
特定の実施形態では、抗体又は抗原結合断片は、配列番号40のN177、W179、G180、P181、Y182、D183、D185、S186、W187、N188、P189、V190、Y191、R200、T261、T163、N264、K266及びK271に接触残基を有する。他の実施形態において、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号40のアミノ酸261~272を含む断片と結合する。さらなる実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号40のアミノ酸248~277を含む断片と結合する。他の実施形態において、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号40のアミノ酸173~201を含む断片及び配列番号40のアミノ酸261~272を含む断片と結合する。
【0031】
他の実施形態において、抗体又はその抗原結合断片は、ブドウ球菌α毒素ポリペプチド又はブドウ球菌α毒素ポリペプチド変異体の(1)アミノ酸261~272、(2)アミノ酸248~277又は(3)アミノ酸173~201及び261~272を含む断片と結合し、ここでアミノ酸261~272、アミノ酸248~277又はアミノ酸173~201は、配列番号39における対応する領域と同じアミノ酸配列に対応し、又は配列番号39における対応する領域を有する断片内に置換を含み、この置換は、抗体又はその抗原結合断片のα毒素ポリペプチドとの結合能を変化させるものではない。
【0032】
一部の実施形態では、対象における皮膚感染病態の予防、治療又は管理方法が提供され、これは、本発明に係る黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を含む組成物を、それを必要とする対象に対し、皮膚感染病態を予防、治療又は管理するのに有効な量で投与するステップを含む。特定の実施形態では、皮膚感染病態は皮膚壊死である。一部の実施形態では、皮膚感染病態は、皮膚の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染を含む。特定の実施形態では、この方法は皮膚感染病態を予防する。
【0033】
一部の実施形態では、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染に関連する病態の予防、治療又は管理方法が提供され、これは、本発明に係る黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を含む組成物を、それを必要とする対象に対し、毒素ポリペプチドのオリゴマー形成を低減するのに有効な量で投与するステップを含む。特定の実施形態では、この方法は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染に関連する病態を予防する。
【0034】
一部の実施形態では、透析治療、高リスク手術、肺炎、人工呼吸器関連肺炎(VAP)、又は既往の治療若しくは手術に関する前回の退院後の再感染に関連する黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染の予防、治療又は管理方法が提供され、これは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を含む組成物を、それを必要とする対象に投与するステップを含む。
【0035】
また、一部の実施形態では、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染に関連する病態の予防、治療又は管理方法も提供され、これは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を含む組成物を、それを必要とする対象に対し、細胞溶解を低減するのに有効な量で投与するステップを含む。特定の実施形態では、この方法は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染に関連する病態を予防する。一部の実施形態では、細胞は、血液又は肺由来の赤血球である。
【0036】
一部の実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、1つ以上の残基を含む線状又は立体構造エピトープに免疫特異的に結合する。特定の実施形態では、対象に投与される組成物は、本明細書に記載される組成物のいずれか1つに従う。
【0037】
また、特定の実施形態では、本明細書に記載される組成物を細胞に投与するステップと;細胞への組成物の投与に関連する生物学的作用の存在、非存在又は量を検出するステップとを含む方法も提供される。また、一部の実施形態では、本明細書に記載される組成物を対象に投与するステップと;組成物の投与に関連する対象における生物学的作用の存在、非存在又は量を検出するステップとを含む方法も提供される。また、特定の実施形態では、本明細書に記載される組成物を対象に投与するステップと;対象の状態をモニタするステップとを含む方法も提供される。
【0038】
また、一部の実施形態では、必要とする対象に対し、有効な量の本明細書に記載される組成物のいずれか1つを投与して毒素ポリペプチドを中和することによる、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドの中和方法も提供される。
【0039】
また、特定の実施形態では、必要とする対象において黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染によって媒介される病態を予防、治療、又は管理する方法も提供され、この方法は、有効な量の本明細書に記載される組成物のいずれか1つを対象に投与して病態を予防、治療又は管理するステップを含む。また、一部の実施形態では、必要とする対象において黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素によって媒介される障害の症状を治療、予防又は緩和する方法も提供され、これは、有効な量の本明細書に記載される組成物のいずれか1つを対象に投与して症状を治療、予防又は緩和するステップを含む。
【0040】
また、特定の実施形態では、対象における黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素によって媒介される病態の診断方法も提供され、これは、診断を必要とする対象を選択するステップと、診断上有効な用量の本明細書に記載される組成物のいずれか1つを対象に投与するステップとを含む。一部の実施形態では、対象は家畜であり、特定の実施形態では対象はヒトである。
【0041】
以下の説明、例、特許請求の範囲及び図面において特定の実施形態をさらに説明する。
【0042】
図面は本明細書の実施形態を例示するもので、限定するものではない。明確にするため、及び例示し易くするため、図面の縮尺は一定ではなく、ある場合には、詳細な実施形態の理解が促進されるように、様々な特徴が強調又は拡大して示され得る。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】
図1A及び
図1Bは、抗α毒素抗体による赤血球細胞溶解の阻害パーセントをグラフで示す。実験の詳細及び結果は実施例3に記載する。
【
図2A】抗α毒素抗体によるヒトA549及びTHP-1細胞溶解の阻害パーセントをグラフで示す。実験の詳細及び結果は実施例3に記載する。
【
図2B】抗α毒素抗体によるヒトA549及びTHP-1細胞溶解の阻害パーセントをグラフで示す。実験の詳細及び結果は実施例3に記載する。
【
図3A】皮膚壊死モデルにおける阻害性抗黄色ブドウ球菌(S.aureus)α毒素mAbによる受動免疫化の結果を示す。5匹のBALB/cマウスの群を5mg/kgの阻害性mAbで免疫し、次に黄色ブドウ球菌(S.aureus)Wood株に感染させ、病変のサイズを6日間モニタした。
図3Aは、感染6日後の病変サイズの写真を示す。実験の詳細及び結果は実施例4に記載する。
【
図3B】皮膚壊死モデルにおける阻害性抗黄色ブドウ球菌(S.aureus)α毒素mAbによる受動免疫化の結果を示す。5匹のBALB/cマウスの群を5mg/kgの阻害性mAbで免疫し、次に黄色ブドウ球菌(S.aureus)Wood株に感染させ、病変のサイズを6日間モニタした。
図3Bは、感染の時間経過に伴う病変サイズの低下をグラフで示す。実験の詳細及び結果は実施例4に記載する。
【
図4】
図4-7では肺炎モデルにおいて本明細書に記載される様々なmAbで受動免疫したマウスの生存をグラフで示す。
図4は、5、15及び45mg/kgの精製12B8.19で受動免疫した24時間後に黄色ブドウ球菌(S.aureus)USA300株(3×10
8cfu)に感染させたC57BL/6Jマウスの結果を示す。
【
図5】5、15及び45mg/kgの精製2A3.1で受動免疫した24時間後に黄色ブドウ球菌(S.aureus)USA300株(3×10
8cfu)に感染させたC57BL/6Jマウスの結果を示す。
【
図6】5、15及び45mg/kgの精製28F6.1で受動免疫した24時間後に黄色ブドウ球菌(S.aureus)USA300株(3×10
8cfu)に感染させたC57BL/6Jマウスの結果を示す。
【
図7】5、15及び45mg/kgの精製10A7.5で受動免疫した24時間後に黄色ブドウ球菌(S.aureus)USA300株(3×10
8cfu)に感染させたC57BL/6Jマウスの結果を示す。実験の詳細及び結果は実施例5に記載する。
【
図8A】完全ヒト型のmAb 2A3.1(例えば2A3hu)又はアイソタイプ対照(R347)で受動免疫したマウスにおける肺(
図8A)の細菌分布をグラフで示す。C57BL/6Jマウスは2A3hu(15mg/kg)で受動免疫し、24時間後にUSA300株に感染させた。また試料を採取してサイトカイン値を計測し、病理組織学的分析を行った。実験の詳細及び結果は実施例5に記載する。
【
図8B】完全ヒト型のmAb 2A3.1(例えば2A3hu)又はアイソタイプ対照(R347)で受動免疫したマウスにおける腎臓(
図8B)の細菌分布をグラフで示す。C57BL/6Jマウスは2A3hu(15mg/kg)で受動免疫し、24時間後にUSA300株に感染させた。また試料を採取してサイトカイン値を計測し、病理組織学的分析を行った。実験の詳細及び結果は実施例5に記載する。
【
図9】mAb 2A3huによる受動免疫化後の炎症性サイトカイン産生の低下をグラフで示す。丸で囲んだ結果が、24時間の時間点の結果である。実験の詳細及び結果は実施例6に記載する。
【
図10】R347対照で処置したマウス(
図10の左上及び左下の写真を参照)又は2A3huで処置したマウス(
図10の右上及び右下の写真を参照)における肺組織像の代表的な写真を示す。実験の詳細及び結果は実施例6に記載する。
【
図11】本明細書に記載される抗AT(黄色ブドウ球菌(S.aureus)α毒素)mAbは天然のα毒素(nAT)がウサギ赤血球ゴーストに存在する受容体と結合するのを阻害しないことをグラフで示す。実験の詳細及び結果は実施例8に記載する。
【
図12】本明細書に記載される抗体によるヘプタマー形成の阻害を示す代表的なウエスタンブロットである。実験の詳細及び結果は実施例8に記載する。
【
図13】本明細書に記載される抗AT mAbによるオリゴマー形成の阻害を裏付ける代表的なウエスタンブロットを示し、さらに、その阻害力価を測定し得ることを示す。実験の詳細及び結果は実施例8に記載する。
【
図14】
図14-16では細胞溶解阻害アッセイにおける完全ヒト抗AT抗体の力価をグラフで示す。完全ヒト型の抗AT IgG抗体は、対応するキメラ抗AT IgG抗体と同程度の力価を示す。完全ヒトIgG抗体の阻害活性を、ウサギRBC(赤血球細胞)溶解(
図14)においてキメラIgG抗体と比較した。実験の詳細及び結果は実施例9に記載する。
【
図15】細胞溶解阻害アッセイにおける完全ヒト抗AT抗体の力価をグラフで示す。完全ヒト型の抗AT IgG抗体は、対応するキメラ抗AT IgG抗体と同程度の力価を示す。完全ヒトIgG抗体の阻害活性を、A549細胞溶解(
図15)においてキメラIgG抗体と比較した。実験の詳細及び結果は実施例9に記載する。
【
図16】細胞溶解阻害アッセイにおける完全ヒト抗AT抗体の力価をグラフで示す。完全ヒト型の抗AT IgG抗体は、対応するキメラ抗AT IgG抗体と同程度の力価を示す。完全ヒトIgG抗体の阻害活性を、THP-1細胞溶解(
図16)においてキメラIgG抗体と比較した。実験の詳細及び結果は実施例9に記載する。
【
図17】皮膚壊死モデルにおける阻害性抗黄色ブドウ球菌(S.aureus)α毒素mAb QD20、QD37、LC10、QD33、2A3及び対照R347による受動免疫化後の感染の時間経過に伴う病変サイズの低下をグラフで示す。5匹のBALB/cマウスの群を、示される1mg/kg(
図17A)及び0.5mg/kg(
図17B)の阻害性mAbで受動免疫し、次に黄色ブドウ球菌(S.aureus)Wood株に感染させ、病変のサイズを6日間モニタした。
【
図18】肺炎モデルにおけるmAb QD20、QD37、LC10、QD33、2A3及び対照R347で受動免疫したマウスの生存をグラフで示す。マウスは、5mg/kgの精製mAbで受動免疫し、24時間後に黄色ブドウ球菌(S.aureus)USA300株(約2×10
8cfu)に感染させた。
【
図19】α毒素及びLukF-PVに対するLC10 YTEの結合のELISAによる特性決定をグラフで示す。Hisタグ付きα毒素又はLukF-PVを含む細菌ライセートを96ウェルの表面にコーティングした。コーティングしたウェルにLC10 YTE又はマウス抗His mAbを添加し、1時間インキュベートした。抗His mAbの結合シグナルによって示されるとおり、α毒素及びLukF-PVの発現レベルは同程度であったが、LC10 YTEはα毒素のみに著しく結合し、LukF-PVにはあまり結合しなかった。
【
図20】α毒素タンパク質及びLukF-PVタンパク質の配列アラインメントを示す。α毒素はLukF-PV(UniProtKB/TrEMBL 受託番号B1Q018)と25%のアミノ酸配列同一性を共有する。アミノ酸の付番は成熟タンパク質に基づく。アラインメントはClustal Wの方法を用いて実施した。セグメントaa248~277を下線で強調している。
【
図21】α毒素構造の略画を示す。A)α毒素の可溶性モノマーをモデル化した構造の略画。α毒素のモデル化したモノマー構造は、Maestro 9.1(Schrodinger Inc)により、鋳型としてLukF-PV(プロテインデータバンク(Protein Data Bank)エントリ1PVL)の結晶構造を使用して構築した(Pedelacq,Maveyraud et al.1999)。B)ヘキサマー(プロテインデータバンク(Protein Data Bank)エントリ7AHL)からのα毒素プロトマーの結晶構造の略画(Song,Hobaugh et al.1996)。aa101~110は青色で示し、aa224~231はオレンジ色で示し、及びaa248~277は赤色で示す。
【
図22】LC10 YTE Fab-α毒素複合体のリボン図である。α毒素分子は図の上部にリボンによって示される。重鎖は図の下部に濃い色のリボンによって示され、及び軽鎖は図の下部に薄い色のリボンによって示される。
【
図23】ヘプタマー状態及びモノマー状態のα毒素分子の略画である。a.宿主細胞の表面上に孔を作り出すα毒素分子のキノコ状ヘプタマー集合体。灰色及び黒色の領域が、このモデルでは遮蔽されているLC10 YTE接触残基に対応する。遮蔽された位置に存在している接触残基は、一貫してLC10を遮断するヘプタマー構成である。b.膜孔形成の前(薄い灰色)と後(濃い灰色)とを重ね合わせたα毒素分子構造。
【
図24】マウス皮膚壊死モデルにおけるLC10の治療効力をグラフで示す。5匹のBalb/Cマウスの群を15mg/kgのLC10又はR347で受動免疫し、Balb/Cマウスに2×10
8個の黄色ブドウ球菌(S.aureus)Wood株を鼻腔内感染させた。次に、感染の(A)1時間後、(B)3時間後又は(C)6時間後にマウスを5、15又は45mg/kgのLC10で処置し、病変のサイズを6日間モニタした。細菌攻撃の24時間前に15mg/kgのLC10又はR347を投与した5匹の群を対照として含めた。
【
図25】マウス肺炎モデルにおけるLC10の治療効力をグラフで示す。10匹のC57BL/6マウスの群を15mg/kgのLC10又はR347で受動免疫し、24時間後に2×10
8個の黄色ブドウ球菌(S.aureus)USA300株で鼻腔内攻撃した。10匹のC57BL/6マウスの群に2×10
8個の黄色ブドウ球菌(S.aureus)USA300株を鼻腔内感染させた。次に、感染の(A)1時間後、(B)3時間後又は(C)6時間後にマウスを5、15又は45mg/kgのLC10で処置し、生存を7日間モニタした。細菌攻撃の24時間前に15mg/kgのLC10又はR347を投与した10匹の群を対照として含めた。
【
図26】マウス肺炎モデルにおけるLC10の治療効力をグラフで示す。10匹のC57BL/6マウスの群に2×10
8個の黄色ブドウ球菌(S.aureus)USA300株を皮内感染させた。感染1時間後、動物に(A)15mg/kg(B)45mg/kgのLC-10の単回腹腔内注射を投与した。動物のコホート群に、感染1時間後にバンコマイシン(VAN)を皮下投与した。さらなるVAN処置をBID q12で合計6処置投与した。10匹のマウスの対照群は、感染1時間後に15mg/kgのR347で処置した。生存を7日間モニタした。
【
図27】相乗作用のアイソボログラム分析のグラフ図であり、ここでN>1:拮抗作用、N=1:相加効果、N<1:相乗作用。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本明細書には、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素に結合する、ヒト型、ヒト化型及び/又はキメラ型を含む抗体、並びにその断片、誘導体/コンジュゲート及び組成物が提供される。かかる抗体は、α毒素の検出及び/又は可視化に有用であり得るため、従ってアッセイ及び診断方法に有用となり得る。本明細書に記載される抗体はまた、α毒素のヘプタマー形成を妨害し、それにより活性な膜孔形成複合体の形成を阻害するため、従って治療法及び予防法に有用であり得る。
【0045】
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は遍在性の病原体であり、ときに、重症度の範囲が軽度から致死的に至るまでの様々な病態の原因菌である。黄色ブドウ球菌(S.aureus)は多数の細胞外タンパク質及び細胞関連タンパク質を産生し、α毒素、β毒素、γ毒素、δ毒素、ロイコシジン、毒素性ショック症候群毒素(TSST)、エンテロトキシン、コアグラーゼ、プロテインA、フィブリノゲン、フィブロネクチン結合タンパク質など、その多くが発病機序に関与する。α毒素(例えば、hla遺伝子によりコードされる)は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のビルレンス因子の一つであり、大多数の病原性黄色ブドウ球菌(S.aureus)株により産生される。
【0046】
黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染は比較的治療が困難な侵襲性疾患であり、抗生物質治療後に再燃が起こり得る。加えて、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(S.aureus)株が、病院環境で(例えば、HA-MRSA、すなわち医療関連性)、及び非病院環境外で(例えば、CA-MRSA、すなわち市中関連性)蔓延するようになっており、黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染症の治療はさらに複雑化している。多くの場合、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のメチシリン耐性株は、アミノグリコシド、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、マクロライド及びリンコサミドを含む1つ以上の他の抗生物質に対しても耐性を示す。
【0047】
α毒素は膜孔形成毒素であり、ヒト並びに動物において細胞溶解、溶血、皮膚壊死及び致死の活性を有する。ブドウ球菌α毒素は、約34キロダルトン(kDa)の、293アミノ酸の水溶性単鎖ポリペプチドとして分泌される。理論によって制限されるものではないが、α毒素/標的細胞相互作用には2つの方法があると考えられる;(i)α毒素が、ヒト血小板、単球、内皮細胞、白血球細胞、肺胞細胞、マクロファージ、ケラチノサイト、線維芽細胞、ウサギ赤血球、及び他の細胞の細胞表面上の特異的な高親和性受容体(ADAM 10)に結合する(例えば、Wilke et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.107:13473-13478(2010)を参照)、又は(ii)α毒素が脂質二重層に対して吸着により非特異的に相互作用する。いずれの毒素/細胞相互作用様式においても、7個のα毒素モノマー分子がオリゴマー化して直径1~2nmのヘプタマーの膜貫通チャネルを形成する。続くカリウム及びヌクレオチドの流出並びにナトリウム及びカルシウムの流入により、浸透圧溶解及び/又は複数の二次作用、例えば、エイコサノイド産生、分泌過程、収縮不全、アポトーシス及びサイトカイン放出が生じる。このα毒素による細胞活性の破壊及び細胞の溶解が、黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染に関連する病態及び疾患に関与すると考えられる。
【0048】
黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染により引き起こされるいくつかの一般的な病態の非限定的な例としては、火傷、蜂巣炎、皮膚壊死、眼瞼感染症、食中毒、関節感染、肺炎、皮膚感染、手術創感染、熱傷様皮膚症候群及び毒素性ショック症候群が挙げられる。加えて、黄色ブドウ球菌(S.aureus)は、血管内ライン、ペースメーカー、人工心臓弁及び関節インプラントなどの異物感染症において高頻度にみられる病原菌である。黄色ブドウ球菌(S.aureus)により引き起こされる病態又は疾患のいくつかを、以下にさらに記載する。以下に記載する病態及び疾患の一部又は全てが、感染の一要素又は病態若しくは疾患状態の介在因子としてα毒素の直接的な作用を伴い得るか、又は病態の一部又は全てが、α毒素の間接的又は二次的な作用を伴い得る(例えば、一次ビルレンス因子が主症状又は病態に関連する症状の大半を引き起こし、及びα毒素が、その細胞機能の破壊及び細胞溶解活性によって、疾患をさらに進行させるように作用する)。
【0049】
火傷
熱傷創は、初めは無菌であることが多い。しかしながら中等度及び重度の火傷では、概して感染に対する身体及び免疫のバリアが損なわれ(例えば、水疱形成、皮膚のひび割れ又は剥離)、体液及び電解質の喪失が生じ、局所的な又は全身の生理学的機能不全が起こる。易感染性の皮膚が生菌と接触すると、ときに傷害部位に混合性コロニーが形成され得る。感染は火傷表面上の生育不能な壊死組織片(「痂皮」)に限定されていることもあれば、又はコロニー形成が全面的な皮膚感染に進行して痂皮下の生組織に侵入することもある。より重度の感染は皮下に達してリンパ系及び/又は血液循環に入り込み、敗血症を生じ得る。熱傷創感染に生着する病原菌のなかで、黄色ブドウ球菌(S.aureus)は典型的に見られる。黄色ブドウ球菌(S.aureus)は肉芽組織を破壊し、重度の敗血症を引き起こし得る。
【0050】
皮膚及び軟部組織感染
蜂巣炎
蜂巣炎は、多くの場合に表在性感染として始まり、それが皮膚層下まで広がり得る皮膚の急性感染症である。蜂巣炎は、最も一般的には、黄色ブドウ球菌(S.aureus)とS.ピオゲネス(S.pyogenes)との混合感染により引き起こされる。蜂巣炎は全身感染症を引き起こし得る。蜂巣炎はときに相乗性細菌性壊疽の一態様である。相乗性細菌性壊疽は、典型的には黄色ブドウ球菌(S.aureus)と微好気性レンサ球菌との混合により引き起こされる。相乗性細菌性壊疽は壊死を引き起こし、治療は壊死組織の切除に限られている。その病態は多くの場合に致死的である。
【0051】
皮膚壊死
皮膚壊死は皮膚及び皮下組織の感染であり、皮下組織内の筋膜面全面に広がり易い。この病態により皮膚の上層及び/又は下層が壊死状態となり、病態は下部及び周囲組織まで広がり得る。
【0052】
壊死性筋膜炎
壊死性筋膜炎は、「人食い病」又は「人食いバクテリア症」と称される。壊死性筋膜炎は複数菌感染により引き起こされることも(例えばI型、混合細菌感染により引き起こされる)、又は単一菌感染により引き起こされることもある(例えばII型、単一の病原菌株により引き起こされる)。多くの種類の細菌が壊死性筋膜炎を引き起こすことができ、その非限定的な例としては、A群レンサ球菌(例えば、ストレプトコッカス・ピロゲンス(Streptococcus pyrogenes)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)、クロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)、及びバクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis)が挙げられる。免疫系の低下又は不全を有する個体は皮膚壊死(例えば壊死性筋膜炎)を起こし易い。
【0053】
歴史的には、II型皮膚壊死性感染症例の大多数の原因としてA群レンサ球菌が診断された。しかしながら、2001年以降、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)が一種細菌性の壊死性筋膜炎の原因として観察されることが次第に増えてきた。この感染は局所的に、ときに外傷部位で始まり、重度であることも(手術の結果など)、軽度であることも、又はさらには非顕性であることもある。患者は通常激痛を訴え、これは皮膚の外観を考えると度を越しているように見え得る。疾患が進行するにつれ、多くの場合に数時間以内には組織が腫脹するようになる。下痢及び嘔吐もまた一般的な症状である。
【0054】
細菌が組織内に深在する場合、感染初期には炎症の徴候は明らかでないこともある。細菌が深在性でない場合、発赤及び腫脹した又は熱をもった皮膚などの炎症の徴候が極めて急速に現れる。皮膚が紫色に変色することもあり、水疱が形成され、続いて皮下組織の壊死(例えば死)が伴い得る。壊死性筋膜炎患者は、典型的には発熱があり、極めて病的に見える。治療せずに放置すれば、死亡率は73パーセントもの高さであることが認められている。適切な医学的手当てを受けなければ、感染は急速に進行し、最終的には死亡に至る。
【0055】
肺炎
黄色ブドウ球菌(S.aureus)はまた、ブドウ球菌性肺炎の原因としても診断されている。ブドウ球菌肺炎は肺の炎症及び腫大を引き起こし、それによって次には体液が肺に集まる。肺における体液貯留は血流への酸素の流入を妨げ得る。インフルエンザ罹患者は、細菌性肺炎の発症リスクがある。インフルエンザに既に罹患している者において、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は細菌性肺炎の最も一般的な原因である。ブドウ球菌肺炎の一般的な症状としては、咳嗽、呼吸困難、及び発熱が挙げられる。さらなる症状としては、疲労、黄色又は血性粘液、及び呼吸によって悪化する胸痛が挙げられる。ブドウ球菌性肺炎で同定される株としてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(S.aureus)(MRSA)が診断されることが増えつつある。
【0056】
手術創感染
手術創は、多くの場合に体に深達する。従って創傷が感染した場合には、かかる創傷の感染が患者にとって重大なリスクとなる。黄色ブドウ球菌(S.aureus)は高頻度で手術創の感染原因となる病原体である。黄色ブドウ球菌(S.aureus)は手術創に異常なほど巧妙に侵入し、縫合創は、正常な皮膚に感染を引き起こすのに必要なよりもはるかに少数の黄色ブドウ球菌(S.aureus)細胞でも感染を起こし得る。手術創に侵入すると、重度の黄色ブドウ球菌(S.aureus)敗血症が起こり得る。黄色ブドウ球菌(S.aureus)が血流内に侵入すると、内臓器官、特に心臓弁及び骨への播種及び感染が起こり、心内膜炎及び骨髄炎などの全身性疾患が生じ得る。
【0057】
熱傷様皮膚症候群
黄色ブドウ球菌(S.aureus)は、「ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群」、「中毒性表皮壊死症」、「限局性水疱性膿痂疹」、「リッター病」及び「ライエル病」とも称される「熱傷様皮膚症候群」の、原因病原体ではないにしても、その主要な原因病原体であると思われる。熱傷様皮膚症候群は、高頻度でより年長の小児に起こり、典型的には表皮層内において剥離を引き起こす表皮溶解性エキソトキシン(例えば、熱傷様皮膚症候群毒素と称されることもある表皮剥脱素A及びB)を産生する黄色ブドウ球菌(S.aureus)株の盛染により大発生する。エキソトキシンのあるものは細菌染色体によりコードされ、他のものはプラスミドによりコードされる。これらのエキソトキシンは、通常皮膚の顆粒層と有棘層とを一体に保持しているデスモグレイン1を切断するプロテアーゼである。
【0058】
細菌は、初めは軽度の損傷にのみ感染し得るが、しかしながら、毒素が細胞間結合を破壊し、表皮層に広がり、皮膚外層への感染の侵入を許すことで、この疾患を典型的に表す落屑が生じる。皮膚外層の脱落により、概して下の正常な皮膚が現れるが、この過程で体液が失われると、適切に治療されない場合には、低年齢の小児において重度の傷害が生じ得る。
【0059】
毒素性ショック症候群
毒素性ショック症候群(TSS)は、いわゆる「毒素性ショック症候群毒素」を産生する黄色ブドウ球菌(S.aureus)株によって引き起こされる。この疾患は、任意の部位において黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染により引き起こされ得るが、専らタンポンを使用する女性に限定的な疾患としてしばしば誤って認識されている。この疾患は毒血症及び敗血症を伴い、致死的となり得る。
【0060】
毒素性ショック症候群の症状は、根底にある原因によって様々である。細菌の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の感染によって起こるTSSは典型的には、他の点では健康な高熱を有する個体に発症し、低血圧、倦怠及び錯乱を伴い、これは急速に昏迷、昏睡、及び多臓器不全に進行し得る。病気の経過の初期に多く見られる特徴的な発疹は日焼けに似ており、唇、口、眼、手掌及び足底を含む体の任意の範囲が関与し得る。感染の初期の猛攻撃を生き延びる患者では、10~14日後にこの発疹が落屑、すなわち剥離する。
【0061】
上述のとおり、黄色ブドウ球菌(S.aureus)の多剤耐性株の増加に起因して、黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染の治療に一般的に用いられる抗生物質のますます多くが、もはやメチシリン耐性及び多剤耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の感染を制御又は除去しなくなりつつある。本明細書に記載される黄色ブドウ球菌(S.aureus)α毒素に対する抗体は、感染の重症度を低下させることに役立ち得るとともに、感染宿主由来の病原性黄色ブドウ球菌(S.aureus)の除去、防御(予防的)又は低減も促進し得る。
【0062】
抗体
本明細書で使用されるとき、用語「抗体(antibody)」、「抗体(antibodies)」(免疫グロブリンとしても知られる)及び「抗原結合断片」は、モノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、少なくとも2つの異なるエピトープ結合断片から形成される多特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、ヒト抗体、ヒト化抗体、ラクダ科動物抗体、キメラ抗体、単鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン抗体、Fab断片、F(ab’)2断片、所望の生物活性を呈する抗体断片(例えば抗原結合部分)、ジスルフィド結合Fv(dsFv)、及び抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、本明細書に提供される抗体に対する抗Id抗体を含む)、細胞内抗体、及び上記の任意のエピトープ結合断片を包含する。特に、抗体には、免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な断片、すなわち少なくとも1つの抗原結合部位を含む分子が含まれる。免疫グロブリン分子は、任意のアイソタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA及びIgY)、サブアイソタイプ(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)又はアロタイプ(例えば、Gm、例えば、G1m(f、z、a又はx)、G2m(n)、G3m(g、b、又はc)、Am、Em、及びKm(1、2又は3))であってよい。抗体は、限定はされないが、ヒト、サル、ブタ、ウマ、ウサギ、イヌ、ネコ、マウスなどを含む任意の哺乳動物、又は鳥類(例えばニワトリ)などの他の動物に由来し得る。
【0063】
自然抗体は、概して約150,000ダルトンのヘテロ四量体の糖タンパク質であり、2つの同一の軽(L)鎖と2つの同一の重(H)鎖とから構成される。各軽鎖は、1つの共有結合性のジスルフィド結合によって重鎖に連結しているが、ジスルフィド結合の数はそれぞれの免疫グロブリンアイソタイプの重鎖で異なる。重鎖及び軽鎖の各々はまた、規則的な間隔の鎖内ジスルフィド架橋も有する。各重鎖は一端に可変ドメイン(VH)を有し、その後に複数の定常ドメイン(CH)が続く。各軽鎖は一端に可変ドメイン(VL)を有し、その他端に定常ドメイン(CL)を有する。軽鎖の定常ドメインは重鎖の第1の定常ドメインと整列し、軽鎖可変ドメインは重鎖の可変ドメインと整列する。軽鎖は、軽鎖定常領域のアミノ酸配列に基づきλ鎖又はκ鎖に分類される。κ軽鎖の可変ドメインは、本明細書ではVKとも表記され得る。
【0064】
本明細書に提供される抗体には、完全長の又はインタクトな抗体、抗体断片、天然配列抗体又はアミノ酸変異体、ヒト抗体、ヒト化抗体、翻訳後修飾された抗体、キメラ抗体又は融合抗体、イムノコンジュゲート、及びその機能的断片が含まれる。抗体はFc領域で修飾されてもよく、特定の修飾が所望のエフェクター機能又は血清中半減期を提供し得る。
【0065】
本抗α毒素抗体及び断片の1つ以上の生物学的特性(例えば、力価、α毒素親和性、エフェクター機能、オルソログ結合親和性、中和、α毒素ヘプタマー形成の阻害など)を有する抗体も企図される。抗α毒素抗体及び断片は、上記に記載したとおり、哺乳動物における黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)関連疾患の1つ以上の症状の診断及び/又は治療及び/又は緩和及び/又は予防に使用することができる。
【0066】
本明細書には、抗α毒素抗体又は断片と担体とを含む組成物が提供される。黄色ブドウ球菌(S.aureus)関連疾患の治療を目的として、かかる治療を必要とする患者に組成物を投与することができ、ここで組成物は1つ以上の抗α毒素抗体及び/又はその断片を含み得る。また、本明細書に提供されるとおりの抗α毒素抗体又はその断片と担体とを含む製剤も提供される。一部の実施形態では、製剤は、薬学的に許容可能な担体を含む予防製剤又は治療製剤である。
【0067】
特定の実施形態では、本明細書に提供される方法は、哺乳動物における黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)関連及び/又はα毒素関連疾患/病態の治療及び/又はそのような疾患又は病態の1つ以上の症状の予防及び/又は緩和に有用であり、治療有効量の抗α毒素抗体又は断片を哺乳動物に投与するステップを含む。抗体予防組成物又は治療組成物は医師の指示により短期(急性)投与、慢性投与、又は間欠投与され得る。
【0068】
特定の実施形態では、製品は少なくとも抗α毒素抗体又は断片を、無菌剤形及び/又はキットなどに含む。抗α毒素抗体又は断片を含むキットは、例えば、黄色ブドウ球菌(S.aureus)細胞死滅アッセイ、細胞からのα毒素の精製又は免疫沈降に用途が見出され得る。例えば、α毒素の単離及び精製用に、キットは、ビーズ(例えば、セファロースビーズ)に結合された抗α毒素抗体又は断片を含み得る。キットは、インビトロでの、例えばELISA又はウエスタンブロットにおける、黄色ブドウ球菌(S.aureus)及び/又はα毒素の検出及び定量化用抗体を含んでもよい。検出に有用なかかる抗体は、蛍光標識又は放射標識などの標識と共に提供され得る。
【0069】
用語
本明細書に提供される方法は特定の組成物又は方法ステップに限定されるものではなく、従って異なり得ることが理解されるべきである。本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるとき、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上特に明確に指示されない限り、単数及び複数の指示対象を含むことが注記される。
【0070】
α毒素ポリペプチド(例えばα毒素モノマー)と特異的に結合する単離抗体、又はその抗原結合断片は、本明細書において、単数形では「抗α毒素抗体又は断片(anti-alpha toxin antibody or fragment)」及び複数形では「抗α毒素抗体及び断片(anti-alpha toxin antibodies and fragments)」と称される。α毒素ポリペプチドは、ときにα溶血素と称される。α毒素は、オリゴマー化してヘプタマーになった後、細胞膜に孔を形成し、ここでこのオリゴマー化したポリペプチドは、ときに「α毒素膜孔」、又は「α毒素ヘプタマー」と総称される。
【0071】
アミノ酸は、多くの場合に、本明細書では、IUPAC-IUB生化学命名法委員会(Biochemical Nomenclature Commission)により推奨される一般に周知の3文字記号又は1文字記号により参照される。同様にヌクレオチドも、多くの場合に、一般に認められている1文字コードにより参照される。
【0072】
抗体の可変ドメイン、相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)におけるアミノ酸の付番は、特に指示されない限り、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Maryland.(1991)に記載されるとおりのカバットの定義に従う。この付番方式を使用すると、実際の直鎖状アミノ酸配列に含まれるアミノ酸は、可変ドメインのFR又はCDRの短縮又はそこへの挿入に対応して少なくなり得るか、又は多くなり得る。例えば、重鎖可変ドメインは、H2の残基52位の後に単一のアミノ酸挿入(カバットに従えば残基52a)と、重鎖FR残基82位の後に挿入された残基(カバットに従えば、例えば残基82a、82b、及び82c等)とを含み得る。残基のカバット付番は、所与の抗体について、抗体の配列の相同性領域における「標準的な」カバット付番配列とのアラインメントにより決定され得る。フレームワーク残基の最大のアラインメントには、付番方式に、Fv領域に用いられる「スペーサー」残基の挿入が必要となることが多くある。加えて、所与のカバット部位番号における特定の個別的な残基の同一性は、種間又は対立遺伝子の多様性に起因して抗体鎖毎に異なり得る。
【0073】
抗α毒素抗体及び断片
