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▶ ウルトラ、コンダクティブ、コッパー、カンパニー、インコーポレイテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】伸線方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   B21C 1/00 20060101AFI20220328BHJP
   C01B 32/194 20170101ALI20220328BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
B21C1/00 C
C01B32/194
H01B13/00 501Z
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020533870
(86)(22)【出願日】2018-08-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 IB2018056271
(87)【国際公開番号】W WO2019043497
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-04-20
(31)【優先権主張番号】15/691,047
(32)【優先日】2017-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520070736
【氏名又は名称】ウルトラ、コンダクティブ、コッパー、カンパニー、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ULTRA CONDUCTIVE COPPER COMPANY, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】ホルスト、ヤーコブ、アダムズ
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0262726(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105097130(CN,A)
【文献】特開平5-305488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 1/00
C01B 32/194
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻かれたシートを備えたロッドを準備する工程であって、前記シートは複数の銅層と複数のグラフェン層とを備える、工程と、
前記巻かれたシートの内層を前記ロッドから引き出して螺旋体を形成する工程と、
前記螺旋体を送ってダイユニットの開口を通過させることによりワイヤを形成する工程と、
を備える伸線方法。
【請求項2】
前記開口は、楕円形断面及び円形断面のうちの少なくとも一方を有する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記開口は、前記螺旋体の送り方向に対して傾斜角を有する、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記傾斜角は、5°より大きい、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記傾斜角は、30°以下である、
請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記ワイヤ形成工程は、
前記螺旋体を送って前記ダイユニットの第1開口を通過させる工程と、その後に螺旋体を送って前記第1開口の下流の前記ダイユニットの第2開口を通過させる工程と、を備え、
前記第2開口は、前記第1開口より小さい、
請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記第1開口及び前記第2開口のうちの少なくとも一方の断面は、楕円形断面及び円形断面のうちの一方を有する、
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1開口は、前記螺旋体の送り方向に対する第1傾斜角を有し、前記第2開口は、前記螺旋体の送り方向に対する第2傾斜角を有する、
請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1傾斜角又は前記第2傾斜角は、5°より大きい、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1傾斜角又は前記第2傾斜角は、30°以下である、
請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記第2傾斜角は、前記第1傾斜角と異なる、
請求項8乃至10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記螺旋体を送る工程は、前記螺旋体を引っ張って及び/又は押して前記開口を通過させる工程を備える、
請求項1乃至11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記螺旋体を送る工程は、複数の回転する引張ロールにより前記螺旋体を引っ張って前記開口を通過させる工程を備える、
請求項1乃至12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記シートは、第1面側上の第1銅層と、前記第1面側とは反対の第2面側上の第2銅層と、を備える、
請求項1乃至13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記シートは、銅層と、前記銅層を間に挟む第1及び第2グラフェン層と、を備える、
請求項1乃至14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
開口を備えたダイユニットと、
巻かれたシートの内層を引き出して螺旋体を形成するように構成され動作する引出ユニットであって、前記シートは複数の銅層と複数のグラフェン層とを備える、引出ユニットと、
前記螺旋体を送って前記ダイユニットの前記開口を通過させるようになされた送りユニットと、
を備えた伸線システム。
【請求項17】
前記開口は、楕円形断面及び円形断面のうちの一方を有する、
請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記開口は、前記螺旋体の送り方向に対する傾斜角を有する、
請求項16又は17に記載のシステム。
【請求項19】
前記ダイユニットは、第1開口と、送り方向において前記第1開口の下流の第2開口と、を備え、前記第2開口は、前記第1開口より小さい、
請求項16乃至18のいずれかに記載のシステム。
【請求項20】
前記送りユニットは、前記螺旋体を引っ張って前記開口を通過させるようになされた引張ユニットを備える、
請求項16乃至19のいずれかに記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数の銅層と複数のグラフェン層とを備えた巻かれたシートを伸線する方法及びシステムに関し、特に高い導電性を有する調整された寸法のワイヤを形成するための方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
銅は、費用対効果が高く信頼性の高い導電性材料として知られており、その導電性能力は銀に次ぐものである。電力需要の増加や、電気をより効率的に且つ環境に優しく生成して送る必要性により、高い導電性を有する導体が模索されている。
【0003】
応用物理ジャーナル(Journal of Applied Physics)(2013、114、063107)にT.Gao等により記載されているように、銅薄膜に比べて銅ナノワイヤの電気性能を改良する集中的な研究が実施された。しかし、一般に、このようなナノワイヤの有効導電率は、その理想的なバルク値より顕著に高いものではなく、技術的制約に大きく依存する場合がある。
【0004】
同時係属中の米国特許出願第15/290,865号に、銅層を挟む第1及び第2グラフェン層を備えた複合構造体において、導電性を高めるための技術が記載されている。
