(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】ヒスチジンを含有する食品およびその用途
(51)【国際特許分類】
A23L 33/175 20160101AFI20220329BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
A23L33/175
A23L2/52
A23L2/00 F
(21)【出願番号】P 2020116435
(22)【出願日】2020-07-06
(62)【分割の表示】P 2015541620の分割
【原出願日】2014-10-08
【審査請求日】2020-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2013212213
(32)【優先日】2013-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(72)【発明者】
【氏名】柴草 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】杉田 麻友
(72)【発明者】
【氏名】笹原 育子
(72)【発明者】
【氏名】小山 直人
(72)【発明者】
【氏名】関 忍
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特許第6847578(JP,B1)
【文献】特開平09-020661(JP,A)
【文献】新川 久義ら,L-ヒスチジン慢性投与の行動および学習に及ぼす影響-OUCEM-86を用いたコンピュータ解析-,薬物・精神・行動,日本,1988年03月,8(1),169-170
【文献】Shinji Isayama et al.,Effects of Histidine on Working Memory Deficits Induced by the 5-HT1A-Receptor Agonist 8-OH-DPAT,Japanese Journal of Pharmacology,日本,2001年,86(4),451-453
【文献】Chiaki Kamei et al.,Effect of Histamine on Memory Retrieval in Old Rats,Biological and Pharmaceutical Bulletin,日本,1993年,16(2),128-132
【文献】Shuichi Miyazaki et al.,Ameliorating Effects of Histidine on Scopolamine-Induced Learning Deficits Using an Elevated Plus-Ma,Life Sciences,米国,1995年,56(19),1563-1570
【文献】V. V. JOSHI et al.,Effect of L-Histidine Pretreatment on The Duration of Pentobarbitone Sleep in Mice,Indian Journal of Pharmacology,1980年,12(2),109-112
【文献】R. Mattioli et al.,L-histidine enhances learning in stressed zebrafish,Brazilian Journal of Medical and Biological Research,2009年,42(1),128-134
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/175
A23L 2/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離又は塩の形態の
L-ヒスチジンを含有し、当該
L-ヒスチジンの摂取量が0.3~23g/日である、精神的活力向上用食品であって、
前記精神的活力向上が、気分の向上、意欲の向上、持続的注意の向上、覚醒の向上及び情報処理速度の向上から選ばれる少なくとも一つである、食品(但し、
遊離又は塩の形態のプロリン、グリシン、アラニン、リジン及びトリプトファンを含有する組成物、
マリアアザミ、大豆、ベニバナ、レッドクローバー、タンポポ根、ニンニク及びビロードアオイからなる群より選ばれる1種又は2種以上の乾燥粉末及び/又は抽出物と、サイリウム、昆布及びリンゴペクチンからなる群より選ばれる1種又は2種以上の乾燥物及び/又は粉砕物及び/又はその加工品とを含む組成物、並びに、
アセロラ、ローズヒップ、アルファルファ、ガーリック、スギナ、タマネギ及びその外皮、高麗ニンジン、トウガラシ並びにサンザシからなる群より選ばれる1種又は2種以上の乾燥物及び/又は粉砕物と、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、パントテン酸カルシウム、ビタミンA、ビタミンD及びビタミンEからなる群より選ばれる1種又は2種以上の機能性成分とを含む組成物を除く)。
【請求項2】
ヒスチジン以外の遊離又は塩の形態のアミノ酸の含有量が、1食摂取量として50mg以下である、請求項1に記載の食品。
【請求項3】
食品の形態が液状である、請求項1または2に記載の食品。
【請求項4】
飲料である、請求項1または2に記載の食品。
【請求項5】
菓子である、請求項1または2に記載の食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒスチジンを含有する食品及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒスチジンは塩基性アミノ酸の一種で、側鎖にイミダゾイル基という複素芳香環を持つ必須アミノ酸である。ヒスチジンは食品添加物としても認められているアミノ酸であり、多くの食品に含まれている。例えば、ヒスチジンは味のしまりや匂いの拡散防止等の目的で調味料や調香料として添加されており、その含量は最大50mg/100ml程度である。ヒスチジンの公知の機能に関連して、ヒスチジンまたはヒスチジン塩酸塩を含有する抗疲労組成物が知られている(特許文献1)。当該文献には、当該組成物が身体的な疲労を改善することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来にない組成及び/又は形態のヒスチジンを含有する食品等を提供し、ヒスチジンに基づく新たな機能を有する食品等を提供することを目的とする。より詳細には、本発明は、副作用を生じるおそれが少なく、効果的に精神的活力を向上することのできる食品等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは一定量以上のヒスチジンの摂取が従来知られていない、いくつかの新たな機能を発現し得ることを見出し、以下のような本発明を完成した。
