(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20220329BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
F16H1/32 A
H02K7/116
(21)【出願番号】P 2017181928
(22)【出願日】2017-09-22
【審査請求日】2020-09-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】竹本 心路
(72)【発明者】
【氏名】徐 文徳
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-142447(JP,A)
【文献】特開2000-65160(JP,A)
【文献】特許第5540442(JP,B1)
【文献】特開2015-196237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
H02K 7/116
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏心揺動型の変速機であって、
中心軸を中心として回転する第1回転部と、
前記第1回転部とともに回転し、前記中心軸から外周面までの距離が周方向の位置によって異なり、軸方向においてそれぞれが異なる位置に配置された複数の偏心体と、
前記複数の偏心体それぞれの外周面に設けられた複数の軸受と、
前記複数の軸受それぞれの外周面に設けられた複数の外歯歯車と、
前記中心軸を周方向に囲む円筒状であって、前記複数の外歯歯車の径方向外側に配置された内歯歯車と、
前記複数の外歯歯車それぞれの軸方向に重なる位置に設けられた貫通孔に挿入された、軸方向に延びる複数のキャリアピンと、
前記キャリアピンが固定され、前記中心軸を中心として回転する第2回転部と、
を備え、
前記複数の外歯歯車の歯数と、前記内歯歯車の歯数とは相違し、
前記内歯歯車には、前記複数の外歯歯車の歯数それぞれの、前記中心軸からの距離が最も遠い外歯が、噛み合い、
前記内歯歯車と前記複数の外歯歯車それぞれとの噛み合い位置は、周方向において、不均等であ
り、
前記複数の外歯歯車それぞれには、周方向に沿って前記貫通孔が複数設けられ、
複数の前記キャリアピンはそれぞれ、複数の前記貫通孔それぞれに挿入される、
複数の前記キャリアピンは、中心軸を中心として、周方向に沿って等角度間隔に配置され、
前記内歯歯車と前記複数の外歯歯車それぞれとの噛み合い位置の、前記中心軸を中心とする角度差は、前記等角度の倍数である、
変速機。
【請求項2】
請求項1に記載の変速機であって、
前記複数の偏心体はそれぞれ、
軸方向から視て真円形であり、前記真円の中心が、前記中心軸から外れて位置している、
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の変速機であって、
前記噛み合い位置は、
前記内歯歯車と前記複数の外歯歯車それぞれとの噛み合い位置を、周方向に均等とした状態から、前記等角度ずれた位置である、
【請求項4】
請求項1から
請求項3までのいずれか1つに記載の変速機であって、
前記複数の外歯歯車は、第1外歯歯車と、第2外歯歯車と、を含み、
前記内歯歯車と前記第1外歯歯車との噛み合い位置と、前記内歯歯車と前記第2外歯歯車との噛み合い位置とは、前記中心軸を中心に、周方向に144°離れて位置する、
変速機。
【請求項5】
請求項1から
請求項4までのいずれか1つに記載の変速機であって、
前記第1回転部は、モータから得られる動力により第1回転数で回転する入力部であり、
前記第2回転部は、前記第1回転数よりも低い第2回転数で回転する出力部である、
変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2014-16019号公報には、偏心揺動減速機構が記載されている。当該公報の減速機構は、四輪駆動車において、電動モータのモータ回転力を、一対の後輪に伝達するモータ回転力伝達装置に備えられている。減速機構は、内歯歯車と、内歯歯車の内側に配置された外歯歯車とを有する。外歯歯車は、内歯歯車と噛み合いながら、内歯歯車の内面に沿って揺動する。このような偏心揺動型の減速機構は、小型で高い減速比を得ることができる。
