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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】積層シート形成用接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 175/06 20060101AFI20220329BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
C09J175/06
B32B27/00 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017231500
(22)【出願日】2017-12-01
(65)【公開番号】P2019099667
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】396009595
【氏名又は名称】東洋モートン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】廣嶋 努
(72)【発明者】
【氏名】小清水 渉
(72)【発明者】
【氏名】杉 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】安井 文五
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1624067(CN,A)
【文献】特開2013-043936(JP,A)
【文献】特開2008-156502(JP,A)
【文献】特表2005-536608(JP,A)
【文献】国際公開第2015/033857(WO,A1)
【文献】特開2016-153459(JP,A)
【文献】特許第6191904(JP,B1)
【文献】特開2013-103434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00- 5/10
7/00- 7/50
9/00-201/10
B32B 1/00- 43/00
C08G 18/00- 18/87
71/00- 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸成分と水酸基成分との反応生成物であるポリエステル系ポリオール(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)とを含有してなる積層シート形成用接着剤組成物であって、
前記カルボン酸成分と前記水酸基成分との少なくともいずれか一方が単官能成分を含み、且つ前記カルボン酸成分と前記水酸基成分との少なくともいずれか一方が3官能以上の成分を含み、
前記ポリエステル系ポリオール(A)の水酸基価が15~40mg/KOHであり、酸価が大きくとも0.5mg/KOHであり、GPC-MALS-VISCOにて測定される分岐度αが0.6以下であり、
前記ポリイソシアネート化合物(B)が脂肪族のポリイシソアネート化合物(B-1)であることを特徴とする積層シート形成用接着剤組成物。
【請求項2】
カルボン酸成分と水酸基成分との合計200モル%中、
単官能成分が0.2~8モル%、3官能以上の成分が0.2~8モル%である、請求項1記載の積層シート形成用接着剤組成物。
【請求項3】
GPC-RIにて測定されるポリエステル系ポリオール(A)の数平均分子量(Mn)が2000~20000であり、分子量分布(Mw/Mn)が2.5~10であることを特徴とする請求項1または2記載の積層シート形成用接着剤組成物。
【請求項4】
ポリエステル系ポリオール(A)のガラス転移温度が-35~15℃であることを特徴とする請求項1~3いずれか1項に記載の積層シート形成用接着剤組成物。
【請求項5】
請求項1~いずれか1項に記載の積層シート形成用接着剤組成物を用いた積層シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックフィルム、金属箔等の接着に用いる積層シート形成用接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、屋外産業用途向け、例えば、防壁材、屋根材、太陽電池パネル材、窓材、屋外フローリング材、照明保護材、自動車部材、看板、又はステッカー等に用いられる多層( 複合) シートとして、アルミニウム、銅、若しくは鋼板等の金属箔、金属板、又は金属蒸着フィルムと、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、フッ素樹脂、又はアクリル樹脂等のプラスチックフィルムと、を貼り合わせて積層( ラミネート) フィルムにしたものが使用されてきた。これらの多層フィルムにおける、金属箔、金属板、又は金属蒸着フィルムと、プラスチックフィルムと、を貼り合わせる接着剤組成物としては、エポキシ系接着剤組成物やポリウレタン系接着剤組成物が知られている。
【0003】
特許文献1には、ポリエステルポリウレタンポリオールと分子末端にカルボキシル基を含有するポリエステル樹脂とリン酸変性エポキシ樹脂とイソシアネート化合物を含有する、食品包装材用の複合ラミネートフィルム形成のための接着剤組成物が開示され、フィルム同士を重ね合せた後、40℃で4日間かけてエージングし接着剤組成物を硬化させる旨記載されている(請求項1、[0001]、[0041])。
【0004】
特許文献2には、太陽電池裏面封止用シートにおいて、耐加水分解性を有するポリウレタン系接着剤組成物を使用し、フィルム同士を重ね合せた後、50℃で5日間エージングする旨記載されている。
【0005】
特許文献3には、食品等の軟包装用の積層体であって、レトルト処理に耐え、十分な接着強度を発現する積層体の形成には、40~60℃で4~5日間程度というエージング期間がそれまでは必要であったが([0001]、[0007])、エージング時間を1日程度にまで短縮しても従来のエージング時間の場合と遜色ない性能を発現できる接着剤が開示されている([0097]、[0106])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平06-116542号公報
【文献】特開2008-4691号公報
【文献】国際公開2006/117886
