(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/34 20060101AFI20220329BHJP
F04C 27/00 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
F04C18/34 A
F04C27/00 321
(21)【出願番号】P 2019019647
(22)【出願日】2019-02-06
【審査請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山本 真也
(72)【発明者】
【氏名】本田 和也
(72)【発明者】
【氏名】榊原 健吾
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕之
(72)【発明者】
【氏名】並木 謙
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-252401(JP,A)
【文献】特開昭55-037595(JP,A)
【文献】特開2015-161208(JP,A)
【文献】米国特許第3819309(US,A)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0009216(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/34
F04C 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸の回転に伴って回転するものであって、前記回転軸の軸方向に対して交差している回転体面を有する回転体と、
前記回転軸の回転に伴って回転しないものであって、前記回転体面と前記軸方向に対向する固定体面を有する固定体と、
前記回転体に形成されたベーン溝に挿入され、前記回転体の回転に伴って前記軸方向に移動しながら回転するベーンと、
前記回転体面及び前記固定体面を用いて区画され、前記ベーンが前記軸方向に移動しながら回転することによって流体の吸入及び圧縮が行われる圧縮室と、
を備え、
前記ベーンは、
前記ベーン溝に挿入されているベーン本体と、
前記ベーン本体に対して前記軸方向に移動可能な状態で、前記ベーン本体における前記軸方向の端面に取り付けられたシール部材と、
を備え、
前記シール部材は、当該シール部材と前記ベーン本体との間に形成された背圧空間によって前記固定体面に向けて押圧されることにより、前記固定体面に当接することを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記圧縮室は、
前記ベーンに対して前記回転体の回転方向側とは反対側に配置された第1パーツ室と、
前記ベーンに対して前記回転方向側に配置された第2パーツ室と、
を含み、
前記シール部材は、前記ベーン本体における前記軸方向の端面に設けられた本体取付部に取り付けられるシール取付部を備え、
前記本体取付部と前記シール取付部とは前記回転軸の周方向に対向している請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記本体取付部は、前記ベーン本体の前記軸方向の端面に形成され、前記ベーンの厚さ方向を幅方向として前記回転軸の径方向に延びた本体取付溝であり、
前記本体取付溝は、
前記回転方向側とは反対側の側面である第1本体溝側面と、
前記回転方向側の側面である第2本体溝側面と、
を有し、
前記シール部材は、前記固定体面と当接するシール本体部を備え、
前記シール取付部は、前記シール本体部から前記ベーン本体の前記軸方向の端面に向けて突出しているシール取付凸部であり、
前記シール取付凸部は、
前記回転方向側とは反対側の側面である第1シール凸側面と、
前記回転方向側の側面である第2シール凸側面と、
を有し、
前記シール部材は、前記シール取付凸部が前記本体取付溝に挿入されることによって前記ベーン本体に取り付けられており、前記第1シール凸側面と前記第1本体溝側面とが前記周方向に対向している請求項2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記ベーン本体及び前記シール部材の少なくとも一方には、前記背圧空間に前記第2パーツ室内の流体を導入する導入溝が形成されている請求項3に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記第1本体溝側面は、前記本体取付溝が深くなるに従って徐々に前記回転方向側に変位するように前記軸方向に対して傾斜しており、
前記第1シール凸側面は、前記シール取付凸部の基端から先端に向かうに従って徐々に前記回転方向側に変位するように前記軸方向に対して傾斜している請求項3又は請求項4に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記固定体面は、
前記回転体面と当接する固定体当接面と、
前記固定体当接面に対して前記周方向の両側に設けられ、前記固定体当接面から前記周方向に離れるに従って徐々に前記回転体面から離れるように前記軸方向に湾曲した一対の湾曲面と、
を含み、
前記本体取付溝と前記シール取付凸部とは、前記第1シール凸側面と前記第1本体溝側面との当接箇所である側面当接箇所が前記第1パーツ室側に配置されるように前記第2パーツ室側よりも前記第1パーツ室側に偏倚して配置されている請求項3~5のうちいずれか一項に記載の圧縮機。
【請求項7】
前記シール部材は、前記ベーン本体よりも柔らかい材料で構成されており、
前記シール部材は、前記固定体面と当接するシール本体部を有し、
前記シール本体部は、前記ベーン本体の前記軸方向の端面に対向するシール本体底面を有し、
前記シール取付部は、前記シール本体底面から凹んだシール取付溝であり、
前記本体取付部は、前記ベーン本体の前記軸方向の端面から突出した本体取付凸部であり、
前記シール部材は、前記本体取付凸部が前記シール取付溝に挿入されることによって前記ベーン本体に取り付けられている請求項2に記載の圧縮機。
【請求項8】
前記シール取付溝は、
前記回転方向側とは反対側の側面である第1シール溝側面と、
前記回転方向側の側面である第2シール溝側面と、
を有し、
前記本体取付凸部は、
前記回転方向側とは反対側の側面である第1本体凸側面と、
前記回転方向側の側面である第2本体凸側面と、
を有し、
前記第2シール溝側面は、前記シール取付溝が深くなるに従って徐々に前記回転方向側とは反対側に変位するように前記軸方向に対して傾斜しており、
前記第2本体凸側面は、前記本体取付凸部の基端から先端に向かうに従って徐々に前記回転方向側とは反対側に変位するように前記軸方向に対して傾斜しており、
前記第2本体凸側面と前記第2シール溝側面とが前記周方向に対向している請求項7に記載の圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、回転軸と、ベーン溝としての複数のスリット溝が形成された回転体としての円柱状のロータと、複数のスリット溝に揺動可能に嵌め込まれた複数のベーンと、固定体面としてのカム面が形成された固定体としてのサイドプレートと、を備えたアキシャルベーン型圧縮機について記載されている。特許文献1に記載のアキシャルベーン型圧縮機では、回転軸及びロータの回転に伴い複数のベーンが回転軸の軸方向に移動しながら回転することによって、回転体面としてのロータの軸方向端面とカム面とを用いて区画された圧縮室にて流体の吸入及び圧縮が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、ベーンと固定体面とが離間すると、ベーンと固定体面との隙間を介して流体が漏れる場合がある。この場合、圧縮機としての損失が大きくなり、効率が低下する。
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、その目的はベーンと固定体面との間に隙間が生じることを抑制できる圧縮機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する圧縮機は、回転軸と、前記回転軸の回転に伴って回転するものであって、前記回転軸の軸方向に対して交差している回転体面を有する回転体と、前記回転軸の回転に伴って回転しないものであって、前記回転体面と前記軸方向に対向する固定体面を有する固定体と、前記回転体に形成されたベーン溝に挿入され、前記回転体の回転に伴って前記軸方向に移動しながら回転するベーンと、前記回転体面及び前記固定体面を用いて区画され、前記ベーンが前記軸方向に移動しながら回転することによって流体の吸入及び圧縮が行われる圧縮室と、を備え、前記ベーンは、前記ベーン溝に挿入されているベーン本体と、前記ベーン本体に対して前記軸方向に移動可能な状態で、前記ベーン本体における前記軸方向の端面に取り付けられたシール部材と、を備え、前記シール部材は、当該シール部材と前記ベーン本体との間に形成された背圧空間によって前記固定体面に向けて押圧されることにより、前記固定体面に当接することを特徴とする。
【0006】
かかる構成によれば、シール部材が背圧空間によって押圧されて固定体面に当接することにより、ベーンと固定体面との間がシールされる。したがって、ベーンと固定体面との間に隙間が生じることを抑制できる。
【0007】
上記圧縮機について、前記圧縮室は、前記ベーンに対して前記回転体の回転方向側とは反対側に配置された第1パーツ室と、前記ベーンに対して前記回転方向側に配置された第2パーツ室と、を含み、前記シール部材は、前記ベーン本体における前記軸方向の端面に設けられた本体取付部に取り付けられるシール取付部を備え、前記本体取付部と前記シール取付部とは前記回転軸の周方向に対向しているとよい。
【0008】
かかる構成によれば、回転体の回転に伴ってベーン本体が回転すると、本体取付部とシール取付部とが周方向に当接し、その当接箇所によって、ベーン本体とシール部材との間がシールされる。これにより、背圧空間を介して、両パーツ室間で流体の移動が行われることを抑制できる。
【0009】
上記圧縮機について、前記本体取付部は、前記ベーン本体の前記軸方向の端面に形成され、前記ベーンの厚さ方向を幅方向として前記回転軸の径方向に延びた本体取付溝であり、前記本体取付溝は、前記回転方向側とは反対側の側面である第1本体溝側面と、前記回転方向側の側面である第2本体溝側面と、を有し、前記シール部材は、前記固定体面と当接するシール本体部を備え、前記シール取付部は、前記シール本体部から前記ベーン本体の前記軸方向の端面に向けて突出しているシール取付凸部であり、前記シール取付凸部は、前記回転方向側とは反対側の側面である第1シール凸側面と、前記回転方向側の側面である第2シール凸側面と、を有し、前記シール部材は、前記シール取付凸部が前記本体取付溝に挿入されることによって前記ベーン本体に取り付けられており、前記第1シール凸側面と前記第1本体溝側面とが前記周方向に対向しているとよい。
【0010】
かかる構成によれば、シール取付凸部が本体取付溝に挿入されることによって、シール部材がベーン本体に取り付けられる。この場合、回転体の回転に伴ってベーン本体が回転すると、第1シール凸側面と第1本体溝側面とが周方向に当接することとなり、その当接箇所によってシール部材とベーン本体との間がシールされる。また、仮にシール部材が固定体面に向けて移動したとしても、第1シール凸側面と第1本体溝側面との当接が維持され易いため、背圧空間を介して流体が漏れたり、シール部材が外れたりすることを抑制できる。
【0011】
特に、本構成によれば、第1シール凸側面と第1本体溝側面とが当接しているため、第2シール凸側面と第2本体溝側面との間にクリアランスが生じ易い。このため、当該クリアランスを介して、背圧空間に、第2パーツ室内の流体が入り込みやすい。第2パーツ室内の流体の圧力は、第1パーツ室内の圧力と比較して、高圧となり易い。したがって、シール部材は、背圧空間に入り込んだ流体によって、固定体面に向けて押圧され易い。よって、ベーンと固定体面との間のシール性の向上を図ることができる。
【0012】
上記圧縮機について、前記ベーン本体及び前記シール部材の少なくとも一方には、前記背圧空間に前記第2パーツ室内の流体を導入する導入溝が形成されているとよい。
かかる構成によれば、導入溝によって背圧空間に第2パーツ室内の流体が導入され易い。これにより、シール部材は、導入溝によって導入された第2パーツ室内の流体によって固定体面に向けて押圧され易い。したがって、ベーンと固定体面との間のシール性の更なる向上を図ることができる。
【0013】
上記圧縮機について、前記第1本体溝側面は、前記本体取付溝が深くなるに従って徐々に前記回転方向側に変位するように前記軸方向に対して傾斜しており、前記第1シール凸側面は、前記シール取付凸部の基端から先端に向かうに従って徐々に前記回転方向側に変位するように前記軸方向に対して傾斜しているとよい。
【0014】
かかる構成によれば、回転体の回転に伴ってベーン本体が回転すると、第1本体溝側面と第1シール凸側面とが当接し、シール部材には、第1本体溝側面と第1シール凸側面との当接箇所を介して固定体面に向かう方向成分を含む押圧力が付与される。これにより、押圧力を用いて、シール部材を固定体面に押し付けることができ、それを通じてより好適にシール部材と固定体面との間のシール性を高めることができる。
【0015】
上記圧縮機について、前記固定体面は、前記回転体面と当接する固定体当接面と、前記固定体当接面に対して前記周方向の両側に設けられ、前記固定体当接面から前記周方向に離れるに従って徐々に前記回転体面から離れるように前記軸方向に湾曲した一対の湾曲面と、を含み、前記本体取付溝と前記シール取付凸部とは、前記第1シール凸側面と前記第1本体溝側面との当接箇所である側面当接箇所が前記第1パーツ室側に配置されるように前記第2パーツ室側よりも前記第1パーツ室側に偏倚して配置されているとよい。
【0016】
シール部材は、第2パーツ室内の流体から押圧されるとともに、第1パーツ室内の流体からも押圧される。第2パーツ室内の圧力は、流体の吸入が行われる第1パーツ室の圧力よりも高くなり易いため、第2パーツ室内の流体からの押圧力と第1パーツ室内の流体からの押圧力との間に不均衡が生じる。
【0017】
かかる構成において、本願発明者らは、シール部材が湾曲面と当接する場合、湾曲面の傾斜と回転方向とによっては、シール部材と固定体面との当接箇所が側面当接箇所よりも第1パーツ室側に配置され、その結果、シール部材には固定体面から離れる方向の押圧力が付与されることを見出した。
【0018】
その知見に基づいて、本構成によれば、シール取付部及び本体取付溝を第2パーツ室側よりも第1パーツ室側に偏倚して配置して、側面当接箇所が第1パーツ室側に配置されるようにした。これにより、シール部材と固定体面との当接箇所が側面当接箇所よりも第1パーツ室側になることを抑制でき、それを通じてシール部材に対して固定体面から離れる方向の押圧力が付与されることを抑制できる。
【0019】
上記圧縮機について、前記シール部材は、前記ベーン本体よりも柔らかい材料で構成されており、前記シール部材は、前記固定体面と当接するシール本体部を有し、前記シール本体部は、前記ベーン本体の前記軸方向の端面に対向するシール本体底面を有し、前記シール取付部は、前記シール本体底面から凹んだシール取付溝であり、前記本体取付部は、前記ベーン本体の前記軸方向の端面から突出した本体取付凸部であり、前記シール部材は、前記本体取付凸部が前記シール取付溝に挿入されることによって前記ベーン本体に取り付けられているとよい。
【0020】
