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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】多結晶シリコンロッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/035 20060101AFI20220329BHJP
   C01B 33/02 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
C01B33/035
C01B33/02 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018174710
(22)【出願日】2018-09-19
(65)【公開番号】P2020045257
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【弁理士】
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】大野 成人
(72)【発明者】
【氏名】花上 康宏
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-195439(JP,A)
【文献】特開2011-063471(JP,A)
【文献】特表2017-503747(JP,A)
【文献】特開平06-196490(JP,A)
【文献】特開平05-206146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00
C30B 29/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーメンス法により、クロロシランガスを原料ガスとして、通電加熱した二本のシリコン種棒とこれらのシリコン種棒間に接続されたシリコン製の連結部材の各表面に、多結晶シリコンを析出させることにより、多結晶シリコンロッドを製造する方法において、
前記二本のシリコン種棒の組立て中及び/又は前記多結晶シリコンの析出中に生じる金属不純物を捕集可能なトラップが前記連結部材の本体又は表面部に形成され、前記連結部材表面に析出される多結晶シリコンを前記二本のシリコン種棒表面に析出される多結晶シリコンロッドから除去することにより、前記トラップを除去することを特徴とする多結晶シリコンロッドの製造方法。
【請求項2】
前記連結部材の表面部にシリコン酸化膜が設けられて前記トラップが形成された請求項1記載の多結晶シリコンロッドの製造方法。
【請求項3】
前記連結部材の本体がボロンドープされて前記トラップが形成された請求項1記載の多結晶シリコンロッドの製造方法。
【請求項4】
シーメンス法により、クロロシランガスを原料ガスとして、通電加熱した二本のシリコン種棒とこれらのシリコン種棒間に接続されたシリコン製の連結部材の各表面に、多結晶シリコンを析出させることにより、多結晶シリコンロッドを製造する方法において、
下部が金属電極に接続され上部が前記二本のシリコン種棒を支持するカーボン部材がその長さを80mm~180mmの範囲に形成され、
前記二本のシリコン種棒の組立て中及び/又は前記多結晶シリコンの析出中に生じる金属不純物を捕集可能なトラップが前記カーボン部材の上部表面とシリコン種棒の下部表面にそれぞれ析出される多結晶シリコンロッドに形成され、かつ前記トラップの長さが、前記析出される多結晶シリコンロッドの電極側端を起点として、この電極側端の起点から上方に25mm~60mmの範囲であって、前記25mm~60mmの範囲内のいずれかの位置において前記多結晶シリコンロッドの下端を切断することを特徴とする多結晶シリコンロッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(以下、単にCZ法という。)により単結晶シリコンを育成する際の原料としての金属不純物の含有量が少ない高純度の多結晶シリコンロッドを高い歩留まりで製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体技術の向上に伴い、単結晶シリコンの原料となる多結晶シリコンへの高純度化の要求は強くなっている。