(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】波長シフト補正システムおよび波長シフト補正方法
(51)【国際特許分類】
G01J 3/06 20060101AFI20220329BHJP
G01J 3/02 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
G01J3/06
G01J3/02 C
(21)【出願番号】P 2019537932
(86)(22)【出願日】2018-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2018020448
(87)【国際公開番号】W WO2019039025
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2020-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2017159292
(32)【優先日】2017-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】長井 慶郎
【審査官】大河原 綾乃
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-015048(JP,A)
【文献】特開2005-043153(JP,A)
【文献】特開2005-338021(JP,A)
【文献】特開2004-191244(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0066934(US,A1)
【文献】特開2005-069750(JP,A)
【文献】米国特許第06002990(US,A)
【文献】米国特許第05771094(US,A)
【文献】特開2012-142920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00 - G01J 3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長シフト補正用輝線光を放射する波長シフト補正用光源と、
入射光を波長に応じて分散させて分光した各分散分光光を、分散方向に配列された複数の光電変換素子で受光して前記各分散分光光の各光強度に応じた各電気信号を出力する分光部と、前記分光部の温度を測定する温度測定部とを備える被波長シフト補正分光計としての分光計と、
前記波長シフト補正用輝線光を前記入射光として前記被波長シフト補正分光計で測定した場合に、前記複数の光電変換素子のうち、前記波長シフト補正用輝線光を受光する複数の特定光電変換素子から出力される各電気信号、および、前記温度測定部で測定された温度に基づいて、前記波長シフト補正用輝線光に対応する波長シフト補正時輝線波長を求め、前記求めた波長シフト補正時輝線波長と前記波長シフト補正用輝線光の予め既知な輝線波長との差から波長変化量を求める波長シフト補正部と、
所定の初期校正時に基準温度としての第1温度で求められた前記複数の特定光電変換素子に対応する分光部のゲイン比に前記複数の特定光電変換素子の分光感度比を乗算した乗算結果である感度ゲイン積の比と、波長との波長対応関係を、前記波長シフト補正用輝線光の輝線波長を含む所定の波長範囲において、所定の波長間隔で各波長ごとに表した第1テーブルを記憶する第1テーブル情報記憶部と、
前記初期校正時に前記基準温度で前記波長シフト補正用輝線光を前記入射光として前記被波長シフト補正分光計で測定した場合に、前記複数の特定光電変換素子から出力される各電気信号に基づく基準比としての所定の第1出力比に対する、第2温度で前記波長シフト補正用輝線光を前記入射光として前記被波長シフト補正分光計で測定した場合に、前記複数の特定光電変換素子から出力される各電気信号に基づく所定の第2出力比の比と、第2温度との温度対応関係を、前記基準温度を含む所定の温度範囲において、所定の温度間隔で各温度ごとに表した第2テーブルを記憶する第2テーブル情報記憶部とを備え、
前記波長シフト補正部は、前記第2テーブル情報記憶部に記憶された第2テーブルから、前記温度測定部で測定された温度に対応する前記第1出力比に対する第2出力比を求め、前記第1テーブル情報記憶部に記憶された第1テーブルから、前記求めた前記第1出力比に対する第2出力比、および、前記波長シフト補正用輝線光を前記入射光として前記被波長シフト補正分光計で測定した場合に前記複数の特定光電変換素子から出力される各電気信号、に対応する前記波長シフト補正時輝線波長を求める、
波長シフト補正システム。
【請求項2】
前記波長シフト補正部は、前記求めた波長変化量に基づいて前記被波長シフト補正分光計を波長シフト補正する、
請求項1
に記載の波長シフト補正システム。
【請求項3】
前記波長シフト補正部は、前記求めた波長変化量に基づいて波長シフト補正が必要である旨を警告する、
請求項1
または請求項
2に記載の波長シフト補正システム。
【請求項4】
前記波長シフト補正用光源は、ネオンランプと、前記ネオンランプから放射される複数の輝線光の中から前記波長シフト補正用輝線光を透過するバンドパスフィルタとを備える、
請求項1ないし請求項
3のいずれか1項に記載の波長シフト補正システム。
【請求項5】
前記波長シフト補正用光源は、前記被波長シフト補正分光計に内蔵されている、
請求項1ないし請求項
4のいずれか1項に記載の波長シフト補正システム。
【請求項6】
前記波長シフト補正用光源は、前記被波長シフト補正分光計と別体である、
請求項1ないし請求項
4のいずれか1項に記載の波長シフト補正システム。
【請求項7】
波長シフト補正用輝線光を放射する波長シフト補正用光源と、入射光を波長に応じて分散させて分光した各分散分光光を、分散方向に配列された複数の光電変換素子で受光して前記各分散分光光の各光強度に応じた各電気信号を出力する分光部と、前記分光部の温度を測定する温度測定部とを備える被波長シフト補正分光計としての分光計とを備え、前記被波長シフト補正分光計を波長シフト補正する波長シフト補正方法であって、
前記波長シフト補正用輝線光を前記入射光として前記被波長シフト補正分光計で測定した場合に、前記複数の光電変換素子のうち、前記波長シフト補正用輝線光を受光する複数の特定光電変換素子から出力される各電気信号、および、前記温度測定部で測定された温度に基づいて、前記波長シフト補正用輝線光に対応する波長シフト補正時輝線波長を求める第1工程と、
前記第1工程で求めた波長シフト補正時輝線波長と前記波長シフト補正用輝線光の予め既知な輝線波長との差から波長変化量を求める第2工程とを備え
る波長シフト補正方法であって、
前記被波長シフト補正分光計は、
所定の初期校正時に基準温度としての第1温度で求められた前記複数の特定光電変換素子に対応する分光部のゲイン比に前記複数の特定光電変換素子の分光感度比を乗算した乗算結果である感度ゲイン積の比と、波長との波長対応関係を、前記波長シフト補正用輝線光の輝線波長を含む所定の波長範囲において、所定の波長間隔で各波長ごとに表した第1テーブルを記憶する第1テーブル情報記憶部と、
前記初期校正時に前記基準温度で前記波長シフト補正用輝線光を前記入射光として前記被波長シフト補正分光計で測定した場合に、前記複数の特定光電変換素子から出力される各電気信号に基づく基準比としての所定の第1出力比に対する、第2温度で前記波長シフト補正用輝線光を前記入射光として前記被波長シフト補正分光計で測定した場合に、前記複数の特定光電変換素子から出力される各電気信号に基づく所定の第2出力比の比と、第2温度との温度対応関係を、前記基準温度を含む所定の温度範囲において、所定の温度間隔で各温度ごとに表した第2テーブルを記憶する第2テーブル情報記憶部とをさらに備え、
前記波長シフト補正方法は、
前記第2テーブル情報記憶部に記憶された第2テーブルから、前記温度測定部で測定された温度に対応する前記第1出力比に対する第2出力比を求め、前記第1テーブル情報記憶部に記憶された第1テーブルから、前記求めた前記第1出力比に対する第2出力比、および、前記波長シフト補正用輝線光を前記入射光として前記被波長シフト補正分光計で測定した場合に前記複数の特定光電変換素子から出力される各電気信号、に対応する前記波長シフト補正時輝線波長を求める第3工程をさらに備える、
波長シフト補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光計の波長シフトを補正する波長シフト補正システムおよび波長シフト補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分光計は、被測定光のスペクトルを測定するため、分光計の使用の際には、例えば経年変化等によって生じた波長シフトの補正が重要である。この波長シフト補正に関する技術は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
この特許文献1に開示された波長シフト補正システムは、既知の輝線波長の輝線を出力する波長シフト補正用光源と、入射される光を波長に応じて分散した光を受光し、受光した各波長成分の光強度に応じた電気信号を出力する光電変換素子が配列されてなる受光部を備え、前記波長シフト補正用光源の輝線出力を測定する被波長シフト補正分光輝度計と、前記被波長シフト補正分光輝度計が前記波長シフト補正用光源の輝線出力を測定した場合に、前記輝線波長に隣接する複数の測定波長における前記受光部の相対出力から前記輝線出力の波長を推定し、推定した前記輝線出力の波長と前記既知の輝線波長との差から波長変化量を推定して前記被波長シフト補正分光輝度計を波長シフト補正する波長シフト補正部とを備える。