[1]1食当たりの単位包装形態からなり、該単位中に、1食摂取量としてヒスチジンを0.3g以上含有する食品。
[2]ヒスチジン以外のアミノ酸の含有量が、1食摂取量として8g以下である、上記[1]に記載の食品。
[3]さらに、賦形剤、矯味剤および香料から選ばれる少なくとも1種の添加物を含む、上記[1]または[2]に記載の食品。
[4]前記矯味剤がクエン酸である、上記[3]に記載の食品。
[5]食品の形態が固形または半固形である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の食品。
[6]食品の形態が液状である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の食品。
[7]食品の形態が粉末状、錠剤、顆粒状またはカプセル状である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の食品。
[8]食品の形態がスラリー状、溶液状、ゼリー状、または乳液状である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の食品。
[9]飲料である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の食品。
[10]菓子である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の食品。
[11]ゼリー、プリンまたはヨーグルトである、上記[1]~[4]のいずれかに記載の食品。
[12]食品が保健機能食品である、上記[1]~[11]のいずれかに記載の食品。
[13]精神的活力向上用である、上記[1]~[12]のいずれかに記載の食品。
[13-2]上記[1]~[12]のいずれかに記載の食品を、それを必要とする対象に投与することを含む、精神的活力向上方法。
[13-3]精神的活力向上における使用のための、上記[1]~[12]のいずれかに記載の食品。
[14]生体リズム改善用である、上記[1]~[12]のいずれかに記載の食品。
[14-2]上記[1]~[12]のいずれかに記載の食品を、それを必要とする対象に投与することを含む、生体リズム改善方法。
[14-3]生体リズム改善における使用のための、上記[1]~[12]のいずれかに記載の食品。
[15]ヒスチジンを1w/v%以上含有する飲料である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の食品。
[15-2]ヒスチジンを1w/v%以上含有する飲料。
[16]ヒスチジンを0.7g以上含有する錠剤またはカプセル剤である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の食品。
[16-2]ヒスチジンを0.7g以上含有する錠剤またはカプセル剤。
[17]1食当たりの単位包装形態からなり、該単位中に、1食摂取量としてヒスチジンを0.3g以上含有する精神的活力向上剤。
[18]1食当たりの単位包装形態からなり、該単位中に、1食摂取量としてヒスチジンを0.3g以上含有する生体リズム改善剤。
[19]ヒスチジン以外のアミノ酸の含有量が、1食摂取量として8g以下である、上記[17]または[18]に記載の剤。
[20]さらに、賦形剤、矯味剤および香料から選ばれる少なくとも1種の添加物を含む、上記[17]~[19]のいずれかに記載の剤。
[21]前記矯味剤がクエン酸である、上記[20]に記載の剤。
[22]形態が固形または半固形である、上記[17]~[21]のいずれかに記載の剤。
[23]形態が液状である、上記[17]~[21]のいずれかに記載の剤。
[24]形態が粉末状、錠剤、顆粒状またはカプセル状である、上記[17]~[21]のいずれかに記載の剤。
[25]形態がスラリー状、溶液状、ゼリー状、または乳液状である、上記[17]~[21]のいずれかに記載の剤。
[26]ヒスチジンが1食摂取量として0.3g以上含まれている、容器詰飲料。
[27]精神的活力向上用である、上記[26]に記載の容器詰飲料。
[27-2]上記[26]に記載の容器詰飲料を、それを必要とする対象に投与することを含む、精神的活力向上方法。
[27-3]精神的活力向上における使用のための、上記[26]に記載の容器詰飲料。
[28]生体リズム改善用である、上記[26]に記載の容器詰飲料。
[28-2]上記[26]に記載の容器詰飲料を、それを必要とする対象に投与することを含む、生体リズム改善方法。
[28-3]生体リズム改善における使用のための、上記[26]に記載の容器詰飲料。
【発明の効果】
【0006】
本発明のヒスチジンを含有する食品等を長期間摂取または単回摂取することにより、精神的活力を効果的に向上することができる。本発明のヒスチジンを含有する食品等は、その有効成分がアミノ酸であることから、副作用を生じるおそれが少ないという点で安全性に優れており、日常的に連用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1A】
図1Aは、ヒスチジン継続投与による、睡眠不足負荷後のマウスの暗期自発行動量変化(精神的活力、特に意欲の指標)を検証するためのプロトコールを示す。
【
図1B】
図1Bは、暗期自発行動量の測定結果を示す。*:一元分散分析比較後のDunnetの検定、p<0.05。
【
図1C】
図1Cは、暗期前半6時間の累積自発行動量を示す。***:一元分散分析比較後のDunnetの検定、p<0.001、*:一元分散分析比較後のDunnetの検定、p<0.05。
【
図2A】
図2Aは、ヒスチジン単回投与による、睡眠不足負荷後のマウスの新奇環境下自発行動量(精神的活力、特に意欲の指標)変化を検証するためのプロトコールを示す。
【
図2B】
図2Bは、新奇環境下自発行動量の測定結果を示す。*:一元分散分析比較後のDunnetの検定、p<0.05。
【
図3A】
図3Aは、ヒスチジン単回投与による、睡眠不足負荷後のマウスの短期作業記憶能(精神的活力、特に認知の指標)変化を検証するためのプロトコールを示す。
【
図3B】
図3Bは、交替行動率の測定結果を示す。***:一元分散分析比較後のDunnetの検定、p<0.001、*:一元分散分析比較後のDunnetの検定、p<0.05。
【
図4A】
図4Aは、14日間ヒスチジン摂取による、睡眠の質の低下および疲労を感じている男性の精神的活力に関する気分、意欲および認知の変化を検証するためのプロトコールを示す。
【
図4B】
