(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/28 20060101AFI20220329BHJP
H01L 21/283 20060101ALI20220329BHJP
H01L 29/423 20060101ALI20220329BHJP
H01L 29/43 20060101ALI20220329BHJP
H01L 29/47 20060101ALI20220329BHJP
H01L 21/338 20060101ALN20220329BHJP
H01L 29/778 20060101ALN20220329BHJP
H01L 29/812 20060101ALN20220329BHJP
【FI】
H01L21/28 B
H01L21/28 301R
H01L21/28 301B
H01L21/283 B
H01L29/58 Z
H01L29/62
H01L29/64
H01L29/80 H
(21)【出願番号】P 2018112750
(22)【出願日】2018-06-13
【審査請求日】2020-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000154325
【氏名又は名称】住友電工デバイス・イノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】野瀬 幸則
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/035403(WO,A1)
【文献】特開2012-175089(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0109636(KR,A)
【文献】特開2004-119499(JP,A)
【文献】特開2012-175021(JP,A)
【文献】特開2002-111061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/28
H01L 21/283
H01L 29/423
H01L 29/43
H01L 29/47
H01L 21/338
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体層上にNi層及びAu層を順に積層した電極を形成する第1工程と、
前記電極を350℃以上の温度にて熱処理し前記Au層の表面の少なくとも一部にNiを析出させ、当該析出したNiを酸化してNi酸化膜を形成する第2工程と、
前記Ni酸化膜に接しSiを含む絶縁膜を形成する第3工程と、
を含
み、
前記第2工程は、酸素を含む雰囲気にて熱処理を行い、Niの析出と酸化とを同時に行い、
前記雰囲気は窒素を主に含み、前記雰囲気における酸素濃度は21%以下である、半導体デバイスの製造方法。
【請求項2】
半導体層上にNi層及びAu層を順に積層した電極を形成する第1工程と、
前記電極を350℃以上の温度にて熱処理し前記Au層の表面の少なくとも一部にNiを析出させ、当該析出したNiを酸化してNi酸化膜を形成する第2工程と、
前記Ni酸化膜に接しSiを含む絶縁膜を形成する第3工程と、
を含
み、
前記第2工程は、前記熱処理を15分以上行う、半導体デバイスの製造方法。
【請求項3】
減圧CVD法及びプラズマCVD法の少なくとも一方を用いてSiN膜を半導体層上に形成する工程と、
前記半導体層を露出させる開口を前記SiN膜に形成する工程と、
前記半導体層上にNi層及びAu層を順に積層し
前記開口を覆う電極を形成する第1工程と、
前記電極を350℃以上の温度にて熱処理し前記Au層の表面の少なくとも一部にNiを析出させ、当該析出したNiを酸化してNi酸化膜を形成する第2工程と、
前記Ni酸化膜に接しSiを含む絶縁膜を形成する第3工程と、
を含む、半導体デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記第3工程は、プラズマCVD法を用いて前記絶縁膜を形成する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスの製造方法および半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、窒化物半導体からなる高移動度トランジスタ(HEMT)が記載されている。このHEMTは、窒化物半導体層の上に形成されたソース電極、ドレイン電極、及びゲート電極を備える。窒化物半導体層は、シリコン酸化物、シリコン窒化物、シリコン酸窒化物のいずれかを含む材料により形成された絶縁膜によって覆われている。ゲート電極は、絶縁膜に形成された開口を介して窒化物半導体層に接触している。ゲート電極は、窒化物半導体層に接するNi層と、Ni層上に設けられたAu層とを有する。
