(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】ハブ構造
(51)【国際特許分類】
F16C 19/38 20060101AFI20220329BHJP
B60B 35/02 20060101ALI20220329BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
F16C19/38
B60B35/02 L
F16C33/78 C
(21)【出願番号】P 2018235024
(22)【出願日】2018-12-17
【審査請求日】2021-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(72)【発明者】
【氏名】丸田 裕己
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】西独国特許出願公開第3811970(DE,A1)
【文献】特開2008-44460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00
33/00
35/00
B60B 27/00
35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクスルハウジングと、
前記アクスルハウジングが挿通される車幅方向の挿通孔を有するハブと、
前記挿通孔にて前記ハブと前記アクスルハウジングとの間に介在され、前記ハブを前記アクスルハウジングに対して回転可能に支持するインナベアリングと、
前記挿通孔にて前記ハブと前記アクスルハウジングとの間に設けられ、車幅方向において前記インナベアリングよりも内側に設けたオイルシールと、を備えるハブ構造であって、
前記挿通孔において前記インナベアリングと前記オイルシールとの間にスペーサが設けられ、
前記スペーサの内周面は、前記インナベアリングが有するインナレース
における前記スペーサ側の外周面よりも前記アクスルハウジングの軸心側に位置することを特徴とするハブ構造。
【請求項2】
前記スペーサは、前記アクスルハウジングが挿通される通孔を有するリング体であることを特徴とする請求項1記載のハブ構造。
【請求項3】
前記スペーサは、すきまばめによって前記ハブに嵌合されることを特徴とする請求項1又は2記載のハブ構造。
【請求項4】
前記スペーサは、しまりばめによって前記ハブに嵌合されることを特徴とする請求項1又は2記載のハブ構造。
【請求項5】
前記ハブは、前記挿通孔を形成する内周壁にて周方向に間隔を設けて形成される複数の溝部を有し、
前記スペーサは、前記溝部に嵌合可能であることを特徴とする請求項1記載のハブ構造。
【請求項6】
前記オイルシールは、
前記挿通孔を形成する内周壁と当接する外環部と、
前記アクスルハウジングの外周壁と摺接する内環部と、
前記外環部の一方の端部と前記内環部の一方の端部とを接続する中間接続部と、を備え、
前記スペーサが前記中間接続部に当接可能な向きで設けられていることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項記載のハブ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ハブ構造に関し、特に、アクスルハウジングとアクスルハウジングに対して回転可能なハブを有するハブ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ハブ構造の従来技術としては、例えば、特許文献1に開示されたハブ構造が知られている。特許文献1に開示されたハブ構造は、ハブを有し、このハブには、アクスルハウジングが挿入されるハウジング収納部が形成されている。ハブは、インナベアリングを介して、アクスルハウジングに回転自在に支持されている。ハブの内部には、インナベアリングをハブに対して支持するためのリング状のスペーサが配置されている。スペーサは、リング状の保持部と、保持部の外周面から突設したリング状のフランジ部とを備えている。保持部は、ハブのハウジング収納部に嵌め込まれ、フランジ部は、ハブの内側開口端面に係止されている。ハブの内側部分には、ハブの内側開口端面を覆うように付属部材が着脱自在に取り付けられている。付属部材とアクスルハウジングとの間には、ハブとアクスルハウジングとの間に充填されるベアリング用の潤滑油が漏れ出さないように、パッキンが介在される。