従来、こうした要求に応えるために、金属不純物の含有量が少ないシーメンス法による多結晶シリコン塊の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この製造方法では、一方端が第1の電極に接続され他方端が第2の電極に接続された芯線上にシリコンを析出させて多結晶シリコンロッドを成長する気相成長工程と、前記多結晶シリコンロッドを反応炉外に取り出す刈取工程と、前記多結晶シリコンロッドを多結晶シリコン塊とする破砕工程とを備え、前記破砕工程に先立ち、前記反応炉外に取り出した多結晶シリコンロッドの電極側端から少なくとも70mm、好ましくは155mmまでの多結晶シリコン部分を除去する足切工程を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-63471号公報(請求項7、段落[0030])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の製造方法では、必要と考える多結晶シリコンの純度を得るためには70mm以上を除去すればよく、より高純度化を目指すには155mm以上を除去すればよいとしている。しかし、特許文献1には、電極側端において金属不純物が高くなる根拠は示されておらず、この数値も実験的に求めた金属不純物濃度の一例を基に定めたもので、普遍的なものではない。また多結晶シリコンロッドを、その電極側端から少なくとも70mm以上の部分を除去する必要があった。
【0005】
本発明の目的は、金属不純物の含有量が少ない高純度の多結晶シリコンロッドを高い歩留まりで製造する多結晶シリコンロッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、シーメンス法による高純度の多結晶シリコンロッド(以下、単にロッドということもある。)中の金属不純物の分布を注意深く調査した結果、Fe,Niなどの金属不純物は、シリコン種棒(以下、単に種棒ということもある。)表面から外方拡散し、ロッドの低温部分やロッドの欠陥部分に濃縮される傾向があることを突き止めた。この傾向は、反応炉を開放して行う種棒の組立作業中に反応炉内に金属不純物が持ち込まれることと、反応中の1000℃を超えるロッド温度においては、Fe,Niなどの金属不純物は拡散速度が十分に速く、ロッド内全域に拡散し得ることに関係すると考えられる。更に、拡散速度が遅くなるロッドの低温部分は金属不純物が滞留して濃度が比較的高くなるとともに、ある種の欠陥は金属不純物のトラップとして働くものとして説明される。そこで、本発明者らは、「連結部材」又はロッドにあえて金属不純物のトラップを形成して金属不純物を捕集した後、このトラップ部をロッドから切り離すことを検討した。ここで、「連結部材」とは、二本のシリコン種棒が接続されるシリコン製部材をいう。
【0007】
シリコンウエーハの高品質化技術としてシリコンデバイスの特性を悪化させる金属不純物を、デバイス性能に影響しない部分に捕獲(トラップ)するゲッタリングの技術は広く知られている。しかしながら、多結晶シリコンについては、ゲッタリングによる高品質化技術はこれまで見当たらない。これは、多結晶シリコンの場合、単結晶シリコンには無い結晶粒界がゲッタリングサイトとしても働くために拡散係数といった物性値が当てはまらず、ゲッタリング現象を正確に把握できないことや、ロッドがバルクとして使う材料であるため、ゲッタリングした部分をロッドから切り離す手段に課題があること、更には、金属不純物濃度がシリコンウエーハより高いために金属不純物同士の作用なども金属不純物の挙動を複雑にしていることなどがその理由として挙げられる。
【0008】
ところが、上記のように、ロッド内の金属不純物分布を調査した結果として、ロッド内でも不純物金属元素の拡散が生じていると考えられることから、より積極的に金属不純物のゲッタリングを検討した結果、本発明に至った。なお、シーメンス法においては、ロッドの形成段階でロッドを通電加熱するため、熱がロッド内部から表面方向に向かって流れており、ロッド表面よりも芯側(種棒側)の方が200℃以上高温になる場合もある。そのため、意図せずとも、低温部となるロッド表面付近は、Fe,Niなどの金属不純物がロッド内部よりも高濃度になる傾向があるが、ロッド表面付近に汚染が生じやすいことは公知であるため、本発明では、ロッド表面については、記載しない。
