(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】化粧シート及び不燃化粧板
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20220329BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
B32B27/00 D
B32B27/00 E
B32B27/32 101
B32B27/32 B
(21)【出願番号】P 2018004188
(22)【出願日】2018-01-15
【審査請求日】2020-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】青木 英士
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/170599(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/164976(WO,A1)
【文献】特開平10-259367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09J 123/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一軸延伸又は二軸延伸の延伸フィルムの上に、少なくとも接着層と絵柄層がこの順に積層されており、前記接着層は、重量平均分子量が60000以上100000以下のマレイン酸変性ポリプロピレン、塩素化ポリプロピレン、及びマレイン酸変性塩素化ポリプロピレンの少なくとも1種を含有
し、前記延伸フィルムがポリオレフィン系樹脂からなる化粧シート。
【請求項2】
前記マレイン酸変性ポリプロピレン及び前記マレイン酸変性塩素化ポリプロピレンの少なくとも一方の酸変性量が1.0質量%以上2.0質量%以下である請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記塩素化ポリプロピレン及び前記マレイン酸変性塩素化ポリプロピレンの少なくとも一方の塩素含有率が20質量%以上30質量%以下である請求項1又は請求項2に記載の化粧シート。
【請求項4】
不燃性基材と貼り合わせた状態で、ISO5660-1に準拠したコーンカロリーメータ試験機による発熱性試験において、建築基準法施行令第108条の2第1号及び第2号に記載の要件を満たす不燃材料である
請求項1~3のいずれか一項に記載の化粧シート。
【請求項5】
不燃性基材の表面に
請求項1~4のいずれか一項に記載の化粧シートが設けられた不燃化粧板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の外装用及び内装用の建装材、建具の表面材、家電品の表面材等に用いられる化粧シート及び化粧板に関するものである。特に、無機系ボード類、金属板等に貼り合わせて用いられる不燃化粧板に有効な技術である。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物の壁面や天井等の住宅内装に使用される化粧板には、火災等が生じた際の安全性確保のため不燃性の要求が高まっている。居住、商業用施設、駅舎、空港等の公共施設等の建築物において、火災時に燃え広がらないようにするために、化粧板には、建築基準法施行令第108条の2第1号及び第2号に記載の不燃材料の技術的基準を満たすことが求められている。
【0003】
従来は、このような不燃材料の技術的基準を満たす化粧シートとして軟質ポリ塩化ビニル系樹脂が用いられてきたが、廃棄後の焼却処理時に有害ガス等が発生することが問題となった。ポリ塩化ビニル系樹脂に替わりポリオレフィン系樹脂を用いた場合には、燃焼時の有害ガス等の発生は抑制されるものの、ポリオレフィン系樹脂が燃焼性に優れた性質を有しているため、不燃材料の技術的基準を満たすことが困難であった。
【0004】
ポリオレフィン系樹脂を用いた化粧シートが上記法令に記載の不燃材料の技術的基準を満たすようにする方法として、炭酸カルシウム等の無機フィラーを配合したポリオレフィン系樹脂層を用いた構造体が、特許文献1、2に開示されている。しかしながら、不燃材料の技術的基準を満たすポリオレフィン系樹脂からなる化粧シートを得るためには、多量のフィラーを配合する必要があった。多量にフィラーを配合すると、ポリオレフィン系樹脂中においてフィラーが二次凝集し、シート状に形成した際にフィラーの凝集体が部分的に生じていることによって機械物性が著しく低下し、絵柄印刷や他層の積層が困難になるとともに、得られた化粧シートの後加工性が劣るという問題があった。