【0003】
特許文献1に開示されたハブ構造によれば、インナベアリングの回転体保持器とインナレースとは、スペーサによって保持されることになる。従って、インナベアリングのインナレースがハブに対してズレ動いて脱落するのが防止されるため、アクスルハウジングをハブのハウジング収納部に挿入するときに、特に作業者がインナレースを手で押さえておく必要がなくなる。また、インナベアリングをハブに支持するためのハブのかしめ作業を実施しなくて済む。これにより、ハブとアクスルハウジングとの組付けを容易に行うことができ、組付け作業の作業性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されたハブ構造は、付属部材を必要とするため、部品点数が多くなるほか、付属部材を設けるためのスペースが必要である。従って、ハブ構造のスペースが制約を受ける場合には、特許文献1に開示されたハブ構造を採用することはできない。ハブ構造のスペースが制約される条件であっても、組立や分解がより容易であって、付属部材を必要とすることのない部品点数の少ないハブ構造が望まれている。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、ハブ構造のスペースが制約される条件であっても、組立や分解がより容易なハブ構造の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、アクスルハウジングと、前記アクスルハウジングが挿通される車幅方向の挿通孔を有するハブと、前記挿通孔にて前記ハブと前記アクスルハウジングとの間に介在され、前記ハブを前記アクスルハウジングに対して回転可能に支持するインナベアリングと、前記挿通孔にて前記ハブと前記アクスルハウジングとの間に設けられ、車幅方向において前記インナベアリングよりも内側に設けたオイルシールと、を備えるハブ構造であって、前記挿通孔において前記インナベアリングと前記オイルシールとの間にスペーサが設けられ、前記スペーサの内周面は、前記インナベアリングが有するインナレースにおける前記スペーサ側の外周面よりも前記アクスルハウジングの軸心側に位置することを特徴とする。
【0008】
本発明では、スペーサが挿通孔にてインナベアリングとオイルシールとの間に設けられる。このため、インナベアリングおよびオイルシールが装着されたハブをアクスルハウジングに組み付けるとき、スペーサはインナベアリングが有するインナレースの脱落を防止するので、ハブの組み付けが容易となる。また、スペーサがインナベアリングとオイルシールとの間に設けられるので、ハブをアクスルハウジングから取り外すとき、インナベアリングの保持器およびインナレースの角部がオイルシールに直接接触することがない。このため、オイルシールを破損することなくハブを簡単にアクスルハウジングから取り外して分解することができる。
【0009】
また、上記のハブ構造において、前記スペーサは、前記アクスルハウジングが挿通される通孔を有するリング体である構成としてもよい。
この場合、スペーサがリング体であることから、スペーサの形状が単純化されており、スペーサの製作が比較的容易となる。その結果、ハブ構造の製作コストを低減することができる。
【0010】
また、上記のハブ構造において、前記スペーサは、すきまばめによって前記ハブに嵌合される構成としてもよい。
この場合、スペーサはすきまばめによってハブに嵌合されている。このため、ハブをアクスルハウジングから取り外すとき、スペーサが移動してオイルシールに押し付けられる。その結果、オイルシールを簡単に取り外すことができる。また、スペーサがオイルシールを押し付けるのでオイルシールを破損することなくハブから取り外すことができる。
【0011】
また、上記のハブ構造において、前記スペーサは、しまりばめによって前記ハブに嵌合される構成としてもよい。
この場合、スペーサはしまりばめによってハブに嵌合されている。このため、ハブをアクスルハウジングから取り外すとき、スペーサがハブに対して移動せずオイルシールがハブから脱落することはない。従って、ハブをアクスルハウジングから取り外す度にオイルシールが取り外されることはない。
【0012】
