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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】湿式不織布
(51)【国際特許分類】
   D21H 15/02 20060101AFI20220329BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20220329BHJP
   B03C 3/28 20060101ALI20220329BHJP
   D21H 13/14 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
D21H15/02
B01D39/16 A
B03C3/28
D21H13/14
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018098696
(22)【出願日】2018-05-23
(65)【公開番号】P2019203216
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-04-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山中 博文
(72)【発明者】
【氏名】増田 正人
(72)【発明者】
【氏名】浅田 康裕
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 秀和
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-528194(JP,A)
【文献】特開2009-000608(JP,A)
【文献】特開平09-308808(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104784(WO,A1)
【文献】特開2017-131890(JP,A)
【文献】特開2016-176173(JP,A)
【文献】特開昭54-125793(JP,A)
【文献】特開2018-100459(JP,A)
【文献】国際公開第2000/053831(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D39/00-41/04
B03C3/00-11/00
D04H1/00-18/04
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3種以上の繊維から構成される湿式不織布であって、表面に8箇所以上のスリットを有し、繊維径が5.0~50.0μmの繊維(短繊維A)と、繊維径が3.0μm以下の極細繊維(短繊維B)および繊維径が短繊維Bの2倍以上で、異形度が1.2以上の異形断面繊維(短繊維C)を含む湿式不織布。
【請求項2】
極細繊維(短繊維B)の異形度が1.1以上である請求項1に記載の湿式不織布。
【請求項3】
極細繊維(短繊維B)と異形断面繊維(短繊維C)がポリオレフィンからなる請求項1または2に記載の湿式不織布。
【請求項4】
スリットを有する繊維(短繊維A)がポリオレフィンからなる請求項1~3のいずれか1項に記載の湿式不織布。
【請求項5】
エレクトレット化されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の湿式不織布。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の湿式不織布が少なくとも一部を構成する繊維製品。
【請求項7】
スリットを有する繊維(短繊維A)、極細繊維(短繊維B)および異形断面繊維(短繊維C)の発生が可能な分割型複合繊維とバインダー繊維を湿式抄紙した後、熱処理および/または物理衝撃によって、不織布中の分割型複合繊維を分割する請求項1~5のいずれか1項に記載の湿式不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塵捕集性能が長時間維持されるフィルター用湿式不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、空間の清浄化に対する要求が高まっており、粒径2.5μm以下のダストによる健康問題への対策や半導体・医薬品製造における無塵化等、住環境から産業にいたる幅広い分野で、空気中の微細なダストを除去するエアフィルターが使用されている。
【0003】
エアフィルターは、ダストを含んだ空気を取り込み、濾材部分において、ダストを捕捉することで、通過空気を清浄化する。このエアフィルターには、ダストを高効率で捕集する性能に加えて、気体が通過する際の圧力損失が低いほど、フィルターの長寿命化や処理風量の増加につながるため、低圧力損失であることもエアフィルターにおいて重要な性能の1つとなっている。
【0004】
一般的にダストの捕集効率を高めるためには、フィルターに用いられる濾材シートのポアサイズを小さくすることで、機械的な捕集性能を向上させる。このポアサイズとは、濾材シートを構成する繊維によって形成される貫通孔の大きさのことである。しかし、濾材シートのポアサイズを小さくした場合、通気抵抗が高まることで、高圧力損失となることから、捕集効率と圧力損失は相反することとなる。
【0005】
相反する性能である高捕集効率と低圧力損失を両立させるために、濾材シートを帯電させ、電荷の静電気力を利用してダストを捕捉するエレクトレットフィルターが、空気清浄機用のエアフィルターとして広く用いられている。
【0006】
濾材シートを帯電させる方法としては、電極を利用したコロナ放電によるコロナチャージや水に浸漬・乾燥させることによるハイドロチャージ等によるエレクトレット加工を濾材シートにする前の繊維自体あるいは濾材シートに対して施すことで、構成繊維を帯電させる方法が一般的である。エレクトレットフィルターは、静電気により空気中のダストを引き寄せて捕捉するため、物理的な捕集とは異なり、濾材シートのポアサイズが捕集効率に大きく影響しない場合が多い。このため、ポアサイズを大きくしてもダストを高効率で捕捉することが可能であり、低圧力損失との両立を可能としている。しかし、エレクトレットフィルターは、捕捉したダストが濾材シートに堆積するにつれて、構成繊維に帯電した電荷が中和されていき、静電気力が低下する。このため、ダストの捕集効率が初期状態と比較して著しく低下するという問題があった。
【0007】
こうしたエレクトレットフィルターの課題を解決するために様々な取り組みがなされている。例えば、特許文献1では、繊維径の異なる繊維を組み合わせた不織布シートを積層することにより、エレクレットフィルターに到達するまでに一定のダストを捕捉することで、ダスト堆積による電荷の中和を遅らせる方法が提案されている。
【0008】
また、特許文献2では、繊維径の小さいエレクトレット化繊維を混繊することで、機械的捕集効率を高める方法が提案されている。使用している繊維径がミクロンオーダーであり、濾材シートのポアサイズを極端に小さくすることがないため、圧力損失の上昇幅が小さく、捕集効率をある程度高めることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2007-307516号公報(特許請求の範囲)
【文献】特開平10-46460号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1においてはシートを積層する際に接着する必要があり、接着箇所で圧力損失が上昇するという課題がある。また、積層することにより、濾材が厚くなってしまい、エアフィルターのコンパクト化に適さないという課題もある。
【0011】
また、特許文献2におけるミクロンオーダーの繊維径では、機械的捕集効率を高めることへの効果は大きくなく、静電気力が完全に失われた状態では十分な捕集性能を発揮するに至らない課題があり、エレクトレットフィルターの高捕集効率の維持には課題があった。
【0012】
本発明の目的は、上記した従来技術の問題点を解決するものであり、本発明の湿式不織布では、エレクトレット化濾材として、静電気力を失った後も捕集効率の低下幅が小さく、高捕集効率と低圧力損失を両立する湿式不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的は以下の手段により達成される。すなわち、
