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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】内燃機関のシール構造
(51)【国際特許分類】
   F02B 53/00 20060101AFI20220329BHJP
   F01C 19/02 20060101ALI20220329BHJP
   F16J 15/06 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
F02B53/00 C
F01C19/02 A
F16J15/06 B
F16J15/06 H
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018230119
(22)【出願日】2018-12-07
(65)【公開番号】P2020090951
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 卓央
【審査官】齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/132069(WO,A1)
【文献】特開2014-055583(JP,A)
【文献】実公昭47-018163(JP,Y1)
【文献】米国特許第5406916(US,A)
【文献】英国特許出願公開第1187052(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 53/00
F01C 19/02
F16J 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、前記ハウジング内に回転可能に支持される第1ピストン部材と、前記ハウジング内に回転可能に支持される第2ピストン部材と、を含み、前記ハウジング、前記第1ピストン部材および前記第2ピストン部材によって燃料を燃焼させるための燃焼室が形成される、内燃機関において、前記燃焼室内の気密を保つシール構造であって、
前記第1ピストン部材は、環状の第1回転体と、前記燃焼室の周方向の壁面を構成する第1壁面部材とを有し、
前記第2ピストン部材は、前記第1回転体に対して軸方向に隣り合って配置された環状の第2回転体と、前記燃焼室の周方向の壁面を構成する第2壁面部材とを有し、前記第2回転体は前記第1回転体に対向する対向面を有し、
前記第1壁面部材は、前記第2ピストン部材の前記対向面に対向する第一辺と、前記ハウジングに対向する第二辺と、前記第一辺と前記第二辺とが交わる角部とを有し、
前記シール構造は、
前記第一辺に保持され、前記第2ピストン部材に接触する、第1メインピースと第1サイドピースとを有する長手方向に分割された、第1アペックスシールと、
前記第二辺に保持され、前記ハウジングに接触する、第2メインピースと第2サイドピースとを有する長手方向に分割された、前記第1アペックスシールとは別部材の第2アペックスシールとを有
前記第1メインピースおよび前記第2メインピースが前記角部側に配置されている、内燃機関のシール構造。
【請求項2】
前記第2メインピースは、前記ハウジングに接触する摺動面と、前記摺動面の反対側の反対面とを有し、
前記第1メインピースは、前記反対面に当接する、請求項に記載のシール構造。
【請求項3】
前記第2メインピースが当接し、前記第2ピストン部材と前記ハウジングとの間をシールする、第1外周シールと、
前記第2サイドピースが当接し、前記第1ピストン部材と前記ハウジングとの間をシールする、第2外周シールとを備える、請求項またはに記載のシール構造。
【請求項4】
前記燃焼室の内周部をシールする合せ面シールをさらに備える、請求項1~のいずれか1項に記載のシール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内燃機関のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転軸と共に回転可能に設置された第1ロータおよび第2ロータを備えるロータリエンジンにおいて、第1ロータおよび第2ロータそれぞれの基部の間の気密性を保つリング状のシール材が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
また従来、バンケル型ロータリエンジンのロータとハウジングとの間をアペックスシールでシールする構成が提案されている(たとえば、特許文献2および3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-2559号公報
【文献】特公平5-7525号公報
