(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】骨代謝改善用組成物及び骨代謝改善用食品
(51)【国際特許分類】
A61K 31/192 20060101AFI20220329BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20220329BHJP
A61P 19/10 20060101ALI20220329BHJP
A61K 36/07 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
A61K31/192
A61P19/00
A61P19/10
A61K36/07
(21)【出願番号】P 2017040722
(22)【出願日】2017-03-03
【審査請求日】2020-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000119520
【氏名又は名称】一正蒲鉾株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100187481
【氏名又は名称】小原 淳史
(72)【発明者】
【氏名】白坂 憲章
(72)【発明者】
【氏名】田中 照佳
(72)【発明者】
【氏名】福田 泰久
(72)【発明者】
【氏名】川口 信久
(72)【発明者】
【氏名】沼田 史江
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-521883(JP,A)
【文献】特開2005-132812(JP,A)
【文献】Nutrients,Vol.6,2014年,pp.1737-1751
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 36/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】
(式中、R
1は、メトキシ基である。)
で示されるシリンガ酸を
、組成物全量を100質量部として0.1~20質量部の量で、有効成分として含む骨代謝改善用組成物。
【請求項2】
キノコ廃培地の抽出物又はその処理物である、請求項1
に記載の骨代謝改善用組成物。
【請求項3】
骨代謝改善が、骨粗鬆症の予防又は治療である、請求項1
又は2に記載の骨代謝改善用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨代謝改善用組成物及び骨代謝改善用食品に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢人口の増加に伴う、骨粗鬆症患者の増加が問題となっている。2000年アメリカの国立衛生研究所(NIH)で開催されたコンセンサス会議にて、骨粗鬆症は「骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患」と定義された。遺伝的要因ばかりでなく環境要因(生活習慣)にも影響を受けることから、骨粗鬆症は生活習慣病の一つと考えられており、薬物療法以外に適切な運動や日常摂取する食品に留意して予防することが重要である。現在、骨粗鬆症治療薬として使用されているものとしては、ビスホスホネート製剤(アレンドレネート、リセドロネート等)、選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)製剤(ラロキシフェン、タモキシフェン等)、カルシトニン製剤、ビタミンD製剤及びカルシウム製剤等が挙げられる。
【0003】
例えば、(特許文献1)には、テプレノン等のゲラニル化合物、その薬学上許容される塩又はそれらの混合物と併用するための、ビスホスホネートを有効成分とする骨粗鬆症又は骨減少症の治療剤が開示されている。
【0004】
しかし、これらの薬物療法は長期間の治療を要し、副作用の問題がある。例えば、骨粗鬆症治療の第一選択薬であるビスホスホネート製剤は、服用方法が厳格な上、食道炎を誘発する恐れがあり、SERMの長期投与は、乳癌、子宮癌等の懸念もある。さらに、長期療法による医療コストの高騰も社会問題になっている。このような状況下、長期投与が必要な薬物療法をサポートするものとして、その予防・治療効果があり、副作用が少なく安全性が高く、日常的に摂取可能な機能性食品の開発が望まれている。特に、大豆や大豆イソフラボノイドの骨粗鬆症予防に関して多くの報告がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、骨粗鬆症等の骨代謝疾患に対して予防及び治療効果を有し、且つ副作用が少なく安全性が高い骨代謝改善用組成物及び骨代謝改善用食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、キノコ菌糸体やアサイーオイル等に含まれるシリンガ酸、及びその類似体であるバニリン酸が、骨代謝を改善する機能を有することを新たに見い出し、発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