特許文献3、4には、ナノ化した分散剤で炭酸カルシウム等の無機フィラーを分散し、無機フィラーを高充填することで樹脂量を低減した化粧シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5461614号公報
【文献】特許第5246279号公報
【文献】特開2016-168830号公報
【文献】特開2016-190467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上記のような不燃材料の技術的基準を満たすポリオレフィン系樹脂からなる化粧シートを得る方法として、例えば、化粧シートの基材を薄膜化する方法が挙げられる。また、一般に、化粧シートに意匠性を付与するためには、基材の表面側に絵柄層を設ける。この時、基材を印刷機に投入する際には、印刷位置のズレを抑制するために、基材に十分な機械的強度が要求される。
【0007】
この要求に対応するために、化粧シート用基材として一軸延伸又は二軸延伸を施した延伸フィルムを採用すれば、化粧シート用基材が薄膜化して化粧シートの不燃性を高めると同時に、化粧シート用基材、さらには化粧シートの機械的強度を高めることが可能となる。
【0008】
しかしながら、化粧シート用基材に延伸処理を施すと、化粧シート用基材の分子配向及び配向結晶化により、絵柄層と化粧シート用基材の表面との間の層間密着力が低下する。層間密着力が低下すると、経年劣化により絵柄層が剥がれ落ちる不具合、すなわち耐久性の低下が生じるおそれがある。
本発明は上記課題に着目してなされたものであり、化粧シート用基材の強度と耐久性を両立した化粧シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る化粧シートは、一軸延伸又は二軸延伸の延伸フィルムの上に、少なくとも接着層と絵柄層がこの順に積層されており、接着層は、重量平均分子量が60000以上100000以下のマレイン酸変性ポリプロピレン、塩素化ポリプロピレン、及びマレイン酸変性塩素化ポリプロピレンの少なくとも1種を含有することを要旨とする。
本発明の他の態様に係る不燃化粧板は、不燃性基材の表面に上記一態様に係る化粧シートが設けられたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、延伸フィルムからなる化粧シート用基材を有する化粧シートであるため、機械強度を担保することができる。また、延伸フィルムと絵柄層の間に接着層を設け、接着層にマレイン酸変性ポリプロピレン、塩素化ポリプロピレン又はマレイン酸変性塩素化ポリプロピレンを配合することで層間密着力が向上し、耐久性に優れた化粧シートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る化粧シート及び不燃化粧板の積層構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで、図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各層の厚さの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状及び構造等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0013】
(構成)
図1に示すように、本実施形態に係る化粧シート1は、化粧シート用基材である延伸フィルム2の一方の面に、接着層3及び絵柄層4がこの順に積層される。さらに、絵柄層4の保護層として、透明樹脂層5及びトップコート層6がこの順に積層される。意匠性を向上させるために、透明樹脂層5のトップコート層6側の面にエンボス模様5aを適宜設けても良い。エンボス模様5aには、インキを埋め込み、さらに意匠性を向上させることも可能である。また、絵柄層4と透明樹脂層5の密着性に問題があれば、絵柄層4と透明樹脂層5の間に接着性樹脂層5bを適宜設けても構わない。
【0014】
基材B(化粧シート1が貼り合せられる木質ボード類、無機系ボード類、金属板等の不燃性基材)の表面に化粧シート1を貼り合わせて、不燃化粧板を構成する。基材Bに対する延伸フィルム2の接着性に問題があれば、延伸フィルム2と基材Bとの間にプライマー層7を適宜設けても構わない。
