(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】生分解性高分子微粒子の製造方法及びそれにより製造される生分解性高分子微粒子
(51)【国際特許分類】
C08J 3/16 20060101AFI20220328BHJP
C08J 9/26 20060101ALI20220328BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20220328BHJP
A61L 27/56 20060101ALI20220328BHJP
A61L 27/18 20060101ALN20220328BHJP
【FI】
C08J3/16 CFD
C08J9/26 102
A61L27/50
A61L27/56
A61L27/18
(21)【出願番号】P 2020504140
(86)(22)【出願日】2018-07-25
(86)【国際出願番号】 KR2018008411
(87)【国際公開番号】W WO2019022502
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2020-03-02
(31)【優先権主張番号】10-2017-0095425
(32)【優先日】2017-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521274533
【氏名又は名称】サムヤン ホールディングス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】SAMYANG HOLDINGS CORPORATION
【住所又は居所原語表記】31,Jong-ro 33-gil,Jongno-gu,Seoul,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジンス
(72)【発明者】
【氏名】シン,ワンス
(72)【発明者】
【氏名】パク,ナジョン
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-531303(JP,A)
【文献】国際公開第2004/019982(WO,A1)
【文献】特開2016-204491(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102861345(CN,A)
【文献】国際公開第2012/105140(WO,A1)
【文献】特開2007-145826(JP,A)
【文献】国際公開第2017/065428(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0075618(KR,A)
【文献】MA,G. et al,Preparation of Uniform poly(lactide) Microspheres by Employing the Shirasu Porous Glass (SPG) Emulsification Technique,Colloids and Surfaces A: Physiochemical and Engineering Aspects,vol.153,1999年,pages383-394
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J3/00-3/28、99/00、C08J9/00-9/42、
A61L27/18、27/50、27/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)生分解性高分子、及び多孔性微粒子を形成するポロゲン(porogen)を有機溶媒に溶解して、分散相を形成する工程;
2)工程1)で形成された分散相に圧力を加え、分散相にSPG膜(シラス多孔質ガラス膜)の気孔を通過させ、界面活性剤を含む連続相内でエマルションを形成する工程;及び、
3)工程2)で形成されたエマルションから有機溶媒を除去して、多孔性生分解性高分子微粒子を形成する工程を含み、
生分解性高分子が、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(カプロラクトン)、これらの誘導体及びこれらの共重合体からなる群から選ばれる1種以上であり、
前記SPG膜が、10~30μm範囲の気孔を有し、
多孔性生分解性高分子微粒子が、以下の特性i)~iii)を満たす、
組織修復用の高分子フィラーを製造するための多孔性生分解性高分子微粒子の製造方法:
i)球状(spherical);
ii)粒径20~80μm;
iii)多孔率5~50%。
【請求項2】
前記多孔性生分解性高分子微粒子が、以下の特性iv)を満たす請求項1に記載の多孔性生分解性高分子微粒子の製造方法:
iv)気孔径0.1~20μm。
【請求項3】
前記多孔性生分解性高分子微粒子が、20μmより大きいd
10、100μmより小さいd
90を有する請求項1に記載の多孔性生分解性高分子微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記多孔性生分解性高分子微粒子が、1より小さいスパン値を有する請求項1に記載の多孔性生分解性高分子微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記分散相に加えられる圧力が、0.1~10kPa範囲である請求項1に記載の多孔性生分解性高分子微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記界面活性剤の濃度が、0.5~5重量%範囲である請求項1に記載の多孔性生分解性高分子微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記分散相に溶解する前記生分解性高分子の濃度が、5~20重量%範囲である請求項1に記載の多孔性生分解性高分子微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記連続相が100~500rpm範囲の速度で撹拌される請求項1に記載の多孔性生分解性高分子微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記生分解性高分子が、10,000~1,000,000g/molの範囲の数平均分子量(Mn)を有する請求項1に記載の多孔性生分解性高分子微粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の方法により多孔性生分解性高分子微粒子を製造する工程;及び
多孔性生分解性高分子微粒子を一つ以上の生体適合性キャリアと混合する工程;
を含む高分子フィラーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性高分子微粒子の製造に関し、より具体的には、生分解性高分子微粒子、特に、生分解性高分子の多孔性微粒子を製造する方法及びそれにより製造される生分解性高分子微粒子、特に、生分解性高分子の多孔性微粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生分解性高分子微粒子は、生体内で分解される性質を有しており、その性質を利用することで、成形外科用フィラーのような体内インプラントやDDS(Drug Delivery System)分野で薬物送達用キャリアとして広く使用されている。最近、成形外科用フィラー市場では第4世代フィラーである生分解性高分子フィラーが注目されている。ポリ乳酸やポリカプロラクトンなどの生分解性高分子は、微粒子の形で製造され、生分解性高分子の分解によって生成されたしわを修復する組織修復用材料として使用されている。
【0003】
生分解性高分子フィラーの原料として使用するための微粒子は、少なくとも20μmの直径を有することが好ましい。これは、生体に存在するマクロファージの貪食作用を避けるためである。直径が20μmより小さい場合、微粒子は、マクロファージに取り込まれ、コラーゲンを生成する前に分解される。直径が20μm以上のとき、微粒子はマクロファージの貪食作用を回避しながら、生体内での異物反応を引き起こし、コラーゲン生成を促進する可能性がある。反面、直径が50μmより大きいとき、注射針を通過できず、針の詰まりが発生する可能性がある。さらに、微粒子が無定形の場合、微粒子同士が凝集し、注射針の詰まりが引き起こされる可能性がある。従って、成形外科用フィラーの原料として使用される生分解性高分子微粒子は、球状であり、大きさが20~50μmであることが好ましい。現在市場で入手可能な生分解性高分子フィラーは、全て多孔性であり、微粒子の分散維持のための担体と混合され、バイアル又はプレフィルドシリンジ形態で販売されている。ヒアルロン酸系フィラーとは異なり、生分解性高分子充填剤は、外科処置直後の短時間でのキャリアの吸収によりボリュームが減少し、共に注入された生分解性高分子のボリュームのみが残るという短所がある。
【0004】
特許文献1は、注射注入が容易な多孔性微粒子フィラーシステムに関する。しかし、それにより製造された微粒子は、100~5,000μmの範囲の粒径を有することを特徴とするため、顔面適用のためのフィラーとして使用できず、微粒子の表面は滑らかではない。特許文献2は、多孔性微粒子状態の組織修復用生分解性高分子を含むフィラーとして使用するための注射剤の製造方法及びその装置を開示している。しかし、それにより製造された粒子のサイズが均一ではなく、粒子の形状は球状でない無定形である。
【0005】
生分解性高分子微粒子を製造する方法では、W/O/WとO/W/Oエマルションを製造し、それらの物理化学的な性質を利用することが一般的であり、ホモジナイザー(homogenizer)やマイクロ流体(microfluidic)などの乳化装置が持続的に開発されている。しかし、ホモジナイザーを使用する場合、生産工程は単純であるが、粒径分布が広くなり、多孔性微粒子の場合、気孔サイズが均一ではなく、10μmを超える気孔が大量に生成される短所がある。マイクロ流体を使用する場合、粒径分布は狭いが、大量生産が困難であり、工業規模への適用は難しい問題がある。
