(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B60B 27/00 20060101AFI20220329BHJP
B60B 35/02 20060101ALI20220329BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20220329BHJP
F16C 33/64 20060101ALI20220329BHJP
F16C 3/02 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
B60B27/00 J
B60B35/02 L
F16C19/18
F16C33/64
F16C3/02
(21)【出願番号】P 2018003110
(22)【出願日】2018-01-12
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白水 孝宜
(72)【発明者】
【氏名】安野 仁
(72)【発明者】
【氏名】横田 竜哉
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-156197(JP,A)
【文献】特開2006-327388(JP,A)
【文献】特開2000-301401(JP,A)
【文献】特開2006-021605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 27/00
B60B 35/02
F16C 19/18
F16C 33/64
F16C 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の外輪部材、
前記外輪部材の径方向内方に設けられている軸体部と、当該軸体部の軸方向一方側に設けられているフランジ部と、を含み、当該軸体部と当該フランジ部との間にシール面が設けられているハブ軸を有する内軸部材、
前記外輪部材と前記内軸部材との間に配置されている転動体、
及び、前記外輪部材の軸方向一方側に取り付けられ前記シール面に接触するリップを有するシール、を備え、
前記シール面は、環状シール面、筒状シール面、および、当該環状シール面と当該筒状シール面とを繋ぐアール面を有し、前記環状シール面に前記リップが接触し、
前記フランジ部は、軸方向一方側のフランジ面と、当該フランジ部を軸方向に貫通するボルト孔と、
前記環状シール面を含む軸方向他方側の環状面と、を有する車輪用軸受装置の製造方法であって、
ハブ軸製造工程と、前記ハブ軸製造工程により製造された前記ハブ軸を有する前記内軸部材、前記外輪部材、前記転動体、及び前記シールを組み合わせる組み立て工程と、を含み、
前記ハブ軸製造工程は、
前記フランジ面の旋削加工及び前記環状面の旋削加工を行なう旋削工程、
前記環状面を研磨加工する第一研磨工程、
前記ボルト孔にボルトを圧入する圧入工程、
及び、前記圧入工程の後、研磨加工された前記環状面を基準面とし前記フランジ面を研磨加工する第二研磨工程、を含み、
前記第二研磨工程では、前記環状面のうち、径方向内側寄りの
前記環状シール面となる第一環状領域をあけて、径方向外側寄りの第二環状領域に、円筒状の治具を当てた状態として、前記フランジ面を研磨加工する、車輪用軸受装置の製造方法。
【請求項2】
前記シール面には、前記軸体部の軸方向一方側の外周面の一部
である前記筒状シール面が含まれ、
前記筒状シール面の外径に10ミリメートルを加えた値以上の直径を有する仮想円を、前記第一環状領域と前記第二環状領域との境界として、当該第二環状領域に前記治具を当てる、請求項1に記載の車輪用軸受装置の製造方法。
【請求項3】
筒状の外輪部材、
前記外輪部材の径方向内方に設けられている軸体部と、当該軸体部の軸方向一方側に設けられているフランジ部と、を含み、当該軸体部と当該フランジ部との間にシール面が設けられているハブ軸を有する内軸部材、
前記外輪部材と前記内軸部材との間に配置されている転動体、
及び、前記外輪部材の軸方向一方側に取り付けられ前記シール面に接触するリップを有するシール、を備え、