特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は単離及び/又は精製されており、及び/又はパイロジェンフリーである。用語「精製されている」は、本明細書で使用されるとき、その天然の環境の構成要素から同定され、且つ分離及び/又は回収されている目的の分子を指す。従って、一部の実施形態では、提供される抗体は精製抗体であり、ここでこの精製抗体は、その天然の環境の1つ以上の構成要素から分離されている。用語「単離抗体」は、本明細書で使用されるとき、異なる抗原特異性を有する他の抗体分子を実質的に含まない抗体を指す(例えば、α毒素に特異的に結合する単離抗体は、α毒素以外の抗原と特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。二重特異性又は多特異性抗体分子は、他の抗体分子を実質的に含まない場合、単離抗体である。従って、一部の実施形態では、提供される抗体は単離抗体であり、ここでこのような単離抗体は、異なる特異性を有する抗体から分離されている。単離抗体はモノクローナル抗体であってもよい。しかしながら、黄色ブドウ球菌(S.aureus)α毒素のエピトープ、アイソフォーム又は変異体に特異的に結合する単離抗体は、例えば他の種(例えば、スタフィロコッカス(Staphylococcus)種のホモログ)由来の、他の関連抗原と交差反応性を有し得る。提供されるとおりの単離抗体は、1つ以上の他の細胞物質を実質的に含まないものであり得る。一部の実施形態では、「単離」モノクローナル抗体の組み合わせが提供され、これは異なる特異性を有し、且つ定義された組成物に組み合わされる抗体に関する。抗α毒素抗体又は断片の産生及び精製/単離方法は、本明細書にさらに詳細に記載される。
【0074】
提示される単離抗体は、本明細書に開示される抗体アミノ酸配列を含み、これは任意の好適なポリヌクレオチドによりコードされ得る。単離抗体は、ときに製剤化された形態で提供される。一部の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は黄色ブドウ球菌(S.aureus)α毒素と結合し、それによりα毒素の少なくとも1つの生物活性、例えばオリゴマー形成による活性なヘプタマーへの複合体化を、部分的に又は実質的に変化させる。
【0075】
抗α毒素抗体又は断片は、多くの場合に、α毒素タンパク質、ペプチド、サブユニット、断片、部分、オリゴマー又はそれらの任意の組み合わせに特異的な1つ以上のエピトープに免疫特異的に結合し、概して他のポリペプチドには結合しない。用語「オリゴマー」又は「α毒素オリゴマー」は、機能的な膜孔(例えば、7個のα毒素モノマー)を形成するα毒素モノマーの会合体(例えば、2個のモノマー、3個のモノマー、4個のモノマー、5個のモノマー、6個のモノマー又は7個のモノマー)を指す。エピトープは、α毒素タンパク質の少なくとも一部分を含む少なくとも1つの抗体結合領域を含み得る。用語「エピトープ」は、本明細書で使用されるとき、抗体との結合能を有するタンパク質決定基を指す。エピトープは、概してアミノ酸及び/又は糖側鎖などの分子の化学的に活性な表面基を含み、概して特定の三次元構造特徴、並びに特定の化学的特徴(例えば、電荷、極性、塩基性、酸性、疎水性など)を有する。立体構造エピトープと非立体構造エピトープとは、変性溶媒の存在下で前者との結合が失われるのに対し、後者との結合は失われない点で区別される。一部の実施形態では、認識されたエピトープが活性なヘプタマーの形成を妨げる(例えば、α毒素モノマーのオリゴマー形成による活性なヘプタマーへの複合体化を阻害する)。
【0076】
特定の実施形態では、エピトープはα毒素タンパク質の少なくとも一部分を含み、この一部分はα毒素ヘプタマー複合体の形成に関与する。特定のエピトープは、α毒素タンパク質の連続するアミノ酸の特定の部分全体に対して少なくとも3個のアミノ酸残基の少なくとも1つのアミノ酸配列の任意の組み合わせを含むことができる。一部の実施形態では、エピトープは、α毒素タンパク質の連続するアミノ酸の特定の部分全体に対する少なくとも4個のアミノ酸残基、少なくとも5個のアミノ酸残基、少なくとも6個のアミノ酸残基、少なくとも7個のアミノ酸残基、少なくとも8個のアミノ酸残基、少なくとも9個のアミノ酸残基、少なくとも10個のアミノ酸残基、少なくとも11個のアミノ酸残基、少なくとも12個のアミノ酸残基、少なくとも13個のアミノ酸残基、少なくとも14個のアミノ酸残基、又は少なくとも15個のアミノ酸残基である。特定の他の実施形態において、エピトープは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15個の連続又は非連続アミノ酸残基を含む。さらなる実施形態では、エピトープ内に含まれるアミノ酸残基は、α毒素ヘプタマー複合体形成に関わる。特定の実施形態では、接触残基は、T261、T263、N264、K266及びK271を含む。他の実施形態において、接触残基は、配列番号39のN177、W179、G180、P181、Y182、D183、D185、S186、W187、N188、P189、V190、Y191及びR200を含む。さらなる実施形態では、接触残基は、配列番号39のN177、W179、G180、P181、Y182、D183、D185、S186、W187、N188、P189、V190、Y191、R200、T261、T263、N264、K266及びK271を含む。特定の実施形態では、抗体又はその抗原結合断片と接触するα毒素の部分は、配列番号39のアミノ酸261~272を含む。他の実施形態において、抗体又はその抗原結合断片と接触するα毒素の部分は、配列番号39のアミノ酸248~277を含む。他の実施形態において、抗体又はその抗原結合断片と接触するα毒素の部分は、配列番号39のアミノ酸173~201及び261~272を含む。
【0077】
従って、具体的な実施形態において、単離/精製抗α毒素抗体及び断片は、配列番号39に係るアミノ酸配列を含む分子、及び/又は配列番号40に係るアミノ酸配列を含む分子に免疫特異的に結合する。特定の実施形態では、抗α毒素抗体及び断片はまた、異なる種由来のα毒素ホモログ若しくはオルソログ、又は配列番号39のアミノ酸配列の変異体であって、35位のヒスチジンがロイシンに置換され、又は当業者に公知のH35突然変異に対応する他のアミノ酸に置換されている変異体にも結合する。
【0078】
可変領域
特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は親抗体から調製される。一部の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は親抗体の範囲内に包含される。本明細書で使用されるとき、用語「親抗体」は、本明細書において定義される変異体又は誘導体の調製に用いられるアミノ酸配列によりコードされる抗体を指す。親ポリペプチドは、自然抗体配列(すなわち、天然に存在する対立遺伝子変異体を含め、天然に存在するもの)又は天然に存在する配列の既存のアミノ酸配列修飾(他の挿入、欠失及び/又は置換など)を有する抗体配列を含み得る。親抗体はヒト化抗体又はヒト抗体であってもよい。具体的な実施形態において、抗α毒素抗体及び断片は親抗体の変異体である。本明細書で使用されるとき、用語「変異体」は、親抗体配列における1つ以上のアミノ酸残基の付加、欠失及び/又は置換によって「親」抗α毒素抗体又は断片アミノ酸配列とアミノ酸配列が異なる抗α毒素抗体又は断片を指す。
【0079】
抗体の抗原結合部分は、抗原(例えばα毒素)に特異的に結合する能力を保持する1つ以上の抗体断片を含む。抗体の抗原結合機能は完全長抗体の断片により果たされ得ることが示されている。抗体の「抗原結合部分」という用語の範囲内に包含される結合断片の例としては、(i)VL、VH、CL及びCH1ドメインからなる一価の断片であるFab断片;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価の断片であるF(ab’)2断片;(iii)VH及びCH1ドメインからなるFd断片;(iv)単一の抗体アームのVL及びVHドメインからなるFv断片、(v)VHドメインからなるdAb断片;及び(vi)単離された相補性決定領域(CDR)が挙げられる。Fv断片の2つのドメインVL及びVHは、多くの場合に別個の遺伝子によりコードされるが、これらのVL及びVHは組換え方法を用いて、それらを単一のタンパク質鎖として作製することを可能にする合成リンカーによりつなぎ合わせることができ、このタンパク質鎖では、VL領域とVH領域とが対になって一価の分子(単鎖Fv(scFv)として知られる)を形成する。かかる一本鎖抗体もまた、用語「抗体」及び抗体の「抗原結合部分」の範囲内に包含される。これらの抗体断片は公知の技術を用いて得ることができ、断片は、インタクトな抗体と同様にして結合活性をスクリーニングすることができる。抗原結合部分は、組換えDNA技法によるか、又はインタクトな免疫グロブリンの酵素的若しくは化学的切断により産生することができる。
【0080】
本抗α毒素抗体及び断片は、少なくとも1つの抗原結合ドメインを含む。一部の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、配列番号20、22、24、26、28、41、43、45、47、49、51、53、55、57、79、59、61、又は62のアミノ酸配列を含むVHを含む。特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63のアミノ酸配列を含むVLを含む。さらに別の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、配列番号20、22、24、26、28、41、43、45、47、49、51、53、55、57、79、59、61、又は62のアミノ酸配列を含むVHと、配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63のアミノ酸配列を含むVLとを含む。本明細書に提供されるとおりのVH配列及びVL配列の代表例については、実施例11の表7を参照されたく、これらの代表例は任意の組み合わせで存在して抗α毒素抗体又は断片を形成することができ、又は組み合わせで存在して本発明のmAbを形成することができる。一部の実施形態では、VHは、配列番号20、22、24、26、28、41、43、45、47、49、51、53、55、57、79、59、61、又は62から選択される。様々な実施形態において、VLは、配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63から選択される。特定のVH及びVLヌクレオチド配列を実施例11の表8に提供する。
【0081】
一部の実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片はVHとVLとを含み、ここでVH及びVLは、配列番号20及び19;配列番号22及び21;配列番号24及び23;配列番号26及び25;配列番号28及び27;配列番号41及び42;配列番号43及び44;配列番号45及び46;配列番号47及び48;配列番号47及び48;配列番号49及び50;配列番号51及び52;配列番号51及び52;配列番号53及び54;配列番号55及び56;配列番号57及び58;配列番号59及び60;配列番号61及び58;配列番号62及び58;配列番号62及び63;配列番号79及び63により表されるアミノ酸配列を有する。
【0082】
実施例11の表1~7は、本明細書に提示される抗体及び断片の特定の実施形態の重鎖可変領域(VH)、軽鎖可変領域(VL)、及び相補性決定領域(CDRs)を提供する。特定の実施形態では、抗α毒素抗体及び断片は、表7に開示されるVH配列及び/又はVL配列の少なくとも1つに対して所与のパーセント同一性を有するVH及び/又はVLを含む。本明細書で使用されるとき、用語「パーセント(%)配列同一性」は、同様に「相同性」を含め、候補配列において、配列のアラインメント及び必要であれば最大のパーセント配列同一性を達成するためのギャップの導入後に、且つ任意の保存的置換は配列同一性の一環としては考慮することなく、親抗体配列などの参照配列のアミノ酸残基又はヌクレオチドと同一であるアミノ酸残基又はヌクレオチドの百分率として定義される。比較のための配列の最適アラインメントは、手作業で行う他、当該技術分野において公知の局所的相同性アルゴリズムを用いるか、又はそのようなアルゴリズムを使用するコンピュータプログラム(ウィスコンシン・ジェネティクス・ソフトウェア・パッケージ(Wisconsin Genetics Software Package),Genetics Computer Group,575 Science Drive,Madison,WisconsinにおけるGAP、BESTFIT、FASTA、BLAST P、BLAST N及びTFASTA)を用いることにより生成され得る。
【0083】
一部の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、配列番号20、22、24、26、28、41、43、45、47、49、51、53、55、57、79、59、61、又は62のアミノ酸配列と少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%の同一性を含む、又はそれと100%の同一性を含むVHアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、配列番号20、22、24、26、28、41、43、45、47、49、51、53、55、57、79、59、61、又は62のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一の、又はそれと100%同一のVHアミノ酸配列を含む。特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、配列番号20、22、24、26、28、41、43、45、47、49、51、53、55、57、79、59、61、又は62のアミノ酸配列に1~10個の保存的置換を含む。特定の実施形態では、配列番号20、22、24、26、28、41、43、45、47、49、51、53、55、57、79、59、61、又は62と所与のパーセント同一性(percent identify)を有するVHアミノ酸配列を含む抗α毒素抗体又は断片は、以下からなる群から選択される1つ以上の特性(以下にさらに詳細に記載される)を有する:
(a)約13nM以下のα毒素に対する親和性定数(KD);
(b)α毒素モノマーに結合するが、α毒素のα毒素受容体との結合は阻害しない;
(c)α毒素オリゴマーの形成を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%又は95%阻害する;
(d)α毒素の細胞溶解活性を(例えば、細胞溶解及び溶血アッセイにより決定されるとき)少なくとも50%、60%、70%、80%、90%又は95%低下させる;
(e)細胞浸潤及び炎症誘発性サイトカイン放出を(例えば、動物肺炎モデルにおいて)低下させる。
【0084】
一部の実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片は、約0.01nM~約50nM、0.05nM、0.1nM、0.5nM、1nN、5nM、10nM、20nM、30nM、又は40nMの範囲の解離定数(KD)により特徴付けられる親和性で抗原(例えばα毒素)と結合する。
【0085】
特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63のアミノ酸配列と少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%同一の、又はそれと100%同一のVLアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一の、又はそれと100%同一のVLアミノ酸配列を含む。様々な実施形態において、抗α毒素抗体又は断片は、配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63のアミノ酸配列に1~10個の保存的置換を含む。特定の実施形態では、配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63と所与のパーセント同一性(percent identify)を有するVLアミノ酸配列を含む抗α毒素抗体又は断片は、以下からなる群から選択される1つ以上の特性(以下にさらに詳細に記載される)を有する:
(a)約13nM以下のα毒素に対する親和性定数(KD);
(b)α毒素モノマーに結合するが、α毒素のα毒素受容体との結合は阻害しない;
(c)α毒素オリゴマーの形成を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%又は95%阻害する;
(d)α毒素の細胞溶解活性を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%又は95%低下させる;(例えば、細胞溶解及び溶血アッセイ(cell lysis add hemolysis assay)により決定されるとき);
(e)細胞浸潤及び炎症誘発性サイトカイン放出を(例えば、動物肺炎モデルにおいて)低下させる。
【0086】
一部の実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片は、約0.01nM~約50nM、0.05nM、0.1nM、0.5nM、1nN、5nM、10nM、20nM、30nM、又は40nMの範囲の解離定数(KD)により特徴付けられる親和性で抗原(例えばα毒素)と結合する。
【0087】
具体的な実施形態において、抗体又は抗体断片はα毒素と免疫特異的に結合し、且つ配列番号20、22、24、26、28、41、43、45、47、49、51、53、55、57、79、59、61、又は62のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を含む重鎖可変ドメインを含み、且つ配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を含む軽鎖可変ドメインを含み、ここで抗体は、1つ以上のα毒素モノマーが互いに結合するのを阻害する活性を有する(例えば、オリゴマー形成を阻害する)。
【0088】
相補性決定領域(complimentarity determining regions)
可変ドメイン(VH及びVL)は抗原結合領域を含むが、その変異性は抗体の可変ドメインにわたり均等に分布するわけではない。変異性は、軽鎖(VL又はVK)及び重鎖(VH)のいずれの可変ドメインにもある相補性決定領域(CDR)と呼ばれるセグメントに集中している。可変ドメインのなかでより高度に保存されている部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、各々4つのFRを含み、FRは概してβシート構造をとり、3つのCDRにより接続される。CDRはループを形成し、これらのループがβシート構造を接続し、及びある場合にはβシート構造の一部を形成する。各鎖のCDRはFRによって近接して一体に保持され、他方の鎖のCDRと共に抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al.,前掲を参照のこと)。重鎖の3つのCDRはVH-CDR1、VH CDR2、及びVH-CDR-3と命名され、軽鎖の3つのCDRはVL-CDR1、VL-CDR2、及びVl-CDR3と命名される。本明細書ではカバット付番方式を使用している。従って、VH-CDR1はおよそアミノ酸31から始まり(すなわち、最初のシステイン残基後の約9残基)、約5~7アミノ酸を含み、及び次のセリン残基で終わる。VH-CDR2はCDR-H1の終わりから15番目の残基から始まり、約16~19アミノ酸を含み、及び次のグリシン残基で終わる。VH-CDR3はVH-CDR2の終わりから約30番目のアミノ酸残基から始まり;約13~15アミノ酸を含み;及び配列M-D-Vで終わる。VL-CDR1はおよそ残基24から始まり(すなわち、システイン残基に続く);約10~15残基を含み;及び配列Y-V-Sで終わる。VL-CDR2はVL-CDR1の終わりから約16番目の残基から始まり、及び約7残基を含む。VL-CDR3はVH-CDR2の終わりから約33番目の残基から始まり;約7~11残基を含み、及び配列T-I-Lで終わる。CDRは抗体毎に著しく異なる(及び定義上、カバットのコンセンサス配列との相同性は示さない)ことに留意されたい。
【0089】
本抗α毒素抗体及び断片は、少なくとも1つの相補性決定領域(CDR1、CDR2又はCDR3)を含む少なくとも1つの抗原結合ドメインを含む。一部の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、少なくとも1つのVH CDR(例えば、CDR-H1、CDR-H2又はCDR-H3)を含むVHを含む。特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、少なくとも1つのVL CDR(例えば、CDR-L1、CDR-L2又はCDR-L3)を含むVLを含む。
【0090】
一部の実施形態では、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合する単離抗体又はその抗原結合断片は、(a)配列番号7、10、13又は69と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR1;(b)配列番号8、11、14、17、70又は75と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR2;及び(c)配列番号9、12、15、18、16、65、66、67、71、72、76又は78と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR3を含む。
【0091】
詳細な実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片は、配列番号7、8及び9;配列番号10、11及び12;配列番号13、14及び15;配列番号7、17及び18;配列番号7、8及び16;配列番号7、8及び65;配列番号7、8及び66;配列番号7、8、及び67;配列番号7、8及び78;配列番号69、70及び71;配列番号7、8及び72;配列番号69、75及び71;配列番号69、75及び76;又は配列番号69、70及び71と同一の、又はそれと比べて各CDRに1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR1、VH CDR2及びVH CDR3を含む。
【0092】
一部の実施形態では、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合する単離抗体又はその抗原結合断片は、(a)配列番号1又は4と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVL CDR1;(b)配列番号2、5、73又は77と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVL CDR2;及び(c)配列番号3、6、64、68又は74と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVL CDR3を含む。
【0093】
詳細な実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片は、配列番号1、2及び3;配列番号4、5及び6;配列番号1、2及び64;配列番号1、2及び68;配列番号1、73及び74;又は配列番号1、77及び74と同一の、又はそれと比べて各CDRに1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVL CDR1、VL CDR2及びVL CDR3を含む。
【0094】
一部の実施形態では、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合する単離抗体又はその抗原結合断片は、(a)配列番号7、10、13又は69のアミノ酸配列を含むVH CDR1;(b)配列番号8、11、14、17、70又は75のアミノ酸配列を含むVH CDR2;(c)配列番号9、12、15、18、16、65、66、67、71、72、76又は78のアミノ酸配列を含むVH CDR3;(d)配列番号1又は4のアミノ酸配列を含むVL CDR1;(e)配列番号2、5、73、又は77のアミノ酸配列を含むVL CDR2;及び(f)配列番号3、6、64、68又は74のアミノ酸配列を含むVL CDR3と同一の、又はそれと比べて各CDRに1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR1、VH CDR2、VH CDR3、VL CDR1、VL CDR2及びVL CDR3を含む。
【0095】
詳細な実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片は、配列番号7、8、9、1、2及び3;配列番号10、11、12、1、2及び3;配列番号13、14、15、4、5及び6;配列番号7、17、18、1、2及び3;配列番号7、8、16、1、2及び64;配列番号7、8、65、1、2及び64;配列番号7、8、66、1、2及び64;配列番号7、8、67、1、2及び68;配列番号7、8、67、1、2及び64;配列番号7、8、78、1、2及び64;配列番号7、8、65、1、2及び68;配列番号69、70、71、1、2及び68;配列番号7、8、72、1、73及び74;配列番号69、75、71、1、2及び68;配列番号69、75、76、1、2及び68;配列番号69、75、76、1、77及び74;配列番号69、70、71、1、77及び74と同一の、又はそれと比べて各CDRに1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR1、VH CDR2、VH CDR3、VL CDR1、VL CDR2、及びVL CDR3を含む。
【0096】
一部の実施形態では、(i)3つのCDRを含むVH鎖ドメインと3つのCDRを含むVL鎖ドメインとを含み;及び(ii)黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合する単離抗体又はその抗原結合断片を含む組成物が提供され、ここでVH鎖ドメインの3つのCDRは、(a)配列番号7、10、13又は69のアミノ酸配列を含むVH CDR1;(b)配列番号8、11、14、17、70又は75のアミノ酸配列を含むVH CDR2;及び(c)配列番号9、12、15、18、16、65、66、67、71、72、76又は78のアミノ酸配列を含むVH CDR3を含む。詳細な実施形態では、VH CDR1、VH CDR2及びVH CDR3は、配列番号7、8及び9;配列番号10、11及び12;配列番号13、14及び15;配列番号7、17及び18;配列番号7、8及び16;配列番号7、8及び65;配列番号7、8及び66;配列番号7、8、及び67;配列番号7、8及び78;配列番号69、70及び71;配列番号7、8及び72;配列番号69、75及び71;配列番号69、75及び76;又は配列番号69、70及び71に対応する。
【0097】
また、特定の実施形態では、(i)3つのCDRを含むVH鎖ドメインと3つのCDRを含むVL鎖ドメインとを含み;及び(ii)黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合する単離抗体又はその抗原結合断片を含む組成物も提供され、ここでVL鎖ドメインの3つのCDRは、(a)配列番号1又は4のアミノ酸配列を含むVL CDR1;(b)配列番号2、5、73、又は77のアミノ酸配列を含むVL CDR2;及び(c)配列番号3、6、64、68又は74のアミノ酸配列を含むVL CDR3を含む。詳細な実施形態では、VL CDR1、VL CDR2及びVL CDR3は、配列番号1、2及び3;配列番号4、5及び6;配列番号1、2及び64;配列番号1、2及び68;配列番号1、73及び74;又は配列番号1、77及び74に対応する。
【0098】
特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)α毒素と免疫特異的に結合し、且つ(a)配列番号7、10、13又は69と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR1;(b)配列番号8、11、14、17、70又は75と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR2;及び(c)配列番号9、12、15、18、16、65、66、67、71、72、76又は78と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR3;(d)配列番号1又は4のアミノ酸配列を含むVL CDR1;(e)配列番号2、5、73、又は77のアミノ酸配列を含むVL CDR2;及び(f)配列番号3、6、64、68又は74のアミノ酸配列を含むVL CDR3を含み、且つ以下からなる群から選択される1つ以上の特性(以下にさらに詳細に記載される)を有する:
(a)約13nM以下のα毒素に対する親和性定数(KD);
(b)α毒素モノマーに結合するが、α毒素のα毒素受容体との結合は阻害しない;
(c)α毒素オリゴマーの形成を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%又は95%阻害する;
(d)α毒素の細胞溶解活性を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%又は95%低下させる;(例えば、細胞溶解及び溶血アッセイ(cell lysis add hemolysis assay)により決定されるとき);
(e)細胞浸潤及び炎症誘発性サイトカイン放出を(例えば、動物肺炎モデルにおいて)低下させる。
【0099】
一部の実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片は、約0.01nM~約50nM、0.05nM、0.1nM、0.5nM、1nN、5nM、10nM、20nM、30nM、又は40nMの範囲の解離定数(KD)により特徴付けられる親和性で抗原(例えばα毒素)と結合する。
【0100】
実施例11の表1~7は、本発明の抗体のVH CDR1、VH CDR2、VH CDR3、VL CDR1、VL CDR2及びVL CDR3の配列を提供する。表9は、VH CDR及びVL CDRの概要を提供する。所与の抗体に対して各CDR領域は独立して選択することができるため、これらの領域は様々な組み合わせで組み合わせることができる。表7は、各領域に選択することのできる種々の配列を示す。特定の実施形態では、VL CDR3配列が任意の組み合わせで存在して本抗α毒素抗体又は断片を形成し得る。特定の実施形態では、表9に示されるとおり、VH CDR1は配列番号7、10、13又は69から選択され、VH CDR2は配列番号8、11、14、17、70又は75から選択され、及びVH CDR3は配列番号9、12、15、18、16、65、66、67、71、72、76又は78から選択される。一部の実施形態では、表9に示されるとおり、VL CDR1は配列番号1又は4から選択され、VL CDR2は配列番号2、5、73、又は77から選択され、及びVL CDR3は配列番号3、6、64、68又は74から選択される。
【0101】
VH CDR3及びVL CDR3ドメインは、抗原に対する抗体の結合特異性/親和性において役割を果たす。(従って、一部の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片又はその抗原結合断片は、配列番号9、12、15、18、16、65、66、67、71、72、76又は78と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR3を含む。様々な実施形態において、抗α毒素抗体又は断片は、配列番号3、6、64、68又は74と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVL CDR3を含む。抗α毒素抗体及び断片の残りの部分(例えば、CDR1、CDR2、VH、VLなど)は、その抗α毒素抗体及び断片が黄色ブドウ球菌(S.aureus)α毒素と免疫特異的に結合するならば、本明細書に開示される特定の配列又は既知の配列を含んでもよい。
【0102】
一部の実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片はα毒素と免疫特異的に結合し、且つ配列番号9、12、15、18、16、65、66、67、71、72、76又は78と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR3を含み、ここで抗体又は抗原結合断片はα毒素オリゴマー形成を阻害する。
【0103】
一部の実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片はα毒素と免疫特異的に結合し、且つ配列番号3、6、64、68又は74と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVL CDR3を含み、ここで抗体又は抗原結合断片はα毒素オリゴマー形成を阻害する。
【0104】
一部の実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片はα毒素と免疫特異的に結合し、且つ配列番号9、12、15、18、16、65、66、67、71、72、76又は78と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR3を含み、ここで抗体又は抗原結合断片はサイトカインの放出を低減又は阻害する。
【0105】
一部の実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片はα毒素と免疫特異的に結合し、且つ配列番号3、6、64、68又は74と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVL CDR3を含み、ここで抗体又は抗原結合断片はサイトカインの放出を低減又は阻害する。
【0106】
一部の実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片はα毒素と免疫特異的に結合し、且つ配列番号9、12、15、18、16、65、66、67、71、72、76又は78と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR3を含み、ここで抗体又は抗原結合断片は皮膚壊死を軽減し、又は消失させる。
【0107】
一部の実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片はα毒素と免疫特異的に結合し、且つ配列番号3、6、64、68又は74と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVL CDR3を含み、ここで抗体又は抗原結合断片は皮膚壊死を軽減し、又は消失させる。
【0108】
抗α毒素抗体及び断片は、多くの場合に、本明細書に記載されるアミノ酸配列と実質的に同じである1つ以上のアミノ酸配列を含む。実質的に同じであるアミノ酸配列には、保存的アミノ酸置換、並びにアミノ酸欠失及び/又は挿入を含む配列が含まれる。保存的アミノ酸置換とは、第1のアミノ酸を、第1のアミノ酸と同様の化学的及び/又は物理的特性(例えば、電荷、構造、極性、疎水性/親水性)を有する第2のアミノ酸によって置換することを指す。保存的置換には、以下の群の範囲内での一つのアミノ酸の別のアミノ酸による置換が含まれる:リジン(K)、アルギニン(R)及びヒスチジン(H);アスパラギン酸(D)及びグルタミン酸(E);アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、セリン(S)、スレオニン(T)、チロシン(Y)、K、R、H、D及びE;アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、プロリン(P)、フェニルアラニン(F)、トリプトファン(W)、メチオニン(M)、システイン(C)及びグリシン(G);F、W及びY;C、S及びT。
【0109】
フレームワーク領域
重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、各々4つのフレームワーク領域(一般にFR1、FR2、FR3、FR4か、或いはFW1、FW2、FW3、FW4)を含み、これらは可変ドメインのなかでより高度に保存されている部分である。重鎖の4つのフレームワーク領域は、ここではVH-FW1、VH-FW2、VH-FW3及びVH-FW4と命名され、及び軽鎖の4つのフレームワーク領域は、ここではVL-FWl、VL-FW2、VL-FW3及びVH-FW4と命名される。本明細書ではカバット付番方式を使用し、従ってVH-FW1は1位で始まっておよそアミノ酸30位で終わり、VH-FW2はおよそアミノ酸36~49位であり、VH-FW3はおよそアミノ酸66~94位であり、及びVH-FW4はおよそアミノ酸103~113位である。VL-FW1はアミノ酸1位で始まっておよそアミノ酸23位で終わり、VL-FW2はおよそアミノ酸35~49位であり、VL-FW3はおよそアミノ酸57~88位であり、及びVL-FW4はおよそアミノ酸98~107位である。特定の実施形態では、フレームワーク領域はカバット付番方式に従う置換、例えばVL-FW1における106Aに挿入を含む。天然に存在する置換に加え、FR残基の1つ以上の改変(例えば置換)もまた、抗α毒素抗体又は断片に導入され得る。特定の実施形態では、そのような改変は、抗α毒素に対する抗体の結合親和性の向上又は最適化をもたらす。修飾することができるフレームワーク領域残基の非限定的な例には、抗原と直接非共有結合的に結合する残基、CDRの立体構造と相互作用する/それをもたらす残基、及び/又はVL-VH接合に関与する残基が含まれる。
【0110】
特定の実施形態では、フレームワーク領域は、「生殖系列化」を目的とした1つ以上のアミノ酸変化を含み得る。例えば、選択した抗体重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列を生殖系列の重鎖及び軽鎖アミノ酸配列と比較し、選択したVL鎖及び/又はVH鎖の特定のフレームワーク残基が生殖系列の構成と(例えば、ファージライブラリの調製に用いる免疫グロブリン遺伝子の体細胞突然変異の結果として)異なる場合、選択した抗体の改変されたフレームワーク残基を生殖系列構成に「逆変異させる」ことが望ましいこともある(すなわち、選択した抗体のフレームワークアミノ酸配列を、それが生殖系列フレームワークアミノ酸配列と同じになるように変化させる)。かかるフレームワーク残基の「逆変異」(又は「生殖系列化」)は、特定の突然変異を導入する標準的な分子生物学的方法(例えば部位特異的突然変異誘発;PCR媒介性突然変異誘発など)により達成することができる。一部の実施形態では、可変軽鎖及び/又は重鎖フレームワーク残基が逆変異される。特定の実施形態では、提示される単離抗体又はその抗原結合断片の可変重鎖が逆変異される。特定の実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片の可変重鎖は、少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ又はそれ以上の逆変異を含む。
【0111】