また、上記のハブ構造において、前記ハブは、前記挿通孔を形成する内周壁にて周方向に間隔を設けて形成される複数の溝部を有し、前記スペーサは、前記溝部に嵌合可能である構成としてもよい。
この場合、スペーサがリング体である場合と比較してハブ構造の軽量化を図ることが可能である。また、スペーサをリング体とすることができない場合であっても、ハブ構造の組立や分解を容易に行うことができる。
【0013】
また、上記のハブ構造において、前記オイルシールは、前記挿通孔を形成する内周壁と当接する外環部と、前記アクスルハウジングの外周壁と摺接する内環部と、前記外環部の一方の端部と前記内管部の一方の端部とを接続する中間接続部とを備え、前記スペーサが前記中間接続部に当接可能な向きで設けられている構成としてもよい。
この場合、ハブをアクスルハウジングから取り外すとき、スペーサが中間接続部と当接しても、オイルシールが破損することはない。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ハブ構造のスペースが制約される条件であっても、組立や分解がより容易なハブ構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施形態に係るハブ構造を示す縦断面図である。
【
図2】(a)はハブ構造が備えるスペーサの斜視図であり、(b)はハブ構造におけるスペーサ付近の拡大断面図である。
【
図3】第1の実施形態に係るハブ構造の組み立てを説明する説明図である。
【
図4】第1の実施形態に係るハブ構造の分解を説明する説明図である。
【
図5】第1の実施形態の別例に係るハブ構造の分解を説明する説明図である。
【
図6】第2の実施形態に係るハブ構造を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態に係るハブ構造について図面を参照して説明する。本実施形態のハブ構造は産業車両としてのフォークリフトのフロントアクスルに適用した例であり、湿式ブレーキを備えるフロントアクスルである。
【0017】
図1に示すハブ構造10は、車幅方向に延在する円筒状のアクスルハウジング11と、車輪(図示せず)を備える回転可能なハブ12と、アクスルハウジング11に対してハブ12を回転可能に支持するアウタベアリング13およびインナベアリング14と、を備えている。また、ハブ構造10は、潤滑油の外部への漏洩を防止するオイルシール15を備えている。
【0018】
アクスルハウジング11におけるフォークリフトの車幅方向における中心側となる内側の端部(図示せず)は、車体(図示せず)に固定されている。内側の端部と反対側となる外側の端部は、車幅方向の外側へ向けて突出している。アクスルハウジング11には、アクスル軸17を挿通するアクスル軸挿通孔16を有している。アクスル軸挿通孔16の軸心P方向は車幅方向と一致する。なお、アクスル軸挿通孔16およびアクスル軸17は、説明の便宜上、図示を簡略化している。
【0019】
アクスルハウジング11は、車幅方向において外周径の異なる複数の外周面を備えている。具体的には、アクスルハウジング11は、車幅方向において内側から外側へ向けて順に、第1外周面18、第2外周面19および第3外周面20を有する。第1外周面18の外周径は、第2外周面19および第3外周面20よりも大きい。第2外周面19の外周径は、第3外周面20の外周径よりも大きい。第1外周面18と第2外周面19との間には、軸心P方向と直交する段差面21が形成されている。第2外周面19の段差面21側には面取りされた面取り面22が形成されている。第2外周面19と第3外周面20との間は、外側へ向かうにつれて外周径が小さくなるテーパー面23が形成されている。
【0020】
ハブ12は、筒状体25と、筒状体25の外側の端部にて径方向の外周側へ延在するフランジ体26と、を備えているほか、アクスルハウジング11が挿通される挿通孔27を有する。挿通孔27を形成するハブ内周壁は、車幅方向において内周径の異なる複数の内周面を備えている。具体的には、ハブ12は、車幅方向における内側から外側へ向けて順に、第1内周面31、第2内周面32、第3内周面33、第4内周面34および第5内周面35を有している。
【0021】