【発明の概要】
【0005】
伝導要素を作製するための既知の技術は、複数の銅層と複数のグラフェン層とを備えた多層複合構造体を形成することにより改良することができる。
【0006】
この目的は、独立請求項1に記載の伸線方法、及び独立請求項16に記載の伸線システムにより達成される。従属請求項は、好適な実施形態に関する。
【0007】
本開示は、巻かれたシートを備えたロッド(棒状物)を準備する工程であって、前記シートは複数の銅層と複数のグラフェン層とを備える工程と、前記巻かれたシートの内層を前記ロッドから引き出して螺旋体(螺旋状物)を形成する工程と、前記螺旋体を送ってダイユニットの開口を通過させることによりワイヤを形成する工程と、を備える伸線方法に関する。
【0008】
伸線技術により、特にダイユニットの開口の形状及び/又は直径を制御することで、巻かれた多層シートから所望の形状及び直径を有するワイヤを効率的に形成することができる。
【0009】
巻かれたシートの内層を引き出す工程は、巻かれたシートを押して及び/又は引っ張って前記ダイユニットの開口を通過させる工程を備え得る。
【0010】
一例において、前記開口は、楕円形断面、特に円形断面を有する。
【0011】
前記螺旋体は、送り方向に前記開口を通過し得る。
【0012】
一例において、前記開口は、前記螺旋体の前記送り方向に対して傾斜角を有する。
【0013】
前記螺旋体を傾斜角を有する開口を通して送ることにより、前記螺旋体の層同士を互いに対してねじることができる。これにより、結果として得られるワイヤの機械的及び/又は電気的特性の調整が支援され得る。
【0014】
一例において、前記傾斜角は、5°以上、特に10°又は15°以上である。
【0015】
一例において、前記傾斜角は、30°以下、特に25°又は20°以下である。
【0016】
ワイヤ形成工程は、前記螺旋体を送って前記ダイユニットの第1開口を通過させる工程と、その後に前記螺旋体を送って前記第1開口の下流のダイユニットの第2開口を通過させる工程と、を備え、前記第2開口は、前記第1開口より小さい。
【0017】
寸法が段々縮小する開口を通過させる複数段階の伸線工程により、結果として得られるワイヤのサイズや直径を慎重に調整することができる。
【0018】
一例において、前記第2開口の直径及び/又は表面積は、前記第1開口の直径及び/又は表面積より小さい。
【0019】
一例において、前記第1開口及び/又は前記第2開口は、楕円形断面、特に円形断面を有する。
【0020】
前記第1開口は、前記螺旋体の送り方向に対する第1傾斜角を有し得る、及び/又は前記第2開口は、前記螺旋体の送り方向に対する第2傾斜角を有し得る。
【0021】
一例において、前記第1傾斜角及び/又は前記第2傾斜角は、5°以上、特に10°又は15°以上である。
【0022】
一例において、前記第1傾斜角及び/又は前記第2傾斜角は、30以下、特に25°又は20°以下である。
【0023】
一部の例において、前記第2傾斜角は、前記第1傾斜角と等しい。
【0024】
別の例において、前記第2傾斜角は、前記第1傾斜角と異なる。
【0025】
前記傾斜角を変えることで、前記ねじれ角を微調整することができるため、結果として得られるワイヤの機械的及び/又は電気的特性を微調整することができる。
【0026】
前記螺旋体を送って単数又は複数の追加の開口を通過させることにより、ワイヤの機械的及び/又は電気的特性を更に微調整することができる。
【0027】
特に、ワイヤ形成工程は、前記螺旋体を送って前記第2開口の下流の前記ダイユニットの第3開口を通過させる工程と、を備えてもよく、前記第3開口は、前記第2開口より小さい。
【0028】
特に、前記第3開口の直径及び/又は表面積は、前記第2開口の直径及び/又は表面積より小さくてもよい。
【0029】
前記第3開口は、楕円形断面、特に円形断面を有し得る。
【0030】
前記第3開口は、前記螺旋体の送り方向に対する第3傾斜角を有し得る。
【0031】
前記第3傾斜角は、5°以上、特に10°又は15°以上であり得る。
【0032】
前記第3傾斜角は、30以下、特に25°又は20°以下であり得る。
【0033】
一部の例において、前記第3傾斜角は、前記第2傾斜角及び/又は前記第1傾斜角と等しい。
【0034】
別の例において、前記第3傾斜角は、前記第2傾斜角及び/又は前記第1傾斜角と異なる。
【0035】
一例において、前記螺旋体の前記送り工程は、前記螺旋体を押して及び/又は引っ張って前記開口を通過させる工程を備える。
【0036】
前記螺旋体を押して及び/又は引っ張って前記開口を通過させることにより、多層複合構造体を形成するために必要な引張力と融合力とが同時に得られる。
【0037】
一例において、前記螺旋体の前記送り工程は、複数の回転する引張ロールにより前記螺旋体を引っ張って前記開口を通過させる工程を備える。
【0038】
一例において、前記引張ロールは、更に、前記螺旋体の周囲、特に前記螺旋体の長手方向軸の周囲を周回し得る。
【0039】
前記引張ロールを前記螺旋体の周囲に、それらの間に事前に選択可能な間隔を置いて周回させることにより、ワイヤは所望の慎重に制御された外径及び最適な円形状を有し得る。
【0040】
本開示の意味における銅層は、銅を含む層を指すものとして理解され得る。一部の例において、前記銅層は純銅層であり、特に銅層は少なくとも90重量%の銅を含む。別の例において、前記銅層は、銅の他に銅とは異なる成分や材料を含み得る。
【0041】
一例において、複数の銅層のうちの少なくとも1つの銅層の一部は、(111)結晶方位を有する。
【0042】
本開示による前記シートは、任意の数の銅層を含み得る。
【0043】
一例によれば、複数の銅層のうちの少なくとも1つの銅層は、500μm以下又は100μm以下、特に50μm以下の厚さを有し得る。
【0044】
一例において、複数の銅層のうちの少なくとも1つの銅層は、25μm以下又は10μm以下、特に5μm以下の厚さを有する。
【0045】
薄い銅層により、結果として得られるマルチ複合ワイヤ構造体において銅の堆積割合がグラフェンに対して減少する。これにより、結果として得られるワイヤの導電性、熱伝導性及び/又は機械的強度を高めることができる。
【0046】
また、前記銅層の厚さを小さくすることにより、銅内の非弾性電子散乱量を減少させ得るため、更に導電性が向上し得る。
【0047】
一例において、複数の銅層のうちの少なくとも1つの銅層は、2μm以下、特に1μm以下の厚さを有する。
【0048】
一例において、複数の銅層のうちの少なくとも1つの銅層は、少なくとも1μm、特に少なくとも5μmの粒径を有する。
【0049】
銅層の粒径を大きくすると、銅層内の非弾性散乱が減少し得るため、導電性が向上する。
【0050】
一例において、複数の銅層のうちの少なくとも1つの銅層は、少なくとも10μm、特に少なくとも50μmの粒径を有する。
【0051】
本開示の意味における粒径は、結晶粒界間の平均距離を指し得る。
【0052】
一例において、前記シートは、第1表面側に接する第1銅層と、前記第1表面側とは反対の第2表面側に接する第2銅層と、を備える。
【0053】
このような構成において、前記螺旋体の巻線は外側表面層に銅を含むため、巻線が均一に融合することが防止されるとともに、得られたワイヤを、はんだ付け、クランプ、クリンプ留め等によってソケットやプラグ等に接続するのに最適な条件が提供される。
【0054】
前記銅層を滑りやすくするようにグラフェン層を前記シートの内部に設けてもよい。これにより、巻かれたシートの内層を引き出して螺旋体を形成することが支援され得る。
【0055】
一例において、前記シートは、銅層と、前記銅層を挟む第1及び第2グラフェン層と、を備える。
【0056】
一般に、前記シートは任意の数のグラフェン層を備え得る。
【0057】
前記シートにおいて、前記グラフェン層のうちの少なくとも一部は、前記銅層のうちの少なくとも一部と交互になっていてもよい。
【0058】
銅とグラフェンとからなる結果として得られる多層複合構造体は、優れた導電性、熱伝導性、及び機械的強度を呈し得る。
【0059】
本開示の意味におけるグラフェンは、炭素原子がグラファイトのように六角形に配設されるとともに、一般にsp混成された炭素含有層を指し得る。結果として得られる構造は、融合した6員炭素環のハニカム状六角形パターンであり得る。