前記シール面は、環状シール面、筒状シール面、および、当該環状シール面と当該筒状シール面とを繋ぐアール面を有し、前記環状シール面に前記リップが接触し、
前記フランジ部は、軸方向一方側のフランジ面と、当該フランジ部を軸方向に貫通するボルト孔に圧入されているボルトと、
前記環状シール面を含む軸方向他方側の環状面と、を有し、
前記フランジ面は、研磨面であり、
前記環状面のうちの径方向内側の第一環状領域は、
前記環状シール面となる研磨面であり、
前記環状面のうちの径方向外側の第二環状領域が、
前記第一環状領域よりも表面粗さの平均値が高い研磨面である、車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記軸体部の軸方向一方側の外周面の一部
である前記筒状シール面が、
前記アール面を介して前記環状シール面と連続する研磨面であり、
前記第一環状領域と前記第二環状領域との境界は、
前記筒状シール面の外径に10ミリメートルを加えた値以上の直径を有する仮想円上に位置している、請求項3に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪用軸受装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両において、車輪を支持するために車輪用軸受装置(ハブユニット)が用いられる。車輪用軸受装置は、車体側に取り付けられる外輪部材と、車輪が取り付けられる内軸部材と、外輪部材と内軸部材との間に配置されている複数の転動体(玉)とを備える。
図8は、内軸部材が有するハブ軸の断面図である。ハブ軸90は、軸体部91と、軸体部91の軸方向一方側に設けられているフランジ部92とを有する。フランジ部92に、車輪及びブレーキロータ(図示せず)が取り付けられる。軸体部91とフランジ部92との間にはシール面93が設けられる。シール面93には、外輪部材(図示せず)に取り付けられたシールのリップが接触し、外部からの異物の浸入が防止される。このためにシール面93は研磨加工がされる。
【0003】
フランジ部92は、軸方向一方側のフランジ面94と、ボルト孔95とを有する。ボルト孔95は、車輪及びブレーキロータ(図示せず)を固定するためのボルト96が圧入される。フランジ面94は、ブレーキロータと接触する面である。特許文献1は、従来の車両用軸受装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図8に示すように、フランジ部92のボルト孔95にボルト96が圧入される。このため、フランジ部92は歪むことがあり、フランジ面94に振れ(「フランジ振れ」とも言う。)が生じる。前記のような振れは、ブレーキジャダー音の発生原因となる。
【0006】
そこで、特許文献1では、ボルト孔95にボルト96を圧入した後、フランジ振れを解消するために、フランジ面94に対して研磨加工が行われる。この研磨加工では、先に研磨加工がされたシール面93が基準とされる。つまり、シール面93に筒状の治具99を接触させる。
【0007】
前記のように、フランジ振れを解消するために、シール面93に治具99を接触させ、フランジ面94の研磨加工が行われる。しかし、その加工の途中、治具99とシール面93との間に滑りが発生する。この滑りにより、シール面93に断続的な擦れ跡が生じてしまい、シール性能に影響を与えるおそれがある。
【0008】
そこで、本発明は、フランジ振れを抑制すると共に、シール性能を向上させることができる車輪用軸受装置の製造方法、及びこの製造方法によって製造される車輪用軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の車輪用軸受装置の製造方法は、筒状の外輪部材、前記外輪部材の径方向内方に設けられている軸体部と、当該軸体部の軸方向一方側に設けられているフランジ部と、を含み、当該軸体部と当該フランジ部との間にシール面が設けられているハブ軸を有する内軸部材、前記外輪部材と前記内軸部材との間に配置されている転動体、及び、前記外輪部材の軸方向一方側に取り付けられ前記シール面に接触するリップを有するシール、を備え、前記シール面は、環状シール面、筒状シール面、および、当該環状シール面と当該筒状シール面とを繋ぐアール面を有し、前記環状シール面に前記リップが接触し、前記フランジ部は、軸方向一方側のフランジ面と、当該フランジ部を軸方向に貫通するボルト孔と、前記環状シール面を含む軸方向他方側の環状面と、を有する車輪用軸受装置の製造方法であって、ハブ軸製造工程と、前記ハブ軸製造工程により製造された前記ハブ軸を有する前記内軸部材、前記外輪部材、前記転動体、及び前記シールを組み合わせる組み立て工程と、を含み、前記ハブ軸製造工程は、前記フランジ面の旋削加工及び前記環状面の旋削加工を行なう旋削工程、前記環状面を研磨加工する第一研磨工程、前記ボルト孔にボルトを圧入する圧入工程、及び、前記圧入工程の後、研磨加工された前記環状面を基準面とし前記フランジ面を研磨加工する第二研磨工程、を含み、前記第二研磨工程では、前記環状面のうち、径方向内側寄りの前記環状シール面となる第一環状領域をあけて、径方向外側寄りの第二環状領域に、円筒状の治具を当てた状態として、前記フランジ面を研磨加工する。
【0010】
この製造方法によれば、ハブ軸製造工程において、フランジ部のボルト孔にボルトを圧入してから、フランジ面を研磨加工するため、フランジ振れを抑制することができる。第二研磨工程において、フランジ面の研磨加工は、環状シール面を含む前記環状面を基準面として用いて行われる。しかし、この際、円筒状の治具を、径方向内側寄りの環状シール面となる第一環状領域ではなく、径方向外側寄りの第二環状領域に当てた状態とする。この結果、シール面に擦れ跡が残されず、シール性能を向上させることが可能となる。
【0011】
また、前記シール面には、前記軸体部の軸方向一方側の外周面の一部である前記筒状シール面が含まれ、前記筒状シール面の外径に10ミリメートルを加えた値以上の直径を有する仮想円を、前記第一環状領域と前記第二環状領域との境界として、当該第二環状領域に前記治具を当てるのが好ましい。この方法によれば、第二環状領域に擦れ跡が残される場合があるが、シール面に擦れ跡が生じない。
【0012】
前記製造方法によって製造される車輪用軸受装置は、筒状の外輪部材、前記外輪部材の径方向内方に設けられている軸体部と、当該軸体部の軸方向一方側に設けられているフランジ部と、を含み、当該軸体部と当該フランジ部との間にシール面が設けられているハブ軸を有する内軸部材、前記外輪部材と前記内軸部材との間に配置されている転動体、及び、前記外輪部材の軸方向一方側に取り付けられ前記シール面に接触するリップを有するシール、を備え、前記シール面は、環状シール面、筒状シール面、および、当該環状シール面と当該筒状シール面とを繋ぐアール面を有し、前記環状シール面に前記リップが接触し、前記フランジ部は、軸方向一方側のフランジ面と、当該フランジ部を軸方向に貫通するボルト孔に圧入されているボルトと、前記環状シール面を含む軸方向他方側の環状面と、を有し、前記フランジ面は、研磨面であり、前記環状面のうちの径方向内側の第一環状領域は、前記環状シール面となる研磨面であり、前記環状面のうちの径方向外側の第二環状領域が、前記第一環状領域よりも表面粗さの平均値が高い研磨面である。
【0013】
また、前記車輪用軸受装置において、前記軸体部の軸方向一方側の外周面の一部である前記筒状シール面が、前記アール面を介して前記環状シール面と連続する研磨面であり、前記第一環状領域と前記第二環状領域との境界は、前記筒状シール面の外径に10ミリメートルを加えた値以上の直径を有する仮想円上に位置しているのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、フランジ振れを抑制すると共に、シール性能を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の車輪用軸受装置の一例を示す断面図である。
【
図5】環状面の振れ(歪み)を説明する模式図である。
【
図7】
図1に示すハブ軸のX-X矢視の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔車輪用軸受装置の構成について〕
