(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】アニオン性化合物を用いたピッチ低減方法
(51)【国際特許分類】
D21C 9/08 20060101AFI20220329BHJP
D21H 21/02 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
D21C9/08
D21H21/02
(21)【出願番号】P 2018040764
(22)【出願日】2018-03-07
【審査請求日】2021-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000142148
【氏名又は名称】ハイモ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】境 健自
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-273048(JP,A)
【文献】特開2018-003178(JP,A)
【文献】特開平09-158076(JP,A)
【文献】特開2004-244766(JP,A)
【文献】特開2003-055895(JP,A)
【文献】特開2011-026746(JP,A)
【文献】特開2015-021195(JP,A)
【文献】特開平4-300383(JP,A)
【文献】米国特許第5368694(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-D21J7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙前の製紙工程において、
アニオン性化合物として、リグニンスルホン酸、タンニン酸及びその塩から選択される一種以上であるアニオン性化合物を添加後、
重量平均分子量が1万~500万であり、pH7における、カチオン当量値が、3.0~22.0meq/gである有機凝結剤を添加することを特徴とするピッチ低減方法。
【請求項2】
前記
アニオン性化合物と前記有機凝結剤の添加場所が、固形分濃度が1.5質量%以上の製紙原料であることを特徴とする請求項1に記載のピッチ低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙前の製紙工程において、凝結剤あるいはピッチコントロール剤を使用したピッチ低減方法に関するものであり、詳しくは、特定のアニオン性化合物を添加後、有機凝結剤を添加するピッチ低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙の製造工程において、古紙配合率の増加や、中性抄造化、抄紙系用水のクローズド化により製紙原料中のアニオントラッシュ(アニオン性夾雑物)、マイクロピッチ、濁度成分が増加している。これらアニオントラッシュ、マイクロピッチ、濁度成分が微細な状態で製紙原料中に存在している限り製紙へ欠陥として発生することは少ないが、攪拌やエアレーション、pH変化、薬剤添加により集塊化され紙製品の汚れや欠陥発生原因となる。パルプ繊維に定着せず集塊化が進んだピッチ分は、微細繊維や填料を巻き込んで粗大粘着物になり、ファンポンプ、配管内、ワイヤー、フェルト、ロール等の抄造装置や用具に付着するだけでなく、これら付着物が剥離して湿紙に乗り製紙欠陥となることが推定される。通常、アニオントラッシュやマイクロピッチは表面がアニオン性に帯電しているため、これらが成長、粗大化する(ピッチとなる)前に凝結剤やピッチコントロール剤と言われるカチオン性あるいは両性重合体を添加し、電荷の中和によりアニオントラッシュやマイクロピッチを処理する方法や粘着性を低下させる方法が汎用されている。例えば、特許文献1では、機械パルプを主体とする製紙原料中に、四級アンモニウム塩基を含有する単量体と非イオン性単量体からなる共重合体を添加するピッチ抑制方法が開示されている。
しかし、アニオン性が低い原料やピッチ、カチオン性に帯電している原料については従来のカチオン性あるいは両性重合体ではピッチの抑制効果が低い場合があり、アニオン性重合体併用処方が提案されている。例えば、特許文献2には、特定の水溶性アニオン性共重合体(塩)をパルプスラリーに添加し、該水溶性アニオン性共重合体がパルプスラリーに充分混合された後に、特定の水溶性カチオン性重合体を該パルプスラリーに添加するピッチコントロール方法が開示されている。しかし、この処方でも必ずしも満足なピッチ低減効果は得られていない。
一方、製紙用添加剤として疎水基とアニオン基を有する化合物が有効であることが報告されている。特許文献3には、アニオン性基と疎水基とを有する水溶性重合体を含有する製紙助剤を添加する紙の製造方法が開示されている。特許文献4には、高分子量カチオン重合体及び変性リグニンを含む組成物を使用する紙または板紙の製造方法が開示されている。特許文献5では、ビニルアミン単位を含有するポリマー及びポリマーアニオン性化合物を紙料に別個に添加する紙、板紙及び厚紙を製造する方法において、ポリマーアニオン性化合物としてリグニンスルホン酸及び/又はリグニンスルホナートを使用することが開示されている。
