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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】ガスバリア性積層体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/10 20060101AFI20220329BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20220329BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20220329BHJP
   B32B 25/06 20060101ALI20220329BHJP
   B32B 29/00 20060101ALI20220329BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220329BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20220329BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
B32B27/10
B32B27/18 Z
B32B27/20 Z
B32B25/06
B32B29/00
B32B27/30 102
B65D65/40 D
C08K3/34
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018202300
(22)【出願日】2018-10-26
(65)【公開番号】P2020066216
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2020-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯崎 友史
(72)【発明者】
【氏名】鶴原 正啓
(72)【発明者】
【氏名】野一色 泰友
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-173201(JP,A)
【文献】特開2009-143615(JP,A)
【文献】特開2004-218130(JP,A)
【文献】特開2002-013095(JP,A)
【文献】特開平07-133600(JP,A)
【文献】特開2004-019036(JP,A)
【文献】特開2001-254293(JP,A)
【文献】特開2016-222878(JP,A)
【文献】特開2018-089980(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙支持体の少なくとも一方の面上に水蒸気バリア層およびガスバリア層をこの順に有するガスバリア性積層体であって、
前記ガスバリア性積層体の少なくとも一方の最外層にシーラント層を有し、
前記水蒸気バリア層が層状無機化合物、カチオン性樹脂およびアニオン性バインダーを含有し、
前記層状無機化合物がマイカおよびベントナイトから選ばれる少なくとも1種であり、
前記層状無機化合物のアスペクト比が80以上であり、
前記層状無機化合物の厚さが100nm以下であり、
前記層状無機化合物の含有量が前記アニオン性バインダー100質量部に対して0.1~400質量部であり、
前記ガスバリア層が水溶性高分子を含有し、
前記シーラント層が水分散性樹脂を含有することを特徴とするガスバリア性積層体。
【請求項2】
前記水分散性樹脂が、カルボキシ基を有するポリオレフィン、ポリオレフィン系エラストマー、エチレン・酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、低分子量ポリオレフィンワックスおよび生分解性樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のガスバリア性積層体。
【請求項3】
前記アニオン性バインダーがスチレン・ブタジエン系共重合体、スチレン・アクリル系共重合体およびオレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1または請求項2に記載のガスバリア性積層体。
【請求項4】
前記カチオン性樹脂は表面電荷が0.1~10meq/gである請求項1~3のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体。
【請求項5】
前記水溶性高分子がポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールである請求項1~4のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体。
【請求項6】
前記カチオン性樹脂の含有量が、前記層状無機化合物100質量部に対して1~300質量部であり、前記アニオン性バインダー100質量部に対して0.1~20質量部である請求項1~5のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体。
【請求項7】
包装用材料である請求項1~6のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体の製造方法であって、
紙支持体の少なくとも一方の面上に、塗工法により水蒸気バリア層を形成し、
次いで、当該水蒸気バリア層上に、塗工法によりガスバリア層を形成し、
次いで、少なくとも一方の最外層に、塗工法によりシーラント層を形成することを特徴とするガスバリア性積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙を支持体とするガスバリア性積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙を基材とし、水蒸気バリア性やガスバリア性(特に、酸素バリア性)を付与し、さらにヒートシール性を付与して袋状にした包装材料は、食品、医療品、電子部品等の包装において、内容物の品質低下を防止するために、従来から用いられている。このように紙を支持体として、リサイクルが困難で環境負荷の高い合成樹脂フィルムを積層せずに、水蒸気バリア性やガスバリア性を付与する技術が開発されている。
