(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 13/68 20060101AFI20220329BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20220329BHJP
F16K 31/06 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
B60T13/68
B60T8/17 Z
F16K31/06 310Z
(21)【出願番号】P 2018123989
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【氏名又は名称】小林 脩
(72)【発明者】
【氏名】木野村 優至
(72)【発明者】
【氏名】尾関 恵光
(72)【発明者】
【氏名】石村 淳次
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-199456(JP,A)
【文献】特開2006-27453(JP,A)
【文献】特開2012-236460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/00-13/74
B60T 7/12-8/1769
F16K 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に付与される制動力を制御するための液圧回路に設けられた非通電時に閉状態となるノーマルクローズ電磁弁を備えた車両用制動装置に適用され、
前記ノーマルクローズ電磁弁が閉状態から開状態に切り替わる基準の電流値であり、かつ、前記ノーマルクローズ電磁弁の入出力ポート間の差圧の大きさに基づいて設定される電流値である切替電流値、より大きい電流値の制御電流を前記ノーマルクローズ電磁弁に与えることで前記ノーマルクローズ電磁弁を開状態とする車両制御装置であって、
前記ノーマルクローズ電磁弁を閉状態から開状態にするにあたり、前記切替電流値よりも第1所定量だけ小さい電流値まで第1電流勾配で前記制御電流の電流値を増加させ、続いて、少なくとも前記制御電流の電流値が前記切替電流値より大きくなるまで、前記第1電流勾配よりも小さい第2電流勾配で前記制御電流の電流値を増加させる開弁制御を行う制御部と、
前記差圧の目標変化勾配が大きいほど前記第2電流勾配を小さくする設定部と、
を備える車両制御装置。
【請求項2】
車両に付与される制動力を制御するための液圧回路に設けられた非通電時に開状態となるノーマルオープン電磁弁を備えた車両用制動装置に適用され、
前記ノーマルオープン電磁弁が閉状態から開状態に切り替わる基準の電流値であり、かつ、前記ノーマルオープン電磁弁の入出力ポート間の差圧の大きさに基づいて設定される電流値である切替電流値、より小さい電流値の制御電流を前記ノーマルオープン電磁弁に与えることで前記ノーマルオープン電磁弁を開状態とする車両制御装置であって、
前記ノーマルオープン電磁弁を閉状態から開状態にするにあたり、前記切替電流値よりも第1所定量だけ大きい電流値まで第1電流勾配で前記制御電流の電流値を減少させ、続いて、少なくとも前記制御電流の電流値が前記切替電流値より小さくなるまで、前記第1電流勾配よりも小さい第2電流勾配で前記制御電流の電流値を減少させる開弁制御を行う制御部と、
前記差圧の目標変化勾配が大きいほど前記第2電流勾配を小さくする設定部と、
を備える車両制御装置。
【請求項3】
