(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】ロボットアーム用のアクティブバック駆動
(51)【国際特許分類】
B25J 13/00 20060101AFI20220328BHJP
【FI】
B25J13/00 Z
(21)【出願番号】P 2020525972
(86)(22)【出願日】2017-12-11
(86)【国際出願番号】 US2017065636
(87)【国際公開番号】W WO2019117855
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】516133124
【氏名又は名称】バーブ サージカル インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Verb Surgical Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】チョウ レンビン
(72)【発明者】
【氏名】ニア コサリ シナ
(72)【発明者】
【氏名】モーゼズ デニス
【審査官】岩▲崎▼ 優
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0041249(US,A1)
【文献】国際公開第2017/014216(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0005913(US,A1)
【文献】国際公開第2010/090059(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0238391(US,A1)
【文献】特開2017-078498(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02602676(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの可動関節を有するロボット外科用アームの運動を支援するための方法であって、
第1の周波数を有し、かつ第2の周波数を有する第2の振動波形によって変調される第1の振動波形を含む第1の信号を生成することであって、前記第2の周波数が前記第1の周波数よりも高い、第1の振動波形を含む第1の信号を生成することと、
前記少なくとも1つの可動関節における摩擦を少なくとも部分的に補償するために、前記第1の信号に基づいて前記少なくとも1つの可動関節内のアクチュエータを駆動することと、
前記少なくとも1つの可動関節の運動を検出することと、前記少なくとも1つの可動関節の運動を検出することに応答して、前記第1の信号とは異なる第2の信号に基づいて前記少なくとも1つの可動関節内の前記アクチュエータを駆動することと、を含み、
前記第2の信号が、動的摩擦モデルに基づく、すなわち、前記第2の信号の振幅が、前記少なくとも1つの可動関節の速度に線形的に比例する、
方法。
【請求項2】
前記第1の振動波形が、正弦波である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の周波数が、約1Hz~約5Hzである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の振動波形が、正弦波である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の周波数が、約200Hz以下である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの可動関節に作用する重力を少なくとも部分的に補償するように、前記少なくとも1つの可動関節内の前記アクチュエータを駆動することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ロボット外科用システムであって、
少なくとも1つの可動関節、及び前記少なくとも1つの可動関節を駆動するように構成されたアクチュエータを備える、少なくとも1つのロボットアームと、
第1の信号を生成するように構成されたコントローラであって、前記第1の信号は、第1の周波数を有し、かつ第2の周波数を有する第2の振動波形によって変調される第1の振動波形を含み、前記第2の周波数が前記第1の周波数よりも高い、コントローラと、を備え、
前記アクチュエータは、前記少なくとも1つの可動関節における摩擦を少なくとも部分的に補償するために、前記変調信号に基づいて前記少なくとも1つの可動関節を駆動するように構成されて
おり、
前記アクチュエータが、前記少なくとも1つの可動関節の運動の検出に応答して、前記第1の信号とは異なる第2の信号に基づいて前記少なくとも1つの可動関節を駆動するように構成されており、
前記第2の信号が、動的摩擦モデルに基づく、すなわち、前記第2の信号の振幅が、前記少なくとも1つの可動関節の速度に線形的に比例する、
ロボット外科用システム。
【請求項8】
前記第1の振動波形及び前記第2の振動波形のうちの少なくとも1つが、正弦波である、請求項
7に記載のシステム。
【請求項9】
前記第1の周波数が、約1Hz~約5Hzである、請求項
8に記載のシステム。
【請求項10】
前記第2の周波数が、約200Hz以下である、請求項
8に記載のシステム。
【請求項11】
前記少なくとも1つのロボットアームが、前記少なくとも1つの可動関節の運動を検出するように構成された少なくとも1つのセンサを備える、請求項
7に記載のシステム。
【請求項12】
前記アクチュエータが、前記少なくとも1つの可動関節に作用する重力を少なくとも部分的に補償するように、前記少なくとも1つの可動関節を駆動するように構成されている、請求項
7に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、ロボット外科手術の分野に関し、より具体的には、ロボットアームのバック駆動を支援するための新規かつ有用なシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腹腔鏡外科手術のような最小侵襲外科手術(Minimally-Invasive Surgery、MIS)は、外科的処置中の組織損傷を低減することを意図する技術を含む。例えば、腹腔鏡処置は、典型的には、(例えば、腹部において)患者における多数の小さな切開部を生じさせ、かつ切開部を介して、患者内に1つ又は2つ以上の外科用器具(例えば、エンドエフェクタ、少なくとも1つのカメラなど)を導入することを含む。外科的処置は、次いで、カメラにより提供される視覚化補助を伴い、導入された外科用器具を使用することにより実施され得る。
【0003】
一般に、MISは、患者の瘢痕化を低減させる、患者の痛みを軽減する、患者の回復期間を短縮する、及び患者の回復と関連付けられた薬物療法のコストを低減するなどの、複数の利点を提供する。いくつかの実施形態では、MISは、操作者からのコマンドに基づいて外科用器具を操作するための1つ以上のロボットアームを含むロボットシステムで実施され得る。ロボットアームは、例えば、外科用エンドエフェクタ、撮像装置、患者の体腔及び器官へのアクセスを提供するためのカニューレなどの様々な装置を遠位端で支持することができる。ロボットアーム及び外科用器具は、最小侵襲外科手術を実施するように制御することができる。
