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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】ゴルフシャフト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/12 20150101AFI20220328BHJP
【FI】
A63B53/12 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022501377
(86)(22)【出願日】2021-10-27
(86)【国際出願番号】 JP2021039587
【審査請求日】2022-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2020188309
(32)【優先日】2020-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110629
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100166615
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】井上 明久
【審査官】槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-99543(JP,A)
【文献】特開2019-5160(JP,A)
【文献】特開2009-285043(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0059095(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0073449(US,A1)
【文献】米国特許第5655981(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/12
A63B 102/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の素管と、
前記素管の表面に形成された着色層である有色メッキ層と、を備え、
前記有色メッキ層が、
前記素管の表面に積層された半光沢メッキ層と、
前記半光沢メッキ層の表面に積層された第1ストライクメッキ層と、
前記第1ストライクメッキ層の表面に積層されたサテン調メッキ層と、
前記サテン調メッキ層の表面に積層された第2ストライクメッキ層と、
前記第2ストライクメッキ層の外側に積層され前記有色メッキ層の色に応じた有色の装飾メッキ層と、を備えた、
ゴルフシャフト。
【請求項2】
請求項1記載のゴルフシャフトであって、
前記素管は、スチール製であり、
前記半光沢メッキ層、前記第1ストライクメッキ層、前記サテン調メッキ層、及び前記第2ストライクメッキ層は、ニッケルメッキの被膜からなり、
前記装飾メッキ層は、三価クロムメッキの被膜からなる、
ゴルフシャフト。
【請求項3】
請求項1又は2記載のゴルフシャフトであって、
前記装飾メッキ層は、前記第2ストライクメッキ層の表面に積層され、
前記有色メッキ層は、前記装飾メッキ層の表面に積層されたクロメート処理層を備えた、
ゴルフシャフト。
【請求項4】
請求項1又は2記載のゴルフシャフトであって、
前記有色メッキ層は、前記第2ストライクメッキ層の表面に積層されたシールメッキ層を備え、
前記装飾メッキ層は、前記シールメッキ層の表面に積層された、
ゴルフシャフト。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載のゴルフシャフトであって、
前記有色メッキ層の色は、艶消しの黒色である、
ゴルフシャフト。
【請求項6】
請求項1~4の何れか一項に記載のゴルフシャフトであって、
前記有色メッキ層の色は、艶消しのシルバー色である、
ゴルフシャフト。
【請求項7】
請求項1~4の何れか一項に記載のゴルフシャフトであって、
前記有色メッキ層の色は、艶消しのグレー色である、
ゴルフシャフト。
【請求項8】