前記設定部は、前記液圧回路に充填される作動液の温度に応じて、前記第1所定量及び前記第2電流勾配のうち少なくとも一方を小さくする請求項1又は2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記設定部は、前記差圧の目標変化勾配が大きいほど、前記第1所定量を小さくする請求項1~3の何れか一項に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記設定部は、前記差圧が大きいほど、前記第1所定量及び前記第2電流勾配のうち少なくとも一方を小さくする請求項1~4の何れか一項に記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記設定部は、前記開弁制御において前記制御電流の電流勾配が前記第2電流勾配である際に、前記差圧が所定値未満となった場合、前記制御電流の電流勾配を前記第2電流勾配よりも大きくする請求項1~5の何れか一項に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両制御装置は、車両用制動装置の液圧回路に設けられた電磁弁の開閉を制御する装置である。例えば特開2015-199456号公報に記載の車両制御装置では、電磁弁の開閉時の打音を抑制するために、制御電流の勾配を小さくする制御が行われている。制御される電磁弁は、液圧をリニア制御可能な電磁弁であって、開閉の切り替えの基準となる電流値が入出力ポート間の差圧によって決定されるものである。電磁弁は、弁座と、制御電流に応じて駆動する弁体(例えばプランジャ)と、を備えている。弁体が弁座に着座している状態が閉状態であり、弁体が弁座から離座している状態が開状態である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記車両制御装置では、弁体と弁座とが当接する際の打音については考慮されているが、電磁弁が開弁する際に生じ得る弁体の自励振動については考慮されていない。弁体の自励振動は、異音の原因となる。このように、上記車両制御装置には、異音抑制の点で改良の余地がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、電磁弁の弁体の自励振動による異音の発生を抑制することができる車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係る車両制御装置は、車両に付与される制動力を制御するための液圧回路に設けられた非通電時に閉状態となるノーマルクローズ電磁弁を備えた車両用制動装置に適用され、前記ノーマルクローズ電磁弁が閉状態から開状態に切り替わる基準の電流値であり、かつ、前記ノーマルクローズ電磁弁の入出力ポート間の差圧の大きさに基づいて設定される電流値である切替電流値、より大きい電流値の制御電流を前記ノーマルクローズ電磁弁に与えることで前記ノーマルクローズ電磁弁を開状態とする車両制御装置であって、前記ノーマルクローズ電磁弁を閉状態から開状態にするにあたり、前記切替電流値よりも第1所定量だけ小さい電流値まで第1電流勾配で前記制御電流の電流値を増加させ、続いて、少なくとも前記制御電流の電流値が前記切替電流値より大きくなるまで、前記第1電流勾配よりも小さい第2電流勾配で前記制御電流の電流値を増加させる開弁制御を行う制御部と、前記差圧の目標変化勾配が大きいほど前記第2電流勾配を小さくする設定部と、を備える。
【0007】
本発明の第2の態様に係る車両制御装置は、車両に付与される制動力を制御するための液圧回路に設けられた非通電時に開状態となるノーマルオープン電磁弁を備えた車両用制動装置に適用され、前記ノーマルオープン電磁弁が閉状態から開状態に切り替わる基準の電流値であり、かつ、前記ノーマルオープン電磁弁の入出力ポート間の差圧の大きさに基づいて設定される電流値である切替電流値、より小さい電流値の制御電流を前記ノーマルオープン電磁弁に与えることで前記ノーマルオープン電磁弁を開状態とする車両制御装置であって、前記ノーマルオープン電磁弁を閉状態から開状態にするにあたり、前記切替電流値よりも第1所定量だけ大きい電流値まで第1電流勾配で前記制御電流の電流値を減少させ、続いて、少なくとも前記制御電流の電流値が前記切替電流値より小さくなるまで、前記第1電流勾配よりも小さい第2電流勾配で前記制御電流の電流値を減少させる開弁制御を行う制御部と、前記差圧の目標変化勾配が大きいほど前記第2電流勾配を小さくする設定部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
