(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】セレン含有水の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/70 20060101AFI20220329BHJP
C02F 1/28 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
C02F1/70 Z
C02F1/28 A
(21)【出願番号】P 2018034935
(22)【出願日】2018-02-28
【審査請求日】2020-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】原口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】林 浩志
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-013533(JP,A)
【文献】特開2009-056379(JP,A)
【文献】特開2006-263699(JP,A)
【文献】特開2011-050809(JP,A)
【文献】特開2001-079565(JP,A)
【文献】特開2006-102559(JP,A)
【文献】特開2006-289338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/70 - 1/78
C02F 1/28
1/58 - 1/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セレン含有水に還元性鉄化合物を添加し、あるいはセレン含有水中で還元性鉄化合物を生成させ、該還元性鉄化合物を含むセレン含有水を反応槽に導き、アルカリ液性下および非酸化性雰囲気下で上記鉄化合物の還元力によって液中のセレンを還元して沈澱化し、生成した沈澱を固液分離してセレンを系外に除去する方法において、
還元性鉄化合物として、第一鉄と第二鉄を含み、第一鉄と全鉄の比〔Fe(II)/全Fe〕が0.3~0.85の混合水酸化物であるグリーンラストを用い、
上記反応槽の作用を二段階に分け、第一段階で該反応槽をpH8.0~8.5および酸化還元電位-140mVvs.SHE以下に調整して液中のセレンを
上記グリーンラストに吸着させ、
次の第二段階でpH9.5~11に調整して上記
セレンを金属セレンに還元し、沈澱させることを特徴とするセレン含有水の処理方法。
【請求項2】
セレン含有水に上記グリーンラストを添加して反応槽に導き、該反応槽をpH8.0~8.5および酸化還元電位-140mVvs.SHE以下に調整して液中のセレンを該グリーンラストに吸着させ、その後、この反応槽にアルカリを添加してpH9.5~11に調整して上記セレンを金属セレンに還元する請求項1に記載する
セレン含有水の処理方法。
【請求項3】
反応槽として第一反応槽と第二反応槽を用い、セレン含有水に
上記グリーンラストを添加して第一反応槽に導き、該第一反応槽においてpH8.0~8.5および酸化還元電位-140mVvs.SHE以下に調整して液中のセレンを
上記グリーンラストに吸着させ、これを第二反応槽に導き、該第二反応槽にアルカリを添加してpH9.5~11に調整してセレンを金属セレンに還元する
請求項1に記載する
セレン含有水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セレンを含む廃水等から迅速にセレンを除去する処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃水等に含まれる汚染物質の一例としてセレンが知られている。通常、廃水等に含まれるセレンは、亜セレン酸イオン[SeO3
2-](4価セレン)やセレン酸イオン[SeO4
2-](6価セレン)の形態で液中に存在する。セレンについて排出基準が厳しく規制されており、廃水中のセレンを規制値以下に除去することが求められる。
【0003】
従来、廃水に含まれるセレンの除去方法として、重金属含有廃水に第一鉄イオン等を添加し、pH5以上に調整して鉄フェライトまたは疑似鉄フェライトを生成させ、生成したフェライト汚泥を固液分離すると共に、その一部を反応槽に返送して汚泥循環することによって重金属類を廃水から除去する処理方法が知られている(特許文献1)。この方法は、フェライト汚泥(FeO・Fe2O3)を利用してセレンを還元して沈澱化しているが、この方法のフェライト汚泥は還元力が弱く、セレンの除去効果には限界がある。
【0004】