【0003】
このような技術として、例えば特許文献1には、紙基材上に、顔料及びバインダーを含有する水蒸気バリア層、水溶性高分子を含有するガスバリア層をこの順に設けた紙製バリア包装材料が開示されている。前記水蒸気バリア層はバインダーとして、スチレン・ブタジエン系樹脂及びスチレン・アクリル系樹脂を含有している。特許文献1には、上記顔料としては平均粒子径5μm以上且つアスペクト比50以上の顔料(特にカオリン)が好ましいことや、当該紙製バリア包装材料にシーラント層(ヒートシール層)を設けることが開示されている。
【0004】
また、合成樹脂フィルムを積層せずに、水蒸気バリア性やガスバリア性を付与した紙製バリア包装材料に、さらにシーラント層を設けて成形した紙製容器も開発されている。
【0005】
このような技術として、例えば特許文献2には、紙基材上に水蒸気バリア層、ガスバリア層、シーラント層をこの順に設けた紙製バリア包装材料が、胴部材、底板部材、蓋部材のいずれかの部材に用いられた紙製容器が開示されている。前記水蒸気バリア層はスチレン・ブタジエン系合成樹脂、及び平均粒子径5μm以上且つアスペクト比10以上の無機顔料を含有し、前記ガスバリア層はポリビニルアルコールを含有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-173202号公報
【文献】特開2017-124851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された紙製バリア材料は、水蒸気バリア性とガスバリア性の向上のために顔料を使用し、該顔料の好ましいアスペクト比も開示してはいるものの、水蒸気バリア層中の該顔料の存在形態を最適化させる観点を持たない。そのため、特許文献1の紙製バリア材料は、製造時における水蒸気バリア層形成用塗工液の加工性や、形成された水蒸気バリア層の水蒸気バリア性において改良の余地を有するものであった。
【0008】
また、特許文献2に記載の紙容器は、合成樹脂フィルムを積層せずに紙基材に水蒸気バリア性やガスバリア性を付与してはいるものの、その最外層であるシーラント層を、熱可塑性樹脂を押し出しラミ法等でフィルム状にラミネートすることにより形成している。そのため、特許文献2の紙容器は離解性に乏しく、リサイクル性において改良の余地を有するものであった。さらに、シーラント層を水蒸気バリア層およびガスバリア層とは異なる方法で形成するため、製造工程が煩雑になるという問題もあった。
【0009】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、簡便に製造でき、水蒸気バリア性およびガスバリア性に優れ、さらにリサイクル性およびヒートシール性にも優れたガスバリア性積層体およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、水蒸気バリア層における層状無機化合物の種類や形状について検討を加えたところ、アスペクト比が50以上の層状無機化合物を使用することが水蒸気バリア性を発現するために有効であることを見出した。また、水蒸気バリア層にカチオン性樹脂を添加することによって、水蒸気バリア層の塗工性や内部構造が改善されることを見出した。さらに、シーラント層に熱可塑性を有する水分散性樹脂を分散させることによって、離解性が高くリサイクル性に優れたバリア性積層体が得られることを見出した。
本発明はこのような知見を踏まえて完成するに至ったものである。すなわち、本発明は、以下のような構成を有している。
【0011】
(1)紙支持体の少なくとも一方の面上に水蒸気バリア層およびガスバリア層をこの順に有するガスバリア性積層体であって、前記ガスバリア性積層体の少なくとも一方の最外層にシーラント層を有し、前記水蒸気バリア層が層状無機化合物、カチオン性樹脂およびアニオン性バインダーを含有し、前記層状無機化合物のアスペクト比が50以上であり、前記層状無機化合物の含有量が前記アニオン性バインダー100質量部に対して0.1~400質量部であり、前記ガスバリア層が水溶性高分子を含有し、前記シーラント層が水分散性樹脂を含有することを特徴とするガスバリア性積層体。
【0012】
(2)前記水分散性樹脂が、カルボキシ基を有するポリオレフィン、ポリオレフィン系エラストマー、エチレン・酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、低分子量ポリオレフィンワックスおよび生分解性樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である(1)のガスバリア性積層体。
【0013】
(3)前記アニオン性バインダーがスチレン・ブタジエン系共重合体、スチレン・アクリル系共重合体およびオレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種である(1)または(2)のガスバリア性積層体。
【0014】
(4)前記カチオン性樹脂は表面電荷が0.1~10meq/gである(1)~(3)のいずれかのガスバリア性積層体。
【0015】
(5)前記水溶性高分子がポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールである(1)~(4)のいずれかのガスバリア性積層体。
【0016】
(6)前記層状無機化合物がマイカ、ベントナイトおよびカオリンからなる群より選ばれる少なくとも1種である(1)~(5)のいずれかのガスバリア性積層体。
【0017】
(7)包装用材料である(1)~(6)のいずれかのガスバリア性積層体。
【0018】
(8)(1)~(7)のいずれかのガスバリア性積層体の製造方法であって、紙支持体の少なくとも一方の面上に、塗工法により水蒸気バリア層を形成し、次いで、当該水蒸気バリア層上に、塗工法によりガスバリア層を形成し、次いで、少なくとも一方の最外層に、塗工法によりシーラント層を形成することを特徴とするガスバリア性積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明のガスバリア性積層体は、簡便に製造でき、水蒸気バリア性およびガスバリア性に優れ、さらにリサイクル性およびヒートシール性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を具体的に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0021】