【0003】
特許文献2には、バンドギャップの大きい半導体層と、該半導体層上に設けられたゲートとしてのショットキ電極とを備える半導体デバイスが記載されている。ショットキ電極は、半導体層に接する酸化ニッケル層を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-103646号公報
【文献】特表2013-529384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体デバイスにおいて、半導体層の上に該半導体層と接するショットキ電極が設けられる。例えばHEMTなどのトランジスタでは、ショットキ電極はゲートとして用いられる。ショットキ電極は、半導体層(特に、窒化物半導体層)との間に形成されるショットキ障壁を大きくする目的から、その半導体層と接する層にNiを有する場合がある。Niは反応性に乏しい高仕事関数金属の中でも下地との密着性が比較的良好であり、かつ大きなショットキ障壁を形成できるからである。また、Ni層の上には、厚いAu層が設けられる。Auは化学的に安定かつ大きな導電率(2.3μΩcm)を有するため、ショットキ電極の抵抗値を低減できるからである。
【0006】
しかしながら、半導体デバイスは、その製造プロセスの過程で高温(例えば300℃以上)に晒される場合がある。半導体デバイスが高温に晒されると、Ni層からAu層へNiが次第に拡散し、Au層の表面に達する。多くの場合、ショットキ電極の周囲にはSiを含む絶縁膜(例えばSiN膜)が設けられている。Au層の表面に達したNiは絶縁膜内に拡散し、絶縁膜のSiと結合しニッケルシリサイドを形成する。これにより、絶縁膜の絶縁性が低下する。絶縁性の低下は、半導体デバイスの耐圧性能の劣化をもたらす。また、ショットキ電極がトランジスタのゲート電極である場合には、ゲートリーク電極の増大をもたらす。このNiと絶縁膜内への拡散、ニッケルシリサイドの形成は、半導体デバイスの通常動作時にも進行する。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、Siを含む絶縁膜へのNiの拡散を低減できる半導体デバイスの製造方法および半導体デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、一実施形態に係る半導体デバイスの製造方法は、半導体層上にNi層及びAu層を順に積層した電極を形成する第1工程と、この電極を350℃以上の温度にて熱処理しAu層の表面の少なくとも一部にNiを析出させ、当該析出したNiを酸化してNi酸化膜を形成する第2工程と、Ni酸化膜に接しSiを含む絶縁膜を形成する第3工程と、を含む。
【0009】
一実施形態に係る半導体デバイスは、半導体層と、半導体層と接触するNi層及びNi層上に設けられたAu層を有し、Au層の表面の少なくとも一部にNi酸化膜を有する電極と、Ni酸化膜に接しSiを含む絶縁膜と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明による半導体デバイスの製造方法および半導体デバイスによれば、Siを含む絶縁膜へのNiの拡散を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、半導体デバイスの例として、高移動度トランジスタ(HEMT)の構成を示す断面図である。
【
図2】
図2は、ゲート電極28を拡大して示す断面図である。
【
図3】
図3は、HEMT1の製造方法の各工程を示す断面図である。
【
図4】
図4は、HEMT1の製造方法の各工程を示す断面図である。
【
図5】
図5は、HEMT1の製造方法の各工程を示す断面図である。
【
図6】
図6は、従来のゲート電極28Aにおける問題点を説明するための模式図である。
【
図7】
図7は、Au層の内部における不純物金属の拡散係数のアレニウスプロット及びその活性化エネルギを示す図である。
【
図8】
図8は、リフトオフ直後からの経過に伴うAu層282の抵抗増加率を示すグラフである。
【
図9】
図9(a)は、酸素を含む雰囲気中での熱処理を実施しない場合のゲートリーク電流Igsoとゲート・ソース間電圧Vgsとの関係を示すグラフである。