(1)3種以上の短繊維から構成される湿式不織布であって、表面に8箇所以上のスリットを有し、繊維径が5.0~50.0μmの繊維(短繊維A)と、繊維径が3.0μm以下の極細繊維(短繊維B)および繊維径が短繊維Bの2倍以上で、異形度が1.2以上の異形断面繊維(短繊維C)を含む湿式不織布。
(2)極細繊維(短繊維B)の異形度が1.1以上である(1)に記載の湿式不織布。
(3)極細繊維(短繊維B)と異形断面繊維(短繊維C)がポリオレフィンからなる(1)または(2)に記載の湿式不織布。
(4)スリットを有する繊維(短繊維A)がポリオレフィンからなる(1)~(3)のいずれかに記載の湿式不織布。
(5)エレクトレット化されていることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の湿式不織布。
(6)(1)~(5)のいずれかに記載の湿式不織布が少なくとも一部を構成する繊維製品。
(7)スリットを有する繊維(短繊維A)、極細繊維(短繊維B)および異形断面繊維(短繊維C)の発生が可能な分割型複合繊維とバインダー繊維を湿式抄紙した後、熱処理および/または物理衝撃によって、不織布中の分割型複合繊維を分割する(1)~(5)に記載の湿式不織布の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の湿式不織布においては、エレクトレット化濾材として、低圧力損失でありながら、静電気力による高い捕集効率を発揮するものであり、さらに静電気力を失った後も捕集効率の低下幅が小さく、高捕集効率と低圧力損失を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は本発明の繊維シートの模式図
図2図2は本発明の湿式不織布を製造するための剥離分割型複合繊維の断面図(一例)
図3図3は本発明の繊維断面における異形度を示すための模式図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を望ましい実施形態とともに詳述する。
本発明の湿式不織布は、3種以上の繊維から構成される必要がある。短繊維から構成される湿式不織布は、メルトブロー不織布等の長繊維からなるシートと比較して、シートの均一性に優れ、剛性が高い特徴がある。一般的にフィルター濾材として使用される繊維シート内に粗密差ができてしまうと、空気が密度の粗い部分を優先的に通過するため、捕集対象としているダストも通過してしまい、所望のフィルター機能を果たさないことがある。さらにエレクトレットフィルター濾材の場合には、繊維シート内で電荷分布に偏りができてしまうと、均一に電荷が分布しているものに比べて、シート全体としての静電気力によるダスト捕集力が低下してしまう。このため、フィルター濾材には、粗密差がなるべく小さく、均一性の高い繊維シートが要求される。また、フィルター濾材の剛性が高いほど、大きな通気抵抗に耐え、高風量の処理に対応できるため、高剛性の繊維シートが望まれる。
【0017】
湿式不織布の構成繊維が単一の場合、シート目付を一定とすると、構成繊維の繊維径によって相反する捕集効率と圧力損失のバランスが一義的に決定してしまう。そこで、構成繊維を3種以上とすることで、捕集効率と圧力損失のバランスを制御することが可能となる。構成繊維のうち1種類を極細繊維とすることで、湿式不織布が高いレベルの機械的捕集効率を発揮することとなる。但し、構成繊維の繊維径が小さくなるにつれて、機械的捕集効率が高まるものであるが、それに伴い通気抵抗が増大し、高い圧力損失となる。
【0018】
そこで、発明者らは、鋭意検討の結果、微細ダスト捕集を担う極細繊維を他の構成繊維で形成される貫通孔(ポア)内に橋掛した状態で混在させた湿式不織布とすることにより、高い機械的捕集効率を発揮するとともに、平均ポアサイズを極端に小さくすることなく、圧力損失が低いレベルとなることを見出した。特に、湿式不織布の配合繊維として、太繊度でありながら、微細なスリットを有することにより、フィルター濾材としての使用に耐えうるシート強度をもたせることに加えて、スリットが非常に微細であるため、混合される極細繊維と同様に、ダスト捕集に寄与し、性能を著しく向上させることを見出したのである。
【0019】
本発明の湿式不織布は、表面に8箇所以上のスリットを有し、繊維径が5.0~50.0μmの繊維(短繊維A)を含む必要がある。表面に8箇所以上のスリットを有することで、繊維間の空隙を大きくすることができ、シートが嵩高い構造となるため、フィルター濾材として使用した際の通気抵抗の低減につながる。また、スリット凸部の先端が極細繊維と同等サイズであるために、微細なダストの捕集にも寄与する。スリット部は8箇所以上あれば、十分に繊維間の空隙を確保することが可能である。繊維間の空隙確保を推し進める観点から、スリットは16箇所以上であることが好ましい。さらに、捕集性能を向上させるために、微細なスリットの数を増やす観点から、24箇所以上であることがより好ましい。なお、スリット箇所の実質的な上限は、繊維製造用の紡糸口金の加工精度を考慮すると、100箇所程度である。
【0020】
また、短繊維Aの繊維径が5.0~50.0μmであることにより、フィルター濾材として使用する際に十分な強度を付与することができる。合成繊維の湿式抄紙では、一般的に細い繊維であるほど、保水性が高まり、抄紙の均一性が高まる。このため、特に捕集効率を向上させることが可能である。一方、繊維径が小さくなると、シートの空隙率や強度が低下する傾向にある。このため、フィルター濾材としての強度を確保しつつ、フィルター性能の安定化を推し進める観点から、短繊維Aの繊維径は、7.0~40.0μmであることが好ましく、9.0~35.0μmであることがより好ましい。
【0021】
本発明の湿式不織布は、繊維径が3.0μm以下の極細繊維(短繊維B)を含むことが必要である。極細繊維の繊維径が3.0μm以下であれば、フィルター濾材として、微細ダストに対し、十分高い機械的捕集効率を発揮する。極細繊維の繊維径が小さいほど、機械的捕集効率が高くなるものの、繊維シート作製時に極細繊維同士が凝集する傾向があり、極細繊維が凝集して存在することで、期待される機械的捕集効率が十分に得られないことがある。このため、極細繊維の凝集を抑制する観点から、極細繊維の繊維径が0.1μm以上であることが好ましい。また、極細繊維の分散性をより向上させ、繊維シートの均一性を高めることで、フィルター濾材として安定した性能を発揮する観点から、0.2~2.0μmであることがより好ましい。さらに、低圧力損失と捕集効率を高度に両立する観点から0.3~1.5μmがさらに好ましい。極細繊維の繊維径が係る範囲であれば、エレクトレットフィルター濾材として使用する場合に高風量での処理に耐えうる低圧力損失性を維持しつつ、帯電時の高捕集効率および除電時にも実用的に優れた機械的捕集効率を発揮する。
【0022】
本発明の湿式抄紙不織布を構成する極細繊維(短繊維B)は、異形度が1.1以上の異形断面繊維であることが好ましい。微細ダストの捕集を担う極細繊維はシート中での分散状態が捕集性能に大きく寄与するため、異形断面繊維であることにより、他の混抄繊維との密着を抑制することができ、好適である。湿式不織布の構成繊維同士の密着、凝集を防ぎ、ダスト捕集性能を向上させる観点から、異形度は1.5以上であることがより好ましい。なお、極細繊維の形成精度を考慮すると、短繊維Bの異形度の実質的な上限は5.0である。
【0023】
本発明の湿式不織布は、繊維径が短繊維Bの2倍以上で、異形度が1.2以上の異形断面繊維(短繊維C)を含むことが必要である。極細繊維とそれよりも太い基材繊維を配合する際に、極細繊維同士の密着や凝集が起きたり、基材繊維に極細繊維が絡みつくことがあり、得られる湿式不織布が地合不良となることがある。短繊維Cは、湿式不織布を構成する短繊維Aと極細繊維である短繊維Bとの中間のサイズであるために、白水攪拌時に短繊維Aと短繊維Bの間に入り込んで空隙を確保し、極細繊維である短繊維B同士の密着や凝集を抑制する。このため、抄紙時の配合繊維が均一に分散し、地合良好な湿式不織布が得られ、フィルター性能の安定化につながる。湿式不織布中の配合繊維を良分散させ、高捕集性能を維持しつつ、低圧損化を推し進める観点から、異形度は1.5以上であることが好ましい。なお、実施可能な異形度の上限は10.0程度である。
【0024】