【0004】
ところで、通常、光電変換素子の出力は、増幅回路で増幅され、アナログデジタル変換回路でデジタル信号に変換されてから、例えばCPUやDSP等の信号処理回路で、波長シフト補正のために信号処理されるが、前記信号処理回路より前段の諸回路の一部または全部で温度特性があると、例えば製造時や出荷前の校正(初期校正)の際における温度と波長シフト補正の際における温度とが異なる場合、前記温度特性のために、波長シフト補正の際に求められる波長に誤差が生じてしまい、波長シフト補正の精度が劣化してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、例えば製造時や出荷前の校正の際における温度と波長シフト補正の際における温度とが異なる場合でも、波長シフト補正の精度の劣化を低減できる波長シフト補正システムおよび波長シフト補正方法を提供することである。
【0007】
上述した目的を実現するために、本発明の一側面を反映した波長シフト補正システムおよび波長シフト補正方法は、波長シフト補正用輝線光を放射する波長シフト補正用光源と、入射光を波長に応じて分散させて分光した各分散分光光を複数の光電変換素子で受光してその各光強度に応じた各電気信号を出力する分光部、および、分光部の温度を測定する温度測定部を備える分光計とを備え、波長シフト補正用輝線光を入射光として分光計で測定した場合に、波長シフト補正用輝線光を受光する複数の特定光電変換素子から出力される各電気信号および温度測定部で測定された温度に基づいて、波長シフト補正用輝線光に対応する波長シフト補正時輝線波長を求め、これと波長シフト補正用輝線光の予め既知な輝線波長との差から波長変化量を求めて前記分光計を波長シフト補正する。
【0008】
発明の1または複数の実施形態により与えられる利点および特徴は、以下に与えられる詳細な説明および添付図面から十分に理解される。これら詳細な説明及び添付図面は、例としてのみ与えられるものであり本発明の限定の定義として意図されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態における、波長シフト補正システムを組み込んだ分光計の光学的な構成を示す概略構成図である。
【
図2】前記分光計の電気的な構成を示すブロック図である。
【
図3】前記分光計における前処理部の構成を示す回路図である。
【
図4】前記分光計における受光部の分光感度の一例を示す図である。
【
図5】前記受光部の分光感度と輝線光源から放射される波長シフト補正用輝線光との関係を説明するための図である。
【
図6】温度と波長推定結果との関係を説明するための図である。
【
図7】前記分光計におけるゲイン比の求め方を説明するための図である。
【
図8】温度が2871Kである場合におけるハロゲンランプの分光放射輝度を示す図である。
【
図9】前記分光部における、第1出力比(基準出力比)に対する第2出力比と波長との温度対応関係の求め方を説明するための図である。
【
図10】前記分光計に記憶される第1テーブルを示す図である。
【
図11】前記分光計に記憶される第2テーブルを示す図である。
【
図12】前記波長シフト補正システムおよび前記分光計の変形形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の1または複数の実施形態が説明される。しかしながら、発明の範囲は、開示された実施形態に限定されない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0011】
実施形態における波長シフト補正システムは、例えば工場等で製造時や出荷前に校正(初期校正)された分光計を使用した後に、前記分光計を波長シフト補正するシステムである。このような波長シフト補正システムは、波長シフト補正用輝線光を放射する波長シフト補正用光源と、入射光を波長に応じて分散させて分光した各分散分光光を、分散方向に配列された複数の光電変換素子で受光して前記各分散分光光の各光強度に応じた各電気信号を出力する分光部と、前記分光部の温度を測定する温度測定部とを備える被波長シフト補正分光計としての分光計と、前記波長シフト補正用輝線光を前記入射光として前記被波長シフト補正分光計で測定した場合に、前記複数の光電変換素子のうち、前記波長シフト補正用輝線光を受光する複数の特定光電変換素子から出力される各電気信号、および、前記温度測定部で測定された温度に基づいて、前記波長シフト補正用輝線光に対応する波長シフト補正時輝線波長を求め、前記求めた波長シフト補正時輝線波長と前記波長シフト補正用輝線光の予め既知な輝線波長との差から波長変化量を求める波長シフト補正部とを備える。このような波長シフト補正システムにおいて、前記波長シフト補正用光源は、前記被波長シフト補正分光計としての分光計と別体であって良く、あるいは、前記分光計と一体であって良い。以下では、まず、前記波長シフト補正用光源は、前記被波長シフト補正分光計としての分光計に内蔵され、前記分光計と一体である場合について説明し、次に、前記分光計と別体である場合について説明する。そして、以下では、前記分光計が前記波長シフト補正部を内蔵する実施形態について説明する。すなわち、以下の実施形態では、一例として、波長シフト補正システムは、被波長シフト補正分光計としての分光計に組み込まれている。
【0012】
図1は、実施形態における、波長シフト補正システムを組み込んだ分光計の光学的な構成を示す概略構成図である。
図1Aは、分光計の光学的な構成を側面から見た模式図であり、
図1Aは、前記分光計の受光部を上面から見た模式図である。
図2は、前記分光計の電気的な構成を示すブロック図である。
図3は、前記分光計における前処理部の構成を示す回路図である。
図3Aは、第1態様の前処理部を示し、
図3Bは、第2態様の前処理部を示す。
【0013】
実施形態における分光計Dは、使用段階で波長シフト補正する波長シフト補正システムを含み、前記波長シフト補正システムに対する被波長シフト補正分光計となる。この分光計Dは、例えば、
図1および
図2に示すように、輝線光源1と、測定用光源2と、積分球3と、導光部材4と、分光部5と、制御処理部6と、記憶部7と、入力部8と、出力部9と、インターフェース部(IF部)10と、図略の筐体とを備える。図略の前記筐体は、これら輝線光源1、測定用光源2、積分球3、導光部材4、分光部5、制御処理部6、記憶部7、入力部8、出力部9およびIF部10を収容する箱体である。
【0014】
輝線光源1は、制御処理部6に接続され、制御処理部6の制御に従って、輝線光を放射する装置である。輝線光源(波長シフト補正用光源)1は、本実施形態では、波長シフト補正に用いられる。輝線光源1は、例えば、輝線光を放射する第1光源および前記第1光源を駆動して発光させる第1発光回路(第1駆動回路)等を備えて構成される。
【0015】
輝線光源1は、輝線光を放射する光源であれば、任意の光源を利用できる。輝線光源1に利用される第1光源は、例えばHgCdランプ等のように、分光部5における後述の受光部53における1個の光電変換素子で複数の輝線光を受光しない程度に、波長的に独立している輝線光を放射する光源であることが好ましいが、例えばネオンランプ(Neランプ)等のように、受光部53における1個の光電変換素子で複数の輝線光を受光する程度に、輝線間隔の狭い複数の輝線光を放射する光源であっても良い。このような輝線間隔の狭い複数の輝線光を放射する光源が第1光源に用いられる場合には、輝線光源1は、複数の輝線の中から前記波長シフト補正用輝線光を透過するバンドパスフィルタをさらに備えて構成される。一例では、輝線光源1は、ネオンランプと、前記ネオンランプを駆動して発光させる第1発光回路(第1駆動回路)と、前記ネオンランプから放射される複数の輝線光の中から前記波長シフト補正用輝線光を透過するバンドパスフィルタとを備えて構成される。ネオンランプは、それ自体が安価で小型であり、その第1発光回路(第1駆動回路)も簡易に構成できることから、低コスト化を図ることができる。また、HgCdランプが用いられる場合でも、前記HgCdランプから放射される複数の輝線光の中から前記波長シフト補正用輝線光を透過するバンドパスフィルタがさらに用いられても良い。
【0016】
輝線光源1は、波長シフト補正用輝線光を放射する発光面が積分球3の内部に臨むように、積分球3に配設され、輝線光源1から放射された波長シフト補正用輝線光は、積分球3内に放射される。
【0017】
本実施形態では、輝線光源1に利用される第1光源は、Neランプである。
【0018】
測定用光源2は、制御処理部6に接続され、制御処理部6の制御に従って、測定の際に用いられる、白色の測定用光を放射する装置である。測定用光源2は、例えば、白色光を放射する第2光源および前記第2光源を駆動して発光させる第2発光回路(第2駆動回路)等を備えて構成される。測定用光源2には、例えば、キセノンランプ(Xeランプ)等が用いられる。測定用光源2は、測定用光を放射する発光面が積分球3の内部に臨むように、積分球3に配設され、測定用光源2から放射された測定用光は、積分球3内に放射される。
【0019】
