(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】渦電流探傷システムおよび渦電流探傷方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/90 20210101AFI20220329BHJP
G21F 9/36 20060101ALI20220329BHJP
G21F 5/12 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
G01N27/90
G21F9/36 511P
G21F5/12 E
(21)【出願番号】P 2017185533
(22)【出願日】2017-09-27
【審査請求日】2020-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399102323
【氏名又は名称】日本電測機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒井 浩成
(72)【発明者】
【氏名】秦 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆明
(72)【発明者】
【氏名】東 弘
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-127854(JP,A)
【文献】特開2016-197085(JP,A)
【文献】特開平08-136509(JP,A)
【文献】特許第4885068(JP,B2)
【文献】中国特許出願公開第107192758(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72-G01N 27/9093
G21C 17/00-G21C 17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物および渦電流探傷装置を含む渦電流探傷システムにおいて、
前記検査対象物は、オーステナイト系ステンレス鋼を材料として製造され、前記オーステナイト系ステンレス鋼同士の溶接が行われた溶接部を有し、
前記渦電流探傷装置は、
前記検査対象物に渦電流を発生させ、前記渦電流の変化を検出することにより前記検査対象物の
前記溶接部の表面の状態を検査する渦電流探傷装置
であり、
前記渦電流の変化を検出するための検出部と、
前記検出部の外側に配置され、前記検査対象物に磁界をかける磁界形成用磁石と
を備え、
前記磁界形成用磁石の前記検査対象物へ向く磁石先端部の中央と、前記検出部の中央との距離をx(単位mm)、
前記検査対象物の厚みをt(単位mm)とするとき、
前記磁界形成用磁石により発生する磁界の磁束密度B(単位mT)が、前記磁石先端部の中央に対応する前記検査対象物の表面において下記の数1を満たすこと
【数1】
を特徴とする渦電流探傷
システム。
【請求項2】
前記磁界形成用磁石により発生する磁界の磁束密度B(単位mT)が、前記磁石先端部の中央に対応する前記検査対象物の表面において下記の数2を満たすこと
【数2】
を特徴とする請求項1に記載の渦電流探傷
システム。
【請求項3】
前記検査対象物が、使用済み核燃料が封入される金属製のキャニスタであり、
前記渦電流探傷装置が、前記キャニスタの外表面に渦電流を発生させて、前記キャニスタの外表面における傷の有無を検査すること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の渦電流探傷
システム。
【請求項4】
オーステナイト系ステンレス鋼を材料として製造され、オーステナイト系ステンレス鋼同士の溶接が行われた溶接部を有する検査対象物に対し、渦電流探傷装置によって
前記検査対象物に渦電流を発生させ、前記渦電流を測定することにより前記検査対象物の
前記溶接部の表面における傷の有無を検査する渦電流探傷方法において、
前記渦電流探傷装置の磁界形成用磁石によって前記検査対象物に磁界をかけながら、前記渦電流探傷装置によって前記検査対象物に前記渦電流を発生させ、前記渦電流から生じる磁束を前記渦電流探傷装置の検出部で受けることにより検査を行い、