本実施形態のガスバリア性積層体は、紙支持体の少なくとも一方の面上に水蒸気バリア層およびガスバリア層をこの順に有し、さらに少なくとも一方の最外層にシーラント層を有している。紙支持体の片面のみに水蒸気バリア層およびガスバリア層を設けてもよいし、紙支持体の両面に水蒸気バリア層およびガスバリア層を設けてもよい。
以下、本実施形態のガスバリア性積層体を構成する各層について説明する。
【0022】
[紙支持体]
本実施形態に用いられる紙支持体は、植物由来のパルプを主成分として一般的に用いられている紙であれば特に制限はない。具体的には、晒または未晒クラフト紙、上質紙、板紙、ライナー紙、塗工紙、片艶紙、グラシン紙、グラファン紙等を挙げることができる。機械的離解作用により水中で分散しやすいパルプを主成分とする紙であることが好ましい。
【0023】
紙支持体のJIS P8121:2012に準じて測定した離解フリーネス(濾水度)は、バリア性を向上させる観点から、800ml以下とすることが好ましく、500ml以下がより好ましい。ここで、離解フリーネスとは、抄紙後の紙をJIS P8220-1に準拠して離解したパルプを、JIS P8121:2012に準拠して測定したカナダ標準ろ水度(Canadian standard freeness)のことである。離解フリーネスを調製するために、パルプを叩解する方法については、公知の方法を使用することができる。
【0024】
紙支持体の坪量は、特に限定されないが、20~400g/mであることが好ましく、30~320g/mがより好ましい。
【0025】
紙支持体のサイズ度は、特に限定されないが、バリア性を向上させる観点から、JIS P 8122:2004に準ずるステキヒトサイズ度が1秒以上とすることが好ましい。紙支持体のサイズ度は、ロジン系、アルキルケテンダイマー系、アルケニル無水コハク酸系、スチレン-アクリル系、高級脂肪酸系、石油樹脂系等の内添サイズ剤の種類や含有量、パルプの種類、平滑化処理等によって制御することができる。内添サイズ剤の含有量は、特に限定されないが、紙支持体のパルプ100質量部に対して0~3質量部程度の範囲が好ましい。
【0026】
紙支持体にはさらに、公知の内添薬品を適宜添加することができる。内添薬品としては、例えば、二酸化チタン、カオリン、タルク、炭酸カルシウム等の填料、紙力増強剤、歩留り向上剤、pH調整剤、濾水性向上剤、耐水化剤、柔軟剤、帯電防止剤、消泡剤、スライムコントロール剤、染料・顔料等を挙げることができる。
【0027】
[水蒸気バリア層]
水蒸気バリア層は、水蒸気の透過を阻止する機能を有する層であり、層状無機化合物、カチオン性樹脂およびアニオン性バインダーを含有している。
【0028】
(層状無機化合物)
層状無機化合物の形態は、平板状である。層状無機化合物とバインダーとの混合溶液を作成し、紙支持体上に塗工すると、水蒸気バリア層が形成される。水蒸気バリア層内においては、平板状の層状無機化合物が紙支持体の平面(表面)とほぼ平行に積層した状態に配列する。そうすると、平面方向では層状無機化合物が存在していない面積が小さくなることから、水蒸気の透過が抑制される。また、厚さ方向では平板状の層状無機化合物が紙支持体平面に対して平行に配列して存在するため、層中の水蒸気は層状無機化合物を迂回しながら透過することとなり、水蒸気の透過が抑制される。その結果、水蒸気バリア層は優れた水蒸気バリア性を発現することができる。
【0029】
層状無機化合物は、平均長さが1μm~100μmであることが好ましい。平均長さが1μmより小さいものは、塗工層中における層状無機化合物の配向が紙支持体に対して平行になりにくい。一方、平均長さが100μmより大きくなると層状無機化合物の一部が水蒸気バリア層から突出したりする。
【0030】
層状無機化合物は、アスペクト比が50以上である。言い換えるとアスペクト比が50または50より大きい。アスペクト比が50以上であると、所定の水蒸気透過度を達成することが可能となる。層状無機化合物のアスペクト比は、80以上が好ましく、300以上がより好ましく、500以上が特に好ましい。アスペクト比が大きいほど、水蒸気の透過が抑制され、水蒸気バリア性が向上する。また、アスペクト比が大きいほど、層状無機化合物の添加量を低減させることができる。アスペクト比の上限は特に限定されず、塗工液の粘度の観点から10000以下程度が好ましい。ここで、アスペクト比とは、水蒸気バリア層の断面の顕微鏡拡大写真を撮ったときに、層状無機化合物の長さをその厚さで除した値の平均値である。
【0031】
層状無機化合物は、厚さが200nm以下である。言い換えると厚さが200nmまたは200nmより小さい。ここで、層状無機化合物の厚さとは、水蒸気バリア層の断面の顕微鏡拡大写真を撮ったときに、その平均厚さである。層状無機化合物の厚さは、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。層状無機化合物の平均厚さが小さい方が、水蒸気バリア層中における層状無機化合物の積層数が大きくなるため、高い水蒸気バリア性を発揮することができる。
【0032】
層状無機化合物の具体例としては、雲母族、脆雲母族等のマイカ、ベントナイト、カオリナイト(カオリン鉱物)、パイロフィライト、タルク、スメクタイト、バーミキュライト、緑泥石、セプテ緑泥石、蛇紋石、スチルプノメレーン、モンモリロナイトなどが挙げられる。
【0033】
これらの中でも特に、バリア性を向上させる観点から、マイカ、ベントナイトおよびカオリンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、マイカまたはベントナイトがより好ましい。マイカには、合成マイカ、白雲母(マスコバイト)、絹雲母(セリサイト)、金雲母(フロコパイト)、黒雲母(バイオタイト)、フッ素金雲母(人造雲母)、紅マイカ、ソーダマイカ、バナジンマイカ、イライト、チンマイカ、パラゴナイト、ブリトル雲母などが挙げられる。また、ベントナイトはモンモリロナイトが挙げられる。
【0034】