図4Bは、POMSにおけるT得点変化量を示す。*:対応のあるt検定、p<0.05。
【
図4C】
図4Cは、認知機能テスト前のVASにおける各項目の変化量を示す。*:対応のあるt検定、p<0.05。
【
図4D】
図4Dは、認知機能テストにおける反応時間変化量を示す。*:対応のあるt検定、p<0.05。
【
図4E】
図4Eは、認知機能テスト後のVASにおける各項目の変化量を示す。*:対応のあるt検定、p<0.05。
【
図5A】
図5Aは、ヒスチジン単回摂取による、睡眠の質の低下および疲労を感じている男性の精神的活力に関する気分、意欲および認知の変化を検証するためのプロトコールを示す。
【
図5B】
図5Bは、認知機能テスト前のVASにおける各項目の変化量を示す。*:対応のあるt検定、p<0.05。
【
図5C】
図5Cは、認知機能テスト後のVASにおける各項目の変化量を示す。*:対応のあるt検定、p<0.05。
【
図6】
図6は、ヒスチジンの摂取による生体リズムの位相前進作用を示す。*:対応のないt検定。
【
図7】
図7は、ヒスチジンの摂取により生体リズムの位相が調節され得ることを示す実施例の一例を示した図である。横軸に時間を、縦軸に観察日を表示しており、観察日毎の自発行動量の増加を棒グラフにて示している。
【
図8】
図8は、ヒスチジンの摂取による時計遺伝子の発現振動の位相変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の実施の形態について説明する。
本発明の本質は、ヒスチジンの新規用途と、その用途に適した食品等である。ヒスチジンとは、HOOCCH(NH2)CH2-5-imidazolの構造式からなる必須アミノ酸である。
【0009】
本発明におけるヒスチジンは、天然に存在する動植物等から抽出し精製したもの、或いは化学合成法、発酵法、酵素法または遺伝子組換え法によって得られるもののいずれを使用してもよい。またL-体、D-体またはDL-体のいずれも使用することができる。
【0010】
本発明において用いられるヒスチジンは、塩の形態であってもよい。塩の形態としては、酸付加塩や塩基との塩等を挙げることができ、薬理学的に許容される塩を選択することが好ましい。そのような塩としては、例えば、無機酸との塩、有機酸との塩、無機塩基との塩、有機塩基との塩が挙げられる。
無機酸との塩としては、例えば、ハロゲン化水素酸(塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等)、硫酸、硝酸、リン酸等との塩が挙げられる。
有機酸との塩としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸等との塩が挙げられる。
無機塩基との塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アンモニウムとの塩等が挙げられる。
有機塩基との塩としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、エタノールアミン、モノアルキルエタノールアミン、ジアルキルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等との塩が挙げられる。
【0011】
本発明における1食当たりの単位包装形態の食品等は、ヒスチジンを、1食当たり(即ち、1食摂取量として)0.3g以上含有する。このような食品等は多くのヒスチジンを手軽に摂取できるので、後述する新規作用による効果を享受しやすい食品等である。本明細書において、食品等とは、経口摂取し得るものを広く包含する概念であり、所謂「食べ物」のみならず飲料、健康補助食品、保健機能食品、サプリメント等を含む。1食当たりの単位包装形態としては、例えば、飲料、キャンディー、チューイングガム、ゼリー、プリン、ヨーグルト等の場合にはパック、包装、ボトル等で一定量を規定する形態が挙げられ、顆粒・粉末・スラリー状の食品の場合には、包装などで一定量を規定できる。あるいは容器などに1食当たりの摂取量を表示してある形態が挙げられる。本明細書において、食品等とは、日常的に摂取して身体の栄養を保持するものとは異なり特定の目的において摂取される剤を含み、従って、本発明の「食品等」は、本発明の「食品および剤」と同義である。
【0012】
「1食当たりの単位包装形態」からなる食品および剤とは、1食あたりに摂取する量が予め定められた形態の食品および剤である。
【0014】
1食あたりのヒスチジンの含有量は、食品等への含有させ易さや含有させることによる効果の観点から、0.3g以上、好ましくは、0.7g以上、さらに好ましくは1g以上であり、さらに好ましくは1.2g以上であり、さらに好ましくは1.6g以上である。一方、既知の知見から得られる食経験(食品安全委員会肥料・飼料等専門調査会2010年4月 対象外物質評価書ヒスチジン、「健康食品」の安全性・有効性情報(独立行政法人 国立健康・栄養研究所HP https://hfnet.nih.go.jp/))や包装・摂取の容易さの観点から、上記含有量は好ましくは23g以下である。
【0015】
上記食品等中のヒスチジン以外のアミノ酸の含有量が多くなると、後述するヒスチジンの効果が十分発揮されない可能性がある。よって、ヒスチジン以外のアミノ酸の含有量は、1食当たり(即ち、1食摂取量として)、通常、8g以下であり、6g以下であり、4g以下であり、好ましくは2g以下である。より好ましくは、50mg以下が挙げられ、実質的に含まれないことが好ましい。
【0016】
「アミノ酸」とは、アミノ基(-NH2)とカルボキシル基(-COOH)の両方をもつ有機化合物の総称であり、従って、本発明におけるヒスチジン以外のアミノ酸とは、アミノ基とカルボキシル基の両方を有するヒスチジン以外の有機化合物である。
【0018】
食品等中に含まれるヒスチジンの形態は特に問わず、粉末状または顆粒状であってもよく、スラリー状、錠菓、カプセル状、溶液状、ゼリー状、乳液状であってもよい。中でも、携帯性や包装の容易さという理由から、顆粒状や粉末状が好ましい。また、摂取の容易さという理由から、溶液状やゼリー状、スラリー状もまた好ましい。
【0019】
例えば、食品等がいわゆる健康食品であるような場合には、0.3g以上の顆粒状のヒスチジンが1食あたりの摂取量単位で包装された形態などが挙げられ、食品等が健康ドリンクであるような場合には、0.3g以上のヒスチジンが懸濁あるいは溶解したドリンクが1食あたり飲み切りの形態でビン等に入れられている形態が挙げられる。
【0020】
本発明の食品等の形態は特に限定されず、粉末状、錠剤、顆粒状、スラリー状、カプセル状、溶液状、ゼリー状、乳液状等の固形または半固形、あるいは液状であり得る。携帯性や包装の容易さの観点からは、粉末状、錠剤または顆粒状であることが好ましい。また、摂取の容易さの観点からは、スラリー状であることもまた好ましい。