特定の実施形態では、本明細書に提示される抗α毒素抗体又は断片のVHは、配列番号20、22、24、26、28、41、43、45、47、49、51、53、55、57、79、59、61、又は62の範囲内の対応するフレームワーク領域(すなわち、抗体YのFR1と比較したときの抗体XのFR1)と約65%~約100%のアミノ酸配列同一性を有するFR1、FR2、FR3及び/又はFR4を含み得る。一部の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、VH配列番号20、22、24、26、28、41、43、45、47、49、51、53、55、57、79、59、61、又は62の対応するFRと少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%同一の、又はそれと100%同一のVH FRアミノ酸配列(FR1、FR2、FR3及び/又はFR4)を含む。特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、VH配列番号20、22、24、26、28、41、43、45、47、49、51、53、55、57、79、59、61、又は62の対応するFRと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一の、又はそれと100%同一のVH FRアミノ酸配列(FR1、FR2、FR3及び/又はFR4)を含む。
【0112】
特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、VH配列番号20、22、24、26、28、41、43、45、47、49、51、53、55、57、79、59、61、又は62の対応するFRと同一の、又はそれと比べて1、2又は3個のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を含むVH FR(FR1、FR2、FR3及び/又はFR4)を含み得る。特にVHのFR1、FR2、FR3又はFR4は、各々、VH配列番号20、22、24、26、28、41、43、45、47、49、51、53、55、57、79、59、61、又は62の対応するFR1、FR2、FR3又はFR4と同一の、又はそれと比べて1、2又は3個のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を有し得る。
【0113】
特定の実施形態では、本明細書に提供される抗α毒素抗体又は断片のVLは、VL配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63のFRの範囲内の対応するフレームワーク領域(すなわち、抗体YのFR1と比較したときの抗体XのFR1)とアミノ酸配列同一性(例えば、約65%~約100%の配列同一性)を有するFR1、FR2、FR3及び/又はFR4を含み得る。一部の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、VL配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63の対応するFRと少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%同一の、又はそれと100%同一のVL FRアミノ酸配列(FR1、FR2、FR3及び/又はFR4)を含む。特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、VL配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63の対応するFRと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一の、又はそれと100%同一のVL FRアミノ酸配列(FR1、FR2、FR3及び/又はFR4)を含む。
【0114】
特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、VL配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63の対応するFRと同一の、又はそれと比べて1、2又は3個のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を含むVL FR(FR1、FR2、FR3及び/又はFR4)を含む。特にVLのFR1、FR2、FR3又はFR4は、各々、VH配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63の対応するFR1、FR2、FR3又はFR4と同一の、又はそれと比べて1、2又は3個のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を有し得る。
【0115】
特定の実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片はα毒素と免疫特異的に結合し、且つVH配列番号20、22、24、26、28、41、43、45、47、49、51、53、55、57、79、59、61、又は62の対応するFRと同一の、又はそれと比べて1、2又は3個のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を含むVH FR(FR1、FR2、FR3及び/又はFR4)、及び/又はVL配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63の対応するFRと同一の、又はそれと比べて1、2又は3個のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を含むVL FR(FR1、FR2、FR3及び/又はFR4)を含み、ここで抗体は、以下からなる群から選択される1つ以上の特性(以下にさらに詳細に記載される)を有する: (a)約13nM以下のα毒素に対する親和性定数(KD);
(b)α毒素モノマーに結合するが、α毒素のα毒素受容体との結合は阻害しない;
(c)α毒素オリゴマーの形成を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%又は95%阻害する;
(d)α毒素の細胞溶解活性を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%又は95%低下させる;(例えば、細胞溶解及び溶血アッセイ(cell lysis add hemolysis assay)により決定されるとき);
(e)細胞浸潤及び炎症誘発性サイトカイン放出を(例えば、動物肺炎モデルにおいて)低下させる。
【0116】
一部の実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片は、約0.01nM~約50nM、0.05nM、0.1nM、0.5nM、1nN、5nM、10nM、20nM、30nM、又は40nMの範囲の解離定数(KD)により特徴付けられる親和性で抗原(例えばα毒素)と結合する。
【0117】
抗α毒素抗体及び断片をコードするヌクレオチド配列
上記に記載されるアミノ酸配列に加えて、本明細書に開示されるアミノ酸配列に対応し、且つヒト抗体、ヒト化抗体及び/又はキメラ抗体をコードするヌクレオチド配列がさらに提供される。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、本明細書に記載される抗α毒素抗体又は断片をコードするヌクレオチド配列又はその断片を含む。それらとしては、限定はされないが、上記に参照されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列が挙げられる。ヌクレオチド配列は実施例11の表8に提供される。従って、また、本明細書に記載される抗体のCDR及びFRを含むVH及びVLフレームワーク領域をコードするポリヌクレオチド配列、並びに細胞(例えば哺乳動物細胞)においてそれらを効率的に発現させる発現ベクターも提供される。ポリヌクレオチドを使用した抗α毒素抗体又は断片の作製方法を以下にさらに詳細に記載する。
【0118】
また、抗α毒素抗体又は断片をコードするポリヌクレオチドと、例えば本明細書に定義するとおりの、ストリンジェントな又はより低いストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドも含まれる。用語「ストリンジェンシー」は、本明細書で使用されるとき、2つの核酸間の相同性の程度を表すハイブリダイゼーション実験の実験条件(例えば、温度及び塩濃度)を指す;ストリンジェンシーが高いほど、2つの核酸間のパーセント相同性は高くなる。
【0119】
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、限定はされないが、セ氏約45度での6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中におけるフィルターに結合したDNAとのハイブリダイゼーションと、続くセ氏約50~65度での0.2×SSC/0.1%SDS中での1回以上の洗浄が挙げられ、セ氏約45度での6×SSC中におけるフィルターに結合したDNAとのハイブリダイゼーションと、続くセ氏約65度での0.1×SSC/0.2%SDS中での1回以上の洗浄などの高度にストリンジェントな条件、又は任意の他のストリンジェントなハイブリダイゼーション条件が公知である。
【0120】
特定の実施形態では、核酸又はその断片は抗α毒素抗体又は断片をコードし、及びストリンジェントな条件下で、配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む核酸とハイブリダイズし得る。
【0121】
特定の実施形態では、ポリヌクレオチド配列は、配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列と少なくとも約65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は100%同一の、抗α毒素抗体又は断片をコードするヌクレオチド配列を含み得る。一部の実施形態では、ポリヌクレオチド配列は、配列番号30、31、32、33、34、35、36、37又は38のヌクレオチド配列と少なくとも約65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%同一の、抗α毒素抗体又は断片をコードするヌクレオチド配列を含み得る。一部の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列と少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を含むヌクレオチド配列を含む。
【0122】
特定の実施形態では、ポリヌクレオチド配列は、配列番号20、22、24、26、28、41、43、45、47、49、51、53、55、57、79、59、61、又は62のVHアミノ酸配列をコードするVHヌクレオチド配列と少なくとも約65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%同一の、抗α毒素抗体又は断片をコードするヌクレオチド配列を含み得る。一部の実施形態では、ポリヌクレオチド配列は、配列番号30、32、34、36又は38のVHヌクレオチド配列と少なくとも約65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%同一の、抗α毒素抗体又は断片をコードするヌクレオチド配列を含み得る。一部の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、配列番号20、22、24、26、28、41、43、45、47、49、51、53、55、57、79、59、61、又は62のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列と少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を含むVHコードヌクレオチド配列によりコードされる。
【0123】
特定の実施形態では、ポリヌクレオチド配列は、配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63のVLアミノ酸配列をコードするVLヌクレオチド配列と少なくとも約65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%同一の、抗α毒素抗体又は断片をコードするヌクレオチド配列を含み得る。一部の実施形態では、ポリヌクレオチド配列は、配列番号29、31、33、35又は37のVLヌクレオチド配列と少なくとも約65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%同一の、抗α毒素抗体又は断片をコードするヌクレオチド配列を含み得る。一部の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を含むVLコードヌクレオチド配列によりコードされる。
【0124】
詳細な実施形態では、ポリヌクレオチド配列は、VHアミノ酸配列と少なくとも約65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%同一の抗α毒素抗体又は断片をコードするヌクレオチド配列、及びVLアミノ酸配列と少なくとも約65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%同一の抗α毒素抗体又は断片をコードするヌクレオチド配列を含んでもよく、ここでVH配列及びVL配列は、配列番号20及び19;配列番号22及び21;配列番号24及び23;配列番号26及び25;配列番号28及び27;配列番号41及び42;配列番号43及び44;配列番号45及び46;配列番号47及び48;配列番号47及び48;配列番号49及び50;配列番号51及び52;配列番号51及び52;配列番号53及び54;配列番号55及び56;配列番号57及び58;配列番号59及び60;配列番号61及び58;配列番号62及び58;配列番号62及び63;配列番号79及び63により表される。
【0125】
実質的に同一の配列は、集団における多型配列、すなわち選択的配列又は対立遺伝子であってもよい。対立遺伝子の違いは1塩基対という小ささであり得る。実質的に同一の配列はまた、サイレント突然変異を含む配列を含め、突然変異を誘発された配列も含み得る。突然変異は、1つ以上の残基変化、1つ以上の残基の欠失、又は1つ以上のさらなる残基の挿入を含み得る。
【0126】
ポリヌクレオチドは、当該技術分野において公知の任意の方法により得て、そのようなポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を決定し得る。例えば、抗体のヌクレオチド配列が分かっている場合、抗体をコードするポリヌクレオチドは、化学的に合成されたオリゴヌクレオチドから構築してもよく、これには、簡潔に言えば、抗体をコードする配列の部分を含む重複オリゴヌクレオチドの合成、それらのオリゴヌクレオチドのアニーリング及びライゲーション、及び次にライゲートしたオリゴヌクレオチドのPCRによる増幅が関わる。
【0127】
抗体をコードするポリヌクレオチドはまた、好適な供給源由来の核酸から生成してもよい。特定の抗体をコードする核酸を含むクローンが利用できず、しかし抗体分子の配列は分かっている場合、免疫グロブリンをコードする核酸を化学的に合成するか、又は好適な供給源(例えば、抗体cDNAライブラリ、又は、抗体を発現するように選択されるハイブリドーマ細胞などの、抗体を発現する任意の組織又は細胞から作成されるcDNAライブラリ、又はそれから単離される核酸、ときにポリA+RNA)から、PCR増幅により、配列の3’及び5’末端とハイブリダイズ可能な合成プライマーを使用して、又はクローニングにより、特定の遺伝子配列に特異的なオリゴヌクレオチドプローブを使用して、それにより例えば、抗体をコードするcDNAライブラリからcDNAクローンを同定して得てもよい。次に、PCRにより生成された増幅核酸を、当該技術分野において公知の任意の方法を用いて複製可能なクローニングベクターにクローニングしてもよい。
【0128】
抗体のヌクレオチド配列及び対応するアミノ酸配列が決定されたら、例えば、組換えDNA技法、部位特異的突然変異誘発、PCRなど、ヌクレオチド配列を操作する当該技術分野において公知の方法を用いて抗体のヌクレオチド配列を操作し、異なるアミノ酸配列を有する抗体を生成することにより、例えば、アミノ酸置換、欠失、及び/又は挿入を生じさせてもよい。
【0129】
本明細書で使用されるとき、用語「ストリンジェントな条件」は、ハイブリダイゼーション及び洗浄の条件を指す。ハイブリダイゼーション反応温度条件を最適化する方法は、当業者に公知である。水系及び非水系の方法が当該の参考文献に記載され、いずれも用いることができる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の非限定的な例は、6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中、セ氏約45度でのハイブリダイゼーションと、続く0.2×SSC中、0.1%SDS、セ氏50度での1回以上の洗浄である。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の別の例は、6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中、セ氏約45度でのハイブリダイゼーションと、続く0.2×SSC中、0.1%SDS、セ氏55度での1回以上の洗浄である。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件のさらなる例は、6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中、セ氏約45度でのハイブリダイゼーションと、続く0.2×SSC中、0.1%SDS、セ氏60度での1回以上の洗浄である。多くの場合に、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中、セ氏約45度でのハイブリダイゼーションと、続く0.2×SSC中、0.1%SDS、セ氏65度での1回以上の洗浄である。より多くの場合に、ストリンジェンシー条件は、0.5Mリン酸ナトリウム、7%SDS、セ氏65度と、続く0.2×SSC、1%SDS、セ氏65度での1回以上の洗浄である。ストリンジェントなハイブリダイゼーション温度はまた、特定の有機溶媒、例えばホルムアミドの添加によっても変わり得る(すなわち低下し得る)。ホルムアミドなどの有機溶媒は二本鎖ポリヌクレオチドの熱安定性を低下させ、そのためハイブリダイゼーションをより低い温度で実施することができ、それでもなおストリンジェントな条件は維持され、熱に不安定であり得る核酸の有用寿命が延長され得る。
【0130】
本明細書で使用されるとき、語句「ハイブリダイズする」又はその文法的な変形は、低度、中程度又は高度のストリンジェンシー条件下、又は核酸合成条件下で第1の核酸分子を第2の核酸分子と結合することを指す。ハイブリダイズすることには、第1の核酸分子と第2の核酸分子とが相補的な場合に、第1の核酸分子が第2の核酸分子と結合する例が含まれ得る。本明細書で使用されるとき、「特異的にハイブリダイズする」は、核酸合成条件下でプライマーを、そのプライマーと相補的な配列を有する核酸分子と、相補配列を有しない核酸分子とのハイブリダイゼーションと比べて選択的にハイブリダイズすることを指す。例えば、特異的なハイブリダイゼーションには、プライマーをそのプライマーと相補的な標的核酸配列とハイブリダイズすることが含まれる。
【0131】
一部の実施形態では、プライマーは、固相核酸プライマーハイブリダイゼーション配列と相補的、又は固相核酸プライマーハイブリダイゼーション配列と実質的に相補的(例えば、アラインメントしたときにプライマーハイブリダイゼーション配列相補体と約75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%を上回って同一)であってよいヌクレオチド部分配列を含み得る。プライマーは、固相核酸プライマーハイブリダイゼーション配列と相補的でない又はそれと実質的に相補的でないヌクレオチド部分配列を(例えば、固相プライマーハイブリダイゼーション配列と相補的な又はそれと実質的に相補的なプライマーにおけるヌクレオチド部分配列の3’末端又は5’末端に)含み得る。
【0132】
プライマーは、特定の実施形態では、イノシン、脱塩基部位、ロックド核酸、副溝結合剤、二重鎖安定剤(例えば、アクリジン、スペルミジン)、Tm調整剤又はプライマー若しくはプローブの結合特性を変化させる任意の調整剤などの修飾を含み得る。
【0133】
プライマーは、特定の実施形態では、検出可能な分子又は実体(例えば、フルオロフォア、放射性同位体、呈色剤、粒子、酵素など)を含み得る。望ましい場合、核酸は、当業者に公知の任意の方法を用いて検出可能標識を含むように修飾することができる。標識は、合成の一部として組み込んでもよく、又は本明細書に記載される方法のいずれかにおいてプライマーを使用する前に加えてもよい。標識の組み込みは液相中又は固相上のいずれで実施してもよい。一部の実施形態では、検出可能標識は標的の検出に有用であり得る。一部の実施形態では、検出可能標識は標的核酸の定量化(例えば、核酸の特定の配列又は種のコピー数の決定)に有用であり得る。ある系における相互作用又は生物活性の検出に好適な任意の検出可能標識を、当業者は適切に選択して利用することができる。検出可能標識の例は、フルオレセイン、ローダミンなどの蛍光標識(例えば、Anantha,et al.,Biochemistry(1998)37:2709 2714;及びQu & Chaires,Methods Enzymol.(2000)321:353 369);放射性同位体(例えば、125I、131I、35S、31P、32P、33P、14C、3H、7Be、28Mg、57Co、65Zn、67Cu、68Ge、82Sr、83Rb、95Tc、96Tc、103Pd、109Cd、及び127Xe);光散乱標識(例えば、米国特許第6,214,560号明細書、及びGenicon Sciences Corporation,Californiaからの市販品);化学発光標識及び酵素基質(例えば、ジオキセタン及びアクリジニウムエステル)、酵素標識又はタンパク質標識(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)又はその色違い、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ);他の発色標識又は色素(例えば、シアニン)、及び他の補因子又は生体分子、例えばジゴキシゲニン、ストレプトアビジン、ビオチン(例えば、結合対、例えばビオチン及びアビジンなどのメンバー)、親和性捕捉部分などである。一部の実施形態では、プライマーは親和性捕捉部分で標識されてもよい。また、検出可能標識には、質量分析法(例えば、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法及びエレクトロスプレー(ES)質量分析法)による検出のための大量修飾に有用な標識も含まれる。
【0134】
プライマーはまた、標的核酸の部分配列又は別のプライマーとハイブリダイズするポリヌクレオチド配列であって、例えば分子ビーコンと同様に、プライマー、標的核酸又はその双方の検出を促進するポリヌクレオチド配列を指すこともある。用語「分子ビーコン」は、本明細書で使用されるとき、検出可能な分子であって、ある特定の条件下においてのみ分子の検出可能な特性を検出可能であり、それにより特異的且つ情報を提供するシグナルとして機能できる分子を指す。検出可能な特性の非限定的な例は、光学的特性、電気的特性、磁気的特性、化学的特性及び既知の大きさの開口を通る時間又は速度である。
【0135】
一部の実施形態では、分子ビーコンは、ステム-ループ構造の形成能を有する一本鎖オリゴヌクレオチドであることができ、ここでループ配列は、目的の標的核酸配列と相補的であってもよく、且つステムを形成することのできる短い相補的なアームが隣接している。オリゴヌクレオチドは、一端でフルオロフォアにより標識され、他端で消光剤分子により標識されてもよい。ステム-ループの立体構造では、励起フルオロフォアからのエネルギーが、蛍光共鳴エネルギー転移、すなわちFRETで見られるのと同様の遠距離双極子-双極子カップリングを介して消光剤に伝達され、光ではなく、熱として放出される。ループ配列が特定の標的配列とハイブリダイズすると、分子の両端が分離し、励起フルオロフォアからのエネルギーが光として放出され、検出可能なシグナルが生じる。分子ビーコンは、ハイブリダイズされなかったプローブの自己消光的な性質により、過剰なプローブの除去が不要であるというさらなる利点を提供する。一部の実施形態では、分子ビーコンプローブは、ループ-標的ハイブリダイゼーション及びステム形成の相対的な強度を調節することにより、ループと標的配列との間のミスマッチを区別するか、或いは許容するように設計することができる。本明細書において参照されるとき、用語「ミスマッチヌクレオチド」又は「ミスマッチ」は、当該の1つ又は複数の位置で標的配列と相補的でないヌクレオチドを指す。プローブは少なくとも1つのミスマッチを有し得るが、2、3、4、5、6又は7個又はそれ以上のミスマッチヌクレオチドを有することもある。
【0136】
抗α毒素抗体及び断片の生物学的特性
抗体は、本明細書に記載される抗体と同一又は同様の1つ以上の特性を有してもよく、多くの場合に、その抗体を、同じ抗原α毒素に結合する他の抗体と区別する生物学的特性の1つ以上を備える。本明細書で使用されるとき、抗体の「生物学的特性」は、生化学的特性、結合特性及び機能的特性の任意の1つ以上を指し、それを用いて治療、研究、及び診断用途の抗体を選択することができる。例えば、抗α毒素抗体及び断片は、例えばエピトープ結合性、標的性、親和性、中和性、及びオリゴマー形成又はヘプタマー膜孔複合体形成の阻害に関して同じか、又は異なり得る。
【0137】
抗α毒素抗体又は断片の生化学的特性としては、限定はされないが、等電点(pI)及び融解温度(Tm)が挙げられる。抗α毒素抗体又は断片の結合特性としては、限定はされないが、結合特異性;解離定数(Kd)、又はその逆、会合定数(Ka)、又はその成分kon若しくはkoff速度;それが結合するエピトープ;α毒素の様々な型及び/又は調製(例えば、組換え、天然、アセチル化)の識別能及び可溶性抗原及び/又は固定化抗原との結合能が挙げられる。本明細書に提示される抗体の機能的特性としては、限定はされないが、α毒素受容体結合の阻害、α毒素オリゴマー形成の阻害、α毒素発現又は活性に応答したカスケード反応によって誘導される遺伝子発現の阻害、α毒素を発現する細胞の枯渇、α毒素を発現する細胞の成長阻害、α毒素の局在化の阻害、及び1つ以上の黄色ブドウ球菌(S.aureus)、α毒素又は黄色ブドウ球菌(S.aureus)及びα毒素関連疾患又は障害の防御が挙げられる。本明細書には、抗α毒素抗体及び断片の特性並びにそれらの特性を修飾及び微調整する方法が記載される。抗体の特性の計測方法は当該技術分野において公知であり、その一部を以下に詳述する。
【0138】
結合特性
上記に記載したとおり、抗α毒素抗体又は断片は、タンパク質、ペプチド、サブユニット、断片、部分又はそれらの任意の組み合わせの少なくとも1つの特定のエピトープ又は抗原決定基と、他のポリペプチドと比べて排他的又は選択的に、免疫特異的に結合する。用語「エピトープ」又は「抗原決定基」は、本明細書で使用されるとき、抗体との結合能を有するタンパク質決定基を指し、ここで用語「結合する」は、本明細書では、多くの場合に特異的結合に関する。このようなタンパク質決定基又はエピトープは、多くの場合にアミノ酸又は糖側鎖などの分子の化学的に活性な表面基を含み、これは多くの場合に特異的な三次元構造特性を有し、且つ多くの場合に特異的な電荷特性を有する。立体構造エピトープと非立体構造エピトープとは、変性溶媒の存在下で前者との結合は失われるが、後者との結合は失われない点で区別される。用語「不連続エピトープ」は、本明細書で使用されるとき、タンパク質の一次配列において少なくとも2つの別個の領域から形成されるタンパク質抗原上の立体構造エピトープを指す。
【0139】
特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素及びその、α毒素オリゴマー形成に関連する抗原断片に免疫特異的に結合する。一部の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、α毒素、又は配列番号39又は40の少なくとも任意の3個の連続するアミノ酸に免疫特異的に結合する。一部の実施形態では、エピトープは、α毒素タンパク質の連続するアミノ酸の特定の部分全体に対する少なくとも4個のアミノ酸残基、少なくとも5個のアミノ酸残基、少なくとも6個のアミノ酸残基、少なくとも7個のアミノ酸残基、少なくとも8個のアミノ酸残基又は少なくとも9個のアミノ酸残基である。特定の実施形態では、接触残基は、T261、T263、N264、K266及びK271を含む。他の実施形態において、接触残基は、配列番号39のN177、W179、G180、P181、Y182、D183、D185、S186、W187、N188、P189、V190、Y191及びR200を含む。さらなる実施形態では、接触残基は、配列番号39のN177、W179、G180、P181、Y182、D183、D185、S186、W187、N188、P189、V190、Y191、R200、T261、T263、N264、K266及びK271を含む。特定の実施形態では、抗体又はその抗原結合断片と接触するα毒素の一部分は、配列番号39のアミノ酸261~272を含む。他の実施形態において、抗体又はその抗原結合断片と接触するα毒素の一部分は、配列番号39のアミノ酸248~277を含む。他の実施形態において、抗体又はその抗原結合断片と接触するα毒素の一部分は、配列番号39のアミノ酸173~201及び261~272を含む。
【0140】
様々な実施形態において、抗α毒素抗体又はそのα毒素オリゴマー形成に関連する断片は、配列番号39又は40のアミノ酸配列と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%の同一性、又は100%の同一性を有するα毒素ポリペプチド又はその抗原断片と免疫特異的に結合する。抗α毒素抗体又は断片は、ときに、配列番号39又は40のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性、又は100%の同一性を有するα毒素ポリペプチド又はその抗原断片に免疫特異的に結合し得る。
【0141】
特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、種間で保存されているエピトープと結合し得る。一部の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)α毒素及び他の細菌種由来のα毒素ホモログ又はオルソログ及びその抗原断片と結合する。一部の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、1つ以上のα毒素オルソログ及び/又はアイソフォームに結合し得る。特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、α毒素ホモログ又はオルソログを有する1つ以上の細菌種由来のα毒素及びそのα毒素オリゴマー形成に関連する抗原断片に結合する。特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、全てのα毒素ホモログ及び/又はアイソフォーム及び/又は立体構造変異体及び/又はサブタイプにわたってスタフィロコッカス属(Staphylococcus)又は他の近縁の細菌の範囲内のエピトープと結合し得る。
【0142】
抗原と抗体との間の相互作用は、多くの場合に他の非共有結合性のタンパク質間相互作用と同じである。一般に、抗原と抗体との間には4種類の結合相互作用が存在する:(i)水素結合、(ii)分散力、(iii)ルイス酸とルイス塩基との間の静電力、及び(iv)疎水性相互作用。疎水性相互作用は、抗体-抗原相互作用の大きい推進力であり、分子の引力というよりむしろ、非極性基による水の反発作用に基づく。しかしながら、特定の物理的力、例えば種々の抗体結合部位に対するエピトープ形状の適合性又は相補性もまた、抗原-抗体結合に寄与する。他の材料及び抗原は抗体と交差反応し得るため、従って利用可能な遊離抗体に関して競合し得る。
【0143】
抗原と抗体との間の結合の親和性定数及び特異性の計測は、多くの場合に抗α毒素抗体及び断片を用いた治療、診断及び研究方法の有効性を決定する一要素である。「結合親和性」は、概して、分子(例えば抗体)の単一の結合部位とその結合パートナー(例えば抗原)との間の非共有結合性の相互作用の合計強度を指す。特に指示がない限り、本明細書で使用されるとき、「結合親和性」は、結合対(例えば、抗体及び抗原)のメンバー間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、概して、koff/kon比として計算される平衡解離定数(Kd)により表すことができる。親和性は、本明細書に記載及び例示されるものを含め(例えば、BiaCore法)、当該技術分野において公知の一般的な方法により計測することができる。低親和性抗体は、概して抗原とゆっくり結合し、且つ容易に解離する傾向を有する一方、高親和性抗体は、概して抗原とより速く結合し、且つより長く結合したままとどまる傾向がある。結合親和性の様々な計測方法が当該技術分野において公知であり、本技術の目的のためにそのいずれを用いることもできる。
【0144】
抗α毒素抗体又は断片は、ときに、1×10-2M以下、1×10-3M以下、1×10-4M以下、1×10-5M以下、1×10-6M以下、1×10-7M以下、1×10-8M以下、1×10-9M以下、1×10-10M以下、1×10-11M以下、1×10-12M以下、1×10-13M以下、1×10-14M以下又は1×10-15M以下の解離定数(Kd)により特徴付けられるα毒素エピトープに対する結合親和性を有する。例えば、Kdは、1×10-15M~1×10-2M、1×10-14M~1×10-10M、1×10-9M~1×10-5M及び1×10-4M~1×10-2Mであってもよい。
【0145】
特定の実施形態では、抗α毒素抗体及び断片は高親和性抗体である。「高親和性抗体」とは、10-8M未満(例えば、10-9M、10-10Mなど)の親和性でα毒素エピトープに結合する抗体を意味する。
【0146】
特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、特定のモル濃度又はそれより良好な結合親和性を有するものとして記載される。「又はそれより良好な」は、本明細書で使用されるとき、より小さい数値のKd値によって表されるより強い結合を指す。例えば、抗原に対して「0.6nM又はそれより良好な」親和性を有する抗体は、抗原に対する抗体の親和性が<0.6nM、すなわち、0.59nM、0.58nM、0.57nMなど、又は0.6nM未満の任意の値である。
【0147】
一部の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片の親和性は、kon/koffの比として計算される会合定数(Ka)の観点で記載される。この例では、本抗α毒素抗体及び断片は、α毒素エピトープに対して、1×102M-1以上、1×103M-1以上、1×10M-1以上、1×105M-1以上、1×106M-1以上、1×107M-1以上、1×108M-1以上、1×109M-1以上、1×1010M-1以上、1×1011M-1以上、1×1012M-1以上、1×1013M-1以上、1×1014M-1以上又は1×1015M-1以上の会合定数(Ka)を含む結合親和性を有する。例えば、Kaは、1×102M-1~1×107M-1、1×107M-1~1×1010M-1、及び1×1010M-1~1×1015M-1であってもよい。
【0148】
特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片がα毒素エピトープから解離する速度が関係し得る。一部の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、10-3s-1未満、5×10-3s-1未満、10-4s-1未満、5×10-4s-1未満、又は10-5s-1未満のkoffでα毒素に結合し得る。一部の実施形態では、抗α毒素抗体及び断片がα毒素エピトープと会合する速度が、Kd又はKaの値より強く関係し得る。この例では、本抗α毒素抗体及び断片は、少なくとも10-4M-1s-1、少なくとも5×10-4M-1s-1、少なくとも105M-1s-1、少なくとも5×105M-1s-1、少なくとも106M-1s-1、少なくとも5×106M-1s-1、少なくとも107M-1s-1のkon速度でα毒素に結合する。
【0149】
結合親和性の決定は、実施例の節にさらに記載される特定の技術(実施例1を参照)、及び当該技術分野において公知の方法を用いて計測することができる。かかる方法の一例には、漸変系列の未標識抗原の存在下でFabを最小濃度の(125I)標識抗原で平衡化し、次に抗Fab抗体で被覆したプレートで結合抗原を捕捉することにより、抗原に対するFabの溶液結合親和性を計測する以下のアッセイにより記載されるとおり、目的の抗体のFab型及びその抗原で実施される放射性標識抗原結合アッセイ(RIA)による解離定数「Kd」の計測が含まれる。アッセイ条件を確立するため、マイクロタイタープレート(Dynex)を50mM炭酸ナトリウム(H9.6)中5μg/mlの捕捉抗Fab抗体(Cappel Labs)で一晩コーティングし、続いてPBS中2%(w/v)ウシ血清アルブミンにより室温(セ氏約23度)で2~5時間ブロックする。非吸着性プレート(Nunc #269620)において、100pM又は26pMの[125I]抗原を目的のFabの段階希釈物と混合する。次に目的のFabを一晩インキュベートする;しかしながら、このインキュベーションは、確実に平衡に達するようにさらに長時間(例えば65時間)続行してもよい。その後、混合物を捕捉プレートに移して室温で(例えば1時間)インキュベートする。次に溶液を除去し、プレートをPBS中0.1%Tween-20で8回洗浄する。プレートを乾燥させたところで、150μl/ウェルの発光物質(MicroScint-20;Packard)を添加し、プレートをTopcountガンマカウンター(Packard)で10分間カウントする。最大結合の20%以下が得られる各Fabの濃度を、競合的結合アッセイでの使用に選択する。
【0150】
別の例では、表面プラズモン共鳴アッセイを用いてKd値を計測してもよく、このアッセイは、例えば、約10反応単位(RU)の固定化された抗原CM5チップを備えるBIAcore(商標)-2000又はBIAcore(商標)-3000(BIAcore,Inc.,Piscataway,New Jersey)をセ氏25度で使用して実施することができる。簡潔に言えば、かかる方法の例では、カルボキシメチル化されたデキストランバイオセンサーチップ(CM5,BIAcore Inc.)を、供給業者の指示に従いN-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化する。抗原を110mM酢酸ナトリウム、pH4.8で5μg/マイクロリットル(約0.2uM)に希釈してから5μl/分の流量で注入することにより、約10反応単位(RU)の結合タンパク質を達成する。抗原の注入後、IMエタノールアミンを注入して未反応基をブロックする。動態計測のため、2倍のFab段階希釈物(0.78nM~500nM)を、セ氏25度の0.05%Tween 20(PBST)含有PBSに約25μl/分の流量で注入する。会合及び解離センサグラムを同時にフィットすることにより単純な一対一のラングミュア結合モデル(BIAcore評価ソフトウェア、バージョン3.2)を使用して、会合速度(kon)及び解離速度(koff)を計算する。
【0151】
上記の表面プラズモン共鳴アッセイによりon速度が106M-1s-1を超える場合、on速度は、例えば、蛍光消光技法を用いることにより決定することができ、この技法は、撹拌キュベットを備えた、ストップフローが装備された分光光度計(Aviv Instruments)又は8000シリーズSLM-Aminco分光光度計(ThermoSpectronic)などの分光計で計測するときの、漸増濃度の抗原の存在下、PBS、pH7.2中の20nM抗抗原抗体(Fab形態)の、セ氏25度における蛍光放射強度(励起=295nm;発光=340nm、16nmバンドパス)の増加又は減少を計測するものである。この技法に係る「on速度」又は「会合の速度」又は「会合速度」又は「kon」はまた、上記に記載される同じ表面プラズモン共鳴技法により、上記に記載したとおりBIAcore(商標)-2000又はBIAcore(商標)-3000(BIAcore,Inc.,Piscataway,NewJersey)を使用して決定することができる。