短繊維Cの繊維径は短繊維Bより大きいほど、短繊維Aと短繊維Bとの空間を広げる効果が高まって、配合繊維の分散状態を良化する傾向にあり、こうした観点から、短繊維Cの繊維径は、短繊維Bの3倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましい。
【0025】
しかし、短繊維Cは、短繊維Aの繊維径と同等あるいはそれ以上であると、基材繊維として振る舞うことになり、配合繊維の分散を良化する効果は得られなくなる。このため、短繊維Aと短繊維Bの中間的なサイズをとることが好ましく、配合繊維の良分散化効果を発揮させる観点から繊維径の実質的な上限は20.0μmである。
【0026】
また、異形度が2.0以上の異形断面繊維であることで、極細繊維との密着を抑制する効果もあり、配合繊維の分散性向上につながる。断面の異形度が係る範囲にあることで、丸断面繊維と混合した場合と極細繊維の分散状態が明確に異なることとなり、ポアサイズ分布に差異が生じ、粗大なポアと微細なポアの分散状態がより良好なものとなる。なお、本発明において達成可能な異形度の上限は10.0程度である。ここでいう異形度とは、次のように求めるものである。短繊維の断面を2次元的に撮影し、その画像から、短繊維断面に外接する真円の径を外接円径とし、さらに、内接する真円の径を内接円径として、異形度=外接円径÷内接円径から、小数点以下2桁目を四捨五入し、小数点以下1桁目まで求めたものを異形度とした。ここで言う外接円とは、図3の8の部分であり、内接円とは図3の10の部分を示している。この異形度を無作為に抽出した10本の繊維について測定し、それぞれの画像での測定値の単純な数平均値を求め、異形度とした。
【0027】
本発明の湿式不織布は、後述するバインダー繊維、マイクロファイバーおよび太繊度繊維等も含めて、構成短繊維に用いられるポリマーとしては、一般的な合成繊維の製造に用いられるものであれば、特に限定されるものではないが、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル等が挙げられる。
【0028】
本発明の湿式不織布は、エレクトレットフィルター濾材として利用する観点から、シート中でダスト捕集を主に担う、極細繊維(短繊維B)と異形断面繊維(短繊維C)がポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン等のポリオレフィンからなることが好ましい。これらの繊維を帯電効果の高い、ポリオレフィンとすることで、微細ダストに対する高い捕集効率を発揮することが可能となる。
【0029】
本発明の湿式不織布の構成繊維であるスリットを有する繊維(短繊維A)において、構成樹脂は特に限定されるものではないが、シートの帯電効果を高める観点から、ポリオレフィンで構成されることが好ましい。
【0030】
本発明の湿式不織布の平均ポアサイズは、特に限定されるものではないが、5.0~40.0μmであれば、通常のエアフィルター濾材と同等程度となるため、圧力損失が実用的な範囲のものとなり、好ましい。平均ポアサイズが5.0μm以上であれば、捕集効率と通気抵抗が良好であり、かつエアフィルター濾材として圧力損失が高くなり過ぎず良好である。一方、平均ポアサイズが50.0μm以下であると、通気抵抗が良好で圧力損失も少なく、かつダストの目抜けが少なく、捕集効率が良好である。ダスト捕集効率を高いレベルで維持しつつ、高風量での処理に対応できるよう圧力損失を抑制する観点から該湿式不織布の平均ポアサイズは10.0~35.0μmがより好ましく、さらにエレクトレット化後の低圧力損失と高捕集効率を両立する観点から12.0~25.0μmがさらに好ましい。
【0031】
なお、本発明における平均ポアサイズとは、湿式不織布を構成する短繊維によって形成される貫通孔の平均サイズのことであり、バブルポイント法によって算出した値である。バブルポイント法としては、例えば、多孔質材料自動細孔測定システムPerm-Porometer(PMI社製)を用いることができる。このPerm-Porometerによる測定では、湿式不織布を表面張力値が既知の液体で浸漬させ、該シートの上側から気体の圧力を増加させながら供給し、この圧力と湿式不織布表面の液体表面張力の関係からポアサイズを測定する。
【0032】
本発明の湿式不織布のポアサイズ分布は、特に限定されるものではないが、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度が10.0%以上であることが好ましい。
【0033】
本発明は、エアフィルター濾材の捕集性能の向上を目的としているが、ダストの物理的な捕集性能を高めるために、単に繊維シートのポアサイズを微細化するだけでは、圧損上昇を招き、フィルター寿命が短くなるといった問題や空気清浄機の消費電力の増大につながり、低圧損が要求されるエアフィルター濾材には適さないものとなる。発明者らは湿式不織布のポアサイズ分布に着目し、鋭意検討した結果、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度が係る範囲にあることで、湿式不織布が十分な通気性を有し、エアフィルター濾材として適用する際に、圧損を実用上十分に低いレベルまで抑えることが可能となることを見出した。
【0034】
濾材として低圧損を推し進める観点から、湿式不織布中にサイズの大きいポアが多く存在することが好ましく、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は15.0%以上であることがより好ましく、20.0%以上であることがさらに好ましい。ただし、粗大なポアだけでは、物理的なダスト捕集性能が低下するため、濾材としての圧力損失を低減しつつ、除電時のダスト捕集性能を実用上損なわない観点から、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度の実質的な上限は98.0%である。
なお、本発明の湿式不織布におけるポアサイズ頻度分布は、前述した平均ポアサイズと同様にバブルポイント法によりPerm-Porometerにて測定した値である。
【0035】
本発明の湿式不織布を構成する各短繊維の繊維重量における配合率は、特に限定されるものではないが、
スリットを有する短繊維Aは湿式不織布の強度および厚みに影響し、嵩高な構造を設計する観点からは、50重量%以上であることが好ましい。なお、微細ダストの捕集効率低下を防ぐ観点から、実質的な上限は85重量%である。また、極細繊維である短繊維Bは、ダスト捕集を主に担うため、フィルター濾材としての捕集性能を発揮させる観点から、短繊維Bの配合率は5重量%以上であることが好ましい。より多くの微細ダストを捕集する観点から10重量%以上であることがより好ましい。一方、極細繊維量の増加に伴う圧損上昇を防ぐ観点から、その配合率の実質的な上限は30重量%程度である。また、異形断面繊維である短繊維Cは、湿式不織布の均一性向上効果を有しており、フィルター濾材としての性能を安定化させる観点から、短繊維Cの配合率は5重量%以上であることが好ましい。よりシートの均一性を高め、捕集性能と圧損のバランスを良好に保つ観点から10重量%以上であることがより好ましい。一方、湿式不織布の高密度化による圧損上昇を防ぐ観点から、短繊維Cの配合率の実質的な上限は30重量%程度である。
【0036】
本発明の湿式不織布において、シート強度の向上や構成繊維の脱落抑制を目的として、必要に応じ、バインダー繊維を混合してもよい。上述した配合繊維のみでは、接着点が少なく、シート強度が不十分となる場合があるため、熱接着性のバインダー繊維を混合することにより、シート強度を向上させることが可能である。ただし、バインダー繊維の接着点が増大することで、融着後にシート密度が高まり、圧力損失が著しく高まる恐れがあるため、バインダー繊維の混合比率は、30重量%以下であることが好ましく、通気性を確保する観点から、20重量%以下がより好ましい。なお、シート中の配合繊維同士での接着性を確保する観点から、バインダー繊維の配合率の実質的な下限は、5重量%である。
【0037】