【0021】
また本発明の食品等は、摂取の容易さの観点から、飲料、菓子類、ゼリー、プリン、ヨーグルトとして製されることも好適である。飲料は瓶、缶、紙パックなどで溶液または懸濁液などとして供されるものだけでなく、お茶やコーヒー、粉末飲料などのように抽出、溶解して飲用に供されるものであってもよい。ここで、菓子とは食事以外に食べる甘味などの嗜好品を指し、キャンディーやチューイングガム、錠菓などが挙げられる。
飲料の場合、ヒスチジンを1w/v%以上の濃度で含有すれば、必要な量を必要な回数摂取することが可能である。好ましくは、3w/v%以上であり、さらに好ましくは、5w/v%以上である。
錠剤やカプセル剤の形態の場合、ヒスチジンを100mg以上(即ち、0.1g以上)含有すれば、必要な量を適切な剤数で摂取することが可能である。好ましくは250mg以上(即ち、0.25g以上)であり、さらに好ましくは300mg以上(即ち、0.3g以上)であり、より好ましくは700mg以上(即ち、0.7g以上)である。錠剤の場合、更にヒスチジンを65重量%以上含有すれば、摂取しやすい大きさの錠剤とすることができる。好ましくは、70重量%以上であり、更に好ましくは、80重量%以上である。
【0022】
本発明の食品等の適用対象としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモットなどのげっ歯類およびウサギなどの実験動物、イヌおよびネコなどのペット、ウシ、ブタ、ヤギ、ウマ、ヒツジ及びニワトリなどの家畜及び家禽、サル、オランウータン及びチンパンジーなどの霊長類並びにヒトなどが挙げられ、特にヒトが好ましい。ヒト以外の動物に適用する場合には、本発明の食品等の投与量は、本明細書中に記載されるヒトへの投与量の一般記載に基づき、さらに動物の体重若しくは大きさ、あるいは投与時の投与対象の体調や感受性等に応じて適宜加減すればよい。
【0023】
本発明の食品等の一実施態様は、ヒスチジンを含有する容器詰飲料であり、特にヒスチジンが1食摂取量として0.3g以上(好ましくは、0.7g以上、より好ましくは1g以上、さらに好ましくは1.2g以上、特に好ましくは1.6g以上)含まれている容器詰飲料が提供される。
【0024】
本発明の容器詰飲料におけるヒスチジンの含有量は、既知の知見から得られる食経験(上述)や包装・摂取の容易さの観点から、好ましくは、1食摂取量として23g以下である。
【0025】
本発明の容器詰飲料における「飲料」としては、飲料として提供された本発明の食品等が挙げられ、具体的には、茶飲料(例、緑茶、烏龍茶、紅茶等)、アルコール飲料(例、ビール、ワイン、清酒、焼酎、梅酒、発泡酒、ウイスキー、ブランデー等)、清涼飲料(例、スポーツ飲料、アイソトニック飲料、ミネラルウォーター、コーヒー飲料等)、ジュース(例、果汁ジュース、野菜ジュース等)等の飲料や液体調味料(例、醤油、酢、酒、みりん、だし等)、液体サプリメント(例、栄養ドリンク、美容ドリンク、エナジードリンク等)等が挙げられる。容器詰飲料は、これらの飲料を所望の容器に注入、充填等して製造することができる。また、飲料は、溶液または懸濁液などとして供されるものであってよいが、茶葉やコーヒー豆、粉末飲料などのように抽出、溶解して飲用に供されるものであってもよい。
【0026】
本発明の容器詰飲料に用いられる容器は、目的に応じて適宜選択し得るが、通常、缶、ビン、ペットボトル、紙容器、アルミパウチ等が例示される。容量も特に限定されず、例えば、1食摂取量を1単位として該1単位乃至2単位以上が、そのまま1つの容器に収容されたものであっても、濃縮された状態で容器に収容されたものであってもよい。
【0027】
本発明の容器詰飲料は、1食当たりの単位包装形態からなるものであってよい。当該形態の例としては、容器で一定量を規定する形態や、容器に1食当たりの摂取量が表示してある形態等が挙げられる。
【0028】
本発明の容器詰飲料は、本発明の食品等の一実施態様であり、従って本明細書中に記載される「本発明の食品等」が「本発明の容器詰飲料」を包含するものであることは言うまでもない。
【0029】
次にヒスチジンの新規用途に係る発明について説明する。本発明における新規用途とは、精神的活力向上用食品(精神的活力向上剤)、生体リズム改善用食品(生体リズム改善剤)としての用途である。なお本発明における剤とは、人が生きるために日常的に摂取して身体の栄養を保持するものとは異なり、特定の目的において摂取されるものと解される。
【0030】
<精神的活力向上用食品および剤>
一態様において、本発明は、1食当たりの単位包装形態からなり、該単位中に、1食摂取量としてヒスチジンを0.3g以上含有する精神的活力向上用食品等を提供する。
【0031】
本明細書において「精神的活力」とは、国際生命科学研究機構(International Life Sciences Institute : ILSI)北米支部主催の一連のワークショップにより、「精神作業を遂行する能力、活力感や疲労感の強さ、および精神作業や身体作業を遂行する意欲」と科学的に定義づけられた概念である(参考文献:Do specific dietary constituents and supplements affect mental energy? Review of the evidence Nutrition Reviews 2010 Vol. 68(12):697-718)。精神的活力は、(1)気分(一過性の疲労感もしくは活力感)、(2)意欲(決意と熱意)、そして(3)認知(持続的注意、覚醒、記憶、学習、情報処理速度等)から構成される三次元の構成概念である。一般に、精神的活力に影響を及ぼすには、上記3要素のすべてを変化させる必要はないとされている。
精神的活力に影響を与える因子として、遺伝的要因・栄養・痛み・睡眠等が挙げられる(参考文献:Mental Energy:Developing a Model for Examining nutrition related claims Nutrition Reviews, Vol. 64, No. 7 July 2006: (II)S2-6)。精神的活力を高める方法としては、食品・食品成分および/またはサプリメントの摂取、運動、十分な睡眠、および短時間の昼寝などが挙げられる。また、精神的活力を低下させる要因としては、睡眠に関連する悩み(睡眠損失・睡眠障害・睡眠不足等)、疲労が考えられる(参考文献:Rhythms of mental performance (2008) Mind, Brain, and Education, 2 (1) , pp. 7-16.)。
