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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/16 20060101AFI20220329BHJP
   B60N 2/06 20060101ALI20220329BHJP
   B60N 2/90 20180101ALI20220329BHJP
【FI】
B60N2/16
B60N2/06
B60N2/90
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018159095
(22)【出願日】2018-08-28
(65)【公開番号】P2020032789
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2020-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】河野 武志
(72)【発明者】
【氏名】下薗 和幸
(72)【発明者】
【氏名】山内 光博
(72)【発明者】
【氏名】佐野 英紀
【審査官】小原 正信
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-131101(JP,A)
【文献】米国特許第05697674(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/16
B60N 2/06
B60N 2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が着座するシートクッションと、前記シートクッションを通常位置と降車位置との間で変位することが可能となるよう車両に支持する移動機構と、前記シートクッションを前記通常位置に向けて付勢するばねと、を備える車両用シートにおいて、
前記シートクッションが前記通常位置に移動したときに前記シートクッションを前記通常位置で固定する一方、その通常位置での前記シートクッションの固定を解除することが可能なロック機構を備えており、
前記ロック機構は、第1所定量以上の操作量での操作を通じて車両のサイドドアを開くことができるよう同サイドドアの閉じた状態での固定を解除するように構成されている操作部材であり乗員が降車時に操作する操作部材として前記サイドドアに設けられているインサイドハンドルに連結されており、
前記ロック機構は、前記インサイドハンドルが前記第1所定量よりも大きい第2所定量以上の操作量で操作されることに基づき前記通常位置での前記シートクッションの固定を解除するよう動作するものであり、
前記降車位置は、前記通常位置よりも車両の後方かつ下方で前記シートクッションが前傾となる位置であり、
前記移動機構は、前記シートクッションの前記通常位置から前記降車位置への移動を同シートクッションに着座した乗員の重量に基づく力によって行う一方、前記降車位置から前記通常位置への移動を前記シートクッションに前記乗員が着座していない状態のもとでの前記ばねの付勢力によって行うものであることを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
前記移動機構は、前記シートクッションが前記通常位置にあるときには同シートクッションに着座した乗員の重量に基づく力を前記シートクッションに対し前記通常位置に向かう方向に作用させる一方、前記シートクッションが前記通常位置から転換点を越えて後方に移動した状態では同シートクッションに着座した乗員の重量に基づく力を前記シートクッションに対し前記降車位置に向かう方向に作用させるものである請求項に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記移動機構は、車両に取り付けられる下フレーム、前記シートクッションに取り付けられる上フレーム、及び、それら上フレームと下フレームとを連結する前リンク及び後リンクを備えており、
前記前リンクは、下端部が車幅方向に延びる支軸によって前記下フレームに対し回転可能に支持されている一方、上端部が車幅方向に延びる支軸によって前記上フレームに対し回転可能に支持されており、前記シートクッションが前記通常位置にあるときには直立した状態となるものであり、
前記後リンクは、前記前リンクよりも長く形成されていて同前リンクよりも車両の後ろ側に位置しており、下端部が車幅方向に延びる支軸によって前記下フレームに対し回転可能に支持されている一方、上端部が車幅方向に延びる支軸によって前記上フレームに対し回転可能に支持されており、前記シートクッションが前記通常位置にあるときには前傾した状態となるものである請求項に記載の車両用シート。
【請求項4】
乗員が着座するシートクッションと、前記シートクッションを通常位置と降車位置との間で変位することが可能となるよう車両に支持する移動機構と、前記シートクッションを前記通常位置に向けて付勢するばねと、を備える車両用シートにおいて、