請求項1~7の何れか一項に記載のゴルフシャフトの製造方法であって、
第1ラインにおいて前記素管の表面に前記半光沢メッキ層を積層し、該半光沢メッキ層の表面に前記第1ストライクメッキ層を積層し、
第2ラインにおいて前記第1ストライクメッキ層の表面に前記サテン調メッキを積層し、該サテン調メッキの表面に前記第2ストライクメッキ層を積層し、
第3ラインにおいて前記第2ストライクメッキ層の外側に前記装飾メッキ層を積層した、
ゴルフシャフトの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の素管を有色メッキ層で被覆したゴルフシャフト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製の素管からなるゴルフシャフト(以下、「金属シャフト」と称することがある。)では、一般的に外観が金属色となるが、単調なデザインであることから、金属色以外の着色が求められることがある。こうした金属シャフトの着色技術としては、例えば特許文献1に記載されたものがある。
【0003】
特許文献1の技術では、金属製の素管の表面にニッケル被膜層を形成し、その表面にクロムメッキ被膜層を形成し、さらにその表面に着色層としてのカラーアニオン電着塗膜層を形成している。
【0004】
かかる技術では、着色によって金属シャフトのデザイン性を高めることはできる。しかし、塗装による着色層は、密着性が低く、パター等のように金属シャフトに折曲げ加工を行うと剥離してしまっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実用新案登録第3157018号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする問題点は、折曲げ加工等において着色層が剥離し易い点である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、金属製の素管と、前記素管の表面に形成された着色層である有色メッキ層と、を備え、前記有色メッキ層が、前記素管の表面に積層された半光沢メッキ層と、前記半光沢メッキ層の表面に積層された第1ストライクメッキ層と、前記第1ストライクメッキ層の表面に積層されたサテン調メッキ層と、前記サテン調メッキ層の表面に積層された第2ストライクメッキ層と、前記第2ストライクメッキ層の外側に積層され前記有色メッキ層の色に応じた有色の装飾メッキ層と、を備えたゴルフシャフトを提供する。
【0008】
また、本発明は、第1ラインにおいて前記素管の表面に前記半光沢メッキ層を積層し、該半光沢メッキ層の表面に前記第1ストライクメッキ層を積層し、第2ラインにおいて前記第1ストライクメッキ層の表面に前記サテン調メッキを積層し、該サテン調メッキの表面に前記第2ストライクメッキ層を積層し、第3ラインにおいて前記第2ストライクメッキ層の外側に前記装飾メッキ層を積層した、ゴルフシャフトの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、折曲げ加工等にも耐え得る着色層の耐剥離性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(A)及び(B)は、本発明の実施例1に係るゴルフシャフトの側面図であり、図1(A)はゴルフシャフトの全体、図1(B)は図1(A)の一部を拡大して示す。
図2図2は、図1のゴルフシャフトの概略縦断面図である。
図3図3は、図2のIII-III線に係るゴルフシャフトの概略横断面図である。
図4図4は、図3のゴルフシャフトの有色メッキ層の層構造を示す概略断面図である。
図5図5は、ゴルフシャフトの有色メッキ層の形成方法を示す概略断面図である。
図6図6(A)及び(B)は、スクラッチ試験後のゴルフシャフトの着色層の状態を示す写真であり、図6(A)は実施例品、図6(B)は比較例品である。
図7図7は、本発明の実施例2に係るゴルフシャフトの有色メッキ層の層構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
折曲げ加工等にも耐え得る着色層の耐剥離性を確保するという目的を、金属製の素管の表面に形成された着色層である有色メッキ層の層構造によって実現した。