従来の上記フェライト法を改善した処理方法も知られている(特許文献2)。この処理方法は、重金属類を含有する廃水に還元性鉄化合物(第一鉄化合物)を添加して反応槽に導き、該反応槽をpH8.5~11のアルカリ性に調整して、非酸化性雰囲気下でグリーンラストと鉄フェライトの混合物からなる沈澱(汚泥)を生成させると共に、該汚泥の還元力によって廃水中の溶存セレンを金属セレンに還元し、該金属セレンを汚泥に取り込ませて系外に除去する処理方法である。この方法は、沈澱が圧密化されるので液処理の負担が少なくかつ固液分離性が良く、常温でフェライト処理が可能であるので経済性および処理効果に優れており、重金属類を環境基準値0.01mg/L以下に低減することができる利点を有している。
【0005】
一方、特許文献2の処理方法は、廃水中のセレンの還元が比較的緩慢であるため、反応時間を十分に長く確保する必要がある。このため、設備を小型化し難く、処理する液量にも限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-321781号公報
【文献】特許第3956978号公報(特開2006-263699号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特許文献2の処理方法を更に改善して上記課題を解決したものであり、廃水中のセレンの還元反応を迅速に進めて反応時間を短縮し、設備の小型化や処理量の増加を可能にした方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の構成を有するセレン含有水の処理方法である。
〔1〕セレン含有水に還元性鉄化合物を添加し、あるいはセレン含有水中で還元性鉄化合物を生成させ、該還元性鉄化合物を含むセレン含有水を反応槽に導き、アルカリ液性下および非酸化性雰囲気下で上記鉄化合物の還元力によって液中のセレンを還元して沈澱化し、生成した沈澱を固液分離してセレンを系外に除去する方法において、
還元性鉄化合物として、第一鉄と第二鉄を含み、第一鉄と全鉄の比〔Fe(II)/全Fe〕が0.3~0.85の混合水酸化物であるグリーンラストを用い、
上記反応槽の作用を二段階に分け、第一段階で該反応槽をpH8.0~8.5および酸化還元電位-140mVvs.SHE以下に調整して液中のセレンを上記グリーンラストに吸着させ、
次の第二段階でpH9.5~11に調整して上記セレンを金属セレンに還元し、沈澱させることを特徴とするセレン含有水の処理方法。
〔2〕セレン含有水に上記グリーンラストを添加して反応槽に導き、該反応槽をpH8.0~8.5および酸化還元電位-140mVvs.SHE以下に調整して液中のセレンを該グリーンラストに吸着させ、その後、この反応槽にアルカリを添加してpH9.5~11に調整して上記セレンを金属セレンに還元する上記[1]に記載するセレン含有水の処理方法。
〔3〕反応槽として第一反応槽と第二反応槽を用い、セレン含有水に上記グリーンラストを添加して第一反応槽に導き、該第一反応槽においてpH8.0~8.5および酸化還元電位-140mVvs.SHE以下に調整して液中のセレンを上記グリーンラストに吸着させ、これを第二反応槽に導き、該第二反応槽にアルカリを添加してpH9.5~11に調整してセレンを金属セレンに還元する上記[1]に記載するセレン含有水の処理方法。
【0009】
〔具体的な説明〕
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の処理方法は、セレン含有水に還元性鉄化合物を添加し、あるいはセレン含有水中で還元性鉄化合物を生成させ、該還元性鉄化合物を含むセレン含有水を反応槽に導き、アルカリ液性下および非酸化性雰囲気下で上記鉄化合物の還元力によって液中のセレンを還元して沈澱化し、生成した沈澱を固液分離してセレンを系外に除去する方法において、
還元性鉄化合物として、第一鉄と第二鉄を含み、第一鉄と全鉄の比〔Fe(II)/全Fe〕が0.3~0.85の混合水酸化物であるグリーンラストを用い、
上記反応槽の作用を二段階に分け、第一段階で該反応槽をpH8.0~8.5および酸化還元電位-140mVvs.SHE以下に調整して液中のセレンを上記グリーンラストに吸着させ、
次の第二段階でpH9.5~11に調整して上記セレンを金属セレンに還元し、沈澱させることを特徴とするセレン含有水の処理方法である。
【0010】
セレン含有水は、例えば、非鉄製錬所の廃水、石炭火力発電所の廃水、廃棄物焼却施設の廃水、セメント工場のダスト洗浄廃水など、セレンを含む廃水等である。このセレン含有水に還元性鉄化合物を添加し、またはセレン含有水中で還元性鉄化合物を生成させる。
【0011】