積分球3は、拡散反射する拡散反射面を持つ部材であり、より詳しくは、拡散反射率の高い材で内面を覆った中空の球体である。拡散反射率の高い前記材は、例えば、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、酸化亜鉛等である。拡散反射率の高い材を含む塗布剤が球体内面に塗布され、拡散反射面が形成される。積分球3には、例えば円形状の測定開口が貫通形成され、前記測定開口における開口面の法線方向の位置に、例えば円形状の第1受光開口が貫通形成され、所定の位置に、例えば円形状の第2受光開口が貫通形成される。測色の際には、前記測定開口に被測定物SPが当てられ、前記測定開口に被測定物SPが臨む。
【0020】
導光部材4は、積分球3から所定の光を分光部5に導光する部材であり、例えば、光ファイバを備えて構成される。本実施形態では、導光部材4は、積分球3から前記所定の光の1つとして被測定物SPで反射した反射光を分光部5に導光する第1光ファイバ4-1と、積分球3から前記所定の光の他の1つとして参照光を分光部5に導光する第2光ファイバ4-2とを備える。第1光ファイバ4-1の一方端は、積分球3の前記第1受光開口に接続され、その他方端は、分光部5における後述の入射スリット開口へ前記反射光が入射するように、分光部5に接続される。第2光ファイバ4-2の一方端は、積分球3の前記第2受光開口に接続され、その他方端は、分光部5における後述の入射スリット開口へ前記参照光が入射するように、分光部5に接続される。
【0021】
このような構成では、測定では、上述したように、積分球3の前記測定開口に被測定物SPが当てられ、制御処理部6の制御によって測定用光源2から測定用光が放射される。この測定用光源2から放射された測定用光は、積分球3の内面で拡散反射され、この拡散反射された測定用光の一部は、積分球3の前記第2受光開口を介して第2光ファイバ4-2で導光され、前記参照光として分光部5に入射され、前記拡散反射された測定用光の他の一部は、積分球3の前記測定開口に臨む被測定物SPを照明する。被測定物SPで反射した測定用光の反射光は、積分球3の前記第1受光開口を介して第1光ファイバ4-1で導光され、分光部5に入射される。ここで、測定用光源2から放射された測定用光が前記第1および第2受光開口それぞれに直接的に到達しないように(直達しないように)、積分球3内には、積分球3内に臨む測定用光源2と前記第1受光開口との間に、第2バッフル31-2が設けられている。一方、波長シフト補正では、積分球3の前記測定開口に白色板が当てられ、制御処理部6の制御によって輝線光源1から波長シフト補正用輝線光が放射される。この輝線光源1から放射された波長シフト補正用輝線光は、積分球3の内面で拡散反射され、この拡散反射された波長シフト補正用輝線光の一部は、積分球3の前記第1受光開口を介して第1光ファイバ4-1で導光され、分光部5に入射され、前記拡散反射された波長シフト補正用輝線光の他の一部は、同様に、積分球3の前記第2受光開口を介して第2光ファイバ4-2で導光され、前記参照光として分光部5に入射される。ここで、輝線光源1から放射された波長シフト補正用輝線光が前記第1および第2受光開口それぞれに直接的に到達しないように(直達しないように)、積分球3内には、積分球3内に臨む輝線光源1と前記第2受光開口との間に、第1バッフル31-1が設けられている。なお、波長シフト補正では、第1および第2光ファイバ4-1、4-2のうちのいずれか一方で導光される、前記拡散反射された波長シフト補正用輝線光が用いられて良い。
【0022】
分光部5は、制御処理部6に接続され、制御処理部6の制御に従って、入射光を波長に応じて分散させて分光した各分散分光光を、分散方向に配列された複数の光電変換素子で受光して前記各分散分光光の各光強度に応じた各電気信号を出力する装置である。そして、本実施形態では、分光部5は、当該分光部5の温度を測定し、出力する。より具体的には、分光部5は、例えば、入射スリット板51と、反射型凹面回折格子52と、受光部53と、前処理部54と、温度測定部55とを備える。
【0023】
入射スリット板51は、貫通開口である入射スリット開口を形成した板状部材である。前記入射スリット開口は、一方向に長尺であって、前記一方向に直交する他方向に短幅である矩形形状(スリット状)を呈している。前記入射光は、前記入射スリット開口から分光部5に入射され、スリット状で反射型凹面回折格子52に入射される。
【0024】
反射型凹面回折格子52は、前記入射スリット開口からスリット状で入射した入射光を、回折によって、波長に応じて分散させて分光する光学素子である。反射型凹面回折格子52で波長に応じて分散されて分光された各分散分光光は、当該反射型凹面回折格子52で反射され、受光部53に入射される。
【0025】
受光部53は、制御処理部6に接続され、分散方向に配列された、前記各分散分光光に応じた複数の光電変換素子531を備え、制御処理部6の制御に従って、前記各分散分光光それぞれを、前記複数の光電変換素子531それぞれで光電変換する回路である。受光部53における前記複数の光電変換素子531それぞれは、前処理部54に接続され、受光部53における前記複数の光電変換素子531それぞれの各出力は、前処理部54に入力される。前記複数の光電変換素子531は、それぞれ、例えばシリコンホトダイオード(SPD)を備えて構成され、受光部53は、SPDのリニアアレイセンサを備えて構成される。そして、本実施形態では、上述したように、分光部5には、反射光(波長シフト補正用輝線光)および参照光が入射されるので、これら反射光(波長シフト補正用輝線光)および参照光に応じて、受光部53は、
図1Bに示すように、前記反射光(波長シフト補正用輝線光)の各分散分光光を受光する複数の光電変換素子531を備える第1サブ受光部531-1と、前記参照光の各分散分光光を受光する複数の光電変換素子531を備える第2サブ受光部531-2とを備える。これら第1および第2サブ受光部531-1、531-2は、前記分散方向に直交する直交方向に2列で並置される。
【0026】
前処理部54は、受光部53に接続され、受光部53の各光電変換素子531それぞれの各出力に基づいて前記各分散分光光の各光強度に応じた各電気信号を出力する回路である。前処理部54は、制御処理部6に接続され、前記各分散分光光の各光強度に応じた各電気信号を制御処理部6へ出力する。このような前処理部54は、例えば、受光部53における複数の光電変換素子531それぞれに対応して設けられた第1態様の電荷蓄積型回路54aを備えて構成される。また例えば、前処理部54は、受光部53における複数の光電変換素子531それぞれに対応して設けられた第2態様のIV変換型回路54bを備えて構成される。
【0027】
この電荷蓄積型回路54aは、例えば、
図3Aに示すように、第1および第2スイッチ541a、542aと、コンデンサ543aと、オペアンプ544aと、アナログデジタル変換回路(A/D変換回路)545aとを備える。第1スイッチ541aの一方端は、光電変換素子531の一方端(アノード端子)に接続され、第1スイッチ541aの他方端は、オペアンプ544aの反転入力端子(-)に接続される。光電変換素子531の他方端(カソード端子)は、接地される。オペアンプ544aの反転入力端子(-)と出力端子との間には、第2スイッチ542aとコンデンサ543aとが並列で接続される。オペアンプ544aの非反転入力端子(+)は、接地され、オペアンプ544aの出力端子には、A/D変換回路545aの入力端が接続される。A/D変換回路545aの出力端は、制御処理部6に接続される。このような電荷蓄積型回路54aにおいて、測定や波長シフト補正では、第1スイッチ541aがオンされ、第2スイッチ542aがオフされることによって、光電変換素子531で光電変換されて生じた電荷は、コンデンサ543aに蓄積され、オペアンプ544aから出力電圧V=(1/C)×∫i(t)dtがA/D変換回路545aに出力され、A/D変換回路545aでアナログ信号からデジタル信号に変換され、制御処理部6へ出力される。ここで、Cは、コンデンサ543aの静電容量であり、積分∫は、電荷蓄積時間で積分される。デジタル信号の出力電圧Vは、分散分光光の光強度に応じた電気信号の一例に相当する。1回の出力が終了すると、第1スイッチ541aがオフされ、第2スイッチ542aがオンされることによって、コンデンサ543aに蓄積された電荷が放電され、コンデンサ543aがリセットされる。
図3Aには、1個の電荷蓄積型回路54aが図示されており、
図3Aに示す電荷蓄積型回路54aが受光部53における複数の光電変換素子531それぞれに設けられる。
【0028】
一方、IV変換型回路54bは、例えば、
図3Bに示すように、抵抗素子541bと、オペアンプ542bと、アナログデジタル変換回路(A/D変換回路)543baとを備える。オペアンプ542bの反転入力端子(-)には、光電変換素子531の一方端(アノード端子)に接続される。光電変換素子531の他方端(カソード端子)は、接地される。オペアンプ542bの反転入力端子(-)と出力端子との間には、抵抗素子541bが接続される。オペアンプ542bの非反転入力端子(+)は、接地され、オペアンプ542bの出力端子には、A/D変換回路543bの入力端が接続される。A/D変換回路543bの出力端は、制御処理部6に接続される。このようなIV変換型回路54bでは、光電変換素子531で光電変換されて生じた電荷は、電流iとして抵抗素子541bに流れ、オペアンプ542bから出力電圧V=i×RがA/D変換回路543bに出力され、A/D変換回路543bでアナログ信号からデジタル信号に変換され、制御処理部6へ出力される。ここで、Rは、抵抗素子541bの抵抗値である。デジタル信号の出力電圧Vは、分散分光光の光強度に応じた電気信号の他の一例に相当する。