図9(b)は、酸素を含む雰囲気中での熱処理を実施した場合のゲートリーク電流Igsoとゲート・ソース間電圧Vgsとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係る半導体デバイスの製造方法および半導体デバイスの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る半導体デバイスの例として、高移動度トランジスタ(HEMT)の構成を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態のHEMT1は、基板10と、複数の窒化物半導体層を含み基板10上に設けられた半導体積層部20(半導体層)とを備える。基板10は、例えば(0001)面を有するSiC基板であり、半導体積層部20の積層方向は例えば[0001]方向である。半導体積層部20は、基板10側から順に形成される核生成層12、チャネル層14、バリア層16、およびキャップ層18を含む。核生成層12は、チャネル層14に対するシード層として機能する。核生成層12は例えばAlN層であり、その厚さは例えば5nm~20nmの範囲内である。チャネル層14は、核生成層12上にエピタキシャル成長した半導体層であって、電子走行層として機能する。チャネル層14は、例えばアンドープGaN層である。チャネル層14の厚さは例えば500nmである。
【0014】
バリア層16は、チャネル層14上にエピタキシャル成長した半導体層であって、電子供給層として機能する。バリア層16は、例えばAlGaN層、InAlN層、若しくはInAlGaN層である。バリア層16のバンドギャップは、チャネル層14のバンドギャップよりも大きい。バリア層16がAlGaN層である場合、そのAl組成は例えば0.15以上0.35以下である。バリア層16の導電型は、n型若しくはアンドープである。バリア層16とチャネル層14とは互いに接してもよく、バリア層16とチャネル層14との間に図示しないスペーサ層が介在してもよい。バリア層16の厚さは、例えば5nm~30nmの範囲内である。バリア層16とチャネル層14との間にはその格子定数の違いから歪みが生じ、これにより、バリア層16とチャネル層14との界面近傍であってチャネル層14側の領域にピエゾ電荷に由来する二次元電子ガス(2DEG)が生じ、チャネル領域が形成される。
【0015】
キャップ層18は、バリア層16上にエピタキシャル成長した半導体層である。キャップ層18は、例えばGaN層である。キャップ層18の厚さは、例えば5nmである。キャップ層18の導電型は、例えばn型である。
【0016】
HEMT1は、SiNパッシベーション膜26を更に備える。SiNパッシベーション膜26の厚さは例えば10~100nmである。SiNパッシベーション膜26は、ソース開口26a、ドレイン開口26b、及びゲート開口26cを有する。これらの開口26a~26cでは、SiNパッシベーション膜26から半導体積層部20が露出する。具体的に、ソース開口26a及びドレイン開口26bにおいては、キャップ層18が除去されてバリア層16が露出する。ゲート開口26cにおいてはキャップ層18が露出する。
【0017】
HEMT1は、ソース電極22、ドレイン電極24、及びゲート電極28を更に備える。ソース電極22及びドレイン電極24は、基板10の面に沿って順に並んでいる。ソース電極22は、SiNパッシベーション膜26のソース開口26aを覆っており、ソース開口26aを介してバリア層16とオーミック接触を形成している。ドレイン電極24は、SiNパッシベーション膜26のドレイン開口26bを覆っており、ドレイン開口26bを介してバリア層16とオーミック接触を形成している。ソース電極22及びドレイン電極24は、半導体積層部20側から順に設けられたチタン(Ti)層およびアルミニウム(Al)層を熱処理(アロイ)することにより形成される。熱処理前におけるTi層の厚さは例えば30nmであり、Al層の厚さは例えば300nmである。なお、Ti層に代えてTa層が設けられてもよい。
【0018】
ゲート電極28は、半導体積層部20上においてソース電極22とドレイン電極24との間に設けられている。
図2は、ゲート電極28を拡大して示す断面図である。
図2に示すように、ゲート電極28は、SiNパッシベーション膜26のゲート開口26cを覆っており、ゲート開口26cを介してキャップ層18とショットキ接触を形成している。ゲート電極28は、半導体積層部20側から順に設けられたニッケル(Ni)層281、金(Au)層282およびタンタル(Ta)層283を有する。Ni層281の厚さは例えば20~100nmの範囲内であり、一実施例では60nmである。Au層282の厚さは例えば350~800nmの範囲内であり、一実施例では350nmである。Ta層283の厚さは例えば10nmである。
