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特許7047178情報処理システム、コンピュータプログラム、及び情報処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】情報処理システム、コンピュータプログラム、及び情報処理方法
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/30 20180101AFI20220328BHJP
【FI】
G16H50/30
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021161424
(22)【出願日】2021-09-30
【審査請求日】2021-09-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507009009
【氏名又は名称】株式会社博報堂DYホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】猪谷 誠一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 博司
【審査官】塩澤 如正
(56)【参考文献】
【文献】中国特許第109875544(CN,B)
【文献】特開2016-220779(JP,A)
【文献】特開2017-185074(JP,A)
【文献】特開2007-125074(JP,A)
【文献】特開2005-013305(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0140858(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00 - 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体の運動機能に関する検査結果としての、複数の第一の被検者のそれぞれの前記運動機能に関する複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータに基づき、前記複数の第一の被検者のそれぞれの前記運動機能に関する能力値を算出するように構成される能力値算出部と、
前記能力値算出部により算出された前記能力値の、被検者属性に対する分布に基づき、前記能力値に対応するスコアの算出式を設定するように構成される算出式設定部と、
第二の被検者の前記運動機能に関する前記複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータから算出される前記第二の被検者の前記能力値と、前記算出式と、に基づき、前記第二の被検者の前記能力値に対応する前記スコアを算出するように構成されるスコア算出部と、
前記スコア算出部により算出された前記スコアを出力するように構成される出力部と、
を備え、
前記被検者属性は、被検者の年齢によって定義される属性であり、
前記算出式は、前記スコアとして前記運動機能に関する健康年齢を前記能力値から算出するための算出式であり、
前記算出式設定部は、前記複数の第一の被検者の能力値を標本とした回帰分析によって、前記年齢と前記能力値との間の回帰モデルに従う前記算出式を設定する情報処理システム。
【請求項2】
身体の運動機能に関する検査結果としての、複数の第一の被検者のそれぞれの前記運動機能に関する複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータに基づき、前記複数の第一の被検者のそれぞれの前記運動機能に関する能力値を算出するように構成される能力値算出部と、
前記能力値算出部により算出された前記能力値の、被検者属性毎の分布に基づき、前記被検者属性毎に、前記能力値に対応するスコアの算出式を設定するように構成される算出式設定部と、
第二の被検者の前記運動機能に関する前記複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータから算出される前記第二の被検者の前記能力値と、前記第二の被検者に対応する被検者属性の前記算出式と、に基づき、前記第二の被検者の前記能力値に対応する前記スコアを算出するように構成されるスコア算出部と、
前記スコア算出部により算出された前記スコアを出力するように構成される出力部と、
を備え
前記算出式設定部は、前記被検者属性毎に、対応する被検者属性を有する被検者群の前記能力値の標準値及び標準偏差に基づき、前記標準値を中心とした前記標準偏差に比例する幅を有する前記能力値の範囲に対し、所定範囲のスコアを割り当てるように、前記算出式を設定する情報処理システム。
【請求項3】
前記被検者属性は、年齢によって定義される被検者の属性であり、
前記算出式は、前記スコアとして前記運動機能に関する健康年齢をするための算出式であり、前記能力値が前記標準値である前記第二の被検者に対して前記第二の被検者の実年齢に対応する前記健康年齢を算出するように構成される請求項記載の情報処理システム。
【請求項4】
前記被検者属性は、前記年齢及び性別の組合せによって定義される被検者の属性である請求項記載の情報処理システム。
【請求項5】
前記算出式設定部は、前記複数の第一の被検者の能力値を標本とした回帰分析により、前記被検者属性を説明変数に有し、前記能力値を目的変数に有する回帰モデルであって、前記被検者属性毎の前記能力値の前記標準値を定める回帰モデルを導出し、前記被検者属性毎の前記能力値の前記標準値と、前記複数の第一の被検者の能力値の前記標準値からのばらつきに対応する標準偏差と、に基づき、前記標準値を中心とした前記標準偏差に比例する幅を有する前記能力値の範囲に対し、前記所定範囲のスコアを割り当てるように、前記算出式を設定する請求項~請求項のいずれか一項記載の情報処理システム。
【請求項6】
前記能力値は、項目反応理論に従う項目反応モデルであって、前記複数の検査項目のそれぞれについて、対応する検査項目の各判定値に関する発生確率を、被検者の前記能力値と前記対応する検査項目の難易度とを用いて表す項目反応モデルに従って算出される値である請求項1~請求項のいずれか一項記載の情報処理システム。
【請求項7】
身体の運動機能に関する検査結果としての、複数の第一の被検者のそれぞれの前記運動機能に関する複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータに基づき、前記複数の第一の被検者のそれぞれの前記運動機能に関する能力値を算出するように構成される能力値算出部と、
前記能力値算出部により算出された前記能力値の、被検者属性に対する分布に基づき、前記能力値に対応するスコアの算出式を設定するように構成される算出式設定部と、
第二の被検者の前記運動機能に関する前記複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータから算出される前記第二の被検者の前記能力値と、前記算出式と、に基づき、前記第二の被検者の前記能力値に対応する前記スコアを算出するように構成されるスコア算出部と、
