(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】基地局装置、プログラム
(51)【国際特許分類】
H04W 28/14 20090101AFI20220329BHJP
H04W 92/12 20090101ALI20220329BHJP
H04W 24/04 20090101ALI20220329BHJP
H04W 84/08 20090101ALI20220329BHJP
【FI】
H04W28/14
H04W92/12
H04W24/04
H04W84/08
(21)【出願番号】P 2018050574
(22)【出願日】2018-03-19
【審査請求日】2020-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】下島野 英雄
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 一郎
【審査官】桑原 聡一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-037970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24-7/26
H04W 4/00-99/00
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一の端末装置から受信した第1データと、当該第1データを受信した時刻である第1受信時刻と、本基地局装置で測定された当該第1データの品質情報とを関連付けて記憶する第1記憶部と、
前記第1記憶部に記憶された第1データと第1受信時刻と品質情報とを制御装置に送信する送信部と、
前記制御装置から、前記送信部で送信された第1データおよび他の基地局装置が前記一の端末装置から受信して前記制御装置に送信した第1データと同じ内容のデータを対象にして、本基地局装置および他の基地局装置から送信された品質情報をもとに前記制御装置によって選択された、最も品質が高いデータである第2データと、当該第2データ
に対応するデータを本基地局装置または他の基地局装置が
前記一の端末装置から受信した時刻である第2受信時刻と、当該第2データを他の端末装置に送信すべき送信時刻とを受信する受信部と、
前記受信部で受信した第2データと第2受信時刻と送信時刻とを関連付けて記憶する第2記憶部と、
前記第2記憶部に記憶された、前記一の端末装置から送信された複数のデータに対応する複数の送信時刻を対象にして、時間的に隣り合った送信時刻同士の時間差の最小値を算出し、過去の直近の送信時刻に前記最小値を加算した時刻を予測送信時刻として算出し、前記予測送信時刻との時間差が所定値以内である送信時刻が前記第2記憶部に存在しない場合に、データ欠落状態であると判定し、前記予測送信時刻との時間差が所定値以内である送信時刻が前記第2記憶部に存在する場合に、データ欠落状態でないと判定するとともに、データ欠落状態である場合に、前記第1記憶部を参照し、第1受信時刻が所定の範囲にある第1データを、欠落した第2データに対応する第1データとして特定する制御を行う制御部と、
前記制御部においてデータ欠落状態でないと判定された場合に、前記第2記憶部に記憶された送信時刻に第2データを他の端末装置に送信し、前記制御部においてデータ欠落状態であると判定された場合に、前記予測送信時刻に前記第1記憶部の前記特定された第1データを他の端末装置に送信する無線送信部と、
を備え、
前記受信部で受信する送信時刻は、本基地局装置および他の基地局装置の無線送信タイミングを一致させるために、前記制御装置によって決定された時刻であり、かつ第1受信時刻および他の基地局装置が第2データを受信した時刻のうちの最も早い時刻から所定時間後の時刻であり、
前記制御部における前記所定の範囲は、前記無線送信部が直近で送信した第1データに対応する第1受信時刻あるいは無線送信部が直近で送信した第2データに対応する第2受信時刻
に、前記最小値を加算した時刻を基準にした範囲である、
ことを特徴とする基地局装置。
【請求項2】
一の端末装置から受信した第1データと、当該第1データを受信した時刻である第1受信時刻と、本基地局装置で測定された当該第1データの品質情報とを関連付けて記憶する第1記憶部と、
前記第1記憶部に記憶された第1データと第1受信時刻と品質情報とを制御装置に送信する送信部と、
前記制御装置から、前記送信部で送信された第1データおよび他の基地局装置が前記一の端末装置から受信して前記制御装置に送信した第1データと同じ内容のデータを対象にして、本基地局装置および他の基地局装置から送信された品質情報をもとに前記制御装置によって選択された、最も品質が高いデータである第2データと、当該第2データ
に対応するデータを本基地局装置または他の基地局装置が
前記一の端末装置から受信した時刻である第2受信時刻と、当該第2データを他の端末装置に送信すべき送信時刻とを受信する受信部と、
前記受信部で受信した第2データと第2受信時刻と送信時刻とを関連付けて記憶する第2記憶部と、
前記第1記憶部に記憶された第1受信時刻と、前記第2記憶部に記憶された第2受信時刻との時間差が所定値以内である場合に、第1データと第2データとが対応すると判定するとともに、前記第2記憶部に記憶された送信時刻から前記第1記憶部に記憶された第1受信時刻を引いた値をもとに予測送信時間差を算出し、第1受信時刻から第1の所定時間が経過した時点において、第1データに対応する第2データが前記第2記憶部に存在する場合に、前記第2記憶部がデータ欠落状態でないと判定し、第1データに対応する第2データが前記第2記憶部に存在しない場合に、前記第2記憶部がデータ欠落状態であると判定し、前記第2記憶部がデータ欠落状態であると判定した場合に、対応する第2データをもたない第1データを、欠落した第2データに対応する第1データとして特定し、前記特定した第1データに対応する第1受信時刻に前記予測送信時間差を加算した時刻を予測送信時刻として算出する制御部と、
前記制御部においてデータ欠落状態でないと判定された場合に、前記第2記憶部に記憶された送信時刻に第2データを他の端末装置に送信し、前記制御部においてデータ欠落状態であると判定された場合に、前記予測送信時刻に前記第1記憶部の前記特定された第1データを他の端末装置に送信する無線送信部と、
を備え、
前記受信部で受信する送信時刻は、本基地局装置および他の基地局装置の無線送信タイミングを一致させるために、前記制御装置によって決定された時刻であり、かつ第1受信時刻および他の基地局装置が第2データを受信した時刻のうちの最も早い時刻から第2の所定時間後の時刻である、
ことを特徴とする基地局装置。
【請求項3】
前記第1記憶部は、複数の第1データと複数の第1受信時刻とを記憶し、
前記第2記憶部は、複数の第2データと複数の送信時刻とを記憶し、
前記制御部は、前記第1記憶部および前記第2記憶部において、対応する第1データと第2データとの組が複数存在する場合に、前記第2記憶部に記憶された各々の送信時刻から前記第1記憶部に記憶された各々の第1受信時刻を引いた値を複数算出し、算出した複数の値の代表値を前記予測送信時間差とする、
ことを特徴とする請求項2に記載の基地局装置。
【請求項4】
前記無線送信部は、前記制御部においてデータ欠落状態であると判定された場合に、データ欠落状態でないと判定された場合に比べて、送信電力を小さくして、第1データを他の端末装置に送信する、
ことを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項に記載の基地局装置。
【請求項5】
基地局装置が備えるコンピュータに、
一の端末装置から受信した第1データと、当該第1データを受信した時刻である第1受信時刻と、本基地局装置で測定された当該第1データの品質情報とを関連付けて記憶する第1記憶ステップと、
前記記憶した第1データと第1受信時刻と品質情報とを制御装置に送信するステップと、
前記制御装置から、前記送信するステップで送信された第1データおよび他の基地局装置が前記一の端末装置から受信して前記制御装置に送信した第1データと同じ内容のデータを対象にして、本基地局装置および他の基地局装置から送信された品質情報をもとに前記制御装置によって選択された、最も品質が高いデータである第2データと、当該第2データ
に対応するデータを本基地局装置または他の基地局装置が
前記一の端末装置から受信した時刻である第2受信時刻と、当該第2データを他の端末装置に送信すべき送信時刻とを受信するステップと、
前記受信した第2データと第2受信時刻と送信時刻とを関連付けて記憶する第2記憶ステップと、
前記第2記憶ステップで記憶された、前記一の端末装置から送信された複数のデータに対応する複数の送信時刻を対象にして、時間的に隣り合った送信時刻同士の時間差の最小値を算出し、過去の直近の送信時刻に前記最小値を加算した時刻を予測送信時刻として算出し、前記予測送信時刻との時間差が所定値以内である送信時刻が前記第2記憶ステップでの記憶内容に存在しない場合に、データ欠落状態であると判定し、前記予測送信時刻との時間差が所定値以内である送信時刻が前記第2記憶ステップでの記憶内容に存在する場合に、データ欠落状態でないと判定するとともに、データ欠落状態である場合に、前記第1記憶ステップでの記憶内容を参照し、第1受信時刻が所定の範囲にある第1データを、欠落した第2データに対応する第1データとして特定する制御を行う制御ステップと、
前記制御ステップでデータ欠落状態でないと判定された場合に、前記第2記憶ステップで記憶した送信時刻に第2データを他の端末装置に送信し、前記制御ステップでデータ欠落状態であると判定された場合に、前記予測送信時刻に、前記特定された第1データを他の端末装置に無線送信するステップと、
