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特許7047138リチウムイオン電池及びそれを含む電気機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池及びそれを含む電気機器
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0587 20100101AFI20220328BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20220328BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220328BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20220328BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220328BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20220328BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20220328BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220328BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220328BHJP
【FI】
H01M10/0587
H01M10/0566
H01M10/052
H01M10/0567
H01M4/13
H01M10/0569
H01M4/131
H01M4/525
H01M4/505
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2020564740
(86)(22)【出願日】2020-05-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 CN2020090079
(87)【国際公開番号】W WO2021004151
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2020-11-18
(31)【優先権主張番号】201910618619.1
(32)【優先日】2019-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513196256
【氏名又は名称】寧徳時代新能源科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Contemporary Amperex Technology Co., Limited
【住所又は居所原語表記】No.2,Xingang Road,Zhangwan Town,Jiaocheng District,Ningde City,Fujian Province,P.R.China 352100
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】▲ゾウ▼▲海▼林
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼明
(72)【発明者】
【氏名】▲韓▼昌隆
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼翠平
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-221972(JP,A)
【文献】特表2018-504759(JP,A)
【文献】特開2020-087831(JP,A)
【文献】特開2008-234988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/0587、10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極アセンブリと、前記電極アセンブリに浸潤された電解液と、を備え、
前記電極アセンブリは、電極本体、正極タブ、及び負極タブを含み、
前記電極本体は、軸線周りに巻回された正電極シート、負電極シート、及び前記正電極シートと前記負電極シートとの間に設けられたセパレータを含み、前記正電極シートは、正極集電体、及び前記正極集電体の少なくとも一方の表面に設けられた正極材料層を含み、前記正極タブは、前記正電極シートに接続され、前記負極タブは、前記負電極シートに接続され、
前記電極本体は、軸線方向(X)に沿って対向して配置された両側部を有し、前記正極タブ及び前記負極タブは、前記電極本体の両側部からそれぞれ延出しており、
前記電解液は、添加剤Aを含有し、前記添加剤Aは、不飽和結合含有のリン酸エステル化合物、-SO-結合含有の環状化合物、不飽和結合含有の環状シロキサン化合物のうちの少なくとも1つを含み、前記電極本体における前記電解液の拡散速度vは、0.01μg/s~5μg/sであり、
前記v=γ×H/Lであり、
前記γは、前記電解液に対する前記正電極シートの吸液速度であり、単位は、μg/sであり、
前記Hは、前記電極本体の幅方向(Z)に沿った側部の最大長さであり、単位は、mmであり、
前記Lは、前記電極本体の前記軸線方向(X)に沿った長さであり、単位は、mmである、
リチウムイオン電池。
【請求項2】
前記電極本体における前記電解液の拡散速度vは、0.2μg/s~2μg/sである、
請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】
前記H及び前記Lは、0.05≦H/L≦0.8を満たす、
請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
前記H及び前記Lは、0.15≦H/L≦0.5を満たす、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記電極本体の軸線方向(X)は水平方向である、
請求項1乃至のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項6】
前記電解液中の前記添加剤Aの質量百分率w(%)及び拡散速度v(μg/s)は、0.4≦w×v≦5を満たす、
請求項1乃至のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項7】
前記不飽和結合含有のリン酸エステル化合物は、式1の化合物のうちの少なくとも1つであり、
【化1】
ここで、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロアルキル基、ハロアルケニル基、ハロアルキニル基、炭素数6~10のアリール基、又はハロアリール基から選択される1つであり、R、R及びRのうちの少なくとも1つは、二重結合又は三重結合を含む、
請求項1乃至のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項8】
リン-酸素結合含有化合物のR 、R 及びR の少なくとも1つの分岐鎖の末端は、炭素-炭素不飽和結合である、
請求項7に記載のリチウムイオン電池。
【請求項9】
前記-SO-結合含有の環状化合物は、式2~式5の化合物のうちの少なくとも1つを含み、
【化2】
ここで、Rは、炭素数1~4のアルキレン基、炭素数1~4のフルオロアルキレン基、炭素数2~4のアルケニレン基、炭素数2~4のフルオロアルケニレン基、炭素数6~14のアリーレン基、炭素数6~10のフルオロアリーレン基のうちの1つであり、
、R、R及びRは、それぞれ独立に、H、炭素数1~6のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロアルキル基、ハロアルケニル基、ハロアルキニル基、炭素数6~10のアリール基、又はハロアリール基のうちの1つであり、nは、1、2又は3であり、
17及びR18は、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキレン基、炭素数1~4のフルオロアルキレン基、炭素数2~4のアルケニレン基、炭素数2~4のフルオロアルケニレン基、炭素数6~14のアリーレン基、炭素数6~10のフルオロアリーレン基のうちの1つである、
請求項1乃至のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項10】
前記不飽和結合含有の環状シロキサン化合物は、式6の化合物のうちの少なくとも1つを含み、
【化3】
式6において、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16は、それぞれ独立に、置換又は無置換の炭素数1~4の炭化水素基から選択され、且つR、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16のうちの少なくとも1つは、二重結合又は三重結合を含み、置換基は、ハロゲン元素である、
請求項1乃至のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項11】