図1は、本発明の車輪用軸受装置の一例を示す断面図である。車輪用軸受装置(ハブユニット)10は、自動車の車体側に設けられている懸架装置(ナックル)に取り付けられ、車輪を回転可能に支持する。車輪用軸受装置10は、筒状の外輪部材12と、内軸部材11と、転動体13と、保持器14と、軸方向一方側に設けられている第一のシール15と、軸方向他方側に設けられている第二のシール16とを備えている。車輪用軸受装置10において、軸方向とは、車輪用軸受装置10の中心軸C(以下、軸受中心軸Cという)に平行な方向である。また、径方向とは前記軸方向に直交する方向である。
【0017】
外輪部材12は、円筒形状である外輪本体部21と、この外輪本体部21から径方向外方に延びて設けられている固定用のフランジ部22とを有している。外輪本体部21の内周側に外輪軌道面12a,12bが形成されている。外輪部材12はフランジ部22によって車体側部材であるナックル(図示せず)に取り付けられ、これにより外輪部材12を含む車輪用軸受装置10が車体に固定される。車輪用軸受装置10が車体に固定された状態で、内軸部材11が有する後述の車輪取り付け用のフランジ部27側が車両の外側となる。つまり、フランジ部27が設けられている軸方向一方側が車両アウタ側となり、その反対である軸方向他方側が車両インナ側となる。
【0018】
内軸部材11は、ハブ軸(内軸)23と、このハブ軸23の軸方向他方側に取り付けられている内輪24とを有している。ハブ軸23は、外輪部材12の径方向内方に設けられている軸体部26と、軸体部26の軸方向一方側に設けられているフランジ部27とを含む。軸体部26は軸方向に長い軸部である。フランジ部27は、軸体部26の軸方向一方側から径方向外方に延びて設けられている。軸体部26とフランジ部27との間にシール面29が設けられている。
【0019】
図1の拡大図に示すように、シール面29には、環状シール面29aと、筒状シール面29bと、アール面29cとが含まれる。環状シール面29aは、シール15が有しフランジ部27側に延びるリップ30aと接触する。筒状シール面29bは、シール15が有し軸体部26側に延びるリップ30bと対向する。環状シール面29aは、全体として、軸受中心軸Cに直行する面に沿った面である。筒状シール面29bは、軸体部26の軸方向一方側の外周面の一部であり、全体として、軸受中心軸Cに平行な円筒面に沿った面である。アール面29cは、環状シール面29aと
筒状シール面29bとを繋ぐ面である。
【0020】
内輪24は、環状の部材であり、軸体部26の軸方向他方側の小径部39に外嵌し固定されている。軸体部26の外周面に軸軌道面11aが形成され、内輪24の外周面に内輪軌道面11bが形成されている。
【0021】
軸方向一方側における外輪軌道面12aと軸軌道面11aとの間に転動体13である玉が複数配置されている。軸方向他方側における外輪軌道面12bと内輪軌道面11bとの間に転動体13である玉が複数配置されている。転動体(玉)13は、外輪部材12と内軸部材11との間に二列となって配置されている。
【0022】
フランジ部27は、軸方向一方側のフランジ面31と、フランジ部27を軸方向に貫通するボルト孔32と、軸方向他方側の環状面19とを有する。ボルト孔32に車輪取り付け用のボルト28が圧入により取り付けられている。フランジ面31は、フランジ部27の径方向外側の領域に設けられている環状の面である。フランジ面31に、ブレーキロータ(図示せず)が接触して取り付けられる。フランジ面31は、研磨面である。
【0023】
図1の拡大図において、環状面19には、シール面29の一部(環状シール面29a)が含まれる。つまり、環状面19は、単一の環状となる面であるが、径方向内側の第一環状領域K1と、径方向外側の第二環状領域K2とに区画される。
図7は、
図1に示すハブ軸23のX-X矢視の断面図であり、環状面19及びその周囲を軸方向から見た図である。