【0006】
日本で開発されたSPG膜(シラス多孔質ガラス膜)を用いて微粒子を製造する方法が知られている。この方法により、均一な粒径を有する微粒子を製造できる。さらに、この方法は、微粒子の大量生産が可能であるため、産業上利用可能であることが知られている。特許文献3は、SPG膜を用いて金属ナノ粒子を製造し、特許文献4は、SPG膜を用いてトナー粒子を製造している。しかし、これらの文献は、生分解性高分子でない金属やカーボンブラック、ワックスなどのモノマーを使用しており、組織修復用材料又は薬物送達のキャリアとして使用することができない。
【0007】
従って、組織修復材料又は薬物送達用のキャリアとして使用でき、工業的な大量生産が可能な生分解性高分子材料の微粒子を調製する技術を確立する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】韓国 特許 第1142234号
【文献】韓国 特許 第1685312号
【文献】韓国 特許 第1302902号
【文献】韓国 特許 第1369952号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の第1の目的は、組織修復用材料又は薬物送達用キャリアとして使用でき、工業的大量生産が可能な生分解性高分子材料の微粒子の製造方法を提供することである。
本発明の第2の目的は、前記微粒子製造方法によって製造される生分解性高分子微粒子を提供することである。
本発明の第3の目的は、前記微粒子を用いて高分子フィラーを製造する方法を提供することである。
本発明の第4の目的は、前記微粒子を含む高分子フィラーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1側面は
1)生分解性高分子を有機溶媒に溶解して、分散相を形成する工程;
2)工程1)で形成された分散相に圧力を加え、分散相にSPG膜(シラス多孔質ガラス膜)の気孔を通過させ、界面活性剤を含む連続相内でエマルションを形成する工程;及び、
3)工程2)で形成されたエマルションから有機溶媒を除去して、微粒子を形成する工程;
を含む生分解性高分子微粒子の製造方法に関するものである。
【0011】
本発明の第2側面は、前記微粒子の製造方法によって製造された生分解性高分子微粒子に関する。
【0012】
本発明の第3側面は、
前記方法によって生分解性高分子微粒子を製造する工程;及び
生分解性高分子微粒子を一つ以上の生体適合性キャリアと混合する工程;
を含む高分子フィラーの製造方法に関する。
【0013】
本発明の第4側面は、
前記生分解性高分子微粒子;及び、
一つ以上の生体適合性キャリア;
を含む、高分子フィラーに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、組織修復用材料又は薬物送達用キャリアとして使用でき、工業的大量生産可能な生分解性高分子材料の微粒子製造技術を提供することができる。特に、従来の生分解性高分子微粒子に多孔性を付与し、小さな粒径及び粒径分布が狭い、即ち、均一な大きさの微粒子を安定して生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1により製造された生分解性高分子多孔性微粒子の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図2】比較例1により製造された生分解性高分子多孔性微粒子の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図3】実施例1により製造された生分解性高分子多孔性微粒子の粒径と分布を示す図である。
【
図4】比較例1により製造された生分解性高分子多孔性微粒子の粒径と分布を示す図である。
【
図5】実施例1によりSPG膜を用いて多孔性微粒子を製造するための装置の模式図である。
【
図6】実施例1で用いられたSPG膜の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図7】本発明の実施例4で製造された高分子フィラーと比較例2のフィラーとをラットに注入した後、注入部位をDSLR(Digital Single Lens Reflex)カメラで撮影した写真である。
【
図8】本発明の実施例4で製造された高分子フィラーと比較例2のフィラーをラットに注入した後、注入部位を3次元撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の一実施形態では、生分解性高分子微粒子は、以下の特性i)及びii)を満たすことができる:
i)球状(spherical);
ii)粒径10~200μm。
【0017】
好ましくは、前記高分子微粒子の粒径は、注射できるように使用される注射針の直径よりも小さく、好ましくは、患者の痛みを引き起こさず、触感で感じないように粒子の形状は実質的に球状である。一実施形態では、前記生分解性高分子微粒子の粒子サイズ(粒径)は、通常的に200μm以下であってもよく、生体組織内でマクロファージに取り込まれないように10μm以上の粒径を有することが好ましい。好ましい実施形態では、微粒子は、10~100μm未満、より好ましくは10~80μm、より好ましくは10~50μm、最も好ましくは20~40μmの直径を有することができる。