層状無機化合物の含有量は、水蒸気バリア層の全固形分中90質量%以下が好ましい。層状無機化合物の含有量は、膜構造に空隙が生じるのを抑える観点から、50質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が特に好ましく、10質量%以下が最も好ましい。一方、層状無機化合物の含有量は、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。本実施形態では、層状無機化合物のアスペクト比を大きくし、厚さを小さくすることによって、層状無機化合物の含有割合を低減することができる。また、水蒸気バリア層の強度を高めて、層状無機化合物の水蒸気バリア層からの脱落を抑えることができる。特に、アスペクト比が大きく且つ厚さの小さい特定の範囲の層状無機化合物、すなわち、アスペクト比が80以上且つ厚さが100nm以下の範囲の層状無機化合物を用いると、水蒸気バリア層の顕微鏡拡大写真を撮ったときに、従来とは明らかに異なり、空隙のない稠密な膜を形成する。この水蒸気バリア層の空隙のない稠密な膜構造が、強靭な皮膜を形成して、折割れを効果的に抑えている。また、ガスバリア層の塗工液の浸透を抑えて、均一なガスバリア層の形成にも寄与している。
【0035】
層状無機化合物の含有量は、水蒸気バリア層のアニオン性バインダー100質量部に対して0.1~400質量部である。層状無機化合物の含有量は、膜構造に空隙が生じるのを抑える観点から、好ましくは、水蒸気バリア層のアニオン性バインダー100質量部に対して0.1~100質量部であり、より好ましくは、1~30質量部であり、さらに好ましくは、1~20質量部である。層状無機化合物の含有量が、水蒸気バリア層のアニオン性バインダー100質量部に対して0.1質量部未満であると、水蒸気バリア性が不十分となる。また、層状無機化合物の含有量が、水蒸気バリア層のアニオン性バインダー100質量部に対して400質量部を超えると、層状無機化合物の一部が層表面から露出して、水蒸気バリア性が低減し、さらにガスバリア層の塗工性が低下し、均一なガスバリア層が形成されず、その結果、ガスバリア性が低減する。
【0036】
(カチオン性樹脂)
本発明者らは、層状無機化合物を含有する水蒸気バリア層にカチオン性樹脂を添加することによって、水蒸気バリア性が大きく向上することを見出した。
【0037】
カチオン性樹脂を添加することによって、水蒸気バリア性が大きく向上する理由については、以下のように考えている。層状無機化合物は、平板状の形態の平面部分がアニオン性、エッジ部分がカチオン性に帯電し易いため、層状無機化合物が相互に立体的に凝集した、いわゆるカードハウス構造をとることが知られている。このカードハウス構造のために、層状無機化合物の水分散液は粘度が非常に高くなる。一方、カードハウス構造は攪拌などにより力を加えると簡単に壊れるため、層状無機化合物の水分散液はチキソトロピー性を示す。
【0038】
ここに、適切なカチオン性樹脂を添加すると、層状無機化合物のアニオン性の平面部分にカチオン性樹脂が吸着することによって、カードハウス構造が破壊される。その結果、層状無機化合物が立体的に凝集することが抑制され、平板状の層状無機化合物が紙支持体平面に対して平行に積層し易くなり、水蒸気バリア性の向上につながるものと推定している。
【0039】
カチオン性樹脂の具体例としては、ポリアルキレンポリアミン、ポリアミド化合物、ポリアミドアミン-エピハロヒドリン又はホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミン-エピハロヒドリン又はホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミドポリ尿素-エピハロヒドリン又はホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミンポリ尿素-エピハロヒドリン又はホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミドアミンポリ尿素-エピハロヒドリン又はホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミドポリ尿素化合物、ポリアミンポリ尿素化合物、ポリアミドアミンポリ尿素化合物及びポリアミドアミン化合物、ポリエチレンイミン、ポリビニルピリジン、アミノ変性アクリルアミド系化合物、ポリビニルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドなどを挙げることができる。
【0040】
カチオン性樹脂は、表面電荷が0.1~10meq/gであることが好ましく、0.1~5.0meq/gであることがより好ましい。カチオン性樹脂の表面電荷が前記範囲内であると、カードハウス構造を破壊することが可能であり、後記するアニオン性バインダーとも適度に共存することができる。なお、カチオン性樹脂の表面電荷は、以下に記載する方法で測定する。
【0041】
試料となる重合体を水に溶解して、重合体濃度1ppmの溶液を得る。その溶液に対し、チャージアナライザーMutek PCD-04型(BTG社製)を用いて、0.001Nポリエチレンスルホン酸ナトリウムを滴下して電荷量を測定する。
【0042】
カチオン性樹脂の含有量は、水蒸気バリア層に使用される層状無機化合物とアニオン性バインダーの種類に応じて適宜選択すればよいが、バリア性を向上させる観点から、層状無機化合物100質量部に対して、1~300質量部が好ましく、1~250質量部がより好ましく、1~150質量部がさらに好ましく、10~150質量部が特に好ましく、20~150質量部が最も好ましい。
【0043】
また、カチオン性樹脂の含有量は、水蒸気バリア層のアニオン性バインダー100質量部に対して0.1~20質量部であることが好ましく、0.1~15質量部であることがより好ましく、1~10質量部がさらに好ましい。
【0044】
(アニオン性バインダー)
本発明者らは、さらに、バインダーがアニオン性を示す方が、水蒸気バリア性がより向上することも見出した。前記したように、層状無機化合物の平面部分はアニオン性であるが、カチオン性樹脂が吸着すると表面がカチオン性になる。そのため、アニオン性であるバインダーとの親和性が高まることとなる。
【0045】