前記添加剤Aは、1,3-プロパンスルトン、プロペンスルトン、メタンジスルホン酸メチレン、トリアリルホスフェート、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサンから選択される少なくとも1つである、
請求項1乃至10のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項12】
前記電解液の25±3℃での粘度は、0.5mPa・s~5.0mPa・sであり、及び/又は
前記電解液の0℃での粘度は、1mPa・s~6.0mPa・sである、
請求項1乃至11のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項13】
前記電解液は低粘度溶媒を含み、前記低粘度溶媒の25±3℃での粘度は、0.65mPa・s以下であり
記低粘度溶媒は、炭酸ジメチル(DMC)、ギ酸メチル(MF)、ギ酸エチル(EF)、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル(EA)、プロピオン酸エチル(EP)、酪酸エチル(EB)、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン、ジオキソラン(DOL)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、アセトニトリル(AN)、メチルノナフルオロブチルエーテル(MFE)及びエチルノナフルオロブチルエーテル(EFE)から選択される少なくとも1つであり
粘度溶媒の電解液中の質量分率は、10%~80%である、
請求項1乃至12のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項14】
前記電解液は、浸潤剤を含み、前記浸潤剤は、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル-1,1,2,2テトラフルオロエチルエーテル、又は1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテルのうちの少なくとも1つを含み
記浸潤剤の電解液中の質量分率は、0.1%~10%である、
請求項1乃至13のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項15】
前記正極材料層の空孔率は、10~50%である、
請求項1乃至14のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項16】
前記正極材料層の空孔率は、20~40%である、
請求項15に記載のリチウムイオン電池。
【請求項17】
前記正極材料層の比表面積は、0.5m/g~1.5m/gである、
請求項1乃至16のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項18】
前記正極材料層の結晶方位のOI値は、5~120である、
請求項1乃至17のいずれか1記載のリチウムイオン電池。
【請求項19】
前記正極材料層の結晶方位のOI値は、30~70である、
請求項18に記載のリチウムイオン電池。
【請求項20】
前記正極材料層には、正極活物質が含有され、前記正極活物質は、式(1)~式(3)に示される化合物のうちの少なくとも1つを含み、
LiNiCo1-a-b2-y 式(1)
LiX’Nia’M’2-a’4-y’A’y’ 式(2)
c[LiMnO]・(1-c)[LiM”2-y”A”y”] 式(3)
式(1)において、-0.1≦x≦0.2、0.5≦a<1、0.02<b<0.3、0.55<a+b<1、0≦y<0.2であり、Mは、Mn、Fe、Cr、Ti、Zn、V、Al、Zr及びCeのうちの1種以上を含み、Aは、S、N、F、Cl、Br及びIのうちの1種以上を含み、
式(2)において、-0.1≦x’≦0.2、0.4≦a’<0.6、0≦y’<0.2であり、M’は、Mnを含むか、或いは、M’は、Mnと、Fe、Cr、Ti、Zn、V、Al、Zr、Mg、Ceのうちの1種以上と、を含み、A’は、S、N、F、Cl、Br及びIのうちの1種以上を含み、
式(3)において、0<c<1、0≦y”<0.2であり、M”は、Ni、Co及びMnを含むか、或いは、M”は、Ni、Co及びMnと、Fe、Cr、Ti、Zn、V、Al、Zr及びCeのうちの1種以上と、を含み、A”は、S、N、F、Cl、Br及びIのうちの1種以上を含む、
請求項1乃至19のいずれか1記載のリチウムイオン電池。
【請求項21】
請求項1乃至20のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池を含む、
電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2019年07月10日付けで提出された発明名称が「リチウムイオン電池及びそれを含む電気機器」である中国特許出願第201910618619.1号の優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
本願は、電池分野に関し、特に、リチウムイオン電池及びそれを含む電気機器に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池は、その作動電位が高く、寿命が長く、環境にやさしいという特徴から最も人気のあるエネルギー貯蔵システムになり、純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、スマートグリッドなどの分野に広く適用されている。しかし、LiFePO正極材料をベースにした現在のリチウムイオン電池は、人々の高耐久性に対する要求に応えることができず、人々の電気自動車の「マイレージ不安」に対する問題を克服するために、より高エネルギー密度を有するリチウムイオン電池システムを開発することが急務である。
【発明の概要】
【0004】
本発明者は、高電圧LiNi0.5Mn1.5、高容量の高ニッケル三元NCM811(LiNi0.8Co0.1Mn0.1)、リチウムリッチ三元材料などの高エネルギー密度の正極材料を使用する場合、電池のエネルギー密度を向上できることを見出した。しかし、これらの材料は、表面のヘテロリチウム含有量が高く、粒子表面と電解液との副反応活性が強いため、上記の正極材料を用いたリチウムイオン電池の高温ガス生成量が大きく、サイクル劣化を招き、安全上のリスクをもたらす。また、巻回型電池において、現在、エネルギー密度を高めるための工業化されている方法は、包装材料の空間ス利用率を高めることによりエネルギー密度を高める。例えば、コアの長さを長くして、正・負電極シートの電流を引き出すためのタブが占めるスペースを低減させる。しかし、研究開発の経験によると、スペース利用率を増加させる場合、電解液が巻回式コアに入りにくくなり、特に、サイクル過程において、正電極シート表面のSEI(solid electrolyte interphase、固体電解質界面)膜の形成及び消耗はダイナミックな過程であるため、コア内部の体積膨張・収縮により遊離状態の電解液が巻回式コアの両端に押し出される。若し電解液がコアの中央部に適時に還流できない場合、巻回式コアはサイクル中に動力学の不足によりリチウムが析出される可能性がある。また、正電極シート表面のSEIが消費されて新たなSEI膜が適時に形成できないため、コアのガス生成性能やサイクル寿命が悪化するだけでなく、深刻な安全リスクも懸念される。そのため、如何にリチウムイオン電池の高エネルギー密度と高サイクル寿命を両立させるかが、電池設計の大きな課題となっている。
【0005】
そのため、本発明者は、多くの研究を行っており、本願の第1の目的は、従来の巻回式コアが高エネルギー密度と高サイクル性能とを両立できないという課題を解決できるリチウムイオン電池を提供することである。
【0006】
本願の第2の目的は、本発明のリチウムイオン電池を含む電気機器を提供することである。
【0007】
上記目的を達成するために、本願は、以下の技術的手段を採用する。
電極アセンブリと、前記電極アセンブリに浸潤された電解液と、を備え、
前記電極アセンブリは、電極本体、正極タブ、及び負極タブを含み、
前記電極本体は、軸線周りに巻回された正電極シート、負電極シート、及び前記正電極シートと前記負電極シートとの間に設けられたセパレータを含み、前記正電極シートは、正極集電体、及び前記正極集電体の少なくとも一方の表面に設けられた正極材料層を含み、前記正極タブは、前記正電極シートに接続され、前記負極タブは、前記負電極シートに接続され、
前記電極本体は、軸線方向(X)に沿って対向して配置された両側部を有し、前記正極タブ及び前記負極タブは、前記電極本体の両側部からそれぞれ延出しており、
前記電解液は、添加剤Aを含有し、前記添加剤Aは、不飽和結合含有のリン酸エステル化合物、-SO-結合含有の環状化合物、不飽和結合含有の環状シロキサン化合物のうちの少なくとも1つを含み、前記電極本体における前記電解液の拡散速度vは、0.01μg/s~5μg/sであり、
前記v=γ×H/Lであり、
前記γは、前記電解液に対する前記正電極シートの吸液速度であり、単位は、μg/sであり、