また、バインダー繊維の熱特性は特に限定されるものではないが、融点150℃以下のポリマーを鞘に配した芯鞘複合繊維であることが好ましい。湿式不織布を形成後、カレンダー等の熱処理を施すことで、バインダー繊維表面の鞘部分が溶融し、冷却後に熱接着することで、繊維シートの剛性を高めることができるため、フィルター濾材としての耐久性向上や高風量下でより多くの空気を清浄化することが可能となる。また、繊維シートの熱収縮を抑制するために、より低温の熱処理によって熱接着させる観点から、バインダー繊維の鞘成分に使用するポリマーの融点は130℃以下であることがより好ましい。熱処理時の湿式不織布の収縮を抑制することにより、湿式不織布の収縮に伴う平均ポアサイズの縮小幅を抑制することとなり、フィルター濾材として使用する際の低圧力損失化につながることとなる。なお、バインダー繊維の芯成分の融点が鞘成分の融点よりも高温であり、その融点差が20℃以上あることで、バインダー繊維表面の鞘成分が十分に溶融し、かつ芯成分の配向の低下幅が抑えられるため、十分な熱接着性と高い剛性を得ることも可能である。
【0038】
本発明の湿式不織布には、適宜マイクロファイバーが混抄されていてもよい。このマイクロファイバーとは、繊維径が1.0~5.0μmの範囲にある繊維を指す。マイクロファイバーを配合することで、抄紙工程においては、保水性が向上し、白水漉き上げ時の抄紙性が向上する。また、シートへの効果としては、ポアサイズが小径化し、良好に分散した極細繊維は、ポアが粗大な場合、シートから脱落する場合があるが、濾材として使用する際に、微細ダストの捕集を担う極細繊維の脱落を抑制し、ポア中に固定されることとなる。このため、繊維シート中での極細繊維によるダスト捕集能力が発揮され、フィルター濾材として高い捕集効率を発揮するものとなる。一方、マイクロファイバーの配合量を増加させると、湿式不織布の圧力損失が上昇する傾向にあるため、該湿式不織布の圧力損失上昇を抑制する観点から、マイクロファイバーの配合率は30重量%以下であることが好ましい。高風量での使用に耐えうるよう、より低圧力損失とする観点から20重量%以下がより好ましい。なお、抄紙性向上効果を得ようとする場合、マイクロファイバー配合率の下限は5重量%以下である。
【0039】
本発明の湿式不織布には、適宜骨材として太繊度繊維を配合してもよい。特に、エアフィルター濾材として適用する場合に、シート強度を高めたり、湿式不織布を嵩高な構造として、低圧損化を図る観点から、太繊度繊維を配合することが好適である。特に嵩高さやクッション性を持たせる観点からは、クリンパー等で捲縮が付与された太繊度繊維を配合してもよい。ただし、あまりに太い繊維を配合すると、抄紙性が悪化するため、ポアサイズの極端な増大や地合不良を避け、フィルター性能を安定させつつ、シート強度の向上や低圧損化を図る観点から、太繊度繊維の繊維径は15.0~100.0μmであることが好ましい。
また、エレクトレット加工を施す場合、湿式不織布の構成繊維をより帯電させるという観点から、添加剤を加えてもよく、係る添加剤としては、ヒンダードアミン系添加剤またはトリアジン系添加物を少なくとも1種配合することが好ましい。
【0040】
ヒンダードアミン系化合物としては、ポリ[(6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)((2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ)](BASF製、キマソーブ(登録商標)944LD)、コハク酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物(BASF製、チヌビン(登録商標)622LD)、2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-n-ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)(BASF製、チヌビン(登録商標)144)、ジブチルアミン・1,3,5-トリアジン・N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1,6-ヘキサメチレンジアミン・N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物(BASF製、キマソーブ(登録商標)2020 FDL)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
また、トリアジン系添加剤としては、前述のポリ[(6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)((2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ)](BASF製、キマソーブ(登録商標)944LD)、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-((ヘキシル)オキシ)-フェノール(BASF製、チヌビン(登録商標)1577FF)などが挙げられるが、これらに限定されない。これらのなかでも特にヒンダードアミン系化合物が好ましい。
ヒンダードアミン系化合物又はトリアジン系化合物の含有量は、特に限定されないが、
本発明の湿式不織布を構成する各短繊維の重量に対して0.5~5.0重量%の範囲にすることが好ましく、0.7~3.0重量%の範囲にすることがより好ましい。含有量が0.5重量%以上であれば、高レベルのエレクトレット性能が得られるため、好ましい。一方、含有量が5.0重量%以下であれば、製糸性の低下がなく、コストへの影響も小さいため好ましい。
【0042】
本発明の湿式不織布は、エレクトレット化されていることが好ましい。エレクトレット加工することで繊維シートが帯電し、静電気力によるダスト捕集が可能となり、該シートの機械的捕集効率を上回る高捕集効率を発揮することとなる。該シートに対するエレクトレット加工の方法については、特に限定されないが、機械的な摩擦を利用した摩擦帯電法、電極を利用したコロナ放電によるコロナチャージ法、繊維シートを純水に浸漬した後、真空引きや超音波処理を施すことで帯電させるハイドロチャージ法などが好適に用いられる。
【0043】
本発明の湿式不織布の作製において、繊維の配合方法は特に限定されないが、分割型複合繊維を湿式抄紙に用いることが好適である。分割型複合繊維は、その断面構成を例えば図3のように構成することで、本発明の不織布を構成する短繊維A、短繊維Bおよび短繊維Cを分割処理によって、発生させることが可能である。この分割型複合繊維の分割処理には、白水攪拌での物理衝撃や、シート乾燥時の熱処理およびウォータージェット等による物理衝撃を利用することが可能である。中でも湿式抄紙後に熱処理や物理衝撃を加えて分割型複合繊維を分割する手法が好ましい。湿式抄紙法において、繊維径がナノオーダーの極細繊維を使用する場合、保水性が高くなることから、シートを形成する際に水が抜けにくくなり、シート上に粗な部分が存在すると、この部分から集中して水が抜けることとなり、濾材として使用する際に欠点となる粗大な孔(ピンホール)が発生する問題がある。分割型複合繊維を湿式抄紙する場合には、汎用合成繊維と同様に抄紙性が良好であり、シート化後に該複合繊維に分割処理を施すことで、ナノメートルオーダーの極細繊維がシート内に発生し、目的とする湿式不織布を作製することが可能である。
【0044】
さらに、この分割型複合繊維を使用すれば、海島型複合繊維を利用して極細繊維を発生させる場合に必要なアルカリによる脱海工程が不要であり、工程の簡略化が可能である。特に極細繊維を含有した湿式不織布をエレクトレット濾材として使用する場合には、帯電加工の際に表面の清浄性が重要となる。海島型複合繊維を利用した湿式抄紙では、脱海工程で分解したポリマーの残渣が十分にとりきれず、帯電加工に悪影響を及ぼす可能性もあり、脱海工程を省略できる分割型複合繊維の使用が望ましい。
【0045】
本発明の湿式不織布の製造方法は特に限定されるものではないが、以下に製造方法の一例を述べる。図2に示す断面において、スリットを有する領域A(5)にポリエステルを配し、後に剥離分割する部分である領域B(6)およびC(7)に、帯電を促進するヒンダードアミンまたはトリアジン系化合物を添加したポリオレフィンポリマーを配した分割型複合繊維および鞘成分が低融点ポリマーからなる熱融着性の芯鞘複合繊維(バインダー繊維)等の短繊維を水中に投入し、離解機で攪拌して均一になるように分散させて白水とする。この仕込み工程では、繊維仕込み量や白水量、攪拌時間等により分散性を調整することが可能であり、できるだけ短繊維が白水中で均一に分散している状態が好ましい。また、水への分散性を向上させるために分散剤を添加してもよいが、湿式不織布に後加工を施す場合に、その加工性に影響が出ないよう、その添加量は必要最小限にとどめることが好ましい。また、白水を構成する短繊維として、さらに繊維径1.0~5.0μmのマイクロファイバーを混合してもよい。後述する抄紙工程では一般的に、保水性が低い繊維で調製した白水は、シート化する際に水が早く抜けてしまい、繊維が凝集した部分ができ、ムラの多いシートとなる。マイクロファイバーを混合することで保水性が向上するため、シート化する際に白水中の繊維が良好に分散した状態を保つことができ、均一性の高い湿式不織布が得られる。