通常の制御では、差圧の目標変化勾配が大きいほど電磁弁の弁体に加わる電磁力の変化速度が大きくなり、弁体の加速度も大きくなる。理論上、弁体の加速度が大きくなると、自励振動が発生しやすくなる。しかし、本発明によれば、開弁制御において、制御電流の電流値が切替電流値をまたぐ際の電流勾配(すなわち第2電流勾配)は、差圧の目標変化勾配が大きいほど小さくなる。これにより、状況に応じて、開弁時の弁体の加速度の増大を抑制し、自励振動の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態の車両用制動装置の構成図である。
【
図3】第1実施形態の開弁制御を説明するためのタイムチャートである。
【
図4】第2実施形態の車両用制動装置の構成図である。
【
図5】第2実施形態の開弁制御を説明するためのタイムチャートである。
【
図6】第3実施形態の車両制御装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。また、説明に用いる各図は概念図であり、例えば、
図1、
図2、及び
図4では断面のハッチング表示が省略されている。
【0011】
<第1実施形態>
第1実施形態の車両制御装置1は、
図1に示すように、車両に付与される制動力を制御するための液圧回路6に設けられた非通電時に閉状態となる減圧弁(「ノーマルクローズ電磁弁」に相当する)501、502、503、504を備えた車両用制動装置9に適用されている。詳細に、車両用制動装置9は、シリンダ機構2と、リザーバ3と、ストロークシミュレータ4と、液圧制御機構5と、各部材を流路でつなぐ液圧回路6と、ホイールシリンダ71、72、73、74と、車両制御装置1と、を備えている。
【0012】
シリンダ機構2は、マスタシリンダ21と、運転者によるブレーキ操作部材29の操作に応じて駆動するマスタピストン22、23と、マスタ室24、25と、ストロークセンサ26と、を備えている。マスタピストン22、23は、マスタシリンダ21内で、マスタ室24、25を区画している。マスタピストン22、23の前進によりマスタ室24、25の液圧(以下、マスタ圧と称する)が増大する。ブレーキ操作部材29の操作量(以下、ストロークとも称する)は、ストロークセンサ26により検出される。なお、マスタピストン22、23は図示しないスプリングにより初期位置に向けて付勢されている。
【0013】
リザーバ3は、外気に開放された(大気圧の)タンクであり、作動液を貯留している。リザーバ3は、マスタシリンダ21、減圧弁501~504、及びポンプ513に接続されている。リザーバ3とマスタ室24、25との間の流路は、マスタピストン22、23が初期位置にある際に連通し、マスタピストン22、23が所定量前進すると遮断される。
【0014】
ストロークシミュレータ4は、ブレーキ操作部材29に反力を付与する装置である。ストロークシミュレータ4は、シミュレータカット弁41を介してマスタ室24に接続されている。なお、シミュレータカット弁41は、非通電時に閉状態となるノーマルクローズ型の電磁弁であって、ブレーキ操作の開始とともに開弁する。
【0015】
液圧制御機構5は、車両制御装置1の指令に基づいて、ホイールシリンダ71~74の液圧(以下、ホイール圧と称する)を制御する装置である。液圧制御機構5は、減圧弁501~504と、増圧弁505、506、507、508と、マスタカット弁509、510と、アキュムレータ511と、モータ512と、ポンプ513と、圧力センサ514~520と、を備えている。各部は、液圧回路6によって接続されている。液圧回路6は、作動液が流通可能な複数の流路で構成されている。
【0016】
減圧弁501~504は、非通電時に閉状態となるノーマルクローズ型の電磁弁である。減圧弁501は、ホイールシリンダ71とリザーバ3とをつなぐ流路に設けられている。同様に、減圧弁502はホイールシリンダ72とリザーバ3とをつなぐ流路に設けられ、減圧弁503はホイールシリンダ73とリザーバ3とをつなぐ流路に設けられ、減圧弁504はホイールシリンダ74とリザーバ3とをつなぐ流路に設けられている。減圧弁501~504を開弁させることで、ホイール圧を減圧することができる。