前記スコア算出部により算出された前記スコアを出力するように構成される出力部と、
を備え、
前記能力値は、項目反応理論に従う項目反応モデルであって、前記複数の検査項目のそれぞれについて、対応する検査項目の各判定値に関する発生確率を、被検者の前記能力値と前記対応する検査項目の難易度とを用いて表す項目反応モデルに従って算出される値である情報処理システム。
【請求項8】
身体の運動機能に関する検査結果としての、複数の第一の被検者のそれぞれの前記運動機能に関する複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータに基づき、前記複数の第一の被検者のそれぞれの前記運動機能に関する能力値を算出するように構成される能力値算出部と、
前記能力値算出部により算出された前記能力値の、被検者属性毎の分布に基づき、前記被検者属性毎に、前記能力値に対応するスコアの算出式を設定するように構成される算出式設定部と、
第二の被検者の前記運動機能に関する前記複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータから算出される前記第二の被検者の前記能力値と、前記第二の被検者に対応する被検者属性の前記算出式と、に基づき、前記第二の被検者の前記能力値に対応する前記スコアを算出するように構成されるスコア算出部と、
前記スコア算出部により算出された前記スコアを出力するように構成される出力部と、
を備え
前記能力値は、項目反応理論に従う項目反応モデルであって、前記複数の検査項目のそれぞれについて、対応する検査項目の各判定値に関する発生確率を、被検者の前記能力値と前記対応する検査項目の難易度とを用いて表す項目反応モデルに従って算出される値である情報処理システム。
【請求項9】
前記被検者属性は、被検者の年齢によって定義される属性であり、
前記算出式は、前記スコアとして前記運動機能に関する健康年齢を算出するための算出式である請求項7又は請求項8記載の情報処理システム。
【請求項10】
請求項1~請求項9のいずれか一項記載の情報処理システムにおける能力値算出部、算出式設定部、スコア算出部、及び出力部として、コンピュータを機能させるためのコンピュータプログラム。
【請求項11】
コンピュータにより実行される情報処理方法であって、
身体の運動機能に関する検査結果としての、複数の第一の被検者のそれぞれの前記運動機能に関する複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータに基づき、前記複数の第一の被検者のそれぞれの前記運動機能に関する能力値を算出することと、
算出された前記能力値の、被検者属性に対する分布に基づき、前記能力値に対応するスコアの算出式を設定することと、
第二の被検者の前記運動機能に関する前記複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータから算出される前記第二の被検者の前記能力値と、前記算出式と、に基づき、前記第二の被検者の前記能力値に対応する前記スコアを算出することと、
算出された前記スコアを出力することと、
を含み、
前記被検者属性は、被検者の年齢によって定義される属性であり、
前記算出式は、前記スコアとして前記運動機能に関する健康年齢を前記能力値から算出するための算出式であり、
前記算出式を設定することは、前記複数の第一の被検者の能力値を標本とした回帰分析によって、前記年齢と前記能力値との間の回帰モデルに従う前記算出式を設定することを含む情報処理方法。
【請求項12】
コンピュータにより実行される情報処理方法であって、
身体の運動機能に関する検査結果としての、複数の第一の被検者のそれぞれの前記運動機能に関する複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータに基づき、前記複数の第一の被検者のそれぞれの前記運動機能に関する能力値を算出することと、
算出された前記能力値の、被検者属性毎の分布に基づき、前記被検者属性毎に、前記能力値に対応するスコアの算出式を設定することと、
第二の被検者の前記運動機能に関する前記複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータから算出される前記第二の被検者の前記能力値と、前記第二の被検者に対応する被検者属性の前記算出式と、に基づき、前記第二の被検者の前記能力値に対応する前記スコアを算出することと、
算出された前記スコアを出力することと、
を含み、
前記算出式を設定することは、前記被検者属性毎に、対応する被検者属性を有する被検者群の前記能力値の標準値及び標準偏差に基づき、前記標準値を中心とした前記標準偏差に比例する幅を有する前記能力値の範囲に対し、所定範囲のスコアを割り当てるように、前記算出式を設定することを含む情報処理方法。
【請求項13】
コンピュータにより実行される情報処理方法であって、
身体の運動機能に関する検査結果としての、複数の第一の被検者のそれぞれの前記運動機能に関する複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータに基づき、前記複数の第一の被検者のそれぞれの前記運動機能に関する能力値を算出することと、
算出された前記能力値の、被検者属性に対する分布に基づき、前記能力値に対応するスコアの算出式を設定することと、
第二の被検者の前記運動機能に関する前記複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータから算出される前記第二の被検者の前記能力値と、前記算出式と、に基づき、前記第二の被検者の前記能力値に対応する前記スコアを算出することと、
算出された前記スコアを出力することと、
を含み、
前記能力値は、項目反応理論に従う項目反応モデルであって、前記複数の検査項目のそれぞれについて、対応する検査項目の各判定値に関する発生確率を、被検者の前記能力値と前記対応する検査項目の難易度とを用いて表す項目反応モデルに従って算出される値である情報処理方法。
【請求項14】
コンピュータにより実行される情報処理方法であって、
身体の運動機能に関する検査結果としての、複数の第一の被検者のそれぞれの前記運動機能に関する複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータに基づき、前記複数の第一の被検者のそれぞれの前記運動機能に関する能力値を算出することと、
算出された前記能力値の、被検者属性毎の分布に基づき、前記被検者属性毎に、前記能力値に対応するスコアの算出式を設定することと、
第二の被検者の前記運動機能に関する前記複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータから算出される前記第二の被検者の前記能力値と、前記第二の被検者に対応する被検者属性の前記算出式と、に基づき、前記第二の被検者の前記能力値に対応する前記スコアを算出することと、
算出された前記スコアを出力することと、
を含み、