【文献】特開2016-109060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回転可能な2つのピストン部材で燃焼室を構成する内燃機関では、ピストン部材とハウジングとの間のシールに加えて、組み合わせた2つのピストン部材間のシールが必要となる。燃焼室の壁面を構成する部材が角部を有する形状の場合、ピストン部材間の必要シール距離が物によってばらつくため、上記各文献に記載のシール構造を適用しても対応することができず、シール性は良くない。
【0006】
本開示では、燃焼室のシール性能を向上できるシール構造が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に従うと、内燃機関の燃焼室内の気密を保つシール構造が提供される。内燃機関は、ハウジングと、ハウジング内に回転可能に支持される第1ピストン部材と、ハウジング内に回転可能に支持される第2ピストン部材と、を含んでいる。ハウジング、第1ピストン部材および第2ピストン部材によって、燃料を燃焼させるための燃焼室が形成される。第1ピストン部材は、環状の第1回転体と、燃焼室の周方向の壁面を構成する第1壁面部材とを有している。第2ピストン部材は、環状の第2回転体と、燃焼室の周方向の壁面を構成する第2壁面部材とを有している。第2回転体は、第1回転体に対して軸方向に隣り合って配置されている。第2回転体は、第1回転体に対向する対向面を有している。第1壁面部材は、第2ピストン部材の対向面に対向する第一辺と、ハウジングに対向する第二辺と、第一辺と第二辺とが交わる角部とを有している。シール構造は、第1アペックスシールと、第1アペックスシールとは別部材の第2アペックスシールとを有している。第1アペックスシールは、第一辺に保持されており、第2ピストン部材に接触している。第1アペックスシールは、第1メインピースと第1サイドピースとを有する長手方向に分割された構造を有している。第2アペックスシールは、第二辺に保持されており、ハウジングに接触している。第2アペックスシールは、第2メインピースと第2サイドピースとを有する長手方向に分割された構造を有している。
【0008】
長手方向に分割された第1アペックスシールと、長手方向に分割された第2アペックスシールとを、それぞれ別部材として構成し、第1アペックスシールと第2アペックスシールとを組み合わせてシール構造を形成する。2つのピストン部材間の必要シール距離が物によってばらついたとしても、アペックスシールの長さが変化して追従することができ、これにより、燃焼室のシール性能を向上することができる。
【0009】
上記のシール構造において、第1アペックスシールでは、第1メインピースが第1壁面部材の角部側に配置されており、第2アペックスシールでは、第2メインピースが第1壁面部材の角部側に配置されている。第1メインピースおよび第2メインピースが角部をシールする構造とすることにより、角部のシール性能を向上することができる。
【0010】
上記のシール構造において、第2メインピースは、ハウジングに接触する摺動面と、摺動面の反対側の反対面とを有している。第1メインピースは、反対面に当接している。これにより、第1メインピースと第2メインピースとが角部をシールする構造を確実に実現することができる。
【0011】
上記のシール構造は、第2メインピースが当接し、第2ピストン部材とハウジングとの間をシールする、第1外周シールと、第2サイドピースが当接し、第1ピストン部材とハウジングとの間をシールする、第2外周シールとを備えている。これにより、シール性をさらに向上することができる。
【0012】
上記のシール構造は、燃焼室の内周部をシールする合せ面シールをさらに備えている。これにより、シール性をさらに向上することができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示に係るシール構造に従えば、燃焼室のシール性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態の内燃機関の構成を示す斜視図である。
図2】エンジン内部に設けられるピストン部材の構成の一例を示す図である。
図3】燃焼室およびエンジンの動作を説明するための模式図である。
図4】第1ピストン部材および第2ピストン部材の断面図である。
図5】シール構造を拡大して示す断面図である。
図6】第1ピストン部材とハウジングとの間のシール発生力を示す模式図である。
図7】第1および第2ピストン部材間のシール発生力を示す模式図である。
図8】第2実施形態における第1ピストン部材の斜視図である。
図9】第2実施形態におけるシール構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号が付されている。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0016】
[第1実施形態]
<エンジン2の概略構成>
図1は、実施形態の内燃機関の構成を示す斜視図である。実施形態の内燃機関は、回転ピストン型のエンジン2である。エンジン2の燃料には、たとえば、ガスやガソリンや軽油等が用いられる。エンジン2は、ハウジング4と、吸気管6と、排気管8と、インジェクタ10と、スロットルモータ14と、第1出力軸16と、第2出力軸18とを含む。