前記Hは、前記電極本体の幅方向(Z)に沿った側部の最大長さであり、単位は、mmであり、
前記Lは、前記電極本体の前記軸線方向(X)に沿った長さであり、単位は、mmである、
リチウムイオン電池。
リチウムイオン電池を含む電気機器。
【0008】
本願が提供する技術的手段は、少なくとも以下の効果を達成することができる。
本願のリチウムイオン電池は、巻回型リチウムイオン電池であり、正・負極タブをそれぞれ軸線方向に沿った電極本体の両側部に設けることにより、電池セルの内部空間利用率を効果的に向上させることができ、電池の体積エネルギー密度を高めることができる。同時に、正電極シートの表面に緻密なSEI膜を形成することができる添加剤Aを電解液に添加し、電解液の浸潤性を正電極シートのミクロ構造や電極本体の構造に合わせることで、添加剤A含有の電解液の電極本体への拡散速度を0.01μg/s~5μg/sの範囲に制御でき、よって、電解液がサイクル過程で巻回型コア内部へ速やかに浸潤又は還流できるよう確保し、また、正電極シートの表面に新たなSEI膜を適時に形成でき、そのため、リチウムイオン電池のサイクル性能や安全性を向上でき、高容量リチウムイオン電池のガス生成問題を抑制できる。したがって、本願で提供されるリチウムイオン電池は、高エネルギー密度、高サイクル安定性、及び高安全性の特徴を有する。より好ましくは、リチウムイオン電池は、より高い高温貯蔵性能を有することもできる。本願の電気機器は、上述したリチウムイオン電池を含むので、少なくとも同様の利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
以下、本願の実施例の技術的手段をより明瞭に説明するために、実施例で必要な図面を簡単に説明する。なお、下記に記載の図面は本願の一部の実施例であり、当業者であれば、クリエイティブな労力を必要とせずに、他の図面を得ることができる。
図1図1は、本願の実施例に係る電極アセンブリの模式図である。
図2図2は、本願の実施例に係るハードシェルリチウムイオン電池の分解模式図である。
図3図3は、本願の実施例に係るソフトパックリチウムイオン電池の構造模式図である。
図4図4は、電池モジュールの一実施形態の模式図である。
図5図5は、電池バックの一実施形態の模式図である。
図6図6は、図5の分解図である。
図7図7は、リチウムイオン電池を電源として用いる電気機器の一実施形態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本願の発明の目的、技術的手段及び有益な技術的効果をより明確にするために、以下、本願を特定の実施例と合わせて詳細に説明する。本明細書に記載の実施例は、単に本願を説明するためのものであり、本願を限定するものではないことを理解すべきである。
【0011】
簡単のために、本明細書ではいくつかの数値範囲のみを明確に開示している。ただし、任意の下限は、任意の上限と組み合わせて明確に記載されていない範囲を形成してもよく、任意の下限は、他の下限と組み合わせて明確に記載されていない範囲を形成してもよく、同様に、任意の上限は、任意の他の上限と組み合わせて明確に記載されていない範囲を形成してもよい。また、明確に記載されていないが、範囲の端点間の各点又は単一の数値はいずれもその範囲に含まれる。したがって、各点又は単一の数値は、それ自体の下限又は上限として、任意の他の点又は単一の数値と組み合わせて、又は他の下限又は上限と組み合わせて、明確に記載されていない範囲を形成してもよい。
【0012】
本明細書において、特に説明しない限り、「以上」及び「以下」は、本数を含み、「1つ又はいくつか」のうち「いくつか」は、2つ以上を意味することに留意すべきである。
【0013】
本願の上記の発明の概要は、本願に開示の各実施形態又は各実現形態を説明することを意図するものではない。以下の説明は、例示的な実施形態をより具体的に例示して説明する。本願全体を通して、様な組み合わせで使用できる一連の実施例によってガイダンスが提供される。各実施例において、列挙は代表的なグループとしてのみ機能し、網羅的であると解釈されるべきではない。
【0014】
一態様において、本願は、リチウムイオン電池を提供する。図2は、一例としてのリチウムイオン電池10を示している。図2を参照すると、リチウムイオン電池10は、電極アセンブリ1(図1に示す)と前記電極アセンブリ1に浸潤された電解液とを含み、電極アセンブリ1は、電極本体11、正極タブ12及び負極タブ13を含み浸潤、電極本体11は、軸線周りに巻回された正電極シート、負電極シート、及び正電極シートと負電極シートとの間に設けられたセパレータを含み、正電極シートは、正極集電体、及び前記正極集電体の少なくとも一方の表面に設けられた正極材料層を含み、正極タブ12は、正電極シートに接続され、負極タブ13は、負電極シートに接続され、電極本体は、軸線方向(X)に沿って、対向して配置された両側部14を有し、当該リチウムイオン電池において、電極本体11の両側部14から正極タブ12及び負極タブ13がそれぞれ延出している。ここで、X方向は、電極本体11の正電極シート、負電極シート、及び前記正電極シートと前記負電極シートとの間に設けられたセパレータが巻回される軸線方向であり、電解液の電極本体11での主な拡散方向でもあり、Y方向は、電極本体11の厚み方向であり、Z方向は、電極本体11の幅方向である。
【0015】
本願において、正極タブ12及び負極タブ13は、それぞれ電極本体11の両側部14に設けられ、特に、正・負極タブを電極本体の厚み方向にさらに折り曲げる場合、電池ケース内の電極本体の体積占有率が増加し、電池内部空間での活物質含有量の向上に寄与し、リチウムイオン電池の体積エネルギー密度を効果的に向上できる。しかしながら、巻回構造のコアに対して、電解液は、電極本体の両側部から電極本体の中央部に向かって拡散して進入することしかできないため、特に、タブが電極本体の厚さ方向(Y)にさらに折り曲げられる場合、電解液の拡散経路の一部が遮られ、電解液が電極本体へ浸潤しにくくなる。また、電池の充電過程では、正・負電極シートの活物質層はいずれも体積が膨張し、電極シート間のピッチが短縮され、コア中央部の電解液の一部が押し出されるが、電池の放電過程では、正・負電極シートの活物質層は体積が再び収縮され、電極シート間のピッチが増大し、遊離された電解液は、正・負電極シートに再び補充される必要がある。電解液を適時に補充できない場合、その後のサイクル過程において、正・負電極シート間の遊離状態のリチウムイオンは、電解液が不足になり、適時な挿入が不可能になるため、リチウム析出の問題を引き起こす。また、正電極シート表面のSEIが消費されて新たなSEI膜を適時に形成することができないため、コアのガス生成性能が悪化し、電池サイクル性能が低下し、安全リスクの問題さえある。
【0016】
本願において、前記電解液には、本願のリチウムイオン電池の高温適用性及び安全性を向上させるために、添加剤Aが含まれている。添加剤Aは、不飽和結合含有のリン酸エステル化合物、-SO-結合含有の環状化合物、不飽和結合含有の環状シロキサン化合物のうちの少なくとも1種を含み、電極本体での電解液の拡散速度vは、0.01μg/s~5μg/s、好ましくは、0.2μg/s~2μg/sである。添加剤Aを導入して正極表面に優先的に成膜することにより、緻密で安定性に優れたパッシベーション層が形成され、正極と溶媒との直接接触が遮断され、溶媒の酸化によるガス生成が効果的に抑制される。本願において、上記の成膜用の添加剤は、ガス生成の問題が比較的深刻な高容量の電池システムに特に適用している。これと同時に、電極本体での電解液の拡散速度vを0.01μg/s~5μg/s、好ましくは、0.2μg/s~2μg/sに調整して、電極本体での電解液の浸潤性を良好にし、電極本体内部に速やかに進入し、正電極シートの表面に新たなSEI膜を適時に形成することができ、リチウムイオン電池のサイクル性能、安全性を高め、サイクル過程でのガス生成問題を改善する。さらに、リチウムイオン電池は、高い高温貯蔵性能を有することができる。
【0017】
本願において、電極本体での電解液の拡散速度v=γ×H/Lであり、ここで、γは、電解液に対する正電極シートの吸液速度(μg/s)であり、Hは、電極本体の幅方向(Z)に沿った側部の最大長さ(mm)であり、Lは、軸線方向(X)に沿った電極本体の長さ(mm)である。本願において、拡散速度vは、主に下記の理由に基づいて、電極本体における電解液に対する正電極シートの吸液速度を主な影響要因として計測する。電解液中の添加剤Aは、主に、正電極シートの活物質粒子の表面に作用して緻密な構造のパッシベーション膜を形成し、リチウムイオン電池のガス生成性能を改善する。また、通常、正電極シートの圧縮密度は、負電極シートより高く、正電極シートの内部構造がより緊密であるため、正電極シートにおける電解液の拡散性は電池のサイクル性能により顕著に影響する。
【0018】
本願において、電解液に対する正電極シートの吸液速度γは、次に方法で測定することができる。電解液を一定の内径且つ標準目盛り付きのスポイトに充填し、スポイトの下口の直径は0.2mmである。正電極シートを十分に乾燥(例えば、70℃~90℃で、10h~15h乾燥)した後、5cm×5cmの正方形の正電極シートを切り取る。室湿度が2%未満の乾燥内で、スポイトが正電極シートの表面に垂直するようにして、スポイトの下口を正方形の正電極シートに接触させ、スポイト内の電解液を正電極シートの内部に徐に浸潤させ、1秒あたりに正電極シートに浸潤した電解液の質量、即ち、正電極シートの電解液の吸液速度を記録する。
