(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】金属層付き炭素質部材、及び、熱伝導板
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20220329BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
H01L23/36 D
B32B9/00 A
(21)【出願番号】P 2020554962
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(86)【国際出願番号】 JP2019042914
(87)【国際公開番号】W WO2020091008
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2020-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2018206000
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】喜多 晃一
(72)【発明者】
【氏名】中矢 清隆
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 敏之
(72)【発明者】
【氏名】岩田 広太郎
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-518020(JP,A)
【文献】特開2012-238733(JP,A)
【文献】国際公開第2018/074493(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
B32B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質部材と、この炭素質部材の表面の少なくとも一部に形成された金属層と、を備えた金属層付き炭素質部材であって、
前記炭素質部材は、単層又は多層のグラフェンが堆積してなるグラフェン集合体と扁平形状の黒鉛粒子とを含み、扁平形状の前記黒鉛粒子が、そのベーサル面が折り重なるように前記グラフェン集合体をバインダーとして積層され、扁平形状の前記黒鉛粒子のベーサル面が一方向に向けて配向した構造とされており、
前記金属層は、前記炭素質部材において積層した前記黒鉛粒子のエッジ面が向くエッジ積層面に直接形成された金属めっき層を備えており、
前記エッジ積層面の算術平均高さSaが1.1μm以上5μm以下であり、前記エッジ積層面の最大高さSzが20μm以上40μm以下であり、
前記金属めっき層は、熱伝導率が50W/(m・K)以上の金属で構成されていることを特徴とする金属層付き炭素質部材。
【請求項2】
前記金属層は、前記金属めっき層と、前記金属めっき層に接合された金属部材からなる金属部材層とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の金属層付き炭素質部材。
【請求項3】
前記金属めっき層と前記金属部材層との間に、金属の焼成体からなる接合層が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の金属層付き炭素質部材。
【請求項4】
主面に搭載された発熱体からの熱を面方向に拡げるとともに厚さ方向に伝導させる熱伝導板であって、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の金属層付き炭素質部材を有し、
前記炭素質部材は、前記黒鉛粒子の前記ベーサル面が前記厚さ方向に延在するように配置され、前記黒鉛粒子のエッジ面が向く前記主面に前記金属めっき層が形成されていることを特徴とする熱伝導板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、発熱体からの熱を効率良く伝達させることができ、熱伝導部材として特に適した金属層付き炭素質部材、及び、この金属層付き炭素質部材からなる熱伝導板に関する。
本願は、2018年10月31日に、日本に出願された特願2018-206000号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
例えば、パワーモジュール及びLEDモジュール等のように、発熱体(パワー半導体素子及びLED素子)を搭載する各種装置においては、発熱体から発生した熱を効率良く放熱するためにヒートシンクを備えており、これらの発熱体(素子、及び、素子を搭載した基板等)とヒートシンクとの間に、例えば特許文献1-3に開示されたような熱伝導板が配設されることがある。
【0003】
特許文献1には、絶縁板と、この絶縁板の主面に設けられた板状の2次元超伝熱導体からなる表面導体と、を備えたパワーパワーモジュールが開示されている。2次元超伝熱導体は、グラフェン単層が成長軸方向に幾層も堆積した構造とされており、成長軸方向に直交する面における熱伝導性に優れる。特許文献1においては、この2次元超伝熱導体の表面にチタンを蒸着した後、Ni-Pめっき層を形成している。
【0004】