【0060】
グラフェンという用語は、炭素単層からなる構成を指すことがあるが、実際には、少数の層をグラフェンと称することもある。
【0061】
一部の例において、前記グラフェンは炭素のみを含む。別の例において、前記グラフェンを、炭素原子とは異なる原子及び/又は分子を含むようにドーピングしてもよい。
【0062】
一例において、複数のグラフェン層のうちの少なくとも1つのグラフェン層は、5nm以下、特に2nm以下の厚さを有する。
【0063】
一例において、複数のグラフェン層のうちの少なくとも1つのグラフェン層は、最大で20のグラフェン単層、特に最大で10のグラフェン単層を含み得る。
【0064】
特に、複数のグラフェン層のうちの少なくとも1つのグラフェン層は、単層であっても二層であってもよい。
【0065】
一例において、複数のグラフェン層のうちの少なくとも1つのグラフェン層は、金属原子、特にグラフェン環の環中心に位置する金属原子を含む。
【0066】
グラフェンを環中心に配置された非局在化された金属原子で官能化すると、グラフェン構造の六方格子特性を変更することなく、グラフェン層を銅マトリックスに堅固に接続するための固定点を形成することができる。
【0067】
一例において、前記金属原子は、銀原子を含む。
【0068】
更に、本開示は、開口を備えたダイユニットと、巻かれたシートの内層を引き出して螺旋体を形成する引出ユニットであって、前記シートは複数の銅層と複数のグラフェン層とを備える、引出ユニットと、前記螺旋体を送って前記ダイユニットの前記開口を通過させる送りユニットと、を備えた伸線システムに関する。
【0069】
一部の例において、前記ダイユニット及び/又は前記引出ユニット及び/又は前記送りユニットは、別個のユニットであり得る。
【0070】
別の例において、前記ダイユニット及び/又は引出ユニット及び/又は送りユニットの一部又は全てを組み合わせて共通のユニットとし得る。
【0071】
特に、前記引出ユニットは、前記送りユニットを備え得る。組み合わせた引出-送りユニットは、巻かれた前記シートをダイユニットに向けて押して前記ダイユニットの開口を通過させることで、小径の内層を引き出して螺旋体を形成する押しユニットを備え得る。
【0072】
前記開口は、巻かれた前記シート又は前記螺旋体の直径より小さい直径であって、巻かれた前記内層の直径より大きい直径を有し得る。特に、これにより、巻かれた前記シートを前記開口の境界に押し付けることにより巻かれた前記シートの内層を引き出すことができ、これにより前記内層を引き出して前記開口を通過させることができる。
【0073】
前記開口の反対側から前記内層を引っ張る引張ユニットは、前記内層を引き出すとともに前記螺旋体を送って前記開口を通過させることを支援し得る。
【0074】
前記開口は、楕円形断面、特に円形断面を有し得る。
【0075】
前記開口は、前記螺旋体の送り方向に対する傾斜角を有し得る。
【0076】
一例において、前記ダイユニットは、第1開口と、送り方向において前記第1開口の下流の第2開口と、を備え、前記第2開口は、前記第1開口より小さい。
【0077】
前記ダイユニットは、前記送り方向において前記第2開口の下流の第3開口を更に備え得る。前記第3開口は、前記第2開口より小さい。
【0078】
前記第1開口は、前記螺旋体の前記送り方向に対する第1傾斜角を有し得る。
【0079】
前記第2開口は、前記螺旋体の前記送り方向に対する第2傾斜角を有し得る。
【0080】
前記第3開口は、前記螺旋体の前記送り方向に対する第3傾斜角を有し得る。
【0081】
前記第1、第2及び第3傾斜角は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0082】
一例において、前記第1傾斜角及び/又は前記第2傾斜角及び/又は前記第3傾斜角は、5°以上、特に10°又は15°以上である。
【0083】
一例において、前記第1傾斜角及び/又は前記第2傾斜角及び/又は前記第3傾斜角は、30°以下、特に25°又は20°以下である。
【0084】
一例において、前記送りユニットは、前記螺旋体を押して前記開口を通過させる押しユニットを備える。
【0085】
代替的に又は追加的に、前記押しユニットは、前記螺旋体を引っ張って前記開口を通過させる引張ユニットを備え得る。
【0086】
一例において、前記引張ユニットは、複数のロール、特に複数の回転するロールを備える。
【0087】
一例において、前記引張ロールは、更に、螺旋体の周囲、特に螺旋体の長手方向軸の周囲を周回するように構成される。
【0088】
以上では、伸線方法及び伸線システムの特徴が別個に説明されている。しかしながら、一部の例において、これらの特徴の一部又は全部を組み合わせてもよい。
【0089】
本開示による伸線方法及びシステムを、グラフェン層に挟まれた銅層を備える複合構造体、及びこのような複合構造体を積層することにより形成された多層構造体を参照して以下に説明する。しかしながら、これは単なる一例であり、本開示は、複数の銅層と複数のグラフェン層とを備えた任意の巻かれたシートを伸線することに関する。
【0090】
本開示の効果及び多数の利点が、添付図面を参照してなされる実施例の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0091】
図1】一例による複合構造体の概略断面図。
図2】一例による複合構造体の電子トンネル効果を示す概略断面図。
図3】一例による、複合二層構造体(複合二重層構造体)の概略断面図。
図4】一例による複合構造体を形成するための方法を示すフロー図。
図5】一例による複合構造体を形成するためのシステムを示す概略図。
図6】一例による逆回転ローラを有する搬送ユニットの概略図。
図7】一例によるプラズマ管を採用して複合構造体を形成するためのシステムの概略図。
図8】一例による複合構造体を形成するためのシステムを示す概略図。
図9】一例による複合構造体における結晶粒界散乱の効果を説明するための概略断面図。
図10】一例による被覆及び結晶粒粗大化の効果を示す概略図。
図11a】一例による金属原子を有するグラフェン層のヘキサ-ヘプタ官能化を示す図。
図11b】一例による金属原子を有するグラフェン層のヘキサ-ヘプタ官能化を示す図。
図12】一例による多層複合構造体を形成するための方法を示すフロー図。
図13】一例による多層複合構造体を形成するための方法を示すサイクル図。
図14】一例による多層複合構造体を形成するためのシステムの概略図。
図15】別の例による多層複合構造体を形成するためのシステムの概略図。
図16】一例による巻かれた被覆シートを示す図。
図17a】一例による圧縮ユニットを概略的に示す図。
図17b】一例による圧縮ユニットを概略的に示す図。
図18a】一例による巻かれた被覆シートを圧縮する結果を概略的に示す図。
図18b】一例による巻かれた被覆シートを圧縮する結果を概略的に示す図。
図18c】一例による巻かれた被覆シートを圧縮する結果を概略的に示す図。
図19】一例による伸線方法を示すフロー図。
図20】一例による伸線システムを概略的に示す図。
図21】一例によるバンド螺旋体を形成するように引き出された複合巻き体の概略斜視図。
図22a】一例による伸線システムの機能を示す図。
図22b】一例による伸線システムの機能を示す図。
図23a】一例による二層グラフェン構造体(二重層グラフェン構造体)における積層モードを示す図。
図23b】一例による二層グラフェン構造体(二重層グラフェン構造体)における別の積層モードを示す図。
図23c】一例による二層グラフェン構造体(二重層グラフェン構造体)における別の積層モードを示す図。
図24a】一例による二層グラフェン構造体(二重層グラフェン構造体)の異なる積層モード間の変換を示す図。
図24b】一例による二層グラフェン構造体(二重層グラフェン構造体)の異なる積層モード間の変換を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0092】
図1は、一例による複合構造体10を断面図にて概略的に示す。複合構造体10は、第1(下方)グラフェン層14aと第2(上方)グラフェン層14bとにより挟まれた銅層12を備える。
【0093】