【0152】
提示される単離抗体又はその抗原結合断片、又はその改変/突然変異誘導体(以下に考察)の結合特性の決定に好適な方法及び試薬は、当該技術分野において公知であり、及び/又は市販されている。かかる動態解析用に設計された機器及びソフトウェアは、市販されている(例えば、Biacore(登録商標)A100、及びBiacore(登録商標)2000機器;Biacore International AB,Uppsala,Sweden)。
【0153】
一部の実施形態では、結合アッセイは、直接的な結合アッセイとして実施されても、又は競合結合アッセイとして実施されてもよい。結合は、標準的なELISA又は標準的なフローサイトメトリーアッセイを用いて検出することができる。直接的な結合アッセイでは、α毒素抗原との結合について候補抗体を試験する。他方で、競合結合アッセイは、候補抗体が既知の抗α毒素抗体若しくは断片又はα毒素と結合する他の化合物(例えば、受容体、阻害剤)と競合する能力を評価する。概して抗体のα毒素との検出可能な結合を可能にする任意の方法が、抗体の結合特性を検出及び/又は計測するための本技術の範囲に包含される。これらの方法を利用して、所望の特性を提供する抗体について抗体パネルをスクリーニングすることもできる。
【0154】
特定の実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片はα毒素と免疫特異的に結合し、且つ以下からなる群から選択される特性の1つ以上を有する:
(a)約13nM以下のα毒素に対する親和性定数(KD);
(b)α毒素モノマーに結合するが、α毒素のα毒素受容体との結合は阻害しない;
(c)α毒素オリゴマーの形成を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%又は95%阻害する;
(d)α毒素の細胞溶解活性を(例えば、細胞溶解及び溶血アッセイ(cell lysis add hemolysis assay)により決定されるとき)少なくとも50%、60%、70%、80%、90%又は95%低下させる;
(e)細胞浸潤及び炎症誘発性サイトカイン放出を(例えば、動物肺炎モデルにおいて)低下させる。
【0155】
一部の実施形態では、単離抗体又はその抗原結合断片は、約0.01nM~約50nM、0.05nM、0.1nM、0.5nM、1nN、5nM、10nM、20nM、30nM、又は40nMの範囲の解離定数(KD)により特徴付けられる親和性で抗原(例えばα毒素)と結合する。
【0156】
機能的特性
特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片はα毒素及び/又はα毒素発現細胞の生物学的特性を変化させる。一部の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、ポリペプチドに結合し、且つα毒素モノマーが集合して膜貫通孔(例えばα毒素ヘプタマー)になることを阻害することにより、α毒素の生物活性を中和する。中和アッセイは、場合によっては市販の試薬を使用して、当該技術分野で公知の方法を用いて実施することができる。α毒素の中和は、多くの場合に、1×10-6M以下、1×10-7M以下、1×10-8M以下、1×10-9M以下、1×10-10M以下及び1×10-11M以下のIC50で計測される。特定の実施形態では、中和は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)毒素と免疫特異的に結合する抗体又は抗原結合断片が、実施例3~6に記載されるとおりの濃度であるときに起こる。特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、α毒素がオリゴマー化して膜貫通孔を形成する能力を中和する。用語「50%阻害濃度」(「IC50」と省略される)は、阻害剤(例えば、本明細書に提供される抗α毒素抗体又は断片)がその阻害剤の標的分子の所与の活性(例えば、α毒素のオリゴマー化による膜貫通孔ヘプタマー複合体の形成)の50%を阻害するのに必要な濃度を表す。概してより低いIC50値がより強力な阻害剤に対応する。
【0157】
特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、α毒素の1つ以上の生物活性を阻害する。用語「阻害」は、本明細書で使用されるとき、活性の完全な遮断を含め、生物活性の任意の統計的に有意な低下を指す。例えば、「阻害」は、生物活性の約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%の低下を指す。特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片はα毒素の1つ以上の生物活性を少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%阻害する。
【0158】
一部の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、病原性黄色ブドウ球菌(S.aureus)により分泌されるα毒素を枯渇させ得る。一部の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)により分泌されるα毒素の少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、又は約100%の枯渇を達成し得る。詳細な実施形態では、事実上全ての検出可能な分泌α毒素が、黄色ブドウ球菌(S.aureus)に感染した細胞から枯渇する。
【0159】
特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、インビトロで刺激されたα毒素活性(例えば、受容体結合、オリゴマー形成)及び/又はα毒素を発現又は分泌する細胞の増殖を阻害する。抗α毒素抗体又は断片は、ときにインビトロα毒素活性の黄色ブドウ球菌(S.aureus)病原性を少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%又は少なくとも約75%阻害する。細胞増殖、病原性、及びα溶血素活性の計測方法は、当該技術分野において公知である。
【0160】
特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染及び/又はα毒素発現及び機能により作り出された環境に直接的又は間接的に反応する1つ以上の誘導性遺伝子の発現を阻害し得る。具体的な実施形態において、抗α毒素抗体又は断片は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染及び/又はα毒素発現及び機能により作り出された環境に直接的又は間接的に反応する1つ以上の誘導性遺伝子の発現を、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、少なくとも120%、少なくとも140%、少なくとも160%、少なくとも180%、又は少なくとも200%阻害する。
【0161】
抗α毒素抗体及び断片の産生
以下は、抗体を産生する例示的技法について記載する。抗体の産生に用いるα毒素抗原は、例えばα毒素ペプチド配列のうちオリゴマー形成に関与する領域を含むペプチド断片であってもよい。α毒素に対する抗体は、配列番号39を含む天然の黄色ブドウ球菌(S.aureus)α毒素、又は配列番号40を含む変異α毒素、その変異体、又は抗原断片を使用して生成することができる。また、α毒素を発現及び分泌する黄色ブドウ球菌(S.aureus)細胞を使用しても抗体を生成することができる。α毒素のヌクレオチド及びアミノ酸配列の例は、例えば表10に提供されるとおり入手可能である。α毒素は、標準的な組換えDNA方法を用いて細菌細胞又は真核細胞から単離形態で組換え産生することができる。α毒素をタグ付き(例えば、エピトープタグ)又は他の融合タンパク質(例えば、GST融合)として発現させて、様々なアッセイにおける単離並びに同定を促進することができる。以下に記載するとおり、様々なタグ及び融合配列に結合する抗体又は結合性タンパク質が利用可能である。抗体の生成に有用な他の形態のα毒素もまた使用することができる。
【0162】
様々なタグポリペプチド及びそのそれぞれの抗体は、当該技術分野において公知である。例としては、ポリ-ヒスチジン(ポリ-his)タグ又はポリ-ヒスチジン-グリシン(ポリ-his-gly)タグ;flu HAタグポリペプチド及びその抗体12CA5;c-mycタグ及びそれに対する8F9、3C7、6E10、G4、B7及び9E10抗体;及び単純ヘルペスウイルス糖タンパク質D(gD)タグ及びその抗体が挙げられる。FLAGペプチドは、抗FLAG M2モノクローナル抗体により認識される。FLAGペプチドを含むタンパク質の精製は、アガロースに共有結合的に結合した抗FLAG M2モノクローナル抗体を含む親和性基質を使用するイムノアフィニティークロマトグラフィーによって実施することができる。他のタグポリペプチドとしては、KT3エピトープペプチド;α-チューブリンエピトープペプチド;及びT7遺伝子10タンパク質ペプチドタグが挙げられる。
【0163】
目的の抗原に対するポリクローナル抗体は、当該技術分野において公知の様々な手順により産生することができる。例えば、α毒素ポリペプチド又はその免疫原性断片を、限定はされないが、ウサギ、マウス、ラットなどを含む様々な宿主動物に投与することにより、その抗原に特異的なポリクローナル抗体を含む血清の生成を誘導することができる。宿主種に応じて様々なアジュバントを使用して免疫応答を増加させることができ、限定はされないが、フロイント(完全及び不完全)、ミネラルゲル、例えば水酸化アルミニウム、界面活性物質、例えばリゾレシチン、プルロニック(pluronic)ポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、キーホールリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノール、及び潜在的に有用なヒトアジュバント、例えばBCG(カルメット・ゲラン桿菌)及びコリネバクテリウム・パルバム(Corynebacterium parvum)が挙げられる。かかるアジュバントもまた当該技術分野において公知である。
【0164】
ポリクローナル抗体は、関連抗原及びアジュバントの複数回の皮下(sc)又は腹腔内(ip)注射によって動物体内で産生させることができる。関連抗原を免疫する種において免疫原性のタンパク質とコンジュゲートすることが(特に合成ペプチドを使用する場合)有用であり得る。例えば、二官能剤又は誘導体化剤(反応基)、例えば、活性化エステル(システイン残基又はリジン残基を介したコンジュゲーション)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOCl2、又はR1N=C=NR(式中R及びR1は異なるアルキル基である)を使用して、抗原をキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、血清アルブミン、ウシチログロブリン、又はダイズトリプシンインヒビターとコンジュゲートすることができる。コンジュゲートはまた、融合タンパク質として組換え細胞培養で作製することもできる。
【0165】
典型的には動物は、抗原、免疫原性コンジュゲート、又は誘導体に対して、適切な濃度の抗原又はコンジュゲートをアジュバントと組み合わせ、その溶液を複数の部位に注入することによって免疫される。免疫化はまた、実施例1に記載されるとおり実施することもできる(免疫化/ハイブリドーマ生成)。
【0166】
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ技術、組換え技術、及びファージディスプレイ技術の使用、又はそれらの組み合わせを含め、当該技術分野において公知の多種多様な技法を用いて調製することができる。用語「モノクローナル抗体」は、本明細書で使用されるとき、実質的に同種の又は単離された抗体の集団から得られる抗体を指し、例えば、その集団を構成する個々の抗体は、少量だけ存在し得る天然に存在する可能な突然変異を除いては同じである。モノクローナル抗体は高度に特異的で、単一の抗原部位を標的とするか、又は多特異性の改変抗体の場合には複数の抗原部位を標的とする。さらに、異なる決定基(エピトープ)を標的とする異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体が抗原上の同じ決定基を標的とする。その特異性に加え、モノクローナル抗体は、他の抗体によって汚染されずに合成し得る点で有利である。修飾語句「モノクローナル」は、任意の特定の方法による必須の抗体産生として解釈されるべきではない。以下は、モノクローナル抗体を産生する代表的な方法の説明であるが、これは限定を意図するものではなく、例えば、モノクローナル哺乳動物抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、ドメイン抗体、ダイアボディ、ワクチボディ(vaccibody)、線状抗体及び多特異性抗体の産生に用いることができる。
【0167】
ハイブリドーマ技術を用いた特異抗体の産生及びスクリーニング方法は当該技術分野においてルーチンであり、周知されている。ハイブリドーマ方法では、マウス又は他の適切な宿主動物、例えばハムスターが、上記に記載したとおり免疫され、免疫化に用いた抗原に特異的に結合し得る抗体を産生する又はその産生能を有するリンパ球が誘発される。或いは、リンパ球はインビトロで免疫されてもよい。免疫後、リンパ球が単離され、次にポリエチレングリコールなどの好適な融合剤又は融合パートナーを使用して骨髄腫細胞株と融合され、ハイブリドーマ細胞が形成される。特定の実施形態では、選択される骨髄腫細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定した高度産生を支持し、及び融合していない親細胞に対する選択を行う選択培地に感受性を示すものである。一態様において、骨髄腫細胞株は、ソーク研究所細胞流通センター(Salk Institute Cell Distribution Center),San Diego,California,USAから入手可能なMOPC-21及びMPC-11マウス腫瘍、及び米国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection),Rockville,Maryland,USAから入手可能なSP-2及び誘導体、例えばX63-Ag8-653細胞に由来するものなどのマウス骨髄腫株である。ヒト骨髄腫及びマウス-ヒト異種骨髄腫細胞株もまた、ヒトモノクローナル抗体の産生について記載がある。
【0168】
所望の特異性、親和性、及び/又は活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞を同定した後、クローンを限界希釈手順によりサブクローニングし、標準方法により成長させてもよい。この目的に好適な培養培地としては、例えば、D-MEM又はRPMI-1640培地が挙げられる。加えて、ハイブリドーマ細胞は、例えば細胞をマウスに腹腔内注射することによる、動物における腹水腫瘍のようにインビボで成長させてもよい。
【0169】
サブクローンによって分泌されるモノクローナル抗体は、例えば、アフィニティークロマトグラフィー(例えば、プロテインA又はプロテインGセファロースを使用)又はイオン交換クロマトグラフィー、アフィニティータグ、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析などの従来の抗体精製手順によって培養培地、腹水、又は血清から好適に分離される。例示的精製方法を以下にさらに詳細に記載する。
【0170】
組換えDNA技法
組換えDNA技術を用いた特異抗体の産生及びスクリーニング方法は当該技術分野においてルーチンであり、周知されている。モノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手順を用いて(例えば、マウス抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子との特異的な結合能を有するオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより)容易に単離及び/又は配列決定され得る。単離後、DNAを発現ベクターに入れることができ、次にはそれが、大腸菌(E.coli)細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又は骨髄腫細胞などの、本来は抗体タンパク質を産生しない宿主細胞にトランスフェクトされ、組換え宿主細胞においてモノクローナル抗体が合成される。抗体のファージディスプレイ及びヒト化により生成される抗体に関して以下に記載するとおり、組換え抗体のDNA又は遺伝物質をハイブリドーマ以外の1つ又は複数の供給源から得て、抗α毒素抗体又は断片を生成することができる。
【0171】
抗体又はその変異体の組換え発現には、多くの場合に、抗体をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターの構築が必要である。本明細書には、プロモーターに作動可能に連結された、抗体分子、抗体の重鎖又は軽鎖、抗体の重鎖又は軽鎖可変ドメイン又はその一部分、又は重鎖又は軽鎖CDRをコードするヌクレオチド配列を含む複製可能なベクターが提供される。かかるベクターは、抗体分子の定常領域をコードするヌクレオチド配列を含んでもよく、抗体の可変ドメインが、重鎖全体、軽鎖全体、又は重鎖及び軽鎖全体の双方を発現するかかるベクターにクローニングされ得る。
【0172】
発現ベクターが従来技術により宿主細胞に移されると、次にトランスフェクト細胞が従来技術により培養され、抗体を産生する。従って、本明細書には、異種プロモーターに作動可能に連結された、提示される単離抗体又はその抗原結合断片又はその断片、又はその重鎖又は軽鎖、又はその一部分、又は本明細書における一本鎖抗体をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞が提供される。特定の実施形態では二本鎖の抗体を発現させるため、以下に詳述するとおり、免疫グロブリン分子全体を発現する宿主細胞において、重鎖及び軽鎖の双方をコードするベクターを共発現させてもよい。
【0173】
組換え抗体の発現用宿主として利用可能な哺乳動物細胞株は、当該技術分野において公知であり、限定はされないが、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、サル腎細胞(COS)、ヒト肝細胞癌細胞(例えば、Hep G2)、ヒト上皮腎臓293細胞、及び数多くの他の細胞株を含め、米国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection:ATCC)から利用可能な多くの不死化細胞株が挙げられる。それぞれの宿主細胞が、タンパク質及び遺伝子産物の翻訳後プロセシング及び修飾について特徴及び特定の機構を有する。適切な細胞株又は宿主系を選択することにより、発現させる抗体又はその一部分の正しい修飾及びプロセシングを確実にすることができる。この目的上、適切に一次転写物をプロセシングし、遺伝子産物をグリコシル化及びリン酸化する細胞機構を有する真核生物宿主細胞が用いられ得る。かかる哺乳動物宿主細胞としては、限定はされないが、CHO、VERY、BHK、Hela、COS、MDCK、293、3T3、W138、BT483、Hs578T、HTB2、BT2O及びT47D、NS0(いかなる機能性免疫グロブリン鎖も内因的に産生することのないマウス骨髄腫細胞株)、SP20、CRL7O3O及びHsS78Bst細胞が挙げられる。特定の実施形態では、ヒトリンパ球を不死化することにより開発されたヒト細胞株を使用して、モノクローナル抗体を組換え産生することができる。一部の実施形態では、ヒト細胞株PER.C6.(Crucell,Netherlands)を使用してモノクローナル抗体を組換え産生することができる。
【0174】
組換え抗体の発現用宿主として用いられ得るさらなる細胞株としては、限定はされないが、昆虫細胞(例えば、Sf21/Sf9、イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)Bti-Tn5b1-4)又は酵母細胞(例えば、S.セレビシエ(S.cerevisiae)、ピキア属(Pichia)、米国特許第7326681号明細書など)、植物細胞(米国特許出願公開第20080066200号明細書);及びニワトリ細胞が挙げられる。
【0175】
特定の実施形態では、本明細書に提示される抗体は、細胞株において安定的な抗体発現で発現させる。安定発現は、組換えタンパク質の長期にわたる高収率産生に用いることができる。例えば、抗体分子を安定発現する細胞株を生成してもよい。宿主細胞を、発現制御エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位など)と選択可能なマーカー遺伝子とを含む適切に操作されたベクターで形質転換することができる。外来DNAの導入後、細胞を強化培地で1~2日間成長させてもよく、次に選択培地に切り換える。組換えプラスミドの選択可能なマーカーが選択に対する耐性を付与し、且つその染色体にプラスミドを安定的に組み込んだ細胞の成長及びフォーカスの形成を可能にし、次にはそのフォーカスを細胞株にクローニングして増殖することができる。安定な細胞株を高収率で産生する方法は当該技術分野において公知であり、一般に試薬が市販されている。
【0176】
特定の実施形態では、本明細書に提示される抗体は、細胞株において一過性の抗体発現で発現させる。一過性トランスフェクションは、細胞に導入する核酸が当該細胞のゲノム又は染色体DNAに組み込まれない方法である。核酸は、多くの場合に、細胞の染色体外要素として、例えばエピソームとして維持される。エピソームの核酸の転写プロセスが影響を受けることはなく、エピソームの核酸によりコードされるタンパク質が産生される。
【0177】
安定的に又は一過性にトランスフェクトされ得る細胞株は、モノクローナル抗体の発現及び産生をもたらす当該技術分野において公知の細胞培養培地及び条件に維持される。特定の実施形態では、哺乳動物細胞培養培地は、例えばDMEM又はHam’s F12を含む市販の培地製剤をベースとする。一部の実施形態では、細胞培養培地は、細胞成長及び生物学的タンパク質発現の双方の増加を支えるように改良される。本明細書で使用されるとき、用語「細胞培養培地」、「培養培地」、及び「培地製剤」は、多細胞生物又は組織の外側での人工的なインビトロ環境における細胞の維持、成長、増殖、又は拡大用の栄養液を指す。細胞培養培地は、例えば、細胞の成長を促進するように配合される細胞培養成長培地、又は組換えタンパク質の産生を促進するように配合される細胞培養産生培地を含め、特定の細胞培養用途に最適化され得る。用語の栄養分、成分、及び構成成分は、本明細書では、細胞培養培地を構成する構成物を指して同義的に使用される。
【0178】
様々な実施形態において、細胞株はフェドバッチ法を用いて維持される。本明細書で使用されるとき、「フェドバッチ法」は、最初に基本培地とインキュベートされた後に追加的な栄養分と共にフェドバッチ細胞培養液が供給される方法を指す。例えば、フェドバッチ法は、所与の期間内での決められた補給スケジュールに従う補足培地の添加を含み得る。従って、「フェドバッチ細胞培養」は、細胞、典型的には哺乳動物細胞、及び培養培地が最初に培養槽に供給され、且つ培養中に、培養終了前の定期的な細胞及び/又は産物の回収を伴い、又は伴うことなく、さらなる培養栄養分が連続して又は不連続に増分ずつ培養物に送り込まれる細胞培養を指す。
【0179】
用いられる細胞培養培地及びそこに含まれる栄養分は、当該技術分野において公知である。一部の実施形態では、細胞培養培地は、基本培地及び少なくとも1つの加水分解物、例えば、大豆ベースの加水分解物、酵母ベースの加水分解物、又は2種類の加水分解物の組み合わせを含み、改良基本培地をもたらす。追加の栄養分は、ときに濃縮された基本培地などの基本培地のみを含み得るか、又は加水分解物、又は濃縮された加水分解物のみを含み得る。好適な基本培地としては、限定はされないが、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、DME/F12、最小必須培地(MEM)、イーグル基礎培地(BME)、RPMI 1640、F-10、F-12、α-最小必須培地(α-MEM)、グラスゴー最小必須培地(G-MEM)、PF CHO(例えば、CHOタンパク質不含培地(Sigma)又はCHO細胞用タンパク質不含のEX-CELL(商標)325 PF CHO無血清培地(SAFC Bioscience)を参照、、及びイスコフ変法ダルベッコ培地が挙げられる。本明細書の技法に用いられ得る基本培地の他の例としては、BME基本培地;ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、粉末)(Gibco-Invitrogen(#31600)が挙げられる。特定の実施形態では、基本培地は無血清であり、すなわち培地は血清(例えば、ウシ胎仔血清(FBS)、ウマ血清、ヤギ血清、又は当該技術分野において公知の任意の他の動物由来の血清)を含有しないか、又は動物性タンパク質不含培地又は化学限定培地であってもよい。
【0180】
基本培地は、様々な無機及び有機緩衝剤、1つ又は複数の界面活性剤、及び塩化ナトリウムなどの、標準的な基本培地に見られる特定の非栄養成分を除去するため改良され得る。基本細胞培地からかかる成分を除去することにより、残りの栄養成分の濃度を上昇させることができ、全体的な細胞成長及びタンパク質発現が向上し得る。加えて、省いた成分を、細胞培養条件の要件に従い改良基本細胞培地を含む細胞培養培地に加え戻してもよい。特定の実施形態では、細胞培養培地は、改良基本細胞培地と、以下の栄養分、すなわち鉄源、組換え成長因子;緩衝剤;界面活性剤;容量オスモル濃度調節剤;エネルギー源;及び非動物性加水分解物のうちの少なくとも1つとを含有する。加えて、改良基本細胞培地は、場合により、アミノ酸、ビタミン、又はアミノ酸及びビタミンの双方の組み合わせを含有し得る。一部の実施形態では、改良基本培地は、グルタミン、例えば、L-グルタミン、及び/又はメトトレキサートをさらに含有する。
【0181】
一部の実施形態では、抗体産生は、当該技術分野において公知のフェドバッチ、バッチ、潅流又は連続供給バイオリアクター法を用いるバイオリアクター処理によって大量に実施される。大規模バイオリアクターは、少なくとも1000リットルの容量、ときに約1,000~100,000リットルの容量を有する。このようなバイオリアクターは、撹拌機インペラを使用して酸素及び栄養分を分配し得る。小規模バイオリアクターは、概して約100リットル以下の容積の細胞培養を指し、約1リットル~約100リットルの範囲であり得る。或いは、単回使用のバイオリアクター(SUB)が、大規模培養にも、又は小規模培養にも用いられ得る。
【0182】
温度、pH、撹拌、曝気及び接種密度は、用いられる宿主細胞及び発現させる組換えタンパク質に応じて異なり得る。例えば、組換えタンパク質細胞培養物は、セ氏30~45度の温度に維持され得る。培養培地のpHは、培養処理の間、pHが最適値にとどまるように監視されてもよく、最適値は特定の宿主細胞に対してpH6.0~8.0の範囲内であり得る。かかる培養方法での撹拌には、インペラ駆動による混合が用いられ得る。インペラ(impellor)の回転速度は約50~200cm/秒の先端速度であってよく、しかしながら培養される宿主細胞の種類に応じて、当該技術分野で公知の他のエアリフト又は他の混合/曝気システムが用いられてもよい。十分な曝気を提供することにより、ここでもやはり培養される特定の宿主細胞に応じて、培養物中約20%~80%空気飽和の溶存酸素濃度が維持される。或いは、バイオリアクターにより空気又は酸素を培養培地中に直接拡散させてもよい。中空糸膜曝気槽を用いる無気泡曝気システムを含めた他の酸素供給方法が存在する。
【0183】
ファージディスプレイ技術
一部の実施形態では、モノクローナル抗体又は抗体断片を、当該技術分野において公知の技法を用いて作成された抗体ファージライブラリから単離することができる。かかる方法では、ヒトリンパ球に由来するmRNAから調製されるヒトVL及びVH cDNAを用いて調製された組換えコンビナトリアル抗体ライブラリ、ときにscFvファージディスプレイライブラリのスクリーニングにより、抗α毒素抗体又は断片が単離され得る。かかるライブラリの調製及びスクリーニング方法は、当該技術分野において公知である。
【0184】
抗体精製及び単離
組換え又はハイブリドーマ発現によって抗体分子が産生された後、その抗体分子を、免疫グロブリン分子の精製に関して当該技術分野において公知の任意の方法により、例えば、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティー、特に特定の抗原プロテインA又はプロテインGに対する親和性によるもの、及びサイズ処理カラムクロマトグラフィー)、遠心、溶解度の差によるか、又はタンパク質を精製する任意の他の標準的な技術により、精製することができる。さらに、本技術の抗体又はその断片は、上記に記載される、又は他に当該技術分野において精製を促進することが知られる異種ポリペプチド配列(本明細書では「タグ」と称される)と融合されてもよい。
【0185】
ヒト化抗体
特定の実施形態では、本技術の抗体はヒト化抗体であり、これは当該技術分野において公知の方法を用いて生成される。ヒト化抗体はキメラ抗体であってもよい。キメラ抗体は、重鎖及び/又は軽鎖の一部分が、特定の種に由来する抗体又は特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一であるか、又はそれと相同である一方、その1つ又は複数の鎖の別の部分が、別の種に由来する抗体又は別の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一であるか、又はそれと相同である抗体、並びに所望の生物活性を示す限りにおいて、かかる抗体の断片である。本明細書の対象となるキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば、ヒヒ、アカゲザル又はカニクイザルなどの旧世界ザル)に由来する可変ドメイン抗原結合配列とヒト定常領域配列とを含む「霊長類化」抗体が含まれる。
【0186】
ヒト抗体
ヒト化の代替例として、当該技術分野において公知の方法を用いてヒト抗体を生成することができる。ヒト抗体では、マウス又はラット可変領域及び/又は定常領域を有する抗体に関連する問題のいくつかが回避される。かかるマウス又はラット由来のタンパク質の存在は、抗体の急速なクリアランスをもたらし得るか、又は患者による抗体に対する免疫応答の発生をもたらし得る。マウス又はラット由来の抗体の利用を回避するため、機能的ヒト抗体遺伝子座をげっ歯類、他の哺乳類又は動物へと、そのげっ歯類、他の哺乳類又は動物が完全ヒト抗体を産生するよう導入することによって、完全ヒト抗体を生成することができる。
【0187】
例えば、現在、免疫化することで内因性免疫グロブリン産生なしに完全なヒト抗体レパートリーを産生することが可能なトランスジェニック動物(例えばマウス)を作ることが可能である。例えば、キメラ生殖系列変異マウスにおける抗体重鎖連結領域(JH)遺伝子のホモ接合性欠失が、内因性の抗体産生の完全な阻害をもたらすことが記載されている。ヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子配列をかかる生殖系列変異マウスに移すと、抗原誘発時にヒト抗体が産生され得る。実際には、ヒト重鎖遺伝子座及びκ軽鎖遺伝子座の、最大でも1000kb以下のサイズの生殖系列構成の断片を含むように操作されているXenoMouse(登録商標)系統のマウスの使用。XenoMouse(登録商標)系統は、Amgen,Inc.(Fremont,California)から入手可能である。
【0188】
XenoMouse(登録商標)系統のマウスの産生及びそのようなマウスで産生される抗体は、当該技術分野において公知である。本質的に、XenoMouse(登録商標)系統のマウスが目的の抗原(例えばα毒素)で免疫され、過免疫マウスからリンパ細胞(B細胞など)が回収され、及び回収されたリンパ球が骨髄系細胞株と融合されることにより、上記に記載され、及び当該技術分野において公知である技術を用いて不死ハイブリドーマ細胞株が調製される。このようなハイブリドーマ細胞株をスクリーニング及び選択することにより、目的の抗原に特異的な抗体を産生したハイブリドーマ細胞株が同定される。
【0189】
代替的な手法のミニ遺伝子座(minilocus)手法では、Ig遺伝子座由来の断片(個々の遺伝子)を含めることによって外因性Ig遺伝子座が模倣される。従って、1つ以上のVH遺伝子、1つ以上のDH遺伝子、1つ以上のJH遺伝子、μ定常領域、及び通常第2の定常領域(例えば、γ定常領域)が、動物への挿入用コンストラクトに形成される。
【0190】
マウスからのヒト抗体の生成は当該技術分野において公知であり、マイクロセル融合によって大きい染色体断片、又は染色体全体が導入されている。加えて、Kirin社のTcマウスをMedarex社のミニ遺伝子座(Humab)マウスと異種交配して得られるKM(商標)マウスが生成されている。このようなマウスは、Kirin社マウスのヒトIgHトランスクロモソームと、Genpharm社マウスのκ鎖導入遺伝子とを有する。
【0191】
ヒト抗体はまた、インビトロ方法により得ることもできる。好適な例としては、限定はされないが、ファージディスプレイ(MedImmune(旧CAT)、Morphosys、Dyax、Biosite/Medarex、Xoma、Symphogen、Alexion(旧Proliferon)、Affimed)、リボソームディスプレイ(MedImmune(旧CAT))、酵母ディスプレイなどが挙げられる。ファージディスプレイ技術を用いると、免疫されていないドナー由来の免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーからヒト抗体及び抗体断片をインビトロで産生することができる。この技術によれば、抗体Vドメイン遺伝子がM13又はfdなどの繊維状バクテリオファージの主要な又はマイナーなコートタンパク質遺伝子のいずれかにインフレームでクローニングされ、ファージ粒子の表面上に機能的抗体断片として提示される。糸状粒子はファージゲノムの一本鎖DNAコピーを含むため、抗体の機能特性に基づき選択すると、それらの特性を示す抗体をコードする遺伝子を選択することになる。従って、ファージはB細胞のいくらかの特性を模倣する。ファージディスプレイは様々なフォーマットで実施することができる。いくつかのV遺伝子セグメント供給源をファージディスプレイに用いることができる。多様な一連の抗オキサゾロン抗体が、免疫マウスの脾臓に由来するV遺伝子の小さいランダムコンビナトリアルライブラリーから単離されている。本質的に当該技術分野において公知の技法に従い非免疫ヒトドナー由来のV遺伝子のレパートリーを構築することができ、及び多様な一連の抗原(自己抗原を含む)に対する抗体を単離することができる。上記に考察したとおり、ヒト抗体はまた、インビトロで活性化したB細胞によって生成されてもよい。
【0192】
免疫グロブリン遺伝子は、V、D及びJ遺伝子セグメント間の組換え、アイソタイプスイッチング、及び可変領域における超突然変異を含め、免疫応答の成熟中に様々な修飾を受ける。組換え及び体細胞超突然変異は抗体多様性及び親和性成熟が生じる基礎であるが、しかしながらそれらによって配列のライアビリティ(liability)もまた生じ得ることで、かかる免疫グロブリンの治療剤としての商業的生産が困難となり、又は抗体の免疫原性リスクが増加し得る。一般に、CDR領域における突然変異は親和性及び機能の向上に寄与するものと思われる一方、フレームワーク領域における突然変異は免疫原性リスクを増加させ得る。このリスクは、抗体の活性が悪影響を受けないことを確実にしながらフレームワーク突然変異を生殖系列に復帰させることによって低減できる。多様化プロセスにより何らかの構造的ライアビリティもまた生じることがあり、又はそのような構造的ライアビリティが、重鎖及び軽鎖可変ドメインに寄与する生殖系列配列内に存在することもある。供給源にかかわらず、不安定性、凝集、産物の不均一性、又は免疫原性の増加をもたらし得る潜在的な構造的ライアビリティは除去することが望ましい場合もある。望ましくないライアビリティの例としては、不対のシステイン(これはジスルフィド結合のスクランブリング、又は不定のスルフヒドリル付加物の形成を引き起こし得る)、N-結合型グリコシル化部位(構造及び活性の不均一性をもたらす)、並びにアミド分解(例えば、NG、NS)、異性化(DG)、酸化(メチオニンの露出)、及び加水分解(DP)部位が挙げられる。
【0193】
従って、実施例11の表1~8に開示される抗体の免疫原性リスクを低減し、且つ薬学的特性を向上させるため、フレームワーク配列を生殖系列に復帰させ、CDRを生殖系列に復帰させ、及び/又は構造的ライアビリティを除去することが望ましいともいえる。従って、一部の実施形態では、特定の抗体がアミノ酸レベルでそのそれぞれの生殖系列配列と異なる場合に、その抗体配列を生殖系列配列に逆変異させることができる。かかる修正的な変異は、標準的な分子生物学的技術を用いて、1つ、2つ、3つ以上の位置、又はそれらの変異位置のいずれかの組み合わせに生じさせることができる。
【0194】
さらなる手法としては、VelocImmune(登録商標)技術(Regeneron Pharmaceuticals)が挙げられる。Velocimmune(登録商標)技術は、治療対象となる標的に対する完全ヒトモノクローナル抗体の生成に用いることができるものであり、マウスが抗原刺激に応答してヒト可変領域とマウス定常領域とを含む抗体を産生するように内因性マウス定常領域遺伝子座に作動可能に連結されたヒト重鎖及び軽鎖可変領域を含むゲノムを有するトランスジェニックマウスの生成が関わる。抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域をコードするDNAが単離され、ヒト重鎖及び軽鎖定常領域をコードするDNAに作動可能に連結される。次にDNAを、完全ヒト抗体の発現能を有する細胞で発現させる。例えば、米国特許第6,596,541号明細書を参照のこと。
【0195】
抗体断片
特定の実施形態では、本抗体は、抗体断片又はそれらの断片を含む抗体である。抗体断片は、完全長抗体の、概してその抗原結合領域又は可変領域である一部分を含む。抗体断片の例には、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fd及びFv断片が含まれる。ダイアボディ;線状抗体、一本鎖抗体分子;及び多特異性抗体は、これらの抗体断片から形成される抗体である。
【0196】
伝統的にこれらの断片は、当該技術分野において公知の技法を用いたインタクトな抗体のタンパク質消化によって得られた。しかしながら、現在これらの断片は、組換え宿主細胞により直接産生することができる。Fab、Fv及びscFv抗体断片は、全て大腸菌(E.coli)で発現してそこから分泌され得るため、従ってこのような断片を容易に大量に産生することが可能である。一部の実施形態では、抗体断片は、上記で考察される抗体ファージライブラリから単離することができる。或いは、Fab’-SH断片を大腸菌(E.coli)から直接回収し、化学的にカップリングすることにより、F(ab’)2断片を形成することもできる。別の手法によれば、F(ab’)2断片を組換え宿主細胞培養物から直接単離することができる。抗体断片を産生する他の技術が公知である。一部の実施形態では、選択される抗体は単鎖Fv断片(scFv)である。特定の実施形態では、抗体はFab断片でない。Fv及びscFvは、定常領域を欠いたインタクトな組み合わせ部位を有する唯一の種である;従ってこれらは、生体内で使用する間の非特異的結合を減少させるのに好適である。scFvのアミノ末端又はカルボキシ末端のいずれかにエフェクタータンパク質の融合が生じるようにscFv融合タンパク質を構築してもよい。