【0017】
吸気管6の一方端は、ハウジング4の吸気ポート(図示せず)に接続される。吸気管6の他方端には、たとえば、エアクリーナ(図示せず)が接続される。エアクリーナは、エンジン2の外部から吸入される空気から異物を除去する。エンジン2の作動中において、吸気管6には、エアクリーナから吸入された空気が流通する。吸気管6を流通する空気は、ハウジング4の吸気ポートに流通する。
【0018】
吸気管6には、吸気管6を流通する空気の流量を制限するスロットルバルブが設けられている。スロットルモータ14は、スロットルバルブの開度を調整する。
【0019】
インジェクタ10は、吸気管6のスロットルバルブよりも上流側に設けられ、燃料(たとえば、ガス)を吸気管6内に噴射する。噴射された燃料は、吸気管6内で空気と混合されてハウジング4の吸気ポートに流通する。
【0020】
ハウジング4の外周部分は、図1に示すように円筒形状によって形成されており、その内周部分も円筒形状に形成されている。ハウジング4は、その内部に、第1出力軸16に接続される第1ピストン部材と、第2出力軸18に接続される第2ピストン部材とを収納する。
【0021】
排気管8の一方端は、ハウジング4の排気ポート(図示せず)に接続される。排気管8の他方端には、たとえば、排気処理装置(図示せず)が接続される。エンジン2の作動中において、ハウジング4内での燃焼により生じた排気は、ハウジング4の排気ポートから排気管8に流通する。排気管に流通する排気は、排気処理装置によって浄化されて、エンジン2の外部に排出される。
【0022】
第1出力軸16および第2出力軸18は、いずれもハウジング4内での燃料の燃焼によって回転する。第1出力軸16および第2出力軸18は、たとえば、モータジェネレータ(図示せず)の回転軸に接続される。このモータジェネレータは、たとえば、三相交流回転電機である。
【0023】
<エンジン2の内部構造>
図2は、エンジン2内部に設けられるピストン部材の構成の一例を示す図である。図2を参照して、エンジン2の内部構造の一例について説明する。
【0024】
図2に示すように、ハウジング4内には、第1ピストン部材24と、第2ピストン部材28とが組み合わされて収納される。第1ピストン部材24は、第1回転体24aと、第1壁面部材24bとを含む。第2ピストン部材28は、第2回転体28aと、第2壁面部材28bとを含む。
【0025】
第1ピストン部材24と、第2ピストン部材28とは、ハウジング4によって回転可能に支持されている。第1回転体24aと第2回転体28aとは、各々環状の形状を有している。第1回転体24aと第2回転体28aとは、図2中に一点鎖線で図示される回転中心軸AXが一致している。第1回転体24aと第2回転体28aとは、回転中心軸AXを中心に回転可能である。第1回転体24aと第2回転体28aとは、第1回転体24aの一方の端面と第2回転体28aの一方の端面とが軸方向に対向するように設けられている。第1回転体24aと第2回転体28aとは、軸方向に隣り合って配置されている。
【0026】
なお本明細書中の説明では、回転中心軸AXと平行な方向を軸方向と称し、回転中心軸AXを中心とする円周に沿う方向を周方向と称し、回転中心軸AXと直交する方向を径方向と称する。径方向において、回転中心軸AXに近い側を内側と称し、回転中心軸AXから離れる側を外側と称する。
【0027】
第1回転体24aは、その回転中心軸AXを含む断面に斜面部分24cを有するように形成される。第2回転体28aは、その回転中心軸AXを含む断面に斜面部分28cを有するように形成される。これにより、第1回転体24aと第2回転体28aとが組み合わされた状態において、第1回転体24aと第2回転体28aとの間には、V字形状の断面を有する凹部が周方向に形成される。第1回転体24aの斜面部分24cは、第2回転体28aに対向している。第2回転体28aの斜面部分28cは、第1回転体24aに対向している。斜面部分28cは、実施形態における対向面に相当する。
【0028】
第1壁面部材24bは、第1回転体24aの斜面部分24cから、径方向外側に向けて延在し、第2回転体28aの斜面部分28cに向けて軸方向に延在するように、設けられている。第1壁面部材24bは、2つの三角形の板状部材によって構成される。第1壁面部材24bの2つの三角形の板状部材は、回転中心軸AXについて互いに対称となる位置に配置されている。
【0029】
第2壁面部材28bは、第2回転体28aの斜面部分28cから、径方向外側に向けて延在し、第1回転体24aの斜面部分24cに向けて軸方向に延在するように、設けられている。第2壁面部材28bは、上述の第1壁面部材24bを構成する板状部材と同形状となる、2つの三角形の板状部材によって構成される。第2壁面部材28bの2つの三角形の板状部材は、回転中心軸AXについて互いに対称となる位置に配置されている。図2には、第2壁面部材28bの2つの板状部材のうちの一方のみが図示されている。
