(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】車両の制動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/17 20060101AFI20220329BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
B60T8/17 B
B60T8/17 C
B60T13/74 C
(21)【出願番号】P 2018023922
(22)【出願日】2018-02-14
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(72)【発明者】
【氏名】塚本 駿
(72)【発明者】
【氏名】ブル マーシャル
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-081957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 13/00-13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制動操作部材の操作変位に応じて、マスタシリンダからホイールシリンダに制動液を圧送して、前記ホイールシリンダに制動液圧を発生する車両の制動制御装置であって、
前記制動操作部材に接続された入力ロッドと、
前記マスタシリンダ内のピストンに接続された出力ロッドと、
弾性体を介して前記入力ロッドと接続された入力部材、前記出力ロッドに接続された出力部材、
前記第2電気モータと前記出力部材の間に設けられた中間部材、第1電気モータ、及び、第2電気モータにて構成され、
前記入力部材と前記出力部材との間が咬み合されて接続され、前記中間部材と前記出力部材との間が咬み合されて接続されており、
前記第1電気モータ、及び、前記第2電気モータによって、
前記入力部材と前記中間部材とを相対変位させることで前記入力部材の入力変位と前記出力部材の出力変位とを独立して調整する差動機構と、
前記第1電気モータ、及び、前記第2電気モータを制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記操作変位、及び、前記弾性体の剛性に応じた第1演算マップに基づいて前記第1電気モータを制御することで前記入力変位を調整し、
前記操作変位、及び、前記出力変位に対する前記制動液圧の関係に応じた第2演算マップに基づいて前記第2電気モータを制御することで前記出力変位を調整するよう構成された、車両の制動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制動制御装置であって、
前記第1電気モータの回転角実際値を検出する第1回転角センサを備え、
前記コントローラは、
前記操作変位、及び、前記第1演算マップに基づいて前記第1電気モータの回転角目標値を演算し、
前記回転角実際値が前記回転角目標値に一致するよう、前記第1電気モータを制御する、車両の制動制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両の制動制御装置であって、
前記制動液圧を液圧実際値として検出する液圧センサを備え、
前記コントローラは、
前記操作変位、及び、前記第2演算マップに基づいて、液圧目標値を演算し、
前記液圧実際値が前記液圧目標値に一致するよう、前記第2電気モータを制御する、車両の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「ストロークシミュレータの反力特性を変更する特性変更機構を効率よくレイアウトした液圧発生装置を提供する」ことを目的に、「基体10と、基体10の一面に取り付けられ、基体10に備わる電気部品を収容するハウジング51と、ブレーキ操作子に擬似的な操作反力を付与するストロークシミュレータ40と、を備えた液圧発生装置1であって、ストロークシミュレータ40には、その反力特性を変更可能な特性変更機構が設けられており、特性変更機構の少なくとも一部が、ハウジング51に収容される構成」が記載されている。具体的には、特性変更機構として、電磁アクチュエータが採用される。そして、電磁アクチュエータが、ストロークシミュレータ40の弾性部材である第一リターンスプリング、及び、第二リターンスプリングを圧縮する方向に押圧することによって、反力特性が変更される。
【0003】
特許文献1に記載される装置では、制動操作部材の操作特性を調整するために、固定コア、可動コア、コイルユニット、及び、ロッドを備えた、所謂、ソレノイドが電磁アクチュエータとして用いられる。ソレノイドは、構造が簡単であり、負荷を直接駆動する。しかし、減速機構を有さないため、或る程度の力を発生するためには、大型のものが必要とされる。また、ソレノイドは、高応答ではあるが、その速度が調整され難い(特に、低速での調整が困難である)。従って、操作特性が調整可能な制動制御装置には、小型化され、且つ、その調整が好適に達成され得るものが望まれている。
【0004】
この課題を解決するために、出願人は、特許文献2に記載されるような制動制御装置を開発している。特許文献2の制動制御装置には、マスタシリンダに固定されるケース部材(「ハウジング」ともいう)と、ケース部材に固定される第1電気モータと、第1電気モータとは別にケース部材に固定される第2電気モータと、制動操作部材に機械的に接続され、直線的に移動する入力ロッドと、マスタシリンダ内のピストンを押圧し入力ロッドの中心軸線に平行、且つ、直線的に移動可能な出力ロッドと、第1電気モータの出力、及び、第2電気モータの出力が入力され、入力ロッドと出力ロッドとの間の相対的な移動を許容し、ケース部材に内蔵される差動機構と、第1電気モータの出力、及び、第2電気モータの出力を制御することによって、入力ロッドに作用する力と出力ロッドの変位とを独立して制御するコントローラと、が備えられている。この制動制御装置では、2つの電気モータの協働によって、制動操作部材の操作特性と制動液圧とが独立に調整される。該装置の更なる性能向上(特に、操作力特性の向上)され得るものが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-188006号公報
【文献】米国特許出願番号15/281,820
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、制動操作部材の操作特性と制動液圧とが独立に調整可能な制動制御装置において、その操作特性が好適に調整され得るものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両の制動制御装置は、車両の制動操作部材(BP)の操作変位(Sp)に応じて、マスタシリンダ(CM)からホイールシリンダ(CW)に制動液(BF)を圧送して、前記ホイールシリンダ(CW)に制動液圧(Pw)を発生する。制動制御装置は、前記制動操作部材(BP)に接続された入力ロッド(RI)と、前記マスタシリンダ(CM)内のピストン(PA)に接続された出力ロッド(RO)と、「弾性体(DN)を介して前記入力ロッド(RI)と接続された入力部材(RF、GS)、前記出力ロッド(RO)に接続された出力部材(PO、PC)、前記第2電気モータ(MS)と前記出力部材(PO、PC)の間に設けられた中間部材(RS、GU)、第1電気モータ(MF)、及び、第2電気モータ(MS)にて構成され、前記入力部材(RF、GS)と前記出力部材(PO、PC)との間が咬み合されて接続され、前記中間部材(RS、GU)と前記出力部材(PO、PC)との間が咬み合されて接続されており、前記第1電気モータ(MF)、及び、前記第2電気モータ(MS)によって、前記入力部材(RF、GS)と前記中間部材(RS、GU)とを相対変位させることで前記入力部材(RF、GS)の入力変位(Sf、Rf)と前記出力部材(PO、PC)の出力変位(So、Ro)とを独立して調整する差動機構(SD)」と、前記第1電気モータ(MF)、及び、前記第2電気モータ(MS)を制御するコントローラ(ECU)と、を備える。