磁界形成用磁石によって前記検査対象物にかけられる磁界は、前記磁界形成用磁石の前記検査対象物へ向く磁石先端部の中央に対応する前記検査対象物の表面における磁束密度B(単位mT)が下記の数3を満たす磁界であり、
【数3】
ここで、x(単位mm)は前記磁石先端部の中央と、前記検出面の中央との距離、
t(単位mm)は前記検査対象物の厚みであること
を特徴とする渦電流探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦電流探傷システム、特に磁気飽和法を用いた渦電流探傷システムに関するものである。また本発明は渦電流探傷方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性材料からなる構造物表面(被検体、検査対象物)に傷(欠陥)が生じているかどうかを検査するための探傷装置として、特許文献1に記載されているような渦電流探傷装置が用いられることがある。この装置によれば、検査対象物に渦電流を発生させ、その渦電流の強度および流れの形の変化を検出することで、検査対象物に傷が生じているかどうかを調べることができる。また傷がある場合にはその傷の位置、形状、深さを調べることもできる。
【0003】
ところで、非磁性体の物体に、たたく、まげる、加熱するといった仕事を加えた場合、加えた仕事の仕事量が大きいと物体が非磁性体から磁性体に変化することが知られている。特に溶接は高温で仕事量が大きいため、その影響を受ける部位が磁性体に変化する。このため、非磁性体の材料をベースとし、一部に溶接が施された検査対象物の場合、溶接個所付近は不規則な磁界を有する磁性体となっている。
【0004】
ここで、このような非磁性体の中に不規則な磁界を有する磁性体が存在する領域に傷があるかどうかの検査を行う場合を想定する。上述した探傷装置を用いて検査を行うと、検査対象の領域は磁界が乱れているため検査対象物に生じる渦電流にノイズが生じ、傷を検出することが非常に困難となる。
【0005】
このような状況に対応するための1つの手法として、磁気飽和を利用する手法がある。この手法では、外部から強力な磁力を検査領域に与え、検査領域に強力な均一磁界を形成する。すると、この強力な均一磁界により、検査領域に生じている不規則な磁界が打ち消される。励磁コイルにより検査対象物の表面に生成される渦電流は、この均一磁界中を移動することになるため、検査対象物の表面に傷がある場合、その傷により渦電流に変化が生じる。したがって、傷の検知が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、検査対象物に含まれる可能性がある様々な磁性体のいずれをも完全に磁気飽和させられるほどの強力な磁界を形成するために、単に磁力を強くしようとすると、本来のセンサに比べて格段に大きなサイズの磁石が必要となったり、特殊な磁石を採用する必要が生じる。また、磁性化した部位には強力な磁力が働くこととなるので、検知に伴う検査装置の移動には困難が伴う。その一方で、検査対象物にかけられる磁界が弱ければ、ノイズが十分に除去されない。
【0008】
そこで本発明においては、磁気飽和法を用いた渦電流探傷装置と検査対象物とを含む渦電流探傷システム、および渦電流探傷方法において、さほど強力な磁界を形成しなくとも、適切な磁界を形成することで、十分にノイズを除去することが可能となる渦電流探傷システムおよび渦電流探傷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る渦電流探傷システムは、検査対象物および渦電流探傷装置を含む渦電流探傷システムにおいて、前記検査対象物は、オーステナイト系ステンレス鋼を材料として製造され、前記オーステナイト系ステンレス鋼同士の溶接が行われた溶接部を有し、前記渦電流探傷装置は、前記検査対象物に渦電流を発生させ、前記渦電流の変化を検出することにより前記検査対象物の前記溶接部の表面の状態を検査する渦電流探傷装置であり、前記渦電流の変化を検出するための検出部と、前記検出部の外側に配置され、前記検査対象物に磁界をかける磁界形成用磁石とを備え、前記磁界形成用磁石の前記検査対象物へ向く磁石先端部の中央と、前記検出面の中央との距離をx(単位mm)、前記検査対象物の厚みをt(単位mm)とするとき、前記磁界形成用磁石により発生する磁界の磁束密度B(単位mT)が、前記磁石先端部の中央に対応する検査対象物の表面において下記の数1を満たすことを特徴とする。