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に記載されるように食品等の軟包装用の積層体を形成する場合には、エージング時間を1日程度にまで短縮することができるようにはなった。
しかし、食品等の軟包装用の積層体とは異なり、太陽電池裏面封止用シートのように屋外に長時間晒される積層体の場合、特許文献3に記載される接着剤では、耐加水分解性が不十分なため、促進試験環境によって接着強度が著しく低下するといった問題が生じていた。
本発明は、エージング時間を短縮しても、太陽電池裏面封止用シートのように屋外に長時間晒される積層体の場合であっても、長時間にわたって接着強度を維持できる接着剤組成物およびそれを用いた積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、以下に示す積層シート形成用接着剤組成物により上記目的を達成できることを見出し、以下の[1]~[6]の発明を完成するに至った。
【0009】
[1] カルボン酸成分と水酸基成分との反応生成物であるポリエステル系ポリオール(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)とを含有してなる積層シート形成用接着剤組成物であって、
前記カルボン酸成分と前記水酸基成分との少なくともいずれか一方が単官能成分含み、且つ
前記カルボン酸成分と前記水酸基成分との少なくともいずれか一方が3官能以上の成分を含み、
前記ポリエステル系ポリオール(A)の水酸基価が15~40mg/KOHであり、酸価が大きくとも0.5mg/KOHであり、GPC-MALS-VISCOにて測定される分岐度αが0.6以下であることを特徴とする積層シート形成用接着剤組成物。
【0010】
[2] カルボン酸成分と水酸基成分との合計200モル%中、
単官能成分が0.2~8モル%、3官能以上の成分が0.2~8モル%である、前記[1]記載の積層シート形成用接着剤組成物。
【0011】
[3] GPC-RIにて測定されるポリエステル系ポリオール(A)の数平均分子量(Mn)が2000~20000であり、分子量分布(Mw/Mn)が2.5~10であることを特徴とする前記[1]または[2]記載の積層シート形成用接着剤組成物。
【0012】
[4] ポリステル系ポリオール(A)のガラス転移温度が-35~15℃であることを特徴とする前記[1]~[3]いずれかに記載の積層シート形成用接着剤組成物。
【0013】
[5] ポリイソシアネート化合物(B)が脂肪族のポリイシソアネート化合物(B-1)であることを特徴とする前記[1]~[4]いずれかに記載の積層シート形成用接着剤組成物。
【0014】
[6] 前記[1]~[5]いずれかに記載の積層シート形成用接着剤組成物を用いた積層シート。
【発明の効果】
【0015】
本発明の積層シート形成用接着剤組成物を積層シートの接着剤に使用することにより、ポリエステル系ポリオールとポリイソシアネート化合物との架橋反応を短縮しても、長期にわたって接着強度を維持することができる。これにより、生産工程の短い太陽電池裏面封止用シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい形態について説明する。
本発明に係る積層シート形成用接着剤組成物は、ポリエステル系ポリオール(A)とポリイソシアネート化合物(B)とを含むことを特徴とする。以下に詳細を説明する。
【0017】
≪ポリエステル系ポリオール(A)≫
【0018】
本発明の積層シート形成用接着剤組成物に用いるポリエステル系ポリオール(A)は、水酸基価が15~40mg/KOHであることが重要であり、25~35mg/KOHあることが好ましい。水酸基は後述するポリイソシアネート化合物(B)との架橋反応に用いられ、架橋反応が進行することで、接着剤が高分子量化し、耐加水分解性を高めることができる。水酸基価が15mg/KOH以上であることによりポリイソシアネート化合物(B)との反応が進行し易く、架橋反応が速やかに進み、架橋が密となり耐加水分解性が向上する。一方水酸基価が40mg/KOH以下であることにより、過度な架橋を抑制し、基材との接着性を向上できる。
【0019】
尚、ポリエステル系ポリオール(A)の水酸基価は、例えば国際公開2006/117886に記載されるのと同様の方法で求めることができる。
【0020】
本発明におけるポリエステル系ポリオール(A)は、酸価ができるだけ低いことが重要であり、具体的には酸価は大きくとも0.5mgKOH/gであることが重要である。酸価が0.5mgKOH/g以下のポリエステル系ポリオール(A)を用いることによって、形成される接着剤の吸水性を抑制し、加水分解を抑制できる。その結果、積層シートとしての耐久性が向上する。
【0021】
尚、ポリエステル系ポリオール(A)の酸価は、例えば、JIS K 0070-1992記載の中和滴定法で求めることができる。
【0022】
更に、本発明におけるポリエステル系ポリオール(A)は、GPC-MALS-VISCOにて測定される分岐度αが0.6以下であることが重要である。GPC-MALS-VISCOは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)に多角度光散乱検出器と粘度検出器とを接続したものであり、絶対的分子量や分岐度αの測定が可能になる。
分岐度αが小さいほどより多くの分岐構造を有しているポリマーであることを意味しており、分岐度αが0.6以下の場合、分岐構造の導入により低粘度のポリマーが得られる。ポリマーが低粘度化することにより、基材に対する濡れ性が高くなり接着性が向上する。ポリマーの低粘度化により架橋反応も進行しやすくなり、架橋密度も向上でき耐加水分解性も向上できる。
尚、分岐度αは、以下のMark-Houwink-Sakurada式より算出できる。
[η]=KMα
log[η]=log[K]+αlog[M]
なお、式中の[η]は極限粘度、Kは定数、Mは絶対分子量である。
【0023】
本発明におけるポリエステル系ポリオール(A)は、カルボン酸成分と水酸基成分との反応生成物であり、主鎖を形成するための前記原料はそれぞれ2官能の成分を主とし、前記カルボン酸成分と前記水酸基成分との少なくともいずれか一方が単官能成分、および3官能以上の成分を含むことが重要である。主鎖を形成するための前記カルボン酸成分と前記水酸基成分との合計200モル%中、単官能成分を0.2~8モル%、3官能以上の成分を0.2~8モル%含むことが好ましい。