を実行させるプログラムであって、
前記受信する送信時刻は、本基地局装置および他の基地局装置の無線送信タイミングを一致させるために、前記制御装置によって決定された時刻であり、かつ第1受信時刻および他の基地局装置が第2データを受信した時刻のうちの最も早い時刻から所定時間後の時刻であり、
前記制御ステップにおける前記所定の範囲は、
前記無線送信するステップにおいて直近で送信した第1データに対応する第1受信時刻あるいは
前記無線送信するステップにおいて直近で送信した第2データに対応する第2受信時刻に、前記最小値を加算した時刻を基準にした範囲である、
ことを特徴とするプログラム。
【請求項6】
基地局装置が備えるコンピュータに、
一の端末装置から受信した第1データと、当該第1データを受信した時刻である第1受信時刻と、本基地局装置で測定された当該第1データの品質情報とを関連付けて記憶する第1記憶ステップと、
前記記憶した第1データと第1受信時刻と品質情報とを制御装置に送信するステップと、
前記制御装置から、前記送信するステップで送信された第1データおよび他の基地局装置が前記一の端末装置から受信して前記制御装置に送信した第1データと同じ内容のデータを対象にして、本基地局装置および他の基地局装置から送信された品質情報をもとに前記制御装置によって選択された、最も品質が高いデータである第2データと、当該第2データ
に対応するデータを本基地局装置または他の基地局装置が
前記一の端末装置から受信した時刻である第2受信時刻と、当該第2データを他の端末装置に送信すべき送信時刻とを受信するステップと、
前記受信した第2データと第2受信時刻と送信時刻とを関連付けて記憶する第2記憶ステップと、
前記第1記憶ステップで記憶した第1受信時刻と、前記第2記憶ステップで記憶した第2受信時刻との時間差が所定値以内である場合に、第1データと第2データとが対応すると判定するとともに、前記第2記憶ステップで記憶した送信時刻から前記第1記憶ステップで記憶した第1受信時刻を引いた値をもとに予測送信時間差を算出し、第1受信時刻から第1の所定時間が経過した時点において、第1データに対応する第2データが前記第2記憶ステップでの記憶内容に存在する場合に、前記第2記憶ステップでの記憶内容がデータ欠落状態でないと判定し、第1データに対応する第2データが前記第2記憶ステップでの記憶内容に存在しない場合に、前記第2記憶ステップでの記憶内容がデータ欠落状態であると判定し、前記第2記憶ステップでの記憶内容がデータ欠落状態であると判定した場合に、対応する第2データをもたない第1データを、欠落した第2データに対応する第1データとして特定し、前記特定した第1データに対応する第1受信時刻に前記予測送信時間差を加算した時刻を予測送信時刻として算出する制御ステップと、
前記制御ステップでデータ欠落状態でないと判定された場合に、前記第2記憶ステップで記憶した送信時刻に第2データを他の端末装置に送信し、前記制御ステップでデータ欠落状態であると判定された場合に、前記予測送信時刻に、前記特定された第1データを他の端末装置に無線送信するステップと、
を実行させるプログラムであって、
前記受信する送信時刻は、本基地局装置および他の基地局装置の無線送信タイミングを一致させるために、前記制御装置によって決定された時刻であり、かつ第1受信時刻および他の基地局装置が第2データを受信した時刻のうちの最も早い時刻から第2の所定時間後の時刻である、
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信技術に関し、特に端末装置に信号を送信する基地局装置、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
移動体通信システムにおけるすべての基地局装置を共通の周波数で運用することがある。1つの端末装置から送信されたデータを複数の基地局装置で受信した場合、各基地局装置の上位に接続された指令局は、基地局装置毎に送信タイミングを指示する(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術においては、基地局装置と指令局との間のネットワークの障害あるいは遅延を考慮していない。例えば、IP(Internet Protocol)ネットワークの障害あるいは遅延により、データが予定どおりに基地局装置に到達しなくなる場合がある。その場合、指令局から基地局装置に送信されたデータが基地局装置から送信されない。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、制御装置から送信された信号が基地局装置に到達しない場合でも、当該基地局装置に接続される端末装置への影響を低減する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の基地局装置は、一の端末装置から受信した第1データと、当該第1データを受信した時刻である第1受信時刻と、本基地局装置で測定された当該第1データの品質情報とを関連付けて記憶する第1記憶部と、第1記憶部に記憶された第1データと第1受信時刻と品質情報とを制御装置に送信する送信部と、制御装置から、送信部で送信された第1データおよび他の基地局装置が一の端末装置から受信して制御装置に送信した第1データと同じ内容のデータを対象にして、本基地局装置および他の基地局装置から送信された品質情報をもとに制御装置によって選択された、最も品質が高いデータである第2データと、当該第2データに対応するデータを本基地局装置または他の基地局装置が一の端末装置から受信した時刻である第2受信時刻と、当該第2データを他の端末装置に送信すべき送信時刻とを受信する受信部と、受信部で受信した第2データと第2受信時刻と送信時刻とを関連付けて記憶する第2記憶部と、第2記憶部に記憶された、一の端末装置から送信された複数のデータに対応する複数の送信時刻を対象にして、時間的に隣り合った送信時刻同士の時間差の最小値を算出し、過去の直近の送信時刻に最小値を加算した時刻を予測送信時刻として算出し、予測送信時刻との時間差が所定値以内である送信時刻が第2記憶部に存在しない場合に、データ欠落状態であると判定し、予測送信時刻との時間差が所定値以内である送信時刻が第2記憶部に存在する場合に、データ欠落状態でないと判定するとともに、データ欠落状態である場合に、第1記憶部を参照し、第1受信時刻が所定の範囲にある第1データを、欠落した第2データに対応する第1データとして特定する制御を行う制御部と、制御部においてデータ欠落状態でないと判定された場合に、第2記憶部に記憶された送信時刻に第2データを他の端末装置に送信し、制御部においてデータ欠落状態であると判定された場合に、予測送信時刻に第1記憶部の特定された第1データを他の端末装置に送信する無線送信部と、を備える。受信部で受信する送信時刻は、本基地局装置および他の基地局装置の無線送信タイミングを一致させるために、制御装置によって決定された時刻であり、かつ第1受信時刻および他の基地局装置が第2データを受信した時刻のうちの最も早い時刻から所定時間後の時刻であり、制御部における所定の範囲は、無線送信部が直近で送信した第1データに対応する第1受信時刻あるいは無線送信部が直近で送信した第2データに対応する第2受信時刻に、最小値を加算した時刻を基準にした範囲である。
【0007】
本発明の別の態様もまた、基地局装置である。この装置は、一の端末装置から受信した第1データと、当該第1データを受信した時刻である第1受信時刻と、本基地局装置で測定された当該第1データの品質情報とを関連付けて記憶する第1記憶部と、第1記憶部に記憶された第1データと第1受信時刻と品質情報とを制御装置に送信する送信部と、制御装置から、送信部で送信された第1データおよび他の基地局装置が一の端末装置から受信して制御装置に送信した第1データと同じ内容のデータを対象にして、本基地局装置および他の基地局装置から送信された品質情報をもとに制御装置によって選択された、最も品質が高いデータである第2データと、当該第2データに対応するデータを本基地局装置または他の基地局装置が一の端末装置から受信した時刻である第2受信時刻と、当該第2データを他の端末装置に送信すべき送信時刻とを受信する受信部と、受信部で受信した第2データと第2受信時刻と送信時刻とを関連付けて記憶する第2記憶部と、第1記憶部に記憶された第1受信時刻と、第2記憶部に記憶された第2受信時刻との時間差が所定値以内である場合に、第1データと第2データとが対応すると判定するとともに、第2記憶部に記憶された送信時刻から第1記憶部に記憶された第1受信時刻を引いた値をもとに予測送信時間差を算出し、第1受信時刻から第1の所定時間が経過した時点において、第1データに対応する第2データが第2記憶部に存在する場合に、第2記憶部がデータ欠落状態でないと判定し、第1データに対応する第2データが第2記憶部に存在しない場合に、第2記憶部がデータ欠落状態であると判定し、第2記憶部がデータ欠落状態であると判定した場合に、対応する第2データをもたない第1データを、欠落した第2データに対応する第1データとして特定し、特定した第1データに対応する第1受信時刻に予測送信時間差を加算した時刻を予測送信時刻として算出する制御部と、制御部においてデータ欠落状態でないと判定された場合に、第2記憶部に記憶された送信時刻に第2データを他の端末装置に送信し、制御部においてデータ欠落状態であると判定された場合に、予測送信時刻に第1記憶部の特定された第1データを他の端末装置に送信する無線送信部と、を備える。受信部で受信する送信時刻は、本基地局装置および他の基地局装置の無線送信タイミングを一致させるために、制御装置によって決定された時刻であり、かつ第1受信時刻および他の基地局装置が第2データを受信した時刻のうちの最も早い時刻から第2の所定時間後の時刻である。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、制御装置から送信された信号が基地局装置に到達しない場合でも、当該基地局装置に接続される端末装置への影響を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1に係る通信システムの構成を示す図である。