【0008】
本発明に係る車両の制動制御装置では、前記コントローラ(ECU)は、前記操作変位(Sp)、及び、前記弾性体(DN)の剛性に応じた第1演算マップ(Zcd)に基づいて前記第1電気モータ(MF)を制御することで前記入力変位(Sf、Rf)を調整し、前記操作変位(Sp)、及び、前記出力変位(So)に対する前記制動液圧(Pw)の関係に応じた第2演算マップ(Zpq)に基づいて前記第2電気モータ(MS)を制御することで前記出力変位(So、Ro)を調整するよう構成されている。
【0009】
例えば、本発明に係る車両の制動制御装置は、前記第1電気モータ(MF)の回転角実際値(Kf)を検出する第1回転角センサ(KF)を備え、前記コントローラ(ECU)は、前記操作変位(Sp)、及び、前記第1演算マップ(Zft)に基づいて前記第1電気モータ(MF)の回転角目標値(Kr)を演算し、前記回転角実際値(Kf)が前記回転角目標値(Kr)に一致するよう、前記第1電気モータ(MF)を制御するよう構成される。また、制動制御装置は、前記制動液圧(Pw)を液圧実際値(Pm、Pw)として検出する液圧センサ(PM、PW)を備え、前記コントローラ(ECU)は、前記操作変位(Sp)、及び、前記第2演算マップ(Zpq)に基づいて液圧目標値(Pt)を演算し、前記液圧実際値(Pm、Pw)が前記液圧目標値(Pt)に一致するよう、前記第2電気モータ(MS)を制御するよう構成される。
【0010】
上記構成によれば、2つの電気モータの協働によって、制動操作部材BPの操作特性が調整されるため、装置が小型化され得るとともに、操作速度の影響が回避され、制動操作部材BPが緩やかに操作された場合であっても操作特性が好適に調整され得る。加えて、操作特性の調整に入力弾性体DNが利用されるため、制御遅れの影響が回避され、操作力Fpの変動が抑制された、好適な操作特性が達成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る車両の制動制御装置SCの実施形態を示す全体構成図である。
【
図2】制動アクチュエータACを説明するための概略図である。
【
図3】第1、第2電気モータMF、MSの駆動処理を説明するための機能ブロック図である。
【
図4】第2フィードバック制御ブロックFBの変形例を説明するための機能ブロック図である。
【
図5】差動機構SDの第2の構成例を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<構成部材等の記号、記号末尾の添字、及び、移動方向>
本発明に係る車両の制動制御装置SCの実施形態について図面を参照して説明する。以下の説明において、「ECU」等の如く、同一記号を付された構成部材、演算処理、信号、特性、及び、値は、同一機能のものである。また、各車輪に係る記号の末尾に付された添字「i」~「l」は、それが何れの車輪に関するかを示す包括記号である。具体的には、「i」は右前輪、「j」は左前輪、「k」は右後輪、「l」は左後輪を示す。例えば、各ホイールシリンダにおいて、右前輪ホイールシリンダCWi、左前輪ホイールシリンダCWj、右後輪ホイールシリンダCWk、及び、左後輪ホイールシリンダCWlと表記される。
【0013】
各構成要素の移動方向(特に、直線運動)において、「前進方向」は、ホイールシリンダCWの液圧(制動液圧)Pwが上昇し、車輪WHの制動トルクが増加される方向に相当する。逆に、「後退方向」は、制動液圧Pwが下降し、車輪WHの制動トルクが減少される方向に対応する。また、回転運動する構成要素においては、「正転方向」が、制動液圧Pwが上昇し、車輪WHの制動トルクが増加される方向に対応する。一方、「逆転方向」は、制動液圧Pwが下降し、車輪WHの制動トルクが減少される方向に相当する。従って、各構成要素が組み付けられた状態では、「前進方向」と「正転方向」とが対応し、「後退方向」と「逆転方向」とが対応する。
【0014】
<本発明に係る制動制御装置の実施形態>
図1の全体構成図を参照して、本発明に係る制動制御装置SCの実施形態について説明する。制動制御装置SCが搭載される車両には、電気駆動装置EDS、制動操作部材BP、回転部材KT、ブレーキキャリパCP、及び、ホイールシリンダCWが備えられる。
【0015】
車両は、電気自動車、又は、ハイブリッド自動車であり、電気駆動装置EDSが備えられる。電気駆動装置EDSは、駆動用電気モータ(単に、「駆動モータ」ともいう)GN、及び、駆動用のコントローラ(「電子制御ユニット」ともいう)ECDにて構成される。例えば、駆動モータGNは、車両の前方車輪WHi、WHjに設けられる。
【0016】
車両が加速される場合には、駆動用電気モータGNは、電気モータとして作動し、前輪WHi、WHjに駆動力を発生させる。一方、車両が減速される場合には、駆動モータGNは発電機として作動し、前輪WHi、WHjに回生制動力を発生させる。この際、車両の運動エネルギは、発電機GNによって電力に変換され、車載された2次電池に蓄えられる。つまり、電気駆動装置EDSは、回生制動装置としても機能する。具体的には、駆動用コントローラECDによって、図示されない加速操作部材(例えば、アクセルペダル)の操作量に応じて、駆動モータGNの出力トルクが調整される。また、制動時においては、コントローラECDによって、制動操作部材BPの操作変位Spに基づいて、発電機GNを介して、回生制動力が制御される。
【0017】
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。制動操作部材BPは、回転運動が可能な状態で、車体BDに固定されている。車両の各車輪WH(WHi、WHj、WHk、WHl)には、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KTが固定される。回転部材KT(KTi、KTj、KTk、KTl)を挟み込むようにブレーキキャリパCP(単に、「キャリパ」ともいう)が配置される。そして、キャリパCP(CPi、CPj、CPk、CPl)には、ホイールシリンダCW(CWi、CWj、CWk、CWl)が設けられている。ホイールシリンダCW内の制動液の圧力(制動液圧)Pwが増加されることによって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)が、回転部材KTに押し付けられる。回転部材KTと車輪WHとは、一体となって回転するよう固定されているため、このときに生じる摩擦力によって、車輪WHに制動トルク(結果、制動力)が発生される。
【0018】
≪制動制御装置SC≫
制動制御装置SCは、操作変位センサSP、入力ロッドRI、入力弾性体DN、制動アクチュエータAC、出力ロッドRO、リザーバRV、マスタシリンダCM、第1、第2ピストンPA、PB、マスタシリンダ液圧センサPM、制動用コントローラECU、下流側流体ユニットYL、及び、制動液圧センサPWを含んで構成される。