アニオン性のバインダーとしては、カルボン酸基を含む単量体で変性されたバインダーが好ましい。アニオン性バインダーの骨格となるポリマーとしては、スチレン・ブタジエン系共重合体、スチレン・アクリル系共重合体、メタクリレート・ブタジエン系共重合体、アクリルニトリル・ブタジエン系共重合体、オレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体、アクリルエステル系重合体などが挙げられる。これらの中では、耐水性が良好で、伸びがよく、折割れによる塗工層の亀裂が生じにくいことから、スチレン・ブタジエン系共重合体、スチレン・アクリル系共重合体およびオレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0046】
スチレン・ブタジエン系共重合体は、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-t-ブチルスチレン、クロロスチレンなどの芳香族ビニル化合物と、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどの共役ジエン化合物、およびこれらと共重合可能なその他の化合物からなる単量体を乳化重合することによって得られる共重合体である。芳香族ビニル化合物としてはスチレン、また共役ジエン化合物としては1,3-ブタジエンが好適である。
【0047】
スチレン・アクリル系共重合体は、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-t-ブチルスチレン、クロロスチレンなどの芳香族ビニル化合物と、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸などの不飽和カルボン酸、イタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステル及びマレイン酸モノブチルエステルなどの少なくとも1個のカルボキシル基を有する不飽和ポリカルボン酸アルキルエステル、アクリルアミドプロパンスルホン酸、アクリル酸スルホエチルナトリウム塩、メタクリル酸スルホプロピルナトリウム塩などの不飽和スルホン酸単量体又はその塩、およびこれらと共重合可能なその他の化合物からなる単量体を乳化重合することによって得られる共重合体である。芳香族ビニル化合物としてはスチレンなどが好適であり、また不飽和カルボン酸単量体、不飽和スルホン酸単量体又はその塩としてはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸などが好適である。
【0048】
オレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体は、オレフィン、とりわけ、エチレン、プロピレン等のα-オレフィンとアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸などの不飽和カルボン酸、イタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステル及びマレイン酸モノブチルエステルなどの、少なくとも1個のカルボキシル基を有する不飽和ポリカルボン酸アルキルエステル、アクリルアミドプロパンスルホン酸、アクリル酸スルホエチルナトリウム塩、メタクリル酸スルホプロピルナトリウム塩などの不飽和スルホン酸単量体又はその塩、およびこれらと共重合可能なその他の化合物からなる単量体を乳化重合することによって得られる共重合体である。オレフィンとしては、α-オレフィン、とりわけエチレンなどが好適であり、また不飽和カルボン酸単量体、不飽和スルホン酸単量体又はその塩としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸などが好適である。オレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体の具体例としては、例えばエチレン・アクリル酸共重合体アンモニウム塩の水性分散液が、ザイクセン(登録商標)AC等(アクリル酸の共重合比率20%、住友精化株式会社製)として市販されており、容易に入手し利用することができる。
【0049】
共重合可能なその他の化合物としては、具体的に、シアノ基含有エチレン性不飽和化合物、エチレン性不飽和酸のグリシジルエーテル、不飽和アルコールのグリシジルエーテル、(メタ)アクリルアミド系化合物などが挙げられる。
【0050】
アニオン性バインダーは、上記の骨格となるポリマーにカルボン酸基を含む単量体を共重合して、変性させることにより得ることができる。カルボン酸基を含む単量体の共重合比率は、1~50mol%であることが好ましい。
【0051】
アニオン性バインダーの重量平均分子量は、塗工液粘度の観点から、1万~1000万が好ましく、10万~500万がより好ましい。
【0052】
アニオン性バインダーの含有量は、水蒸気バリア層の全固形分中15質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上が特に好ましく、80質量%以上が最も好ましい。
【0053】
水蒸気バリア層は、層状無機化合物、カチオン性樹脂およびアニオン性バインダー以外に、必要に応じて適宜、分散剤、界面活性剤、消泡剤、濡れ剤、染料、色合い調整剤、増粘剤などを添加することが可能である。
【0054】
水蒸気バリア層の厚さは、1~30μmであることが好ましく、3~20μmであることがより好ましい。また、水蒸気バリア層の塗工量は、固形分として、1~30g/mであることが好ましく、3~20g/mであることがより好ましい。
【0055】
[ガスバリア層]
ガスバリア層は、主として酸素ガスの透過を阻止する機能を有する層であり、水溶性高分子を含有している。
【0056】
(水溶性高分子)
水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、デンプンおよびその誘導体、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ウレタン系樹脂、ポリアクリル酸およびその塩、カゼイン、ポリエチレンイミン等が挙げられる。
【0057】
これらの中でも、ガスバリア性がより優れていることから、完全ケン化もしくは部分ケン化したポリビニルアルコール、または変性ポリビニルアルコールが好ましい。変性ポリビニルアルコールとしては、エチレン変性ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、珪素変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、ジアセトン変性ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0058】