前記シートクッションが前記通常位置に移動したときに前記シートクッションを前記通常位置で固定する一方、その通常位置での前記シートクッションの固定を解除することが可能なロック機構を備えており、
前記降車位置は、前記通常位置よりも車両の後方かつ下方で前記シートクッションが前傾となる位置であり、
前記移動機構は、前記シートクッションの前記通常位置から前記降車位置への移動を同シートクッションに着座した乗員の重量に基づく力によって行う一方、前記降車位置から前記通常位置への移動を前記シートクッションに前記乗員が着座していない状態のもとでの前記ばねの付勢力によって行うものであり、
前記移動機構は、前記シートクッションが前記通常位置にあるときには同シートクッションに着座した乗員の重量に基づく力を前記シートクッションに対し前記通常位置に向かう方向に作用させる一方、前記シートクッションが前記通常位置から転換点を越えて後方に移動した状態では同シートクッションに着座した乗員の重量に基づく力を前記シートクッションに対し前記降車位置に向かう方向に作用させるものであり、
前記移動機構は、車両に取り付けられる下フレーム、前記シートクッションに取り付けられる上フレーム、及び、それら上フレームと下フレームとを連結する前リンク及び後リンクを備えており、
前記前リンクは、下端部が車幅方向に延びる支軸によって前記下フレームに対し回転可能に支持されている一方、上端部が車幅方向に延びる支軸によって前記上フレームに対し回転可能に支持されており、前記シートクッションが前記通常位置にあるときには直立した状態となるものであり、
前記後リンクは、前記前リンクよりも長く形成されていて同前リンクよりも車両の後ろ側に位置しており、下端部が車幅方向に延びる支軸によって前記下フレームに対し回転可能に支持されている一方、上端部が車幅方向に延びる支軸によって前記上フレームに対し回転可能に支持されており、前記シートクッションが前記通常位置にあるときには前傾した状態となるものであることを特徴とする車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には乗員が着座するシートクッション及び乗員の上半身を支持するシートバックを備えた車両用シートが搭載されるが、車種によっては上記シートクッションが路面から離れた高い位置に取り付けられることがある。この場合、乗員がサイドドアを開いて降車しようとするとき、路面に対し足が届きにくくなり、いわゆる足つき性が悪化することは否めない。
【0003】
このため、特許文献1の車両用シートでは、シートクッションを通常位置と降車位置との間で変位可能となるようにしている。詳しくは、降車位置にあるときのシートクッションの前端部及び車幅方向外側の側端部を、通常位置にあるときと比較して、より低くなるようにする。更に、シートクッションを通常位置に向けて付勢するばねを設けるとともに、シートクッションの前端部及び側端部をワイヤによりパーキングレバーと連結するようにしている。
【0004】
そして、パーキングレバーをパーキング位置に操作したときには、その際の操作力によって上記ばねの付勢力に抗してシートクッションが通常位置から降車位置に移動する。このようにシートクッションが降車位置に移動すると、シートクッションの前端部及び側端部が通常位置よりも低い位置まで下がる。この場合、シートに着座した乗員がサイドドアを開けて降車しようとするとき、シートクッションの前端部及び側端部が通常位置よりも低い位置まで下がる分、乗員の足が路面に届きやすくなって足つき性が改善される。また、パーキングレバーをパーキング位置に操作した後に解除位置に戻すと、上記ばねの付勢力によってシートクッションが降車位置から通常位置に戻る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-58474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の車両用シートによれば、シートに着座した乗員が降車しようとするときに路面に対し足が届きやすくはなるものの、シートクッションが通常位置にあるときと降車位置にあるときとでは、シートクッションの前端部及び側端部が低くなるか否かの違いしかないため、乗員の足もとのスペースはそれほど大きくは変わらない。このため、乗員が降車のために路面に向けて足を伸ばそうとするとき、足が上記スペースの周辺にある部品等に接触して降車の妨げになるおそれがある。従って、シートクッションに着座した乗員が降車しようとする際、その降車をより行いやすくする点で更なる改善の余地がある。
【0007】
本発明の目的は、乗員が降車しやすい車両用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する車両用シートは、乗員が着座するシートクッションと、シートクッションを通常位置と降車位置との間で変位することが可能となるよう車両に支持する移動機構と、シートクッションを通常位置に向けて付勢するばねと、を備える。この車両用シートは、シートクッションが通常位置に移動したときにシートクッションを同通常位置で固定する一方、その通常位置でのシートクッションの固定を解除することが可能なロック機構を備える。更に、上記降車位置は、通常位置よりも車両の後方かつ下方でシートクッションが前傾となる位置とされる。また、上記移動機構は、シートクッションの通常位置から降車位置への移動を同シートクッションに着座した乗員の重量に基づく力によって行う一方、降車位置から通常位置への移動をシートクッションに乗員が着座していない状態のもとでの上記ばねの付勢力によって行うものとされる。