かかる構成によれば、本体取付凸部がシール取付溝に挿入されることによって、シール部材がシール本体に取り付けられる構成を採用しているため、シール取付凸部が本体取付溝に挿入される構成と比較して、シール部材の剛性が高められている。また、本体取付凸部は、シール部材よりも硬いベーン本体の一部である。これにより、本体取付凸部が変形しにくい。したがって、変形に起因してシール部材がベーン本体から外れてしまうという不都合を抑制できる。
【0021】
上記圧縮機について、前記シール取付溝は、前記回転方向側とは反対側の側面である第1シール溝側面と、前記回転方向側の側面である第2シール溝側面と、を有し、前記本体取付凸部は、前記回転方向側とは反対側の側面である第1本体凸側面と、前記回転方向側の側面である第2本体凸側面と、を有し、前記第2シール溝側面は、前記シール取付溝が深くなるに従って徐々に前記回転方向側とは反対側に変位するように前記軸方向に対して傾斜しており、前記第2本体凸側面は、前記本体取付凸部の基端から先端に向かうに従って徐々に前記回転方向側とは反対側に変位するように前記軸方向に対して傾斜しており、前記第2本体凸側面と前記第2シール溝側面とが前記周方向に対向しているとよい。
【0022】
かかる構成によれば、回転体の回転に伴ってベーン本体が回転した場合、第2本体凸側面と第2シール溝側面とが当接し、ベーン部材には、第2シール溝側面と第2本体凸側面との当接箇所を介して固定体面に向かう方向成分を含む押圧力が付与される。これにより、押圧力を用いて、ベーン部材を固定体面に押し付けることができ、それを通じてより好適にシール部材と固定体面との間のシール性を高めることができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、ベーンと固定体面との間に隙間が生じることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図3】
図2とは反対側から見た主要な構成の分解斜視図。
【
図8】フロントシリンダ、フロント弁、及びフロントリテーナの分解斜視図。
【
図12】ベーンと両固定体面との当接態様を模式的に示す断面図。
【
図14】回転体、両固定体、及びベーンを模式的に示す展開図。
【
図15】
図14とは別の位相における回転体、両固定体、及びベーンを模式的に示す展開図。
【
図16】第2実施形態におけるベーンと両固定体面との当接態様を模式的に示す断面図。
【
図17】第3実施形態におけるベーンと両固定体面との当接態様を模式的に示す断面図。
【
図18】第4実施形態におけるベーンと両固定体面との当接態様を模式的に示す断面図。
【
図19】別例のチップシールを模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態)
以下、圧縮機の第1実施形態について図面を用いて説明する。なお、本実施形態の圧縮機は、例えば車両用であり、詳細には車両に搭載されて使用される。圧縮機は、例えば車両用空調装置に用いられるものであり、本圧縮機の圧縮対象の流体はオイルを含む冷媒である。なお、図示の都合上、
図1については回転軸12、回転体60、両固定体90,110を側面図で示す。また、
図6及び
図7においては、複数のベーン131を模式的に側面図で示す。
【0026】
図1に示すように、圧縮機10は、ハウジング11と、回転軸12と、電動モータ13と、インバータ14と、シリンダ部としてのフロントシリンダ30と、リアプレート40と、回転体60と、フロント固定体90と、リア固定体110と、を備えている。
【0027】
ハウジング11は、例えば全体として筒状であり、外部からの吸入流体が吸入される吸入口11a及び圧縮流体が吐出される吐出口11bを有している。回転軸12、電動モータ13、インバータ14、フロントシリンダ30、リアプレート40、回転体60、両固定体90,110は、ハウジング11内に収容されている。
【0028】
ハウジング11は、フロントハウジング21と、リアハウジング22と、インバータカバー25とを備えている。
フロントハウジング21は、有底筒状でリアハウジング22に向けて開口している。吸入口11aは、例えばフロントハウジング21の側壁部のうち開口端部よりも底部側の位置に設けられている。但し、吸入口11aの位置は任意である。
【0029】
リアハウジング22は、リアハウジング底部23と、リアハウジング底部23からフロントハウジング21に向けて起立したリアハウジング側壁部24とを有する有底筒状である。フロントハウジング21とリアハウジング22とは、互いに開口部同士が向き合う状態でユニット化されている。吐出口11bは、リアハウジング側壁部24に設けられている。但し、吐出口11bの位置は任意である。
【0030】
インバータカバー25は、フロントハウジング21に対してリアハウジング22側とは反対側に配置されている。インバータカバー25は、フロントハウジング21の底部に突き合せられた状態でフロントハウジング21に固定されている。インバータカバー25内には、インバータ14が収容されている。インバータ14は、電動モータ13を駆動させるものである。
【0031】
図1に示すように、フロントシリンダ30は、リアプレート40と協働して両固定体90,110及び回転体60を収容するものである。フロントシリンダ30は、リアハウジング22よりも小さく形成された有底筒状であり、リアハウジング底部23に向けて開口している。
【0032】
フロントシリンダ30は、フロントシリンダ底部31と、フロントシリンダ底部31からリアハウジング底部23に向けて起立したフロントシリンダ側壁部32と、を有している。
【0033】
図1及び
図2に示すように、フロントシリンダ底部31は、軸方向Zに段差状となっており、中央側に配置されている第1底部31aと、第1底部31aに対して回転軸12の径方向R外側であって第1底部31aよりもリアハウジング底部23側に配置されている第2底部31bとを有している。第1底部31aには、回転軸12が挿通可能なフロント挿通孔31cが形成されており、回転軸12は、フロント挿通孔31cに挿通されている。
【0034】
図1に示すように、フロントシリンダ側壁部32は、リアハウジング22の内側に入り込んでいる。フロントシリンダ側壁部32は、内周面であるフロントシリンダ内周面33と、フロントシリンダ内周面33とは反対側に配置された外周面としてのフロントシリンダ外周面34と、を有している。
【0035】
フロントシリンダ内周面33及びフロントシリンダ外周面34は、例えば軸方向Zを軸線方向とする円筒面である。フロントシリンダ外周面34は、リアハウジング側壁部24の内周面と径方向Rに当接している。
【0036】
本実施形態では、フロントシリンダ外周面34には、吐出室A1を区画するための吐出凹部35が形成されている。吐出凹部35は、フロントシリンダ外周面34のうち軸方向Zの両端部の間に形成されており、径方向R内側に向けて凹んでいる。吐出凹部35とリアハウジング側壁部24とによって、圧縮流体が存在する吐出室A1が区画されている。本実施形態における吐出室A1は、軸方向Zを軸線方向とする円筒状に形成されている。吐出室A1は、吐出口11bと連通している。吐出室A1内の圧縮流体は、吐出口11bから吐出される。
【0037】
フロントシリンダ30には、回転軸12の径方向R外側に張り出した膨出部36が設けられている。膨出部36は、フロントシリンダ底部31及びフロントシリンダ側壁部32における基端側(フロントシリンダ底部31側)の双方に跨る位置に設けられている。膨出部36は、フロントシリンダ外周面34から径方向R外側に膨出している。フロントハウジング21とリアハウジング22とは、膨出部36を挟んだ状態でユニット化されている。両ハウジング21,22によってフロントシリンダ30の軸方向Zの位置ずれが規制されている。
【0038】
図1に示すように、本実施形態では、ハウジング11内には、フロントハウジング21及びフロントシリンダ底部31によって区画されたモータ室A2が設けられており、モータ室A2に電動モータ13が収容されている。電動モータ13は、インバータ14から駆動電力を供給されることにより、回転軸12を、矢印Mで示す方向、詳細には電動モータ13から両固定体90,110を見て時計回りの方向に回転させる。
【0039】
ちなみに、吸入口11aはモータ室A2を区画するフロントハウジング21に設けられているため、吸入口11aから吸入された吸入流体はハウジング11内のモータ室A2に吸入される。つまり、モータ室A2内には吸入流体が存在する。換言すれば、モータ室A2は、吸入流体が吸入される吸入室といえる。
【0040】
本実施形態の圧縮機10では、インバータ14、電動モータ13、フロント固定体90、回転体60、リア固定体110が軸方向Zに順に並んでいる。但し、これら各部品の位置は任意であり、例えばインバータ14が電動モータ13に対して回転軸12の径方向R外側に配置されていてもよい。
【0041】
リアプレート40は板状(本実施形態では円板状)であり、その板厚方向が軸方向Zに一致するようにリアハウジング22内に収容されている。リアプレート40の外径は、例えばフロントシリンダ外周面34(又はリアハウジング側壁部24の内周面)と同一径である。リアプレート40は、リアハウジング22に嵌まっており、リアハウジング22に支持されている。
【0042】
リアプレート40は、フロントシリンダ30のフロントシリンダ底部31とは別体である。フロントシリンダ30とリアプレート40とは、フロントシリンダ側壁部32の先端部がリアプレート40に突き合わせられるように組み付けられており、リアプレート40によってフロントシリンダ30の開口部分が塞がれている。
【0043】
詳細には、リアプレート40のうちフロントシリンダ側壁部32の先端部と軸方向Zに対向する箇所にはプレート窪み42が形成されている。プレート窪み42は、全周に亘って形成されている。フロントシリンダ30とリアプレート40とは、フロントシリンダ側壁部32の先端部がプレート窪み42に嵌合した状態で互いに取り付けられている。
【0044】
ちなみに、リアプレート40は、ハウジング11に支持されているフロントシリンダ30と、ハウジング11の一部であるリアハウジング底部23とによって挟持されている。これにより、リアプレート40は、ハウジング11に支持されている。なお、リアプレート40はハウジング11に支持されていれば、その具体的な支持態様は任意である。
【0045】
リアプレート40は、軸方向Zに直交する板面として第1プレート面43及び第2プレート面44を有している。第1プレート面43は、フロントシリンダ底部31側に配置されている。第2プレート面44は、リアハウジング底部23側に配置されており、リアハウジング底部23と軸方向Zに対向している。なお、本実施形態では、プレート窪み42が形成されている関係上、第1プレート面43は第2プレート面44よりも小さい。
【0046】
なお、本明細書において「対向」とは、特に説明がない限り、技術的に矛盾しない範囲内において、隙間を介して互いに向き合う態様と、当接している態様とを含む。例えば、第2プレート面44とリアハウジング底部23とは、離間していてもよいし、当接していてもよい。また、「対向」とは、2つの面において、一部が当接して、その他の部分が離間している態様を含む。
【0047】
図1に示すように、圧縮機10は、回転軸12を回転可能に支持するシャフト軸受51,53を備えている。
フロントシャフト軸受51は、フロントハウジング21の底部に設けられたボス部52に取り付けられている。ボス部52は、フロントハウジング21の底部から突出したリング形状である。フロントシャフト軸受51は、ボス部52に対して回転軸12の径方向R内側に配置されており、回転軸12の軸方向Zの両端部である両シャフト端部12a,12bのうちフロントシャフト端部12aを回転可能に支持している。
【0048】
リアプレート40の中央部には、回転軸12が挿通されたリア挿通孔41が形成されている。リア挿通孔41は、フロントシャフト端部12aとは反対側のリアシャフト端部12bと同一またはそれよりも大きく形成されている。リアシャフト端部12bがリア挿通孔41に挿通されている。
【0049】
リアシャフト軸受53は、リア挿通孔41の内壁面に設けられ、リアシャフト端部12bを回転可能に支持している。リアシャフト軸受53は、例えばリア挿通孔41の内壁面に形成されたコーティング層から構成されたコーティング軸受である。
【0050】
コーティング層については任意であり、例えば熱硬化性樹脂や潤滑剤を含むもの等でもよい。また、リアシャフト軸受53は、コーティング層から形成されたコーティング軸受に限られず任意であり、例えば他の滑り軸受や転がり軸受などでもよい。なお、図面の都合上、
図1等においては、リアシャフト軸受53を実際よりも厚く示す。
【0051】
以上のとおり、本実施形態では、両シャフト端部12a,12bが両シャフト軸受51,53によって回転可能に支持されている。ここで、フロントシャフト軸受51がフロントハウジング21のボス部52に取り付けられている点、及び、リアシャフト軸受53が形成されているリアプレート40がリアハウジング22に支持されている点を鑑みれば、回転軸12は、両シャフト軸受51,53によって、ハウジング11に対して回転可能に支持されているといえる。なお、本実施形態では、回転軸12は円柱状である。
【0052】
図1に示すように、リアハウジング底部23における回転軸12と軸方向Zに対向する位置には、ハウジング凹部54が形成されている。ハウジング凹部54は、例えばリアシャフト端部12bよりも一回り大きく形成された円形の凹部である。リアシャフト端部12bの一部は、ハウジング凹部54内に入り込んでいる。
【0053】
圧縮機10は、ハウジング凹部54内に設けられ、回転軸12の軸方向Zの位置ずれを規制するリングプレート55を備えている。リングプレート55は、例えばハウジング凹部54と同一径の外径を有する平板リング状であり、ハウジング凹部54に嵌合している。リングプレート55は、リアシャフト端部12bとハウジング凹部54の底面との間に設けられている。回転軸12のうちフロントシャフト端部12aを除いた部分は、フロントシャフト軸受51とリングプレート55とによって軸方向Zに挟まれている。これにより、回転軸12の軸方向Zの移動が規制されている。但し、寸法誤差に対応する関係上、リングプレート55とリアシャフト端部12bとの間に若干の隙間が形成されていてもよい。
【0054】
図1に示すように、ハウジング11内には、フロントシリンダ30とリアプレート40とによって区画された収容室A3が形成されており、収容室A3内に回転体60及び両固定体90,110が収容されている。
【0055】
モータ室A2と収容室A3とは、ハウジング11内において軸方向Zに並んで設けられている。そして、モータ室A2と収容室A3とは、フロントシリンダ底部31によって仕切られており、モータ室A2内の吸入流体が収容室A3に流れ込まないようになっている。つまり、フロントシリンダ底部31は、モータ室A2内の吸入流体が収容室A3に流れ込みにくくなるようにモータ室A2と収容室A3とを仕切る仕切壁部といえる。回転軸12は、仕切壁部としてのフロントシリンダ底部31を貫通することによって、モータ室A2と収容室A3との双方に跨って配置されている。また、リアプレート40は、収容室A3を区画するのに用いられている区画部ともいえる。
【0056】
次に、
図2~
図5などを用いて回転体60について詳細に説明する。なお、図示の都合上、
図5に示す回転体60は、
図4とは異なる回転位置に配置されている状態、すなわち異なる位相で示す。
【0057】