還元性鉄化合物は、例えば、第一鉄と第二鉄を含む還元性の混合水酸化物である。具体的には、グリーンラスト(Green Rust)を用いることができる。グリーンラストは、第一鉄と第二鉄を含む層状の混合水酸化物であり、SO4
2-やCl-などの陰イオンを層間に取り込んだ構造を有しており、例えば、次式(1)によって表される。
〔FeII
(6-x)FeIII
x(OH)12〕x+〔Ax/n・yH2O〕x- …(1)
(0.9<x<4.2、Aは陰イオン)
【0012】
グリーンラストは、例えば、Fe(II)/全Fe比が0.3~0.85であり、第一鉄を含むことによって還元性を有する。液中の4価セレンまたは6価セレンはグリーンラストによって還元されて元素状セレン(金属セレン)になって沈澱し、グリーンラストに取り込まれる。一方、グリーンラスト自体は液中のセレンを還元すると酸化し、ゲーサイト(Goethite)などのオキシ水酸化鉄やマグネタイト(Magnetite)などの酸化鉄を生成する。
【0013】
グリーンラストは、例えば、実施例1に示すように、非酸化性雰囲気下で、硫酸第一鉄と硫酸第二鉄の混合液(Fe(II)/全Fe=0.3~0.85)に水酸化ナトリウムを添加しpH7.5前後で反応させることによって得ることができる。また、セレン含有水に、非酸化性雰囲気下で、硫酸第一鉄の溶液を添加し、第一鉄の一部を溶存酸素で第二鉄に酸化してから水酸化ナトリウムを添加しpH7.5前後で反応させることによっても得ることができる。
【0014】
本発明の処理方法は、上記還元性鉄化合物(以下、還元性鉄化合物とは第一鉄と第二鉄を含み、第一鉄と全鉄の比〔Fe(II)/全Fe〕が0.3~0.85の混合水酸化物であるグリーンラストを云う。)を含むセレン含有水を反応槽に導き、該反応槽の作用を二段階に分け、第一段階でpH8.0~8.5および酸化還元電位-140mVvs.SHE以下に調整して液中のセレンを還元性鉄化合物に吸着させ、次の第二段階でpH9.5~11に調整してセレンの還元沈澱化を促進させる。
【0015】
pH8.0~8.5の液性下では、セレンの還元は進まず、液中のセレンは還元性鉄化合物の表面に吸着される。酸化還元反応と比較して、吸着反応は短時間で進行するため、セレンは還元性鉄化合物沈澱の表面に迅速に吸着される。吸着のみでは液中の全てのセレンを除去することはできないが、この吸着によって液中のセレンの大部分を迅速に還元性鉄化合物の表面に濃集させることができる。
【0016】
反応の第一段階は、pH8.0~8.5および酸化還元電位-140mVvs.SHE以下に調整してセレンの吸着を進める。pH8.0未満では還元性鉄化合物であるグリーンラストが不安定になるので好ましくない。また、pH8.5を超えたり、酸化還元電位が-140mVvs.SHEより高くなると、セレンが十分に濃集しないうちにセレンの還元が始まって固形化するので、セレン除去に要する反応時間がかかるようになる。
【0017】
反応の第一段階でセレンの大部分を還元性鉄化合物の表面に濃集させた後に、反応の第二段階でpH9.5~11に調整してセレンの還元沈澱化を促進させる。次式に示すように、液中の亜セレン酸イオン[SeO3
2-](4価セレン)やセレン酸イオン[SeO4
2-](6価セレン)は、グリーンラストによって元素状セレン(金属セレン)に還元される。グリーンラストは酸化してゲーサイトおよびマグネタイトを生成する。
【0018】
SeO3
2-+6H++4e-→ Se(0)+3H2O
Fe(II)4Fe(III)2(OH)12SO4 → 6Fe(III)OOH+SO4
2-+6H++4e-
Fe(II)4Fe(III)2(OH)12SO4 → 2Fe(II)Fe(III)2O-4+SO4
2-+12H++2e-
【0019】
第一段階でセレンの大部分を還元性鉄化合物の表面に濃集させた後にpH9.5~11の液性下でセレンの還元が進むので反応時間を従来よりも短縮することができる。pH9.5未満ではセレンの還元が進まない。一方、pH11を超えると、アルカリ薬剤の添加量が多くなる上に,処理後の廃水を放流可能なpHまで逆中和する際の酸薬剤の添加量が過剰となるので好ましくない。
【0020】
上記反応を二段階に行うには、セレン含有水に還元性鉄化合物を添加して反応槽に導き、該反応槽のpHをまずpH8.0~8.5および酸化還元電位-140mVvs.SHE以下に調整して液中のセレンを還元性鉄化合物に吸着させ、その後、この反応槽に水酸化ナトリウムなどのアルカリを追加してpH9.5~11に調整し、セレンの還元沈澱化を進めればよい。
【0021】