【0046】
上記で調製した白水を一定濃度に希釈して調整し、傾斜ワイヤー、円網上等で脱水して、シートを形成する。抄紙に使用する装置としては、円網抄紙機、長網抄紙機、傾斜短網抄紙機あるいはこれらを組み合わせた抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、抄紙速度や繊維量、白水量を調整することで均一なシートを作製することができる。また、シートの形成性の観点から、構成繊維の繊維長は30.0mm以下であることが好ましい。係る範囲であれば、フィルター濾材として実用的な均一性をもった湿式不織布が形成できる。繊維長が30.0mmを超えると、白水調製時に繊維同士が強固に絡み合い、繊維塊を形成してしまい、均一なシートにすることが困難となる傾向がある。
【0047】
次いで、湿式抄紙で形成したシートは、水分を除去するために乾燥工程に通す。乾燥方式としては、シートの乾燥とバインダー繊維の熱接着を同時に実施できる観点から、熱風通気(エアスルー)を利用する方法や熱カレンダーロールに接触させる方法が好ましい。
エレクトレットフィルター用濾材として使用する場合には、該湿式不織布を上記した方法でエレクトレット加工することが好ましい。繊維シート内に電荷を持つ物質が内在していると、エレクトレット加工による極細繊維の帯電が妨害され、ダスト捕集するのに十分な静電気力が得られないこととなる。
【0048】
湿式不織布の目付および厚みについては、湿式抄紙工程での白水の供給量および抄紙速度によって変更することが可能である。本発明の湿式不織布の目付は特に限定されるものではないが、10~150g/mであることが好ましい。目付を10g/m以上にすることで、粗密差の少ない均一な繊維シートとなる。一方、150g/m以下とすることで、繊維シートの厚みを抑えることとなり、濾材として、プリーツ加工等の後加工が可能となる。また、フィルター濾材として十分な捕集効率と低圧力損失を両立する観点から、該シートの目付は15~100g/mの範囲とすることがより好ましい。目付を15g/m以上にすることで、フィルター濾材として十分なダスト捕集効率を確保できることとなり、一方100g/m以下とすることにより、フィルター濾材として使用した場合の圧力損失を抑制することが可能である。
【0049】
また、本発明の湿式不織布の厚みは特に限定されるものではないが、0.10~2.50mmであることが好ましい。厚みを0.10mm以上とすることでプリーツ加工等の後加工や濾材に機能剤などをディップ加工させる際の強度を得ることができる。また、2.50mm以下とすることでプリーツ加工を実施し、フィルターとしたときに濾材厚みによって濾材同士が接触する部分を低減でき、濾過面積を確保できるため、圧力損失の上昇を抑制できる。なお、ダスト保持量を向上させる目的等のために上流側を粗に下流側を密になるように、本発明の濾材自体に厚み方向に密度勾配を有する構成を持たせてもよく、本発明の湿式不織布の上流側に粗の不織布を、下流側に密な不織布を積層することで粗密構造を形成してもよい。
【0050】
特にフィルター濾材には、ダスト捕集に加えて、付加的な機能を求められることが多く、撥水、撥油、抗菌、抗ウイルス、消臭などの機能への要求が強い。こうした観点から、本発明の湿式不織布に、機能付与するために各種機能剤を添加してもよい。添加する機能剤としては、例えば、顔料、撥水剤、吸水剤、難燃剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、金属粒子、無機化合物粒子、香料、脱臭剤、抗菌剤、ガス吸着剤等が挙げられるが、これらに限定されない。また、各種添加剤の添加方法については、特に限定されず、各種添加剤が練り込まれた繊維を使用し、あるいは湿式不織布への吹き付けや機能剤の溶液を含浸して添加することも可能である。
【0051】
本発明の湿式不織布は、エレクトレット化濾材として使用した場合に高捕集効率と低圧力損失を両立し、空気清浄機用、エアコン用、ビル空調用、産業クリーンルーム用および自動車や列車等の車室用等のフィルター濾材、サージカルマスク、フェイスマスクおよび防塵マスクとして好適に用いることができるものである。
【実施例
【0052】
以下実施例を挙げて、本発明の湿式不織布について、具体的に説明する。
実施例および比較例については、下記の評価を行った。
【0053】
A.繊維径
繊維の断面を日立ハイテクノロジーズ社製電子顕微鏡SU-1510にて撮影した画像において、任意の100本について繊維断面の外接円径を測定し、その平均の小数点以下2桁目を四捨五入して小数点以下1桁目まで求めた値を繊維径とした。
【0054】
B.異形度
繊維の断面を日立ハイテクノロジーズ社製電子顕微鏡SU-1510にて撮影した画像において、任意の構成繊維20本について、繊維断面の外接円径と内接円径を測定して、その比率を算出し、平均の小数点第2位を四捨五入して、小数点第1位まで求めた値を構成繊維の異形度とした。
【0055】
C.平均ポアサイズおよびポアサイズ分布頻度
多孔質材料自動細孔測定システム Perm-Porometer(PMI社製)を用いて、バブルポイント法(ASTMF-316-86に基づく)によって平均ポアサイズを算出した。測定サンプル径を25mmとし、表面張力既知の測定液としては、Galwick(表面張力:16mN/m)を使用して細孔径分布測定を実施した。この測定器により自動計算して得られたMEAN FLOW PORE DIAMETERを平均ポアサイズの値とした。また、測定は1サンプルにつき任意の5ヶ所をサンプリングし、その平均の小数点以下2桁目を四捨五入して小数点以下1桁目まで求めた値を用いた。また、ポアサイズ分布頻度は自動計算により得られた値を百分率で換算して%表示とし、小数点以下2桁目を四捨五入して小数点以下1桁目まで求めた値を用いた。
【0056】
D.目付
250mm×250mm角に切り出した繊維シートの重量を秤量し、単位面積(1m)当たりの重量に換算した値の小数点以下1桁目を四捨五入して整数値としたものを湿式不織布の目付とした。
【0057】
E.厚み
ダイヤルシックネスゲージ(TECLOCK社 SM-114 測定子形状10mmφ、目量0.01mm、測定力2.5N以下)を用いて湿式不織布の厚みを測定した。測定は1サンプルにつき任意の5ヶ所で行い、その平均の小数点以下3桁目を四捨五入して小数点以下2桁目まで求めた値を湿式不織布の厚みとした。
【0058】
F.捕集効率
作製した湿式不織布を有効間口面積0.1mのホルダーにセットし、面風速6.5minで鉛直方向に空気を通過させ、フィルター上流および下流の粒径0.3~0.5μmの大気塵粉塵数をパーティクルカウンター(RION社製、型式:KC-01D)で測定し、次式より捕集効率を算出した。
捕集効率(%)=1-(下流粒子数/上流粒子数)×100
測定は1サンプルから任意に3ヵ所サンプリングして実施し、その平均の小数点以下1桁目を四捨五入して整数値としたものを捕集効率とした。なお、捕集効率はエレクトレット加工(コロナ荷電法)を施した帯電時と帯電した繊維シートをイソプロピルアルコールに2分間浸漬後に乾燥し、除電した状態の各々について測定を実施した。
【0059】
G.圧力損失
作製した繊維シートを有効間口面積0.1mのホルダーにセットし、面風速6.5m/minで鉛直方向に空気を通過させ、フィルター上下流の圧力差を差圧計にて測定した。測定は1サンプルから任意の3ヶ所をサンプリングして実施し、その平均の小数点以下1桁目を四捨五入して整数値としたものを圧力損失とした。
【0060】
H.トナー粒子付着試験(エレクトレット化の確認試験)
エレクトレット加工を施した繊維シートに正帯電性の赤色トナー粒子および負帯電性の青色トナー粒子の混合物をふりかけた。静電気力によらずに滞留している余剰トナー粒子を振り払った後に、繊維シートをデジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、VHX-2000)にて観察した。