3官能以上の成分の利用により、分岐構造を導入でき、前述のような効果を奏することができる。しかし、その一方で、3官能成分は使用し単官能成分を使用しないと、ポリエステル系ポリオールの合成時に高分子量化やゲル化が起きやすく、合成の難易度が高くなってしまう。そこで、単官能成分を併用することにより高分子量化やゲル化を抑制することができる。
【0024】
ところで、特許文献3には、部分酸変性ポリエステルアルコール組成物と、ポリイソシアネートとを含む接着剤が記載されており、前記部分酸変性ポリエステルアルコール組成物の原料として単官能成分および無水トリメリット酸等の3官能以上のカルボン酸成分の利用が開示されている。
しかし、特許文献3における無水トリメリット酸等は、「部分酸変性」という表現からも支持されるようにポリエステル系ポリオールの主鎖を形成するための原料ではなく、形成された主鎖の末端の水酸基の一部を変性するためのものである。無水トリメリット酸等による「部分酸変性」の結果、特許文献3の場合、接着剤の主剤たる成分の末端の一部に分岐を伴いカルボキシル基が導入されることとなる。
従って、特許文献3の場合、分岐の位置はポリマー主鎖の末端に限られるので、本発明の場合とは異なり、分岐度αは大きくなる。また、酸価も本発明の場合よりも大きくなる。食品包装用の積層体では問題にならなかったような酸価でも、太陽電池裏面封止用シートのように屋外に長時間晒される積層体の場合、接着強度を長期に渡って維持することができなくなってしまう。
本発明におけるポリエステル系ポリオール(A)は、主鎖を形成する際に、2官能の成分の他に、単官能成分、および3官能以上の成分を併用し、分岐度αを小さくし、酸価をできるだけ小さくした点で、特許文献3とは相違する。
【0025】
このようなポリエステル系ポリオール(A)を構成するカルボン酸成分のうち、2官能のカルボン酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、無水フタル酸、アジピン酸、アゼラン酸、セバシン酸、コハク酸、グルタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、ダイマー酸およびそのエステル化合物等の化合物が挙げられる。
【0026】
ポリエステル系ポリオール(A)を構成するカルボン酸成分のうち、単官能の酸成分としては、例えば、オクチル酸、ステアリン酸、安息香酸、t-ブチル安息香酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。
【0027】
ポリエステル系ポリオール(A)を構成するカルボン酸成分のうち、3官能以上のカルボン酸成分としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルメタン無水物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン酸、トリマー酸およびこれらの無水物等の多塩基酸無水物が挙げられる。
【0028】
ポリエステル系ポリオール(A)を構成する水酸基成分のうち、2官能の水酸基成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,9-ノナンジオール、若しくは3-メチル-1,5-ペンタンジオール等の2 価のアルコールが挙げられる。
【0029】
ポリエステル系ポリオール(A)を構成する水酸基成分のうち、単官能の水酸基成分としては、例えば、オクチルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール等が挙げられる。
【0030】
ポリエステル系ポリオール(A)を構成する水酸基成分のうち、3官能以上の水酸基成分としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールの3個以上のアルコール等が挙げられる。
【0031】
ポリエステル系ポリオール(A)は、前述の通り、酸価ができるだけ小さいことが重要なので、ポリエステル系ポリオール(A)の形成の際、水酸基成分は酸性分に対して過剰であるのが適切であり、具体的には官能基として1.1~1.2倍程度とするのが好ましい。
【0032】
ポリエステル系ポリオール(A)としては、カルボン酸成分と水酸基成分との反応生成物中の水酸基に対し、水酸基が残るような条件でポリイソシアネート化合物をさらに反応させて(ウレタン変性して)なるポリエステルポリウレタンポリオールも使用することができる。
【0033】
ポリエステルポリウレタンポリオールを得る際に用いるポリイソシアネートについて説明する。
ウレタン変性で用いるポリイソシアネートとしては、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート、芳香脂肪族ジイソシアネート、3官能以上のポリイソシアネートの単量体、前記ジイソシアネートから誘導される各種誘導体を用いることができる。
【0034】
脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、1,2-プチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、2,4,4-又は2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6-ジイソシアネートメチルカプロエート等が挙げられる。
【0035】
脂環式ジイソシアネートとしては、例えば、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0036】
芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-または2,6-トリレンジイソシアネート若しくはその混合物、4,4’-トルイジンジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート等が挙げられる。
【0037】
芳香環含有の脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、1,3-又は1,4-キシリレンジイソシアネート若しくはその混合物、ω、ω’-ジイソシアネート-1,4- ジエチルベンゼン、1,3-または1,4-ビス(1-イソシアネート-1-メチルエチル)ベンゼン若しくはその混合物等が挙げられる。
【0038】