【
図2】
図1の通信システムによる処理の概要を示す図である。
【
図3】
図1の通信システムによる送信処理の概要を示す図である。
【
図4】
図1の通信システムにおいてIPネットワークの障害が発生した場合の問題点を説明するための図である。
【
図6】
図5の上りパケットバッファ部に記憶されるデータのデータ構造を示す図である。
【
図7】
図5の基地局装置から送信されるパケット信号のデータ構造を示す図である。
【
図9】
図8のパケットバッファ部に記憶されるデータのデータ構造を示す図である。
【
図10】
図8の制御装置から送信されるパケット信号のデータ構造を示す図である。
【
図11】
図5の下りパケットバッファ部に記憶されるデータのデータ構造を示す図である。
【
図12】
図5の基地局装置における処理手順を示すフローチャートである。
【
図13】実施例2に係る基地局装置における処理手順を示すフローチャートである。
【
図14】実施例3に係る通信システムによって形成される通信エリアの構成を示す図である。
【
図15】実施例3に係る基地局装置の無線送信部に記憶されるテーブルのデータ構造を示す図である。
【
図16】実施例3に係る通信システムによって形成される通信エリアの別の構成を示す図である。
【
図17】実施例4に係る制御装置の制御部に記憶されるテーブルのデータ構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施例1)
本発明を具体的に説明する前に、まず概要を述べる。本発明の実施例は、基地局装置を介して互いに通信する複数の端末装置が含まれる通信システムに関する。本通信システムは、例えば、業務用無線システムに対応する。また、端末装置から基地局装置に向かう上りリンクの周波数(以下、「上り周波数」という)と、基地局装置から端末装置に向かう下りリンクの周波数(以下、「下り周波数」という)とは異なる。なお、上り周波数は、基地局装置における受信周波数に相当し、下り周波数は、基地局装置における送信周波数に相当する。一方、複数の基地局装置のそれぞれにおける上り周波数は同一であり、複数の基地局装置のそれぞれにおける下り周波数も同一である。以下では、1つの上り周波数と1つの下り周波数との組合せを「チャネル」ということもあるが、上り周波数または下り周波数の一方を「チャネル」ということもある。なお、周波数で規定される「チャネル」だけでなく、時分割多重や拡散符号などの技術を用いた「チャネル」を用いてもよい。また「チャネル」は、無線通信システムで使用される「無線リソース」であるといえる。複数の基地局装置は制御装置に接続されており、制御装置は、各基地局装置を制御するとともに、基地局装置が端末装置からの発呼情報(送信情報)を受信した場合に、複数の基地局装置に、受信した発呼情報を転送する。これは、複数の基地局装置をまたいで、サイマルキャスト通信が実行されることに相当する。
【0012】
1つの端末装置は、音声情報が含まれた発呼情報を送信する。発呼情報を受信した複数の基地局装置のそれぞれは、発呼情報をIPパケット化することによってパケット信号を生成し、IPネットワークを介してパケット信号を制御装置に送信する。その際、基地局装置は、受信した発呼情報の品質に関する情報(以下、「品質情報」という)もパケット信号に格納する。制御装置は、複数の基地局装置のそれぞれから受信したパケット信号における品質情報を比較し、最高の品質情報が含まれたパケット信号の発呼情報を選択する。制御装置は、選択した発呼情報を複数の基地局装置のそれぞれが送信すべき時刻に関する情報(以下、「送信時刻」という)と発呼情報とが含まれたパケット信号を生成する。制御装置は、IPネットワークを介して、複数の基地局装置にパケット信号を送信する。複数の基地局装置は、パケット信号を受信すると、パケット信号に含まれた送信時刻が到来した場合に発呼情報を送信する。他の端末装置は、発呼情報を受信して、音声を再生する。1つの端末装置を使用するユーザの発話が続く限り、このような処理は定期的に繰り返して続けられる。なお、「パケット信号」を「パケットデータ」あるいは単に「データ」と称することもある。
【0013】
複数の基地局装置の少なくとも1つと制御装置との間のIPネットワークにおいて障害が発生すると、制御装置から送信されたパケット信号が少なくとも1つの基地局装置に遅れて到達する。当該基地局装置はパケット信号を送信時刻までに受信しないので、発呼情報を送信しなくなる。その結果、当該基地局装置に接続された端末装置も発呼情報を受信しないので、当該端末装置において音切れが発生する。
【0014】
本実施例に係る基地局装置は、端末装置からの発呼情報を受信すると、受信した発呼情報が格納されたパケット信号を制御装置に送信するとともに、複数の発呼情報をバッファに記憶する。また、基地局装置は、制御装置から配信される発呼情報の送信時刻の履歴から次に発呼情報を送信する時刻を予測する。発呼情報の送信が予測される時刻に制御装置から発呼情報が到着していない場合、基地局装置は、バッファに記憶された複数の発呼情報から送信すべき発呼情報を特定し、特定した発呼情報を送信する。これにより、基地局装置と制御装置間でネットワーク遅延が発生した場合でも、端末装置における音切れの発生が抑制される。
【0015】
図1は、通信システム100の構成を示す。通信システム100は、IPネットワーク10、制御装置12、基地局装置14と総称される第1基地局装置14a、第2基地局装置14b、第3基地局装置14c、端末装置16と総称される第1端末装置16a、第2端末装置16b、第3端末装置16c、同期制御用基準装置20と総称される第1同期制御用基準装置20a、第2同期制御用基準装置20b、第3同期制御用基準装置20c、第4同期制御用基準装置20dを含む。ここで、通信システム100に含まれる基地局装置14の数は「3」に限定されず、端末装置16の数は「3」に限定されず、それらより多くてもよく、それらよりも少なくてもよい。なお、
図1における点線の矢印の向きは、装置間で転送されるデータの流れの向きを示している。
【0016】
複数の端末装置16、複数の基地局装置14は、前述のごとく、業務用無線システムに対応しており、各端末装置16は、1つ以上の基地局装置14を介して、音声通信を実行する。各端末装置16はPTT(Push To Talk)ボタンを備え、PTTボタンが押し下げられた端末装置16はユーザの音声を発呼情報として基地局装置14に送信する。複数の基地局装置14は、端末装置16からの発呼情報を受信すると、発呼情報が含まれたパケット信号を生成し、パケット信号をIPネットワーク10を介して制御装置12に送信する。その際、複数の基地局装置14は、発呼情報の品質として、受信信号強度(RSSI:Received Signal Strength Indicator)、発呼情報のエラー率などを測定し、測定結果である品質情報もパケット信号に含める。
【0017】
制御装置12は、複数の基地局装置14からのパケット信号を受信し、各パケット信号に含まれた品質情報をもとに、最高の品質情報を含んだパケット信号の発呼情報を選択する。また、制御装置12は、選択された発呼情報に対する送信時刻を生成し、送信時刻と発呼情報とが含まれたパケット信号を、IPネットワーク10を介して複数の基地局装置14に送信する。ここで、制御装置12には、第4同期制御用基準装置20dが接続されており、第4同期制御用基準装置20dは、例えば、高精度NTP(Network Time Protocol)サーバ、GPS(Global Positioning System)受信装置である。第4同期制御用基準装置20dは、基準となる時刻(以下、「基準時刻」という)を生成し、制御装置12は、基準時刻をもとに送信時刻を生成する。
【0018】
複数の基地局装置14は、パケット信号を受信すると、パケット信号から送信時刻と発呼情報とを抽出する。各基地局装置14にも同期制御用基準装置20が接続されており、基地局装置14は、同期制御用基準装置20から取得した基準時刻が送信時刻を経過した場合に、発呼情報を送信する。ここで、第1同期制御用基準装置20aから第4同期制御用基準装置20dは、同期されているので、第1基地局装置14aから第3基地局装置14cは、発呼情報を同一のタイミングで送信する。そのため、通信システム100は、サイマルキャストシステムであるといえる。端末装置16は、基地局装置14からの発呼情報を受信する。
【0019】
図2は、通信システム100による処理の概要を示す。ここでも、図中の矢印の向きはデータの流れの向きを示す。第1基地局装置14aから第3基地局装置14cは、IPネットワーク10経由で制御装置12にパケット信号を送信する。パケット信号には発呼情報と、基地局装置14が端末装置16から発呼情報を受信した通話受信時刻が含まれる。制御装置12は各基地局装置14から受信したパケット信号をバッファに保存し、パケット信号内の通話受信時刻が数ミリsecの一定期間内に含まれるパケット信号のそれぞれに、同一の発呼情報が含まれているとみなす。制御装置12は、同一の発呼情報であるとみなされた複数の発呼情報のうち、最も品質の高い発呼情報を選択する。
