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特許7047844電力変換装置、モータモジュールおよび電動パワーステアリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】電力変換装置、モータモジュールおよび電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/493 20070101AFI20220329BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20220329BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20220329BHJP
   H02P 21/06 20160101ALI20220329BHJP
【FI】
H02M7/493
H02M7/48 M
B62D5/04
H02P21/06
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019533977
(86)(22)【出願日】2018-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2018024662
(87)【国際公開番号】W WO2019026493
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2017148328
(32)【優先日】2017-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堀内 元気
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特許第5797751(JP,B2)
【文献】特開2015-097472(JP,A)
【文献】特公平07-099959(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/493
H02M 7/48
B62D 5/04
H02P 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源からの電力を、n相(nは3以上の整数)の巻線を有するモータに供給する電力に変換する電力変換装置であって、
前記モータの各相の巻線の一端に接続される第1インバータであって、各々がローサイドスイッチ素子およびハイサイドスイッチ素子を有するn個のレグを備える第1インバータと、
前記各相の巻線の他端に接続される第2インバータであって、各々がローサイドスイッチ素子およびハイサイドスイッチ素子を有するn個のレグを備える第2インバータと、
前記第1インバータの前記n個のローサイドスイッチ素子および前記第2インバータの前記n個のローサイドスイッチ素子に接続された駆動回路であって、
前記モータの前記第1インバータ側で故障が発生したとき、前記第1インバータの前記n個のローサイドスイッチ素子をオンにする制御信号を前記n個のローサイドスイッチ素子に与え、
前記モータの前記第2インバータ側で故障が発生したとき、前記第2インバータの前記n個のローサイドスイッチ素子をオンにする制御信号を前記n個のローサイドスイッチ素子に与える駆動回路と、
前記第1インバータおよび前記第2インバータの各々における前記n個のローサイドスイッチ素子および前記n個のハイサイドスイッチ素子のスイッチング動作を制御し、かつ、前記駆動回路を制御する制御回路と、を備え、
前記モータの前記第2インバータ側で故障が発生したとき、前記モータの前記第1インバータ側で生成される第1電源電圧が前記駆動回路に供給され、かつ、前記モータの前記第1インバータ側で故障が発生したとき、前記モータの前記第2インバータ側で生成される第2電源電圧が前記駆動回路に供給される、電力変換装置。
【請求項2】
前記駆動回路は、
前記第1インバータの前記n個のローサイドスイッチ素子に接続され、かつ、前記モータの前記第1インバータ側で故障が発生したとき、前記第2電源電圧を供給することにより、前記第1インバータの前記n個のローサイドスイッチ素子をオンにする前記制御信号を前記n個のローサイドスイッチ素子に与える第1駆動回路と、
前記第2インバータの前記n個のローサイドスイッチ素子に接続され、かつ、前記モータの前記第2インバータ側で故障が発生したとき、前記第1電源電圧を供給することにより、前記第2インバータの前記n個のローサイドスイッチ素子をオンにする前記制御信号を前記n個のローサイドスイッチ素子に与える第2駆動回路と、を備え、
前記制御回路は、前記第1駆動回路および前記第2駆動回路を制御する、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記第1インバータにおける前記n個のローサイドスイッチ素子および前記n個のハイサイドスイッチ素子のスイッチング動作を制御する制御信号を前記制御回路の制御の下で生成し、前記n個のローサイドスイッチ素子および前記n個のハイサイドスイッチ素子に与える第1プリドライバと、
前記第2インバータにおける前記n個のローサイドスイッチ素子および前記n個のハイ
サイドスイッチ素子のスイッチング動作を制御する制御信号を前記制御回路の制御の下で生成し、前記n個のローサイドスイッチ素子および前記n個のハイサイドスイッチ素子に与える第2プリドライバと、をさらに備える、請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記第2駆動回路には、前記第1プリドライバが生成する前記第1電源電圧が供給され、
前記第1駆動回路には、前記第2プリドライバが生成する前記第2電源電圧が供給され、
前記第1電源電圧は、前記電源の電圧よりも大きく、前記第2電源電圧は、前記電源の電圧よりも大きい、請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御回路、前記第1プリドライバおよび前記第2プリドライバに電源電圧を供給する電源回路をさらに備える、請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記第1プリドライバから前記第2駆動回路に前記第1電源電圧を供給するための第1電源配線と、
前記第2プリドライバから前記第1駆動回路に前記第2電源電圧を供給するための第2電源配線と、をさらに備える、請求項3から5のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記電源の電圧を昇圧して、前記第1電源電圧および前記第2電源電圧を生成する昇圧回路をさらに備え、
前記第1電源電圧および前記第2電源電圧は、前記電源の電圧よりも大きく、
前記昇圧回路から前記第2駆動回路に前記第1電源電圧は供給され、前記昇圧回路から前記第1駆動回路に前記第2電源電圧は供給される、請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記制御回路、前記第1プリドライバおよび前記第2プリドライバに電源電圧を供給する電源回路をさらに備え、
前記第1駆動回路には、前記電源回路が生成する前記第2電源電圧が供給され、前記第2駆動回路には、前記電源回路が生成する前記第1電源電圧が供給され、
前記第1電源電圧は、前記電源の電圧よりも大きく、前記第2電源電圧は、前記電源の電圧よりも大きい、請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記第1電源電圧の大きさは、前記第2電源電圧の大きさに等しい、請求項1から8のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記制御回路および前記電源回路は互いに通信可能に接続されている、請求項5または8に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記制御回路が、前記モータの前記第2インバータ側における故障を検知したとき、前記第2駆動回路に駆動の開始を指示し、前記第2駆動回路は、前記駆動の開始の指示に応答して、前記第2インバータの前記n個のローサイドスイッチ素子をオンにする前記制御信号を前記n個のローサイドスイッチ素子に与え、
前記制御回路が、前記モータの前記第1インバータ側における故障を検知したとき、前
記第1駆動回路に駆動の開始を指示し、前記第1駆動回路は、前記駆動の開始の指示に応答して、前記第1インバータの前記n個のローサイドスイッチ素子をオンにする前記制御信号を前記n個のローサイドスイッチ素子に与える、請求項10に記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記第1インバータとグランドとの接続・非接続を切替える第1スイッチ素子と、
前記第2インバータと前記グランドとの接続・非接続を切替える第2スイッチ素子と、
