(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】セラミックス基板の製造方法及び回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/00 20060101AFI20220329BHJP
H01L 23/13 20060101ALI20220329BHJP
H05K 1/02 20060101ALI20220329BHJP
B23K 26/364 20140101ALI20220329BHJP
B23K 26/354 20140101ALI20220329BHJP
【FI】
H05K3/00 N
H01L23/12 C
H05K1/02 G
H05K3/00 X
B23K26/364
B23K26/354
(21)【出願番号】P 2018045194
(22)【出願日】2018-03-13
【審査請求日】2020-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2017050842
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】加藤 浩和
(72)【発明者】
【氏名】松尾 拓也
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-159576(JP,A)
【文献】特開昭63-100087(JP,A)
【文献】特開2015-185606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/02
H05K 3/00
H01L 23/12
B23K 26/354
B23K 26/364
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に回路層が形成されるセラミックス基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板が複数個形成し得る大きさのセラミックス板の表面に沿って線状にブレークラインを形成するブレークライン形成工程と、前記ブレークラインを形成した前記セラミックス板を前記ブレークラインで分割して個々のセラミックス基板とする分割工程とを有し、
前記ブレークライン形成工程は、
空気中でブレークラインを形成しており、前記セラミックス板の表面に沿って線状に加工用レーザ光を照射して前記ブレークラインを形成した後、該ブレークラインの表面に前記加工用レーザ光よりも前記セラミックス板上の積算エネルギ密度が小さい酸化用レーザ光を照射して前記ブレークラインの表面を酸化することを特徴とするセラミックス基板の製造方法。
【請求項2】
前記セラミックス板は窒化アルミニウムからなり、前記加工用レーザ及び前記酸化用レーザはYAGレーザであり、前記酸化用レーザ光は、前記セラミックス板上の積算エネルギ密度が1×10
6J/cm
2以上5×10
7J/cm
2以下であることを特徴とする請求項1記載のセラミックス基板の製造方法。
【請求項3】
前記セラミックス板は窒化アルミニウムからなり、前記加工用レーザ及び前記酸化用レーザはCO
2レーザであり、前記酸化用レーザ光は、前記セラミックス板上の積算エネルギ密度が230J/cm
2以上380J/cm
2以下であることを特徴とする請求項1記載のセラミックス基板の製造方法。
【請求項4】
前記セラミックス板は窒化珪素からなり、前記加工用レーザ及び前記酸化用レーザはCO
2レーザであり、前記酸化用レーザ光は、前記セラミックス板上の積算エネルギ密度が250J/cm
2以上425J/cm
2以下であることを特徴とする請求項1記載のセラミックス基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のセラミックス基板の製造方法に加えて、前記分割工程の前のセラミックス板の一方の面に、前記ブレークラインにより区画された領域ごとに回路層を積層状態に接合する回路層接合工程を有することを特徴とする回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス板にブレークラインを形成して、そのブラークラインで分割することによりパワーモジュール用基板等に用いられるセラミックス基板を製造する方法及びそのセラミックス基板を用いたパワーモジュール用基板等の回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール基板は、窒化アルミニウム、窒化珪素、アルミナ等のセラミックス基板の一方の面にアルミニウムや銅等の金属板からなる回路層が積層され、他方の面にも熱伝導性に優れたアルミニウム等の金属板からなる放熱層が積層されて形成される。