図3Bには、1個のIV変換型回路54bが図示されており、
図3Bに示すIV変換型回路54bが受光部53における複数の光電変換素子531それぞれに設けられる。
【0029】
温度測定部55は、受光部53に、あるいは、前処理部54に、あるいは、受光部53および前処理部54の周辺(近傍)に、配設され、制御処理部6に接続され、分光部5の温度を測定する装置であり、その測定した温度を制御処理部6へ出力する。温度測定部55は、例えば、サーミスタや温度センサIC等を備えて構成される。
【0030】
入力部8は、制御処理部6に接続され、例えば、波長シフト補正の開始を指示するコマンドや測定の開始を指示するコマンド等の各種コマンド、および、例えば、被測定物SPの名称等の前記波長シフト補正や測定を行う上で必要な各種データを分光計Dに入力する装置であり、例えば、所定の機能を割り付けられた複数の入力スイッチ等である。出力部9は、制御処理部6に接続され、制御処理部6の制御に従って、入力部8から入力されたコマンドやデータ、および、当該分光計Dによって測定された測定結果等を出力する装置であり、例えばCRTディスプレイ、LCD(液晶表示装置)および有機ELディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。
【0031】
なお、入力部8および出力部9からタッチパネルが構成されてもよい。このタッチパネルを構成する場合において、入力部8は、例えば抵抗膜方式や静電容量方式等の操作位置を検出して入力する位置入力装置であり、出力部9は、表示装置である。このタッチパネルでは、表示装置の表示面上に位置入力装置が設けられ、表示装置に入力可能な1または複数の入力内容の候補が表示され、ユーザが、入力したい入力内容を表示した表示位置を触れると、位置入力装置によってその位置が検出され、検出された位置に表示された表示内容がユーザの操作入力内容として分光計Dに入力される。このようなタッチパネルでは、ユーザは、入力操作を直感的に理解し易いので、ユーザにとって取り扱い易い分光計Dが提供される。
【0032】
IF部10は、制御処理部6に接続され、制御処理部6の制御に従って、外部機器との間でデータの入出力を行う回路であり、例えば、シリアル通信方式であるRS-232Cのインターフェース回路、Bluetooth(登録商標)規格を用いたインターフェース回路、IrDA(Infrared Data Asscoiation)規格等の赤外線通信を行うインターフェース回路、および、USB(Universal Serial Bus)規格を用いたインターフェース回路等である。また、IF部10は、外部機器との間で通信を行う回路であり、例えば、データ通信カードや、IEEE802.11規格等に従った通信インターフェース回路等であっても良い。
【0033】
記憶部7は、制御処理部6に接続され、制御処理部6の制御に従って、各種の所定のプログラムおよび各種の所定のデータを記憶する回路である。前記各種の所定のプログラムには、例えば、分光計Dの各部1、2、5、7~10を制御する制御プログラムや、輝線光源1から波長シフト補正用光を放射した場合に得られる分光部5の出力に基づいて波長変化量を求める波長シフト補正プログラムや、測定用光源2から測定用光を放射した場合に得られる分光部5の出力に基づいて例えば分光反射率、分光透過率および分光放射輝度等の分光光学特性を求める分光光学特性演算プログラム等の制御処理プログラムが含まれる。前記各種の所定のデータには、被測定物SPの名称や、機器上波長シフトした輝線光の波長を求めるために用いられる第1および第2テーブル情報等の、これら各プログラムを実行する上で必要なデータが含まれる。このような記憶部7は、例えば不揮発性の記憶素子であるROM(Read Only Memory)や書き換え可能な不揮発性の記憶素子であるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等を備える。記憶部7は、前記所定のプログラムの実行中に生じるデータ等を記憶するいわゆる制御処理部6のワーキングメモリとなるRAM(Random Access Memory)等を含む。そして、記憶部7は、前記第1および第2テーブル情報を記憶する第1および第2テーブル情報記憶部71、72を機能的に備える。
【0034】
第1テーブル情報は、テーブル形式で、所定の初期校正時に基準温度としての第1温度で求められた前記複数の特定光電変換素子531に対応する分光部5のゲイン比に前記複数の特定光電変換素子531の分光感度比を乗算した乗算結果である感度ゲイン積の比と、波長との波長対応関係を、前記波長シフト補正用輝線光の輝線波長を含む所定の波長範囲において、所定の波長間隔で各波長ごとに表した情報である。その一例が後述の
図10に示されている。
【0035】
第2テーブル情報は、テーブル形式で、前記初期校正時に前記基準温度で前記波長シフト補正用輝線光を前記入射光として前記被波長シフト補正分光計としての分光計Dで測定した場合に、前記複数の特定光電変換素子531から出力される各電気信号に基づく基準比としての所定の第1出力比に対する、第2温度で前記波長シフト補正用輝線光を前記入射光として前記被波長シフト補正分光計で測定した場合に、前記複数の特定光電変換素子531から出力される各電気信号に基づく所定の第2出力比の比と、第2温度との温度対応関係を、前記基準温度を含む所定の温度範囲において、所定の温度間隔で各温度ごとに表した情報である。その一例が後述の
図11に示されている。これら第1および第2テーブル情報について、より詳しくは、後述する。
【0036】
制御処理部6は、分光計Dの各部1、2、5、7~10を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、波長変化量を求め、被測定物SPの分光光学特性を求めるための回路である。制御処理部6は、例えば、CPU(Central Processing Unit)およびその周辺回路を備えて構成される。制御処理部6は、制御処理プログラムが実行されることによって、制御部61、波長シフト補正部62および分光光学特性演算部63を機能的に備える。
【0037】
制御部61は、分光計Dの各部1、2、5、7~10を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、分光計Dの全体制御を司るものである。
【0038】
波長シフト補正部62は、輝線光源1から波長シフト補正用光を放射した場合に得られる分光部5の出力に基づいて波長変化量を求めるものである。より具体的には、波長シフト補正部62は、波長シフト補正用輝線光を入射光として被波長シフト補正分光計としての分光計Dで測定した場合に、複数の光電変換素子531のうち、前記波長シフト補正用輝線光を受光する複数の特定光電変換素子531から出力される各電気信号、および、温度測定部55で測定された温度に基づいて、前記波長シフト補正用輝線光に対応する波長シフト補正時輝線波長Λ1を求め、この求めた波長シフト補正時輝線波長Λ1と前記波長シフト補正用輝線光の予め既知な輝線波長Λ0との差から波長変化量δΛを求める。本実施形態では、波長シフト補正部62は、第2テーブル情報記憶部72に記憶された第2テーブルから、温度測定部55で測定された温度に対応する第1出力比に対する第2出力比の比を求め、第1テーブル情報記憶部71に記憶された第1テーブルから、前記求めた前記第1出力比に対する第2出力比の比、および、前記波長シフト補正用輝線光を前記入射光として前記被波長シフト補正分光計としての分光計Dで測定した場合に前記複数の特定光電変換素子531から出力される各電気信号、に対応する前記波長シフト補正時輝線波長Λ1を求める。そして、本実施形態では、波長シフト補正部62は、この求めた波長変化量δAに基づいて分光計Dを波長シフト補正する。あるいは、波長シフト補正部62は、この求めた波長変化量δAに基づいて波長シフト補正が必要である旨を警告する。波長シフト補正について、より詳しくは、後述する。
【0039】
分光光学特性演算部63は、分光部5から出力された、前記各分散分光光の各光強度に応じた各電気信号に基づいて、公知の演算方法により、例えば分光反射率、分光透過率および分光放射輝度等の所定の分光光学特性を求めるものである。分光光学特性演算部63は、この求めた分光光学特性を出力部9に出力し、必要に応じて、IF部10に出力する。
【0040】
次に、波長シフト補正について説明する。
図4は、前記分光計における受光部の分光感度の一例を示す図である。
図4の横軸は、nm(ナノメートル)単位で表す波長であり、その縦軸は、感度(分光感度)である。
図5は、前記受光部の分光感度と輝線光源から放射される波長シフト補正用輝線光との関係を説明するための図である。
図5の横軸は、nm単位で表す波長であり、その縦軸は、前記分光感度に対し感度(分光感度)であり、前記輝線光に対し光強度である。
図6は、温度と波長推定結果との関係を説明するための図である。
図6Aは、経過時間と温度変化との関係を示し、その横軸は、時刻(経過時間)であり、その縦軸は、℃単位で表した温度である。