【0030】
第1壁面部材24bおよび第2壁面部材28bの三角形の板状部材は、いずれも、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28がハウジング4に収納されている状態において第1回転体24aと第2回転体28aとの間のV字形状の凹部とハウジング4の内周面とによって形成される三角形の断面形状に合致するように、形成される。
【0031】
第1壁面部材24bは、三角形の一辺を構成する第一辺24b1と、三角形の一辺を構成する第二辺24b2と、第一辺24b1と第二辺24b2とが交わる角部24b3とを有する、角型の形状を有している。第1壁面部材24bの第一辺24b1は、第2回転体28aの斜面部分28cに対向している。第1壁面部材24bの第二辺24b2は、ハウジング4の内周面に対向している。第1壁面部材24bは、三角形の他の一辺において、第1回転体24aの斜面部分24cに固定されている。
【0032】
第2壁面部材28bは、第1壁面部材24bと同様の角型の形状を有している。第2壁面部材28bの三角形の一辺は、第1回転体24aの斜面部分24cに対向している。第2壁面部材28bの三角形の一辺は、ハウジング4の内周面に対向している。第2壁面部材28bは、三角形の他の一辺において、第2回転体28aの斜面部分28cに固定されている。
【0033】
第1回転体24aには、回転中心が一致するように第1出力軸16が接続される。第1回転体24aとハウジング4との間には、ワンウェイクラッチ22が設けられる。ワンウェイクラッチ22は、第1回転体24aのハウジング4内における予め定められた回転方向へのみ回転を許容し、予め定められた回転方向とは逆方向への回転を抑制する。
【0034】
第2回転体28aには、回転中心が一致するように第2出力軸18が接続される。第2回転体28aとハウジング4との間には、ワンウェイクラッチ26が設けられる。ワンウェイクラッチ26は、第2回転体28aのハウジング4内における予め定められた回転方向へのみ回転を許容し、予め定められた回転方向とは逆方向への回転を抑制する。
【0035】
第1壁面部材24bは、アペックスシール80を保持している。第2壁面部材28bは、アペックスシール80を保持している。第2回転体28aは、円環状の外周シール96を保持している。第1回転体24aは、円環状の外周シール97を保持している。第1回転体24aと第2回転体28aとの間に、合せ面シール40が設けられている。これらシールの詳細については後述する。
【0036】
<燃焼室>
図3は、燃焼室A~Dおよびエンジン2の動作を説明するための模式図である。図3には、ハウジング4の中央部分(たとえば、第1回転体24aと第2回転体28aとの当接部分)における、回転中心軸AXに直交する断面が模式的に示される。図3に示すように、ハウジング4内には、ハウジング4、第1ピストン部材24および第2ピストン部材28によって、燃料を燃焼させるための4つの燃焼室A~Dが形成される。
【0037】
燃焼室A~Dは、各々、ハウジング4の内周面と、第1ピストン部材24の第1壁面部材24bおよび斜面部分24cと、第2ピストン部材28の第2壁面部材28bおよび斜面部分28cとによって、規定されている。第1壁面部材24bおよび第2壁面部材28bは、燃焼室A~Dの周方向の壁面を構成している。周方向に隣り合う2つの燃焼室は、第1壁面部材24bおよび第2壁面部材28bによって仕切られている。
【0038】
図2に示されるワンウェイクラッチ22,26は、図3においては、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との反時計回りの回転を抑制し、時計回りの回転を許容する。
【0039】
図3に示される燃焼室Aでは、圧縮された空気と燃料との混合気が自着火によって着火する膨張行程となる。すなわち、燃焼室Aで燃料が燃焼すると、第1ピストン部材24の反時計回りの移動がワンウェイクラッチ22によって抑制されるため、第1ピストン部材24の回転位置が維持されつつ、第2ピストン部材28のみが破線矢印の方向に回転し、燃焼室A内の気体の膨張とともに燃焼室Aの容積が増加する。
【0040】
図3に示される燃焼室Bでは、膨張した排気が排気管8から排出される排気行程となる。すなわち、燃焼室Aでの燃料の燃焼によって、第2ピストン部材28が破線矢印の方向に回転すると、第1ピストン部材24の回転位置が維持されるため、燃焼室Bの容積が減少する。このとき、燃焼室Bは、排気管8と連通している。そのため、燃焼室B内の排気は、燃焼室Bの容積の減少とともに、排気管8に排出されていく。
【0041】