【0010】
【0011】
また前記磁界形成用磁石により発生する磁界の磁束密度B(単位mT)は、前記磁石先端部の中央に対応する検査対象物の表面において下記の数2を満たすことが好ましい。
【0012】
【0013】
また本発明に係る渦電流探傷システムの前記検査対象物は、使用済み核燃料が封入される金属製のキャニスタであってもよく、この場合、渦電流探傷装置は、前記キャニスタの外表面に渦電流を発生させて、前記キャニスタの外表面における傷の有無を検査するとよい。
【0014】
また本発明に係る渦電流探傷装置の前記検査対象物は、オーステナイト系ステンレス鋼を材料として製造されたものであるとよい。
【0015】
また本発明に係る渦電流探傷装置の前記検査対象物に、オーステナイト系ステンレス鋼同士の溶接が行われた溶接部があってもよく、この場合、渦電流探傷装置は、前記溶接部における傷の有無を検査するとよい。
【0016】
また、本発明に係る渦電流探傷方法は、オーステナイト系ステンレス鋼を材料として製造され、オーステナイト系ステンレス鋼同士の溶接が行われた溶接部を有する検査対象物に対し、渦電流探傷装置によって前記検査対象物に渦電流を発生させ、前記渦電流を測定することにより前記検査対象物の前記溶接部の表面における傷の有無を検査する渦電流探傷方法において、前記渦電流探傷装置の磁界形成用磁石によって前記検査対象物に磁界をかけながら、前記渦電流探傷装置によって前記検査対象物に前記渦電流を発生させ、前記渦電流から生じる磁束を前記渦電流探傷装置の検出面で受けることにより検査を行い、磁界形成用磁石によって前記検査対象物にかけられる磁界は、前記磁界形成用磁石の前記検査対象物へ向く磁石先端部の中央に対応する検査対象物の表面における磁束密度B(単位mT)が下記の数3を満たす磁界であり、
【0017】
【0018】
ここで、x(単位mm)は前記磁石先端部の中央と、前記検出面の中央との距離、t(単位mm)は前記検査対象物の厚みであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る渦電流探傷システムおよび渦電流探傷方法によれば、さほど強力な磁界を形成しなくとも、適切な磁界を形成することで、十分にノイズを除去して探傷を行うことが可能となる渦電流探傷システムおよび渦電流探傷方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態の一例において渦電流探傷装置による検査の対象となるキャニスタを示す図。
【
図2】過電流探傷装置を用いた探傷の様子を示す概略図。
【
図3】検査プローブの構造の一例を模式的に示す図。
【
図4】ノイズが含まれる検出信号とノイズが除去された検出信号を示す図。
【
図5】磁界形成用磁石、検査面、検査対象物の位置関係を示す図。
【
図6】検出信号にノイズが含まれている場合を示すグラフ。
【
図7】検出信号のノイズが低減された場合を示すグラフ。
【
図8】検出信号からノイズが十分に除去された場合を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に、本発明の実施形態の一例
としての渦電流探傷システムにおいて渦電流探傷装置によって傷の検査(探傷)が行われる対象(検査対象物)となるキャニスタ20を示す。このキャニスタ20は金属製の筒型容器であり、その内部には使用済み核燃料が封入される。キャニスタ20は
図1に示すようにコンクリート製の大型容器(コンクリートキャスク10)内に入れられた状態で、都市部から離れた地域、典型的には沿岸部に保管される。
【0022】
コンクリートキャスク10の下方には径方向に貫通する空気導入路14が設けられており、上方には径方向に貫通する空気排出路15が設けられている。外部空気が空気導入路14から取り入れられ、空気排出路15から排出される過程で、外部空気がキャニスタ20の側面に触れることにより、封入された使用済み核燃料の崩壊熱によって加熱されるキャニスタ20の冷却が行われる。