回転体60は、回転軸12の回転に伴って回転方向Mに回転するものである。回転体60は、その回転中心軸が回転軸12の中心軸と同一となるようにハウジング11内に配置されている。つまり、回転体60は、回転軸12と同軸となるように配置されている。このため、本圧縮機10は、偏芯運動ではなく、軸心運動の構造となっている。
【0058】
回転体60は、回転軸12が挿通された回転体筒部61と、回転体筒部61から径方向R外側に向けて突出している回転体リング部70と、を備えている。
回転体筒部61は、回転軸12と一体回転するように回転軸12に取り付けられている。これにより、回転軸12の回転に伴って、回転体60が回転する。なお、回転軸12に対する回転体筒部61の取付態様は任意であり、例えば圧入によって回転体筒部61が回転軸12に固定されてもよいし、回転軸12及び回転体筒部61に跨って挿入される固定ピンによって回転体筒部61が回転軸12に固定されてもよい。また、キー等の連結部材によって回転体筒部61と回転軸12とが連結される構成でもよいし、回転体筒部61と回転軸12とが、一方に設けられた凹部に他方に設けられた凸部が係合している構成でもよい。
【0059】
回転体筒部61は、例えば軸方向Zを軸線方向とする円筒状である。回転体筒部61は、例えば回転軸12と同一径又はそれよりも大きい内径を有している。回転体筒部61の内周面と回転軸12の外周面とが径方向Rに対向している。
【0060】
回転体筒部61は、軸方向Zを軸線方向とする筒状の筒部外周面62を有している。筒部外周面62は、径方向R外側に向けて湾曲しており、本実施形態では円筒面である。
図2~
図4に示すように、回転体リング部70は、回転体筒部61の軸方向Zの両端部である両回転体端部61a,61b間の所定位置(本実施形態では中央部付近)に設けられている。
【0061】
回転体リング部70は、軸方向Zを板厚方向とする円環板状であり、軸方向Zの両端面としてフロント回転体面71及びリア回転体面72を有している。両回転体面71,72はリング状である。両回転体面71,72は、軸方向Zに対して交差しており、本実施形態では軸方向Zに直交する平坦面である。このため、両回転体面71,72の内周縁及び外周縁は、径方向Rから見て直線状であり、周方向に関わらず軸方向Zの位置が一定となっている。
【0062】
回転体リング部70の外周面であるリング外周面73は、径方向Rに対して交差する面であり、フロントシリンダ内周面33と径方向Rに対向している。リング外周面73とフロントシリンダ内周面33とは当接していてもよいし、微小な隙間を介して離間していてもよい。
【0063】
図4に示すように、圧縮機10は、回転体60を軸方向Zから支持するスラスト軸受81,82を備えている。両スラスト軸受81,82は、回転体筒部61の軸方向Zの両側に配置されており、回転体筒部61を軸方向Zから挟んでいる。
【0064】
詳細には、フロントスラスト軸受81は、フロントシリンダ底部31が段差状に形成されていることによって生じたスペースに配置されている。フロントスラスト軸受81は、フロントシリンダ底部31に支持された状態で、回転体筒部61(詳細にはフロント回転体端部61a)を軸方向Zから支持している。
【0065】
リアスラスト軸受82は、リアプレート40に形成されたスラスト収容凹部83内に配置されている。スラスト収容凹部83は、リア挿通孔41の内壁面のうち第2プレート面44よりも第1プレート面43側の部分及び第1プレート面43におけるリア挿通孔41の周縁部分に形成されている。リアスラスト軸受82は、スラスト収容凹部83内に配置されており、リアプレート40に支持された状態で、回転体筒部61(詳細にはリア回転体端部61b)を軸方向Zから支持している。
【0066】
両スラスト軸受81,82は円板状であり、両スラスト軸受81,82には回転軸12が挿通されている。本実施形態では、両スラスト軸受81,82の内周面と回転軸12の外周面とは当接している。この場合、両スラスト軸受81,82は、回転軸12と径方向Rに当接することによって回転軸12を支持しているともいえる。ただし、これに限られず、両スラスト軸受81,82と回転軸12とは径方向Rに離間していてもよい。
【0067】
両固定体90,110は、回転体リング部70の軸方向Zの両側に配置されている。換言すれば、両固定体90,110は、回転体リング部70を介して軸方向Zに離間して対向配置されているともいえ、回転体リング部70は、両固定体90,110の間に配置されているともいえる。
【0068】
両固定体90,110は、回転軸12の回転に伴って回転しないようにフロントシリンダ30(換言すればハウジング11)に固定されている。例えば、締結具(図示略)がフロントシリンダ側壁部32を貫通した状態で固定体90,110の側方から締結されることによって、固定体90,110がフロントシリンダ30に固定されている。
【0069】
ただし、これに限られず、フロントシリンダ30に対する両固定体90,110の固定態様は任意であり、例えば圧入又は嵌合によって固定されていてもよい。また、フロント固定体90とフロントシリンダ底部31とを締結する締結部が1つ又は複数設けられていてもよいし、リア固定体110とリアプレート40とを締結する締結部が1つ又は複数設けられていてもよい。
【0070】
両固定体90,110の構成について詳細に説明する。なお、本実施形態では、両固定体90,110は同一形状である。
図1~
図4に示すように、両固定体90,110のうちフロントシリンダ底部31側(換言すればモータ室A2に近い位置)に配置されているフロント固定体90は、例えばリング状(本実施形態では円環状)であり、回転軸12が挿入されたフロント固定体挿入孔91を有している。本実施形態では、フロント固定体挿入孔91は、軸方向Zに貫通した貫通孔である。フロント固定体90は、回転軸12がフロント固定体挿入孔91に挿入された状態でフロントシリンダ30内に配置されている。
【0071】
フロント固定体90は、フロントシリンダ内周面33と径方向Rに対向するフロント固定体外周面92を有している。本実施形態では、フロント固定体外周面92とフロントシリンダ内周面33とは当接している。ただし、これに限られず、フロントシリンダ内周面33とフロント固定体外周面92とは離間していてもよい。
【0072】
フロント固定体90は、フロントシリンダ底部31と軸方向Zに対向するフロント背面93を備えている。フロント背面93とフロントシリンダ底部31の内側底面31dとは、離間していてもよいし、当接していてもよい。
【0073】
図1~
図4に示すように、両固定体90,110のうち区画部としてのリアプレート40側(換言すればモータ室A2から離れている側)に配置されているリア固定体110は、フロント固定体90と同様に、リング状(本実施形態では円環状)であり、回転軸12が挿入されたリア固定体挿入孔111を有している。本実施形態では、リア固定体挿入孔111は、軸方向Zに貫通した貫通孔である。リア固定体110は、回転軸12がリア固定体挿入孔111に挿入された状態でフロントシリンダ30内に配置されている。つまり、本実施形態では、回転軸12は両固定体90,110を軸方向Zに貫通している。
【0074】
リア固定体110は、フロントシリンダ内周面33と径方向Rに対向するリア固定体外周面112を有している。本実施形態では、リア固定体外周面112とフロントシリンダ内周面33とは当接している。ただし、これに限られず、フロントシリンダ内周面33とリア固定体外周面112とは離間していてもよい。
【0075】
リア固定体110は、リアプレート40の第1プレート面43と軸方向Zに対向するリア背面113を備えている。リア背面113と第1プレート面43とは離間していてもよいし、当接していてもよい。
【0076】
図4に示すように、回転体60は、回転体筒部61が固定体90,110の固定体挿入孔91,111に挿入されることによって固定体90,110に支持されている。
詳細には、回転体筒部61の軸方向Zの両端部である両回転体端部61a,61bのうちフロント回転体端部61aは、フロント固定体挿入孔91に挿入されており、フロント固定体挿入孔91を介してフロント固定体90を貫通している。
【0077】
フロント固定体挿入孔91は、回転体筒部61(詳細には筒部外周面62)に対応させて形成されており、本実施形態では回転体筒部61が円筒状であることに対応させて軸方向Zから見て円形に形成されている。そして、フロント固定体挿入孔91の直径は筒部外周面62の直径と同一又はそれよりも若干大きいとよい。フロント回転体端部61aは、フロント固定体挿入孔91の内壁面に形成されたフロント回転体軸受94によって、フロント固定体90に回転可能に支持されている。
【0078】
同様に、両回転体端部61a,61bのうちフロント回転体端部61aとは反対側のリア回転体端部61bは、リア固定体挿入孔111に挿入されており、リア固定体挿入孔111を介してリア固定体110を貫通している。
【0079】
リア固定体挿入孔111は、回転体筒部61(詳細には筒部外周面62)に対応させて形成されており、本実施形態では回転体筒部61が円筒状であることに対応させて軸方向Zから見て円形に形成されている。そして、リア固定体挿入孔111の直径は筒部外周面62の直径と同一又はそれよりも若干大きいとよい。リア回転体端部61bは、リア固定体挿入孔111の内壁面に形成されたリア回転体軸受114によって、リア固定体110に回転可能に支持されている。
【0080】
つまり、両回転体端部61a,61bは、両回転体軸受94,114を介して両固定体90,110に支持されている。これにより、回転体60が両固定体90,110に対して支持され、両固定体90,110に対する回転体60の位置ずれを抑制できる。
【0081】
また、両回転体端部61a,61bは、回転体60の軸方向Zの両端部を構成している。このため、両回転体軸受94,114によって、回転体60の両端部が支持されているといえる。これにより、回転体60が安定して保持されている。
【0082】
更に、固定体挿入孔91,111が回転体筒部61に対応させて形成されているため、固定体挿入孔91,111の内壁面と筒部外周面62との間に形成される隙間が生じにくい又は当該隙間が小さい。
【0083】
ちなみに、回転体軸受94,114は、例えば固定体挿入孔91,111の内壁面に形成されたコーティング層により構成されたコーティング軸受である。この場合、図面の都合上、
図4等においては、回転体軸受94,114を実際よりも厚く示す。なお、回転体軸受94,114の具体的な構成は、コーティング軸受に限られず任意であり、例えば他の滑り軸受や転がり軸受などでもよい。
【0084】
フロント固定体90は、フロント回転体面71と軸方向Zに対向している固定体面としてのフロント固定体面100を有している。フロント固定体面100は、フロント背面93とは反対側の板面である。フロント固定体面100は、リング状であり、本実施形態では軸方向Zから見て円環状である。
【0085】
図3に示すように、フロント固定体面100は、軸方向Zと交差(本実施形態では直交)する第1フロント平坦面101及び第2フロント平坦面102と、両フロント平坦面101,102を繋ぐ湾曲面としての一対のフロント湾曲面103と、を備えている。
【0086】
図4に示すように、両フロント平坦面101,102は、軸方向Zにずれている。詳細には、第2フロント平坦面102は、第1フロント平坦面101よりもフロント回転体面71に近い位置に配置されており、フロント回転体面71に対して当接している。なお、フロント固定体面100のうち第2フロント平坦面102以外の面は、フロント回転体面71から離間している。
【0087】
両フロント平坦面101,102は、フロント固定体90の周方向に離間して配置されており、例えば両者は180°ずれている。本実施形態では、両フロント平坦面101,102は扇状である。なお、以降の説明において、両固定体90,110の周方向位置を角度位置ともいう。
【0088】
一対のフロント湾曲面103はそれぞれ扇状である。
図3に示すように、一対のフロント湾曲面103は、軸方向Z及び両フロント平坦面101,102の対向方向の双方と直交する方向に対向配置されている。両フロント湾曲面103は同一形状である。
【0089】
一対のフロント湾曲面103はそれぞれ、両フロント平坦面101,102を繋いでいる。詳細には、一対のフロント湾曲面103のうち一方は、両フロント平坦面101,102の周方向の一端部同士を繋いでおり、他方は、両フロント平坦面101,102の周方向の上記一端部とは反対側の他端部同士を繋いでいる。
【0090】
ここで、説明の便宜上、フロント湾曲面103と第1フロント平坦面101との境界部分の角度位置を第1角度位置θ1とし、フロント湾曲面103と第2フロント平坦面102との境界部分の角度位置を第2角度位置θ2とする。なお、図示の都合上、
図3においては、各角度位置θ1,θ2を破線で示すが、実際には境界部分は滑らかに連続している。
【0091】
フロント湾曲面103は、周方向(換言すればフロント固定体90の角度位置)に応じて軸方向Zに変位した湾曲面である。詳細には、フロント湾曲面103は、第1角度位置θ1から第2角度位置θ2に向かうにしたがって徐々にフロント回転体面71に近づくように軸方向Zに湾曲している。換言すれば、一対のフロント湾曲面103は、第2フロント平坦面102に対して周方向の両側に設けられ、第2フロント平坦面102から周方向に離れるに従って徐々にフロント回転体面71から離れるように軸方向Zに湾曲している。
【0092】
本実施形態では、フロント湾曲面103は、フロント回転体面71に対して凹となるように軸方向Zに湾曲しているフロント凹面103aと、フロント回転体面71に向けて凸となるように軸方向Zに湾曲しているフロント凸面103bと、を有している。
【0093】
フロント凹面103aは、第2フロント平坦面102よりも第1フロント平坦面101側に配置されており、フロント凸面103bは、第1フロント平坦面101よりも第2フロント平坦面102側に配置されている。フロント凹面103aとフロント凸面103bとは繋がっている。つまり、フロント湾曲面103は、変曲点を有する湾曲面である。
【0094】
なお、フロント凸面103bが占める角度範囲とフロント凹面103aが占める角度範囲とは同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、変曲点の位置は任意である。また、フロント湾曲面103は波状に湾曲している湾曲面ともいえるため、この点に着目すれば、フロント固定体面100は波状に湾曲している部分を含むフロントウェーブ面ともいえる。
【0095】
リア固定体110は、リア回転体面72と軸方向Zに対向している固定体面としてのリア固定体面120を有している。リア固定体面120は、リア背面113とは反対側の板面である。リア固定体面120は、軸方向Zから見てリング状であり、本実施形態では円環状である。
【0096】
本実施形態では、リア固定体面120は、フロント固定体面100と同一形状である。
図2に示すように、リア固定体面120は、軸方向Zと交差(本実施形態では直交)する第1リア平坦面121及び第2リア平坦面122と、両リア平坦面121,122を繋ぐ湾曲面としての一対のリア湾曲面123と、を備えている。
【0097】
図4に示すように、両リア平坦面121,122は、軸方向Zにずれている。詳細には、第2リア平坦面122は、第1リア平坦面121よりもリア回転体面72に近い位置に配置されており、リア回転体面72に対して当接している。なお、リア固定体面120のうち第2リア平坦面122以外の面は、リア回転体面72から離間している。