【0004】
典型的には、ロボット外科用システム内のロボットアームは、ロボットアームの運動を可能にする1つ又は2つ以上の関節を含む。例えば、少なくとも1つの関節は、モータ、歯車列、1つ又は2つ以上のセンサなどを含むアクチュエータアセンブリによって駆動されてもよい。アクチュエータアセンブリは更に、ユーザーがロボットアームに手動力をかけることによってロボットアームの関節及び/又は他の関節を再位置決めすることに起因して、バック駆動されてもよい。しかしながら、歯車列内の高歯車比及び/又はインターフェースを取る機械的構成要素間の高摩擦などの要因により、ロボットアーム内の1つ又は2つ以上の関節は、バック駆動されるときに高摩擦を経験し得、それによって、高摩擦に打ち勝つための及びアクチュエータアセンブリをバック駆動するためのより大きな力を必要とする。これは、例えば、ユーザーがアームを手動で再位置決めすることを困難にさせる場合がある。したがって、ロボットアームのバック駆動を支援するためのシステム及び方法を有することが望ましい。
【発明の概要】
【0005】
一般に、いくつかの変形形態では、少なくとも1つの可動関節を有するロボット外科用アームの運動を支援するための方法は、第1の周波数を有し、かつ第2の周波数を有する第2の振動波形によって変調される第1の振動波形を含む変調信号を生成することと、少なくとも1つの可動関節における摩擦を少なくとも部分的に補償するために変調信号に基づいて少なくとも1つの可動関節内のアクチュエータを駆動することと、を含むことができる。第2の周波数は、第1の周波数よりも高くてもよい。更に、本方法は、少なくとも1つの可動関節の運動を検出することと、変調信号とは異なる第2の信号を生成することと、第2の信号に基づいて少なくとも1つの可動関節内のアクチュエータを駆動して、関節における摩擦を少なくとも部分的に補償することと、を含んでもよい。
【0006】
更に、一般に、いくつかの変形形態では、ロボット外科用システムは、少なくとも1つの可動関節、及び少なくとも1つの可動関節を駆動するように構成されたアクチュエータを備える少なくとも1つのロボットアームと、変調信号を生成するように構成されたコントローラと、を含んでもよく、アクチュエータは、変調信号に基づいて少なくとも1つの可動関節を駆動して、少なくとも1つの可動関節における摩擦を少なくとも部分的に補償するように構成されている。変調信号は、第1の周波数を有し、かつ第2の周波数を有する第2の振動波形によって変調される第1の振動波形を含んでもよく、第2の周波数は、第1の周波数よりも高い。いくつかの変形形態では、本システムは、少なくとも1つの可動関節の運動を検出するように構成された少なくとも1つのセンサを含んでもよい。関節の運動を検出すると、制御システムは、変調信号とは異なる第2の信号を生成するように構成されてもよく、アクチュエータは、第2の信号に基づいて少なくとも1つの可動関節を駆動して、関節における摩擦を少なくとも部分的に補償するように構成されてもよい。
【0007】
変調信号の第1及び/又は第2の振動波形は、例えば、正弦波であってもよい。いくつかの変形形態では、第1の振動波形の第1の周波数は、約1Hz~約5Hz(例えば、約2Hz)であってもよい。第2の振動波形の第2の周波数は、約200Hz以下(例えば、約100Hz)であってもよい。第1及び/又は第2の信号は、動的摩擦モデル(例えば、クーロン摩擦モデル、粘性摩擦モデル)に基づいてもよく、これにより、例えば、第2の信号は、少なくとも1つの可動関節の速度に概ね比例して、関節における摩擦を少なくとも部分的に補償し続けることができる。
【0008】
いくつかの変形形態では、アクチュエータはまた、少なくとも1つの可動関節に作用する重力を少なくとも部分的に補償するように駆動されてもよい。これらの変形形態では、摩擦補償及び重力補償は、ユーザーがアームを容易に操作する(例えば、ユーザーがロボットアームを手動で操作し、ロボットアームから一時的に離れ、並びにロボットアームを手動で、かつロボットアーム内の重力及び/又は摩擦によって引き起こされる複雑化なしで操作し続けるのを支援するように同時に実施されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】ロボット外科用システム及び外科医コンソールを有する手術室配置の一例を示す。
【
図1B】ロボットアーム上の器具ドライバの1つの例示的な変形形態の概略図である。
【
図2A】患者台に連結される、ロボットアーム上の器具ドライバの別の例示的な変形形態の概略図である。
【
図2B】ロボットアームの1つの例示的な変形形態の関節モジュールの作動を制御するための例示的な制御システム設定の概要概略図である。
【
図3】ロボットアームの運動(例えば、バック駆動)を支援するための制御システムの例示的な変形形態の概略図である。
【
図4】別の物体と接触する移動物体の相対速度Vの関数として摩擦力Fを説明する例示的な摩擦モデルを例示する。
【
図5】摩擦補償を用いてロボットアームの運動を支援する方法の例示的な変形形態のフローチャートである。
【
図6A】摩擦補償モードの1つの変形形態において、関節が実質的に移動していないときにロボットアーム内の可動関節内のアクチュエータを制御するために使用され得る例示的な変調信号を例示する。
【
図6B】摩擦補償モードの1つの変形形態において、関節が実質的に移動していないときにロボットアーム内の可動関節内のアクチュエータを制御するために使用され得る例示的な変調信号を例示する。
【
図7】可動関節が移動していると決定された後に、ロボットアーム内の可動関節内のアクチュエータを制御するために使用され得る第2の信号の例示的な変形形態を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の様々な態様及び変形形態の例が本明細書で説明され、かつ添付図面において例示される。以下の説明は、本発明をこれらの実施形態に限定するのではなく、当業者が本発明を作製及び使用することを可能にすることを意図するものである。
【0011】
ロボット外科システムの概要
一般に、
図1Aに示されるように、ロボットシステム150は、外科用プラットフォーム(例えば、台、ベッド、カートなど)に配置された1つ又は2つ以上のロボットアーム160を含んでもよく、エンドエフェクタ又は外科用ツールが、外科的処置を行うためにロボットアーム160の遠位端に取り付けられている。例えば、ロボットシステム150は、
図1Bの例示的な概略図に示されるように、外科用プラットフォームに連結された少なくとも1つのロボットアーム160、及びロボットアーム160の遠位端に概ね取り付けられた器具ドライバ170を含んでもよい。器具ドライバ170の端部に連結されたカニューレ180は、外科用器具190(例えば、エンドエフェクタ、カメラなど)を受容及びガイドすることができる。更に、ロボットアーム160は、外科用器具190を作動させる器具ドライバ170を位置決め及び配向するように作動される複数のリンクを含んでもよい。滅菌ドレープ152又は他の滅菌バリアは、非滅菌構成要素(例えば、ロボットアーム160及び器具ドライバ170)と滅菌構成要素(例えば、カニューレ180)との間に挿入されて、(例えば、非滅菌構成要素からの汚染から保護するために)患者のための滅菌野を維持するのを助けることができる。