第1内周面31の内周径は最も大きく、第2内周面32の内周径は第1内周面31の次に大きい。第5内周面35は、第2内周面32の次に内周径が大きく、第3内周面33は、第5内周面35の次に内周径が大きい。第4内周面34の内周径は最も小さい。第1内周面31と第2内周面32との間には、内側から外側へ向けて僅かに内周径が大きくなる第1テーパー面36が形成されている。第2内周面32と第3内周面33との間には、第1段差面37が形成されている。第3内周面33の第1段差面37側には面取りされた面取り面38が形成されている。第3内周面33と第4内周面34との間には、第2段差面39が形成されている。第4内周面34と第5内周面35との間には、第3段差面40が形成されている。第5内周面35の外側には面取り面41が形成されている。
【0022】
ハブ12のフランジ体26には、車輪(図示せず)をハブ12に取り付けるためのボルト(図示せず)を挿通する、ボルト孔45が形成されている。フランジ体26の内側面にはと、ボルトの頭部が収容される凹部46が形成されている。ハブ12の挿通孔27にはアクスルハウジング11が挿通され、ハブ12は、挿通孔27にてハブ12とアクスルハウジング11との間に介在されているアウタベアリング13およびインナベアリング14によりアクスルハウジング11に対して回転可能に支持される。
【0023】
次に、アウタベアリング13およびインナベアリング14について説明する。アウタベアリング13は、挿通孔27において車幅方向の外側に介在され、インナベアリング14は、挿通孔27において車幅方向においてアウタベアリング13よりも内側に介在されている。
【0024】
アウタベアリング13は、テーパローラベアリングであり、インナレース51、アウタレース52、転動体(ころ)53および保持器54を有している。転動体53は保持器54によってインナレース51に保持されている。インナレース51は、アウタレース52に対して着脱可能である。アウタレース52は、ハブ12の挿通孔27に圧入され、第5内周面35と当接してハブ12に保持される。アウタレース52の内側の端面である内側端面52Aは第3段差面40に当接している。外側から内側へ向かうにつれて転動体53の軸心が径方向の中心へ向かうように、アウタベアリング13は装着されている。インナレース51は、すきまばめによってアクスルハウジング11の第3外周面20に装着されている。インナレース51の外側の端面である外側端面51Aは、車幅方向においてアウタレース52の外側の端面よりも外側へ突出している。
【0025】
インナベアリング14は、テーパローラベアリングであり、インナレース56、アウタレース57、転動体(ころ)58および保持器59を有している。転動体58は保持器59によってインナレース56に保持されている。インナレース56は、アウタレース57に対して着脱可能である。アウタレース57は、ハブ12の挿通孔27に圧入され、第3内周面33と当接してハブ12に保持される。
図1、
図2に示すように、アウタレース57の外側の端面である外側端面57Aは第2段差面39に当接している。外側から内側へ向かうにつれて転動体58の軸心が径方向の中心から遠ざかるように、インナベアリング14は装着されている。インナレース56は、すきまばめによってアクスルハウジング11の第2外周面19に装着されている。インナレース56の内側の端面である内側端面56Aは、車幅方向においてアウタレース57の内側の端面よりも内側へ突出し、段差面21に当接している。
【0026】
次に、オイルシール15について説明する。オイルシール15は、車幅方向においてインナベアリング14の内側に設けられる。オイルシール15は、外環部61、内環部62および中間接続部63を備えている。外環部61はハブ12の第2内周面32に当接可能な外周面を有する円環状の部位である。内環部62は、アクスルハウジング11の第1外周面18と摺接するリップを有する円環状の部位である。中間接続部63は、外環部61の一方の端部と内環部62とを接続する部位である。従って、オイルシール15は断面L字状の形状を呈している。オイルシール15は可撓性をゴム系材料により形成されており、オイルシール15の外環部61と中間接続部63にわたって金属製の補強部材(図示せず)が内蔵されているほか、リップの締め付け力を付与する環状リング64が内環部62に設けられている。内環部62の外側面は軸心Pに対して直交する平坦面となっている。オイルシール15は、車幅方向においてハブ12より内側に設けられた湿式ブレーキ(図示せず)の潤滑油が車幅方向の外側(インナベアリング14側)へ漏洩することを防止する。