【0017】
増圧弁505~508は、非通電時に閉状態となるノーマルクローズ型の電磁弁である。増圧弁505は、ホイールシリンダ71とアキュムレータ511とをつなぐ流路に設けられている。同様に、増圧弁506はホイールシリンダ72とアキュムレータ511とをつなぐ流路に設けられ、増圧弁507はホイールシリンダ73とアキュムレータ511とをつなぐ流路に設けられ、増圧弁508はホイールシリンダ74とアキュムレータ511とをつなぐ流路に設けられている。増圧弁505~508のアキュムレータ511側のポートは、流路により互いに接続されている。増圧弁505~508を開弁させることで、ホイール圧を増圧することができる。
【0018】
マスタカット弁509、510は、非通電時に開状態となるノーマルオープン型の電磁弁である。マスタカット弁509は、増圧弁505のホイールシリンダ71側のポートとマスタ室25とを接続する流路に設けられている。マスタカット弁510は、増圧弁508のホイールシリンダ74側のポートとマスタ室24とを接続する流路に設けられている。マスタカット弁509、510は、必要に応じて下流へのマスタ圧の供給をカットするための弁である。
【0019】
アキュムレータ511は、高圧の作動液を貯留する蓄圧装置である。モータ512は、電動モータであって、ポンプ513を駆動する。ポンプ513は、吸入ポートがリザーバ3に接続され、吐出ポートがアキュムレータ511に接続されたポンプである。アキュムレータ511の液圧(以下、アキュムレータ圧と称する)は、ポンプ513の駆動により高圧に維持される。
【0020】
圧力センサ514は、マスタ室25の液圧(マスタ圧)を検出する。圧力センサ515は、マスタ室24の液圧(マスタ圧)を検出する。圧力センサ516は、アキュムレータ圧を検出する。圧力センサ517、518、519、520は、対応するホイールシリンダ71~74のホイール圧を検出する。また、各車輪には、車輪速度センサSが設置されている。なお、ホイール圧は、例えばマスタ圧と制御状態から推定(演算)してもよく、この場合、圧力センサ517~520は省略できる。
【0021】
車両制御装置1は、CPUやメモリ等を備える電子制御ユニット(ECU)であって、上記した各種センサからの情報に基づき、シミュレータカット弁41及び液圧制御機構5を制御する装置である。車両制御装置1は、ストロークに応じて車両の目標減速度を決定し、目標減速度に基づいて目標ホイール圧を決定する。車両制御装置1は、目標ホイール圧に基づいて、各電磁弁41、501~510の開閉及びモータ512の駆動を制御する。目標ホイール圧の単位時間あたりの変化が、ホイール圧の目標変化勾配となる。
【0022】
ここで、車両制御装置1の制御対象である減圧弁501~504の構成について、減圧弁501を例に説明する。減圧弁501は、オンオフ弁(2値制御弁)でなく、リニア制御可能な電磁弁であって、ノーマルクローズ型にかかる公知の構成を有している。減圧弁501は、
図2に示すように、制御電流の印加により駆動する弁体(可動コア)であるプランジャ5011と、閉状態でプランジャ5011が着座する弁座5012と、プランジャ5011を弁座5012に向けて付勢するバネ機構5013と、ソレノイド部5014と、を備えている。ソレノイド部5014に制御電流が印加されると、その電流値に応じてプランジャ5011に弁座5012から遠ざかる方向(すなわちバネ力に逆らう方向)の電磁力が加わる。この電磁力と入出力ポート間501a、501bの差圧による流体力との合計が、バネ力と摩擦力の合計を超えることで、プランジャ5011が弁座5012から離れて、減圧弁501が開状態となる。この減圧弁501の状態が閉状態から開状態に切り替わる制御電流の電流値を「切替電流値」と称する。
【0023】