【0009】
本発明者らは、金属不純物をロッドから除去するために金属不純物を捕獲するトラップの位置として、多結晶シリコンロッドから除去しやすい連結部材部分又は多結晶シリコンロッドの下端部とすることが有効であることを見い出した。
【0010】
また、本発明者らは、溶融して単結晶シリコンの原料に用いられる多結晶シリコン製品として影響が無く、かつ通常のシリコンの結晶粒界より強固なゲッタリングサイトとして、ロッドの低温部や、連結部材表面部の特定の厚さのシリコン酸化膜、又は連結部材本体に特定の濃度範囲のボロンをドープすることが有効であることを見い出した。
【0011】
本発明の第1の観点は、シーメンス法により、クロロシランガスを原料ガスとして、通電加熱した二本のシリコン種棒とこれらのシリコン種棒間に接続されたシリコン製の連結部材の各表面に、多結晶シリコンを析出させることにより、多結晶シリコンロッドを製造する方法において、前記二本のシリコン種棒の組立て中及び/又は前記多結晶シリコンの析出中に生じる金属不純物を捕集可能なトラップが前記連結部材の本体又は表面部に形成され、前記連結部材表面に析出される多結晶シリコンを前記二本のシリコン種棒表面に析出される多結晶シリコンロッドから除去することにより、前記トラップを除去することを特徴とする多結晶シリコンロッドの製造方法である。
【0012】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記連結部材の表面部にシリコン酸化膜が設けられて前記トラップが形成されたことを特徴とする。
【0013】
本発明の第3の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記連結部材の本体がボロンドープされて前記トラップが形成されたことを特徴とする。
【0014】
本発明の第4の観点は、シーメンス法により、クロロシランガスを原料ガスとして、通電加熱した二本のシリコン種棒とこれらのシリコン種棒間に接続されたシリコン製の連結部材の各表面に、多結晶シリコンを析出させることにより、多結晶シリコンを製造する方法において、下部が金属電極に接続され上部が前記二本のシリコン種棒を支持するカーボン部材がその長さを80mm~180mmの範囲に形成され、前記二本のシリコン種棒の組立て中及び/又は前記多結晶シリコンの析出中に生じる金属不純物を捕集可能なトラップが前記カーボン部材の上部表面であるシリコン種棒の下部表面に析出される多結晶シリコンロッドに形成され、かつ前記トラップの長さが前記析出される多結晶シリコンロッドの電極側端を起点として、この電極側端の起点から上方に25mm~60mmの範囲であって、前記25mm~60mmの範囲内のいずれかの位置において前記多結晶シリコンロッドの下端を切断することを特徴とする多結晶シリコンロッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の観点の方法では、金属不純物を捕集可能なトラップがシリコン製の連結部材の本体又は表面部に形成される。この連結部材は、反応炉内を流動する反応ガスと接触し易い位置に存在するため、反応炉内に持ち込まれる金属不純物を効率的に捕集することができる。また析出反応が終了した後、多結晶シリコンロッドを取り出す際に、連結部材表面に析出された多結晶シリコンは元来、シリコン種棒上に析出された多結晶シリコンロッドと切り離されるため、特別なトラップの除去作業を必要としない。また多結晶シリコンロッドから切り離された、連結部材表面に析出された多結晶シリコンは、一部の単結晶シリコン用のシリコン原料としては制約はあるが、通常の単結晶シリコン用の原料としては十分に活用される利点がある。
【0016】