図3に示される燃焼室Cでは、吸気管6から空気と燃料との混合気が吸入される吸気行程となる。すなわち、燃焼室Aでの燃料の燃焼によって、第2ピストン部材28が破線矢印の方向に回転すると、第1ピストン部材24の回転位置が維持されるため、燃焼室Cの容積が増加する。このとき、燃焼室Cは、第2ピストン部材28が破線矢印の方向に回転する途中で、吸気管6と連通する。そのため、燃焼室Cの容積の増加とともに、吸気管6から混合気が燃焼室C内に吸入される。
【0042】
図3に示される燃焼室Dでは、吸気管6から吸入された混合気が圧縮される圧縮行程となる。すなわち、燃焼室Aでの燃料の燃焼によって、第2ピストン部材28が破線矢印の方向に回転すると、第1ピストン部材24の回転位置が維持されるため、燃焼室Dの容積が減少する。このとき、燃焼室Dは、吸気管6および排気管8のいずれにも連通していないため、燃焼室Dの容積の減少によって燃焼室D内の混合気が圧縮される。
【0043】
そして、燃焼室D内の圧力が上昇することによって第1ピストン部材24に時計回りの力が作用すると、第1ピストン部材24が回転し、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との位置関係が入れ替わることとなる。
【0044】
このようにして、燃焼室A~Dのうちのいずれかで燃焼する毎に、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28とが交互に回転することによって、エンジン2が動作する。
【0045】
<シール構造>
以下、燃焼室A~D内の気密を保つためのシール構造について説明する。図4は、第1ピストン部材24および第2ピストン部材28の断面図である。図4には、図2に示す回転中心軸AXを含み第1ピストン部材24の第1壁面部材24bを通る、第1ピストン部材24および第2ピストン部材28の断面が図示されている。図4においては、図中の左右方向が軸方向である。
【0046】
第1ピストン部材24と第2ピストン部材28とは、軸方向に並んで配置されている。第1ピストン部材24と第2ピストン部材28とは、軸受100を介して連結されており、互いに相対回転可能に構成されている。第1ピストン部材24には、潤滑油路241が形成されている。第2ピストン部材28には、潤滑油路281が形成されている。潤滑油路241と潤滑油路281とは連通している。
【0047】
図4に示されるように、燃焼室A~Dを気密にシールするためのシール構造は、アペックスシール50,80と、合せ面シール40と、コーナーシール60と、外周シール96,97を備えている。
【0048】
アペックスシール50は、第1ピストン部材24の第1壁面部材24bに保持されている。第1壁面部材24bには収容溝245が形成されており、収容溝245内にアペックスシール50が収容されている。収容溝245は、第1壁面部材24bの、第2ピストン部材28の斜面部分28cに対向する縁、すなわち図2に示される第1壁面部材24bの第一辺24b1に、形成されている。アペックスシール50は、第1壁面部材24bの第一辺24b1に保持されている。アペックスシール50は、実施形態における第1アペックスシールに相当する。
【0049】
アペックスシール80は、アペックスシール50とは別部材として設けられている。アペックスシール80は、第1ピストン部材24の第1壁面部材24bに保持されている。第1壁面部材24bには収容溝248が形成されており、収容溝248内にアペックスシール80が収容されている。収容溝248は、第1壁面部材24bの、ハウジング4の内周面に対向する外周縁、すなわち図2に示される第1壁面部材24bの第二辺24b2に、形成されている。アペックスシール80は、第1壁面部材24bの第二辺24b2に保持されている。アペックスシール80は、実施形態における第2アペックスシールに相当する。
【0050】
合せ面シール40は、図2に示されるように、環状の形状を有している。合せ面シール40は、図4に示されるように、第2ピストン部材28の斜面部分28cよりも径方向の内側に配置されている。合せ面シール40は、第1壁面部材24bよりも径方向の内側に配置されている。したがって合せ面シール40は、燃焼室A~Dよりも径方向の内側に配置されており、燃焼室A~Dの内周部をシールしている。合せ面シール40は、燃焼室A~Dから内周側へのガスの漏れを抑制している。
【0051】
合せ面シール40は、第1ピストン部材24に保持されている。第1ピストン部材24には環状溝が形成されており、この環状溝内に合せ面シール40が収容されている。合せ面シール40は、第2ピストン部材28に密着している。第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との相対回転に伴い、合せ面シール40は第2ピストン部材28に対して摺動する。
【0052】