銅層12は、特に(111)結晶方位における純銅(Cu)で形成され得る。しかし、別の例において、銅層は、銅以外の追加材料、例えば以下に詳細に記載するようなドープ原子又はナノ粒子等を含む。
【0094】
図1に示す銅層12は、第1グラフェン層14aと第2グラフェン層14bとの間において、幅又は厚さdを有して延びる。dは、一般に25μm以下である。例えば、銅層12は、20μm又は10μmの厚さで形成され得る。別の例において、銅層12は、2μm以下又は1μm以下の厚さで形成され得る。
【0095】
第1グラフェン層14a、及び第2グラフェン層14bは、一般に銅層12よりはるかに薄く、特に、単一のグラフェン単層又は複数のグラフェン単層を含むグラフェン層であり得る。図1において、グラフェン層14a、14bの幅又は厚さを、それぞれd及びdで示す。例えば、d及びdは、両者とも5nm、2nm、又はこれ未満であり得る。
【0096】
グラフェン単層構造において、伝導バンドは、原子価バンドに、ディラック点と称される単一点において接触する。無限の小さなバンドギャップは、グラファイトとは対照的なグラフェン単層の優れた導電性を説明する。
【0097】
第1グラフェン層14a及び第2グラフェン層14bは、銅層12に化学的に接続又は結合可能である。例えば、以下で更に詳細に説明するように、第1グラフェン層14a及び第2グラフェン層14bを、化学蒸着(化学気相成長、化学気相蒸着)によって銅層12に堆積させる(積層する、成膜する)。
【0098】
図1の概略図において、幅方向d1、da及びdbが、z方向を規定する。銅層12、第1グラフェン層14a、及び第2グラフェン層14bは、幅方向zに対して垂直な平面空間方向x、yにおいて空間的に広く延び得る。これにより、複合構造体10は、以下で詳述するように薄い箔を形成する。
【0099】
銅をグラフェン被覆することで、表面ひずみ等の機械的変形を防ぐ顕著な面内剛性が得られることが知られている。更に、グラフェン被覆は、銅を反応性の化学種又はガス種から保護する不透過性、並びに被覆後の銅表面電位の摂動を回避する低密度状態を呈する。これら全ての優れた物理的特性は、グラフェンを銅サンプルに対する理想的な非相互作用バリアとするとともに、全体的な酸化及び表面汚染を防止し、且つ複合構造体が優れたパラメータを有することに貢献し得る。
【0100】
更に図1は、銅層12を移動する電子eの経路16を概略的に示す。図1から理解されるように、電子eは、銅層12と第1グラフェン層14a及び第2グラフェン層14bそれぞれとの境界で繰り返し散乱する。グラフェン層14a、14bは、銅層12の表面を保護し、非常に滑らかで傷やしわのない層をもたらす。特に、Cu(111)表面で成長したグラフェンは、Cuの表面状態と非常に弱くしか相互作用しない。グラフェンの炭素2p軌道とCu4p軌道との比較的弱い結合により、主として弾性的な表面散乱が生じ、これにより、複合構造体10の平面方向x、yにおける導電性(電気伝導性)が低下する。
【0101】
また、グラフェン層14a、14bは、複合構造体10の熱伝導性を向上させる。一般に、熱装置の設計は、電気工学及びマイクロプロセッサ工学の重要な一部になりつつある。グラフェン層14a、14bの高い熱伝導性により、熱伝導のための平行フォノン成分が提供され得る。
【0102】
また、グラフェン層14a、14bは、複合構造体10の平面方向x、yにおける機械的強度を高める。
【0103】
図2は、図1に全体的に対応する複合構造体10の概略断面図であり、トンネル機構を示す。トンネル機構において、電子がグラフェン層14a、14bの一部を通り抜ける(トンネルする)ことにより、更に高い電気伝導性がもたらされる。薄い銅層12、具体的には幅d1が銅のわずかな電子平均自由経路長の範囲にある銅層12を有する複合構造体10は、電子がわずかな抵抗率しか受けない導波管のような構造を呈する。この効果は、量子電気力学的に説明される電子の波動性を利用するものである。特に、銅層12を通過する電子は、グラフェン層14a、14bに形成される電子トンネル18を通り抜ける(トンネルする)ことができる。電子は、理想的なグラフェン単層14a、14bを光束に近い速度で移動するが、銅層12における電子の速度は一般にずっと遅く、且つ種々の散乱効果によっても制限される。このため、銅/グラフェン界面に近づく電子波は、衝突位置ではなく、(図2において右方への)流れ方向において更に下方に後方散乱しているように見える。図2の電子経路16に示すように、電子は、グラフェン層14bから銅層12内に依然として後方散乱するが、これは、電子がグラフェン層14bを移動した(トンネルした)距離に対応する変位を伴う。量子アプローチにおいては、銅とグラフェンとにおける電子速度には大きな差があるため、電子eは、従来の粒子アプローチよりはるかに高速で複合構造体10内の特定距離を移動する。一般により速い電子速度がより良好な導電性に相当すると仮定すると、グラフェン層14a、14bに挟まれた薄い銅層12を有する複合構造体10において生じ得る電子トンネル現象は、導電性を向上させる。
【0104】
この効果は、クライン効果(Klein effect)の観点から更に詳しく説明できる。ディラックハミルトニアン(Dirac Hamiltonian)の特異な性質は、(電子等の)電荷キャリアを静電ポテンシャルによって閉じ込めることができないことである。従来の導体では、電子が電子の運動エネルギーを超えるポテンシャル高さを持つ静電バリアに衝突すると、電子波動関数はバリア内で消失し、バリアへの距離が増加するにつれて指数関数的に減衰する。これは、バリアの背が高く且つ幅が広くなるほど、電子波動関数が反対側に到達する前に更に減衰するであろうことを意味する。したがって、通常、バリアが高く且つ広くなるほど、電子量子がバリアを通り抜ける(トンネルする)確率が低くなる。
【0105】
しかしながら、粒子がディラック方程式により支配されている場合、バリアの高さが増加するにつれて粒子が透過する確率は実際には増加する。高いバリアに衝突したディラック電子は、ホールになって反対側に到達するまでバリアを伝わり得る。そして、反対側で、ホールは電子に戻り得る。この現象は、クライントンネル現象と呼ばれることもある。
【0106】
この現象について考えられる説明の1つは、バリアの高さが増加することで、バリア内のホールの波動関数とバリア外の電子との間のモードマッチングの度合いが増加し得るということである。モードが完全に一致する場合(これは、無限に高いバリアの場合に対応するかもしれない)、完全にバリアを透過し得る。
【0107】
これらの考察を、図2に示す複合構造体10に適用すると、グラフェン層14a、14bは、電気的に見えないほど薄く、これにより、電子を、グラフェン及びトンネルの反対側の銅層を通して「見る」ことができる。電子が電子トンネル18内に入るとすぐに、電子ははるかに高い伝導率を得て、主電流の方向において加速する。
【0108】
図3の概念断面図に示すように、図1及び2を参照して説明したような複数の複合構造体10を積み重ねて(積層して)多層複合構造体20を形成することができる。積層された多層複合構造体20において、第1複合構造体10の第1グラフェン層14aが、別の複合構造体10’の第2グラフェン層14’に直接接触して配置される。
【0109】
図3は、2つの基本複合構造体10、10’を有する多層複合構造体20を示すが、一般に、多数の複合構造体を同様にして積層することができる。
【0110】
図3から理解されるように、多層複合構造体20は、隣接する複合構造体10、10’の一対のグラフェン層14a、14b’により形成されるグラフェン二層(グラフェン二重層)22を備えている。
【0111】
グラフェン二層22は、上述のクライン効果を特に活用する。なぜならば、グラフェン二層22は、隣接する複合構造体10の銅層12間において、グラフェン層14a、14b’に形成された電子トンネル18、18’を通って、電子が前後に移動する(トンネルする)ことを可能にするからである。図面を参照して説明すれば、グラフェン二層22の隣接するグラフェン層14a、14b’が、多層複合構造体20を通過する高速トンネル経路を形成するため、優れた電気伝導性が得られる、ということである。
【0112】
この効果は、2つの隣接するグラフェン層14a、14bのみを有する多層複合構造体20において特に顕著であり得る。3つ以上の層を有する場合には、少なくとも1つのグラフェン層が銅に直接接続しないであろう。