【0012】
ユーザー(例えば、外科医又はその他の操作者)は、ユーザーコンソール100を使用して、ロボットアーム160及び/又は外科用器具を離れて操作(例えば、遠隔操作)してよい。ユーザーコンソール100は、
図1Aに示されるように、ロボットシステム150と同じ処置室に配置されていてもよい。他の実施形態では、ユーザーコンソール100は、隣接した部屋又は付近の部屋に配置されていてもよく、又は異なる建物、都市又は国などで、離れた位置から遠隔操作されてもよい。
【0013】
一例では、ユーザーコンソール100は、座席110と、足踏み式制御部120と、1つ以上の手持ち式ユーザーインターフェース装置122と、例えば患者体内の手術部位の像を表示するように構成された少なくとも1つのユーザーディスプレイ130と、を備えている。例えば、座席110に位置して、ユーザーディスプレイ130を見ているユーザーは、足踏み式制御部120及び/又は手持ち式ユーザーインターフェースデバイス122を操作して、ロボットアーム160及び/又は外科用器具を離れて制御してもよい。
【0014】
例示的な処置又は外科手術の間、患者は、滅菌態様で準備され、布が掛けられ、麻酔を達成する。手術部位への初期アクセスは、(例えば、患者の切開で)実行されてもよい。一度アクセスが完了すると、ロボットシステムの初期位置決め及び/又は準備を実施してよい。外科的処置の間、ユーザーコンソール100中の外科医又は他のユーザーは、足踏み式制御部120及び/又はユーザーインターフェース装置122を利用して、様々なエンドエフェクタ及び/又は撮像システムを操作して処置を実施してもよい。手動による支援は、処置台で、滅菌ガウンを着た職員によって提供されてもよく、滅菌ガウンを着た職員は、限定されないが、臓器を奥に引っ込めること、又は手動での再位置決め、又は1つ以上のロボットアーム160を含むツールの交換を実施してもよい。また、滅菌されていない職員は、ユーザーコンソール100で外科医を支援するために存在していてもよい。処置又は外科手術が完了した場合、ロボットシステム150及び/又はユーザーコンソール100は、ロボットシステム150の洗浄及び/若しくは滅菌、及び/又は、電子コピー若しくはハードコピーでの健康管理記録の登録若しくは印刷を含むがこれらに限定されない、ユーザーコンソール100を介してなどの、1つ以上の手術後処置を促進するように構成されてよい、又は促進する状態に設定させてよい。
【0015】
図1Aでは、ロボットアーム160は台搭載システムと共に示されるが、その他の実施形態では、ロボットアームは、カート、天井、若しくは側壁、又はその他の好適な支持表面に、取り付けられてよい。ロボットシステム150、ユーザーコンソール100と任意の他のディスプレイとの通信は、有線接続及び/又は無線接続(複数可)を介していてもよい。任意の有線接続が、床及び/又は壁又は天井に任意選択的に構築されてもよい。ユーザーコンソール100とロボットシステム150との通信は、無線及び/又は有線であってもよく、様々なデータ通信プロトコルのいずれかを用いて専有されていてもよく、及び/又は実施されてもよい。更に他の変形形態では、ユーザーコンソール100は、一体化されたディスプレイ130を備えていないが、インターネット又はネットワークを介してアクセス可能なリモートディスプレイを含む、1つ以上の汎用ディスプレイに接続して出力可能なビデオ出力を提供することができる。ビデオ出力又はビデオフィードは、プライバシーを確保するために暗号化されてもよく、ビデオ出力の全て又は一部が、サーバ又は電子健康管理記録システムに保存されてもよい。
【0016】
他の例では、例えば、更なる外科用器具を制御し、及び/又は主要なユーザーコンソールで1つ以上の外科用器具の制御を行うために、更なるユーザーコンソール100が提供されてもよい。これにより、例えば、外科医が、外科的処置中に、ある技術を引き継ぐ、又は医学生及びトレーニング中の医師に例示することができ、あるいは同時に、又は協調した様式で作業する複数の外科医を必要とする複雑な外科手術中に支援することができる。
【0017】
ロボットアーム
一般に、上記のように、ロボット外科用システム内の1つ又は2つ以上のロボットアームは、台、ベッド、カートなどの外科用プラットフォームに配置されてもよい。例えば、
図2Aに示すように、ロボットアーム200の1つの例示的な変形形態は、連結構成260を介して台250に連結されてもよい。連結構成260は、ロボットアーム200が、台250の表面に対して(
図2Aの配向に示されるように、ページの内外)に回動するか、又は横方向に移動することを可能にし得る。連結構成260は、例えば、回動関節又はピン関節を形成するように、台250に連結されたピン252と、ピン252に回転可能に連結された連結リンクL0とを含んでもよい。連結構成260は、ピン252の周りの作動可能な関節を介して台250に対するロボットアーム200の動力運動を可能にするように構成されたアクチュエータ(例えば、モータ及び歯車列)を更に含んでもよい。連結構成260は、連結構成260内のアクチュエータに連結されたエンコーダ、又は台250に対するロボットアーム200の位置又は配向を測定するように構成された別の好適な角度センサなどの、少なくとも1つの位置センサを含んでもよい。更に、いくつかの変形形態では、1つ又は2つ以上のブレーキが、台250に対するロボットアーム200の相対運動を選択的に阻止するように連結構成260に含まれてもよい。
【0018】
ロボットアーム200は、回動可能な連結構成を介して台250に連結されていると本明細書に主に説明されているが、他の変形形態では、ロボットアーム200は、トラック、ピンインスロット(pin-in-slot)、又は他の好適な機構などの、長手方向又は横方向の運動を容易にする機構を含むがこれらに限定されない他の種類の機構を用いて、患者台に追加的に又は代替的に連結されてもよいことを理解されたい。更に、本明細書に説明される方法は、ロボットアームの他の変形形態(例えば、異なる構造、表面への異なる連結構成など)におけるバック駆動を支援するために使用されてもよい。
【0019】
ロボットアーム200は、複数のリンク(アームセグメント)と、隣接するリンク間の相対運動を駆動又は調節する複数の作動関節モジュールと、を含んでもよい。各関節モジュールは、アクチュエータ、歯車列(例えば、高調波駆動)、エンコーダ、トルクセンサ、力センサ、及び/又はアームリンクを移動させるための他の好適なアクチュエータ、トランスミッションなど、並びに/又は位置及び/若しくはトルクフィードバックを検出するための好適なセンサを含んでもよい。このようなフィードバックは、例えば、ロボットアームを動作させる制御スキームへの入力を提供するために使用されてもよい。1つ又は2つ以上の関節モジュールは、特定の姿勢又は構成でロボットアームを保持するためのような、隣接するリンクの相対運動を阻止することができ、及び/又は隣接するリンクの相対位置を保持若しくはロックすることができる、1つ又は2つ以上のブレーキ(例えば、ドラムブレーキ)を含んでもよい。