【0020】
制御装置12は、選択した発呼情報と、送信時刻とが含まれたパケット信号を生成し、パケット信号をIPネットワーク10経由で第1基地局装置14aから第3基地局装置14cに送信する。この送信時刻は、すべての基地局装置14において送信タイミングを一致させるための情報であり、すべての基地局装置14に対して同じ値が設定される。また、送信時刻は、IPネットワーク10の遅延時間を考慮した値とされる。
【0021】
図3は、通信システム100による送信処理の概要を示す。制御装置12は、パケット信号Nからパケット信号N+5を一定間隔で基地局装置14に送信する。基地局装置14は、各バッファに格納した後、パケット信号に含まれた送信時刻を抽出するとともに、同期制御用基準装置20から得られる基準時刻が送信時刻に到来した場合に、発呼情報を送信する。そのため、パケット信号Nからパケット信号N+5までに含まれた発呼情報、すなわち発呼情報Nから発呼情報N+5が、基地局装置14から下りチャネルに一定間隔で送信される。
【0022】
図4は、通信システム100においてIPネットワーク10の障害が発生した場合の問題点を説明するための図である。本図に示す例では、制御装置12が第1基地局装置14a、第2基地局装置14b、第3基地局装置14cへ一斉に第Nパケット信号を送信した後、制御装置12と第1基地局装置14a間でネットワーク遅延が発生している場合を想定している。第2基地局装置14b、第3基地局装置14cは第Nパケット信号を正常なタイミングで受信しているので、第Nパケット信号送信時刻に第Nパケット信号に含まれた発呼情報Nを送信する。しかしながら、第1基地局装置14aは第Nパケット信号送信時刻前に第Nパケット信号を受信しないので、第Nパケット信号に含まれた発呼情報Nを送信できない。その結果、第1基地局装置14aのみに接続される端末装置16では音切れが発生する。
【0023】
このように、IPネットワーク10等のネットワークは性質上、予期できないネットワーク遅延が発生する場合がある。このネットワーク遅延は、回線の設置状態(ベストエフォート/ギャランティ等)やトラヒックの使用状況等により不規則に発生し、遅延が発生する頻度を定量的に予測、あるいは遅延の発生を未然に防ぐことは一般的に困難である。そのため、制御装置12が各基地局装置14へパケット信号を送信した後に予期せぬネットワーク遅延が発生した場合、基地局装置14によっては正常なタイミングでパケット信号を受信できない。また、ネットワーク障害によりパケット信号の受信自体が行えない場合もある。
【0024】
このような状況における音切れの発生を抑制するための本実施例を説明するが、ここでは処理の時系列にしたがって、(1)基地局装置14での受信処理、(2)制御装置12での処理、(3)基地局装置14での送信処理の順に説明する。
(1)基地局装置14での受信処理
図5は、基地局装置14の構成を示す。基地局装置14は、無線受信部30、上りパケットバッファ部32、制御部34、通信部36、下りパケットバッファ部38、検出部40、無線送信部42を含む。制御部34は、算出部44、判定部46を含む。検出部40は、
図1の同期制御用基準装置20に接続され、同期制御用基準装置20から基準時刻を順次取得する。無線受信部30は、業務用無線システムに対応した受信処理を実行することによって、端末装置16からの信号を受信する。ここで、無線受信部30は、1つの端末装置16からの発呼情報を受信すると、検出部40から基準時刻を通話受信時刻として取得する。発呼情報には音声情報が含まれる。無線受信部30は、発呼情報の品質を判定する。発呼情報の品質を示す指標としてRSSI、エラー率等が用いられる。発呼情報の品質が前述の品質情報に相当し、以下では、これを品質データということもある。また、無線受信部30は、通話受信時刻と発呼情報と品質データを含むようにパケット信号を生成する。ここで、パケット信号は、例えば100ミリsec単位で生成される。無線受信部30は、パケット信号を上りパケットバッファ部32に出力する。このような動作を行う無線受信部30は、単に「受信部」あるいは「第1の受信部」と称されることもある。なお、制御部34は、算出部44を含むため、以下の説明において算出部44が実行する処理は、制御部34が実行する処理であるともいえる。同様に、制御部34は、判定部46を含むため、判定部46が実行する処理は、制御部34が実行する処理であるともいえる。また、以下の説明において、算出部44と判定部46の機能分担はあくまでも一例であり、算出部44が実行する処理を代わりに判定部46が実行してもよく、その逆でもよい。
【0025】
上りパケットバッファ部32は、無線受信部30で生成されたパケット信号を記憶する。つまり、上りパケットバッファ部32は、端末装置16から受信(取得)した発呼情報を記憶する。上りパケットバッファ部32は、第1記憶部とも称される。
図6は、上りパケットバッファ部32に記憶されるデータのデータ構造を示す。通話受信時刻には端末装置16から発呼情報を受信した時刻が記録され、データ領域には端末装置16からの発呼情報データおよび品質データ(受信品質データ)が記録される。この通話受信時刻は、第1受信時刻とも称される。上りパケットバッファ部32は、一定数(例として5)のパケット信号を格納可能であり、バッファ数が上限に達している状態で新たにパケット信号を追記する場合、通話受信時刻が古いパケット信号を順に削除する。ここでは、通話受信時刻が「10:10:32:502」のパケット信号が新たに追記された場合、通話受信時刻が「10:10:32:002」であるNo.01のパケット信号が削除される。
図5に戻る。
【0026】
通信部36は、上りパケットバッファ部32に記憶されたパケット信号を抽出する。通信部36は、
図1のIPネットワーク10に接続されており、IPネットワーク10経由で制御装置12にパケット信号を送信する。このような送信処理を実行する通信部36は送信部であるともいえる。
図7は、基地局装置14から送信されるパケット信号のデータ構造を示す。図示のごとく、通話受信時刻、発呼情報データ、品質データが含まれる。なお後述するように、パケットバッファ部32における品質データ(品質情報)の格納を省略し、基地局装置14から送信されるパケット信号の中の品質データ(品質情報)を省略することも可能である。
【0027】
(2)制御装置12での処理
図8は、制御装置12の構成を示す。制御装置12は、通信部50、パケットバッファ部52、配信部54、検出部56、品質判定部58を含む。通信部50は、
図1のIPネットワーク10に接続されており、IPネットワーク10を介して、各基地局装置14からのパケット信号を受信する。このような通信部50は、取得部であるといえ、基地局装置14が端末装置16から発呼情報を受信した際の品質データを取得する。また、通信部50は、基地局装置14が端末装置16から発呼情報を受信した際の音声データを取得する。通信部50は、パケット信号をパケットバッファ部52に出力する。
【0028】
検出部56は、
図1の同期制御用基準装置20に接続され、同期制御用基準装置20から基準時刻を順次取得する。パケットバッファ部52は、通信部50からパケット信号を受けつけるとともに、パケット信号を受けつけた時刻(基準時刻)を検出部56から受けつける。パケットバッファ部52は、通信部50から受けつけたパケット信号を記憶する。
図9は、パケットバッファ部52に記憶されるデータのデータ構造を示す。送信元基地局装置名にはパケット信号を送信した基地局装置14の名称が記憶され、パケット受信時刻には制御装置12がパケット信号を受信した時刻が記録され、通話受信時刻およびデータ領域にはパケット信号の内容がそのまま記録される。
図8に戻る。
【0029】
配信部54は、パケットバッファ部52に記憶されたパケット信号内の通話受信時刻を参照し、以前受信した発呼情報とは同一でない発呼情報のパケット信号(新規の発呼情報のパケット信号)を特定する。新たに受信したパケット信号の通話受信時刻と、過去に受信したパケット信号の通話受信時刻との時間差が、所定値以下である場合に、同一の発呼情報と判定する。例えば、この所定値を5ミリsecとする。
図9の場合、No.03のパケット信号の通話受信時刻は「10:10:32:002」であり、No.04のパケット信号の通話受信時刻は「10:10:32:102」である。これらには100ミリsecの間隔があるので、No.03の発呼情報とNo.04の発呼情報は同一でない、すなわち新規の発呼情報と判定される。その際、配信部54は、No.04のパケット信号のパケット受信時刻を始点としたタイマTを動作させる。すなわち、新規の発呼情報のパケット信号であると判定した場合、配信部54は、そのパケット信号の受信時刻を始点としてタイマTを動作させる。タイマTの終了時刻はIPネットワーク10の回線速度等により設定され、本実施例では、例えば50ミリsecとされる。
【0030】
タイマTの終了時、
図9の場合、No.05の第2基地局装置14bからのパケット信号およびNo.06の第3基地局装置14cからのパケット信号を受信した状態となる。No.05およびNo.06のパケット信号の通話受信時刻はそれぞれ「10:10:32:102」「10:10:32:103」であり、タイマTを動作させたパケット信号の通話受信時刻との時間差が所定値以下である。そのため、No.04の発呼情報と同一の発呼情報であると判定される。品質判定部58は、No.04、No.05、No.06のパケット信号の品質情報を比較し、No.04、No.05、No.06のパケット信号からから最も品質の高い発呼情報をもつパケット信号を特定する。すなわち品質判定部58は、同一の発呼情報と判定された発呼情報の中から、最も品質の高い発呼情報を特定する。