【文献】特開2014-16019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年、人と協調して作業を行う小型ロボットの需要が高まっている。そして、上述した偏心揺動型の減速機とモータとを組み合わせたアクチュエータを、小型ロボットの関節に用いることが提案されている。ただし、この種の小型ロボットには、滑らかな動作が求められる。また、この種の小型ロボットには、出力側に外力が加えられた場合に、入力側に伝わり易くする性能(バックドライバビリティ)がある。バックドライバビリティが向上することにより、出力側に衝撃が加わった場合に、アクチュエータまたは当該アクチュエータが搭載されたアプリケーションの破損を抑制しやすい。そのため、バックドライバビリティ性能の向上が求められる。
【0004】
そこで、変速機において、複数の外歯歯車を用いて、バックドライバビリティを向上させることができる構成を、本発明者は見出した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本願の発明は、偏心揺動型の変速機であって、中心軸を中心として回転する第1回転部と、前記第1回転部とともに回転し、前記中心軸から外周面までの距離が周方向の位置によって異なり、軸方向においてそれぞれが異なる位置に配置された複数の偏心体と、前記複数の偏心体それぞれの外周面に設けられた複数の軸受と、前記複数の軸受それぞれの外周面に設けられた複数の外歯歯車と、前記中心軸を周方向に囲む円筒状であって、前記複数の外歯歯車の径方向外側に配置された内歯歯車と、前記複数の外歯歯車それぞれの軸方向に重なる位置に設けられた貫通孔に挿入された、軸方向に延びる複数のキャリアピンと、前記キャリアピンが固定され、前記中心軸を中心として回転する第2回転部と、を備え、前記複数の外歯歯車の歯数と、前記内歯歯車の歯数とは相違し、前記内歯歯車には、前記複数の外歯歯車の歯数それぞれの、前記中心軸からの距離が最も遠い外歯が、噛み合い、前記内歯歯車と前記複数の外歯歯車それぞれとの噛み合い位置は、周方向において、不均等であり、前記複数の外歯歯車それぞれには、周方向に沿って前記貫通孔が複数設けられ、複数の前記キャリアピンはそれぞれ、複数の前記貫通孔それぞれに挿入される、複数の前記キャリアピンは、中心軸を中心として、周方向に沿って等角度間隔に配置され、前記内歯歯車と前記複数の外歯歯車それぞれとの噛み合い位置の、前記中心軸を中心とする角度差は、前記等角度の倍数である。
【発明の効果】
【0006】
本願によれば、変速機のバックドライブトルクのピークを下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態の変速機の縦断面図である。
【
図4】
図4は、第1偏心体の中心軸と、第2偏心体の中心軸との位置関係を説明するための図である。
【
図5】
図5は、バックドライブトルクを計測したシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本願では、変速機の中心軸と平行な方向を「軸方向」、中心軸に直交する方向を「径方向」、中心軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。また、本願では、軸方向を上下方向とし、第1回転部に対して第2回転部の第1キャリア部材側を上として、各部の形状および位置関係を説明する。ただし、この上下方向の定義により、本願に係る変速機の使用時の向きを限定する意図はない。また、上記の「平行な方向」は、略平行な方向も含む。また、上記の「直交する方向」は、略直交する方向も含む。
【0009】
<1.変速機の全体構成>
図1は、本実施形態の変速機の縦断面図である。
図2は、変速機1の分解斜視図である。
図3は、
図1中のIII-III線の横断面図である。なお、
図3においては、図の煩雑化を避けるため、ハッチングは省略する。
【0010】
変速機1は、第1回転数(入力回転数)の回転運動を、第1回転数よりも低い第2回転数(出力回転数)の回転運動に変換する、歯車減速機である。変速機1は、例えば、人と協調して作業を行うサービスロボット等の小型ロボットの関節に使用される。ただし、同等の構造を有する変速機を、大型の産業用ロボット、工作機、X-Yテーブル、材料の切断装置、コンベアライン、ターンテーブル、圧延ローラ等の他の用途に用いてもよい。
【0011】
変速機1は、第1回転部10と、第1偏心体21および第2偏心体22と、第1外歯歯車31および第2外歯歯車32と、フレーム40と、複数のキャリアピン50と、第2回転部60と、を備える。
【0012】
第1回転部10は、中心軸9に沿って上下に延びる円柱状の部材である。