【0020】
図2Aに示すように、ロボットアーム200の1つの例示的な変形形態は、ロボットアーム200内の関節J1~J7を作動させる少なくとも7つの関節モジュールを含んでもよく、J1~J7は、回動関節及び/又はロール関節を含む。J1は、第1のリンクL1と第2のリンクL2との間の相対的な回動運動を可能にし得る。J2は、第2のリンクL2と第3のリンクL3との間の相対的なロール運動を可能にし得る。J3は、第3のリンクL3と第4のリンクL4との間の相対的な回動運動を可能にし得る。J4は、第4のリンクL4と第5のリンクL5との間の相対的なロール運動を可能にし得る。J5は、第5のリンクL5と第6のリンクL6との間の相対的な回動運動を可能にし得る。J6は、第6のリンクL6と第7のリンクL7との間の相対的なロール運動を可能にし得る。J7は、第7のリンクL7と第8のリンクL8との間の相対的な回動運動を可能にし得る。例えば、いくつかの変形形態では、回動関節J1、J3、J5及びJ7とロール関節J2、J4及びJ6との組み合わせは、少なくとも7つの自由度を有し、本明細書に説明されるものを含む様々な構成に移動可能であるロボットアームを可能にし得る。しかしながら、
図2に示されるロボットアームは単に例示的なものであり、本明細書に説明される方法は、任意の好適な種類のロボットアームを制御するために使用されてもよいことを理解されたい。ロボットアームの他の例示的な変形形態は、「ROBOTIC ARMS」と題された、2017年9月15日出願の米国特許出願第15/706,536号に記載され、その全体が、この参照により本明細書に組み込まれる。
【0021】
制御システム
いくつかの変形形態では、ロボットアームは、ロボットアームの動作を支配する制御システムによって概ね制御されてもよい。制御システムは、ロボット支援外科用システムが2つ以上のロボットアームを含む場合、複数のロボットアームを制御することができる。例えば、
図2Bに示すように、制御システムは、1つ又は2つ以上のプロセッサ220(例えば、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、特定用途向け集積回路、フィールドプログラマブルゲートアレイ、及び/又は他の論理回路)を含んでもよい。ロボットアーム自体上に配置され得るプロセッサ220は、カート搬送ユニット又は他の好適な構造において、コンソール210(例えば、ユーザーインターフェース)に通信可能に連結されてもよい。プロセッサ220は、本方法の態様の任意の組み合わせ、及び/又は本明細書に説明される方法の組み合わせを実施するための命令を実行するように構成されてもよい。制御システムは、1組の1つ又は2つ以上のモータコントローラ(例えば、230a~230g)を更に含んでもよく、これらはそれぞれ、プロセッサ220に通信可能に連結され、ロボットアーム内のそれぞれの関節モジュール(例えば、240a~240g)内の少なくとも1つのアクチュエータを制御及び動作させる専用である。
【0022】
いくつかの変形形態では、制御システムは、ロボットアーム内の関節モジュールの運動を制御するための少なくとも1つの変調信号を生成するように構成されてもよい。例えば、ロボットアーム内の少なくとも1つのアクチュエータは、可動関節における摩擦を少なくとも部分的に補償するために、変調信号に従って、それぞれの可動関節を駆動する(例えば、それぞれの可動関節に第1の負荷を印加する)ように構成されてもよい。変調信号は、第1の周波数を有し、かつ第2の周波数を有する第2の振動波形によって変調される第1の振動波形を含んでもよく、第2の周波数は、第1の周波数よりも高い。いくつかの変形形態では、第1の振動波形の第1の周波数は、ロボットアーム内の可動関節上の外力(例えば、ユーザーが印加した力)の検出に対する応答の所望の機敏さに少なくとも部分的に基づいてもよい。変調信号の大きさを(例えば、外力が摩擦に打ち勝つのを助けるために)好適なレベルに増加させる振幅を有し得る、第2の振動波形は、可聴ハミングの発生を回避するために少なくとも部分的に選択される第2の周波数を有することができる。例えば、第1の振動波形は、約1Hz~約5Hzの周波数を有してもよく、第2の振動波形は、約200Hz下の周波数を有してもよい。第1の振動波形が、例えば、約2Hzの周波数を有する変形形態では、変調信号がその最大の大きさの両方にあり、ユーザーが関節を押すのと同じ方向に関節モジュールアクチュエータを駆動する場合、毎秒約2回存在する。したがって、変調信号は、ユーザーが関節を移動させるのをうまく支援する可能性が最も高い場合、一般に、毎秒約2回存在する。更に、本明細書で更に説明されるように、制御システムは、少なくとも1つのアクチュエータが、可動関節に作用する重力を少なくとも部分的に補償するように、それぞれの可動関節を駆動する(例えば、それぞれの可動関節に第2の負荷を印加する)ように構成された信号を追加的に又は代替的に生成してもよい。
【0023】
例えば、
図3は、ロボットアーム310用の制御システム300の別の変形形態の概略図である。制御システム300は、1つ又は2つ以上の信号生成器350を介してモータコマンド信号を生成するための命令を実行するように構成された少なくとも1つのプロセッサ320を含んでもよく、モータコマンド信号は、1つ又は2つ以上のモータコントローラ330によって使用されて、ロボットアーム310内の1つ又は2つ以上のそれぞれの関節を駆動してもよい。プロセッサ320及び信号生成器(複数可)350は、例えば、以下に更に説明するように、メモリ340に記憶された(及びメモリから受信される)重力補償モデル342及び/又は摩擦補償モデル344に基づいて、モータコマンド信号を生成するように構成されてもよい。メモリ340は、例えば、ローカル又はリモート記憶媒体(例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EEPROM、CD又はDVDなどの光学デバイス、ハードドライブ、フロッピーディスクなど)であってもよい。更に、重力補償モデル342及び/又は摩擦補償モデル344用の制御システム入力は、ロボットアーム内の1つ又は2つ以上のセンサ312(例えば、少なくとも1つの関節モジュール内又はロボットアーム310の他の好適な部分内の、エンコーダ、トルクセンサ、力センサ、加速度計など)によって提供されてもよい。
【0024】
重力補償