【0008】
(1)式(I)
【化1】
(式中、R
1は、水素原子又はメトキシ基である。)
で示される化合物、その塩もしくはエステル、又はそれらの配糖体を有効成分として含む骨代謝改善用組成物。
(2)式(I)で示される化合物、その塩もしくはエステル、又はそれらの配糖体を、組成物全量を100質量部として、0.1~20質量部含む、上記(1)に記載の骨代謝改善用組成物。
(3)キノコ廃培地の抽出物又はその処理物である、上記(1)又は(2)に記載の骨代謝改善用組成物。
(4)骨代謝改善が、骨粗鬆症の予防又は治療である、上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の骨代謝改善用組成物。
(5)式(I)
【化2】
(式中、R
1は、水素原子又はメトキシ基である。)
で示される化合物、その塩もしくはエステル、又はそれらの配糖体を含む骨代謝改善用食品。
(6)骨代謝改善が、骨粗鬆症の予防又は治療である、上記(5)に記載の骨代謝改善用食品。
【発明の効果】
【0009】
シリンガ酸及びバニリン酸を有効成分とする本発明の骨代謝改善用組成物及び骨代謝改善用食品は、骨粗鬆症等の骨代謝疾患を効果的に予防・治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】シリンガ酸(SA)投与10週後の尿中Dpd量を示すグラフである。
【
図2】シリンガ酸(SA)投与10週後の皮質骨密度を示すグラフである。
【
図3】シリンガ酸(SA)投与10週後の海綿骨密度を示すグラフである。
【
図4】シリンガ酸(SA)投与10週後の全骨密度を示すグラフである。
【
図5】シリンガ酸(SA)投与10週後の最小断面2次モーメントを示すグラフである。
【
図6】シリンガ酸(SA)投与10週後の断面2次モーメントを示すグラフである。
【
図7】各試料の抽出物におけるシリンガ酸及びバニリン酸の含有量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態に基づき本発明を詳細に説明する。
本実施形態に係る組成物は、式(I)
【化3】
(式中、R
1は、水素原子又はメトキシ基である。)で示される化合物、その塩もしくはエステル、又はそれらの配糖体を有効成分として含む。R
1がメトキシ基である式(I)の化合物はシリンガ酸に、R
1が水素原子である式(I)の化合物はバニリン酸にそれぞれ対応する。
【0012】
シリンガ酸は、アサイー(Euterpe oleracea)やシイタケ菌糸体(Lentinula edodes)に含まれるフェノール誘導体であり、これらの天然物から通常の方法を用いて抽出することができる。また、バニリン酸は、シリンガ酸と同様に、トウキ(Angelica acutiloba)、アサイー、シイタケ菌糸体等の多くの食用植物中に含まれるフェノール誘導体であり、これらの天然物から通常の方法を用いて抽出することができる。あるいは、細菌を培養し抽出する方法(特開平11-69990号公報、特表2003-520580号公報)、パルプ廃材等のリグニンから超臨界水処理による加水分解を行う方法(特開平11-292799号公報)、草食動物の糞を亜臨界状態の水で処理する方法(特開2007-291065号公報)によって、シリンガ酸、バニリン酸を工業的に製造しても良い。
【0013】
また、シリンガ酸及び/又はバニリン酸を含むキノコや穀物由来の各種原料の抽出物又はその処理物を、本実施形態に係る骨代謝改善用組成物として用いることができる。特に、キノコ廃培地の抽出物又はその処理物は、シリンガ酸及び/又はバニリン酸の含有量が多いため好ましく用いられる。ここで処理物とは、抽出物に分離、精製、単離等の各種処理の少なくとも1つを施したものである。
【0014】
抽出物は、キノコ廃培地等の原料をメタノール等の抽出溶媒を用いて抽出することにより得ることができる。抽出温度は、好ましくは室温ないし沸点の範囲内であり、例えば20~60℃である。抽出時間は、抽出温度等により異なるが、好ましくは1~36時間であり、さらに好ましくは12~24時間である。