【0015】
化粧シート1の厚さは、例えば49μm以上360μm以下の範囲内とすることが好ましい。化粧シート1の厚さがこの範囲である場合、化粧シート1を製造する際の印刷作業性が向上するとともに、製造コストを抑制することができる。以下、化粧シート1の各部について、詳細に説明する。
【0016】
(延伸フィルム)
延伸フィルム2は、一軸延伸又は二軸延伸により薄膜化された積層延伸フィルムからなる。延伸フィルム2は、延伸することで機械強度が向上している。延伸フィルム2の厚さは、20μm以上60μm未満であることが好ましく、20μm以上40μm以下であることがより好ましい。延伸フィルム2の厚さが20μm以上60μm未満の範囲である場合、化粧シート1の不燃性と機械強度を両立することができる。また、延伸フィルム2の厚さが20μm以上40μm以下の範囲である場合、不燃性がさらに向上するためより好ましい。
【0017】
延伸フィルム2の不燃性は、金属板や無機質材等からなる不燃性基材(不図示)と貼り合わせた状態で、ISO5660-1に準拠したコーンカロリーメータ試験機による発熱性試験において、建築基準法施行令第108条の2第1号及び第2号に記載の要件を満たすだけの不燃性を有することが好ましい。
【0018】
延伸フィルム2を構成する各層は樹脂材料により形成され、樹脂材料の主成分としてポリオレフィン系樹脂を含んでいる。主成分とは、例えば、層を構成する樹脂材料を100質量部として、そのうちの70質量部以上100質量部以下、好ましくは90質量部以上100質量部以下の成分を意味する。
【0019】
延伸フィルム2を構成するポリオレフィン系樹脂は、走行安定性を考慮するとポリプロピレン系樹脂が好ましい。ポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレンにαオレフィン(例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセン、12-エチル-1-テトラデセンなど)を単独又は2種類以上共重合させたものが挙げられる。延伸フィルム2の引っ張り弾性率の向上を図る場合には、高結晶性のポリプロピレンを用いることが好ましい。
【0020】
延伸フィルム2として、オレフィン系の原反層のような表面が不活性な基材を用いる場合は、延伸フィルム2の表裏にコロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、電子線処理、紫外線処理、重クロム酸処理等を行うことが望ましい。
延伸フィルム2は、無機顔料を含んでいることが好ましい。延伸フィルム2は、基材Bの模様を隠蔽する役割を担う。化粧シート1の意匠性の観点から要求される隠蔽性を得るために、光透過率が40%以下であることが好ましい。隠蔽性が低いと絵柄層4と基材Bの模様が混在し、好ましくない。
【0021】
無機顔料を含有することにより、隠蔽性が良好な化粧シート1を得ることができる。無機顔料の混合量は、樹脂材料を100質量部として、5質量部以上50質量部以下とすることが好ましい。混合量が少ないと隠蔽性が低く、また、混合量が50質量部超過の場合は延伸フィルム2の脆化が起こるおそれがあり好ましくない。含有する無機顔料としては、特に限定されないが、例えば天然無機顔料、合成無機顔料が挙げられる。
【0022】
天然無機顔料としては、例えば、土系顔料、焼成土、鉱物性顔料などが挙げられる。合成無機顔料としては、酸化物顔料、水酸化物顔料、硫化物顔料、珪酸塩顔料、燐酸塩顔料、炭酸塩顔料、金属粉顔料、炭素顔料などが挙げられる。また、天然無機顔料、合成無機顔料の中から、一種類又は二種類以上を混合した混合顔料を用いてもよい。
延伸フィルム2の不燃性が損なわれるため、顔料として有機顔料を用いることは好ましくない。
【0023】
(接着層)
接着層3はポリプロピレンからなる。延伸フィルム2との密着性を向上するための材料としては、マレイン酸変性ポリプロピレン、塩素化ポリプロピレン、マレイン酸変性塩素化ポリプロピレンから選ばれる少なくとも1つであることが望ましい。これらは単独で用いても複数で用いても構わない。また、他のエラストマーを混合しても構わない。エラストマーを混合する際、特に種類が限定されることはないが、ポリプロピレン系エラストマーであることが相溶性の点で好ましい。
【0024】