しかし、これら処方は水切れ性、歩留性、地合、乾燥強度あるいはサイズ度の向上を図るためであり、ピッチ低減やピッチコントロールについての記載はない。
【0003】
【文献】特開2002-173893号公報
【文献】特開平9-158076号公報
【文献】特開2006-97197号公報
【文献】特開平7-173790号公報
【文献】特表2009-530504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、抄紙前の製紙工程において、有機凝結剤あるいはピッチコントロール剤を添加し、工程に発生する汚れや成紙に発生するピッチを低減し安定な操業を図る方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明者は、鋭意検討した結果、以下に述べる発明に達した。即ち、抄紙前の製紙工程において、アニオン性化合物を添加後、有機凝結剤を添加するピッチ低減方法である。
【発明の効果】
【0006】
製紙工程における汚れや、ピッチ低減を図るために本発明の薬品処方を適用することにより従来の凝結剤あるいはピッチコントロール剤に比べて濁度成分やマイクロピッチを低減することができ、製紙工程のピッチトラブルを抑制し、安定な操業が可能となり高品質な紙製品の製造が達成できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のピッチ低減方法における薬品処方として二液を使用する。一液目にアニオン性化合物を使用する。本発明においてはアニオン性化合物が有するアニオン基及び/又は疎水基が製紙原料中のピッチ粒子に対して有効に作用する。アニオン性化合物として、フミン酸、タンニン酸、ドデシル硫酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、リグニンスルホン酸、スルホン酸基結合ポリエステル等及びその塩が使用できる。
【0008】
これらの中でもリグニンスルホン酸、タンニン酸及びその塩が特に好ましい。リグニンスルホン酸は、リグニンにスルホン化処理を行うことによりスルホン基等を導入した変性物であり、フェニルプロパン構造の単位が複雑に重縮合した無定形の高分子物質であるリグニンがスルホン化されて、スルホン基が導入された構造となっている。その塩としてリグニンスルホン酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、マグネシウム塩又はカルシウム塩が挙げられる。
これらの重量平均分子量は、2000~20000の範囲が好ましい。
【0009】
タンニン酸は五倍子タンニンなどのタンニンと同意語で表現されることも多く、タンニンとタンニン酸とは厳密な区別なく使用される場合もある。本発明で用いられるタンニン酸とは、加水分解によって没食子酸を生成する多価フェノール化合物をいう。しかし、タンニン酸は広く自然界の植物に含まれる化合物であるため、部分的に化学構造の異なる化合物となることは、容易に類推され、これらも含めてタンニン酸と定義される。
【0010】
一液目のアニオン性化合物としてスルホン酸系重合体も使用できる。スルホン酸系重合体は、スルホン酸基を有する単量体を構成単位として含有する。スルホン酸基を有する単量体の例としては、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-ヒドロキシ-3-アリルオキシ-1-プロパンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸もしくはこれらの塩が挙げられる。これら一種を単独重合させた重合体、二種以上を用いた共重合体を用いる。これらの中でもポリスチレンスルホン酸もしくはこの塩が好ましく、特にポリスチレンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0011】
又、スルホン酸基を有する単量体と、スルホン酸基を持たない単量体とを共重合させた重合体を用いても良い。スルホン酸基を持たない単量体として、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸等の酸もしくはこれらの塩が挙げられる。その他、アリルアルコール、(メタ)アクリルアミド、N-アルキル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これら、一種以上を用いてスルホン酸基を有する単量体と共重合させて製造する。
その他にスルホン酸基を有する単量体とアルデヒドとの重縮合体を用いても良い、ナフタレンスルホン酸・ホルマリン重縮合体、メラミンスルホン酸・ホルマリン重縮合体等が挙げられる。
【0012】
スルホン酸系重合体は、製造する際に架橋性単量体を用いて分岐あるいは架橋構造を誘起することで得ることができる。架橋性単量体の例として、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル等の芳香族ジビニル化合物、N,N-ジビニルアニリン、ジビニルエーテル、ジビニルサルファイド、ジビニルスルホン酸等のジビニル化合物、ポリブタジエン、ポリイソプレン不飽和ポリエステル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のポリ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミド等が挙げられる。