図6Bは、
図6Aに示すように温度変化した場合における輝線波長の計算結果を示し、その横軸は、時刻(経過時間)であり、その縦軸は、nm単位で表した波長である。
図6Cは、
図6Aに示す前記関係および
図6Bに示す前記計算結果から求めた、温度と輝線波長の計算結果(波長推定結果)との関係を示し、その横軸は、℃単位で表した温度であり、その縦軸は、nm単位で表した波長である。
図7は、前記分光計におけるゲイン比の求め方を説明するための図である。
図8は、温度が2871Kである場合におけるハロゲンランプの分光放射輝度を示す図である。
図8の横軸は、nm単位で表す波長であり、その縦軸は、エネルギーである。
図9は、前記分光部における、第1出力比(基準出力比)に対する第2出力比と波長との温度対応関係の求め方を説明するための図である。
図9Aは、一様な波長シフト補正用輝線光を生成するために拡散板を用いる場合を示し、
図9Bは、一様な波長シフト補正用輝線光を生成するために積分球を用いる場合を示す。
図10は、前記分光計に記憶される第1テーブルを示す図である。
図11は、前記分光計に記憶される第2テーブルを示す図である。
【0041】
このような構成の分光計Dでは、単に組み立てが完了しただけでは、スペクトルが正しく測定できず、例えば製造時や出荷前に工場等において、受光部53における複数の光電変換素子531それぞれに波長(中心波長)を割り当て、複数の光電変換素子531それぞれから出力される信号レベルを調整する必要がある。このような初期の校正方法は、例えば、特開2017-032293号公報等に開示されている。
【0042】
この特開2017-032293号公報に開示された校正方法では、分光装置1000の個体である複数の第1の個体の各々の1次校正が行われる。1次校正においては、輝線成分を含む1次校正用の被測定光1020が第1の個体に測定される。複数の第1の個体の各々により、2次校正用の被測定光1020が測定され、分光特性が出力される。出力された複数の分光特性が平均され、平均分光特性が求められる。分光装置1000の個体である第2の個体の2次校正が行われる。2次校正においては、第2の個体により、2次校正用の被測定光1020が測定され、出力される分光特性が平均分光特性に近づけられる。1次校正および2次校正の各々においては、センサー1031の分光感度を決定する校正パラメーターが調整される。なお、この当段落において、各構成に付された符号は、特開2017-032293号公報で付された符号である。
【0043】
このような校正が実行されると、受光部53における複数の光電変換素子531の中から1つの光電変換素子531に注目すると、この注目した光電変換素子531に割り当てられた波長(中心波長)から、前記注目した光電変換素子531で受光された光の波長が分かり、前記注目した光電変換素子531から出力される信号から、前記注目した光電変換素子531で受光された光の光強度が分かる。したがって、受光部53における複数の光電変換素子531それぞれから出力される各信号に基づいて各波長とそれらの各光強度、すなわち、スペクトルが測定できる。
【0044】
ここで、このような初期の校正が実施された後、分光計Dが使用され、時間が経過すると、例えば、経年変化等により、受光部53における複数の光電変換素子531それぞれに、初期の校正で割り当てた波長(中心波長)から、ズレ(波長シフト)が生じてしまう。このため、前記初期の校正が実施された後、必要に応じて、分光計Dを波長シフト補正する必要がある。
【0045】
そこで、1個の輝線光が受光部53における複数の光電変換素子(特定光電変換素子)531で受光される場合に、これら複数の光電変換素子531から出力される各出力の出力比に基づいて、分光計Dが波長シフト補正される。例えば、分光部5における受光部53が例えば
図4に示す分光感度を持つ場合、輝線波長の波長シフト補正用輝線光は、
図5に示すように、受光部53における2個の特定光電変換素子531で受光される。前記経年変化等によって前記波長シフトが生じると、これら2個の特定光電変換素子531における出力比も前記波長シフトの量(波長シフト量、波長変化量)に応じて変化することになる。このため、これら2個の特定光電変換素子531における出力比と波長との対応関係を、輝線波長を含む所定の波長範囲で所定の波長間隔ごとに表したテーブルを予め作成しておくことによって、波長シフト補正の際のこれら2個の特定光電変換素子531における出力比から、波長シフト補正の際の輝線波長が求められ、波長シフト量が求められる。
【0046】
より具体的には、まず、波長シフト補正の信号処理を行う制御処理部6より前段の諸回路の一部または全部で温度特性が無いと仮定した場合を考える。受光部53における複数の光電変換素子531それぞれが、「チャンネル」と呼称され、相対的に短波長の光を受光する光電変換素子531から、相対的に長波長の光を受光する光電変換素子531へ、順次に、チャンネル番号iが割り当てられる。
図4に示す例では、受光部53における複数の光電変換素子531は、40個であり、この場合、チャンネル番号iは、1から40までの整数値となる。チャンネル番号iのチャンネル(光電変換素子531)が、Ch(i)で表され、チャンネルCh(i)の分光感度が、Res(Ch(i)、λ)で表され(λは波長)、チャンネルCh(i)の出力を前処理する前処理部54のゲイン(
図3Aに示す電荷蓄積型回路54aのゲイン、あるいは、
図3Bに示すIV変換型回路54bにおけるゲイン)が、G(Ch(i))で表され、分光部5から出力されるチャンネルCh(i)の電気信号(
図3Aに示す電荷蓄積型回路54aのA/D変換回路545aから出力されるデジタル信号、あるいは、
図3Bに示すIV変換型回路54bのA/D変換回路543bから出力されるデジタル信号)が、Count(Ch(i))で表される。波長シフト補正用輝線光の輝線波長がλ
0で表され、その光強度がAで表される。このような場合において、チャンネルCh(i)の電気信号Count
0(Ch(i))は、次式(1)で表され、これに直接的に隣接するチャンネルCh(i+1)の電気信号Count
0(Ch(i+1))は、次式(2)で表され、これらチャンネルCh(i)の電気信号Count
0(Ch(i))に対するチャンネルCh(i+1)の電気信号Count
0(Ch(i+1))の出力比(=Count
0(Ch(i+1))/Count
0(Ch(i)))は、次式(3)で表される。
【0047】
【0048】
この式(3)におけるゲイン比G(Ch(i+1))/G(Ch(i))は、例えばハロゲンランプ等の分光放射輝度LHalogen(λ)が既知な白色光源を用いることによって求めることができる。すなわち、ハロゲンランプを測定した場合において、チャンネルCh(i)の電気信号Count1(Ch(i))は、次式(4)で表され、チャンネルCh(i+1)の電気信号Count1(Ch(i+1))は、次式(5)で表される。これらより、前記式(3)におけるゲイン比G(Ch(i+1))/G(Ch(i))は、次式(6)で表される。
【0049】
【0050】
したがって、式(3)を利用することによって、波長シフト補正するためには、まず、例えば製造時や出荷前等で工場等において、分光部5の分光感度Res(Ch(i)、λ)がモノクロメータを用いて測定される。続いて、
図7に示すように、被波長シフト補正分光計としての分光計3で、分光放射輝度L
Halogen(λ)が既知なハロゲンランプHLが測定される。これによってチャンネルCh(i)の電気信号Count
1(Ch(i))およびチャンネルCh(i+1)の電気信号Count
1(Ch(i+1))が実測され、式(6)を用いることによって、ゲイン比G(Ch(i+1))/G(Ch(i))が求められる。なお、ハロゲンランプHLの分光放射輝度L
Halogen(λ)が
図8に示されている。分光部5の分光感度Res(Ch(i)、λ)およびゲイン比G(Ch(i+1))/G(Ch(i))が求められたら、出力比Count
0(Ch(i+1))/Count
0(Ch(i))と、波長との対応関係を、波長シフト補正用輝線光の輝線波長λ
0を含む所定の波長範囲において、所定の波長間隔(例えば1nm間隔等)で各波長ごとに表したテーブルが作成され、記憶部7に記憶しておく。このテーブルを参照することにより、輝線光源1から波長シフト補正用輝線光が放射された場合における、出力比Count
0(Ch(i+1))/Count
0(Ch(i))から、式(3)が成り立つ波長シフト補正用輝線光の輝線波長Λが求められる。
【0051】
初期波長測定の際の出力比Count0(Ch(i+1))/Count0(Ch(i))から前記テーブルを参照することによって求められた輝線波長、あるいは、波長シフト補正用輝線光に固有な輝線波長λ0を、波長シフト補正用輝線光の予め既知な輝線波長Λ0とし、波長シフト補正の際の出力比Count0(Ch(i+1))/Count0(Ch(i))から前記テーブルを参照することによって求められた輝線波長を、波長シフト補正用輝線光に対応する波長シフト補正時輝線波長Λ1とすれば、その差から波長変化量(波長シフト量)δΛ(=Λ1-Λ0)が求められ、各チャンネルCh(i)の分光感度Res(Ch(i)、λ)の波長を一律に波長変化量δΛだけ補正することによって、波長シフト補正が実施される。
【0052】