【0098】
両リア平坦面121,122は、リア固定体110の周方向に離間して配置されており、例えば両者は180°ずれている。本実施形態では、両リア平坦面121,122は扇状である。
【0099】
一対のリア湾曲面123はそれぞれ扇状である。一対のリア湾曲面123は、軸方向Z及び両リア平坦面121,122の対向方向の双方と直交する方向に対向配置されている。一対のリア湾曲面123のうち一方は、両リア平坦面121,122の周方向の一端部同士を繋いでおり、他方は、両リア平坦面121,122の周方向の上記一端部とは反対側の他端部同士を繋いでいる。
【0100】
換言すれば、一対のリア湾曲面123は、第2リア平坦面122に対して周方向の両側に設けられ、第2リア平坦面122から周方向に離れるに従って徐々にリア回転体面72から離れるように軸方向Zに湾曲している。
【0101】
両固定体面100,120は、回転体リング部70を介して、互いに角度位置が180°ずれた状態で軸方向Zに離間して対向している。
両固定体面100,120の対向距離は、その角度位置(換言すれば周方向位置)に関わらず一定となっている。詳細には、
図4に示すように、第1フロント平坦面101と第2リア平坦面122とが軸方向Zに対向しており、第2フロント平坦面102と第1リア平坦面121とが軸方向Zに対向している。そして、両フロント平坦面101,102間の軸方向Zのずれ量と、両リア平坦面121,122間のずれ量とは同一となっている。以降、両フロント平坦面101,102間の軸方向Zのずれ量及び両リア平坦面121,122間のずれ量を単に「ずれ量Z1」という。
【0102】
また、フロント湾曲面103の湾曲具合と、リア湾曲面123の湾曲具合とは同一となっている。つまり、フロント湾曲面103とリア湾曲面123とは、その角度位置に応じて対向距離が変動しないように同一方向に湾曲している。これにより、両固定体面100,120間の対向距離は、いずれの角度位置であっても一定となっている。
【0103】
なお、第1リア平坦面121、第2リア平坦面122、リア湾曲面123の具体的な形状については、第1フロント平坦面101、第2フロント平坦面102、フロント湾曲面103と同様であるため、詳細な説明を省略する。また、フロント湾曲面103と同様に、リア湾曲面123は波状に湾曲している湾曲面ともいえるため、この点に着目すれば、リア固定体面120は波状に湾曲している部分を含むリアウェーブ面ともいえる。
【0104】
ここで、両固定体90,110及び回転体60の周方向と回転軸12の周方向とは一致しており、両固定体90,110及び回転体60の径方向と回転軸12の径方向Rとは一致しており、両固定体90,110及び回転体60の軸方向と回転軸12の軸方向Zとは一致している。このため、回転軸12の周方向、径方向R及び軸方向Zは、適宜回転体60の周方向、径方向及び軸方向と読み替えてよいし、両固定体90,110の周方向、径方向及び軸方向と読み替えてもよい。
【0105】
本実施形態では、両固定体90,110が「固定体」に対応し、両固定体面100,120が「固定体面」に対応し、両回転体面71,72が「回転体面」に対応する。また、本実施形態では、第2フロント平坦面102及び第2リア平坦面122が「固定体当接面」に対応する。
【0106】
図4に示すように、圧縮機10は、流体の吸入及び圧縮が行われる圧縮室A4,A5を備えている。両圧縮室A4,A5は、収容室A3内に設けられており、詳細には回転体リング部70における軸方向Zの両側に配置されている。
【0107】
フロント圧縮室A4は、フロント回転体面71及びフロント固定体面100を用いて区画されており、本実施形態ではフロント回転体面71と、フロント固定体面100と、筒部外周面62と、フロントシリンダ内周面33とによって区画されている。
【0108】
リア圧縮室A5は、リア回転体面72及びリア固定体面120を用いて区画されており、本実施形態ではリア回転体面72と、リア固定体面120と、筒部外周面62と、フロントシリンダ内周面33とによって区画されている。本実施形態では、フロント圧縮室A4とリア圧縮室A5とは同じ大きさである。
【0109】
ここで、両圧縮室A4,A5と吐出室A1とは、フロントシリンダ側壁部32を介して径方向Rに対向している。すなわち、吐出室A1は、フロントシリンダ側壁部32を介して両圧縮室A4,A5の径方向R外側に配置されている。
【0110】
ちなみに、本実施形態では、吐出室A1は、フロント圧縮室A4の一部に対して径方向Rに対向している一方、リア圧縮室A5の全体に対して径方向Rに対向しているが、これに限られない。要は、吐出室A1は、フロント圧縮室A4の少なくとも一部と径方向Rに対向し且つリア圧縮室A5の少なくとも一部と径方向Rに対向するように軸方向Zに延びていればよい。
【0111】
図2~5に示すように、圧縮機10は、回転体60に形成されたベーン溝130と、ベーン溝130に挿入されたベーン131と、を備えている。
ベーン溝130は、回転体60の回転体リング部70に形成されている。ベーン溝130は、回転体リング部70を軸方向Zに貫通しており、両回転体面71,72に開口している。本実施形態のベーン溝130は、軸方向Z及び径方向Rの双方と直交する方向を幅方向として径方向Rに延びており、径方向R外側に向けて開口している。一方、ベーン溝130は、回転体筒部61には形成されていない。ベーン溝130は、周方向に互いに離間して対向配置された一対の側面を有している。
【0112】
なお、念のために説明すると、本実施形態では、回転体リング部70は、回転体筒部61に対して径方向R外側の部分である。このため、回転体リング部70の径方向R内側には回転体筒部61が存在する。すなわち、回転体リング部70は、筒部外周面62に設けられ、筒部外周面62から径方向R外側に突出している部分である。
【0113】
ベーン131は、全体として矩形板状である。ベーン131は、例えばベーン131の板面が回転軸12の周方向に対して交差した状態で、両固定体90,110(換言すれば両固定体面100,120)の間に配置されている。ベーン131は、ベーン溝130の幅方向、換言すれば軸方向Z及び径方向Rの双方と直交する方向を厚さ方向とする板状である。
【0114】
ベーン131の両板面とベーン溝130の両側面とは、周方向(換言すればベーン溝130の幅方向)に互いに対向している。ベーン溝130の幅(換言すればベーン溝130の両側面の対向距離)は、ベーン131の板厚と同一又はそれよりも若干広いとよい。ベーン溝130に挿入されているベーン131は、ベーン溝130の両側面によって挟まれている。ベーン131は、ベーン溝130に沿って軸方向Zに移動することが許容されている。本実施形態では、ベーン131、詳細にはベーン131の軸方向Zの両端部が両固定体面100,120と当接している。
【0115】
本実施形態の圧縮機10は、ベーン溝130及びベーン131を複数備えており、詳細には3つ備えている。複数のベーン溝130は、周方向に等間隔に配置されており、詳細には互いに120°ずれた位置に配置されている。これに対応させて、複数のベーン131が周方向に等間隔に配置されている。
【0116】
かかる構成によれば、回転体60が回転することに伴ってベーン131が回転方向Mに回転する。この場合、両固定体面100,120が湾曲しているため、ベーン131は、両固定体面100,120との当接によって両固定体面100,120に沿って軸方向Zに移動する(換言すれば揺動する)。つまり、ベーン131は、軸方向Zに移動しながら回転する。これにより、ベーン131が、フロント圧縮室A4に入り込んだり、リア圧縮室A5に入り込んだりする。すなわち、ベーン溝130は、回転体60の回転に伴ってベーン131を回転させつつ、ベーン131が両圧縮室A4,A5に跨って配置されるようにするものであるともいえる。
【0117】
ベーン131の移動距離(換言すれば揺動距離)は両フロント平坦面101,102間(又は両リア平坦面121,122間)の軸方向Zの変位量であり、すなわちずれ量Z1である。また、ベーン131は、回転体60の回転中、両固定体面100,120と継続して当接しており、断続的な当接、詳細には定期的に離間したり当接したりすることが生じにくい。
【0118】
ここで、
図6に示すように、フロント圧縮室A4は、3つのベーン131によって3つのパーツ室、すなわち第1フロント圧縮室A4a、第2フロント圧縮室A4b、及び第3フロント圧縮室A4cに仕切られている。
【0119】
説明の便宜上、3つのパーツ室のうち第2フロント平坦面102に対して回転方向M側に配置されているパーツ室を第1フロント圧縮室A4aとする。
また、3つのパーツ室のうち第1フロント圧縮室A4aよりも回転方向M側に配置されているパーツ室を第2フロント圧縮室A4bとする。第2フロント圧縮室A4bの少なくとも一部は、第2フロント平坦面102に対して回転方向M側とは反対側に配置されている。
【0120】
また、3つのパーツ室のうち周方向における第1フロント圧縮室A4a及び第2フロント圧縮室A4bの間に配置されているパーツ室を第3フロント圧縮室A4cとする。第3フロント圧縮室A4cは、第1フロント圧縮室A4aに対して回転方向M側であって且つ第2フロント圧縮室A4bに対して回転方向M側とは反対側に配置されている。
【0121】
各フロント圧縮室A4a~A4cはそれぞれ、120°の角度範囲に亘って形成されている。つまり、各フロント圧縮室A4a~A4cは、周方向に延びており、その延設長さ(詳細には周方向の長さ)は、120°の角度範囲に対応する長さである。
【0122】
なお、厳密には、複数のベーン131のうち1つが第2フロント平坦面102に当接している場合、そのベーン131はフロント圧縮室A4に入り込んでいない。この場合、第2フロント平坦面102に当接しているベーン131の両側にある空間は、フロント回転体面71と第2フロント平坦面102との当接箇所によって仕切られており、当該当接箇所によってシールされている。このため、複数のベーン131のうち1つが第2フロント平坦面102に当接している場合であっても、フロント圧縮室A4は、3つのパーツ室に仕切られている。本実施形態では、説明の便宜上、複数のベーン131のうち1つが第2フロント平坦面102に当接している場合であっても、フロント圧縮室A4は、3つのベーン131によって各フロント圧縮室A4a~A4cに仕切られているものとする。
【0123】
図7に示すように、フロント圧縮室A4と同様に、リア圧縮室A5は、3つのベーン131によって、第1リア圧縮室A5aと、第1リア圧縮室A5aよりも回転方向M側に配置されている第2リア圧縮室A5bと、周方向における第1リア圧縮室A5aと第2リア圧縮室A5bとの間に配置されている第3リア圧縮室A5cと、に仕切られている。第1リア圧縮室A5a、第2リア圧縮室A5b、第3リア圧縮室A5cは、第1フロント圧縮室A4a、第2フロント圧縮室A4b、第3フロント圧縮室A4cと同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0124】
次に、圧縮室A4,A5への吸入流体の吸入と圧縮流体の吐出とに係る構成について説明する。なお、図示の都合上、
図4においてはフロント吸入ポート141及びリア吸入ポート142を模式的に示す。
【0125】
図2~4,6に示すように、圧縮機10は、フロント圧縮室A4に吸入流体を吸入するフロント吸入ポート141を備えている。フロント吸入ポート141は、例えばフロントシリンダ30に形成されており、詳細にはフロントシリンダ底部31及びフロントシリンダ側壁部32の双方に跨るように軸方向Zに延びている。
【0126】
また、フロント吸入ポート141は、フロントシリンダ側壁部32に対応させて周方向に延びており、軸方向Zから見て円弧状に形成されている。フロント吸入ポート141の少なくとも一部は、第1フロント圧縮室A4aに対して径方向R外側に配置されている。換言すれば、第1フロント圧縮室A4aは、フロント吸入ポート141の径方向R内側にある空間の一部又は全部を含む。
【0127】
フロント吸入ポート141は、モータ室A2に開口しているとともにフロント圧縮室A4に開口している。フロント吸入ポート141によって、モータ室A2とフロント圧縮室A4とが連通されている。
【0128】
詳細には、
図6に示すように、フロント吸入ポート141は、第1フロント圧縮室A4aと連通する位置に開口したフロント吸入開口部141aを有している。フロント吸入開口部141aは、フロントシリンダ内周面33のうち第2フロント平坦面102の周方向の中央部に対応する位置から回転方向Mに延設されている。フロント吸入開口部141aの延設長さは、例えば各フロント圧縮室A4a~A4cの延設長さ(周方向の長さ)とほぼ同一でもよい。つまり、フロント吸入開口部141aは、フロントシリンダ内周面33のうち第2フロント平坦面102の周方向の中央部に対応する位置から各ベーン131の周方向の間隔とほぼ同一長さだけ周方向に延びていてもよい。
【0129】
また、第2フロント平坦面102の中央部の角度位置を0°とすると、フロント吸入開口部141aは、例えば少なくとも第2フロント平坦面102の回転方向M側の端部から回転方向Mにおける120°の角度位置までの範囲に亘って形成されているとよい。
【0130】
図6及び
図8に示すように、圧縮機10は、フロント圧縮室A4にて圧縮された圧縮流体を吐出するフロント吐出ポート151と、フロント吐出ポート151を開閉させるフロント弁152と、フロント弁152の開度を調整するフロントリテーナ153と、を備えている。
【0131】
図6に示すように、フロント吐出ポート151は、例えばフロントシリンダ側壁部32のうちフロント圧縮室A4の径方向R外側であって第2フロント平坦面102よりも回転体60の回転方向M側とは反対側の位置に設けられている。
【0132】
詳細には、湾曲しているフロントシリンダ外周面34には、フロントシリンダ外周面34から凹んだフロント座面154が形成されている。フロント座面154は、フロントシリンダ外周面34のうちフロント圧縮室A4と吐出室A1との間であって第2フロント平坦面102よりも回転方向M側とは反対側の部分に形成されている。フロント座面154は、径方向Rに対して直交する平坦面である。
【0133】
図6に示すように、フロント吐出ポート151は、フロント座面154に設けられている。フロント吐出ポート151は、フロントシリンダ側壁部32を径方向Rに貫通することによって第2フロント圧縮室A4bと吐出室A1とを連通させている。
【0134】
本実施形態では、フロント吐出ポート151は、複数設けられており、周方向に配列されている。複数のフロント吐出ポート151はそれぞれ円形である。但し、フロント吐出ポート151の数及び形状は任意である。例えば、フロント吐出ポート151は1つでもよい。また、フロント吐出ポート151はオーバル形状等でもよい。複数のフロント吐出ポート151が設けられている構成においては、各フロント吐出ポート151の大きさは同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0135】
本実施形態では、フロント吐出ポート151の少なくとも一部は、第2フロント圧縮室A4bに対して径方向R外側に配置されている。換言すれば、第2フロント圧縮室A4bは、フロント吐出ポート151の径方向R内側にある空間の一部又は全部を含む。
【0136】
フロント吸入ポート141とフロント吐出ポート151とは、フロントシリンダ側壁部32のうち第2フロント平坦面102の径方向R外側の部分を介して周方向に離間した位置に設けられている。