【0012】
すなわち、ゴルフシャフト(1)は、金属製の素管(3)と、素管(3)の表面に形成された着色層である有色メッキ層(5)とを備えている。有色メッキ層(5)は、半光沢メッキ層(7)と、第1ストライクメッキ層(9)と、サテン調メッキ層(11)と、第2ストライクメッキ層(13)と、装飾メッキ層(15)と、を備える。半光沢メッキ層(7)は、素管(3)の表面に積層されている。第1ストライクメッキ層(9)は、半光沢メッキ層(7)の表面に積層されている。サテン調メッキ層(11)は、第1ストライクメッキ層(9)の表面に積層されている。第2ストライクメッキ層(13)は、サテン調メッキ層(11)の表面に積層されている。装飾メッキ層(15)は、第2ストライクメッキ層(13)の外側に積層され、有色メッキ層(5)の色に応じた有色となっている。
【0013】
素管(3)は、スチール製であり、半光沢メッキ層(7)、第1ストライクメッキ層(9)、サテン調メッキ層(11)、及び第2ストライクメッキ層(13)は、ニッケルメッキの被膜からなり、装飾メッキ層(15)は、三価クロムメッキの被膜からなる構成としてもよい。
【0014】
装飾メッキ層(15)は、第2ストライクメッキ層(13)の表面に積層され、有色メッキ層(5)は、装飾メッキ層(15)の表面に積層されたクロメート処理層(17)を備えた構成としてもよい。
【0015】
有色メッキ層(5)は、第2ストライクメッキ層(13)の表面に積層されたシールメッキ層(19)を備え、装飾メッキ層(15)は、シールメッキ層(19)の表面に積層された構成としてもよい。
【0016】
有色メッキ層(5)の色は、艶消しの黒色、シルバー色、又はグレー色としてもよい。
【0017】
かかるゴルフシャフトの製造方法としては、第1ライン、第2ライン、及び第3ラインによってメッキを行ってもよい。この場合、第1ラインにおいては、素管(3)の表面に半光沢メッキ層(7)を積層し、半光沢メッキ層(7)の表面に第1ストライクメッキ層(9)を積層する。第2ラインにおいては、第1ストライクメッキ層(9)の表面にサテン調メッキ(11)を積層し、サテン調メッキ(11)の表面に第2ストライクメッキ層(13)を積層する。第3ラインにおいては、第2ストライクメッキ層(13)の外側に装飾メッキ層(15)を積層する。
【実施例1】
【0018】
[ゴルフシャフトの構造]
図1(A)及び(B)は、本発明の実施例1に係るゴルフシャフトの側面図であり、図1(A)はゴルフシャフトの全体、図1(B)は図1(A)の一部を拡大して示す。図2は、ゴルフシャフトの概略縦断面図である。図3は、図2のIII-III線に係るゴルフシャフトの概略横断面図である。なお、図1(A)~図3は、各部の寸法が一致していないが基本的に同一構造である。
【0019】
本実施例のゴルフシャフト1は、軸方向の先端1aがゴルフクラブのヘッドが取り付けられる部分、ゴルフシャフト1の軸方向の基端1bがゴルフクラブのグリップが取り付けられる部分となっている。このゴルフシャフト1は、金属シャフトであり、素管3と、有色メッキ層5とを備えて構成されている。
【0020】
素管3は、中空状の管であり、横断面における断面形状が円形となっている。この素管3は、金属製であり、特にスチール製となっている。ただし、素管3の材質は、他の金属、例えばアルミニウムやチタン並びにそれらの合金等としてもよい。
【0021】
本実施例の素管3は、段付き形状の外形を有し、複数の直管部3aと隣接する直管部3a間をそれぞれ接続する複数のテーパ管部3bとで形成されている。
【0022】
直管部3aは、肉厚及び内外周の径が一定の部分である。先端1a側に位置する直管部3aに対し、基端1b側に位置する直管部3aは、内外周の径が大きくなっていると共に肉厚が薄くなっている。
【0023】
各テーパ管部3bは、隣接する直管部3aの径の違い及び肉厚の違いを吸収するものである。各テーパ管部3bでは、先端1a側から基端1b側に向けて内外周の径が漸次大きくなっていると共に肉厚が漸次薄くなっている。テーパ管部3bの軸方向の長さは、直管部3aよりも短い。
【0024】