このパワーモジュール用基板を製造する場合、複数個のパワーモジュール用基板を形成可能な大きさのセラミックス板に予めブレークラインを縦横に形成しておき、そのブレークラインにより区画された領域内に回路層及び放熱層を積層状態に接合し、その後、回路層にめっき処理がなされた後に、ブレークラインからセラミックス板を分割することにより、個片化することが行われる。
【0003】
このブレークラインは一般にレーザ光を照射することによって加工されるが、レーザ光の熱によってブレークラインの表面に変性層が形成される。この変性層は、セラミックス板を構成している金属成分、例えば窒化アルミニウム板の場合であると窒素が抜けてアルミニウムが析出したものとなる。このため、その後の無電解めっき処理によって、ブレークラインにもめっき(例えばニッケルめっき)が施されてしまい、絶縁基板としての性能を損なうおそれがあるため、めっき処理の前に、その変性層を除去する必要がある。
従来、このようなレーザ加工により生じた変性層を除去する方法として、例えば特許文献1に示されるように、レーザ加工後にエッチング処理を施すことが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、エッチング処理する方法では、ブレークライン以外の部分もエッチング液に浸され、エッチングされてしまう。特に、回路層を形成した後にエッチング処理すると、回路層の表面が溶解され、寸法不良や形状不良を生じるおそれがある。
また、レーザ加工以外に例えばダイヤモンドカッタ等でブレークラインを形成する方法もあるが、レーザ加工で形成したものに比べて、分割したときの直線性に劣り、チッピングも生じやすい。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、レーザ加工により、セラミックス板に変性層のないブレークラインを形成し、絶縁性に優れたセラミックス基板を精度良く製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、表面に回路層が形成されるセラミックス基板の製造方法であって、前記セラミックス基板が複数個形成し得る大きさのセラミックス板の表面に沿って線状にブレークラインを形成するブレークライン形成工程と、前記ブレークラインを形成した前記セラミックス板を前記ブレークラインで分割して個々のセラミックス基板とする分割工程とを有し、前記ブレークライン形成工程は、空気中でブレークラインを形成しており、前記セラミックス板の表面に沿って線状に加工用レーザ光を照射して前記ブレークラインを形成した後、該ブレークラインの表面に前記加工用レーザ光よりも前記セラミックス板上の積算エネルギ密度が小さい酸化用レーザ光を照射して前記ブレークラインの表面を酸化する。
【0008】
前述したようにレーザ加工によりブレークラインを形成すると、ブレークラインの表面に金属が析出して変性層が形成されるが、その後に積算エネルギ密度の小さい酸化用レーザ光をこの変性層に照射することにより、変性層の金属を酸化させる。このため、その後にめっき処理を施した場合でも、ブレークラインの表面にめっきが付着することはない。
変性層のエッチング処理等が必要ないので、寸法精度に優れている。
【0009】
本発明のセラミックス基板の製造方法において、前記セラミックス板は窒化アルミニウムからなり、前記加工用レーザ及び前記酸化用レーザはYAGレーザであり、前記酸化用レーザ光は、前記セラミックス板上の積算エネルギ密度が5×106J/cm2以上5×107J/cm2以下であるとよい。
【0010】
セラミックス板が窒化アルミニウムからなり、加工用レーザ及び酸化用レーザをYAGレーザとする場合、セラミックス板上での酸化用レーザ光の積算エネルギ密度が5×106J/cm2以上5×107J/cm2以下であると、ブレークラインを加工せず、確実にブレークラインの表面を酸化させることが可能である。
【0011】
本発明のセラミックス基板の製造方法において、前記セラミックス板は窒化アルミニウムからなり、前記加工用レーザ及び前記酸化用レーザはCO2レーザであり、前記酸化用レーザ光は、前記セラミックス板上の積算エネルギ密度が230J/cm2以上380J/cm2以下であるとよい。
【0012】
セラミックス板が窒化アルミニウムからなり、加工用レーザ及び酸化用レーザをCO2レーザとする場合、セラミックス板上での酸化用レーザ光の積算エネルギ密度が230J/cm2以上380J/cm2以下であると、ブレークラインを加工せず、確実にブレークラインの表面を酸化させることが可能である。
【0013】
本発明のセラミックス基板の製造方法において、前記セラミックス板は窒化珪素からなり、前記加工用レーザ及び前記酸化用レーザはCO2レーザであり、前記酸化用レーザ光は、前記セラミックス板上の積算エネルギ密度が250J/cm2以上425J/cm2以下であるとよい。