図1中に概念的に示したように、第1回転部10は、直接または他の動力伝達機構を介して、駆動源であるモータに接続される。モータを駆動させると、モータから供給される動力によって、第1回転部10は、中心軸9を中心として、第1回転数で回転する。すなわち、本実施形態では、第1回転部10は入力部である。
【0013】
第1偏心体21は、第1回転部10の外周面に固定され、第1回転部10とともに回転する部材である。第1回転部10と第1偏心体21とは、単一の部材でもよいし、別の部材でもよい。第1偏心体21は、
図3に示すように、軸方向から視て真円形の外周面を有する。第1偏心体21の中心軸91は、中心軸9から外れて位置する。したがって、中心軸9から第1偏心体21の外周面までの距離は、周方向の位置によって異なる。
【0014】
第2偏心体22は、第1回転部10の外周面に固定される。第2偏心体22は、第1偏心体21と軸方向に異なる位置に固定される。そして、第2偏心体22は、第1回転部10とともに回転する部材である。第1回転部10と第2偏心体22とは、単一の部材でもよいし、異なる別部材でもよい。第2偏心体22は、第1偏心体21と同様に、軸方向から視て真円形の外周面を有する。第2偏心体22の中心軸92は、中心軸9から外れて位置する。したがって、中心軸9から第2偏心体22の外周面までの距離は、周方向の位置によって異なる。
【0015】
図4は、第1偏心体21の中心軸91と、第2偏心体22の中心軸92との位置関係を説明するための図である。中心軸91と、中心軸92とは、中心軸9を中心とする同一円上であって、軸方向からみて異なる位置に位置する。つまり、中心軸9と中心軸91との距離と、中心軸9と中心軸92との距離とは、同じである。また、中心軸91と中心軸92とは、周方向に不均等に位置する。ここで、「不均等」とは、中心軸9を中心とする角度間隔が一定でないことを意味する。本実施形態のように、偏心体の数が2つの場合には、時計回りにおいて、中心軸9を中心とする中心軸91から中心軸92までの角度R1と、中心軸92から中心軸91までの角度R2とが、異なることを意味する。本実施形態では、中心軸9を中心として、中心軸92は、中心軸91から、時計回りに144°離れて位置する。つまり、
図4の角度R1は、144°である。
【0016】
第1回転部10が中心軸9を中心として回転すると、第1偏心体21および第2偏心体22は、中心軸9を中心として回転する。このとき、第1偏心体21の中心軸91、および第2偏心体22の中心軸92も、中心軸9を中心として回転する。
【0017】
第1外歯歯車31は、第1偏心体21の径方向外側に配置される。第1偏心体21と第1外歯歯車31との間には、第1軸受71が介在する。第1軸受71には、例えば、ボールベアリングが用いられる。第1外歯歯車31は、第1軸受71によって、中心軸91を中心として回転可能に支持される。
図3に示すように、第1外歯歯車31の外周部には、複数の外歯311が設けられる。各外歯311は、径方向外側へ向けて突出する。第1外歯歯車31は、複数(
図3の例では10個)の貫通孔312を有する。各貫通孔312は、第1外歯歯車31を軸方向に貫通する。複数の貫通孔312は、中心軸91を中心として、周方向に沿って等角度間隔に配置される。
【0018】
第2外歯歯車32は、第2偏心体22の径方向外側に配置される。第2偏心体22と第2外歯歯車32との間には、第2軸受72が介在する。第2外歯歯車32は、第2軸受72によって、中心軸92を中心として回転可能に支持される。第2軸受72には、例えば、ボールベアリングが用いられる。第2外歯歯車32は、第1外歯歯車31と同様に、外周部に複数の外歯321が設けられる。また、第2外歯歯車32には、軸方向に貫通した複数の貫通孔322が設けられる。複数の貫通孔322は、中心軸92を中心として、周方向に沿って等角度間隔に配置される。貫通孔322は、貫通孔312と同じ径を有する。また、各貫通孔322の一部は、第1外歯歯車31の各貫通孔312と、軸方向に重なる。
【0019】
フレーム40は、中心軸9を周方向に囲み、軸方向に延びる円筒状の部材である。フレーム40は、第1外歯歯車31および第2外歯歯車32の径方向外側を取り囲んで配置される。
図3に示すように、フレーム40の内周面には、複数の内歯41が設けられる。複数の内歯41は、それぞれ、フレーム40の内周面から径方向内側へ向けて突出する。本実施形態では、内歯41を含む内歯歯車が、フレーム40の一部となっている。ただし、内歯歯車は、フレーム40と別部材としてもよい。本実施形態のように、内歯41は、フレーム40と同一部材とした場合、フレーム40とは別に、内歯41を有する内歯歯車を設ける必要がないため、変速機1の小型化が容易となる。