水溶性高分子の含有量は、ガスバリア層の全固形分中50~100質量%であることが好ましく、70~100質量%であることがより好ましい。
【0059】
ガスバリア層は、水溶性高分子以外に、必要に応じて適宜、顔料、分散剤、界面活性剤、消泡剤、濡れ剤、染料、色合い調整剤、増粘剤などを添加することが可能である。ガスバリア層には、層状無機化合物を水蒸気バリア層で使用できるものの中から適宜選択して含有させることができる。
【0060】
ガスバリア層の厚さは、0.1~10μmであることが好ましく、0.5~5μmであることがより好ましい。また、ガスバリア層の塗工量は、固形分として、0.1~10g/mであることが好ましく、0.5~5g/mであることがより好ましい。
【0061】
[シーラント層]
シーラント層は、加熱や超音波で溶融し接着することにより、ガスバリア性積層体同士を相互に結合させることができる層である。
【0062】
ガスバリア性積層体は、紙支持体の少なくとも一方の面上に水蒸気バリア層およびガスバリア層をこの順に有しており、さらに、当該ガスバリア性積層体の少なくとも一方の最外層にシーラント層を有する。すなわち、シーラント層は、水蒸気バリア層およびガスバリア層を形成した側の当該ガスバリア層の上か、または、水蒸気バリア層およびガスバリア層を形成していない側の紙支持体の上の、どちらか一方または両方に形成される。
【0063】
シーラント層は、水分散性の熱可塑性樹脂(水分散性樹脂)を含有する乳化分散液を塗工することによって形成される。このように形成されたシーラント層は、熱可塑性樹脂のフィルムの形態を有さずとも、ヒートシール等により、層中に分散された水分散性樹脂を溶融させ、ガスバリア性積層体同士を相互に結合させることができる。このようなシーラント層は、熱可塑性樹脂のフィルムからなる層よりも離解性が高く、再離解によるリサイクルに適しており、ガスバリア性積層体の環境負荷を低減させることができる。
【0064】
また、上記のようにシーラント層を塗工法でもって形成することにより、シーラント層を水蒸気バリア層およびガスバリア層と同じ工法で形成することが可能になり、シーラント層をラミネート法等により形成する場合に比べて、ガスバリア性積層体を簡便に製造することできる。
【0065】
シーラント層に用いる水分散性樹脂としては、カルボキシ基を有するポリオレフィン、ポリオレフィン系エラストマー、エチレン・酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、低分子量ポリオレフィンワックスおよび生分解性樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。これらの水分散性樹脂は、水蒸気バリア層またはガスバリア層の微小な塗工欠陥を、同じく塗工法をもって積層することによって補うことができる。これにより、本実施形態では、層状無機化合物とカチオン性樹脂の含有割合を、より一層広い範囲から選択してバリア性の低下を抑えることができる。
【0066】
シーラント層は、生分解性樹脂を含有することが好ましい。生分解性樹脂の具体例としては、特に限定されず、例えばポリ乳酸(PLA).ポリブチレンサクシネート(PBS)ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、3-ヒドロキシブタン酸・3-ヒドロキシヘキサン酸共重合体(PHBH)等が挙げられる。
【0067】
シーラント層の厚さは、1~50μmであることが好ましく、3~30μmであることがより好ましい。また、シーラント層の塗工量は、固形分として、1~50g/mであることが好ましく、3~30g/mであることがより好ましい。
【0068】
[ガスバリア性積層体]
(製造方法)
ガスバリア性積層体は、紙支持体の少なくとも一方の面上に、塗工法により水蒸気バリア層を形成し、次いで、当該水蒸気バリア層上に、塗工法によりガスバリア層を形成し、次いで、少なくとも一方の最外層に、塗工法によりシーラント層を形成することにより、製造することができる。各層は、塗工液を逐次塗工および乾燥させて形成してもよく、同時多層塗工した後に乾燥させて形成してもよい。このように、本実施形態のガスバリア性積層体の製造方法は、水蒸気バリア層、ガスバリア層およびシーラント層をいずれも塗工法で形成しており、簡便に製造することができる。
【0069】
塗工液の溶媒としては、特に制限はなく、水またはエタノール、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトンもしくはトルエンなどの有機溶媒を用いることができる。
【0070】
塗工液を紙支持体に塗工するための塗工設備には、特に限定はなく、公知の設備を用いることができる。塗工設備としては、例えば、ブレードコーター、バーコーター、エアナイフコーター、スリットダイコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ゲートロールコーターなどが挙げられる。特に水蒸気バリア層の形成には、ブレードコーター、バーコーター、エアナイフコーター、スリットダイコーターなどの塗工表面をスクレイプするコーターが層状無機化合物の配向を促すという点で好ましい。
【0071】
塗工層を乾燥するための乾燥設備には、特に限定はなく、公知の設備を用いることができる。乾燥設備としては、例えば、熱風乾燥機、赤外線乾燥機、ガスバーナー、熱板などが挙げられる。
【0072】
本実施形態のガスバリア性積層体は、水蒸気バリア層に層状無機化合物、カチオン性樹脂およびアニオン性バインダーを含有していることから、水蒸気バリア層の塗工液の粘度が過度に上昇せず、製造時の加工性(塗工性)に優れている。この優れた塗工性により水蒸気バリア層中の層状無機化合物が適度に配向して積層され、水蒸気バリア性に優れている。水蒸気バリア層の表面が平滑に形成されるため、その上のガスバリア層を均一に形成することが可能であり、ガスバリア性に優れている。シーラント層をガスバリア上に塗工する場合は、ガスバリア層の均一性によりシーラント層も均一に形成することができ、ヒートシール性においても優れている。さらに、水分散性樹脂を含有する乳化分散液からなるシーラント層によってヒートシール機能を実現することで、ガスバリア性積層体の製造が簡便になり、リサイクル性においても優れている。