【0113】
図1乃至3を参照して説明した複合構造体10及び多層複合構造体20を、良好な電気伝導性を有する電気ケーブルやワイヤを形成するように採用することができる。
【0114】
図4は、複合構造体を形成する方法を示す概略フロー図である。
【0115】
第1工程S10において、第1表面側(第1面側、第1面側部、第1表面側部)と第1表面側とは反対の第2表面側(第2面側、第2面側部、第2表面側部)とを有する銅箔を準備する。銅箔は、25μm以下の厚さを有する。
【0116】
第2工程S12において、銅箔の第1表面側に第1グラフェン層を堆積させ、銅箔の第2表面側に第2グラフェン層を堆積させる。
【0117】
複数の被覆技術を利用して、銅箔に第1グラフェン層及び第2グラフェン層を堆積させることができる。例えば、堆積は、化学蒸着(化学気相堆積)技術を含み得る。化学蒸着(CVD)装置24を、図5に概略的に示す。対応する装置は、Polson、McNerney、Viswanathらにより、Nature Scientific Reports 2015年5月、10.1038/srep10257に詳細に記載されている。
【0118】
図5に示すCVD装置24は、複数の搬送ロール26a、26bを有する搬送ユニットであって、薄い銅箔28をアニーリングゾーン30、及びこのアニーリングゾーン30の下流の成長ゾーン32を順に通過させて搬送する搬送ユニットを備える。
【0119】
アニーリングゾーン30において、銅箔28は、純アルゴンガス流(図5に矢印で示される)の存在下で500℃乃至1000℃の範囲の温度に加熱され得る。銅箔28を高温で20乃至30分間保持することにより、銅箔28がアニーリングされて表面が非常に平滑になる。更に、粒成長が開始され得る。
【0120】
化学蒸着は、成長ゾーン32において実施される。ここで、メタン等の前駆体ガスにより供給される炭素原子を銅箔28の表面として堆積させる。前駆体ガスの流れも、図5に同様に矢印で示す。加熱ワイヤ34a、34bが、アニーリングゾーン30及び成長ゾーン34の長さに沿って配置され、アニーリング温度を提供するとともに前駆体ガスの分子を分解する。
【0121】
大気CVD条件下でのグラフェン合成は、成長ゾーン32において、アルゴンとメタンとの混合ガスを使用して500℃乃至1000℃の温度で実施され得る。0.2容量%乃至1容量%で変化するメタンガス濃度を利用した場合、総面積の96%までの単層グラフェン成長が観察された。より高いメタン濃度にすれば、多層グラフェン構造体が形成されるであろう。
【0122】
高温で銅箔28上にグラフェン単層を形成することにより、銅表面上に(111)結晶構造体が好適に形成されることも観察された。場合により、グラフェン層は、銅箔28の銅表面に対して一種のテンプレートとして機能し得る。これにより、(111)結晶銅構造体の形成が促進される。なぜならば、この構成では、銅とグラフェンとの格子サイズがほとんど一致しているからである。
【0123】
図5に示すCVD装置24を採用して、銅箔28の単一の表面側(面側、面側部、表面側部)にグラフェン層を堆積させることができる。図1及び2を参照して説明した複合構造体10を得るように銅箔28の両側にグラフェン層14a、14bを堆積させるには、銅箔28の表面の向きを反対にして、銅箔28をCVD装置24において2回通過させればよい。
【0124】
図6に示すように、表面の向きは、一対の逆回転搬送ロール36a、36bを備える搬送ユニットによって変更され得る。例えば、第1搬送ロール36aが、第1(時計回り)方向に回転しつつ、銅箔28を反対(反時計回り)方向に回転する第2搬送ロール36bに送って銅箔28の向きを変更してもよい。
【0125】
選択的に、銅箔28をCVD装置24に供給する前に、サンプルを450℃で90分間に亘って水素(70容量-%)及びアルゴン(30容量-%)ガス流に露出することでエッチングし、表面汚染物質を除去してもよい。
【0126】
図7は、本開示の複合構造体を形成するために採用され得る化学蒸着(CVD)装置の概略図である。図7に示すCVD装置38は、図5を参照して説明したCVD装置24と全体的に同様であるが、加熱ワイヤ34a、34bによる電気加熱ではなく、低温プラズマ強化蒸着(冷プラズマ強化蒸着、冷間プラズマ強化蒸着)を採用する。
【0127】
より詳細には、低温プラズマCVD装置(冷プラズマCVD装置、冷間プラズマCVD装置)38は、搬送ロール26a、26bを有する搬送ユニットであって、薄い銅箔28を成長ゾーン32を通過させて搬送する搬送ユニットを備える。(図7の概略図に示さない)供給ユニットが、炭素を含む前駆体ガスを成長ゾーン32に案内する。これにより、図7の矢印で示すように、前駆体ガスは、銅箔28をその両表面側(両面側、両面側部、両表面側部))において通過し循環する。例えば、前駆体ガスは、メタン及び/又はブタン及び/又はプロパンを含み得る。
【0128】
図7から更に理解されるように、プラズマ管を備えた複数のプラズマユニット40が、成長ゾーン32において銅箔28の両側に設けられ、前駆体ガスの分子を分解する低温プラズマ放電(冷プラズマ放電、冷間プラズマ放電)を生成する。これにより、銅箔の両表面が炭素原子で被覆され、第1及び第2グラフェン層14a、14bが形成される。図7及び上記から理解されるように、低温プラズマCVD装置38は、グラフェン層14a、14bを銅箔28の両表面側に同時に堆積させることができるため、プロセス効率が向上してサイクル時間が短縮される。
【0129】
先行するエッチング及び/又はアニーリングは、図5を参照して上述したのと同じ態様で実施され得る。
【0130】
別の例による低温プラズマCVD装置(冷プラズマCVD装置、冷間プラズマCVD装置)38’を、図8の斜視図に概略的に示す。
【0131】
図8から理解されるように、低温プラズマCVD装置38’は、図7の構成と同様に、複数の搬送ロール42a乃至42eを有する搬送ユニットを備え、搬送ロール42a乃至42eは銅箔28を成長ゾーン32に通過させて搬送する。供給ユニット44が、メタン等の前駆体ガスを供給して成長ゾーン32に案内する。これにより、図8の矢印で示すように、前駆体ガスは、銅箔28をその両表面側において通過し循環する。プラズマ管を有する複数のプラズマユニット40を備えた堆積ユニットが、低温プラズマ放電を提供して前駆体ガスの分子を分解する。これにより、炭素を、第1及び第2グラフェン層14a、14bとして銅箔の両表面側に堆積させる。
【0132】
なお、銅箔28が成長ゾーン32を水平方向に通過して搬送される図7の構成とは異なり、図8の構成では、搬送ロール42a乃至42eは、銅箔28を成長ゾーン32を鉛直方向に、すなわち、CVD装置38’が設置されている重力場の方向に対応する方向に搬送する。これにより、銅箔28の両表面側をより均一に被覆することが可能となる。
【0133】
先行するエッチング及び/又はアニーリングは、図5を参照して上述したのと同じ態様で実施され得る。
【0134】
図8から更に理解されるように、低温プラズマCVD装置38’は、銅箔28を帯電させるように、搬送ロール42b、42cに電気的に接続された帯電ユニット46を更に備える。更に、帯電ユニット46は、プラズマユニット40に電気的に結合されて、銅箔28の電荷とは反対の電荷で前駆体ガスを帯電させる。銅箔28の静電帯電は、銅箔28におけるグラフェン層14a、14bの成長を促進するとともに、グラフェン層14a、14bをより均質で均一なものとし得る。
【0135】
900乃至1000℃の温度に達する炉内での従来のグラフェン成長とは対照的に、低温プラズマ被覆技術(冷プラズマ被覆技術、冷間プラズマ被覆技術)により、およそ650℃程度でよいかなり低い温度でグラフェンを堆積させることができる。温度が低いことにより、銅表面の熱応力が低下し、効率的なグラフェン被覆に有害となり得る銅箔の表面の損傷や結晶再構成が防止される。
【0136】
同時に、低温プラズマ被覆技術で到達する温度は、複合構造体10の銅層12の制御された完璧な結晶粒粗大化を提供するように十分に高い。既に多数の(111)粒配向を有する銅層12から開始することが有利となり得る。これは、次いで、グラフェン堆積後に、Cu原子間隔とグラフェン格子定数との良好な格子整合に支持されて完全な(111)粗粒配向になり得る。
【0137】