【0019】
また、電極本体における電解液の拡散速度vは、電極本体の構造の影響も受ける。本願において、Hは、電極本体の幅方向(Z)に沿った側部の最大長さ(mm)であり、Lは、軸線方向(X)に沿った電極本体の長さ(mm)である。Hが小さいほど電解液が外部から電極本体に進入する経路が狭くなり、Lが長いほど電解液が電極本体の中心領域に拡散する経路が長くなる。本願において、電極本体の長さLが幅Hより小さい場合、電極本体の体積エネルギー密度はより高くなるが、電解液が速やかにコアに入るのには不利であり、電解液の拡散速度vは、電極本体のサイズH、Lに対する依存性がより強い。
【0020】
要約すると、本願において、電極本体における電解液の拡散速度vは、v=γ×H/L(μg/s)と定義し、ここで、γの単位はμg/sであり、H及びLの単位は、mmである。
【0021】
本願のいくつかの実施形態において、電極本体における電解液の拡散速度vは、0.25μg/s、0.37μg/s、0.58μg/s、0.68μg/s、0.75μg/s、1.08μg/s、1.55μg/s、1.97μg/s、2.5μg/s、3μg/s、4μg/s、又は4.97μg/sなどであってもよい。
【0022】
本願のいくつかの実施形態において、電解液に対する正電極シートの吸液速度γは、0.15μg/s~7.25μg/s、さらに0.45μg/s~3.58μg/sであってもよい。例えば、電解液に対する正電極シートの吸液速度γは、0.71μg/s、0.82μg/s、0.96μg/s、1.08μg/s、2.24μg/s、2.48μg/s、2.57μg/s、3.12μg/s、4μg/s、5μg/s、6μg/s、又は6.51μg/sなどであってもよい。
【0023】
本願のいくつかの実施形態において、電極本体の幅方向(Z)に沿った側部の最大長さH(mm)及び軸線方向(X)に沿った電極本体の長さL(mm)は、0.05≦H/L≦0.8を満たす。本願のいくつかの好ましい実施形態として、H/Lは、0.1~0.6である。本願のさらに好ましい実施形態として、H/Lは、0.15~0.5である。具体的に、H/Lの値は、0.8、0.75、0.7、0.65、0.6、0.55、0.5、0.45、0.4、0.35、0.3、0.25、0.2、0.1、又は0.05などであってもよい。H/L比率が小さい電極本体構造は、長さ、幅が大体同じである電池に対して、正電極シート及び負電極シートにおける正極タブ及び負極タブが占める割合を最大限に低減でき、リチウムイオン電池の空間利用率を向上でき、ひいてはリチウムイオン電池のエネルギー密度を向上できる。なお、タブが電極本体の両端にそれぞれ設けられているため、モジュール組立時の回路設計を簡素化し、組立効率を向上させるとともに、コストを低減することができる。
【0024】
本願のいくつかの実施形態において、電極本体の幅方向(Z)に沿った側部の最大長さHは、10mm~280mm、さらに30mm~160mm、よりさらに45mm~150mmであってもい。例えば、Hは、90mm、91mm、100mm、120mm、150mm、又は160mmなどである。
【0025】
本願のいくつかの実施形態において、軸線方向(X)に沿った電極本体の長さLは、50mm~500mm、さらに100mm~400mm、よりさらに200mm~350mmであってもよい。例えば、Lは、200mm、300mm、301mm、又は350mmなどである。
【0026】
本願のいくつかの実施形態において、電極本体の軸線方向(X)は、水平方向である。この場合、電極本体の軸巻回方向は水平方向とほぼ平行であり、電解液は電極本体の両端から電極本体の内部に浸潤・拡散することができ、電解液の急速な浸潤により有利である。
【0027】
本願の特定の実施形態として、電極アセンブリの軸巻回方向は、水平方向であり、電極アセンブリは、電池ケース内に配置され、トップカバーで封止され、例えば、図2に示すように、リチウムイオン電池として組み立てられる。異なる用途に応じて、当該リチウムイオン電池は、縦置き(即ち、Z方向が重力方向と平行)にしてもよく、横置き(即ち、Y方向が重力方向と平行)にしてもよい。
【0028】
本願の特定の実施形態として、電極アセンブリの軸巻回方向は、水平方向であり、電極アセンブリは、アルミプラスチックフィルムで包装され、包装袋の縁はホットプレス、コロイド固定などによって密封され、例えば、図3に示すように、リチウムイオン電池に組み立てられる。異なる用途に応じて、当該リチウムイオン電池は、縦置き(Z方向が重力方向と平行)にしてもよく、横置き(Y方向が重力方向と平行)にしてもよい。
【0029】
本願のいくつかの実施形態において、電解液中の添加剤Aの質量百分率w(%)及び拡散速度v(μg/s)は、0.01≦w×v≦10、好ましくは、0.1≦w×v≦10を満たす。例えば、w×vは、0.43、0.50、0.65、0.74、1.15、1.35、1.50、2.16、3.11、3.94、4.97、6.74、又は9.84などである。本願のいくつかの好ましい実施形態として、電解液中の添加剤Aの質量百分率w(%)及び拡散速度v(μg/s)は、0.4≦w×v≦5を満たす。
【0030】
発明者は、電解液中の添加剤Aの質量百分率wと電極本体における電解液の拡散速度vとの関係が正電極シートの成膜の品質及び界面の抵抗に大きな影響を及ぼし、それによって、電池のガス生成量及びサイクル性能に影響を与えることを研究を通じて見出した。電解液中の添加剤Aの質量百分率w及び拡散速度vが上記関係式を満たす場合、電解液の浸潤速度や還流速度が高く、十分な添加剤Aによる安定した保護膜の形成を確保しガス生成を抑制するとともに、添加剤Aの使用量が適度であり、リチウムイオン電池の良好なサイクル性能を保証できる。
【0031】
いくつかの実施形態において、電解質中の添加剤Aの質量百分率wは、0.1wt%~5wt%、さらに0.1wt%~3wt%、よりさらに1wt%~2wt%であってもよい。
【0032】
本願において、不飽和結合含有のリン酸エステル化合物は、式1の化合物のうちの少なくとも1種であり、
【化1】
【0033】
ここで、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロアルキル基、ハロアルケニル基、ハロアルキニル基、炭素数6~10のアリール基、又はハロゲン化アリール基から選択される1種であり、R、R及びRのうちの少なくとも1つは、二重結合又は三重結合を含む。
【0034】
いくつかの実施形態において、式1において、R、R及びRは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ビニル基、アリル基、3-ブテニル基、イソブテニル基、4-ペンテニル基、エチニル基、プロパルギル基、3-ブテニル基、1-メチル基-2-プロピニル基又はそのハロゲン化誘導体であって、R、R及びRのうちの少なくとも1つは、二重結合又は三重結合を含む。式1中のR、R、Rについて説明すると、ハロゲン化誘導体は、モノフルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、2,2,2-トリフルオロエチル、2,2-ジフルオロエチル、2,2,2-トリフルオロエチル、3,3-ジフルオロプロピル、3,3,3-トリフルオロプロピル、ヘキサフルオロイソプロピルなどを含むが、これらに限定されない。好ましくは、R、R及びRは、それぞれ独立に、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ビニル基、アリル基、エチニル基、プロパルギル基及びそのフッ素化誘導体のうちの1種であってもよく、R、R及びRのうちの少なくとも1つは、二重結合又は三重結合を含む。
【0035】
好ましくは、リン-酸素結合含有化合物のR、R及びRの少なくとも1つの分岐鎖の末端は、炭素-炭素不飽和結合である。より好ましくは、R、R及びRの少なくとも2つの分岐鎖の末端は、炭素-炭素不飽和結合である。特に好ましくは、リン-酸素結合含有化合物のR、R及びR分岐鎖の末端は、すべてが炭素-炭素不飽和結合である。
【0036】
本願のいくつかの好ましい実施形態として、式1に示される不飽和分岐鎖含有のリン酸エステル化合物は、以下の化合物から選択される1種以上である。
【化2】
【0037】
本願において、-SO-結合含有の環状化合物は、式2~式4の化合物のうちの少なくとも1種を含み、
【化3】
【0038】
上記式2の化合物において、Rは、炭素数1~4のアルキレン基、炭素数1~4のフルオロアルキレン基、炭素数2~4のアルケニレン基、炭素数2~4のフルオロアルケニレン基、炭素数6~14のアリーレン基、炭素数6~10のフルオロアリーレン基のうちの1つである。
【0039】
上記式3の化合物において、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、H、炭素数1~6のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロアルキル基、ハロアルケニル基、ハロアルキニル基、炭素数6~10のアリール基、又はハロアリール基のうちの1つであり、nは、1、2又は3である。