【0023】
ここで、コンクリートキャスク10が沿岸部で保管されている場合、沿岸部の空気には海塩が含まれているため、外部空気に触れるキャニスタ20の表面には塩化物によって錆や腐食が生じるおそれがある。そして、錆や腐食の生じた箇所に引張応力がかかっていると、その箇所に応力腐食割れ(SCC:Stress Corrosion Cracking)が生じることがある。そこで、キャニスタ20は定期的にコンクリートキャスク10から抜き出され、その表面にSCCが生じていないかどうかの検査(探傷)が行われる。
【0024】
キャニスタ20は
図1に示すように、底付きの円筒形状の本体と、その上部開口を閉ざす蓋22とで構成されている。キャニスタ20の本体と蓋22とは、溶接によって固着されており、
図1に示すように、その溶接の跡が蓋溶接部26として残る。またキャニスタ20の本体側面は、長方形状の金属板を円筒状に湾曲させ、その金属板の両端同士を溶接することで形成される。この溶接の跡も、
図1に示すように側面溶接部24として残る。こうした側面溶接部24や蓋溶接部26には引張応力がかかり易いため、これらの箇所にSCCが発生する可能性が高い。そのため、特にこれら側面溶接部24や蓋溶接部26において探傷を行うことが重要である。
【0025】
図2に、渦電流探傷装置40を用いた探傷の様子を概略的に示す。渦電流探傷装置40は検出プローブ50を備えている。この検出プローブ50からは交番磁界が発生するようになっており、交番磁界が検査対象物30(ここではキャニスタ20の側壁、蓋、底面など)の表面に接近すると、検査対象物30の外表面を構成する金属(キャニスタ20の場合は一般的にオーステナイト系ステンレス鋼)に渦電流34が発生する。この渦電流34が発生させる磁束は検出プローブ50によって検知され、検知された磁界の強さや波形を基にして検査対象物30表面の状態が判定される。例えば
図2に示すように検査対象物30表面に傷32がある場合、傷32の領域は電気抵抗が大きいため、渦電流34は傷32を避けるようにして流れる。そのため渦電流34の波形は
図2に示すように傷32の周囲で歪んだ形状となる。したがって、渦電流34の波形を解析して、検査対象物30表面のうちどの位置で波形が歪むかを調べることにより、検査対象物30表面のどの位置に傷32が存在するのかを検査することができる。
【0026】
図3に、渦電流探傷装置40の構造の一例を模式的に示す。渦電流探傷装置40は、検査プローブ50と制御器42を備えている。検査プローブ50は検査対象物30表面に発生する渦電流の変化を検出するための検出部54を有する。また制御器42は、検査プローブ50から受信した検出信号を処理する機能を備えている。
【0027】
ここでは、検出部54の下端面は検査対象物30の表面と向かい合うように配置されており、この下端面が、検査対象物30に発生する渦電流から生じる磁束を受ける検査プローブ50の検出面55となる。
【0028】
ここで、検査対象物30の表面がどのように交番磁界に対して反応するかは、検査対象物30の材料自体が持つ性質によって異なる。検査範囲内において材料の性質が均一であれば他の部分に比べて交番磁界に対する反応が異なる部分を探すことで探傷を行うことができるが、材料の性質、特に透磁率が位置によって異なっていると、傷がなくとも位置によって交番磁界に対する反応が異なることとなり、検査に影響を及ぼすノイズが発生するため、探傷が困難となる。したがってこのようなノイズは可能な限り除去されることが望ましい。
【0029】
図3では、検査対象物30の表面の一部に、周りと異なる透磁率を持つ異種材料からなる異種材料部35が現れているものとしている。例えば検査対象物30が
図1に示すキャニスタ20である場合、側面溶接部24や蓋溶接部26(溶接部)に異種材料が現れることがある。具体的には、キャニスタ20がオーステナイト系ステンレス鋼で構成されている場合、溶接部にはフェライト系の合金が現れる可能性がある。すなわち、溶接の過程でオーステナイト系ステンレス鋼が融解した際、その成分である鉄(Fe),クロム(Cr),ニッケル(Ni),モリブデン(Mo),そして炭素(C)などの原子配列が乱されるため、溶接の完了後、表面にはオーステナイト系ステンレス鋼と異なる原子配列を持つ合金が現れることになり、場合によってはフェライト系合金が現れることもある。このように検査対象物30表面の透磁率が不均一な場合において、検出信号にノイズが現れる様子と、磁界形成用磁石60を用いることによりノイズが除去される様子を、