3官能以上のポリイソシアネート単量体としては、例えば、トリフェニルメタン-4,4’,4”-トリイソシアネート、1,3,5-トリイソシアネートベンゼン、2,4,6-トリイソシアネートトルエン等のトリイソシアネート;4,4’-ジフェニルジメチルメタン-2,2’-5,5’-テトライソシアネ-ト等のテトライソシアネートなどが挙げられる。
【0039】
前記ジイソシアネートから誘導される各種誘導体としては、前記ジイソシアネートと、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3’-ジメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセロ-ル、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の分子量200未満の低分子ポリオールとの付加体、(アダクト体)ひまし油との等の付加体(アダクト体)等も用いることができる。
前記ジイソシアネートから誘導される各種誘導体としては、前記ジイソシアネートの三量体(トリマー、ヌレート体ともいう)やビウレット体やアロファネート体の他、炭酸ガスと前記ジイソシアネートとから得られる2,4,6-オキサジアジントリオン環を有するポリイソシアネート等も用いることができる。
【0040】
ポリエステルポリウレタンポリオールを得る際のウレタン変性は、200℃以下、好ましくは120~180℃の温度範囲で行うことが好ましい。
ウレタン変性の際、ポリエステル系ポリオールとポリイソシアネートとは、ポリエステル系ポリオール中の水酸基に対して、ポリイソシアネートのイソシアネート基が0.5以下の当量比となるような割合で反応させることが好ましい。より好ましくは0.1~0.3、更に好ましくは0.15~0.2の当量比で反応させる。
【0041】
本発明におけるポリエステル系ポリオール(A)の数平均分子量(Mn)は、形成される接着剤層の初期凝集力を高め、ラミネート時のトンネリングの発生を効果的に抑制するという点から2,000以上であることが好ましく、8,000以上であることがより好ましい。また、溶剤への溶解性を高め、接着剤の塗工性を向上するという点から、ポリエステル系ポリオール(A)の数平均分子量は、20,000以下であることが好ましく、15,000以下であることがより好ましい。
さらに、ポリエステル系ポリオール(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、接着性の観点から、2.5~10であることが好ましい。分子量分布が10以下とすることにより、溶剤への溶解性が高くなり、保存安定性が向上し、塗工粘度を制御しやすい。
なお、ここでいう数平均分子量(Mn)や分子量分布(Mw/Mn)は、GPC-RIにて求められるものである。GPC-RIは、GPCに示差屈折率検出機を接続したものであり、分子量既知の標準ポリスチレンに対する相対的な分子量等を求めるものである。
【0042】
更に、ポリエステル系ポリオール(A)のガラス転移温度(Tg)は-35~15℃であることが好ましい。Tgが-35℃以上であることにより、形成される接着剤層の凝集力が向上し、接着強度が向上する。また、Tgが15℃以下であることにより、ラミネート時にも基材への親和性が高まり、エージング後の接着力も向上する。
【0043】
<ポリイソシアネート化合物(B)>
次にポリイソシアネート化合物(B)について、説明する。
ポリイソシアネート化合物(B)は、ポリエステル系ポリオール(A)中の水酸基と架橋反応し、積層シートを形成する際、接着剤層の分子量を向上させ、エネルギー弾性を発現する内部凝集力を向上させる役割を持つ。
また、ポリイソシアネート化合物(B)は後述する基材表面との相互作用を向上させる効果も期待できる。さらには、コロナ放電処理等の物理処理、酸などで改質された化学処理のなされた基材に対しては、ポリイソシアネート化合物(B)中の反応性官能基を基材と化学反応させることで、ポリエステル系ポリオール(A)と基材との間に強固な相互作用を発現させることも可能である。
このように、ポリイソシアネート化合物(B)を用いる事により、強固な接着剤層を形成することが可能となり、急激な環境変化に伴う基材の伸縮運動を接着剤層が抑制し、接着強度を高レベルで維持することが可能となる。
また、本発明では、ポリイソシアネート化合物(B)に加えて、さらにN-メチロール基含有化合物、多官能アジリジン化合物、金属キレート化合物などを用いることもできる。
【0044】
ポリイソシアネート化合物(B)としては、上述のジイソシアネートから誘導されたポリイソシアネートを好ましく用いることができる。即ち、前記ジイソシアネートのヌレート体、前記ジイソシアネートにトリメチロールプロパンが付加したアダクト体、ビウレット型、イソシアネート残基を有するプレポリマー(ジイソシアネートとポリオールから得られる低重合体)、イソシアネート残基を有するウレトジオン体、アロファネート体、若しくはこれらの複合体等が挙げられ、これらを単独で、あるいは2種以上で使用できる。
中でも、屋外用途にも使用される場合には、経時的な黄変を低減させる目的で、脂肪族若しくは脂環族イソシアネート、又はその誘導体を用いることが好ましい。又、その中でも脂肪族ポリイソシアネートを用いることが好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネートの誘導体を用いることが特に好ましい。
【0045】
ポリイソシアネート化合物(B)中のイソシアネート基濃度は10~30質量%であることが好ましく、11~25質量%であることがさらに好ましい。尚、ポリイソシアネート化合物(B)中のイソシアネート基濃度は、滴定法により求めることができる。
【0046】
ポリイソシアネート化合物(B)の使用量は、ポリエステル系ポリオール(A)100質量部に対して、5~25質量部であることが好ましく、更に7~20質量部であることが好ましい。5質量部以上とすることにより、屋内外暴露後の接着力の低下を抑制でき、25質量部以下とすることにより初期の接着力を向上できる。
【0047】
<積層シート形成用接着剤組成物>
本発明の積層シート形成用接着剤組成物は、主剤であるポリエステル系ポリオール(A)と硬化剤であるポリイソシアネート化合物(B)とを使用時に混合する、いわゆる2液混合タイプの接着剤であり、更に、複数の主剤及び/又は複数のポリイソシアネート化合物を使用時に混合するタイプであってもよい。通常、2液混合タイプとして用いる場合、第一液としては、ポリエステル系ポリオール(A)、有機溶剤の他、必要に応じて後述の添加剤を含み、第二液としては、ポリイソシアネート化合物(B)、有機溶剤の他、必要に応じて、その他の添加剤を含む。