図7において、第一環状領域K1と第二環状領域K2との境界を二点鎖線Lで示している。第一環状領域K1が、シール面29の一部(環状シール面29a)であり、研磨面である。第二環状領域K2は、研磨面であるが、シール面29(環状シール面29a)と表面状態が異なる。表面状態の相違について具体的に説明する。第一環状領域K1(環状シール面29a)と比較した場合、第二環状領域K2では光沢が部分的に異なっている。第一環状領域K1(環状シール面29a)では、周方向に沿って均一な光沢を有する。これに対して、第二環状領域K2では、周方向に沿って部分的に光沢が低下している。これは、第二環状領域K2には、後に説明する治具41(
図6参照)が接触することで生じる擦れ跡(傷)が存在するためである。この擦れ跡の領域では、表面粗さ(平均値)が第一環状領域K1と異なり(高く)、光沢が低下している。
【0024】
図1の拡大図に示すように、シール面29に含まれる筒状シール面29bは、軸体部26の軸方向一方側の外周面の一部である。筒状シール面29bは、環状シール面29aとアール面29cを介して連続する研磨面である。
図7において、第一環状領域K1と第二環状領域K2との境界は、筒状シール面29bの外径D1に、10ミリメートルを加えた値以上の直径D2を有する仮想円(二点鎖線L)上に位置している(D2≧D1+10mm)。
【0025】
第一のシール15は、外輪部材12の軸方向一方側の端部に取り付けられている。第一のシール15は、ゴム製のリップ30aを有しており、リップ30aはシール面29に接触する。第一のシール15は、軸方向一方側において外輪部材12と内軸部材11との間から、転動体13が設けられている軸受内部へ泥水等の異物が浸入するのを防止する。第二のシール16は、軸方向他方側において外輪部材12と内軸部材11との間から軸受内部へ泥水等の異物が浸入するのを防止する。
【0026】
〔製造方法について〕
以上の構成を備えている車輪用軸受装置10の製造方法について説明する。
図2は、製造方法を示すフロー図である。この製造方法には、車輪用軸受装置10(
図1参照)を構成する各要素を製造する工程(製造工程)S10と、製造工程S10により得られた各要素を組み立てる組み立て工程S20とが含まれる。ハブ軸23以外の要素の製造方法については、従来と同様の方法であり、ここでは説明を省略する。ハブ軸23を製造する方法(ハブ軸製造工程)は、次のとおりである。なお、各要素の製造工程には、焼入れ処理などの熱処理が含まれていてもよい。
【0027】
〔ハブ軸製造工程について〕
図2に示すように、本実施形態では、旋削工程S11、第一研磨工程S12、圧入工程S13、及び第二研磨工程S14の順序で行われ、これによりハブ軸23が製造される。なお、圧入工程13を第一研磨工程S12の前に行なう方法もある。
【0028】
旋削工程S11では、フランジ面31の旋削加工及び環状面19の旋削加工が行われる。
第一研磨工程S12では、環状面19の研磨加工が行われる。
圧入工程S13では、ボルト孔32にボルト28が圧入される。
第二研磨工程S14では、研磨加工された環状面19の一部(前記第二環状領域K2、
図7参照)が基準面となり、フランジ面31の研磨加工が行われる。
【0029】
以下、ハブ軸製造工程に含まれる各工程について説明する。
旋削工程S11は、次のように行われる。鍛造により製造されたハブ軸23となる中間製品の所定箇所(必要箇所)に対して旋削加工が行われる。
図3において、旋削加工が行われる面には、フランジ面31、環状面19、シール面29に含まれるアール面29c及び筒状シール面29b、及び、ハブ軸23の軸体部26の外周面33が含まれる。軸体部26の外周面33には、軸軌道面11a及び内輪24(
図1参照)が嵌まる小径外周面34が含まれる。これら旋削対象箇所に対して旋削加工を行なう順番は、変更自在である。本実施形態では、フランジ面31の旋削加工を行ってから、環状面19及びその他の面の旋削加工が行われる。旋削加工されたフランジ面31を基準として、シール面29及びその他の面の旋削加工が行われてもよい。このように、旋削工程S11では、フランジ面31及び環状面19の旋削加工にあわせて、シール面29に含まれるアール面29c及び筒状シール面29bも旋削加工される。更に、本実施形態では、ハブ軸23の軸体部26の外周面33が全体として旋削加工される。
【0030】