【0013】
本発明におけるスルホン酸系重合体は、イオン交換樹脂から製造することができる。使用するイオン交換樹脂は、使用前の新品のイオン交換樹脂は使用可能であるが、廃イオン交換樹脂を使用することもできる。イオン交換樹脂からスルホン酸系重合体を製造する方法は、WO2012/140981号公報で開示されている様な方法を適用することができる。即ち、イオン交換樹脂はカチオン交換樹脂であり、これを酸化剤により分解して用いる。この様にして得られたスルホン酸系重合体の分子量分布は、GPC測定により求められる。分子量の範囲はPEG換算にて500~30000であり、重量平均分子量は3000~20000の範囲、スルホン酸系重合体のイオン当量値は、2~5meq/gの範囲のものが得られる。
【0014】
本発明におけるスルホン酸系重合体の重量平均分子量は、1000~20万の範囲が好ましい。スルホン酸基を有するモノマー単位を40モル%以上含むことが好ましい。40モル%より低いと、二液目に添加する有機凝結剤との反応性が低下するため好ましくはない。
【0015】
本発明におけるスルホン酸系重合体は、水溶液重合、油中水型エマルジョン重合、油中水型分散重合、塩水中分散重合等によって重合した後、水溶液、油中水型エマルジョン、塩水中分散液あるいは粉末等任意の製品形態にすることができる。
【0016】
これらアニオン性化合物から選択される二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0017】
本発明において、一液目にアニオン性化合物を添加後、二液目として有機凝結剤を添加する。二液目に添加する有機凝結剤としては、一般的に使用されているものが使用可能であり、例えば、(メタ)アクリル系カチオン性あるいは両性重合体、ジアリルジメチルアンモニウム塩系重合体、ポリビニルアミンおよびポリビニルアミン繰り返し単位を有する水溶性共重合体、重縮合系カチオン性物質、エチレンイミン系重合体、ジシアンジアミド系重合体等が挙げられる。
【0018】
本発明における有機凝結剤として、(メタ)アクリル系カチオン性あるいは両性重合体を使用できる。(メタ)アクリル系カチオン性あるいは両性重合体は、下記に挙げるカチオン性単量体の重合体、カチオン性単量体と非イオン性単量体との共重合体、あるいはカチオン性単量体とアニオン性単量体及び非イオン性単量体との共重合体である。カチオン性単量体としては、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物等が挙げられる。これらのカチオン性単量体は1種を単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0019】
アニオン性単量体の例としては、(メタ)アクリル酸あるいはそのナトリウム塩等のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩、マレイン酸やイタコン酸あるいはそのアルカリ金属塩、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のアクリルアミドアルカンスルホン酸あるいはそのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩等が挙げられる。これらのアニオン性単量体は1種を単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0020】
非イオン性単量体の例としては、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、ジアセトンアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、アクリロイルモルホリン、アクリロイルピペラジン等が挙げられる。これらのノニオン性単量体は1種を単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0021】
本発明における有機凝結剤として、ジアリルジメチルアンモニウム塩系重合体が使用できる。ジアリルジメチルアンモニウム塩系重合体は、ジアリルジメチルアンモニウム塩化物の重合体、ジアリルジメチルアンモニウム塩化物とアクリルアミドの共重合体である。
【0022】
前記(メタ)アクリル系カチオン性あるいは両性重合体あるいはジアリルジメチルアンモニウム塩系重合体で使用されるカチオン性単量体のモル数は、10~100モル%であり、アニオン性単量体のモル数は、0~30モル%であり、抄造条件や製紙原料に適正な組成を任意に適用する。又、重合体の重量平均分子量は10万~500万の範囲が好ましい。
【0023】