前記能力値は、項目反応理論に従う項目反応モデルであって、前記複数の検査項目のそれぞれについて、対応する検査項目の各判定値に関する発生確率を、被検者の前記能力値と前記対応する検査項目の難易度とを用いて表す項目反応モデルに従って算出される値である情報処理方法。
【請求項15】
前記被検者属性は、被検者の年齢によって定義される属性であり、
前記算出式は、前記スコアとして前記運動機能に関する健康年齢を算出するための算出式である請求項13又は請求項14記載の情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、情報処理システム、コンピュータプログラム、及び情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被検者の運動機能を評価するための運動機能評価装置が既に知られている(例えば、特許文献1参照)。この装置によれば、荷重センサを用いて、被検者の重心位置が安定する時間に基づき、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)の程度が判定される。
【0003】
ロコモティブシンドロームの程度を、下肢筋力の検査を目的とした立ち上がりテスト、歩幅の検査を目的とした2ステップテスト、及び、身体の状態や生活状況の検査を目的とした質問形式のテストから判定する技術も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-102594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
身体の運動機能は、通常加齢と共に低下する。運動機能の高低は、性別によって異なる。このため、従来技術に基づいてロコモティブシンドロームの程度を判定及び表示するだけでは、ユーザは、自己の運動機能が年齢及び性別等の属性に対して標準的であるのか、標準よりも高いのか、それとも標準よりも低いのかを判別することができない。
【0006】
そこで、本開示の一側面によれば、被検者の運動機能の高低を、年齢等の被検者属性を加味して容易に判別可能な技術を提供できることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面によれば、情報処理システムが提供される。情報処理システムは、能力値算出部と、算出式設定部と、スコア算出部と、出力部とを備える。能力値算出部は、身体の運動機能に関する検査結果としての、複数の第一の被検者のそれぞれの運動機能に関する複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータに基づき、複数の第一の被検者のそれぞれの運動機能に関する能力値を算出するように構成される。
【0008】
算出式設定部は、能力値算出部により算出された能力値の、被検者属性に対する分布に基づき、能力値に対応するスコアの算出式を設定するように構成される。スコア算出部は、第二の被検者の運動機能に関する複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータから算出される第二の被検者の能力値と、算出式と、に基づき、第二の被検者の能力値に対応するスコアを算出するように構成される。第二の被検者は、第一の被検者とは異なる被検者又は同じ被検者であり得る。
【0009】
出力部は、スコア算出部により算出されたスコアを出力するように構成される。被検者属性は、例えば被検者の年齢によって定義される属性であり得る。被検者の年齢によって定義される被検者属性の例には、被検者の性別及び年齢の組合せによって定義される属性が含まれる。算出式は、例えばスコアとして運動機能に関する健康年齢を能力値から算出するための算出式であり得る。
【0010】
運動機能に関する検査結果に基づき上述した手法で健康年齢を算出するように構成され
る情報処理システムによれば、被検者属性を加味した被検者の運動機能の高低を、健康年齢に基づき容易に判別可能である。例えば、被検者は、伝えられた健康年齢に基づき、自己の年齢を加味した運動機能の高低を容易に判別可能である。
【0011】
本開示の一側面によれば、算出式設定部は、複数の第一の被検者の能力値を標本とした回帰分析によって、年齢と能力値との間の回帰モデルに従う算出式を設定するように構成されてもよい。回帰分析を用いれば、統計的な側面から、適切な健康年齢を算出することができ、被検者に対し運動機能の高低をより正確に伝えることができる。
【0012】
本開示の一側面によれば、別の情報処理システムが提供されてもよい。別の情報処理システムは、身体の運動機能に関する検査結果としての、複数の第一の被検者のそれぞれの運動機能に関する複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータに基づき、複数の第一の被検者のそれぞれの運動機能に関する能力値を算出するように構成される能力値算出部を備えることができる。
【0013】
別の情報処理システムは、能力値算出部により算出された能力値の、被検者属性毎の分布に基づき、被検者属性毎に、能力値に対応するスコアの算出式を設定するように構成される算出式設定部を備えることができる。
【0014】
別の情報処理システムは、第二の被検者の運動機能に関する複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータから算出される第二の被検者の能力値と、第二の被検者に対応する被検者属性の算出式と、に基づき、第二の被検者の能力値に対応するスコアを算出するように構成されるスコア算出部を備えることができる。
【0015】
別の情報処理システムは、スコア算出部により算出されたスコアを出力するように構成される出力部を更に備えることができる。被検者属性毎の分布に基づき、被検者属性毎の算出式を設定することによれば、被検者属性を加味した運動機能の高低を、スコアで適切に表現することができる。
【0016】
本開示の一側面によれば、算出式設定部は、被検者属性毎に、対応する被検者属性を有する被検者群の能力値の標準値及び標準偏差に基づき、標準値を中心とした標準偏差に比例する幅を有する能力値の範囲に対し、所定範囲のスコアを割り当てるように、算出式を設定してもよい。
【0017】
標準偏差を考慮して能力値にスコアを割り当てる手法によれば、被検者属性間で標準偏差がばらつくことに起因して、被検者属性間でスコアの変動幅がばらつくのを抑制することができる。
【0018】
本開示の一側面によれば、被検者属性は、年齢によって定義される被検者の属性であってもよい。算出式は、スコアとして運動機能に関する健康年齢をするための算出式であってもよい。算出式は、能力値が標準値である第二の被検者に対して第二の被検者の実年齢に対応する健康年齢を算出するように構成されてもよい。
【0019】
本開示の一側面によれば、被検者属性は、年齢及び性別の組合せによって定義される被検者の属性であってもよい。
【0020】
本開示の一側面によれば、算出式設定部は、複数の第一の被検者の能力値を標本とした回帰分析により、被検者属性を説明変数に有し、能力値を目的変数に有する回帰モデルであって、被検者属性毎の能力値の標準値を定める回帰モデルを導出し、被検者属性毎の能力値の標準値と、複数の第一の被検者の能力値の標準値からのばらつきに対応する標準偏