重力補償制御モードでは、制御システムは、ロボットアームが、重力によって下方に漂うことなく、ロボットアーム自体を特定の姿勢で保持するように、ロボットアーム内の1つ又は2つ以上のアクチュエータに命令する。重力補償モードでは、制御システムは、ロボットアーム内のリンクの少なくとも一部分に作用する重力を(例えば、重力補償モデル342に基づいて)決定する。これに応答して、制御システムは、決定された重力を相殺するために少なくとも1つの関節モジュールを作動させ、これにより、ロボットアームは、現在の姿勢を維持することができる。重力を決定するために、例えば、制御システムは、隣接するリンク間の測定された関節角度、ロボットアーム及び器具ドライバの既知の運動学的特性及び/若しくは動力学的特性、並びに/又はアクチュエータの既知の特性(例えば、歯車比、モータトルク定数)、関節上の検出された力(複数可)などに基づいて、計算を実施してもよい。更に、ロボットアームは、アーム上の印加された重力の方向を決定するように構成された少なくとも1つの加速度計又は他の好適なセンサ(複数可)を含んでもよい。
【0025】
これらの計算に基づいて、制御システムは、各関節モジュールにおけるどの力が、その関節モジュールに作用する重力を補償するために必要であるかをアルゴリズム的に決定してもよい。例えば、コントローラは、(例えば、重力補償モデル342に従って)順運動学アルゴリズム、逆動力学アルゴリズム、又は任意の好適なアルゴリズムを利用してもよい。制御システムは、次いで、ロボットアームを同じ姿勢で保持する適切なレベルの電流を、関節モジュール内のアクチュエータに提供するための1組のコマンドを生成してもよい。重力補償モードは、単独で、又は他の制御モード(例えば、以下に記載される摩擦補償モード)と組み合わせて使用されてもよい。
【0026】
摩擦補償
図4は、別の物体と接触する移動物体の相対速度Vの関数として摩擦力Fを説明する例示的な摩擦モデルを例示する。より具体的には、
図4は、ストライベック(Stribeck)効果を用いる、クーロン摩擦及び線形粘性摩擦を含む摩擦モデルを示す。いくつかの状況では、速度がゼロであるとき、開始時の静止摩擦力F
mは、相対運動が始まった直後に生じる摩擦力よりも高い。摺動が開始した後、かつ速度Vが特定の速度レジーム内にある間、摩擦は、ストライベック効果と呼ばれる速度を増加させて減少する。ストライベック効果を説明する曲線の最小値に対応するクーロン摩擦力F
cは、2つの物体の接触部分間のせん断抵抗から生じる。移動物体の相対速度がストライベック曲線の最小値から増加するにつれて、粘性摩擦力は、速度Vに対して概ね線形である。摩擦モデルの正領域(第1の方向の速度に対応する)及び負領域(第1の方向とは反対の第2の方向の速度に対応する)の両方が、
図4の概略図に示されている。1つの構成要素を、その移動構成要素と接触している別の構成要素に対して移動させるために、外部力が、
図4の概略図に要約されるような摩擦力を概ね超えるように、外部力をその移動構成要素に印加されなければならない。
【0027】
本明細書に説明されるシステム及び方法の文脈において、いくつかの変形形態では、ロボットアームは、摩擦補償モード又はアクティブバック駆動モードで動作されてもよく、これは、ロボットアームの運動に抵抗する摩擦力に打ち勝つのに十分な力を発生させるのに役立つ。例えば、いくつかの状況では、ユーザーは、特定の姿勢でロボットアームを配置するために、アームリンクのうちの1つ又は2つ以上を直接又は手動で操作する(例えば、引く又は押す)ことを望む場合がある。これらの動作は、ロボットアームのアクチュエータをバック駆動させる。しかしながら、関節モジュール内の高い歯車比などの機械的態様によって引き起こされる摩擦により、いくつかの変形形態では、ユーザーは、摩擦に打ち勝ち、ロボットアームをうまく移動させるために、かなりの量の力を印加しなければならない。これに対処するために、摩擦補償モードは、ロボットアームが、(1つ又は2つ以上のアームリンクに対する力の結果として直接的又は間接的のいずれかで)少なくとも1つの関節モジュールに作用するユーザーが印加した力の存在及び方向を決定し、その関節モジュール内のアクチュエータをバック駆動することと、次いで、ユーザーが所望する姿勢を達成するために必要な方向に適切な関節モジュールをアクティブに駆動することとによって、ユーザーがロボットアームの少なくとも一部分を移動させるのを支援することを可能にする。換言すれば、ロボットアーム用の制御システムは、ユーザーが静止又は動的摩擦に打ち勝つのを助けるために、ユーザーが印加した力と同じ方向に1つ又は2つ以上の関節モジュールを作動させることができる。結果として、ユーザーは、あまり知覚されない摩擦でロボットアームを手動で操作することができる。摩擦補償モードは、いくつかの変形形態では、単独で、又は他のモード(例えば、重力補償モード)と組み合わせて使用されてもよい。
【0028】
例えば、いくつかの変形形態では、
図5に示すように、ロボットアームの運動を支援するための方法は、変調信号510を生成することと、変調信号520に基づいてロボットアーム内の少なくとも1つの可動関節内のアクチュエータを駆動して、少なくとも1つの可動関節内の摩擦を少なくとも部分的に補償することと、少なくとも1つの可動関節530の運動を検出することと、を含み得る。いくつかの変形形態では、本方法は、少なくとも1つの可動関節の速度に概ね比例する第2の信号540を生成することと、(例えば、関節の運動が始まった後に)第2の信号550に基づいて少なくとも1つの可動関節内のアクチュエータを駆動することと、を更に含んでもよい。例えば、変調信号及び/又は第2の信号は、変調信号及び/又は第2の信号が、ロボットアームの運動に抵抗する摩擦力を補償することを助けるように、可動関節内のアクチュエータを駆動させるためのコマンド電流と相関し得る。本方法は、例えば、
図3を参照して上記した制御システム300によって実施されてもよい。制御システム300は、ロボットアームを重力補償モード及び/又は他の好適な制御モードで同時に動作させてもよい。
【0029】
いくつかの変形形態では、変調信号510を(例えば、プロセッサ及び信号生成器を介して)生成し、変調信号520に基づいてアクチュエータを駆動することにより、可動関節が静止している(移動していない)間に、変調信号を使用して、可動関節のためのアクチュエータを駆動することができるという点で、静止摩擦の補償を提供する助けとなり得る。例えば、
図6Aは、ロボットアーム内の可動関節内のアクチュエータを制御するために使用され得る例示的な変調信号610を例示する。変調信号610は、少なくとも2つの波形成分によって説明することができるという点で、多成分ディザリングコマンド信号であってもよい。例えば、
図6Bの概略図で示唆されるように、変調信号610は、第1の周波数を有し、かつ第2の周波数を有する第2の振動波形614によって変調される第1の振動波形612を含んでもよく、又はこの第1の振動波形によって定義されてもよく、第2の周波数は、第1の周波数よりも高い。例えば、第1の振動波形612及び/又は第2の振動波形614は正弦波であってもよいが、他の変形形態では、第1の振動波形612及び/又は第2の振動波形614は、方形波又は他の好適な振動波形であってもよい。
【0030】
一般に、低周波数波形成分及び高周波数波形成分を含む変調信号610は、さもなければ波形成分のいずれかによって個別に提供されない利点又は利益を提供することができる。例えば、少なくともいくつかの事例では、低周波数波形(例えば、