切替電流値は、ノーマルクローズ型の減圧弁501~504が閉状態から開状態に切り替わる基準の電流値であり、かつ、減圧弁501~504の入出力ポート間の差圧(以下、「第1差圧」と称する)の大きさに基づいて設定される電流値である。車両制御装置1は、切替電流値より大きい電流値の制御電流を減圧弁501~504に与えることで減圧弁501を開状態とする。
【0024】
車両制御装置1は、減圧弁501~504を開弁するにあたり、機能として、制御部11と、設定部12と、を備えている。制御部11は、
図3に示すように、ノーマルクローズ型の減圧弁501~504を閉状態から開状態にするにあたり、切替電流値よりも第1所定量だけ小さい電流値まで第1電流勾配で制御電流の電流値を増加させ、続いて、少なくとも制御電流の電流値が切替電流値より大きくなるまで、第1電流勾配よりも小さい第2電流勾配で制御電流の電流値を増加させる開弁制御を行うように構成されている。
【0025】
制御部11は、例えば、制御電流の電流値が切替電流値より大きい開弁保持電流値になるまで第2電流勾配での電流増加を実行する。開弁保持電流値は、切替電流値よりも第2所定量大きい値である。
【0026】
設定部12は、第1差圧の目標変化勾配が大きいほど、第2電流勾配を小さくするように構成されている。第1実施形態において、第1差圧は、ホイール圧と大気圧(リザーバ3の圧力)との差であり、計算上、ホイール圧と同じ値となる。したがって、第1差圧の目標変化勾配は、ホイール圧の目標変化勾配と同じである。つまり、設定部12は、ホイール圧の目標変化勾配(目標ホイール圧の変化勾配)に基づいて、第2電流勾配を設定している。第1差圧の目標変化勾配の増大に対する第2電流勾配の減少変化は、段階的でも、リニアでも、又は二次関数的でもよい。例えば、設定部12は、第1差圧の目標変化勾配に対して所定閾値を設定し、開弁制御開始時の第1差圧の目標変化勾配が所定閾値以上である場合、第2電流勾配を小さくように設定されてもよい(
図3の「変更前の第2電流勾配」と「変更後の第2電流勾配」を参照)。この所定閾値は、複数設定されてもよい。開弁制御は、電流勾配制限制御ともいえる。
【0027】
開弁制御が実行されるまでの流れの例として、運転者がブレーキ操作部材29の操作を解除した際、ホイール圧が所定圧以上であるか否かが判定される。そして、ホイール圧が所定圧以上である場合には、切替電流値が現在減圧弁501~504に印加している制御電流の電流値より大きいか否かが判定される。そして、切替電流値が現在の制御電流の電流値より大きい場合、上記の開弁制御が実行される。
【0028】
第1実施形態において、第1差圧の目標変化勾配が大きい状況とは、制御対象が減圧弁501~504であるため、ホイール圧の目標減圧勾配が大きい状況を意味する。従来、目標減圧勾配が大きい状況では、応答性の観点から、減圧弁501~504への制御電流を一気に増加させる制御が行われる傾向にあった。しかし、制御電流の増加勾配が大きいほど、プランジャ5011に加わる電磁力の増加勾配も大きくなり、プランジャ5011の移動時の加速度が大きくなる。これがプランジャ5011の自励振動の1つの原因となっていた。
【0029】
しかし、第1実施形態によれば、開弁制御において、制御電流の電流値が切替電流値をまたぐ際の電流勾配(すなわち第2電流勾配)は、第1差圧の目標変化勾配が大きいほど小さくなる。これにより、状況に応じて、開弁時のプランジャ5011の加速度の増大を抑制し、自励振動の発生を抑制することができる。つまり、第1実施形態によれば、自励振動による異音の発生を抑制することができる。
【0030】
また、第1実施形態では、第2電流勾配を小さくする閾値(目標変化勾配の閾値)は、特定の状況、例えば急操作、ABS制御(アンチスキッド制御)、ESC制御(横滑り防止制御)、又は自動ブレーキ制御における急な減圧時を想定して設定されている。つまり、通常操作における減圧時には、第2電流勾配が比較的大きく、応答性は確保される。また、第1所定量は、ハードのばらつき及び応答遅れを考慮して最小の値に設定されている。これにより、特定の状況においても応答性の低下を最小限に抑えられている。
【0031】
<第2実施形態>