【0197】
特定の実施形態では、本抗体は、ドメイン抗体、例えばヒト抗体の重鎖可変(VH)領域又は軽鎖可変(VL)領域に対応する抗体の小さい機能的結合単位を含む抗体である。ドメイン抗体の例としては、限定はされないが、治療標的に特異的な、Domantisから入手可能なものが挙げられる。ドメイン抗体の市販のライブラリを使用して、抗α毒素ドメイン抗体を同定することができる。特定の実施形態では、抗α毒素抗体及び断片は、α毒素の機能的結合単位及びFcγ受容体の機能的結合単位を含む。
【0198】
本明細書の特定の実施形態では、本抗体は線状抗体である。線状抗体は、一対の抗原結合領域を形成する一対のタンデム型Fdセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む。線状抗体は二重特異性又は単一特異性であってもよい。
【0199】
特定のアミノ酸配列修飾
上述のヒト抗体、ヒト化抗体及び/又はキメラ抗体に加え、本技術は、以下、すなわち可変軽鎖(VL)ドメイン及び/又は可変重鎖(VH)ドメイン及び/又はFc領域におけるアミノ酸残基及び/又はポリペプチド置換、付加及び/又は欠失、及び翻訳後修飾のうちの1つ以上を含む抗α毒素抗体又は断片のさらなる修飾、その変異体及びその断片も包含する。これらの修飾には、抗体が部分に共有結合的に結合されている抗体コンジュゲートが含まれる。抗体との結合に好適な部分には、限定はされないが、タンパク質、ペプチド、薬物、標識、及び細胞毒が含まれる。抗体にこのような変化を生じさせることにより、抗体の特性(例えば、生化学的、結合的及び/又は機能的)を、黄色ブドウ球菌(S.aureus)関連性及び/又はα毒素媒介性疾患の治療及び/又は診断に適切となるように改変又は微調整し得る。コンジュゲートを形成し、アミノ酸及び/又はポリペプチド変化及び翻訳後修飾を生じさせる方法は、当該技術分野において公知であり、その一部は以下に詳述する。欠失、挿入、及び置換のいかなる組み合わせを生じさせて最終的なコンストラクトに達してもよく、但しその最終的なコンストラクトは所望の特性を有するものとする。
【0200】
抗体のアミノ酸が変化すると、本明細書に記載される抗体配列又は親抗体配列との同一性が100%未満の配列となる。これに関連して特定の実施形態では、抗体は、本明細書に記載されるとおりの抗α毒素抗体又は断片の重鎖又は軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列と約25%~約95%の配列同一性を有し得る。従って、一部の実施形態では、修飾された抗体は、本明細書に記載されるとおりの抗α毒素抗体又は断片の重鎖又は軽鎖可変ドメイン全体のアミノ酸配列と少なくとも25%、35%、45%、55%、65%、75%、80%、85%、90%、又は95%のアミノ酸配列同一性又は類似性を有するアミノ酸配列を有し得る。特定の実施形態では、改変された抗体は、本明細書に記載されるとおりの抗α毒素抗体又は断片の重鎖又は軽鎖CDR1、CDR2、又はCDR3のアミノ酸配列と少なくとも25%、35%、45%、55%、65%、75%、80%、85%、90%、又は95%のアミノ酸配列同一性又は類似性を有するアミノ酸配列を有する。改変された抗体は、ときに本明細書に記載されるとおりの抗α毒素抗体又は断片の重鎖又は軽鎖FR1、FR2、FR3又はFR4のアミノ酸配列と少なくとも25%、35%、45%、55%、65%、75%、80%、85%、90%、又は95%のアミノ酸配列同一性又は類似性を有するアミノ酸配列を有し得る。
【0201】
特定の実施形態では、改変された抗体は、抗体の可変領域の1つ以上に導入される1つ以上のアミノ酸改変(例えば、置換、欠失及び/又は付加)により生成される。様々な実施形態において、アミノ酸改変はフレームワーク領域に導入される。フレームワーク領域残基の1つ以上の改変により、抗原に対する抗体の結合親和性が向上し得る。これは、特に、フレームワーク領域がCDR領域と異なる種に由来し得る場合のヒト化抗体にそのような変化を生じさせる場合に該当し得る。修飾するフレームワーク領域残基の例には、抗原と非共有結合的に直接結合する残基、CDRの立体構造と相互作用する/それをもたらす残基、及び/又はVL-VH接合部に関与する残基が含まれる。一部の実施形態では、約1~約5個のフレームワーク残基が改変され得る。ときにこれは、超可変領域残基が一つも改変されていない場合であっても、前臨床試験での使用に好適な抗体突然変異体を生じさせるのに十分であり得る。しかしながら、通常、改変された抗体は、さらなる1つ又は複数の超可変領域改変を含み得る。特定の実施形態において、特に、第2の哺乳動物種由来の抗原に対する抗α毒素抗体又は断片の出発時の結合親和性が、ランダムに産生された抗体を容易にスクリーニングすることができるようなものである場合に、超可変領域残基はランダムに変化させてもよい。
【0202】
改変された抗体を生成する一つの有用な手順は、「アラニンスキャニング突然変異誘発」と呼ばれる。この方法では、1つ又は複数の超可変領域残基の1つ以上が1つ又は複数のアラニン残基又はポリアラニン残基によって置換され、それによりアミノ酸のα毒素との相互作用が改変される。次に、置換に対して機能感受性を示す1つ又は複数の超可変領域残基が、置換部位に、又はそこに対して追加的な若しくは他の突然変異を導入することにより精緻化される。従って、アミノ酸配列変異を導入する部位は予め決定されるが、突然変異それ自体の性質が予め決定されている必要はない。このように産生されるAla突然変異体は、本明細書に記載されるとおりその生物活性についてスクリーニングされる。
【0203】
特定の実施形態では、置換変異体には、親抗体(例えば、ヒト化抗体又はヒト抗体)の1つ以上の超可変領域残基の置換が関わる。概して、さらなる展開用に選択される得られる1つ又は複数の変異体は、それが生成された元の親抗体と比べて向上した生物学的特性を有し得る。かかる置換変異体を生成する好都合な方法には、ファージを使用した親和性成熟が関わる。簡潔に言えば、いくつかの超可変領域部位(例えば、6~7つの部位)を変異させて、各部位にあらゆる可能なアミノ酸置換を生成する。このように生成された抗体突然変異体が、一価の形式で繊維状ファージ粒子から、各粒子内にパッケージされたM13の遺伝子III産物との融合体として提示される。次にファージによって提示された突然変異体は、本明細書に開示されるとおりその生物活性(例えば結合親和性)についてスクリーニングされる。
【0204】
抗体配列における突然変異としては、置換、内部欠失を含む欠失、融合タンパク質を生じる付加を含む付加、又はアミノ酸配列の内部の及び/又はそれに離接するアミノ酸残基の保存的置換であって、但しその変化が機能的に等価な抗α毒素抗体又は断片をもたらす点で「サイレントな」変化をもたらす保存的置換を挙げることができる。保存的アミノ酸置換は、関与する残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性、及び/又は両親媒性の性質の類似性に基づき生じさせることができる。例えば、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、及びメチオニンが挙げられ;極性中性アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、及びグルタミンが挙げられ;正電荷(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、リジン、及びヒスチジンが挙げられ;及び負電荷(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸及びグルタミン酸が挙げられる。加えて、グリシン及びプロリンは、鎖配向に影響を及ぼし得る残基である。非保存的置換は、これらのクラスのうちの一つのメンバーの、別のクラスのメンバーとの交換を伴い得る。さらに、必要であれば、非古典的アミノ酸又は化学的アミノ酸類似体を抗体配列に置換又は付加として導入することができる。非古典的アミノ酸としては、限定はされないが、一般的アミノ酸のD-異性体、α-アミノイソ酪酸、4-アミノ酪酸、Abu、2-アミノ酪酸、γ-Abu、ε-Ahx、6-アミノヘキサン酸、Aib、2-アミノイソ酪酸、3-アミノプロピオン酸、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、サルコシン、シトルリン、システイン酸、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニン、β-アラニン、フルオロアミノ酸、デザイナーアミノ酸、例えばβ-メチルアミノ酸、C-α-メチルアミノ酸、N-α-メチルアミノ酸、及び一般にアミノ酸類似体が挙げられる。
【0205】
特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片の適切な立体構造の維持に関与しない全てのシステイン残基を概してセリンと置換してもよく、それにより分子の酸化安定性が向上し、異常な架橋が防止され得る。逆に、1つ又は複数のシステイン結合が抗体に加えられてもよく、それによりその安定性が(特に抗体がFv断片などの抗体断片である場合)向上し得る。
【0206】
一部の実施形態では、抗体は、融合タンパク質;すなわち、異種タンパク質、ポリペプチド又はペプチドと融合した抗体、又はその断片を産生するように修飾することができる。様々な実施形態において、抗体の一部分と融合するタンパク質は、抗体指向酵素プロドラッグ療法(ADEPT)の酵素成分である。抗体との融合タンパク質として操作することのできる他のタンパク質又はポリペプチドの例としては、限定はされないが、毒素、例えば、リシン、アブリン、リボヌクレアーゼ、DNase I、ブドウ球菌性エンテロトキシンA、アメリカヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、ゲロニン、ジフテリア毒素、緑膿菌外毒素、及び緑膿菌内毒素が挙げられる。用いることができる酵素的に活性な毒素及びその断片としては、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、エキソトキシンA鎖(シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、αサルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチン(dianthin)タンパク質、アメリカヤマゴボウ(Phytolacca americana)タンパク質(PAPI、PAPII、及びPAP-S)、ニガウリ(momordica charantia)インヒビター、クルシン、クロチン、サボンソウ(saponaria officinalis)インヒビター、ゲロニン、マイトジェリン(mitogellin)、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン及びトリコテセン(trichothecene)が挙げられる。
【0207】
さらなる融合タンパク質が、公知の遺伝子シャッフリング、モチーフシャッフリング、エクソンシャッフリング、及び/又はコドンシャッフリング(「DNAシャフリング」と総称される)技術によって生成されてもよい。DNAシャフリングを用いて抗体又はその断片の特性を改変し得る(例えば、より高い親和性及びより低い解離速度の抗体又はその断片)。抗体は、さらに、当該技術分野において公知のとおりの結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質であってもよい。
【0208】
変異Fc領域
本発明はまた、修飾IgG定常ドメインを有する本発明の結合メンバー、特に本発明の抗体も含む。長い血清中半減期及び様々なエフェクター機能を媒介する能力などの機能的特性を有するヒトIgGクラスの抗体が、本発明の特定の実施形態で使用される(Monoclonal Antibodies:Principles and Applications,Wiley-Liss,Inc.,Chapter 1(1995))。ヒトIgGクラス抗体は、さらに以下の4つのサブクラスに分類される:IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4。IgGクラス抗体のエフェクター機能としてのADCC及びCDCについて、これまで数多くの研究が行われており、ヒトIgGクラスの抗体のなかでもIgG1サブクラスは、ヒトにおいて最大のADCC活性及びCDC活性を有することが報告されている(Chemical Immunology,65,88(1997))。
【0209】
「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」及び「ADCC」は、非特異的細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)が標的細胞上の結合抗体を認識し、続いて標的細胞の溶解を引き起こす細胞媒介性反応を指す。一実施形態において、かかる細胞はヒト細胞である。いかなる特定の作用機序にも限定されることは望まないが、ADCCを媒介するこのような細胞傷害性細胞は、概してFc受容体(FcR)を発現する。ADCCを媒介する主要な細胞であるNK細胞はFcγRIIIを発現する一方、単球はFcγRI、FcγRII、FcγRIII及び/又はFcγRIVを発現する。造血細胞上でのFcR発現については、Ravetch and Kinet,Annu.Rev.Immunol.,9:457-92(1991)に要約されている。分子のADCC活性の評価には、米国特許第5,500,362号明細書又は同第5,821,337号明細書に記載されるようなインビトロADCCアッセイが実施されてもよい。かかるアッセイに有用なエフェクター細胞には、末梢血単核球(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。或いは、又は加えて、目的の分子のADCC活性をインビボで、例えば、Clynes et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.(USA),95:652-656(1998)に開示されるものなどの動物モデルにおいて評価してもよい。
【0210】
「補体依存性細胞傷害性」又は「CDC」は、分子が補体活性化を惹起して補体の存在下で標的を溶解する能力を指す。補体活性化経路は、補体系の第1の成分(C1q)が、同種抗原と複合体を形成する分子(例えば抗体)に結合することにより惹起される。補体活性化の評価には、例えばGazzano-Santaro et al.,J.Immunol.Methods,202:163(1996)に記載されるとおりの、CDCアッセイが実施されてもよい。
【0211】
ヒトIgG1サブクラス抗体のADCC活性及びCDC活性の発現には、概して、抗体のFc領域が、キラー細胞、ナチュラルキラー細胞又は活性化マクロファージなどのエフェクター細胞の表面上に存在する抗体に対する受容体(以下、「FcγR」と称する)に結合することが関わる。様々な補体成分が結合し得る。結合に関して、抗体のヒンジ領域のいくつかのアミノ酸残基及びC領域の第2ドメイン(以下、「Cγ2ドメイン」と称する)が重要であること(Eur.J.Immunol.,23,1098(1993),Immunology,86,319(1995)、Chemical Immunology,65,88(1997))、及びCγ2ドメインにおける糖鎖(Chemical Immunology,65,88(1997))もまた重要であることが示唆されている。
【0212】
「エフェクター細胞」は、1つ以上のFcRを発現し、且つエフェクター機能を果たす白血球である。この細胞は、少なくともFcγRI、FCγRII、FcγRIII及び/又はFcγRIVを発現し、ADCCエフェクター機能を実行する。ADCCを媒介するヒト白血球の例としては、末梢血単核球(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞傷害性T細胞及び好中球が挙げられる。用語「Fc受容体」又は「FcR」は、抗体のFc領域に結合する受容体を記載するために用いられる。一実施形態において、FcRは天然配列ヒトFcRである。さらに、特定の実施形態では、FcRはIgG抗体と結合するもの(γ受容体)であり、対立遺伝子変異体及び選択的スプライシングを受けた形態のこうした受容体を含め、FcγRI、FcγRII、FcγRIII、及びFcγRIVサブクラスの受容体が含まれる。FcγRII受容体には、FcγRIIA(「活性化受容体」)及びFcγRIIB(「阻害受容体」)が含まれ、これらは同様のアミノ酸配列を有し、主な違いはその細胞質ドメインである。活性化受容体FcγRIIAは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ(ITAM)を含む。阻害受容体FcγRIIBは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシンベース阻害モチーフ(ITIM)を含む(Daeron,Annu.Rev.Immunol.,15:203-234(1997)を参照のこと)。FcRについては、Ravetch and Kinet,Annu.Rev.Immunol.,9:457-92(1991);Capel et al.,Immunomethods,4:25-34(1994);及びde Haas et al.,J.Lab.Clin.Med.,126:330-41(1995)でレビューされている。今後同定されるものを含め、他のFcRが、本明細書における用語「FcR」に包含される。この用語にはまた新生児受容体FcRnも含まれ、これは、母性IgGの胎児への移行に関与する(Guyer et al.,Immunol.,117:587(1976)及びKim et al.,J.Immunol.,24:249(1994))。
【0213】
特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、抗体の機能的及び/又は薬物動態学的特性を変化させるためFc領域に1つ以上の改変が加えられている改変Fc領域(本明細書では「変異Fc領域」とも称される)を含む。かかる改変により、IgGに対するClq結合及び補体依存性細胞傷害性(CDC)の、又はFcγR結合の低下又は増加がもたらされ得る。本技術は、変化を加えて所望の効果を提供するようエフェクター機能が改変されている変異Fc領域を有する本明細書に記載される抗体を包含する。従って、一部の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、変異Fc領域(すなわち、以下で考察するとおり改変されているFc領域)を含む。変異Fc領域を含む本明細書の抗α毒素抗体及び断片はまた、ここでは「Fc変異抗体」とも称される。本明細書で使用されるとき、天然とは非修飾親配列を指し、天然のFc領域を含む抗体は、本明細書では「天然Fc抗体」と称される。一部の実施形態では、変異Fc領域は、天然のFc領域と比較して同程度のエフェクター機能の誘導を示す。特定の実施形態では、変異Fc領域は、天然Fcと比較してより高いエフェクター機能の誘導を示す。特定の実施形態では、変異Fc領域は、天然Fcと比較してより低いエフェクター機能の誘導を示す。変異Fc領域のいくつかの具体的な実施形態を本明細書に詳述する。エフェクター機能の計測方法は、当該技術分野において公知である。
【0214】
抗体のエフェクター機能は、限定はされないが、アミノ酸置換、アミノ酸付加、アミノ酸欠失及びFcアミノ酸に対する翻訳後修飾(例えばグリコシル化)の変化を含め、Fc領域を変化させることによって修飾することができる。以下に記載される方法を用いて、本明細書に記載されるとおりの単離抗体又は抗原結合断片のエフェクター機能を改変し、特定の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)関連疾患又は病態の予防又は治療に有利な特定の特性を有する抗体又は抗原結合断片を生じさせてもよい。
【0215】
一部の実施形態では、Fcリガンド(例えば、Fc受容体、C1q)に対し、天然Fc抗体と比べて改変された結合特性を有するFc変異抗体が調製される。結合特性の例としては、限定はされないが、結合特異性、平衡解離定数(Kd)、解離速度及び会合速度(それぞれkoff及びkon)、結合親和性及び/又はアビディティが挙げられる。当該技術分野においては、平衡解離定数(Kd)はkoff/konとして定義されることが公知である。特定の態様では、高いKdを有する抗体に対して低いKdのFc変異領域を含む抗体がより望ましいこともある。しかしながら、ある場合にはkon又はkoffの値のほうが、Kdの値より関連性が高いこともある。所与の抗体適用についてどの動態学的パラメータがより重要であるかは、決定することができる。
【0216】
一部の実施形態では、Fc変異抗体は、限定はされないが、FcRn、アイソフォームFcγRIA、FcγRIB、及びFcγRICを含むFcγRI(CD64);FcγRII(CD32、アイソフォームFcγRIIA、FcγRIIB、及びFcγRIICを含む);及びFcγRIII(CD16、アイソフォームFcγRIIIA及びFcγRIIIBを含む)を含む1つ以上のFc受容体に対し、天然Fc抗体と比較したとき改変された結合親和性を示す。
【0217】
特定の実施形態では、Fc変異抗体は、1つ以上のFcリガンドとの結合性が天然Fc抗体と比べて向上している。特定の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも5倍、又は少なくとも7倍、又は少なくとも10倍、又は少なくとも20倍、又は少なくとも30倍、又は少なくとも40倍、又は少なくとも50倍、又は少なくとも60倍、又は少なくとも70倍、又は少なくとも80倍、又は少なくとも90倍、又は少なくとも100倍、又は少なくとも200倍、又は2倍~10倍、又は5倍~50倍、又は25倍~100倍、又は75倍~200倍、又は100~200倍高い又は低いFcリガンドに対する親和性の増加又は低下を示す。様々な実施形態において、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%、少なくとも10%、又は少なくとも5%高い又は低いFcリガンドに対する親和性を示す。特定の実施形態では、Fc変異抗体は、Fcリガンドに対する親和性が増加している。Fc変異抗体は、ときに、Fcリガンドに対する親和性が低下していてもよい。
【0218】
一部の実施形態では、Fc変異抗体は、Fc受容体FcγRIIIAとの結合が増強されている。一部の実施形態では、Fc変異抗体は、Fc受容体FcγRIIBとの結合が増強されている。特定の実施形態では、Fc変異抗体は、Fc受容体FcγRIIIA及びFcγRIIBの双方との結合が増強されている。特定の実施形態では、FcγRIIIAとの結合が増強されたFc変異抗体は、天然Fc抗体と比較したとき、FcγRIIB受容体との結合が同時には増加しない。特定の実施形態では、Fc変異抗体は、Fc受容体FcγRIIIAとの結合が低減されている。Fc変異抗体は、ときに、Fc受容体FcγRIIBとの結合が低減されていてもよい。様々な実施形態において、FcγRIIIA及び/又はFcγRIIBに対して改変された親和性を示すFc変異抗体は、Fc受容体FcRnとの結合が増強されている。一部の実施形態では、FcγRIIIA及び/又はFcγRIIBに対して改変された親和性を示すFc変異抗体は、天然Fc抗体と比べてC1qとの結合が改変されている。
【0219】
特定の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも5倍、又は少なくとも7倍、又は少なくとも10倍、又は少なくとも20倍、又は少なくとも30倍、又は少なくとも40倍、又は少なくとも50倍、又は少なくとも60倍、又は少なくとも70倍、又は少なくとも80倍、又は少なくとも90倍、又は少なくとも100倍、又は少なくとも200倍、又は2倍~10倍、又は5倍~50倍、又は25倍~100倍、又は75倍~200倍、又は100~200倍高い又は低いFcγRIIIA受容体に対する親和性を示す。様々な実施形態において、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%、少なくとも10%、又は少なくとも5%高い又は低いFcγRIIIAに対する親和性を示す。
【0220】
特定の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも5倍、又は少なくとも7倍、又は少なくとも10倍、又は少なくとも20倍、又は少なくとも30倍、又は少なくとも40倍、又は少なくとも50倍、又は少なくとも60倍、又は少なくとも70倍、又は少なくとも80倍、又は少なくとも90倍、又は少なくとも100倍、又は少なくとも200倍、又は2倍~10倍、又は5倍~50倍、又は25倍~100倍、又は75倍~200倍、又は100~200倍高い又は低いFcγRIIB受容体に対する親和性を示す。特定の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%、少なくとも10%、又は少なくとも5%高い又は低いFcγRIIBに対する親和性を示す。
【0221】
一部の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べてC1qに対する親和性の増加又は低下を示す。一部の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも5倍、又は少なくとも7倍、又は少なくとも10倍、又は少なくとも20倍、又は少なくとも30倍、又は少なくとも40倍、又は少なくとも50倍、又は少なくとも60倍、又は少なくとも70倍、又は少なくとも80倍、又は少なくとも90倍、又は少なくとも100倍、又は少なくとも200倍、又は2倍~10倍、又は5倍~50倍、又は25倍~100倍、又は75倍~200倍、又は100~200倍高い又は低いC1q受容体に対する親和性を示す。特定の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%、少なくとも10%、又は少なくとも5%高い又は低いC1qに対する親和性を示す。様々な実施形態において、Ciqに対して改変された親和性を示すFc変異抗体は、Fc受容体FcRnとの結合が増強されている。さらに別の具体的な実施形態において、C1qに対して改変された親和性を示すFc変異抗体は、天然Fc抗体と比べてFcγRIIIA及び/又はFcγRIIBとの結合が改変されている。
【0222】
Fc変異抗体は、1つ以上のFcγR媒介性エフェクター細胞機能を決定するインビトロ機能アッセイによって特徴付けられることが企図される。特定の実施形態では、Fc変異抗体は、インビボモデル(本明細書に記載及び開示されるものなど)において、インビトロベースのアッセイにおけるものと同様の結合特性及びエフェクター細胞機能を有する。本技術では、インビトロベースのアッセイで所望の表現型を示さないがインビボでは所望の表現型を確かに示すFc変異抗体を除外しない。
【0223】
Fc領域を含むタンパク質の血清中半減期は、FcRnに対するFc領域の結合親和性を増加させることにより増加させてもよい。用語「抗体半減期」は、本明細書で使用されるとき、抗体分子の投与後の平均生存時間の尺度である抗体の薬物動態学的特性を意味する。抗体半減期は、例えば、血清中で計測するとき(すなわち循環半減期)、又は他の組織で計測するとき、既知量の免疫グロブリンの50パーセントを患者(又は他の哺乳動物)の体内又はその特定のコンパートメントから排除するのに必要な時間として表すことができる。半減期は、免疫グロブリン又は免疫グロブリンクラスによって異なり得る。一般に、抗体半減期が増加すると、投与された抗体の循環中平均滞留時間(MRT)が増加する。
【0224】
半減期が増加すると、患者に投与する薬物の量を減らすとともに、投与頻度を低下させることができる。半減期の増加はまた、例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcal aureus)関連疾患又は病態の予防に、また多くの場合に患者が一度退院した後に起こり得る感染の再発の予防にも、有益であり得る。抗体の血清中半減期を増加させるため、当該技術分野において公知のとおり、抗体(特に抗体断片)にサルベージ受容体結合エピトープを組み込み得る。本明細書で使用されるとき、用語「サルベージ受容体結合エピトープ」は、IgG分子のインビボ血清中半減期の増加に関与するIgG分子(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4)のFc領域のエピトープを指す。半減期が増加した抗体はまた、FcとFcRn受容体との間の相互作用に関与するものとして同定されるアミノ酸残基を修飾することによっても生成し得る。加えて、抗α毒素抗体又は断片の半減期は、当該技術分野で広く利用されている技術によってPEG又はアルブミンとコンジュゲートすることにより増加させてもよい。一部の実施形態では、抗α毒素抗体のFc変異領域を含む抗体は、天然のFc領域を含む抗体と比較して半減期が約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約60%、約65%、約70%、約80%、約85%、約90%、約95%、約100%、約125%、約150%以上増加している。一部の実施形態では、Fc変異領域を含む抗体は、天然のFc領域を含む抗体と比較して半減期が約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約10倍、約20倍、約50倍以上、又は2倍~10倍、又は5倍~25倍、又は15倍~50倍増加している。
【0225】
一部の実施形態では、本明細書に提示される技術はFc変異体を提供し、ここでFc領域は、カバットに定められるとおりのEUインデックスにより付番するとき234、235、236、237、238、239、240、241、243、244、245、247、251、252、254、255、256、262、263、264、265、266、267、268、269、279、280、284、292、296、297、298、299、305、313、316、325、326、327、328、329、330、331、332、333、334、339、341、343、370、373、378、392、416、419、421、440及び443からなる群から選択される1つ以上の位置に修飾(例えば、アミノ酸置換、アミノ酸挿入、アミノ酸欠失)を含む。場合により、Fc領域は、当該技術分野において公知の追加的及び/又は代替的な位置に天然に存在しないアミノ酸残基を含み得る。
【0226】
特定の実施形態において、本明細書にはFc変異体が提供され、ここでFc領域は、カバットに定められるとおりのEUインデックスにより付番するとき234D、234E、234N、234Q、234T、234H、234Y、234I、234V、234F、235A、235D、235R、235W、235P、235S、235N、235Q、235T、235H、235Y、235I、235V、235F、236E、239D、239E、239N、239Q、239F、239T、239H、239Y、240I、240A、240T、240M、241W、241L、241Y、241E、241R、243W、243L、243Y、243R、243Q、244H、245A、247L、247V、247G、251F、252Y、254T、255L、256E、256M、262I、262A、262T、262E、263I、263A、263T、263M、264L、264I、264W、264T、264R、264F、264M、264Y、264E、265G、265N、265Q、265Y、265F、265V、265I、265L、265H、265T、266I、266A、266T、266M、267Q、267L、268E、269H、269Y、269F、269R、270E、280A、284M、292P、292L、296E、296Q、296D、296N、296S、296T、296L、296I、296H、269G、297S、297D、297E、298H、298I、298T、298F、299I、299L、299A、299S、299V、299H、299F、299E、305I、313F、316D、325Q、325L、325I、325D、325E、325A、325T、325V、325H、327G、327W、327N、327L、328S、328M、328D、328E、328N、328Q、328F、328I、328V、328T、328H、328A、329F、329H、329Q、330K、330G、330T、330C、330L、330Y、330V、330I、330F、330R、330H、331G、331A、331L、331M、331F、331W、331K、331Q、331E、331S、331V、331I、331C、331Y、331H、331R、331N、331D、331T、332D、332S、332W、332F、332E、332N、332Q、332T、332H、332Y、332A、339T、370E、370N、378D、392T、396L、416G、419H、421K、440Y及び434Wからなる群から選択される少なくとも1つの置換を含む。場合により、Fc領域は、当該技術分野において公知の追加的及び/又は代替的な天然に存在しないアミノ酸残基を含み得る。
【0227】
様々な実施形態において、本明細書にはFc変異抗体が提供され、ここでFc領域は、234、235及び331からなる群から選択される1つ以上の位置に少なくとも1つの修飾(例えば、アミノ酸置換、アミノ酸挿入、アミノ酸欠失)を含む。一部の実施形態では、天然に存在しないアミノ酸は、234F、235F、235Y、及び331Sからなる群から選択される。本明細書にはFc変異体が提供され、ここでFc領域は、239、330及び332からなる群から選択される1つ以上の位置に少なくとも1つの天然に存在しないアミノ酸を含む。一部の実施形態で、天然に存在しないアミノ酸は、239D、330L及び332Eからなる群から選択される。
【0228】
一部の実施形態において、本明細書にはFc変異抗体が提供され、ここでFc領域は、252、254、及び256からなる群から選択される1つ以上の位置に少なくとも1つの天然に存在しないアミノ酸を含む。特定の実施形態では、天然に存在しないアミノ酸は、米国特許第7,083,784号明細書(この内容は全体として参照により本明細書に援用される)に記載される252Y、254T及び256Eからなる群から選択される。
【0229】
特定の実施形態において、本明細書には、抗体の血清中半減期を増加させるFc変異領域を有する抗ブドウ球菌α毒素抗体が提供され、ここで抗体は、以下の重鎖及び軽鎖配列を有する:
重鎖:LC10-IgG1-YTE
(配列番号XX)
軽鎖:LC10-κ
(配列番号YY)
【0230】
特定の実施形態では、IgG抗体により誘発されるエフェクター機能は、タンパク質のFc領域に連結している炭水化物部分に強く依存する。従って、Fc領域のグリコシル化を修飾すると、エフェクター機能を増加又は低下させることができる。従って、一部の実施形態では、本明細書に提供される抗α毒素抗体及び断片のFc領域は、アミノ酸残基のグリコシル化の改変を含む。特定の実施形態では、アミノ酸残基のグリコシル化の改変はエフェクター機能の低下をもたらす。特定の実施形態では、アミノ酸残基のグリコシル化の改変はエフェクター機能の増加をもたらす。一部の実施形態では、Fc領域のフコシル化が低下している。特定の実施形態では、Fc領域は非フコシル化型である。
【0231】
一部の実施形態では、本明細書におけるFc変異体は、当該技術分野において公知のとおりの他の公知のFc変異体と組み合わされてもよい。Fcドメインの他の修飾及び/又は置換及び/又は付加及び/又は欠失を導入することができる。
【0232】
グリコシル化
グリコシル化が抗体のエフェクター機能を改変する能力に加え、可変領域におけるグリコシル化の修飾が、標的抗原に対する抗体の親和性を改変し得る。一部の実施形態では、本抗体の可変領域のグリコシル化パターンが修飾される。例えば、非グリコシル化抗体を作製することができる(すなわち、抗体はグリコシル化を欠いている)。グリコシル化を改変することにより、例えば標的抗原に対する抗体の親和性を増加させることができる。かかる炭水化物修飾は、例えば抗体配列内の1つ以上のグリコシル化部位を改変することにより達成することができる。例えば、1つ以上の可変領域フレームワークグリコシル化部位の除去をもたらし、それにより当該部位のグリコシル化をなくす1つ以上のアミノ酸置換を生じさせることができる。かかる非グリコシル化により、抗原に対する抗体の親和性が増加し得る。Fc領域に存在するグリコシル化部位(例えば、IgGのアスパラギン297)の除去をもたらす1つ以上のアミノ酸置換もまた生じさせることができる。さらに、必要なグリコシル化機構を欠いている細菌細胞で非グリコシル化抗体を産生してもよい。
【0233】
抗体コンジュゲート
特定の実施形態では、本明細書に提示される抗体は、当該技術分野において公知の方法を用いて物質とコンジュゲートされ、又は共有結合的に結合される。一部の実施形態では、結合させる物質は、検出可能標識(本明細書ではレポーター分子とも称される)又は固体担体である。抗体との結合に好適な物質としては、限定はされないが、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、多糖、ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸、ハプテン、薬物、ホルモン、脂質、脂質集合体、合成ポリマー、ポリマー微粒子、生体細胞、ウイルス、フルオロフォア、発色団、色素、毒素、ハプテン、酵素、抗体、抗体断片、放射性同位体、固体基材、半固体基材及びそれらの組み合わせが挙げられる。抗体に別の物質をコンジュゲート又は共有結合的に結合する方法は、当該技術分野において公知である。
【0234】
診断的使用方法
α毒素は、通常黄色ブドウ球菌(S.aureus)の病原性株のみに見られるビルレンス因子である。α毒素は、ときに活性複合体の形成の一部として細胞表面受容体に結合する。しかしながら、特定の受容体との結合がない場合にオリゴマー形成及び膜貫通孔(例えばα毒素ヘプタマー)の形成が起こり得る。細胞の機能障害及び溶解におけるオリゴマー化したα毒素の作用(例えば膜貫通孔の形成)により、侵入する黄色ブドウ球菌(S.aureus)細菌の定着が促進される。本明細書に記載される抗体は、α毒素分子上の領域を直接認識するか、又はα毒素モノマー間相互作用に関わる領域を間接的に認識することにより、α毒素モノマーが集合又はオリゴマー化して膜貫通孔になるのを阻害する。
【0235】
特定の実施形態では、本明細書に提示される抗α毒素抗体及び断片及び組成物は、α毒素及び/又はα毒素関連病態/疾患を生じる黄色ブドウ球菌(S.aureus)株の診断用にインビボ及び/又はインビトロで使用されてもよい。これは、例えば、抗体とα毒素との間の複合体形成を許容する条件下で試験する試料を、場合により対照試料と共に抗体に接触させることにより達成することができる。次に複合体形成が(例えばELISAを用いて)検出される。試験試料と共に対照試料を使用する場合、複合体は双方の試料で検出され、試料間で複合体形成に統計的に有意な差があれば、それが試験試料中の黄色ブドウ球菌(S.aureus)、α毒素又は黄色ブドウ球菌(S.aureus)及びα毒素の存在を示すものとなる。
【0236】
一部の実施形態では、本明細書における技術は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)及び/又は他のα毒素ホモログ産生菌を含むことが疑われる試料中におけるα毒素を産生する黄色ブドウ球菌(S.aureus)株及び/又はα毒素の存在を決定する方法を提供し、この方法は、試料を抗α毒素抗体又は断片に曝露するステップと、試料中のα毒素に対する抗体の結合を決定するステップとを含み、ここでは試料中のα毒素に対する抗体の結合が、試料中の黄色ブドウ球菌(S.aureus)及び/又はα毒素の存在を示すものとなる。一部の実施形態では、試料は生体試料である。特定の実施形態では、生体試料は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)関連疾患/障害に罹患している又は罹患していることが疑われる哺乳動物由来である。
【0237】