接着層3は延伸フィルム2上の表面を均一に覆う必要があるため、溶液状態で製造することが望ましい。溶解させる溶媒の種類は特に限定されるものではないが、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン等が好適に使用される。
【0025】
(マレイン酸変性ポリプロピレン)
接着層3に使用されるマレイン酸変性ポリプロピレンは、ポリプロピレンにマレイン酸をグラフト重合したもので、延伸フィルム2との密着性を担保するためには重量平均分子量が大きいことが望ましく、60,000以上である必要がある。一方、溶液にする際に分子量が大きいと溶解性が低く、接着層3を形成する際に不均一になるおそれがあるため、分子量は100,000以下である必要がある。
【0026】
マレイン酸変性ポリプロピレンの酸変性量は、延伸フィルム2との密着性の観点から1.0質量%以上2.0質量%以下であることが望ましい。酸変性量は、FT-IR(株式会社島津製作所製のFTIR8200PC)により測定することができる。まず、無水マレイン酸を任意の濃度で溶解させた検量線溶液を作製する。次に、その検量線溶液のFT-IR測定を行い、無水マレイン酸のカルボニル(C=O)結合の伸縮ピーク(1780cm-1)の吸光度より検量線を作成する。そして、マレイン酸変性ポリプロピレンをクロロホルムに溶解させた溶液のFT-IR測定を行い、上記の検量線に基づいて、無水マレイン酸のカルボニル結合の伸縮ピーク(1780cm-1)の吸光度よりマレイン酸変性ポリプロピレンの酸変性量を求める。
【0027】
(塩素化ポリプロピレン)
接着層3に使用される塩素化ポリプロピレンは、ポリプロピレンの一部を塩素化したものである。延伸フィルム2との密着性を担保するためには重量平均分子量が大きいことが望ましく、60,000以上である必要がある。一方、溶液にする際に分子量が大きいと溶解性が低く、接着層3を形成する際に不均一になるため、分子量は100,000以下である必要がある。
【0028】
また、塩素含有率が大きいと溶液にしやすくなるため、大きい方が望ましく、20質量%以上であることが望ましい。しかしながら、塩素含有率を大きくすると延伸フィルム2との密着性が低くなるので、30質量%以下であることが望ましい。塩素含有率は、JIS K-7229-1995に規定された方法に準じて、滴定によって測定することができる。
【0029】
(マレイン酸変性塩素化ポリプロピレン)
接着層3に使用されるマレイン酸変性塩素化ポリプロピレンは、ポリプロピレンにマレイン酸をグラフト重合し、且つ、一部を塩素化したものである。延伸フィルム2との密着性を担保するためには重量平均分子量が大きいことが望ましく、60,000以上である必要がある。一方、溶液化する際に分子量が大きいと溶解性が低く、接着層3を形成する際に不均一になるため、分子量は100,000以下である必要がある。
【0030】
マレイン酸変性塩素化ポリプロピレンの酸変性量は延伸フィルム2との密着性の観点から1.0質量%以上2.0質量%以下であることが望ましい。また、塩素含有率が大きいと溶液にしやすくなるため、塩素含有率は大きい方が望ましく、20質量%以上であることが望ましい。しかしながら、塩素含有率を大きくすると延伸フィルム2との密着性が低くなるため、30質量%以下であることが望ましい。
【0031】
(絵柄層)
絵柄層4の形成方法としては、接着層3に対して、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、静電印刷、インキジェット印刷等を行う方法がある。後述のトップコート層6を設ける方法も、絵柄層4を設ける方法と同様で何ら限定されるものではない。
【0032】
絵柄層4の形成にインキを使用する場合は、インキのバインダーとしては、硝化綿、セルロース、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、ポリウレタン、アクリル、ポリエステル系等を用いることができ、これらは単独で用いてもよいし、各変性物の中から適宜選定して用いてもよい。これらのインキは、水性、溶剤系(油性)、エマルジョンタイプのいずれでも問題なく、また1液タイプでも硬化剤を使用した2液タイプでも適宜選択可能である。
【0033】