第2実施形態の車両制御装置は、第1実施形態に比べて、制御対象がノーマルオープン型の電磁弁である点で異なっている。以下、主に異なる点について説明する。なお、第2実施形態の説明において、第1実施形態の説明及び図面を適宜参照できる。
【0032】
第2実施形態の車両制御装置10は、
図4に示すように、車両に付与される制動力を制御するための液圧回路6に設けられた非通電時に開状態となるノーマルオープン型の電磁弁(「ノーマルオープン電磁弁」に相当する)81を備えた車両用制動装置91に適用されている。車両用制動装置91は、シリンダ機構20と、リザーバ3と、ストロークシミュレータ4と、アクチュエータ5Aと、各部を流路でつなぐ液圧回路6と、ホイールシリンダ71~74と、液圧制御機構8と、車両制御装置10と、を備えている。
【0033】
シリンダ機構20は、マスタシリンダ201と、ブレーキ操作部材29に接続された入力ピストン202と、マスタピストン203と、入力室204と、サーボ室205と、マスタ室206と、を備えている。シリンダ機構20は、入力ピストン202とマスタピストン203とが離間しているバイワイヤ構造となっている。ブレーキ操作部材29が操作され入力ピストン202が前進すると、ストロークに応じて液圧制御機構8から作動液がサーボ室205に流入し、サーボ室205の液圧(以下「サーボ圧」と称する)が増大し、マスタピストン203が前進する。そして、マスタ圧(マスタ室206の液圧)が増大する。マスタ室206は、アクチュエータ5Aを介してホイールシリンダ71、72に接続されている。リザーバ3とマスタ室206との接続は、マスタピストン203が初期位置から所定量前進することで遮断される。ストロークシミュレータ4は、図示しないが、入力室204及びサーボ室205の前方の部屋に反力液圧を発生させるように、シリンダ機構20に接続されている。
【0034】
アクチュエータ5Aは、いわゆるESCアクチュエータであって、図示しないポンプ及びリニア制御可能な電磁弁(差圧制御弁)によりホイール圧を加圧可能に構成されている。ただし、第2実施形態では、アクチュエータ5Aは、車両制御装置10の指令に基づき、通常のブレーキ操作時には液圧調整をせず、ABS制御時又はESC制御などの特定の時に液圧調整を実行する。
【0035】
液圧制御機構8は、電磁弁81と、モータ82と、ポンプ83と、を備えている。電磁弁81は、リニア制御可能な電磁弁であって、ノーマルオープン型にかかる公知の構成を有している。電磁弁81は、減圧弁501~504同様、プランジャ(弁体)と、弁座と、バネ機構と、ソレノイド部と、を備えている。つまり、電磁弁81は、自励振動が生じる可能性がある電磁弁である。モータ82は、ポンプ83を駆動する電動モータである。
【0036】
ポンプ83は、吸入ポートがリザーバ3及び電磁弁81の出力ポートに接続され、吐出ポートが電磁弁81の入力ポート、サーボ室205、及び(アクチュエータ5Aを介して)ホイールシリンダ73、74に接続されたポンプである。液圧回路6の一部が、電磁弁81とポンプ83とを環状につなぐ環状流路61を形成している。車両制御装置10は、通常、環状流路61を少量の作動液が流通するように、電磁弁81及びモータ82を制御している。
【0037】
車両制御装置10は、目標ホイール圧に応じて、ポンプ83を駆動するとともに電磁弁81による流路の絞り量を調整し、電磁弁81の入出力ポート間の差圧(以下、「第2差圧」とも称する)を調整する。電磁弁81の出力ポート側の液圧は大気圧であり、目標ホイール圧の変化勾配が第2差圧の目標変化勾配となる。目標ホイール圧が増大すると目標差圧が増大し、車両制御装置10は、電磁弁81に付与する制御電流の電流値を大きくして、目標差圧に応じた絞り量に電磁弁81を制御する。流路が絞られてポンプ83が駆動することにより、第2差圧が目標差圧に向けて大きくなる。そして、高圧の作動液は、アクチュエータ5Aを介してホイールシリンダ73、74に供給されるとともに、サーボ室205に供給される。これにより、マスタ圧が上昇し、アクチュエータ5Aを介して高圧の作動液がホイールシリンダ71、72にも供給される。減圧時には、車両制御装置10は、電磁弁81を開状態として、第2差圧を小さくする。