【0040】
本願のいくつかの好ましい実施形態として、前記式2の化合物において、炭素数1~4のアルキレン基は、直鎖又は分岐鎖のアルキレン基である。アルキレン基の例としては、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、sec-ブチレン基、1-メチルプロピレン基、2-メチルプロピレン基などが挙げられる。
【0041】
上記式2において、炭素数1~4のフルオロアルキレン基において、フッ素原子の置換個数及びその置換位置は特に制限されないが、フッ素原子は、アルキレン基中の水素原子の一部又は全部を実際の必要に応じて選択して置換することができる。例えば、フッ素原子の数は、1個、2個、3個、4個又は複数個であってもよい。
【0042】
フルオロアルキレン基の例としては、具体的に、1-フルオロメチレン基、1-フルオロエチレン基、1,1,2,2-テトラフルオロエチレン基、1-フルオロプロピレン基、2-フルオロプロピレン基、1,1,1-トリフルオロプロピレン基、1-フルオロイソプロピレン基、1-フルオロブチレン基、1-フルオロイソブチレン基、1-フルオロ-sec-ブチレン基などが挙げられる。
【0043】
上記式2において、炭素数2~4のアルケニレン基は、直鎖又は分岐鎖のアルケニレン基であり、直鎖のアルケニレン基が好ましく、アルケニル基における二重結合の数は、1個又は2個であってもよい。アルケニレン基の例としては、具体的に、ビニリデン基、アリリデン基、イソプロペニレン基、ブテニレン基、ブタジエニレン基、1-メチルビニリデン基、1-メチルプロペニレン基、2-メチルプロペニレン基などが挙げられる。
【0044】
上記式2において、炭素数2~4のフルオロアルケニレン基において、フッ素原子の置換個数及びその置換位置は特に制限されないが、フッ素原子は、アルケニレン基中の水素原子の一部又は全部を実際の必要に応じて選択して置換することができる。例えば、フッ素原子の数は、1個、2個又は複数個であってもよい。
【0045】
フルオロアルケニレン基の例としては、具体的に、1-フルオロビニリデン基、1,2-ジフルオロビニリデン基、1-フルオロアリリデン基、1-フルオロイソプロペニレン基、1-フルオロブテニレン基、1-フルオロブタジエニレン基、1,2,3,4-テトラフルオロブタジエニレン基などが挙げる。
【0046】
上記式2において、炭素数6~10のアリーレン基のうち、アリール基の具体的な種類は特に制限されず、必要に応じて選択することができる。例えば、フェニレン基、ナフチレン基、フェニレンアルキル基であり、フェニル基に例えばアルキル基などのような他の置換基が結合されていてもよい。
【0047】
アリーレン基の例としては、具体的には、フェニレン基、ベンジリデン基、1-ナフチレン基、2-ナフチレン基、o-メチルフェニレン基、m-メチルフェニレン基、p-メチルフェニレン基、p-エチルフェニレン基、m-エチルフェニレン基、o-エチルフェニレン基、1-テトラヒドロナフチレン基、2-テトラヒドロナフチレン基、4-ビニルフェニレン基、3-イソプロピルフェニレン基、4-イソプロピルフェニレン基、4-ブチルフェニレン基、4-イソブチルフェニレン基、4-t-ブチルフェニレン基、2,3-ジメチルフェニレン基、2,4-ジメチルフェニレン基、2,5-ジメチルフェニレン基、2,6-ジメチルフェニレン基、3,4-ジメチルフェニレン基、3,5-ジメチルフェニレン、2,4,5-トリメチルフェニレン、2,4,6-トリメチルフェニレンなどが挙げられる。
【0048】
上記式2において、炭素数6~10のフルオロアリーレン基において、フッ素原子の置換個数及びその置換位置は特に制限されないが、ハロゲン原子の数は、1個、2個、3個、4個、5個又は複数個であってもよい。
【0049】
フルオロアリーレン基の例としては、具体的に、2-フルオロフェニレン基、3-フルオロフェニレン基、4-フルオロフェニレン基、2-フルオロ-4-メチルフェニレン基、3-フルオロ-4-メチルフェニレン基、4-フルオロ-2-メチルフェニレン基、2,4-ジフルオロフェニレン基、3,4-ジフルオロフェニレン基、2,6-ジフルオロ-4-メチルフェニレン基、2,6-ジフルオロ-3-メチルフェニレン基、2-フルオロ-ナフチレン基、4-フルオロ-ナフチレン基、2,4,6-トリフルオロフェニレン基、2,3,4,6-テトラフルオロフェニレン基、4-トリフルオロメチルフェニレン基、2,3,4,5-テトラフルオロフェニレン基、ペンタフルオロフェニレン基、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニレン基などが挙げられる。
【0050】
本願のいくつかの好ましい実施形態として、式2の化合物は、以下の化合物から選択される1つ又はいくつかである。
【化4】
【0051】
いくつかの実施例では、式3の化合物において、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、H、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ビニル基、アリル基、3-ブテニル基、イソブテニル基、4-ペンテニル基、エチニル基、プロパルギル基、3-ブテニル基、1-メチル-2-プロピニル基又はそのハロゲン化誘導体である。式3中のR、R、R及びRを説明すると、ハロゲン化誘導体は、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、2,2-ジフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、3,3-ジフルオロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基などを含むが、これらに限定されない。より好ましくは、式3の化合物は、1,3-プロペンスルトン(PST)、1,4-ブテンスルトン、1-メチル-1,3-プロペンスルトン及びそれらのハロゲン化誘導体(例えば、フッ素化誘導体)の1つ又はいくつかである。
【0052】
いくつかの好ましい実施形態において、-SO-結合含有の環状化合物は、式4の化合物を含む。式4の化合物は、1,3-プロパンスルトン(PS)である。
【0053】
いくつかの実施形態において、-SO-結合含有の環状化合物は、式5の化合物から選択される少なくとも1つであってもよい。
【化5】
【0054】
式5において、R17及びR18は、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキレン基、炭素数1~4のフルオロアルキレン基、炭素数2~4のアルケニレン基、炭素数2~4のフルオロアルケニレン基、炭素数6~14のアリーレン基、炭素数6~10のフルオロアリーレン基から選択される1種である。いくつかの実施形態において、炭素数1~4のアルキレン基、炭素数1~4のフルオロアルキレン基、炭素数2~4のアルケニレン基、炭素数2~4のフルオロアルケニレン基、炭素数6~14のアリーレン基、炭素数6~10のフルオロアリーレン基は、それぞれ上述の通りであってもよい。いくつかの実施形態において、R17及びR18は、それぞれ独立に、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ビニリデン基、アリリデン基、イソプロペニル基、及びそれらのフッ素化誘導体から選択される1種である。
【0055】
いくつかの好ましい実施形態において、式5の化合物は、メタンジスルホン酸メチレンなどである。
【0056】
いくつかの実施形態において、-SO-結合含有の環状化合物は、式2~式5の化合物のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0057】
本願において、不飽和結合含有の環状シロキサン化合物は、式6の化合物のうちの少なくとも1種を含む。
【化6】
【0058】
式6において、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16は、それぞれ独立に、置換又は無置換の炭素数1~4の炭化水素基から選択され、且つR、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16のうちの少なくとも1つは、二重結合又は三重結合を含み、置換基は、ハロゲン元素である。いくつかの実施形態において、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ビニル基、アリル基、エチニル基、プロパルギル基及びそのフッ素化誘導体から選択される1種であり、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16の少なくとも1つは、二重結合又は三重結合を含む。
【0059】
本願のいくつかの好ましい実施形態として、式6の化合物は、以下の化合物から選択される1つ又はいくつかである。
【化7】
【0060】