【0048】
<添加剤>
本発明の積層シート形成用接着剤組成物は、接着性及び耐加水分解性の観点から、ポリエステル系ポリオール(A)中のエステル結合が加水分解して生成するカルボキシル基と反応する樹脂として、エポキシ樹脂を含有させることが好ましい。エポキシ樹脂は、耐湿熱性を向上させる効果がある。
【0049】
エポキシ樹脂としては、以下に限定されるものではないが、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスクレゾールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、1,6-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、エピクロルヒドリン変性フタル酸、エピクロルヒドリン変性ヘキサヒドロフタル酸、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられ、これらの1種類、又は2種類以上を使用することができる。
【0050】
エポキシ樹脂の中でも、接着力及び耐湿熱性の観点から、数平均分子量300~5,000のエポキシ樹脂が好ましく、エポキシ樹脂の配合量は、接着力及び耐湿熱性の観点から、ポリオール(A)100質量部に対して、5~50質量部が好ましい。更に好ましくは、10~20質量部である。5質量部以上とすることにより耐湿熱性を効果的に向上でき、50質量部以下とすることにより、接着剤層の硬さを適度に軟らかくし、十分な接着性を発現できる。
【0051】
本発明の積層シート形成用接着剤組成物は、金属箔、金属板、又は金属蒸着フィルム等を基
材として使用する場合、接着強度を向上させる観点から、シランカップリング剤を含有させることが好ましい。
【0052】
シランカップリング剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルエトキシシラン、及びビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン類;
γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、及びγ-(メタ)アクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン等の(メタ)アクリロキシシラン類;
β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、及びγ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシシラン類;
N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジエトキシシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、及びN-フェニル-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン類;
並びに、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、及びγ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のチオシラン類等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で、又は2種以上を任意に組み合わせて使用できる。尚、「(メタ)アクリロキシ」は、「アクリロキシ」又は「メタクリロキシ」を意味する。
【0053】
シランカップリング剤の添加量は、ポリエステル系ポリオール(A)100質量部に対して、0.1~5質量部であることが好ましく、1~3質量部であることがより好ましい。0.1質量部以上とすることにより金属箔に対する接着強度が向上する。
【0054】
また、金属密着を向上させるために、リン酸系化合物、例えば、リン酸、メタリン酸、ピロリン酸、亜リン酸や、それらのエステル等を添加することができる。
【0055】
その他、接着剤用として、反応促進剤を使用することができる。具体的には、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジオクチルチンジラウレート、ジブチルチンジマレート等金属系触媒;1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7、1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン-5、6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7等の3 級アミン;
トリエタノールアミンのような反応性3級アミン等が挙げられ、これらの群から選ばれた1 種又は2 種以上の反応促進剤を使用できる。
【0056】
ラミネート外観を向上させる目的で、公知のレベリング剤又は消泡剤を、主剤に配合することもできる。
【0057】
レベリング剤としては、例えば、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、アラルキル変性ポリメチルアルキルシロキサン、ポリエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエーテルエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、アクリル系共重合物、メタクリル系共重合物、ポリエーテル変性ポリメチルアルキルシロキサン、アクリル酸アルキルエステル共重合物、メタクリル酸アルキルエステル共重合物、レシチン、又はそれらの混合物等公知のものが挙げられる。
【0058】
消泡剤としては、シリコーン樹脂、シリコーン溶液、アルキルビニルエーテルとアクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルとの共重合物、又はそれらの混合物等の公知のものが挙げられる。
【0059】