【0014】
セラミックス板が窒化珪素からなり、加工用レーザ及び酸化用レーザをCO2レーザとする場合、セラミックス板上での酸化用レーザ光の積算エネルギ密度が250J/cm2以上425J/cm2以下であると、ブレークラインを加工せず、確実にブレークラインの表面を酸化させることが可能である。
【0015】
本発明のセラミックス基板の製造方法に加えて、前記分割工程の前のセラミックス板の一方の面に、前記ブレークラインにより区画された領域ごとに回路層を積層状態に接合する回路層接合工程を有することにより、回路基板を製造することができる。
【0016】
あるいは、本発明のセラミックス基板の製造方法に加えて、前記分割工程の後に、前記セラミックス基板の一方の面に、回路層を積層状態に接合する回路層接合工程を有することにより、回路基板を製造してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、レーザ加工により、セラミックス板に変性層のないブレークラインを形成し、絶縁性に優れたセラミックス基板を精度良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明のセラミックス基板の製造方法に用いるブレークライン形成装置の例を示す模式図である。
【
図2】ブレークライン形成装置の他の例を示す要部の模式図である。
【
図3】ブレークライン形成装置のさらに他の例を示す模式図である。
【
図4】本発明の方法を適用して製造されるパワーモジュール用基板の例を示す断面図である。
【
図5】パワーモジュール用基板を製造するためのセラミックス板にブレークラインを形成した例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図4は、後述するようにセラミックス板にブレークラインを形成して個片化したセラミックス基板を用いて製造された回路基板の例としてパワーモジュール用基板を示している。
このパワーモジュール用基板10は、絶縁基板であるセラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図4において上面)に接合された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(
図4において下面)に接合された放熱層13とを備えている。
【0020】
セラミックス基板11は、例えばAlN(窒化アルミニウム)、Si3N4(窒化珪素)等の窒化物系を用いることができる。本実施形態では、窒化アルミニウムを用いている。
回路層12は、アルミニウム又はアルミニウム合金、あるいは銅又は銅合金からなり、セラミックス基板11の一方の面にろう付け等によって接合されており、その表面にニッケル等の導電性めっき膜14が形成されている。
また、放熱層13は、必ずしも限定されるものではないが、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材や銅又は銅合金からなる銅材をセラミックス基板11の他方の面にろう付け等によって接合される。
そして、このように構成されるパワーモジュール用基板10の回路層12の上面に半導体素子15がはんだ付けによって接合されることにより、パワーモジュール20が製造される。なお、放熱層13の表面には、放熱板や冷却器等が設けられて使用される。
【0021】
このパワーモジュール用基板10を製造するには、まず、複数個のパワーモジュール用基板10を形成可能な大きさの平板状のセラミックス板30にレーザ光を照射して、
図5に示すように縦横にブレークライン31を形成する(ブレークライン形成工程)。次いで、そのブレークライン31により区画された領域内に二点鎖線で示すように回路層12及び放熱層13(
図5には表示されない)を積層状態に接合(回路層・放熱層接合工程)する。その後、回路層12に導電性めっき膜14を形成した(導電性めっき膜形成工程)後に、ブレークライン31からセラミックス板30を分割する(分割工程)ことにより、パワーモジュール用基板10として個片化する。
寸法は特に限定されるものではないが、例えば、セラミックス板30の厚さは0.2mm以上2.0mm以下で、ブレークラインの深さ寸法は、このブレークラインによって残る部分の厚さが、0.05mmから1.8mmである。セラミックス基板11として、平面サイズが30mm角程度の大きさに個片化される。
【0022】
次に、この製造工程中のセラミックス板30にブレークライン31を形成する方法について詳細に説明する。
図1は、そのブレークライン31を形成するための装置40の概略を示している。
このブレークライン形成装置40は、レーザ光照射装置41と、セラミックス板30を保持して、その面方向に沿ってX方向、Y方向に移動させるXYステージ42とを有している。