本願のいくつかの好ましい実施形態として、添加剤Aは、1,3-プロパンスルトン、プロペンスルトン、メタンジスルホン酸メチレン、トリアリルホスフェート、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサンのうちの少なくとも1つを含むが、これらに限定されない。
【0061】
さらに好ましい実施形態において、添加剤Aは、メタンジスルホン酸メチレン、トリアリルホスフェート、又はテトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサンのうちの少なくとも1つである。
【0062】
本願のいくつかの実施形態において、電解液の25±3℃での粘度は、0.5mPa・s~5.0mPa・sである。本願において、電解液の粘度が上記範囲内である場合、電解液の流速が高くなり、正電極シートにおける電解液の浸潤速度及び電極本体における電解液の拡散速度を効果的に向上させることができる。本願のいくつかの好ましい実施形態として、上記電解液の0℃での粘度は、1mPa・s~6.0mPa・sである。これにより、電解液の常温及び低温条件での良好な流動性が確保され、電池の高温・低温での良好な動力学的性能が確保される。
【0063】
本願のいくつかの実施形態において、前記電解液には低粘度溶媒が含まれ、特定量の浸潤剤が選択的に添加されてもよく、ここで、前記低粘度溶媒の25±3℃での粘度は≦0.65mPa・sである。低粘度溶媒を使用したり、電解液に選択的に浸潤剤を添加したりすることにより、電解液は特定の流速を得ることができ、正電極シートへの電解液の浸潤速度を向上させることができる。
【0064】
本願のいくつかの実施形態において、低粘度溶媒は、炭酸ジメチル DMC、ギ酸メチル MF、ギ酸エチル EF、酢酸メチル MA、酢酸エチル EA、プロピオン酸エチル EP、酪酸エチル EB、テトラヒドロフラン THF、2-メチルテトラヒドロフラン、ジオキソラン DOL、1,2-ジメトキシエタン DME、アセトニトリル AN、メチルノナフルオロブチルエーテル MFE及びエチルノナフルオロブチルエーテル EFEのうちの少なくとも1つを含むが、これらに限定されない。
【0065】
本願のいくつかの実施形態において、良好な浸潤性の電解液を得るために、低粘度溶媒の電解液中の質量百分率は、10%~80%、好ましくは、20%~60%とすることができる。質量百分率は、典型的且つ非限定的に、例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、又は80%であってもよい。
【0066】
本願のいくつかの実施形態において、電解液は、浸潤剤を含み、浸潤剤は、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル-1,1,2,2テトラフルオロエチルエーテル、又は1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテルのうちの少なくとも1つを含むが、これらに限定されない。
【0067】
ここで、浸潤剤の電解液中の質量百分率は、例えば、0.1%~10%である。具体的には、例えば、0.1%、0.5%、1%、1.5%、2%、3%、5%、7%、9%、又は10%であってもよい。
【0068】
本願に係るリチウムイオン電池において、前記電解液の溶媒は、さらに他の溶媒を含んでいてもよい。他の溶媒は、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸エチルメチル(EMC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸ジプロピル(DPC)、炭酸メチルプロピル(MPC)、炭酸エチルプロピル(EPC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、酢酸プロピル(PA)、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸プロピル(PP)、酪酸メチル(MB)、1,4-ブチロラクトン(GBL)、スルホラン(SF)、ジメチルスルホン(MSM)、メチルエチルスルホン(EMS)及びジエチルスルホン(ESE)から選択される1種又は複数種である。
【0069】
本願に係るリチウムイオン電池において、前記電解液の電解質塩は、LiPF(ヘキサフルオロリン酸リチウム)、LiBF(テトラフルオロホウ酸リチウム)、LiCLO(過塩素酸リチウム)、LiAsF(ヘキサフルオロヒ酸リチウム)、LiFSI(ジフルオロスルホニルイミドリチウム)、LiTFSI(ジトリフルオロメタンスルホニルイミドリチウム)、LiTFS(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム)、LiDFOB(ジフルオロシュウ酸ホウ酸リチウム)、LiBOB(ジシュウ酸ホウ酸リチウム)、LiPO(ジフルオロリン酸リチウム)、LiDFOP(ジフルオロジシュウ酸リン酸リチウム)、及びLiTFOP(テトラフルオロシュウ酸リン酸リチウム)から選択される1種以上であってもよい。
【0070】
本願のリチウムイオン電池の正極材料層における正極活物質は、典型的且つ非限定的に、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物又はオリビン構造のリチウム含有リン酸塩などから選択されるが、本願はこれらの材料に限定されるものではなく、リチウムイオン電池の正極活物質として用いることができる従来公知の他の材料を用いることもできる。これらの正極活物質は、1つのみを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0071】
本願のいくつかの実施形態において、正極活物質は、式(1)~式(3)に示される化合物のうちの少なくとも1つを含む。
Li1+XNiCo1-a-b2-y 式(1)
Li1+X’Nia’M’2-a’4-y’A’y’ 式(2)
c[LiMnO]・(1-c)[LiM”2-y”A”y”] 式(3)
【0072】
ここで、式(1)において、-0.1≦x≦0.2、0.5≦a<1、0.02<b<0.3、0.55<a+b<1、0≦y<0.2であり、Mは、Mn、Fe、Cr、Ti、Zn、V、Al、Zr及びCeのうちの1種以上を含み、Aは、S、N、F、Cl、Br及びIのうちの1種以上を含む。式(2)において、-0.1≦x’≦0.2、0.4≦a’<0.6、0≦y’<0.2であり、M’は、Mnを含むか、或いは、M’は、Mnと、Fe、Cr、Ti、Zn、V、Al、Zr、Mg、Ceのうちの1種以上と、を含み、A’は、S、N、F、Cl、Br及びIのうちの1種以上を含む。式(3)において、0<c<1、0≦y”<0.2であり、M”は、Ni、Co及びMnを含むか、或いは、M”は、Ni、Co及びMnと、Fe、Cr、Ti、Zn、V、Al、Zr及びCeのうちの1種以上と、を含み、A”は、S、N、F、Cl、Br及びIのうちの1種以上を含む。
【0073】
正極活物質が式(1)~式(3)に示される化合物から選択される場合、充放電サイクル過程において、上記の正極活物質のNi含有量が高くなるか、又は作動電圧が高くなって、正極活物質粒子の表面と電解液とが副反応する確率が高くなり、ガス生成の問題が発生しやすい。電極本体における電解液の拡散速度が0.01μg/s~5μg/sである場合、上記正極材料の表面に良好な成膜品質のSEI膜が適時に形成でき、上記の正極材料を使用したリチウムイオン電池のガス生成問題を効果的に改善することができる。
【0074】
本願のいくつかの好ましい実施形態において、正極活物質は、LiNi0.5Co0.2Mn0.3(NCM523)、LiNi0.55Co0.05Mn0.4、LiNi0.55Co0.1Mn0.35、LiNi0.55Co0.12Mn0.33、LiNi0.55Co0.15Mn0.3、LiNi0.6Co0.15Mn0.25、LiNi0.6Co0.18Mn0.22、LiNi0.6Co0.2Mn0.2(NCM622)、LiNi0.65Co0.05Mn0.3、LiNi0.65Co0.09Mn0.26、LiNi0.65Co0.12Mn0.23、LiNi0.65Co0.15Mn0.2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1(NCM811)、LiNi0.85Co0.15Al0.05、LiNi0.5Mn1.5、0.2[LiMnO]・0.8[LiNi0.5Co0.2Mn0.3]、LiNi0.88Co0.05Mn0.07、又は0.3[LiMnO]・0.7[LiNi0.8Co0.1Mn0.1]から選択される少なくとも1つである。
【0075】
本願のいくつかの実施形態において、前記正極材料層は、導電剤及び接着剤をさらに含み、導電剤及び接着剤の種類は、特に限定されず、実際の必要に応じて選択することができる。
【0076】
本願の発明者は、正極材料層の空孔率、比表面積及びOI値が電解液の拡散速度にも大きく影響することを研究を通じて見出した。
【0077】