コーナーシール60は、合せ面シール40とアペックスシール50との交差部に配置されている。第1ピストン部材24には、第1壁面部材24bの径方向内側の端部に収容凹部が形成されており、この収容凹部内にコーナーシール60が収容されている。したがってコーナーシール60は、第1壁面部材24bの径方向内側の端部において、第1ピストン部材24に保持されている。収容凹部の底面にはばね部材73が設けられており、ばね部材73はコーナーシール60を収容凹部の外側へ向けて付勢している。
【0053】
コーナーシール60は、シール面61を有している。シール面61は、第2ピストン部材28に接触している。第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との相対回転に伴い、シール面61は第2ピストン部材に対して摺動する。ばね部材73がコーナーシール60を付勢していることにより、シール面61の第2ピストン部材28への密着性が確保されている。
【0054】
コーナーシール60には、シール面61の一部分が窪んだ凹部が形成されている。この凹部内に合せ面シール40の一部が配置されて、合せ面シール40はコーナーシール60と係合している。コーナーシール60の径方向外側の表面に、スリット状の差込部が形成されている。この差込部にアペックスシール50が差し込まれて、アペックスシール50はコーナーシール60と係合している。コーナーシール60は、アペックスシール50と合せ面シール40とを接続して、シールの切れ目を発生させないようにしている。
【0055】
図5は、シール構造を拡大して示す断面図である。図5に示されるように、アペックスシール50は、その長手方向端部において、当該長手方向に対して傾斜する傾斜面によって、メインピース51とサイドピース52とに分割されている。アペックスシール50は、メインピース51とサイドピース52とを有する、長手方向に分割された構造を有している。メインピース51は、実施形態における第1メインピースに相当する。サイドピース52は、実施形態における第1サイドピースに相当する。
【0056】
アペックスシール50の長手方向におけるサイドピース52の長さは、メインピース51の長さに比べてかなり短い。径方向(図5においては図中の上下方向)において、メインピース51が外側に配置され、サイドピース52が内側に配置されている。第1壁面部材24bの角部24b3には、サイドピース52ではなく、メインピース51が配置されている。
【0057】
メインピース51とサイドピース52とに対して収容溝245の底側に、弓型形状のスプリング部53,54が設置されている。スプリング部53,54は、メインピース51とサイドピース52とを、収容溝245の外側へ向けて、すなわち第2ピストン部材28へ向けて付勢している。これによりメインピース51とサイドピース52とは、第2ピストン部材28、より具体的には第2回転体28aの斜面部分28cに接触している。スプリング部53,54はまた、メインピース51とサイドピース52とを、その長手方向の両端に向けて付勢している。
【0058】
アペックスシール80は、その長手方向端部において、当該長手方向に対して傾斜する傾斜面によって、メインピース81とサイドピース82とに分割されている。アペックスシール80は、メインピース81とサイドピース82とを有する、長手方向に分割された構造を有している。メインピース81は、実施形態における第2メインピースに相当する。サイドピース82は、実施形態における第2サイドピースに相当する。
【0059】
アペックスシール80の長手方向におけるサイドピース82の長さは、メインピース81の長さに比べてかなり短い。軸方向(図5においては図中の左右方向)において、メインピース81が第2ピストン部材28に近く配置され、サイドピース82が第2ピストン部材28から離れて配置されている。第1壁面部材24bの角部24b3には、サイドピース82ではなく、メインピース81が配置されている。
【0060】
メインピース81とサイドピース82とに対して収容溝248の底側に、弓型形状のスプリング部83,84が設置されている。スプリング部83,84は、メインピース81とサイドピース82とを、収容溝248の外側へ向けて、すなわちハウジング4へ向けて付勢している。これによりメインピース81とサイドピース82とは、ハウジング4の内周面に接触している。スプリング部83,84はまた、メインピース81とサイドピース82とを、その長手方向の両端に向けて付勢している。
【0061】
メインピース81は、ハウジング4に接触する摺動面81s1と、摺動面81s1の反対側の反対面81s2とを有している。メインピース51の、サイドピース52に対向しない側の端部が、メインピース81の反対面81s2に当接している。これにより、第1壁面部材24bの角部24b3が、メインピース51およびメインピース81によってシールされることになる。
【0062】
アペックスシールのメインピースとサイドピースとの配置の向きは、必ずしも上記内容に限定されない。たとえば、アペックスシール50とアペックスシール80との合わせ部側、すなわち第1壁面部材24bの角部24b3側に、サイドピースを配置しても良い。