【0137】
すなわち、本実施形態の第1フロント圧縮室A4aは、フロント吸入ポート141と連通する一方、フロント吐出ポート151とは連通しないように構成されている。
第2フロント圧縮室A4bは、フロント吐出ポート151と連通する。ただし、本実施形態では、第2フロント圧縮室A4bの周方向の長さが第2フロント平坦面102の周方向の長さよりも長いため、位相によっては第2フロント圧縮室A4bがフロント吸入ポート141の径方向R内側とフロント吐出ポート151の径方向R内側との双方に跨って配置される場合がある。この点、本実施形態では、フロント吸入ポート141の径方向R内側にある空間と、フロント吐出ポート151の径方向R内側にある空間との間には、フロント回転体面71と第2フロント平坦面102との当接箇所が存在する。これにより、複数のベーン131の角度位置にかかわらず、上記両空間は上記当接箇所によってシールされている。したがって、フロント吸入ポート141とフロント吐出ポート151との連通が規制されている。つまり、本実施形態では、第2フロント圧縮室A4bは、上記当接箇所によって、吸入が行われる空間と、圧縮が行われる空間とに更に仕切られるともいえる。
【0138】
本実施形態の第3フロント圧縮室A4cは、回転体60の回転に伴ってフロント吐出ポート151と連通しない状態から、フロント吐出ポート151と連通する状態に移行する。
【0139】
図8に示すように、フロント弁152及びフロントリテーナ153は、フロント座面154に設けられている。フロント弁152及びフロントリテーナ153は、ボルトBがフロント弁152及びフロントリテーナ153の双方を貫通した状態で、フロント座面154に形成されたネジ穴154aに螺合していることによってフロント座面154に固定されている。
【0140】
フロント弁152は、通常はフロント吐出ポート151を塞いでおり、フロント圧縮室A4(詳細には第2フロント圧縮室A4b)の圧力が閾値を超えると開いて、フロント吐出ポート151を塞いでいる状態からフロント吐出ポート151を開放する状態に移行する。これにより、フロント圧縮室A4にて圧縮された圧縮流体が吐出室A1に吐出される。この場合、フロント弁152の開く角度はフロントリテーナ153によって規制される。
【0141】
図2~4,7に示すように、圧縮機10は、リア圧縮室A5に吸入流体を吸入するリア吸入ポート142を備えている。リア吸入ポート142は、例えばフロントシリンダ30に形成されており、詳細にはフロントシリンダ底部31及びフロントシリンダ側壁部32の双方に跨るように軸方向Zに延びている。
【0142】
また、リア吸入ポート142は、フロントシリンダ側壁部32に対応させて周方向に延びており、軸方向Zから見て円弧状に形成されている。リア吸入ポート142の少なくとも一部は、第1リア圧縮室A5aに対して径方向R外側に配置されている。換言すれば、第1リア圧縮室A5aは、リア吸入ポート142の径方向R内側にある空間の一部又は全部を含む。
【0143】
リア吸入ポート142は、モータ室A2に開口しているとともにリア圧縮室A5に開口している。リア吸入ポート142によって、モータ室A2とリア圧縮室A5とが連通されている。
【0144】
詳細には、
図7に示すように、リア吸入ポート142は、第1リア圧縮室A5aと連通する位置に開口したリア吸入開口部142aを有している。リア吸入開口部142aは、フロントシリンダ内周面33のうち第2リア平坦面122の周方向の中央部に対応する位置から回転方向Mに延設されている。
【0145】
ちなみに、本実施形態では、リア吸入ポート142及びリア吸入開口部142aは、第2リア平坦面122の周方向の中央部に対応する位置から、フロント吐出ポート151、フロント弁152及びフロントリテーナ153と干渉しない範囲内で、回転方向Mに延びている。
【0146】
ただし、これに限られず、リア吸入ポート142及びリア吸入開口部142aの周方向の長さを、フロント吸入ポート141及びフロント吸入開口部141aの周方向の長さと同一にしてもよい。この場合、リア吸入ポート142及びリア吸入開口部142aと、フロント吐出ポート151等とが干渉しないように、フロント弁152等の軸方向Zの長さを短くしたり、フロント吐出ポート151の位置をずらして配置したり、第2フロント平坦面102の角度範囲を狭くしたりするとよい。
【0147】
ちなみに、本実施形態では、2つの圧縮室A4,A5に対応させて、2つの吸入ポート141,142が設けられている。フロント吸入ポート141とリア吸入ポート142とは、互いに連通しないように周方向にずれて配置されており、詳細には両者は180°ずれた位置に配置されている。これにより、例えば両圧縮室A4,A5のうち一方の圧縮室における吸入流体の吸入に起因して、他方の圧縮室における吸入流体の吸入量が減少するといった、両吸入ポート141,142が連通していることに起因する不都合を抑制できる。
【0148】
図7に示すように、圧縮機10は、リア圧縮室A5にて圧縮された圧縮流体を吐出するリア吐出ポート161と、リア吐出ポート161を開閉させるリア弁162と、リア弁162の開度を調整するリアリテーナ163と、を備えている。
【0149】
リア吐出ポート161は、例えばフロントシリンダ側壁部32のうちリア圧縮室A5の径方向R外側であって第2リア平坦面122よりも回転方向M側とは反対側の位置に設けられている。
【0150】
ちなみに、第2フロント平坦面102と第2リア平坦面122とが180°ずれていることに対応させて、リア吐出ポート161は、フロント吐出ポート151に対して周方向に180°ずれた位置に形成されている。また、フロント圧縮室A4とリア圧縮室A5とが軸方向Zにずれて配置されていることに対応させて、リア吐出ポート161は、フロント吐出ポート151に対して軸方向Zにずれている。
【0151】
なお、リア吐出ポート161、リア弁162及びリアリテーナ163の具体的な構成は、設けられている位置等が異なる点を除き、基本的にはフロント吐出ポート151、フロント弁152及びフロントリテーナ153と同様であるため、詳細な説明を省略する。また、上述したフロント吐出ポート151、フロント弁152及びフロントリテーナ153の説明における「フロント」を「リア」に読み替えてもよい。吐出ポート151,161は吐出通路ともいえる。
【0152】
次に、本実施形態のベーン131について説明する。ここで、説明の便宜上、以降の説明において、ベーン131によって仕切られた2つのパーツ室のうち回転方向M側とは反対側を第1パーツ室Axとし、回転方向M側のパーツ室を第2パーツ室Ayとする。第1フロント圧縮室A4aと第3フロント圧縮室A4cとを仕切るベーン131において、第1パーツ室Axは第1フロント圧縮室A4aであり、第2パーツ室Ayは第3フロント圧縮室A4cである。第3フロント圧縮室A4cと第2フロント圧縮室A4bとを仕切るベーン131において、第1パーツ室Axは第3フロント圧縮室A4cであり、第2パーツ室Ayは第2フロント圧縮室A4bである。第2フロント圧縮室A4bと第1フロント圧縮室A4aとを仕切るベーン131において、第1パーツ室Axは第2フロント圧縮室A4bであり、第2パーツ室Ayは第1フロント圧縮室A4aである。リア圧縮室A5についても同様である。
【0153】
ちなみに、各フロント圧縮室A4a~A4cの圧力は、回転方向M側に配置されているものほど高くなり易い。詳細には、第1フロント圧縮室A4a、第3フロント圧縮室A4c、第2フロント圧縮室A4b(特にフロント回転体面71と第2フロント平坦面102との当接箇所よりも回転方向M側とは反対側の空間)の順に高くなり易い。このため、ベーン131に対して回転方向M側にある第2パーツ室Ayの圧力は、ベーン131に対して回転方向M側とは反対側にある第1パーツ室Axの圧力よりも高くなり易い。
【0154】
図9~13に示すように、本実施形態のベーン131は、複数のパーツで構成されている。詳細には、ベーン131は、ベーン溝130に挿入されているベーン本体170と、ベーン本体170の軸方向Zの両端面171,172に設けられた2つのチップシール180,190と、を含む。両チップシール180,190がベーン131の軸方向Zの両端部を構成しており、チップシール180,190が固定体面100,120と当接する。
【0155】
ベーン本体170は、例えば回転体60及び両固定体90,110と同一材料で形成されており、一例としては金属製である。ベーン本体170は、板状であり、その厚さ方向がベーン溝130の幅方向と一致した状態でベーン溝130に挿入されている。ベーン本体170は、軸方向Z及び径方向Rに延びている。なお、本実施形態では、ベーン本体170は矩形板状であるが、これに限られず、ベーン本体170は板状であれば任意である。また、本実施形態のベーン本体170は、ベーン131の軸方向Zの移動に関わらず、ベーン溝130に挿入されている。
【0156】
ベーン本体170の軸方向Zの両端面171,172には、本体取付部としての本体取付溝173,174が形成されている。本体取付溝173,174は、ベーン131の厚さ方向を幅方向として径方向Rに延びており、径方向R内側及び径方向R外側の双方に開口している。
【0157】
本体取付溝173,174は、本体溝底面173a,174aと、本体溝底面173a,174aから起立した第1本体溝側面173b,174b及び第2本体溝側面173c,174cとを有している。第1本体溝側面173b,174b及び第2本体溝側面173c,174cは、周方向(換言すれば軸方向Z及び径方向Rの双方に対して直交する方向)に対して交差する面であって、周方向に離間して対向配置された一対の側面である。第2本体溝側面173c,174cは、第1本体溝側面173b,174bよりも回転方向M側に配置されている。つまり、第1本体溝側面173b,174bは、本体取付溝173,174における回転方向M側とは反対側の側面であり、第2本体溝側面173c,174cは、本体取付溝173,174における回転方向M側の側面である。
【0158】
本実施形態では、チップシール180,190は、ベーン本体170とは別の材料で構成されており、例えばベーン本体170よりも変形し易い材料(換言すれば柔らかい材料)で形成されている。例えば、チップシール180,190は樹脂製である。チップシール180,190が固定体面100,120と当接することによって、ベーン131の両側にある両パーツ室Ax,Ay間がシールされている。本実施形態では、両チップシール180,190は同一形状である。なお、説明の便宜上、チップシール180,190と固定体面100,120との当接箇所を先端当接箇所Pa1,Pa2という。
【0159】
図9~11に示すように、チップシール180,190は、例えば径方向Rに延びた長尺形状である。チップシール180,190は、例えば固定体面100,120に当接するシール本体部181,191と、ベーン本体170に取り付けるのに用いられるシール取付部としてのシール取付凸部182,192と、を有している。
【0160】
図12に示すように、本実施形態のシール本体部181,191は、ベーン本体170の厚さと略同一の幅を有しており、ベーン本体170の軸方向Zの端面171,172と固定体面100,120とによって軸方向Zから挟まれている。換言すれば、シール本体部181,191は、ベーン本体170の軸方向Zの端面171,172と固定体面100,120との間に介在するものともいえる。
【0161】
図11及び
図12に示すように、シール本体部181,191は、固定体面100,120に向けて凸となるように湾曲したシール面181a,191aと、ベーン本体170の軸方向Zの両端面171,172と軸方向Zに対向するシール本体底面181b,191bと、を有している。
【0162】
シール面181a,191aは、固定体面100,120に対して軸方向Zに対向している。本実施形態では、シール面181a,191aが固定体面100,120に当接する。本実施形態におけるシール面181a,191aの湾曲具合は、シール本体部181,191が半円状に形成されている場合よりも緩くなっている。詳細には、シール面181a,191aの曲率半径は、ベーン131の厚さの1/2よりも大きく設定されている。ただし、これに限られず、シール面181a,191aの湾曲具合は任意である。
【0163】
なお、シール面181a,191aは、径方向Rに延びており、径方向Rの全体に亘って固定体面100,120に当接している。ただし、これに限られず、シール本体部181,191の径方向Rの一部が固定体面100,120に当接している構成でもよい。
【0164】
本実施形態のシール取付凸部182,192は、シール本体部181,191からベーン本体170に向けて突出し、且つ、ベーン131の厚さ方向を幅方向として径方向Rに延びた突条である。シール取付凸部182,192は、取付先端面182a,192aと、第1シール凸側面182b,192bと、第1シール凸側面182b,192bよりも回転方向M側に配置された第2シール凸側面182c,192cと、を有している。第1シール凸側面182b,192bと第2シール凸側面182c,192cとは、周方向に対して交差している面である。第1シール凸側面182b,192bは、シール取付凸部182,192における回転方向M側とは反対側の側面であり、第2シール凸側面182c,192cは、シール取付凸部182,192における回転方向M側の側面である。
【0165】
本実施形態のチップシール180,190は、シール取付凸部182,192が本体取付溝173,174に挿入されることによって、ベーン本体170に取り付けられている。この場合、本体取付部としての本体取付溝173,174とシール取付凸部182,192とは周方向(換言すればベーン溝130の幅方向)に対向している。詳細には、第1本体溝側面173b,174bと第1シール凸側面182b,192bとは周方向に対向しており、第2本体溝側面173c,174cと第2シール凸側面182c,192cとは周方向に対向している。そして、チップシール180,190は、ベーン本体170から離れるように軸方向Zに移動したり、ベーン本体170に近づくように軸方向Zに移動したりすることができる。つまり、チップシール180,190は、ベーン本体170に対して軸方向Zに移動可能な状態でベーン本体170に取り付けられている。
【0166】
ちなみに、チップシール180,190がベーン本体170に対して軸方向Zに移動可能である点、及び、ベーン131がベーン本体170及びチップシール180,190を含む点に鑑みれば、ベーン131は軸方向Zに伸縮可能となっているともいえる。
【0167】
図11及び
図12に示すように、ベーン本体170とチップシール180,190との間には、チップシール180,190を固定体面100,120に向けて押圧する背圧空間183,193が形成されている。
【0168】
本実施形態では、フロント背圧空間183は、フロント取付先端面182a、フロント本体溝底面173a、フロント第1本体溝側面173b、及びフロント第2本体溝側面173cによって区画されている。フロントシール取付凸部182の幅は、フロント本体取付溝173の幅よりも同一又は若干短く設定されているため、フロントシール取付凸部182とフロント本体取付溝173との隙間を介してフロント背圧空間183に流体が流入可能となっている。リア背圧空間193についても同様である。
【0169】
図11及び
図12に示すように、圧縮機10は、第2パーツ室Ay内の流体を背圧空間183,193に導入する導入溝184,194を備えている。