【0019】
ゲート電極28は、ゲート開口26c内およびその上に形成された部分と、該部分の側方に形成されSiNパッシベーション膜26上に乗り上げた部分とを有する。SiNパッシベーション膜26上におけるゲート電極28の一対の側面28a,28bはSiNパッシベーション膜26の上面に対して傾斜しており、半導体積層部20から離れるほど互いに近づく。従って、ゲート開口26c内に形成された部分を除くゲート電極28の断面形状は、略台形状となっている。
【0020】
Ni層281は、ゲート開口26c内の半導体積層部20上からゲート開口26cの側面を経てSiNパッシベーション膜26上に乗り上げている。Au層282は、ゲート開口26c内からSiNパッシベーション膜26上にわたってNi層281上に設けられ、Ni層281と接している。ゲート電極28の一対の側面28a,28bは主にAu層282によって構成されている。Ta層283は、台形状のゲート電極28の上面を構成しているが、一対の側面28a,28bには形成されていない。
【0021】
Ni層281のNi原子は、Au層282の内部において全体的に拡散している。Au層282の表面の少なくとも一部(本実施形態では、一対の側面28a,28bにおけるAu層282の表面)には、析出したNi原子が酸素原子Oと結合してNi酸化物を構成している。これにより、一対の側面28a,28bにおけるAu層282の表面には、Ni酸化膜284が生じている。Ni酸化膜284は、Ta層283及びNi層281から露出したAu層282の表面の全て(或いは一部)を覆っている。Ni酸化膜284の厚さは、例えば5~10nmの範囲内である。
【0022】
HEMT1は、絶縁膜30を更に備える。
図2に示すように、絶縁膜30はゲート電極28を覆う保護膜であり、Ni酸化膜284に接している。絶縁膜30は、Siを含む絶縁性材料からなり、一例ではSiN膜、SiO
2膜、或いはSiON膜である。絶縁膜30の膜厚は例えば400nmであり、さらに200nm程度までの薄層化が可能である。
図1に示すように、絶縁膜30は開口30a,30bを有しており、開口30aからはソース電極22が露出し、開口30bからはドレイン電極24が露出する。開口30aにはソース電極22と接続される図示しない配線が設けられ、開口30bにはドレイン電極23と接続される図示しない配線が設けられる。
【0023】
続いて、
図3~
図5を参照して、HEMT1の製造方法の一例について説明する。
図3の(a)に示すように、有機金属気相成長(MOCVD)法を用いて、複数の窒化物半導体層を含む半導体積層部20を基板10上に成長する。具体的には、まず、核生成層12を基板10上に成長する。核生成層12がAlN層である場合、原料ガスは例えばTMA(トリメチルアルミニウム)及びNH
3(アンモニア)であり、成長温度は例えば1100℃である。次に、核生成層12上にチャネル層14を成長する。チャネル層14がGaN層である場合、原料ガスは例えばTMG(トリメチルガリウム)及びNH
3であり、成長温度は例えば1050℃である。続いて、チャネル層14上にバリア層16を成長する。バリア層16がAlGaN層である場合、原料ガスは例えばTMA、TMG及びNH
3であり、成長温度は例えば1050℃である。続いて、バリア層16上にキャップ層18を成長する。キャップ層18がGaN層である場合、原料ガスは例えばTMG及びNH
3であり、成長温度は例えば1050℃である。
【0024】
続いて、
図3の(b)に示すように、半導体積層部20の上面に接するSiNパッシベーション膜26を、減圧CVD法及びプラズマCVDの少なくとも一方を用いて成膜する。減圧CVD法を用いる場合、成膜温度は例えば600~850℃の範囲内であり、成長圧力は例えば10~50Paの範囲内である。減圧CVD法により形成されるSiNパッシベーション膜26は、プラズマCVDにより形成される場合と比較して緻密な固い膜となる。減圧CVD法によりSiNパッシベーション膜26の一部(下層部)を形成した後、プラズマCVDによりSiNパッシベーション膜26の残部(上層部)を形成してもよい。減圧CVD法により形成する時の原料ガスとしては、アンモニアガス及びジクロロシラン(SiH
2Cl
2)を用いる。その後、
