(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】熱電変換モジュールの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 35/34 20060101AFI20220329BHJP
H01L 35/08 20060101ALI20220329BHJP
H01L 35/32 20060101ALI20220329BHJP
H01L 35/30 20060101ALI20220329BHJP
H02N 11/00 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
H01L35/34
H01L35/08
H01L35/32 A
H01L35/30
H02N11/00 A
(21)【出願番号】P 2016204194
(22)【出願日】2016-10-18
【審査請求日】2019-09-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】中田 嘉信
(72)【発明者】
【氏名】駒崎 雅人
【審査官】今井 聖和
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-339116(JP,A)
【文献】特開2016-174114(JP,A)
【文献】特開2016-157749(JP,A)
【文献】特開平09-321350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/34
H01L 35/08
H01L 35/32
H01L 35/30
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一組の対向配置した配線基板の間に、強度が小さくて熱膨張係数が大きい低強度側熱電変換素子と、前記低強度側熱電変換素子よりも強度が大きくて熱膨張係数が小さい高強度側熱電変換素子とが、前記配線基板を介して設けられた熱電変換モジュールの製造方法であって、
前記配線基板のうちの一方の配線基板の電極部に、前記高強度側熱電変換素子の一方の電極面と前記低強度側熱電変換素子の一方の電極面とを
第一接合材を介して重ね合わせて接合する第一接合工程と、
前記第一接合工程後に、前記配線基板のうちの他方の配線基板の電極部に、前記高強度熱電変換素子の他方の電極面と前記低強度側熱電変換素子の他方の電極面とを、
第二接合材を介して重ね合わせて、前記第一接合工程の接合温度よりも低い接合温度で接合する第二接合工程とを有し、
前記第一接合材は銀ろうであり、前記第二接合材ははんだ材又は銀ペーストであり、
前記第一接合工程の接合温度と前記第二接合工程の接合温度との温度差が255℃以上600℃以下であることを特徴とする熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項2】
前記第一接合工程の接合
温度が605℃~780℃であり、前記第二接合工程の接合
温度が、前記はんだ材を用いる場合に139℃~150℃、前記銀ペーストを用いる場合に150℃~300℃であることを特徴とする請求項1に記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のP型熱電変換素子とN型熱電変換素子とを組み合わせて配列した熱電変換モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換モジュールは、配線基板(絶縁基板)の間に、一対のP型熱電変換素子とN型熱電変換素子とを電極で接続状態に組み合わせたものを、P型、N型、P型、N型の順に交互に配置されるように、電気的に直列に接続した構成とされ、両端を直流電源に接続して、ペルチェ効果により各熱電変換素子中で熱を移動させる(P型では電流と同方向、N型では電流と逆方向に移動させる)、あるいは両配線基板間に温度差を付与して各熱電変換素子にゼーベック効果により起電力を生じさせるもので、冷却、加熱、あるいは発電としての利用が可能である。