【0027】
本実施形態では、車幅方向においてインナベアリング14とオイルシール15との間にスペーサ65が設けられている。
図3に示すように、スペーサ65は通孔66を有するリング体である。
図2に示すように、スペーサ65の一方の端面である内側端面70はオイルシール15と対向する面であり、他方の端面である外側端面71はインナベアリング14と対向する面である。スペーサ65の外周面67は第2内周面32に当接し、スペーサ65の内周面68は、インナベアリング14のインナレース56の外周面よりも軸心P側に位置する。スペーサ65は、挿通孔27においてハブ12とすきまばめにより嵌合する。従って、スペーサ65の外周面67は第2内周面32と当接するが、スペーサ65は車幅方向の荷重を受けるとハブ12に対して車幅方向に移動可能である。挿通孔27におけるオイルシール15と第1段差面37との間は、スペーサ65の板厚よりも僅かに大きいため、スペーサ65が移動できる範囲は僅かである。
【0028】
内周面68は外周面67および軸心Pと平行でなくアクスルハウジング11の面取り面22に沿うように傾斜している。内周面68が面取り面22に沿って傾斜することにより、スペーサ65においてインナレース56と当接する部位は、内周面が軸心Pと平行である場合と比較すると増大している。また、スペーサ65の外周面67と内側端面70および外側端面71との間は面取りされた面取り面69がそれぞれ形成されている。このため、第2内周面32と第1段差面37との角部に面取り面(図示せず)が形成される場合でも、スペーサ65の外周面67側の角部とハブ側の第1段差面37側の面取り面69が当接することがなく、スペーサ65に局所的な荷重が掛ることはない。
【0029】
次に、本実施形態のハブ構造10の組み付けの手順について説明する。まず、作業者は、ハブ12に対してインナベアリング14、スペーサ65およびオイルシール15を組み付ける。最初にインナベアリング14のアウタレース57を、挿通孔27において第1内周面31から第3内周面33に向けて挿入し、アウタレース57をハブ12に対して圧入する。アウタレース57の外側端面57Aが第2段差面39に当接することにより、アウタレース57は車幅方向において位置決めされる。
【0030】
次に、作業者は、転動体58および保持器59を備えるインナレース56をアウタレース57と一体化させつつ、スペーサ65を第1段差面37に突き当たるまで挿通孔27に挿入して、スペーサ65をハブ12に装着する。スペーサ65の外周面67はハブ12の第2内周面32と当接するが、スペーサ65はハブ12に対してすきまばめにより嵌合されている。スペーサ65が第1段差面37に突き当たった状態では、スペーサ65における内周面68付近の部位がインナレース56の内側端面56Aと僅かな隙間を保って位置する状態となる。
【0031】
次に、作業者は、オイルシール15をハブ12に装着する。オイルシール15の外環部61が第2内周面32に対して当接する。オイルシール15は挿通孔27に挿入されるが、スペーサ65が第1段差面37に押し付けられるまで押し込まれる。オイルシール15はハブ12に対して圧入されるので、ハブ12に対して移動不可能となる。
【0032】
オイルシール15がハブ12に装着された状態では、スペーサ65がハブ12の第1段差面37とオイルシール15との間にて固定された状態となる。インナベアリング14は、テーパローラベアリングであるため、構造として、転動体58および保持器59を一体的に備えるインナレース56はアウタレース57から脱落可能である。しかしながら、インナレース56の脱落を妨げるようにスペーサ65が設けられているため、脱落しようとするインナレース56はスペーサ65と干渉して脱落が防止される。
【0033】
次に、作業者は、インナベアリング14、スペーサ65およびオイルシール15が組み付けられたハブ12を、アクスルハウジング11に組み付ける。
図4に示すように、ハブ12の挿通孔27にアクスルハウジング11が挿入されるように、ハブ12を外側から内側へ移動させる。