図3の(c)に示すように、SiNパッシベーション膜26にソース開口26aおよびドレイン開口26bを形成する。ソース開口26aおよびドレイン開口26bは、ソース開口26aおよびドレイン開口26bそれぞれに対応する開口を有するレジストマスクをSiNパッシベーション膜26上に形成し、該レジストマスクを介してSiNパッシベーション膜26をエッチングすることによって形成される。エッチングは、例えばフッ素(F)原子を含む反応性ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)である。その後、開口26a,26b内のキャップ層18をエッチングしてバリア層16を露出させたのち、
図4の(a)に示すように、リソグラフィー及びリフトオフ技術を用いて、開口26a,26bをそれぞれ覆うソース電極22及びドレイン電極24を蒸着により形成する。その後、温度を500℃以上とした熱処理による合金化を行う。
【0025】
続いて、
図4の(b)に示すように、SiNパッシベーション膜26にゲート開口26cを形成する。ゲート開口26cに対応する開口を有するレジストマスクをSiNパッシベーション膜26上に形成し、該レジストマスクを介してSiNパッシベーション膜26をエッチングすることによってゲート開口26cを形成する。エッチングは、例えばF原子を含む反応性ガスを用いたRIEである。この後、レジストマスクを除去する。
【0026】
続いて、
図4の(c)に示すように、SiNパッシベーション膜26上にレジスト51を塗布する。リソグラフィー技術により、レジスト51の開口51aをゲート開口26c上に形成する。レジスト51に形成する開口51aは、ゲート開口26cよりも広い。また、開口51aは、庇部分51bを有する。開口51a内では、ゲート開口26c内においてキャップ層18が露出し、ゲート開口26cの周囲に位置するSiNパッシベーション膜26が露出する。
【0027】
続いて、
図5の(a)に示すように、ゲート開口26cを介してキャップ層18に接触するゲート電極28を、蒸着法を用いて形成する(本実施形態における第1工程)。具体的には、Ni層281、Au層282、及びTa層283をこの順に蒸着する。このとき、ゲート電極28の断面形状は台形状となり、Ta層283は台形の上面に堆積する。従って、Au層282は台形の一対の側面から露出する。レジスト51上に堆積した金属29は、レジスト51とともに除去される(リフトオフ)。
【0028】
続いて、
図5の(b)に示すように、ゲート電極28の周囲を酸素ガス(O
2)を含む雰囲気とした状態で、熱処理炉53にてゲート電極28の熱処理を行う(本実施形態における第2工程)。熱処理の温度は例えば350℃以上420℃以下であり、一実施例では350℃である。また、熱処理の時間は例えば15分以上30分以下であり、一実施例では15分である。ゲート電極28の周囲の雰囲気は窒素(N
2)を主に含み、該雰囲気における酸素濃度は21%以下であってもよい。一例では、ゲート電極28の周囲の雰囲気は大気である。
【0029】
この工程で、Ni層281を構成するNi原子の一部がAu層282内に徐々に拡散し、一定時間後にAu層282の全体にNi原子が分布する。そして、Au層282内に拡散したNi原子の一部はAu層282の露出した表面に到達し、該表面に析出する。このとき、析出したNi原子はO2ガスと反応して酸化し、Ni酸化膜284をAu層282の表面上に形成する。このように、本実施形態では、Niの析出と酸化とが同時に行われる。この時、ソース電極22、ドレイン電極24は実質的に影響を受けない。これらの合金化が、Niの拡散及び酸化の温度よりも十分に高い温度で行われているためである。
【0030】
続いて、
図5の(c)に示すように、SiNパッシベーション膜26上に例えばプラズマCVD法により絶縁膜30を形成し、この絶縁膜30によりゲート電極28を覆う(本実施形態における第3工程)。このとき、絶縁膜30はNi酸化膜284に接する。原料ガスとしては、アンモニアガス及びモノシランを用いる。その後、例えばフッ素系ガスを用いた反応性イオンエッチングにより絶縁膜30に開口30a,30bを形成し、ソース電極22およびドレイン電極24を露出させる。以上の工程を経て、HEMT1が作製される。
【0031】
以上の構成を備える本実施形態のHEMT1及びその製造方法によって得られる効果について、従来の課題とともに説明する。
図6は、従来のゲート電極28Aにおける問題点を説明するための模式図である。ゲート電極28Aは、Ni層281、Au層282、及びTa層283の積層構造を有する。この場合、動作中の発熱などに起因する半導体デバイスの温度上昇によって、Ni層281からAu層282へNiが次第に拡散し(図中の矢印を参照)、最終的にAu層282の表面に達する。多くの場合、ゲート電極28Aの周囲にはSiを含む絶縁膜(例えばSiN膜)30が設けられている。Au層282の表面に達したNiは絶縁膜30内に拡散し、Au層282に隣接する絶縁膜30内の領域31において絶縁膜30のSiとともにシリサイドを形成する。これにより、絶縁膜30の絶縁性が低下する。絶縁膜30の絶縁性の低下は、ゲートリーク電極の増大、及び耐圧性能の劣化をもたらす。