【0015】
抽出溶媒としては、水;脂肪族炭化水素類、例えばヘキサン;クロロホルム;アルコール類、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール;エステル類、例えば酢酸エチル等の酢酸エステル;エーテル類、例えばエチルエーテル、ジオキサン;ケトン類、例えばアセトン等が挙げられる。抽出物を一旦溶媒除去して乾燥物として用いる場合には、前述した任意の溶媒を単独で又は混合して用いることができる。一方、抽出物を溶媒に溶解した状態で用いる場合には、人体に対して有害な作用を示さない溶媒を用いる必要があり、この場合には、水、エタノール又はこれらの混合物を用いることが好ましい。
【0016】
抽出物としては、例えば、キノコ廃培地等の各種原料のメタノール抽出物、該抽出物を酢酸エステルと塩基性水溶液とで分配して得られた水溶液抽出物、及び、該水溶液抽出物をさらに酸性条件下で酢酸エステルを用いて抽出したもの等が挙げられる。
【0017】
抽出物は、必要に応じて、布、ステンレスフィルター、濾紙、濾過滅菌用フィルター等で濾過して不溶物、不純物等を除去しても良い。また、濾過後の抽出液に、スプレードライ処理、フリーズドライ処理、超臨界処理等の処理を施しても良い。
【0018】
抽出物は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、吸着・逆相分配クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、透析等の各種精製手段により処理し、さらに活性を高めた処理物としても良い。
【0019】
このような抽出物又はその処理物は、一例として、下記「2.骨代謝改善用組成物(シリンガ酸及びバニリン酸を含む抽出物)の調製」に記載した方法により得ることができる。
【0020】
式(I)で示される化合物の塩としては、生理的に許容されるものであれば、特に限定されることなく種々の塩を用いることができる。例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミン塩、トリエチルアミン塩等の有機アミン塩等を挙げることができる。好ましくはアルカリ金属塩であり、カリウム塩であることが特に好ましい。また、結晶水付加物であっても良い。
【0021】
式(I)で示される化合物のエステルとしては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0022】
また、式(I)で示される化合物の配糖体も有効成分として用いることができる。配糖体の糖残基としては、ウロン酸残基、グルクロン酸残基、グルコース残基、アラビノース残基、マルトース残基、グルコピラノシルグルコピラノシヅロン酸残基、オリゴガラクツロン酸残基等が挙げられる。好ましくは、グルコース残基及びグルコピラノシルグルコピラノシヅロン酸残基である。配糖体の製造方法は特に限定されるものではなく、従来知られた方法に準じて製造することができる。例えば、グルコシダーゼやグルクロニダーゼ等の酵素を用い、式(I)で示される酸と糖とを非アルコール性溶媒中で反応させる方法や、式(I)で示される酸の水酸基を予めアシル基等で保護した後、カルボキシル基を塩化チオニル等の塩素化剤で塩素化して酸クロリドとし、これを同様に予め水酸基をアセチル基等のアシル基で保護した糖部分と酸化銀等を触媒として反応させ、その後、接触還元により保護基をはずすことによって得ることができる。
【0023】
本実施形態に係る組成物は、式(I)で示される化合物、その塩もしくはエステル、又はそれらの配糖体のいずれか一種が単独で含まれていても良いし、二種以上が混合状態で含まれていても良い。例えば、シリンガ酸及びバニリン酸を混合状態で含有するキノコ廃培地の抽出物をそのまま利用することができる。
【0024】
本実施形態に係る組成物は、骨代謝を改善する機能を有する。すなわち、骨は、絶えず骨形成と骨吸収を繰り返して維持されている。正常な骨を維持するためには骨形成と骨吸収のバランスが保たれなければならないが、そのバランスが破綻し、骨吸収へ傾くと骨代謝疾患を生じることになる。骨代謝疾患は、非炎症性のもの、炎症性のもの、及び腫瘍性のものに大きく分けることができる。非炎症性の骨代謝疾患は加齢や女性ホルモンの減少等を原因とするもので、代表的なものとして閉経後等における骨粗鬆症が挙げられる。炎症性のものとしては、関節リウマチ等のリウマチ性疾患が挙げられる。また、腫瘍性のものとしては多発性骨髄腫等が挙げられる。本実施形態に係る組成物は、骨代謝改善用組成物として、骨粗鬆症の予防又は治療等、骨代謝疾患の予防又は治療に好適に用いることができる。