特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、インビボ診断アッセイを用いた黄色ブドウ球菌(S.aureus)の成長及び/又はα毒素の過剰発現の検出に使用され得る。一部の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片が試料に添加され、ここで抗体は、検出しようとするα毒素に結合するもので、且つ検出可能標識(例えば、放射性同位体又は蛍光標識)でタグ化されており、標識の局在化について患者が体外から走査される。
【0238】
INFORM(商標)(Ventana,Arizonaから販売)又はPATHVISION(商標)(Vysis,Illinois)などのFISHアッセイをホルマリン固定パラフィン包埋組織で行い、組織試料におけるα毒素過剰発現の程度を(それがある場合には)決定してもよい。
【0239】
特定の実施形態では、抗α毒素抗体及び断片は、組織試料、血液又は血清中のα毒素(例えば、可溶性α毒素)の検出方法において用いられ得る。一部の実施形態では、この方法は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)α毒素媒介性の障害に罹患していると疑われる哺乳動物由来の組織、血液又は血清の試験試料を本明細書に提示される抗α毒素抗体又は断片と接触させるステップと、正常な哺乳動物由来の血液又は血清の対照試料と比べた試験試料中のα毒素の増加を検出するステップとを含む。一部の実施形態では、この検出方法は、哺乳動物の組織、血液又は血清中におけるα毒素の増加を伴う黄色ブドウ球菌(S.aureus)及び/又はα毒素媒介性障害の診断方法として有用である。
【0240】
治療的使用方法
特定の実施形態では、抗α毒素抗体又は断片は、α毒素媒介性病態の予防及び/又は治療のために投与され得る。本明細書には、α毒素媒介性疾患又は障害の予防、治療、管理、緩和、及び/又は阻害方法が提示され、ここでこの方法は、本明細書に提供される抗α毒素抗体及び断片を投与するステップを含む。
【0241】
病原性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素媒介性障害
特定の実施形態では、慢性及び急性の双方の病態、例えば限定はされないが、菌血症、火傷、蜂巣炎、皮膚壊死、眼瞼感染症、食中毒、関節感染、新生児結膜炎、骨髄炎、肺炎、皮膚感染、手術創感染、熱傷様皮膚症候群、心内膜炎、髄膜炎、膿瘍形成及び毒素性ショック症候群を含む幅広い病原性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)媒介性病態/疾患を治療及び予防するための本明細書に提示されるとおりの組成物及び抗体の投与及び使用方法が提供される。
【0242】
CA-MRSA及びHA-MRSAの双方とも、セファレキシンなどの伝統的な抗ブドウ球菌性βラクタム系抗生物質に耐性を示す。CA-MRSAは、サルファ剤(コトリモキサゾール/トリメトプリム・スルファメトキサゾールなど)、テトラサイクリン系薬(ドキシサイクリン及びミノサイクリンなど)及びクリンダマイシンを含め、より広域の抗菌薬感受性を有するが、ヘンリー・フォード病院試験(Henry Ford Hospital Study)によれば、現在、CA-MRSAの治療に対する第一選択薬はバンコマイシンであると考えられている。HA-MRSAはこのような抗生物質にさえも耐性を示し、多くの場合にバンコマイシンにのみに感受性を有する。リネゾリド(新規オキサゾリジノンクラスに属する)及びダプトマイシンなどの最新の薬物は、CA-MRSA及びHA-MRSAの双方に対して有効である。
【0243】
特定の実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、例えば、βラクタム系抗生物質(セファレキシンなど)、サルファ剤(コトリモキサゾール/トリメトプリム・スルファメトキサゾールなど)、テトラサイクリン系薬(ドキシサイクリン及びミノサイクリンなど)、クリンダマイシン、バンコマイシン、リネゾリド、ダプトマイシン、テイコプラニン、キヌプリスチン/ダルホプリスチン(シナシッド(synercid))、又はチゲサイクリンに対応する抗生物質と組み合わせて使用することができる。
【0244】
医薬製剤
特定の実施形態では、本明細書に提供される抗α毒素抗体又は断片は、医薬(治療)組成物として薬学的に許容可能な担体と共に製剤化されてもよく、及び当該技術分野において公知の様々な方法により投与されてもよい。投与経路及び/又は方式は、所望の結果によって異なり得る。本明細書で使用されるとき、抗α毒素抗体又は断片を含む医薬製剤は、本技術の製剤と称される。用語「薬学的に許容可能な担体」は、活性成分の生物活性の有効性を妨害しない1つ以上の無毒性の材料を意味する。かかる製剤は、塩、緩衝剤、防腐剤、適合担体、及び場合により他の治療剤をルーチンに含有し得る。かかる薬学的に許容可能な製剤はまた、ヒトへの投与に好適な、適合する固形又は液状充填剤、希釈剤又は封入物質もルーチンに含有し得る。用語「担体」は、天然又は合成の、適用を促進するよう活性成分と組み合わされる有機又は無機成分を指す。本医薬組成物の構成成分はまた、所望の薬学的効力を実質的に損ない得る相互作用がないようにして本技術の抗体と、及び互いに、混じり合うことが可能である。
【0245】
本技術の治療組成物は、特定の投薬量に製剤化されてもよい。投薬レジメンは、最適な所望の反応(例えば治療反応)を提供するように調整され得る。例えば、単回ボーラスが投与されてもよく、いくつかの分割用量が時間をかけて投与されてもよく、又は治療状況の急迫性の指標に応じて用量を比例的に減少又は増加させてもよい。特に、投与し易く、且つ投薬量が均一になるため、非経口組成物を投薬単位形態で製剤化することが有利である。投薬単位形態は、本明細書で使用されるとき、単位投薬量として治療対象に適した物理的に個別の単位を指す;各単位は、必要な医薬担体との関連において所望の治療効果を生じるように計算された所定の活性化合物分量を含有する。投薬単位形態の詳細は、(a)抗α毒素抗体又は断片の固有の特性及び実現しようとする特定の治療効果、及び(b)個体における感受性の治療に対してかかる抗α毒素抗体又は断片を配合する技術に固有の制約によって左右され、且つそれに直接依存する。
【0246】
本技術の治療組成物は、特定の投与経路、例えば、経口、経鼻、肺内、局所(頬側及び舌下を含む)、直腸、腟内及び/又は非経口投与用に製剤化することができる。製剤は、好都合には単位剤形で提供されてもよく、及び薬学の技術分野において公知の任意の方法により調製されてもよい。単一の剤形を作製するため担体材料と組み合わせ得る活性成分の量は、治療対象、及び特定の投与方式に応じて異なり得る。単一の剤形を作製するため担体材料と組み合わせ得る活性成分の量は、概して、治療効果を生み出す組成物の量であり得る。
【0247】
治療上有効な投薬量
本明細書に記載される抗体製剤は、好適な投薬量及び投薬レジメンで投与することができ、かかる投薬量及び投薬レジメンは、治療する疾患又は病態に依存し得る。治療上有効な投薬量は、投薬量及び投薬レジメンが治療効果又は治療エンドポイントを生じるかどうかを決定することにより特定することができる。
【0248】
製品及びキット
本明細書では、本明細書の液体製剤又は凍結乾燥製剤が充填された1つ以上の容器を含む医薬パック又はキットが提供される。一部の実施形態では、本明細書の液体製剤が充填された容器はプレフィルドシリンジである。具体的な実施形態において、本明細書における製剤は、限定はされないが、異種タンパク質、異種ポリペプチド、異種ペプチド、巨大分子、小分子、マーカー配列、診断用の又は検出可能な薬剤、治療用部分、薬物部分、放射性金属イオン、二次抗体、及び固体担体を含む別の部分と組換え融合されるか、又は化学的にコンジュゲートされた抗α毒素抗体及び断片を含む。特定の実施形態では、本明細書における製剤は、単回用量バイアルに滅菌液として製剤化される。本明細書における製剤は、ときにプレフィルドシリンジで供給される。
【0249】
特定の実施形態では、細胞からのα毒素の精製又は免疫沈降、α毒素の検出などを含め、様々な目的、例えば研究及び診断に有用な、抗α毒素抗体及び断片を含むキットもまた提供される。α毒素を単離及び精製するため、キットは、ビーズ(例えばセファロースビーズ)と結合された抗α毒素抗体又は断片を含み得る。インビトロでの、例えばELISA又はウエスタンブロットにおけるα毒素の検出及び定量化用の抗体を含むキットが提供されてもよい。製品と同様に、キットは、容器と、容器上の、又は容器に付随するラベル又は添付文書とを含む。容器は、本明細書に開示されるとおりの少なくとも1つの抗α毒素抗体又は断片を含む組成物を保持する。例えば、希釈剤及び緩衝剤、対照抗体を収容するさらなる容器が含まれてもよい。ラベル又は添付文書は、組成物の説明並びに目的のインビトロ用途又は診断用途についての指図を提供し得る。
【0250】
本技術はまた、完成品の包装されたラベル付き医薬製品も包含する。この製品は、適切なベッセル又は容器、例えばガラスバイアル、プレフィルドシリンジ又は他の密封された容器に適切な単位剤形を含む。一部の実施形態では、単位剤形は、非経口投与に好適な、抗α毒素抗体又は断片を含む滅菌無粒子溶液として提供される。特定の実施形態では、単位剤形は、再構成に好適な、抗α毒素抗体又は断片を含む滅菌凍結乾燥粉末として提供される。
【0251】
一部の実施形態では、単位剤形は、静脈内、筋肉内、鼻腔内、経口、局所又は皮下送達に好適である。従って、本技術は、各送達経路に好適な滅菌溶液を包含する。本技術はさらに、再構成に好適な滅菌凍結乾燥粉末を包含する。
【0252】
任意の医薬製品と同様に、包装材料及び容器は、保管及び輸送中の製品の安定性を保護するように設計される。さらに、本明細書における製品は、当該の疾患又は障害の適切な予防又は治療方法に関して医師、技師又は患者に助言する使用説明書又は他の情報資料を含む。換言すれば、この製品は、限定はされないが、実際の用量、モニタリング手順、及び他のモニタリング情報を含めた投与レジメンを指示又は提案する指図手段を含む。
【0253】
具体的には、本技術は、包装材料、例えば、箱、ボトル、チューブ、バイアル、容器、プレフィルドシリンジ、噴霧器、吸入器、静注用(i.v.)バッグ、エンベロープなど;及び包装材料に収容される少なくとも1つの医薬品単位剤形を含む製品を提供し、ここで医薬品は、抗体を含有する液体製剤を含む。包装材料は、抗体をどのように使用すると疾患又は障害に関連する1つ以上の症状を予防、治療及び/又は管理することができるかを指示する指図手段を含む。
【0254】
以下に記載する例は特定の実施形態を示すが、本技術を限定するものではない。
【実施例】
【0255】
実施例1:材料及び方法
実施例2~実施例9及び実施例11~実施例13に利用する材料及び方法を以下に提供する。
【0256】
野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)AT及び非溶血性突然変異体H35Lのクローニング及び発現
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)株ATCC BAA1556由来のゲノムDNAを使用して、野生型α毒素(AT)遺伝子をPCRにより増幅した。この反応には、フォワードプライマーatatatgagctcgcagattctgatattaatattaaaacc(配列番号80)、リバースプライマーatatataagcttaatttgtcatttcttctttttccc(配列番号81)、及び約10ngのゲノムDNAが、Herculase IIポリメラーゼ(Stratagene)を使用した50μlの反応物中に含まれた。得られた断片をSac I及びHind IIIで消化し、pCold II DNAベクター(TaKaRa)にN末端6XHisタグとインフレームでライゲートした。QuikChange II XL部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene)を製造者の指示に従い使用して、野生型遺伝子の部位特異的突然変異誘発によりH35L突然変異体を生成した。突然変異誘発に利用した変異原性プライマーは、gataaagaaaatggcatgctcaaaaaagtattttatagttttatc(配列番号83)及びgataaaactataaaatacttttttgagcatgccattttctttatc(配列番号84)であった。
【0257】
自動化されたDNAシーケンシングにより野生型AT及びATH35L突然変異体の配列を確認した。野生型及びH35L突然変異体α毒素を大腸菌(E.coli)BL21株で発現させた。LB+カルベニシリンで成長させた50mlの一晩培養物を500ml培養液に1:10希釈し、A600が約0.5になるまで37℃で成長させた。培養物を30分間15℃にシフトさせ、次に1M IPTGを添加して約100mMの終濃度とした。培養物を15℃でさらに24時間インキュベートした。細胞を遠心により回収した。
【0258】
組換えhisタグ付きα毒素(rAT-his)の精製
細菌細胞ペレットを氷上で解凍し、Ni-NTA緩衝液A(20mMリン酸ナトリウム、pH7.2、300mM NaCl)に再懸濁した。20,000psiでのマイクロフルイダイゼーション(Microfluidics モデルM-110P)により細胞を溶解し、粗ライセートを4℃、27,000×gで10分間遠心することにより清澄化した。0.2μmでろ過した後、Ni-NTA緩衝液Aで平衡化した5ml Ni-NTA Superflowカラム(Qiagen)に上清を負荷した。rAT-hisを300mM及び500mMイミダゾール段階勾配で溶離し、画分を、終濃度1mMのEDTAが入ったチューブに収集し、SP緩衝液A(50mMリン酸ナトリウム、pH7.0、25mM NaCl、1mM EDTA)に透析した。透析物をSP緩衝液A中5ml HiTrap SPセファロースFFカラム(GE Healthcare)に負荷し、rAT-hisを1M NaClへの段階勾配で溶離した。rAT-hisを含む画分を、1mM EDTAを含有する1×PBS、pH7.2に透析し、アリコートを-80℃で凍結した。
【0259】
黄色ブドウ球菌(S.aureus)からの天然α毒素の精製
黄色ブドウ球菌(S.aureus)Wood株から天然α毒素(nAT)を精製した。黄色ブドウ球菌(S.aureus)Wood株を、振盪しながら(例えば約250RPM)、37℃のトリプシン大豆ブロス(TSB)中で一晩成長させた。遠心により培養上清を回収し、次に固形硫酸アンモニウムで75%飽和にした。4℃で3時間撹拌した後、沈殿物を、12,000×gで45分間遠心することによって捕捉し、SP緩衝液A(25mM酢酸ナトリウム、pH5.2、20mM NaCl、1mM EDTA)に再懸濁し、SP緩衝液Aに対して4℃で一晩、1回の交換を伴い透析した。27,000×g、4℃で30分間遠心して不溶性材料を除去した。可溶性透析物をろ過し(0.2μm)、SP緩衝液Aで平衡化した10ml SPセファロースFFカラム(GE Healthcare)に負荷した。300mM NaClまでの線形勾配と、続く0.5及び1M NaClの段階勾配により、結合したnATを溶離した。nATを含む画分をプールし、1mM EDTAを含有するPBS、pH7.2に一晩透析した。最終的な処理として、透析物をHiPrep Sephacryl S-200高分解能カラム(GE Healthcare)に、1mM EDTAを含有する1×PBS、pH7.2中1.3ml/分の流量で負荷した。nATを含む画分をプールし、アリコートに分け、-80℃で凍結した。
【0260】
免疫化/ハイブリドーマ生成
8週齢のVelocImmuneマウスに対し、RIMMS免疫化レジームKilpatrick et al(1997)に従い複数部位に5ラウンドのrATH35Lの皮下注射を投与した。マウスは13日間にわたり2~3日置きに免疫した。各免疫化ラウンドにつき、初めにマウスをイソフルラン(isofluorane)で麻酔した。完全又は不完全フロイントアジュバント及びTiterMax Goldアジュバントに免疫原を乳化し、首項部、腋窩部、腓腹部及び鼡径部に両側性に注入した。13日目に試験出血を採取し、抗原ELISAでアッセイした。マウスに予備的融合ブーストを腹腔内投与し、17日目に犠牲にした。リンパ節リンパ球及び脾細胞を骨髄腫パートナーに融合させて安定的なハイブリドーマを生成した。
【0261】
溶血活性の中和
50マイクロリットルの各B細胞ハイブリドーマ培養上清を組換えα毒素-His(rAT-his、0.1μg/ml終濃度)と96ウェルプレートにおいて混合し、続いてPBS中50μlの5%ウサギ赤血球細胞(RBC)を添加した。対照ウェルには、RBC及びAT含有又は不含の培養培地のみを入れた。プレートを37℃で1時間インキュベートし、インタクトな細胞を遠心によりペレット化した。50μlの上清を新しい96ウェルプレートに移し、分光光度計でA490を計測した。中和活性をRBC及びrAT-his単独による溶解に対して計算し、以下を計算した:阻害%=100×[100-(A490 nAT+Ab)/(A490 nAT Ab無し)]。
【0262】
精製mAbによる阻害もまた試験した。抗AT mAbをPBS中約80μg/mLで96ウェルプレートに添加し、試料を最終容量が50μLとなるようPBSに段階希釈(2倍)した。非特異的なIgG1(R347)をアイソタイプ対照として含めた。25マイクロリットルのmAb希釈物を25μLのnAT(天然α毒素)と96ウェル丸底プレートに約0.1μg/mLで混合し、続いて50μLの5%RBCを添加した。溶血活性の阻害を上記のとおり計算した。
【0263】
キメラ抗AT mAbの発現及び精製
タンジェンシャルフローろ過により、清澄化したマウス抗AT上清(30~50mg/Lで約5L)を濃縮した。次に濃縮した上清を5つの5mLプロテインG HiTrap HPカラムに順に通し、結合したIgGを50mM重炭酸ナトリウム、pH11.0で溶離し、1Mリン酸で約pH7.0に中和した。中和した材料を2つの1mL HiTrap Q FF(GE Healthcare)カラムに順に負荷した。IgGを含む通過液を回収し、PBS pH7.2に透析した。
【0264】
A549溶解の中和
A549細胞を、非必須アミノ酸、グルタミン及び10%ウシ胎仔血清を補足したRMPI中、5%CO2、37℃のインキュベーターに維持した。細胞をハンクス平衡培地で1回洗浄し、RPMI、5%FBS中50μlに基づき104/ウェルで播き、37℃、5%CO2で20時間インキュベートした。抗AT mAbをRPMI中80μg/mLで96ウェルプレートに添加し、試料をRPMIに段階希釈(2倍)した。関連性のないIgG1(R347)をアイソタイプ対照として含めた。別の96ウェルプレートにおいて、30μlの希釈抗体を30μlのnATと混合した(終濃度5μg/ml)。各ウェルから50マイクロリットルを、付着A549細胞が入ったプレートに移した。nATを含む又は含まないA549細胞の対照ウェルを含めた。プレートを37℃、5%CO2で3時間インキュベートし、遠心し、50μlの上清を新しい96ウェルプレートに移した。Cytotox 96非放射性アッセイキット(Promega)を製造者のプロトコルに従い使用して、細胞溶解を乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出として計測した。バックラウンドLDHを各ウェルから減じ、LDH放出の阻害を計算した:阻害%=100×[100-(A590 nAT+ Ab)/(A590 nAT Ab無し)]。
【0265】
THP-1溶解の中和
THP-1細胞を、非必須アミノ酸(Invitrogen)、2mMグルタミン(Invitrogen)及び10%ウシ胎仔血清(Invitrogen)を補足したRPMI培地(Invitrogen)中、5%CO2、37℃のインキュベーターに維持した。抗AT mAbをRPMI中80μg/mlで96ウェルプレートに添加し、試料を最終容量が50μLとなるようにRPMIに段階希釈(2倍)した。関連性のないIgG1(R347)をアイソタイプ対照として含めた。25マイクロリットルのmAb希釈物を25μlの天然α毒素(nAT)と最終1.5μg/mlで混合し、続いて50μlのRMPIで洗浄したTHP-1細胞(10%FBS含有RPMI中106細胞/ml)を96ウェルプレートに添加した。対照ウェルは、単独又はnAT有りのTHP-1細胞から構成された。プレートを5%CO2、37℃のインキュベーターで3時間インキュベートし、遠心し、50μlの上清を新しい96ウェルプレートに移した。Cytotox 96非放射性アッセイキット(Promega)を製造者の指示に従い使用して、細胞溶解を乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出として計測した。LDH放出の阻害を上記に記載したとおり計算した。
【0266】
抗AT IgG mAbのクローニング及び完全ヒトmAbとしての発現
Dynabeads mRNA Directキット(Invitrogen)を使用して、5個のハイブリドーマクローン2A3、10A7、12B8、25E9及び28F6のmRNAを単離した。SuperScript III(Invitrogen)逆転写酵素及びランダムヘプタマープライマーを使用して、cDNAの第1鎖を合成した。Ig-プライマーセット(Novagen,カタログ番号69830)を使用して、ヒトIg VL(κ)及びVHをPCRにより増幅した。PCR増幅したVL及びVH産物をTOPO TAベクター(Invitrogen pCR2.1-TOPO)にクローニングして配列決定した。各ハイブリドーマからのVH及びVL(κ)を、ヒトIgG.κ.pOEベクターへのクローニング用の制限酵素部位を追加してPCRにより再増幅し、ここでVLは、ヒトc-κと融合したBssHII/BsiWI部位にクローニングし、VHは、ヒトIgG-1重鎖定常領域と融合したBsrGI/SalI部位にクローニングした。得られたpOEプラスミドをDNAシーケンシングによって確かめた。
【0267】
抗α毒素mAbの発現及び精製
Endofree Plasmid Maxiキット(Qiagen)を使用してpOEコンストラクトのプラスミドDNAを調製した。pOEプラスミドを、Freestyle 293発現培地(GIBCO)中の293fectin試薬(Invitrogen)を使用して293F懸濁細胞にトランスフェクトした。トランスフェクション後6日目及び9日目、培養培地を回収し、プロテインAセファロースカラム(GE Healthcare)を使用してIgGを精製した。IgGを含むピークをプールし、PBS、pH7.4に透析し、-70℃で保存した。IgGタンパク質の純度をSDS-PAGEによって確かめた。
【0268】
マウス肺炎モデル
感染24時間前、10匹の7~9週齢C57BL/6Jマウス(Harlan)の群に、示される濃度の0.5mlのmAbを腹腔内注射によって投与した。次に動物をイソフルラン(isofluorane)で麻酔して垂直に保ち、滅菌PBS中0.05mlの黄色ブドウ球菌(S.aureus)細菌懸濁液(1×108CFU~3×108CFU)を左右鼻孔に接種した。動物を仰臥位でケージに入れて回復させ、試験時間の経過中1日2回観察した。動物の生存を最大6日間モニタした。
【0269】
或いは、動物は細菌感染48時間後にCO2吸入によって安楽死させた。肺及び腎臓を滅菌PBS中に摘出し、ホモジナイズし、希釈して播き、細菌を計数した。ログ・ランク検定を用いて死亡率試験の統計的有意性を決定した。分散分析及びダネットの事後検定を用いて臓器からの細菌回収の有意性を計算した。
【0270】
皮膚壊死マウスモデル
5匹の6~8週齢雌BALB/cマウス(Harlan)の群について背中を剪毛し、腹腔内注射によりグラフに示す濃度の0.5ml IgGを投与した。24時間後、50μLの細菌懸濁液(1×108黄色ブドウ球菌(S.aureus))を皮下注射することによりマウスを感染させた。動物を感染の徴候について1日2回モニタし、同時に膿瘍のサイズを毎日計測した。病変面積は式A=L×Wを使用して計算した。分散分析及びダネットの事後検定を用いて統計的有意性を決定した。
【0271】
受容体結合アッセイ
500mLの溶解緩衝液(5mMリン酸、1mM EDTA、pH7.4)中の洗浄し充填した5mLのウサギ赤血球細胞(RBC)を常に撹拌しながら4℃で一晩インキュベートすることにより、赤血球細胞ゴーストを調製した。次にこのゴーストを15,000×gで遠心することにより取り出し、溶解緩衝液で3回洗浄した。次にそれをPBS中で洗浄し、最終容量3mLで再懸濁した。
【0272】
nATの細胞膜との結合を評価するため、RBCゴーストをOD600約0.2までPBS中に希釈し、50μLを1/2ウェルの96ウェルプレート(Costar)にコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。次にプレートから液体を除去し、ウェルを、PBS、pH7.4中100μLの1%BSAにより4℃で2時間ブロックし、PBSで3回洗浄した。20モル過剰のIgGを3μg/mLでnATと混合し、ブロックしたプレートに50μLを添加した。プレートを4℃で2時間インキュベートし、PBSで3回洗浄した。ビオチン標識ウサギ抗AT IgGを1mg/mLでウェルに添加し、4℃で1時間インキュベートし、3回洗浄し、ストレプトアビジンペルオキシダーゼコンジュゲート(1:30,000、Jackson Immunoresearch)とインキュベートした。ウェルを3回洗浄し、Sure Blue Reserve(KPL,Inc.)で発色させた。プレートリーダー(Molecular Devices)を使用してA450を読み取り、%AT結合を計算した。%AT結合=100×(A450-AT+IgG/A450-AT単独)
【0273】
オリゴマー形成アッセイ
Liposofastエクストルーダ(Avestin,Inc.)及び100nm孔径の膜を使用してリポソームを生成した。卵黄ホスファチジルコリン(15mg、Avanti Polar Lipids)と、卵黄ホスファチジルグリセロール(2.9mg、Avanti Polar Lipids)と、コレステロール(5.8mg、Avanti Polar Lipids)とのクロロホルム中混合物(5:1:4、モル比)を、窒素流下に40℃で乾燥させた。次に乾燥した脂質フィルムを3mLのPBS、pH7.4(Invitrogen)で再水和し、37℃で30分間インキュベートした。次に試料を、均一な懸濁液を形成するまで激しくボルテックスし、次に、ドライアイスイソプロパノール浴及び室温の水を使用して3ラウンドの凍結融解にかけた。次に溶液をLiposofastエクストルーダに21回通した。
【0274】
AT(0.5μg)を、精製IgG、5μLのRBCゴースト及びPBSと最終容量22μLで混合し、37℃で45分間インキュベートした。次に試料を、5μLのSDS-PAGE試料緩衝液に37℃で5分間可溶化し、10μLを4~12%プレキャストポリアクリルアミドゲル(Invitrogen)におけるSDS-PAGEに供した。次に別のタンパク質をニトロセルロースに移し、PBS中のブロッカーカゼイン(Thermo Scientific)で10分間ブロックし、ウサギ抗AT IgG(2μg/mL)により、常に振盪しながら室温で2時間プローブした。アルカリホスファターゼ標識ヤギ抗ウサギ2と1時間インキュベートした後にATバンドを検出し、BCIP/NBT膜ホスファターゼ基質系(KPL,Inc.)を使用して発色させた。
【0275】
動態速度及び結合定数(KD)の計測
BIAcore 3000機器(BIAcore,Inc)上でのIgG捕捉アッセイフォーマットを用いて、精製nATに対する抗AT IgG抗体の結合についての動態速度定数(kon、koff)を計測した。簡潔に言えば、ラット抗マウスIgGを、CM5センサーチップ上に製造者の指示に従い固定化した。センサーチップ上の捕捉試薬の最終面密度は、本明細書に記載されるとおり、約2500反応単位(RU)であった。参照フローセル表面もまたこのセンサーチップ上に、同じ固定化プロトコルを用いて、且つnATは省いて調製した。抗AT IgG抗体を、機器緩衝液(0.01M HEPES、pH7.4、0.15M NaCl、3mM EDTA及び0.005%P-20を含有するHBS-EP緩衝液)中20nMで、nATの2倍段階希釈物と共に調製した。nAT段階希釈物は、約0.78nM~約50nMの範囲で機器緩衝液中に作製した。
【0276】
動態測定には逐次的手法を利用した。初めに各抗AT IgGを捕捉表面及び参照表面上に50μL/分の流量で注入した。捕捉されたIgGの結合が安定したところで、単一濃度のnATタンパク質を50μL/分の流量で双方の表面上に注入した。得られた結合反応曲線を用いて会合相データを決定した。nATの注入後、次にフローを機器緩衝液に10分間戻して解離相データの収集を可能にし、続いて10mMグリシン、pH1.5の1分間パルスによりチップ上のIgG捕捉表面を再生させた。各nAT濃度のデュプリケート注入からの結合反応を全ての抗AT IgGに対して記録した。
【0277】
加えて、注入系列の全体にわたりいくつかの緩衝液注入を分散させた。参照細胞反応と共に選択的緩衝液注入を用いることにより、一般に「二重参照」と称される注入のアーチファクト及び/又は非特異的結合の相互作用に関する生データセットの補正を行った(D.G.Myszka,Improving biosensor analysis.J.Mol.Recognit.12(1999),pp.279-284)。次に完全に補正した結合データを、検出された場合には、物質移動制限結合を補正する項が含まれる1:1結合モデルに大域的にフィットした(BIAevaluation 4.1ソフトウェア,BIAcore,Inc,Uppsala,Sweden)。これらの分析から動態速度(on、off)定数を決定し、そこから見かけのKDをkoff/konとして計算した。
【0278】
黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染肺におけるサイトカイン値の計測
7~9週齢のC57BL/6Jマウスを2A3.1hu(完全ヒト2A3.1)又はR347(45mg/kg)で腹腔内注射により処置し、24時間後に1.5×108cfuのUSA300株(BAA-1556、ATCC)を鼻腔内感染させた。感染後4時間及び24時間でマウスを安楽死させ、肺を1mlのPBSで3回フラッシュした。気管支肺胞洗浄液(BAL)を-70℃で保存した。7炎症誘発性IIマウスサイトカインキット(Mesoscale,Gaithersburg,MD)を製造者の指示に従い使用して、炎症誘発性サイトカインを定量化した。サイトカイン値はpg/mlとして表した。
【0279】
GST融合タンパク質のクローニング及び発現
AT1-50及びAT51-293をコードする遺伝子配列を、上記に記載されるpColdII ATクローンからPCRにより増幅した。反応には、10ngのAT-pColdII DNA及び0.1mgの各フォワード及びリバースプライマー(AT1-50-F、atattggatccgcagattctgatattaatattaaaac(配列番号45)及びAT1-50-R、atacttctcgagttatttattatgatttttatcatcgataaaac(配列番号46);又はAT51-293-F catagggatccaaactgctagttattagaacgaaag(配列番号47)及びAT51-293-R、catagctcgagtcaatttgtcatttcttctttttcccaatc(配列番号48))が含まれ、**PCRポリメラーゼ(Invitrogen)を製造者の指示に従い使用した。得られたPCR断片をBamHI及びXhoIで消化し、pGex 6P DNAベクター(Stratagene)に、N末端グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)タグとインフレームでライゲートした。クローンの配列を自動化されたDNAシーケンシングによって確認した。
【0280】
断片の発現は、大腸菌(E.coli)のBL21(DE3)株を宿主として達成した。プレートからいくつかのコロニーを選び取り、100mLのLB+100μg/mLのアンピシリン(Sigma Chemical Company)に接種し、37℃で一晩成長させた。一晩培養物をLB+100μg/mLアンピシリンの3×1L培養液に1:100希釈し、約250RPMで振盪しながらOD600が約0.8になるまで成長させた。次に1mMのIPTGを添加することによりタンパク質発現を誘導した。培養物は、振盪しながら37℃で2時間インキュベートし続けた。遠心により細菌細胞を回収し、-20℃で凍結した。
【0281】
細胞ペレットを100mLのPBS、pH7.4(Invitrogen)に再懸濁し、20,000psiでのマイクロフルイダイゼーション(Microfluidics モデルM-110P)により溶解し、粗ライセートを4℃、27,000×gで10分間遠心して清澄化した。得られた上清をGSTrap FFカラム(GE Healthcare)に負荷し、GST-AT1-50とGST-AT51-293の可溶性画分とを製造者の指示に従い精製した。不溶性GST-AT51-293画分は不溶性細胞ペレットから精製した。25mMリン酸ナトリウム、pH7.4中3MのグアニジンHCl中で、不溶性材料を室温で約1時間、穏やかに振動させながら可溶化した。可溶化材料をリフォールディング緩衝液A[25mMリン酸ナトリウム、pH7.4、2MグアニジンHCl含有]で7倍希釈した。GST-AT51-293を徐々に透析することによりリフォールディングした。等量のリフォールディング緩衝液B[25mMリン酸ナトリウム、pH7.4]を、約2、1、次に0.5Mのグアニジン濃度について12~15時間毎に4℃で透析した後透析ビーカーに添加した。次にGST-AT51-293をリフォールディング緩衝液Bに対して24時間透析した。最終的な透析物を遠心により清澄化し、上記に記載したとおり可溶性画分をGSTrapカラムで精製した。
【0282】
ドットブロットアッセイ
アミノ酸40~293にわたる重複ペプチドを化学的に合成した(New England Peptide)。AT1-50の合成を試みたが、不成功であった。α毒素(AT)、ATペプチド及びAT断片(1μg)をニトロセルロース上にスポッティングし、PBS中ブロッカーカゼインで10分間ブロックした。次にブロットを、2μg/mLの個々のIgGにより室温で3時間プローブした。ブロットを洗浄し、アルカリホスファターゼコンジュゲートヤギ抗マウス又はヤギ抗ウサギIgG(1:1000、Caltag Laboratories)と1時間インキュベートし、BCIP/NBT膜ホスファターゼ基質系(KPL,Inc)を用いて発色させた。
【0283】
LC10 YTEのα毒素及びLukF-PVとの結合のELISA特性決定
Hisタグ付きα毒素又はLukF-PVを含有する細菌ライセートを、96ウェルプレートの表面に4℃で一晩コーティングした。プレートをPBS/0.05%Tween 20で6回洗浄し、10%Superblockブロッキング緩衝液(Pierce,Rockford,IL)により37℃で1時間ブロックした。2μg/mlのLC10 YTE又はマウス抗His mAb(R&D Systems,Minneapolis,MN)をウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。次にプレートをPBS/0.05%Tween 20で6回洗浄した。結合したLC10 YTE又はマウス抗His mAbを、それぞれ抗ヒト又は抗マウスIgG HRPコンジュゲート(Jackson ImmunoResearch laboratories,Inc.West Grove,PA)を使用して検出した。
【0284】
α毒素とLukF-PVとの間のキメラ変異体の生成
α毒素及びLukF-PVの部分から構成されるキメラ変異体を生成し、α毒素上のLC10 YTEの結合領域を同定した。アミノ酸1~51、アミノ酸52~110、アミノ酸111~147、アミノ酸148~205、アミノ酸204~241、又はアミノ酸248~293におけるLukF-PV領域をコードする6個のα毒素キメラ変異体のDNAコンストラクトを遺伝子合成により生成した。他のキメラ変異体をコードするDNAコンストラクトを、α毒素又はLukF-PVをコードするpET3dプラスミド(インハウスプラスミド)を鋳型として使用してオーバーラップ伸長PCRにより作成した。次に全てのDNAコンストラクトをpET3d細菌発現ベクター(EMD Chemicals Inc,Philadelphia,PA)にクローニングし、大腸菌(E.coli)BL21株(DE3)(Invitrogen,Carlsbad,CA)に形質転換した。標準的なプロトコルを用いて形質転換BL21(DE3)細胞をMagicMedia大腸菌(E.coli)発現培地(Invitrogen,Carlsbad,CA)で成長させ、変異タンパク質を発現させた。
【0285】
ProteOnを使用したLC10 YTEとキメラ変異体との結合特性の特性決定
ProteOn XPR36機器(BioRad,Hercules,CA)を使用して、LC10 YTEとα毒素/LukF-PVキメラ変異体との結合特性を試験した。標準的なアミン結合を用いて、10mM酢酸ナトリウム[pH5.0]中の抗α毒素ポリクローナル抗体(インハウスで生成した抗体)を、GLCバイオセンサーチップの表面に各チャネルにつき約5000共鳴単位(RU)で固定化した。約200RUの捕捉反応が達成されるように、固定化したGLC表面上に細菌ライセート上清中のα毒素/LukF-PVキメラタンパク質を注入した。形質転換されていない細菌ライセート上清もまた参照チャネルと同じ条件下で注入した。LC10 YTE試料を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.4)、0.005%Tween-20に調製し、90μL/分で150秒間又は180秒間、典型的には50nM~3.125nMの範囲の濃度で注入した。600秒又は800秒の解離時間を用いた。LC10 YTEの注入後、以下のとおりキメラ変異体の発現レベルもまたモニタした:抗α毒素ポリクローナル抗体を、90μL/分で150秒間又は180秒間、典型的には50nM~3.125nMの範囲の濃度で、600秒又は800秒の解離時間を用いて流動させた。グリシン(10mM、pH1.5)を100μL/分で30秒間注入することにより、表面を2回再生した。全てのセンサグラムデータはProteOn Manager 3.0.1ソフトウェアで処理した。
【0286】
実施例2:抗α毒素mAb生成
完全ヒト可変領域がマウス定常ドメインと融合した抗体レパートリーを含むように遺伝子操作されているVelocImmuneマウスにおいて、抗α毒素(AT)モノクローナル抗体(mAb)を生成した。得られた抗体はヒト:マウスキメラであり、これは、キメラmAb由来のヒト可変ドメインをクローニングされたヒトIgG-1由来の定常領域と遺伝的に融合することにより、完全ヒトIgGに容易に転換される。マウスを本明細書に記載される非溶血性AT突然変異体(ATH35L)で免疫し、標準方法を用いてハイブリドーマを生成した。最初に、1800個超のハイブリドーマ上清が、組換えAT(rAT-his)と結合したIgGを含むことが抗原ELISAにより見出された。次に、溶血アッセイにおけるrAT-his媒介性のウサギ赤血球細胞(RBC)溶解の阻害により、rAT-hisとの結合を示したハイブリドーマ上清を活性についてスクリーニングし、それにより機能性mAbのプールを約250個にまで減らした。次にハイブリドーマ上清をIgGレベルに関して正規化し、その阻害活性を比較した。最も強力なrAT-his阻害剤の13個を限界希釈クローニング用に選択し、小規模IgG発現及び精製に利用した。これらのクローンをスクリーニングし、続いて以下に記載するとおり生化学的にインビボで特性決定した後、VH配列及びVL配列をさらに最適化して、以下の表7に掲載するとおりのさらなる抗体を生成した。
【0287】
実施例3:細胞溶解活性の阻害
13個の精製抗AT IgGの阻害活性を溶血アッセイで比較した。溶血アッセイにおいて一定量のnAT及びウサギ赤血球細胞の存在下で精製抗AT mAbを力価測定した。mAbは、各々、一定量の天然AT(nAT)及びウサギ赤血球細胞(RBC)の存在下で約20μg/mLから漸減させて力価を決定した。溶血は、上清中へのヘモグロビン放出により計測した。溶血阻害パーセント(%)は以下のとおり計算した:阻害%=100*[100-(A