本発明の第2の観点の方法では、シリコン製の連結部材の表面部にシリコン酸化膜が設けられる。このシリコン酸化膜は、溶融して単結晶シリコンの原料に用いられる多結晶シリコン製品として影響が小さく、かつ通常のシリコンの結晶粒界より強固なゲッタリングサイトとなる利点がある。この連結部材の表面部に設けられたシリコン酸化膜を金属不純物を捕集するトラップとするため、シリコン酸化膜が反応炉内に持ち込まれる金属不純物を容易に捕集することができる。
【0017】
本発明の第3の観点の方法では、シリコン製の連結部材の本体がボロンドープされる。ボロンドープされた連結部材の本体は、通常のシリコンの結晶粒界より強固なゲッタリングサイトとなる利点がある。このボロンドープされた連結部材の本体を金属不純物を捕集するトラップとするため、ドープされたボロンが反応炉内に持ち込まれる金属不純物を容易に捕集することができる。
【0018】
本発明の第4の観点の方法では、水冷している金属電極にカーボン部材を介して接続される二本のシリコン種棒において、種棒を支持するカーボン部材が80mm~180mmの範囲の長さに形成されるため、断熱材としてのカーボン部材が従来の約120mm~250mmより短くなる。この結果、多結晶シリコンの析出中、多結晶シリコンロッドの下端部の冷却がより促進され、その温度勾配が比較的高くなり、その下端部に金属不純物がより一層捕集される。多結晶シリコンロッドの電極側端を起点として、この電極側端の起点から上方の25mm~60mmの長さをもつ部分をトラップとし、このトラップを除去することにより、このトラップである多結晶シリコンロッド下端部の除去量は特許文献1に開示される最短の70mmによる除去量よりも短く、より高い歩留まりで金属不純物の含有量が少ない多結晶シリコンロッドを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施形態に係る多結晶シリコン反応装置の構成を示す概略斜視図である。
図2】(a)は第1の実施形態の連結部材の長手方向に直交する断面図である。(b)は第2の実施形態の連結部材の長手方向に直交する断面図である。
図3】本発明の第3の実施形態に係るシリコン種棒を支持するカーボン部材と金属電極を含む縦断面図である。
図4】本発明の第1~第3の実施形態に係るシリコン種棒と連結部材にそれぞれ析出された多結晶シリコンの状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0021】
<第1の実施形態>
図1に示すように、多結晶シリコンロッドの製造装置は多結晶シリコン反応炉10を有する。この多結晶シリコン反応炉10は、円形に設置された炉底11の上方全域を覆うようにして釣鐘状の形状を有するベルジャ12が設けられ、この炉底11及びベルジャ12によって多結晶シリコン反応炉10の内部は密封される。このように密封された内部には、上端で連結されてほぼΠ字状のシリコン種棒組立体1が複数本立設され、これらのシリコン種棒組立体1の両基端部は炉底11の金属電極13に後述するカーボン部材(図示せず)を介して支持される。多結晶シリコンが析出されるシリコン種棒組立体1は、二本のシリコン種棒20,20とこれらのシリコン種棒間に接続されたシリコン製の連結部材21からなる。
【0022】
また、炉底11には、多結晶シリコン反応炉10内部のシリコン種棒組立体1に向かって、トリクロロシランと水素の混合ガス等からなる原料ガスを供給する導入口となる複数の原料ガス供給口14が設けられる。これら原料ガス供給口14は、複数のシリコン種棒組立体1に対して均一に原料ガスを供給することができるように、適宜間隔を開けて配置される。
【0023】
また、これら原料ガス供給口14は、原料ガス供給管路15に接続され、この原料ガス供給管路15は流量調整弁16を介して原料ガスの供給源17に通じる。従って、原料ガスは、流量調整弁16によりその供給量が調整されながら、原料ガス供給管路15を経て原料ガス供給口14に送出され、多結晶シリコン反応炉10内部に供給される。また、炉底11には原料ガスが反応した後のガスを排出するための複数の排気口18が設けられる。これら排気口18も、反応後のガスを均等に排出することができるよう、適宜間隔を開けて配置され、反応炉10の外部の排ガス処理系19に接続される。
【0024】