【0003】
P型、N型の各熱電変換素子の熱電変換性能は、ZTと呼ばれる無次元の性能指数で表され、素子選定の目安になるが、同じ母材を用いて、同じ使用温度環境としても、P型の熱電変換素子とN型の熱電変換素子とでは必ずしも同じ熱電変換性能が出ない場合が多く、調整が必要である。
【0004】
例えば、特許文献1には、通常は横断面正方形の角柱状に形成される素子を、横断面長方形状に形成するとともに、P型、N型それぞれのキャリア濃度に応じて、双方で異なる形で形成することが記載されている。
【0005】
特許文献2には、反りが生じた基板に熱電変換素子をはんだ付けする際に、基板と素子との間の距離に応じてはんだ層の厚さを異ならせることが記載されている。
【0006】
また、同じ使用温度環境においてより近い熱電変換性能(ZT)を得るために、P型及びN型の熱電変換素子を異種の母材により選択することも考えられるが、異種材料では素子結晶の強度、熱膨張係数なども大きく異なるため、強度の低い素子のダメージが大きくなる(割れ等が優先的に発生する)。
【0007】
そこで、特許文献3には、熱電変換素子と電極との間にCr-Cu合金からなる応力緩和層を形成した熱電変換モジュールを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013‐12571号公報
【文献】特開2013‐157348号公報
【文献】国際公開第2013/145843号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献3に記載の熱電変換モジュールのように、Cr-Cu合金からなる応力緩和層を用いても、応力緩和能力が不足することが懸念され、熱電変換素子のクラック等を防止するには不十分である。そして、熱電変換素子にクラック等が生じた場合には、熱電変換モジュールの動作が不能になったり、動作不能まで至らなくても、配線基板と熱電変換素子との間に隙間が生じることで、発電量(発電効率)が大幅に低下することが懸念される。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、熱電変換素子の熱膨張差によるクラック等の発生を防止でき、安定した熱電変換性能を有する熱電変換モジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の熱電変換モジュールの製造方法は、一組の対向配置した配線基板の間に、強度が小さくて熱膨張係数が大きい低強度側熱電変換素子と、前記低強度側熱電変換素子よりも強度が大きくて熱膨張係数が小さい高強度側熱電変換素子とが、前記配線基板を介して設けられた熱電変換モジュールの製造方法であって、前記配線基板のうちの一方の配線基板の電極部に、前記高強度側熱電変換素子の一方の電極面と前記低強度側熱電変換素子の一方の電極面とを第一接合材を介して重ね合わせて接合する第一接合工程と、前記第一接合工程後に、前記配線基板のうちの他方の配線基板の電極部に、前記高強度熱電変換素子の他方の電極面と前記低強度側熱電変換素子の他方の電極面とを、第二接合材を介して重ね合わせて、前記第一接合工程の接合温度よりも低い接合温度で接合する第二接合工程とを有し、前記第一接合材は銀ろうであり、前記第二接合材ははんだ材又は銀ペーストであり、前記第一接合工程の接合温度と前記第二接合工程の接合温度との温度差が255℃以上600℃以下である。
この場合、前記第一接合工程の接合温度が605℃~780℃であり、前記第二接合工程の接合温度が、前記はんだ材を用いる場合に139℃~150℃、前記銀ペーストを用いる場合に150℃~300℃であるとよい。
【0012】