【0019】
制動操作部材(ブレーキペダル)BPの操作変位Spを検出するよう、操作変位センサSPが設けられる。例えば、操作変位センサSPは、制動操作部材BPと車体BDとの固定部に設けられる。或いは、入力ロッドRIの変位が、操作変位Spとして検出されてもよい。操作変位Spは、制動用コントローラ(電子制御ユニット)ECUに入力される。
【0020】
入力ロッドRIは、制動操作部材BPに、接続ロッドRCを介して、機械的に接続される。具体的には、制動操作部材BPには、クレビス(U字リンク)によって、接続ロッドRCが回転可能に取り付けられる。接続ロッドRCにおいて、クレビス部の反対側は、球状に加工され、入力ロッドRIに接続される。制動操作部材BPは、車体BDに対する取付部を中心に回転運動するが、接続ロッドRCによって、この回転運動が吸収され、入力ロッドRIの直線運動(前進、又は、後退)に変換される。
【0021】
入力ロッドRI(制動操作部材BPに接続される端部とは反対側)は、入力弾性体DN(「弾性体」に相当)を介して、制動アクチュエータAC(特に、第1ラックRF)に接続される。制動アクチュエータACは、差動機構SDを含んで構成される。制動アクチュエータAC(特に、出力ピニオンギヤPO)は、出力ロッドROに接続される。制動アクチュエータACの詳細については、後述する。
【0022】
リザーバ(大気圧リザーバ)RVは、作動液体用のタンクであり、その内部に制動液BFが貯蔵されている。タンデム型マスタシリンダ(単に、「マスタシリンダ」ともいう)CMは、出力ロッドROと機械的に接続される。マスタシリンダCM内では、その内壁、及び、2つのピストンPA、PBによって、2つの液圧室Ra、Rbが形成される。ダイアゴナル型流体路の構成では、マスタシリンダCMの第1液圧室Raは、第1流体路HAを通して、ホイールシリンダCWi、CWlに接続される。また、マスタシリンダCMの第2液圧室Rbは、第2流体路HBを通して、ホイールシリンダCWj、CWkに接続される。第1液圧室Raに係る構成と、第2液圧室Rbに係る構成とは、基本的には同一である。
【0023】
第1、第2ピストンPA、PBは、2つの弾性部材(例えば、圧縮ばね)SA、SBによって出力ロッドROに押圧されている。具体的には、マスタシリンダCMの内筒底部と第2ピストンPBとの間に第2ピストンばねSBが圧縮されて設けられる。また、第2ピストンPBと第1ピストンPAとの間に第1ピストンばねSAが圧縮されて設けられる。従って、出力ロッドROと第1ピストンPAとは分離可能ではある。しかし、第1、第2ピストンばねSA、SBによって、出力ロッドROに押し付けられているため、制動時には一体となって移動される。
【0024】
制動操作部材BPが操作されると、入力ロッドRIが、前進方向Haに移動される。入力ロッドRIの前進に伴って、出力ロッドROが前進方向Heに移動され、第1、第2ピストンPA、PBが、出力ロッドROによって押圧される。第1、第2ピストンPA、PBが前進方向Heに移動されると、先ず、第1、第2ピストンPA、PBによって、リザーバRVとの接続が遮断される。更に、第1、第2ピストンPA、PBが前進されると、第1、第2液圧室Ra、Rbの体積が減少され、4つのホイールシリンダCW内の液圧Pwが増加される。なお、マスタシリンダCMからホイールシリンダCWまでの構成部材の内部には、制動液BFが満充填され、液密状態にされている。
【0025】
制動操作部材BPが初期位置(非制動時に対応する位置)に向けて戻されると、入力ロッドRIが、後退方向Hbに移動される。入力ロッドRIの後退に伴って、出力ロッドROが後退方向Hgに移動され、第1、第2ピストンPA、PBは、第1、第2ピストンばねSA、SBによって後退方向Hgに押される。従って、第1、第2ピストンPA、PBは後退し、第1、第2液圧室Ra、Rbの体積が増加される。結果、マスタシリンダCMに制動液が戻り、4つのホイールシリンダCW内の液圧Pwが減少される。なお、制動操作部材BPの初期位置では、リザーバRVと第1、第2液圧室Ra、Rbとが連通状態にされ、制動液圧Pwは、「0(大気圧)」である。
【0026】
第1、第2液圧室Ra、Rbの液圧(マスタシリンダ液圧)Pm(「液圧実際値」に相当)を検出するよう、マスタシリンダ液圧センサPM(「液圧センサ」に相当)が設けられる。2つのマスタシリンダ液圧センサPMが図示されているが、第1、第2液圧室Ra、Rbの液圧Pmは等しいため、何れか一方のマスタシリンダ液圧センサPMが省略されてもよい。マスタシリンダ液圧Pmは、コントローラECUに入力される。
【0027】
制動用のコントローラ(電子制御ユニット)ECUは、操作変位Spに基づいて、アクチュエータACの2つの電気モータMF、MSを制御する。具体的には、コントローラECUのマイクロプロセッサMPには、第1、第2電気モータMF、MSを制御するための制御アルゴリズムがプログラムされていて、それらを制御するための信号が演算される。また、コントローラECU内には、第1、第2電気モータMF、MSを駆動する駆動回路DRが設けられる。駆動回路DRは、複数のスイッチング素子で構成された電気回路であり、マイクロプロセッサMPによって制御される。
【0028】
制動コントローラECUは、第1、第2電気モータMF、MSを制御することによって、入力ロッドRIに作用する力(操作力)Fpと出力ロッドROの変位Sq(結果として、マスタシリンダ内のピストン変位)との関係を独立、且つ、個別に制御する。即ち、制動操作部材BPの操作特性(操作変位Spと操作力Fpとの関係)と、制動液圧Pw(摩擦制動力)との関係が任意に調節される。例えば、コントローラECUは、発電機GNが回生制動力を発生している場合には、入力ロッドRIの変位Si(即ち、操作変位Sp)の増加に伴い入力ロッドRIに作用する力Fpを増加するとともに、出力ロッドROの変位Sqを「0(ゼロ)」の状態に維持するよう、第1、第2電気モータMF、MSの出力が調整される。この場合、車両には制動液圧Pwによる摩擦制動力は作用されず、車両は回生制動力のみによって減速される。回生制動力と摩擦制動力とが状況に応じて協働される制御が、「回生協調制御」と称呼される。回生協調制御によって、発電機GNによって回生される電力が十分に確保されるとともに、制動操作部材BPの操作特性が適正化され得る。
【0029】
下流側流体ユニット(「モジュレータ」ともいう)YLが、マスタシリンダCMとホイールシリンダCWとの間に設けられる。モジュレータYLは、複数の電磁弁、電動ポンプ、低圧リザーバ、下流側コントローラECLを含む、公知の流体ユニットである。モジュレータYL内で、第1流体路HAは2つに分岐され、ホイールシリンダCWi、CWlに接続される。また、第2流体路HBも2つに分岐され、ホイールシリンダCWj、CWkに接続される。下流側コントローラECLには、車輪速度Vw、ヨーレイトYr、操舵角Sa、前後加速度Gx、横加速度Gy、等が入力される。そして、コントローラECLでは、車輪速度Vwに基づいて、車体速度Vxが演算される。モジュレータYLでは、車体速度Vx、及び、車輪速度Vwに基づいて、車輪WHの過度の減速スリップ(例えば、車輪ロック)を抑制するよう、アンチスキッド制御が実行される。また、モジュレータYLでは、ヨーレイトに基づいて、車両の不安定挙動(過度のオーバステア挙動、アンダステア挙動)を抑制する車両安定化制御(所謂、ESC)が行われる。つまり、モジュレータYLによって、各車輪WHの制動液圧Pwが、マスタシリンダ液圧Pmとは独立で、且つ、個別に制御される。なお、演算された車体速度Vxは、通信バスBSを通して、制動コントローラECUに入力される。