【0020】
フレーム40の複数の内歯41の一部には、第1外歯歯車31の複数の外歯311、および、第2外歯歯車32の複数の外歯321それぞれの一部が噛み合う。具体的には、中心軸9からの距離が最も遠い位置にある、第1外歯歯車31の外歯311と、内歯41とが噛み合う。また、中心軸9からの距離が最も遠い位置にある、第2外歯歯車32の外歯321と、内歯41とが噛み合う。以下では、第1外歯歯車31の外歯311と、内歯41との噛み合い位置を、噛み合い位置A1(
図3参照)と称す。また、第2外歯歯車32の外歯321と、内歯41との噛み合い位置を、噛み合い位置A2(
図3参照)と称す。
【0021】
噛み合い位置A1と、噛み合い位置A2との位置関係は、中心軸91と、中心軸92との位置関係と同様に、周方向に不均等である。前記のように、第2偏心体22の中心軸92は、中心軸9を中心に、第1偏心体21の中心軸91から時計周りに、144°離れて位置する。したがって、噛み合い位置A1と、噛み合い位置A2とは、中心軸9を中心に、周方向に144°離れて位置する。
【0022】
なお、前記のとおり、第1外歯歯車31と第2外歯歯車32とは、内歯41との噛み合い位置が異なるだけで、その構成は同じである。したがって、以下の説明では、第1外歯歯車31についてのみ説明する。
【0023】
第1回転部10が中心軸9を中心として回転すると、第1外歯歯車31は、中心軸91とともに、中心軸9の周りを公転する。また、第1外歯歯車31の外歯311と、フレーム40の内歯41とが噛み合うことによって、第1外歯歯車31は自転する。ここで、フレーム40が有する内歯41の数は、第1外歯歯車31が有する外歯311の数よりも多い。このため、第1外歯歯車31の1公転ごとに、フレーム40の同じ位置の内歯41に噛み合う外歯311の位置がずれる。これにより、第1外歯歯車31が、第1回転部10の回転方向とは逆の方向へ、第1回転数よりも低い第2回転数で自転する。したがって、第1外歯歯車31の貫通孔312の位置も、第2回転数で回転する。変速機1の動作時には、第1外歯歯車31が、このような公転と自転とを組み合わせた回転運動を行う。
【0024】
第1外歯歯車31が有する外歯311の数をNとし、フレーム40が有する内歯41の数をMとすると、変速機1の減速比Pは、P=(第1回転数)/(第2回転数)=N/(M-N)となる。
図3の例では、N=29,M=30なので、この例における減速比は、P=29である。すなわち、第2回転数は、第1回転数の1/29の回転数となる。ただし、外歯311の数Nおよび内歯41の数Mは、他の値であってもよい。
【0025】
本実施形態では、複数の内歯41が、単一の部材であるフレーム40の一部として、設けられる。このため、フレーム40とは別に、複数の内歯41を有する内歯歯車を設ける必要がない。これにより、変速機1の小型化が容易となる。
【0026】
複数のキャリアピン50それぞれは、軸方向に延びる円柱状の部材である。複数のキャリアピン50は、中心軸9を中心として、周方向に沿って等角度間隔に円環状に配置される。この例では、
図3に示すように、変速機1は、10個のキャリアピン50を有する。したがって、複数のキャリアピン50それぞれは、中心軸9を中心として、周方向に沿って36°(360°/10)の等角度間隔で配置される。前記した噛み合い位置A1、A2の角度144°は、複数のキャリアピン50を配置した等角度36°の倍数である。また、噛み合い位置A1、A2は、噛み合い位置A1、A2を周方向に均等とした状態から、等角度36°ずれた位置にある。
【0027】
複数のキャリアピン50それぞれは、軸方向に重なった、第1外歯歯車31の貫通孔312、および、第2外歯歯車32の貫通孔322に挿入される。これにより、複数のキャリアピン50は、第1外歯歯車31および第2外歯歯車32により押されて、第1外歯歯車31および第2外歯歯車32と同じ第2回転数で、中心軸9を中心として回転する。
【0028】
第2回転部60は、円環状の第1キャリア部材61と、円環状の第2キャリア部材62とを有している。第1キャリア部材61は、第1外歯歯車31よりも軸方向の上方側に配置されている。第1回転部10と第1キャリア部材61との間には、軸受73が介在している。また、第1キャリア部材61とフレーム40との間には、軸受74が介在している。
【0029】