さらに、紫外線や電子線等の照射により、インキを硬化させることも可能である。インキを硬化させる方法は各種あるが、中でも最も一般的な方法は、ウレタン系のインキを用いてイソシアネートで硬化させる方法である。インキ中には、これらバインダー以外に、通常のインキに含まれている顔料、染料等の着色剤、体質顔料、溶剤、各種添加剤が添加されていてもよい。特によく用いられる顔料には、縮合アゾ、不溶性アゾ、キナクリドン、イソインドリン、アンスラキノン、イミダゾロン、コバルト、フタロシアニン、カーボン、酸化チタン、酸化鉄、雲母等のパール顔料等がある。
【0034】
また、インキの塗布とは別に、各種金属の蒸着やスパッタリングで意匠を施すことも可能である。
絵柄層4の厚さは、3μm以上20μm以下であることが好ましい。絵柄層4の厚さがこの範囲である場合、印刷を明瞭にすることができるとともに、化粧シート1を製造する際の印刷作業性が向上し、かつ製造コストを抑制することができる。
【0035】
(透明樹脂層)
透明樹脂層5は、例えば透明樹脂シートで構成されており、接着剤によって絵柄層4に接着される。透明樹脂層5は単層でも複層でも構わない。本実施形態の透明樹脂層5は、ポリオレフィン系樹脂を主成分として構成されることが好ましい。主成分とは、例えば、透明樹脂層5を構成する樹脂材料を100質量部として、そのうちの70質量部以上100質量部以下、好ましくは90質量部以上100質量部以下含まれる樹脂材料をいう。
【0036】
透明樹脂層5を構成するポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテンなどの他に、αオレフィン(例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセン、12-エチル-1-テトラデセンなど)を単独重合あるいは2種類以上共重合させたものが挙げられる。
【0037】
また、透明樹脂層5を構成するポリオレフィン系樹脂としては、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・メチルメタクリレート共重合体、エチレン・エチルメタクリレート共重合体、エチレン・ブチルメタクリレート共重合体、エチレン・メチルアクリレート共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・ブチルアクリレート共重合体などのように、エチレン又はαオレフィンとそれ以外のモノマーとを共重合させたものも挙げられる。また、化粧シート1の表面強度の向上を図る場合には、高結晶性のポリプロピレンを用いることが好ましい。
【0038】
透明樹脂層5の厚さは、20μm以上200μm以下であることが好ましい。透明樹脂層5の厚さがこの範囲である場合、化粧シート1の強度が向上するとともに、化粧シート1を製造する際の印刷作業性が向上して、かつ製造コストを抑制することができる。
また、絵柄層4と透明樹脂層5を密着させるために用いる接着剤は、接着方法として任意の材料選定が可能であり、熱ラミネート、押出ラミネート、ドライラミネート等による積層方法があり、接着剤はアクリル系、ポリエステル系、ポリウレタン系等の材料から選定できる。通常はその凝集力から、イソシアネートとポリオールとの反応を利用した2液硬化タイプのウレタン系材料が望ましい。
【0039】
なお、積層方法にも特に限定はないが、熱圧を応用した方法、押出ラミネート法、ドライラミネート法等が一般的である。また、エンボス模様5aを施す場合には、一旦各種方法でラミネートしたシートに後から熱圧によりエンボスを入れる方法や、冷却ロールに凹凸模様を設け押出ラミネートと同時にエンボスを施す方法がある。
また、押出しと同時にエンボスを施した絵柄層4と透明樹脂層5とを熱又はドライラミネートで貼り合わせる方法等を用いることができる。
【0040】
また、押出ラミネート法でさらなるラミネート強度を求める場合は、透明樹脂層5と接着剤との間に接着性樹脂層5bを設けてもよい。接着性樹脂層5bを設ける場合は、透明樹脂層5と接着性樹脂層5bとの共押出法でラミネートを行う。接着性樹脂層5bは、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリル系等の樹脂に酸変性を施したものとすることができる。接着性樹脂層5bの厚さは、接着力向上の目的から2μm以上であることが望ましい。
【0041】
(トップコート層)
トップコート層6は、分散剤と無機微粒子とを含むことが好ましい。トップコート層6の分散剤の含有量は、トップコート層6に含まれる樹脂材料100質量部に対して、0.01質量部以上3質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上2質量部以下である。