特許文献2には、熱源との接触面と交差する面に沿ってグラフェンシートが積層された構造体と、前記構造体の周部を被覆する支持部材とを有する異方性熱伝導素子が開示されている。構造体及び支持部材の表面に活性種となるチタン層が形成され、その上にニッケル層又は銅層が形成されている。この特許文献2においては、構造体として、MINTEQ International Inc.製の「PYROID HT」(商標名)が適用されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、第1方向に沿ってグラフェンシートが積層された構造体と、第1方向と交差する第2方向における上記構造体の端面に接合される中間部材とを有し、中間部材が少なくともチタンを含むインサート材を介して上記端面に加圧接合された異方性熱伝導素子が開示されている。この特許文献3においても、構造体として、MINTEQ International Inc.製の「PYROID HT」(商標名)が適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6299407号公報
【文献】特開2011-023670号公報
【文献】特開2012-238733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述の特許文献1~3においては、グラフェンが積層された炭素質部材を保護するため、あるいは、他の部材との接合性を向上させるために、炭素質部材の表面に金属層を形成している。
上述の特許文献1~3においては、グラフェンが積層された炭素質部材の表面に金属層を形成する際には、炭素質部材の表面にチタン層を形成し、このチタン層の上にニッケル層や銅層を形成している。すなわち、活性金属であるチタン層を介在させることによって、炭素質部材と金属層との接合強度を確保している。
しかしながら、チタンは、熱伝導率が17W/(m・K)と比較的低いため、炭素質部材と金属層との間に介在するチタン層が熱抵抗となり、熱伝導板の厚さ方向にグラフェンのベーサル面が延在するように炭素質部材を配置しても、熱を効率良く厚さ方向に伝導させることができないおそれがあった。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、金属層と炭素質部材とが強固に接合されるとともに、熱を効率良く伝導することが可能な金属層付き炭素質部材、及び、この金属層付き炭素質部材を用いた熱伝導板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る金属層付き炭素質部材は、炭素質部材と、この炭素質部材の表面の少なくとも一部に形成された金属層とを備えた金属層付き炭素質部材であって、前記炭素質部材は、単層又は多層のグラフェンが堆積してなるグラフェン集合体と扁平形状の黒鉛粒子とを含み、扁平形状の前記黒鉛粒子が、そのベーサル面が折り重なるように前記グラフェン集合体をバインダーとして積層され、扁平形状の前記黒鉛粒子のベーサル面が一方向に向けて配向した構造とされており、前記金属層は、前記炭素質部材において積層した前記黒鉛粒子のエッジ面が向く表面(エッジ積層面と称する)に直接形成された金属めっき層を備えており、前記エッジ積層面の算術平均高さSaが1.1μm以上5μm以下であり、前記エッジ積層面の最大高さSzが20μm以上40μm以下であり、前記金属めっき層は、熱伝導率が50W/(m・K)以上の金属で構成されている。
【0010】
この金属層付き炭素質部材においては、前記黒鉛粒子のエッジ面が向く表面(エッジ積層面)において適度な凹凸が形成され、前記金属層は積層された前記黒鉛粒子のエッジ面が向く表面(エッジ積層面)に形成された金属めっき層を備えているので、金属めっき層を構成するめっき金属が前記炭素質部材の表層部に存在する凹凸に十分に浸透し、金属めっき層と炭素質部材との接合強度が向上する。よって、炭素質部材と金属層との間に、活性金属であるチタン等を介在させる必要がない。
また、前記金属めっき層は、熱伝導率が50W/(m・K)以上の金属で構成されているので、金属めっき層が大きな熱抵抗とはならない。したがって、金属層に配設される発熱体からの熱を、金属層を通じて炭素質部材側へと効率良く伝導させることが可能となる。
さらに、前記エッジ積層面の算術平均高さSaが1.1μm以上かつ5μm以下であるので、前記エッジ積層面の最大高さSzが20μm以上かつ50μm以下であり、前記エッジ積層面の凹凸に前記金属めっき層がより強く結合するため、金属めっき層と炭素質部材との接合強度が一層向上できる。算術平均高さSaは、測定領域面の高さの平均面に対して、測定面中の各点の高さの差の絶対値の平均を表す。最大高さSzは、測定領域面の表面の最も高い点から最も低い点までの距離を表す。
【0011】
本態様の金属層付き炭素質部材においては、前記金属層は、前記金属めっき層と、前記金属めっき層に接合された金属部材からなる金属部材層とを備えていることが好ましい。この場合、前記金属層が前記金属めっき層と前記金属部材層とを備えているので、前記金属部材層により前記金属層の厚さが確保され、前記金属層に沿って熱を十分に拡げることができ、熱伝導特性をさらに向上させることが可能となる。前記金属めっき層と前記金属部材層とは、金属同士の接合となるため、十分な接合強度を確保できる。