図4に示している。
【0030】
フェライト系合金が存在する位置では磁界の向きに乱れが生じるため、表面に傷がなくともフェライト系合金が存在する位置では検査プローブ50が検出する検出信号に変化が現れてしまう。このため、フェライト系合金が表面に現われる溶接部においては、検出信号の変化が傷に起因するものなのか、フェライト系合金に起因するものなのかを判別することが困難である。具体的には
図3に示すように、検査対象物30の表面にフェライト系合金が現れて異種材料部35が形成されている場合、検査プローブ50から発せられる交番磁界の磁束が異種材料部35の位置で乱されることとなり、この位置の上方を検査プローブ50が通過した際、検出信号にノイズが生じる(
図4のグラフZ1)。そのため、異種材料部35内に傷32があっても、傷32に起因する検出信号の変化を発見することが困難である。
【0031】
ここで、
図2,
図3に仮想線で示すように、磁界形成用磁石60を検査プローブ50の外側に配置しておくと、この磁界形成用磁石60から発せられる磁界を受けた検査対象物30と異種材料部35の透磁率が変化する。磁界形成用磁石60の磁界の強さが適切に設定されていれば、検査対象物30と異種材料部35の透磁率がほぼ等しくなる。そのため、検査プローブ50から発せられる交番磁界に対する反応が異種材料部35とそれ以外とでほぼ等しくなるため、検出信号が強くなるのは傷32の位置のみとなる(
図4のグラフZ2)。
【0032】
本発明の発明者は、検査対象物30の厚みや磁界形成用磁石60の位置などの条件を検討した結果、磁界形成用磁石60の磁界がどの程度の強さであればノイズが十分に除去されるかを見出した。すなわち、
図3に示すような磁界形成用磁石60により発生する磁界は、磁界形成用磁石60の検査対象物30へ向く先端部62(磁石先端部)の中央と向かい合う検査対象物30の表面位置(先端部62に対応する検査対象物30の表面)で測定した場合に、磁束密度Bのミリテスラ(mT)値が、以下の数4を満たしていることが望ましい。
【0033】
【0034】
ここで、
図5に示すように、xは磁界形成用磁石60の先端部62(磁極となる部分)の中央と、検出部54の中央との距離(単位mm)、tは検査対象物30(例えば
図1のキャニスタ20)の厚み(単位mm)である。kは13以上15以下の任意数値で、好ましくはk=14である。数4の磁束密度Bの範囲を、kを使わずに表すと以下の数5となる。
【0035】
【0036】
また数4においてk=14の場合、磁束密度Bの範囲は以下の数6となる。
【0037】
【0038】
数6では、例えばx=13.75(mm)、t=14(mm)であれば、Bはおよそ385.84mT以上、578.765mT以下となる。
【0039】
磁束密度Bの値が数4,数5の範囲内であれば十分にノイズが除去されることを
図6、
図7、
図8を用いて説明する。
図6、
図7、
図8のグラフは、
図1に示すキャニスタ20の溶接部(側面溶接部24や蓋溶接部26)で探傷を行う場合の検出信号を示している。正確にはキャニスタ20の材質として用いられるオーステナイト系ステンレス鋼に溶接を施した試験片の表面を検査してどのような検出信号が得られるかを調べた。具体的にはSUS316の試験片同士をTIG溶接して、その溶接部に対して検査を行った。なお、ここでは表面に傷がない場合に得られる検出信号を示している。
【0040】
まず
図6は、
図3に示す磁界形成用磁石60を用いずに検査プローブ50のみにより溶接部の検査を行った場合に得られる検出信号のグラフを示している。試験片表面に傷がないにも関わらず、
図6のグラフZ3には起伏が多くみられ、溶接部に現われる異種金属(フェライト系合金など)の影響によって検出信号にノイズが混入していることがわかる。次に、
図7、
図8は磁界形成用磁石60を用いた場合に得られる検出信号のグラフを示している。