第1の実施形態の特徴ある構成は、連結部材21の表面部にシリコン酸化膜21aが設けられ、このシリコン酸化膜21aを金属不純物を捕集可能なトラップとすることにある。この連結部材21は、例えば、通常の製品である多結晶シリコンロッドを所定の形状に切り出した後、切り出された連結部材前駆体の表面にシリコン酸化膜21を形成することにより作られる。具体的には、通常の製品である多結晶シリコンロッドから切り出された連結部材前駆体にサンドブラスト処理をして、前駆体の全表面を粗面化する。次にフッ硝酸水溶液で前駆体の全表面をエッチング洗浄し、純水で酸液を洗浄し、乾燥処理した後、酸化性ガス雰囲気下、約300℃以上の温度で前駆体を熱処理し、図2(a)の拡大図に示すように、表面部全体にシリコン酸化膜21aが形成された連結部材21を得る。熱処理温度は900℃以上1350℃以下が好ましい。
【0025】
シリコン酸化膜21aは平均膜厚が約50nm~200nmであることが好ましい。この膜厚は熱酸化の時間と温度を調整することにより決められる。長時間、又は高温度になるに従い膜厚は大きくなる。シリコン酸化膜21aの平均膜厚が約50nm未満では、金属不純物の捕集能力が低くなる。平均膜厚が200nmを超えると熱膨張係数等の違いによりクラックや割れ等を生じるおそれがある。
【0026】
<第2の実施形態>
第2の実施形態の特徴ある構成は、連結部材21の本体21bがボロンドープされ、この連結部材21の本体21bを金属不純物を捕集可能なトラップとすることにある。この連結部材21は、例えば、CZ法でボロンドープされた単結晶シリコンロッドを製造して、これを所定の形状に切り出すことにより作られる。具体的には、石英るつぼに単結晶シリコンの原料としての多結晶シリコン塊とともに金属ボロン粉末、酸化ボロン粉末、ボロン含有シリコン塊等のボロンドープ剤を入れる。この石英るつぼを加熱して原料を融解してシリコン融液にし、単結晶シリコンの小片を種結晶として、シリコン融液に接触させた後、種結晶を回転させながらゆっくりと引上げることにより、ボロンドープされた単結晶シリコンロッドを得る。得られた単結晶シリコンロッドを所定の形状に切り出して、連結部材21を作製する。図2(b)の拡大図に示すように、連結部材21の本体21bには均一にボロン22がドープされている。
【0027】
多結晶シリコン塊に添加するボロンドープ剤の添加量は、得られる単結晶シリコンロッドのボロンドープ量が約0.5ppma~100ppmaになるように調整される。ボロンドープ剤の添加量を増やして上記ボロンドープ量が100ppmaを超えると、シリコン種棒側への拡散の影響が大きくなる場合がある。またボロンドープ剤の添加量を減らして上記ボロンドープ量が約0.5ppma未満にすると、金属不純物の捕集能力が低くなる。好ましいボロンドープ量は50ppma~100ppmaである。なお、上記ボロンドープ量はICP-MSを用いて測定される。
【0028】
<第3の実施形態>
第3の実施形態の特徴ある構成は、図3に示すように、下部が金属電極13に接続され上部が前記二本のシリコン種棒20、20を支持するカーボン部材23がその長さLを80mm~180mmの範囲に形成され、図4に示すように、カーボン部材23の上部表面とシリコン種棒20の下部表面にそれぞれ析出される多結晶シリコンロッド30のうち、析出される多結晶シリコンロッド30の電極側端部を起点として、この電極側端の起点から上方の25mm~60mmの長さをもつ部分Xを金属不純物を捕集可能なトラップとすることにある。このカーボン部材23はシリコンとの相互拡散が殆ど無く、金属電極13の多結晶シリコンロッド30への汚染を防ぐ役割と、水冷している金属電極13によるシリコン種棒20を通じての多結晶シリコンロッドの過冷却を防ぐ役割がある。
【0029】
上記長さLが80mm未満では多結晶シリコンロッドの下部側が過冷却になり、シリコンロッド下部側でのシリコン析出割合が低下することより、シリコン析出過程での下部側のシリコンロッド径が上部側のロッド径と比べて細くなる傾向となり、シリコン析出時にシリコンロッドが倒壊する傾向が高くなる。また180mmを超えると、多結晶シリコンロッドの冷却効果が低くなり、金属不純物の捕集能力が低下する。またカーボン部材の折損や破損の傾向も高くなる。またトラップの長さが、析出される多結晶シリコンロッド30の電極側端部を起点として、この電極側端の起点から上方の部分Xが25mm未満では、製品となる多結晶シリコンロッドの下端部(部分Xに接する部分)における金属不純物の含有量が高くなる不具合があり、60mmを超えると、多結晶シリコンロッドの製品歩留まりが低下する不具合がある。