【0018】
本発明の実施形態では、分散相が、多孔性微粒子を形成するようにポロゲン(porogen)をさらに含むことができる。好ましい実施形態では、有機溶媒に溶解したポロゲンの濃度は、1~10重量%範囲であってもよい。ポロゲンの濃度が1重量%未満の場合、気孔が十分に形成されないことがあり、10重量%を超えると、過剰な気孔形成のため、多孔性微粒子自体の物理的強度が弱くなり、細胞が気孔に浸透する可能性がある。
【0019】
好ましい実施形態では、多孔性微粒子は、韓国特許出願第2016-0169309号に記載された特性を有するものであり、韓国特許出願第2016-0169309号はその全部が本明細書で参照として引用される。例えば、多孔性微粒子は、以下の特性i)~iv)を満たすことができる:
i)球状(spherical);
ii)粒径10~200μm;
iii)気孔径0.1~20μm;
iv)多孔率10~50%。
【0020】
一実施形態では、粒度分布の標準として、生分解性高分子の多孔性微粒子は、20μmより大きいd10、100μmより小さいd90、好ましくは20μmより大きいd10、60μmより小さいd90、より好ましくは25μmより大きいd10、40μmより小さいd90である。
【0021】
また、一実施形態では、生分解性高分子の多孔性微粒子は、1未満、好ましくは0.8未満、より好ましくは0.6未満の粒子の均一な分布を示すスパン値を有しなければならない。スパン値は、粒度分布が広くなると大きくなり、粒度分布が狭くなると0に近くなる。スパン値は、下記数式により計算される:
スパン値=(D90-D10)/D50
[D10、D50、D90の定義:粒子の累積分布で最大値のそれぞれ10%、50%、90%に対応する値であり、サイズに応じて相対的に累積される粒子の量を曲線で表す粒度分布曲線を測定及び図式化し、10個のフラクションに分割したとき、それぞれ1/10、5/10、9/10に対応する粒子のサイズを求めて表したもの]
【0022】
本発明の実施形態による多孔性微粒子は、多孔率に応じて、同じ質量対比より大きなボリュームを有することができる。一実施形態では、前記生分解性高分子の多孔性微粒子の多孔率は、5~50%、好ましくは10~50%、より好ましくは10~30%であってもよい。
【0023】
本発明において、「多孔率」は下記数式により得られる。
多孔率=(多孔性高分子微粒子のボリューム-非多孔性高分子微粒子のボリューム)/多孔性高分子微粒子のボリューム×100
【0024】
本発明による生分解性高分子の多孔性微粒子の気孔径(直径)は、0.1~20μm、好ましくは0.1~10μm、より好ましくは1~10μmであってもよい。
【0025】
本発明の一実施形態において、SPG膜乳化法を適用することにより、生分解性高分子の微粒子、特に多孔性微粒子を製造することを特徴とする。
図5に、本発明の実施例1によるSPG膜を使用して多孔性微粒子を製造するための装置を概略的に示すが、本発明の範囲はこれにより制限されない。
【0026】
本発明の実施形態において、有機溶媒に溶解する生分解性高分子の濃度は、好ましくは5~20重量%、特に10~20重量%、より特に10~15重量%範囲である。生分解性高分子の濃度が5重量%より低い場合、分散相の濃度が低くなり、粘度が低下し、SPG膜を通過するときに均一なサイズのエマルションを生成することが困難になる虞がある。生分解性高分子の濃度が20重量%を超えると、分散相の濃度が高くなり粘度が高くなり、SPG膜を通過するときに均一なサイズのエマルションではない糸状の高分子が形成される虞がある。
【0027】
本発明の実施形態において、SPG膜は、10~30μm、特に10~20μm、より特に15~20μm範囲の気孔を有することができる。SPG膜の気孔径が10μmより小さい場合、形成される多孔性微粒子の平均サイズは20μmよりも小さいため、マクロファージに取り込まれ得る。SPG膜の気孔径が30μmより大きい場合、形成される多孔性微粒子の平均サイズは50μmよりも大きいため、注射針の詰まりが生じる可能性がある。
図6は、本発明の実施例で使用されるSPG膜の走査電子顕微鏡(SEM)写真を示すが、本発明の範囲はそれにより制限されない。
【0028】
本発明の実施形態において、分散相に加えられる圧力は、0.1~10kPa、特に1~10kPa、より特に2~7kPaの範囲であってもよい。圧力が0.1kPaより低い場合、分散相がSPG膜を通過できず、エマルションが生成されない可能性がある。圧力が10kPaより高い場合、分散相がSPG膜を通過する速度が速すぎるため、均一なサイズのエマルションではない糸状の高分子が形成される可能性がある。
【0029】