【0063】
外周シール96は、図2に示されるように、環状の形状を有している。図4,5に示されるように、外周シール96は、第2ピストン部材28に保持されている。メインピース81の、サイドピース82に対向しない側の端部が、外周シール96に当接している。外周シール96は、アペックスシール80に接触し、第2ピストン部材28に接触し、かつ、ハウジング4の内周面に接触している。外周シール96は、第2ピストン部材28とハウジング4との間をシールしている。外周シール96は、実施形態の第1外周シールに相当する。
【0064】
外周シール97は、図2に示されるように、環状の形状を有している。図4,5に示されるように、外周シール97は、第1ピストン部材24に保持されている。サイドピース82が、外周シール97に当接している。外周シール97は、アペックスシール80に接触し、第1ピストン部材24に接触し、かつ、ハウジング4の内周面に接触している。外周シール97は、第1ピストン部材24とハウジング4との間をシールしている。外周シール97は、実施形態の第2外周シールに相当する。
【0065】
図6は、第1ピストン部材24とハウジング4との間のシール発生力を示す模式図である。上述した通り、スプリング部83,84がメインピース81およびサイドピース52に付勢力を作用する。スプリング部84の付勢力によって、メインピース81にシール発生力F1が作用する。シール発生力F1は、外周シール96を第2ピストン部材28に押し付けるように作用する。このようにして、第2ピストン部材28とハウジング4との間の隙間が、外周シール96によって確実にシールされる。
【0066】
スプリング部83,84の付勢力によって、メインピース81にシール発生力F2が作用する。シール発生力F2は、メインピース81をハウジング4に押し付けるように作用する。スプリング部84の付勢力によって、サイドピース82にシール発生力F3,F4が作用する。シール発生力F3は、サイドピース82をメインピース81に押し付けるように作用する。シール発生力F4は、外周シール97を第1ピストン部材24に押し付けるように作用する。このようにして、第1ピストン部材24とハウジング4との間の隙間が、アペックスシール80および外周シール97によって確実にシールされる。
【0067】
図7は、第1ピストン部材24および第2ピストン部材28の間のシール発生力を示す模式図である。上述した通り、スプリング部53,54がメインピース51およびサイドピース52に付勢力を作用する。スプリング部53,54の付勢力によって、メインピース51にシール発生力F5,F6が作用する。シール発生力F5は、メインピース51をメインピース81の反対面81s2に押し付けるように作用する。シール発生力F6は、メインピース51を第2ピストン部材28に押し付けるように作用する。
【0068】
スプリング部54の付勢力によって、サイドピース52にシール発生力F7,F8が作用する。シール発生力F7は、サイドピース52をメインピース51に押し付けるように作用する。シール発生力F8は、サイドピース52をコーナーシール60に押し付けるように作用する。このようにして、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との間の隙間が、アペックスシール50によって確実にシールされる。
【0069】
<作用および効果>
以上説明した実施形態のシール構造では、図5に示されるように、第1ピストン部材24の角型の第1壁面部材24bに、アペックスシール50,80が保持されている。アペックスシール50は、第2ピストン部材28に接触して、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との間をシールする。アペックスシール80は、ハウジング4に接触して、第1ピストン部材24とハウジング4との間をシールする。アペックスシール50とアペックスシール80とは、別部材として構成されており、各々が長手方向に分割されている。このようなアペックスシール50とアペックスシール80とを組み合わせてシール構造を形成することで、ハウジング4、第1ピストン部材24、および第2ピストン部材28の寸法ばらつきおよび相対動きにより発生する隙間を吸収できるので、燃焼室A~Dのシール性能を向上することができる。
【0070】
実施形態のシール構造によって燃焼室A~Dが気密にシールされるので、燃焼室A~Dからの気体の漏れを低減できる。したがって、エンジン2の燃焼効率および排気性能の向上が可能であり、エンジン2の性能向上を達成することができる。
【0071】
図5に示されるように、第1壁面部材24bの角部24b3を、アペックスシール50のメインピース51とアペックスシール80のメインピース81とがシールしている。このようにすれば、角部24b3のシール性能を向上することができる。また、アペックスシール80のスプリング部84の形状の設計を容易にできる。