高強度側熱電変換素子の熱膨張係数は、低強度側熱電変換素子の熱膨張係数よりも小さいので、25℃における高強度側熱電変換素子の長さと低強度側熱電変換素子の長さとが同じであっても、高温になると、低強度側熱電変換素子の長さが高強度側熱電変換素子の長さよりも長く(大きく)なる。このため、各配線基板と各熱電変換素子とを、同じ加熱温度で接合した場合には、冷却時において、高強度側熱電変換素子よりも低強度側熱電変換素子が大きく熱収縮することにより、低強度側熱電変換素子に引張応力が生じる。特に、熱電変換素子に用いられる脆性材料(セラミックスや半導体材料等)は、圧縮応力よりも引張応力に対する耐性が弱い。このため、低強度側熱電変換素子にクラック等が生じる場合がある。
【0013】
本発明では、第一接合工程において、一方の配線基板と各熱電変換素子(高強度側熱電変換素子、低強度側熱電変換素子)とを接合した後、第二接合工程において、第一接合工程の接合温度よりも低い接合温度で、他方の配線基板と各熱電変換素子とを接合する。使用時には、一方の配線基板を高温側に配置し、他方の配線基板を低温側に配置する。その際の高温側に配置される一方の配線基板の温度は、第二接合工程持の温度よりも高くなる。したがって、熱電変換モジュールの使用環境において各熱電変換素子が熱膨張した際に、高強度側熱電変換素子に引張応力を生じさせ、低強度側熱電変換素子に圧縮応力を生じさせることができる。したがって、各熱電変換素子の熱膨張差によるクラック等の発生を防止でき、各配線基板と各熱電変換素子との間の電気導電性を維持できるので、熱電変換モジュールの安定した熱電変換性能を確保できる。
また、本発明の熱電変換モジュールの製造方法において、前記第一接合工程の接合をろう付けとし、前記第二接合工程の接合をはんだ付け又は銀(Ag)ペーストを用いた接合とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱電変換素子の熱膨張差によるクラック等の発生を防止でき、安定した熱電変換性能を有する熱電変換モジュールを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態の熱電変換モジュールの製造方法を説明する図である。
【
図2】本発明の実施形態の熱電変換モジュールの製造方法により製造される熱電変換モジュールの縦断面図である。
【
図3】
図2のA‐A線の矢視方向の平断面図である。
【
図4】
図2のB‐B線の矢視方向の平断面図である。
【
図5】本発明のその他の実施形態の熱電変換モジュールの製造方法により製造される熱電変換モジュールを示す
図3同様の平断面図である。
【
図6】
図5の熱電変換モジュールを示す
図4同様の平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態の熱電変換モジュールの製造方法により製造される熱電変換モジュール1は、
図2~
図4に示すように、一組の対向配置した配線基板2A,2Bの間に、P型熱電変換素子3及びN型熱電変換素子4を線状(一次元状)に配列した構成である。簡便にするため、
図2~
図4には、P型熱電変換素子3及びN型熱電変換素子4が二対で配列された例を示しており、合計4個の熱電変換素子3,4が一列に並んで設けられる。また、図中、P型熱電変換素子3には「P」、N型熱電変換素子4には「N」と表記する。
【0018】
この熱電変換モジュール1は、
図2に示すように、全体がケース5内に収容され、高温ガスが流れる高温側流路6と、冷却水が流れる低温側流路7との間に介在するように取り付けられることにより、熱電変換装置81を構成する。なお、ケース5は必ずしも必要なものではなく、ケース5を設けなくてもよい。
この
図2に示すように、熱電変換モジュール1の上側に配置された一方の配線基板2Aが高温側流路6に隣接配置され、熱電変換モジュール1の下側に配置された他方の配線基板2Bが低温側流路7に隣接配置され、熱電変換装置81の使用時には、一方の配線基板2Aが高温に加熱され、他方の配線基板2Bが低温に冷却される。そして、熱電変換装置81では、各熱電変換素子3,4に両配線基板2A,2Bの温度差に応じた起電力が発生することにより、配列の両端の外部配線部14A,14B間に、各熱電変換素子3,4に生じる起電力の総和の電位差が得られる。なお、高温側流路6内には、棒状の吸熱フィン8aを有するヒートシンク8が設けられ、この吸熱フィン8aを一方の配線基板2Aに向けて押圧するバネ等の弾性部材9が設けられている。