本発明の実施形態において、界面活性剤が0.5~5重量%、特に0.5~3重量%、より特に1~3重量%範囲の濃度を有することができる。界面活性剤の濃度が0.5重量%より低い場合、不均一なサイズの多孔性微粒子が生成される可能性がある。界面活性剤の濃度が5重量%より高い場合、多孔性微粒子が不均一な気孔径で形成される可能性がある。一実施形態では、界面活性剤は、ポリビニルアルコール、ドデシル硫酸ナトリウム、ポリソルベート、ポリエチレングリコール及びそれらの組み合わせから選ぶことができる。好ましくは、ポリビニルアルコールを使用することができる。
【0030】
本発明の実施形態において、連続相は、100~500rpm、特に100~300rpm、より特に100~250rpmの範囲の速度で撹拌することができる。撹拌速度が100rpmより低い場合、エマルションはSPG膜上で結露し、落下せずにその上で結露が大きくなるため、平均粒径が50μmより大きい多孔性微粒子が形成されることがある。撹拌速度が500rpmより高い場合、SPG膜のエマルションの結露が早くなり過ぎるため、平均粒径が20μmより小さい多孔性微粒子が形成されることがある。
【0031】
好ましい実施形態において、前記の特定範囲の生分解性高分子の濃度、SPG膜の気孔径、分散相に加えられる圧力及び連続相中の界面活性剤の濃度の2以上、特に全ての組み合わせ、及びそれに加えて、連続相の撹拌速度の組み合わせを使用することが可能である。
【0032】
本発明の実施形態において、生分解性高分子は、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(カプロラクトン)、乳酸-グリコール酸共重合体、ジオキサノン-カプロラクトン共重合体、乳酸-カプロラクトン共重合体、それらの誘導体及びそれらの共重合体からなる群から選ばれる1種以上であってもよい。好ましくは、ポリ(乳酸)又はポリ(カプロラクトン)、特に好ましくはポリ(カプロラクトン)である。
【0033】
本発明の実施形態において、生分解性高分子は、10,000~1,000,000g/molの数平均分子量(Mn)を有することができる。より好ましくは10,000~100,000g/molの範囲であってもよい。
【0034】
本発明の実施形態によれば、高分子フィラーに含まれる生分解性高分子の多孔性微粒子の量は、通常的に高分子フィラー100重量%に対して、10~50重量%であってもよく、より具体的には10~30重量%であってもよく、所望の注射部位の所望のボリューム効果に従って調節することができる。
【0035】
本発明の一実施形態による高分子フィラーは、一つ以上の生体適合性キャリアをさらに含むことができる。このようなキャリアは、注射後、通常1日~6カ月以内に体内に吸収される。
【0036】
一実施形態で、前記生体適合性キャリアとして、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、デキストラン、コラーゲン及びそれらの組み合わせから選ばれるものを使用することができる。
【0037】
本発明の高分子フィラーに含まれる生体適合性キャリアの量は、通常的に高分子フィラー100重量%に対して、50~90重量%、より具体的には70~90重量%であってもよい。
【0038】
前記生体適合性キャリアには、前記成分の他に、注射剤に通常含まれる添加剤成分、例えば、グリセリンなどの潤滑剤、リン酸緩衝液などがさらに含まれ得る。
【0039】
本発明の実施形態による高分子フィラーは、好ましくは注射剤であってもよい。本発明の実施形態による高分子フィラーの注射剤は、滅菌注射器又は滅菌バイアルに入れて提供することができ、前処理を必要としないため、使用便宜性が高く、注入後、100%が生体組織内に異物を残さずに一定期間生分解されるため安全であり、動物由来の物質を一切含まないためアレルギー反応を起こさない。
【0040】
また、本発明の実施形態による高分子フィラーは、従来の高分子製品(例えば、高分子割合が30%)と比較して、同じ量の高分子でより大きなボリューム効果を示し、キャリアが吸収されてもボリューム効果を維持することができる。従って、本発明の実施形態による高分子フィラーは、シワ改善、顔面成形処置又はボディー成形処置に好適に使用することができる。
【0041】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明する。しかし、以下の実施例は、本発明を例示することのみ意図しており、いかなる形でも本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0042】
実施例1
分散相として、数平均分子量45,000のポリ(カプロラクトン)(PCL)5gとテトラデカン1gを塩化メチレン100gに溶解した。15μmの気孔を持つSPG膜(
図6参照)をSPG膜乳化装置に結合した。製造された分散相を、SPG膜を通して2kPaの窒素圧下で連続相(2重量%のポリビニルアルコール水溶液)に注入した。この時点で、ポリビニルアルコール水溶液を250rpmの速度で撹拌し、注入完了後、混合物を24時間連続して撹拌した(