【0031】
配信部54は、特定された発呼情報(発呼情報データ)をもとにパケット信号を生成する。
図10は、制御装置12から送信されるパケット信号のデータ構造を示す。図示のごとく、送信時刻、通話受信時刻、発呼情報データ、品質データが含まれる。この発呼情報データは、品質判定部58で特定された発呼情報データである。通話受信時刻は、特定された発呼情報に対応する通話受信時刻であり、品質データは、特定された発呼情報に対応する品質データである。なお、品質データは省略されてもよい。送信時刻は、基地局装置14が発呼情報データを送信すべき時刻であり、同一の発呼情報と判定されたパケット信号の中の最も早い通話受信時刻から所定時間後の時刻が設定される。この所定時間は、IPネットワーク10の回線速度等を考慮して設定され、例えば、200ミリsecが用いられる。なお、品質情報が比較されたパケット信号No.04、No.05、No.06は、一定期間後にパケットバッファ部52から削除されてもよい。
【0032】
品質判定部58における品質の判定は、例えば、次のようになされる。
(A)第1の方法は、RSSIを用いる方法である。この場合、品質情報には、基地局装置14における無線受信部30が発呼情報を受信した際のRSSI値が示される。品質判定部58は、比較対象の品質情報の中で、RSSI値が最も大きなものを選択する。
(B)第2の方法は、エラーに関する情報を用いる方法である。この場合、品質情報には、無線受信部30が発呼情報を受信した際の無線通信で発生したエラーの多さ(エラー数、エラー率など)を示す数値、またはエラー訂正処理によって訂正されたエラーの多さ(エラー数、エラー率など)を示す数値が示される。品質判定部58は、比較対象の品質情報の中で、エラーの程度を示す数値が最も小さなものを選択する。
【0033】
(C)第3の方法は、発呼情報を用いる方法である。品質判定部58は、各パケット信号の発呼情報を信号解析し、音声以外のノイズ成分を検出する。例えば、音声に特有な帯域以外の周波数成分や、時間的な振幅変化が所定値以上の成分をノイズ成分とすればよい。そして、比較対象の発呼情報の中で、ノイズ成分が最も小さなものを選択する。なお、品質判定部58は、音声成分とノイズ成分を両方算出し、それらの比であるSN比を算出し、SN比が最も大きな発呼情報を選択してもよい。なお、この第3の方法を用いる場合は、パケットバッファ部32における品質データ(品質情報)の格納を省略し、基地局装置14から送信されるパケット信号の中の品質データ(品質情報)を省略することも可能である。
【0034】
また、第1の方法から第3の方法を組み合わせて、品質を判定してもよい。例えば、RSSI値をR、エラーの程度を示す数値をE、ノイズ成分を示す数値をNとして、式(1)に示す演算により総合的なスコアSを算出する。ここで、α、β、γは重み係数であり、α>0、β<0、γ<0である。そして、総合スコアSが最も大きなパケット信号を選択する。
S=αR+βE+γN 式(1)
【0035】
配信部54は、生成したパケット信号を通信部50に出力する。通信部50は、パケット信号をIPネットワーク10経由で第1基地局装置14aから第3基地局装置14cに送信する。
【0036】
(3)基地局装置14での送信処理
図5に示された基地局装置14の通信部36は、IPネットワーク10を介して制御装置12からのパケット信号を取得すると、パケット信号を下りパケットバッファ部38に出力する。このような取得(受信)処理を実行する通信部36は、「取得部」あるいは「第2の受信部」といえる。また、取得(受信)処理は送信処理がなされていない場合においてもなされる。下りパケットバッファ部38はパケット信号を記憶する。下りパケットバッファ部38に記憶されるパケット信号には、自基地局装置14または他の基地局装置14が端末装置16から受信した発呼情報が含まれている。すなわち、自基地局装置14が受信した発呼情報の品質が最も高い場合には、自基地局装置14が受信した発呼情報が含まれており、そうでない場合には、他の基地局装置14が受信した発呼情報が含まれている。なお、下りパケットバッファ部38は、検出部40から基準時刻を受けつけており、パケット信号内の送信時刻が基準時刻を経過していた場合、当該パケット信号を記憶しない。
【0037】
図11は、下りパケットバッファ部38に記憶されるデータのデータ構造を示す。図示のごとく、送信時刻、通話受信時刻、データ領域が含まれ、データ領域には、発呼情報データ、品質データが含まれる。つまり、下りパケットバッファ部38は、制御装置12から取得した発呼情報を記憶する。また、下りパケットバッファ部38の通話受信時刻は、制御装置12が選択した最も品質の高い信号を受信した基地局装置14が、端末装置16から発呼情報を受信した時刻である。この基地局装置14は、自基地局装置14または他の基地局装置14であるため、下りパケットバッファ部38の通話受信時刻は、自基地局装置14または他の基地局装置14が端末装置16から発呼情報を受信した時刻であるといえる。この通話受信時刻は、第2受信時刻とも称される。ここで、上りパケットバッファ部32に記憶された発呼情報を第1データと呼ぶ場合、下りパケットバッファ部38に記憶された発呼情報は第2データと呼ばれる。また、下りパケットバッファ部38は、第2記憶部とも称される。送信時刻は発呼情報を送信すべき時刻である。下りパケットバッファ部38は一定数(例として5)のパケット信号を格納可能であり、バッファ数が上限に達している状態で新たにパケット信号を追記する場合は送信時刻が古いパケット信号から順に削除される。
図11に示す例の場合、送信時刻が「10:10:32:802」等のパケット信号が新たに追記された場合、送信時刻が「10:10:32:202」であるNo.1のパケット信号が削除される。
図5に戻る。
【0038】
ここでは、制御部34における処理を
図12を使用しながら説明する。
図12は、基地局装置14における処理手順を示すフローチャートである。制御部34は、検出部40から基準時刻を取得する(S100)。制御部34は、下りパケットバッファ部38内のパケット信号内の送信時刻を監視し、基準時刻が送信時刻と同じか送信時刻を経過しているパケット信号が存在するか否かを判定する(S110)。基準時刻が送信時刻と同じか送信時刻を経過しているパケット信号が存在する場合(S110:Yes)は、S200に進み、存在しない場合(S110:No)は、S300に進む。S200において、制御部34は、S110で基準時刻が送信時刻を経過していると判定したパケット信号の送信を無線送信部42に指示する。無線送信部42は、業務用無線システムに対応した送信処理を実行することによって、当該パケットに含まれた発呼情報を端末装置16に送信し、S210に進む。S210において、制御部34はS200で送信したパケット信号の送信時刻を制御部34の内部で管理する変数T_Lastへ記録し、S220に進む。S220において、制御部34はS200で送信したパケット信号の通話受信時刻を制御部34の内部で管理する変数R_Lastへ記録し、S100に戻って処理を繰り返す。
【0039】
S300において、制御部34の算出部44は下りパケットバッファ部38を参照し、パケット信号の予測送信間隔ΔTを算出する。算出部44は、予測送信時刻算出部あるいは処理部とも称される。具体的に説明すると、算出部44は、下りパケットバッファ部38に格納されている隣り合ったパケット信号の送信時刻の差をすべて算出する。次に、算出部44は、算出した送信時刻の差のうちの最小値をΔTとする。
図11の場合、No.1とNo.2の送信間隔は100ミリsec、No.2とNo.3の送信間隔は101ミリsec、No.3とNo.4の送信間隔は199ミリsec、No.4とNo.5の送信間隔は100ミリsecである。そのため、ΔTとして100ミリsecが設定される。なお、ΔTに、送信時刻の差の最小値に所定値(例えば、数ミリsec)を加算した値を設定してもよい。つまり、算出部44は、下りパケットバッファ部38において記憶された複数の送信時刻の差をもとに、予測送信間隔を算出する。その後S305に進む。
【0040】
S305において、算出部44は予測送信時刻を算出する。予測送信時刻は変数T_LastにS300にて算出された予測送信間隔ΔTを加算した時刻となる。予測送信間隔ΔTは、下りパケットバッファ部38に格納された複数の送信時刻に基づいて算出されているため、下りパケットバッファ部38に格納された複数の送信時刻に基づいて、予測送信時刻を算出するともいえる。その後S310に進む。