【0030】
各ホイールシリンダCWの液圧(制動液圧)Pw(「液圧実際値」に相当)を検出するよう、制動液圧センサPW(「液圧センサ」に相当)が設けられる。モジュレータYLが駆動されていない場合(即ち、アンチスキッド制御、車両安定化制御等の非実行時)には、マスタシリンダ液圧Pmと制動液圧Pwとは同一である。つまり、マスタシリンダ液圧センサPMによって、制動液圧Pwが検出可能である。このため、制動液圧センサPWは省略されてもよい。
【0031】
<制動アクチュエータAC>
図2の概略図を参照して、制動アクチュエータAC(単に、「アクチュエータ」ともいう)について説明する。アクチュエータACは、制動操作部材BPに作用する操作力Fp(即ち、入力ロッドRIに作用する力)と、マスタシリンダCM内のピストンPA、PBの変位(即ち、出力ロッドROの変位Sq)との関係を独立、且つ、個別に制御する。アクチュエータACは、ハウジングHG、差動機構SD、入力弾性体DN、及び、戻し弾性体DFにて構成される。
【0032】
ハウジングHGは、内部に空間をもつ箱型の部材であり、「ケース(容器)」ともいう。ハウジングHGの内部には、差動機構SD等、アクチュエータACを構成する部材が収められている。ハウジングHGは、取付ボルトBL、及び、ナットNTによって、車両の車体BDに固定される。そして、車体BDに対する固定部とは反対側にて、マスタシリンダCMが、ハウジングHGに固定される。
【0033】
[差動機構SD]
ハウジングHGの内部には、差動機構SDが設けられる。差動機構SDは、2つの電気モータMF、MS、及び、3つの動力伝達機構にて構成される。第1、第2電気モータMF、MSは、ハウジングHGに固定された、別個の電気モータである。動力伝達機構(単に、「伝達機構」ともいう)は、第1、第2電気モータMF、MSの出力(動力)を伝達する構成要素である。伝達機構は、ラック・アンド・ピニオン機構(回転運動と直線運動との変換機構)によって形成される。ラック・アンド・ピニオン機構では、「ピニオンギヤと称呼される円形歯車」と、「平板状のロッドにピニオンギヤに咬み合うように歯(ラックギヤ)が設けられたラック」とが組み合わされる。差動機構SDは、「第1、第2ピニオンギヤPF、PS」、「第1、第2ラックRF、RS」、及び、出力ピニオンギヤPOを含んで構成される。
【0034】
ハウジングHGの内部に、第1、第2電気モータMF、MSが固定される。第1電気モータMFの出力シャフトPfには、第1ピニオンギヤPFが固定される。また、第2電気モータMSの出力シャフトPsには、第2ピニオンギヤPSが固定される。なお、第1電気モータMFの回転軸Pfと第1ピニオンギヤPFとの間、及び、第2電気モータMSの回転軸Psと第2ピニオンギヤPSとの間のうちの少なくとも一方において、減速機が設けられ得る。
【0035】
第1ラックRFは、ハウジングHGに対して、入力軸線Ji(入力ロッドRIの中心軸線)に沿って滑らかに移動可能である。第1ラックRFは、入力弾性体DNを介して、入力ロッドRIが固定される。第1ラックRFには、2つのラックギヤGa、Gbが形成される。つまり、第1ラックRFには、第1入力ラックギヤ(「第1入力ギヤ」)Gaが形成される。これとは、中心軸線Jiに対して反対側に、第1入力ギヤGaとは別の第1出力ラックギヤ(「第1出力ギヤ」ともいう)Gbが切られている。第1入力ギヤGaは、第1ピニオンギヤPFに咬み合わされ、第1出力ギヤGbは、出力ピニオンギヤPOに咬み合わされる。従って、第1電気モータMFの出力は、動力伝達機構(第1ピニオンギヤPF、第1ラックRF、出力ピニオンギヤPO)を介して、回転運動から並進運動に変換され、出力ロッドROに伝達される。
【0036】
第1ラックRFと同様に、第2ラックRSは、ハウジングHGに対して、入力軸線Ji(入力ロッドRIの中心軸線)に沿って滑らかに移動可能である。第2ラックRSには、2つのラックギヤGc、Gdが形成される。つまり、第2ラックRSには、第2入力ラックギヤ(「第2入力ギヤ」)Gcが形成され、その反対側に、第2入力ギヤGcとは別の第2出力ラックギヤ(「第2出力ギヤ」ともいう)Gdが切られている。第2入力ギヤGcは、第2ピニオンギヤPSに咬み合わされ、第2出力ギヤGdは、出力ピニオンギヤPOに咬み合わされる。従って、第2電気モータMSの出力は、動力伝達機構(第2ピニオンギヤPS、第2ラックRS、出力ピニオンギヤPO)を介して、回転運動から並進運動に変換され、出力ロッドROに伝達される。
【0037】
出力ピニオンギヤPOは、出力ロッドROに、回転シャフトPoによって回転可能な状態で固定される。出力ロッドROは、ハウジングHGに対して、出力軸線Jo(出力ロッドROの中心軸線)に沿って滑らかに移動可能である。出力軸線Joの方向における出力ピニオンギヤPOの直線変位が、「出力変位So」と称呼される。出力ピニオンギヤPOと出力ロッドROとは、一体となって、中心軸Joの方向に移動されるため、出力ロッド変位Sqと出力変位Soとは等しい(即ち、「Sq=So」)。
【0038】
中心軸線Jiと中心軸線Joとは平行な別軸である。第1、第2ラックRF、RS、及び、出力ロッドROは、ハウジングHGに対して、中心軸線Ji(=中心軸線Jo)に沿って滑らかに移動可能である。つまり、差動機構SDにおいて、第1、第2ラックRF、RS、及び、出力ロッドROは、夫々が平行、且つ、直線的に相対運動することができる(換言すれば、相対的な移動が許容される)。出力ピニオンギヤPOは、第1ラックRFの第1出力ギヤGb、及び、第2ラックRSの第2出力ギヤGdに咬み合わされる。
【0039】
第1ピニオンギヤPF、及び、第1入力ギヤGaの組み合わせ(ラック&ピニオン機構)が、「第1伝達機構」である。第1伝達機構によって、第1電気モータMFの動力が入力ロッドRIに伝達される。第2ピニオンギヤPSと第2入力ギヤGcとの組み合わせ、及び、出力ピニオンPOと第2出力ラックギヤGdとの組み合わせが、「第2伝達機構」である。第2伝達機構によって、第2電気モータMSの動力が、出力ロッドROに伝達される。出力ピニオンギヤPOと第1出力ギヤGbとの組み合わせが、「第3伝達機構」である。第3伝達機構によって、入力ロッドRIの出力が、出力ロッドROに伝達される。3つの伝達機構によって構成された差動機構SDによって、入力ロッドRIと出力ロッドROとの間の相対的な動きが調整される。
【0040】
入力弾性体DNによって、入力ロッドRIと第1ラックRFとが接続される。入力弾性体DNは、中心軸Ji方向の変形によって、弾性力を発生し、発生された力が、制動操作部材BPの操作力Fpとして作用する。入力弾性体DNとして、圧縮ばねが採用される。また、入力弾性体DNとして、有機高分子を主成分とする、弾性限界が高いゴム(例えば、ウレタンゴム)が用いられてもよい。入力弾性体DNでは、力が小さい場合に比べ、力が大きい場合(つまり、変形量が小さい場合に比べ、変形量が大きい場合)に、剛性(力に対する、変形し難さの度合い)が大きくなる非線形特性のものが好ましい。これにより、操作変位Spが小さい場合には、操作力Fpの分解能が向上されるともに、電源失陥時等において、過大な操作変位Spが抑制され得る。
【0041】