【0073】
本実施形態のガスバリア性積層体は、上記の優れた水蒸気バリア性およびガスバリア性を生かして、食品、医療品、電子部品等の包装用材料として好適に用いることができる。また、本実施形態のガスバリア性積層体は、折割れに耐性を有することから、軟包装用材料として好適に用いることができる。
【実施例
【0074】
以下に実施例を挙げて本発明のガスバリア性積層体をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0075】
実施例・比較例に用いた原材料は以下のとおりである。
(1)紙支持体
晒クラフト紙:坪量70g/m、厚さ100μm
(2)層状無機化合物
マイカ:膨潤性マイカ、粒子径6.3μm、アスペクト比約1000、厚さ約5nm、固形分6%、製品名:NTO-05、トピー工業社製
ベントナイト:膨潤性ベントナイト、粒子径300nm、アスペクト比300、厚さ約1nm、固形分100%、製品名:クニピアF、クニミネ工業社製
カオリン:エンジニアードカオリン、粒子径9.0μm、アスペクト比80~100、厚さ約0.1μm、固形分100%、製品名:バリサーフHX、イメリスミネラルズ社製
(3)カチオン性樹脂
変性ポリアミド系樹脂:固形分53%、製品名:SPI203(50)、田岡化学工業社製、表面電荷0.4meq/g
(4)アニオン性バインダー
スチレンアクリル系樹脂エマルジョン:固形分53.8%、製品名:ハービルC-3、第一塗料製造所製
酸変性SBRラテックス:固形分47.3%、製品名:LX407S12、日本ゼオン社製
酸変性SBRラテックス:固形分50.5%、製品名:LX407BP-6、日本ゼオン社製
(5)水溶性高分子
ポリビニルアルコール:完全ケン化型ポリビニルアルコール、製品名:ポバールPVA117、クラレ社製
(6)水分散性樹脂
カルボキシ変性ポリオレフィン(PO)系ポリマーエマルジョン:対イオン:アンモニウムイオン、固形分28.5%、製品名:ザイクセンAC、住友精化社製
カルボキシ変性ポリオレフィン系ポリマーエマルジョン:対イオン:アルキルアンモニウムイオン、固形分23.0%、製品名:ザイクセンL、住友精化社製
カルボキシ変性ポリオレフィン系ポリマーエマルジョン:対イオン:ナトリウムイオン、固形分23.0%、製品名:ザイクセンN、住友精化社製
ポリオレフィン(PE)系エラストマーエマルジョン:固形分40.0%、製品名:ケミパールA400、三井化学社製
ポリオレフィン(PE)系エラストマーエマルジョン:固形分40.0%、製品名:ケミパールA100、三井化学社製
ポリオレフィン(LDPE)系エラストマーエマルジョン:固形分40.0%、製品名:ケミパールM200、三井化学社製
エチレン・酢酸ビニル(EVA)系エマルジョン:固形分40.0%、製品名:ケミパールV200、三井化学社製
アイオノマー(IO)系エマルジョン:固形分27.0%、製品名:ケミパールS200、三井化学社製
低分子量ポリオレフィン(PE)ワックス系エマルジョン:固形分40.0%、製品名:ケミパールW400、三井化学社製
ポリ乳酸樹脂(PLA)エマルジョン:固形分40.0%、製品名:LANDY PL-3000、ミヨシ油脂社製
(7)シーラントフィルム
LLDPEフィルム:T.U.X FCS、30μm厚、三井化学東セロ社製
【0076】
(実施例1)
層状無機化合物の水分散液(膨潤性マイカ、NTO-05)128.6部に、攪拌しながらアニオン性バインダーとしてスチレンアクリル(SA)系樹脂エマルジョン(ハービルC-3)278.8部を加え、攪拌した。これに、カチオン性樹脂として変性ポリアミド(PA)系樹脂(SPI203(50))を12.7部加え、攪拌した。さらに、25%アンモニア水溶液を1.8部加え攪拌した。さらに、希釈水を加え、固形分濃度28%とし、水蒸気バリア層の塗工液を得た。
【0077】
水溶性高分子としてポリビニルアルコール(PVA、ポバールPVA117)の固形分濃度10%水溶液を調製し、ガスバリア層の塗工液を得た。
水分散性樹脂としてカルボキシ変性ポリオレフィン(PO)系ポリマーエマルジョン(ザイクセンAC)を固形分濃度20%に希釈し、シーラント層の塗工液を得た。
【0078】
得られた水蒸気バリア層の塗工液を、乾燥後の塗工量が13g/mとなるように、晒クラフト紙の一方の面上にメイヤーバーで塗工した後、熱風乾燥機内で120℃、1分間乾燥し、水蒸気バリア層を形成した。さらに、水蒸気バリア層上に、ガスバリア層の塗工液を乾燥後の塗工量が2.0g/mとなるように、メイヤーバーで塗工した後、熱風乾燥機内で120℃、1分間乾燥し、ガスバリア層を形成した。さらにガスバリア層上に、シーラント層の塗工液を乾燥後の塗工量が10g/mとなるようにメイヤーバーで塗工した後、熱風乾燥機内で120℃、1分間乾燥し、シーラント層を形成し、ガスバリア性積層体を得た。塗工量は、塗工液の固形分濃度とメイヤーバーの番手によって調節した。ガスバリア性積層体の断面を顕微鏡拡大写真(電子顕微鏡写真)により目視にて観察したところ、水蒸気バリア層は、空隙のない稠密な膜を形成していた。
【0079】
(実施例2)
シーラント層の塗工液の水分散性樹脂をカルボキシ変性ポリオレフィン系ポリマーエマルジョン(ザイクセンL)に変更した以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性積層体を得た。
【0080】
(実施例3)
シーラント層の塗工液の水分散性樹脂をカルボキシ変性ポリオレフィン系ポリマーエマルジョン(ザイクセンN)に変更した以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性積層体を得た。
【0081】
(実施例4)
シーラント層の塗工液の水分散性樹脂をポリオレフィン(PE)系エラストマーエマルジョン(ケミパールA400)に変更した以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性積層体を得た。
【0082】
(実施例5)