なお、素管3は、有色メッキ層5を形成する素管の一例である。このため、素管3は、段付き形状のものに限られず、外周の径が一定のストレート形状や全体としてテーパ管形状を有することも可能である。また、素管3の肉厚は、軸方向で一定にし、或いは部分的に変動させることも可能である。さらに、素管3の横断面における断面形状は、円形に限らず楕円形など適宜選択することができる。
【0025】
有色メッキ層5は、素管3の表面に形成された着色層である。有色メッキ層5の色は、本実施例において艶消しの黒色となっているが、艶消しのシルバー色や艶消しのグレー色等の他の色としてもよい。
【0026】
図4は、有色メッキ層5の層構造を示す概略断面図である。
【0027】
本実施例の有色メッキ層5は、半光沢メッキ層7と、第1ストライクメッキ層9と、サテン調メッキ層11と、第2ストライクメッキ層13と、装飾メッキ層15と、クロメート処理層17とを素管3の表面から順次積層して構成されている。
【0028】
半光沢メッキ層7は、素管3の表面に積層された半光沢メッキの被膜からなる。半光沢メッキ層7の材質は、素管3の材質に応じて、ニッケル、銅、金、錫等とすることが可能である。本実施例の半光沢メッキ層7は、材質がニッケルである半光沢ニッケルメッキの被膜からなる。
【0029】
この半光沢メッキ層7では、例えば光沢度が0.3~0.5程度の半光沢の金属色(銀色)の外観を有し、硫黄成分の含有率が0.005%程度の0.001%のオーダー以下であり、厚みが4μm~14μm、例えば6.77μm程度となっている。ただし、半光沢メッキ層7の光沢度、硫黄含有率、厚み等は、これらに限られるものではない。
【0030】
第1ストライクメッキ層9は、素管3側のストライクメッキの被膜として半光沢メッキ層7の表面に積層されている。第1ストライクメッキ層9の材質は、半光沢メッキ層7やサテン調メッキ層11の材質に応じて、ニッケル、銀、銅、金、パラジウム等とすることが可能である。本実施例の第1ストライクメッキ層9は、材質がニッケルであるニッケルストライクメッキの被膜からなる。
【0031】
この第1ストライクメッキ層9は、金属色(銀色)の外観を有する。第1ストライクメッキ層9の硫黄含有率は0.1%のオーダーであり、第1ストライクメッキ層9の厚みは0.1~0.3μm程度、例えば0.24μm程度と極薄い。ただし、第1ストライクメッキ層9の硫黄含有率、厚み等は、これらに限られるものではない。
【0032】
サテン調メッキ層11は、サテン調メッキの被膜として第1ストライクメッキ層9の表面に積層されている。サテン調メッキによって形成された被膜は、表面に微細な凹凸を有し、ビロード状外観を有する。なお、サテン調メッキについては後述する。
【0033】
サテン調メッキ層11の材質は、第1ストライクメッキ層9及び第2ストライクメッキ層13の材質に応じて、ニッケル、コバルト、銅等とすることが可能である。本実施例のサテン調メッキ層11は、ニッケルであるベロアニッケルメッキの被膜からなる。
【0034】
このサテン調メッキ層11は、4μm~14μm、例えば9.89μm程度の厚みを有し、第1ストライクメッキ層9及び半光沢メッキ層7よりも厚い。なお、サテン調メッキ層11の厚みは、これに限定されるものではない。サテン調メッキ層11の表面は、金属色(銀色)で艶消し又は無光沢に近い外観を有する。サテン調メッキ層11の硬度は、第1ストライクメッキ層9及び第2ストライクメッキ層13よりも低い。
【0035】
第2ストライクメッキ層13は、サテン調メッキ層11の表面に積層されたストライクメッキの被膜であり、本実施例において第1ストライクメッキ層9と同一のニッケルストライクメッキの被膜からなっている。なお、同一とは、材質や厚み等の仕様が同一であることをいう。なお、第2ストライクメッキ層13は、第1ストライクメッキ層9と同一でなくてもよく、材質や厚み等を変更することが可能である。
【0036】
装飾メッキ層15は、第2ストライクメッキ層13の外側、本実施例において第2ストライクメッキ層13の表面に積層された装飾メッキの被膜からなる。この装飾メッキ層15は、有色メッキ層5の色に応じた有色となっている。有色メッキ層5の色に応じた有色は、艶の有無や金属感の有無を除いた色調をいう。従って、有色メッキ層5が艶消しの黒色の場合は、装飾メッキ層15は、黒色の色調を有する。なお、金属感は、装飾メッキ層15の下層の金属色が透けて見える状態をいう。