図4ではハブ12の移動方向を白抜矢印にて示す。ハブ12は、インナベアリング14のインナレース56がアクスルハウジング11の段差面21に突き当たるまで移動される。インナレース56はアクスルハウジング11へすきまばめによって装着される。ハブ12のアクスルハウジング11に対する組み付けにより、オイルシール15の内環部62はアクスルハウジング11の第1外周面18と摺接可能である(
図1を参照)。
【0034】
本実施形態では、インナレース56の内周面がアクスルハウジング11の第2外周面19に嵌合するまでは、インナレース56はアウタレース57に対してぐらつくことが可能な状態であるが、インナレース56はアウタレース57から脱落しない状態にある。このため、アウタレース57から脱落する従来のハブ構造と比較すると、作業者は、インナレース56の脱落を防止するためにインナレース56を手で支える必要はない。従って、作業者は、インナレース56の脱落防止を意識する必要がなく、インナレース56の軸心Pとアクスルハウジング11の軸心Pとの位置合わせに集中できる。よって、ハブ12の組付け時における作業性が向上し、ハブ12の組付作業は容易となる。
【0035】
ハブ12のアクスルハウジング11に対する組付けが終了すると、作業者はアウタベアリング13をアクスルハウジング11およびハブ12に装着する。まず、アウタベアリング13のアウタレース52をハブ12に圧入により装着する。次に、転動体53および保持器54を一体的に備えたインナレース51をアクスルハウジング11に圧入により装着する。なお、アウタレース52のハブ12への圧入は、インナベアリング14のアウタレース57をハブ12へ圧入するのと同じタイミングで装着してもよい。
【0036】
次に、本実施形態のハブ構造10の分解の手順について説明する。まず、作業者はハブ12がアクスルハウジング11から取り外し可能な状態にする。次に、
図5に示すように、作業者はハブ12をアクスルハウジング11から引き抜くように車幅方向における外側へ移動させる。
図5ではハブ12の移動方向を白抜矢印にて示す。説明の便宜上、
図5では、アウタベアリング13の図示を省略している。
【0037】
ハブ12が車幅方向の外側へ移動すると、インナベアリング14のアウタレース57はハブ12とともに移動する。また、ハブ12に圧入されているオイルシール15、およびスペーサ65はハブ12とともに移動する。スペーサ65は、ハブ12が移動することによりインナベアリング14のインナレース56の内側端面56Aに当接し、内側端面56Aを押し付ける。オイルシール15の圧入による摩擦力がアクスルハウジング11に装着されているインナレース56のすきまばめによる摩擦力より大きいため、インナベアリング14の転動体58および保持器59を備えるインナレース56は、アクスルハウジング11から抜け出す方向(外側)へ移動する。
【0038】
ハブ12をアクスルハウジング11から引き抜く際に、スペーサ65がインナレース56を押し付けると、スペーサ65の外側端面71はオイルシール15の中間接続部63の外側面にわたって面接触する。従って、オイルシール15は中間接続部63の外側面の全体でスペーサ65からの荷重を受ける。つまり、ハブ12の引き抜き時において、オイルシール15に対してインナレース56の角部や保持器59が干渉することはないため、オイルシール15は、局所的な過度の荷重を受けることがなく、損傷することはない。
【0039】
ハブ12を引き抜くことにより、スペーサ65に押し付けられるインナレース56はアクスルハウジング11から取り外される。ハブ12はアクスルハウジング11から取り外された状態となる。
【0040】
本実施形態のハブ構造10は以下の作用効果を奏する。
(1)スペーサ65が挿通孔27にてインナベアリング14とオイルシール15との間に設けられる。このため、インナベアリング14およびオイルシール15が装着されたハブ12をアクスルハウジング11に組み付けるとき、スペーサ65はインナベアリング14が有するインナレース56の脱落を防止するので、ハブ12の組み付けが容易となる。また、スペーサ65がインナベアリング14とオイルシール15との間に設けられるので、ハブ12をアクスルハウジング11から取り外すとき、インナベアリング14の保持器59およびインナレース56の角部がオイルシール15に直接接触することがない。このため、オイルシール15を破損することなくハブ12を簡単にアクスルハウジング11から取り外して分解することができる。