また、本発明で使用される公知の添加剤として、太陽などの紫外線や熱による積層シート形成用接着剤組成物の経時での劣化を抑制する目的で、公知のリン系やフェノール系の酸化防止剤、紫外線安定剤、金属不活性化剤を、積層シート形成用接着剤組成物に配合することができる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
本発明で使用されるリン系やフェノール系の酸化防止剤、紫外線安定剤、金属不活性化剤の添加量は、黄変抑制効果と接着強度とのバランスの点から、ポリエステル系ポリオール(A)100質量部に対し0.05~5質量部の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.1~1質量部である。
【0060】
又、本発明の積層シート形成用接着剤組成物は、公知の有機溶剤を含有させ、有機溶剤溶液として使用することができる。有機溶剤としては、以下に限定されるものではなく、酢酸エチル、若しくは酢酸ブチル等のエステル系溶剤、又は、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、若しくはシクロヘキサノン等のケトン系溶剤等が挙げられ、これらを単独又は2 種以上混合して用いることができる。
【0061】
<<積層シート>>
本発明の積層シートは、前述の本発明に係る積層シート形成用接着剤組成物を用いてなるものであり、具体的には以下のようにして形成することができる。
即ち、本発明に係る積層シート形成用接着剤組成物をシート状基材にコンマコーター等で塗布し、必要に応じて溶剤を揮散させた後、ほぼ未硬化の接着剤層(前駆体)を形成し、前記接着剤層の前駆体に他のシート状基材を重ね合せ、常温もしくは加温下でエージングし、接着剤の硬化を進行させ、積層シートを形成する。接着剤の塗布量はドライ換算で、1~50g/m2程度であることが好ましい。シート状基材としては、用途に応じて、任意の基材を、任意の数で選択することができ、3層以上の多層構成とする際には、各層の貼り合わせの全て、又は一部に本発明に係る接着剤組成物を使用できる。
【0062】
シート状基材としては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムやPEN(ポリエチレンナフタレート)フィルム、フッ素系フィルム、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム等が挙げられる。
【実施例
【0063】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。尚、実施例中、部は固形換算時の質量部を、%は質量%である。
【0064】
<数平均分子量、分子量分布>
GPC-RIによりポリエステル系ポリオール(A)等の数平均分子量、分子量分布を求めた。
機種:TOSOH HLC-8200GPC カラム:TSKGEL SuperHM-M、
溶媒:THF溶液、流出速度:0.6ml毎分、温度:40℃、
検出器:示差屈折計
分子量標準:ポリスチレン換算
【0065】
<分岐度α>
GPC-MALS-VISCOによりポリエステル系ポリオール(A)等の分岐度αを求めた。
機種:Alliance GPC(Waters社製)、カラム:TSKgel GMH HR-H(東ソー社製)
溶媒:THF溶液、流出速度:1.0ml毎分、温度:40℃、
検出器:mini DAWN TREOS、ViscoSter-II、Optilab T-rEX(全てWyatt Technology社製)
【0066】
<ガラス転移温度>
ガラス転移温度(Tg)は、DSC(示差走査熱量計)により測定した。
具体的には、ポリエステル系ポリオール(A)等を約2mg、アルミニウムパン上で秤量し、該アルミニウムパンをDSC測定ホルダーにセットし、5℃/分の昇温条件にて得られるチャートの吸熱ピークを読み取った。このときのピーク温度をガラス転移温度とした。
【0067】
<酸価(AV)>
共栓三角フラスコ中に試料を、約1gを精密に量り採り、トルエン/エタノール(容積比:トルエン/エタノール=2/1)混合液100mlを加えて溶解した。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、30秒間保持した後、溶液が淡紅色を呈するまで0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定した。
乾燥状態の樹脂の値として、酸価(mgKOH/g)を次式により求めた。
酸価(mgKOH/g)={(5.611×a×F)/S}/(不揮発分濃度/100)
ただし、S:試料の採取量(g)
a:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(ml)
F:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の力価
【0068】
(実施例用の製造例1)
カルボン酸成分として、無水フタル酸90g(0.61mol)、イソフタル酸266g(1.60mol)、テレフタル酸53g(0.32mol)、セバシン酸130g(0.64mol)、安息香酸3.9g(0.032mol)、
水酸基成分として、エチレングリコール63g(1.02mol)、ネオペンチルグリコール146g(1.41mol)、及び1,6-ヘキサンジオール125g(1.06mol)、トリメチロールプロパン4.3g(0.032mol)を反応容器に入れ、窒素気流下で攪拌しながら160~240℃まで徐々に加熱し、酸価が15以下になるまで240℃でエステル化反応を行ない、次いで徐々に1~2トールまで減圧し、過剰の水酸基成分を留去し、ポリエステル系ポリオールA-1を得た。
過剰の水酸基成分がほぼ均等に留去したと仮定し、カルボン酸成分と水酸基成分との合計を200モル%とすると、得られたポリエステル系ポリオールA-1の組成は、表1に示すように無水フタル酸:イソフタル酸:テレフタル酸:セバシン酸:安息香酸:エチレングリコール:ネオペンチルグリコール:1,6-ヘキサンジオール:トリメチロールプロパン=19:50:10:20:1:29:40:30:1(mol%)となる。
得られたポリエステル系ポリオールA-1は、分岐度αが0.593、水酸基価が18.3(mg/KOH)、酸価が0.2(mg/KOH)、数平均分子量が9,800、質量平均分子量が19000、ガラス転移温度(Tg)が1℃であった。
【0069】
(実施例用の製造例2~9、11~13)
得られるポリエステル系ポリオールが表1に示すような組成になるように、製造例1と同様にしてカルボン酸成分と水酸基成分とを反応させ、ポリエステル系ポリオールA-2~A-9、A-11~A14を得た。
【0070】
(実施例用の製造例10)
合成例1と同様にして、カルボン酸成分として、イソフタル酸350g(2.11mol)、テレフタル酸40g(0.24mol)、セバシン酸122g(0.60mol)、安息香7.3g(0.060mol)、
水酸基成分として、エチレングリコール56g(0.90mol)、ネオペンチルグリコール144g(1.39mol)、及び1,6-ヘキサンジオール139g(1.18mol)、トリメチロールプロパン8.1g(0.060mol)を反応させ、
表1に示すように、イソフタル酸:テレフタル酸:セバシン酸:安息香酸:エチレングリコール:ネオペンチルグリコール:1,6-ヘキサンジオール:トリメチロールプロパン=70:8:20:2:23:40:34:2(mol)の組成の水酸基価が約25gKOH/g、数平均分子量約8000のポリエステルを得た後、ポリエステル100部に対してイソホロンジイソシアネート1gを加え、前記ポリエステル中の水酸基の一部を反応させ、ポリエステルポリウレタンポリオールA-10を得た。
得られたポリエステル系ポリオールA-10は、分岐度αが0.521、水酸基価が23.0(mg/KOH)、酸価が0.2(mg/KOH)、数平均分子量が9,000、質量平均分子量が34500、ガラス転移温度(Tg)が10℃であった。
【0071】
(比較例用の製造例101~104)
得られるポリエステル系ポリオールが表1に示すような組成になるように、合成例1と同様にしてカルボン酸成分と水酸基成分とを反応させ、ポリエステル系ポリオールA-101~103を得た。
なお、比較例用の製造例104は、高分子量化によりゲル化してしまい、ポリエステル系ポリオールを製造することができなかった。
【0072】
(比較例用の製造例105)
合成例1と同様にして、イソフタル酸61.4g(0.41mol)、テレフタル酸61.4g(0.41mol)、セバシン酸50.5g(0.25mol)、安息香酸1.2g(0.01mol)を反応させ、表1に示すように、イソフタル酸:テレフタル酸:セバシン酸:安息香酸:エチレングリコール:ネオペンチルグリコール:1,6-ヘキサンジオール=37:37:25:1:30:40:30:1(mol)の組成の水酸基価が約9mgKOH/g、数平均分子量約11000のポリエステルを得た。
次に、上記ポリエステル300gを、窒素気流下で攪拌しながら加熱し、150℃の雰囲気中で、イソホロンジイソシアネートを3g添加し、攪拌を継続した。IR分析にて未反応のNCO基由来の吸収が消失するまで攪拌を続け、水酸基価が約7.5mgKOH/g、数平均分子量が約12200のウレタン変性ポリエステルアルコール(U-1)を得た。
さらに、上記ウレタン変性ポリエステルアルコール(U-1)300gを四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中で攪拌しながら180℃まで加熱し、エチレングリコールビスアンヒドロトリテート4g及び無水トリメリット酸2gを仕込み、180℃で1時間保持して、上記ウレタン変性ポリエステルポリオール中の水酸基の36%(配合割合からの計算値)を酸で変性した、水酸基価が約5.1、酸価が約4.7mgKOH/g、数平均分子量が約17340、1分子あたりの平均水酸基数が1.13の部分酸変性ポリエステル系ポリオール(比較A-5)を得た。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
表1、2中の略号は以下の通りである。
<カルボン酸成分>
・2官能
PA:無水フタル酸
IPA:イソフタル酸
TPA:テレフタル酸
SeA:セバシン酸
AdA:アジピン酸
ダイマー酸:C18の不飽和脂肪酸の二量体(酸価194)
・単官能
PhA:安息香酸
不飽和脂肪酸:C18の不飽和脂肪酸(酸価188)
・3官能
TMA:無水トリメリット酸
トリマー酸:C18の不飽和脂肪酸の三量体(酸価194)
【0076】
<水酸基成分>
・2官能
EG:エチレングリコール
NPG:ネオペンチルグリコール
1,6-HD:1,6-ヘキサンジオール
・単官能
LA:ラウリルアルコール
・3官能
TMP:トリメチロールプロパン
【0077】
<ポリイソシアネート成分>
IPDI:イソホロンジイソシアネート

<酸変性用成分>
TMEG-S:エチレングリコールビスアンヒドロトリテート
TMA:無水トリメリット酸
【0078】
[実施例1]
実施例用の製造例1で得たポリエステル系ポリオールA-1を酢酸エチルに溶解して固形分率60%の溶液を調製した。
前記溶液166.6部(ポリエステル系ポリオールA-1を100部含む)に対して、表3の配合(表中の数値は質量部)に従って、ポリイソシアネート化合物(B)、エポキシ樹脂、シランカップリング剤を配合した後、酢酸エチルで固形分率を30%に希釈し、接着剤溶液を得た。
後述する方法に従い、可使時間、エージング時間の短縮、剥離強度(耐湿熱性試験前・後)を評価した。結果を表3に示す。
【0079】
[実施例2~21]、[比較例1~6]
表3の配合(表中の数値は質量部)に従って、実施例1と同様に接着剤溶液を得、同様に評価した。
【0080】
【表3】
【0081】
表3中の略号は以下の通りである。
<エポキシ樹脂>
エポキシ-1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(JER834 三菱ケミカル社製 エポキシ当量250 分子量約470)
エポキシ-2:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(JER1002 三菱ケミカル社製 エポキシ当量 650 分子量約1200)

<ポリイソシアネート化合物(B)>
イソシア-1:ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート構造体(スミジュールN-3300 住化コベストロウレタン社製 NCO含有量21.8%)
イソシア-2:ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(タケネートD-160N 三井化学株式会社製 NCO含有率12.6%、不揮発分75%)

<シランカップリング剤>
SC-1:グリシドプロピルトリメトキシシラン
SC-2:グリシドプロピルトリエトキシシラン