【0038】
車両制御装置10は、ホイール圧を減圧する際、切替電流値より小さい電流値の制御電流を電磁弁81に与えることで電磁弁81を開状態とする。具体的に、車両制御装置10の制御部11は、
図5に示すように、ノーマルオープン型の電磁弁81を閉状態から開状態にするにあたり、切替電流値よりも第1所定量だけ大きい電流値まで第1電流勾配で制御電流の電流値を減少させ、続いて、少なくとも制御電流の電流値が切替電流値より小さくなるまで、第1電流勾配よりも小さい第2電流勾配で制御電流の電流値を減少させる開弁制御を行うように構成されている。設定部12は、第1実施形態同様、第2差圧の目標変化勾配が大きいほど第2電流勾配を小さくする。これにより、第1実施形態同様の効果が発揮される。
【0039】
第2実施形態の車両用制動装置91は、例えば停車中などの限定された状態において、モータ作動音及びエネルギーロスの抑制の観点から、電磁弁81を閉弁し、モータ82を停止する制御が行われるように構成されてもよい。この場合、電磁弁81が閉状態でかつ第2差圧が大きい状態となり、開弁に伴い電磁弁81のプランジャに自励振動が発生する可能性が比較的高くなる。特にこのような状況において、上記開弁制御の効果が大きくなる。
【0040】
<第3実施形態>
第3実施形態の車両制御装置100は、例えば第1実施形態の車両用制動装置9又は第2実施形態の車両用制動装置91に適用され、第1実施形態及び第2実施形態に比べて、作動液の温度を開弁制御に反映させる点で異なっている。したがって異なっている部分について説明する。なお、第3実施形態の説明において、第1、2実施形態の説明及び図面を適宜参照できる。
【0041】
車両制御装置100は、
図6に示すように、機能として、制御部11と、設定部12と、温度算出部13と、を備えている。温度算出部13は、例えば外気温度及び制御状態に基づいて、液圧回路6に充填される作動液の温度を算出(推定)するように構成されている。作動液の温度は、公知の方法で算出することができる。車両には、外気の温度を検出する温度センサ(図示せず)が設けられており、温度推定にこの検出結果を利用することができる。また、作動液の温度を直接的に計測する温度センサが液圧回路6に設けられている場合、温度算出部13は、その検出結果に基づいて作動液の温度を算出(決定)してもよい。
【0042】
設定部12は、液圧回路6に充填される作動液の温度(温度算出部13の算出結果)に応じて第2電流勾配を設定する。設定部12は、作動液の温度に応じて第2電流勾配を小さくする。設定例の一例を説明する。作動液が第1所定温度未満となると、作動液中に気泡(空気)が発生し始める。ここで、電磁弁(501~504、81)のプランジャのバネ機構側に気泡が集まると、開弁時のプランジャの移動に対する抵抗が小さくなり、プランジャが移動しやすくなる。つまり、作動液中に空気が発生することで、開弁時にプランジャのスピードが高くなりやすくなり、自励振動が発生しやすくなる。
【0043】
そこで、第3実施形態の設定部12は、開弁制御を実行するにあたり、作動液の温度が低いほど、第2電流勾配を小さくする。この第2電流勾配の変化は、作動液の温度変化に対して、段階的でも、リニアでも、二次関数的なものでもよい。例えば、設定部12は、温度算出部13の算出結果が第1所定温度未満であった場合、第2電流勾配を小さくする。これにより、自励振動を抑制するための制御を、より状況に応じた形で行うことができる。
【0044】
また別の例として、作動液の粘性に着目し、設定部12は、作動液の温度が高いほど、第2電流勾配を小さくしてもよい。作動液の温度が高いほどその粘性が小さくなり、開弁時のプランジャの移動に対する抵抗が小さくなり得る。そこで、例えば、設定部12は、温度算出部13の算出結果が第2所定温度以上であった場合、第2電流勾配を小さくする。これによっても、より状況に応じた制御が可能となる。