図7、
図8のどちらも、上記数6におけるx,tの条件は同じであり、x=13.75(mm)、t=14(mm)である。
図7のグラフZ4は磁束密度Bの値が300mTの場合に得られる検出信号を示している。300mTは数5においてx=13.75(mm)、t=14(mm)の場合の範囲内(293mT以上)の値である。
図7のグラフZ4は
図6のグラフZ3に比べて起伏が小さくなっており、この程度までノイズが低減されたならば信号にフィルタリングなどの加工を施すことによりノイズを無視することが可能になる。すなわち、B=300(mT)の磁束密度によってノイズが許容範囲内まで低減される。
【0041】
図8のグラフZ5は磁束密度Bの値が500mTの場合に得られる検出信号を示している。500mTは数6に示す磁束密度Bの範囲内である。
図8のグラフZ5は
図7のグラフZ4よりもさらに起伏がなくなっており、B=500(mT)の磁束密度によってノイズが十分に除去されていることがわかる。
【0042】
このように、本実施形態においてはわずか300~500mTの磁束密度で許容範囲内までノイズを除去することができる。従来の磁気飽和法による渦電流探傷方法では、オーステナイト系ステンレス鋼の検査において十分にノイズを除去するためには1T~数10Tという高い磁束密度が必要とされてきたので、従来の方法に比べて遥かに低い磁束密度でノイズ除去を実現できたことになる。そのため、従来の方法と比べて高い磁束密度を発生させるための高価な材料や装置を使う必要がない。また、強い磁力によって渦電流探傷装置40が検査対象物30の表面に束縛されて渦電流探傷装置40を移動させることが困難になってしまうこともない。
【0043】
従来の磁気飽和法において高い磁束密度が必要とされてきたのは、オーステナイト系ステンレス鋼を磁気飽和させるためには1T~数10Tの磁束密度が必要となるためである。しかしながら、検査対象物に含まれる複数の材料間の透磁率の違いに起因するノイズを除去するためには、検査対象物を必ずしも完全に磁気飽和させる必要はない。印加している磁界内において、複数の材料の透磁率が互いにほぼ等しくなっていれば、透磁率の違いに起因するノイズは除去される。オーステナイト系ステンレス鋼の溶接部に現われるフェライト系合金の透磁率とオーステナイト系ステンレス鋼の透磁率は、上記数5を満たす磁束密度の中ではほぼ等しくなる。また両者の透磁率が等しくなくとも、近い値になれば透磁率の違いに起因するノイズは低減される。傷の深さを推定できる程度にノイズの大きさが小さければ、ノイズは許容範囲内にまで低減されたといえる。本実施形態によれば、検査対象物30に比較的低い磁束密度の磁界をかけることで、
図3に示すような異種材料部35と検査対象物30の本来の材質との透磁率を近づけることができ、透磁率の違いに起因するノイズを許容範囲内にまで低減することができる。
【0044】
なお本実施形態においては、特に
図1に示すキャニスタ20、特にオーステナイト系ステンレス鋼を材料として製造されたものを検査対象物30としているが、渦電流探傷装置40は表面に渦電流が発生する物質全般の探傷のために用いることができる。
【0045】
また渦電流探傷装置40の検出部54は検査対象物30表面に発生する渦電流の変化を検出できるものであればよく、具体的な形態は様々なものが利用可能である。例えば大きな励磁コイルで一様な渦電流を発生させ、その下方に配置され励磁コイルと中心軸が直交する小さな検出コイルで渦電流の変化を検出するものとしてもよい。また一つの励磁コイルを挟むように二つの検出コイルを配置して、二つの検出コイルに流れる電流の差を検出信号として得る形態であったり、インピーダンスの変化に着目することにより励磁コイルと検出コイルの役割を一つのコイルで兼用できる形態であったりしてもよい。いずれの形態でも励磁コイルと検出コイルは全体として面対称や軸対称に配置されるため、その対称中心の位置を検出部54の中央と考えればよい。
【符号の説明】
【0046】
10 コンクリートキャスク
20 キャニスタ
30 検査対象物
40 渦電流探傷装置
50 検査プローブ
54 検出部
55 検査面
60 磁界形成用磁石
62 先端部