【0012】
本態様の金属層付き炭素質部材においては、前記金属めっき層と前記金属部材層との間に、金属の焼成体からなる接合層が形成されていることが好ましい。この場合、前記金属めっき層と前記金属部材層との間に形成された前記接合層が、金属の焼成体で構成されているので、この金属層付き炭素質部材に熱サイクルが負荷された場合に生じる前記炭素質部材と前記金属部材層との熱膨張率差に起因する熱応力を、前記接合層において緩和することができ、金属層付き炭素質部材の破損を抑制することが可能となる。
【0014】
前記エッジ積層面の算術平均高さSaが1.1μm以上かつ5μm以下であり、前記エッジ積層面の最大高さSzが20μm以上かつ50μm以下であると、より好ましい。さらに好ましくは、前記エッジ積層面の算術平均高さSaが1.1μm以上かつ3.0μm以下であり、前記エッジ積層面の最大高さSzが20μm以上かつ40μm以下である。前記エッジ積層面の算術平均高さSaおよび最大高さSzを測定する場合の基準面は、例えば3.02mm×3.02mmであってもよい。また、算術平均高さSaおよび最大高さSzの測定は、白色干渉顕微鏡により得られた干渉縞明暗情報を高さ情報に変換する方法を用いてもよい。
【0015】
本態様の金属層付き炭素質部材においては、前記エッジ積層面の算術平均高さSaおよび最大高さSzを所定範囲に設定するために、前記エッジ積層面が予めオゾン処理等の粗面化処理によって、粗面化されていてもよい。前記エッジ積層面がオゾン処理された場合には、オゾン処理により粗面化された前記エッジ積層面の凹凸に前記金属めっき層がより強く結合するため、金属めっき層と炭素質部材との接合強度が一層向上できる。
【0016】
本発明の他の態様の熱伝導板は、主面に搭載された発熱体からの熱を面方向に拡げるとともに厚さ方向に伝導させる熱伝導板であって、上述の金属層付き炭素質部材からなり、前記炭素質部材は、前記黒鉛粒子の前記ベーサル面が前記炭素質部材の厚さ方向に延在するように配置され、前記黒鉛粒子のエッジ面が向く前記炭素質部材の主面に前記金属めっき層が形成されている。
【0017】
この熱伝導板によれば、上述の金属層付き炭素質部材からなり、前記炭素質部材は前記黒鉛粒子の前記ベーサル面が前記炭素質部材の厚さ方向に延在するように配置されているので、炭素質部材における厚さ方向への熱伝導率が大きくなる。そして、前記黒鉛粒子のエッジ面が向く前記炭素質部材の主面に前記金属めっき層が形成されているので、主面に搭載された発熱体からの熱を、前記金属めっき層を有する前記金属層において面方向へ効率的に拡げるとともに、厚さ方向に効率的に熱を伝導できる。前記金属めっき層は、熱伝導率が50W/(m・K)以上の金属で構成されるとともに前記黒鉛粒子のエッジ面が向く前記主面に形成されているので、前記金属めっき層が熱抵抗とならず、厚さ方向に効率良く熱を伝導させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金属層と炭素質部材とが強固に接合されるとともに、熱を効率良く伝導することが可能な金属層付き炭素質部材、及び、この金属層付き炭素質部材を用いた熱伝導板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態である熱伝導板(金属層付き炭素質部材)を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【
図2】本発明の実施形態である熱伝導板(金属層付き炭素質部材)の概略説明図である。
【
図3】本発明の実施形態である熱伝導板(金属層付き炭素質部材)の炭素質部材と金属めっき層の接合界面の観察結果である。
【
図4】本発明の実施形態である熱伝導板(金属層付き炭素質部材)の炭素質部材と金属めっき層の接合界面の模式図である。
【
図5】本発明の実施形態である熱伝導板(金属層付き炭素質部材)の製造方法を示すフロー図である。
【
図6】本発明の他の実施形態である熱伝導板(金属層付き炭素質部材)の概略説明図である。
【
図7】本発明の実施形態である熱伝導板(金属層付き炭素質部材)を用いた他のパワーモジュールの概略説明図である。
【
図8】本発明の実施形態である熱伝導板(金属層付き炭素質部材)を用いた他のパワーモジュールの概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。以下に示す各実施形態は、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0021】
まず、
図1から
図5を参照して本発明の実施形態である熱伝導板(金属層付き炭素質部材)を用いたパワーモジュールについて説明する。
図1に示すパワーモジュール1は、絶縁回路基板10と、この絶縁回路基板10の一方の面側(
図1において上側)にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、絶縁回路基板10の他方の面側(
図1において下側)に配設された熱伝導板20と、この熱伝導板20の他方の面側に配設されたヒートシンク30とを備えている。
【0022】