戻し弾性体DFが、ハウジングHGと第1ラックRFとの間に設けられる。戻し弾性体DF(例えば、圧縮ばね)によって、第1ラックRFは、後退方向Hbに押圧される。非制動時(即ち、「Sp=Si=0」の場合)には、戻し弾性体DFによって、第1ラックRFがストッパSTに押し付けられる。戻し弾性体DFによって、第1ラックRF(即ち、制動操作部材BP)が、その初期位置に確実に戻される。
【0042】
[アクチュエータACの作動]
アクチュエータACの作動について説明する。上述したように、各構成要素の動きにおいて、「前進方向Ha、Hc、He」の移動は、ホイールシリンダCWの液圧(制動液圧)Pwの増加に相当する。前進方向の直線運動は、第1、第2電気モータMF、MSの「正転方向Ra、Rc」の回転運動に対応する。また、前進方向Ha、Hc、Heとは逆の方向である、「後退方向Hb、Hd、Hg」の移動は、制動液圧Pwの減少に相当する。そして、後退方向の直線運動は、第1、第2電気モータMF、MSの「逆転方向Rb、Rd」の回転運動に対応する。
【0043】
制動操作変位Spが増加され、入力ロッドRIが前進方向Ha(操作変位Spの増加に対応)に移動されると、第1電気モータMFは正転方向Raに駆動される。これにより、第1電気モータMFの回転動力は、第1ピニオンギヤPFを介して第1ラックRFに伝達され、第1ラックRFは、前進方向Haに押圧される。
【0044】
入力ロッドRIの前進方向Haへの移動は、第1ラックRF、及び、出力ピニオンギヤPOを介して出力ロッドROに伝達される。これにより、出力ロッドROも前進方向Heに移動されようとする。しかしながら、出力ロッドROの移動は、第2電気モータMSによって駆動される第2ラックRS(中間部材)の動き(変位)に依存する。つまり、第1、第2電気モータMF、MSが制御されることによって、第1ラックRF(入力部材)の変位Sfと、出力ロッドRO(即ち、出力部材である出力ピニオンギヤPO)の変位Sqとは、独立して調整可能である。
【0045】
発電機GNが回生制動力を発生し、回生制動力が車両の減速において十分に足りている場合、摩擦制動力を発生させる必要はない。従って、制動操作部材BPによって入力ロッドRIが前進方向Haに移動されても、出力ロッドROは前進方向Heには移動されず、制動液圧Pwの発生が妨げられる。具体的には、第2電気モータMSが、逆転方向Rdに駆動され、第2ラックRSは後退方向Hdに移動される。これによって、第1ラックRFからの動力伝達が相殺されるため、出力ロッドROの変位Sqの発生が回避(減少)される。これにより、駆動モータ(発電機)GNにより十分なエネルギ回生が行われ得る。
【0046】
車輪WHの回転速度Vwが低下し、回生制動力が車両の要求減速に対して不足する場合、摩擦制動力(即ち、制動液圧Pwの上昇)が必要になってくる。この場合、第2電気モータMSが、停止、又は、正転方向Rcに駆動されて、第2ラックRSが停止、又は、前進方向Hcに移動される。これによって、出力ロッドROは前進方向Heに移動され、回生制動力と摩擦制動力とが協調して制御される。さらに、回生制動力が発生されなくなる場合、第2電気モータMSが、正転方向Rcに駆動されて、出力ロッドROが前進方向Heに移動され、制動操作変位Spに応じて摩擦制動力が増加される。
【0047】
<第1、第2電気モータMF、MSの駆動処理>
図3の機能ブロック図を参照して、第1、第2電気モータMF、MSの駆動処理について説明する。差動機構SDを構成する2つの電気モータMF、MSの出力が調整されることによって、入力ロッドRIに作用する力Fp(即ち、制動操作部材BPの操作力Fp)と出力ロッドROの変位Sq(即ち、制動液圧制動液圧Pw)とが、独立、且つ、個別に調整される。
【0048】
[第1電気モータMFの駆動処理]
第1電気モータMFを駆動する演算処理は、目標操作力演算ブロックFT、目標変形量演算ブロックCD、第1目標変位演算ブロックKR、及び、第1フィードバック制御ブロックFAを含んで構成される。
【0049】
目標操作力演算ブロックFTにて、操作変位Sp、及び、演算マップZftに基づいて、目標操作力Ftが演算される。目標操作力Ftは、制動操作部材BPに作用する操作力Fpの目標値である。具体的には、演算マップZftに基づいて、目標操作力Ftは、操作変位Spが増加するにつれて、増加するよう決定される。例えば、演算マップZftでは、目標操作力Ftは、「Sp=0」の場合に、所定値foに決定される。所定値foは、戻し弾性体DFの取付荷重に相当する。そして、目標操作力Ftは、操作変位Spの増加に従って、下に凸の特性で増加される。つまり、操作変位Spが小の場合には、目標操作力Ftの増加勾配は相対的に小さく、操作変位Spが増加するに応じて、目標操作力Ftの増加勾配が増加される。操作変位Spが小さい制動初期には、操作力Fpについて、十分な分解能が確保され、制御性が向上される。操作変位Spが大きい場合には、僅かな操作変位Spの増加で、十分な車両減速が確保されるため、高剛性な操作感が実現され得る。
【0050】
目標変形量演算ブロックCDにて、目標操作力Ft、及び、演算マップZcd(「第1演算マップ」に相当)に基づいて、目標変形量Cdが演算される。目標変形量Cdは、目標操作力Ftを達成するための、入力弾性体DNの変形量(中心軸線Jiに沿った方向の縮み量)の目標値である。操作力Fpは、入力弾性体DNを変形させることによって発生されるため、第1演算マップZcdは、入力弾性体DNの剛性(単位変形に必要な力の関係「荷重/変形量」)に基づいて設定される。
【0051】
第1目標変位演算ブロックKRにて、操作変位Sp、及び、目標変形量Cdに基づいて、目標変位Krが演算される。目標変位Krは、第1ラックRFの変位(入力変位)Sfの目標値である。目標変位Krは、目標操作力Ftが達成されるよう、入力弾性体DNが目標変形量Cdだけ縮められたことを考慮して決定される。具体的には、第1目標変位演算ブロックKRでは、操作変位Spが、入力ロッドRIでの変位(入力ロッド変位)Siに換算される。この換算値Siから目標変形量Cdが減算され、第1ラックRFの変位(入力ラック変位)Sfの目標値Krが演算される。換言すれば、入力ロッド変位Siと入力ラック変位Sfとの差が、目標変形量Cdに一致するよう、目標変位Krが決定される。
【0052】
例えば、目標変位Krは、第1電気モータMFの回転角の次元で演算され得る。第1ラック(入力ラック)RFでの目標とする変位が、第1ピニオンギヤPF、及び、第1入力ギヤGaの諸元に基づいて変換され、第1電気モータMFでの目標変位(「回転角目標値」に相当)Krが演算される。換言すれば、目標回転角Krが達成されると、その結果として、目標操作力Ftが達成される。
【0053】
第1フィードバック制御ブロックFAにて、実際の第1回転角Kf(回転角実際値)、及び、目標回転角Kr(回転角目標値)に基づいて、第1実回転角Kfが第1目標回転角Krに一致するよう、第1電気モータMFが、回転角に係るフィードバック制御される。具体的には、第1フィードバック制御ブロックFAでは、第1目標回転角Kr、及び、第1実回転角Kfの偏差hKが演算される。そして、第1電気モータ制御ブロックにて、第1回転角偏差hKが「0」に近づくように、第1電気モータMFへの目標通電量Irが決定される。更に、目標通電量Ir、及び、実際の通電量Ifに基づいて、第1電気モータMFの駆動信号が決定され、駆動回路DRが制御される。フィードバック制御のマイナーループとして、所謂、通電量(例えば、電流)に係るフィードバック制御が実行されてもよい。ここで、実際の回転角Kfは、第1電気モータMFに設けられた第1回転角センサKFによって検出され、実際の通電量Ifは、駆動回路DRに設けられた第1通電量センサIFによって検出される。