本実施形態では、導入溝184,194は、チップシール180,190に形成されている。導入溝184,194は、径方向Rに離間して複数(本実施形態では2つ)設けられている。但し、導入溝184,194の数は任意であり、1つでもよいし、3つ以上でもよい。
【0170】
図12に示すように、導入溝184,194は、シール本体部181,191及びシール取付凸部182,192に亘って形成されている。詳細には、導入溝184,194は、シール本体底面181b,191bのうちシール取付凸部182,192よりも回転方向M側の部分と、第2シール凸側面182c,192cとに亘って形成されている。
【0171】
フロント導入溝184は、フロントチップシール180における回転方向M側に設けられており、回転方向M側のパーツ室である第2パーツ室Ayに対して開口している。同様に、リア導入溝194は、リアチップシール190における回転方向M側に設けられており、第2パーツ室Ayに対して開口している。これにより、導入溝184,194を介して、第2パーツ室Ay内の流体が背圧空間183,193に流れ込み易くなっている。
【0172】
かかる構成によれば、チップシール180,190が背圧空間183,193によって固定体面100,120に向けて押圧されるため、チップシール180,190と固定体面100,120との間に隙間が生じにくくなっている。
【0173】
詳述すると、回転体筒部61によって回転体60が両固定体90,110に支持されている構成であっても、回転体60及び両固定体90,110の製造時の寸法誤差や組付け誤差などによって、両固定体面100,120の少なくとも一方とベーン131との間に隙間が生じる場合があり得る。当該隙間は、ベーン131が回転する全角度範囲に亘って生じる場合もあり得るし、特定の角度範囲に亘ってのみ生じる場合もあり得る。
【0174】
この点、本実施形態によれば、
図12に示すように、回転体60の回転に伴ってベーン本体170が回転すると、チップシール180,190は、回転方向Mに押圧される。これにより、シール取付凸部182,192における回転方向M側とは反対側の側面である第1シール凸側面182b,192bと、本体取付溝173,174における回転方向M側とは反対側の側面である第1本体溝側面173b,174bとが周方向に当接して、当該当接箇所(以下、「側面当接箇所Pb1,Pb2」という。)にてシールされる。したがって、チップシール180,190とベーン本体170との間を介して、両パーツ室Ax,Ay間の流体の移動が規制される。
【0175】
特に、本実施形態では、側面当接箇所Pb1,Pb2は軸方向Zに延びている。このため、仮にベーン本体170に対してチップシール180,190が軸方向Zに移動した場合であっても、第1シール凸側面182b,192bと第1本体溝側面173b,174bとの当接が維持され易い。
【0176】
なお、本実施形態では、本体取付溝173,174が本体取付部を構成していることを鑑みれば、側面当接箇所Pb1,Pb2は、本体取付部とシール取付凸部182,192との当接箇所ともいえる。
【0177】
一方、回転方向M側においてはクリアランスが形成される。詳細には、第2シール凸側面182c,192cと第2本体溝側面173c,174cとの間にはクリアランスが形成される。これにより、
図12の二点鎖線に示すように、当該クリアランスを介して、第2パーツ室Ay内にある流体が、背圧空間183,193に導入される。特に、本実施形態では、導入溝184,194によって背圧空間183,193に第2パーツ室Ayの流体が流れ込み易くなっている。
【0178】
そして、チップシール180,190は、背圧空間183,193によって固定体面100,120に向けて押圧される。したがって、チップシール180,190(詳細にはシール面181a,191a)が固定体面100,120と当接し、両者の間がシールされる。よって、チップシール180,190と固定体面100,120との間に隙間が形成されることを抑制できる。
【0179】
本実施形態では、本体取付溝173,174の深さは、例えばシール取付凸部182,192の突出寸法よりも深い。このため、シール本体底面181b,191bと端面171,172とが当接している場合であっても、背圧空間183,193が形成される。これにより、背圧空間183,193が形成されないといった事態を回避できる。ただし、本体取付溝173,174の深さは、これに限られず任意であり、例えばシール取付凸部182,192の突出寸法以下でもよい。
【0180】
図9及び
図13に示すように、ベーン131は、径方向Rの両端面としてベーン外周端面201及びベーン内周端面202を備えている。ベーン外周端面201は、ベーン131の径方向Rの両端面のうち外周側(詳細には径方向R外側)の端面であり、ベーン内周端面202は、ベーン131の径方向Rの両端面のうち内周側(詳細には径方向R内側)の端面である。
【0181】
本実施形態では、ベーン外周端面201は、ベーン本体170の外周端面及び両チップシール180,190の外周端面によって構成されている。ベーン本体170の外周端面と両チップシール180,190の外周端面とは軸方向Zに連続しており、面一となっている。これにより、ベーン外周端面201は1つの面となっている。
【0182】
ベーン外周端面201は、ベーン131の移動に関わらず、フロントシリンダ内周面33に対して当接している。換言すれば、フロントシリンダ内周面33は、ベーン131の移動に関わらずベーン外周端面201と当接するようにベーン131の移動範囲よりも長く軸方向Zに延びていると言える。
【0183】
図13に示すように、ベーン外周端面201の形状は、例えばリング外周面73と周方向に連続するように径方向R外側に向けて凸となるように湾曲しており、その曲率はフロントシリンダ内周面33の曲率と同一であるとよい。つまり、ベーン外周端面201とフロントシリンダ内周面33とは面接触するとよい。ただし、これに限られず、ベーン外周端面201の形状は任意である。
【0184】
ベーン外周端面201と同様に、ベーン内周端面202は、ベーン本体170の内周端面及び両チップシール180,190の内周端面によって構成されている。ベーン本体170の内周端面と両チップシール180,190の内周端面とは軸方向Zに連続しており、面一となっている。これにより、ベーン内周端面202は1つの面となっている。
【0185】
図13に示すように、ベーン内周端面202は例えば径方向R外側に凹むように湾曲しており、その曲率は筒部外周面62の曲率と同一であるとよい。つまり、ベーン内周端面202と筒部外周面62とは面接触するとよい。ただし、これに限られず、ベーン外周端面201の形状は任意である。
【0186】
次に、
図14及び
図15を用いて、本実施形態の作用として圧縮機10の一連の動作について説明する。
図14及び
図15は、回転体60、固定体90,110、及びベーン131を模式的に示す展開図であり、両図は回転体60及びベーン131の位相が異なっている。
図14及び
図15では、図示の都合上、各ポート141,142,151,161を模式的に示す。
【0187】
図14及び
図15に示すように、電動モータ13によって回転軸12が回転すると、それに伴って回転体60が回転する。これにより、複数のベーン131は、互いの周方向位置を維持した状態で、両固定体面100,120に沿って軸方向Zに移動しながら回転する。
図14及び
図15では、複数のベーン131は、紙面左右方向に移動しながら下方に移動する。これにより、各フロント圧縮室A4a~A4c及び各リア圧縮室A5a~A5cにおいて容積変化が生じて、流体の吸入、圧縮又は膨張が行われる。つまり、ベーン131は、軸方向Zに移動しながら回転することによって、両圧縮室A4,A5において流体の吸入及び圧縮を行わせるものであるともいえる。
【0188】
詳細には、第2フロント圧縮室A4bにおける第2フロント平坦面102よりも回転方向M側の空間と第1フロント圧縮室A4aとでは、容積が増加してフロント吸入ポート141から吸入流体の吸入が行われる。
【0189】
一方、第2フロント圧縮室A4bにおける第2フロント平坦面102よりも回転方向M側とは反対側の空間と第3フロント圧縮室A4cとでは、回転体60の回転に伴って容積が減少して、吸入流体の圧縮が行われる。詳細には、第3フロント圧縮室A4cにて吸入流体が圧縮され、第3フロント圧縮室A4cにて圧縮された流体は、第2フロント圧縮室A4bにおける第2フロント平坦面102よりも回転方向M側とは反対側の空間にて更に圧縮される。
【0190】
そして、第2フロント圧縮室A4bにおける第2フロント平坦面102よりも回転方向M側とは反対側の空間内の圧力が閾値を超えると、フロント弁152が開放して、第2フロント圧縮室A4bにて圧縮された圧縮流体がフロント吐出ポート151を介して吐出室A1に流れる。リア圧縮室A5についても同様である。
【0191】
以上のとおり、回転体60及びベーン131が回転することによって両圧縮室A4,A5ではそれぞれ、3つのパーツ室において480°を1周期とする吸入及び圧縮のサイクル動作が繰り返し行われる。詳細には、両圧縮室A4,A5では、0°~240°の位相に亘って吸入流体の吸入又は膨張が行われ、240°~480°の位相に亘って吸入流体の圧縮が行われる。
【0192】
例えば、第2フロント平坦面102の中央部の角度位置を0°とし、当該中央部に第1のベーン131が配置されているとすると、第1のベーン131が0°の角度位置から240°の角度位置に到達するまでは、第1のベーン131に対して回転方向M側とは反対側のフロント圧縮室A4において吸入流体の吸入が行われる。
【0193】
特に、フロント吸入開口部141aは、少なくとも第2フロント平坦面102の回転方向M側の端部から回転方向Mにおける120°の角度位置までの範囲に亘って形成されているため、第1のベーン131が240°の角度位置に到達するまで、吸入流体の吸入が行われる。これにより、フロント圧縮室A4にて流体の膨張が行われることを回避でき、効率の向上を図ることができる。
【0194】
そして、上記第1のベーン131よりも回転方向M側とは反対側にある第2のベーン131が120°の角度位置から360°の角度位置に到達するまでは、第2のベーン131に対して回転方向M側のフロント圧縮室A4において吸入流体の圧縮が行われる。
【0195】
ここで、説明の便宜上、各フロント圧縮室A4a~A4cを区別して説明したが、各フロント圧縮室A4a~A4cは、位相が互いに異なる圧縮室といえる。つまり、フロント回転体面71、フロント固定体面100、筒部外周面62及びフロントシリンダ内周面33によって区画された空間は、複数のベーン131によって、位相が互いに異なる3つの圧縮室に仕切られているともいえる。本実施形態では、回転体60が480°回転することによって、フロント側の3つの圧縮室、及び、リア側の3つの圧縮室のそれぞれにおいて流体の吸入及び圧縮が行われる。
【0196】
なお、本実施形態では、説明の便宜上、各フロント圧縮室A4a~A4cを、複数のベーン131によって仕切られるものとするとともにフロント吸入ポート141及びフロント吐出ポート151との位置関係で規定して説明したが、これに限られない。例えば、仮に1つの圧縮室の1周期について着目して説明すると以下のとおりである。
【0197】
第1のベーン131が第2フロント平坦面102に対して回転方向M側に移動することによって、第1のベーン131に対して回転方向M側とは反対側に、フロント吸入ポート141と連通する圧縮室が形成される。当該圧縮室は、ベーン131が回転するに従って、フロント吸入ポート141と連通している状態を維持しつつ容積を増加させる。これにより、圧縮室にて吸入が行われる。
【0198】
その後、第2のベーン131が第2フロント平坦面102に対して回転方向M側に移動することによって、圧縮室が第1のベーン131と第2のベーン131とによって区画される。第2のベーン131がフロント吸入開口部141aの回転方向M側の端部に到達するまで、圧縮室にて吸入が行われる。
【0199】
その後、第2のベーン131がフロント吸入開口部141aの回転方向M側の端部よりも回転方向M側に移動すると、圧縮室はフロント吸入ポート141と連通しなくなり、更に回転体60が回転するとフロント吐出ポート151と連通する。また、この段階において圧縮室の容積は回転体60の回転に伴って減少するため、圧縮室では圧縮が行われる。そして、第2のベーン131が第2フロント平坦面102に当接する位置まで到達することによって、圧縮室の容積が「0」となり、圧縮室の吸入及び圧縮の1周期が終了する。
【0200】
以上詳述した本実施形態によれば以下の効果を奏する。
(1-1)圧縮機10は、回転軸12と、回転軸12の回転に伴って回転する回転体60と、回転軸12の回転に伴って回転しない固定体90,110と、回転体60に形成されたベーン溝130に挿入され、回転体60の回転に伴って軸方向Zに移動しながら回転するベーン131と、を備えている。回転体60は、軸方向Zに対して交差している回転体面71,72を有し、固定体90,110は、回転体面71,72と軸方向Zに対向する固定体面100,120を有している。圧縮機10は、回転体面71,72及び固定体面100,120を用いて区画され、ベーン131が軸方向Zに移動しながら回転することによって流体の吸入及び圧縮が行われる圧縮室A4,A5を備えている。
【0201】
ベーン131は、ベーン溝130に挿入されているベーン本体170と、ベーン本体170に対して軸方向Zに移動可能な状態で、ベーン本体170における軸方向Zの端面171,172に取り付けられたシール部材としてのチップシール180,190と、を備えている。チップシール180,190は、ベーン本体170とチップシール180,190との間に形成された背圧空間183,193によって固定体面100,120に向けて押圧されることにより、固定体面100,120に当接する。
【0202】
かかる構成によれば、チップシール180,190が背圧空間183,193によって押圧されて固定体面100,120に当接することにより、ベーン131と固定体面100,120との間がシールされる。したがって、ベーン131と固定体面100,120との間に隙間が生じることを抑制できる。
【0203】
(1-2)フロント圧縮室A4は、ベーン131の両側に設けられた第1パーツ室Ax及び第2パーツ室Ayを含む。第1パーツ室Axは、ベーン131に対して回転方向M側とは反対側に配置され、第2パーツ室Ayは、ベーン131に対して回転方向M側に配置されている。ベーン本体170における軸方向Zの端面171,172には、本体取付部としての本体取付溝173,174が設けられている。チップシール180,190は、本体取付溝173,174に取り付けられるシール取付凸部182,192を備えている。シール取付凸部182,192と本体取付溝173,174(詳細には第1本体溝側面173b,174b)とは、回転軸12の周方向に対向している。
【0204】
かかる構成によれば、回転体60の回転に伴ってベーン131(詳細にはベーン本体170)が回転すると、シール取付凸部182,192と本体取付溝173,174が周方向に当接し、その当接箇所である側面当接箇所Pb1,Pb2によって、チップシール180,190とベーン本体170との間がシールされる。これにより、背圧空間183,193を介して、両パーツ室Ax,Ay間で流体の移動が行われることを抑制できる。
【0205】
(1-3)特に、本実施形態では、本体取付部として、ベーン本体170の軸方向Zの端面171,172に形成された本体取付溝173,174が採用されている。本体取付溝173,174は、回転方向M側とは反対側の側面である第1本体溝側面173b,174bと、回転方向M側の側面である第2本体溝側面173c,174cと、を有している。
