(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】金属フラーレンM@C82及びその異性体の分離方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/156 20170101AFI20220328BHJP
C07F 5/00 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
C01B32/156
C07F5/00 D
(21)【出願番号】P 2020520218
(86)(22)【出願日】2018-10-12
(86)【国際出願番号】 CN2018110036
(87)【国際公開番号】W WO2019072238
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-05-01
(31)【優先権主張番号】201710946926.3
(32)【優先日】2017-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517014044
【氏名又は名称】北京福納康生物技術有限公司
【氏名又は名称原語表記】BEIJING FULLCAN BIO-TECHNOLOGY CO., LTD.
(73)【特許権者】
【識別番号】506281853
【氏名又は名称】中国科学院化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100190621
【氏名又は名称】崎間 伸洋
(72)【発明者】
【氏名】王 春儒
(72)【発明者】
【氏名】李 杰
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-180939(JP,A)
【文献】Steven Stevenson et al.,CuCl2 for the Isolation of a Broad Array of Endohedral Fullerenes Containing Metallic, Metallic Carbide, Metallic Nitride, and Metallic Oxide Clusters, and Separation of Their Structural Isomers,Inorg. Chem.,2013年,52(16),pp.9606-9612
【文献】Steven Stevenson et al.,Tuning the Selectivity of Gd3N Cluster Endohedral Metallofullerene Reactions with Lewis Acids,Inorg. Chem.,2014年,53(24),pp.12939-12946
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/156
C07F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルイス酸により金属フラーレンM@C
82を錯化・沈殿するステップ(a)と、金属フラーレンM@C
82を抽出するステップ(b)とを含み、
(a)において、金属フラーレンM@C
82を含む有機溶媒抽出液にルイス酸を加え反応させ、濾過することで生成した沈殿物と濾液を収集し、ここで、前記沈殿物は金属フラーレンM@C
82とルイス酸との錯体であり、前記濾液に中空フラーレンが含まれており、
(b)において、水又はアルカリ性溶液で前記沈殿物を洗浄することで残留したルイス酸を除去し、次に有機溶媒を加え十分に溶解させ、濾過することで、濾液としての、精製後の金属フラーレンM@C
82の有機溶媒抽出液を得られ、
前記Mは、ランタノイド金属であるCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Luから選択される少なくとも1種であり、且つ
前記ルイス酸は、臭化第二銅であることを特徴とする金属フラーレンM@C
82の分離方法。
【請求項2】