【0019】
配線基板2A,2Bは、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al2O3)、窒化ケイ素(Si3N4)、炭化ケイ素(SiC)、カーボン板、グラファイト板上に成膜したダイヤモンド薄膜基板等の熱伝導性の高い絶縁性セラミックス基板30に後述の電極部11,12等が形成されたものである。
【0020】
図2の上側の一方の配線基板2Aには、
図3に示すように、隣り合うP型熱電変換素子3とN型熱電変換素子4との対ごとにそれぞれ接続する平面視長方形状の2個の電極部11が形成され、
図2の下側の他方の配線基板2Bには、
図4に示すように、各熱電変換素子3,4の個々に接続される平面視正方形状の4個の電極部12と、一方の配線基板2Aの電極部11により接続状態となる各対の両熱電変換素子3,4のうち、一方の対のN型熱電変換素子4と他方の対のP型熱電変換素子3とを接続状態とする内部配線部13と、一方の対のP型熱電変換素子3及び他方の対のN型熱電変換素子4をそれぞれ外部に接続するための外部配線部14A,14Bとが形成されている。
【0021】
これら電極部11,12は、銅又は銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金、あるいはこれらの積層板がセラミックス基板30の表面に接合されることにより形成されている。電極部11,12の大きさは、熱電変換素子3,4の大きさに応じて適宜設定される。例えば、4mm四方の横断面の熱電変換素子3,4に対して、電極部11が5mm×10mmの長方形、電極部12が4.5mm四方の正方形に形成されている。電極部11,12の厚さは、0.05mm~2.0mmの範囲とすることができ、0.3mmの厚さが好適である。なお、配線基板2A,2Bのセラミックス基板30は、各電極部11,12の間、及び周囲に幅2mm以上のスペースを確保できる程度の平面形状に形成され、厚さは、例えば、窒化アルミニウム、アルミナからなる場合は0.1mm~1.5mmの範囲で、窒化ケイ素からなる場合は0.05mm~1.5mmの範囲とすることができる。好ましい例として、セラミックス基板30として窒化アルミニウムからなるセラミックス板を用い、大きさは30mm×12.5mm、厚さ0.6mmで形成されている。
【0022】
また、配線部13,14A,14Bは、例えば、銅やアルミニウムからなる線材により形成され、電極部11,12と同様、セラミックス基板30の表面に接合されている。幅は0.3mm~2.0mmの範囲とされ、厚さは0.05mmから4.0mmの範囲のものを用いることができる。
【0023】
P型熱電変換素子3とN型熱電変換素子4とは、一方が、強度(圧縮強度)が小さくて熱膨張係数が大きい低強度側熱電変換素子とされ、他方が、強度が大きくて熱膨張係数が小さい高強度側熱電変換素子とされ、強度と熱膨張係数とが異なる組み合わせの熱電変換素子が用いられる。
P型熱電変換素子3とN型熱電変換素子4の材料としては、シリサイド系材料、酸化物系材料、スクッテルダイト(遷移金属とプニクトゲンの金属間化合物)、ハーフホイッスラー等を用いることができ、例えば、表1に示す組み合わせのものが用いられる。
【0024】
【0025】
マンガンシリサイドから構成されたP型熱電変換素子、及びマグネシウムシリサイドから構成されたN型熱電変換素子は、それぞれ母合金をボールミルにて粉砕して例えば粒径75μm以下の粉砕粉末を作製した後、粉砕粉末をプラズマ放電焼結、ホットプレス、熱間等方圧加圧法により焼結して、例えば円盤状、角板状のバルク材を作製しておき、これを例えば角柱状又は円柱状に切断することにより形成される。
【0026】