図9は、図1及び2に示した複合構造体に概ね対応する複合構造体10の概略図であるが、銅層12に存在し得る粒界48を更に示す。粒界48は、複合構造体10の導電性を妨げ得る非弾性電子散乱の原因となり得る。低温プラズマ被覆プロセス(冷プラズマ被覆プロセス、冷間プラズマ被覆プロセス)の過程で供給される熱エネルギーは、図10に概略的に示すように、結晶粒粗大化、すなわち少なくとも10μm以上の大きな粒径をもたらし得る。大きい粒径は、銅層12内部における電子の非弾性散乱の減少を伴い得るため、より高い導電性に寄与し得る。
【0138】
複合構造体10又は多層複合構造体20の個々の層同士の比較的弱い結合強度は、グラフェンをヘキサ-ヘプタ官能化のように化学的に官能化することにより、強化され得る。特に、銀ナノ粒子等のプラズモニック金属粒子は、六方格子特性を変えずにグラフェン層14a、14bに追加することができる。グラフェンの個々の炭素原子に分子を追加する(共有結合官能化)のではなく、ヘキサ-ヘプタ官能化又は環中心官能化により、銀ナノ粒子等の金属原子をグラフェン環の中心に追加する。結合は、グラフェン環内部で非局在化される。これにより、六角形の配列が歪まずに維持されるため、グラフェンはその独自の電気特性を有し続ける。同時に、金属原子は、グラフェン層14a、14bを下層の銅層12に熱的に接続するための固定点として機能し得る。
【0139】
図11a及び図11bのそれぞれは、特徴的な六角形炭素環を有するグラフェン単層50の平面図及び斜視図であり、炭素環の内部で非局在化したドープ環中心銀ナノ粒子52を示す。
【0140】
上述のように、ヘキサ‐ヘプタ官能化は、無傷の銅(111)表面にグラフェン単層を成長させるCVDの後に実施することができる。これは、2段階のプロセスで構成され得る。すなわち、η-グラフェンCr(Co)の合成とそれに続く銀ナノ粒子の付着である。対応する技術は、S.Cheらにより、2017年6月6日のナノレターズ(Nano Letters)に「環中心官能化及びナノインターフェースによるグラフェンのキャリア移動の保持及びプラズモニック光起電力の強化」に記載されている。
【0141】
多層複合構造体の形成
上述の製造技術により、図1及び図2に示すような、第1及び第2グラフェン層14a、14bにより挟まれた単一の銅層12を有する複合構造体10が提供される。図3に示すような多層複合構造体20が優れた導電性を有するように、被覆銅箔28を積層することができる。
【0142】
一例において、被覆銅箔28を断片又はストライプに細断し、それらの一部を圧力下及び熱下(加熱下)において積層してもよい。
【0143】
一例において、加圧は、熱焼結、マイクロ波焼結、又は交流か直流を含む電場支援焼結等の焼結を伴い得る。
【0144】
例えば、焼結温度は、500℃乃至1000℃の範囲にあり得る。焼結温度及び焼結時間を適切に選択することにより、銅の粒径を更に改良することができる。また、焼結により、銅層がグラフェン結晶構造により良く適合可能となるとともに、これにより銅箔28の銅に結晶学的(111)表面構造が形成されることが促進される。
【0145】
積層は、10MPa乃至300MPaの範囲の機械的圧力下において、焼結及びプレスを組み合わせた装置において実施され得る。
【0146】
図12乃至18を参照して以下で更に詳細に説明する代替的構成において、多層複合構造体20は、被覆銅箔28を巻いて圧縮することにより提供され得る。
【0147】
図12は、一例による複合構造体10を積層したものを含む多層複合構造体20を形成するための方法を示すフロー図である。
【0148】
第1工程S20において、第1及び第2グラフェン層により挟まれた銅含有層を備える第1シート、例えば被覆銅箔28を準備する。
【0149】
第2工程S22において、第1シートを巻いて第1ロッド(第1棒状物)を形成する。
【0150】
第3工程S24において、第1ロッドを圧縮して第1多層複合構造体を形成する。
【0151】
図12に示す一連の工程を、複数回繰り返してもよい。特に、工程S24から得られた多層複合構造体を図7及び8をそれぞれ参照して説明した低温プラズマCVD装置38、38’に戻すことにより、多層複合構造体の両側を再度被覆してもよい。これに続き、二回目又は複数回目の巻き工程及び圧縮工程を実施してもよい。
【0152】
例示的なプロセスサイクルを図13に示す。
【0153】
工程1において、例えば低温プラズマCVD装置38、38’を利用して、グラフェン層を化学蒸着工程により銅含有箔の両側に堆積させる。
【0154】
続く工程2において、得られた箔を丸めて又は巻いて、丸められたグラフェン二層(グラフェン二重層)を形成する。
【0155】
続く工程3において、得られたロッド(棒状物)を圧延ミリング加工して二層ロール(二重層ロール)を二層箔(二重層箔)にする。
【0156】
続く(オプションの)工程4において、無傷の銅表面を得るように二層箔の外面をエッチングしてもよい。これは、箔を工程5においてグラフェンCVD設備に戻す前に実施される。
【0157】
プロセスサイクルは、以下の一連の工程により説明され得る。
0.カウンタをゼロに設定する。
1.CVD被覆設備において、グラフェン単層を銅含有箔の両側に成長させる。
2.次に、被覆箔を巻いて、銅層と二層グラフェン層(二重層グラフェン層)とが交互になった円形の同心円構造のチューブ又はロッドを作製する。
3.次に、金属熱間圧延プレス等によりロッドを圧縮して、多数又は複数のグラフェン二層(グラフェン二重層)相22を含む平坦な銅/グラフェン多層複合バンドを作製する。
4.次に、得られた複合バンドをその両側においてエッチングして、無傷の銅表面を得る。
5.ここで、カウンタを1カウントする。カウンタが所定閾値より小さい場合、得られた構造体をCVD被覆設備に戻すことによりプロセスは工程1に進む。
6.カウンタが所定閾値に達した場合、銅/グラフェン複合バンドを、被覆及び圧延サイクルから取り出す。
【0158】
上述のプロセスサークルを、「CWH-サークル」(被覆(coating)、巻き(wrapping)、熱間圧延(hot‐rolling))と呼んでもよい。プロセスサークルにより、グラフェンの体積分率が図1の単層複合構造体10に比較して著しく高い多層複合構造体を得ることができる。特に、プロセスサークルは、サークルの反復回数を選択することで、マトリックス内のグラフェンの体積分率を変えることができる。これにより、銅/グラフェン複合材料の導電性、熱伝導性、及び/又は機械的強度を所望の値に増加させる及び/又は調整することができる。
【0159】
図14は、上述の技術を利用して多層複合構造体を形成するシステム54の概略図である。
【0160】
システム54は、銅箔28等のシート58を堆積ユニット60に搬送するための搬送ユニット56、例えば複数の従動搬送ロールを備える。
【0161】
堆積ユニット60は、図7及び8を参照して説明した低温プラズマCVD装置38、38’を備え得るとともに、一対のグラフェン層14a、14bをシート58の第1及び第2表面に堆積させて、図1及び2を参照して説明した複合構造体10を有する被覆シート62とする。
【0162】
一例において、堆積ユニット60は、図5を参照して説明したように、堆積成長ゾーンの上流にアニーリングゾーン30を提供するアニーリングユニットを備え得る。
【0163】
搬送ユニット56は、被覆シート62を堆積ユニット60から巻きユニット64に搬送して、被覆シート62を巻いてロッド(棒状物)66にする。巻きユニット64は、被覆シートを巻くための任意の技術を採用できる。例えば、被覆シートを細い円筒状ロールに巻き付け、そしてロールを取り外す。
【0164】
得られたロッド66を、図16に概略的に示す。図16から理解されるように、ロッド66は、巻き付けられる又は丸められることで、図3を参照して説明したように2つのグラフェン層14a、14bが直接接触しているグラフェン二層(グラフェン二重層)構造体を含み、これにより、上述の有利な伝導性を全て有する。
【0165】
更に図14を参照すると、搬送ユニット56は、ロッド66を、巻きユニット64の下流の圧縮ユニット68に搬送し得る。圧縮ユニット68は、ロッド66を圧縮して圧縮シート70にすることができる。
【0166】
例えば、圧縮ユニット68は、図17aの正面図及び図17bの側面図に概略的に示すように、圧延プレス、特に熱間圧延プレスであってもよい。