【0025】
骨代謝改善用組成物における式(I)に示される化合物等の有効成分の含有量は、骨代謝の改善機能を発揮させる観点から適宜設定することができる。具体的には、式(I)で示される化合物、その塩もしくはエステル、又はそれらの配糖体を、組成物全量を100質量部として、0.1~20質量部含むことが好ましい。特に好ましくは、1~10質量部である。また、本実施形態に係る組成物を、骨代謝を改善する目的でヒトに摂取させる場合、式(I)で示される化合物、その塩もしくはエステル、又はそれらの配糖体の摂取量が、10μg~5g/日/kg体重となるように有効成分の含有量を設定することが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0026】
骨代謝改善用組成物には、式(I)で示される化合物等の前記必須成分以外に、種々の任意成分を含有することができる。このような成分として、例えば、賦形剤、矯味剤、矯臭剤、結合剤、甘味剤、酸味剤、分散剤、乳化剤、着色剤、保存料、抗酸化剤、安定剤等を挙げることができる。
【0027】
さらに、式(I)で示される化合物、その塩もしくはエステル、又はそれらの配糖体を含む食品は、骨代謝改善機能を有する食品として用いることができる。このような食品としては、各種飲料、調味料、アルコール飲料、ゼリー、菓子等、どのような形態でも良く、菓子類の中でも、保存性に優れたハードキャンディ、ソフトキャンディ、グミキャンディ、タブレット等が挙げられるが、これに限定されるものではない。また、式(I)で示される化合物、その塩もしくはエステル、又はそれらの配糖体を0.01~10mg/g程度の濃度で含むアサイーオイル、チャーガ、キノコ菌糸体等の食品を骨代謝改善用の機能性食品として摂取することができる。
【0028】
式(I)で示される化合物、その塩もしくはエステル、又はそれらの配糖体は安全性に優れたものであり、そのため、ヒトに対してだけでなく、非ヒト動物、例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー等の哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類等の治療剤又は飼料に配合しても良い。飼料としては、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ニワトリ等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、ウナギ、タイ、ハマチ、エビ等に用いる魚介類用飼料、イヌ、ネコ、小鳥、リス等に用いるペットフード等が挙げられる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
1.シリンガ酸の骨代謝改善作用
(1)薬剤
シリンガ酸(>97%純度)は、東京化成工業(株)から購入した。また、試験において使用する他の薬剤は全て高純度のものを用いた。
【0031】
(2)マウスの選択及び群分け
雌性ddYマウスは、日本エスエルシー(株)から購入した。各マウスは、個別のケージで、20±2℃、12時間/12時間の明暗サイクルの条件で飼育した。試験期間中、体重及び食物摂取量を週に一回測定した。11週齢の雌性ddYマウスに卵巣摘出手術(OVX)を実施し、骨粗鬆症モデルマウスを作製した群、並びに偽手術(sham)を実施した群を、それぞれ1週間の予備飼育後、一般状態に異常がみられなかったマウスを選択し、OVX及びshamのそれぞれをシリンガ酸(SA)摂取群及び非摂取群の2群に分け、計4群に分けた。
【0032】
(3)試験方法及び結果
普通飼料は表1に示した組成で調製し、シリンガ酸含飼料は表1で示した飼料に100mg/kg体重/日(5.0gの飼料中、3mgシリンガ酸/30gマウス/日に相当)の用量となるように飼料に混ぜて調製した。飼料又は水は各々自由摂取させた。
【0033】
【0034】
投与10週目に強制採尿して、骨吸収マーカーであるデオキシピリジノリン(Dpd)の尿中含量を、体外診断用医薬品(オステオリンクスDPD;DSファーマバイオメディカル株式会社)を用いてELISA法で測定した。さらに、クレアチニン(Cr)量をピクリン酸法により測定し、その量比を算出した。結果を
図1に示す。
【0035】