また、シリコンゲルマニウム(Si‐Ge)から構成されたP型熱電変換素子は、Si粉(79.7at%)と、Ge粉(20.1at%)と、B粉(0.2at%)とを混合した混合物を用いて、ガスアトマイズ法により、B(ボロン)がドープされたSi‐Geの微細な球状粉末を作製した後、粒状粉末を通電加熱焼結法(1250℃、1分保持)により焼結して、例えば円盤状、角板状のバルク材を作製しておき、これを例えば角柱状又は円柱状に切断することにより形成される。
【0027】
そして、このようにして形成される各熱電変換素子の両端面に、ニッケル、銀、金のうちのいずれかの層を含むメタライズ層(図示略)をめっき又はスパッタリングにより形成する。このメタライズ層が銀または金からなる場合には、熱電変換素子の両端面に、ニッケル、チタンのいずれかからなる単層又はこれらの積層構造からなるバリア層(図示略)を形成しておき、このバリア層を介してメタライズ層を形成するとよい。
【0028】
このように構成される熱電変換素子のうち、表1に示されるNo.1の組み合わせでは、マンガンシリサイドから構成されたP型熱電変換素子は、圧縮強度が例えば室温(25℃)で2300MPa(500℃で1200MPa)、熱膨張係数が10.8×10-6/Kであるのに対して、マグネシウムシリサイドから構成されたN型熱電変換素子は、圧縮強度が例えば室温(25℃)で1000MPa(500℃で260MPa)、熱膨張係数が17.0×10-6/Kである。マンガンシリサイドのP型熱電変換素子と、マグネシウムシリサイドのN型熱電変換素子との組み合わせでは、P型熱電変換素子の圧縮強度はN型熱電変換素子の圧縮強度よりも大きく、P型熱電変換素子の熱膨張係数はN型変換素子の熱膨張係数よりも小さくなる。
【0029】
また、表1に示されるNo.2の熱電変換素子の組み合わせでは、シリコンゲルマニウムから構成されたP型熱電変換素子は、圧縮強度が例えば室温(25℃)で1600MPa(500℃で460MPa)、熱膨張係数が4.6×10-6/Kであるのに対して、マグネシウムシリサイドから構成されたN型熱電変換素子は、前述したように、圧縮強度が例えば室温(25℃)で1000MPa(500℃で260MPa)、熱膨張係数が17.0×10-6/Kである。シリコンゲルマニウムのP型熱電変換素子と、マグネシウムシリサイドのN型熱電変換素子との組み合わせにおいても、P型熱電変換素子の圧縮強度はN型熱電変換素子の圧縮強度よりも大きく、P型熱電変換素子の熱膨張係数はN型変換素子の熱膨張係数よりもが小さくなる。
【0030】
このように、熱電変換モジュール1には、圧縮強度(強度)が小さくて熱膨張係数が大きいN型熱電変換素子4(低強度側熱電変換素子)と、N型熱電変換素子3よりも圧縮強度(強度)が大きくて熱膨張係数が小さい高強度側熱電変換素子(P型熱電変換素子3)との組み合わせの熱電変換素子3,4が用いられる。
【0031】
また、これらの熱電変換素子3,4は、例えば横断面が正方形(例えば、一辺が1mm~8mm)の角柱状や、横断面が円形(例えば、直径が1mm~8mm)の円柱状に形成され、長さ(配線基板2A,2Bの対向方向に沿う長さ)は2mm~10mmとされる。また、これらの熱電変換素子3,4のうち、相対的に強度が大きくて熱膨張係数の小さいP型熱電変換素子3の長さは、強度が小さくて熱膨張係数の大きいN型熱電変換素子4の長さと、25℃において同等(ほぼ同じ長さ)に設定される。
【0032】
このように構成された熱電変換モジュール1の製造方法について説明する。
本実施形態では、環境への影響が少なく、資源埋蔵量も豊富なシリサイド系材料からなるマンガンシリサイド(MnSi1.73)、及びマグネシウムシリサイド(Mg2Si)の熱電変換素子3,4の組み合わせを用いて、熱電変換モジュールの製造方法を説明する。熱電変換モジュール1は、第一接合工程と第二接合工程の2回の接合工程を経て製造される。
【0033】
(第一接合工程)