ところで、上述では、前記温度特性が無いと仮定したが、波長シフト補正の信号処理を行う制御処理部6より前段の諸回路には、例えば光電変換素子531やコンデンサ543aや抵抗素子541b等の、温度特性を持つ素子を有しているから、波長シフト補正の信号処理を行う制御処理部6より前段の諸回路の一部または全部で温度特性が有る。一実験例では、分光計Dが恒温槽内に収容され、周期的に温度変化を受光部53および前処理部54に与えると、受光部53および前処理部54は、
図6Aに示すように、温度が変化する。この場合において、上述の手法によって、波長シフト補正用輝線光に対応する波長シフト補正時輝線波長Λ1を求めると、
図6Bに示すように、波長シフト補正用輝線光に対応する波長シフト補正時輝線波長Λ1は、
図6Aに示す温度変化と同様に変化してしまい、
図6Cに示すように、温度変化に伴って波長シフト補正用輝線光に対応する波長シフト補正時輝線波長Λ1は、変化してしまう。このため、波長シフト補正の信号処理を行う制御処理部6より前段の諸回路の一部または全部で温度特性が有る場合、初期校正時の温度と波長シフト補正時の温度が等しい場合には前記温度特性を無視できるものの、初期校正時の温度と波長シフト補正時の温度が等しく無い場合では、前記温度特性を補償する必要がある。
【0053】
そこで、本実施形態では、受光部53における光電変換素子531の出力の温度特性も前処理部54の出力の温度特性に含めると、すなわち、波長シフト補正の信号処理を行う制御処理部6より前段の諸回路の一部または全部での温度特性による変動をゲインGに含めると、上記式(3)は、次式(7)で表現できる。
【0054】
【数7】
ここで、Count
0(Ch(i)、Temp)は、温度TempでのチャンネルCh(i)の電気信号であり、Count
0(Ch(i+1)、Temp)は、温度TempでのチャンネルCh(i+1)の電気信号であり、G(Ch(i)、Temp)は、温度Tempでの、チャンネルCh(i)の出力を前処理する前処理部54のゲインであり、G(Ch(i+1)、Temp)は、温度Tempでの、チャンネルCh(i+1)の出力を前処理する前処理部54のゲインである。
【0055】
そこで、温度特性が考慮され、初期校正時の温度(基準温度)Temp0において、チャンネルCh(i)の電気信号Count2(Ch(i)、Temp0)は、次式(8)で表され、これに直接的に隣接するチャンネルCh(i+1)の電気信号Count2(Ch(i+1)、Temp0)は、次式(9)で表される。
【0056】
【0057】
一方、初期校正時の基準温度Temp0とは異なる温度Temp1において、チャンネルCh(i)の電気信号Count2(Ch(i)、Temp1)は、次式(10)で表され、これに直接的に隣接するチャンネルCh(i+1)の電気信号Count2(Ch(i+1)、Temp1)は、次式(11)で表される。
【0058】
【0059】
これら式(8)ないし式(11)から、波長シフト補正用輝線光の光強度Aと分光感度Res(Ch(i)、λ)、Res(Ch(i+1)、λ)を消去することによって、次式(12)が得られる。この式(12)におけるratio(Temp1)は、次式(13)で表され、これは、初期校正時に基準温度Temp0で波長シフト補正用輝線光を入射光として被波長シフト補正分光計としての分光計Dで測定した場合に、波長シフト補正用輝線光を受光する複数の特定光電変換素子(この式11、式12ではCh(i)、Ch(i+1))から出力される各電気信号(ここではCount2(Ch(i)、Temp0)、Count2(Ch(i+1)、Temp0))に基づく基準比としての所定の第1出力比(ここではCount2(Ch(i+1)、Temp0)/Count2(Ch(i)、Temp0))に対する、第2温度Temp1で前記波長シフト補正用輝線光を前記入射光として前記被波長シフト補正分光計としての分光計Dで測定した場合に、前記複数の特定光電変換素子から出力される各電気信号(ここではCount2(Ch(i)、Temp1)、Count2(Ch(i+1)、Temp1))に基づく所定の第2出力比(ここではCount2(Ch(i+1)、Temp1)/Count2(Ch(i)、Temp1))の比(ここでは(Count2(Ch(i+1)、Temp1)/Count2(Ch(i)、Temp1))/(Count2(Ch(i+1)、Temp0)/Count2(Ch(i)、Temp0))=(Count2(Ch(i+1)、Temp1)/Count2(Ch(i)、Temp1))×(Count2(Ch(i)、Temp0)/Count2(Ch(i+1)、Temp0))。
【0060】
これにより、上述の式(7)は、次式(14)のように変形される。
【0061】
【0062】
したがって、温度特性を考慮して波長シフト補正するためには、まず、例えば製造時や出荷前等で工場等において、初期校正として、分光部5の分光感度Res(Ch(i)、λ)がモノクロメータを用いて測定される。続いて、基準温度Temp
0において、
図7に示すように、被波長シフト補正分光計としての分光計3で、分光放射輝度L
Halogen(λ)が既知なハロゲンランプHLが測定される。これによって基準温度Temp
0でのチャンネルCh(i)の電気信号Count
1(Ch(i)、Temp
0)および基準温度Temp
0でのチャンネルCh(i+1)の電気信号Count
1(Ch(i+1)、Temp
0)が実測され、式(6)を用いることによって、基準温度Temp
0でのゲイン比G(Ch(i+1)、Temp
0)/G(Ch(i)、Temp
0)が求められる。
【0063】
次に、所定の温度間隔で温度Tempを変えながらratio(Temp)が求められる。これによって、前記所定の第1出力比に対する前記所定の第2出力比の比と、第2温度Tempとの温度対応関係を、基準温度Temp
0を含む所定の温度範囲において、所定の温度間隔(例えば5℃間隔や10℃間隔等)で各温度ごとに表した第2テーブルTTが、例えば
図11に示すように、作成され、この作成された第2テーブルTTを表す第2テーブル情報が第2テーブル情報記憶部72に記憶される。
【0064】
より具体的には、
図9Aおよび
図9Bに示すように、分光部5における受光部53、前処理部54および温度測定部55がその各出力が外部から読み取れるように、恒温槽内に収容される。輝線光源1からバンドパスフィルタBPFを介して波長シフト補正用輝線光が取り出され、この波長シフト補正用輝線光が、光ファイバFBで恒温槽内に導光され、光ファイバFBから、
図9Aに示すように拡散板DPに、あるいは、
図9Bに示すように積分球SBに入射され、これによって略一様に拡散した拡散光の波長シフト補正用輝線光が、受光部53に入射される。このような状態で、温度測定部55の出力を参照しながら、恒温槽で温度Tempを変えながら、チャンネルCh(i)、Ch(i+1)から出力される各電気信号Count
2(Ch(i)、Temp)、Count
2(Ch(i+1)、Temp)が読み出され、式13から温度Tempでのratio(Temp)が求められる。これによって前記所定の第1出力比に対する前記所定の第2出力比の比(=ratio(Temp)、カウント比の比)と、温度Tempとの温度対応関係が求められ、温度Tempを走査することで、第2テーブルが作成される。
【0065】
なお、上述では、
図9に示すように、受光部53、前処理部54および温度測定部55が恒温槽内に収容されたが、分光計D全体が恒温槽内に収容され、所定の温度間隔で温度Tempを変えながらratio(Temp)が求められても良い。
【0066】
次に、初期校正の基準温度Temp
0において、所定の波長間隔(例えば1nm間隔等)で波長λを変えながら出力比(カウント比)Count
0(Ch(i+1))/Count
0(Ch(i))が求められる。例えば、単色光を放射するモノクロメータが被波長シフト補正分光計としての分光計Dに用いられ、センサの各チャンネルの分光感度が求められる。またHalogenランプを用いてゲインGをもとめることができる。これらによって式(3)より、所定の初期校正時に基準温度としての第1温度Temp
0で求められた前記複数の特定光電変換素子531(Ch(i)、Ch(i+1))に対応する分光部5のゲイン比G(Ch(i+1)、Temp
0)/G(Ch(i)、Temp
0)に前記複数の特定光電変換素子531(Ch(i)、Ch(i+1))の分光感度比Res(Ch(i+1)、λ)/Res(Ch(i)、λ)を乗算した乗算結果である感度ゲイン積の比と、波長との波長対応関係を、前記波長シフト補正用輝線光の輝線波長λ
0を含む所定の波長範囲において、所定の波長間隔(例えば1nm間隔等)で各波長ごとに表した第1テーブルLTが、例えば
図10に示すように作成され、この作成された第1テーブルLTを表す第1テーブル情報を記憶する第1テーブル情報記憶部71に記憶される。
【0067】
そして、初期波長測定では、基準温度Temp0において、積分球3の前記測定開口に白色板が当てられ、制御処理部6の制御によって輝線光源1から波長シフト補正用輝線光が放射され、分光部5から出力される、チャンネルCh(i)の電気信号Count0(Ch(i+1))およびチャンネルCh(i+1)の電気信号Count0(Ch(i))が取得され、制御処理部6の波長シフト補正部62によって、第1テーブル情報記憶部71に記憶された第1テーブルLTから、これら取得された各電気信号の出力比(カウント比)Count0(Ch(i+1))/Count0(Ch(i))に対応する波長が求められ、波長シフト補正用輝線光の予め既知な輝線波長Λ0とされ、記憶部7に記憶される。