赤色と青色のトナー粒子が分離して付着したものをエレクトレット化されていると判定し、赤色と青色のトナーが混合したまま付着して紫色に見える状態、およびトナー粒子が脱落して、付着しなかったものについては、エレクトレット化されていないと判定した。
【0061】
実施例1
ポリプロピレン(PP)樹脂S135(プライムポリマー社製)にキマソーブ(登録商標)944LD(BASF製)を2wt%添加したものを分割成分、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂トレコン1200S(東レ株式会社製)を芯成分とし、(図のような形状の断面を有する剥離分割型複合繊維(島成分径:0.7μm、複合比率(重量比):分割成分/芯成分=30/70)を溶融紡糸により作製し、1mm長にカットした。この剥離分割型複合繊維が80重量%、バインダー繊維として、熱融着性の芯鞘複合繊維(芯成分:PET、鞘成分:テレフタル酸60mol%、イソフタル酸40mol%、エチレングリコール85mol%、ジエチレングリコール15mol%の割合で共重合した融点110℃のポリエステル(共重合ポリエステル1))の短繊維(5mm長)が20重量%となるように離解機によって水と均一に混合分散して白水を調製した。ついで、円網抄紙機(川之江造機社製)を用いて抄紙を行い、110℃の熱カレンダーロールに接触させて、乾燥・熱処理を施すことにより湿式不織布を得た。湿式不織布中では、剥離分割型複合繊維の分割が進行しており、繊維断面外周にスリットを29箇所有する短繊維A(繊維径:16.0μm)が56重量%、繊維径が0.5μm、異形度が1.5の短繊維Bが12重量%、繊維径が5.0μm、異形度が1.5の短繊維Cが12重量%、熱接着性の芯鞘複合繊維が20重量%含まれる湿式不織布を得た。また、繊維Cの繊維径は、短繊維Bの10倍であった。なお、該不織布を構成する繊維は、熱融着性のバインダー繊維により熱接着されているものであった。
【0062】
得られた湿式不織布は目付が45g/m、厚みが0.28mmであった。バブルポイント法で算出した平均ポアサイズは13.2μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は20.3%であった。極細繊維が湿式不織布内で分散して、網目状に分布しており、分散状態に優れたものであった。この湿式不織布をコロナ荷電法により帯電させた状態で粒径0.3~0.5μmの大気塵捕集効率および圧力損失を測定した結果、96%と捕集効率に優れ、圧力損失は50Paと低圧損性に優れたものであった。また、この湿式不織布をイソプロピルアルコールに浸漬し、除電した状態での捕集効率は45%であり、除電後捕集効率に優れたものであった。なお、荷電後のトナー粒子付着試験の結果、湿式不織布には赤色および青色粒子が共に分離して付着しており、エレクトレット化されていると判定した。
【0063】
実施例2~4
剥離分割型複合繊維の繊維断面において、分割箇所の数が種々異なるものを使用し、湿式不織布中に発生させる短繊維Aのスリット数を17箇所(実施例2)、9箇所(実施例3)、68箇所(実施例4)に変更したこと以外は、実施例1に従い実施した。
【0064】
実施例2の湿式不織布は、厚みが0.24mm、平均ポアサイズが12.7μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は17.6%であった。帯電時の捕集効率が93%、除電後捕集効率が52%と優れたものであった。圧力損失は53Paと低圧損性が良好なものであった。
【0065】
実施例3の湿式不織布は、厚みが0.22mm、平均ポアサイズが11.8μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は12.4%であった。帯電時の捕集効率が95%、除電後捕集効率が56%と捕集効率に優れたものであった。圧力損失は71Paと十分な低圧損性を示すものであった。
【0066】
実施例4の湿式不織布は、厚みが0.30mm、平均ポアサイズが17.5μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は25.2%であった。帯電時の捕集効率が81%、除電後捕集効率が47%、圧力損失が39Paと捕集効率および低圧損性に優れたものであった。
なお、実施例2~4の湿式不織布はいずれも、荷電後のトナー粒子付着試験の結果、エレクトレット化されていると判定した。
【0067】
比較例1
剥離分割型複合繊維の繊維断面において、分割箇所の数が7箇所であるものを使用して、湿式不織布中に発生させる短繊維Aのスリット数を7箇所に変更したこと以外は、実施例1に従い実施した。
【0068】
得られた湿式不織布は、厚みが0.18mm、平均ポアサイズが10.3μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は9.7%であった。帯電時の捕集効率が96%、除電後捕集効率は58%と優れたものであったが、圧力損失は93Paと非常に高く、低圧損性が不十分であった
【0069】
【表1】
【0070】
実施例5~10
剥離分割型複合繊維における芯部分の繊維径が種々異なるものを使用して、湿式不織布中に発生させる短繊維Aの繊維径を5.0μm(実施例5)、7.0μm(実施例6)、9.0μm(実施例7)、35.0μm(実施例8)、40.0μm(実施例9)、50.0μm(実施例10)に変更したこと以外は、実施例1に従い実施した。
【0071】
実施例5の湿式不織布は、厚みが0.13mm、平均ポアサイズが9.6μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は10.2%であった。帯電時の捕集効率が92%、除電後捕集効率が53%と捕集効率に優れたものであった。圧力損失は88Paと十分な低圧損性を示すものであった。
【0072】
実施例6の湿式不織布は、厚みが0.14mm、平均ポアサイズが11.2μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は15.1%であった。帯電時の捕集効率が92%、除電後捕集効率が51%と捕集効率に優れたものであった。圧力損失は69Paと低圧損性が良好なものであった。
【0073】
実施例7の湿式不織布は、厚みが0.17mm、平均ポアサイズが12.8μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は17.7%であった。帯電時の捕集効率が93%、除電後捕集効率が51%、圧力損失が50Paと捕集効率および低圧損性に優れたものであった。
【0074】
実施例8の湿式不織布は、厚みが0.73mm、平均ポアサイズが23.9μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は66.7%であった。帯電時の捕集効率が80%、除電後捕集効率が41%、圧力損失が25Paと捕集効率および低圧損性に優れたものであった。
【0075】
実施例9の湿式不織布は、厚みが0.92mm、平均ポアサイズが28.6μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は77.2%であった。帯電時の捕集効率が61%、除電後捕集効率が30%と捕集効率が良好なものであった。圧力損失は20Paと低圧損性に優れたものであった。
【0076】
実施例10の湿式不織布は、厚みが1.06mm、平均ポアサイズが32.3μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は93.5%であった。帯電時の捕集効率が50%、除電後捕集効率が22%と十分な捕集効率を示した。圧力損失は18Paと低圧損性に優れたものであった。
【0077】
なお、実施例5~10の湿式不織布はいずれも、荷電後のトナー粒子付着試験の結果、エレクトレット化されていると判定した。
【0078】
比較例2および3
剥離分割型複合繊維における芯部分の繊維径が種々異なるものを使用して、湿式不織布中に発生させる短繊維Aの繊維径を4.0μm(比較例2)、60.0μm(比較例3)に変更したこと以外は、実施例1に従い実施した。
【0079】