【0045】
さらに、設定部12は、例えば、作動液の温度が、第1所定温度未満である場合又は第2所定温度以上である場合(第1所定温度<第2所定温度)、第2電流勾配を小さくしてもよい。設定部12には、複数の第2電流勾配の値、例えば通常勾配と低温時勾配及び/又は高温時勾配(特定勾配)とが記憶され、作動液の温度に応じて勾配値を選択してもよい。第3実施形態の開弁制御は、ノーマルクローズ型の電磁弁にも、ノーマルオープン型の電磁弁にも適用できる。
【0046】
また、第3実施形態において、設定部12は、液圧回路6に充填される作動液の温度に応じて第1所定量及び第2電流勾配のうち少なくとも一方を小さくするように構成されてもよい。例えば、作動液の温度により、設定部12が第2電流勾配を小さくする場合、設定部12が第2電流勾配を小さくする可能性が高い場合、又は作動液の粘性が極度に高い場合などに、設定部12が第1所定量を小さくすることで、応答性を改善することができる。
【0047】
<その他>
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、設定部12は、応答性維持の観点から、第2電流勾配を小さくするとともに、第1所定量も小さくしてもよい。つまり、設定部12は、差圧の目標変化勾配が大きいほど、第1所定量を小さくしてもよい。第1所定量の変化は、目標変化勾配の変化に対して、段階的でも、リニアでも、二次関数的でもよい。これにより、応答性の劣化はさらに抑制される。
【0048】
また、設定部12は、実際の第1差圧又は第2差圧が大きいほど、第1所定量及び第2電流勾配の少なくとも一方を小さくするように構成されてもよい。これらの変化の関係は、上記同様、段階的でも、リニアでも、二次関数的でもよい。例えば、設定部12は、開弁制御時の第1差圧又は第2差圧が所定差圧以上である場合、第2電流勾配を小さくする。実際の差圧が大きいほど、プランジャを開弁側に押す流体圧が大きくなり、自励振動が発生しやすい。しかし、この構成によれば、より状況に応じた開弁制御が可能となる。また、第1差圧又は第2差圧が大きいほど、第1所定量を小さくすることでも応答性の改善が可能となる。
【0049】
また、第1~第3実施形態において、制御部11は、電磁弁開弁後は当該開状態を維持するために、切替電流値に対して、ノーマルクローズ型の場合、第2所定量だけ大きい値(開弁保持電流値)、ノーマルオープン型の場合、第2所定量だけ小さい値(開弁保持電流値)の制御電流を電磁弁に印加する。ここで、設定部12は、開弁制御において制御電流の電流勾配が第2電流勾配である際に、第1差圧又は第2差圧が所定値未満となった場合、制御電流の電流勾配を第2電流勾配よりも大きくするように構成されてもよい。つまり、開弁により対象差圧が小さくなった場合、制御部11は、制御電流を第2電流勾配より大きい電流勾配で変化させ、すばやく開弁保持電流値に到達させてもよい。減圧制御により、第1差圧又は第2差圧が小さくなって所定値未満となると、自励振動発生の可能性がほぼなくなるため、電流勾配を大きくし、例えば元の勾配(第1電流勾配)に戻しても問題ない。ただし、第2電流勾配のままでもよく、特に設定部12が第2電流勾配を小さくすることが想定される特定の状況では、開弁保持電流値まで電流勾配を変えなくても何ら問題ない。また、設定部12は、切替電流値をまたいでから所定量変化したら又は所定時間経過したら、電流勾配を第2電流勾配から変化させるように構成されてもよい。
【0050】
また、第3実施形態の設定部12は、差圧の目標変化勾配が大きいほど第2電流勾配を小さくすることをせず、作動液の温度に応じて第2電流勾配を小さくするように構成されてもよい。また、説明は省略したが、例えばポンプ513、83の吐出ポートに接続された流路など、液圧回路6には、適宜逆止弁が配置されている。
【符号の説明】
【0051】
1,10,100…車両制御装置、11…制御部、12…設定部、13…温度算出部、501~504…減圧弁(ノーマルクローズ電磁弁)、6…液圧回路、81…電磁弁(ノーマルオープン電磁弁)。