【0167】
図17a及び17bから理解されるように、熱間圧延プレス68は、ずらして配置された複数のプレスユニット72a、72b、72cを備え得る。これにより、ロッド66はプレスユニット72a、72cを連続的に搬送方向(図17a、17bの中央の矢印で示す)において通過することで薄型の長いバンド(帯状)等の圧縮シート70に変わる。
【0168】
図17a及び17bは、ずらして配置された3つのプレスユニット72a、27b、72cを有する圧縮ユニット68を示す。しかしながら、これは単に例示であり、別の構成において、圧縮ユニット68は、これより多い又は少ない個数のプレスユニットを備え得る。
【0169】
圧縮ユニット68は、圧縮中にロッド66を加熱する加熱ユニット(図示せず)を更に備え得る。熱間圧延は、2つの有利な効果を提供し得る。すなわち、一方で、熱間圧延により、図9及び図10を参照して説明したように、銅の粒径を増大させることで、粒子散乱を減少させて優れた電気伝導性が提供される。他方で、熱間圧延により、銅(111)の結晶方位が促進され得るため、銅表面と成長したグラフェン層との格子対応性が高まり、機械的特性が向上した多層複合構造体が提供される。
【0170】
粒成長を効果的に生じさせるためには、処理温度は銅の再結晶温度である約227℃より十分に高くなければならない。しかしながら、銅表面のいかなるナノクラックも回避、低減又は最小とすべく、一部の例においては、熱間圧延温度を650℃未満に選択する必要がある。特に、熱間圧延温度は、450℃乃至550℃において選択され得る。
【0171】
図18a乃至18cの連続図は、ロッド66を断面概略図で示すとともに、ロッド66が圧縮ユニット68のプレスユニット72a、72b、72cを通って進むにつれて圧縮シート70に変わっていく様子を示す。
【0172】
上記の技術は、グラフェン層が比較的「滑らか」であり、一般にあまり互いにくっつかないという事実を利用している。この理由は、グラフェンがその原子同士の水平方向(単層の面内)における強い共有結合を有しているが、面内方向に垂直な方向においては比較的弱いファンデルワールス力しか有さないため、隣接する層に垂直方向に機械的に付着しないということである。他方で、グラフェンの格子定数とCu(111)原子間隔とが良好に対応しているため、グラフェン層は、これを成長させた銅表面に機械的に強く結合する。
【0173】
これらの理由により、グラフェン/銅層同士は互いに対して比較的容易に摺動することができるため、個々のグラフェン層14a、14bとこれらを成長させた銅表面12との間の良好な機械的接続を犠牲にすることなく、丸い形状のロッド66は平坦なバンド(帯状物)70へと変化することができる。同時に、銅表面は、機械的に非常に堅牢なグラフェン被覆によって保護されるため、大きな塑性変形に際して銅はいかなる機械的応力をも受けない。図18cの挿入図に示すように、図3を参照して説明した複合構造体10を積層したものに対応する二層複合構造体(二重層複合構造体)20が結果として得られる。
【0174】
図18b及び18cから更に理解されるように、圧縮シート70内の複数のグラフェン層は依然として互いに相互接続されている。これは、圧縮シート70が、単一の巻かれたグラフェン層を有するロッド66を圧縮することで得られるという事実による。このような接続により、面内方向に垂直な方向における電気伝導性が促進される。
【0175】
更に図14を参照すると、システム54は、移送ローラを備え得る戻し(バックフィード)ユニット74を更に備えている。この目的は、図13のサークル図を参照して説明したように、化学蒸着、巻き及び圧縮をもう一度行うために圧縮シート70を堆積ユニット60に戻すことである。
【0176】
図15は、別の例による多層複合構造体を形成するためのシステム54’の概略図である。システム54’は、図14を参照して説明したシステム54と設計及び機能が類似しており、対応する部品には同一の参照符号を使用する。ただし、システム54’は、図15に破線で示す単数又は複数のオプションのユニットを備えている。
【0177】
特に、システム54は、堆積ユニット60の上流にエッチングユニット76を備え得る。エッチングユニット76は、シート58の第1表面側、及び/又は第2表面側、及び/又は戻された圧縮シート70を化学エッチングによりエッチングし、堆積ユニット60におけるその後の堆積のために無傷の銅表面を提供するように使用され得る。
【0178】
例えば、エッチングユニット76は、石英管炉を備え得る。石英管炉は、シート58を、水素(70容量-%)及びアルゴン(30容量-%)のガス流に、450℃の範囲の温度においておよそ90分間露出させ得る。これにより、シート58の表面から表面汚染物質を効率的に除去することができる。
【0179】
図15から更に理解されるように、システム54は、代替的に又は追加的に、シート58又は圧縮シート70を、堆積ユニット60をバイパス(迂回)させて送るように構成されたバイパスユニット78を備え得る。
【0180】
特に、サークルプロセスが所望の反復回数に達した後、得られた多層圧縮シート70を、戻しユニット74により最後にもう一度サークルに戻してもよい。ただし、グラフェン被覆工程を飛ばす(省く)。特に、バイパスユニット78は、圧縮シートを、堆積ユニット60に通過させずに巻きユニット64に送ってもよい。これにより、巻きユニット64により生成される最終巻きロッド66において、単一層がグラフェン層により分断しないことが保証され得る。特に、図19乃至24を参照して以下に更に説明するように、伸線システム(線引きシステム)80での後続の伸線技術(線引き技術)において、層の融合が促進され得る。伸線システム80での伸線(線引き)は、ロッド66を、電気的、熱的及び機械的特性が強化されたワイヤ82に変換するための最終工程であり得る。
【0181】
或いは、図15に更に示すように、システム54は、圧縮ユニット68の下流にあるスライスユニット84であって、最大反復数(最大繰り返し数)に達した後の最終プロセス工程において圧縮シート70を長手方向にスライスして複数の細長い切片(細長いスライス片)86にするように適合されたスライスユニット84を備え得る。これにより、断面が長方形又は正方形のワイヤが提供され得る。
【0182】
伸線方法及びシステム
図15を参照して説明したように、伸線技術を利用して、多層複合構造体20を備える多層複合ロッド(多層複合棒状物)66をワイヤに変えることができる。
【0183】
図19は、一例による伸線方法(線引き方法)を示すフロー図である。
【0184】
第1工程S30において、巻かれたシートを備えるロッド(棒状物)を準備する。シートは、複数の銅層と複数のグラフェン層とを備えている。
【0185】
第2工程S32において、巻かれたシートの内層を引き出して螺旋体又は渦巻体を形成する。
【0186】
第3工程S34において、螺旋体を送ってダイユニットの開口を通過させることによりワイヤを形成する。
【0187】
図20は、図19のフロー図に示される方法の工程を実施するように構成され得る対応する伸線システム80の概略図である。
【0188】
伸線システム80は、巻かれたシートの内層を引き出して螺旋を形成するように適合された引出ユニット88を備える。シートは、複数の銅層と複数のグラフェン層とを備えている。
【0189】
特に、巻かれたシートは、図18aを参照して説明した多層複合構造体を備えたロッド66であり得る。引出ユニット88は、例えばロッド66の最内層を把持して引っ張ることにより引き出して、図21の斜視図に示す渦巻体又は螺旋体(螺旋状物)90を形成するように適合され得る。螺旋体90において、個々のグラフェン二層(グラフェン二重層)22は、両側においてこれを成長させた銅基板に直接接続されている。これにより、ワイヤの体積分率が大幅に増加して伝導性が向上し、超高伝導性及び高電流容量の両方が提供される。
【0190】
図15を参照して説明したように、螺旋体90の巻線は、外側にグラフェン被覆を有さないことが有利であり得る。これは、グラフェン被覆により、巻線が互いに均一に融合することが妨げられることがあるからである。また、グラフェンを含まない表面は、得られたワイヤ82を、はんだ付け、クランプ、クリンプ留め等によってソケットやプラグに接続するのに最適な条件を提供する。