次に、投与10週目、イソフルランによる麻酔下で、コンピュータ断層撮影(CT)法(LCT-100、アロカ社製)を用いて右及び左大腿骨遠位部をスキャンし(0.1mm間隔、60スライス)、皮質骨、海綿骨及び全骨の密度、並びに骨強度(最小断面2次モーメント、及び断面2次モーメント)を測定した。測定値は、右及び左の骨の平均値を採用した。結果を
図2~6に示す。
【0036】
全てのデータは平均値±標準誤差で示した。有意差検定を行い、P<0.05で有意差ありと判定した。
【0037】
偽手術-SA群(n=6)、OVX-SA群(n=7)について、10週間の体重及び食物摂取量変化を調べたところ、いずれの群にもSAの摂取による体重変化はみられなかった。偽手術-非摂取群、偽手術-SA群、OVX-非摂取群、及びOVX-SA群における最終的な体重は、それぞれ35.1±1.5、34.5±2.4、39.1±3.4、及び38.6±2.4gであった。また、偽手術-SA群及びOVX-SA群について食物摂取量に違いはみられなかった。
【0038】
図1に示すように、骨粗鬆症モデルマウス(OVXマウス)において、シリンガ酸摂取群では、骨吸収マーカーであるデオキシピリジノリン(Dpd)の上昇が抑制された。なお、偽手術群では、シリンガ酸の摂取の有無によりDpdのレベルに大きな違いはみられなかった。
【0039】
また、
図2~4に示すように、骨粗鬆症モデルマウス(OVXマウス)では、シリンガ酸の摂取によって海綿骨、皮質骨及び全骨の密度はいずれも上昇することが明らかとなった。偽手術マウスでは、シリンガ酸の摂取による骨密度の上昇はみられなかった。
【0040】
さらに、
図5及び
図6に示すように、OVXマウスにおいては、シリンガ酸の摂取により、曲げに対する強さの指標である最小断面2次モーメント、ねじれに対する強さの指標である断面2次モーメントは有意に上昇した。偽手術マウスでは、シリンガ酸の摂取による骨強度の大きな変化はみられなかった。以上の結果から、シリンガ酸は、骨粗鬆症をはじめとする骨代謝疾患の予防と改善に効果的であることが示唆された。
【0041】
2.骨代謝改善用組成物(シリンガ酸及びバニリン酸を含む抽出物)の調製
以下の工程に従ってシリンガ酸及びバニリン酸の抽出を行った。
(1)50ml容ネジ口試験官に入れた試料をオートクレーブ処理(121℃、20分間)した。これにメタノール(40~50ml)及び飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(1ml)をこの順で加え、時々撹拌及び超音波処理を行いながら50℃で一晩(又は2時間)抽出し、得られた抽出液を濾過し、濾液をエバポレーターにて濃縮した。
(2)得られた残渣に、酢酸エチル(5ml)、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液3ml及び蒸留水2mlを加えてボルテックスミキサーを用いて撹拌し、酢酸エチルと水とで二層分配した。
(3)得られた水層(下層)に、酢酸エチル(5ml)を加え、ボルテックスミキサーを用いて撹拌し、酢酸エチルと水とで二層分配した。
(4)得られた水層(下層)に濃塩酸(1ml)を加えてpH3以下とし、これに酢酸エチル(5ml)を加えて、ボルテックスミキサーを用いて撹拌し、酢酸エチルと水とで二層分配した。
(5)得られた酢酸エチル層(上層)をエバポレーターで濃縮させて残渣として抽出物を得た。
【0042】
得られた抽出物をメタノール(1ml)に溶解させてHPLC分析を行った。この時沈殿が生じた場合には遠心除去を行った。HPLC分析の条件は以下の通りである。
カラム:COSMOSIL 5C18AR-II(ナカライテスク社)
流速:0.5ml/分
移動相:
0~45分 :10%メタノール/水から50%メタノール/水への直線勾配
45~50分:50%メタノール/水から80%メタノールへの直線勾配
50~80分:80%メタノール/水。
【0043】
小麦フスマ1~2gを試料として用い、上記工程により抽出物を得た。シリンガ酸の標準試料との比較により保持時間26分にシリンガ酸のピークが観察された。
【0044】
表2に示す量の各試料を用いて上記工程により抽出物を得た。それぞれの抽出物を上記条件にてHLPC分析することにより得られた結果を
図7に示す。
【0045】
【0046】
図7に示すように、各種原料に基づいて、有効量のシリンガ酸及びバニリン酸を含む抽出物が得られた。特に、キノコ廃培地を利用して、シリンガ酸及びバニリン酸を高濃度で含む抽出物を得ることができた。これらの抽出物は、骨代謝改善用の組成物として好適に利用することができる。