前記第1インバータと前記電源との接続・非接続を切替える第3スイッチ素子と、
前記第2インバータと前記電源との接続・非接続を切替える第4スイッチ素子と、
をさらに備える、請求項1から11のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項13】
前記第1駆動回路が前記第1インバータの前記n個のローサイドスイッチに与える制御信号の電圧レベルは、前記第1プリドライバが前記第1インバータの前記n個のローサイドスイッチに与える制御信号の電圧レベルよりも大きく、
前記第2駆動回路が前記第2インバータの前記n個のローサイドスイッチに与える制御信号の電圧レベルは、前記第2プリドライバが前記第2インバータの前記n個のローサイドスイッチに与える制御信号の電圧レベルよりも大きい、請求項3、4、5、6、7、8、10のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項14】
前記第1駆動回路が前記第1インバータの前記n個のローサイドスイッチに与える制御信号の電圧レベルは、前記第1プリドライバが前記第1インバータの前記n個のハイサイドスイッチに与える制御信号の電圧レベルと等しく、
前記第2駆動回路が前記第2インバータの前記n個のローサイドスイッチに与える制御信号の電圧レベルは、前記第2プリドライバが前記第2インバータの前記n個のハイサイドスイッチに与える制御信号の電圧レベルと等しい、請求項3、4、5、6、7、8、10のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項15】
前記第1駆動回路および前記第2駆動回路の各々は、オープンコレクタ出力方式の複数のトランジスタを備える、請求項13または14に記載の電力変換装置。
【請求項16】
前記第1駆動回路から前記第1インバータに、前記n個のローサイドスイッチ素子をオンする制御信号が出力されるときに、前記第1プリドライバに規定値以上の電圧レベルの信号が入力することを抑制する第1保護回路と、
前記第2駆動回路から前記第2インバータに、前記n個のローサイドスイッチ素子をオンする制御信号が出力されるときに、前記第2プリドライバに規定値以上の電圧レベルの信号が入力することを抑制する第2保護回路と、
をさらに備える、請求項13から15のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項17】
前記第1保護回路および前記第2保護回路の各々は、ツェナーダイオードを備える、請求項16に記載の電力変換装置。
【請求項18】
前記駆動回路に前記第1電源電圧を供給することと、前記駆動回路に前記第2電源電圧を供給することとを、前記制御回路の制御の下で切替えるスイッチをさらに備える、請求項
1に記載の電力変換装置。
【請求項19】
前記モータと、
請求項1から18のいずれかに記載の電力変換装置と、
を備える、モータモジュール。
【請求項20】
請求項19に記載のモータモジュールを備える電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電源からの電力を電動モータに供給する電力に変換する電力変換装置、モータモジュールおよび電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電動モータ(以下、単に「モータ」と表記する。)およびECU(Electrical Control Unit)が一体化された機電一体型モータが開発されている。特に車載分野において、安全性の観点から高い品質保証が要求される。そのため、部品の一部が故障した場合でも安全動作を継続できる冗長設計が取り入れられている。冗長設計の一例として、1つのモータに対して2つのインバータを設けることが検討されている。他の一例として、メインのマイクロコントローラにバックアップ用マイクロコントローラを設けることが検討されている。
【0003】
特許文献1は、制御部と、2つのインバータとを有し、電源からの電力を三相モータに供給する電力に変換する電力変換装置を開示している。2つのインバータの各々は電源およびグランド(以下、「GND」と表記する。)に接続される。一方のインバータは、モータの三相の巻線の一端に接続され、他方のインバータは、三相の巻線の他端に接続される。各インバータは、各々がハイサイドスイッチ素子およびローサイドスイッチ素子を含む3つのレグから構成されるブリッジ回路を有する。制御部は、2つのインバータにおけるスイッチ素子の故障を検出した場合、モータ制御を正常時の制御から異常時の制御に切替える。正常時の制御では、例えば、2つのインバータのスイッチ素子をスイッチングすることによりモータが駆動される。異常時の制御では、例えば、故障したインバータにおける巻線の中性点を用いて、故障していないインバータによってモータが駆動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-192950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の技術では、インバータの周辺回路が故障した場合の制御のさらなる向上が求められていた。ここで、周辺回路は、インバータを駆動するために必要な回路であり、例えば、後述するコントローラ、プリドライバおよび電源回路などを備える。周辺回路の故障とは、例えばプリドライバまたは電源回路が故障することを意味する。特許文献1の回路構成において、インバータのスイッチ素子の故障に加え、制御部にも故障が発生した場合、モータ駆動を継続させることは困難となる。
【0006】
本開示の実施形態は、インバータの周辺回路に故障が生じた場合においても中性点を用いたモータ駆動を継続させることが可能な電力変換装置、当該電力変換装置を備えるモータモジュールおよび当該モータモジュールを備える電動パワーステアリング装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の例示的な電力変換装置は、電源からの電力を、n相(nは3以上の整数)の巻線を有するモータに供給する電力に変換する電力変換装置であって、前記モータの各相の巻線の一端に接続される第1インバータであって、各々がローサイドスイッチ素子およびハイサイドスイッチ素子を有するn個のレグを備える第1インバータと、前記各相の巻線の他端に接続される第2インバータであって、各々がローサイドスイッチ素子およびハイサイドスイッチ素子を有するn個のレグを備える第2インバータと、前記第1インバータの前記n個のローサイドスイッチ素子および前記第2インバータの前記n個のローサイドスイッチ素子に接続された駆動回路であって、前記モータの前記第1インバータ側で故障が発生したとき、前記第1インバータの前記n個のローサイドスイッチ素子をオンにする制御信号を前記n個のローサイドスイッチ素子に与え、前記モータの前記第2インバータ側で故障が発生したとき、前記第2インバータの前記n個のローサイドスイッチ素子をオンにする制御信号を前記n個のローサイドスイッチ素子に与える駆動回路と、前記第1インバータおよび前記第2インバータの各々における前記n個のローサイドスイッチ素子および前記n個のハイサイドスイッチ素子のスイッチング動作を制御し、かつ、前記駆動回路を制御する制御回路と、を備え、前記モータの前記第2インバータ側で故障が発生したとき、前記モータの前記第1インバータ側で生成される第1電源電圧が前記駆動回路に供給され、かつ、前記モータの前記第1インバータ側で故障が発生したとき、前記モータの前記第2インバータ側で生成される第2電源電圧が前記駆動回路に供給される。
【発明の効果】
【0008】
本開示の例示的な実施形態によると、インバータの周辺回路に故障が生じた場合において中性点を用いたモータ駆動を継続させることが可能な電力変換装置、当該電力変換装置を備えるモータモジュールおよび当該モータモジュールを備える電動パワーステアリング装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、例示的な実施形態1によるモータモジュール2000のブロック構成を示し、主として電力変換装置1000のブロック構成を示す模式図である。
図2A図2Aは、第1駆動回路440Aの機能ブロックを示すブロック図である。
図2B図2Bは、第2駆動回路440Bの機能ブロックを示すブロック図である。
図3図3は、第1周辺回路400Aの中の第1駆動回路440Aの回路構成を例示する回路図である。
図4図4は、例示的な実施形態1の変形例による電力変換装置1000のブロック構成例を示す模式図である。
図5A図5Aは、例示的な実施形態1の変形例による電力変換装置1000のさらなるブロック構成例を示す模式図である。
図5B図5Bは、例示的な実施形態1の変形例による電力変換装置1000のさらなるブロック構成例を示す模式図である。