【0023】
レーザ光照射装置41は、例えばYAGレーザを用いてQスイッチによりレーザ光Lをパルス発振するレーザ発振機43と、発振されるYAGレーザの基本波(波長:1064nm)に対して第2高調波(波長:532nm)に変換して、これら二つの異なる波長を含むレーザ光L1,L2を生成する波長変換器44と、波長変換器44を経由したレーザ光L1,L2を二つの波長のレーザ光L1,L2に分離するセパレータ(ハーモニックセパレータ)45,46と、分離されたそれぞれの波長のレーザ光L1,L2をスポット状に集光させる集光レンズ47,48とを備えている。
そして、XYステージ42に保持したセラミックス板30をX方向及びY方向に移動しながら、レーザ光照射装置41から二つのレーザ光L1,L2を照射してセラミックス板30にブレークライン31を形成する。
【0024】
具体的には、セパレータ45,46によって分離した二つのレーザ光L1,L2のうち、波長の短い第2高調波によるレーザ光L2によってセラミックス板を加工して線状のブレークライン31を縦横に形成し、そのレーザ光L2の進行方向後方から基本波によるレーザ光L1をブレークライン31に照射する。波長変換器44を経由することで、第2高調波と基本波とは例えば6:4の比率で第2高調波が多く発生し、基本波のレーザ光L1はエネルギが小さくなっている。また、基本波によるレーザ光L1の焦点位置を調整することにより、ブレークライン31の表面を加熱するが、さらに深く加工することがないようにする。
【0025】
これにより、先に進行する高調波のレーザ光L2の加工によってブレークライン31の表面に析出した金属成分を含む変性層が、後から照射される基本波のレーザ光L1によって加熱されることにより酸化され、金属酸化物(酸化アルミニウム)となる。以降の説明では、二つに分離したレーザ光L1,L2のうち、波長の短い第2高調波によるレーザ光L2を加工用レーザ光、基本波によるレーザ光L1を酸化用レーザ光とする。
【0026】
これらレーザ光L1,L2の積算エネルギ密度は、セラミックス板30が窒化アルミニウムで、加工用レーザL2及び酸化用レーザL1にYAGレーザを用いる本実施形態の場合、セラミックス板30の表面において、加工用レーザ光L2の積算エネルギ密度が1×108J/cm2以上であるのに対して、酸化用レーザ光L1の積算エネルギ密度は、それより小さく、1×106J/cm2以上5×107J/cm2以下、好ましくは5×106J/cm2以上5×107J/cm2以下である。
この積算エネルギ密度は、レーザ平均出力:20W、パルスの繰り返し周波数が50kHzとすると、1パルス当たりの平均エネルギ(パルスエネルギ)は20W/50kHz(J)であり、レーザ平均出力をP(W)、パルスの繰り返し周波数をR(kHz)、レーザ光の集光径をLcm、とすると、1パルスについての単位面積当たりのエネルギ密度(フルエンス)Fとしては、F=(P/R)/(πL2/4)、同一箇所にどの位の量のレーザパルスエネルギーが照射されたか、すなわち、同一箇所に集光したレーザパルスの重なりによる投入されたエネルギは、加工速度をScm/秒とすると、レーザパルス間に進行する距離はS/R(cm)であるから、同一箇所でのパルスの重なりはL/(S/R)、よって、同一箇所への投入エネルギX(J/cm2)は、X=F×L/(S/R)=(20/50k)/(πL2/4)×L/(S/50k)により計算できる。
【0027】
なお、この積算エネルギ密度は、セラミックス板30を平面としたときの表面における値である。つまり、加工用レーザ光L2については、セラミックス板30の表面で1×108J/cm2以上の積算エネルギ密度となり、酸化用レーザ光L1においても、ブレークライン31が形成されていない状態でのセラミックス板30の表面で1×106J/cm2以上5×107J/cm2以下の積算エネルギ密度である。実際には、酸化用レーザ光L1を照射する際には、加工用レーザ光L2によってブレークライン31が形成された後に、そのブレークライン31にレーザ光L1を照射するので、ブレークライン31の溝の表面における積算エネルギ密度は、前述のものより小さくなる。1×106J/cm2以上5×107J/cm2以下の積算エネルギ密度では、ブレークライン31が形成されていないセラミックス板30に照射されると、セラミックス板30をわずかに加工することができる程度の積算エネルギ密度である。
なお、このブレークラインの形成は、空気(酸化性雰囲気)中で行われる。
また、ブレークライン形成時に生じる飛散物を除去するために、ホーニング処理を行うことが好ましい。ホーニング処理はアルミナ砥粒と水を用いて行うことができる。ホーニング処理を行うことで、回路層・放熱層接合工程において、セラミックス基板に回路層や放熱層を確実に接合することができる。