まず、一方の配線基板2Aの電極部11に、P型熱電変換素子3の一方の電極面とN型熱電変換素子4の一方の電極面とを接合する。なお、一方の配線基板2Aの電極部11と各熱電変換素子3,4との接合は、一方の配線基板2Aの使用温度以上の接合温度で行う。具体的には、
図1(a)に示すように、一方の配線基板2Aの電極部11上に、ろう材(銀(Ag)ろう)21を介して各熱電変換素子3,4の一方の電極面を重ね合わせるようにして配置し、積層方向に加圧力(押圧荷重):0.05MPa~1.5MPaで加圧した状態で、接合温度:605℃~780℃、接合時間:1分~10分で加熱することにより、一方の配線基板2Aの電極部11と熱電変換素子3,4の一方の電極面とを接合し、
図1(b)に示すように、これら一方の配線基板2Aと熱電変換素子3,4とが一体化された接合体10を形成する。なお、ろう材21には、銀ろう以外に、熱電素子の材料の耐熱性や熱電変換モジュールの最大使用温度により、Al系、Cu系、Au系、Ni系やTi系等を用いることができる。
このように、第一接合工程では、ろう材21によって、電極部11と各熱電変換素子3,4とがろう付けされ、電極部11と各熱電変換素子3,4の間にろう付け部41が形成される。
【0034】
(第二接合工程)
第一接合工程後、他方の配線基板2Bの電極部12に、P型熱電変換素子3の他方の電極面とN型熱電変換素子4の他方の電極面とを接合し、両配線基板2A,2Bの間に、P型熱電変換素子3とN型熱電変換素子4とが電気的に直列に接続された熱電変換モジュール1を製造する。
【0035】
この際、第一接合工程において形成した一方の配線基板2Aと熱電変換素子3,4との接合体1を、予め、はんだ材の接合温度(139℃~315℃)又は常温(例えば25℃)まで冷却しておく。そして、他方の配線基板2Bと各熱電変換素子3,4との接合は、第一接合工程における一方の配線基板2Aと各熱電変換素子3,4との接合温度よりも低い接合温度で行う。なお、他方の配線基板2Bと各熱電変換素子3,4との接合は、一方の配線基板2Aの使用温度よりも低く、かつ他方の配線基板2Bの使用温度よりも高い接合温度で行う。具体的には、
図1(b)に示すように、他方の配線基板2Bの電極部12の上に、はんだ材(Sn‐58Bi)22を介して、各熱電変換素子3,4の他方の電極面を重ね合わせるようにして配置し、積層方向に加圧力(押圧荷重):0.01MPa~1MPaで加圧した状態で、接合温度:139℃~150℃、接合時間:1分~10分で加熱した後、常温(25℃)まで冷却することにより、
図1(c)に示すように、他方の配線基板2Bの電極部12と熱電変換素子3,4の他方の電極面とを接合し、熱電変換モジュール1を製造する。
【0036】
なお、はんだ材22としては、Sn‐Pb系、Sn‐Ag‐Cu系、Sn‐Sb系、Sn‐Zn系、Sn‐Bi系、Sn‐In‐Ag‐Bi系、In‐Sn系、Sn‐Pb‐Bi系、Sn‐Cu系等を用いることもできる。
また、図示は省略するが、第二接合工程では、はんだ材22の代わりに銀(Ag)ペーストを用いることができる。銀ペーストは、粒径0.05μm~100μmの銀粉末と、樹脂と、溶剤とを含有している。銀ペーストの組成としては、銀粉末の含有量が銀ペースト全体の60質量%以上92質量%以下とし、樹脂の含有量が銀ペースト全体の1質量%以上10質量%以下とし、残部が溶剤とするとよい。この銀ペーストを、配線基板2Bの電極部12又は熱電変換素子3,4の他方の電極面にスクリーン印刷等で塗布し、100℃~150℃で乾燥した後、積層方向に加圧力(押圧荷重):0.01MPa~5MPaで加圧した状態で、接合(焼結)温度:150℃~300℃とすることで、配線基板2Bの電極部12と熱電変換素子3,4の他方の電極面とを銀接合層を介して接合することができる。
このように、第二接合工程では、はんだ材22又は銀ペーストによって、電極部12と各熱電変換素子3,4とが接合され、電極部12と各熱電変換素子3,4との間にはんだ付け部42又は銀接合層(図示略)が形成される。
【0037】