本発明における有機凝結剤として、ポリビニルアミンおよびポリビニルアミン繰り返し単位を有する水溶性共重合体を使用できる。ポリビニルアミン系水溶性高分子の製造法に関しては、特開平6-65329号公報に開示されている。本発明で使用するポリビニルアミンおよびポリビニルアミン繰り返し単位を有する水溶性共重合体は、N-ビニルホルムアミド重合体あるいは共重合体を重合体中のホルミル基を変性することにより容易に得ることができる。即ち、N-ビニルホルムアミドと他の共重合可能な単量体とのモル比が、通常50:50~100:0の混合物、好ましくは、80:20~100:0の混合物をラジカル重合開始剤の存在下、重合することにより製造される。酸あるいはアルカリによりホルミル基を加水分解するため、共重合する単量体の一部も加水分解され、カルボキシル基が生成する場合が多い。そのためアクリロニトリル等が共重合する場合便利である。その他、アクリルアミド、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル等が挙げられる。これら単量体は、アニオン性基が生成するので、共重合体中のモル比は、20モル%未満であることが好ましい。重量平均分子量は1万~300万の範囲が好ましい。
【0024】
本発明における有機凝結剤として、重縮合系カチオン性物質を使用できる。重縮合系カチオン性物質は、アンモニア、脂肪族一価アミン及び脂肪族ポリアミンから選択された少なくとも一種以上の化合物とエピハロヒドリンとの重縮合物である。脂肪族一価アミンとしては、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等である。脂肪族ポリアミンはエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサメチレンジアミン等である。これらアミン類のなかで特に好ましいものは、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチレンジアミンあるいはペンタエチレンヘキサミンである。重縮合物は、これらアンモニア、脂肪族一価アミンあるいは脂肪族ポリアミンは、単独でも二種以上を混合しエピハロヒドリンと反応させたせた生成物でも良いし、また反応第一段階でまず脂肪族一価アミンとエピハロヒドリンとを反応し縮合物を生成させ、反応第二段階でアンモニアあるいは脂肪族ポリアミンと反応させ、分子量を増大した生成物でも良い。重縮合物の重量平均分子量としては、1万~200万の範囲が好ましい。
【0025】
前記ポリアミン/エピハロヒドリン縮合物は、ポリアミン分子中アミノ基1モルに対し、エピハロヒドリン0.5モル~3.0モルを反応し生成した縮合物であることが好ましい。このような比率で反応させることにより、一級、二級、三級あるいは四級アンモニウム塩基のうち複数の種類のアミノ基を有する縮合物を生成させることができる。又、一級あるいは二級アミノ基による疎水性物質への吸着作用に効果があると推定される。従って縮合物中に活性水素が存在することが好ましく、エピハロヒドリンの比率を調節することによって原料アミンの水素原子を残しておくことが好ましい。従ってポリアミン分子中アミノ基1モルに対し、エピハロヒドリン0.5モル~3.0モル、好ましくはポリアミン分子中アミノ基1モルに対し、エピハロヒドリン0.5モル~1.5モルを反応し生成した縮合物であることが好ましい。
【0026】
エチレンイミン系重合体としては、ポリエチレンイミンあるいはポリエチレンイミン変生物等が挙げられる。重量平均分子量は1万~200万の範囲が好ましい。
【0027】
ジシアンジアミド系重合体としては、水溶性のジシアンジアミド・ホルムアルデヒド縮合物あるいはジシアンジアミド・ホルムアルデヒド・塩化アンモニウム縮合物が挙げられる。基本的には、酸あるいはそのアンモニウム塩の存在下で、ジシアンジアミドにホルムアルデヒドを加え、縮合させた生成物である。重量平均分子量は1万~50万の範囲が好ましい。
【0028】
これら前記有機凝結剤を二種以上組み合わせて使用することも可能である。
これらの中でも(メタ)アクリル系カチオン性あるいは両性重合体、ジアリルジメチルアンモニウム塩系重合体、ポリビニルアミンおよびポリビニルアミン繰り返し単位を有する水溶性共重合体は、抄造条件や製紙原料に適正なカチオン密度や分子量のものが調整しやすいので本発明の有機凝結剤として使用するには好ましい。特にポリビニルアミンおよびポリビニルアミン繰り返し単位を有する水溶性共重合体が好ましい。
【0029】
これら前記有機凝結剤のpH7におけるカチオン当量値は3.0meq/g以上が好ましい。3.0~22.0meq/gが好ましい範囲である。
【0030】
本発明における有機凝結剤を製造する際に架橋性単量体を共存させることができる。架橋性単量体としては、メチレンビスアクリルアミドやエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の複数の重合性二重結合を有する単量体、あるいはN、N-ジメチルアクリルアミド単量体等の熱架橋性単量体がその一例である。添加率としては単量体混合物全質量に対し0.0005~0.1%であり、好ましくは0.001~0.05%であり、更に好ましくは0.001~0.03%である。又、重合度を調節するためイソプロピルアルコールを対単量体0.1~5質量%併用すると効果的である。