【0028】
このようにして、加工用レーザ光L2によってセラミックス板30にブレークライン31を形成した後、そのブレークライン31に前述した積算エネルギ密度で酸化用レーザ光L1を照射することにより、加工用レーザ光L2の照射によってブレークライン31の表面に形成された変性層の金属を酸化させることができる。このため、回路層12、放熱層13を接合した後に回路層12に無電解めっき処理する場合に、変性層にめっきが付着することがない。
【0029】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
実施形態ではYAGレーザを用いたが、炭酸ガスレーザ(CO
2レーザ)、半導体レーザ、ファイバーレーザ、等も用いることができる。
また、加工用レーザにCO
2レーザ、酸化用レーザにYAGレーザを用いてもよい。この場合においても、酸化用レーザのエネルギ密度は上述した範囲内とすることが好ましい。
また、基本波を酸化用レーザ光L1、その第2高調波を加工用レーザ光L2としたが、セラミックス板30の表面における積算エネルギ密度を前述のように設定できれば、基本波と第2高調波の組み合わせに限ることはない。
また、加工用レーザ光L2及び酸化用レーザ光L1をセパレータ45,46によって分離し、そのそれぞれに対して集光レンズ47,48を用いたが、
図2に示すように、加工用レーザ光L2と酸化用レーザ光L1を一つのビームスプリッター51で分離し、一つの集光レンズ52によって進行方向にわずかにずらした位置に集光するようにしてもよい。符号53は反射鏡である。
【0030】
さらに、
図3に示すレーザ光照射装置55のように、二つのレーザ発振機56,57を用いて、それぞれのレーザ光L1,L2を照射させる構成としてもよい。
加工用レーザ光に対して酸化用レーザ光の積算エネルギ密度を低下させる方法としては、セラミックス板の表面に対して同一のレーザを用いて加工後に再度同じ加工位置をトレースしレーザ光の焦点位置をずらす、高調波の基本波等の波長の大きいレーザ光を用いる、等がある。
また、同一の光学系に波長の大きい酸化用レーザ、波長の小さい加工用レーザを投入することで、波長の大きいレーザは小さいレーザに比べ集光径が大きくなり積算エネルギ密度を低下させることが可能である。ただしこの場合、加工用レーザにより発生したプラズマにより、酸化用レーザ光のエネルギが吸収されるため、酸化用レーザ光の積算エネルギ密度が著しく低下し易いので、加工用レーザのパルスが照射されていないタイミングで酸化用レーザのパルスを照射する、あるいは、加工用レーザのパルス間隔を長くする、などによって、プラズマの発生を抑制するとよい。
【0031】
また、パワーモジュール用基板を製造する方法として、ブレークライン形成工程、回路層・放熱層接合工程、導電性めっき膜形成工程、分割工程の順としたが、ブレークライン形成工程の後に回路層等を接合せずに、ブレークラインから分割してセラミックス基板に個片化し(分割工程)、個々のセラミックス基板に回路層等を接合して導電性めっき膜を形成する方法としてもよい。また、放熱層は必ずしも必須ではなく、回路層を積層状態に接合する工程(回路層接合工程)を有していればよい。
したがって、本発明のセラミックス基板の製造方法は、ブレークライン形成工程と分割工程とを含むものであればよく、回路層を備えたセラミックス基板を製造する場合と、回路層を有しないセラミックス基板を製造する場合の両方を含むものとする。
【0032】
上記実施形態では、セラミックス板として窒化アルミニウムを用い、加工用レーザ及び酸化用レーザとしてYAGレーザを用い説明したが、積算エネルギ密度は、セラミックス板の材質やレーザの種類が異なると好適な範囲が変化する。
例えば、窒化アルミニウムからなるセラミックス板に、加工用レーザ及び酸化用レーザとしてCO2レーザを用いた場合、加工用レーザの積算エネルギ密度は480J/cm2以上であるのに対して、酸化用レーザの積算エネルギ密度は230J/cm2以上380J/cm2以下とすることが好ましく、280J/cm2以上340J/cm2以下とすることがより好ましい。
また、例えば、窒化珪素からなるセラミックス板に、加工用レーザ及び酸化用レーザとしてCO2レーザを用いた場合、加工用レーザの積算エネルギ密度は660J/cm2以上であるのに対して、酸化用レーザの積算エネルギ密度は250J/cm2以上425J/cm2以下とすることが好ましく、310J/cm2以上375J/cm2以下とすることがより好ましい。
酸化用レーザにCO2レーザを用いる場合は、酸化用レーザの積算エネルギ密度を上記の範囲とすれば、加工用レーザの種類はYAGレーザ、半導体レーザ、ファイバーレーザ、あるいはこれらの高調波レーザでも同様の効果を得ることができる。
【実施例1】
【0033】
本発明の効果確認のために、YAGレーザを用いた