差と、に基づき、標準値を中心とした標準偏差に比例する幅を有する能力値の範囲に対し、所定範囲のスコアを割り当てるように、算出式を設定してもよい。
【0021】
本開示の一側面によれば、能力値は、項目反応理論に従う項目反応モデルであって、複数の検査項目のそれぞれについて、対応する検査項目の各判定値に関する発生確率を、被検者の能力値と対応する検査項目の難易度とを用いて表す項目反応モデルに従って算出される値であってもよい。
【0022】
検査項目毎の難易度を考慮することによれば、運動機能に関する能力値として、複数の検査項目の判定値を総合した適切な能力値を算出することができる。従って、被検者の運動機能に対応する適切なスコアを算出可能である。
【0023】
本開示の一側面によれば、上述した情報処理システムにおける能力値算出部、算出式設定部、スコア算出部、及び出力部の少なくとも一部としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムが提供されてもよい。本開示の一側面によれば、コンピュータに情報処理方法を実行させることにより、情報処理システムの機能が実現されてもよい。
【0024】
本開示の一側面によれば、コンピュータにより実行される情報処理方法が提供されてもよい。情報処理方法は、身体の運動機能に関する検査結果としての、複数の第一の被検者のそれぞれの運動機能に関する複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータに基づき、複数の第一の被検者のそれぞれの運動機能に関する能力値を算出することを含むことができる。
【0025】
情報処理方法は、算出された能力値の、被検者属性に対する分布に基づき、能力値に対応するスコアの算出式を設定することを含むことができる。情報処理方法は、第二の被検者の運動機能に関する複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータから算出される第二の被検者の能力値と、算出式と、に基づき、第二の被検者の能力値に対応するスコアを算出することを含むことができる。
【0026】
情報処理方法は、算出されたスコアを出力することを含むことができる。被検者属性は、被検者の年齢によって定義される属性であり得る。算出式は、スコアとして運動機能に関する健康年齢を能力値から算出するための算出式であり得る。
【0027】
本開示の一側面によれば、コンピュータにより実行される別の情報処理方法が提供されてもよい。別の情報処理方法は、身体の運動機能に関する検査結果としての、複数の第一の被検者のそれぞれの運動機能に関する複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータに基づき、複数の第一の被検者のそれぞれの運動機能に関する能力値を算出することを含むことができる。別の情報処理方法は、算出された能力値の、被検者属性毎の分布に基づき、被検者属性毎に、能力値に対応するスコアの算出式を設定することを含むことができる。
【0028】
別の情報処理方法は、第二の被検者の運動機能に関する複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータから算出される第二の被検者の能力値と、第二の被検者に対応する被検者属性の算出式と、に基づき、第二の被検者の能力値に対応するスコアを算出することを含むことができる。別の情報処理方法は、算出されたスコアを出力することを含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】情報処理システムの構成を表すブロック図である。
図2】被検者データの構成を表す図である。
図3】第一実施形態においてプロセッサが実行する分析処理を表すフローチャート(その1)である。
図4】第一実施形態の分析処理を表すフローチャート(その2)である。
図5図5Aは、男性の被検者群に関する能力値の分布を例示するグラフであり、図5Bは、対応する個人特性値の分布を例示するグラフである。
図6図6Aは、女性の被検者群に関する能力値の分布を例示するグラフであり、図6Bは、対応する個人特性値の分布を例示するグラフである。
図7】個人特性値の分布と健康年齢の幅との関係を説明するグラフである。
図8】ウェブサーバから健康年齢の情報を提供するシステムの構成を表すブロック図である。
図9】ウェブサーバのプロセッサが実行するサービス提供処理を表すフローチャートである。
図10】通信端末に表示されるサービス提供画面の例を説明する図である。
図11】第二実施形態の分析処理を部分的に表すフローチャートである。
図12】第三実施形態の分析処理を表すフローチャートである。
図13】実年齢と健康年齢との関係を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本開示の例示的実施形態を、図面を参照しながら説明する。
[第一実施形態]
図1に示す本実施形態の情報処理システム1は、下肢運動機能に関する健康年齢を算出するように構成されるシステムである。健康年齢の算出式は、複数の被検者の下肢運動機能に関する検査結果から、統計的手法により導出される。
【0031】
情報処理システム1は、コンピュータシステムに、専用のコンピュータプログラムがインストールされて構成される。情報処理システム1は、プロセッサ11と、メモリ13と、ストレージ15と、ユーザインタフェース17と、通信インタフェース19とを備える。
【0032】
プロセッサ11は、コンピュータプログラムに従う処理を実行する。メモリ13は、RAMを備え、プロセッサ11による処理実行時に作業領域として使用される。ストレージ15は、ハードディスクドライブ及び/又はソリッドステートドライブを備え、コンピュータプログラム及び各種データを記憶する。
【0033】
ユーザインタフェース17は、キーボード及びマウス等の入力デバイスと、液晶ディスプレイ等の表示デバイスとを備え、ユーザからの操作を受付可能、且つ、ユーザに向けて各種情報を表示可能に構成される。通信インタフェース19は、外部デバイスと通信可能に構成される。
【0034】
情報処理システム1は、算出式を導出するために、更には、健康年齢を算出するために、被検者集団における各被検者の検査結果を含む被検者データを、外部デバイスから取得し、取得した被検者毎の被検者データを、ストレージ15に格納する。
【0035】
図2に示す例によれば、被検者データは、対応する被検者の識別コード、氏名、年齢、及び性別を示すデータの他、対応する被検者の下肢運動機能に関する検査データを備える。以下では、被検者の識別コードのことを、被検者IDという。検査データは、被検者が受けた下肢運動機能に関する検査により得られた複数の検査項目のそれぞれの判定値を記述する。
【0036】
下肢運動機能に関する検査は、例えば、日本整形外科学会が推奨する『立ち上がりテス
ト』、『2ステップテスト』、及び『ロコモ25』の三種類のテストを用いて行われる。検査データは、例えば、これら三種のテストに関する検査項目毎の判定値を記述する。
【0037】