【0042】
また、トップコート層6の主成分である樹脂材料100質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下の無機微粒子が配合されていることが好ましい。0.1質量部未満である場合には、耐擦傷性の効果が得られにくい。一方、30質量部より多い場合には、無機微粒子による光の散乱作用によって透明性が損なわれるおそれがあることや、コストアップすることが懸念される。
【0043】
無機微粒子としては、例えば、アルミナ、シリカ、ベーマイト、酸化鉄、酸化マグネシウム、ダイヤモンド等の微粒子を用いることができる。無機微粒子の平均粒径は、1μm以上100μm以下が好ましく、1μm以上30μm以下がより好ましい。
また、トップコート層6の樹脂組成物は、硬化型樹脂からなる樹脂材料を主成分とし、その硬化型樹脂として、熱硬化型樹脂及び光硬化型樹脂の少なくとも一方を用いることが好ましく、熱硬化型樹脂と光硬化型樹脂との混合物を用いるようにしてもよい。さらに、硬化型樹脂の形態は、水性、エマルジョン、溶剤系等、特に限定されるものではない。
【0044】
また、熱硬化型樹脂としては、作業性、価格、樹脂自体の凝集力等を考慮すると、2液硬化型のウレタン系の熱硬化型樹脂を用いることが好ましい。ウレタン系の熱硬化型樹脂としては、アクリルポリオールとイソシアネートとを反応させて得られる樹脂を用いてもよい。
【0045】
イソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添トリレンジイソシアネート(HTDI)、水添キシリレンジイソシアネート(HXDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、及びこれらの誘導体(アダクト体、ビュレット体、イソシアヌレート体)、並びに各種プレポリマー等の硬化剤を適宜選択して用いることができる。また、耐候性を考慮すると、直鎖状の分子構造を有するヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)又はイソホロンジイソシアネート(IPDI)をベースとする硬化剤を使用することが好ましい。
【0046】
また、光硬化型樹脂としては、ポリエステルアクリレート系、エポキシアクリレート系、ウレタンアクリレート系、アクリルアクリレート系等から適宜選択して用いることができる。特に、耐候性(耐光性)を考慮すると、ウレタンアクリレート系又はアクリルアクリレート系の樹脂を用いることが好ましい。さらに、光硬化型樹脂の硬化方法としては、紫外線や電子線等の活性エネルギー線で硬化することが作業性の観点から好ましい。
【0047】
また、熱硬化型樹脂と光硬化型樹脂との混合物としては、アクリルポリオールとイソシアネートとを反応して得られるウレタン系樹脂(熱硬化型樹脂)と、ウレタンアクリレート系樹脂(光硬化型樹脂)との混合物を用いることが好ましい。この混合物を用いることによって、表面硬度の向上、硬化収縮の抑制、及び無機微粒子との密着性の向上を実現することができる。
【0048】
また、化粧シート1の表面の硬度をさらに向上させるためには、トップコート層6として、紫外線や電子線の照射で硬化する樹脂を用いるようにしてもよい。さらに、耐候性を向上させるために、紫外線吸収剤及び光安定剤をトップコート層6に適宜添加するようにしてもよい。また、各種機能を付与するために、抗菌剤、防カビ剤等の機能性添加剤の添加を、トップコート層6に対して適宜行うようにしてもよい。トップコート層6の塗布厚さは、通常2μm以上10μm以下が妥当である。
【0049】
(プライマー層)
プライマー層7の材料としては、基本的に絵柄層4と同じ材料を用いることができる。ただし、化粧シート1の裏面に施され、ウエブ状で巻取りを行うことを考慮すると、ブロッキングを避け、接着剤との密着を高めるために、シリカ、アルミナ、マグネシア、酸化チタン、硫酸バリウム等の無機充填剤を添加させてもよい。プライマー層7の塗布厚さは、基材Bとの密着を確保することが目的であるので、0.1μm以上3.0μm以下が好ましい。なお、プライマー層7は、延伸フィルム2がオレフィン系材料のように表面が不活性なものである場合には必要であるが、表面が活性なものである場合には特に必要なものではない。
【0050】
(作用、その他)