【0037】
この装飾メッキ層15は、三価クロムメッキ又は四価クロムメッキ等の被膜で形成することができる。本実施例の装飾メッキ層15は、黒色三価クロムメッキの被膜からなる。なお、黒色の装飾メッキの被膜としては、三価クロムメッキの他、ニッケルメッキや亜鉛メッキ等がある。
【0038】
また、装飾メッキ層15は、三価クロムメッキの被膜の場合、白色(シルバー色)やグレー色等とすることも可能である。グレー色は、黒色と白色との中間色をいう。装飾メッキ層15を白色とする場合、有色メッキ層5は艶消しシルバー色を有し、装飾メッキ層15をグレー色とする場合、有色メッキ層5は艶消しグレー色を有する。装飾メッキ層15の厚みは、0.1μm~0.5μm程度、例えば0.31μm程度となっている。
【0039】
クロメート処理層17は、装飾メッキ層15の表面に積層されたクロメート処理による被膜からなる。このクロメート処理層17は、有色メッキ層5の耐食性と耐変色性を向上させる。クロメート処理層17は、無色透明又は有色とすることができるが、本実施例において無色透明となっている。クロメート処理層17の厚みは、1~数十nm程度である。
【0040】
[製造方法]
図5は、ゴルフシャフトの有色メッキ層の形成方法を示す概略断面図である。
【0041】
ゴルフシャフト1に有色メッキ層5を形成する際は、図5(A)のように、まず第1ラインにおいてゴルフシャフト1の素管3の表面に半光沢メッキ層7を積層し、半光沢メッキ層7の表面に第1ストライクメッキ層9を積層する。
【0042】
半光沢メッキ層7は、半光沢ニッケルメッキの被膜であるため、半光沢メッキ層7の形成では、素管3に対して半光沢ニッケルメッキが施される。半光沢ニッケルメッキは、周知のものを適用すればよく、ニッケルメッキ浴中に半光沢添加剤を添加した電解ニッケルメッキ等により行われる。ニッケルメッキ浴は、例えば、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、ホウ酸を主成分としたものを用いることができる。
【0043】
半光沢剤としては、半光沢メッキ層7に硫黄が含有されない(例えば蛍光X線での測定において含有率0.05%以下となる)半光沢剤であればよく、例えば、奥野製薬工業(株)製アクナSL-MU等を用いることが可能である。
【0044】
ニッケルメッキ浴の一例としては、硫酸ニッケルを240~320g/L、塩化ニッケルを30~50g/L、ホウ酸を30~50g/L、アクナSL-MUを1~3ml/Lとする。
【0045】
この半光沢メッキ層7上には、同一の第1ラインで第1ストライクメッキ層9が形成される。
【0046】
第1ストライクメッキ層9は、ニッケルストライクメッキの被膜からなっているため、第1ストライクメッキ層9の形成では、半光沢メッキ層7を有する素管3に対してニッケルストライクメッキが施される。
【0047】
ニッケルストライクメッキは、周知のものを適用すればよく、例えば、塩化ニッケル、塩酸を主成分としたストライク浴を用いること等によって行うことができる。ストライク浴の一例としては、塩酸を110±15ml/L、塩化ニッケルを270±30g/Lとする。ストライク浴には、この他に緩衝剤として働くホウ酸やミスト防止剤を添加することもできる。
【0048】
この第1ストライクメッキ層9の形成により、半光沢メッキ層7の乾燥時に形成された酸化被膜を取り除くと共に再度の酸化被膜の形成を阻害しつつ、次の油分を含んだサテン調メッキ層11の密着性を向上させる。
【0049】
次いで、図5(B)のように第2ラインで第1ストライクメッキ層9の表面にサテン調メッキ層11を積層し、サテン調メッキ層11の表面に第2ストライクメッキ層13を積層する。
【0050】