【0206】
チップシール180,190は、固定体面100,120と当接するシール本体部181,191を有しており、シール取付凸部182,192は、シール本体部181,191からベーン本体170の軸方向Zの端面171,172に向けて突出している。シール取付凸部182,192は、回転方向M側とは反対側の側面である第1シール凸側面182b,192bと、回転方向M側の側面である第2シール凸側面182c,192cと、を有している。
【0207】
チップシール180,190は、シール取付凸部182,192が本体取付溝173,174に挿入されることによってベーン本体170に取り付けられている。第1シール凸側面182b,192bと第1本体溝側面173b,174bとが周方向に対向している。
【0208】
かかる構成によれば、シール取付凸部182,192が本体取付溝173,174に挿入されることによって、チップシール180,190がベーン本体170に取り付けられる。この場合、ベーン131(詳細にはベーン本体170)の回転に伴って第1シール凸側面182b,192bと第1本体溝側面173b,174bとが周方向に当接することとなり、その当接箇所である側面当接箇所Pb1,Pb2によってベーン本体170とチップシール180,190との間がシールされる。
【0209】
また、本実施形態では、側面当接箇所Pb1,Pb2は軸方向Zに延びているため、仮にチップシール180,190が固定体面100,120に向けて移動したとしても、第1シール凸側面182b,192bと第1本体溝側面173b,174bとの当接が維持され易い。これにより、背圧空間183,193を介して流体が漏れたり、チップシール180,190が外れたりすることを抑制できる。
【0210】
(1-4)特に、第1シール凸側面182b,192bと第1本体溝側面173b,174bとが当接しているため、第2シール凸側面182c,192cと第2本体溝側面173c,174cとの間にクリアランスが生じ易い。このため、当該クリアランスを介して、背圧空間183,193に、第2パーツ室Ay内の流体が入り込みやすい。第2パーツ室Ay内の流体の圧力は、第1パーツ室Ax内の圧力と比較して高圧となり易い。例えば、第3フロント圧縮室A4cと第2フロント圧縮室A4bとを仕切るベーン131においては、第2フロント圧縮室A4bの方が高圧となっている。したがって、背圧空間183,193がチップシール180,190を押圧する力は、大きくなり易い。よって、ベーン131と固定体面100,120との間のシール性の向上を図ることができる。
【0211】
(1-5)チップシール180,190には、背圧空間183,193に第2パーツ室Ay内の流体を導入する導入溝184,194が形成されている。
かかる構成によれば、導入溝184,194によって第2パーツ室Ay内の流体が背圧空間183,193に導入され易くなっている。このため、比較的高圧となり易い第2パーツ室Ay内の流体によってチップシール180,190が固定体面100,120に向けて押圧され易い。したがって、ベーン131と固定体面100,120との間のシール性を更に高めることができる。
【0212】
(1-6)導入溝184,194は側面当接箇所Pb1,Pb2よりも第2パーツ室Ay側に配置されている。これにより、導入溝184,194を介して導入された流体は、側面当接箇所Pb1,Pb2によって第1パーツ室Ax側に漏れにくくなっている。したがって、導入溝184,194に起因して第2パーツ室Ay内の流体が第1パーツ室Ax内へ漏れ易くなるという不都合を抑制できる。
【0213】
(1-7)導入溝184,194は、シール本体底面181b,191bのうちシール取付凸部182,192よりも回転方向M側の部分と、第2シール凸側面182c,192cとに亘って形成されている。
【0214】
かかる構成によれば、仮にシール本体底面181b,191bとベーン本体170の軸方向Zの端面171,172とが当接している状況であっても、背圧空間183,193に第2パーツ室Ay内の流体を導入できる。
【0215】
(第2実施形態)
図16に示すように、本実施形態の第1本体溝側面212,215及び第2本体溝側面213,216は、本体取付溝211,214が深くなるに従って徐々に幅狭となるように軸方向Zに対して傾斜している。本実施形態では、第1本体溝側面212,215は、ベーン本体170の軸方向Zの端面171,172から深くなるに従って(換言すれば本体溝底面173a,174aに向かうに従って)徐々に回転方向M側に変位するように傾斜している。
【0216】
本体取付溝211,214が深くなるに従って徐々に幅狭になっていることに対応させて、シール取付凸部221,224は、基端側から先端側に向かうに従って徐々に幅狭に形成されている。詳細には、第1本体溝側面212,215及び第2本体溝側面213,216の傾斜に対応させて、本実施形態の第1シール凸側面222,225及び第2シール凸側面223,226は軸方向Zに傾斜している。本実施形態では、第1シール凸側面222,225は、基端から先端に向かうに従って徐々に回転方向M側に変位するように傾斜している。
【0217】
ちなみに、第1シール凸側面222,225と第1本体溝側面212,215とが周方向に対向しており、本実施形態では両者の傾斜角度は同一に設定されている。同様に、第2シール凸側面223,226と第2本体溝側面213,216とが周方向に対向しており、本実施形態では両者の傾斜角度は同一に設定されている。
【0218】
かかる構成において、回転体60の回転に伴って、ベーン131(詳細にはベーン本体170)が回転すると、第1シール凸側面222,225と第1本体溝側面212,215とが周方向に当接する。これにより、側面当接箇所Pb1,Pb2は、軸方向Zに対して傾斜している。
【0219】
なお、第1実施形態と同様に、チップシール180,190とベーン本体170との間には背圧空間183,193が形成されており、背圧空間183,193によってチップシール180,190は固定体面100,120に向けて押圧されている。
【0220】
以上詳述した本実施形態によれば以下の作用効果を奏する。
(2-1)第1本体溝側面212,215は、本体取付溝211,214が深くなるに従って徐々に回転方向M側に変位するように軸方向Zに対して傾斜しており、第1シール凸側面222,225は、基端から先端に向かうに従って徐々に回転方向M側に変位するように軸方向Zに対して傾斜している。そして、第1本体溝側面212,215と第1シール凸側面222,225とは周方向に対向している。
【0221】
かかる構成によれば、回転体60の回転に伴ってベーン本体170が回転すると、第1シール凸側面222,225と第1本体溝側面212,215とが当接し、その当接箇所である側面当接箇所Pb1,Pb2には、側面当接箇所Pb1,Pb2と直交する方向の押圧力F1,F2が付与される。
【0222】
ここで、側面当接箇所Pb1,Pb2は、固定体面100,120側から離れるに従って徐々に回転方向M側に変位するように軸方向Zに対して傾斜しているため、押圧力F1,F2は、軸方向Zの成分、詳細には固定体面100,120に向かう方向成分を含む。これにより、チップシール180,190が固定体面100,120に向けて押圧されるため、先端当接箇所Pa1,Pa2のシール性の向上を図ることができる。
【0223】
なお、本実施形態では、第2シール凸側面223,226及び第2本体溝側面213,216は、軸方向Zに対して傾斜していたが、これに限られず、第1シール凸側面222,225及び第1本体溝側面212,215と同一角度で傾斜していてもよい。この場合、本体取付溝211,214の幅、及び、シール取付凸部221,224の幅は一定となる。また、第2シール凸側面223,226及び第2本体溝側面213,216は、軸方向Zに沿った面でもよい。つまり、第2シール凸側面223,226及び第2本体溝側面213,216の構成については任意である。
【0224】
(第3実施形態)
図17に示すように、本実施形態では、シール取付凸部182,192及び本体取付溝173,174は、第2パーツ室Ay側よりも第1パーツ室Ax側に偏倚して配置されている。詳細には、シール取付凸部182,192及び本体取付溝173,174は、その中央線がチップシール180,190の中央線よりも第1パーツ室Ax側に配置されるように配置されている。本実施形態では、側面当接箇所Pb1,Pb2が「両取付部の当接箇所」に対応する。
【0225】
次に本実施形態の作用について説明する。
図17に示すように、チップシール180,190には、第1パーツ室Ax内の流体からの押圧力である第1押圧力Ff1,Fr1と、第2パーツ室Ay内の流体からの押圧力である第2押圧力Ff2,Fr2とが付与される。第1押圧力Ff1,Fr1は、先端当接箇所Pa1,Pa2と側面当接箇所Pb1,Pb2のシール本体底面181b,191b側の端とを結ぶ線に対して直交する方向に働く。第2押圧力Ff2,Fr2は、先端当接箇所Pa1,Pa2と側面当接箇所Pb1,Pb2の本体溝底面173a,174a側の端とを結ぶ線に対して直交する方向に働く。第2押圧力Ff2,Fr2は、第1押圧力Ff1,Fr1よりも大きくなり易い。
【0226】
以上のとおり、第2押圧力Ff2,Fr2と第1押圧力Ff1,Fr1とは、力の大きさ及び方向が異なっているため、両者の間には不均衡が存在する。そして、チップシール180,190には、第2押圧力Ff2,Fr2と第1押圧力Ff1,Fr1の合力が付与されることとなる。
【0227】
かかる構成において、本願発明者らは、シール面181a,191aと固定体面100,120との当接箇所である先端当接箇所Pa1,Pa2が側面当接箇所Pb1,Pb2よりも第1パーツ室Ax側に配置されていると、チップシール180,190に固定体面100,120から離れる方向の押圧力が付与されることを見出した。
【0228】
例えば、
図17におけるフロント側のように、フロントチップシール180が回転方向Mに対して登り傾斜のフロント湾曲面103と当接している場合には、フロント先端当接箇所Pa1はフロント側面当接箇所Pb1よりも回転方向M側に位置しやすい。このため、フロント第1押圧力Ff1とフロント第2押圧力Ff2の合力は、フロント固定体面100に向かう方向に働き易い。これにより、フロントチップシール180がフロント固定体面100に向けて押圧され易いため、フロント先端当接箇所Pa1のシール性の向上を図ることができる。
【0229】
一方、リア側のように、リアチップシール190が回転方向Mに対して下り傾斜のリア湾曲面123と当接している場合には、リア先端当接箇所Pa2は、リアシール面191aの中央部に対して回転方向M側とは反対側に位置し易い。このため、リア先端当接箇所Pa2がリア側面当接箇所Pb2よりも第1パーツ室Ax側に位置する場合があり得る。この場合、リア第1押圧力Fr1とリア第2押圧力Fr2の合力は、リア固定体面120から離れる方向になり易い。
【0230】
この点、本実施形態では、
図17に示すように、リアシール取付凸部192及びリア本体取付溝174が第1パーツ室Ax側に偏って配置されているため、リア側面当接箇所Pb2が第1パーツ室Ax側に配置されることとなる。これにより、リア先端当接箇所Pa2がリア側面当接箇所Pb2よりも第1パーツ室Ax側に位置することが生じにくいため、リア第1押圧力Fr1とリア第2押圧力Fr2との合力の軸方向Z成分が、リア固定体面120から離れる方向になりにくい。また、仮にリア先端当接箇所Pa2がリア側面当接箇所Pb2よりも第1パーツ室Ax側に配置される場合であっても、両者の周方向の差が小さくなり易いため、リア固定体面120から離れる方向成分の大きさは小さくなり易い。これにより、リアチップシール190とリア固定体面120とが離間しにくい。
【0231】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(3-1)固定体面100,120は、回転体面71,72と当接する固定体当接面としての第2平坦面102,122と、第2平坦面102,122に対して周方向の両側に設けられた一対の湾曲面103,123と、を含むリング状である。一対の湾曲面103,123は、第2平坦面102,122から周方向に離れるに従って徐々に回転体面71,72から離れるように軸方向Zに湾曲している。シール取付凸部182,192及び本体取付溝173,174は、第2パーツ室Ay側よりも第1パーツ室Ax側に偏倚して配置されている。
【0232】
かかる構成によれば、側面当接箇所Pb1,Pb2が第1パーツ室Ax側に偏倚する。これにより、先端当接箇所Pa1,Pa2が側面当接箇所Pb1,Pb2よりも第1パーツ室Ax側に位置することを抑制できる。また、先端当接箇所Pa1,Pa2が側面当接箇所Pb1,Pb2よりも第2パーツ室Ay側に配置される構成であっても、その周方向の差を小さくできる。これにより、固定体面100,120から離れる方向の押圧力(合力)がチップシール180,190に働くことを抑制できたり、その押圧力を小さくできたりする。したがって、チップシール180,190が回転方向Mに対して下り傾斜の湾曲面103,123を通過する際に先端当接箇所Pa1,Pa2のシール性が低下することを抑制できる。
【0233】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。第4実施形態では、ベーン本体及びチップシールの取付構造が第1実施形態と異なっている。
【0234】
図18に示すように、本実施形態のシール本体部181,191は、シール取付部として、シール本体底面181b,191bから固定体面100,120に向けて凹んだシール取付溝231,234を有している。シール取付溝231,234は、例えばベーン131の厚さ方向を幅方向として径方向Rに延びている。シール取付溝231,234は、回転方向M側とは反対側の側面である第1シール溝側面232,235と、回転方向M側の側面である第2シール溝側面233,236と、を有している。本実施形態の第2シール溝側面233,236は、例えばシール取付溝231,234が深くなるに従って徐々に回転方向M側とは反対側に変位するように軸方向Zに対して傾斜している。
【0235】
これに対応させて、本実施形態のベーン本体170は、本体取付部として、ベーン本体170の軸方向Zの端面171,172から固定体面100,120に向けて突出した本体取付凸部241,244を備えている。本体取付凸部241,244は、例えばベーン131の厚さ方向を幅方向として径方向Rに延びた突条である。本体取付凸部241,244は、回転方向M側とは反対側の側面である第1本体凸側面242,245と、回転方向M側の側面である第2本体凸側面243,246と、を有している。
【0236】
本実施形態の第2本体凸側面243,246は、例えば本体取付凸部241,244の基端から先端に向かうに従って徐々に回転方向M側とは反対側に変位するように軸方向Zに対して傾斜している。
【0237】
ちなみに、本体取付凸部241,244は、ベーン本体170の一部である。このため、本体取付凸部241,244は、チップシール180,190よりも硬い材料で形成されており、例えば金属製である。
【0238】