S310において、制御部34の判定部46は下りパケットバッファ部38を参照し、S305にて計算された予測送信時刻に送信予定のパケット信号が存在するか否かを判定する。具体的には、予測送信時刻と送信時刻との時間差が所定値以内のデータが下りパケットバッファ部38に存在するか否かを判定する。つまり、判定部46は、算出部44において算出した予測送信時刻に該当する送信時刻が下りパケットバッファ部38に記憶されているか否かを判定することによって、送信すべき発呼情報が下りパケットバッファ部38に記憶されているか否かを判定する。この処理は、下りパケットバッファ部38が本来記憶すべきパケット信号(第2データ)が、下りパケットバッファ部38に記憶されておらず、欠落している状態(データ欠落状態)を判定する処理ともいえる。また、データ欠落(状態)を検出する処理ともいえる。このようなデータ欠落は、上述のとおり、制御装置12と各基地局装置14とのネットワークにおいて、ネットワーク障害またはネットワーク遅延が起こることにより生じる。あるいは、通信部36または通信部50の一時的な障害によっても起こり得る。なお、予測送信時刻は、下りパケットバッファ部38に格納された複数の送信時刻に基づいて算出されているため、下りパケットバッファ部38に格納された送信時刻に基づいて、データ欠落状態を判定しているともいえる。予測送信時刻に送信予定のパケット信号が存在しない場合、すなわちデータ欠落状態であると判定した場合(S310:No)は、S320に進み、予測送信時刻に送信予定のパケット信号が存在する場合、すなわちデータ欠落状態でないと判定した場合(S310:Yes)は、S100に戻って処理を繰り返す。
【0041】
S320において、制御部34は上りパケットバッファ部32内のパケット信号を対象にして、その通話受信時刻が、(R_Last+ΔT)と同一、あるいは所定の時間(例えば、数ミリsec)の範囲で合致しているパケット信号が存在するか否かを判定する。すなわち、欠落した第2データに対応する第1データが上りパケットバッファ部32に記憶されているか否かを判定する。通話受信時刻が合致しているパケット信号が存在する場合(S320:Yes)は、S330に進む。この通話受信時刻が合致しているパケット信号(特定されたパケット信号)は、欠落した第2データに対応する第1データであるともいえる。通話受信時刻が合致しているパケット信号が存在しない場合(S320:No)はS100に戻って処理を繰り返す。S330において、制御部34はS305で計算された予測送信時刻に、S320で上りパケットバッファ部32内から特定されたパケット信号の送信を無線送信部42に指示する。無線送信部42は、当該パケットに含まれた発呼情報を端末装置16に送信する。つまり、無線送信部42は、判定部46において、下りパケットバッファ部38内に本来記憶すべきパケット信号が記憶されていないと判定された場合に、通話受信時刻と予測送信間隔とをもとに上りパケットバッファ部32の中から特定された発呼情報を予測送信時刻に送信する。その後S340に進む。S340において、制御部34はT_Lastに基準時刻(現在時刻)を記録する。その後S350に進む。S350において、制御部34はS330で送信したパケット信号の通話受信時刻をR_Lastに記録する。その後S360に進む。S360において、制御部34は上りパケットバッファ部32からS330で送信したパケット信号を削除する。その後S100に戻って処理を繰り返す。
図12に示した処理は、第2記憶部に記憶された送信時刻の規則性を用いて、本来第2記憶部に記憶すべき発呼情報の欠落を検出するとともに、欠落した発呼情報に対応する通話受信時刻を推定し、推定した通話受信時刻に対応する、第1記憶部に記憶された発呼情報を送信する処理といえる。
【0042】
本実施例の効果をより明確にするために、以下では、具体例と併せて説明を補足する。
図6、
図11はそれぞれ第1基地局装置14aの上りパケットバッファ部32、下りパケットバッファ部38であるとする。
図11では、制御装置12と第1基地局装置14a間のネットワーク遅延によりNo.3(送信時刻10:10:32:403)とNo.4(送信時刻10:10:32:602)の間で受信すべきパケット信号が第1基地局装置14aへ到達していない。
図12のフローチャートでは、制御部34が下りパケットバッファ部38のNo.3のパケット信号に含まれた発呼情報を無線送信部42に送信させた後に、T_Lastには「10:10:32:403」、R_Lastには「10:10:32:203」が記録される。
【0043】
またS300の処理において、ΔT=100ミリsecと算出されたものとする。S310において、基準時刻がT_Last+ΔT=「10:10:32:503」を経過したと判定された場合、S320において、制御部34は上りパケットバッファ部32から、通話受信時刻と、R_Last+ΔT=「10:10:32:303」との時間差が所定の範囲以内のパケット信号を検索する。
図6の例の場合、通話受信時刻が「10:10:32:302」であるNo.4のパケット信号が特定される。これにより、IPネットワーク10の遅延が発生し、制御装置12からのパケット信号が正常に受信されない場合でも、各基地局装置14は可能な範囲で音切れすることなく発呼情報を送信できる。
【0044】
上述の制御装置12および基地局装置14は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIで実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされたプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。また、複数のコンピュータを用いて、分散処理を行うプログラムとしても実現可能である。例えば、複数のコンピュータに、それぞれ異なる機能の処理を実行させ、コンピュータシステム全体で所望の処理結果が得られるように構成してもよい。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ハードウエアとソフトウエアの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0045】
本実施例によれば、本来記憶すべき発呼情報が下りパケットバッファ部(第2記憶部)に記憶されていないと判定された場合に、上りパケットバッファ部(第1記憶部)に記憶した発呼情報を送信するので、ネットワーク障害等により基地局装置が制御装置からのパケット信号を正常に受信できなかった場合でも、通信システムにおける音切れ等の障害の発生を抑制できる。さらに、下りパケットバッファ部において記憶した送信時刻をもとに予測送信時刻を算出し、予測送信時刻に上りパケットバッファ部に記憶された発呼情報を送信するので、本来送信すべき時刻に近い時刻に電波を送信できる。このため、他の基地局装置を使用する端末装置のユーザが情報を受け取るタイミングと、本基地局装置を使用する端末装置のユーザが情報を受け取るタイミングとのずれを抑えることができる。また、隣接する基地局装置が送信した電波との干渉を抑えることができる。
【0046】
また、下りパケットバッファ部において記憶された複数の送信時刻の差を算出し、送信時刻の差に応じた予測送信時刻に該当する送信時刻が下りパケットバッファ部に記憶されているか否かを判定するので、本来記憶すべき発呼情報の有無の判定精度を向上できる。また、送信時刻の差をもとに予測送信間隔を算出し、予測送信間隔をもとに予測送信時刻を算出するので、予測送信時刻の算出精度を向上できる。また、受信時刻と予測送信間隔とをもとに上りパケットバッファ部の中から、下りパケットバッファ部において欠落した発呼情報に対応する発呼情報を特定するので、本来送信すべき発呼情報の代替となる発呼情報を精度よく特定できる。
【0047】
(実施例2)
次に、実施例2を説明する。実施例1においては、算出部44が予測送信間隔ΔTを算出し、これを用いて処理を行った。実施例2においては、上りパケットバッファ部の通話受信時刻と、下りパケットバッファ部の送信時刻との時間差に基づいて、算出部44が予測送信時間差ΔDを算出し、これを用いて処理を行う。つまり、制御装置から本来受信すべきパケット信号を受信していないことを検出した場合に、算出部44は、基地局装置が過去に端末装置から受信したパケット信号の通話受信時刻と、過去に制御装置から受信した送信時刻との時間差に基づいて、予測送信時刻を算出する。実施例2に係る通信システム100、基地局装置14、制御装置12は、
図1、
図5、
図8と同様のタイプである。ここでは実施例1との差異を中心に説明する。なお、制御部34は算出部44を含むため、算出部44が実行する処理は、制御部34が実行する処理であるともいえる。同様に、判定部46が実行する処理は、制御部34が実行する処理であるともいえる。
【0048】
実施例2に係る基地局装置14の処理を
図13を使用しながら説明する。
図13は、基地局装置14における処理手順を示すフローチャートである。S100、S110、S200は、実施例1と同じ処理であるため、説明を省略する。前述のごとく、上りパケットバッファ部32には、複数の発呼情報と、それらに対応する複数の通話受信時刻とが記憶されており、下りパケットバッファ部38には、複数の発呼情報と、それらに対応する複数の送信時刻、複数の通話受信時刻とが記憶されている。上りパケットバッファ部32に格納された通話受信時刻と、下りパケットバッファ部38に格納された通話受信時刻とを用いて、上りパケットバッファ部32に格納されたパケット信号(発呼情報データ)と、下りパケットバッファ部38に格納されたパケット信号(発呼情報データ)とを対応付けることができる。制御部34の判定部46は、上りパケットバッファ部32に格納されたパケット信号内の通話受信時刻と、下りパケットバッファ部38に格納されたパケット信号内の通話受信時刻との差が、所定の時間以内(例えば、5ミリ秒以下)の場合に、上りパケットバッファ部32のパケット信号と、下りパケットバッファ部38のパケット信号が対応すると判定する。この「所定の時間以内」という条件は、「所定の関係にある」ともいえるので、上りパケットバッファ部32内の通話受信時刻と、下りパケットバッファ部38内の通話受信時刻が所定の関係にある場合に、2つのパケット信号が対応するともいえる。2つのパケット信号が対応する場合、各々のパケット信号内の発呼情報データは、同一であるとみなされる。