本願のいくつかの実施形態において、前記正電極シートは、正極集電体と、正極集電体の表面に塗布された正極材料層とを含み、正極材料層の空孔率は、10%~50%、好ましくは、20%~40%である。正極材料層の空孔率が大きいほど、電解液が正電極シートの内部に進入する経路が多くなり、電解液が正電極シートへより速く浸潤するようになる。正極材料層の空孔率を10%~50%に限定することにより、電解液を正電極シートにより速く且つ良好に浸潤させることができ、電解液の充填量を適正範囲に確保することができるとともに、電極本体は、高い体積エネルギー密度及び質量エネルギー密度を有することができる。
【0078】
本願のいくつかの実施形態において、正極材料層の比表面積は、0.5m/g~1.5m/gである。正極材料層の比表面積が大きいほど、電解液を吸収しやすくなり、正電極シートへの電解液の浸潤も速くなる。正極材料層の比表面積を0.5m/g~1.5m/gとすることにより、同様に、正電極シートへの電解液の浸潤を速くすることができるとともに、正極材料層と電解液との接触面積を適正範囲内に制御することができ、電解液と正電極シートとの副反応の発生を効果的に防ぐことができる。例えば、正極材料層の比表面積は、0.53m/g、0.62m/g、0.8m/g、0.92m/g、1m/g又は1.2m/gなどである。
【0079】
本願において、正極材料層の結晶方位OI値は、5~120である。正極材料層のOI値は、30~70であることが好ましい。本願において、正極材料層のOI値は、正電極シートのX線回折パターンにおける(003)回折ピークと(110)回折ピークとのピーク面積の比率である。正極材料層のOI値は、層状構造のリチウム含有化合物粒子の積層配向度を反映することができ、正電極シートにおける正極粒子の各結晶面の表面エネルギーが異なり、電解液に対する親和力が異なる。正極材料層のOI値を上記の範囲内に調整することにより、電解液と正電極シートとの浸潤性がある程度向上され、電極本体における電解液の拡散速度を向上させることができる。例えば、正極材料層のOI値は、32、37、40、50、62、75、80、90、又は100などである。
【0080】
本願において、電解液の粘度は、当該技術分野で公知の意味であって、当該技術分野で公知の方法を用いて測定することができる。例えば、測定参考基準はGB/T 10247-2008であって、使用される機器は、ブルックフィールドDV2T粘度計である。例示的な測定方法は、以下のとおりである。まず、電解液サンプルを密封し、恒温水槽に入れ、測定対象温度±0.1℃に達した後に測定を開始し、測定には18#ローターが使用される。
【0081】
正極材料層の空孔率は、当該技術分野で公知の意味であって、当該技術分野で公知の方法を用いて測定することができる。例えば、測定参考基準はGB/T 24586-2009であって、使用される機器はAccuPycII 1340であり、レンジは0.1cm~3.5cmである。測定サンプルの製造は、以下のとおりである。正電極シートを直径1.6cmの円板にプレスし、その数を20枚より多く(例えば30枚)し、用いられるサンプルの枚数と厚さを詳細に記録した。
【0082】
正極材料層の比表面積は、当該技術分野で公知の意味であって、当該技術分野で公知の方法を用いて測定することができる。例えば、測定参考基準はGB/T19587-2017であって、使用される機器はTriStarII3020であり、レンジは≧0.01m/g、加熱範囲は40℃~350℃である。
【0083】
正極材料層のOI値は、正電極シートのX線回折パターンにおける(003)回折ピークと(110)回折ピークとのピーク面積の比率である。正電極シートのX線回折パターンは、当該技術分野で公知の方法を用いて測定することができる。例えば、測定は、JIS K 0131-1996が参考でき、使用される機器はBruKer D8 Discoverであり、シートサンプルの面積は30mm*30mm以上である。
【0084】
層状構造のリチウム遷移金属酸化物の003結晶面に対応する2θ角は17°~20°であり、層状構造のリチウム遷移金属酸化物の110結晶面に対応する2θ角は63°~67°である。
【0085】
本願に係るリチウムイオン電池において、負電極シートは、負極集電体と、負極集電体上に設けられ且つ負極活物質を含有する負極材料層とを含んでいてもよい。前記負極活物質の種類は、特に限定されるものではなく、実際の必要に応じて選択することができる。具体的には、前記負極活物質は、リチウムを可逆的に脱離・挿入が可能な材料であり、黒鉛、珪素、錫、金属酸化物、珪素酸化物、錫酸化物、珪素合金、錫合金、珪素炭素複合体、錫炭素複合体、チタン酸リチウムなどのうちの1つ以上を含む。好ましくは、前記負極活物質は、天然黒鉛、人造黒鉛、又はそれらの混合物から選択される。前記負極材料層には、導電剤及び接着剤が選択的に含まれていてもよく、導電剤及び接着剤の種類は特に限定されず、実際の必要に応じて選択することができる。また、前記負電極シートは、金属リチウムシートを選択することもできる。
【0086】
本願に係るリチウムイオン電池において、前記セパレータの材質は、限定されるものではなく、実際の必要に応じて選択することができる。
【0087】
本願は、リチウムイオン電池の形状に特に制限はなく、円筒形、角形、又は他の任意の形状であってもよい。図2は、一例としての角形構造のリチウムイオン電池10である。
【0088】
また、リチウムイオン電池10は、電極アセンブリ1と電解液(図示せず)とを封入する包装材料を備えている。
【0089】
いくつかの実施形態において、リチウムイオン電池の包装材料は、例えば、硬質プラスチックシェル、アルミニウムシェル、スチールシェルなどのような硬質シェルであってもよい。リチウムイオン電池の包装材料は、例えば、袋状のソフトパックなどのソフトパックであってもよい。ソフトパックは、アルミノプラスチックフィルムパック又はプラスチックフィルムパックであってもよく、ポリプロピレンPP、ポリブチレンテレフタレートPBT、ポリブチレンサクシネートPBSなどのうちの1つ以上を含むことができる。
【0090】
いくつかの実施例において、図2を参照すると、包装材料は、ハウジング2とカバープレート3とを含み得る。ハウジング2は、底板と、底板に接続された側板とを含み、底板と側板とが囲んで収容室を形成する。ハウジング2は、収容室と連通する開口部を有し、カバープレート3は、収容室を封鎖するように開口部に蓋をすることができる。電極アセンブリ1は、前記収容室に収容される。
【0091】
リチウムイオン電池10に含まれる電極アセンブリ1の数は、1個又は数個であってもよく、必要に応じて調整することができる。
【0092】
いくつかの実施例において、リチウムイオン電池は、電池モジュールに組み立てられてもよく、電池モジュールに含まれるリチウムイオン電池の数は、複数であってもよく、具体的な数は、電池モジュールの用途及び容量に応じて調整されてもよい。
【0093】
図4は、一例としての電池モジュール20である。図4を参照すると、電池モジュール20において、複数のリチウムイオン電池10は、電池モジュール20の長手方向に沿って順次に配置されてもよい。もちろん、他の任意の形態で配置することもできる。さらに、複数のリチウムイオン電池10は、締結具により固定することができる。
【0094】
好ましくは、電池モジュール20は、複数のリチウムイオン電池10が収容される収容空間を有する外部ハウジングをさらに備えてもよい。
【0095】
いくつかの実施例において、上記の電池モジュールは、電池パックに組み立てられてもよく、電池パックに含まれる電池モジュールの数は、電池パックの用途及び容量に応じて調節されてもよい。
【0096】
図5及び図6は、一例としての電池パック30である。図5及び図6を参照すると、電池パック30には、電池ボックスと、電池ボックス内に配置された複数の電池モジュール20とが含まれていてもよい。電池ボックスは、上部ボックス31と下部ボックス32を備え、上部ボックス31は、下部ボックス32を覆うように配置され、電池モジュール20を収容する密閉空間を形成することができる。複数の電池モジュール20は、任意の形態で電池ボックス内に配置され得る。
【0097】
第2の態様において、本願は、本願のリチウムイオン電池を含む電気機器を提供する。前記リチウムイオン電池は、前記電気機器の電源として用いられてもよいし、前記電気機器のエネルギー蓄積手段として用いられてもよい。
【0098】
本願のリチウムイオン電池が高エネルギー密度、高サイクル性能、及び高安全性を有する場合、本願のリチウムイオン電池を含む電気機器も上述した利点を有するので、ここでの説明は省略する。
【0099】
本願の電気機器は、例えば、新エネルギー自動車、電子機器、電動工具、電力貯蔵設備などであってもよい。さらに、前記電気機器は、モバイル機器(例えば、携帯電話、ノートパソコンなど)、電気自動車(例えば、純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電動自転車、電動スクーター、電動ゴルフカート、電動トラックなど)、電気列車、船舶及び衛星、エネルギー蓄積システムなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0100】
前記電気機器は、その使用要件に応じて、リチウムイオン電池、電池モジュール、又は電池パックを選択することができる。
【0101】