図6Bに示される波形612と同様)のみを含む信号を使用して、摩擦補償モードで可動関節のためのアクチュエータを駆動する場合、関節内の静止摩擦にうまく打ち勝つことは依然として困難であり得る。低周波数波形単独では、ロボットアーム内の可動関節上の外力(例えば、ユーザーが印加した力)を検出すると、摩擦補償の応答性を減少させ得る。例えば、アクチュエータがより低い周波数波形に基づいて関節を駆動することは、(アクチュエータがより高い周波数波形に基づいて関節を駆動することと比較して)ユーザーが関節を移動するのをうまく支援するために、毎秒より少ない機会を有することになる。したがって、低周波数信号で可動関節のためのアクチュエータを駆動することは、静止摩擦に打ち勝つためのあらゆる試みに関連する遅延又は停滞が存在し得るため、摩擦補償には不適切である場合がある。
【0031】
別の例として、より高い周波数波形(例えば、
図6Bに示される波形614と同様)のみを含む信号を使用して、摩擦補償モードで可動関節のためのアクチュエータを駆動する場合、静止摩擦に打ち勝つことが困難であり得、及び/又はさもなければ、任意の1つの特定の対象関節においてアクチュエータをバック駆動させることが困難であり得る。これは、少なくとも部分的には、この実施例では、隣接する関節又は近傍の関節(対象関節と同様の手法でディザリングもする)は、隣接する関節又は近傍の関節が、対象関節に印加される動的トルクを発生させ、逆もまた同様であるように、高加速を経験する。したがって、単に高周波信号を有するロボットアーム内の可動関節のためのアクチュエータを駆動することは、摩擦に打ち勝とうとする又は関節をバック駆動しようとする任意の試みがアーム構造の動的トルクによって相殺され得るため、摩擦補償には不適切であり得る。
【0032】
しかしながら、本明細書に説明されるように、低周波数及び高周波数成分の両方を含む変調信号610を用いて、少なくとも1つの可動関節のための1つ又は2つ以上のアクチュエータを駆動することは、有利であり得る。例えば、このような変調信号は、動的トルクに打ち勝つことの困難を生成させることなく、摩擦補償のための応答性を提供することができる。例えば、高周波数成分の大きさは低い場合があり(高周波数成分が低周波数成分の最上部に変調され、これは、摩擦補償の大部分を提供するのに好適な大きさを有し得るため)、低加速度をもたらし得、したがって、より制御可能な又は扱いやすい(及びより容易に打ち勝つ)アーム関節間の動的効果を低減することができる。
【0033】
一般に、変調信号の周波数(又は周期)、大きさ、オフセット、及び/又は他のパラメータ若しくは特性は、ロボットアームの各関節モジュール内の1つ又は2つ以上のアクチュエータに対して個別に調整されてもよい。いくつかの変形形態では、変調信号のそのような特性は、(アクチュエータ内の移動構成要素間の摩擦、アクチュエータの出力に連結された歯車列内の摩擦、アームリンク間の摩擦などに起因して)例えば、関節内の静止摩擦及び/又は動的摩擦に基づいて決定されてもよい。(例えば、ロボットアーム構成要素の寸法及び/又は材料選択に基づく)重量などの様々な要因、移動構成要素間の機械的適合の締まり、潤滑度、及び/又は(例えば、重力に対する)関節の配向などが、任意の特定の時間における関節内の摩擦の量に影響し得る。
【0034】
例えば、変調信号のより遅い波形成分の周波数(より低い周波数)は、ロボットアーム内の可動関節上の(例えば、ユーザーが印加した)力の検出に対する応答性に概ね対応し得る。上記のように、変調信号のより遅い成分がより低い周波数を有する変形形態では、摩擦補償力が関節上のユーザーが印加した力と同じ方向に方向付けられるために毎秒、より少ない機会が存在し、したがって、関節をバック駆動するときにユーザーが静止摩擦に打ち勝つのを助ける摩擦補償力の時間が長くなり得る。逆に、変調信号のより遅い成分がより高い周波数を有する変形形態では、摩擦補償力が関節上のユーザーが印加した力と同じ方向に方向付けられるために毎秒、より多くの機会が存在し、したがって、関節をバック駆動するときにユーザーが静止摩擦に打ち勝つのを助ける摩擦補償力の時間が少なくなり得る。例えば、ユーザーが、特定の可動関節を第1の方向に手動で回転させることを試みており、変調信号610が約2Hzの周波数を有する場合、変調信号がその最大の大きさの両方にあり、第1の方向に関節内のアクチュエータを駆動することに対応するとき、毎秒約2回存在する。したがって、ユーザーが静止摩擦に打ち勝つのを支援するために、その可動関節内の(変調信号610に基づいて駆動される)アクチュエータに対して毎秒約2回の機会が存在する。低周波数波形成分に対する周波数の特定の値は、例えば、使用可能性及びユーザー研究から決定されてもよい。いくつかの変形形態では、変調信号のより遅い波形成分の周波数は、約0.5Hz~約5Hz、約1Hz~約3Hz、又は約2Hzであってもよい。例えば、約2Hz未満の周波数を有する低周波数波形(例えば正弦波)は、ユーザーの不便さの発生を回避するのに十分であり得る。
【0035】
別の例として、変調信号のより速い波形成分の周波数(より高い周波数)は、関節を移動させることなく、静止摩擦に打ち勝つのを可能にすることに概ね対応し得る。例えば、高周波信号で駆動されるアクチュエータは、高周波数トルクを生成し、これは、次いで、関節を移動させることなく静止摩擦に打ち勝つことができる。追加的に、より速い波形成分の周波数が、可聴ノイズ(例えば、ハミング)を発生させることを回避するように、及び/又はロボットアーム内の1つ又は2つ以上の共振周波数を励起することを回避するように選択されてもよい。例えば、いくつかの変形形態では、より速い波形成分の周波数は、約200Hz以下、約150Hz以下、約125Hz以下、又は約100Hzであってもよい。別の例として、いくつかの変形形態では、より速い波形成分の周波数は、可聴ノイズを低減又は回避するために、約50Hz~約100Hzであってもよい。
【0036】
別の例として、変調信号の大きさ又は振幅(例えば、より遅い波形成分及び/又はより速い波形成分の大きさ)は、関節の静止摩擦に少なくとも部分的に基づいて選択又は決定されてもよい。例えば、変調信号610は、2つの波形成分のピークが一致する、より遅い波形成分のピーク振幅と、より速い波形成分のピーク振幅との概ね合計である最大の大きさを有してもよい。(より遅い波形成分の大きさを増大させること、及び/又は、より速い波形成分の大きさを増加させることによって)変調信号の大きさを増加させることで、可動関節の静止摩擦に打ち勝つのを助けるために利用可能なアクチュエータ力の大きさを増大させる。例えば、変調信号の大きさは、変調信号が、両方向の静止摩擦帯域内の力(例えば、Fmより小さな信号から生じる-Fmより大きな駆動力)で可動関節内のアクチュエータを駆動するように構成されるようなものであってもよい。したがって、可動関節が摩擦補償モードで変調されたコマンド電流信号によって制御されるとき、関節は、アクチュエータ方向のいずれかの摩擦にほぼ打ち勝つが、完全には打ち勝たないように準備され得る。したがって、変調信号は、部分摩擦補償を提供し得る。外部力(ユーザーによって手動で印加されるものなど)は、変調信号に基づいて提供されるアクティブな駆動力と組み合わせて、静止摩擦に打ち勝つのに十分であり得る。