絶縁回路基板10は、絶縁層11と、この絶縁層11の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層12と、絶縁層11の他方の面(
図1において下面)に配設された伝熱層13とを備えている。
絶縁層11は、回路層12と伝熱層13との間の電気的接続を防止するものであって、本実施形態では、絶縁性の高い窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、窒化ケイ素(Si
3N
4)等のセラミックスで構成されている。絶縁層11の厚さは、0.2~1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されていてもよい。
【0023】
回路層12は、絶縁層11の一方の面に、導電性に優れた金属板が接合されることによって形成されている。本実施形態では、回路層12を構成する金属板として、銅又は銅合金からなる銅板、具体的には無酸素銅の圧延板が用いられている。この回路層12には、回路パターンが形成されており、その一方の面(
図1において上面)が、半導体素子3が搭載される搭載面とされている。
回路層12となる金属板(銅板)の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されていてもよい。
【0024】
伝熱層13は、絶縁層11の他方の面に、熱伝導性に優れた金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、伝熱層13を構成する金属板として、銅又は銅合金からなる銅板、具体的には無酸素銅の圧延板が用いられている。
伝熱層13となる金属板(銅板)の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されていてもよい。
セラミックスからなる絶縁層11と回路層12及び伝熱層13となる銅板とは、活性金属を用いたろう付け法,DBC法等によって接合できる。
【0025】
ヒートシンク30は、前述の絶縁回路基板10を冷却するためのものであり、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路31が複数設けられた構造をなしている。
このヒートシンク30は、熱伝導性が良好な材質、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金、銅又は銅合金で構成されていることが好ましく、本実施形態においては、無酸素銅で構成されていてもよい。
【0026】
半導体素子3は、例えばSiやSiC等の半導体材料で構成されている。この半導体素子3は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材からなるはんだ層2を介して回路層12上に搭載されている。
【0027】
絶縁回路基板10とヒートシンク30との間に、本実施形態である熱伝導板20が介在している。後述するように、熱伝導板20の両主面の最表層は、無酸素銅で構成されており、銅からなる絶縁回路基板10の伝熱層13及びヒートシンク30とは、
図1に示すように、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材からなるはんだ層6,8を介して接合されている。
【0028】
本実施形態である熱伝導板20は、
図2に示すように、炭素質部材からなる板本体21と、この板本体21の両主面(エッジ積層面)に形成された金属層25と、を備えている。板本体21を構成する炭素質部材は、単層又は多層のグラフェンが堆積してなるグラフェン集合体と扁平形状の黒鉛粒子とを含み、扁平形状の黒鉛粒子が、そのベーサル面が折り重なるように、グラフェン集合体をバインダーとして積層された構造とされている。
【0029】
扁平形状の黒鉛粒子は、
図4に示すように、炭素六角網面が現れるベーサル面と、炭素六角網面の端部が現れるエッジ面とを有する。この扁平形状の黒鉛粒子としては、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、土状黒鉛、薄片状黒鉛、キッシュグラファイト、熱分解黒鉛、高配向熱分解黒鉛等を用いることができる。黒鉛粒子のベーサル面から見た平均粒径は、例えば線分法で測定した場合に、10μm以上かつ1000μm以下の範囲内であることが好ましく、50μm以上かつ800μm以下の範囲内であることがより好ましい。黒鉛粒子の平均粒径を上述の範囲内とすることで、熱伝導性が向上する。
【0030】
黒鉛粒子の平均厚さは、例えば線分法で測定した場合に、1μm以上かつ50μm以下の範囲内であることが好ましく、1μm以上かつ20μm以下の範囲内であることがより好ましい。黒鉛粒子の厚さを上述の範囲内とすることで、黒鉛粒子の配向性が適度に調整される。
黒鉛粒子の厚みがベーサル面から見た粒径の1/1000~1/2の範囲内とすることによって、優れた熱伝導性と黒鉛粒子の配向性が適度に調整される。黒鉛粒子の厚みはベーサル面から見た粒径の1/1000~1/500の範囲内であることがより好ましい。
【0031】