図5参照)。製造された多孔性PCL微粒子を500mLの蒸溜水中で2時間撹拌して、残留ポリビニルアルコールを洗い流し、微粒子を遠心分離機で回収し、エチルアルコール500mLで2時間洗浄して、残留テトラデカンと塩化メチレンを除去した。洗浄後、多孔性PCL微粒子を真空乾燥機で48時間乾燥して、残留エチルアルコールを除去した。
【0043】
実施例2
分散相として、数平均分子量50,000のポリ(カプロラクトン)(PCL)1gとテトラデカン0.2gを塩化メチレン20gに溶解した。15μmの気孔を持つSPG膜(
図6参照)をSPG膜乳化装置に結合した。製造された分散相を、SPG膜を通して2kPaの窒素圧下で連続相(2重量%ポリビニルアルコール水溶液)に注入した。この時点で、ポリビニルアルコール水溶液を250rpmの速度で撹拌し、注入完了後、混合物を24時間連続して撹拌した(
図5参照)。製造された多孔性PCL微粒子(多孔率:10%)を500mLの蒸溜水中で2時間撹拌して、残留ポリビニルアルコールを洗い流し、微粒子を遠心分離機で回収し、エチルアルコール500mLで2時間洗浄して、残留テトラデカンと塩化メチレンを除去した。洗浄後、多孔性PCL微粒子を真空乾燥機で48時間乾燥して、残留エチルアルコールを除去した。
【0044】
実施例3
分散相として、数平均分子量50,000のポリ(カプロラクトン)(PCL)1gとテトラデカン0.3gを塩化メチレン20gに溶解した。15μmの気孔を持つSPG膜(
図6参照)をSPG膜乳化装置に結合した。製造された分散相を、SPG膜を通して2kPaの窒素圧下で連続相(2重量%ポリビニルアルコール水溶液)に注入した。この時点で、ポリビニルアルコール水溶液を250rpmの速度で撹拌し、注入完了後、混合物を24時間連続して撹拌した(
図5参照)。製造された多孔性PCL微粒子(多孔率:20%)を500mLの蒸溜水中で2時間撹拌して、残留ポリビニルアルコールを洗い流し、微粒子を遠心分離機で回収し、エチルアルコール500mLで2時間洗浄して、残留テトラデカンと塩化メチレンを除去した。洗浄後、多孔性PCL微粒子を真空乾燥機で48時間乾燥して、残留エチルアルコールを除去した。
【0045】
比較例1
分散相を2重量%ポリビニルアルコール水溶液にホモジナイザー(Homogenizer)を使用して4000rpmの速度で撹拌しながら迅速に供給し、1分間撹拌した後、250rpmの速度で24時間撹拌したことを除いて、実施例1と実質的に同じ手順に従って多孔性PCL微粒子を製造した。
【0046】
実験例1
実施例1で得られた多孔性PCL微粒子と比較例1により得られた多孔性PCL微粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果をそれぞれ
図1及び
図2に示した。これらの図から確認できるように、SPG膜乳化法を使用する本発明により、ホモジナイザーを使用する場合と比較して、より小さなサイズ及び狭い粒度分布、即ち、均一な粒径を有する多孔性微粒子を得ることができた。
【0047】
実験例2
実施例1で得られた多孔性PCL微粒子と比較例1で得られた多孔性PCL微粒子の粒度分布を粒度分析器で観察した。その結果をそれぞれ
図3及び
図4に示した。これらの図から確認できるように、実施例1で得られた多孔性PCL微粒子は、比較例1で得られた多孔性PCL微粒子と比較して、著しく狭い粒度分布、即ち、均一な粒径を有していた。粒度分布分析の結果を表1に示した。
【0048】
【0049】
1)C.V.(変動係数):標準偏差を平均で割った値、及び相対分散の程度を測定するための標準。計算値が0に近いほど、平均して粒子が存在し、散布度が小さいということを意味する。
【0050】
実施例4~6
前記実施例1~3でそれぞれ製造された生分解性高分子の多孔性微粒子を、カルボキシメチルセルロース3重量%とグリセリン27重量%及びリン酸緩衝液70重量%から製造されたキャリアと混合することにより、実施例4~6の高分子フィラー製剤をそれぞれ製造した。このとき、混合比は混合物100重量%基準として、多孔性微粒子30重量%、キャリア70重量%であった。
【0051】
比較例2及び3
比較例2としては、PCL原料として使用する市販の顔面用フィラー(Ellanse(登録商標))を購入して使用した。比較例3としては、ポリ(乳酸)(PLA)を原料として使用する市販の顔面用フィラー(Sculptra(登録商標))を購入して使用した。
【0052】
実験例3
実施例4~6及び比較例2及び3の各製剤をシリンジに充填後、無毛マウスの背中に200μLを注射した。注射部位のサイズを測定し、一定の時間で継続的にサイズの変化を測定した。その結果を表2に示した。また、実施例4の高分子フィラーと比較例2の高分子フィラーをマウスに注入した。2週間、注入部位をDSLR(Digital Single Lens Reflex)カメラで撮影した写真を
図7に示し、注入部位を3次元撮影した写真を
図8に示した。
下記表2に示すように、本発明による生分解性高分子の多孔性微粒子を含むフィラー製剤は、処置後の初期ボリューム減少が一時留守区改善されたことを確認することができる。
【0053】