前記Mがランタノイド金属におけるGdであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップ(a)で有機溶媒抽出液は、ベンゼン抽出液、クロロベンゼン抽出液、トルエン抽出液、オルトキシレン抽出液、メタキシレン抽出液、パラキシレン抽出液、二硫化炭素抽出液、又はN,N-ジメチルホルムアミド抽出液から選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップ(a)で有機溶媒抽出液は、トルエン抽出液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ(a)で反応条件は、撹拌であり、反応時間は1~24時間であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップ(a)で反応条件は、撹拌であり、反応時間は1~8時間であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップ(a)で反応条件は、撹拌であり、反応時間は2~3時間であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記ステップ(a)で反応条件は、超音波であり、反応時間は1~8時間であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップ(a)で反応条件は、超音波であり、反応時間は1~3時間であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
前記ステップ(a)で反応条件は、超音波であり、反応時間は1~2時間であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(a)又は(b)で、前記沈殿物と濾液の収集方式は、濾過又は遠心分離であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項12】
前記ステップ(b)でアルカリ性溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム又は炭酸水素リチウムの水溶液から選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項13】
前記ステップ(b)でアルカリ性溶液は、炭酸ナトリウムの水溶液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項14】
前記ステップ(b)で有機溶媒は、ベンゼン系溶媒又は二硫化炭素から選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項15】
前記ステップ(b)で有機溶媒は、トルエン、オルトキシレン、パラキシレン、メタキシレン又は二硫化炭素であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項16】
前記ステップ(b)で有機溶媒は、トルエンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項17】
前記ステップ(b)で得た濾液に、M@C
2v-C
82及びM@C
s-C
82の2種の異性体が含まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項18】
請求項17に記載の2種の異性体を分離するステップをさらに含み、
(I)請求項1又は2で得た精製した後の金属フラーレンM@C
82の有機溶媒抽出液にルイス酸を加えて撹拌するか又は超音波によって反応させてから、濾過することで、沈殿物と濾液1を収集し、前記沈殿物はルイス酸とM@C
s-C
82との錯体であり、前記濾液1はM@C
2v-C
82だけを含む有機溶媒であり、
(II)アルカリ性溶液で前記沈殿物を洗浄することで残留したルイス酸を除去し、次に有機溶媒を加え十分に溶解させ、濾過することにより、濾液2としての、M@C
s-C
82だけを含む有機溶媒を得、
前記ステップ(I)で反応時間は20~60分間であり、且つ前記ルイス酸は、臭化第二銅であることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ステップ(I)で反応時間は20~40分間であることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ステップ(I)で反応時間は40分間であることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記ステップ(II)でアルカリ性溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムの水溶液から選択されることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記ステップ(II)でアルカリ性溶液は炭酸ナトリウムの水溶液であることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記ステップ(II)で有機溶媒は、ベンゼン系溶媒又は二硫化炭素から選択されることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記ステップ(II)で有機溶媒