旋削工程S11では、旋削対象箇所それぞれにおいて、旋削加工を複数回に分けて行ってもよい。例えば、フランジ面31に対して、粗加工と、中仕上げ加工とに分けて、旋削加工を複数回の工程で行ってもよい。また、環状面19に対して、粗加工と、中仕上げ加工とに分けて、旋削加工を複数回の工程で行ってもよい。
【0031】
第一研磨工程S12は、次のように行われる。
図4に示すように、旋削加工されたフランジ面31に円筒状の治具40を接触させ、環状面19が研磨加工される。本実施形態では、環状シール面29aを含む環状面19の研磨加工と同時に、アール面29c、筒状シール面29b、及び軸軌道面11aを含む軸体部26の外周面33(ただし、小径外周面34を除く)の研磨加工が行われる。つまり、共通する砥石49によって、環状シール面29aを含む環状面19、並びに、アール面29c、筒状シール面29b、及び軸軌道面11aを含む軸体部26の外周面33(ただし、小径外周面34を除く)の研磨加工が行われる。
【0032】
治具40が研磨加工の際の反力を受ける。本実施形態では、旋削加工されたフランジ面31が基準面となり、環状面19等の研磨加工が行われる。この際、ボルト孔32にボルト28は取り付けられていない状態である。環状面19には、前記のとおり旋削工程S11で旋削がされ、第一研磨工程S12で研磨がされる。このため、環状面19において、旋削工程S11の旋削加工が「一次加工」であり、第一研磨工程S12の研磨加工が「二次加工」となる。
【0033】
第一研磨工程S12では、環状面19等において、研磨加工を複数回に分けて行ってもよい。つまり、環状面19等の二次加工として、例えば、粗研磨加工と、仕上げ研磨加工とに分けて、研磨加工を複数回の工程で行ってもよい。
【0034】
圧入工程S13は、次のように行われる。ボルト孔32は、周方向に沿って等間隔で複数設けられている。全てのボルト孔32にボルト28が圧入される。各ボルト孔32にボルト28が締め代を有して取り付けられた状態となる。このため、特にボルト孔32の周囲が歪み、フランジ面31に振れが発生する。ボルト孔32は、周方向に沿って複数設けられていることから(
図7参照)、前記振れは周方向に沿って微小な高さの凹凸の波形状を有する。また、ボルト32の圧入により、環状面19にも同様の振れが発生する場合がある。
図5は、環状面19(環状シール面29a)の振れ(歪み)を説明する模式図である。環状面19は、微小な高さの凹凸の波形状を有する。
【0035】
第二研磨工程S14は、次のように行われる。
図6に示すように、研磨加工された環状面19のうちの径方向外側の第二環状領域K2に円筒状の治具41を接触させ、フランジ面31が研磨加工される。治具41が研磨加工の際の反力を受ける。この際、ボルト孔32にボルト28が取り付けられた状態にある。第二研磨工程S14により、フランジ面31の前記振れが解消される。この研磨加工の際、研磨面である環状面19が基準とされていることで、フランジ面31の研磨は精度よく行われる。なお、第二研磨工程S14では、フランジ面31に対する研磨加工を複数回に分けて行ってもよい。
【0036】
図6に示すように、研磨面である環状面19の第二環状領域K2に円筒状の治具41を接触させた状態で、フランジ面31の研磨が行われる際、環状面19(第二環状領域K2)と治具41との間に滑りが発生する。これにより、第二環状領域K2に擦れ跡が生じる場合がある。前記のとおり、ボルト28の圧入により環状面19に振れが発生している(
図5参照)。この振れは周方向に沿って微小な高さの凹凸の波形状を有する。したがって、第二環状領域K2において、波形状の凸部に擦り跡が付く。
図5において、擦り跡が付く領域を符号Qとしている。これに対して、
図6に示すように、研磨面である環状面19のうちの径方向内側の第一環状領域K1には、治具41が接触しない。このため、第一環状領域K1には、擦り跡が生じない。
【0037】
このように、第二研磨工程S14では、環状面19のうち、径方向内側寄りのシール面29の一部(環状シール面29a)となる第一環状領域K1をあけて、径方向外側寄りの第二環状領域K2に、円筒状の治具41を当てた状態として、フランジ面31が研磨加工される。本実施形態では、