【0068】
一方、波長シフト補正では、積分球3の前記測定開口に白色板が当てられ、制御処理部6の制御によって輝線光源1から波長シフト補正用輝線光が放射され、分光部5から出力される、温度測定部55で測定された温度Tempが取得され、チャンネルCh(i)の電気信号Count0(Ch(i+1))およびチャンネルCh(i+1)の電気信号Count0(Ch(i))が取得される。続いて、制御処理部6の波長シフト補正部62によって、第2テーブル情報記憶部72に記憶された第2テーブルTTから、温度測定部55から取得された温度Tempに対応するratio(Temp)、すなわち、前記所定の第1出力比に対する前記所定の第2出力比の比が求められる。続いて、波長シフト補正部62によって、これら取得された各電気信号の出力比(カウント比)Count0(Ch(i+1))/Count0(Ch(i))が、この求めたratio(Temp)で除算される。続いて、波長シフト補正部62によって、第1テーブル情報記憶部71に記憶された第1テーブルLTから、この求めた除算結果(Count0(Ch(i+1))/Count0(Ch(i)))/ratio(Temp)に対応する波長が、波長シフト補正用輝線光に対応する波長シフト補正時輝線波長Λ1として求められる。そして、波長シフト補正部62によって、この求めた波長シフト補正時輝線波長Λ1と前記波長シフト補正用輝線光の予め既知な輝線波長Λ0との差から波長変化量(波長シフト量)δΛ(=Λ1-Λ0)が求められ、各チャンネルCh(i)の分光感度Res(Ch(i)、λ)の波長を一律に波長変化量δΛだけ補正することによって、波長シフト補正が実施される。
【0069】
なお、上述では、前記波長シフト補正用輝線光の予め既知な輝線波長Λ0は、初期波長測定で求められた、前記波長シフト補正用輝線光における初期波長測定時の輝線波長であるが、前記波長シフト補正用輝線光における固有な輝線波長そのものであっても良い。また、本実施形態では、波長演算テーブル情報は、1nmの波長間隔で前記対応関係を含むので、例えば線形補間等によって、例えばサブナノオーダーで前記波長シフト補正用輝線光の既知な輝線波長Λ0や前記波長シフト補正時輝線波長Λ1が求められて良い。
【0070】
そして、測定では、積分球3の前記測定開口に被測定物SPが当てられ、制御処理部6の制御によって測定用光源2から測定用光が放射される。制御処理部6の分光光学特性演算部63によって、分光部5から出力された、前記各分散分光光の各光強度に応じた各電気信号に基づいて、公知の演算方法により、例えば分光反射率等の所定の分光光学特性が求められる。この際に、上述のように、各チャンネルCh(i)の分光感度Res(Ch(i)、λ)の波長が一律に波長変化量δΛだけ補正される。
【0071】
このように本実施形態における分光計Dは、使用の際に、自動的に波長シフト補正され、分光光学特性を測定する。
【0072】
あるいは、分光計Dは、波長シフト補正部62によって、波長変化量δΛと予め適宜に設定された所定の閾値とを比較し、この比較の結果、波長変化量δΛが前記所定の閾値を超えている場合に、波長シフト補正が必要である旨の警告を出力部9から出力しても良い。これによれば、ユーザに波長シフト補正の必要性を認識させることができる。
【0073】
以上説明したように、本実施形態における、分光計Dに組み込まれた波長シフト補正システムおよび波長シフト補正方法は、分光部5の温度を温度測定部55で測定し、この測定した温度に基づいて波長シフト補正用輝線光に対応する波長シフト補正時輝線波長Λ1を求めるので、例えば製造時や出荷前の校正(初期校正)の際における温度Temp0と波長シフト補正の際における温度Tempとが異なる場合でも、波長シフト補正の精度の劣化を低減できる。
【0074】
前記波長シフト補正システムおよび波長シフト補正方法は、第1および第2テーブルTL、TTを予め第1および第2テーブル情報記憶部71、72に記憶しておくので、前記第1および第2テーブルTL、TTを用いることによって、容易に前記波長シフト補正時輝線波長Λ1を求めることができる。
【0075】
なお、上述の実施形態では、輝線光源1は、前記被波長シフト補正分光計としての分光計Dに内蔵されたが、輝線光源1は、前記被波長シフト補正分光計としての分光計Dと別体であっても良い。
【0076】
図12は、前記波長シフト補正システムおよび前記分光計の変形形態を示す図である。変形形態の波長シフト補正システムは、
図12に示すように、波長シフト補正用光源ユニットNLと、変形形態の分光計Daとを備える。この変形形態の分光計Daは、測定用光源2と、積分球3と、導光部材4と、分光部5と、制御処理部6と、記憶部7と、入力部8と、出力部9と、IF部10と、これらを収容する図略の筐体とを備える。これら変形形態の分光計Daにおける測定用光源2、積分球3、導光部材4、分光部5、制御処理部6、記憶部7、入力部8、出力部9、IF部10および図略の前記筐体は、それぞれ、上述の実施形態の分光計Dにおける測定用光源2、積分球3、導光部材4、分光部5、制御処理部6、記憶部7、入力部8、出力部9、IF部10および図略の前記筐体と同様であるので、その説明を省略する。
【0077】
そして、波長シフト補正用光源ユニットNLは、波長シフト補正用輝線光を放射する装置であり、上述の実施形態の分光計Dにおける輝線光源1と同様の装置を備えて構成される。例えば、波長シフト補正用光源ユニットNLは、HgCdランプと、前記HgCdランプを駆動して発光させる発光回路(駆動回路)等を備えて構成される。なお、波長シフト補正用光源ユニットNLは、Neランプから放射される複数の輝線の中から前記波長シフト補正用輝線光を透過するバンドパスフィルタをさらに備えても良い。
【0078】
このような変形形態の波長シフト補正システムでは、波長シフト補正では、波長シフト補正用光源ユニットNLが分光計Daにおける積分球3の測定開口に当てられ、Neランプが点灯され、以下、上述と同様に波長シフト補正が実施される。
【0079】
このような波長シフト補正システムおよび波長シフト補正方法は、波長シフト補正用光源ユニットNLが前記被波長シフト補正分光計としての分光計Daと別体であるので、分光計Daを小型化でき、また、波長シフト補正の際に必要に応じて波長シフト補正用光源ユニットNLを用意すればよく、常備する必要がない。
【0080】
また、上述の実施形態では、前記複数の特定光電変換素子は、互いに隣接して配列された2個の第1および第2光電変換素子Ch(i)、Ch(i+1)であったが、波長シフト補正用輝線光を複数の電変換素子で受光する限り、限定されない。例えば、前記波長シフト補正用輝線光を受光する複数の特定光電変換素子は、1または複数の光電変換素子を介して互いに隣接して配列された2個の第1および第2光電変換素子であって良い。また例えば、前記複数の特定光電変換素子は、3個以上であって良い。このような場合では、前記波長シフト補正用輝線光は、互いに輝線波長の異なる複数であり、波長シフト補正部62は、前記複数の波長シフト補正用輝線光それぞれに対応する複数の波長変化量を求め、これら求めた複数の波長変化量に基づいて例えば平均値や中央値等の代表値によって最終的に波長変化量を求めて前記被波長シフト補正分光計を波長シフト補正する。そして、第1テーブル情報記憶部71は、前記複数の波長シフト補正用輝線光それぞれに対応する複数のテーブルを予め記憶して良く、波長シフト補正部62は、前記複数の波長シフト補正用輝線光それぞれについて、第2テーブル情報記憶部72に記憶された第2テーブルTTから、温度測定部55で測定された温度Tempに対応する前記第1出力比に対する第2出力比の比を求め、第1テーブル情報記憶部71に記憶された第1テーブルLTから、この求めた前記第1出力比に対する第2出力比の比、および、当該波長シフト補正用輝線光を入射光として前記被波長シフト補正分光計としての分光計Dで測定した場合に、当該波長シフト補正用輝線光に対応する前記複数の特定光電変換素子から出力される各電気信号、に対応する波長シフト補正時輝線波長Λ1を求め、この求めた波長シフト補正時輝線波長Λ1と当該波長シフト補正用輝線光の予め既知な輝線波長Λ0との差から波長変化量δΛを求め、波長シフト補正部62は、前記複数の波長シフト補正用輝線光それぞれについて求めた複数の波長変化量δΛに基づいて例えば平均値や中央値等の代表値によって最終的に波長変化量δΛを求めて前記被波長シフト補正分光計としての分光計Dを波長シフト補正して良い。
【0081】
本明細書は、上記のように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0082】