【0054】
以上では、第1電気モータMFのフィードバック制御において、物理量として、第1電気モータMFの回転角が利用された。これに代えて、物理量として、第1ラックRFの変位(入力ラック変位)が用いられ得る。具体的には、操作変位Sp、及び、目標変形量Cdに基づいて、第1ラックRFにおける目標変位Krが演算される(即ち、「Kr=Sp-Cd」)。そして、目標変位Kr、及び、第1ラックRFの実際の変位(入力ラック変位の検出値)Sfに基づいて、実変位Sfが目標変位Krに近付くように、第1電気モータMFがフィードバック制御される。なお、第1ラック(入力部材)RFには、実ラック変位Sfを検出するよう、入力ラック変位センサが設けられる。
【0055】
[第2電気モータMSの駆動処理]
第2電気モータMSを駆動する演算処理は、要求液圧演算ブロックPQ、要求回生量演算ブロックRQ、最大回生量演算ブロックRX、回生液圧演算ブロックPG、及び、第2フィードバック制御ブロックFBを含んで構成される。
【0056】
要求液圧演算ブロックPQにて、操作変位Sp、及び、演算マップZpq(「第2演算マップ」に相当)に基づいて、要求液圧Pqが演算される。要求液圧Pqは、制動液圧Pw(=Pm)の目標値である。具体的には、演算マップZpqに基づいて、要求液圧Pqは、操作変位Spが増加するにつれて、増加するよう決定される。例えば、演算マップZpqでは、「Sp=0」の場合に、「Pq=0」に決定される。そして、操作変位Spの増加に従って、要求液圧Pqは「下に凸」の特性で増加される。つまり、操作変位Spが小の場合には、要求液圧Pqの増加勾配は相対的に小さく、操作変位Spが増加するに応じて、要求液圧Pqの増加勾配が増加される。
【0057】
第2演算マップZpqは、出力変位So(即ち、出力ロッドRO、及び、ピストンPA、PBの変位)に対する制動液圧Pw(=Pm)の関係に基づいて設定される。制動液圧Pwは、ホイールシリンダCW内に流入する制動液BFの量(体積)に依存して増加される。制動液BFの流入量(体積)と、制動液圧Pwの増加量との関係は、車輪周りに配置された部材(キャリパCP、流体路(液圧配管、ホース)、摩擦材等)の剛性、及び、部材間の隙間に基づく。これらの部材に消費される制動液BFの量が、「消費液量」と称呼される。消費液量によって、マスタシリンダCMの制動液BFの吐出量(即ち、出力変位So)に対する制動液圧Pwの増加量の関係が定まり、この関係に応じて、演算マップZpqが設定される。
【0058】
要求回生量演算ブロックRQにて、操作変位Sp、及び、演算マップZrqに基づいて、要求回生量Rqが演算される。要求回生量Rqは、発電機GNによる回生量(結果、回生制動力)の目標値である。具体的には、演算マップZrqに基づいて、操作変位Spの増加に従って、要求回生量Rqが増加するよう演算される。
【0059】
最大回生量演算ブロックRXにて、車体速度Vx、及び、演算マップZrxに基づいて、回生可能な最大値(「最大回生量」という)Rxが演算される。最大回生量Rxは、回生制動力の最大値に対応している。発電機GNの回生量は、駆動コントローラECDのパワートランジスタ(IGBT等)の定格、及び、バッテリの充電受入性によって制限される。例えば、発電機GNによる回生量は、所定の電力(単位時間当りの電気エネルギ)に制御される。電力(仕事率)が一定であるため、発電機GNによる車輪軸まわりの回生トルクは、車輪WHの回転数(つまり、車体速度Vx)に反比例する。また、発電機GNの回転数Ngが低下すると、回生量は減少する。更に、回生量には、上限値rxが設けられる。
【0060】
以上のことから、最大回生量Rx用の演算マップZrxでは、車体速度Vxが、「0」以上、第1所定速度vo未満の範囲では、車体速度Vxの増加に従って、最大回生量Rxが増加するように設定される。また、車体速度Vxが、第1所定速度vo以上、第2所定速度vp未満の範囲では、最大回生量Rxは、上限値rxに決定される。そして、車体速度Vxが、第2所定速度vp以上では、車体速度Vxが増加するに従って、最大回生量Rxが減少するように設定されている。例えば、最大回生量Rxの減少特性(「Vx≧vp」の特性)では、車体速度Vxと最大回生量Rxとの関係は双曲線で表される(即ち、回生電力が一定)。ここで、各所定値vo、vpは予め設定された定数である。なお、演算マップZrxでは、車体速度Vxに代えて、発電機GNの回転数Ngが採用されてもよい。
【0061】
回生液圧演算ブロックPGにて、要求回生量Rq、及び、最大回生量Rxに基づいて、回生液圧Pgが演算される。回生液圧Pgは、回生量が、制動液圧と同じ次元に変換された値である。先ず、回生液圧演算ブロックPGにて、要求回生量Rqと最大回生量Rxとが比較される。そして、要求回生量Rq、及び、最大回生量Rxのうちで、大きい方の値が、目標回生量Rtとして決定される。そして、目標回生量Rtが、液圧に変換され、回生液圧Pgが演算される。換言すれば、回生液圧演算ブロックPGでは、要求回生量Rqに最大回生量Rxの制限が加えられて目標回生量Rtが演算され、それが液圧変換されて、回生液圧Pgが決定される。なお、目標回生量Rtは、通信バスBSを介して、駆動用のコントローラECDに送信される。コントローラECDによって、目標回生量Rtに基づいて発電機GNが制御され、実際の回生量Rgが達成される。
【0062】
目標液圧Pt(「液圧目標値」に相当)が、要求液圧Pq、及び、回生液圧Pgに基づいて決定される。具体的には、要求液圧Pqから回生液圧Pgが減算されて、目標液圧Ptが演算される(即ち、「Pt=Pq-Pg」)。目標液圧Ptは、摩擦制動力を発生させるための、制動液圧Pwの目標値である。
【0063】
第2フィードバック制御ブロックFBにて、制動液圧Pw、及び、目標液圧Ptに基づいて、制動液圧Pw(「液圧実際値」に相当)が目標液圧(液圧目標値)Ptに一致するよう、第2電気モータMSが、液圧フィードバック制御される。具体的には、第2フィードバック制御ブロックFBでは、目標液圧Pt、及び、制動液圧Pwの偏差hPが演算される。そして、第2電気モータ制御ブロックにて、偏差hPが「0」に近づくように、第2電気モータMSへの目標通電量Itが決定される。更に、目標通電量It、及び、実際の通電量Isに基づいて、第2電気モータMSの駆動信号が決定され、駆動回路DRが制御される。フィードバック制御のマイナーループとして、所謂、回転角(例えば、回転数)に係るフィードバック制御、及び/又は、通電量(例えば、電流)に係るフィードバック制御が実行される。ここで、制動液圧(実際値)Pwは、モジュレータYLに設けられた制動液圧センサPWによって、第2回転角(実際値)Ksは、第2電気モータMSに設けられた第2回転角センサKSによって、実際の通電量Isは、駆動回路DRに設けられた第2通電量センサISによって、夫々、検出される。
【0064】
下流側流体ユニット(液圧モジュレータ)YLが駆動されていない場合には、マスタシリンダ液圧Pmは、制動液圧Pwに一致する。このため、制動液圧Pwに代えて、マスタシリンダ液圧Pmが採用されてもよい。マスタシリンダ液圧Pm(「液圧実際値」に相当)は、マスタシリンダCM、又は、モジュレータYLに設けられたマスタシリンダ液圧センサPMによって検出される。
【0065】