【0009】
上記構成によれば、ロック機構によるシートクッションの通常位置での固定を解除すると、同シートクッションを降車位置に移動させることが可能となる。そして、シートクッションを降車位置に移動させると、同シートクッションが通常位置よりも車両の後方かつ下方に変位するとともに、同シートクッションが通常位置にあるときと比較して前傾となる。シートクッションが上述したように後方に変位することにより、同シートクッションに着座した乗員の足もとのスペースが大きくなるため、乗員が降車のために路面に向けて足を伸ばそうとするとき、足が上記スペースの周辺にある部品等に接触して降車の妨げになることはない。更に、シートクッションが上述したように下方に変位するとともに前傾となることにより、降車しようとする上記乗員の足が路面に届きやすくなる。
【0010】
上記車両用シートにおいて、ロック機構は、乗員が降車時に操作する操作部材に連結されており、その操作部材が操作されることに基づき通常位置でのシートクッションの固定を解除するよう動作するものとすることが考えられる。
【0011】
この構成によれば、乗員が降車しようとして操作部材を操作したとき、それに伴いロック機構による通常位置でのシートクッションの固定が解除されてシートクッションを通常位置から降車位置に移動させることが可能となる。このように降車のための操作部材の操作と、ロック機構による固定の解除を行うための操作とが関連付けられているため、ロック機構による通常位置でのシートクッションの固定を解除することに起因して、乗員が降車する際の動作にとどこおりが生じることを抑制できる。その結果、乗員が円滑に降車できるようになる。
【0012】
なお、上記ロック機構は、上記操作部材として車両のサイドドアに設けられているインサイドハンドルに連結されているものとすることが考えられる。
この構成によれば、乗員が降車しようとする際には車両のサイドドアを開くためにインサイドハンドルを操作する。そうしたインサイドハンドルの操作をしたとき、同操作に伴いロック機構による通常位置でのシートクッションの固定が解除されてシートクッションを通常位置から降車位置に移動させることが可能となる。このように降車のためのインサイドハンドルの操作と、ロック機構による固定の解除を行うためのインサイドハンドルの操作とが関連付けられているため、ロック機構による通常位置でのシートクッションの固定を解除することに起因して、乗員が降車する際の動作にとどこおりが生じることを抑制できる。その結果、乗員が円滑に降車できるようになる。
【0013】
上記車両用シートにおいて、上記移動機構は、シートクッションが通常位置にあるときには同シートクッションに着座した乗員の重量に基づく力をシートクッションに対し通常位置に向かう方向に作用させる。一方、上記移動機構は、シートクッションが通常位置から転換点を越えて後方に移動した状態では、同シートクッションに着座した乗員の重量に基づく力をシートクッションに対し降車位置に向かう方向に作用させる。
【0014】
上記構成によれば、ロック機構による通常位置でのシートクッションの固定が解除されただけでは、乗員の重量に基づくシートクッションの降車位置への移動が始まらず、乗員が自ら車両内のフロアを蹴るなどしてシートクッションを後方に転換点を越えて移動させたとき、乗員の重量に基づくシートクッションの降車位置への移動が始まる。従って、シートクッションに着座している乗員は、ロック機構による通常位置でのシートクッションの固定を解除した後、自分の好むタイミングで乗員の重量によるシートクッションの降車位置への移動を開始することができる。
【0015】
上記車両用シートにおいて、上記移動機構は、車両に取り付けられる下フレーム、シートクッションに取り付けられる上フレーム、及び、それら上フレームと下フレームとを連結する前リンク及び後リンクを備えるものとすることが考えられる。そして、上記前リンクは、下端部が車幅方向に延びる支軸によって下フレームに対し回転可能に支持されている一方、上端部が車幅方向に延びる支軸によって上フレームに対し回転可能に支持されており、シートクッションが通常位置にあるときには直立した状態となるものとされる。更に、上記後リンクは、前リンクよりも長く形成されていて同前リンクよりも車両の後ろ側に位置しており、下端部が車幅方向に延びる支軸によって下フレームに対し回転可能に支持されている一方、上端部が車幅方向に延びる支軸によって上フレームに対し回転可能に支持されており、シートクッションが通常位置にあるときには前傾した状態となるものとされる。
【0016】