【実施例
【0030】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0031】
<実施例1>
図1に示すように、長さ約2m、長さ方向垂直断面が約10mm□のシリコン種棒20を100本、多結晶シリコン反応炉10の炉底11に立設した。二本のシリコン種棒20、20上端に、長さ約250mm、たて約20mm、よこ約10mmの連結部材21を各シリコン種棒上端に接続し、シリコン種棒組立体を配置した。そのうち、4本の連結部材を第1の実施形態の金属不純物捕集用のトラップとした。これらの4本の連結部材の表面部には、図2(a)に示すように、第1の実施形態の方法で、シリコン酸化膜21aを形成した。4本の連結部材の表面部に形成されたシリコン酸化膜21aの平均膜厚は約150nmであった。上記4本の連結部材を実施例1とした。シリコン種棒上端との接触部分の電気的接続を良好にするために、連結部材の両端を再度エッチング洗浄して、連結部材両端のシリコン酸化膜を除去してから二本のシリコン種棒上端に接続した。
【0032】
<実施例2>
上記二本のシリコン種棒に接続した連結部材のうち、実施例1の4本の連結部材の他に、更に4本の連結部材を第2の実施形態の金属不純物捕集用のトラップとした。これらの4本の連結部材は、第2の実施形態の方法で、ボロンドープ量が50ppmaの単結晶シリコンから実施例1と同一サイズに切り出されたものを用いた。上記4本の連結部材を実施例2とした。
【0033】
<比較例1>
上記二本のシリコン種棒に接続した連結部材のうち、実施例1の4本の連結部材及び実施例2の4本の連結部材の他に、シリコン酸化膜を表面部に有さず、かつボロンもドープされていない、即ち金属不純物捕集用のトラップのない4本の連結部材を比較例1とした。
【0034】
図1に示すように、実施例1、2及び比較例1の各連結部材21を含むシリコン種棒組立体1をベルジャ12で密封して、多結晶シリコン反応路10内に、原料ガス供給口14からトリクロロシランと水素の混合ガス等からなる原料ガスを供給し、シリコン種棒20、20及び連結部材21の各表面に直径約120mmの多結晶シリコンを析出させた。シリコン種棒の表面には多結晶シリコンロッド30(図4)が形成された。
【0035】
<比較試験と評価1>
実施例1の4本の連結部材、実施例2の4本の連結部材及び比較例1の4本の連結部材の各表面に析出した多結晶シリコン表面部からそれぞれ4個のサンプル(実施例1-1~1-4、実施例2-1~2-4及び比較例1-1~1-4)、合計12個のサンプルを採取した。また連結部材により接続されたシリコン種棒中央部の各表面に析出した多結晶シリコンロッド表面部からそれぞれ4個のサンプル(実施例1-1~1-4、実施例2-1~2-4及び比較例1-1~1-4)、合計12個のサンプルを採取した。これらのサンプル中に含まれる金属不純物である鉄(Fe)とニッケル(Ni)の各濃度をICP-MSを用いて測定した。具体的には、サンプル毎に鉄(Fe)の濃度を測定し、その平均値(実施例1の平均値、実施例2の平均値及び比較例1の平均値)を求めた。
【0036】
【表1】
【0037】
表1から明らかなように、測定したサンプル中のFe濃度について、比較例1の平均値では、連結部材の表面に析出した多結晶シリコンから採取した部位が「0.10ppbw」であって、それ以外の部位が「0.08ppbw」であり、その差は小さかった。
【0038】
これに対して、測定したサンプル中のFe濃度について、実施例1の平均値では、連結部材の表面に析出した多結晶シリコンから採取した部位が「0.66ppbw」であって、それ以外の部位が「0.07ppbw」であり、実施例2の平均値では、連結部材の表面に析出した多結晶シリコンから採取した部位が「0.14ppbw」であって、それ以外の部位が「0.04ppbw」であり、実施例1及び2とも、その差は大きかった。これらのことから、実施例1及び2の連結部材がFeの金属不純物を捕集する能力があること、並びに連結部材以外の表面に析出した多結晶シリコンロッドに含まれるFe濃度が低く、高純度であることが判った。