または、上記反応を二段階に行うには、第一反応槽と第二反応槽を用い、第一反応槽のpHを8.0~8.5および酸化還元電位-140mVvs.SHE以下に調整し、第二反応槽のpHを9.5~11に調整し、セレン含有水に還元性鉄化合物を添加して第一反応槽に導き、この第一反応槽で液中のセレンを還元性鉄化合物に吸着させた後に、これを第二反応槽に導き、この第二反応槽でセレンの還元沈澱化を促進させればよい。第一反応槽と第二反応槽を用いることによって1個の反応槽よりも全体的な反応時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の処理方法は、セレンの吸着と還元をおのおの分けて二段階に行うので、セレン除去を一段階で行う従来の処理方法よりも、全体的な反応時間を短縮することができる。これにより設備の小型化や設備費の削減が可能になる。さらに、反応時間が短いので従来よりも大量の処理が可能になり、廃水中のセレンの除去を効率的かつ経済的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例1の反応後の沈殿物のX線回折グラフ。
【
図2】実施例2の反応時間に対する酸化還元電位とセレン濃度の変化を示すグラフ。
【
図3】実施例2の反応後の沈殿物のX線回折グラフ。
【
図4】比較例1の反応時間に対する酸化還元電位とセレン濃度の変化を示すグラフ。
【
図5】比較例1の反応後の沈殿物のX線回折グラフ。
【
図6】比較例2の反応時間に対する酸化還元電位とセレン濃度の変化を示すグラフ。
【
図7】比較例2の反応後の沈殿物のX線回折グラフ。
【
図8】比較例3の反応時間に対する酸化還元電位とセレン濃度の変化を示すグラフ。
【
図9】比較例3の反応後の沈殿物のX線回折グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。水中の重金属濃度は規格(「JIS K 0102 工場排水試験方法」)に従って測定した。固形物の成分はX線回折装置(RINT社 UltimaIII, Rigaku)を用いて鉱物相を同定した。
【0025】
〔実施例1:還元性鉄化合物の調製〕
試験に使用する還元性鉄化合物を調製した。調製の全工程はアルゴンガスで満たしたグローブボックス内で非酸化性雰囲気下に行った。調製にはイオン交換水を蒸留した純水を使用した。また,純水を使用する前にアルゴンガスをバブリングして溶存酸素を予め除去した。グローブボックス内に設置した1L容器に、全鉄濃度が22.3g/L、Fe(II)/全Fe比が0.75になるように、硫酸鉄(II)七水和物と硫酸鉄(III)n水和物を溶解させた0.5Lの溶液を作成した。この溶液に8MのNaOHを2.3×10
-4mL/minの流量で添加してpH7.5に調整した。これを5時間撹拌して還元性鉄化合物を合成した。この還元性鉄化合物を含有する懸濁液を遠心分離機によって固液分離し、上澄み液を廃棄した。回収した還元性鉄化合物の濃縮物に純水を加えて再懸濁し、余剰イオンを洗浄した。この再懸濁して遠心分離した上澄み液を廃棄する洗浄操作を2回繰り返し、最終的に回収した濃縮物を還元性鉄化合物として実施例2、比較例1~3に使用した。この回収した濃縮物のX線回折パターンを
図1に示す。
図1に示すように、典型的な還元性鉄化合物であるグリーンラスト(Green Rust:Fe(II)
4Fe(III)
2(OH)
12SO
4)のピークが検出されており、グリーンラストを含む還元性鉄化合物であることを確認した。
【0026】
〔実施例2〕
容器にアルゴンガスをバブリング済みの0.5Lの純水を用意した。あらかじめ全Fe濃度を測定したスラリー状の還元性鉄化合物を、Se(IV)添加時にSe/全Feのモル比が0.25となるように添加した。還元性鉄化合物が均一に懸濁して酸化還元電位の値が一定値になったのを確認して、Se(IV)濃度が500mg/Lになるように、Se(IV)を添加して反応を開始した。反応中はアルゴンガスをバブリングして大気による酸化の影響を排除した。反応に伴いpHが変化するため、自動電位差滴定装置を用いて0.5M濃度のNaOHを自動滴下することでpH調整を行った。反応開始直後からは反応液をpH8に保持し、酸化還元電位が-140mV vs. SHEに低下するまで保持した。その間の反応時間は30分間であった。酸化還元電位が上記値まで低下したのを確認した後に、反応液のpHをpH10に再調整して210分間保持した。反応中は溶液のサンプリングを適宜実施した。反応開始から合計240分間経過後、メンブレンフィルターを用いて固形分を濾過した。ろ過した後,濾過液と固形分の分析を実施した。反応時間に対する酸化還元電位とセレン濃度の変化を
図2に示す。回収した固形分のX線回折グラフを