グラフェン集合体は、単層又は多層のグラフェンが堆積したものであり、多層のグラフェンの積層数は、例えば100層以下、好ましくは50層以下とされている。このグラフェン集合体は、例えば、単層又は多層のグラフェンが低級アルコールや水を含む溶媒に分散されたグラフェン分散液を、ろ紙上に滴下し、溶媒を分離しながら堆積させることによって製造することが可能である。
【0032】
グラフェン集合体の平均粒径は、例えば線分法で測定した場合に、1μm以上1000μm以下の範囲内であることが好ましい。グラフェン集合体の平均粒径を上述の範囲内とすることで、熱伝導性が向上する。グラフェン集合体の平均粒径は、より好ましくは50μm以上かつ800μm以下である。
さらに、グラフェン集合体の厚さは、例えば線分法で測定した場合に、0.05μm以上50μm未満の範囲内であることが好ましい。グラフェン集合体の厚さを上述の範囲内とすることで、炭素質部材の強度が確保される。グラフェン集合体の厚さは、より好ましくは1μm以上かつ20μm以下である。
【0033】
本実施形態においては、板本体21を構成する炭素質部材は、板本体21の厚さ方向に沿って、積層された黒鉛粒子のベーサル面が延在するように配置されている。このため、
図4に示すように、板本体21の主面(エッジ積層面)には、黒鉛粒子のエッジ面が向くことになる。このように、板本体21の主面に黒鉛粒子のエッジ面が向くことによって、板本体21の主面(エッジ積層面)には凹凸が形成される。板本体21の主面(エッジ積層面)の凸部および凹部は、ほぼ平行な一対の面を持つ断面U字状をなしている確率が高いため、金属層25が凹凸部に侵入することにより高いアンカー効果が得られ、エッジ積層面21と金属層25との接合強度が高められる。エッジ積層面の凹凸部を確実に形成するために、オゾン処理を施して表面粗さを大きくすることもできる。
【0034】
この実施形態の金属層25は、板本体21の主面に直接形成された金属めっき層26と、この金属めっき層26と接合された金属部材からなる金属部材層27と、金属部材層27と金属めっき層26の間に形成された接合層28とを備えている。ただし、本発明では、金属層25は単層とすることも可能である。金属めっき層26は、熱伝導率が50W/(m・k)以上の金属で構成されており、具体的には、Ni,Cu,Ag,Sn,Co等の純金属、及び、これらの金属を主成分とする合金で構成されている。これら元素は、チタンよりも高い熱伝導率を有している。本実施形態においては、金属めっき層26は、純銀で構成されたAgめっき層とされていてもよい。
【0035】
金属めっき層26を構成する金属の熱伝導率は、100W/(m・K)以上であることがより好ましい。さらに好ましくは金属めっき層26を構成する金属の熱伝導率は200W/(m・K)以上である。
金属めっき層26の厚さは、0.1μm以上500μm以下の範囲内であることが好ましく、1μm以上300μm以下の範囲内であることがさらに好ましい。金属めっき層26の厚さは、より好ましくは0.5μm以上かつ100μm以下である。
【0036】
金属部材層27を構成する金属部材は、熱伝導性に優れた金属で構成されていることが好ましく、本実施形態の金属部材は、例えば、無酸素銅の圧延板であってもよい。
この金属部材層27の厚さ(金属部材の厚さ)は、30μm以上5000μm以下の範囲内であることが好ましく、50μm以上3000μm以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0037】
金属めっき層26と金属部材層27との間に形成された接合層28は、金属の焼成体で構成されており、本実施形態においては、銀粒子又は酸化銀粒子を含む銀ペーストの焼成体とされている。
この接合層28における緻密度は、例えばSEM像の観察により測定した場合に、60%以上90%以下の範囲内であることが好ましく、70%以上80%以下の範囲内であることがさらに好ましい。接合層28における気孔率を上述の範囲内とすることで、熱サイクル負荷時に生じる熱応力を接合層28において緩和することが可能となる。
【0038】
次に、
図3に、本実施形態における板本体21と金属めっき層26との接合界面の観察写真を、
図4に、板本体21と金属めっき層26との接合界面の模式図を示す。
図3において、下方の黒色部が板本体21(炭素質部材)であり、その上部に位置する灰色部が金属めっき層26(例えばAgめっき層)である。
本実施形態においては、
図3及び
図4に示すように、板本体21の主面に黒鉛粒子のエッジ面が向くことによって、板本体21の主面に凹凸が形成されており、この凹凸に対応して、金属めっき層26のめっき金属(本実施形態ではAg)が板本体21側に浸透している。これによって、金属めっき層26と板本体21とが一般的にアンカー効果と呼ばれる効果により強固に接合される。
【0039】
次に、本実施形態である熱伝導板20(金属層付き炭素質部材)の製造方法について、
図5に示すフロー図を参照して説明する。
【0040】
(板本体形成工程S01)
まず、上述した扁平形状の黒鉛粒子とグラフェン集合体とを所定の配合比となるように秤量し、これをボールミル等の既存の混合装置によって混合する。
得られた混合物を、所定の形状の金型に充填して加圧することにより成形体を得る。加圧時に加熱を実施してもよい。