第二接合工程の他方の配線基板2Bと各熱電変換素子3,4との接合時においては、各熱電変換素子3,4もはんだ材22の溶融温度まで加熱されることから、P型熱電変換素子3の長さとN型熱電変換素子4の長さとに差が生じる。つまり、熱膨張係数の小さいP型熱電変換素子3の長さよりも、熱膨張係数の大きいN型熱電変換素子4の長さの方が長く(大きく)なるが、はんだ材22の接合温度は139℃~150℃であり、比較的低い温度で接合が行えることから、接合時におけるP型熱電変換素子3とN型熱電変換素子4との熱膨張差を小さくできる。このため、熱電変換モジュール1を常温まで冷却した際には、熱膨張係数の小さいP型熱電変換素子3よりも熱膨張係数の大きいN型熱電変換素子4が大きく収縮しようとすることで、P型熱電変換素子3よりも圧縮強度の小さいN型熱電変換素子4に引張応力が生じる。しかし、第二接合工程の接合時におけるP型熱電変換素子3とN型熱電変換素子4との熱膨張差を小さくしているので、N型熱電変換素子4に作用する引張応力の大きさも小さくできる。したがって、圧縮強度が小さいN型熱電変換素子4にクラック等が発生することを防止できる。
【0038】
そして、このようにして製造された熱電変換モジュール1は、一方の配線基板2Aに熱源(高温側流路6)が配置され、他方の配線基板2Bに冷却流路等(低温側流路7)が配置されることにより、各熱電変換素子3,4に両配線基板2A,2Bの温度差に応じた起電力が発生し、配列の両端の外部配線部14A,14B間に、各熱電変換素子3,4に生じる起電力の総和の電位差が得られる。
【0039】
このような熱電変換モジュール1の使用環境において、高温側流路6から一方の配線基板2Aを介して両熱電変換素子3,4が加熱されることにより熱膨張し、P型熱電変換素子3とN型熱電変換素子4との間に熱膨張差(長さの差)が生じる。つまり、熱膨張係数の小さいP型熱電変換素子3よりも熱膨張係数の大きいN型熱電変換素子4が大きく熱膨張しようとする。
【0040】
しかし、この熱電変換モジュール1は、一方の配線基板2Aの使用環境よりも低い温度で他方の配線基板2Bと両熱電変換素子3,4との接合を行っており、一方の配線基板2Aの温度は、第二接合工程時の温度(接合温度)よりも高温になる。このため、第二接合工程において蓄積された両熱電変換素子3,4の熱膨張差を相殺し、あるいは、熱電変換モジュール1の使用環境において生じる両熱電変換素子3,4の熱膨張差の方が大きくなる。そして、熱膨張係数の小さいP型熱電変換素子3よりも、熱膨張係数の大きいN型熱電変換素子4が大きく膨張しようとすることで、P型熱電変換素子3よりも圧縮強度の小さいN型熱電変換素子4に圧縮応力が生じる。ここで、発生する圧縮応力は、第二接合工程での引張応力と相殺されるので、小さくなる。
【0041】
このように、熱電変換モジュール1では、使用環境において各熱電変換素子3,4が熱膨張した際に、圧縮強度の大きいP型熱電変換素子3に引張応力を生じさせ、圧縮強度の小さいN型熱電変換素子4に圧縮応力を生じさせることができる。したがって、各熱電変換素子3,4の熱膨張差によるクラックなどの発生を防止でき、各配線基板2A,2Bと各熱電変換素子3,4との間の電気導電性を維持できるので、熱電変換モジュール1の安定した熱電交換性能を確保できる。
【実施例】
【0042】
マンガンシリサイドからなる角柱状のP型熱電変換素子(高強度側熱電変換素子)と、マグネシウムシリサイドからなる角柱状のN型熱電変換素子(低強度側熱電変換素子)とを作製した。25℃における各熱電変換素子の底面を4mm×4mmとし、各熱電変換素子の長さを7mmとした。
【0043】
これらP型熱電変換素子及びN型熱電変換素子を、
図5及び
図6に示すようにそれぞれ8個ずつ(8対)組み合わせて、4列×4行の面状(二次元)に配置した熱電変換モジュールを作製した。本実施例において、第1実施形態の
図2に相当する図面は省略するが、縦断面構造は
図2とほぼ同様であり、
図5が第1実施形態の
図3に相当する図面、
図6が第1実施形態の