図7は、一例としての電気機器である。当該電気機器は、純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、又はプラグインハイブリッド電気自動車などである。電気機器用の電池の高電力および高エネルギー密度の要求を満たすために、電池パック又は電池モジュールを使用してもよい。
【0102】
実施例
以下の実施例は、本願において開示される内容をより具体的に説明する。これらの実施例は、単に説明のためのものであり、本願の開示の範囲内での様な修正及び変更は、当業者にとっては明らかである。特に明記しない限り、以下の実施例において報告される全ての部、百分率、及び比率は、重量に基づいており、実施例において使用された全ての試薬は市販されているか、又は常法に従って合成されており、さらに処理することなく直接使用することができる。また、実施例で使用される装置は市販されている。
【0103】
実施例1
本実施例は、正電極シート、セパレータ、及び負電極シートが順次巻回されてなる電極本体と、前記電極本体の両端にそれぞれ設けられた正極タブ及び負極タブと、前記電極本体に浸潤された電解液と、を備えたリチウムイオン電池である(具体的な構成は、図1を参照)。具体的に、本実施例のリチウムイオン電池の製造工程は、以下の通りである。
(1)正電極シートの製造
正極活物質 LiNi0.8Co0.1Mn0.1(NCM811)、導電剤 Super P、接着剤 ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を94:3:3の質量百分率で混合して、溶媒 N-メチルピロリドン(NMP)へ添加し、真空攪拌機を用いて系が均一になるまで攪拌して、正極スラリーを取得し、正極スラリーにおける固形分は77wt%である。正極スラリーを厚さ 14μmの正極集電体アルミニウム箔上に均一に塗布し、85℃で乾燥した。その後、冷間プレス、耳切、シートカット、バーカットを経て、最後に85℃の真空条件下で4時間乾燥して、正電極シートを得た。
(2)負電極シートの製造
負極活物質 黒鉛、導電剤 Super P、増粘剤 カルボキシメチルセルロースナトリウム CMC-Na、接着剤 スチレンブタジエンゴムエマルジョン SBRを94:2:2:2の質量百分率で混合し、溶媒 脱イオン水へ添加し、真空攪拌機の作用下で、負極スラリーを取得し、負極スラリーにおける固形分は54wt%である。負極スラリーを厚さ 8μmの負極集電体銅箔上に均一に塗布し、85℃で乾燥した。その後、冷間プレス、耳切、シートカット、バーカットを経て、最後に120℃の真空条件下で12時間乾燥し、負電極シートを得た。
(3)電解液の製造
含水量<10ppmのアルゴン雰囲気グローブボックス内でEC、EMC、EAを30:60:10の質量百分率で混合して有機溶媒とし、次に、十分に乾燥されたリチウム塩LiPFを混合後の有機溶媒で溶解し、その後、添加剤A トリアリルホスフェートを2wt%添加し、均一に混合して電解液を得た。
当該電解液において、LiPFの濃度は、1moL/Lである。
(4)セパレータの製造
厚さ 16μmのポリエチレンフィルムPEをベースフィルムとし、PE多孔質フィルムの少なくとも一方の表面にセラミック粒子含有のコーティング層を塗布してセパレータを形成した。
(5)リチウムイオン電池の製造
正電極シート、セパレータ、負電極シートを順次に積層し、セパレータが正電極シートと負電極シートとの間で分離の役割を果たすようにした後、角型の電極本体に巻いて、電極本体の長手方向の両端にタブを溶接し、電極本体を包装材料アルミプラスチックフィルム又はスチールシェルに入れた後、80℃で乾燥して水を除去した後、対応する電解液を注入して密封し、その後、静置、熱冷間プレス、化成、排気、整形、容量テストなどの工程を経て、完成品のリチウムイオン電池を得た。
【0104】
実施例2~18及び比較例1~3
実施例2~18及び比較例1~3は、それぞれリチウムイオン電池であり、実施例1との相違点を表1に示す。表1において、各溶媒及び添加剤Aの添加量は、電解液の全質量を基準として算出した質量百分率である。その他は実施例1と同様である。
【0105】
性能測定
次に、各実施例及び比較例のリチウムイオン電池の性能を測定する。
1)電解液に対する正電極シートの吸液速度γの測定方法
実施例及び比較例に記載の正電極シートを十分に乾燥させた後、5cm×5cmの正方形に切断し、試料台に固定する。次に、直径d=0.2mmのキャピラリーを選択して、実施例及び比較例に記載の電解液を一定の高さHまで吸収する。電解液が吸い込まれたキャピラリーを正電極シートに垂直に接触させ、キャピラリーの液面が下がるのをストップウォッチで計時する。液面が全部下がったら、液体吸収時間tを読取る。最後に、式γ=π×(d/2)×h×ρ/tに従って、吸液速度の値を計算し、ここで、ρは電解液の密度である。
各実施例及び比較例の測定結果を表1に示す。
【0106】
2)リチウムイオン電池の25℃でのサイクル性能測定
実施例及び比較例で製造した新品のリチウムイオン二次電池を25℃で5分間放置し、1Cの定電流で4.2Vまで充電し、さらに電流が0.05C以下になるまで定電圧で充電した後、5分間放置し、さらに1Cの定電流で2.8Vまで放電したものを一回の充放電サイクルとし、今回の放電容量をリチウムイオン二次電池の初回目サイクルの放電容量とする。リチウムイオン電池を上記の方法で800回サイクル充放電測定を行い、1回サイクル当たりの放電容量を記録する。各実施例及び比較例の測定結果を表2に示す。
リチウムイオン電池の25℃、1C/1Cで400回サイクル後の容量保持率(%)=800回目サイクルの放電容量/初回目サイクルの放電容量×100%。
【0107】
3)リチウムイオン電池の高温貯蔵体積膨張測定
25℃で、1Cの定電流で4.2Vの電圧まで充電し、4.2Vの定電圧で0.05Cの電流まで充電した後、リチウムイオン電池の体積を測定し、Vとして記録する。次に、満充電のリチウムイオン電池を80℃の恒温槽に入れ、10日間保存し、排水法を用いて体積を測定し、Vとして記録する。
リチウムイオン電池の80℃で10日間保存した後の体積膨張率(%)=(V-V)/V×100%。
各実施例及び比較例の測定結果を表2に示す。
【0108】
【表1-1】
【表1-2】
【0109】
【表2】
【0110】
実施例1~18では、添加剤A含有の電解液を用い、電極本体における電解液の拡散速度を0.01μg/s~5μg/sの範囲に限定することにより、この正極パッシベーション膜は、成膜品質が高く、正極活物質表面での電解液の副反応を効果的に抑制することができるとともに、電解液が良好な浸潤性能を有することから、このような高エネルギー密度設計が電解液の拡散にもたらす阻害を効果的に緩和することができ、サイクル過程で添加剤Aが電極本体内部に適時に補充されることを確保し、正極活物質表面の消耗されたSEI膜を速やかに修復し、コアの高エネルギー密度及び高サイクル容量保持率と、低体積膨張率とを両立させることができる。実施例1~5では、電極本体における電解液の拡散速度が0.2μg/s~2μg/sである場合、リチウムイオン電池のエネルギー密度、サイクル性能、及びガス生成の問題をさらに最適化することができる。
【0111】
比較例1では、電極本体における電解液の拡散速度vは、本願で規定する拡散速度よりも著しく小さい。実験データから、コアにおける電解液の拡散速度vが小さいと、有効な浸潤速度に達せず、リチウムイオン電池のサイクル性能に影響を及ぼすことがわかる。
【0112】
比較例2では、電極本体における電解液の拡散速度vは、本願で規定する拡散速度よりも著しく大きい。実験データから、コアにおける電解液の拡散速度vが大きい場合、リチウムイオン電池のサイクル性能が低下することがわかる。これは、電解液中の溶媒(例えば、エチレンカーボネートEC)とリチウム塩が電解液の正電極シートへの浸潤速度を悪化させるが、リチウム塩を解離して導電率を増加させるためには、電解液に一定量のエチレンカーボネートECが必要となり、リチウムイオンを供給するためには、一定量のリチウム塩が必要となるためである。電解液の拡散速度が高すぎると、リチウム塩に対する電解液の解離及び導電率に影響を及ぼす。
【0113】
さらに、実施例1~18のデータから、電解液における正極成膜用の添加剤Aの質量百分率の含有量と電極本体における電解液の拡散速度vとの関係は、正電極シートの成膜品質及び界面抵抗に大きな影響を及ぼすことがわかる。電解液中の添加剤Aの質量百分率w(%)と前記拡散速度v(μg/s)との積が0.01~10の範囲内、特に0.4~5の範囲内にある場合、電解液の高い浸潤速度を確保しつつ、十分な添加剤Aが安定した保護膜を形成することを確保でき、ガス生成を抑制できる。また、添加剤Aの使用量が適度であり、リチウムイオン電池の良好なサイクル性能が確保できる。
【0114】
以上、本願の具体的な実施形態について説明したが、本願の保護範囲はこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本願に開示の技術的範囲内において、様な等価な修正又は置換が容易に考えられ、これらの修正又は置換は、本願の範囲内に含まれるべきである。したがって、本願の保護範囲は、特許請求の範囲の保護範囲に準ずるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7