【0032】
本発明の食品等は、精神的活力の向上に適用し得る。本明細書において「向上」は、精神的活力の増進、増強、改善、維持を包含する意味で使用される。
【0033】
本発明の食品等は、特に精神的活力を低下させる要因の代表でもある睡眠不足時の精神的活力向上に適用することが好ましい。ここで睡眠不足の判断は、自体公知の方法により行うことができ、例えば主観的な睡眠の質を評価するピッツバーグ睡眠質問表(PSQI)、脳波測定を含む複数の項目を計測する睡眠ポリグラフィーなどを用いることができる。好ましくはPSQIを用い、その値が6以上の状態を睡眠不足と判定することができる。
【0034】
精神的活力の評価は、気分、意欲、認知の評価方法として自体公知の方法により行なうことができる。そのような方法としては、例えば、視覚的アナログ尺度(VAS)やProfile of Mood States(POMS)などの主観的評価方法や、疲労や加齢に伴い衰える脳機能が測定できるコグヘルス(Coghealth:Cogstate社製、株式会社ヘルス・ソリューション提供)などの客観的評価方法が挙げられる。
本明細書中、「気分」は、一過性の疲労感および一過性の活力感を含む概念であり、POMSや、VASにおける抑うつ、ぼんやり、冴え、集中力、注意力のスコアに基づいて評価される。
本明細書中、「意欲」は、決意および熱意を含む概念であり、VASにおける意欲のスコアや、睡眠障害による自発行動量低下の程度に基づいて評価される。
本明細書中、「認知」は、持続的注意、覚醒、記憶、学習、情報処理速度を含む概念であり、認知機能テスト(コグヘルス)の遅延再生課題における反応速度、VASにおける注意力および冴え(覚醒)のスコア、睡眠障害による作業記憶能低下の程度に基づいて評価される。
【0035】
VASを利用する場合には、例えば、被験試料の一定期間継続摂取、または単回摂取の前後でスコアを測定し、被験試料摂取後に、冴え、意欲、集中力または注意力のスコアが有意に上昇するか、或いは抑うつまたはぼんやりのスコアが有意に低下した場合に、精神的活力、特に「気分」が向上したと評価することができる。本発明の食品等を摂取すれば、特に、VASにおける注意力、集中力、抑うつおよびぼんやりからなる群から選択される1以上の項目を有意に改善することができる。
【0036】
また、例えば、被験試料の一定期間継続摂取、または単回摂取の前後でVASにおける意欲のスコアを測定し、被験試料摂取後にスコアが有意に上昇した場合に、精神的活力、特に「意欲」が向上したと評価することができる。本発明の食品等を摂取すれば、VASにおける意欲の項目を有意に改善することができる。
【0037】
また、例えば、被験試料の一定期間継続摂取、または単回摂取の前後でVASにおける注意力または冴え(覚醒)のスコアを測定し、被験試料摂取後にスコアが有意に上昇した場合に、精神的活力、特に「認知」が向上したと評価することができる。本発明の食品等を摂取すれば、VASにおける注意力または冴え(覚醒)の項目を有意に改善することができる。
【0038】
POMSを利用する場合には、例えば、被験試料の一定期間継続摂取、または単回摂取の前後でスコアを測定し、被験試料摂取後の活気のスコアが有意に上昇するか、或いは緊張-不安、抑うつ、怒り、疲労または混乱のスコアが有意に低下した場合に、精神的活力、特に「気分」が向上したと評価することができる。また例えば、POMSによる主観的評価で疲労因子(F因子)のT得点が60以上である場合には、精神的活力が低下していると判定することができる。本発明の食品等を摂取すれば、特に、疲労の項目を有意に改善することができる。
【0039】
コグヘルスを利用する場合には、例えば、単純反応(覚醒)、選択反応(覚醒)、作業記憶(記憶)、遅延再生(記憶)、注意分散(持続的注意力)の各課題における正解率、または反応時間を評価することによって、精神的活力を判定することができる。特に遅延再生課題における反応時間を評価することによって、「認知」の状態を判定することができる。例えば、被験試料または対照試料のいずれかの一定期間継続摂取の後で試験を行い、対照試料摂取群と比較して、被験試料摂取群において、反応時間、特に遅延再生課題における反応時間が有意に低下した場合に、被験試料の摂取により精神的活力、特に「認知」が向上したと評価することができる。本発明の食品等を摂取すれば、特に、遅延再生課題における反応時間を有意に低下させることができる。
【0040】
「意欲」の評価において睡眠障害による自発行動量を測定する場合には、睡眠不足の対象について自体公知の方法により自発行動量の変化を測定すればよく、例えば赤外線センサーを含むデータ集録解析システム(例えば、NS-DAS-32(NeuroScience, Inc)など)を利用することができる。例えば、睡眠不足の対象について、被験試料または対照試料のいずれかの一定期間継続摂取の後で測定を行い、対照試料摂取群と比較して、被験試料摂取群において自発行動量の低下が抑制された場合に、被験試料の摂取により精神的活力、特に「意欲」が向上したと評価することができる。本発明の食品等を摂取すれば、睡眠障害による自発行動量の低下を抑制することができる。
【0041】
「認知」の評価において睡眠障害による作業記憶能を測定する場合には、睡眠不足の対象について自体公知の方法により作業記憶能を測定すればよい。例えば、ヒト以外の対象については、後述の実施例に記載されるようなY-maze試験における交替行動率を測定し、交替行動率の低下を作業記憶能の低下として評価することができる。睡眠不足の対象について、被験試料または対照試料のいずれかの一定期間継続摂取の後で測定を行い、対照試料摂取群と比較して、被験試料摂取群において作業記憶能の低下が抑制された場合に、被験試料の摂取により精神的活力、特に「認知」が向上したと評価することができる。本発明の食品等を摂取すれば、睡眠障害による作業記憶能の低下を抑制することができる。
【0042】
精神的活力向上用食品等としての本発明の食品等は、ヒスチジンを含有する食品等である。この用途のための前記食品等の摂取量は、対象の年齢、体重、症状、投与方法等によっても異なるが、ヒト成人男性であれば、通常0.3~23g/日であり、好ましくは0.7~8g/日であり、より好ましくは0.7~4g/日である。またヒスチジンが塩を形成している場合、摂取量の計算は、その塩を遊離体に換算した上で行うものとする。前記数値範囲の下限値以上であれば上述の効果を奏するのに十分であるが、摂取量を多くすると、摂取が困難になったり、コスト高となったりする傾向にある。1食当たりの摂取量単位の形態をとる食品等は、ヒスチジンの摂取量の管理を容易にする点でも有用である。
【0043】