『立ち上がりテスト』は、下肢筋力を判定するためのテストである。このテストでは、異なる高さの座面を有する複数種類の台が用意される。具体的には、10cm、20cm、30cm、及び40cmの高さの座面を有する台が用意される。座面の低い台ほど、その台に座った状態から立ち上がるために必要な下肢筋力は高い。片脚で立ち上がる場合のほうが両脚で立ち上がる場合よりも必要な下肢筋力は高い。
【0038】
『立ち上がりテスト』では、座る台を高い座面を有する台から順により低い座面を有する台に切り替えて、台に座った状態から片脚で立ち上がるテストが行われる。片脚で立ち上がることができない場合には、同じ高さの座面を有する台に座った状態から両脚で立ち上がるテストが行われる。これにより、下肢筋力の大きさが9段階で判定される。検査データは、『立ち上がりテスト』に関する検査結果として、この下肢筋力の判定値を記述することができる。判定値は、値0から値8までの整数値を採る。
【0039】
『2ステップテスト』は、歩行能力を判定するためのテストである。このテストでは、所定条件で被検者が2歩歩いたときの、2歩分の歩幅が測定される。2歩分の歩幅を身長で割ることにより、2ステップ値が算出される。検査データは、『2ステップテスト』に関する検査結果として、この2ステップ値を記述することができる。
【0040】
『ロコモ25』は、1か月間のからだの痛みや日常生活で起きた困難なことに関する25の質問に、被検者が回答するアンケート形式の検査である。25の質問のそれぞれが、下肢運動機能に関する検査項目の一つに対応する。
【0041】
25の質問には、質問『下肢のどこかに痛みがありますか?』が含まれ、これに対する回答の選択肢には『痛くない』『少し痛い』『中程度痛い』『かなり痛い』及び『ひどく痛い』が用意される。25の質問には、更に、質問『家の中を歩くのはどの程度困難ですか?』が含まれ、これに対する回答の選択肢には、『困難でない』『少し困難』『中程度困難』『かなり困難』及び『ひどく困難』が用意される。
【0042】
『ロコモ25』によれば、被検者から、25の質問のそれぞれに対して5段階の回答が得られる。検査データは、『ロコモ25』に関する検査結果として、被検者の25の質問のそれぞれに対する回答を数値として記述する。各質問に対する回答が、各検査項目の判定値に対応する。判定値は、値0から値4までの整数値を採る。
【0043】
プロセッサ11は、分析処理の実行指示が入力されると、下肢運動機能に関する健康年齢の算出式を導出するために、図3及び図4に示す分析処理を実行する。実行指示は、例えばユーザインタフェース17を通じて、情報処理システム1のユーザから入力される。
【0044】
図3及び図4に示す分析処理を開始すると、プロセッサ11は、ユーザから指定された被検者集団における各被検者の被検者データをストレージ15から読み出し(S110)、離散化処理を行う(S120)。
【0045】
離散化処理において、プロセッサ11は、各被検者の2ステップ値を、所定規則で離散値に変換する。プロセッサ11は、2ステップ値を、例えばストレージ15に記憶された変換テーブルに従って、多段階のレベルに離散化する。
【0046】
2ステップ値が採り得る範囲は、予め設計者により、等分又は非等分に区分化される。各区分が一つのレベルに対応する。変換テーブルは、2ステップ値の各区分とレベルとの
関係を定義する。これにより、変換テーブルは、2ステップ値に対する、多段階のレベルを定義する。離散化された2ステップ値は、値0~Mまでの整数値を採る。Mは、1以上の整数値、特に最大レベルに対応する整数値であり得る。
【0047】
続くS130において、プロセッサ11は、項目反応理論に基づき、被検者集団の検査結果を分析する(S130)。具体的には、多値項目反応モデルの一つである部分採点モデル(PCM:Partial Credit Model)を用いて、被検者集団の検査結果を分析する。
【0048】
S130では、次の式(1)に従う確率モデルを用いて、被検者集団の検査結果に対して尤もらしい項目パラメータa,bの値が算出される。項目パラメータa,bは、詳細には集合a={a|i=1,…,N}及び集合b={b|i=1,…,N}である。
【0049】
【数1】
インデックスiは、項目番号に対応する。項目番号は、検査項目の識別番号に対応する。以下では、項目番号iの検査項目のことを、第i検査項目という。Nは、項目数に対応する。
【0050】
インデックスjは、被検者の識別番号、換言すれば被検者IDに対応する。以下では、識別番号jの被検者のことを、第j被検者という。Yijは、第j被検者から得られる第i検査項目の反応値に対応する。第i検査項目の反応値は、第i検査項目の判定値に対応する。
【0051】
例えば、検査項目が『2ステップテスト』であるとき、反応値は、上述の離散化された2ステップ値である。検査項目が『立ち上がりテスト』『ロコモ25』に関するものであるとき、反応値は、上述の判定値と同じである。
【0052】
θは、第j被検者の下肢運動機能に関する能力値である。aは、第i検査項目の識別力に対応する。bは、第i検査項目の難易度に対応し、詳細にはカテゴリ区分値bisの集合b={bis|s=1,…,m}である。
【0053】
は、第i検査項目のカテゴリ数に対応する。カテゴリ数は、第i検査項目の反応値がとり得る値の数より1小さい値である。すなわち、『立ち上がりテスト』の検査項目のカテゴリ数は、8であり、『2ステップテスト』の検査項目のカテゴリ数は、41であり、『ロコモ25』の各検査項目のカテゴリ数は、4である。反応値y=0であるとき式(1)の上記確率モデルは、次の式(2)で表すことができる。
【0054】
【数2】
式(1)及び式(2)で表される確率モデルは、第i検査項目の各判定値に関する発生確率を、被検者の能力値θと第i検査項目の識別力a及び難易度b(詳細には判定値毎の難易度bis)とを用いて表す項目反応モデルである。
【0055】
S130では、被検者集団の検査データから特定される反応値の集合{Yij}に基づいて、条件付確率P(Yij=y|θ,a,b)の積に対応する尤度関数の値を最大にする項目パラメータa,bの値が算出される。更に、被検者毎に、算出された項目パラメータa,bの値と、被検者の各検査項目の反応値Yijと、に基づいて、被検者の能力値θが算出される。
【0056】
その後、プロセッサ11は、被検者集団の能力値の集合{θj}を、各被検者の性別及び年齢の情報と共に標本として用いて、回帰分析を行うことにより、被検者属性に関する説明変数x1,x2,x3を有し、能力値θに関する目的変数を有する次の回帰式を算出する(S140)。
θ=f(x1,x2,x3)=γ0+γ1・x1+γ2・x2+γ3・x3
【0057】
説明変数x1は、被検者の性別に対応し、説明変数x2は、被検者の年齢に対応し、説明変数x3は、性別及び年齢の組合せで定義される性年齢に関する被検者の性年齢区分に対応する。γ0,γ1,γ2,γ3は、回帰係数に対応する。
【0058】
図5Aは、男性の被検者群に関する能力値θの分布を、年齢を表す横軸及び能力値θを表す縦軸を有するグラフ上に例示する。図6Aは、女性の被検者群に関する能力値θの分布を、年齢を表す横軸及び能力値θを表す縦軸を有するグラフ上に例示する。図5A及び図6Aに示す直線は、年齢対能力値の次元での回帰直線を表す。