サテン調メッキ層11は、ベロアニッケルメッキの被膜ならなるため、サテン調メッキ層11の形成時には、第1ストライクメッキ層9が形成された素管3に対してベロアニッケルメッキが施される。ベロアニッケルメッキは、周知のものを適用すればよく、例えば硫酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸を主成分としたニッケルメッキ浴中に添加剤を添加したベロアメッキ浴を用いた電解ニッケルメッキ等により行われる。
【0051】
ベロアメッキ浴の一例としては、硫酸ニッケルを270±25g/L、塩化ニッケルを50±10g/L、ホウ酸を35±5g/L、ベロア添加剤#50を30±8ml/L、ベロア添加剤#30を2.5±0.5ml/Lとする。
【0052】
なお、サテン調メッキは、サテンメッキやベロアメッキ等の、形成された被膜にビロード状の外観を与えるメッキが含まれる。このサテン調メッキとしては、例えば、ベロアニッケルの他、上村工業(株)製ダイヤサテン、荏原ユージライト(株)製サチライトニッケル等が知られている。
【0053】
このサテン調メッキ層11上には、同一の第2ラインで第2ストライクメッキ層13が形成される。
【0054】
第2ストライクメッキ層13は、第1ストライクメッキ層9と同一であるため、第2ストライクメッキ層13の形成では、サテン調メッキ層11が形成された素管3に対して、第1ストライクメッキ層9の形成時と同一のニッケルストライクメッキが施される。
【0055】
この第2ストライクメッキ層13の形成により、サテン調メッキ層11上への酸化被膜の形成を阻害しつつ、油分を含んだサテン調メッキ層11と次の装飾メッキ層15との密着性を向上する。
【0056】
次いで、図5(C)のように第3ラインで第2ストライクメッキ層13の表面に装飾メッキ層15が積層される。
【0057】
装飾メッキ層15は、黒色三価クロムメッキの被膜ならなるため、装飾メッキ層15の形成では、第2ストライクメッキ層13が形成された素管3に対して、黒色三価クロムメッキが施される。
【0058】
黒色三価クロムメッキは、周知のものを適用すればよく、三価クロム化合物を主成分とし、これに黒色用の添加剤を添加した黒色三価クロムメッキ浴を用いて行われる。黒色三価クロムメッキの一例としては、アトテックジャパン(株)製トライクロムグラファイトがある。なお、黒色三価クロムメッキは、メーカーによって黒色の色調にばらつきがあり、青みがかった黒や赤みがかった黒等もある。
【0059】
装飾メッキ層15を白色(シルバー色)とする場合は、黒色三価クロムメッキに代えて白色三価クロムメッキを施せばよい。白色三価クロムメッキでは、例えば、アトテックジャパン(株)製トライクロムプラス等の白色三価クロムメッキ浴を用いる。装飾メッキ層15をグレー色とする場合は、黒色三価クロムメッキのメッキ浴に対して色調を調整したメッキ浴を用い、三価クロムメッキを施せばよい。このグレー色のメッキ液の一例としては、奥野製薬工業株式会社製トップファインクロムLGがある。
【0060】
最後に、図5(D)のように装飾メッキ層15上にクロメート処理層17が形成される。
【0061】
クロメート処理層17は、周知のクロメート処理によって形成することが可能である。クロメート処理としては、例えば三価クロム化合物を主成分としたクロメート処理液を用いた電解クロメート処理を装飾メッキ層15が形成された素管3に施す。
【0062】
こうして、クロメート処理層17が形成されると、ゴルフシャフト1の有色メッキ層5が完成する。完成した有色メッキ層5は、半光沢メッキ層7が半光沢の金属色、第1及び第2ストライクメッキ層9及び13が金属色、サテン調メッキ層11が艶消しの金属色、装飾メッキ層15が黒色、クロメート処理層17が無色透明であり、全体として艶消しの黒色となる。
【0063】
装飾メッキ層15を白色(シルバー色)とした場合は、全体として艶消しのシルバー色となり、装飾メッキ層15をグレー色とした場合は、全体として艶消しのグレー色となる。
【0064】
[作用等]
本実施例のゴルフシャフト1は、有色メッキ層5の表層の装飾メッキ層15が三価クロムメッキの被膜からなるため、艶消しの黒色でありながら、耐久性の高い有色メッキ層5が得られた。
【0065】
図6(A)及び(B)は、スクラッチ試験後のゴルフシャフト1の着色層の状態を示す写真であり、図6(A)は実施例品、図6(B)は比較例品である。なお、図6では、視認性の観点から白黒を反転して示している。