(1)以上のように、本実施形態の化粧シート1では、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする樹脂膜を延伸して薄膜化して形成した延伸フィルム2を化粧シート用基材として使用することで、不燃性及び基材強度を向上させている。
(2)また、延伸フィルム2と絵柄層4の間に、マレイン酸変性ポリプロピレン、塩素化ポリプロピレン又はマレイン酸変性塩素化ポリプロピレンからなる接着層3を具備することで、延伸フィルム2と絵柄層4の密着性を向上させることができる。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明に係る化粧シートの具体的な実施例について説明する。なお、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
結晶性ポリプロピレン樹脂(MFR:18g/10min)100質量部に対して、ヒンダードアミン系光安定剤(BASF社製「キマソーブ944」)0.5質量部と、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(BASF社製「チヌビン328」)0.5質量部を混合した。得られた混合物を溶融押出機を用いて製膜し、一軸延伸することにより、厚さ30μmの延伸フィルムを形成した。
【0052】
次に、表1に示す接着層樹脂Aを100質量部に対して、酢酸ブチルを500質量部混合し溶解させた。溶解させた塗液を厚さ2g/m2にて延伸フィルムに塗布し、乾燥させて接着層を形成した。さらに、接着層の表面に絵柄印刷を施して絵柄層を形成した。絵柄層は、2液型ウレタンインキ(東洋インキ株式会社製「V180」)に、当該インキのバインダー樹脂分100質量部に対してヒンダードアミン系光安定剤(BASF社製「キマソーブ944」)を0.5質量部添加したインキを用いて形成した。また、延伸フィルムの裏面にプライマー層を形成した。プライマー層は、絵柄層と同様の2液型ウレタンインキを印刷することにより形成した。
【0053】
【0054】
続いて、結晶性ポリプロピレン樹脂(ペンタッド分率:97.8%、分子量分布:2.3、MFR:18g/10min)100質量部に対して、ヒンダードアミン系光安定剤(BASF社製「キマソーブ944」)0.5質量部と、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(BASF社製「チヌビン328」)0.5質量部を混合した。得られた混合物とポリエチレン系の易接着性樹脂とを溶融押出機を用いて共押出しして、厚さ60μmの透明樹脂層と厚さ10μmの接着性樹脂層との積層物を製膜した。
【0055】
次に、絵柄層を形成した化粧シート用基材の表面に、ドライラミネート用接着剤(三井化学株式会社製「タケラックA540」、塗布量:2g/m
2)を塗布した。続いて、接着剤を塗布した化粧シート用基材の絵柄層面と上記の積層物の透明樹脂層とを押出ラミネート法により貼り合せ、上記の積層物の接着性樹脂層を介して接着した。さらに、貼り合わせて形成したシートの透明樹脂層側の面に、エンボス形成用の金型ロールを用いてプレスをしてエンボス模様を施した後に、そのエンボス模様面上に2液硬化型ウレタントップコート(DICグラフィックス社製「W184」)を塗布量3g/m
2で塗布して、
図1に示す化粧シートと同様の構成の化粧シート1を得た。
【0056】
(実施例2~10)
実施例2~10では、表1に示す接着層樹脂B~Jを用いて接着層を形成した。それ以外は実施例1と同様の構成とし、化粧シート2~10を得た。化粧シート1~10の構成を表2に示す。表2には、評価についても併せて記載した。
【0057】
【0058】
<化粧シート1~10の性能評価>
化粧シート1~10に対して、性能の評価を実施した。
[基材強度]
化粧シート1~10に用いられる延伸フィルム(化粧シート用基材)を、テンシロン万能材料試験機によって引張速度50mm/minで引っ張って、弾性率を測定した。弾性率が1000MPa以上2000MPa未満であった場合は、基材強度は良好と評価し、表においては○印で示した。一方、弾性率が1000MPa未満であった場合は、基材強度は不良と評価し、表においては×印で示した。
【0059】
[不燃性試験]
化粧シート1~10を金属板に貼り合わせて、ISO5660-1に準拠したコーンカロリーメータ試験機による発熱性試験を実施した。不燃性は、建築基準法施行令第108条の2第1号及び第2号の規定を満足したか否かで判定し、表においては、規定を満足した場合は○印で示し、規定を満足しなかった場合は×印で示した。