第2キャリア部材62は、第2外歯歯車32よりも軸方向の下方側に配置されている。第1回転部10と第2キャリア部材62との間には、軸受75が介在している。また、第2キャリア部材62とフレーム40との間には、軸受76が介在している。軸受73および軸受75には、例えば、ボールベアリングが用いられる。軸受74および軸受76には、例えば、ポリアセタール等の樹脂からなるすべり軸受が用いられる。
【0030】
各キャリアピン50の軸方向の上方端部は、第1キャリア部材61に固定される。各キャリアピン50の軸方向の下方端部は、第2キャリア部材62に固定される。なお、第1キャリア部材61および第2キャリア部材62に対するキャリアピン50の固定方法には、例えば、圧入が用いられる。このため、複数のキャリアピン50が、中心軸9を中心として第2回転数で回転すると、第1キャリア部材61および第2キャリア部材62も、中心軸9を中心として第2回転数で回転する。
【0031】
第2回転部60は、直接または他の動力伝達機構を介して、駆動対象となる部材に接続される。すなわち、本実施形態では、第2回転部60は出力部である。
【0032】
<2.シミュレーションの例>
【0033】
上記のように構成された変速機1において、噛み合い位置A1と、噛み合い位置A2とは、中心軸9を中心として、周方向に不均等に位置する。この構成とすることで、変速機1のバックドライバビリティは向上する。
【0034】
以下に、シミュレーションソフトウェアにおいて、上記の変速機1と同等のモデルを作成して行った、バックドライブトルクを計測するシミュレーションの結果を示す。
図5は、バックドライブトルクを計測したシミュレーション結果を示す図である。
【0035】
バックドライブトルクは、出力部である第2回転部60を外力で回転させたときの、抵抗の大きさである。バックドライブトルクが小さいと、第2回転部60の回転抵抗が小さく、回転ロスが少なくなる。つまり、バックドライバビリティが向上する。
【0036】
図5の波形(A)は、噛み合い位置A1と、噛み合い位置A2とを、中心軸9を中心として、周方向に沿って180°の角度で等間隔に配置した場合のシミュレーション結果である。
図5の波形(B)は、噛み合い位置A1と、噛み合い位置A2とを、周方向に不均等にした、上記構成の変速機1のシミュレーション結果である。波形(A)と波形(B)とで、噛み合い位置A1、A2の位置関係以外の条件は同一である。
【0037】
波形(A)と、波形(B)との対比からわかるように、噛み合い位置A1、A2を、中心軸9を中心として、不均等にした方が、変速機1のバックドライブトルクのピークは、小さい。
【0038】
なお、変速機1は、第1外歯歯車31と、第2外歯歯車32とを備えるが、3つ以上の外歯歯車を備える構成でもよい。
図5の波形(C)は、外歯歯車を3つ設け、3つの外歯歯車と内歯との噛み合い位置それぞれを、中心軸9を中心として、周方向に不等配とした変速機1のシミュレーション結果である。波形(B)と、波形(C)との対比からわかるように、外歯歯車の数が3つとした方が、外歯歯車の数が2つの場合よりも、変速機1のバックドライブトルクのピークは、さらに小さい。
【0039】
以上のように、複数の外歯歯車の外歯と内歯との噛み合い位置を、中心軸9を中心として、周方向に不均等に位置させることで、変速機1のバックドライバビリティを向上させることができる。
【0040】
なお、変速機1は、上記した構成に限定されない。例えば、噛み合い位置A1と、噛み合い位置A2とは、中心軸9を中心として、144°離れて位置しているが、この角度に限定されない。また、外歯歯車の外歯の数、および、内歯歯車の内歯の数は、適宜変更可能である。
【0041】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上述の実施形態および変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本願は、変速機に利用できる。
【符号の説明】
【0043】
1 :変速機
9 :中心軸
10 :第1回転部
21 :第1偏心体
22 :第2偏心体
31 :第1外歯歯車
32 :第2外歯歯車
40 :フレーム
41 :内歯
50 :キャリアピン
60 :第2回転部
61 :第1キャリア部材
62 :第2キャリア部材
71 :第1軸受
72 :第2軸受
73 :軸受
74 :軸受
75 :軸受
76 :軸受
91 :中心軸
92 :中心軸
311 :外歯
312 :貫通孔
321 :外歯
322 :貫通孔
A1 :噛み合い位置
A2 :噛み合い位置
R1 :角度
R2 :角度