【0049】
S200の後で、S230に進む。S230において、制御部34の算出部44は、上りパケットバッファ部32の通話受信時刻と、その通話受信時刻に対応する下りパケットバッファ部38の送信時刻との時間差に基づいて、予測送信時間差ΔDを算出する。上りパケットバッファ部32のパケット信号と受信時刻と、そのパケット信号に対応する下りパケットバッファ部38のパケット信号内の送信時刻との時間差に基づいて、予測送信時間差ΔDを算出する、ともいえる。具体的には、以下のいずれかの方法で算出すればよい。
(A)算出部44は、送信する発呼情報を含むパケット信号に対する送信時刻から上りパケットバッファ部32の通話受信時刻を引いた値をΔDとする。例えば、
図11のNo.3のパケット信号を送信対象にする場合、その送信時刻は「10:10:32:403」である。
図11のNo.3の通話受信時刻は「10:10:32:203」であり、この時刻との時間差が所定値(例えば、5ミリ秒)以内である通話受信時刻をもつ上りパケットバッファ部32(
図6)のデータはNo.3であり、その通話受信時刻は「10:10:32:203」である。したがって、
図11のNo.3のデータと、
図6のNo.3のデータが対応すると判定できる。この場合、上りパケットバッファ部32の通話受信時刻「10:10:32:203」と、それに対応する下りパケットバッファ部38の送信時刻は「10:10:32:403」との時間差は、ΔD=「403-203=200ミリsec」となる。ΔDは、発呼情報の送信毎に更新される。この方法では、ΔDには最も新しく送信された発呼情報だけが反映される。
【0050】
(B)算出部44は、下りパケットバッファ部38に格納された複数のパケット信号について、各パケット信号の送信時刻から、対応する上りパケットバッファ部32の各通話受信時刻を引いた値(時間差)をそれぞれ算出し、その平均値をΔDとする。処理対象のパケット信号は、直近で送信されたNa個(例えば10個)でもよいし、直近Ta時間(例えば3時間)に送信されたパケット信号でもよいし、過去に送信されたすべてのパケット信号でもよい。あるいは、今後送信される予定のパケット信号を処理対象に含めてもよい。例えば、上りパケットバッファ部32に格納された10個のパケット信号と、それらに対応する下りパケットバッファ部38に格納された10個のパケット信号を用いて、10個の時間差を算出し、それらの平均値をΔDとする。算出部44内部の記憶部(図示せず)に、パケット信号の送信時刻から上りパケットバッファ部32の通話受信時刻を引いた値の合計値と、データ数を記憶しておけば、過去の送信時刻と通話受信時刻をすべて記憶しておかなくても、平均値は算出可能である。なお、平均値の代わりに、中央値または最頻値を算出してもよい。あるいは、過去の送信時刻それぞれに対して、処理時点の時刻(現在時刻)に近いほど大きな重みを付けて、加重平均値を算出してもよい。平均値、加重平均値、中央値、最頻値などをまとめて代表値ということができる。
【0051】
S110がNoの場合、S250に進む。S250において、制御部34の判定部46は、上りパケットバッファ部32の中から処理対象のパケット信号を特定する。具体的には、上りパケットバッファ部32のうち、基準時刻が(通話受信時刻+Tb)を経過しているパケット信号を特定し、処理対象とする。ここで、Tbは所定値であり、制御装置12、基地局装置14間のIPネットワーク10が正常である場合に、通話受信時刻からTb時間以内に、基地局装置14が制御装置12からパケット信号を受信すると想定される時間である。つまり、(通話受信時刻+Tb)後には、下りパケットバッファ部38に対応するパケット信号が格納されていると想定される。例えば、Tbを「100ミリsec」にする。この(通話受信時刻+Tb)を予測取得時刻とも称する。すなわち、予測取得時刻が過去の時刻であるパケット信号を特定し、処理対象とする。また、上りパケットバッファ部32の中から通話受信時刻が、現在時刻からTbを引いた時刻よりも早い時刻であるという条件(所定の条件)を満たすパケット信号を特定し、処理対象とするともいえる。
【0052】
S260において、制御部34の判定部46は、S250で特定した処理対象のパケット信号に対応するパケット信号が、下りパケットバッファ部38に存在するか否かを判定する。具体的には、下りパケットバッファ部38の通話受信時刻の中に、処理対象のパケット信号の通話受信時刻に近い(時間差が所定値以内の)通話受信時刻をもつパケット信号が存在するか否かを判定する。例えば、処理対象のパケット信号を
図6のNo.3とした場合、その通話受信時刻「10:10:32:203」との時間差が所定値(例えば、5ミリ秒)以内の通話受信時刻をもつパケット信号が、
図11のNo.3に存在する。一方、処理対象データを
図6のNo.4とした場合、その通話受信時刻「10:10:32:302」に近い(例えば、5ミリ秒以内)のパケット信号は、
図11には存在しない。このように上りパケットバッファ部32のパケット信号に対応するパケット信号が下りパケットバッファ部38に存在しない場合(S260:No)には、本来下りパケットバッファ部38に存在すべきパケット信号(発呼情報)が存在しない状態、すなわちデータ欠落状態であると判定し、S270に進む。対応するパケット信号が存在する場合(S260:Yes)には、データ欠落状態でないと判定し、S100に戻る。
【0053】
S270において、制御部34の算出部44は、処理対象のパケット信号に含まれた発呼情報を送信する予測送信時刻を算出し、予測送信時刻が到来すれば、上りパケットバッファ部32に記憶された処理対象のパケット信号の発呼情報を送信する。予測送信時刻は、(処理対象のパケット信号の通話受信時刻+ΔD)によって算出される。例えば、処理対象のパケット信号が
図6のNo.4であって、その通話受信時刻が「10:10:32:302」であり、ΔDが「200ミリ秒」である場合、これらを加算した時刻「10:10:32:502」が予測送信時刻になる。無線送信部42は、予測送信時刻に発呼情報を送信する。
【0054】
なお上述のS260において、処理対象のパケット信号の通話受信時刻と、下りパケットバッファ部38に格納された通話受信時刻とを用いて、S250で特定した処理対象のパケット信号に対応するパケット信号が、下りパケットバッファ部38に存在するか否かを判定しているが、他の方法を用いてもよい。例えば、端末装置16が送信する発呼情報の中に、発呼を一意に識別可能な発呼識別情報(発呼ID)を含ませた上で、各基地局装置14が制御装置12に送信するパケット信号、および制御装置12が各基地局装置14に送信するパケット信号の中に発呼識別情報を入れる。このようにすると、上りパケットバッファ部32および下りパケットバッファ部38に、発呼識別情報が格納されるため、同じ発呼識別情報をもつパケット信号があるか否かを判定すればよい。このような方法を用いると、より精度よく判定できる他、下りパケットバッファ部38に通話受信時刻を格納することを省略できる。
【0055】
また上述のS230において、上りパケットバッファ部32の通話受信時刻と、その通話受信時刻に対応する下りパケットバッファ部38の送信時刻との時間差に基づいて、予測送信時間差ΔDを算出したが、他の方法を用いてもよい。例えば、下りパケットバッファ部38のパケット信号内の送信時刻と、その同じパケット信号内の通話受信時刻との時間差に基づいて、予測送信時間差ΔDを算出してもよい。上りパケットバッファ部32の通話受信時刻を用いる方法と比べて予測送信時刻の精度が若干落ちる場合もあるが、処理を簡素化できる。
【0056】
本実施例によれば、上りパケットバッファ部(第1記憶部)に記憶されたパケット信号(発呼情報)に対応するパケット信号(発呼情報)が、下りパケットバッファ部(第2記憶部)に記憶されているか否かを判定し、記憶されていない場合に、上りパケットバッファ部に記憶された発呼情報を送信する。すなわち、下りパケットバッファ部に本来記憶されるべき発呼情報が記憶されているか否かを判定し、記憶されていない場合に、上りパケットバッファ部に記憶された発呼情報を送信するため、ネットワーク障害等により基地局装置が制御装置からのパケット信号を正常に受信できなかった場合でも、通信システムにおける音切れ等の障害の発生を抑制できる。さらに、送信時刻および受信時刻をもとに算出される予測送信時刻に、上りパケットバッファ部に記憶された発呼情報を送信するので、本来送信すべき時刻に近い時刻に電波を送信できる。このため、他の基地局装置を使用する端末装置のユーザが情報を受け取るタイミングと、本基地局装置を使用する端末装置のユーザが情報を受け取るタイミングとのずれを抑えることができる。また、隣接する基地局装置が送信した電波との干渉を抑えることができる。
【0057】
また、上りパケットバッファ部に格納された第1パケットデータと、対応関係にある第2パケットデータを下りパケットバッファ部から特定し、第1パケットデータに含まれる受信時刻と、第2パケットデータに含まれる送信時刻との時間差を、第1パケットデータに含まれる受信時刻に加えることによって、予測送信時刻を算出するので、予測送信時刻を精度よく算出できる。また、上りパケットバッファ部に格納された複数の第1パケットデータそれぞれと、対応関係にある複数の第2パケットデータを下りパケットバッファ部から特定し、各第1パケットデータに含まれる受信時刻と、各第2パケットデータに含まれる送信時刻との時間差を複数算出し、算出した複数の時間差の代表値に基づいて予測送信時刻を算出するので、予測送信時刻をさらに精度よく算出できる。また、受信時刻または発呼識別情報を用いて、上りパケットバッファ部内の処理対象の発呼情報と対応する発呼情報が下りパケットバッファ部に存在するか否かを判定し、存在しない場合に、処理対象の発呼情報を欠落した発呼情報に対応させるので、本来送信すべき発呼情報の代替となる発呼情報を精度よく特定できる。