【0032】
ここで、Ni層281のNiが拡散し易い理由について説明する。上述したように、ゲート電極28は、ゲート開口26cを覆い、ゲート開口26c内において半導体積層部20(本実施形態ではキャップ層18)上に堆積した部分と、ゲート開口26c外においてSiNパッシベーション膜26上に堆積した部分とを含む。このようにゲート電極28がSiNパッシベーション膜26に乗り上げる構造は、ゲート端部(SiNパッシベーション膜26、ゲート電極28、及び半導体積層部20の3つが相互に接する箇所)の電界緩和の観点から重要である。
【0033】
図7は、Au層の内部における種々の金属の拡散係数のアレニウスプロット及びその活性化エネルギを示す図である。
図7において、実線で示されるグラフは、バルク拡散すなわち結晶粒内の格子点に存在するAuと置換するタイプの拡散、あるいはAu格子間の拡散を示す。また、点線で示されるグラフは、結晶粒界での拡散(グレイン境界上の拡散)を示す。バルク拡散の場合、拡散係数は小さい。一方、結晶粒界ではAuの密度が疎であるため拡散係数は大きい。この図から明らかなように、Niについて粒界拡散とバルク拡散の拡散係数を比較すると、前者が圧倒的に大きい。Au中のNi拡散は粒界拡散のみで決定されるとみなされる。そして、その拡散係数は、350℃でも有意な値、すなわち、350℃でもNiのAu中の拡散、特に粒界拡散を十分に生じ得、Au表面に到達しやすい。従って、例えば350℃といった温度であっても、NiはAuの粒界に沿ってAu層の表面に到達し易い。
【0034】
なお、このような課題を解決するための方法として、例えば、Au層282の蒸着時に基板10を加熱してAuの粒径を拡大化・高配向化し、Auのグレインサイズを大きくすることが考えられる。しかしながら、ゲート電極28は、レジストを用いたリフトオフプロセスによって形成される(
図5の(a)を参照)。従ってレジストが形成された基板10をグレインサイズを大きくするまでの温度(数百度)に加熱することは実質不可能である。また、Au層282の露出表面を高融点金属により覆うことによって、Au層282からSiNパッシベーション膜26へのNiの拡散を防ぐことも考えられる。しかしながら、その場合、高融点金属はゲート金属の形成とは別の工程(別のリソグラフィー工程)を経て行う必要があり、製造上の負荷が大きい。なお、本実施形態では高融点金属としてTa層283を形成しているが、Ta層283はAu層の蒸着による形成と連続して形成することができる。
【0035】
上記の課題に対し、本実施形態では、ゲート電極28を形成した後、350℃以上の温度にて熱処理を行うことによりAu層282の表面にNiを析出させ、析出したNiを酸化してNi酸化膜284を形成する(
図5の(b)を参照)。Ni酸化物(NiO)はNiシリサイドよりも化学的に安定であるため、Au層282の表面に析出したNi酸化膜284は、絶縁膜中のSiとの結合(Niシリサイドの形成)が阻害される。また、Ni酸化膜284の形成は単にゲート電極28を熱処理するという簡便な方法であり、一切フォトリソグラフィー工程を経る必要がない。
【0036】
ここで、
図5の(b)に示された熱処理の好適な温度について説明する。
図8は、リフトオフ直後からの経過に伴うAu層282の抵抗増加率を示すグラフである。
図8において、横軸はリフトオフ後の各工程を示し、縦軸は抵抗増加率(単位:%)を示す。なお、抵抗増加率0%は、高純度Auの抵抗値を基準(0%)とする。
図8に示すように、ゲート電極28形成後の熱処理(350℃、15分)によって、Au層282の抵抗値は0%から9%近く増加する。抵抗値の増加は、Niの拡散を意味する。その後、絶縁膜30としてのSiN膜の一部を形成する際に温度を300℃とするが、その温度ではAu層282の抵抗値は殆ど増加しない。これは、Niが殆ど拡散していないことを意味する。このことから、Au層282内にNiを十分に拡散させてAu層282の表面にNiを到達させるために、好適な熱処理温度は350℃以上であることがわかる。
【0037】
また、本実施形態のように、熱処理工程(
図5の(b))において、酸素を含む雰囲気にて熱処理を行うことにより、Niの析出と酸化とを同時に行ってもよい。これにより、少ない工程数でNi酸化膜284を形成することができる。この場合、該雰囲気は窒素(N