【0037】
いくつかの変形形態では、より速い波形成分の大きさは、より遅い波形成分の大きさに対して低くてもよい。例えば、より速い波形成分は、より遅い波形成分の大きさの小部分である大きさを有してもよい。一般に、変調信号の成分の大きさは、モータ機能及びアーム関節動力学などの、ハードウェア及びその用途の特定の特性に依存し得る。これらの大きさは、例えば、実験的に調整されてもよい。
【0038】
いくつかの変形形態では、変調信号の少なくとも1つの成分の周波数の変調に追加的に、又は代替的に、変調信号の大きさ又は振幅が変調されてもよい。例えば、より遅い低周波数波形成分の大きさ若しくは振幅、及び/又はより速い高周波数波形成分の大きさ若しくは振幅は、(例えば、変化する静止摩擦閾値などに応じて)経時的に変化してもよい。
【0039】
いくつかの変形形態では、変調信号のより遅い波形成分及び/又はより速い波形成分の大きさは、静止摩擦力Fmの測定値に基づいて決定されてもよい。静止摩擦力は、1つ又は2つ以上の様々な好適な手法で測定されてもよい。例えば、静止摩擦力は、設計及び開発プロセス並びに/又は製造中に測定されてもよい。別の例として、静止摩擦力は、較正チェック中(例えば、ロボットシステムを手術室に設置した後、ロボットシステムを手術室に設置した後に定期的に、ロボットアームを所定数の実施される外科的処置に使用した後、及び/又はロボットアームを外科的処置ごとに使用する前など)に測定されてもよい。例えば、関節の静止摩擦は、関節をバック駆動させるために較正されたトルク測定デバイス(例えば、動力計など)を使用することによって決定されてもよく、この場合、経験的に決定された静止摩擦力は、関節が移動を開始するために必要なトルク(トルク測定デバイスによって測定されるような)から導出されてもよい。
【0040】
更に別の例として、静止摩擦力は、外科的処置中に測定されてもよく、これは、処置中の変調信号の振幅(及び/又は他の好適な態様)の調節を可能にし得る。例えば、静止摩擦の量は、アームを(例えば、上記のような)重力補償モードで配置することによって測定され得、関節運動が検出されるまで、関節駆動アクチュエータに電流をゆっくり増加又は減少させ得る。次いで、関節を移動させるのに必要な電流の量は、静止摩擦の量が変化したかどうかを評価するために、既知の又は所定のバック駆動パラメータ(例えば、前のチェック中に決定される)と比較されてもよい。1つ又は2つ以上の振幅パラメータは、関節における静止摩擦の量の変化を検出することに応答して、(例えば、ユーザー入力に基づいて)自動的に又は手動で調整されてもよい。複数の可動関節を有するロボットアーム内では、異なる可動関節に対する静止摩擦力が、異なる時間に測定されてもよく、したがって、異なる可動関節において摩擦補償を行うために使用される信号は、異なる時間に調整されてもよいことを理解されたい。更に、複数のロボットアームを含むロボット外科用システムでは、異なるロボットアーム内で摩擦補償を実施するために使用される信号は、異なる時間に調整されてもよい。
【0041】
更に、いくつかの変形形態では、変調のオフセットを使用して、特定の関節に必要とされる非平衡バック駆動力を考慮してもよい。例えば、関節における静止摩擦が、第1の方向とは異なる(反対の)第2の方向よりも第1の方向に大きい場合には、第2の方向よりも第1の方向における運動のための静止摩擦に打ち勝つ又は静止摩擦を補償するのを助けるために、より大きい大きさの信号が必要とされ得る。したがって、変調信号は、アクチュエータを駆動して、第2の方向よりも第1の方向においてより大きなトルク/力を有するような、オフセットを含んでもよい。例えば、変調信号のそのようなオフセットは、変調信号のより遅い低周波数波形成分におけるオフセットに起因し得る。しかしながら、オフセットは、追加的に又は代替的に、変調信号のより速い高周波数波形成分におけるオフセットに起因し得ることを理解されたい。
【0042】
図5に示すように、方法は、ロボットアーム内の少なくとも1つの可動関節503の運動を検出することを更に含んでもよい。いくつかの変形形態では、ロボットアーム内の関節の運動は、関節のためのアクチュエータ内の1つ又は2つ以上のセンサによって検出されてもよい。例えば、関節の運動は、ユーザーが可動関節を特定の方向にバック駆動させ始めるときのアクチュエータの回転位置又は速度の変化などの、関節内のアクチュエータの回転位置及び/又は速度を測定するように構成されたエンコーダによって検出されてもよい。別の例として、関節モジュールが(例えば、モータシャフトに連結された入力及び関節の移動部分に連結された出力を含む)歯車トランスミッションを含む変形形態では、トランスミッションにおける測定されたスロップ、又は(例えば、1つ又は2つ以上のエンコーダを介した)トランスミッションの入力と出力との間の測定された回転不一致若しくは相対的な回転変化を使用して、関節の運動を決定してもよい。更に別の例として(高い剛性を有する歯車トランスミッションを含む関節モジュールの場合など)、任意の過剰なモータ電流、又は所定の閾値を超える測定されたモータ電流は、関節の運動を示し得る。
【0043】
いくつかの変形形態では、関節モジュール若しくはアーム構造自体内の好適な角度センサ又は近接センサなどの、関節内の他のセンサは、追加的に又は代替的に、(例えば、ユーザーが印加した力と、変調信号コマンド電流によって提供される摩擦補償力との組み合わせに起因して)関節が移動し始めるときを決定するように使用され得る。一般に、関節の運動は、例えば、回転位置の変化が所定の閾値を超える(例えば、ゼロより大きい、若しくは所定数の度又はラジアンより大きい)とき、及び/又は速度の変化が所定の閾値を超える(例えば、毎秒、ゼロより大きい、若しくは所定数の度又はラジアンより大きい)ときに特定されてもよい。別の例として、関節の運動は、1つ又は2つ以上の力センサ、トルクセンサ、加速度計、及び/又は関節内若しくは関節付近の他の好適なセンサによって検出されてもよい。更に別の例として、関節の運動(又は関節を移動させるユーザーの要望)は、ユーザーがアームを操作する際に、典型的に、ロボットアームを把持するであろうアームリンクの外部表面上に位置するタッチセンサ又は近接センサ(例えば、静電容量センサ)などを用いて、1つ又は2つ以上のアームリンクとのユーザー接触に基づいて検出されてもよい。
【0044】
制御システムは、追加的に又は代替的に、1つ若しくは2つ以上の関節モジュール又はアームリンク上のユーザーが印加した力の存在、大きさ、及び方向を決定するために、関節モジュール若しくはアームリンクの速度及び/又は位置を(例えば、力センサ又はトルクセンサ、加速度計などを用いて)監視してもよい。
【0045】