490 nAT+Ab)/(A
490 nAT Ab無し)]。13個の最も強力なrAT-his阻害剤を示す代表的な溶血アッセイを、
図1A及び
図1Bに示す。非特異的IgG対照(R347)を陰性対照として含めた。
【0288】
13個の精製mAbのうち7個のみ(mAb;2A3.1、10A7.5、11D12.1、12B8.19、15B6.3、25E9.1及び28F6.1)が、nAT媒介性RBC溶解を阻害した(
図1A及び
図1Bを参照)。これらの抗体のうち3個(2A3.1、10A7.5及び12B8.19)が強力な阻害剤であり、1:1(モルIgG:モルAT)比でnAT媒介性RBC溶解の約80%の阻害を示した。これらの結果から、生成されたmAbがウサギRBCにおける膜孔形成を阻害し得ることが示唆された。
【0289】
ヒト赤血球はATに対する受容体を多くは有しない。結果的に、ヒトRBCはnAT媒介性溶解に対してウサギRBCほど感受性が高くなく、感染時のATの主要な標的ではないものと思われる。他の細胞型(例えば、上皮、リンパ球、単球及びマクロファージ)は、ブドウ球菌感染時のnATの効果にとってより関連性が高い標的である。ヒト細胞株A549(肺胞上皮細胞株)及びTHP-1(単球性細胞株)のnAT媒介性溶解における精製抗体の活性を調べた。モノクローナル抗体(mAb)を、A549細胞又はTHP-1細胞のいずれかの存在下で一定値のnATに対して力価測定した。本明細書に記載されるとおり乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出により細胞溶解を定量化し、LDH放出の阻害%を決定した。結果をグラフで
図2A及び
図2Bに示す。ウサギRBC溶解を阻害したmAbは、ヒトA549細胞及びTHP-1細胞の双方のnAT媒介性溶解もまた阻害したが(それぞれ
図2A及び
図2Bを参照)、但し11D12.1は例外で、これはA549細胞の溶解を阻害したがTHP-1細胞のnAT媒介性溶解には効果を有しなかった。これらのmAbが示した強力な抗AT活性から、感染時にAT活性を阻害し、それによりブドウ球菌に関連する症状及び疾患の進行を抑制するこれらの抗体の潜在的な有用性が明らかとなる。
【0290】
実施例4:抗AT mAbによる受動免疫化は皮膚壊死病変を減少させる
黄色ブドウ球菌(S.aureus)は、院内及び市中の双方における皮膚軟組織感染(SSTI)の主な原因であり、多くの場合に炎症、組織損傷及び化膿によって特徴付けられる。過度の炎症反応及び組織損傷に至るこれらの感染ではATが役割を果たし得るため、ひいてはAT機能を阻害すれば、重症疾患を引き起こす細菌の能力が抑制され得る。黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染の効果を最小限に抑え、低減し、又は消失させることにおける抗AT mAbの有用性を決定するため、5匹のマウス群に、7個の阻害性mAb(例えば約5mg/kg)及びIgG-1アイソタイプ対照(R347)の対照の各々を腹腔内(IP)注入し、24時間後に黄色ブドウ球菌(S.aureus)Wood株を皮下感染させた。皮膚壊死病変のサイズを6日間毎日計測し、
図3Aに示されるとおり(
図3Aには6日目が示される)写真で記録した。5個の最も強力なインビトロnAT機能阻害剤(2A3.1、10A7.5、12B8.19、25E9.1及び28F6.1)では、R347対照と比べて病変サイズが実質的に縮小したが、一方、インビトロで最も効力の弱いmAbは(11D12.1、15B6.3)、
図3A及び
図3Bに示されるとおり、対照と比べて病変サイズに対して実質的に効果を有しなかった。
図3Bは、経時的な病変サイズの減少をグラフで示す。2A3.1、10A7.5、12B8.19、25E9.1及び28F6.1は、インビトロでのAT機能の強力な阻害剤であり、またSSTIのマウスモデルにおいて強力な予防効果も示す。皮膚壊死モデルでさらなる抗体LC10、QD20、QD33、及びQD37もまた試験した。これらのモノクローナル抗体は、上記に記載したとおり、群あたり5匹のマウスに対して1及び0.5mg/kgで腹腔内に(IP)注射し、24時間後に黄色ブドウ球菌(S.aureus)Wood株を皮下感染させた。結果は
図17A及び
図17Bに示す。p値はダネットの事後検定を用いて計算した。1mg/kgの実験について、試験Abと比較したときのR347対照のp値はp<0.0001であった。0.5mg/kgの実験について、試験Abと比較したときのR347対照のp値はp<0.05であった。
【0291】
実施例5:抗AT mAbによる受動免疫化はマウス肺炎における生存を増強する
生成した最も強力な抗AT mAbによる予防をマウス肺炎モデルで試験した。C57BL/6Jマウスを約5mg/kg、約15mg/kg、及び約45mg/kgの2A3.1、10A7.5、12B8.19又は28F6.1で受動免疫し、24時間後に黄色ブドウ球菌(S.aureus)USA300株(BAA-1556)を鼻腔内感染させた。次に生存を6日間モニタし、
図4~
図7に示すとおり45mg/kgのアイソタイプ対照(R347)と比較した。ログ・ランク検定を用いて統計的有意性を計算した。
図4は、様々な量のmAB 12B.19による受動免疫化後の黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染の経過における生存率をグラフで示す。
図5は、様々な量のmAB 2A3.1による受動免疫化後の黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染の経過における生存率をグラフで示す。
図6は、様々な量のmAB 28F6.1による受動免疫化後の黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染の経過における生存率をグラフで示す。
図7は、様々な量のmAB 10A7.5による受動免疫化後の黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染の経過における生存率をグラフで示す。
【0292】
示される全ての抗AT抗体において、対照と比べて有意な生存の向上が生じ、45mg/kg用量で少なくとも90%の生存につながった(
図4~
図7を参照のこと)。α毒素は、ブドウ球菌性肺炎における主要なビルレンス決定因子であると考えられている。本明細書に提示される結果は、強力な阻害性mAbの受動的投与が疾患予防に妥当な手法であることを示している。まとめると、本明細書に提示される動物試験は、ブドウ球菌性疾患におけるATの役割を裏付け、AT機能を阻害するmAbを使用した疾患の重症度又はさらには黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染に関連する死亡の抑制に裏付けを提供する。
【0293】
感染時における抗AT mAbの細菌数に対する影響をさらに特徴付けるため、完全ヒト型mAb 2A3.1(例えば、2A3hu)をマウスに予防的に送達し、24時間後に約1.3×10
8cfuの黄色ブドウ球菌(S.aureus)USA300株を鼻腔内感染させた。感染後48時間でマウスを安楽死させ、その肺及び腎臓を摘出して処理し、細菌を計数した(
図8A及び
図8Bを参照)。感染後4時間及び24時間でマウスを安楽死させ、試料を採取してサイトカイン産生を計測し(以下に記載する、及び
図9を参照のこと)、及び病理組織学的分析を行った(以下に記載する、及び
図10を参照のこと)。ダネットの事後検定を用いてp値を計算した。細菌計数の代表的な結果を
図8A及び
図8Bに提供する。2A3huの予防的投与により、R347対照と比べて肺(
図8Aを参照)及び腎臓(
図8Bを参照)のいずれにおいても細菌数が有意に減少したことから、AT機能の阻害によって疾患の進行を抑制し、クリアランスを増進させ、また侵入微生物が全身に広がるのを抑制し得ることが示される。
【0294】
さらなる抗体LC10、QD20、QD33、及びQD37もまた肺炎モデルで試験した。これらのモノクローナル抗体を、群あたり10匹のマウスにおいて5mg/kgで腹腔内に(iintraperitoneally)(IP)注射し、24時間後に約2×10
8cfuの黄色ブドウ球菌(S.aureus)USA300株を鼻腔内(IN)感染させた。これらの実験の結果を
図18に示す。ダネットの事後検定を用いてp値を計算した。2A3 mAbをQD37と比較したときのp値はp=0.0072であった;2A3 mAbをLC10と比較したときのp値はp=0.0523であった;2A3 mAbをQD33と比較したときのp値はp=0.0521であった。
【0295】
実施例6:肺炎モデルにおけるATの阻害は炎症誘発性サイトカイン産生を減少させる
黄色ブドウ球菌(S.aureus)肺炎感染は、典型的には炎症誘発性サイトカインの過剰産生を伴い、これは免疫細胞の活性化及び浸潤の増加を引き起こし、最終的にうっ血及び組織壊死の増加を引き起こすと考えられている(Bubeck Wardenburg,J.2007)。黄色ブドウ球菌(S.aureus)AT欠失突然変異体は、マウス肺炎モデルにおいて、そのアイソジェニックな野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)と比べてビルレンスの低下を示すことが明らかにされている。さらに、ATに対する能動及び受動免疫化により、既知の急性肺傷害メディエーターであるIL-1βの発現が低下し、マウスの重症肺炎が予防されたことが実証された(Bubeck Wardenburg,J.2007;Bubeck Wardenburg,J.2008)。これらの結果から、黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染時にATを阻害することにより、炎症誘発性サイトカインの産生を低下させ、ひいては過剰な細胞浸潤を抑制し、最終的に肺炎の症状を減らし、且つ上記で認められたとおりの細菌クリアランスを増強し得ることが示唆される。
【0296】
この仮説を検証するため、マウスを2A3huで受動免疫し、24時間後に約1.3×10
8cfuの黄色ブドウ球菌(S.aureus)USA300株を鼻腔内感染させた。感染後4時間及び24時間でマウスを安楽死させ、肺の半分を固定してヘマトキシリン及びエオシン染色並びに顕微鏡検査用に調製し、一方で他方の側から気管支肺胞洗浄液を収集して処理し、サイトカイン値を決定した。受動免疫化後のサイトカイン産生の代表的な結果を
図9に示す。
図10は、本明細書に記載されるmAbによる受動免疫化の有効性を写真で示す。
【0297】
感染4時間後、サイトカイン値はR347及び2A3hu処置マウスで同程度であったが、しかしながら
図9に示されるとおり、感染後24時間までに、2A3hu処置動物ではIL-6、TNF-α、KC及びIL-1βの値が全て低下した(24時間の時間点における丸で囲んだ結果を参照)。このことから、2A3huの予防的投与により、対照と比べて検出されるサイトカイン値が低下したことが示される。これらのデータは、肺の組織病理学検査の結果により裏付けられ、ここでR347処置マウスは顕著な肺炎症、壊死及び肺胞炎を有し、細菌コロニーの存在を伴った(
図10の左上及び左下の画像を参照のこと)。対照的に、2A3hu処置動物の肺炎症は限定的で、壊死、肺胞炎又は細菌コロニーは認められなかった(
図10の右上及び右下の画像を参照のこと)。肺炎モデルにおける抗AT mAbの防御作用は、局所的な組織損傷を抑制し、且つ細菌クリアランスを促進し得る炎症反応の低下と関連付けられる。
【0298】
実施例7:結合動態及び競合
表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて親和性測定を行い、強力な阻害活性を示したmAbをさらに特徴付けた。精製IgGを、ラット抗マウスIgGを使用してセンサーに捕捉し、種々の濃度のnATを有する溶液にチップを曝露した。会合及び解離速度定数を計測し、それらから結合定数を決定した。以下の表に示すとおり、抗体2A3.1、10A7.5、25E9.1及び12B8.19は、K
D値がそれぞれ601、504、337及び485pMで同様の親和性を有し、一方、28F6.1は13nMのK
D値を示した。K
Dはk
off/k
onとして計算した。
【0299】
SPRを用いて競合実験もまた行った。その結果から、抗体2A3.1、10A7.5、25E9.1及び12B8.19は同じ又は同様のエピトープと結合する可能性があることが示唆される。
【0300】
以下にmAb QD20、LC10、QD33、QD37及び2A3GLについてIC
50及びK
d値を示す。
【0301】
IC50は、0.1mg/mlの黄色ブドウ球菌(S.aureus)α毒素によるRBC溶血アッセイを用いて計算した。
【0302】
実施例8:阻害性mAbはSDS抵抗性ヘプタマーの形成を阻止する
黄色ブドウ球菌(S.aureus)α毒素(AT)は多段階過程で細胞を溶解すると考えられ、この過程では、分泌された可溶性モノマーAT分子が細胞表面受容体に結合するか、又は細胞膜に非特異的に吸着し、オリゴマー化して細胞表面上のヘプタマーの膜孔前駆体になり、立体構造の変化を起こして14本鎖の膜貫通βバレルの形成をもたらし、これが続く標的細胞溶解を媒介する。本明細書に記載されるmAbによる阻害の機構をさらに特徴付けることで、どの段階で阻害性mAbがAT機能を遮断するかを決定した。これらのmAbが、96ウェル組織培養プレートに結合したウサギRBCゴーストとのATの結合を阻止する能力を調べた。96ウェルELISAプレートをRBCゴーストでコーティングし、2%BSAでブロックした。次にゴーストを、nAT+/-20モル過剰の抗AT IgGとインキュベートした。次にnATの結合をウサギ抗AT IgGで検出し、%結合を計算した;%結合=100×[100-(A
490 nAT+mAb)/(A
490 nAT mAb無し)]。20モル濃度のIgG過剰では、
図11に示されるとおり、ウサギRBC膜に対するnATの結合は阻害されなかったことから、受容体結合の段階においてこれらの阻害性mAbは作用していなかったことが示される。
【0303】
細胞膜に加え、AT及び他の膜孔形成毒素は、容易に集合してリポソーム膜に孔を形成することが示されている。最初に、抗AT IgGのATヘプタマー形成に対する効果をリポソームで試験した。
図12に示されるとおり、IgGの存在下でATを10倍モル過剰のリポソーム(脂質:AT、wt:wt)とインキュベートした後、ウエスタンブロット分析によりヘプタマー形成を調べた。次に試料を37℃のSDS-PAGE試料緩衝液に可溶化し、ウエスタンブロット分析によりヘプタマー形成を検出した。SDS抵抗性ヘプタマーの存在は、
図12のレーン6及び7(例えば、それぞれmAb9D7.3及びIgG無しの対照レーン)に示されるゲルの上部に容易に認められた。全ての阻害性mAbでヘプタマー形成がなくなり、一方、関連性のないアイソタイプ対照(例えば、レーン6;9D7.3)は効果を有しなかった。
図13A及び
図13Bに示される代表的なウエスタンブロットに示されるとおり、ウサギRBCゴーストに対するオリゴマー形成アッセイにおいてmAb 2A3.1、10A7.5及び12B8.19を使用してオリゴマー形成活性の阻害を確認した。ATを漸変量のIgGとインキュベートした後、ウサギ赤血球ゴーストとインキュベートし、SDS-PAGEによってヘプタマー形成を検出した。mAb 2A3.1、10A7.5及び12B8.19は、1:1のIgG:毒素の比(モル:モル)であってもATヘプタマー形成を有効に阻害し、mAbレベルの低下に伴うオリゴマー形成阻害効果を力価測定した(
図13A及び
図13Bを参照;0.5:1及び0.25:1のモル比でヘプタマーが出現)。これらの結果から、mAb 2A3.1、10A7.5及び12B8.19がSDS抵抗性ヘプタマー形成を阻害することによってAT媒介性細胞溶解を阻止することが示唆される。
【0304】
実施例9:完全ヒトIgGへの転換
完全ヒトIgGは、ヒトIgG-1の定常ドメインと遺伝的に融合した、本明細書に記載されるキメラmAb由来の重鎖可変ドメイン(V
H)及び軽鎖可変ドメイン(V
L)を含む。キメラmAbの各々に由来するV
H及びV
Lをクローニングし、配列決定して、それぞれヒトIgG-1 V
Hドメイン及びヒトκ定常ドメインと融合した。得られた完全ヒトIgG-1は、関与するヒト可変領域及び目的のmAbの結合特性を維持していることが示された。完全ヒト抗体を発現させ、精製し、その活性をVelocImmuneマウスハイブリドーマから単離したキメラmAbと比較した。完全ヒトmAbは、RBC、A549及びTHP-1細胞溶解の阻害において元のキメラと同程度の力価を示し、但し25E9.1huは例外で、これは元の25E9.1キメラと比べて実質的により強力になった。
図14~
図16は、赤血球細胞(RBC;
図14を参照のこと)、A549細胞(
図15を参照のこと)及びTHP-1細胞(
図16を参照のこと)における、細胞溶解に特徴的なLDH放出の阻害をグラフで示す。ヒト25E9.1 mAb(例えば、25E9.1hu)の力価の増加は、2つの別個の抗AT IgG分子を含んだ元のハイブリドーマにおける混合細胞集団から生じたものであってよく、そのうち一方のみが、nAT機能を阻害した活性を有した可能性がある。従って、元のキメラmAbのモル濃度計算及び活性計測は、直接的な相関を有しないこともあり得る。
【0305】
実施例10:黄色ブドウ球菌(S.aureus)α毒素に特異的に結合する抗体の代表的なアミノ酸及びヌクレオチド配列
【0306】
【0307】
【0308】
【0309】
【0310】
【0311】
【0312】
【0313】
【0314】
【0315】
【0316】
実施例11:抗ブドウ球菌α毒素抗体結合領域のマッピング
α毒素及びLukF-PVの部分から構成されるキメラ変異体を構築して、Fc変異体を含むmAb LC10に対応する抗体(LC10 YTE)が結合するα毒素の断片を同定した。LukF-PVはLC10 YTEによって認識されないが(
図19)、高い構造的類似性(Gouaux,E.,M.Hobaugh,et al.“alpha-Hemolysin,gamma-hemolysin,and leukocidin from Staphylococcus aureus:distant in sequence but similar in structure(黄色ブドウ球菌由来のα溶血素、γ溶血素、及びロイコシジン:配列は遠いが構造は同様である)”Protein Sci 6(12):2631-5(1997);Meesters,C.,A.Brack,et al.“Structural characterization of the alpha-hemolysin monomer from Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌由来のα溶血素モノマーの構造的特徴付け)”Proteins 75(1):118-26(2009))及びα毒素と25%の配列同一性を共有するため(
図20)、キメラパートナーとしてLukF-PVを選択した。50個のα毒素アミノ酸(aa)をその対応するLukF-PV対応物と系統的に置換することにより、一系列のキメラ変異体を構築した。目的の選択50aaセグメント内にあるより短い領域もまた置換した(表11)。ProteOn機器を用いてこれらの変異体に対するLC10 YTEの結合親和性を分析した。変異体に対するLC10 YTEの結合結果を表11に要約する。
【0317】
【0318】
KO_73-81を除いては、全てのキメラコンストラクトを何らかのレベルで発現させることができた(表11)。LC10 YTEは、α毒素のaa101~110(KO_52-110及びKO_101-110)又はaa224~231(KO_204-241、KO_204-231及びKO_224-231)の代わりにLukF-PVをコードする変異体に結合しなかった。aa248~277(KO_248-277)又はそのより大きいセグメントaa248~293(KO_248-293)を置き換えると、LC10 YTEの結合はそれぞれ著しく損なわれるか、又は完全に妨げられた。
【0319】
場合によっては、LC10 YTEとの結合性の明らかな欠如は、誤ったフォールディングを示す個々のα毒素/LukF-PV変異体により説明することができる。全体的に正しいフォールディング能力を欠くことはまた、KO 73-81の発現の明らかな欠如の説明ともなり得る。加えて、α毒素とLukF-PVとの間のアミノ酸配列相同性は、実質的に領域毎に異なる。例えば、α毒素のaa179~193に対応するセグメントは、LukF-PVと67%の同一性を共有するが、配列全体は25%の同一性を共有する。従って、高い配列相同性の領域を取り換えたときにLC10 YTE結合に影響は認められなかったが、これらの領域は、LC10 YTE抗体が結合する別の配列を潜在的に含み得た。
【0320】
上記の突然変異誘発分析の結果は、α毒素の3つの領域aa101~110、aa224~231、及び248~293のいずれかをLukF-PV残基に置換すると、LC10 YTE結合性が損なわれたが、その他のアミノ酸領域を置換しても有意な影響はなかったことを示している。
【0321】
これらの3つの領域は、α毒素の三次元構造における2つの異なる位置に相当する。aa101~110及び224~231に対応するセグメントは空間的に近接しており、β-サンドイッチドメインの片側に局在するが、一方、aa248~277に対応するセグメントは、主に「Rim」ドメインに局在する(Song,L.,M.R.Hobaugh,et al.,“Structure of staphylococcal alpha-hemolysin,a heptameric transmembrane pore(ブドウ球菌α溶血素、ヘプタマー膜貫通孔の構造)”Science 274(5294):1859-66(1996))(
図21)。
【0322】
aa248~277に対応するセグメントは結合に影響を及ぼすことが示され、またaa261~272を含むものとして同定されるX線構造接触残基も含んだ(ここではT263、N264、及びK266が実際の接触残基である)(
図20)。加えて、結晶構造から、aa173~201に対応する別のセグメントが明らかとなった。このセグメントでは、D183、W187、及びN188が実際の接触残基である(
図20)。この特定のセグメントを含んだキメラ変異体(KO_148-205)は、なおLC10 YTEとの良好な結合性を示した。これは、α毒素とLukF-PVとの間におけるこの特定の領域の高い配列相同性(52%の同一性及び63%の類似性)に起因する可能性がある。接触残基の周りのアミノ酸(aa179~193)はさらに高い相同性を共有し(67%の同一性)、一方、対照的に、配列全体はわずか25%の同一性を共有するのみである。
【0323】
突然変異誘発に基づく手法を用いて、LC10 YTEに対する結合に重要なものとしてaa248~277に対応するセグメントを同定した。これを、LC10 YTE/α毒素複合体構造の構造解析によりさらに確認した。構造解析から、aa261~272内に存在するaa248~277断片内の特定の接触残基も明らかとなった。
【0324】
上記に考察したとおり、LC10 YTE mAbの接触残基を決定するX線結晶学実験を行った。精製α毒素(残基1~293)及びLC10 YTE Fabを別個に濃縮した。ほぼ等モル量のこれらのタンパク質を共に混合し、溶液をセファデックス(Sephadex)S75(GE Healthcare)カラムでのゲルろ過クロマトグラフィーに供した。溶離ピークは、互いに結合した双方のタンパク質分子を含んだ。さらなる濃縮及び結晶化により、2.5Åまで回折した結晶が生じた。
【0325】
分子置換法を用いて複合体の構造を解析した。LC10 YTE Fabの鋳型として、相補性決定領域が取り除かれた予め決定されたFab構造(D25)を用いた。α毒素分子の鋳型として、何らかの切断によるヘプタマー複合体(PDB Id.7AHL)に由来するα毒素分子のモノマーを用いた。結晶学的研究に用いたα毒素分子の配列は、配列番号39の配列に対応する。LC10 YTE-α毒素複合体の非対称ユニット毎に2つの複合体を、CCP4プログラムスイートのPhaserプログラムを使用して同定した。CCP4プログラムスイートのRefmacプログラムを使用して構造モデルをさらに精緻化した。特定の結晶学プログラム「O」を用いて手動構築及び反復的モデル改良を実施した。
【0326】
Fabの重鎖及び軽鎖の双方が、α毒素分子と接触していることが分かった(
図22)。特に、結晶学的研究から、重鎖及び軽鎖の双方について以下に対応するα毒素分子内の接触残基が決定された:N177、W179、G180、P181、Y182、D183、D185、S186、W187、N188、P189、V190、Y191及びR200。加えて、軽鎖はT261、T263、N264、K266及びK271で接触を有することが決定された。パラトープは以下のとおり同定された:LC-W32(CDR1)、K50(CDR2)、Y91、A92、N93、Y94、W95(CDR3);HC-D33(CDR1)、T53、A54、D56、Y58(CDR2)、D98、Y100、P102、T103、G104、H105、Y106(CDR3)。
【0327】
結晶解析の構造データを組み込む分子モデリングから、モノマー状態からヘプタマー状態への移行時にα毒素構造のほとんどが変化しないままであったことが明らかとなった。しかしながら、決定的な結合領域(接触残基がT261、T263、N264、K266及びK271として同定されたところ)は、ヘプタマー形成に関与するα毒素分子の一部分に対応することが示された。α毒素分子がモノマー状態のときにコンパクトにフォールディングされているのは、この決定的な領域であり、これはループとして伸長した後宿主細胞膜に挿入され(
図23b)、ヘプタマー状態に集合した後、最終的にキノコ状構造の柄を形成する(
図23a)。ヘプタマー状態ではこの領域は、
図24aに示されるとおり、LC10 YTE抗体分子による結合から遮蔽されていると予想され得る。
【0328】
実施例12:抗ブドウ球菌α毒素抗体の治療効果
上記で考察される結果は、予防に用いられる抗AT mAbの効力を説明する。これらのmAbが治療においても機能し得る可能性を探るため、皮膚壊死モデル及び肺炎モデルの双方において治療状況でのLC10の効力を試験した。皮膚壊死モデルでは、細菌攻撃の24時間前(予防)、及び皮内感染の1時間後、3時間後又は6時間後(治療)にLC10をIV投与した。動物の病変サイズを6日間モニタした。予防(24時間前)及び感染後1時間又は3時間での治療により、陰性対照(R347)と比べて病変サイズが低下した(
図24)。このモデルでLC10を感染6時間後に送達した場合、強力な治療利益は失われた。これらの結果は、LC10がブドウ球菌性皮膚軟組織感染に有効な治療として機能し得ることを示している。
【0329】
肺炎モデルにおいて同様の実験を行い、ここではLC10を予防で、又は鼻腔内感染の1時間後、3時間後若しくは6時間後に、マウスに送達(IV)した。予想どおり、予防的なmAb投与により完全な生存が得られた(
図25)。LC10を感染1時間後、3時間後又は6時間後に投与した場合に完全な生存は得られなかったが、感染1時間後の治療において最大LC10用量で使用した場合、死亡までの時間が陰性対照と比べて有利であった。高い感染量及び急速な死亡発生のモデル要件をふまえると、これらの生存改善は、ヒト感染時の治療的改善が起こり得ることを示している。
【0330】
実施例13:抗α毒素mAb LC-10と組み合わせたバンコマイシンの効力
マウス肺炎モデルにおけるバンコマイシンによる補助療法に用いられる抗α毒素mAb LC 10の潜在能力を評価する試験を、抗α毒素mAb及びバンコマイシンの単剤療法を併用療法と比較することにより実施した。
【0331】
7週齢の雌C57BL/6Jマウスに2e8cfu(LD100)のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)USA300株を鼻腔内感染させた。バンコマイシン及びLC-10をそれぞれ漸変させて最適用量及び準有効用量を決定した。単剤療法又はバンコマイシンとの二剤療法におけるmAbの評価のため、感染1時間後に単一の腹腔内用量のLC-10又は陰性対照抗体R347(15mg/kg)により、マウスを処置した。単剤又は二剤療法におけるバンコマイシン処置は、感染1時間後に開始し、BIDで3日間皮下投与した。7日間の終わりに全ての処置群の生存率を決定した。マンテル・コックス(Mandel-Cox)ログ・ランク検定を用いて生存曲線を分析した。
【0332】
200又は40mg/kg/日のバンコマイシンによる処置により、それぞれ90%及び43%の生存が得られた。感染後の45又は15mg/kgのLC-10による単剤療法では、マウスの50%及び33%が防御された(
図26A及び
図26B)。単一の準有効用量のLC-10(15mg/kg)と40mg/kgのバンコマイシンのBID投与との併用療法では、動物の75%の生存が得られた。90パーセントのマウスが、40mg/kg/日のバンコマイシンと45mg/kgのLC-10との併用により生存した。バンコマイシンによる単剤療法と15mg/kg又は45mg/kgのいずれかのLC-10を伴う併用療法との間の生存の差は、統計的に有意であった(それぞれp=0.026及びp=0.015)。バンコマイシンとLC-10との同時投与はアイソボログラム分析による相乗効果を生じた(
図27)。
【0333】
実施例14:具体的な実施形態の例
以下に特定の実施形態の非限定的な例を提供する。
A1.黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、且つ
(a)配列番号7、10、13又は69と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR1;
(b)配列番号8、11、14、17、70又は75と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR2、及び
(c)配列番号9、12、15、18、16、65、66、67、71、72、76又は78と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR3
を含む単離抗体又はその抗原結合断片。
【0334】
A2.VH CDR1、VH CDR2及びVH CDR3が、配列番号7、8及び9;配列番号10、11及び12;配列番号13、14及び15;配列番号7、17及び18;配列番号7、8及び16;配列番号7、8及び65;配列番号7、8及び66;配列番号7、8、及び67;配列番号7、8及び78;配列番号69、70及び71;配列番号7、8及び72;配列番号69、75及び71;配列番号69、75及び76;又は配列番号69、70及び71により表される、実施形態A1に記載の抗体又は抗原結合断片。
【0335】
A3.単離抗体又はその抗原結合断片であって、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、且つ
(a)配列番号7、10、13又は69のアミノ酸配列を含むVH CDR1;
(b)配列番号8、11、14、17、70又は75のアミノ酸配列を含むVH CDR2;
(c)配列番号9、12、15、18、16、65、66、67、71、72、76又は78のアミノ酸配列を含むVH CDR3;
(d)配列番号1又は4のアミノ酸配列を含むVL CDR1;
(e)配列番号2、5、73又は77のアミノ酸配列を含むVL CDR2;及び
(f)配列番号3、6、64、68又は74のアミノ酸配列を含むVL CDR3
を含む単離抗体又はその抗原結合断片。
【0336】
A4.VH CDR1、VH CDR2、VH CDR3、VL CDR1、VL CDR2及びVL CDR3が、配列番号7、8、9、1、2及び3;配列番号10、11、12、1、2及び3;配列番号13、14、15、4、5及び6;配列番号7、17、18、1、2及び3;配列番号7、8、16、1、2及び64;配列番号7、8、65、1、2及び64;配列番号7、8、66、1、2及び64;配列番号7、8、67、1、2及び68;配列番号7、8、67、1、2及び64;配列番号7、8、78、1、2及び64;配列番号7、8、65、1、2及び68;配列番号69、70、71、1、2及び68;配列番号7、8、72、1、73及び74;配列番号69、75、71、1、2及び68;配列番号69、75、76、1、2及び68;配列番号69、75、76、1、77及び74;配列番号69、70、71、1、77及び74のアミノ酸配列に対応する、実施形態A3に記載の抗体又は抗原結合断片。
【0337】
A5.単離抗体又はその抗原結合断片が、(i)3つのCDRを含むVH鎖ドメインと3つのCDRを含むVL鎖ドメインとを含み;及び(ii)黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、VH鎖ドメインの3つのCDRが、
(a)配列番号7、10、13又は69のアミノ酸配列を含むVH CDR1;
(b)配列番号8、11、14、17、70又は75のアミノ酸配列を含むVH CDR2;及び
(c)配列番号9、12、15、18、16、65、66、67、71、72、76又は78のアミノ酸配列を含むVH CDR3
を含む、実施形態A1に記載の単離抗体又はその抗原結合断片。
【0338】
A6.VH CDR1、VH CDR2及びVH CDR3が、配列番号7、8及び9;配列番号10、11及び12;配列番号13、14及び15;配列番号7、17及び18;配列番号7、8及び16;配列番号7、8及び65;配列番号7、8及び66;配列番号7、8、及び67;配列番号7、8及び78;配列番号69、70及び71;配列番号7、8及び72;配列番号69、75及び71;配列番号69、75及び76;又は配列番号69、70及び71のアミノ酸配列に対応する、実施形態A5に記載の抗体又は抗原結合断片。
【0339】
A7.単離抗体又はその抗原結合断片が、(i)3つのCDRを含むVH鎖ドメインと3つのCDRを含むVL鎖ドメインとを含み;及び(ii)黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、VL鎖ドメインの3つのCDRが、
(a)配列番号1又は4のアミノ酸配列を含むVL CDR1;
(b)配列番号2、5、73又は77のアミノ酸配列を含むVL CDR2;及び
(c)配列番号3、6、64、68又は74のアミノ酸配列を含むVL CDR3
を含む、実施形態A1に記載の単離抗体又はその抗原結合断片。
【0340】
A8.VL CDR1、VL CDR2及びVL CDR3が、配列番号1、2及び3;配列番号4、5及び6;配列番号1、2及び64;配列番号1、2及び68;配列番号1、73及び74;又は配列番号1、77及び74のアミノ酸配列に対応する、実施形態A7に記載の抗体又は抗原結合断片。
【0341】
A9.(i)黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、(ii)配列番号20、22、24、26、28、41、43、45、47、49、51、53、55、57、79、59、61、又は62のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する重鎖可変ドメインを含み、及び(iii)配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する軽鎖可変ドメインを含む単離抗体又はその抗原結合断片。
【0342】
A10.VH及びVLが、配列番号20及び19;配列番号22及び21;配列番号24及び23;配列番号26及び25;配列番号28及び27;配列番号41及び42;配列番号43及び44;配列番号45及び46;配列番号47及び48;配列番号47及び48;配列番号49及び50;配列番号51及び52;配列番号51及び52;配列番号53及び54;配列番号55及び56;配列番号57及び58;配列番号59及び60;配列番号61及び58;配列番号62及び58;配列番号62及び63;配列番号79及び63のアミノ酸配列に対応する、実施形態A9に記載の抗体又は抗原結合断片。
【0343】
A11.単離抗体又はその抗原結合断片であって、配列番号20、22、24、26、28、41、43、45、47、49、51、53、55、57、79、59、61、又は62の重鎖可変ドメインと、配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63の軽鎖可変ドメインとを含む単離抗体又はその抗原結合断片。
【0344】
A12.VH及びVLが、配列番号20及び19;配列番号22及び21;配列番号24及び23;配列番号26及び25;配列番号28及び27;配列番号41及び42;配列番号43及び44;配列番号45及び46;配列番号47及び48;配列番号47及び48;配列番号49及び50;配列番号51及び52;配列番号51及び52;配列番号53及び54;配列番号55及び56;配列番号57及び58;配列番号59及び60;配列番号61及び58;配列番号62及び58;配列番号62及び63;配列番号79及び63のアミノ酸配列に対応する、実施形態A11に記載の抗体又は抗原結合断片。
【0345】
A13.単離抗体又はその抗原結合断片が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、且つ
(a)約13nM以下のα毒素に対する親和性定数(KD);
(b)α毒素モノマーに結合するが、α毒素のα毒素受容体との結合は阻害しない;
(c)α毒素オリゴマーの形成を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、又は95%阻害する;
(d)α毒素細胞溶解活性を(例えば、細胞溶解及び溶血アッセイにより決定されるとき)少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、又は95%低下させる;及び
(e)細胞浸潤及び炎症誘発性サイトカイン放出を(例えば、動物肺炎モデルにおいて)低下させる
からなる群から選択される特性の1つ以上を有する、実施形態A1~A12のいずれか一つに記載の抗体又は抗原結合断片。
【0346】
A14.単離抗体又はその抗原結合断片がさらなる薬剤を含む、実施形態A1~A13のいずれか一つに記載の抗体又は抗原結合断片。
【0347】
A15.さらなる薬剤が抗生物質である、実施形態A14に記載の抗体又は抗原結合断片。
【0348】
A16.単離抗体又はその抗原結合断片が、治療剤にリンカーを介して連結される、実施形態A14に記載の抗体又は抗原結合断片。
【0349】
A17.単離抗体又はその抗原結合断片が診断用薬剤をさらに含む、実施形態A1~A13のいずれか一つに記載の抗体又は抗原結合断片。
【0350】
A18.診断用薬剤が造影剤を含む、実施形態A17に記載の抗体又は抗原結合断片。
【0351】
A19.診断用薬剤が検出可能標識を含む、実施形態A17に記載の抗体又は抗原結合断片。
【0352】
A20.単離抗体又はその抗原結合断片が、診断用薬剤にリンカーを介して連結される、実施形態A17に記載の抗体又は抗原結合断片。
【0353】
A21.黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドが天然の毒素ポリペプチドである、実施形態A1~A20のいずれか一つに記載の抗体又は抗原結合断片。
【0354】
A22.黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドが、配列番号39又は配列番号40のアミノ酸配列を含む、実施形態A1~A20のいずれか一つに記載の抗体又は抗原結合断片。
【0355】
A23.細胞が血液又は肺由来である、実施形態A13に記載の抗体又は抗原結合断片。
【0356】
A24.血液由来の細胞が赤血球細胞である、実施形態A23に記載の抗体又は抗原結合断片。
【0357】
A25.細胞溶解が溶血インビトロアッセイ又は乳酸デヒドロゲナーゼインビトロアッセイにより決定される、実施形態A13、A23及びA24のいずれか一つに記載の抗体又は抗原結合断片。
【0358】