【0059】
回帰分析は、二乗誤差和Σ|θj-f(x1,x2,x3)|を最小にする回帰係数γ0,γ1,γ2,γ3を探索することにより行われる。探索された回帰係数γ0,γ1,γ2,γ3を含む回帰式θ=f(x1,x2,x3)を用いて算出される能力値θは、x1,x2,x3で表される性別及び年齢の被検者群の標準的な能力値に対応する。以下では、回帰式で算出される標準的な能力値θのことを、特に標準能力値θrと表現する。
【0060】
回帰式に含まれる性別項(γ1・x1)は、標準能力値θrに含まれる性別成分を表し、年齢項(γ2・x2)は、標準能力値θrに含まれる年齢成分を表し、性年齢項(γ3・x3)は、標準能力値θrに含まれる性年齢成分を表す。γ0は、切片に対応し、標準能力値θrの性別及び年齢に依らない基本成分を表す。
【0061】
各被検者の能力値θの標準能力値θrに対する差分(θ-θr)は、被検者の性年齢での標準的な能力値をゼロとする被検者の能力値に対応する。以下では、この能力値(θ-θr)のことを、個人特性値ζと表現する。
【0062】
各被検者の個人特性値ζは、対応する被検者の能力値θと、対応する被検者の性別及び年齢とに基づき、式ζ=θ-f(x1,x2,x3)により算出することができる。
【0063】
S140では、能力値θから個人特性値ζへの変換式として、ζ=g(θ,x1,x2,x3)=θ-f(x1,x2,x3)が設定される。続くS150において、プロセッサ11は、各被検者の能力値θを、対応する被検者の性別及び年齢に基づき、個人特性値ζ=g(θ=θ,x1,x2,x3)に変換する。
【0064】
図5Bは、男性の被検者群の個人特性値ζの分布を、年齢を表す横軸及び個人特性値ζ
を表す縦軸を有するグラフ上に例示する。図6Bは、女性の被検者群の個人特性値ζの分布を、年齢を表す横軸及び個人特性値ζを表す縦軸を有するグラフ上に例示する。図5B及び図6Bに示す直線は、個人特性値ζ=0の直線である。
【0065】
その後、プロセッサ11は、性年齢毎に、対応する被検者の個人特性値ζを健康年齢zに変換する処理を実行する(S160-200)。具体的には、プロセッサ11は、処理対象の性年齢を選択し、処理対象の性年齢の被検者群の個人特性値{ζ}の分布を特定する。詳細には、プロセッサ11は、処理対象の性年齢の被検者群の個人特性値{ζ}の標準偏差σを算出する(S170)。
【0066】
続くS180において、プロセッサ11は、個人特性値ζから健康年齢zへの変換式z=h(q,ζ)=q+W・ζを設定する。qは、実年齢であり、Wは、変換係数である。図7に示すように、プロセッサ11は、95%信頼区間において、健康年齢zの変動幅が実年齢qから±Lの範囲に収まるように、S170で算出された標準偏差σを用いて、式W=L/(2σ)に従って、変換係数を設定する。すなわち、プロセッサ11は、処理対象の性年齢に関して、個人特性値ζから健康年齢zへの変換式を、z=h(q,ζ)=q+{L/(2σ)}・ζに設定する。
【0067】
続くS190において、プロセッサ11は、S180で設定した変換式z=h(q,ζ)を用いて、処理対象の性年齢の各被検者の個人特性値ζを、健康年齢z=q+W・ζに変換する。
【0068】
このように第j被検者の健康年齢zは、第j被検者の実年齢qに、個人特性値ζに応じた年齢補正+W・ζを加えた値である。プロセッサ11は、変換式z=h(q,ζ)に従って算出される健康年齢zが、実年齢qに対して±Lの範囲を超える場合、健康年齢zを、z=q+L又はz=q-Lに修正してもよい。すなわち、健康年齢zは、実年齢qに対して±Lの範囲で算出されてもよい。
【0069】
プロセッサ11は、全ての性年齢に関して性年齢毎の変換式z=h(q,ζ)を設定するまで、S200で否定判断して、S160~S190の処理を繰返し実行することにより、性年齢毎の変換式z=h(q,ζ)を設定すると共に、各被検者の健康年齢zを、対応する性年齢の変換式z=h(q,ζ)を用いて算出する。
【0070】
プロセッサ11は、全ての性年齢に関して性年齢毎の変換式z=h(q,ζ)の算出及び健康年齢zの算出を終了すると、S200において肯定判断し、S210の出力処理を実行する。出力処理において、プロセッサ11は、被検者毎に、対応する被検者個人の下肢運動能力を、健康年齢zと共に説明した報告書を作成し、報告書を、各被検者に向けて出力することができる。
【0071】
例えば、プロセッサ11は、各被検者の予め登録されたメールアドレス先に、対応する被検者の報告書を電子メールで送信することができる。あるいは、プロセッサ11は、紙媒体により各被検者に報告書を提供するために、外部デバイスとしてのプリンタを通じてこれらの報告書を出力する処理を実行することができる。
【0072】
報告書は、報告書の閲覧のために用意されたウェブサーバに登録されてもよい。ウェブサーバは、被検者の通信端末からの要求に応じて、対応する報告書をウェブページとして、被検者の通信端末に送信することができる。
【0073】
情報処理システム1の分析処理において導出された項目パラメータa,bを含む確率モデル、個人特性値ζへの変換式ζ=g(θ,x1,x2,x3)、及び、性年齢毎の変換
式z=h(q,ζ)は、これらの変換式の導出に用いられた被検者集団とは別の被検者の健康年齢zの算出に用いられてもよい。
【0074】
例えば、健康年齢の算出サービスを提供するウェブサーバ50が図8に示すように構築されてもよい。ウェブサーバ50は、図8に示すように、プロセッサ51、メモリ53と、ストレージ55と、を備えることができ、ストレージ55に、情報処理システム1の分析処理において導出された確率モデル、変換式ζ=g(θ,x1,x2,x3)、及び変換式z=h(q,ζ)を記憶することができる。
【0075】
ここで説明するウェブサーバ50は、情報処理システム1とは別のコンピュータシステムであるが、情報処理システム1がウェブサーバ50としての機能を有していてもよい。
【0076】
ウェブサーバ50のプロセッサ51は、ユーザの通信端末60から算出サービスを提供するウェブページへのアクセスがあると、図9に示すサービス提供処理を実行することができる。
【0077】
サービス提供処理を開始すると、プロセッサ51は、下肢運動機能に関する検査結果を被検者の性別及び年齢と共に入力するための入力欄71を含むサービス提供画面70を通信端末60に表示させるためのウェブページを、アクセス元の通信端末60に送信する(S310)。
【0078】
通信端末60は、このウェブページの受信に応じてサービス提供画面70を表示し、入力欄71に対する入力操作を受け付ける。これにより、通信端末60のユーザは、通信端末60に表示されるサービス提供画面70を通じて、自己の検査結果を入力することができる。
【0079】
図10に例示されるサービス提供画面70は、入力欄71に加えて表示欄75を備える。入力欄71は、被検者の性別及び年齢と共に、被検者の下肢運動機能に関する検査結果を、通信端末60を通じて入力可能に構成される。
【0080】