は、トルエン、オルトキシレン、パラキシレン、メタキシレン又は二硫化炭素であることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記ステップ(II)で有機溶媒は、トルエンであることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
「関連出願の相互参照」
本発明は、中国専利局に提出された出願番号が201710946926.3で、発明の名称が「金属フラーレンM@C82及びその異性体の分離方法」である中国特許出願の優先権を主張し、当該出願の全体内容を援用して本発明に組み込む。
本発明は、化学分野に関し、詳しく言えば、金属フラーレンM@C82及びその異性体の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属フラーレンは、金属イオン又は金属含有イオンクラスターをフラーレンの籠状炭素に内包させた特殊な分子を指す。金属フラーレンはフラーレンの籠状炭素の物理的・化学的特性を有するだけでなく、内包された金属又はクラスターの優れた光学的・電気的・磁気的な特性を示すため、エネルギーデバイス及びバイオ医薬品の分野で大きく潜在的な利用価値が見込まれる。
【0003】
1992年、Gillanらは、ランタノイド金属の殆どがM@C82(M=Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu)の形態でフラーレンの籠状炭素に内包できることを発見した。金属フラーレン、例えば、Gd@C82は、MRI造影剤及び抗腫瘍薬の分野で大きく潜在的な利用価値を有する。バイオ医薬品分野の適用が次第に開発されているのに伴い、市場からの金属フラーレンの需要が大幅に高まり、どのようにしてその収量を高められるかは当面解決すべき重要な技術的課題となっている。しかしながら、金属フラーレンの合成収率が低く、溶解性が不十分であり、その分離と精製が難しい。アーク放電法の改良につれて、その収率は大幅に向上しているが、従来の高速液体クロマトグラフィーを用いてM@C82を分離する場合は、時間がかかり、効率が低く、コストが高いような欠点があり、これらはすでにその収量を制限する主な技術的ボトルネックとなる。上記の課題を解決するために、Kazuhiko Akiyamaら(J.Am.Chem.Soc.2012,134,9762-9767)が、TiCl4、SnCl4等のルイス酸が低酸化電位のLa@C82、Ce@C82、Gd@C82等の金属フラーレンと優先して可逆的に反応して錯体沈殿物を生成することにより、金属フラーレンと中空フラーレンの分離を実現している。しかしながら、本発明者らは実際の生産において、TiCl4、SnCl4等がいずれも潮解しやすく、しかも不活性ガス雰囲気の中で作業する必要があり、反応条件がとても厳しいため、産業的生産に適さないことを発見した。また、フラーレンに対するTiCl4、SnCl4等の選択性が不十分であるため、分離によって高純度のフラーレンを得ることはできない。
【0004】
本発明の実施例は、多量の試験を行って検証し、純度が非常に高い金属フラーレンを、効率的で、速く、高い選択的に分離させる分離・精製方法を実現している。当該方法は金属フラーレンと中空フラーレンの分離をシンプルかつ迅速に実現できるとともに、厳密に化学反応速度論を制御することによって、さらに高純度の金属フラーレン異性体の分離と抽出が可能である。本発明の実施例に係る方法は作業しやすく、コストが安く、実施可能性が高く、大量生産が可能であるため、金属フラーレンM@C82及びその異性体を大きいスケール的に分離・精製するのに適する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Kazuhiko Akiyamaら「J.Am.Chem.Soc.2012,134,9762-9767」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施例は、プロセスがシンプルであり、作業しやすく、安いコストで、金属フラーレンを、効率的で、迅速に、高い選択性で分離・精製する方法を提供することを目的とする。また、従来のアーク放電法によって製造されたM@C82に、一般に化学的性質が比較的に安定な2つの異性体、即ちM@C2v-C82及びM@Cs-C82が含まれていることに対して、本発明の実施例は、さらに、化学反応速度論を厳密に制御するにより特定の異性体を高い効果に分離することを実現する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の発明目的を達成するために、本発明の実施例は、ルイス酸により金属フラーレンM@C82を錯化・沈殿するステップ(a)と、金属フラーレンM@C82を抽出するステップ(b)とを含み、