図6図6は、三相通電制御に従って電力変換装置1000を制御したときにモータ200のU相、V相およびW相の各巻線に流れる電流値をプロットして得られる電流波形(正弦波)を例示するグラフである。
図7図7は、図6に示す電流波形の電気角270°において2つのインバータに流れる電流の様子を例示する模式図である。
図8図8は、例示的な実施形態2によるモータモジュール2000Aのブロック構成を示し、主として電力変換装置1000Aのブロック構成を示す模式図である。
図9図9は、駆動回路440およびその周辺の機能ブロックを示すブロック図である。
図10図10は、例示的な実施形態3による電動パワーステアリング装置3000の典型的な構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面を参照しながら、本開示の電力変換装置、モータモジュールおよび電動パワーステアリング装置の実施形態を詳細に説明する。但し、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするため、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0011】
本明細書において、電源からの電力を、三相(U相、V相、W相)の巻線を有する三相モータに供給する電力に変換する電力変換装置を例にして、本開示の実施形態を説明する。ただし、電源からの電力を、四相または五相などのn相(nは4以上の整数)の巻線を有するn相モータに供給する電力に変換する電力変換装置も本開示の範疇である。
【0012】
(実施形態1) 〔1-1.電力変換装置1000およびモータモジュール2000の構造〕 図1は、本実施形態によるモータモジュール2000のブロック構成を模式的に示し、主として電力変換装置1000のブロック構成を模式的に示している。本明細書では、説明の便宜上、ブロック図におけるモータ200の左側の構成要素を、第1インバータ100Aおよび第1周辺回路400Aなどと表記し、右側の構成要素を、第2インバータ100Bおよび第2周辺回路400Bなどと表記する。
【0013】
モータモジュール2000は、モータ200および電力変換装置1000を備える。モータモジュール2000は、モジュール化されて、例えば、モータ、センサ、プリドライバおよびコントローラを備える機電一体型モータとして製造および販売され得る。
【0014】
電力変換装置1000は、第1インバータ100A、第2インバータ100B、第1から第6スイッチ素子311、312、313、314、315、316、第1周辺回路400A、第2周辺回路400B、コントローラ410および電源回路430を備える。
【0015】
電力変換装置1000は、モータ200に接続され、かつ、コイル600を介して電源500に接続される。電力変換装置1000は、電源500からの電力を、モータ200に供給する電力に変換することができる。例えば、第1インバータ100Aおよび第2インバータ100Bは、直流電力を、U相、V相およびW相の擬似正弦波である三相交流電力に変換することが可能である。
【0016】
モータ200は、例えば、三相交流モータである。モータ200は、U相の巻線M1、V相の巻線M2およびW相の巻線M3を備え、第1インバータ100Aと第2インバータ100Bとに接続される。具体的に説明すると、第1インバータ100Aはモータ200の各相の巻線の一端に接続され、第2インバータ100Bは各相の巻線の他端に接続される。このようなモータ結線は、いわゆるスター結線およびデルタ結線とは異なる。本明細書において、部品(構成要素)同士の間の「接続」は、主に電気的な接続を意味する。
【0017】
第1インバータ100Aは、各々がローサイドスイッチ素子およびハイサイドスイッチ素子を有する3個のレグを備える。U相用レグは、ローサイドスイッチ素子101A_Lおよびハイサイドスイッチ素子101A_Hを有する。V相用レグは、ローサイドスイッチ素子102A_Lおよびハイサイドスイッチ素子102A_Hを有する。W相用レグは、ローサイドスイッチ素子103A_Lおよびハイサイドスイッチ素子103A_Hを有する。
【0018】
スイッチ素子として、例えば、寄生ダイオードが内部に形成された電界効果トランジスタ(典型的にはMOSFET)または絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)とそれに並列接続された還流ダイオードとの組み合わせを用いることができる。以下、スイッチ素子としてMOSFETを用いる例を説明し、スイッチ素子をSWと表記する場合がある。例えば、スイッチ素子101A_L、102A_Lおよび103A_Lは、SW101A_L、102A_Lおよび103A_Lと表記される。
【0019】
第1インバータ100Aは、U相、V相およびW相の各相の巻線に流れる電流を検出するための電流センサとして、3個のシャント抵抗100A_Rを備える。電流センサは、各シャント抵抗に流れる電流を検出する電流検出回路(不図示)を含む。図示されるように、例えば、3個のシャント抵抗100A_Rは、第1インバータ100Aの3個のレグに含まれる3個のローサイドスイッチ素子とGNDとの間にそれぞれ接続される。シャント抵抗の抵抗値は、例えば0.5mΩ~1.0mΩ程度である。
【0020】
第2インバータ100Bは、第1インバータ100Aと同様に、各々がローサイドスイッチ素子およびハイサイドスイッチ素子を有する3個のレグを備える。U相用レグは、ローサイドスイッチ素子101B_Lおよびハイサイドスイッチ素子101B_Hを有する。V相用レグは、ローサイドスイッチ素子102B_Lおよびハイサイドスイッチ素子102B_Hを有する。W相用レグは、ローサイドスイッチ素子103B_Lおよびハイサイドスイッチ素子103B_Hを有する。また、第2インバータ100Bは、3個のシャント抵抗100B_Rを備える。それらのシャント抵抗は、3個のレグに含まれる3個のローサイドスイッチ素子とGNDとの間に接続される。
【0021】
各インバー
タに対し、シャント抵抗の数は3つに限られない。例えば、U相、V相用の2つのシャント抵抗、V相、W相用の2つのシャント抵抗、および、U相、W相用の2つのシャント抵抗を用いることが可能である。使用するシャント抵抗の数およびシャント抵抗の配置は、製品コストおよび設計仕様などを考慮して適宜決定される。
【0022】
電力変換装置1000において、第1インバータ100Aおよび第2インバータ100Bは、第1から第4スイッチ素子311、312、313および314によって電源500とGNDとに電気的にそれぞれ接続可能である。具体的に説明すると、第1スイッチ素子311は、第1インバータ100AとGNDとの接続・非接続を切替える。第2スイッチ素子312は、第2インバータ100BとGNDとの接続・非接続を切替える。第3スイッチ素子313は、電源500と第1インバータ100Aとの接続・非接続を切替える。第4スイッチ素子314は、電源500と第2インバータ100Bとの接続・非接続を切替える。
【0023】
第1から第4スイッチ素子311、312、313および314は、双方向の電流を遮断することが可能である。第1から第4スイッチ素子311、312、313および314として、例えば、サイリスタ、アナログスイッチIC、またはMOSFETなどの半導体スイッチ、および、メカニカルリレーなどを用いることができる。ダイオードおよびIGBTなどの組み合わせを用いても構わない。本明細書において、第1から第4スイッチ素子311、312、313および314を、SW311、312、313および314とそれぞれ表記する場合がある。SW311、312、313および314をMOSFETとして説明する。
【0024】
SW311は、内部の寄生ダイオードに順方向電流が第1インバータ100Aに向けて流れるよう配置される。SW312は、寄生ダイオードに順方向電流が第2インバータ100Bに向けて流れるよう配置される。SW313は、寄生ダイオードに順方向電流が電源500に向けて流れるよう配置される。SW314は、寄生ダイオードに順方向電流が電源500に向けて流れるよう配置される。
【0025】
電力変換装置1000は、図示されるように、逆接続保護用の第5および第6スイッチ素子315、316をさらに有していても構わない。第5および第6スイッチ素子315、316は、典型的に、寄生ダイオードを有するMOSFETの半導体スイッチである。第5スイッチ素子315は、SW313に直列に接続され、寄生ダイオードにおいて第1インバータ100Aに向けて順方向電流が流れるよう配置される。第6スイッチ素子316は、SW314に直列に接続され、寄生ダイオードにおいて第2インバータ100Bに向けて順方向電流が流れるよう配置される。電源500が逆向きに接続された場合でも、逆接続保護用の2つのスイッチ素子によって逆電流を遮断することができる。
【0026】
図示する例に限られず、使用するスイッチ素子の個数は、設計仕様などを考慮して適宜決定される。特に車載分野においては、安全性の観点から高い品質保証が要求されるので、各インバータ用として複数のスイッチ素子を設けておくことが好ましい。