一態様にかかる波長シフト補正システムは、波長シフト補正用輝線光を放射する波長シフト補正用光源と、入射光を波長に応じて分散させて分光した各分散分光光を、分散方向に配列された複数の光電変換素子で受光して前記各分散分光光の各光強度に応じた各電気信号を出力する分光部と、前記分光部の温度を測定する温度測定部とを備える被波長シフト補正分光計としての分光計と、前記波長シフト補正用輝線光を前記入射光として前記被波長シフト補正分光計で測定した場合に、前記複数の光電変換素子のうち、前記波長シフト補正用輝線光を受光する複数の特定光電変換素子から出力される各電気信号、および、前記温度測定部で測定された温度に基づいて、前記波長シフト補正用輝線光に対応する波長シフト補正時輝線波長を求め、前記求めた波長シフト補正時輝線波長と前記波長シフト補正用輝線光の予め既知な輝線波長との差から波長変化量を求める波長シフト補正部とを備える。好ましくは、上述の波長シフト補正システムにおいて、前記分光計は、波長シフト補正部を内蔵する。好ましくは、上述の波長シフト補正システムにおいて、前記複数の特定光電変換素子は、互いに隣接して配列された2個の第1および第2光電変換素子である。好ましくは、上述の波長シフト補正システムにおいて、前記複数の特定光電変換素子は、1または複数の光電変換素子を介して互いに隣接して配列された2個の第1および第2光電変換素子である。好ましくは、上述の波長シフト補正システムにおいて、前記複数の特定光電変換素子は、3個以上であり、前記波長シフト補正用輝線光は、互いに輝線波長の異なる複数であり、前記波長シフト補正部は、前記複数の波長シフト補正用輝線光それぞれに対応する複数の波長変化量を求め、前記求めた複数の波長変化量に基づいて例えば平均値や中央値等の代表値によって最終的に波長変化量を求める。好ましくは、上述の波長シフト補正システムにおいて、前記波長シフト補正用輝線光の予め既知な輝線波長は、例えば製造時や出荷前に実施される初期波長測定で測定された、前記波長シフト補正用輝線光における初期波長測定時の輝線波長である。好ましくは、上述の波長シフト補正システムにおいて、前記波長シフト補正用輝線光の予め既知な輝線波長は、前記波長シフト補正用輝線光における固有な輝線波長そのものである。
【0083】
このような波長シフト補正システムは、分光部の温度を温度測定部で測定し、この測定した温度に基づいて波長シフト補正用輝線光に対応する波長シフト補正時輝線波長を求めるので、例えば製造時や出荷前の校正(初期校正)の際における温度と波長シフト補正の際における温度とが異なる場合でも、波長シフト補正の精度の劣化を低減できる。
【0084】
他の一態様では、上述の波長シフト補正システムにおいて、所定の初期校正時に基準温度としての第1温度で求められた前記複数の特定光電変換素子に対応する分光部のゲイン比に前記複数の特定光電変換素子の分光感度比を乗算した乗算結果である感度ゲイン積の比と、波長との波長対応関係を、前記波長シフト補正用輝線光の輝線波長を含む所定の波長範囲において、所定の波長間隔で各波長ごとに表した第1テーブルを記憶する第1テーブル情報記憶部と、前記初期校正に前記基準温度で前記波長シフト補正用輝線光を前記入射光として前記被波長シフト補正分光計で測定した場合に、前記複数の特定光電変換素子から出力される各電気信号に基づく基準比としての所定の第1出力比に対する、第2温度で前記波長シフト補正用輝線光を前記入射光として前記被波長シフト補正分光計で測定した場合に、前記複数の特定光電変換素子から出力される各電気信号に基づく所定の第2出力比の比と、第2温度との温度対応関係を、前記基準温度を含む所定の温度範囲において、所定の温度間隔で各温度ごとに表した第2テーブルを記憶する第2テーブル情報記憶部とをさらに備え、前記波長シフト補正部は、前記第2テーブル情報記憶部に記憶された第2テーブルから、前記温度測定部で測定された温度に対応する前記第1出力比に対する第2出力比の比を求め、前記第1テーブル情報記憶部に記憶された第1テーブルから、前記求めた前記第1出力比に対する第2出力比の比、および、前記波長シフト補正用輝線光を前記入射光として前記被波長シフト補正分光計で測定した場合に前記複数の特定光電変換素子から出力される各電気信号に対応する前記波長シフト補正時輝線波長を求める。好ましくは、上述の波長シフト補正システムにおいて、前記複数の特定光電変換素子は、2個の第1および第2光電変換素子であり、前記所定の第1および第2出力比は、それぞれ、前記第1および第2光電変換素子それぞれから出力される第1および第2電気信号の比である。好ましくは、上述の波長シフト補正システムにおいて、前記複数の特定光電変換素子は、3個以上であり、前記波長シフト補正用輝線光は、互いに輝線波長の異なる複数であり、前記第1テーブル情報記憶部は、前記複数の波長シフト補正用輝線光それぞれに対応する複数の第1テーブルを記憶し、前記波長シフト補正部は、前記複数の波長シフト補正用輝線光それぞれについて、前記第2テーブル情報記憶部に記憶された第2テーブルから、前記温度測定部で測定された温度に対応する前記第1出力比に対する第2出力比の比を求め、前記第1テーブル情報記憶部に記憶された第1テーブルから、前記求めた前記第1出力比に対する第2出力比の比、および、当該波長シフト補正用輝線光を前記入射光として前記被波長シフト補正分光計で測定した場合に、当該波長シフト補正用輝線光に対応する前記複数の特定光電変換素子から出力される各電気信号、に対応する前記波長シフト補正時輝線波長を求め、前記求めた波長シフト補正時輝線波長と当該波長シフト補正用輝線光の予め既知な輝線波長との差から波長変化量を求め、前記波長シフト補正部は、前記複数の波長シフト補正用輝線光それぞれについて求めた複数の波長変化量に基づいて例えば平均値や中央値等の代表値によって最終的に波長変化量を求める。
【0085】
このような波長シフト補正システムは、前記第1および第2テーブルを予め第1および第2テーブル情報記憶部に記憶しておくので、前記第1および第2テーブルを用いることによって、容易に前記波長シフト補正時輝線波長を求めることができる。
【0086】
他の一態様では、これら上述の波長シフト補正システムにおいて、前記波長シフト補正部は、前記求めた波長変化量に基づいて前記被波長シフト補正分光計を波長シフト補正する。
【0087】
このような波長シフト補正システムは、この求めた波長変化量に基づいて前記被波長シフト補正分光計を自動的に波長シフト補正できる。
【0088】
他の一態様では、これら上述の波長シフト補正システムにおいて、前記波長シフト補正部は、前記求めた波長変化量に基づいて波長シフト補正が必要である旨を警告する。
【0089】
このような波長シフト補正システムは、ユーザに波長シフト補正の必要性を認識させることができる。
【0090】
他の一態様では、これら上述の波長シフト補正システムにおいて、前記波長シフト補正用光源は、ネオンランプと、前記ネオンランプから放射される複数の輝線光の中から前記波長シフト補正用輝線光を透過するバンドパスフィルタとを備える。
【0091】
このような波長シフト補正システムは、波長シフト補正用光源にネオンランプを用いるので、低コスト化を図ることができる。
【0092】
他の一態様では、これら上述の波長シフト補正システムにおいて、前記波長シフト補正用光源は、前記被波長シフト補正分光計に内蔵されている。
【0093】
このような波長シフト補正システムは、被波長シフト補正分光計が波長シフト補正用光源を内蔵するので、別途、前記波長シフト補正用光源を用意する必要がない。
【0094】
他の一態様では、これら上述の波長シフト補正システムにおいて、前記波長シフト補正用光源は、前記被波長シフト補正分光計と別体である。
【0095】
このような波長シフト補正システムは、波長シフト補正用光源が被波長シフト補正分光計と別体であるので、分光計を小型化でき、また、波長シフト補正の際に必要に応じて波長シフト補正用光源を用意すればよく、常備する必要がない。
【0096】
他の一態様にかかる波長シフト補正方法は、波長シフト補正用輝線光を放射する波長シフト補正用光源と、入射光を波長に応じて分散させて分光した各分散分光光を、分散方向に配列された複数の光電変換素子で受光して前記各分散分光光の各光強度に応じた各電気信号を出力する分光部と、前記分光部の温度を測定する温度測定部とを備える被波長シフト補正分光計としての分光計とを備え、前記被波長シフト補正分光計を波長シフト補正する波長シフト補正方法であって、前記波長シフト補正用輝線光を前記入射光として前記被波長シフト補正分光計で測定した場合に、前記複数の光電変換素子のうち、前記波長シフト補正用輝線光を受光する複数の特定光電変換素子から出力される各電気信号、および、前記温度測定部で測定された温度に基づいて、前記波長シフト補正用輝線光に対応する波長シフト補正時輝線波長を求める第1工程と、前記第1工程で求めた波長シフト補正時輝線波長と前記波長シフト補正用輝線光の予め既知な輝線波長との差から波長変化量を求めて前記被波長シフト補正分光計を波長シフト補正する第2工程とを備える。
【0097】
このような波長シフト補正方法は、分光部の温度を温度測定部で測定し、この測定した温度に基づいて波長シフト補正用輝線光に対応する波長シフト補正時輝線波長を求めるので、例えば製造時や出荷前の校正(初期校正)の際における温度と波長シフト補正の際における温度とが異なる場合でも、波長シフト補正の精度の劣化を低減できる。
【0098】
この出願は、2017年8月22日に出願された日本国特許出願特願2017-159292を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0099】
本発明の実施形態が詳細に図示され、かつ、説明されたが、それは単なる図例及び実例であって限定ではない。本発明の範囲は、添付されたクレームの文言によって解釈されるべきである。
【0100】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によれば、分光計の波長シフトを補正する波長シフト補正システムおよび波長シフト補正方法が提供できる。