(a)において、金属フラーレンを含む有機溶媒抽出液にルイス酸を加えて反応させ、濾過することで生成した沈殿物と濾液を収集する。ここで、前記沈殿物は金属フラーレンとルイス酸との錯体であり、前記濾液に中空フラーレンが含まれている;
(b)において、水又はアルカリ性溶液で前記沈殿物を洗浄することで、残留したルイス酸を除去し、さらに有機溶媒を加え十分に溶解させて濾過することで、濾液として精製した後の金属フラーレンの有機溶媒抽出液を得る、
ことを特徴とする、金属フラーレンM@C82を分離する方法を提供する。
【0008】
別の実現可能な実施形態において、前記Mは、ランタノイド金属であるCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Luから選択されるいずれかの1種であり、前記ルイス酸は、塩化亜鉛、塩化ニッケル、塩化第二銅、臭化亜鉛、臭化ニッケル又は臭化第二銅から選択されるいずれかの1種である。
【0009】
別の実現可能な実施形態において、上記のルイス酸は、塩化第二銅、臭化亜鉛又は臭化第二銅であることが好ましい。
【0010】
別の実現可能な実施形態において、前記Mがランタノイド金属におけるGdを選択する場合、前記ルイス酸は、塩化第二銅又は臭化第二銅であることが好ましく、臭化第二銅であることがより好ましい。
【0011】
別の実現可能な実施形態において、前記ステップ(a)では有機溶媒抽出液は、ベンゼン抽出液、クロロベンゼン抽出液、トルエン抽出液、オルトキシレン抽出液、メタキシレン抽出液、パラキシレン抽出液、キシレン抽出液、二硫化炭素抽出液、又はN,N-ジメチルホルムアミド抽出液から選択されるが、トルエン抽出液であることが好ましい。前記ステップ(a)では有機溶媒抽出液とは、アーク放電法によって得た中空フラーレン(例えば、C60、C70)と金属フラーレンを含む生成物に対して、DMF等の慣用試薬で溶解し乾燥させることで不溶性の不純物を除去し、次に有機溶媒を加えて溶解・超音波反応の工程を行うことで得た有機溶媒抽出物を指す。
【0012】
別の実現可能な実施形態において、ステップ(a)で反応条件は、撹拌又は超音波を含むが、これらに限定されるものではなく、前記撹拌反応の時間は1~24時間であり、1~8時間であることが好ましく、2~3時間であることがより好ましく、前記超音波反応の時間は1~8時間であり、1~3時間であることが好ましく、1~2時間であることがより好ましい。十分な撹拌又は超音波によって、固体状態のルイス酸が有機溶媒抽出液に分散することを促進し、ルイス酸とM@C82の表面接触を改善することによって、ルイス酸とM@C82の反応速度を上げることができる。
【0013】
別の実現可能な実施形態において、前記ステップ(a)又は(b)で、沈殿物と濾液を収集する方式は濾過又は遠心分離を含むが、これらに限定されるものではなく、これによって抽出液からM@C82を選択的に分離し、中空フラーレンを抽出液に残した。
【0014】
別の実現可能な実施形態において、前記ステップ(b)で、アルカリ性溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム又は炭酸水素リチウムの水溶液から選択されるが、炭酸ナトリウムの水溶液であることが好ましい。前記ステップ(b)で、有機溶媒は、ベンゼン系溶媒又は二硫化炭素から選択されるが、トルエン、オルトキシレン、パラキシレン、メタキシレン又は二硫化炭素であることが好ましく、トルエンであることがより好ましい。
【0015】
別の実現可能な実施形態において、前記ステップ(b)で得た金属フラーレンM@C82の有機溶媒抽出液に対して、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型質量分析(MALDI-TOF-MS)を利用して特性評価を行うことができる。HPLCの測定条件は、カラムにピレニルエチルカラム(以下、「PYEカラム」という)を、移動相トルエンを用い、UV検出波長を300nmとすることである。MALDI-TOF-MSの測定条件は、マトリックスとして1,8,9トリヒドロキシアントラセン(Dithranol)を用い、正電圧モードを適用することである。