【0027】
電源500は所定の電源電圧(例えば、12V)を生成する。電源500として、例えば直流電源が用いられる。ただし、電源500は、AC-DCコンバータまたはDC-DCコンバータであってもよいし、バッテリー(蓄電池)であってもよい。
【0028】
電源500は、図示するように、第1インバータ100Aおよび第2インバータ100Bに共通の単一電源であってもよいし、第1インバータ100A用の第1電源および第2インバータ100B用の第2電源を備えていてもよい。
【0029】
電源500と電力変換装置1000の各インバータとの間にコイル600が設けられている。コイル600は、ノイズフィルタとして機能し、各インバータに供給する電圧波形に含まれる高周波ノイズ、または各インバータで発生する高周波ノイズを電源500側に流出させないように平滑化する。
【0030】
各インバータの電源端子には、コンデンサ(不図示)が接続される。コンデンサは、いわゆるバイパスコンデンサであり、電圧リプルを抑制する。コンデンサは、例えば電解コンデンサであり、容量および使用する個数は設計仕様などによって適宜決定される。
【0031】
第1周辺回路400Aは、第1インバータ100Aの駆動を制御するための回路である。第1周辺回路400Aは、例えば、第1プリドライバ420A、第1駆動回路440Aおよび第1サブドライバ450Aを備える。
【0032】
第2周辺回路400Bは、第2インバータ100Bの駆動を制御するための回路である。第2周辺回路400Bは、第1周辺回路400Aと同様に、例えば、第2プリドライバ420B、第2駆動回路440Bおよび第2サブドライバ450Bを備える。
【0033】
第2周辺回路400Bは、典型的に、第1周辺回路400Aと実質的に同じ構造および機能を備える。より詳細には、個々の部品同士は実質的に同じ構造および機能を備える。
【0034】
コントローラ410は、電力変換装置1000の全体を制御する集積回路であり、例えば、マイクロコントローラまたはFPGA(Field Programmable Gate Array)である。
【0035】
コントローラ410は、第1周辺回路400Aおよび第2周辺回路400Bを制御する。具体的には、コントローラ410は、第1インバータ100Aおよび第2インバータ100Bの各々における3個のローサイドスイッチ素子および3個のハイサイドスイッチ素子のスイッチング動作を制御する。例えば、コントローラ410は、第1プリドライバ420Aが故障した場合、第1駆動回路440Aを制御し、第2プリドライバ420Bが故障した場合、第2駆動回路440Bを制御する。
【0036】
コントローラ410は、目的とするモータ200のロータの位置、回転速度、および電流などを制御してクローズドループ制御を実現することができる。そのため、コントローラ410は、典型的に、ロータの位置を検出する位置センサ700からの出力信号を入力する入力ポートを備える。
【0037】
位置センサ700は、例えば、レゾルバ、ホールIC、または、磁気抵抗(MR)素子を有するMRセンサとセンサマグネットとの組み合わせによって実現される。位置センサ700は、ロータの位置(以下、「回転信号」と表記する。)を検出し、コントローラ410に回転信号を出力する。
【0038】
コントローラ410は、位置センサ700用の入力ポートに代えて、またはその入力ポートと共に、トルクセンサ800からの出力信号を入力する入力ポートを備えていてもよい。この場合、コントローラ410は、目的とするモータトルクを制御することができる。また、コントローラ410は、例えば車載のコントロールエリアネットワーク(CAN)に接続するための専用ポートなどを備えることができる。
【0039】
センサの冗長性を考慮して、例えば2個の位置センサ700および2個のトルクセンサ800(図4を参照)を設けるようにしてもよい。2個のセンサのうちの1個が故障した場合でも、故障していないセンサを用いてモータ制御を継続することができる。
【0040】
コントローラ410は、上述した電流センサから出力される電流信号を入力する入力ポートをさらに備えることができる。コントローラ410は、実電流値として、外付けのAD(アナログ-デジタル)コンバータによって変換されたデジタル信号を受け取ってもよいし、電流センサからアナログ信号をそのまま受け取り、コントローラ410の内部でデジタル信号に変換してもよい。
【0041】
コントローラ410は、実電流値およびロータの回転信号などに従って目標電流値を設定してPWM(Pulse Width Modulation)信号を生成し、それらを第1プリドライバ420Aおよび第2プリドライバ420Bに出力する。また、本実施形態では、コントローラ410は、SW311のオン・オフを制御する制御信号を第1サブドライバ450Aに出力し、SW312のオン・オフを制御する制御信号を第2サブドライバ450Bに出力する。
【0042】
プリドライバは、ゲートドライバとも呼ばれる。第1プリドライバ420Aおよび第2プリドライバ420Bとして、汎用のプリドライバを広く用いることができる。
【0043】
第1プリドライバ420Aは、コントローラ410と第1インバータ100Aとの間に接続されている。第1プリドライバ420Aは、第1インバータ100Aにおける3個のローサイドスイッチ素子および3個のハイサイドスイッチ素子のスイッチング動作を制御する制御信号をコントローラ410の制御の下で生成し、それらのスイッチ素子に与える。具体的には、第1プリドライバ420Aは、第1インバータ100Aにおける各SWのスイッチング動作を制御する制御信号(ゲート制御信号)を、コントローラ410からのPWM信号に従って生成し、各SWのゲートに制御信号を与える。
【0044】
第2プリドライバ420Bは、コントローラ410と第2インバータ100Bとの間に接続されている。第2プリドライバ420Bは、第2インバータ100Bにおける3個のローサイドスイッチ素子および3個のハイサイドスイッチ素子のスイッチング動作を制御する制御信号をコントローラ410の制御の下で生成し、それらのスイッチ素子に与える。具体的には、第2プリドライバ420Bは、第2インバータ100Bにおける各SWのスイッチング動作を制御するゲート制御信号を、コントローラ410からのPWM信号に従って生成し、各SWのゲートに制御信号を与える。
【0045】
第1プリドライバ410Aは、電源500の電圧(例えば12V)よりも大きい電圧CP_Pr1を生成することが可能である。第2プリドライバ410Bは、電源500の電圧よりも大きい電圧CP_Pr2を生成することが可能である。昇圧電圧CP_Pr1、CP_Pr2は、例えば18Vまたは24Vである。各プリドライバはチャージポンプ方式である。
【0046】
本実施形態では、電源回路430は、第1周辺回路400Aおよび第2周辺回路400Bに共通の電源回路であり、例えば電源ICである。電源500から電源回路430に、例えば12Vの電源が供給される。電源回路430は、第1周辺回路400Aおよび第2周辺回路400Bの各ブロックに必要な電源電圧を各々に供給する。図1において、電源回路430を2つの機能ブロックで示しているが、それは、物理的に分離された個別の電源回路を意図しているわけではない。
【0047】
電源回路430は、例えば5.0Vまたは3.3Vの電源電圧VCCをコントローラ410、第1プリドライバ420Aおよび第2プリドライバ420Bに供給する。本実施形態では、電源回路430は、SW313、314、315および316のオン・オフを制御する制御信号をそれらに与えることが可能である。
【0048】
電源回路430は、電源500の電圧よりも大きい電圧CP_PMを生成することが可能である。昇圧電圧CP_PMは、例えば18Vまたは24Vである。
【0049】
本実施形態では、電源500の電圧よりも大きい電圧が必要になる。そのため、上述したとおり、第1プリドライバ420A、第2プリドライバ420Bおよび電源回路430を用いてそのような大きい電圧は生成される。電源500の電圧を昇圧するブロックは、各周辺回路に少なくとも1つあればよい。
【0050】
ここで、第1駆動回路440Aおよび第2駆動回路440Bを説明する前に、第1プリドライバ420Aおよび第2プリドライバ420Bにより生成されるゲート制御信号を説明する。以下、第1プリドライバ420Aを例にしてゲート制御信号を説明する。
【0051】
本明細書において、電力変換装置1000に故障が生じていないときの電力変換装置1000の制御を「正常時の制御」と表記し、故障が生じたときの制御を「異常時の制御」
と表記することとする。
【0052】