いくつかの変形形態では、制御システムは、偶発的な運動(例えば、ロボットアームの短時間衝突)と、アーム位置における突然の意図されたシフトとを区別するのを助けるために、1つ又は2つ以上の事前定義されたパラメータを組み込んでもよい。偶発的な運動が特定された場合、制御システムは、いくつかの変形形態では、偶発的な運動を補償するためにアーム位置を補正又は再確立してもよい(例えば、偶発的な運動が生じる直前に想定された姿勢にアームを戻してもよい)。例えば、(例えば、関節モジュール内の力センサ又はトルクセンサによって測定されるような)関節上の外力の持続時間が短時間であり、所定の閾値未満である場合、制御システムは、関節運動が偶発的であると決定することができる。そのような事例では、制御システムは、そのような偶発的な運動が全く発生しないかのように、変調信号を関節モジュール内のアクチュエータに指示し続けることができる。逆に、関節上の外力の持続時間が延長され、所定の閾値(例えば、少なくとも0.25秒、少なくとも0.5秒、又は少なくとも1秒など)を超える場合、制御システムは、関節運動が意図的であると決定することができる。そのような事例では、制御システムは、続けて第2の信号を生成し、以下に説明されるように第2の信号に基づいてアクチュエータを駆動することができる。
【0046】
少なくとも1つの可動関節530の運動を検出した後、方法は、第2の信号540を(例えば、信号生成器を用いて)生成することと、第2の信号550に基づいて可動関節内のアクチュエータを駆動することと、を更に含んでもよい。いくつかの変形形態では、関節が移動し始めると、上記の多成分変調ディザリング信号は、停止し、第2の信号に置換されてもよい。第2の信号は、変調ディザリング信号と異なっていてもよい。いくつかの変形形態では、ロボットアーム内の関節が移動し始めた後、第2の信号は、摩擦のための少なくとも部分的な補償と関連付けられてもよい。したがって、第2の信号は、移動関節内のアクチュエータを駆動するために使用され、ユーザーがロボットアーム内の関節を移動及び操作し続ける際にユーザーを支援し続けることができる。
【0047】
第2の信号の異なる変形形態は、第2の信号が、関節の運動と正反対のモデル化された摩擦力を概ね追跡する(ただし、それよりも小さい)力を生成し得るという点で、異なる摩擦モデル(例えば、クーロンモデル、クーロン及び粘性モデル、
図4に示されるようなストライベック効果を用いるクーロン及び粘性モデル、先行するモデルのうちのいずれか1つの簡略化されたバージョン、又は任意の好適な摩擦モデル)に基づくことができる。例えば、いくつかの変形形態では、第2の信号は、可動関節の角速度又は回転速度に概ね比例し得る。例えば、これらの変形形態では、関節のアクチュエータは、一般に、ユーザーが関節をより迅速に移動させるより高いレベルの電流で(又はユーザーが関節をよりゆっくりと移動させる少ない電流で)摩擦を補償するように駆動され得る。更に、電流の(正又は負)方向は、ユーザーが関節の回転方向を変化させる場合に変化し得る。
【0048】
図7は、可動関節が移動していると決定された後に、ロボットアーム内の可動関節内のアクチュエータを制御するために使用され得る第2の信号の例示的な変形形態を例示する。例えば、第2の信号710は、関節の速度に概ね線形的に比例する単純化された摩擦モデルに基づいてもよい。別の例として、
図7に示されるように、第2の信号720は、概ね線形であり、ストライベック効果を用いるクーロン摩擦及び粘性摩擦モデルのためのモデルに近似する、適度に詳細な摩擦モデルに基づいてもよい。更に別の例として、
図7に示されるように、第2の信号730は、曲線状であり、ストライベック効果を用いるクーロン摩擦及び粘性摩擦のためのモデルをより綿密に近似する、更により詳細な摩擦モデルに基づいてもよい。これら及び他の好適な変形形態では、速度に対する第2の信号の大きさ(例えば、
図7に示すような信号710の勾配)は、例えば、動的摩擦力の測定値に基づいて(例えば、設計及び開発プロセス中、製造中、較正チェック中、静止摩擦力の測定について上記したものと同様のリアルタイム又はほぼリアルタイムなどで)調整されてもよい。
【0049】
いくつかの変形形態では、1つ又は2つ以上の可動関節内のアクチュエータは、上記した重力補償モード及び摩擦補償モードの両方でロボットアームを動作させることによって、重力及び摩擦の両方を同時に補償するように駆動されてもよい。例えば、いくつかの変形形態では、第2の信号は、動的摩擦又は粘性摩擦を補償する助けとなることに加えて、不完全な重力補償を補償する助けとなるように生成されてもよい。例えば、第2の信号が基づく摩擦モデルは、重力補償のために計算された力が、(例えば、重力による追加のバック駆動を検出する1つ又は2つ以上のセンサなどを用いて)重力補償には不十分であると決定される場合、関節上の全体的な印加負荷を増加させるように人為的に(例えば、大きさを)調整されてもよい。逆に、重力補償のために計算された力が重力補償には過剰であると決定される場合、摩擦モデルは、関節上の全体的な印加負荷を減少させるように人為的に調整されてもよい。更に、いくつかの変形形態では、本明細書に説明される変調信号のオフセットを使用して、静止摩擦に打ち勝つのを助けてもよい。(例えば、変調信号の低周波数波形成分のオフセットを)追加的に又は代替的に、不完全な重力補償を補償する助けとなるように適用してもよい。
【0050】
いくつかの変形形態では、
図5に示されるように、方法は、ロボットアームの少なくとも1つの可動関節560の運動の変化を検出することを更に含んでもよい。関節の運動の変化を検出することに応答して、方法は、その関節のアクチュエータを駆動するための異なる種類の信号を生成することに戻ることができる。例えば、関節の非運動を検出すると(例えば、ユーザーがロボットアームの関節を操作することを停止したとき)、方法は、変調信号510を生成し、変調信号520に基づいて関節内のアクチュエータを駆動することに戻ってもよく、これは、容易にあらゆる方向においてユーザーによって操作される可動関節を再び準備することができる。上記したものと同様に、制御システムが変調信号に基づいてアクチュエータを駆動することに戻るとき、制御システムは、重力を補償するのを助けるためにアクチュエータを同時に駆動してもよい。したがって、いくつかの変形形態では、重力補償と摩擦補償との組み合わせにより、ロボットアームを手動で操作し、ロボットアームを一時的に離れ、ロボットアームを容易に(及びロボットアーム内の重力及び/又は摩擦によって引き起こされる複雑化なしで)手動で操作し続けることを望むユーザーを支援してもよい。
【0051】
前述の説明は、説明目的であり、特定の専門用語を使用して、本発明の徹底した理解を提供するものである。しかしながら、特定の詳細が、本発明の実施のために必ずしも必要ではないことが、当業者に明らかであろう。したがって、本発明の特定の実施形態の前述の説明は、例示及び説明の目的で提示されている。これらは、網羅的であること、又は開示される正確な形態に本発明を限定することを意図するものではなく、明らかに、上記の教示を考慮することで、多くの修正及び変形が可能である。本発明の原理及びその実際の適用を最も良く説明するために、実施形態が選択され、説明され、そのため、当業者ならば、本発明と、様々な変更を伴う様々な実施形態を、想定される特定の用途に適したものとして最も良く利用することができる。以下の特許請求の範囲及びその均等物が、本発明の範囲を定義することを意図している。