【0016】
別の実現可能な実施形態において、上記の金属フラーレンM@C82を分離する方法をベースにして、さらに、ルイス酸を利用して金属フラーレンM@C82の異性体を選択的に分離し、化学反応速度論を制御することにより分離の目的を達成できる。具体的には、以下のステップ(I)と、(II)とを含む。
I)ステップ(b)で得た2種の異性体(即ち、M@C2v-C82及びM@Cs-C82)を含む金属フラーレンM@C82の有機溶媒抽出液にルイス酸を加えて撹拌するか又は超音波によって反応させて、濾過して、沈殿物と濾液1を収集し、前記沈殿物はルイス酸とM@Cs-C82との錯体であり、前記濾液1はM@C2v-C82だけを含む有機溶媒である。
II)アルカリ性溶液で前記沈殿物を洗浄することで残留したルイス酸を除去し、次に有機溶媒を加え十分に溶解させて、濾過することでM@Cs-C82だけを含む有機溶媒である濾液2を得る。
【0017】
別の実現可能な実施形態において、前記ステップ(I)で反応時間は20~60分間であり、20~40分間であることが好ましく、40分間であることが最も好ましく、前記Mは、ランタノイド金属であるCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Luから選択されるいずれか1種であり;前記ステップI)でルイス酸は塩化亜鉛、塩化ニッケル、塩化第二銅、臭化亜鉛、臭化ニッケル又は臭化第二銅から選択されるいずれか1種である。
【0018】
別の実現可能な実施形態において、上記のステップ(I)でルイス酸は、塩化第二銅、臭化亜鉛又は臭化第二銅であることが好ましい。
【0019】
別の実現可能な実施形態において、上記のステップ(I)で、前記Mがランタノイド金属であるGdを選択した場合、前記ルイス酸は、塩化第二銅又は臭化第二銅であることが好ましく、臭化第二銅であることがより好ましい。
【0020】
上記のステップ(II)で、前記アルカリ性溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムの水溶液から選択されるが、炭酸ナトリウムの水溶液であることが好ましい。
【0021】
別の実現可能な実施形態において、前記ステップ(II)で有機溶媒は、ベンゼン系溶媒又は二硫化炭素から選択されるが、トルエン、オルトキシレン、パラキシレン、メタキシレン又は二硫化炭素であることが好ましく、トルエンであることがより好ましい。
【0022】
別の実現可能な実施形態において、前記濾液1及び前記濾液2に対して、HPLCを利用して特性評価を行う。HPLCの測定条件は、移動相にトルエンを用い、流速を1mL/分間とし、試料量を20μLとし、UV検出波長を300nmとし、カラムにPYEカラムを用いることである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の実施例は、従来技術と比べ、以下の有益な効果を有する。
本発明の実施例は、特定のルイス酸を用いて、純度が非常に高い金属フラーレンを効率的で迅速な、高い選択的に分離させる分離・抽出方法を実現している。当該方法は金属フラーレンと中空フラーレンの分離をシンプルかつ迅速に実現できるだけでなく、さらに、厳密な化学反応速度論を制御することによって、高純度の金属フラーレンの異性体に分離し抽出できる。当該方法は作業しやすく、コストが安く、実施可能性が高いため、金属フラーレンを大きいスケール的に生産することに適する。
【0024】
本発明の実施例に係る方法は、以下の利点を有する。
1.速度が速く、効率がよく分離でき、コストが安い。
【0025】
2.分離して得た金属フラーレンは純度が99%以上に達している。
【0026】
3.金属フラーレン異性体に対する高選択性の分離を実現しており、M@C2v-C82及びM@Cs-C82の純度はそれぞれ98%~99%に達している。
【0027】
4.特定のルイス酸により反応させ、その化学性質が安定であり、潮解しにくいため、グローブボックス内で作業する必要がなく、しかも反応条件はいずれも常温・常圧であるため、実施可能性が高い。
【0028】
5.本発明の実施例は反応条件がシンプルであり、溶媒フィルタ、撹拌装置又は超音波反応器を使用するので、装置がシンプルであり、作業しやすく、大量生産が可能であるため、金属フラーレンを大きいスケール的に生産するのに適する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、臭化第二銅によりGd@C
82抽出液を分離する前の高速液体クロマトグラフィー図である。
【
図2】