得られた成形体に対して切り出し加工を行い、板本体21を得る。このとき、扁平形状の黒鉛粒子のベーサル面が板本体21の厚さ方向に延在するとともに、板本体21の主面に、扁平形状の黒鉛粒子のエッジ面が向くように、切り出しを行う。
【0041】
成形時の圧力は、限定はされないが、20MPa以上1000MPa以下の範囲内とすることが好ましく、100MPa以上300MPa以下の範囲内とすることがさらに好ましい。成形時の温度は、限定はされないが、50℃以上300℃以下の範囲内とすることが好ましい。さらに、加圧時間は限定されないが、0.5分以上10分以下の範囲内とすることが好ましい。
【0042】
前記エッジ積層面の算術平均高さSaは、1.1μm以上であり、エッジ積層面の最大高さSzが20μm以上であることが好ましい。この範囲を満たす場合には、前記エッジ積層面の凹凸に金属めっき層がより強く結合するため、金属めっき層と炭素質部材との接合強度が一層向上できる。
【0043】
前記エッジ積層面の算術平均高さSaが1.1μm以上かつ5μm以下であり、前記エッジ積層面の最大高さSzが20μm以上かつ40μm以下であると、より好ましい。さらに好ましくは、前記エッジ積層面の算術平均高さSaが1.1μm以上かつ3μm以下であり、前記エッジ積層面の最大高さSzが20μm以上かつ40μm以下である。前記エッジ積層面の算術平均高さSaおよび最大高さSzを測定する場合の基準面は、例えば3.02mm×3.02mmであってもよい。また、算術平均高さSaおよび最大高さSzの測定は、白色干渉顕微鏡により得られた干渉縞明暗情報を高さ情報に変換する方法を用いることができる。
【0044】
前記エッジ積層面の算術平均高さSaおよび最大高さSzを所定範囲に設定するために、前記エッジ積層面が予めオゾン処理され、粗面化されていてもよい。前記エッジ積層面がオゾン処理された場合には、オゾン処理により形成された前記エッジ積層面の凹凸に前記金属めっき層がより強く結合するため、金属めっき層と炭素質部材との接合強度が一層向上できる。
【0045】
前記エッジ積層面を粗面化するためのオゾン処理の条件は、例えば以下の通りである。
低圧水銀ランプを備えたオゾンクリーニング装置(Model UV312株式会社テクノビジョン)で前記エッジ積層面に紫外線を30分間照射することでオゾン処理を行った。
【0046】
前記エッジ積層面を粗面化するために、オゾン処理の代わりに、プラズマ処理を用いることもでき、その場合の条件の一例として、プラズマ処理装置(ヤマト科学社製 プラズマドライクリーナー「PDC-210」(商品名))で、前記グラフェンにO2プラズマを照射し、プラズマ処理を行う方法も可能である。
【0047】
(金属めっき層形成工程S02)
次に、板本体21の両主面に対して、金属めっき層26を形成する。めっき方法に特に制限はなく、電解めっき法、無電解めっき法等の湿式めっき法を適用できる。本実施形態では、電解めっき法により、Agめっき層を形成してもよい。
めっきを実施する前に、板本体21の主面(エッジ積層面)に対して、プラズマ処理、酸化処理等の前処理を実施してもよい。前処理を行うことにより、エッジ積層面の粗面状態をコントロールすることができる。
【0048】
金属めっき層形成工程S02におけるめっき条件は、限定はされないが、電解めっきにおける電流密度が0.1A/dm2以上10A/dm2以下の範囲内とされており、好ましくは1A/dm2以上3A/dm2以下の範囲内とされている。
めっき液は、限定はされないが、一般的なシアンAgめっき液を使用してもよく、適宜添加剤を使用してもよい。例えば、シアン化銀(AgCN)を30g/L以上50g/L以下の範囲で含み、シアン化カリウム(KCN)を100g/L以上150g/L以下の範囲で含むめっき液を用いることができる。
【0049】
板本体21の主面(エッジ積層面)には、上述のように、適度に配向した黒鉛粒子のエッジ面が向くことによって凹凸が形成されており、この凹凸にめっき液中の金属が入り込み、金属めっき層26のめっき金属が板本体21側に浸透し、板本体21と金属めっき層26とが強固に接合される。
【0050】
(金属部材層形成工程S03)
次に、金属めっき層26の表面に金属部材を接合して金属部材層27を形成する。本実施形態においては、金属めっき層16の表面に、銀粉末あるいは酸化銀粉末を含む銀ペーストを塗布する。銀ペーストは、銀粉末と、溶剤とを含むものとされている。必要に応じて樹脂や分散剤を含有しても良い。銀粉末に代えて、酸化銀粉末と還元剤とを含有するものとしてもよい。
銀粉末及び酸化銀粉末の平均粒径は、10nm以上10μm以下の範囲内とすることが好ましく、100nm以上1μm以下の範囲内とすることがさらに好ましい。銀ペーストの塗布厚さは、10μm以上100μm以下の範囲内とすることが好ましく、30μm以上50μm以下の範囲内とすることがさらに好ましい。
【0051】
上述のようにして塗布した銀ペーストの上に、金属部材である無酸素銅の圧延板を積層する。そして、金属部材である無酸素銅の圧延板と金属めっき層26が形成された板本体21とを積層方向に加圧するとともに加熱して、銀ペーストを焼成することにより、金属部材と金属めっき層26とを接合する。
【0052】