上記構成によれば、ロック機構による通常位置でのシートクッションの固定が解除された状態のもと、シートクッションに着座した乗員の重量による降車位置への同シートクッションの移動を開始するため、乗員が車両内のフロアを蹴るなどしてシートクッションを自ら後方に移動させる。この場合、シートクッションの後方への移動によって後リンクが直立したときの同シートクッションの位置が上記転換点となる。従って、その転換点を越えてシートクッションを後方に移動させると、同シートクッションに着座した乗員の重量に基づく力が降車位置に向かう方向に作用するようになるため、上記乗員の重量による降車位置へのシートクッションの移動を開始することができるようになる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、乗員が降車しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】シートクッションが通常位置にある状態の車両用シートを概略的に示す側面図。
図2】シートクッションが転換点に位置している状態の車両用シートを概略的に示す側面図。
図3】シートクッションが降車位置にある状態の車両用シートを概略的に示す側面図。
図4】乗員によるインサイドハンドルの操作態様を示す斜視図。
図5】シートクッションが通常位置にある状態のもとでの乗員の降車態様を示す斜視図。
図6】シートクッションが降車位置にある状態のもとでの乗員の降車態様を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、車両用シートの一実施形態について、図1図6を参照して説明する。
図1図3に示す車両用シート1は、自動車等の車両4に搭載されるものであって、乗員が着座するシートクッション2及び乗員の上半身を支持するシートバック3を備えている。車両用シート1には、シートクッション2を通常位置と降車位置との間で変位することが可能となるよう車両4に支持する移動機構5も備えている。
【0020】
ちなみに、図1はシートクッション2が通常位置に変位した状態を示しており、図3はシートクッション2が降車位置に変位した状態を示している。シートクッション2の通常位置(図1)は、車両用シート1に着座した乗員を運転中の車両において適切な姿勢とすることが可能な位置であり、車種によってはシートクッション2が路面から離れた高い位置となる場合がある。この場合、車両用シート1に着座した乗員が車両4のサイドドアを開いて降車しようとするとき、路面に対し足が届きにくくなり、いわゆる足つき性が悪化する。
【0021】
また、シートクッション2の降車位置(図3)は、通常位置(図1)よりも車両4の後方(図1~3の右方)かつ下方で、同シートクッション2が前傾となる位置である。従って、シートクッション2の通常位置が路面から離れた高い位置であったとしても、同シートクッション2を通常位置から降車位置に変位させれば、車両用シート1に着座した乗員が降車しやすくなる。なお、図2は、シートクッション2が通常位置と降車位置との間にある転換点に位置した状態を示している。そして、シートクッション2が通常位置から降車位置に移動する際には、図1図2図3の順で示すようにシートクッション2が変位するようになる。
【0022】
車両用シート1には、シートクッション2を通常位置(図1)に向けて付勢するばね6,7が設けられている。そして、車両用シート1の移動機構5は、通常位置から降車位置への移動をシートクッション2に着座した乗員の重量に基づく力によって行う一方、降車位置から通常位置への移動をシートクッション2に上記乗員が着座していない状態のもとでの上記ばね6,7の付勢力によって行うものとされている。
【0023】
詳しくは、移動機構5は、シートクッション2が通常位置にあるとき、及び、通常位置から転換点に至るまでの任意の位置にあるとき、そのシートクッション2に着座した乗員の重量に基づく力を同シートクッション2に対し通常位置に向かう方向に作用させるよう構成されている。また、移動機構5は、シートクッション2が通常位置から転換点を越えて後方に移動した状態にあるときには、そのシートクッション2に着座した乗員の重量に基づく力を同シートクッションに対し降車位置に向かう方向に作用させるようにも構成されている。
【0024】
車両用シート1には、シートクッション2が通常位置に移動したときに同シートクッション2を通常位置で固定する一方、その通常位置でのシートクッション2の固定を解除することが可能なロック機構8が設けられている。図1に示すように、ロック機構8は、車両用シート1に着座した乗員が降車時に操作する操作部材、例えば車両4のサイドドアに設けられているインサイドハンドル9にワイヤ10を介して連結されており、そのインサイドハンドル9が操作されることに基づきシートクッション2の通常位置での固定を解除するよう動作するものとされている。
【0025】
ちなみに、車両4のサイドドアは、閉じた状態で固定されているとき、インサイドハンドル9に対する乗員による所定量X1以上の操作量での操作を通じて、上記固定が解除されて開くことが可能となる。更に、ロック機構8は、乗員がインサイドハンドル9を上記所定量X1よりも大きい所定量X2以上の操作量で操作したとき、その操作に伴いロック機構8によるシートクッション2の通常位置での固定を解除するよう構成されている。