図4に相当する図面となっている。そして、
図5及び
図6に示すように、両配線基板2A,2B間に各熱電変換素子3,4を接続することにより、外部配線部14A,14B間に熱電変換素子3,4が直列に接続されるようになっている。
各実施例の配線基板のセラミックス基板としては厚さ0.6mmの窒化アルミニウム、電極部としては厚さ0.05mmの銅を用いた。
【0044】
そして、一方の配線基板と各熱電変換素子との接合(第一接合工程)は、一方の配線基板の電極部上に、表2記載の高温側接合材を介して各熱電変換素子の一方の電極面を配置し、積層方向に加圧力(押圧荷重):0.1MPaで加圧した状態で、表2記載の接合温度で加熱することにより行った(第一接合工程)。
また、他方の配線基板と各熱電変換素子との接合(第二接合工程)は、第一接合工程後に、25℃まで冷却した後、他方の配線基板の電極部の上に、表2記載の低温側接合材を介して各熱電変換素子の他方の電極面を配置し、積層方向に加圧力(押圧荷重):0.1MPaで加圧した状態で、表2記載の接合温度で加熱することにより接合した(第二接合工程)。
なお、低温側接合材が銀(Ag)ペーストの場合、粒径5μmの銀(Ag)粉末と、エチルセルロースと、α-テルピネオールと、からなる銀ペーストを用いた。そして、銀ペーストの塗布後に120℃で乾燥を行った。
また、実験例42~47においては、第一接合工程と第二接合工程とを同時に行った。
【0045】
そして、得られた熱電変換モジュールに対し、一方の配線基板は電気ヒーターで450℃~300℃の間を30分サイクルで昇温、降温を繰り返し、他方の配線基板はチラー(冷却器)により60℃に保持して、48時間のサイクル試験を行い、素子と電極の剥離を調査した。
【0046】
素子と電極の剥離は、サイクル試験後に超音波画像測定機(インサイト株式会社製INSIGHT-300)を用いて、高温側及び低温側の素子と電極の剥離(部分的な剥離も含む)を起こした素子の割合で評価した。各実験例においては、16個の熱電変換素子を用いていることから、素子と電極の接合面が32個形成されるが、32個の各接合面において剥離率が10%以上の場合を剥離ありとし、剥離ありの接合面の数を数えた。
【0047】
これらの結果を表2に示す。
【0048】
【0049】
表2からわかるように、高温側に配置される一方の配線基板と両熱電変換素子との接合後に、その接合温度(高温側接合温度)よりも低い温度(低温側接合温度)で、他方の配線基板と両熱電変換素子とを接合することで(実験例1~41)、高温側接合温度と低温側接合温度とを同じ温度で接合した場合(実験例42~47)と比較して、剥離ありの接合面の数を低減できることがわかった。
【0050】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記以外の種々の変更を加えることも可能である。
【0051】
例えば、上記実施形態では、各熱電変換素子の横断面形状も正方形としたが、長方形、円形等に形成してもよい。また、両熱電変換素子を面状に配列した場合、両熱電変換素子を平面視正方形となる配置だけでなく、平面視が長方形、円形等となる配置としてもよい。その場合、周縁部における周方向に適宜の間隔をおいた複数箇所に強度が高い熱電変換素子が配置されればよく、均等に配置するのが好ましい。
【0052】
また、両配線基板を高温側流路又は低温側流路に接触させたが、必ずしも流路構成のものに限らず、熱源と冷却媒体とに接するものであればよい。
【符号の説明】
【0053】
1 熱電変換モジュール
2A,2B 配線基板
3 P型熱電変換素子(高強度側熱電変換素子)
4 N型熱電変換素子(低強度側熱電変換素子)
5 ケース
6 高温側流路
7 低温側流路
8 ヒートシンク
8a 吸熱フィン
9 弾性部材
10 接合体
11,12 電極部
13 内部配線部
14A,14B 外部配線部
21 ろう材
22 はんだ材
30 セラミックス基板
41 ろう付け部
42 はんだ付け部
81 熱電変換装置