比較例2の湿式不織布は、厚みが0.12mm、平均ポアサイズが8.4μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は3.8%であった。帯電時の捕集効率が94%、除電後捕集効率が56%と優れたものであったが、圧力損失は104Paと非常に高く、低圧損性が不十分であった。
【0080】
比較例3の湿式不織布は、厚みが1.18mm、平均ポアサイズが41.3μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は98.7%であった。圧力損失は12Paと低圧損性に優れたものの、帯電時の捕集効率が38%、除電後捕集効率が9%と捕集効率が不十分であった。
【0081】
【表2】
【0082】
実施例11~16
剥離分割型複合繊維における分割部分の繊維径が種々異なるものを使用して、湿式不織布中に発生させる短繊維Bの繊維径を0.1μm(実施例11)、0.2μm(実施例12)、0.3μm(実施例13)、1.5μm(実施例14)、2.0μm(実施例15)、3.0μm(実施例16)に変更したこと以外は、実施例1に従い実施した。
【0083】
実施例11の湿式不織布は、厚みが0.25mm、平均ポアサイズが8.8μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は10.1%であった。帯電時の捕集効率が98%、除電後捕集効率が63%と捕集効率に優れたものであった。圧力損失は82Paと十分な低圧損性を示すものであった。
【0084】
実施例12の湿式不織布は、厚みが0.25mm、平均ポアサイズが11.3μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は12.2%であった。帯電時の捕集効率が97%、除電後捕集効率が58%と捕集効率に優れたものであった。圧力損失は68Paと低圧損性が良好なものであった。
【0085】
実施例13の湿式不織布は、厚みが0.26mm、平均ポアサイズが12.5μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は17.9%であった。帯電時の捕集効率が94%、除電後捕集効率が52%、圧力損失が50Paと捕集効率および低圧損性に優れたものであった。
【0086】
実施例14の湿式不織布は、厚みが0.28mm、平均ポアサイズが24.3μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は64.5%であった。帯電時の捕集効率が81%、除電後捕集効率が40%、圧力損失が26Paと捕集効率および低圧損性に優れたものであった。
【0087】
実施例15の湿式不織布は、厚みが0.28mm、平均ポアサイズが27.5μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は78.4%であった。帯電時の捕集効率が61%、除電後捕集効率が32%と捕集効率が良好なものであった。圧力損失は19Paと低圧損性に優れたものであった。
【0088】
実施例16の湿式不織布は、厚みが0.28mm、平均ポアサイズが34.4μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は93.8%であった。帯電時の捕集効率が53%、除電後捕集効率が21%と十分な捕集効率を示した。圧力損失は15Paと低圧損性に優れたものであった。
【0089】
なお、実施例11~16の湿式不織布はいずれも、荷電後のトナー粒子付着試験の結果、エレクトレット化されていると判定した。
【0090】
比較例4
剥離分割型複合繊維における分割部分の繊維径が4.0μmのものを使用して、湿式不織布中に発生させる短繊維Bの繊維径を4.0μmに変更したこと以外は、実施例1に従い実施した。
得られた湿式不織布は、厚みが0.28mm、平均ポアサイズが39.6μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は98.0%であった。圧力損失は13Paと低圧損性に優れたものの、帯電時の捕集効率が44%、除電後捕集効率が16%と捕集効率が不十分であった。
【0091】
実施例17および18
剥離分割型複合繊維における分割部分の形状が種々異なるものを使用して、湿式不織布中に発生させる短繊維Bの異形度を1.1(実施例17)、5.0(実施例18)に変更したこと以外は、実施例1に従い実施した。
【0092】
実施例17の湿式不織布は、厚みが0.27mm、平均ポアサイズが19.1μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は22.7%であった。帯電時の捕集効率が94%、除電後捕集効率が42%、圧力損失が46Paと捕集効率および低圧損性に優れたものであった。
【0093】
実施例18の湿式不織布は、厚みが0.28mm、平均ポアサイズが12.2μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は20.6%であった。帯電時の捕集効率が96%、除電後捕集効率が56%、圧力損失が44Paと捕集効率および低圧損性に優れたものであった。
【0094】
なお、実施例17および18の湿式不織布はいずれも、荷電後のトナー粒子付着試験の結果、エレクトレット化されていると判定した。
【0095】
【表3】
【0096】
実施例19および20
剥離分割型複合繊維における分割部分の繊維径が種々異なるものを使用して、湿式不織布中に発生させる短繊維Cの繊維径を1.0μm(実施例19)、1.5μm(実施例20)に変更したこと以外は、実施例1に従い実施した。
【0097】
実施例19の湿式不織布は、短繊維Cの繊維径が短繊維Bに対して2倍の大きさであり、厚みが0.22mm、平均ポアサイズが10.8μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は11.0%であった。帯電時の捕集効率が93%、除電後捕集効率が56%と捕集効率に優れたものであった。圧力損失は82Paと十分な低圧損性を示すものであった。
【0098】
実施例20の湿式不織布は、短繊維Cの繊維径が短繊維Bに対して3倍の大きさであり、厚みが0.23mm、平均ポアサイズが12.5μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は14.3%であった。帯電時の捕集効率が91%、除電後捕集効率が52%と捕集効率に優れたものであった。圧力損失は67Paと低圧損性が良好なものであった。
なお、実施例19および20の湿式不織布はいずれも、荷電後のトナー粒子付着試験の結果、エレクトレット化されていると判定した。
【0099】
比較例5
剥離分割型複合繊維における分割部分のうち、1箇所の繊維径を0.8μmとしたものを使用して、湿式不織布中に発生させる短繊維Cの繊維径を0.8μmに変更したこと以外は、実施例1に従い実施した。
【0100】
得られた湿式不織布は、繊維Cの繊維径が短繊維Bに対して1.5倍の大きさであり、厚みが0.18mm、平均ポアサイズが16.3μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は7.8%であった。帯電時の捕集効率が88%、除電後捕集効率が48%と優れたものであったが、圧力損失は98Paと非常に高く、低圧損性が不十分であった。
【0101】
実施例21および22
剥離分割型複合繊維における分割部分のうち1箇所の形状が種々異なるものを使用して、湿式不織布中に発生させる短繊維Cの異形度を1.2(実施例21)、8.0(扁平形状、実施例22)に変更したこと以外は、実施例1に従い実施した。
【0102】
実施例21の湿式不織布は、厚みが0.27mm、平均ポアサイズが15.9μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は10.2%であった。帯電時の捕集効率が90%、除電後捕集効率が46%と捕集効率に優れたものであった。圧力損失は81Paと十分な低圧損性を示すものであった。
【0103】
実施例22の湿式不織布は、厚みが0.28mm、平均ポアサイズが13.0μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は23.1%であった。帯電時の捕集効率が96%、除電後捕集効率が50%、圧力損失が36Paと捕集効率および低圧損性に優れたものであった。