正常時の制御では、SW311、312、313、314、315および316はオン状態である。従って、第1インバータ100AにおけるSW101A_L、102A_Lおよび103A_Lを接続するノードNA_Lの電位は、GND電位となる。そのため、SW101A_L、102A_Lおよび103A_Lのゲートの基準電位、つまり、ソース電位は低電位となる。その場合、SWのゲートに与えられるゲート制御信号の電圧レベルは比較的低くてもよく、ローサイドスイッチ素子のスイッチング動作を問題なく制御することが可能である。以下、ゲート制御信号の電圧を「ゲート電圧」と表記する場合がある。
【0053】
一方、第1インバータ100Aの3個のSW101A_H、102A_Hおよび103A_Hの基準電位は、ローサイドスイッチ素子とハイサイドスイッチ素子の間のノードNA_1、NA_2およびNA_3の電位、つまり、各相の巻線M1、M2およびM3に供給される駆動電圧となるために高い。ハイサイドスイッチ素子をオンするためには、ローサイドスイッチ素子に与えるゲート電圧よりも高いゲート電圧をハイサイドスイッチ素子に与える必要がある。
【0054】
既に説明したように、第1プリドライバ420Aは、例えば12Vの電圧を昇圧して18Vの電圧を生成し、高電圧をSW101A_H、102A_Hおよび103A_Hに与えることができる。その結果、スイッチング動作においてハイサイドスイッチ素子を適切にオンすることが可能となる。このように、第1プリドライバ420Aは、正常時の制御において、ローサイドスイッチ素子に与えるゲート電圧よりも高いゲート電圧をハイサイドスイッチ素子に与える。ローサイドスイッチ素子に与えるゲート電圧は、例えば12Vであり、ハイサイドスイッチ素子に与えるゲート電圧は、例えば18Vである。
【0055】
電力変換装置1000に故障が発生した場合を考える。「故障」とは、主に周辺回路内で発生する故障を意味する。モータ200の第1インバータ100A側で故障が発生するとは、第1周辺回路400A内で故障が発生することを意味し、より詳細には、例えば第1プリドライバ420Aが故障して動作不能になることを意味する。第2インバータ100B側で故障が発生するとは、第2周辺回路400B内で故障が発生することを意味し、より詳細には、例えば第2プリドライバ420Bが故障して動作不能になることを意味する。
【0056】
例えば、第1プリドライバ420Aが故障したとする。その場合、第1プリドライバ420Aは、当然に、コントローラ410の制御を受けて、第1インバータ100Aを駆動することはできなくなる。しかし、第1インバータ100Aにおけるローサイド側のノードNA_Lを中性点として機能させることができれば、この中性点を用いて第2インバータ100Bを駆動させることによりモータ200の駆動を継続させることができる。
【0057】
本実施形態では、例えば第1プリドライバ420Aが故障した場合、第1インバータ100Aのローサイド側のノードNA_Lを中性点として機能させる。このとき、コントローラ410は電流制御を適切に行えるよう第1スイッチ素子311をオフにする。これにより、中性点はGNDから電気的に切り離される。その結果、ローサイド側のノードNA_Lの電位はGND電位ではなくなり、その電位よりも高い電位となる。換言すると、SW101A_L、102A_Lおよび103A_Lのゲートの基準電位は、フローティング状態になる。その状態で、正常時の制御におけるゲート電圧(例えば12V)と同じ大きさのゲート電圧をローサイドスイッチ素子に与えた場合、ゲート-ソース間電圧は、正常時の制御のそれと比較して小さくなる。
【0058】
ゲート-ソース間電圧が小さくなると、SW101A_L、102A_Lおよび103A_Lのソース-ドレイン間のオン抵抗値が大きくなったり、SW101A_L、102A_Lおよび103A_Lが意図せずにオフ状態になったりすることが発生し得る。第1インバータ100Aのローサイド側のノードNA_Lを中性点として機能させるためには、SW101A_L、102A_Lおよび103A_Lを適切にオン状態にしておく必要がある。従って、SW101A_L、102A_Lおよび103A_Lに与えられるゲート電圧は、正常時の制御のそれらよりも大きくしておく必要がある。
【0059】
上述した問題点を踏まえ、本開示による電力変換装置1000は、第1駆動回路440Aおよび第2駆動回路440Bを備える。第2駆動回路440Bの回路構造および機能は、第1駆動回路440Aのそれらと実質的に同じであるので、以下、第1駆動回路440Aを例に回路構造および機能を主に説明する。
【0060】
第1駆動回路440Aは、第1インバータ100Aの3個のローサイドスイッチ素子に接続されている。第1駆動回路440Aは、モータ200の第1インバータ100A側で故障が発生したとき、第1インバータ100AにおけるSW101A_L、102A_Lおよび103A_Lを常時オン状態にするための専用駆動回路である。第1駆動回路440Aにより、第1インバータ100Aのローサイド側のノードNA_Lを中性点として適切に機能させることができる。
【0061】
第2駆動回路440Bは、第2インバータ100Bの3個のローサイドスイッチ素子に接続されている。第2駆動回路440Bは、モータ200の第2インバータ100B側で故障が発生したとき、第2インバータ100BにおけるSW101B_L、102B_Lおよび103B_Lを常時オン状態にするための専用駆動回路である。第2駆動回路440Bにより、第2インバータ100Bのローサイド側のノードNB_Lを中性点として適切に機能させることができる。
【0062】
正常時の制御では、ローサイドスイッチ素子のゲート制御信号は、第1プリドライバ420AからSW101A_L、102A_L、103A_Lに供給される。異常時の制御では、ゲート制御信号は、第1駆動回路440AからSW101A_L、102A_L、103A_Lに供給される。
【0063】
第1駆動回路440Aが第1インバータ100Aの3個のローサイドスイッチ素子に与える制御信号の電圧レベルは、第1プリドライバ420Aがそれらのローサイドスイッチ素子に与える制御信号の電圧レベルよりも大きい。本実施形態では、第1駆動回路440Aが第1インバータ100Aの3個のローサイドスイッチ素子に与える制御信号の電圧レベルは、第1プリドライバ420Aが第1インバータ100Aの3個のハイサイドスイッチ素子に与える制御信号の電圧レベルと等しい。そのゲート電圧は、例えば18Vである。
【0064】
第2駆動回路440Bが第2インバータ100Bの3個のローサイドスイッチ素子に与える制御信号の電圧レベルは、第2プリドライバ420Bがそれらのローサイドスイッチ素子に与える制御信号の電圧レベルよりも大きい。本実施形態では、第2駆動回路440Bが第2インバータ100Bの3個のローサイドスイッチ素子に与える制御信号の電圧レベルは、第2プリドライバ420Bが第2インバータ100Bの3個のハイサイドスイッチ素子に与える制御信号の電圧レベルと等しい。そのゲート電圧は、例えば18Vである。
【0065】
モータ200の第2インバータ100B側で故障が発生したとき、第1インバータ100A側で生成される第1電源電圧が第2駆動回路440Bに供給される。第1インバータ100A側で生成される電圧とは、第1周辺回路400Aにおいて生成される電源電圧を意味する。例えば、第1電源電圧は、第1プリドライバ420Aにより生成される昇圧電圧CP_Pr1である。第1電源電圧の大きさは、電源500の電圧よりも大きく、例えば18Vである。
【0066】
第1インバータ100A側で故障が発生したとき、第2インバータ100B側で生成される第2電源電圧が第1駆動回路440Aに供給される。第2インバータ100B側で生成される電圧とは、第2周辺回路400Bにおいて生成される電源電圧を意味する。例えば、第2電源電圧は、第2プリドライバ420Bにより生成される昇圧電圧CP_Pr2である。第2電源電圧の大きさは、電源500の電圧よりも大きく、例えば18Vである。本実施形態では、第1電源電圧の大きさは、第2電源電圧の大きさに等しい。
【0067】
第1電源電圧および第2電源電圧はそれぞれ、電源回路430によって生成される昇圧電圧CP_PMであってもよい。例えば、第1プリドライバ420Aが故障した場合、第1駆動回路440Aに、第2電源電圧として昇圧電圧CP_PMが供給され得る。例えば、第2プリドライバ420Bが故障した場合、第2駆動回路440Bに、第1電源電圧として昇圧電圧CP_PMが供給され得る。
【0068】
第1駆動回路440Aは、モータ200の第1インバータ100A側で故障が発生したとき、第2電源電圧を供給することにより、第1インバータ100Aの3個のローサイドスイッチ素子をオンにする制御信号をそれらのローサイドスイッチ素子に与える。第2駆動回路440Bは、第2インバータ100B側で故障が発生したとき、第1電源電圧を供給することにより、第2インバータ100Bの3個のローサイドスイッチ素子をオンにする制御信号をそれらのローサイドスイッチ素子に与える。
【0069】
図2Aは、第1駆動回路440Aの機能ブロックを模式的に示し、図2Bは、第2駆動回路440Bの機能ブロックを模式的に示している。
【0070】