2)を主に含み、酸素濃度は21%以下であってもよい。このような酸素濃度であってもNiの酸化が可能なので、例えば大気を用いて簡便にNi酸化膜284を形成することができる。
【0038】
また、本実施形態のように、熱処理を15分以上行ってもよい。これにより、Au層282の表面にNiを十分に析出させることができる。
【0039】
また、本実施形態のように、ゲート電極28を形成する工程の前に、減圧CVD法及びプラズマCVD法の少なくとも一方を用いてSiNパッシベーション膜26を半導体積層部20上に形成する工程(
図3の(b))と、半導体積層部20を露出させる開口26aをSiNパッシベーション膜26に形成する工程(
図4の(b))とを更に行い、開口26aを覆うゲート電極28を形成してもよい。また、HEMT1は、半導体積層部20上に設けられたSiNパッシベーション膜26を備え、SiNパッシベーション膜26は半導体積層部20を露出する開口26aを有し、ゲート電極28は開口26aを覆う。この場合、SiNパッシベーション膜26上に堆積したNi層281の部分(結晶性が劣る部分、グレインサイズが小さい部分)においてNiがAu層282内に容易に拡散する。従って、上述した効果を奏するNi酸化膜284が特に有効となる。
【0040】
また、本実施形態のように、プラズマCVD法を用いて絶縁膜30を形成してもよい。プラズマCVDにより形成された絶縁膜30では、内部の結晶構造が比較的疎であるため、結晶粒界を通じてAu層282からのNiが拡散し易い。従って、上述した効果を奏するNi酸化膜284が特に有効となる。
【0041】
(実施例)
続いて、上記実施形態の一実施例について説明する。この実施例では、
図3~
図4に示された各工程の後、ゲート電極28として、厚さ60nmのNi層281と、厚さ350nmのAu層282と、厚さ10nmのTa層283とを順に蒸着した。その後、酸素を含む雰囲気中で350℃/15分の熱処理を実施することにより、Ni層281のNiをAu層282の側面に析出させ酸化させた。その後、基板温度を300℃として絶縁膜30をプラズマCVDにより形成した。また、比較のため、同様の構成を有するゲート電極を形成したのち、酸素を含む雰囲気中での熱処理を実施せずに絶縁膜30をプラズマCVDにより形成した。
【0042】
図9(a)及び
図9(b)は、ゲートリーク電流Igsoとゲート・ソース間電圧Vgsとの関係を示すグラフである。
図9(a)は酸素を含む雰囲気中での熱処理を実施しない場合のグラフであり、
図9(b)は酸素を含む雰囲気中での熱処理を実施した場合のグラフである。また、図中の右の数値は、420℃での累積放置時間(単位:hour)を示す。但し、0は作製直後を表す。
図9(a)に示すように、酸素を含む雰囲気中での熱処理を実施しない場合、ゲートリーク電流は1.0×10
-3(A/mm)といった大きな値まで上昇している。これに対し、
図9(b)に示すように、酸素を含む雰囲気中での熱処理を実施した場合、ゲートリーク電流は1.0×10
-7(A/mm)といった小さな値に抑えられている。このように、上述した実施形態によれば、Ni酸化膜284をAu層282の側面に形成することによって、ゲートリーク電流を効果的に低減することができる。
【0043】
本発明による半導体デバイスの製造方法および半導体デバイスは、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上述した各実施形態では、酸素を含む雰囲気での熱処理によってNiを酸化しNi酸化膜284を形成しているが、Niを酸化する方法はこれに限られない。例えば、アッシング、UV-O3処理等によりNiを酸化してもよい。但し、酸素を含む雰囲気での熱処理が最も簡便である。また、上記実施形態ではHEMTのゲート電極に本発明を適用しているが、本発明は、HEMT以外のトランジスタのゲート電極、或いはトランジスタ以外の半導体デバイス(特に、窒化物半導体デバイス)のショットキ電極にも適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1…HEMT、10…基板、12…核生成層、14…チャネル層、16…バリア層、18…キャップ層、20…半導体積層部、22…ソース電極、23…ドレイン電極、24…ドレイン電極、26…SiNパッシベーション膜、26a…ソース開口、26b…ドレイン開口、26c…ゲート開口、28,28A…ゲート電極、28a,28b…側面、29…金属、30…絶縁膜、30a,30b…開口、31…領域、51…レジスト、51a…開口、51b…庇部分、53…熱処理炉、281…Ni層、282…Au層、283…Ta層、284…Ni酸化膜。