【0026】
次に、移動機構5について詳しく説明する。
図1に示すように、移動機構5は、車両4に取り付けられる下フレーム11、シートクッション2に取り付けられる上フレーム12,13、上フレーム12と下フレーム11とを連結する前リンク14、及び、上フレーム13と下フレーム11とを連結する後リンク15を備えている。
【0027】
前リンク14においては、下端部が車幅方向(図1の紙面と直交する方向)に延びる支軸16によって下フレーム11に対し回転可能に支持されている一方、上端部が車幅方向に延びる支軸17によって上フレーム12に対し回転可能に支持されている。また、前リンク14は、シートクッション2が通常位置にあるとき(図1)、直立した状態となるようにされている。
【0028】
一方、後リンク15は、前リンク14よりも長く形成されていて、且つ、同前リンク14よりも車両4の後ろ側(図1の右側)に位置している。この後リンク15においては、下端部が車幅方向に延びる支軸18によって下フレーム11に対し回転可能に支持されている一方、上端部が車幅方向に延びる支軸19によって上フレーム13に対し回転可能に支持されている。更に、後リンク15は、シートクッション2が通常位置にあるとき、前傾した状態となるようにされている。
【0029】
この場合、図1の矢印Y1で示すシートクッション2の通常位置からの後方への移動によって後リンク15が直立した状態になったとき、すなわち図2に示す状態となったときのシートクッション2の位置が上記転換点となる。
【0030】
そして、シートクッション2が通常位置にあるとき、及び、通常位置から転換点に至るまでの任意の位置にあるときには、シートクッション2に着座した乗員の重量に基づく力、及び、ばね6,7の付勢力により、同シートクッション2が通常位置に向けて付勢される。また、シートクッション2が転換点よりも後方にあるときには、シートクッション2に着座した乗員の重量に基づく力により、ばね6,7の付勢力に抗して、同シートクッション2が降車位置に向けて移動される。
【0031】
次に、車両用シート1の動作について説明する。
運転中の車両においては、車両用シート1のシートクッション2がロック機構8によって通常位置(図1)で固定された状態となっている。そして、車両用シート1に着座している乗員は、停車後に降車しようとする際、車両4のサイドドアを開くために図4に示すようにインサイドハンドル9を操作する。そして、乗員がインサイドハンドル9を所定量X1以上の操作量で操作したとき、閉じた状態で固定されているサイドドアを開くことができるよう固定解除される。この状態のもと、乗員がサイドドアを押し開いて降車可能な状態とされるようになる。
【0032】
更に、乗員がインサイドハンドル9を上記所定量X1よりも大きい所定量X2以上の操作量で操作すると、その操作に伴いロック機構8による通常位置(図1)でのシートクッション2の固定が解除されて同シートクッション2を通常位置から降車位置に移動させることが可能となる。このときには、シートクッション2に着座した乗員の重量に基づく力、及び、ばね6,7の付勢力により、同シートクッション2が通常位置に向けて付勢される。このため、上述したようにロック機構8による通常位置でのシートクッション2の固定が解除されただけでは、乗員の重量に基づくシートクッション2の降車位置への移動が始まることはない。
【0033】
ロック機構8による通常位置でのシートクッション2の固定が解除された後、乗員が自ら車両4内のフロアを蹴るなどしてシートクッション2を後方に転換点(図2)を越えて移動させると、シートクッション2に着座した乗員の重量に基づく力により、ばね6,7の付勢力に抗して、同シートクッション2が降車位置(図3)に向けて移動し始める。詳しくは、図2に示すように、移動機構5の後リンク15が直立したときのシートクッション2の位置が上記転換点となり、その転換点を越えてシートクッション2を後方に移動させると、乗員の重量に基づく力が降車位置に向かう方向に作用するようになるため、上記乗員の重量による降車位置へのシートクッション2の移動が開始される。
【0034】
そして、シートクッション2を降車位置(図3)に移動させると、同シートクッション2が通常位置(図1)よりも車両4の後方かつ下方に変位した状態になるとともに、同シートクッション2が通常位置にあるときと比較して図3に矢印Y2で示すように前傾した状態となる。その結果、シートクッション2に着座した乗員のヒップポイント(股関節の位置)が、上記通常位置では図1にP1で示すように位置する一方、上記降車位置では図3にP2で示すようにP1よりも車両の後方かつ下方に位置するようになる。
【0035】