図3に示す。反応の結果を表1に示す。
【0027】
図2に示すように、pH8の液性下で反応開始直後は吸着反応により迅速に溶液中のSe(IV)濃度が低減する。溶液の酸化還元電位が-140mV vs. SHEまで十分に低下すると、吸着反応は飽和に達して平衡状態になり、Se(IV)濃度は180mg/L付近で濃度低下は一時的に止まる。この段階で、溶液をpH10に調整することによって溶液中のSe(IV)濃度は再び低下し、反応開始から約100分で約10mg/Lまで減少する。
図3のX線回折グラフに示すように、回収した固形分(沈澱物)ではグリーンラストの回折パターンは減少し、一方でその酸化生成物であるゲーサイトおよびマグネタイトの回折パターンが観察される。以上の鉄酸化物の固相変化より、グリーンラストによるSe還元除去が行われたことが確認できる。なお、Se(0)は含有量が低いため
図3には回折パターンが示されていない。
【0028】
〔比較例1〕
溶液をpH8に保持した以外は実施例2と同様にして溶液中のSe(IV)濃度を調べた。反応時間に対する酸化還元電位とセレン濃度の変化を
図4に示す。回収した固形分のX線回折グラフを
図5に示す。反応の結果を表1に示す。
図4に示すように、反応開始直後から溶液中のSe(IV)濃度および酸化還元電位は急激に低下したが、反応時間30分から60分の間で溶液中のSe(IV)濃度は250mg/L、酸化還元電位は-150mV vs. SHE程度で下げ止まった。これは還元性鉄化合物によるSe(IV)除去作用が吸着のみで、酸化還元反応は起こっていないことを示しており、上記反応時間のうちに還元性鉄化合物表面の吸着が飽和状態に達して定常状態に達したことが分かる。また、反応時間240分後の還元性鉄化合物の成分は、
図5のX線回折パターンに示すように、主にグリーンラストであり、グリーンラストの酸化物であるゲーサイトやマグネタイトのピークは見られない。このことからセレンの還元は行われず、セレンは専ら吸着のみによって除去されたことが確認できる。
【0029】
〔比較例2〕
反応開始直後から溶液をpH9に240分間保持した以外は実施例2と同様の操作を行った。反応時間に対する酸化還元電位とセレン濃度の変化を
図6に示す。回収した固形分のX線回折グラフを
図7に示す。反応の結果を表1に示す。
図6に示すように、酸化還元電位は-200mV vs. SHEまで迅速に低下するものの、その後の減少速度は非常に小さい。また、溶液中のSe(IV)濃度は反応開始から緩慢に低下しつづけた。
また、
図7のX線回折パターンに示すように、反応時間240分後の還元性鉄化合物の成分は、グリーンラストのピークは少なく、グリーンラストの酸化物であるゲーサイトのピークが多い。このことからSe(IV)の除去作用は主に還元性鉄化合物によるSe(IV)のSe(0)への還元によって行われていることが分かる。ただし、pH9程度では還元作用が弱いため、反応開始240分後のSe(IV)濃度は320mg/L程度にとどまっており、Se(IV)の除去効果が低い。
【0030】
〔比較例3〕
反応開始直後から溶液をpH10に240分間保持した以外は実施例2と同様の操作を行った。反応時間に対する酸化還元電位とセレン濃度の変化を
図8に示す。回収した固形分のX線回折グラフを
図9に示す。反応の結果を表1に示す。
図8に示すように、酸化還元電位は-300mV vs. SHEまで急激に低下し、その後は殆ど変わらない。一方、溶液中のSe(IV)濃度は20mg/L付近まで次第に低下する。また、
図7のX線回折パターンに示すように、反応時間240分後の還元性鉄化合物の成分はグリーンラストのピークは少なく、グリーンラストの酸化物であるゲーサイトおよびマグネタイトのピークが多い。このことからSe(IV)の除去作用は主に還元性鉄化合物によるSe(IV)のSe(0)への還元によって行われていることが分かる。
なお、溶液中のSe(IV)濃度が20mg/L付近まで低下する時間は約160分以上であり、実施例2では約100分であるのに比べて反応時間が長い。これは、還元反応は吸着反応よりも効果的にSe(IV)を除去できるものの、吸着反応よりもその反応速度が相対的に低いためである。
【0031】
実施例2、比較例1,2,3の結果を表1に示す。実施例2は、Se(IV)濃度が20mg/Lになる反応終了までの時間が100分であるのに対して、比較例1は反応時間が短いが、Se(IV)が十分に還元されないので反応後のSe(IV)濃度が高い。比較例2は反応時間が長く、従って240分後のSe(IV)濃度も高い。比較例3は240分後のSe(IV)濃度は実施例2よりも高く、反応終了時間も実施例2よりやや長い。
【0032】