【0041】
(2)スペーサ65が通孔66を有するリング体であることから、スペーサ65の形状が単純化されており、スペーサ65の製作が比較的容易となる。よって、ハブ構造10の製作コストを低減することができる。また、スペーサ65がリング体であることにより、ハブ12の引き抜き時に、オイルシール15の円周方向にわたってスペーサ65が当接することになり、オイルシール15はスペーサ65から局所的な荷重を受け難くなる。
【0042】
(3)スペーサ65はすきまばめによってハブ12に嵌合されている。インナレース56がすきまばめの場合には、ハブ12とともに移動するオイルシール15がスペーサ65を押し付け、スペーサ65はインナレース56を押し付ける。その結果、オイルシール15を取り外すことなく、アクスルハウジング11からインナレース56を簡単に取り外すことができる。インナレース56がすきまばめではなくしまりばめの場合には、ハブ12をアクスルハウジング11から取り外すとき、インナベアリング14におけるアクスルハウジング11に留まるインナレース56によってスペーサ65は移動してオイルシール15に押し付けられる。その結果、スペーサ65の押し付けによってオイルシール15を簡単に取り外すことができるほか、オイルシール15を破損することなくハブ12から取り外すことができる。
【0043】
(4)オイルシール15は、挿通孔27を形成するハブ内周壁と当接する外環部61と、アクスルハウジング11の外周壁と摺接する内環部62と、外環部61の一方の端部と内環部62の一方の端部とを接続する中間接続部63とを備える。スペーサ65が中間接続部63に当接可能な向きで設けられている。このため、ハブ12をアクスルハウジング11から取り外すとき、スペーサ65が中間接続部63と当接しても、互いに面接触するのでオイルシール15が破損することはない。
【0044】
(5)内周面68は外周面67および軸心Pと平行でなくアクスルハウジング11の面取り面22に沿って傾斜している。内周面68が面取り面22に沿って傾斜することにより、スペーサ65においてインナレース56と当接する部位は、内周面が軸心Pと平行である場合と比較すると増大している。このため、ハブ12の組み付け時におけるインナレース56の脱落をスペーサ65によって確実に防止することができる。内周面68が外周面67と平行でないことにより、作業者にとってスペーサ65の組付けの向きが見分け易い。
【0045】
(6)スペーサ65の外周面67と内側端面70および外側端面71との間は面取りされた面取り面69がそれぞれ形成されている。このため、第2内周面32と第1段差面37との角部に面取り面(図示せず)が形成される場合でも、スペーサ65の外周面67側の角部とハブ側の第1段差面37側の面取り面69が当接することがなく、スペーサ65に局所的な荷重が掛ることはない。その結果、スペーサ65の損傷を防止することができる。
【0046】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係るハブ構造について説明する。本実施形態のハブ構造では、ハブおよびスペーサの構造が第1の実施形態と異なる。本実施形態では、第1の実施形態と同じ構成について第1の実施形態の説明を援用し、共通の符号を用いる。
【0047】
図6に示すように、本実施形態のハブ構造80では、ハブ81は、筒状体82と、筒状体82の外側の端部にて径方向の外周側へ延在するフランジ体(図示せず)と、を備えている。図示されないフランジ体は第1の実施形態のフランジ体26に相当する。挿通孔27を形成するハブ81のハブ内周壁は、車幅方向において内周径の異なる複数の内周面を備えている。具体的には、ハブ12は、車幅方向における内側から外側へ向けて順に、第1内周面83、第2内周面84、第3内周面85、第4内周面86および第5内周面(図示せず)を有している。図示されない第5内周面は第1の実施形態の第5内周面35に相当する。
【0048】