【0066】
実施例品は、本実施例のゴルフシャフト1であり、比較例品は、一般的なゴルフシャフトと同様に、素管の表面から半光沢メッキ層、光沢メッキ層、シールメッキ層、装飾メッキ層を順に形成した後、装飾メッキ層上に着色層として塗膜層を形成したものである。半光沢メッキ層、光沢メッキ層、シールメッキ層は、それぞれシール性を有するニッケルメッキの被膜であり(詳細は実施例2を参照)、装飾メッキ層は、六価クロムメッキの被膜であり、塗装膜は、黒色の塗装による被膜である。
【0067】
スクラッチ試験は、これら実施例品と比較例品とを交差させた状態で相互にこすり合わせることで行った。この結果、比較例品では、視認できるキズSが発生したのに対し、実施例品では、視認できるキズは発生しなかった。
【0068】
また、本実施例のゴルフシャフト1では、折曲げ加工等にも耐え得る着色層の耐剥離性を確保することができた。なお、耐剥離性は、剥離のし難さを意味する。実施例品のゴルフシャフト1では、曲率半径を60mmとした曲げ角度30度の折り曲げでも剥離が見られなかった。一方、比較例品のゴルフシャフトでは、同様の折り曲げで塗膜層の剥離が見られた。なお、折り曲げは、プレスにより行った。パター用のゴルフシャフトでは、一回曲げと二回曲げとがあるが、曲げ角度が5~25度程度までの曲げが要求されることがあるため、実施例のゴルフシャフト1は、かかる曲げの要求にも耐え得る着色層が得られる。
【0069】
この実施例品の耐剥離性は、第1ストライクメッキ層9が半光沢メッキ層7とサテン調メッキ層11との間の密着度を向上させ、第2ストライクメッキ層13がサテン調メッキ層11と装飾メッキ層15との間の密着度を向上させることで得られる。
【0070】
しかも、第1及び第2ストライクメッキ層9及び13が同一構成であるから、サテン調メッキ層11に対する層方向両側の半光沢メッキ層7及び装飾メッキ層15の密着環境を同一にして、サテン調メッキ層11と半光沢メッキ層7及び装飾メッキ層15との間での界面破壊をそれぞれ抑制している。なお、層方向とは、有色メッキ層5の各層の積層方向をいう。
【0071】
さらに、第1及び第2ストライクメッキ層9及び13が相対的に硬度が低く、これら第1及び第2ストライクメッキ層9及び13が各層間のつなぎとなって曲げに対する有色メッキ層5の追従性を向上させることができる。従って、有色メッキ層5がゴルフシャフト1の折り曲げに対して強い構造となっている。
【0072】
[実施例1の効果]
以上説明したように、本実施例のゴルフシャフト1は、金属製の素管3と、素管3の表面に形成された着色層である有色メッキ層5とを備える。有色メッキ層5が、素管3の表面に積層された半光沢メッキ層7と、半光沢メッキ層7の表面に積層された第1ストライクメッキ層9と、第1ストライクメッキ層9の表面に積層されたサテン調メッキ層11と、サテン調メッキ層11の表面に積層された第2ストライクメッキ層13と、第2ストライクメッキ層13の表面に積層され、有色メッキ層5の色に応じた有色の装飾メッキ層15と、を備えている。
【0073】
従って、本実施例では、第1ストライクメッキ層9及び第2ストライクメッキ層13による密着度の向上と第1及び第2ストライクメッキ層9及び13が各層間のつなぎとなって有色メッキ層5の追従性を向上させることができる。これにより、ゴルフシャフト1の折曲げ加工等にも耐え得る着色層の耐剥離性を確保できる。
【0074】
また、有色メッキ層5は、半光沢メッキ層7による素管への密着性向上が図られ、着色層全体としての素管3に対する耐剥離性を確保できると共に艶消し色を確実に得ることができる。また、本実施例では、有色メッキ層5の層構造によって艶消し色、特に艶消しの黒色とすることができるため、艶消しの黒色でありながら高いスクラッチ耐性を得ることができる。なお、有色メッキ層5を艶消しのシルバー色又は艶消しのグレー色とする場合も同様の効果が得られる。
【0075】
また、第2ストライクメッキ層13が第1ストライクメッキ層9と同一である。このため、サテン調メッキ層11に対する半光沢メッキ層7及び装飾メッキ層15の密着環境を同一にして、サテン調メッキ層11と半光沢メッキ層7及び装飾メッキ層15との間での界面破壊を抑制できる。