本発明の食品等は安全性が高いことから、精神的活力の低下症状が表れる前に予防的に摂取してもよい。また本発明の食品等は、1回の摂取で短時間(例えば1時間程度)のうちに精神的活力向上の効果が得られることから、精神的活力の低下の症状が表れた後に治療的に摂取してもよい。本発明の食品等を2回以上摂取する場合、本発明の食品等の摂取期間は、本発明の効果が得られる限りにおいて特に限定されず、通常1日以上(例えば7日間、14日間等)である。
【0044】
<生体リズム改善用食品および剤>
一態様において、本発明は、1食当たりの単位包装形態からなり、該単位中に、ヒスチジンを1食摂取量として0.3g以上含有する生体リズム改善用食品等を提供する。
【0045】
本明細書において「生体リズム」とは、生物に本来備わっている生命現象のリズムをいい、特に概日リズムを指す。生体リズムは、個体の行動観察により1日のうちの行動開始時刻を調べるか、または公知の時計遺伝子(例えば、Bmal1, Dbp, Per1, Per2, Reverb-alpha等)の発現振動を定法により測定することによって調べることができる(参考文献:The Journal of Clinical Investigation 2010 Jul;120(7):2600-9)。
また「生体リズム改善」とは、生体リズムの異常が改善されることをいい、より詳細には、生体リズムの外界との非同調による諸症状、たとえば早期覚醒、頭痛、耳鳴り、心悸亢進、悪心、腹痛および下痢を含む時差ぼけ様症状、冴え、意欲、注意力および集中力の低下を含む疲労様症状、抑うつ、日中の眠気、だるさなどが改善することをいう。さらに生体リズム改善は、日内リズム正常化、概日リズム睡眠障害改善、睡眠相後退症候群改善、時差ぼけ改善、季節性うつ病の改善、および加齢に伴う概日リズム変調の改善も含み、若齢者の生体リズムの形成促進も含む。
【0046】
本発明の食品等を摂取すれば、例えば、概日リズムを前進させたり、周期の長さを短縮させたりすることができる。生体リズムの異常は、概日リズムの後退によるものが多いことから、本発明の食品等は生体リズムの正常化(例えば、ヒトの場合には概日リズムを24時間に近づけること)のために有用である。したがって、本発明の食品等は、例えば、日内リズム正常化剤、生体リズム改善剤、概日リズム睡眠障害改善剤、睡眠相後退症候群改善剤、時差ぼけの治療剤、時差ぼけ予防剤、シフトワークに伴う体調不良改善剤として利用することができる。
【0047】
また哺乳動物においては加齢に伴い概日リズムをつかさどる時計遺伝子の発現振動の位相が前進することが知られているが、本発明の食品等を摂取すれば、そのような位相のずれを抑えることができる。したがって、本発明の食品等は、生体リズムの外界との非同調による諸症状、特に加齢に伴う概日リズム変調の改善剤として利用することができる。
【0048】
生体リズム改善の用途のための前記食品等の摂取量は、精神的活力向上用食品等としての摂取量と同様である。
【0049】
本発明の食品等は安全性が高いことから、生体リズムの異常が表れる前に予防的に摂取してもよい。また本発明の食品等は、生体リズムの異常の症状が表れた後に治療的に摂取してもよい。本発明の食品等の摂取期間は、本発明の効果が得られる限りにおいて特に限定されず、通常1日以上(例えば4日間、7日間、9日間、14日間等)である。
【0050】
また、本発明の食品等には、より飲みやすい形態で提供することを目的として種々の添加物を配合することができる。具体的には矯味剤、香料や賦形剤、滑沢剤等が挙げられ、食品等に添加することが許可されているものであれば任意のものを利用することができる。矯味剤としては、例えば、アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸及びこれらの塩等の酸味剤や、アスパルテーム、ステビア、スクラロース、グリチルリチン酸、ソーマチン、アセスルファムカリウム、サッカリン、サッカリンナトリウム等の甘味料等が挙げられる。矯味剤として好ましくはクエン酸が用いられる。香料としては、例えば、L-メントール等の合成香料化合物、オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツ等の柑橘類精油、花精油、ペパーミント油、スペアミント油、スパイス油等の植物精油等が挙げられる。賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、D-マンニトール、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸等が挙げられる。滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカ等が挙げられる。
【0051】
(商業的パッケージ)
本発明の食品等は、用途・効能や飲食方法などに関する説明事項を記載した記載物と共に包装した商業的パッケージとすることもできる。
【0052】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
実施例1:睡眠不足負荷後の暗期自発行動量(精神的活力、特に意欲の指標)変化とヒスチジン(His)継続投与による効果の検証
9週齢のCD2F1マウスを用い、
図1Aの実験プロトコールに示すように、まずヒスチジン摂取群(SD+His)には1.2g/kg体重/dayの投与量となるように1.2w/v% L-ヒスチジン溶液を7日間慢性飲水させた。対照群(CON)および溶媒摂取群(SD+溶媒)には水を摂取させた。次に、睡眠障害群(SD)には飼育ケージ中に0.5cmの深さの水をはり1日間の睡眠不足を負荷した。明期開始6時間後(ZT6)に負荷を解除してホームケージに戻し、6時間の休息を設けた。対照群は、無負荷にてホームケージで飼育した。その後、絶食・絶水下で、自発行動量測定用赤外線センサー(Digital acquisition system; NS-DAS-32, Neuroscience Inc, Tokyo, Japan)の下に設置されケージに移し、自発行動量を測定、マルチデジタルカウンタ(Neuroscience Inc, Tokyo, Japan)によりデータを収集した。
結果を
図1BおよびCに示す。睡眠不足負荷により暗期自発行動量は低下したが、ヒスチジン溶液を7日間自由摂取させた群(SD+His)では、溶媒摂取群(SD+溶媒)と比較して、暗期自発行動量の低下が有意に抑制された。
以上の結果より、ヒスチジンを含む剤は、精神的活力、特に意欲を向上させることが明らかとなった。
【0054】
実施例2:睡眠不足負荷後の新奇環境下自発行動量(精神的活力、特に意欲の指標)変化とヒスチジン(His)単回投与による効果の検証
9-10週齢のCD2F1マウスを用い、