各変位センサ(操作変位センサSP、第1回転角センサKF、第2回転角センサKS等)は、ハウジングHG(又は、車体BD)に固定されている。従って、変位に係る状態量(操作変位Sp、入力ロッド変位Si、入力ラック変位Sf、出力ピニオンギヤ変位So、出力ロッド変位Sq、第1回転角Kf、第2回転角Ks、第1目標変位Kr、第2目標変位Kt等)は、ハウジングHG(即ち、車体BD)を基準とした値である。また、目標変形量Cdは、入力ロッド変位Si、及び、入力ラック変位Sfの間の相対的な値(差分)である。
【0066】
<第2フィードバック制御ブロックFBの変形例>
図4の機能ブロック図を参照して、第2フィードバック制御ブロックFBの変形例について説明する。例では、液圧に基づくフィードバック制御に回転角に基づくフィードバック制御が加えられ、第2電気モータMSが制御される。
【0067】
第2フィードバック制御ブロックFBには、第2目標変位演算ブロックKTが含まれる。第2目標変位演算ブロックKTにて、目標液圧Pt、及び、演算マップZktに基づいて、第2目標変位Ktが演算される。第2目標変位(第2目標回転角)Ktは、目標液圧Ptに対応した、第2電気モータMSの回転角の目標値である。具体的には、演算マップZktに基づいて、目標液圧Ptが増加するに従って、第2目標回転角Ktが増加するよう決定される。なお、演算マップZktは、上記消費液量に基づく。
【0068】
第2目標回転角Kt、及び、実際の回転角(検出値であり、第2実回転角)Ksに基づいて、回転角偏差hLが演算される(即ち、「hL=Kt-Ks」)。第2電気モータ制御ブロックによって、液圧偏差hP、及び、第2回転角偏差hLのうちの少なくとも1つが「0」に近付くように、第2電気モータMSがフィードバック制御される。第2電気モータ制御ブロックでは、液圧偏差hP、及び、回転角偏差hLに基づいて、第2電気モータMSの目標通電量Itが決定される。第2電気モータ制御ブロックには、寄与度演算ブロックが含まれ、目標液圧Ptに基づいて目標通電量Itを演算する場合において、液圧偏差hPの寄与度と回転角偏差hLの寄与度とが調整される。具体的には、目標液圧Ptが相対的に小さい場合には、液圧偏差hPの寄与度が小さくされ、回転角偏差hLの寄与度が大きくされる。一方、目標液圧Ptが相対的に大きい場合には、液圧偏差hPの寄与度が小とされ、回転角偏差hLの寄与度が大とされる。つまり、目標通電量Itの演算において、目標液圧Ptが小である場合には、回転角フィードバック制御の重み付けが大きくされ、目標液圧Ptが大である場合には、液圧フィードバック制御の重み付けが大きくされる。
【0069】
制動液圧Pw(=Pm)と出力変位So(=Sq)と間には相互関係(上述した消費液量の特性)が存在する。この相互関係では、目標液圧Ptが小さい領域には、実際の液圧(検出液圧)Pw、Pmの分解能が相対的に低くなる。この領域で、回転角偏差hLの重みが大きくされることにより、第2電気モータMSが高精度で制御され、制動液圧Pwの調圧精度が向上され得る。
【0070】
以上では、第2目標変位Ktの物理量として、第2電気モータMSの回転角が採用された。これに代えて、目標変位Ktの物理量として、出力ロッドROの変位Sq(=So)が採用され得る。この場合、実際の出力変位Soを検出するよう、出力ロッドROには、出力変位センサが設けられる。そして、実際の出力変位Soが、第2目標変位Ktに一致するよう、第2電気モータMSがフィードバック制御される。
【0071】
なお、第2フィードバック制御ブロックFBにおいて、液圧偏差hPに基づくフィードバック制御が省略され、変位(例えば、回転角)に基づくフィードバック制御のみによって、第2電気モータMSが駆動されてもよい。この場合、液圧センサPW、PMは省略され得る。
【0072】
<差動機構SDの第2構成例>
図5の概略図を参照して、差動機構SDの第2の構成例について説明する。第1の構成例では、差動機構SDは、ラック&ピニオン機構によって形成された。しかし、第2の構成例では、差動機構SDは、遊星歯車機構によって構成される。
【0073】
ハウジングHGの内部に、第1、第2電気モータMF、MSが固定される。第1電気モータMFの出力シャフトには、第1モータギヤGFが固定される。同様に、第2電気モータMSの出力シャフトには、第2モータギヤGSが固定される。
【0074】
入力ロッドRIの直線運動(入力ロッド変位Si)が、入力変換機構HJによって、入力ロッドギヤGJの回転運動に変換される。ここで、入力変換機構HJは、回転運動と直動運動との間の動力変換機構である。例えば、入力ロッドRIには、入力おねじOJが形成され、入力おねじOJは入力めねじMJと螺合される。入力めねじMJの外周部には、入力ロッドギヤGJが固定されている。入力ロッドギヤGJと伝達シャフトギヤGIとが咬み合わされ、伝達シャフトギヤGIと第1モータギヤGFとが咬み合わされる。
【0075】
伝達シャフトギヤGIは、入力弾性体DNを介して、遊星歯車機構の太陽ギヤGS(「入力部材」に相当)に接続される。太陽ギヤGSは、遊星ギヤGPと咬み合わされ、遊星ギヤGPは、内環状ギヤ(リングギヤともいう)GU(「中間部材」に相当)と咬み合わされる。内環状ギヤGUの外周部には、ギヤが形成され、第2モータギヤGSと咬み合わされている。また、複数の遊星ギヤGPは、遊星キャリヤPCによって保持される。遊星キャリヤPC(「出力部材」に相当)には、出力キャリヤギヤGOが固定される。即ち、太陽ギヤGS等によって、遊星歯車機構が構成されている。
【0076】
入力ロッドRIとは逆に、遊星歯車機構からの回転出力が、遊星キャリヤPCから出力され、出力変換機構HKを介して、出力ロッドROの直線運動(出力ロッド変位Sq)に変換される。入力変換機構HJと同様に、出力変換機構HKは、回転運動と直動運動との間の動力変換機構である。例えば、出力ロッドROには、出力おねじOKが形成され、出力おねじOKは出力めねじMKと螺合される。出力めねじMKの外周部には、出力ロッドギヤGKが固定され、出力ロッドギヤGKと出力キャリヤギヤGOとが咬み合わされる。
【0077】
入力ロッドRIの中心軸線Ji、遊星歯車機構の回転軸線、及び、出力ロッドROの中心軸線Joは、夫々が平行であり、別軸である。また、入力、出力ロッドRI、ROは、ハウジングHGに対して、中心軸線Ji方向に滑らかにスライドできるように、ハウジングHGに固定されている。
【0078】
差動機構SDの第2の構成例では、入力ロッドRIの直線運動(即ち、入力軸線Jiに沿った入力ロッド変位Si)は、直動・回転変換機構(例えば、ラック&ピニオン機構、ねじ機構、等)によって回転運動に変換される。この回転運動は、遊星歯車機構の太陽歯車(入力部材)GSに、入力弾性体DNを介して、入力変位(入力回転角)Rfとして入力される。弾性体DNとして、ねじりによって弾性力を発生するもの(例えば、トーションバー)が採用され得る。つまり、弾性体DNのねじり変形によって、操作力Fpが発生される。
【0079】
差動機構SDの出力は、遊星歯車機構の遊星キャリヤ(出力部材)PCから回転運動(即ち、出力変位Ro)として出力される。出力変位(出力回転角)Roは、直動・回転変換機構によって、出力ロッドROの直線変位(即ち、出力軸線Joに沿った出力ロッド変位Sq)に変換される。第2の構成例でも、第1、第2電気モータMF、MSの制御処理は、第1の構成例と同じである(