シーラント層の塗工液の水分散性樹脂をポリオレフィン(PE)系エラストマーエマルジョン(ケミパールA100)に変更した以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性積層体を得た。
【0083】
(実施例6)
シーラント層の塗工液の水分散性樹脂をポリオレフィン(LDPE)系エラストマーエマルジョン(ケミパールM200)に変更した以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性積層体を得た。
【0084】
(実施例7)
シーラント層の塗工液の水分散性樹脂をエチレン・酢酸ビニル(EVA)系エマルジョン(ケミパールV200)に変更した以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性積層体を得た。
【0085】
(実施例8)
シーラント層の塗工液の水分散性樹脂をアイオノマー(IO)系エマルジョン(ケミパールS200)に変更した以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性積層体を得た。
【0086】
(実施例9)
シーラント層の塗工液の水分散性樹脂を低分子量ポリオレフィン(PE)ワックス系エマルジョン(ケミパールW400)に変更した以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性積層体を得た。
【0087】
(実施例10)
シーラント層の塗工液の水分散性樹脂をポリ乳酸樹脂(PLA)エマルジョン(LANDY PL-3000)に変更した以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性積層体を得た。
【0088】
(実施例11)
水蒸気バリア層の塗工液のアニオン性バインダーとしてスチレンアクリル樹脂エマルジョン278.8部を、酸変性SBRラテックス(LX407S12)285.4部及び酸変性SBRラテックス(LX407BP-6)29.7部に変更した以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性積層体を得た。ガスバリア性積層体の断面を顕微鏡拡大写真(電子顕微鏡写真)により目視にて観察したところ、水蒸気バリア層は、空隙のない稠密な膜を形成していた。
【0089】
(実施例12)
層状無機化合物の水分散液(膨潤性マイカ、NTO-05)128.6部をベントナイト(膨潤性ベントナイト、クニピアF)9.0部に変更した以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性積層体を得た。ガスバリア性積層体の断面を顕微鏡拡大写真(電子顕微鏡写真)により目視にて観察したところ、水蒸気バリア層は、空隙のない稠密な膜を形成していた。
【0090】
(実施例13)
層状無機化合物の水分散液(膨潤性マイカ、NTO-05)128.6部をカオリン(バリサーフHX)600部に変更した以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性積層体を得た。ガスバリア性積層体の断面を顕微鏡拡大写真(電子顕微鏡写真)により目視にて観察したところ、水蒸気バリア層は、空隙の多い膜を形成していた。
【0091】
(比較例1)
水蒸気バリア層の塗工液のカチオン性樹脂として変性ポリアミド(PA)系樹脂を用いなかったことと、シーラント層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性積層体を得た。
【0092】
(比較例2)
シーラント層をドライラミネート樹脂層に変更した以外は、実施例1と同様にして、バリア包装材料を得た。ドライラミネート樹脂層は、ドライラミネートによりLLDPEフィルムを積層して形成した。
【0093】
得られたガスバリア性積層体について、水蒸気バリア性(水蒸気透過度)、ガスバリア性(酸素透過度)、離解性、ヒートシール性を評価した。各項目の評価方法は、下記に示す通りである。
【0094】
(水蒸気透過度)
JIS-Z-0208(カップ法)B法(40℃±0.5℃,90%±2%RH)で水蒸気バリア層を内側にして測定した。なお、水蒸気透過度の基準としては、50g/m・24h以下であれば、水蒸気バリア層として実用性がある。
【0095】
(酸素透過度)
酸素透過率測定装置(MOCON社製、OX-TRAN2/20)を使用し、23℃,50%RH条件にて測定した。なお、酸素透過度の基準として、10cc/m・24h以下であれば、ガスバリア層として実用性がある。
【0096】
(離解性)
ガスバリア性積層体から供試紙を1cm×1cmの寸法に切断し、その8gを家庭用ミキサー中において500mlの水に混合(濃度1.6%)し、2分間攪拌し、パルプスラリーを調製した。このパルプスラリーから、実験室用手抄きマシンにより紙シートを作製した。得られたシートを乾燥し、乾燥シート中の未離解物(フィルム片、繊維塊、未離解片など)の有無を目視にて観察し、下記の基準で評価した。性能の評価において、〇のときを合格と判定した。
○:未離解物が含まれず、均一なシートが形成される。
×:未離解物が含まれ、均一なシートが形成されない。
【0097】
(ヒートシール性)
1組のガスバリア性積層体を、シーラント層が向き合うように重ね、ヒートシールテスタTP-701-B、テスター産業製)を用いて130℃、0.5MPa、30秒の条件でヒートシールし、下記の基準で評価した。性能の評価において、◎または〇のときを合格と判定した。
◎:1組のバリア包装材料がヒートシールされ、強く融着する。
○:1組のバリア包装材料がヒートシールされ、融着する。
×:1組のバリア包装材料がヒートシールされず、融着しない。
【0098】
実施例1~13ならびに比較例1、2のガスバリア性積層体についての評価結果を表1に示した。
【0099】
【表1】
【0100】
表1から明らかなように、実施例1~13のガスバリア性積層体は、水蒸気バリア層が所定の層状無機化合物とカチオン性樹脂を含有し、シーラント層が水分散性樹脂を含有しており、水蒸気バリア性、ガスバリア性、離解性およびヒートシール性に優れていた。
比較例1のガスバリア性積層体は、ヒートシール層を有していないため、ヒートシール性に劣るものであった。比較例2のガスバリア性積層体は、シーラント層がドライラミネート樹脂層からなるものであり、離解性に劣るものであった。