そして、降車位置に移動したシートクッション2が上述したように後方に変位した状態となることにより、同シートクッション2に着座した乗員の足もとのスペースが大きくなるため、乗員が降車のために路面に向けて足を伸ばそうとするとき、足が上記スペースの周辺にある部品等に接触して降車の妨げになることはない。更に、降車位置に移動したシートクッション2が上述したように下方に変位した状態かつ前傾した状態となることにより、降車しようとする上記乗員の足が路面に届きやすくなる。
【0036】
図5及び図6はそれぞれ、シートクッション2が通常位置にあるときに乗員が降車しようとして足を伸ばした状態、及び、シートクッション2が降車位置にあるときに乗員が降車しようとして足を伸ばした状態を示している。
【0037】
図5から分かるように、シートクッション2が通常位置にある状態のもとでは、乗員が足を路面に向けて伸ばしたとき、股の裏側がシートクッション2と干渉しやすくなるため、乗員の足が路面に届きにくくなって足つき性が悪化する。その結果、乗員のつま先のみが路面に届き、踵が路面から長さLだけ浮いた状態となる。一方、図6に示すように、シートクッション2が降車位置にある状態のもとでは、乗員が足を路面に向けて伸ばしたとき、股の裏側がシートクッション2と干渉しにくくなるため、乗員の足が路面に届きやすくなって足つき性が改善する。その結果、乗員のつま先から踵までが全体的に路面に届くようになる。
【0038】
なお、乗員の降車後、シートクッション2に対し乗員の重量が作用しなくなると、図3に示すように降車位置にあったシートクッション2が、ばね6,7の付勢力によって図2に示すように転換点まで移動し、更に図1に示すように通常位置まで移動するようになる。そして、シートクッション2が通常位置まで移動すると、ロック機構8によりシートクッション2が通常位置に固定される。
【0039】
以上詳述した本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)シートクッション2が降車位置にあるときには、同シートクッション2に着座した乗員の足もとのスペースが大きくなるため、乗員が降車のために路面に向けて足を伸ばそうとするとき、足が上記スペースの周辺にある部品等に接触して降車の妨げになることはない。更に、シートクッション2が降車位置にあるときには、通常位置にあるときよりも同シートクッション2が下方に変位するとともに前傾となるため、降車しようとする上記乗員の足が路面に届きやすくなる。従って、シートクッション2を降車位置に移動させることにより、乗員が降車しやすくなる。
【0040】
(2)車両用シート1に着座している乗員がインサイドハンドル9を所定量X1以上の操作量で操作したとき、サイドドアを開くことが可能となる。更に、乗員がインサイドハンドル9を上記所定量X1よりも大きい所定量X2以上の操作量で操作したとき、ロック機構8による通常位置でのシートクッション2の固定が解除されて同シートクッション2を降車位置に移動させることが可能となる。このように降車のためのインサイドハンドル9の操作と、ロック機構8による固定の解除を行うためのインサイドハンドル9の操作とが関連付けられているため、ロック機構8による通常位置でのシートクッション2の固定を解除することに起因して、乗員が降車する際の動作にとどこおりが生じることを抑制できる。その結果、乗員が円滑に降車できるようになる。
【0041】
(3)ロック機構8による通常位置でのシートクッション2の固定が解除されただけでは、乗員の重量に基づくシートクッション2の降車位置への移動が始まることはない。乗員が自ら車両4内のフロアを蹴るなどしてシートクッション2を通常位置(図1)から後方に転換点(図2)を越えて移動させたとき、乗員の重量に基づくシートクッション2の降車位置(図3)への移動が始まる。従って、シートクッション2に着座している乗員は、ロック機構8による通常位置でのシートクッション2の固定を解除した後、自分の好むタイミングで乗員の重量によるシートクッション2の降車位置への移動を開始することができる。
【0042】
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
・シートクッション2の転換点を適宜変更してもよい。例えば、転換点を通常位置寄り若しくは降車位置寄りに変更したり、通常位置と一致させたりしてもよい。
【0043】
・操作部材としてインサイドハンドル9を例示したが、降車時に乗員によって操作されるパーキングブレーキ用のレバーやペダルを操作部材としてもよい。
また、操作部材としては、必ずしも降車の際に乗員によって操作されるインサイドハンドル9等である必要はなく、ロック機構8を操作するために独立して設けられたもの(ペダル等)であってもよい。
【0044】
なお、上記実施形態のように、降車の際に乗員によって操作されるインサイドハンドル9等を操作部材とすれば、部品点数を削減できるという効果が得られる。
【符号の説明】
【0045】
1…車両用シート、2…シートクッション、3…シートバック、4…車両、5…移動機構、6…ばね、7…ばね、8…ロック機構、9…インサイドハンドル、10…ワイヤ、11…下フレーム、12…上フレーム、13…上フレーム、14…前リンク、15…後リンク、16…支軸、17…支軸、18…支軸、19…支軸。
図1
図2
図3
図4
図5
図6