【0060】
[層間密着試験]
層間密着試験は、透明樹脂層と延伸フィルムとの密着力(接着性)を評価する試験である。層間密着試験は、JIS K6854-2に従って実施した。測定した密着力がJIS K6854-2の規格内であった場合は、層間密着力は非常に良好であると評価し、表においては○印で示した。一方、測定した密着力がJIS K6854-2の規格外であった場合は、層間密着力は不良であると評価し、表においては×印で示した。ただし、測定した密着力がJIS K6854-2の規格外ではあるが、実用上差し支えのないレベルであった場合は、層間密着力は良好と評価し、表においては△印で示している。
【0061】
[接着層樹脂の溶解性]
接着層樹脂の溶解性は、製造時に溶解した塗液が再凝集するか否かで評価した。再凝集がなかった場合は、溶解性が非常に良好であると評価し、表においては○印で示した。また、再凝集はあるが使用に差し支えないレベルであった場合は、溶解性は良好であると評価し、表においては△印で示した。再凝集があった場合は、溶解性は不良であると評価し、表においては×印で示した。
【0062】
表2に示す通り、化粧シート1~10の各評価は問題なく、良好な結果であった。
(実施例11~18)
実施例11~18では、表3に示す接着層樹脂K~Rを用いて接着層を形成した。それ以外は実施例1と同様の構成とし、化粧シート11~18を得た。化粧シート11~18の構成を表4に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
<化粧シート11~18の性能評価>
化粧シート11~18の化粧シートに対して、化粧シート1~10と同様に性能の評価を実施した。評価結果を表4に示す。
表4に示す通り、化粧シート11、15は、化粧シート1~10と比較して密着性が若干低かった。これは、接着層に含まれるマレイン酸変性ポリプロピレンやマレイン酸変性塩素化ポリプロピレンの酸変性量が少ないことから、密着性の効果が十分に発現しなかったためである。
【0066】
化粧シート12、16は、化粧シート4~10と比較して接着層樹脂の溶解性が若干低かった。これは、マレイン酸変性ポリプロピレンやマレイン酸変性塩素化ポリプロピレンの酸変性量が大きいことから、溶解性が若干低下したためである。
化粧シート13、17は、化粧シート1~10と比較して密着性が若干低かった。これは、塩素含有率が低いことから、密着性の効果が十分に発現しなかったためである。
【0067】
化粧シート14、18は、化粧シート1~10と比較して密着性が若干低かった。これは、塩素含有率が高いことから、密着性の効果が十分に発現しなかったためである。
化粧シート11~18に関しては、性能が若干低い項目もあるが、実用上差し支えないレベルであった。
【0068】
(比較例1~6)
比較例1~6では、表5に示す接着層樹脂S~Xを用いて接着層を形成した。それ以外は実施例1と同様の構成とし、化粧シート19~24を得た。化粧シート19~24の構成を表6に示す。
【0069】
【0070】
【0071】
化粧シート19、21、23は密着性不良であった。これは、接着層樹脂の分子量が小さく、密着性の効果が発現しなかったためである。
化粧シート20、22、24は、接着層樹脂の溶解性が不良であった。これは、接着層樹脂の分子量が大き過ぎるため、溶解性が悪くなったためである。
【0072】
(比較例7、8)
比較例7、8では、基材として、延伸フィルムではなく無延伸フィルムを使用した。また、接着層を設けずに、無延伸フィルムと絵柄層を貼り合せた。それ以外は実施例1と同様の構成とし、化粧シート25、26を得た。化粧シート25、26の構成を表7に示す。
【0073】
【0074】
<化粧シート25、26の性能評価>
化粧シート25、26の化粧シートに対して、化粧シート1~10と同様に性能の評価を実施した。評価結果を表7に示す。
表7に示す通り、化粧シート25は化粧シート用基材の強度が不十分であった。これは、無延伸原反を薄く作製したためである。一方、化粧シート26は不燃性試験が規格外となった。これは、化粧シート用基材の厚みを60μmとしたためである。
【符号の説明】
【0075】
1・・・化粧シート
2・・・延伸フィルム
3・・・接着層
4・・・絵柄層
5・・・透明樹脂層
5a・・エンボス模様
5b・・接着性樹脂層
6・・・トップコート層
7・・・プライマー層
B・・・基材