図2は、臭化第二銅によりGd@C
82抽出液を分離した3時間後の生成物の高速液体クロマトグラフィー図である。
【
図3】
図3は、臭化第二銅によりGd@C
82抽出液を分離した3時間後の溶液の高速液体クロマトグラフィー図である。
【
図4】
図4は、臭化第二銅によりGd@C
82を分離・精製した後のMALDI-TOFマススペクトルである。
【
図5】
図5は、塩化第二銅によりGd@C
82抽出液を分離した3時間後の生成物の高速液体クロマトグラフィー図である。
【
図6】
図6は、塩化第二銅によりGd@C
82抽出液を分離した8時間後の生成物の高速液体クロマトグラフィー図である。
【
図7】
図7は、塩化第二銅によりGd@C
82抽出液を分離した8時間後の溶液の高速液体クロマトグラフィー図である。
【
図8】
図8は、臭化亜鉛によりGd@C
82抽出液を分離した3時間後の生成物の高速液体クロマトグラフィー図である。
【
図9】
図9は、臭化亜鉛によりGd@C
82抽出液を分離した8時間後の生成物の高速液体クロマトグラフィー図である。
【
図10】
図10は、臭化亜鉛によりGd@C
82抽出液を分離した8時間後の溶液の高速液体クロマトグラフィー図である。
【
図11】
図11は、臭化第二銅によりGd@C
82異性体溶液を分離した20分間後の生成物の高速液体クロマトグラフィー図である。
【
図12】
図12は、臭化第二銅によりGd@C
82異性体溶液を分離した20分間後の溶液の高速液体クロマトグラフィー図である。
【
図13】
図13は、臭化第二銅によりGd@C
82異性体溶液を分離した40分間後の生成物の高速液体クロマトグラフィー図である。
【
図14】
図14は、臭化第二銅によりGd@C
82異性体溶液を分離した40分間後の溶液の高速液体クロマトグラフィー図である。
【
図15】
図15は、臭化第二銅によりGd@C
82異性体溶液を分離した60分間後の生成物の高速液体クロマトグラフィー図である。
【
図16】
図16は、臭化第二銅によりGd@C
82異性体溶液を分離した60分間後の溶液の高速液体クロマトグラフィー図である。
【
図17】
図17は、臭化第二銅によりGd@C
82異性体溶液を分離してから得た2つの異性体(Gd@C
2v-C
82及びGd@C
s-C
82)の紫外-可視-近赤外スペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、本発明の実施例に係る目的、技術案及び利点をより明瞭にするために、一つ以上の実施例及びそれに対応する図面を用いて、本発明の実施例に係る技術案について明瞭かつ完全に、例示的に説明する。
【0031】
なお、記載された実施例は本発明の実施例の一部のみであり、全ての実施例ではない。当業者が、本発明の実施例に基づいて進歩性のある労働をすることなく得ているその他の実施例は、いずれも本発明の保護範囲に含まれる。特に説明を付け加えていなければ、明細書と特許請求の範囲の全体において、用語「含む」又はこれに類似する用語、例えば「含み」又は「含んでいる」等は、記載されている当該構成要素を、その他の部品又は構成要素を除外することなく含むように理解されるべきである。
【0032】
これらの実施例は、保護範囲を限定するものではない。特に説明を付け加えていなければ、ここに記載の実施例は、その他の実施例より優れたものとして理解すべきではない。
【0033】
また、本発明をより一層に説明するために、以下の実施例で複数数の具体的な内容を示している。たとえこれらの具体的な内容がなくても、本発明は同様に実施できることは当業者が理解できる。いくつかの実施例において、当業者が熟知している方法、手段、要素、慣用の条件と関連のマニュアルに記載の条件又はメーカーの推奨する条件による試験方法については、本発明の趣旨を明らかにするように、その方の詳細な説明は省略されている。使用される材料、試薬等は、特に説明を付け加えていなければ、いずれも市販品から入手するものである。
【0034】
実施例1:金属フラーレンGd@C82を分離・抽出する。
(1)臭化第二銅(CuBr2)により金属フラーレンGd@C82を分離する。
【0035】
(a)金属Gd粉末と黒鉛粉末(スペクトル分析級)を混合し、中空黒鉛管に充填して突き固め、アーク放電法を利用してフラーレンを含有する生成物スートを得た。スートをバッグフィルタに充填し、ソックスレー抽出器に入れ、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を溶媒として、150℃の低真空の条件で、24時間抽出したところ、黒色の溶液を得た。
【0036】