図2Aの実験プロトコールに示すように、睡眠障害群(SD)に1日間の睡眠不足負荷を行い、ZT6に負荷を解除してホームケージに戻し、6時間の休息を設けた。対照群(CON)は無負荷にてホームケージで飼育した。ヒスチジン投与群(SD+His)にはL-ヒスチジンの投与量が1.2g/kg体重となるように1.2w/v% L-ヒスチジン溶液を睡眠不足負荷後の暗期開始2時間後(ZT14)に経口投与した。溶媒投与群(SD+溶媒)及び対照群(CON)には溶媒(水)を経口投与した。暗期開始3時間後(ZT15)から新奇環境下での自発行動量を3時間測定した。
結果を
図2Bに示す。睡眠不足負荷により自発行動量は低下したが、ヒスチジン溶液を経口投与した群(SD+His)では、溶媒投与群(SD+溶媒)と比較して、自発行動量の低下が抑制される傾向が認められた。
以上の結果より、ヒスチジンを含む剤は、精神的活力、特に意欲を向上させることが明らかとなった。
【0055】
実施例3:睡眠不足負荷後の短期作業記憶能(精神的活力、特に認知の指標)変化とヒスチジン単回投与による効果の検証
9週齢のCD2F1マウスを用い、
図3Aの実験プロトコールに示すように、睡眠障害群(SD)に2日間の睡眠不足負荷を行い、ZT6に負荷を解除してホームケージに戻し、6時間の休息を設けた。対照群(CON)は無負荷にてホームケージで飼育した。ヒスチジン投与群(SD+1.2%His)にはL-ヒスチジンの投与量が1.2g/kg体重となるように1.2w/v% L-ヒスチジン溶液を睡眠不足負荷後の暗期開始2時間後(ZT14)に経口投与した。溶媒投与群(SD+溶媒)及び対照群(CON)には溶媒(水)を経口投与した。暗期開始3時間後(ZT15)にY-maze試験を実施し、短期作業記憶能を測定した。
結果を
図3Bに示す。睡眠不足負荷により交替行動率は低下したが、ヒスチジン溶液を経口投与した群(SD+1.2%His)では、溶媒投与群(SD+溶媒)と比較して、交替行動率の低下が有意に抑制された。即ち、ヒスチジンの単回投与により睡眠不足負荷後の短期作業記憶能低下が抑制された。
以上の結果より、ヒスチジンを含む剤は、精神的活力、特に認知を向上させることが明らかとなった。
【0056】
実施例4:睡眠の質の低下および疲労を感じている男性での14日間ヒスチジン(His)摂取効果検証
45歳以上65歳未満の男性であり、事前に行なった「自己診断疲労アンケート」((株)疲労研究所)にて総合的評価17点以上かつ、睡眠の質が低下し(PSQI≧6を目安)POMSの疲労因子T得点が60点以上である者20名を選抜し、ランダムに10名ずつを2群に割り付けした。各群でヒスチジンと対照食品(等容積のセルロース)を14日間ずつ摂取するクロスオーバー試験を行った。
図4Aの実験プロトコールに示すように、被験者は、1日分の摂取量として1.65 gのL-ヒスチジンを含むカプセル(0.33gのL-ヒスチジンのみを含むカプセル(ハードカプセル#2 WHITE OP B/C)を5粒)、または対照試料カプセル(等容積のセルロースを含むカプセルを5粒)を14日間摂取した。14日間摂取終了後は14日間の休止期間を設けた。休止期間後、休止期間前に摂取しなかった方のカプセルを摂取した。
被験者は、カプセル摂取期間の初日と終了翌日に、POMSと精神的活力に関するVASアンケート(疲労、抑うつ、ぼんやり感、眠気、冴え、意欲、注意力、集中力)に回答し、認知を測定する認知機能測定課題コグヘルスに回答した(暗算課題も同時に出題することにより難易度を高めた条件下)。さらに、コグヘルス終了後に、VASアンケートに回答した。コグヘルス終了後の評価を実施することで、作業負荷前とは異なった作業負荷後の状態を知ることができる。
結果を
図4B~Eに示す。ヒスチジンを14日間摂取した被験者では、対照食品を摂取した被験者と比較して、POMSの疲労因子得点が有意に低下し(対応のあるt検定:p<0.05)(
図4B)、精神的活力に関するVASアンケートにおいて、冴え、意欲、注意力の感覚が有意に上昇した(対応のあるt検定:p<0.05)(
図4C)。また、知的作業効率においては、ヒスチジンを摂取した場合に、認知機能測定課題の反応時間が短縮し、遅延再生課題の反応時間は対照食品摂取時に比較して有意に低下した(対応のあるt検定:p<0.05)(
図4D)。また、コグヘルス終了後のVASアンケートにおいて、抑うつの感覚が有意に低下し、意欲、注意力の感覚が有意に上昇した(対応のあるt検定:p<0.05)(
図4E)。このことは、認知作業が負荷されても、意欲や注意力の上昇を維持することができ、負荷による抑うつ感を抑制できることを意味する。
以上の結果より、ヒスチジンを含む剤は、精神的活力、特に気分・意欲・認知を向上させることが明らかとなった。
【0057】
実施例5:睡眠の質の低下および疲労を感じている男性でのヒスチジン(His)単回摂取効果検証
45歳以上65歳未満の男性であり、事前に行なった「自己診断疲労アンケート」((株)疲労研究所)にて総合的評価17点以上かつ、睡眠の質が低下し(PSQI≧6を目安)POMSの疲労因子T得点が60点以上である者20名を選抜し、ランダムに10名ずつを2群に割り付けした。各群でヒスチジンと対照食品(等容積のセルロース)の単回摂取の効果を比較した。
図5Aの実験プロトコールに示すように、被験者は、実験前3日間の食事をそろえ、10~14時間絶食したのち、1回分の摂取量として1.65gのL-ヒスチジンを含むカプセル(0.33gのL-ヒスチジンのみを含むカプセル(ハードカプセル#2 WHITE OP B/C)を5粒)、または対照試料カプセル(等容積のセルロースを含むカプセルを5粒)を摂取した。
被験者は、カプセル摂取前とカプセル摂取1時間後に、精神的活力に関するVASアンケート(疲労、抑うつ、ぼんやり感、眠気、冴え、意欲、注意力、集中力)と、認知を測定する認知機能測定課題コグヘルスに回答した(暗算課題も同時に出題することにより難易度を高めた条件下)。さらに、コグヘルス終了後に、VASアンケートに回答した。コグヘルス終了後の評価を実施することで、作業負荷前とは異なった作業負荷後の状態を知ることができる。
結果を
図5B、Cに示す。ヒスチジンを摂取した被験者では、対照食品を摂取した被験者と比較して、認知に関する項目については有意な変化はみられなかったが、5種類の脳機能測定項目における作業時間が、短縮することがわかった。また、精神的活力に関するVASアンケートにおいて、冴え、注意力の感覚が有意に上昇し(対応のあるt検定:p<0.05)、集中力の感覚が上昇する傾向があった(
図5B)。また、コグヘルス終了後のVASアンケートにおいて、ぼんやりの感覚が有意に低下し(対応のあるt検定:p<0.05)、抑うつの感覚も低下する傾向があり、集中力の感覚が上昇する傾向があった(