具体的に、入力欄71は、検査結果として、『立ち上がりテスト』『2ステップテスト』『ロコモ25』に関する複数の検査項目の判定値を入力可能に構成される。ユーザは、自ら『立ち上がりテスト』『2ステップテスト』『ロコモ25』を通じた下肢運動機能の検査を行い、その結果を入力欄71に入力することができる。
【0081】
表示欄75は、入力欄71に入力された検査結果に基づき、ウェブサーバ50が提供する情報を表示するための領域である。表示欄75は、被検者の性別、年齢、個人特性値ζ、及び健康年齢zを表示するように構成される。
【0082】
プロセッサ51は、S310における通信端末60へのウェブページへの送信後、サービス提供画面70を通じた入力操作の完了により、通信端末60から送信されてくる、被検者の性別、年齢、及び検査結果を記す入力データを受信する(S320)。
【0083】
続くS330において、プロセッサ51は、入力データに含まれる2ステップ値を、多段階のレベル値に離散化する。続くS340において、プロセッサ51は、入力データと、項目パラメータa,bを含む次の式(3)の確率モデルとに基づいて、ユーザの能力値θを算出する。
【0084】
【数3】
プロセッサ11は、入力データに含まれる複数の検査項目についての判定値の集合に基づいて、条件付確率P(Y=y|θ,a,b)の積に対応する尤度関数を最大にする値θを、能力値θとして算出することができる(S340)。
【0085】
その後、プロセッサ51は、算出された能力値θを変換式ζ=g(θ,x1,x2,x3)に入力して、能力値θを個人特性値ζに変換する。変換式ζ=g(θ,x1,x2,x3)には、x1,x2,x3として、入力データから特定されるユーザの性別及び年齢に対応した値が入力される(S350)。
【0086】
更に、プロセッサ51は、算出された個人特性値ζを、性年齢毎の変換式のうち、ユーザの性年齢に対応する変換式z=h(q,ζ)=q+{L/(2σ)}・ζに入力して、個人特性値ζを健康年齢zに変換する。これにより、プロセッサ51は、ユーザの健康年齢zを算出する(S360)。
【0087】
その後、プロセッサ51は、ユーザの性別及び年齢、並びに、算出された個人特性値ζ及び健康年齢zが表示欄75に表示される更新後のウェブページを、通信端末60に送信する(S370)。これにより、ウェブサーバ50からユーザの通信端末60には、ユーザの下肢運動機能に関する個人特性値ζ及び健康年齢zを含む情報が提供される。ウェブページを受信した通信端末60は、更新後のサービス提供画面70を表示し、それにより、ユーザに下肢運動機能に関する個人特性値ζ及び健康年齢zの情報を提供する。
【0088】
以上、第一実施形態の情報処理システム1及びウェブサーバ50の構成を説明した。本実施形態によれば、情報処理システム1のプロセッサ11は、能力値算出部として機能し、被検者集団の被検者データの一群に基づき、各被検者の運動機能に関する能力値θを算出する(S130)。
【0089】
プロセッサ11は、更に算出式設定部として機能し、能力値θの被検者属性に対する分布に基づき、能力値θに対応するスコアである健康年齢zの算出式として、変換式ζ=g(θ,x1,x2,x3)、及び、変換式z=h(q,ζ)=q+{L/(2σ)}・ζを設定する(S140,S180)。
【0090】
プロセッサ11は、更にスコア算出部として機能し、被検者集団における各被検者の能力値θと、上記算出式と、に基づき、被検者の能力値θに対応する健康年齢zを算出する(S150,S190)。プロセッサ11は、更に出力部として機能し、算出した健康年齢zを出力する(S210)。
【0091】
ウェブサーバ50のプロセッサ51もまたスコア算出部及び出力部として機能し、被検者集団とは異なる被検者の下肢運動機能に関する各検査項目の判定値を示すデータに基づき、対応する被検者の健康年齢zを算出及び出力する(S360,S370)。
【0092】
本実施形態によれば、健康年齢zが性年齢毎の被検者の能力値θの分布を考慮して算出されることから、被検者は、伝えられた健康年齢zに基づき、性年齢を加味した自己の運動機能の高低を容易に判別可能である。従って、本実施形態によれば、被検者の健康管理
に役立つシステムを構築でき、対応するサービスを提供することが可能である。
【0093】
本実施形態によれば特に、能力値の集合{θj}に対する回帰分析により、性別及び年齢と、能力値θとの間の回帰モデルとして、上述した回帰式が算出される。回帰式に従う能力値θが標準能力値θrとして取り扱われ、各個人の能力値θの標準能力値θrからの差分が個人特性値ζとして算出される。健康年齢zは、個人特性値ζに基づいて算出される。
【0094】
こうした回帰分析を用いた個人特性値ζの算出及び健康年齢zの算出によれば、統計的な側面から性年齢毎の能力値θの標準値を適切に設定し、その標準値を考慮した適切な健康年齢zを算出可能である。
【0095】
本実施形態によれば更に、性年齢毎に、個人特性値ζの分布特性を表す標準偏差σを考慮して、健康年齢zの算出式が用意される。標準能力値θrに対応する個人特性値ζ=0を中心した標準偏差σに比例する幅を有する個人特性値ζの範囲-2σ≦ζ≦+2σに対し、実年齢qを基準とした所定幅を有する範囲q-L≦z≦q+Lの健康年齢zが割り当てられる。個人特性値ζがゼロ、すなわち、能力値θが標準能力値θrである被検者に対しては、実年齢qと同一の健康年齢z=qが割り当てられる。
【0096】
性年齢毎に、標準偏差σを考慮して個人特性値ζに健康年齢zを割り当てる手法によれば、性年齢間で標準偏差σがばらつくことに起因する健康年齢zの幅のばらつきを抑制することができる。従って、異なる性年齢間で、比較可能な健康年齢zを被検者に伝えることができる。それにより、複数年に亘って被検者が下肢運動機能の変化を容易に理解可能な健康年齢zを提供し得る。更には、家族間や友人間で比較可能な健康年齢zを提供し得る。
【0097】
この他、本実施形態によれば、項目反応モデルを用いて検査項目毎及び判定値毎の難易度を考慮しながら、下肢運動機能に関する能力値θを算出する。従って、複数の検査項目の判定値を総合した適切な能力値θを算出することができ、適切な能力値θに基づいた適切な健康年齢zを算出することができる。
【0098】
[第二実施形態]
続いて第二実施形態の情報処理システム1の構成を説明する。第二実施形態の情報処理システム1は、プロセッサ11が実行する分析処理が部分的に第一実施形態と異なる点を除いて、第一実施形態の情報処理システム1と同様に構成される。以下では、第二実施形態の情報処理システム1の説明として、第一実施形態とは異なる構成を選択的に説明し、同一構成の説明を適宜省略する。
【0099】
プロセッサ11は、図3に示す分析処理に代えて、図11に分析処理を実行する。この分析処理を開始すると、プロセッサ11は、第一実施形態におけるS110,S120の処理と同様に、ユーザから指定された被検者集団における各被検者の被検者データをストレージ15から読み出し(S410)、離散化処理を行う(S420)。
【0100】