(b)上記の溶液を濾過して大量の浮遊粒子を除去し、丸底フラスコに濾液500mLを取り分け、ロータリーエバポレーターを利用して濾液を完全に蒸発させた。トルエン500mLを加え、超音波反応器(型番:KQ-300DB、パワー:300W、超音波周波数:40KHz)に入れ2時間超音波反応させてから、濾過して澄んでいる黄褐色(nankeen)の濾液を得て、このような濾液は中空フラーレン及び金属フラーレンを含有するトルエン抽出液である。これに対して高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析を行って、結果は
図1に示すとおりである。
【0037】
(c)CuBr
250mgを上記のトルエン抽出液に加え、1000rpmの回転数で3時間撹拌して反応させ、反応過程で多くの茶色の粉末状沈殿物を生成し、溶媒フィルタを用いて濾過し、沈殿物を収集したところ、濾液に金属フラーレンを含まず、中空フラーレンだけが残っている。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)図は
図3に示すとおりである。
【0038】
(d)溶媒フィルタに炭酸ナトリウムの水溶液を利用して沈殿物を3回洗浄し、残留した水分を完全に吸引濾過して、洗浄された沈殿物を1000mL三角フラスコに入れ、トルエン500mLを加えて、超音波反応器に入れて30分間超音波反応させることによって、精製後の金属フラーレンをトルエンで十分に溶解させ、溶媒フィルタを用いて濾過し、収集して、明るい黄色の濾液を得た。
【0039】
(e)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型質量分析(MALDI-TOF-MS)を利用して、(d)ステップで得た濾液に対して特性評価を行ったところは
図2、
図4に示すとおりである。HPLCで、移動相としトルエンを用い、流速を1mL/分間とし、試料量を20μLとし、UV検出波長を300nmとし、カラムにPYEカラム(5μm、4.6×250mm、Cosmosil)を用い、各ピークに対して自動積分を適用した。HPLC及びMALDI-TOF-MSの測定結果によって、分離して得た金属フラーレンGd@C
82は純度が99%以上に達し、分離収率が90%以上に達することが示されていた(本願で分離収率とは分離回収率を指し、最終的に分離して得た生成物/ステップcの有機溶媒抽出液中の当該生成物の含有量によって算出される)。
【0040】
(2)その他のルイス酸に金属フラーレンGd@C82を分離する。
ルイス酸による金属フラーレンの分離効果をより一層に検証するために、実施例1(1)の試験条件を参照して、その他のパラメータとステップと同じな場合に、ルイス酸の種類を適宜変更した。結果は、次の表1に示すとおりである。
【0041】
【0042】
上記の表から分かるように、その他のルイス酸も同様に金属フラーレンGd@C82を効果的に分離できる。また、臭化第二銅による3時間の分離で純度が99%のGd@C82を得て、分離収率が90%であることと比べ、塩化第二銅による分離速度が遅く分離収率がやや低く、純度が97%のGd@C82を得て、その分離収率は70%に達するのには、分離は8時間が掛かることが分かった。臭化亜鉛は、Gd@Cs-C82異性体のみを分離できるが、他方のGd@C2v-C82異性体を分離できないため、その分離収率は20%程度にとどまっている。
【0043】
(3)反応パラメータの影響
反応時間等のパラメータが本発明の実施例の分離効果に対して影響を与えると確定するために、その他のパラメータとステップと同じな場合に、各反応のパラメータを適宜変更した。結果は、表3に示すとおりである。
【0044】
【0045】
上記の表から分かるように、反応条件が異なっても、いずれも臭化第二銅によって分離して純度が99%に達する金属フラーレンGd@C82を得ることができる。撹拌での作業にしても超音波での作業にしても、ルイス酸の使用量を増やすことで反応速度を上げ、反応時間を短縮させることができる。
【0046】
実施例2:Gd@C82異性体の選択的な分離
(1)臭化第二銅(CuBr2)による金属フラーレンGd@C82異性体を分離する。
【0047】
(a)従来のアーク放電法によって製造された金属フラーレンGd@C
82に、一般に化学的性質が比較的に安定である2つの異性体(即ちGd@C
2v-C
82及びGd@C
s-C
82)が含まれている。例えば、
図2に示すように、実施例1(1)のステップ(d)で分離した明るい黄色の濾液に2つのGd@C
82異性体が含まれている。当該溶液500mLを取り分け、CuBr