なお、実施例21~22の湿式不織布はいずれも、荷電後のトナー粒子付着試験の結果、エレクトレット化されていると判定した。
【0104】
比較例6
剥離分割型複合繊維における分割部分のうち1箇所の異形度が1.0のものを使用して、湿式不織布中に発生させる短繊維Cの異形度を1.0に変更したこと以外は、実施例1に従い実施した。
【0105】
得られた湿式不織布は、厚みが0.27mm、平均ポアサイズが15.2μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は7.3%であった。帯電時の捕集効率が90%、除電後捕集効率が46%と優れたものであったが、圧力損失は93Paと非常に高く、低圧損性が不十分であった。
【0106】
【表4】
【0107】
実施例23
複合比率(重量比)を分割成分/芯成分=15/85とした剥離分割型複合繊維を使用し、抄紙時に分割型複合繊維を95重量%、バインダー繊維を5重量%の配合に変更したこと以外は、実施例1に従い実施した。
【0108】
得られた湿式不織布は、厚みが0.35mm、平均ポアサイズが31.4μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は94.1%であった。帯電時の捕集効率が52%、除電後捕集効率が21%と十分な捕集効率を示した。圧力損失は15Paと低圧損性に優れたものであった。
【0109】
実施例24
複合比率(重量比)を分割成分/芯成分=20/80とし、剥離分割後の短繊維Bに相当する部分の重量が剥離分割後の短繊維Cに相当する部分の重量の2.2倍である剥離分割型複合繊維を使用したこと以外は、実施例1に従い実施した。
【0110】
得られた湿式不織布は、厚みが0.29mm、平均ポアサイズが13.6μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は20.4%であった。帯電時の捕集効率が90%、除電後捕集効率が46%、圧力損失が40Paと捕集効率および低圧損性に優れたものであった。
【0111】
実施例25
複合比率(重量比)を分割成分/芯成分=35/65とし、剥離分割後の短繊維Bに相当する部分の重量が剥離分割後の短繊維Cに相当する部分の重量の4.6倍である剥離分割型複合繊維を使用したこと以外は、実施例1に従い実施した。
得られた湿式不織布は、厚みが0.20mm、平均ポアサイズが12.0μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は10.4%であった。帯電時の捕集効率が98%、除電後捕集効率が60%と捕集効率に優れたものであった。圧力損失は71Paと十分な低圧損性を示すものであった。
【0112】
実施例26
複合比率(重量比)を分割成分/芯成分=20/80とし、剥離分割後の短繊維Cに相当する部分の重量が剥離分割後の短繊維Bに相当する部分の重量の2.2倍(である剥離分割型複合繊維を使用したこと以外は、実施例1に従い実施した。
【0113】
得られた湿式不織布は、厚みが0.29mm、平均ポアサイズが11.6μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は17.2%であった。帯電時の捕集効率が75%、除電後捕集効率が35%、圧力損失が52Paと捕集効率および低圧損性が良好なものであった。
【0114】
実施例27
複合比率(重量比)を分割成分/芯成分=35/65とし、剥離分割後の短繊維Cに相当する部分の重量が剥離分割後の短繊維Bに相当する部分の重量の4.6倍である剥離分割型複合繊維を使用したこと以外は、実施例1に従い実施した。
得られた湿式不織布は、厚みが0.23mm、平均ポアサイズが10.4μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は13.3%であった。帯電時の捕集効率が77%、除電後捕集効率が38%と捕集効率が良好なものであった。圧力損失は72Paと十分な低圧損性を示すものであった。
なお、実施例23~27の湿式不織布はいずれも、荷電後のトナー粒子付着試験の結果、エレクトレット化されていると判定した。
【0115】
【表5】
【0116】
実施例28および29
抄紙時の繊維配合を剥離分割型複合繊維95重量%、バインダー繊維5重量%(実施例28)、または剥離分割型複合繊維72重量%、バインダー繊維28重量%(実施例29)に変更したこと以外は、実施例1に従い実施した。
【0117】
実施例28の湿式不織布は、厚みが0.32mm、平均ポアサイズが12.6μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は17.9%であった。帯電時の捕集効率が82%、除電後捕集効率が42%、圧力損失が38Paと捕集効率および低圧損性に優れたものであった。
【0118】
実施例29の湿式不織布は、厚みが0.21mm、平均ポアサイズが10.6μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は11.3%であった。帯電時の捕集効率が93%、除電後捕集効率が52%と捕集効率に優れたものであった。圧力損失は65Paと低圧損性が良好なものであった。
【0119】
実施例30および31
抄紙時の白水供給量を調整して、湿式不織布の目付を20g/m(実施例30)、100g/m(実施例31)に変更したこと以外は、実施例1に従い実施した。
【0120】
実施例30の湿式不織布は、厚みが0.17mm、平均ポアサイズが30.7μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は93.3%であった。帯電時の捕集効率が58%、除電後捕集効率が26%と十分な捕集効率を示した。圧力損失は18Paと低圧損性に優れたものであった。
【0121】
実施例31の湿式不織布は、厚みが0.46mm、平均ポアサイズが8.2μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は10.3%であった。帯電時の捕集効率が99%、除電後捕集効率が65%と捕集効率に優れたものであった。圧力損失は87Paと十分な低圧損性を示すものであった。
【0122】
実施例32
剥離分割型複合繊維における分割成分をPBT、芯成分をPPに変更したこと以外は、実施例1に従い実施した。
【0123】
得られた湿式不織布は、厚みが0.28mm、平均ポアサイズが13.1μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は20.5%であった。帯電時の捕集効率が96%、除電後捕集効率が50%、圧力損失が45Paと捕集効率および低圧損性に優れたものであった。
【0124】
実施例33
芯成分をポリエチレン(PE)樹脂ULT-ZEX20100J(プライムポリマー社製)とした剥離分割型複合繊維を作製して、抄紙したこと以外は、実施例1に従い実施した。
得られた湿式不織布は、厚みが0.28mm、平均ポアサイズが13.2μmであり、ポアサイズ15.0μm以上の分布頻度は21.3%であった。帯電時の捕集効率が99%、除電後捕集効率が51%、圧力損失が43Paと捕集効率および低圧損性に優れたものであった。
なお、実施例28~33の湿式不織布はいずれも、荷電後のトナー粒子付着試験の結果、エレクトレット化されていると判定した。
【0125】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の湿式不織布により、長期的に高捕集効率と低圧力損失を両立するエレクトレット化濾材が得られ、住宅、病院、オフィス等で使用される空気清浄機用、エアコン用、ビル空調用、産業クリーンルーム用および自動車や列車等の車室用等のフィルター濾材、サージカルマスク、フェイスマスクおよび防塵マスクとして有用である。
【符号の説明】
【0127】
1 短繊維A(スリットを有する繊維)
2 短繊維B(極細繊維)
3 短繊維C(異形断面繊維)
4 熱融着したバインダー繊維
5 剥離分割型複合繊維の断面における芯部分(剥離分割後の短繊維Aに相当)
6 剥離分割型複合繊維の断面における分割部分(剥離分割後の短繊維Bに相当)
7 剥離分割型複合繊維の断面における分割部分(剥離分割後の短繊維Cに相当)
8 異形断面繊維の断面における外接円
9 異形断面繊維の断面
10異形断面繊維の断面における内接円
図1
図2
図3