続くS430において、プロセッサ11は、式(1)に従う第一実施形態の確率モデルの能力値θを、θ=γ0+γ1・x1+γ2・x2+γ3・x3+ζに置き換えた確率モデルに従って、項目パラメータa,b及び係数γ0,γ1,γ2,γ3と、各被検者の個人特性値ζと、を算出する。x1は、第j被検者の性別であり、x2は、第i被検者の年齢であり、x3は、第i被検者の性年齢区分である。プロセッサ11は、その後、S160~S210の処理を、第一実施形態と同様に実行する。
【0101】
上述した手法で各被検者の個人特性値ζを算出し、個人特性値ζを健康年齢zに変換する手法によっても、第一実施形態と同様の効果を得ることができる。本実施形態の情報処理システム1の構成に合わせて、ウェブサーバ50のプロセッサ51は、サービス提供処理のS340,S350において次の処理を実行することができる。
【0102】
すなわち、プロセッサ51は、S340,S350において、S430の処理で用いられた確率モデルと、算出された項目パラメータa,b及び係数γ0,γ1,γ2,γ3とに基づいて、被検者の性年齢を考慮した個人特性値ζを算出することができる。
【0103】
[第三実施形態]
続いて、第三実施形態の情報処理システム1の構成を説明する。第三実施形態の情報処理システム1は、プロセッサ11が実行する分析処理が部分的に第一実施形態と異なる点を除いて、第一実施形態の情報処理システム1と同様に構成される。以下では、第三実施形態の情報処理システム1の説明として、第一実施形態とは異なる構成を選択的に説明し、同一構成の説明を適宜省略する。
【0104】
第三実施形態によれば、プロセッサ11は、図3及び図4に示す分析処理に代えて、図12に示す分析処理を実行する。この分析処理を開始すると、プロセッサ11は、第一実施形態と同様にS110-S130の処理を実行する。
【0105】
その後、プロセッサ11は、回帰分析により、能力値θに対応する健康年齢zを算出するための算出式を導出する。
【0106】
具体的には、プロセッサ11は、S140での処理と同様に、被検者集団の能力値の集合{θj}を、各被検者の性別及び年齢の情報と共に用いて、回帰分析を行うことにより、被検者属性を説明変数x1,x2とし、能力値θを目的変数とする次の回帰式を算出する(S510)。
【0107】
θ=γ0+γ1・x1+γ2・x2
回帰係数γ0,γ1,γ2、及び説明変数x1,x2の意味は、第一実施形態と同様である。ここでは、説明を簡単にするために、回帰式には、性年齢項(γ3・x3)が含まれない例を説明する。但し、回帰式には、性年齢項(γ3・x3)が含まれていてもよい。
【0108】
プロセッサ11は、この回帰式に変形により、性別毎に能力値θから健康年齢zを算出するための算出式z=(θ-γ0-γ1・W)/γ2を算出する(S520)。変数Wは、性別を表す。
【0109】
プロセッサ11は更に、各被検者の能力値θを、被検者の性別に応じた算出式に代入し、それにより、各被検者の健康年齢z=(θ-γ0-γ1・W)/γ2を算出する(S530)。ここで算出される健康年齢zと実年齢qとの関係は、図13に示される。
【0110】
実年齢q=q1であり能力値θ=θ1であるとき、健康年齢zは、回帰直線上の能力値である標準能力値θrがθ1である年齢z1として算出される。同様に、実年齢q=q2であり能力値θ=θ2であるとき、健康年齢zは、標準能力値θrがθ2である年齢z2として算出される。
【0111】
その後、プロセッサ11は、出力処理を実行する(S540)。出力処理において、プロセッサ11は、被検者毎に、対応する被検者個人の下肢運動能力を、健康年齢zと共に説明した報告書を作成して、報告書を、各被検者に向けて出力することができる。
【0112】
第三実施形態によれば、性年齢別の分布、具体的には標準偏差σを求めることなしに、健康年齢zを簡単に算出することができる。本実施形態においても、情報処理システム1の構成に合わせて、ウェブサーバ50は、サービス提供処理を実行することができる。
【0113】
すなわち、ウェブサーバ50のプロセッサ51は、S350,S360の処理に代えて、算出式z=(θ-γ0-γ1・W)/γ2に従って、ユーザの能力値θから健康年齢zを算出する処理を実行することができる。
【0114】
以上に、本開示の例示的実施形態を説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができることは言うまでもない。
【0115】
例えば、項目パラメータa,bは、定期的に、それまでに蓄積された被検者データに基づいて更新されてもよい。項目パラメータa,bは、新しい被検者データ又は検査データが登録される度に更新されてもよい。識別力に対応する項目パラメータaは用いられなくてもよい。この場合、式(1)~(3)の確率モデルにおいて、a(i=1,…,N)は、固定値「1」に設定され得る。
【0116】
S140における回帰分析は、線形回帰に限定されない。例えば、S140における回帰分析として、非線形回帰が採用されてもよく、関数f(x1,x2,x3)及び変換式ζ=g(θ,x1,x2,x3)は、非線形回帰モデルを含むものであってもよい。この思想は、S430における能力値θの置き換え、及び、S510における回帰式の算出にも適用することができる。
【0117】
本開示の技術は、下肢運動機能に限らず、その他の身体の運動機能に関する健康年齢の算出に用いられてもよい。例えば、上半身の運動機能に関する健康年齢の算出に用いられてもよい。
【0118】
この他、上記実施形態における1つの構成要素が有する機能は、複数の構成要素に分散して設けられてもよい。複数の構成要素が有する機能は、1つの構成要素に統合されてもよい。上記実施形態の構成の一部は、省略されてもよい。上記実施形態の構成の少なくとも一部は、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換されてもよい。特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0119】
1…情報処理システム、11…プロセッサ、13…メモリ、15…ストレージ、17…ユーザインタフェース、19…通信インタフェース、50…ウェブサーバ、51…プロセッサ、53…メモリ、55…ストレージ、60…通信端末、70…サービス提供画面、71…入力欄、75…表示欄。
【要約】
【課題】被検者の運動機能の高低を、年齢等の被検者属性を加味して容易に判別可能な技術を提供する。
【解決手段】本開示の一側面に係る情報処理方法によれば、複数の第一の被検者のそれぞれの運動機能に関する複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータに基づき、複数の第一の被検者のそれぞれの運動機能に関する能力値が算出される(S130)。能力値の被検者属性に対する分布に基づき能力値に対応するスコアの算出式が設定される(S140,S180)。第二の被検者の運動機能に関する複数の検査項目のそれぞれの判定値を示すデータから算出される第二の被検者の能力値と、算出式と、に基づき、第二の被検者の能力値に対応するスコアが算出される(S150,S190)。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13