【0039】
<実施例3>
図3に示すように、長さ約2mのシリコン種棒20を支持するカーボン部材23として、その長さLが約150mmのカーボン部材を用いてシリコン種棒表面に多結晶シリコンロッドを析出させた。また図4に示すように、カーボン部材23の上部表面とシリコン種棒20の下部表面にそれぞれ析出された多結晶シリコンロッド30のうち、析出される多結晶シリコンロッド30の電極側端を起点として、この電極側端の起点から上方の部分Xが25mmとなるように、多結晶シリコンロッドの下端を切断した。4本の多結晶シリコンからそれぞれ切断した部分Xを実施例3のサンプルとした。
【0040】
<比較例2>
約2mのシリコン種棒20を支持するカーボン部材23として、図3に示すその長さLが70mmのカーボン部材を用いてシリコン種棒表面に多結晶シリコンロッドを析出させた。カーボン部材23の上部表面とシリコン種棒20の下部表面にそれぞれ析出される多結晶シリコンロッド30のうち、析出される多結晶シリコンロッド30の電極側端から上方の図4に示す部分Xが75mmとなるように、多結晶シリコンロッドの下端を切断した。4本の多結晶シリコンからそれぞれ切断した部分Xを比較例2のサンプルとした。
【0041】
<比較試験と評価2>
実施例3及び比較例2の多結晶シリコンロッド部分Xの表面部からそれぞれ4個のサンプル(実施例3-1~3-4及び比較例2-1~2-4)、合計8個のサンプルを採取した。また多結晶シリコンロッドの電極側端から上方100mmの部分(部分X以外の部位)の表面部からそれぞれ4個のサンプル(実施例3-1~3-4及び比較例2-1~2-4)、合計8個のサンプルを採取した。これらのサンプル中に含まれる金属不純物である鉄(Fe)とニッケル(Ni)の各濃度をICP-MSを用いて測定した。具体的には、サンプル毎に鉄(Fe)及びニッケル(Ni)の各濃度を測定し、その平均値(実施例3の平均値及び比較例2の平均値)を求めた。その結果を表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
表2から明らかなように、測定したサンプル中のFe濃度について、比較例2の平均値では、多結晶シリコンロッドの部分Xから採取した部位が「0.08ppbw」であって、それ以外の部位が「0.06ppbw」であり、その差は小さかった。またNi濃度について、比較例2の平均値では、多結晶シリコンロッドの部分Xから採取した部位が「0.07ppbw」であって、それ以外の部位が「0.03ppbw」であり、その差は小さかった。
【0044】
これに対して、測定したサンプル中のFe濃度について、実施例3の平均値では、多結晶シリコンロッドの部分Xから採取した部位が「0.11ppbw」であって、それ以外の部位が「0.05ppbw」であり、その差は大きかった。またNi濃度について、実施例3の平均値では、多結晶シリコンロッドの部分Xから採取した部位が「0.19ppbw」であって、それ以外の部位が「0.02ppbw」であり、その差は大きかった。これらのことから、実施例3の部分XがFe及びNiの金属不純物を捕集する能力があること、並びに部分X以外の表面に析出した多結晶シリコンロッドに含まれるFe濃度及びNi濃度が低く、高純度であることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の多結晶シリコンロッドの製造方法は、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を育成する際の原料としての金属不純物の含有量が少ない高純度の多結晶シリコンを製造する方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
10 多結晶シリコン反応炉
13 金属電極
20 シリコン種棒
21 連結部材
21a シリコン酸化膜
21b 連結部材の本体
22 ボロン
23 カーボン部材
30 多結晶シリコンロッド
図1
図2
図3
図4