第2電源電圧は、電源電圧443として第1駆動回路440Aに供給される。第2電源電圧は、例えば昇圧電圧CP_Pr2である。第1電源電圧は、電源電圧443として第2駆動回路440Bに供給される。第1電源電圧は、例えば昇圧電圧CP_Pr1である。ローサイドスイッチ素子のゲート-ソース間電圧が耐圧よりも大きくならないよう電源電圧443を設定することに留意されたい。
【0071】
第1駆動回路440Aおよび第2駆動回路440Bの各々は、スイッチ441および442を有する。正常時の制御では、スイッチ441および442はオフである。
【0072】
モータ200の第1インバータ100A側で故障が発生したとき、コントローラ410は、第1駆動回路440Aのスイッチ441をオンする。これにより、電源電圧443が、第1インバータ100Aの3個のローサイドスイッチ素子にゲート電圧として与えられる。3個のローサイドスイッチ素子は全てオン状態となり、第1インバータ100Aのローサイド側のノードNA_Lを中性点として機能させることができる。
【0073】
例えば、電力変換装置1000に故障が発生した場合、電力変換装置1000の動作を強制的に停止させてもよい。その場合、コントローラ410は、スイッチ442をオンする。GND電位がゲート電圧としてローサイドスイッチ素子に与えられるため、3個のローサイドスイッチ素子はオフ状態となる。ただし、スイッチ442は、オプションであり、強制的な停止を必要としない場合など、駆動回路になくてもよい。
【0074】
図3は、第1周辺回路400Aの中の第1駆動回路440Aのブロック構成を模式的に例示している。なお、図3にスイッチ素子315を示していない。
【0075】
第1駆動回路440Aは、オープンコレクタ出力方式の複数のスイッチ素子10、11、12、13、20、21、22および23を備える。図示する例では、スイッチ素子11、12、13および20は、PNP型のバイポーラトランジスタである。スイッチ素子10、21、22および23は、NPN型のバイポーラトランジスタである。各相のローサイドスイッチ素子を制御するためのゲート制御信号線に、プッシュプル回路が抵抗を介して接続される。スイッチ441および442は、複数のトランジスタ10、11、12、13、20、21、22、23および複数の抵抗の組み合わせによって構成され得る。
【0076】
コントローラ410がトランジスタ20をプルすると、トランジス
タ21、22および23はプッシュされる。これにより、第1インバータ100AにおけるSW101A_L、102A_Lおよび103A_Lのゲート電位は、GND電位に相当する低レベルとなる。これに対し、コントローラ410がトランジスタ10をプッシュすると、トランジスタ11、12および13はプルされて、SW101A_L、102A_Lおよび103A_Lのゲート電位は、電源電圧463に相当する高レベルとなる。
【0077】
SW101A_L、102A_Lおよび103A_Lのソースとゲートとの間には、抵抗器とダイオードとが並列接続された保護回路31、32、33が接続されている。SW101A_H、102A_Hおよび103A_Hのソースとゲートとの間には、抵抗器とダイオードとが並列接続された保護回路41、42および43が接続されている。
【0078】
電力変換装置1000は、第1および第2保護回路を備えることができる。第1保護回路は、保護回路51、52および53を有する。SW101A_Lのゲートに接続される第1プリドライバ420Aの出力端子(図示せず)とGNDとの間に、保護回路51を接続することが好ましい。これと同様に、SW102A_Lのゲートに接続される第1プリドライバ420Aの出力端子(図示せず)とGNDとの間に、保護回路52を接続し、SW103A_Lのゲートに接続される第1プリドライバ420Aの出力端子(図示せず)とGNDとの間に、保護回路53を接続することが好ましい。モータ200の第2インバータ100B側についてもこれと同様に3個の保護回路を有する第2保護回路を設けることが好ましい。
【0079】
第1駆動回路440Aから第1インバータ100Aに、3個のローサイドスイッチ素子をオンする制御信号が出力されるとき、保護回路51、52および53のそれぞれは、第1プリドライバ420Aに規定値(耐圧)以上の電圧レベルの信号が入力することを抑制する。ここでの耐圧は、例えば、正常時の制御においてSW101A_L、102A_Lおよび103A_L用のゲート制御信号を出力する第1プリドライバ420Aの中の回路素子の耐圧である。
【0080】
保護回路51、52、53は、例えばツェナーダイオードである。保護回路51、52、53は、第1駆動回路440Aが出力するゲート制御信号の電圧が、耐圧に近い大きさおよび耐圧以上になったときに機能する。例えば、耐圧が18Vの場合、ゲート制御信号の電圧が17V以上になったとき、保護回路51、52、53が機能する。これにより、第1プリドライバ420Aの出力端子に供給される電圧を耐圧未満にすることができる。本実施形態では、SW101A_L、102A_Lおよび103A_Lに、正常時の制御よりも高いゲート電圧を供給する。その高いゲート電圧が意図せずに耐圧以上になったとしても、保護回路51、52、53により第1プリドライバ420Aを保護することができる。
【0081】
第1駆動回路440Aによれば、正常時の制御よりも高いゲート電圧をSW101A_L、102A_Lおよび103A_Lに供給することができる。ゲート電圧を高くすることにより、ソース電位が中性点の電位になったとしても、ゲート-ソース間電圧の低下を抑制することができる。SW101A_L、102A_Lおよび103A_Lのソース-ドレイン間のオン抵抗値が大きくなることを抑制することができるとともに、SW101A_L、102A_Lおよび103A_Lが意図せずにオフ状態になることを抑制できる。
【0082】
電力変換装置1000は、ROM(不図示)を備える。ROMは、例えば書き込み可能なメモリ(例えばPROM)、書き換え可能なメモリ(例えばフラッシュメモリ)または読み出し専用のメモリである。ROMは、コントローラ410に電力変換装置1000を制御させるための命令群を含む制御プログラムを格納している。例えば、制御プログラムはブート時にRAM(不図示)に一旦展開される。
【0083】
以下、電力変換装置1000の各部品が実装される回路基板(例えばプリント基板)の電源配線および信号配線について特筆すべき点を説明する。
【0084】
第1駆動回路440Aには、モータ200の第2インバータ100B側で生成される第2電源電圧が供給される。第2駆動回路440Bには、モータ200の第1インバータ100A側で生成される第1電源電圧が供給される。そのため、第1電源配線および第2電源配線が回路基板に設けられている。例えば、第1電源配線は、第1プリドライバ420Aまたは電源回路430から第2駆動回路440Bに第1電源電圧を供給するための電源配線である。例えば、第2電源配線は、第2プリドライバ420Bまたは電源回路430から第1駆動回路440Aに第2電源電圧を供給するための電源配線である。
【0085】
コントローラ410は、電源回路430と互いに通信可能に接続され得る。その通信は、例えばICなどのシリアル通信を用いて実現し得る。これにより、電源回路430は、コントローラ410の異常動作を検知することができる。電源回路430は、その異常動作を検知した場合、リセット信号を与えてコントローラ410を再起動することが可能となる。さらに、コントローラ410は、第1プリドライバ420Aおよび第2プリドライバ420Bの故障を監視することができる。例えば、このような監視は、プリドライバのステータス、具体的には故障を示すステータス信号を各プリドライバからコントローラ410に、定期的にまたは故障が発生したタイミングで送信することにより実現され得る。
【0086】
例えば、コントローラ410は、モータ200の第2インバータ100B側における故障を検知したとき、第2駆動回路440Bに駆動の開始を指示するようにしてもよい。第2駆動回路440Bは、その駆動の開始の指示に応答して、第2インバータ100Bの3個のローサイドスイッチ素子をオンにする制御信号をそれらのローサイドスイッチ素子に与えることができる。
【0087】
例えば、コントローラ410は、モータ200の第1インバータ100A側における故障を検知したとき、第1駆動回路440Aに駆動の開始を指示するようにしてもよい。第1駆動回路440Aは、その駆動の開始の指示に応答して、第1インバータ100Aの3個のローサイドスイッチ素子をオンにする制御信号をそれらのローサイドスイッチ素子に与えることができる。
【0088】
このように、コントローラ410からの指示に応答して駆動回路を駆動させることにより、故障が発生したときにだけ、駆動回路を適切に駆動させることができる。その結果、駆動回路を常時駆動させることに比べて低消費電力化できる。
【0089】
図4および図5を参照して、本実施形態の変形例を説明する。
【0090】