【0191】
図20を更に参照すると、伸線システム80は、引出ユニット88の下流に、螺旋体90をダイユニット94に供給するように適合された供給ユニット92を更に備えている。ダイユニット94は、螺旋体90をワイヤ82に変換する。
【0192】
或る例において、供給ユニット92は、螺旋体90をダイユニット94に向けて押してこれを通過させる押しユニットを備え得る。
【0193】
或る例において、引出ユニットと供給ユニットとは別個のユニットである。
【0194】
別の例において、供給ユニットは、引出ユニットの一部であってもよい。例えば、供給ユニットが、螺旋体90をダイユニット94に向けて押してこれを通過させる押しユニットを備える構成において、押出力の結果として巻かれたシートの内層が押されて引き出され得る。
【0195】
図22aは、伸線システム90で使用され得るダイユニット94の概略側面図である。ダイユニット94は、ずらして配置された複数のダイ96a、96b、96cを備える。ダイ96a、96b、96cのそれぞれは、各開口98a、98b、98cを備える。開口98a、98b、98cの直径又は表面積は、螺旋体90がダイユニット94を通過する搬送方向(図22aにおいて右方)において減少する。開口98a、98b、98cは、ワイヤ82の所望の断面に応じて、円形又は楕円形の断面を有する開口であり得る。開口98a、98b、98cは、ロッド66又は螺旋体90の直径より小さい直径であって、巻かれた最内層より大きい直径を有し得るため、引張及び/又は押出力下でロッド66及び螺旋体90をワイヤへと順次変形させ得る。
【0196】
図22aは、ダイユニット94の開口98a、98b、98cを介して螺旋体90を引っ張る複数の引張ロール102a、102bを備える引張ユニット100を更に示す。引張ユニット100は、供給ユニット92の一部を形成してもよいし、別部品であってもよい。
【0197】
図22bから更に理解されるように、所望の外径及び形状を有するワイヤ82を作製するように、引張ロール102a、102bはそれらの間に事前に選択可能な間隔を置いて伸ばされたワイヤの周りを回転又は周回するように構成され得る。
【0198】
図22a及び22bの構成では、螺旋体90の搬送方向において直径が縮小する開口を持つ3つのダイ96a、96b、96cを有するダイユニット94を示されている。しかしながら、一般に、ダイユニット94は、ずらして配置された任意の個数のダイを備え得る。
【0199】
本開示による伸線技術は、図23及び24を参照して以下に説明するように、複合多層構造体の更なる伝導性の調整のために利用され得る。
【0200】
積層グラフェンは、内部に少なくとも2つのグラフェン単層104a、104bがそれらの間にねじり角度θを以て積層されており、独自の電気的、熱的及び磁気的特性を呈し得る。グラフェン単層104a、104bの互いに対する回転ねじれは、二層構造体(二重層構造体)の電気的特性に大きな影響を及ぼし得る。したがって、二層グラフェンフィルム(二重層グラフェンフィルム)同士のねじれ角θを制御することにより、所定の積層配向を有するねじれた二層グラフェンフィルムを調製することができ、これにより、それらの電気的、熱的及び磁気的特性の調節及び微調整が可能となる。
【0201】
図23a乃至23cは、二層グラフェン(二重層グラフェン)における3つの異なる基本積層モードを示す。
【0202】
AB積層(ベルナール積層とも称する)を図23aに示す。第2グラフェン層104bが、第1グラフェン層104aの六角形に対して六角形リング構造の直径の半分だけ変位している。これにより、ねじれのない平行シフトとなっている。
【0203】
図23bは、いわゆるAA積層(非ベルナール積層とも称する)を概略的に示す。2つの層104a、104bの六角形が、互いの頂点でちょうど重なっている(シフトなし、ねじれなし)。
【0204】
図23cは、AA’積層を示す。これは、AA積層に類似しているが、2つの層104a、104bの結晶軸が、互いに対して0°乃至60°の角度θだけねじれている(シフトなし、ねじれ角θ)。
【0205】
θ=60°の角度で層をねじることにより、図24a及び24bに示すAB構成をAA構成に変えることができ、その逆も同様である。
【0206】
積層された銅グラフェン二層複合材料(銅グラフェン二重層複合材料)、具体的にはワイヤ82の電気的、熱的及び磁気的特性を制御するために、層104a、104b間のねじれ角θを、開口98a、98b、98cが螺旋体90の送り方向に対して非ゼロの傾斜角を有するダイユニット94により調整してもよい。
【0207】
図22aに示すように、主ねじれ角θは、ダイユニット94の開口98a、98b、98cの傾斜角によって決定され得る。異なる開口98a、98b、98cは、螺旋体90の送り方向に対して異なる傾斜角を有し得る。これにより、螺旋体90の個々の層間のねじれ角の変更や微調整がもたらされ得る。
【0208】
実施形態及び図面に関する記載は、単に本開示の技術を例示するものであり、限定を意味すると理解されるべきではない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲に基づいて決定されるべきである。
【0209】
本明細書に引用される出版物、特許出願、及び特許を含むすべての参考文献は、各参考文献が個別に及び具体的に参照により指示されて組み込まれ、且つその全体が本明細書に記載されたのと同じ程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0210】
本発明を説明する文脈における(特に以下の特許請求の範囲の文脈における)「1つの」、「前記」及び「少なくとも1つの」という用語及び類似の指示語の使用は、本明細書で特に明記しない限り又は文脈により明らかに矛盾しない限り、単数又は複数の両方をカバーするものであると解釈されたい。単数又は複数のアイテムのリストが続く「少なくとも1つの」という用語(例えば、「A及びBのうちの少なくとも1つ」)の使用は、本明細書で特に明記しない限り又は文脈により明らかに矛盾しない限り、リストされたアイテムのうちから選択された1つのアイテム(A又はB)、又はリストされたアイテムの2つ以上の任意の組み合わせ(A及びB)を意味するものであると解釈されたい。「備える」、「有する」、「含む」、及び「持つ」という用語は、特に明記のない限り、制限の無い用語(すなわち、「含むが、これに限定されない」)と解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の記載は、本明細書で特に明記しない限り、当該範囲に該当する個々の値を個別に参照する略記法として機能することのみが意図され、各個別の値は、本明細書で個別に引用されたかのごとく明細書に組み込まれる。本明細書に記載された全ての方法は、本明細書で特に明記しない限り又は文脈により明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施され得る。本明細書に記載される全ての例、又は例示を示す言葉(例えば、「等」)は、本発明をより良く説明することをのみを意図し、特に断りのない限り、本発明の範囲を限定するものではない。明細書における言葉は、クレームされていない要素が本発明の実施に不可欠であると解釈されるべきではない。
【0211】
発明者が知る本発明を実施するための最良の形態を含む本発明の好適な実施形態が明細書に記載される。これらの好適な実施形態の変形例は、以上の説明を読むことにより当業者には明らかであろう。発明者は、当業者がこのような変形例を適切に利用することを期待する。また、発明者は、本発明が本明細書に詳細に記載された以外の方法で実施されることを意図する。したがって、本発明は適用法で認められるように、本明細書に添付された特許請求の範囲に記載された主題の全ての変形例及び同等例を含む。更に、想定される変形例における上述の要素の任意の組み合わせは、本明細書で特に明記しない限り又は文脈により明らかに矛盾しない限り、本明細書に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11a
図11b
図12
図13
図14
図15
図16
図17a
図17b
図18a
図18b
図18c
図19
図20
図21
図22a
図22b
図23a
図23b
図23c
図24a
図24b