前記加圧時の加圧荷重は、限定はされないが、5MPa以上30MPa以下の範囲内、加熱温度が150℃以上280℃以下の範囲内とされていることが好ましい。また、本実施形態においては、限定はされないが、上述の加熱温度での保持時間が3分以上20分以下の範囲内、雰囲気が非酸化雰囲気とされていることが好ましい。
金属部材層27と金属めっき層26との間には、銀の焼成体からなる接合層28が形成されることになり、接合条件を上述のように規定することで、接合層28における気孔率が例えば70%以上80%以下の範囲内とされる。
【0053】
以上の工程により、本実施形態である熱伝導板20(金属層付き炭素質部材)が製造される。
【0054】
本実施形態の熱伝導板20(金属層付き炭素質部材)によれば、板本体21を構成する炭素質部材が、単層又は多層のグラフェンが堆積してなるグラフェン集合体と扁平形状の黒鉛粒子とを含み、扁平形状の黒鉛粒子が、そのベーサル面が折り重なるようにグラフェン集合体をバインダーとして積層された構造とされ、黒鉛粒子のベーサル面が、板本体の厚さ方向に延在するように配置されているので、板本体21(炭素質部材)において厚さ方向への熱伝導率が大きくなる。
【0055】
板本体21の主面には、黒鉛粒子のエッジ面が向くことによって、凹凸が形成される。
凹凸が形成された板本体21の主面(エッジ積層面)に、金属めっき層26が形成されているので、
図3に示すように、金属めっき層26のめっき金属が板本体21(炭素質部材)の内部に十分に浸透しており、金属めっき層26と板本体21(炭素質部材)とが、粗面のアンカー効果により強固に接合されている。
金属めっき層26は、熱伝導率が50W/(m・K)以上の金属で構成されており、具体的には、Ni,Cu,Ag,Sn,Co等の純金属、及び、これらの金属を主成分とする合金で構成されており、本実施形態ではAgめっき層とされているので、金属めっき層26が大きな熱抵抗とはならない。
したがって、金属層25に搭載された発熱体(半導体素子3を搭載した絶縁回路基板10)からの熱を板本体21の厚さ方向へと効率良く伝導させることが可能となる。
【0056】
また、本実施形態においては、金属層25は、金属めっき層26と、この金属めっき層26に接合された金属部材からなる金属部材層27と、を備えているので、金属層25の厚さが確保され、この金属層25に沿って発熱体(半導体素子3を搭載した絶縁回路基板10)からの熱を面方向に十分に拡げることができ、熱伝導特性をさらに向上させることが可能となる。さらに、金属めっき層26と金属部材層27とは、金属同士の接合となるため、十分な接合強度を確保できる。
【0057】
また、本実施形態においては、金属めっき層26と金属部材層27との間に、金属の焼成体からなる接合層28が形成されているので、この熱伝導板20(金属層付き炭素質部材)に熱サイクルが負荷された場合に生じる熱応力を、この接合層28において緩和することができ、熱サイクルが負荷時における熱伝導板20(金属層付き炭素質部材)の破損を抑制することが可能となる。
特に、本実施形態では、接合層28における気孔率が70%以上80%以下の範囲内とされた場合には、確実に熱応力を緩和できるとともに、この接合層28が熱抵抗となることを抑制できる。
【0058】
さらに、本実施形態においては、板本体21の両主面にそれぞれ金属層25が形成されているので、金属層25を形成する際の熱履歴によって、板本体21に反りが生じることを抑制できる。
本実施形態においては、板本体の両主面に凹凸が形成されているため金属めっき層26の板本体21とのアンカー効果が発揮されているので、金属めっき層26と板本体21(炭素質部材)との接合強度を十分に向上させることができる。
【0059】
さらに、本実施形態では、絶縁回路基板10とヒートシンク30との間に熱伝導板20が配設されているので、熱伝導板20の一方の主面側に形成された金属層25において、絶縁回路基板10からの熱を面方向に拡げることができ、この熱を厚さ方向に効率良く伝達させ、ヒートシンク30において放熱できる。よって、放熱特性に優れたパワーモジュール1を構成できる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、絶縁回路基板の回路層に半導体素子(パワー半導体素子)を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【0061】
本実施形態では、金属めっき層と金属部材層とを金属ペーストを用いて接合する構成として説明したが、これに限定されることはなく、金属めっき層と金属部材層(金属部材)との接合方法に特に制限はなく、ろう付け法、拡散接合法等の既存の各種方法を適用できる。
【0062】
例えば、
図6に示す熱伝導板120(金属層付き炭素質部材)のように、金属めっき層126及び金属部材層127の一方がアルミニウム又はアルミニウム合金で構成され、金属めっき層126及び金属部材層127の他方が銅又は銅合金で構成されている場合には、固相拡散接合によって、金属めっき層126と金属部材層127とを接合してもよい。この場合、金属めっき層126と金属部材層127との接合界面には、複数種の銅とアルミニウムの金属間化合物が層状に形成することになる。
【0063】
本実施形態では、