図7に示すように、シール面29のうちの筒状シール面29bの外径D1に、10ミリメートルを加えた値以上の直径D2を有する仮想円(二点鎖線L)を、第一環状領域K1と第二環状領域K2との境界としている。この境界(二点鎖線L)の径方向外側に設けられている第二環状領域K2に治具41が当たる。
【0038】
〔組み立て工程〕
図2において、組み立て工程S20では、製造工程S10を経て製造された各要素が、組み立てられる。
図1において、内輪24は、ハブ軸製造工程により製造されたハブ軸23の軸方向他方側の小径部39に嵌められ、ハブ軸23の端部23aをかしめる(塑性変形させる)。これにより、内軸部材11が得られる。なお、組み立て工程は、従来と同様の方法であり、ここでは説明を省略する。組み立て工程では、ハブ軸製造工程により製造されたハブ軸23を有する内軸部材11、外輪部材12、転動体13、及びシール15,16が組み合わされる。これにより、車輪用軸受装置10が完成する。
【0039】
〔本実施形態について〕
以上の製造方法によれば、
図6に示すように、フランジ部27のボルト孔32にボルト28を圧入してから、フランジ面31を研磨加工する。このため、フランジ面31の振れを抑制することができる。このフランジ面31の研磨加工は、環状面19を基準面として用いて行われる。しかし、この際、円筒状の治具41を、径方向内側寄りの第一環状領域K1ではなく、径方向外側寄りの第二環状領域K2に当てた状態とする。第一環状領域K1は、前記のとおり、シール面29の一部である環状シール面29aとなる(
図1参照)。この結果、シール面29に擦れ跡が残されない。
【0040】
この製造方法によって得られる車輪用軸受装置10は、次のとおりである。
図1において、フランジ部27の軸方向一方側のフランジ面31は、研磨面であり、フランジ面31の振れが抑制されている。フランジ面31は、周方向に沿って均一な表面状態を有する研磨面である。そして、フランジ部27の軸方向他方側では、環状面19のうちの径方向内側の第一環状領域K1は、シール面29の一部(環状シール面29a)となる研磨面である。環状面19のうちの径方向外側の第二環状領域K2が、シール面29(環状シール面29a)と表面状態が異なる研磨面となる。
【0041】
第一環状領域K1と比較して第二環状領域K2において表面状態が異なる理由は次のとおりである。つまり、
図6に示すように、第二環状領域K2に対して治具41が接触するのに対して、第一環状領域K1では治具41が接触しないためである。第二環状領域K2に治具41が接触し、しかも、フランジ面31の研磨加工を行なう際に、治具41と環状面19との間で滑りが発生する。このため、第二環状領域K2には、擦れ跡(傷)が生じる。擦れ跡の領域では、表面粗さ(平均値)が第一環状領域K1と異なり(高く)、光沢が低下している。これに対して、第一環状領域K1では、治具41が非接触であるため、周方向に沿って均一な表面状態(光沢、表面粗さ)を有する。
【0042】
以上より、シール面29、特に、環状シール面29aには、擦れ跡が発生していない。このため、本実施形態の製造方法によって得られる車輪用軸受装置10では、シール面29及び第一のシール15によって構成される軸方向一方側の密封構造において、シール性能を向上させることが可能となる。なお、ボルト28がボルト孔32に圧入されていることで、
図5に示すように、環状シール面29aを含む環状面19に全体として振れが生じていても、シール15のリップ30a(
図1参照)は、弾性変形して環状シール面29aに追従することができる。このため、シール性能は確保される。また、シール面29(環状シール面29a)は、研磨面であることから、シール性能は高い。
【0043】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0044】
10:車輪用軸受装置 11:内軸部材 12:外輪部材
13:転動体 15:第一のシール 19:環状面
23:ハブ軸 26:軸体部 27:フランジ部
28:ボルト 29:シール面 30a:リップ
31:フランジ面 32:ボルト孔 41:治具
K1:第一環状領域 K2:第二環状領域