かかる構成において、チップシール180,190は、本体取付凸部241,244がシール取付溝231,234に挿入されることによってベーン本体170に取り付けられている。そして、第1シール溝側面232,235と第1本体凸側面242,245とが周方向に対向しており、第2シール溝側面233,236と第2本体凸側面243,246とが周方向に対向している。このため、回転体60の回転に伴ってベーン本体170が回転すると、本体取付凸部241,244における回転方向M側の側面である第2本体凸側面243,246と、シール取付溝231,234における回転方向M側の側面である第2シール溝側面233,236とが周方向に当接する。そして、その当接箇所(詳細には側面当接箇所Pb1,Pb2)によって、流体の移動が行われないようにシールされている。
【0239】
なお、第1実施形態と同様に、チップシール180,190とベーン本体170との間には背圧空間183,193が形成されており、背圧空間183,193によってチップシール180,190は固定体面100,120に向けて押圧されている。
【0240】
以上詳述した本実施形態によれば以下の作用効果を奏する。
(4-1)チップシール180,190は、ベーン本体170よりも柔らかい材料で構成されている。チップシール180,190は、固定体面100,120と当接するシール本体部181,191を有している。シール本体部181,191は、ベーン本体170の軸方向Zの端面171,172に対向するシール本体底面181b,191bを有している。更に、チップシール180,190は、シール取付部として、シール本体底面181b,191bから凹んだシール取付溝231,234を有している。ベーン本体170は、本体取付部として、ベーン本体170の軸方向Zの端面171,172から突出した本体取付凸部241,244を有している。そして、チップシール180,190は、本体取付凸部241,244がシール取付溝231,234に挿入されることによってベーン本体170に取り付けられている。
【0241】
かかる構成によれば、本体取付凸部241,244がシール取付溝231,234に挿入されることによって、チップシール180,190がベーン本体170に取り付けられる。この場合、第1実施形態のようなシール取付凸部182,192が本体取付溝173,174に挿入される構成と比較して、チップシール180,190が外れてしまうという不都合を抑制できる。
【0242】
詳述すると、第1実施形態のように、シール取付凸部182,192が本体取付溝173,174に挿入される構成では、シール取付凸部182,192の剛性が確保できず、シール取付凸部182,192が変形することによってチップシール180,190がベーン本体170から外れてしまう不都合が懸念される。
【0243】
特に、シール部材としてのチップシール180,190は、シール性を高めるために変形し易い柔らかい材料が用いられている。このため、チップシール180,190の剛性が低くなり易いため、上記不都合が生じ易い。
【0244】
これに対して、本実施形態によれば、ベーン本体170の本体取付凸部241,244がシール取付溝231,234に挿入される構成が採用されている。本体取付凸部241,244は、チップシール180,190よりも硬いベーン本体170の一部であるため、チップシール180,190(シール取付凸部182,192)と比較して変形しにくい。また、シール取付凸部182,192が設けられる構成よりもシール取付溝231,234が設けられる構成の方が、チップシール180,190の剛性が高くなり易い。したがって、チップシール180,190が変形してベーン本体170から外れてしまうという不都合を抑制できる。
【0245】
(4-2)シール取付溝231,234は、回転方向M側とは反対側の側面である第1シール溝側面232,235と、回転方向M側の側面である第2シール溝側面233,236と、を有している。本体取付凸部241,244は、回転方向M側とは反対側の側面である第1本体凸側面242,245と、回転方向M側の側面である第2本体凸側面243,246と、を有している。第2本体凸側面243,246と第2シール溝側面233,236とは周方向に対向している。
【0246】
第2シール溝側面233,236は、シール取付溝231,234が深くなるに従って徐々に回転方向M側とは反対側に変位するように軸方向Zに対して傾斜している。第2本体凸側面243,246は、本体取付凸部241,244の基端から先端に向かうに従って徐々に回転方向M側とは反対側に変位するように軸方向Zに対して傾斜している。
【0247】
かかる構成によれば、回転体60の回転に伴ってベーン本体170が回転した場合、第2本体凸側面243,246と第2シール溝側面233,236とが当接する。チップシール180,190には、その当接箇所である側面当接箇所Pb1,Pb2を介して固定体面100,120に向かう方向成分を含む押圧力F1,F2が付与される。これにより、押圧力F1,F2を用いて、チップシール180,190を固定体面100,120に押し付けることができるため、先端当接箇所Pa1,Pa2のシール性の向上を図ることができる。
【0248】
上記各実施形態は以下のように変更してもよい。なお、上記各実施形態及び以下の各別例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせてもよい。
○
図19に示すように、本体取付溝173,174がベーン本体170の中央に形成されている構成において、本体取付溝173,174の幅D1,D2が、ベーン131の幅であるベーン幅D0の1/2よりも広くてもよい。この場合、シール取付凸部182,192は、本体取付溝173,174に対応させて幅広に形成されていてもよい。
【0249】
かかる構成によれば、本体取付溝173,174の幅D1,D2が広くなっている分だけ、側面当接箇所Pb1,Pb2が第1パーツ室Ax側に偏倚して配置されることとなる。これにより、(3-1)の作用効果を奏する。
【0250】
○ 導入溝184,194は、チップシール180,190に代えて、ベーン本体170に形成されていてもよいし、チップシール180,190及びベーン本体170の双方に形成されていてもよい。要は、導入溝184,194は、チップシール180,190及びベーン本体170の少なくとも一方に形成されていればよい。
【0251】
○ 導入溝184,194を省略してもよい。
○ チップシール180,190は、ベーン本体170に対して軸方向Zに移動可能な状態で取り付けられていれば、その具体的な形状や位置については任意である。
【0252】
○ 両チップシール180,190のいずれか一方を省略してもよい。つまり、フロント側又はリア側のいずれか一方のみにチップシールが設けられていてもよい。この場合、ベーン本体170におけるチップシールが設けられていない側の端部が、固定体面と当接するシール面を有しているとよい。つまり、ベーン131は、2部品で構成されていてもよい。
【0253】
○ シール取付凸部182,192と本体取付溝173,174とは、周方向に対向していればよく、回転体60が回転していない場合には、周方向に当接していてもよいし、当接していなくてもよい。本体取付凸部241,244及びシール取付溝231,234についても同様である。
【0254】
○ 回転体面71,72は軸方向Zに対して傾斜していてもよい。この場合、両フロント平坦面101,102及び両リア平坦面121,122は、軸方向Zに直交する平坦面であってもよいし、回転体面71,72と面接触するように回転体面71,72と同一傾斜角度で傾斜していてもよい。
【0255】
○ 回転体筒部61の一部が切り欠かれたり突出していたりする構成でもよい。また、回転体筒部61は、円筒形状であったが、これに限られず、非円筒形状であってもよい。固定体挿入孔91,111は、その内壁面と回転体筒部61との隙間が小さくなるように回転体筒部61の形状に対応させて形成されていればよく、円形状に限られない。なお、回転体筒部61の一部が切り欠かれている場合には、別部材が切り欠き部分に嵌め込まれていてもよい。
【0256】
○ 回転体は、回転体面71,72から軸方向Zにはみ出した部分を有さない円板状であって、両固定体90,110によって支持されていない構成でもよい。この場合、フロント圧縮室A4は、回転軸12の外周面によって区画されるとよい。すなわち、フロント圧縮室A4は、筒部外周面62によって区画される構成に限られず、フロント回転体面71及びフロント固定体面100を用いて区画されていればよい。リア圧縮室A5についても同様である。
【0257】
○ シャフト軸受51,53の数は2つに限られず、1つでもよい。例えば、リアシャフト軸受53を省略してもよい。また、シャフト軸受を3つ以上設けてもよい。
○ 本実施形態では、収容室A3が、フロントシリンダ30及びリアプレート40によって区画されていたが、これに限られず、収容室A3を区画する具体的な構成は任意である。
【0258】
例えば、圧縮機10は、フロントシリンダ30に代えて板状のフロントプレートを備え、リアプレート40に代えて有底筒状のリアシリンダを備える構成でもよい。この場合、リアシリンダとフロントプレートとが突き合わせられることによって収容室A3が区画される。
【0259】
また、圧縮機10は、筒状の2つのシリンダを備え、両者によって収容室A3が区画される構成でもよい。また、リアプレート40を省略して、フロントシリンダ30とリアハウジング底部23とによって収容室A3が区画されてもよい。
【0260】
○ 圧縮室A4,A5は、回転体面71,72及び固定体面100,120を用いて区画されていればよく、圧縮室A4,A5を区画するのに用いられる他の面については任意である。例えば、フロントシリンダ30を省略して、リアハウジング22(又はハウジング11)が回転体60及び両固定体90,110を収容する構成では、圧縮室A4,A5は、フロントシリンダ内周面33に代えて、リアハウジング22の内周面を用いて区画されてもよい。この場合、リアハウジング22又はハウジング11が、回転体及び固定体を収容するシリンダ部ともいえ、リアハウジング22の内周面が、回転体面及び固定体面と協働して圧縮室を区画するのに用いられるシリンダ内周面ともいえる。また、圧縮室A4,A5は、筒部外周面62に代えて、回転軸12の外周面を用いて区画される構成でもよい。
【0261】
○ フロント固定体90とフロントシリンダ30とが一体形成されていてもよいし、リア固定体110とリアプレート40とが一体形成されていてもよい。
○ 圧縮室A4,A5に吸入流体を導入させるための構成、及び、圧縮室A4,A5にて圧縮された圧縮流体を吐出させる構成は、第1実施形態にて例示した構成に限られず任意である。例えば、吸入ポート及び吐出ポートの少なくとも一方を固定体90,110に設けてもよい。
【0262】
○ 両固定体90,110は同一形状であったが、これに限られず、例えばフロント固定体90がリア固定体110に対して大径であってもよいし、その逆でもよい。この場合、両固定体90,110の形状に合わせて、フロントシリンダ内周面33が段差状となってもよいし、フロント固定体90を収容するフロントシリンダと、リア固定体110を収容するリアシリンダとを別々に設けてもよい。つまり、両圧縮室A4,A5の容積は同一でもよいし、異なってもよい。
【0263】
○ 実施形態の圧縮機10には2つの圧縮室A4,A5が設けられていたが、これに限られない。
例えば、
図20に示すように、リア固定体110、リア圧縮室A5、リア吸入ポート142及びリア吐出ポート161を省略してもよい。この場合、フロント固定体面100において第1フロント平坦面101を省略してもよい。なお、
図20では、ベーン131は、リアチップシール190を有しているが、リアチップシール190を省略してもよい。
【0264】
かかる構成においては、例えばベーン131をフロント固定体90に向けて付勢する付勢部300を設けるとよい。付勢部300は、回転体60の回転に伴って回転できるように、例えば回転体筒部61に設けられた付勢支持部301によって支持されているとよい。付勢支持部301は、例えば回転体筒部61のリア回転体端部61bに設けられ、径方向R外側に突出した板状である。これにより、ベーン131は、回転体60の回転に伴って、フロント固定体面100と当接した状態を維持しつつ軸方向Zに移動しながら回転する。なお、リア側の構成を省略するのに代えて、フロント側の構成を省略してもよい。換言すれば、固定体は1つでもよい。
【0265】
○ 固定体挿入孔91,111は、回転軸12が挿入されていれば貫通孔である必要はなく、非貫通でもよい。
○ 両スラスト軸受81,82の少なくとも一方を省略してもよい。すなわち、スラスト軸受81,82は必須ではない。
【0266】
○ 両回転体軸受94,114の少なくとも一方を省略してもよい。
○ 吐出室A1は、軸方向Zを軸線方向とする筒状である必要はない。例えば、吐出室A1は、軸方向Zから見てC字状のような形状であってもよいし、2つの吐出室A1が対向配置される構成でもよい。換言すれば、吐出室A1は、周方向の少なくとも一部に形成される構成でもよい。
【0267】
○ ベーン131の数は任意であり、1枚でもよいし、2枚でもよいし、4枚以上でもよい。なお、ベーン131が1枚の場合、フロント圧縮室A4は、第2フロント平坦面102とフロント回転体面71との当接箇所、及び、ベーン131によって、吸入が行われる吸入室と、圧縮が行われる圧縮室とに仕切られる。
【0268】
○ フロント固定体面100のうちフロント回転体面71との当接面(固定体当接面)は、第2フロント平坦面102のように平坦面でなくてもよい。リア固定体面120についても同様である。但し、シール性の観点に着目すれば、平坦面であるほうが好ましい。
【0269】
○ 固定体当接面は必須ではない。例えば第2フロント平坦面102は、微小な隙間を介してフロント回転体面71に対して離間していてもよい。
○ ハウジング11の具体的な形状については任意である。
【0270】
○ 回転軸12の具体的な形状は任意である。例えば、回転軸12の少なくとも一部が中空状に形成されていてもよいし、角柱状であってもよい。
○ 電動モータ13及びインバータ14を省略してもよい。つまり、電動モータ13及びインバータ14は圧縮機10において必須ではない。この場合、例えばベルト駆動等によって回転軸12が回転するとよい。
【0271】
○ 圧縮機10は、空調装置以外に用いられてもよい。例えば、圧縮機10は、燃料電池車両に搭載された燃料電池に対して圧縮空気を供給するのに用いられてもよい。つまり、圧縮機10の圧縮対象の流体は、オイルを含む冷媒に限られず、任意である。
【0272】
○ 圧縮機10の搭載対象は、車両に限られず任意である。
【符号の説明】
【0273】
10…圧縮機、12…回転軸、60…回転体、61…回転体筒部、62…筒部外周面、70…回転体リング部、71,72…回転体面、90,110…固定体、100,120…固定体面、102,122…第2平坦面(固定体当接面)、103,123…湾曲面、130…ベーン溝、131…ベーン、170…ベーン本体、171,172…ベーン本体における軸方向の端面、173,174,211,214…本体取付溝(本体取付部)、173b,174b…第1本体溝側面、173c,174c…第2本体溝側面、180,190…チップシール(シール部材)、181,191…シール本体部、181b,191b…シール本体底面、182,192,221,224…シール取付凸部、182b,192b…第1シール凸側面、182c,192c…第2シール凸側面、183,193…背圧空間、184,194…導入溝、231,234…シール取付溝、241,244…本体取付凸部、A4,A5…圧縮室、Ax…第1パーツ室、Ay…第2パーツ室、Pa1,Pa2…先端当接箇所、Pb1,Pb2…側面当接箇所。