2 10mgを加え、撹拌(回転数:1000rpm)時間は正確に40分間に設定した。CuBr
2がGd@C
s-C
82異性体と優先して反応して錯体沈殿物を生成し、溶媒フィルタを用いて濾過し、沈殿物を収集すると、濾液に他方の異性体Gd@C
2v-C
82だけが含まれている。
【0048】
(b)溶媒フィルタに炭酸ナトリウムの水溶液を利用して、Gd@Cs-C82異性体だけを含む沈殿物を3回洗浄し、残留した水分を完全に吸引濾過して、洗浄された沈殿物を1000mL三角フラスコに入れ、トルエン500mLを加えて、30分間の超音波によって金属フラーレンが完全に溶解させ、溶媒フィルタを用いて濾過し、収集して、明るい黄色のGd@Cs-C82異性体溶液を得た。
【0049】
(c)HPLCを利用して特性評価を行い、移動相としトルエンを用い、流速を1mL/分間とし、試料量を20μLとし、UV検出波長を300nmとし、カラムとしPYE(5μm、4.6×250mm)を用いる。(a)、(b)ステップで分離したGd@C
s-C
82及びGd@C
2v-C
82異性体のそれぞれに対して分析し、各ピークに対して自動積分を適用した。分離によって得たGd@C
s-C
82異性体の純度は98%であり(
図13)、Gd@C
2v-C
82異性体の純度は99%である(
図14)ことが示されていた。
【0050】
(d)紫外-可視-近赤外分光計を利用して、(a)、(b)ステップで分離したGd@C
s-C
82及びGd@C
2v-C
82異性体のそれぞれに対してスペクトル特性評価を行う。
図17に示すように、その吸收スペクトルが文献報告と一致しているため、化学反応速度論を制御することによって高純度のGd@C
82異性体を分離できることが証明されていた。
【0051】
(2)反応パラメータの影響
反応時間等のパラメータが本発明の実施例の分離効果に対して影響を与えると確定するために、その他のパラメータとステップと同じな場合に、各反応のパラメータを適宜変更した。結果は、表4に示すとおりである。
【0052】
【0053】
上記の表から分かるように、臭化第二銅を利用して実施例1(1)で精製後のGd@C
82(
図2参照)に対して異性体の分離を行うと、臭化第二銅とGd@C
82の反応時間を厳密に制御することで、高純度のGd@C
82異性体を分離できる。20分間の反応後、臭化第二銅が一部のGd@C
s-C
82異性体だけを分離している(
図11参照)。溶液に少量のGd@C
s-C
82異性体(約5%)と、大量のGd@C
2v-C
82異性体(約95%)が存在している(
図12参照)。40分間の反応後、臭化第二銅が全てのGd@C
s-C
82異性体を分離している(
図13参照)。溶液にGd@C
2v-C
82異性体だけが存在している(
図14参照)。60分間の反応後、臭化第二銅が全てのGd@C
s-C
82異性体と一部のGd@C
2v-C
82異性体を分離している(
図15参照)。溶液に残るのはいずれもGd@C
2v-C
82異性体である(
図16参照)。よって、臭化第二銅が全てのGd@C
s-C
82異性体だけを分離して、溶液にGd@C
2v-C
82異性体だけが残留するように、臭化第二銅とGd@C
82の反応時間を厳密に制御する必要がある。これにより、このような化学反応速度論を制御することにより、高純度のGd@C
82異性体を分離している。
【0054】
なお、上記の実施例は、本発明の技術案を限定するためのものではなく、それを説明するものに過ぎない。上記の実施例を参照して本発明を詳細に説明しているが、当業者が理解できるように、依然として上記の各実施例に記載の技術案に対して補正し、又はその技術的特徴の一部に同等な差し替えを行うことができる。かかる補正又は差し替えによって、その相応な技術案の趣旨が本発明の各実施例に係る技術案の趣旨と範囲から逸脱することはない。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の実施例は、特定のルイス酸を利用して、純度が非常に高い金属フラーレンM@C82及びその異性体を効率的で迅速な、高い選択的に分離することを実現する方法を提供する。当該方法は、ルイス酸により金属フラーレンM@C82を錯化・沈殿するステップ(a)と、金属フラーレンM@C82を抽出するステップ(b)とを含む。当該方法は金属フラーレンと中空フラーレンの分離をシンプルかつ迅速に実現できるだけでなく、さらに、厳密な化学反応速度論を制御することによって、高純度の金属フラーレン異性体を分離・取り得る。当該方法は作業しやすく、コストが安く、実施可能性が高いため、金属フラーレンの大きいスケール的な生産に適する。