【0082】
<可使時間の評価>
各接着剤用について、ポリイソシアネート化合物(B)を混合した後の25℃における粘度を1時間後、4時間後、8時間後、24時間後に、B型粘度計(東京計器社製)を用い、20rpm、2分間回転の条件で測定し、可使時間(ポットライフ)を4段階で評価した。
◎:24時間後までの粘度上昇率が2倍未満。非常に良好である。
○:8時間後までの粘度上昇率が2倍未満。良好である。
△:4時間後までの粘度上昇率が2倍以上。実用上問題なし。
×:1時間後までの粘度上昇率が2倍以上。実用上問題あり。
尚、実施例1では8時間後での粘度上昇率は1.3倍、24時間後の粘度上昇率は1.8倍であり、良好であった。
【0083】
<エージング時間の短縮の評価>
コロナ処理ポリエステルフィルム[東レ(株)製、ルミラーX-10S、厚み250μm]に各接着剤溶液を、乾燥塗布量:4~5g/m2となる量でドライラミネーターによって塗布し、溶剤を揮散させた後、ETFE(エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体)系フィルム(旭硝子社製:FluonETFE Film、厚み25μm)]にラミネートし、プレ積層体を得た。
次いで、各プレ積層体を50℃で24時間および48時間、25℃で72時間および168時間エージングした。
プレ積層体のETFEを剥がし、PerkinElmer社製のSpectrum Oneを用いてIR測定を行い、接着剤層の反応性官能基の吸収スペクトル(イソシアネート基:2270~2250cm-1)と、エステル結合C=O伸縮振動の吸収スペクトル(1750~1725cm-1)のピーク高さ比からエージング前後のイソシアネート基の反応率を評価した。具体的な式は以下のようにして求めた。
反応率(%)=100-[((エージング後のイソシアネート基のピーク高さ/エージング後のC=Oのピーク高さ))/((エージング前のイソシアネート基のピーク高さ/エージング前のC=Oのピーク高さ))]×100
【0084】
50℃での硬化反応性は以下の4段階で評価した。
◎:24時間後にはイソシアネート基の吸収が見られない。硬化反応性は非常に良好である。
○:24時間後の反応率は90%以上であり、48時間後にはイソシアネート基の吸収が見られない。硬化反応性は良好である。
△:24時間後の反応率は70%以上、90%以下であり、48時間後の反応率は90%以上だが、イソシアネート基の吸収が見られ、硬化反応性はやや不足。実用上問題なし。
×:48時間後の反応率は70%未満であり、硬化反応性不足。実用上問題あり。
なお、実施例1は24時間後の反応率は99%であり、48時間後にはイソシアネート基の吸収スペクトルは観測されなかったので、硬化反応性は良好であった。
【0085】
また、25℃での硬化反応性は以下の4段階で評価した。
◎:72時間後にはイソシアネート基の吸収が見られない。硬化反応性は非常に良好である。
○:72時間後の反応率は90%以上であり、168時間後にはイソシアネート基の吸収が見られない。硬化反応性は良好である。
△:72時間後の反応率は70%以上、90%以下であり、168時間後の反応率90%以上だが、イソシアネート基の吸収が見られ、硬化反応性はやや不足。実用上問題あり。
×:168時間後の反応率は70%未満であり、硬化反応性不足。実用上問題あり。
なお、実施例1は72時間後の反応率は99%であり、168時間後にはイソシアネート基の吸収スペクトルは観測されなかったので、硬化反応性は問題なしとした。
【0086】
<剥離強度(耐湿熱性試験前・後)の評価>
以下に示す2種類の積層体を用意し、後述する方法に従って、剥離強度(耐湿熱性試験前・後)を評価した。
(1)積層体1
コロナ処理ポリエステルフィルム[東レ(株)製、ルミラーX-10S、厚み250μm]に各接着剤溶液を、乾燥塗布量:4~5g/m2となる量でドライラミネーターによって塗布し、溶剤を揮散させた後、ETFE(エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体)系フィルム(旭硝子社製:FluonETFE Film、厚み25μm)]にラミネートし、各プレ積層体を得、各プレ積層体を50℃で48時間のエージングし、積層体1を作製した。
(2)積層体2の製造
各接着剤溶液を用いて、コロナ処理CPP[(無延伸ポリプロピレン)フィルム70μm]の前記処理面同士をラミネートした以外は、積層体1の場合と同様にして積層体2を作製した。
【0087】
[耐湿熱性試験前]
前記積層体1、2からそれぞれ幅15mmの試験片を切り出し、25℃、湿度65%の環境下で6時間静置後、ASTM-D1876-61の試験法に準じ、引張り試験機を用いて、荷重速度100mm/分で幅15mmの試験片について180°剥離試験を行い、4段階で評価を行った。
◎:剥離強度が8N以上。接着性に非常に優れる。
○:剥離強度5N以上、8N未満。接着性に優れる。
△:剥離強度3N以上、5N未満。接着性がやや足りず、実用上問題あり
×:剥離強度が3N未満。接着性不良実用上問題あり。
【0088】
[耐湿熱性試験後]
各積層体をハイプレッシャークッカー(加圧蒸気による促進評価装置)にセットし、120℃、湿度100%の環境で、
積層体1については、48時間および96時間の促進試験後に、
積層体2については、192時間の促進試験後に、
それぞれ温度25℃、湿度65%の環境下で6時間静置後、15mm幅の試験片を切り出し、
試験前と同様の条件で180°剥離試験を行い、以下の4段階で評価を行った。
◎:剥離強度が6N以上。接着性に非常に優れる。
○:剥離強度4N以上、6N未満。接着性に優れる。
△:剥離強度2N以上、4N未満。接着性がやや足りず、実用上問題あり。
×:剥離強度が2N未満。接着性不良実用上問題あり。
【0089】
表3に示されるように、実施例の積層シート形成用接着剤組成物は、安定な可使時間とエージング時間の短縮の両立を達成し、耐湿熱性試験前・後の剥離強度に優れ、長期にわたり接着強度を維持することができることがわかった。これは、ポリエステル系ポリオール(A)の分岐度αを制御することで、積層シート形成用接着剤組成物の高い凝集力と塗工時の基材との親和性を同時に向上させた効果と考えられる。さらにポリイソシアネート化合物(B)との架橋にかかわる水酸基の制御が容易となったことから硬化反応性の制御が容易となり、高い架橋密度による耐加水分解性の向上効果が得られ、塗膜の耐久性が著しく向上したためと考える。