図3、4参照)。第1、第2電気モータMF、MSが制御されることによって、太陽ギヤ(入力部材)GSの回転角(入力変位)Rfと、遊星キャリヤPC(出力部材)の回転角(出力変位)Roとは、独立して、個別に調整される。なお、各変位センサ(SP、KF、KS等)は、ハウジングHG(又は、車体BD)に固定されているため、第2の構成例の演算処理においても、各変位(Si、Rf、Ro、Sq等)は、ハウジングHG(又は、車体BD)を基準とした値である。また、弾性体DNの目標変形量Cdは、伝達シャフトギヤGIと太陽ギヤGSとの回転角差に係る。
【0080】
<作用・効果>
本発明に係る制動制御装置SCについてまとめる。
制動制御装置SCによって、制動操作部材BPの操作変位Spに応じて、制動液BFが、マスタシリンダCMからホイールシリンダCWに圧送され、ホイールシリンダCWに制動液圧Pwが発生される。制動制御装置SCは、入力ロッドRI、出力ロッドRO、差動機構SD、及び、コントローラECUにて構成される。入力ロッドRIは制動操作部材BPに接続され、出力ロッドROはマスタシリンダCM内に設けられたピストンPAに接続される。
【0081】
差動機構SDは、入力部材(第1ラックRF、太陽ギヤGS)、出力部材(出力ピニオンギヤPO、遊星キャリヤPC)、第1電気モータMF、及び、第2電気モータMSを含んでいる。入力部材RF、GSは弾性体DNを介して入力ロッドRIと接続される。また、出力部材PO、PCは出力ロッドROに接続される。そして、第1電気モータMF、及び、第2電気モータMSによって、入力部材RF、GSの入力変位Sf、Rfと、出力部材PO、PCの出力変位So、Roとが、独立、且つ、個別に調整される。ここで、第1電気モータMF、及び、第2電気モータMSは、コントローラECUによって制御される。
【0082】
具体的には、コントローラECUによって、操作変位Sp、及び、弾性体DNの剛性に応じた第1演算マップZcdに基づいて、第1電気モータMFが制御され、入力変位Sf、Rfが調整される。また、操作変位Sp、及び、出力変位So、Roに対する制動液圧Pwの関係に応じた第2演算マップZpqに基づいて、第2電気モータMSが制御され、出力変位Soが調整される。
【0083】
例えば、操作変位Sp、及び、第1演算マップZftに基づいて第1電気モータMFの回転角目標値Kr(目標変位)が演算され、回転角実際値Kf(実変位)が回転角目標値Krに一致するよう、第1電気モータMFが制御される。また、操作変位Sp、及び、第2演算マップZpqに基づいて、液圧目標値Ptが演算され、液圧実際値Pm、Pwが液圧目標値Ptに一致するよう、第2電気モータMSが制御される。ここで、回転角実際値Kfは、第1回転角センサKFによって検出され、液圧実際値Pm、Pwは、液圧センサPM、PWによって検出される。
【0084】
制動制御装置SCでは、2つの電気モータの協働によって、制動操作部材BPの操作特性が調整される。このため、装置が小型化され得るとともに、操作速度の影響を受けず、操作特性が好適に調整され得る。つまり、ソレノイドが苦手とする、操作速度が遅い場合(即ち、制動操作部材BPが緩やかに操作される場合)であっても、操作特性が意図した通りに制御され得る。
【0085】
加えて、操作特性の調整に弾性体DNが利用される。例えば、操作力センサを設け、電気モータによって、操作力を直接制御することも可能ではあるが、検出された結果として、操作力が調整されるため、制御遅れが生じ得る。制動制御装置SCでは、操作力の発生に入力弾性体DNが用いられ、入力弾性体DNの変位(圧縮)によって、操作力Fpが発生される。このため、制御遅れの影響が回避され、操作力Fpの変動が抑制された、好適な操作特性が達成され得る。
【0086】
例えば、非線形剛性を有する入力弾性体DN(例えば、ウレタンゴムのような弾性ゴム)が採用され得る。具体的には、入力弾性体DNとして、操作力Fpが小さい場合には、相対的に剛性が小さく、操作力Fpが大きい場合には、相対的に剛性が大きいものが用いられる。このような剛性(力に対する変形量)が採用されることにより、操作変位Spが小さい場合には、入力弾性体DNの変形量が大きくなり、操作力Fpの分解能が十分に確保される。また、操作変位Spが大きい場合には、入力弾性体DNの圧縮変形が小さくなるため、「電源失陥時等において、過大な操作変位Spが生じること」が回避される。
【0087】
<他の実施形態>
以下、他の実施形態(変形例)について説明する。制動制御装置SCは、上記同様の効果を奏する。
上記の実施形態では、2系統の液圧回路(制動配管の構成)として、ダイアゴナル型(「X型」ともいう)が例示された。これに代えて、前後型(「H型」ともいう)の構成が採用され得る。この場合、第1流体路HAが前輪ホイールシリンダCWi、CWjに流体接続され、第2流体路HBが後輪ホイールシリンダCWk、CWlに流体接続される。
【0088】
上記の実施形態では、回転部材KT(即ち、車輪WH)に制動トルクを付与する装置として、ディスク型制動装置が例示された。これに代えて、ドラム型制動装置(ドラムブレーキ)が採用され得る。ドラムブレーキの場合、キャリパCPに代えて、ブレーキドラムが採用される。また、摩擦部材はブレーキシューであり、回転部材KTはブレーキドラムである。
【0089】
上記の実施形態では、発電機GNとして、駆動用の電気モータが採用される例について説明した。しかし、発電機GNとして、駆動用としては機能せず、発電機能のみを有するものが採用され得る。この場合でも、発電機GNは、車輪WHに機械接続され、車両減速時には、車両の運動エネルギが電力として回生される。このとき、車輪WHには、回生制動力が付与される。
【0090】
上記の実施形態では、制動制御装置SCは、発電機GNを有する電気自動車、又は、ハイブリッド自動車に適用された。しかし、制動制御装置SCは、発電機GNを有さない、一般的な内燃機関を備える車両に適用してもよい。
【0091】
上記の実施形態では、制動液圧Pw、及び、マスタシリンダ液圧Pmのうちの少なくとも1つに基づいて、第2電気モータMSの液圧フィードバック制御が実行された。第2電気モータMSへの通電量は、その出力トルクと、略比例関係にある。また、該出力トルクは、制動液圧Pwと相関関係がある。従って、目標液圧Ptに応じて、第2電気モータMSの出力トルクが調整されてもよい。この場合、液圧センサPW、PMは省略され得る。
【0092】
上記の実施形態では、制動用のコントローラECUにて、目標回生量Rtが演算され、回生液圧Pgが決定された。これに代えて、駆動用のコントローラECDにて、目標回生量Rtが決定され得る。例えば、要求回生量演算ブロックRQ、及び、最大回生量演算ブロックRXの演算は、コントローラECDにて処理される。この場合、駆動コントローラECDから通信バスBSを通して、実際の回生量Rgが、制動コントローラECUに送信される。回生液圧演算ブロックPGでは、実際の回生量Rgに基づいて、回生液圧Pgが演算される。
【符号の説明】
【0093】
BP…制動操作部材、SP…操作変位センサ、CW…ホイールシリンダ、CM…マスタシリンダ、PA…第1ピストン、PB…第2ピストン、AC…制動アクチュエータ、SD…差動機構、MF…第1電気モータ、MS…第2電気モータ、RI…入力ロッド、RO…出力ロッド、RF…第1ラック(入力部材)、RS…第2ラック、PF…第1ピニオンギヤ、PS…第2ピニオンギヤ、PO…出力ピニオンギヤ(出力部材)、DN…入力弾性体、ECU…コントローラ、Sp…操作変位、Sf…入力変位、So…出力変位、Rf…入力変位、Ro…出力変位。