図1に示すブレークライン形成装置により試験を行った。
加工用レーザ光として基本波:1064nm、酸化用レーザ光として第2高調波:532nmを使用した。そして、窒化アルミニウムからなるセラミックス板の表面に加工用レーザ光を1×10
8J/cm
2の積算エネルギ密度で照射してブレークラインを形成した後、変性層が形成されているブレークラインに酸化用レーザ光の積算エネルギ密度を表1に示すように変化させながら、ブレークラインに照射し、その後、アルミナ砥粒と水を用いてホーニング処理を行い、セラミックス板の表面に無電解ニッケルめっきを施し、ブレークラインにめっきが付着したか否かを確認した。ブレークラインの全面にめっきが付着したものを「×」、ブレークラインの深さの半分よりも深い位置にめっきが付着したものを「△」、ブレークラインにめっきの付着が認められなかったものを「○」とした。
その結果を表1に示す。積算エネルギ密度が「0」の試料5は、ブレークラインに酸化用レーザ光を照射しなかった例である。
【0034】
【0035】
表1から明らかなように、加工用レーザ光でブレークラインを形成した後、加工用レーザ光と同じ積算エネルギ密度の酸化用レーザ光を照射した試料番号1-4では、めっきの付着が確認された。
一方、加工用レーザ光でブレークラインを形成した後、変性層が形成されているブレークラインに加工用レーザ光よりも小さいエネルギ密度で酸化用レーザ光を照射することにより、その後のめっきの付着を防止できることがわかる。また、酸化用レーザの積算エネルギ密度としては、1×106J/cm2以上5×107J/cm2以下であればブレークライン表面にめっきが付着されない絶縁部がブレークラインに沿って形成されるので実用可能であり、5×106J/cm2以上5×107J/cm2以下とするのがよりよいことが分かった。
【実施例2】
【0036】
セラミックス板として、窒化アルミニウムを用い、加工用レーザ及び酸化用レーザとしてCO2レーザを用い、加工用レーザとして波長:10.6μm、酸化用レーザとして波長:10.6μm、加工用レーザ光の積算エネルギ密度を480(J/cm2)とした以外は、酸化用レーザ光の積算エネルギ密度を表2に示すように変化させながら実施例1と同様に試験を行った。
結果を表2に示す。
【0037】
【0038】
表2から明らかなように、加工用レーザ光でブレークラインを形成した後、加工用レーザ光と同じ積算エネルギ密度の酸化用レーザ光を照射した試料番号2-1では、めっきの付着が確認された。
一方、加工用レーザ光でブレークラインを形成した後、変性層が形成されているブレークラインに加工用レーザ光よりも小さいエネルギ密度で酸化用レーザ光を照射することにより、その後のめっきの付着を防止できることがわかる。また、酸化用レーザの積算エネルギ密度としては、230J/cm2以上380J/cm2以下であればブレークライン表面にめっきが付着されない絶縁部がブレークラインに沿って形成されるので実用可能であり、280J/cm2以上340J/cm2以下とするのがよりよいことが分かった。
【実施例3】
【0039】
セラミックス板として、窒化珪素を用い、加工用レーザ及び酸化用レーザとしてCO2レーザを用い、加工用レーザとして波長:10.6μm、酸化用レーザとして波長:10.6μm、加工用レーザ光の積算エネルギ密度を660(J/cm2)とした以外は、酸化用レーザ光の積算エネルギ密度を表3に示すように変化させながら実施例1と同様に試験を行った。
結果を表3に示す。
【0040】
【0041】
表3から明らかなように、加工用レーザ光でブレークラインを形成した後、加工用レーザ光と同じ積算エネルギ密度の酸化用レーザ光を照射した試料番号3-1では、めっきの付着が確認された。
一方、加工用レーザ光でブレークラインを形成した後、変性層が形成されているブレークラインに加工用レーザ光よりも小さいエネルギ密度で酸化用レーザ光を照射することで、その後のめっきの付着を防止できることがわかる。また、酸化用レーザの積算エネルギ密度としては、250J/cm2以上425J/cm2以下であればブレークライン表面にめっきが付着されない絶縁部がブレークラインに沿って形成されるので実用可能であり、310J/cm2以上375J/cm2以下とするのがよりよいことが分かった。
【符号の説明】
【0042】
10 パワーモジュール用基板
11 セラミックス基板
12 回路層
13 放熱層
14 導電性めっき膜
15 半導体素子
20 パワーモジュール
30 セラミックス板
31 ブレークライン
40 ブレークライン形成装置
41,55 レーザ光照射装置
42 XYステージ
43,56,57 レーザ発振機
44 波長変換器
45,46 セパレータ
47,48,52 集光レンズ
51 ビームスプリッター
L1 酸化用レーザ光
L2 加工用レーザ光