図4は、本実施形態の変形例による電力変換装置1000のブロック構成例を模式的に示している。
【0091】
この変形例による電力変換装置1000は、第1プリドライバ420Aおよび第2プリドライバ420Bを備えていない点で図1に示す電力変換装置1000とは異なる。このとき、コントローラ410は、プリドライバを内蔵している場合がある。
【0092】
モータ駆動には、一般に、インバータのスイッチ素子(パワー素子)を駆動するための大きな電圧および電流が必要とされる。プリドライバは、コントローラからのPWM制御信号を高電圧および大電流の信号に変換するための回路として用いられる。換言すると、低電圧で駆動可能なモータは、プリドライバを必ずしも必要としない。そのため、プリドライバの機能は、コントローラに実装され得る。本開示において、低電圧で駆動可能なモータ200に電力を供給する電力変換装置1000において、コントローラ410はプリドライバを内蔵していてもよい。その場合、コントローラ410は、第1インバータ100Aおよび第2インバータ100Bを直接制御することができる。
【0093】
図4に示すように、電源回路として、第1周辺回路400Aに第1電源回路430Aを設け、第2周辺回路400Bに第2電源回路430Bを設けるようにしてもよい。第1電源回路430Aと第2電源回路430Bとは個別の電源回路である。第1電源回路430Aは、電源500の電圧を昇圧して電圧CP_PM1を生成し、第2電源回路430Bは、電源500の電圧を昇圧して電圧CP_PM2を生成することができる。
【0094】
第1電源回路430Aから第2駆動回路440Bに昇圧電圧CP_PM1は、第1電源電圧として供給され、第2電源回路430Bから第1駆動回路440Aに昇圧電圧CP_PM2は、第2電源電圧として供給され得る。第1電源回路430Aまたは第2電源回路430Bからコントローラ410に電源電圧VCCは供給され得る。
【0095】
このように、2個の電源回路を設けることにより、例えば、第1電源回路430Aが故障しても第2電源回路430Bによって、コントローラ410に電源電圧VCCを供給し続けることができる。その結果、コントローラ410は、第2インバータ100Bのスイッチ素子のスイッチング動作を継続して制御することが可能となる。さらに、第2電源回路430Bの昇圧電圧CP_PM2を第1駆動回路440Aに供給することにより、第1インバータ100Aのローサイド側のノードNA_Lを中性点として機能させることができる。中性点を用いる制御は、後で詳細に説明する。
【0096】
図5Aおよび5Bは、本実施形態の変形例による電力変換装置1000のさらなるブロック構成例を模式的に示している。この変形例による電力変換装置1000は、第1昇圧回路460Aおよび第2昇圧回路460Bまたは単体の昇圧回路460をさらに備えている点で図1に示す電力変換装置1000とは異なる。
【0097】
本実施形態では、第1プリドライバ420Aおよび電源回路430の少なくとも1つによって第1電源電圧を生成し、第2プリドライバ420Bおよび電源回路430の少なくとも1つによって第2電源電圧を生成する例を説明した。本変形例による電力変換装置1000は、第1電源電圧および第2電源電圧を生成する、電源回路およびプリドライバとは異なる昇圧回路を備える。
【0098】
図5Aに示すように、単体の昇圧回路460は、コントローラ410に接続され得る。昇圧回路460は、電源500の電圧を昇圧して電圧CP_PVを生成する。昇圧電圧CP_PVは、例えば18Vである。この変形例では、昇圧回路460から第2駆動回路440Bに昇圧電圧CP_PVは、第1電源電圧として供給され、昇圧回路460から第1駆動回路440Aに昇圧電圧CP_PVは、第2電源電圧として供給され得る。
【0099】
図5Bに示すように、2個の昇圧回路が、コントローラ410に接続されていてもよい。第1昇圧回路460Aは、第1周辺回路400Aに設けられ、電源500の電圧を昇圧して電圧CP_PV1を生成する。第2昇圧回路460Bは、第2周辺回路400Bに設けられ、電源500の電圧を昇圧して電圧CP_PV2を生成する。昇圧電圧CP_PV1およびCP_PV2は、例えば18Vである。この変形例では、昇圧電圧CP_PV1は、第1電源電圧として第2駆動回路440Bに供給され、昇圧電圧CP_PV2は、第2電源電圧として第1駆動回路440Aに供給され得る。
【0100】
〔1-2.電力変換装置1000の動作〕 先ず、電力変換装置1000の正常時の制御方法の具体例を説明する。正常時において、電力変換装置1000、モータ200の三相の巻線M1、M2およびM3のいずれも故障していない。
【0101】
コントローラ410は、SW311をオンする制御信号を第1サブドライバ450Aに出力し、SW312をオンする制御信号を第2サブドライバ450Bに出力する。電源回路430(図1を参照)は、SW313、314、315および316をオンにする制御信号を出力する。
【0102】
SW311、312、313、314、315および316は全てオン状態となる。電源500と第1インバータ100Aとが電気的に
接続され、かつ、電源500と第2インバータ100Bとが電気的に接続される。また、第1インバータ100AとGNDとが電気的に接続され、かつ、第2インバータ100BとGNDとが電気的に接続される。この接続状態において、コントローラ410は、第1インバータ100Aおよび第2インバータ100Bのスイッチ素子のスイッチング動作を制御するPWM信号を第1プリドライバ420Aおよび第2プリドライバ420Bに出力する。第1インバータ100Aおよび第2インバータ100Bのスイッチ素子をスイッチングすることにより、三相の巻線M1、M2およびM3を通電してモータ200を駆動することが可能となる。本明細書において、三相の巻線を通電することを「三相通電制御」と呼ぶ場合がある。
【0103】
図6は、三相通電制御に従って電力変換装置1000を制御したときにモータ200のU相、V相およびW相の各巻線に流れる電流値をプロットして得られる電流波形(正弦波)を例示している。横軸は、モータ電気角(deg)を示し、縦軸は電流値(A)を示す。図6の電流波形において、電気角30°毎に電流値をプロットしている。Ipkは各相の最大電流値(ピーク電流値)を表す。
【0104】
表1は、図6の正弦波において電気角毎に、各インバータに流れる電流値を示す。具体的には、表1は、第1インバータ100AのノードNA_1、NA_2およびNA_3(図1を参照)を流れる、電気角30°毎の電流値、および、第2インバータ100BのノードNB_1、NB_2およびNB_3(図1を参照)を流れる、電気角30°毎の電流値を示す。ここで、第1インバータ100Aに対しては、第1インバータ100Aから第2インバータ100Bに流れる電流方向を正の方向と定義する。図6に示される電流の向きはこの定義に従う。また、第2インバータ100Bに対しては、第2インバータ100Bから第1インバータ100Aに流れる電流方向を正の方向と定義する。従って、第1インバータ100Aの電流と第2インバータ100Bの電流との位相差は180°となる。表1において、電流値Iの大きさは〔(3)1/2/2〕*Ipkであり、電流値Iの大きさはIpk/2である。
【0105】
【表1】
【0106】
図6に示される電流波形において、電流の向きを考慮した三相の巻線に流れる電流の総和は電気角毎に「0」となる。ただし、電力変換装置1000の回路構成によれば、三相の巻線に流れる電流を独立に制御することができるため、電流の総和が「0」とはならない制御を行うことも可能である。例えば、コントローラ410は、図6に示される電流波形を得るためのPWM信号を第1プリドライバ420Aおよび第2プリドライバ420Bに出力する。
【0107】
次に、第1周辺回路400Aにおいて故障が発生した場合を例にして、電力変換装置1000の異常時の制御方法の具体例を説明する。第2周辺回路400Bにおいて故障が発生した場合も以下で説明する制御方法が適用される。
【0108】
一例として、第1周辺回路400Aにおいて第1プリドライバ420Aが故障した場合を考える。第1プリドライバ420Aは故障しているため、第1インバータ100Aは故障していないものの、正常時の制御による三相通電制御は不可能となる。
【0109】
コントローラ410は、第1プリドライバ420Aの故障を検知すると、モータ200の制御を正常時の制御から異常時の制御に切替える。コントローラ410は、第1駆動回路440Aに駆動の開始を指示する。例えば、第2プリドライバ420Bから第1駆動回路440Aに第2電源電圧は供給されるため、第1プリドライバ420Aの故障は第1駆動回路440Aに影響しない。
【0110】