A26.単離抗体又はその抗原結合断片が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、且つ配列番号9、12、15、18、16、65、66、67、71、72、76又は78と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR3を含み、抗体又は抗原結合断片が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドを中和する、実施形態A1~A25のいずれか一つに記載の抗体又は抗原結合断片。
【0359】
A27.単離抗体又はその抗原結合断片が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、且つ配列番号3、6、64、68又は74と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVL CDR3を含み、抗体又は抗原結合断片が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドを中和する、実施形態A1~A26のいずれか一つに記載の抗体又は抗原結合断片。
【0360】
A28.単離抗体又はその抗原結合断片が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、且つ配列番号9、12、15、18、16、65、66、67、71、72、76又は78と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR3を含み、抗体又は抗原結合断片が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドのオリゴマー形成を阻害する、実施形態A1~A27のいずれか一つに記載の抗体又は抗原結合断片。
【0361】
A29.単離抗体又はその抗原結合断片が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、且つ配列番号3、6、64、68又は74と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVL CDR3を含み、抗体又は抗原結合断片が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドのオリゴマー形成を阻害する、実施形態A1~A28のいずれか一つに記載の抗体又は抗原結合断片。
【0362】
A30.オリゴマー形成の阻害が、インビトロ結合及び/又は電気泳動移動度アッセイにより決定される、実施形態A13、A28及びA29のいずれか一つに記載の抗体又は抗原結合断片。
【0363】
D1.実施形態A1~A30のいずれか一つに記載の抗体又は抗原結合断片を含む組成物。
【0364】
B1.(a)実施形態A1~A30のいずれか一つに記載の抗体若しくは抗原結合断片又は実施形態D1に記載の組成物;
(b)組成物の使用説明書又は組成物の使用説明書の入手方法指図書
を含むキット。
【0365】
B2.組成物中の抗体が固体担体に連結されている、実施形態B1に記載のキット。
【0366】
B3.固体担体がビーズである、実施形態B2に記載のキット。
【0367】
B4.ビーズがセファロースビーズである、実施形態B3に記載のキット。
【0368】
B5.使用説明書が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドの単離、精製、検出及び定量化の1つ以上を収録している、実施形態B1~B4のいずれか一つに記載のキット。
【0369】
B6.緩衝液、固体担体又は緩衝液及び固体担体を含む、実施形態B1~B5のいずれか一つに記載のキット。
【0370】
B7.固体担体が、ビーズ、フィルター、膜及びマルチウェルプレートの1つ以上である、実施形態B6に記載のキット。
【0371】
B8.ウエスタンブロットに好適な緩衝液及び膜を含む、実施形態B6に記載のキット。
【0372】
B9.負荷緩衝液と溶出緩衝液とを含む、実施形態B6に記載のキット。
【0373】
B10.酵素結合免疫吸着(enzyme-linked immunosorbant)アッセイ(ELISA)に好適な緩衝液を含む、実施形態B6に記載のキット。
【0374】
C1.対象における肺炎の予防、治療又は管理方法であって、
実施形態A1~A30のいずれか一つに記載の抗体若しくは抗原結合断片又は実施形態D1に記載の組成物を、それを必要とする対象に対し、肺炎を予防、治療又は管理するのに有効な量で投与するステップ
を含む方法。
【0375】
C2.肺炎の予防方法である、実施形態C1に記載の方法。
【0376】
C3.抗体又はその抗原結合断片が、配列番号39内の立体構造エピトープに免疫特異的に結合する、実施形態C1又はC2に記載の方法。
【0377】
C4.対象における皮膚感染病態の予防、治療又は管理方法であって、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を、それを必要とする対象に対し、皮膚感染病態を予防、治療又は管理するのに有効な量で投与するステップを含む方法。
【0378】
C5.皮膚感染病態が皮膚壊死である、実施形態C4に記載の方法。
【0379】
C6.皮膚感染病態が、皮膚の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染を含む、実施形態C4又はC5に記載の方法。
【0380】
C7.皮膚感染病態の予防方法である、実施形態C4~C6のいずれか一つに記載の方法。
【0381】
C8.黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染に関連する病態の予防、治療又は管理方法であって、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を、それを必要とする対象に対し、毒素ポリペプチドのオリゴマー形成を低減するのに有効な量で投与するステップを含む方法。
【0382】
C9.黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染に関連する病態の予防方法である、実施形態C8に記載の方法。
【0383】
C10.黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染に関連する病態の予防、治療又は管理方法であって、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を、それを必要とする対象に対し、赤血球の溶解を低減するのに有効な量で投与するステップを含む方法。
【0384】
C11.黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染に関連する病態の予防方法である、実施形態C10に記載の方法。
【0385】
C12.赤血球が血液又は肺由来の細胞である、実施形態C10又はC11に記載の方法。
【0386】
C13.抗体又はその抗原結合断片が、
(a)約13nM以下のα毒素に対する親和性定数(KD);
(b)α毒素モノマーに結合するが、α毒素のα毒素受容体との結合は阻害しない;
(c)α毒素オリゴマーの形成を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、又は95%阻害する;
(d)α毒素細胞溶解活性を(例えば、細胞溶解及び溶血アッセイにより決定されるとき)少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、又は95%低下させる;及び (e)細胞浸潤及び炎症誘発性サイトカイン放出を(例えば、動物肺炎モデルにおいて)低下させる
からなる群から選択される特性の1つ以上を有する、実施形態C4~C12のいずれか一つに記載の方法。
【0387】
C14.抗体又はその抗原結合断片が、配列番号39内の立体構造エピトープに免疫特異的に結合する、実施形態C13に記載の方法。
【0388】
C15.対象に投与される抗体若しくは抗原結合断片又は組成物が、実施形態A1~A30又はD1のいずれか一つに従う、実施形態C1~C14のいずれか一つに記載の方法。
【0389】
C16.実施形態A1~A30のいずれか一つに記載の抗体若しくは抗原結合断片又は実施形態D1に記載の組成物を細胞に投与するステップ;及び
細胞への組成物の投与に関連する生物学的作用の存在、非存在又は量を検出するステップ
を含む方法。
【0390】
C17.実施形態A1~A30のいずれか一つに記載の抗体若しくは抗原結合断片又は実施形態D1に記載の組成物を対象に投与するステップ;及び
組成物の投与に関連する対象における生物学的作用の存在、非存在又は量を検出するステップ
を含む方法。
【0391】
C18.実施形態A1~A30のいずれか一つに記載の抗体若しくは抗原結合断片又は実施形態D1に記載の組成物を対象に投与するステップ;及び
対象の状態をモニタするステップ
を含む方法。
【0392】
C19.黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドの中和方法であって、それを必要とする対象に対し、有効量の実施形態A1~A30のいずれか一つに記載の抗体若しくは抗原結合断片又は実施形態D1に記載の組成物を投与して毒素ポリペプチドを中和することによる、方法。
【0393】
C20.必要とする対象において黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素によって媒介される病態を予防、治療、又は管理する方法であって、有効量の実施形態A1~A30のいずれか一つに記載の抗体若しくは抗原結合断片又は実施形態D1に記載の組成物を対象に投与して病態を予防、治療又は管理するステップを含む方法。
【0394】
C21.必要とする対象において黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素によって媒介される障害の症状を治療、予防又は緩和する方法であって、有効量の実施形態A1~A30のいずれか一つに記載の抗体若しくは抗原結合断片又は実施形態D1に記載の組成物を対象に投与して症状を治療、予防又は緩和するステップを含む方法。
【0395】
C22.対象において黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素によって媒介される病態を診断する方法であって、診断を必要とする対象を選択するステップと、診断上有効な用量の実施形態A1~A30のいずれか一つに記載の抗体若しくは抗原結合断片又は実施形態D1に記載の組成物を対象に投与するステップとを含む方法。
【0396】
C23.対象が家畜である、実施形態C1~C22のいずれか一つに記載の方法。
【0397】
C24.対象がヒトである、実施形態C1~C22のいずれか一つに記載の方法。
【0398】
C25.実施形態A1~A30のいずれか一つに記載の抗体若しくは抗原結合断片又は実施形態D1に記載の組成物により黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素オリゴマーの形成を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%又は95%阻害する方法。
【0399】
C26.黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素オリゴマーの形成の阻害が、活性な膜孔形成複合体の形成を阻害する、C25に記載の方法。
【0400】
C27.実施形態A1~A30のいずれか一つに記載の抗体若しくは抗原結合断片又は実施形態D1に記載の組成物により黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素細胞溶解活性を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、又は95%低下させる方法であって、細胞溶解活性が細胞溶解及び/又は溶血アッセイにより決定される、方法。
【0401】
本明細書によってここに参照される各特許、特許出願、刊行物及び資料の全体が、参照によって援用される。上記の特許、特許出願、刊行物及び資料の引用は、前述のいずれかが関連する先行技術であることを認めるものではなく、またそれらの刊行物又は資料の内容又は日付に関していかなる承認をなすものでもない。
【0402】
上記に対し、本明細書の基本的な態様から逸脱することなく改変を加えることができる。本技術は1つ以上の具体的な実施形態を参照して実質上詳細に記載されているが、当業者は、本願に具体的に開示される実施形態に変更を加えてもよく、しかしなお、それらの改変及び改良が本技術の範囲及び趣旨の範囲内にあることを認識するであろう。
【0403】
本明細書に例示的に記載される本技術は、好適には、本明細書に具体的に開示されない要素は一切なしに実施され得る。従って、例えば、本明細書の各例において、用語「~を含む(comprising)」、「~から本質的になる(consisting essentially of)」及び「~からなる(consisting of)」のいずれも他の2つの用語に置き換え得る。用いられている用語及び表現は、限定ではなく、説明の用語として使用され、かかる用語及び表現の使用は、図示及び説明される特徴又はその一部のいかなる均等物も排除するものではなく、特許請求される本技術の範囲内で様々な改変が可能である。用語「a」又は「an」は、要素の1つ又は要素の2つ以上のいずれが記載されているのかが文脈上明らかでない限り、それが修飾する要素の1つ又は複数を指すことができる(例えば、「試薬(a reagent)」は1つ以上の試薬を意味し得る)。本技術は代表的な実施形態及び任意選択の特徴によって具体的に開示されているが、本明細書に開示される概念の改変及び変形が当業者によって用いられ得ること、且つかかる改変及び変形が本技術の範囲内にあると見なされることは理解されなければならない。
【0404】
本明細書における特定の実施形態は、以下の特許請求の範囲に記載される。
また本開示は以下の実施形態を包含する。
[1] 精製/単離抗体又は抗体の断片であって、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、且つ
(a)配列番号7、10、13又は69と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR1;
(b)配列番号8、11、14、17、70又は75と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR2、及び
(c)配列番号9、12、15、18、16、65、66、67、71、72、76又は78と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR3
を含む抗体又は断片。
[2] 前記VH CDR1、VH CDR2及びVH CDR3が、配列番号7、8及び9;配列番号10、11及び12;配列番号13、14及び15;配列番号7、17及び18;配列番号7、8及び16;配列番号7、8及び65;配列番号7、8及び66;配列番号7、8、及び67;配列番号7、8及び78;配列番号69、70及び71;配列番号7、8及び72;配列番号69、75及び71;配列番号69、75及び76;又は配列番号69、70及び71により表される、実施形態1に記載の抗体又は抗原結合断片。
[3] 単離抗体又はその抗原結合断片であって、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、且つ
(a)配列番号7、10、13又は69のアミノ酸配列を含むVH CDR1;
(b)配列番号8、11、14、17、70又は75のアミノ酸配列を含むVH CDR2;
(c)配列番号9、12、15、18、16、65、66、67、71、72、76又は78のアミノ酸配列を含むVH CDR3;
(d)配列番号1又は4のアミノ酸配列を含むVL CDR1;
(e)配列番号2、5、73又は77のアミノ酸配列を含むVL CDR2;及び
(f)配列番号3、6、64、68又は74のアミノ酸配列を含むVL CDR3
を含む単離抗体又はその抗原結合断片。
[4] 前記VH CDR1、VH CDR2、VH CDR3、VL CDR1、VL CDR2及びVL CDR3が、配列番号7、8、9、1、2及び3;配列番号10、11、12、1、2及び3;配列番号13、14、15、4、5及び6;配列番号7、17、18、1、2及び3;配列番号7、8、16、1、2及び64;配列番号7、8、65、1、2及び64;配列番号7、8、66、1、2及び64;配列番号7、8、67、1、2及び68;配列番号7、8、67、1、2及び64;配列番号7、8、78、1、2及び64;配列番号7、8、65、1、2及び68;配列番号69、70、71、1、2及び68;配列番号7、8、72、1、73及び74;配列番号69、75、71、1、2及び68;配列番号69、75、76、1、2及び68;配列番号69、75、76、1、77及び74;配列番号69、70、71、1、77及び74のアミノ酸配列に対応する、実施形態3に記載の抗体又は抗原結合断片。
[5] 前記単離抗体又はその抗原結合断片が、(i)3つのCDRを含むVH鎖ドメインと3つのCDRを含むVL鎖ドメインとを含み;及び(ii)黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、前記VH鎖ドメインの前記3つのCDRが、
(a)配列番号7、10、13又は69のアミノ酸配列を含むVH CDR1;
(b)配列番号8、11、14、17、70又は75のアミノ酸配列を含むVH CDR2;及び
(c)配列番号9、12、15、18、16、65、66、67、71、72、76又は78のアミノ酸配列を含むVH CDR3
を含む、実施形態1に記載の単離抗体又はその抗原結合断片。
[6] 前記VH CDR1、VH CDR2及びVH CDR3が、配列番号7、8及び9;配列番号10、11及び12;配列番号13、14及び15;配列番号7、17及び18;配列番号7、8及び16;配列番号7、8及び65;配列番号7、8及び66;配列番号7、8、及び67;配列番号7、8及び78;配列番号69、70及び71;配列番号7、8及び72;配列番号69、75及び71;配列番号69、75及び76;又は配列番号69、70及び71のアミノ酸配列に対応する、実施形態5に記載の抗体又は抗原結合断片。
[7] 前記単離抗体又はその抗原結合断片が、(i)3つのCDRを含むVH鎖ドメインと3つのCDRを含むVL鎖ドメインとを含み;及び(ii)黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、前記VL鎖ドメインの前記3つのCDRが、
(a)配列番号1又は4のアミノ酸配列を含むVL CDR1;
(b)配列番号2、5、73又は77のアミノ酸配列を含むVL CDR2;及び
(c)配列番号3、6、64、68又は74のアミノ酸配列を含むVL CDR3
を含む、実施形態1に記載の単離抗体又はその抗原結合断片。
[8] 前記VL CDR1、VL CDR2及びVL CDR3が、配列番号1、2及び3;配列番号4、5及び6;配列番号1、2及び64;配列番号1、2及び68;配列番号1、73及び74;又は配列番号1、77及び74のアミノ酸配列に対応する、実施形態7に記載の抗体又は抗原結合断片。
[9] (i)黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、(ii)配列番号20、22、24、26、28、41、43、45、47、49、51、53、55、57、79、59、61、又は62のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する重鎖可変ドメインを含み、及び(iii)配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する軽鎖可変ドメインを含む単離抗体又はその抗原結合断片。
[10] 前記VH及びVLが、配列番号20及び19;配列番号22及び21;配列番号24及び23;配列番号26及び25;配列番号28及び27;配列番号41及び42;配列番号43及び44;配列番号45及び46;配列番号47及び48;配列番号47及び48;配列番号49及び50;配列番号51及び52;配列番号51及び52;配列番号53及び54;配列番号55及び56;配列番号57及び58;配列番号59及び60;配列番号61及び58;配列番号62及び58;配列番号62及び63;配列番号79及び63のアミノ酸配列に対応する、実施形態9に記載の抗体又は抗原結合断片。
[11] 単離抗体又はその抗原結合断片であって、配列番号20、22、24、26、28、41、43、45、47、49、51、53、55、57、79、59、61、又は62の重鎖可変ドメインと、配列番号19、21、23、25、27、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は63の軽鎖可変ドメインとを含む単離抗体又はその抗原結合断片。
[12] 前記VH及びVLが、配列番号20及び19;配列番号22及び21;配列番号24及び23;配列番号26及び25;配列番号28及び27;配列番号41及び42;配列番号43及び44;配列番号45及び46;配列番号47及び48;配列番号47及び48;配列番号49及び50;配列番号51及び52;配列番号51及び52;配列番号53及び54;配列番号55及び56;配列番号57及び58;配列番号59及び60;配列番号61及び58;配列番号62及び58;配列番号62及び63;配列番号79及び63のアミノ酸配列に対応する、実施形態11に記載の抗体又は抗原結合断片。
[13] 前記単離抗体又はその抗原結合断片が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、且つ
(a)約13nM以下のα毒素に対する親和性定数(KD);
(b)α毒素モノマーに結合するが、α毒素のα毒素受容体との結合は阻害しない;
(c)α毒素オリゴマーの形成を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、又は95%阻害する;
(d)α毒素細胞溶解活性を(例えば、細胞溶解及び溶血アッセイにより決定されるとき)少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、又は95%低下させる;及び (e)細胞浸潤及び炎症誘発性サイトカイン放出を(例えば、動物肺炎モデルにおいて)低下させる
からなる群から選択される特性の1つ以上を有する、実施形態1~12のいずれかに記載の抗体又は抗原結合断片。
[14] 前記単離抗体又はその抗原結合断片がさらなる薬剤を含む、実施形態1~13のいずれかに記載の抗体又は抗原結合断片。
[15] 前記さらなる薬剤が抗生物質である、実施形態14に記載の抗体又は抗原結合断片。
[16] 前記単離抗体又はその抗原結合断片が、前記治療剤にリンカーを介して連結される、実施形態14に記載の抗体又は抗原結合断片。
[17] 前記単離抗体又はその抗原結合断片が診断用薬剤をさらに含む、実施形態1~13のいずれかに記載の抗体又は抗原結合断片。
[18] 前記診断用薬剤が造影剤を含む、実施形態17に記載の抗体又は抗原結合断片。
[19] 前記診断用薬剤が検出可能標識を含む、実施形態17に記載の抗体又は抗原結合断片。
[20] 前記単離抗体又はその抗原結合断片が、前記診断用薬剤にリンカーを介して連結される、実施形態17に記載の抗体又は抗原結合断片。
[21] 前記黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドが天然の毒素ポリペプチドである、実施形態1~20のいずれかに記載の抗体又は抗原結合断片。
[22] 前記黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドが、配列番号39又は配列番号40のアミノ酸配列を含む、実施形態1~20のいずれかに記載の抗体又は抗原結合断片。
[23] 前記細胞が血液又は肺由来である、実施形態A13に記載の抗体又は抗原結合断片。
[24] 前記血液由来の細胞が赤血球細胞である、実施形態23に記載の抗体又は抗原結合断片。
[25] 前記細胞溶解が溶血インビトロアッセイ又は乳酸デヒドロゲナーゼインビトロアッセイにより決定される、実施形態13、23又は24のいずれかに記載の抗体又は抗原結合断片。
[26] 前記単離抗体又はその抗原結合断片が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、且つ配列番号9、12、15、18、16、65、66、67、71、72、76又は78と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR3を含み、前記抗体又は抗原結合断片が、前記黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドを中和する、実施形態1~25のいずれかに記載の抗体又は抗原結合断片。
[27] 前記単離抗体又はその抗原結合断片が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、且つ配列番号3、6、64、68又は74と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVL CDR3を含み、前記抗体又は抗原結合断片が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドを中和する、実施形態1~26のいずれかに記載の抗体又は抗原結合断片。
[28] 前記単離抗体又はその抗原結合断片が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、且つ配列番号9、12、15、18、16、65、66、67、71、72、76又は78と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVH CDR3を含み、前記抗体又は抗原結合断片が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドのオリゴマー形成を阻害する、実施形態1~27のいずれかに記載の抗体又は抗原結合断片。
[29] 前記単離抗体又はその抗原結合断片が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合し、且つ配列番号3、6、64、68又は74と同一の、又はそれと比べて1、2、又は3個のアミノ酸残基置換を含むアミノ酸配列を含むVL CDR3を含み、前記抗体又は抗原結合断片が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドのオリゴマー形成を阻害する、実施形態1~28のいずれかに記載の抗体又は抗原結合断片。
[30] 前記オリゴマー形成の阻害が、インビトロ結合及び/又は電気泳動移動度アッセイにより決定される、実施形態13、28又は29のいずれかに記載の抗体又は抗原結合断片。
[31] 実施形態1~30のいずれかに記載の抗体又は抗原結合断片を含む組成物。
[32] (a)実施形態1~30のいずれかに記載の抗体若しくは抗原結合断片又は実施形態31に記載の組成物;
(b)前記組成物の使用説明書又は前記組成物の使用説明書の入手方法指図書
を含むキット。
[33] 前記組成物中の前記抗体が、固体担体に連結されている、実施形態32に記載のキット。
[34] 前記固体担体がビーズである、実施形態33に記載のキット。
[35] 前記ビーズがセファロースビーズである、実施形態34に記載のキット。
[36] 前記使用説明書が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドの単離、精製、検出及び定量化の1つ以上を収録している、実施形態32~35のいずれかに記載のキット。
[37] 緩衝液、固体担体又は緩衝液及び固体担体を含む、実施形態32~36のいずれかに記載のキット。
[38] 前記固体担体が、ビーズ、フィルター、膜及びマルチウォールプレート(multiwall plate)の1つ以上である、実施形態37に記載のキット。
[39] ウエスタンブロットに好適な緩衝液及び膜を含む、実施形態37に記載のキット。
[40] 負荷緩衝液と溶出緩衝液とを含む、実施形態37に記載のキット。
[41] 酵素結合免疫吸着(enzyme-linked immunosorbant)アッセイ(ELISA)に好適な緩衝液を含む、実施形態37に記載のキット。
[42] 対象における肺炎の予防、治療又は管理方法であって、
実施形態1~30のいずれかに記載の抗体若しくは抗原結合断片又は実施形態31に記載の組成物を、それを必要とする対象に対し、肺炎を予防、治療又は管理するのに有効な量で投与するステップ
を含む方法。
[43] 肺炎の予防方法である、実施形態42に記載の方法。
[44] 前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号39内の立体構造エピトープに免疫特異的に結合する、実施形態42又は43に記載の方法。
[45] 対象における皮膚感染病態の予防、治療又は管理方法であって、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を、それを必要とする対象に対し、皮膚感染病態を予防、治療又は管理するのに有効な量で投与するステップを含む方法。
[46] 前記皮膚感染病態が皮膚壊死である、実施形態45に記載の方法。
[47] 前記皮膚感染病態が、皮膚の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染を含む、実施形態45又は46に記載の方法。
[48] 皮膚感染病態の予防方法である、実施形態45~47のいずれかに記載の方法。
[49] 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染に関連する病態の予防、治療又は管理方法であって、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を、それを必要とする対象に対し、毒素ポリペプチドのオリゴマー形成を低減するのに有効な量で投与するステップを含む方法。
[50] 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染に関連する病態の予防方法である、実施形態49に記載の方法。
[51] 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染に関連する病態の予防、治療又は管理方法であって、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドに免疫特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を、それを必要とする対象に対し、赤血球の溶解を低減するのに有効な量で投与するステップを含む方法。
[52] 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染に関連する病態の予防方法である、実施形態51に記載の方法。
[53] 前記赤血球が血液又は肺由来の細胞である、実施形態51又は52に記載の方法。
[54] 前記抗体又はその抗原結合断片が、
(a)約13nM以下のα毒素に対する親和性定数(KD);
(b)α毒素モノマーに結合するが、α毒素のα毒素受容体との結合は阻害しない;
(c)α毒素オリゴマーの形成を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、又は95%阻害する;
(d)α毒素細胞溶解活性を(例えば、細胞溶解及び溶血アッセイにより決定されるとき)少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、又は95%低下させる;及び (e)細胞浸潤及び炎症誘発性サイトカイン放出を(例えば、動物肺炎モデルにおいて)低下させる
からなる群から選択される特性の1つ以上を有する、実施形態45~53のいずれかに記載の方法。
[55] 前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号39内の立体構造エピトープに免疫特異的に結合する、実施形態54に記載の方法。
[56] 前記対象に投与される前記抗体若しくは抗原結合断片又は組成物が、実施形態1~30のいずれか又は実施形態31に記載の組成物に従う、実施形態42~55のいずれかに記載の方法。
[57] 実施形態1~30のいずれかに記載の抗体若しくは抗原結合断片又は実施形態31に記載の組成物を細胞に投与するステップ;及び
前記細胞への前記組成物の投与に関連する生物学的作用の存在、非存在又は量を検出するステップ
を含む方法。
[58] 実施形態1~30のいずれかに記載の抗体若しくは抗原結合断片又は実施形態31に記載の組成物を対象に投与するステップ;及び
前記組成物の投与に関連する前記対象における生物学的作用の存在、非存在又は量を検出するステップ
を含む方法。
[59] 実施形態1~30のいずれかに記載の抗体若しくは抗原結合断片又は実施形態31に記載の組成物を対象に投与するステップ;及び
前記対象の状態をモニタするステップ
を含む方法。
[60] 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素ポリペプチドの中和方法であって、それを必要とする対象に対し、有効量の実施形態1~30のいずれかに記載の抗体若しくは抗原結合断片又は実施形態31に記載の組成物を投与して前記毒素ポリペプチドを中和することによる、方法。
[61] 必要とする対象において黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素によって媒介される病態を予防、治療、又は管理する方法であって、有効量の実施形態1~30のいずれかに記載の抗体若しくは抗原結合断片又は実施形態31に記載の組成物を前記対象に投与して前記病態を予防、治療又は管理するステップを含む方法。
[62] 必要とする対象において黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素によって媒介される障害の症状を治療、予防又は緩和する方法であって、有効量の実施形態1~30のいずれかに記載の抗体若しくは抗原結合断片又は実施形態31に記載の組成物を前記対象に投与して前記症状を治療、予防又は緩和するステップを含む方法。
[63] 対象において黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素によって媒介される病態を診断する方法であって、診断を必要とする対象を選択するステップと、診断上有効な用量の実施形態1~30のいずれかに記載の抗体若しくは抗原結合断片又は実施形態31に記載の組成物を前記対象に投与するステップとを含む方法。
[64] 前記対象が家畜である、実施形態42~63のいずれかに記載の方法。
[65] 前記対象がヒトである、実施形態42~63のいずれかに記載の方法。
[66] 実施形態1~30のいずれかに記載の抗体若しくは抗原結合断片又は実施形態31に記載の組成物により黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素オリゴマーの形成を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%又は95%阻害する方法。
[67] 前記黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素オリゴマーの形成の阻害が、活性な膜孔形成複合体の形成を阻害する、実施形態66に記載の方法。
[68] 実施形態1~30のいずれかに記載の抗体若しくは抗原結合断片又は実施形態31に記載の組成物により黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素細胞溶解活性を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、又は95%低下させる方法であって、前記細胞溶解活性が細胞溶解及び/又は溶血アッセイにより決定される、方法。
[69] 配列番号39の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素の断片に免疫特異的に結合する単離抗体又はその抗原結合断片。
[70] 前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号39のアミノ酸261~272を含む断片に結合する、実施形態69に記載の単離抗体又は抗原結合断片。
[71] 前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号39の残基T261、T263、N264、K266及びK271と接触する、実施形態69又は70に記載の単離抗体又は抗原結合断片。
[72] 前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号39のアミノ酸173~201を含む断片に結合する、実施形態69又は70に記載の単離抗体又はその抗原結合断片。
[73] 前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号39の残基N177、W179、G180、P181、Y182、D183、D185、S186、W187、N188、P189、V190、Y191及びR200と接触する、実施形態69又は72に記載の単離抗体又はその抗原結合断片。
[74] 前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号39の残基T261、T263、N264、K266、K271、N177、W179、G180、P181、Y182、D183、D185、S186、W187、N188、P189、V190、Y191及びR200と接触する、実施形態69~73のいずれかに記載の単離抗体又はその抗原結合断片。
[75] 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素の断片に免疫特異的に結合する単離抗体又はその抗原結合断片であって、配列番号39のアミノ酸248~277を含む断片に結合する抗体又はその抗原結合断片。
[76] 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素と免疫特異的に結合する単離抗体又はその抗原結合断片であって、前記抗体又はその抗原結合断片がα毒素のヘプタマー形成を阻止し、及び前記抗体又は抗原結合断片が、配列番号39のT261、T263、N264、K266、K271、N177、W179、G180、P181、Y182、D183、D185、S186、W187、N188、P189、V190、Y191及びR200からなる群から選択される1つ以上の残基と接触する、単離抗体又はその抗原結合断片。
[77] 肺炎の治療方法である、実施形態42に記載の方法。
[78] 皮膚感染病態の治療方法である、実施形態45~47のいずれかに記載の方法。
[79] 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染に関連する病態の治療方法である、実施形態49に記載の方法。
[80] 前記抗生物質がバンコマイシンである、実施形態15に記載の抗体又は抗原結合断片。
[81] α毒素オリゴマーの形成を阻害する方法であって、α毒素モノマーを、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α毒素と免疫特異的に結合する単離抗体又はその抗原結合断片に接触させるステップを含む方法において、前記抗体又は抗原結合断片が、配列番号39のT261、T263、N264、K266、K271、N177、W179、G180、P181、Y182、D183、D185、S186、W187、N188、P189、V190、Y191及びR200からなる群から選択される1つ以上の残基と接触する。
[82] 前記抗体又はその抗原結合断片が、T261、T263、N264、K266及びK271と接触する、実施形態81に記載の方法。
[83] 前記抗体又はその抗原結合断片が、N177、W179、G180、P181、Y182、D183、D185、S186、W187、N188、P189、V190、Y191及びR200とさらに接触する、実施形態82に記載の方法。
[84] Fc変異領域を有する単離抗体又はその抗原結合断片であって、配列番号XX及び配列番号YYを含む単離抗体。
【配列表】