【0072】
図5に示されるように、アペックスシール50のメインピース51が、アペックスシール80のメインピース81の反対面81s2に当接している。これにより、メインピース51およびメインピース81が角部24b3をシールする構造を確実に実現することができる。
【0073】
図5に示されるように、ピストン部材とハウジング4との間をシールする外周シール96,97が設けられている。これにより、シール性をさらに向上することができる。
【0074】
図4に示されるように、燃焼室A~Dの内周部をシールする合せ面シール40が設けられている。これにより、シール性をさらに向上することができる。
【0075】
[第2実施形態]
図8は、第2実施形態における第1ピストン部材24の斜視図である。第1壁面部材24bおよび第2壁面部材28bは、第一実施形態で説明した三角形の板状形状に限られない。第1壁面部材24bおよび第2壁面部材28bは、たとえば図8に示されるように、四角形の板状形状を有してもよい。図8に示される第1壁面部材24bは、ハウジング4に対向する第二辺24b2と、第2ピストン部材28の第2回転体28aに対向する第一辺24b1および第三辺24b4とを有している。第1壁面部材24bは、第一辺24b1と第二辺24b2とが交わる角部24b3と、第一辺24b1と第三辺24b4とが交わる角部24b5とを有している。
【0076】
代替的には、第1壁面部材24bは、第一辺24b1と第二辺24b2とが交わる角部24b3を有する、任意の角型の形状を有してもよい。
【0077】
図9は、第2実施形態におけるシール構造の模式図である。なお図9では、各アペックスシールのスプリング部は図示を省略されている。図9に示されるシール構造は、第1実施形態と同様に、第一辺24b1に保持され第2ピストン部材28に接触するアペックスシール50と、第二辺24b2に保持されハウジング4に接触するアペックスシール80とを備えている。シール構造はさらに、第3のアペックスシール130を備えている。アペックスシール130は、第1壁面部材24bの第三辺24b4に保持されている。第1壁面部材24bの第三辺24b4には収容溝が形成されており、この収容溝内にアペックスシール130が収容されている。
【0078】
アペックスシール130は、メインピース131とサイドピース132とに分割されている。軸方向(図9においては図中の左右方向)において、メインピース131が第2ピストン部材28に近く配置され、サイドピース132が第2ピストン部材28から離れて配置されている。角部24b5には、メインピース131が配置されている。メインピース131は、第2ピストン部材28に接触している。スプリング部の付勢力によって、メインピース131を第2ピストン部材28に押し付けるシール発生力が作用し、サイドピース132をメインピース131および第1ピストン部材24に押し付けるシール発生力が作用する。
【0079】
図9に示されるアペックスシール50は、第1実施形態で説明したメインピース51およびサイドピース52に加えて、サイドピース52が設けられている長手方向端部とは逆側の長手方向端部に、サイドピース55を備えている。サイドピース52はアペックスシール130に当接し、サイドピース55はアペックスシール80に当接している。
【0080】
このような構成を備えている第2実施形態のシール構造によって、第1ピストン部材24と第2ピストン部材28との間の隙間を確実にシールすることができる。なおアペックスシール50は、サイドピース55を有しない第1実施形態と同じ構造であっても構わない。
【0081】
第2実施形態では、第1壁面部材24bは、周方向に並ぶ2組のシール構造を保持している。第1実施形態のように第1壁面部材24bが1組のシール構造を保持する構成としてもよく、第2実施形態のように第1壁面部材24bが複数組のシール構造を保持する構成としてもよい。
【0082】
以上のように実施形態について説明を行なったが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0083】
2 エンジン、4 ハウジング、24 第1ピストン部材、24a 第1回転体、24b 第1壁面部材、24b1 第一辺、24b2 第二辺、24b3,24b5 角部、24b4 第三辺、24c,28c 斜面部分、28 第2ピストン部材、28a 第2回転体、28b 第2壁面部材、40 合せ面シール、50,80,130 アペックスシール、51,81,131 メインピース、52,55,82,132 サイドピース、53,54,83,84 スプリング部、60 コーナーシール、61 シール面、73 ばね部材、81s1 摺動面、81s2 反対面、96,97 外周シール、245,248 収容溝、A,B,C,D 燃焼室、AX 回転中心軸、F1~F8 シール発生力。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9