【0076】
素管3は、スチール製であり、半光沢メッキ層7、第1ストライクメッキ層9、サテン調メッキ層11、及び第2ストライクメッキ層13は、ニッケルメッキからなり、装飾メッキ層15は、三価クロムメッキからなる。
【0077】
従って、より確実に着色層全体としての素管3に対する耐剥離性を得ることができる。
【0078】
ゴルフシャフト1は、有色メッキ層5が装飾メッキ層15の表面に積層されたクロメート処理層17を備えたため、耐腐食性を向上できる。
【0079】
ゴルフシャフト1の製造方法は、第1ラインにおいて素管3の表面に半光沢メッキ層7を積層し、半光沢メッキ層7の表面に第1ストライクメッキ層9を積層し、第2ラインにおいて第1ストライクメッキ層9の表面にサテン調メッキ11を積層し、サテン調メッキ11の表面に第2ストライクメッキ層13を積層し、第3ラインにおいて第2ストライクメッキ層13の表面に装飾メッキ層15を積層する。
【0080】
従って、着色層が折曲げ加工等にも耐え得る耐剥離性を有したゴルフシャフト1を確実に製造することができる。
【実施例2】
【0081】
図7は、本発明の実施例2に係るゴルフシャフトの有色メッキ層の層構造を示す概略断面図である。なお、実施例2では、実施例1と同一構成に同符号を付して重複した説明を省略する。
【0082】
本実施例のゴルフシャフト1は、クロメート処理層17に代えて、シールメッキ層19を備えたものである。その他構成は、実施例1と同一である。
【0083】
シールメッキ層19は、第2ストライクメッキ層13及び装飾メッキ層15間に設けられている。すなわち、シールメッキ層19は、第2ストライクメッキ層13の表面に積層され、装飾メッキ層15は、シールメッキ層19の表面に積層される。従って、本実施例では、装飾メッキ層15がシールメッキ層19を介して第2ストライクメッキ層13の外側に積層された構成となっている。
【0084】
このシールメッキ層19は、材質を相対的に硬い金属であるニッケル等にシール性を付加したものや相対的に柔らかい金属であるインジウム、金、銀等とすることができる。本実施例のシールメッキ層19の材質は、シール性を付加したニッケルとしてのシールニッケルメッキの被膜からなる。
【0085】
シールメッキ層19の形成は、第2ストライクメッキ層11までが形成された素管3に対してシールニッケルメッキが施される。シールニッケルメッキは、周知のものを適用すればよく、例えば硫酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸を主成分としたニッケルメッキ浴中に添加剤を添加したシールメッキ浴を用いた電解ニッケルメッキ等により行われる。
【0086】
シールメッキ浴の一例としては、硫酸ニッケルを180±40g/L、塩化ニッケルを25±8g/L、ホウ酸を25±8g/Lとする。ここに使用される添加剤としては、奥野製薬工業(株)製の改良アクナB-1、改良アクナB-2、シールニッケルHCR-K-4、シールニッケルSMPC-4等がある。
【0087】
かかる実施例2においても、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 ゴルフシャフト
3 素管
5 有色メッキ層
7 半光沢メッキ層
9 第1ストライクメッキ層
11 サテン調メッキ層
13 第2ストライクメッキ層
15 装飾メッキ層
17 クロメート処理層
19 シールメッキ層


【要約】
折曲げ加工等にも耐え得る着色層の耐剥離性を確保することが可能なゴルフシャフトを提供する。ゴルフシャフトは、金属製の素管3と、素管3の表面に形成された着色層である有色メッキ層5とを備え、有色メッキ層5が、素管3側の第1ストライクメッキ層9と、第1ストライクメッキ層9の表面に積層されたサテン調メッキ層11と、サテン調メッキ層11の表面に積層された第2ストライクメッキ層13と、第2ストライクメッキ層13の表面に積層され、有色メッキ層5の色に応じた有色の装飾メッキ層15と、を備えている。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7