第1駆動回路440Aは、コントローラ410からの駆動の開始の指示に応答して、第1インバータ100AのSW101A_L、102A_Lおよび103A_Lをオンにする制御信号をそれらに与える。コントローラ410は、SW311をオフにする制御信号を第1サブドライバ450Aに出力する。その結果、SW311はオフ状態となり、第1インバータ100Aは、GNDから電気的に切り離される。SW101A_L、102A_Lおよび103A_Lは常時オン状態となって、第1インバータ100Aのローサイド側のノードNA_Lは中性点として機能することができる。このとき、第1インバータ100AのSW101A_H、102A_Hおよび103A_Hはオフ状態である。スイッチ素子313および315はオン状態であってもオフ状態であっても構わないが、オフ状態であることが好ましい。
【0111】
図7は、図6に示す電流波形の電気角270°において2つのインバータに流れる電流の様子を例示している。
【0112】
コントローラ410は、第2プリドライバ420BにPWM信号を出力することにより、第1インバータ100Aの中性点を用いて三相通電制御を継続することができる。例えば、コントローラ410は、図6に示される電流波形を得るためのPWM信号を第2インバータ100Bのスイッチ素子に出力することにより、巻線M1、M2およびM3を通電することができる。
【0113】
本実施形態によれば、第1プリドライバ420Aが故障したとしても、第1駆動回路440Aには第2電源電圧が供給されるため、中性点を用いた三相通電制御を継続することが可能となる。
【0114】
他の一例として、図1に示す構成における電源回路430を、図4に示す2つの第1電源回路430Aおよび第2電源回路430Bに置き換えることが可能である。その場合、第1電源回路430Aが故障すると、第1プリドライバ420Aに電源電圧VCCを供給できなくなるため、第1インバータ100Aを駆動することが不可能となる。
【0115】
本実施形態によれば、例えば、第2電源回路430Bによって生成される昇圧電圧CP_PM2または第2プリドライバ420Bによって生成される昇圧電圧CP_Pr2を第1駆動回路440Aに供給することができる。そのため、第1駆動回路440Aは、第1電源回路430Aの故障の影響を受けずに、第1インバータ100AのSW101A_L、102A_Lおよび103A_Lをオンにする制御信号をそれらに与えることができる。
【0116】
(実施形態2) 図8は、本実施形態によるモータモジュール2000Aのブロック構成を模式的に示し、主として電力変換装置1000Aのブロック構成を模式的に示している。図9は、駆動回路440およびその周辺の機能ブロックを模式的に示している。
【0117】
電力変換装置1000Aは、第1インバータ100Aおよび第2インバータ100Bに共通の駆動回路440を備えている点で第1実施形態による電力変換装置1000とは異なる。以下、第1実施形態との差異点を主に説明する。
【0118】
電力変換装置1000Aは、第1インバータ100Aおよび第2インバータ100Bに共通の駆動回路440、第1スイッチ900および第2スイッチ910を備える。
【0119】
駆動回路440は、第1インバータ100Aの3個のローサイドスイッチ素子および第2インバータ100Bの3個のローサイドスイッチ素子に接続されている。駆動回路440は、モータ200の第1インバータ100A側で故障が発生したとき、第2電源電圧を供給することにより、第1インバータ100Aの3個のローサイドスイッチ素子をオンにする制御信号をそれらのローサイドスイッチ素子に与え、かつ、第2インバータ100B側で故障が発生したとき、第1電源電圧を供給することにより、第2インバータ100Bの3個のローサイドスイッチ素子をオンにする制御信号をそれらのローサイドスイッチ素子に与える。
【0120】
駆動回路440は、実施形態1による第1駆動回路440Aまたは第2駆動回路440Bと同様に、スイッチ441および442を備え、オープンコレクタ出力方式の複数のトランジスタおよび複数の抵抗から構成され得る。駆動回路440は、コントローラ410によって制御される。
【0121】
例えば、第1インバータ100A側で、つまり、第1周辺回路400A内で故障が発生した場合を考える。例えば、コントローラ410は、第1プリドライバ420Aから故障を示すステータス信号を受け取ると、駆動回路440の制御を開始する。
【0122】
第1スイッチ900は、コントローラ410の制御の下で、駆動回路440に電源電圧443として第1電源電圧を供給することと、駆動回路440に電源電圧443として第2電源電圧を供給することとを切替える。コントローラ410は、第1プリドライバ420Aの故障を検知すると、第1スイッチ900を制御し、駆動回路440に電源電圧443として第2電源電圧(例えばCP_Pr2)を供給することを決定する。
【0123】
第2スイッチ910は、駆動回路440から第1インバータ100Aの3個のローサイドスイッチ素子に駆動回路440の出力を供給することと、駆動回路440から第2インバータ100Bの3個のローサイドスイッチ素子にその出力を供給することを、コントローラ410の制御を受けて切替える。コントローラ410は、第1プリドライバ420Aの故障を検知すると、第2スイッチ910を制御し、第1インバータ100Aの3個のローサイドスイッチ素子に駆動回路440の出力を供給することを決定する。
【0124】
本実施形態によると、実施形態1と同様に、第1周辺回路400Aまたは第2周辺回路400Bに故障が発生した場合でも、いずれか一方のインバータにおける中性点を用いた三相通電制御を継続することが可能となる。さらに、第1インバータ100Aおよび第2インバータ100Bに共通の駆動回路440を用いるため、回路面積およびコストの面で有利である。
【0125】
駆動回路440は、実施形態1による、第1駆動回路440Aおよび第2駆動回路440Bを1チップ化した集積回路などでもよい。このような回路形態も本開示の範疇である。
【0126】
(実施形態3) 図10は、本実施形態による電動パワーステアリング装置3000の典型的な構成を模式的に示す。
【0127】
自動車等の車両は一般に、電動パワーステアリング(EPS)装置を有する。本実施形態による電動パワーステアリング装置3000は、ステアリングシステム520、および補助トルクを生成する補助トルク機構540を有する。電動パワーステアリング装置3000は、運転者がステアリングハンドルを操作することによって発生するステアリングシステムの操舵トルクを補助する補助トルクを生成する。補助トルクにより、運転者の操作の負担は軽減される。
【0128】
ステアリングシステム520は、例えば、ステアリングハンドル521、ステアリングシャフト522、自在軸継手523A、523B、回転軸524、ラックアンドピニオン機構525、ラック軸526、左右のボールジョイント552A、552B、タイロッド527A、527B、ナックル528A、528B、および左右の操舵車輪529A、529Bを備える。
【0129】
補助トルク機構540は、例えば、操舵トルクセンサ541、自動車用電子制御ユニット(ECU)542、モータ543および減速機構544を備える。操舵トルクセンサ541は、ステアリングシステム520における操舵トルクを検出する。ECU542は、操舵トルクセンサ541の検出信号に基づいて駆動信号を生成する。モータ543は、駆動信号に基づいて操舵トルクに応じた補助トルクを生成する。モータ543は、減速機構544を介してステアリングシステム520に、生成した補助トルクを伝達する。
【0130】
ECU542は、例えば、実施形態1による第1周辺回路400Aおよび第2周辺回路400Bを有する。自動車ではECUを核とした電子制御システムが構築される。電動パワーステアリング装置3000では、例えば、ECU542、モータ543およびインバータ545によって、モータ駆
動ユニットが構築される。そのユニットに、実施形態1および2によるモータモジュール2000、2000Aを好適に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本開示の実施形態は、掃除機、ドライヤ、シーリングファン、洗濯機、冷蔵庫および電動パワーステアリング装置などの、各種モータを備える多様な機器に幅広く利用され得る。
【符号の説明】
【0132】
100A :第1インバータ 100B :第2インバータ 200 :モータ 311、312、313、314、315、316 :スイッチ素子 400A :第1周辺回路 400B :第2周辺回路 410 :コントローラ 420A :第1プリドライバ 420B :第2プリドライバ 430 :電源回路 430A :第1電源回路 430B :第2電源回路 440A :第1駆動回路 440B ;第2駆動回路 450A :第1サブドライバ 450B :第2サブドライバ 460 :昇圧回路 460A :第1昇圧回路 460B :第2昇圧回路 1000、1000A :電力変換装置 2000、2000A :モータモジュール 3000 :電動パワーステアリング装置
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10