図1に示すように、絶縁回路基板10とヒートシンク30との間に熱伝導板20を配設した構造のパワーモジュール1を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、本発明の熱伝導板(金属層付き炭素質部材)の使用方法に特に制限はない。
【0064】
例えば、
図7に示す熱伝導板220(金属層付き炭素質部材)のように、絶縁回路基板210の回路層212と半導体素子3との間に配設された構造としてもよい。この場合、熱伝導板220(金属層付き炭素質部材)の金属層225を例えばSnで構成することにより、半導体素子3及び回路層212と熱伝導板220(金属層付き炭素質部材)とを、はんだ材を用いて接合できる。
【0065】
さらに、
図8に示す熱伝導板320(金属層付き炭素質部材)のように、絶縁回路基板310の伝熱層として、熱伝導板320(金属層付き炭素質部材)を用いてもよい。すなわち、絶縁層311の一方の面に回路層312が形成され、絶縁層311の他方の面に本発明の熱伝導板320を接合し、絶縁回路基板310を構成してもよい。
【実施例】
【0066】
本発明の有効性を確認するために行った確認実験について説明する。
【0067】
[実験1]
本実施形態で開示したように、扁平形状の黒鉛粒子とグラフェン集合体を所定の配合比で配合して混合し、加圧加熱して成形することにより、扁平形状の黒鉛粒子が、そのベーサル面が折り重なるようにグラフェン集合体をバインダーとして積層された構造の成形体を得た。
【0068】
前記黒鉛粒子のベーサル面から見た平均粒径は線分法で測定したところ100μmであった。前記黒鉛粒子の平均厚さは線分法で測定したところ3μmであった。前記グラフェン集合体は、電子顕微鏡の視野範囲内で確認したところ、平均で10層であった。前記グラフェン集合体の平均粒径は線分法で測定したところ5μmであり、前記グラフェン集合体の平均厚さは10μmであった。
【0069】
得られた成形体について、扁平形状の黒鉛粒子のベーサル面が板本体の厚さ方向に延在するとともに、板本体の主面に扁平形状の黒鉛粒子のエッジ面が向くように、切り出しを行った。
【0070】
本実施形態に記載した方法で、上述の板本体のエッジ面が向く表面(エッジ積層面)にAgめっき層(厚さ2μm)を直接形成し、熱伝導板(金属層付き炭素質部材)を得た。得られた熱伝導板について、金属層の密着性を、JIS K 5600-5-6(付着性試験(クロスカット法))を参考に評価した。金属層の形成後に、金属層に100μm間隔で格子状にクロスカットを行い、クロスカットした金属層に透明なテープを貼り付け、テープを剥離した際に金属層が剥がれるか確認することで評価した。その結果、金属層の剥離はなく、金属層と炭素質部材とが強固に接合されていることが確認された。
【0071】
以上のことから、本発明によれば、チタンを介在することなく、金属層と炭素質部材とが強固に接合されるともに、熱を効率良く伝導することが可能な金属層付き炭素質部材(熱伝導板)を提供可能であることが確認された。
【0072】
[実験2]
実施例1、2および比較例1、2の熱伝導板を作成するために、表1に記載の算術表面高さSa、最大高さSzを有する炭素質部材を用意した。算術表面高さSaを大きくするために、実施例1ではオゾン処理を施した。
【0073】
実施例1となる成形体には、エッジ積層面に以下の条件でオゾン処理を行い、粗面化した。
オゾン処理条件:紫外線を30分間照射することでオゾン処理を行った。
【0074】
実施例1,2および比較例1、2となる成形体のエッジ積層面を、白色干渉顕微鏡(ズーム5.5倍の0.5倍を使用した)で観察し、視野3.02mm×3.02mmの領域を撮影して、干渉縞からエッジ積層面の算術平均高さSaおよび最大高さSzを測定した。結果を表1に示す。
【0075】
次に、表1に記載の金属めっき種類の金属を、直接エッジ積層面上に平均厚さ2μmで形成し、実施例1,2および比較例1,2の熱伝導板(金属層付き炭素質部材)を得た。
【0076】
実施例1,2および比較例1,2の熱伝導板について、実験1と同様の方法でクロスカット試験を行い、金属層の密着性を評価した。結果を併せて表1に示す。
【0077】
【0078】
表1に示すように、エッジ積層面の算術平均高さSaが1.1μm以上で、最大高さSzが20μm以上である実施例1,2では、金属めっき層の剥離は生じなかった。しかし、エッジ積層面の算術平均高さSaが1.1μm以上かつ最大高さSzが20μm以上の条件を満たしていない比較例1,2では剥離が生じた。エッジ積層面にオゾン処理を行った実施例1でも、良好な接合強度が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、金属層と炭素質部材とが強固に接合されるとともに、熱を効率良く伝導することが可能な金属層付き炭素質部材、及び、この金属層付き炭素質部材を用いた熱伝導板を提供することが可能となるから、産業上の利用が可能である。
【符号の説明】
【0080】
20,120,220,320 熱伝導板(金属層付き炭素質部材)
21,121 板本体(炭素質部材)
25,125 金属層
26,126 金属めっき層
27,127 金属部材層
28 接合層