図5C)。このことは、ヒスチジンを摂取すれば、認知作業が負荷されても、負荷によるぼんやり感や抑うつ感を抑制することが可能で、集中力が維持できる可能性があることを意味する。
以上の結果より、ヒスチジンを含む剤は、精神的活力、特に気分を向上させることが明らかとなった。
【0058】
以上のように、ヒスチジンを2週間継続摂取することで、精神的活力の向上が認められ、またヒスチジンを単回摂取することで、精神的活力の向上が認められた。尚、ヒスチジンの摂取により、一般性状、血液学、血液生化学について安全性の観点から問題となる変動は認められなかった。
【0059】
実施例6:ヒスチジン(His)の摂取による生体リズムの位相調節作用
24時間暗条件で飼育したマウスに対するヒスチジンの位相調節作用を評価した。
24時間暗条件でマウスを飼育すると、外部情報(光の明暗周期)が得られなくなるため、マウスは生物時計固有の周期で活動するようになる(同調から自由になったという意味でフリーラン(自由継続)とも称する)。この自由継続周期を24時間に換算して横軸に示し、概日時刻とした場合、その前半の12時間は主観的明期(生物時計で昼と判断している時間帯:CT0-12)、後半は主観的暗期(生物時計で夜と判断している時間帯:CT12-24)と称される。
このような条件下で、マウスの自発行動量(自由継続周期の行動パターン)を放出赤外線検出型の自発行動量センサー(Digital acquisition system; NS-AS01, Neuroscience Inc, Tokyo, Japan)を用いて測定した。さらにL-ヒスチジンを通常餌1gあたり45 mg添加した餌を用意し、一日のうちの4時間だけ通常の餌と置き換えて摂食させた。摂取させる時間帯は、CT2-6(主観的明期)またはCT14-18(主観的暗期)のいずれかとした。このような餌の置き換えを4日間行った後に行動パターンの位相変化を判定した。
判定基準日をヒスチジン高含有餌の最終摂取日の4日後に設定した場合のマウスの行動開始時刻の位相のずれを
図6に示す。主観的明期でのヒスチジンの摂取は、概日リズムを有意に前進させることが明らかとなった。また主観的暗期でのヒスチジンの摂取でも概日リズムを前進させる傾向が認められた。
さらに実施例の一例を
図7に示す。
図7は横軸に時刻を、縦軸は観察日を表示しており、観察日毎の自発行動量の増加を棒グラフにて示している。ヒスチジンのCT2-6(
図7にて黒四角で囲まれた時間帯)における摂取は、活動リズムの周期を短縮させ、同条件での平均値としては、0.34±0.08(n=4)時間短縮させた。ヒトにおいて通常、体内時計が作り出すリズムは24時間よりも少し長いとされ、生体リズム異常の多くは概日リズムの後退によるものであるので、ヒスチジンを適時に摂取することにより概日リズムを前進させたり、周期を短縮させたりすることにより、生体リズムを正常化すること(ヒトの場合には24時間周期に近づけること)ができる。
以上の結果より、ヒスチジンを含む剤は、日内リズム正常化剤、生体リズム改善剤、概日リズム睡眠障害改善剤、睡眠相後退症候群改善剤、時差ぼけの治療剤、時差ぼけ予防剤、シフトワークに伴う体調不良改善剤として有効であることが確認された。
【0060】
実施例7:ヒスチジン(His)の摂取による生体リズムの外界との非同調の改善
通常の明暗を有する環境下で飼育している22-24ヶ月齢の高齢マウスを2群に分け、ヒスチジン飲水摂取の効果を検討した。ヒスチジン摂取期間は9日間と定め、その期間で50mLの遠沈管に給水口を装着してL-ヒスチジン水溶液(L-ヒスチジン1.2w/v%相当)を摂取させ、一日当たり約1.2g/kg体重のヒスチジンを摂取させた。高齢マウスのヒスチジン摂取群はヒスチジン水溶液摂取開始から8-9日目にかけて経時的に位置をずらしながら耳介をサンプリングし、生体リズムの指標として末梢組織の5種類の時計遺伝子(Bmal1, Dbp, Per1, Per2, Reverb-alpha)の解析を行った。同時期に水道水を摂取していた高齢マウスと、若齢マウス(4ヶ月齢)も比較対象として耳介の時計遺伝子の解析を行った。若齢、通常飼育マウスではこれらの時計遺伝子は外界環境と十分同調しており、明瞭な振幅と位相パターンが得られることが知られている。一方で人為的に光の周期を変えるとそれに相応して行動パターンに加え時計遺伝子の発現も変化することが報告されている(参考文献:The Journal of Clinical Investigation 2010 Jul;120(7):2600-9)。
具体的には、各時点にて時計遺伝子の遺伝子発現の定量を行い、個体ごとの時計遺伝子発現振動の振幅と位相をコサインカーブにて近似し求めた。各個体の5時計遺伝子の発現振動の平均の振幅、位相を、若齢マウスのそれと比較して数値化した。
結果を
図8に示す。水道水摂取の場合、高齢マウスと若齢マウスとを比較すると、高齢マウスでは、時計遺伝子の発現振動の振幅が低下していた。さらに通常の高齢マウスでは、振幅が低下することに起因すると考えられる時計遺伝子の発現振動の位相のずれが起こり、位相が一時間ほど前進した。これに対して、ヒスチジン摂取により高齢マウスでも位相の前進が抑えられ、測定した5時計遺伝子の平均では、若齢マウスと同程度になった(
図8)。また若齢マウスを用いた実験において、ヒスチジン含有量を通常餌の20%に低下させた餌を1-2週間摂取させると、活動期開始時の行動量が63%程度減少し、活動のピークが後退することが分かってきており、若齢においても生体リズムの外界との非同調に対してヒスチジンの摂取が有効であると推察できる。
以上の結果より、ヒスチジンを含む剤は、生体リズムの外界との非同調による諸症状、たとえば早期覚醒、頭痛、耳鳴り、心悸亢進、悪心、腹痛、下痢を含む時差ぼけ様症状、冴えや意欲、注意力、集中力の低下を含む疲労様症状、抑うつおよび眠気からなる群から選択される1以上の項目の改善である作用を有する剤として有効であることが示された。
【0061】
実施例8:ヒスチジン含有錠剤
下記配合を有するヒスチジン含有錠剤を常法により打錠製造した。錠剤重量は340mgであった。
【0062】
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の食品等は効果的に精神的活力を向上させたり、生体リズムを改善させたりすることができるとともに、その有効成分はアミノ酸であるため安全性の点でも優れている。そのため、本発明の食品等は食品分野のみならず、医薬分野でも利用可能である。
【0064】
本出願は、日本で出願された特願2013-212213(出願日:2013年10月9日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。