【0058】
(実施例3)
次に、実施例3を説明する。実施例1および実施例2では、制御装置からのパケット信号を受信できなかった各基地局装置は、自身が保持している発呼情報を送信している。その結果、ある基地局装置は制御装置からの発呼情報を送信し、別の基地局装置は自身が保持している発呼情報を送信する。つまり、複数の基地局装置がそれぞれ異なる発呼情報を送信する場合がある。そのため、各基地局装置が設置されている位置や送信出力により通信エリアが重複する地域では、電波干渉が発生するおそれがある。実施例3では、制御装置から配信された発呼情報を送信するか、基地局装置内に保持している発呼情報を送信するかに応じて、基地局装置は、発呼情報を送信する際の送信出力を切りかえる。実施例3に係る通信システム100、基地局装置14、制御装置12は、
図1、
図5、
図8と同様のタイプである。ここではこれまでとの差異を中心に説明する。
【0059】
図14は、通信システム100によって形成される通信エリア18の構成を示す。ここでは、各基地局装置14が同一の送信電力によって発呼情報を送信する場合を示す。各基地局装置14は、通信可能なエリアとして通信エリア18を形成する。具体的に説明すると、第1基地局装置14aは第1通信エリア18aを形成し、第2基地局装置14bは第2通信エリア18bを形成し、第3基地局装置14cは第3通信エリア18cを形成する。また、第1基地局装置14aから第3基地局装置14cでは同一のチャネルが使用されるので、第1通信エリア18aから第3通信エリア18cでも同一のチャネルが使用される。ここで、第2基地局装置14b、第3基地局装置14cは、制御装置12から配信された発呼情報を送信しているが、第1基地局装置14aは、自身が保持する発呼情報を送信している。そのため、第1通信エリア18aと第2通信エリア18bとが重複する地域と、第1通信エリア18aと第3通信エリア18cとが重複する地域において、電波干渉が発生するおそれがある。
【0060】
図15は、基地局装置14の無線送信部42に記憶されるテーブルのデータ構造を示す。これは、発呼情報元毎の送信出力テーブルである。本テーブルには発呼情報元(制御装置12あるいは基地局装置14)毎の送信出力が設定される。発呼情報元が制御装置12である場合、送信出力には通常の通信エリア18となる値が設定され、発呼情報元が基地局装置14である場合、送信出力には隣接する通信エリア18と通信エリア18が重複しない値が設定される。
【0061】
図15の例の場合、無線送信部42は、制御装置12から配信された発呼情報を送信する場合、制御装置用の送信出力(50W)で発呼情報を送信し、上りパケットバッファ部32に記憶している発呼情報を送信する場合、基地局装置用の送信出力(30W)で発呼情報を送信する。つまり、基地局装置14が保持している発呼情報を送信する場合は、制御装置12から配信された発呼情報を送信する場合に比べて、送信電力を小さくする。
【0062】
図16は、通信システム100によって形成される通信エリア18の別の構成を示す。ここでも、第2基地局装置14b、第3基地局装置14cは、制御装置12から配信された発呼情報を送信しているが、第1基地局装置14aは、自身が保持する発呼情報を送信している。前述のごとく、基地局装置14が保持している発呼情報を送信する場合は、制御装置12から配信された発呼情報を送信する場合に比べて、送信電力を小さくするので、第1通信エリア18aは、第2通信エリア18b、第3通信エリア18cよりも小さくなる。その結果、第1通信エリア18aは、第2通信エリア18b、第3通信エリア18cに重複しなくなり、電波干渉が回避される。
【0063】
本実施例によれば、上りパケットバッファ部に記憶した発呼情報を送信するか、下りパケットバッファ部に記憶した発呼情報を送信するかに応じて送信電力を変更するので、電波干渉の発生を抑制できる。また、電波干渉の発生が抑制されるので、通信品質の悪化を抑制できる。
【0064】
(実施例4)
次に、実施例4を説明する。実施例3では通信エリアの重複を回避するために、基地局装置の無線送信部42内に、発呼情報元毎の送信出力テーブルを記憶している。実施例4では、各基地局装置の通信エリアの重複確認および送信出力の設定が制御装置によってなされる。実施例4に係る通信システム100、基地局装置14、制御装置12は、
図1、
図5、
図8と同様のタイプである。ここではこれまでとの差異を中心に説明する。
【0065】
図17は、制御装置12の制御部34に記憶されるテーブルのデータ構造を示す。基地局装置名には各基地局装置14の名称が設定され、発呼情報元には制御装置12、基地局装置14毎の発呼情報元種別が設定され、送信出力には制御装置12、基地局装置14毎の送信出力値が設定される。本テーブルは、通信システム100の運用者が基地局装置14を設置した際、あるいは設置済み基地局装置14の設置場所を変更した場合等に更新される。各基地局装置14は、任意のタイミングで制御装置12から送信出力値を取得し、発呼情報毎に発呼情報を送信する際の送信出力を切りかえる。
【0066】
本実施例によれば、発呼情報元毎の送信出力テーブルを制御装置に記憶するので、テーブルの更新を容易にできる。また、基地局装置毎に送信出力値を変更可能であるので、基地局装置を設置した位置に適した送信出力値を設定できる。
【0067】
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0068】
実施例1乃至4において、通信システム100では、業務用無線システムが使用されている。しかしながらこれに限らず例えば、業務用無線システム以外の携帯電話等の無線通信システムが使用されてもよい。本変形例によれば、システムの自由度を向上できる。また本実施例では、通信システム100において、音声通話を行う例を用いて説明したが、音声通話に限らず、テキストデータ、映像データ、その他のデータを交換するデータ通信を行う通信システムであってもよい。すなわち、「発呼情報データ」は広い意味での「通信情報データ」であってよい。
【0069】
実施例1乃至4において、制御装置12は、基地局装置14とは別に構成されており、IPネットワーク10を介して基地局装置14に接続される。しかしながらこれに限らず例えば、制御装置12は、基地局装置14に含まれることによって、両者は一体的に構成されてもよい。この場合、実施例1乃至4における基地局装置14の説明において、制御装置12は他の基地局装置14に変えられる。本変形例によれば、構成の自由度を向上できる。
【0070】
また実施例1乃至4において、IPネットワーク10を用いる通信システムを例にして説明している。しかしながらIPネットワーク10に限らず、他のプロトコルを用いるネットワークを用いてもよい。本変形例によれば、システムの自由度を向上できる。
【0071】
また実施例1乃至4において、制御装置12は最も品質の高い発呼情報を選択し、その発呼情報を含むパケット信号を基地局装置14に送信している。そして制御装置12から取得したパケット信号を下りパケットバッファ部38に格納している。しかしながら、これとは別の方法を用いてもよい。例えば、制御装置12を介さずに、自基地局装置14が、他のすべての基地局装置14に対して、自基地局装置14が受信した発呼情報を含むパケット信号を送信するように通信システムを構成してもよい。この場合、各基地局装置14は、他の基地局装置14それぞれからパケット信号を受信した上で、その中から最も品質の高いパケット信号を選択し、それを下りパケットバッファ部38に格納する。そして、上りパケットバッファ部32のパケット信号と、それに対応する下りパケットバッファ部38のパケット信号の品質を比較し、品質の高い方を送信する。この際、対応する下りパケット信号が存在しない場合は、上りパケット信号を送信すればよい。すなわち、下りパケットバッファ部38は、制御装置12から取得したパケット信号に限らず、他の基地局装置14から取得したパケット信号を格納してもよい。
【0072】
実施例1乃至4において、基地局装置14の無線送信部42は、下りパケットバッファ部38に発呼情報が記憶されていない場合に、上りパケットバッファ部32に記憶した発呼情報を送信する。しかしながらこれに限らず例えば、このような場合においても、上りパケットバッファ部32に記憶した品質データが、所定の基準よりも低い品質である場合、上りパケットバッファ部32に記憶した発呼情報を送信しなくてもよい。すなわち、下りパケットバッファ部38に発呼情報が記憶されておらず、かつ、品質データが所定の基準よりも高い場合に、発呼情報を送信するようにしてもよい。本変形例によれば、品質データが低すぎる発呼情報の送信を回避できる。
【符号の説明】
【0073】
10 IPネットワーク、 12 制御装置、 14 基地局装置、 16 端末装置、 18 通信エリア、 20 同期制御用基準装置、 30 無線受信部、 32 上りパケットバッファ部、 34 制御部、 36 通信部、 38 下りパケットバッファ部、 40 検出部、 42 無線送信部、 44 算出部、 46 判定部、 50 通信部、 52 パケットバッファ部、 54 配信部、 56 検出部、 58 品質判定部、 100 通信システム。