第1内周面83の内周径は最も大きく、第2内周面84の内周径は第1内周面83の次に大きい。図示されない第5内周面は、第2内周面84の次に内周径が大きく、第3内周面85は、第5内周面の次に内周径が大きい。第4内周面86の内周径は最も小さい。第1内周面83と第2内周面84との間には、内側から外側へ向けて僅かに内周径が大きくなる第1テーパー面87が形成されている。第2内周面84と第3内周面85との間には、第1段差面88が形成されている。第3内周面85の第1段差面88側には面取りされた面取り面89が形成されている。第3内周面85と第4内周面86との間には、第2段差面90が形成されている。第4内周面86と第5内周面との間には、第3段差面(図示せず)が形成されている。第5内周面35の外側には面取り面(図示せず)が形成されている。図示されない第3段差面、面取り面は、第1の実施形態の第3段差面40、面取り面41に相当する。
【0049】
本実施形態では、第1段差面88にオイルシール15が突き当たるようにハブ81に装着されている。
図7に示すように、第3内周面85の周方向において3箇所に溝部91が形成されている。溝部91は、第3内周面85の周方向において互いに等しい間隔を空けて形成されている。溝部91の車幅方向の長さは、次に説明するスペーサ92の板厚より僅かに大きい長さであり、溝部91の内側の端部は第2内周面84側へ開口している。溝部91の径方向の深さは、第2内周面84とほぼ一致する深さとなっている。
【0050】
スペーサ92は、溝部91に嵌合可能な形状を有しており、具体的には、略立方体である。スペーサ92は溝部91に挿入される挿入部93と溝部91から径方向の中心側へ突出する突出部94を有する。
図6に示すように、突出部94の先端は、径方向において面取り面22に接近した位置であってインナベアリング14のインナレース56の外周面より中心側に位置する。また、スペーサ92は、図示はされないが、第1の実施形態の面取り面69に相当する外周面側における面取り面を有している。また、第1の実施形態と同様に、スペーサ92は、外周面と平行でない内周面を有している。
なお、
図7では、インナベアリング14のアウタレース57の図示を省略している。
【0051】
本実施形態によれば、第1の実施形態の作用効果(1)、(3)~(6)と同等の作用効果を奏する。また、本実施形態のスペーサは、リング体のスペーサと比較すると、スペーサを小型化でき、ハブ構造の軽量化に寄与することができる。
【0052】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
【0053】
○ 上記の実施形態では、スペーサがすきまばめによってハブに嵌合されるとしたが、スペーサのハブに対する嵌合はすきまばめに限定されない。スペーサは、例えば、しまりばめによりハブに嵌合されてもよい。この場合、ハブをアクスルハウジングから取り外すとき、スペーサは車幅方向に移動することなく、インナベアリングのインナレースを抜け出される方向に押し付ける。このため、インナレースのハブに対する摩擦力がスペーサのアクスルハウジングに対する摩擦力よりも小さい場合には、インナレースがアクスルハウジングから取り外される。よって、ハブに圧入されているオイルシールが取り外されることがないので、再びハブをアクスルハウジングに取り付ける場合であってもオイルシールを交換する必要がない。また、スペーサは中間ばめによりハブに嵌合されてもよい。
○ 第2の実施形態では、ハブに3個の溝部を設けて、溝部にそれぞれ嵌合可能なスペーサを設けるとしたが、溝部およびスペーサは3個に限定されない。溝部およびスペーサは、複数であればよく、例えば、2個であってもよい。
○ 上記の実施形態では、スペーサの内周面は外周面と平行でなくアクスルハウジングの面取り面に沿って傾斜しているとしたが、この限りではない。スペーサにおいてインナベアリングのインナレースと当接する部位が存在すればよく、例えば、スペーサの内周面と外周面とは互いに平行であってもよい。
【符号の説明】
【0054】
10、80 ハブ構造
11 アクスルハウジング
12、81 ハブ
13 アウタベアリング
14 インナベアリング
15 オイルシール
27 挿通孔(ハブ)
31、83 第1内周面
32、84 第2内周面
33、85 第3内周面
34、86 第4内周面
37、88 第1段差面
56 インナレース
56A 内側端面
57 アウタレース
57A 外側端面
58 転動体
59 保持器
61 外環部
62 内環部
63 中間接続部
64 環状リング
65 スペーサ
66 通孔
67 外周面
68 内周面
69 面取り面
70 内側端面
71 外側端面
91 溝部
92 スペーサ
P 軸心