【0031】
本発明における有機凝結剤は、水溶液重合、油中水型エマルジョン重合、油中水型分散重合、塩水中分散重合等によって重合した後、水溶液、油中水型エマルジョン、塩水中分散液あるいは粉末等任意の製品形態にすることができる。
【0032】
本発明のアニオン性化合物の添加率は、製紙原料に対し0.00002~0.02質量%、好ましくは0.0002~0.01質量%である。0.02質量%を超えて添加するとアニオン性化合物自体がアニオントラッシュとして作用する可能性があるので好ましくはない。
本発明の有機凝結剤の添加率としては、製紙固形分に対し0.001~1.0質量%、好ましくは0.005~0.1質量%である。0.001質量%より低いと濁度やピッチ低減効果が得られ難く、1.0質量%を超えると過剰添加であり過大なフロックとなり成紙の地合いが不良となる場合がある。又、PAC、硫酸バンド等の無機系凝結剤やサイズ剤、紙力増強剤、歩留向上剤、濾水性向上剤等の他の製紙用薬剤と併用しても差し支えない。特に本発明の有機凝結剤より下流で添加するカチオン性或いは両性の歩留向上剤や濾水性向上剤との併用効果が促進されピッチ低減効果のみならず、ワイヤーパートでの製紙原料の歩留向上効果や濾水性向上効果、プレスパートやドライヤーパートでの搾水性向上効果が得られる場合がある。
【0033】
次に、ピッチトラブルの防止効果について説明する。古紙や塗工損紙、樹脂に由来するピッチ類あるいはアニオン性物質、濁度成分は、紙の汚れ、欠陥、断紙、抄紙機の汚れといった様々なピッチトラブルを引き起こす。特に濁度成分やマイクロピッチが複合的に関与し成長することでピッチトラブルの大きな要因になることが考えられ、これらを処理することが必要である。そのために本発明におけるアニオン性化合物及び有機凝結剤を、製紙工程上流の固形分濃度1.5質量%以上の抄紙前の製紙原料に添加することが好ましい。更に好ましくは固形分濃度2.0質量%以上の製紙原料である。添加場所としては、種々のパルプが混合されるマシンチェスト、ミキシングチェスト、種箱等であり、脱墨古紙原料、コートブローク、雑誌古紙、段ボール古紙、ブロークパルプの個別の原料パルプ、あるいは回収原料であっても良い。又、各原料パルプチェストに直接添加するだけでなく、原料パルプチェストの配管入口や出口等であっても良い。
【0034】
通常、パルプ繊維表面はアニオン性に帯電しており、カチオン性あるいは両性凝結剤あるいはピッチコントロール剤でパルプ繊維と共に濁度成分やピッチ成分を凝結作用により処理している。これらカチオン性あるいは両性凝結剤あるいはピッチコントロール剤は比較的低分子量で高カチオン密度のものが使用されている。これらの重量平均分子量は、通常、10万~500万の範囲であり凝結作用により濁度成分やピッチ成分を凝結、細かいフロックとして成紙上に分散し抄紙系外に排出するという技術である。
これに対して、本発明は一液目としてアニオン性化合物を添加後、二液目に有機凝結剤を添加する。カチオン性凝結剤では処理が困難と考えられるアニオン性の低い、疎水性ピッチ粒子に対して、アニオン性化合物の添加によりピッチ粒子表面にアニオン基を吸着させる。その後、ピッチ粒子表面にカチオン性あるいは両性の有機凝結剤を作用させることで、表面に吸着させたアニオンとの反応性が高まり濁度成分やマイクロピッチを処理することができると考えられる。一液目に添加するアニオン性化合物が有する疎水基及び/又はアニオン基とピッチ粒子表面が適正に作用することで前記効果が得られると推測される。
【0035】
その後、固形分濃度が1.5質量%以上の製紙原料が、製紙工程の下流で白水あるいは清水、工業用水等で希釈、抄紙機の直前には固形分濃度0.5~1.5質量%未満に希釈されており、抄紙工程でワイヤー上に乗り成紙となり抄紙系外に排出され、ピッチ低減効果が得られるものと考えられる。対象抄造製紙原料としては特に限定はなく、新聞用紙、上質紙、PPC用紙、塗工原紙、微塗工紙、板紙等に適用できるが、種々の製紙用薬品や古紙の混入率が高く、アニオン性が低く疎水ピッチ粒子成分の割合が高い板紙原料において特に効果が顕著である。
【実施例】
【0036】
以下に実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0037】
本発明におけるアニオン性化合物として試料A、B、参考試料C、比較試料Dとしてポリアクリル酸ナトリウム(ダイドールH-35N、大同化成工業社製)を用意、調製した。これらの組成、物性を表1に示す。又、各種有機凝結剤試料1~6、及び歩留向上剤試料7を用意、調製した。これらの組成、物性を表2に示す。尚、有機凝結剤試料3は特開2004-26859号公報、特開2009-24125号公報等、公知の方法によって製造したものであり、ポリエチレンイミンの高分子分散媒中に単量体混合物を加えて分散重合して得たものである。
【0038】
【0039】
(表2)
製品形態;AQ:水溶液重合体、DR:塩水中分散重合体、EM:油中水型エマルジョン
【0040】
(実施例1)
段ボールを叩解して調製した模擬段ボール原料(pH7.7、電気伝導度32mS/m、カチオン要求量BTG社製PCD03型測定0.08meq/L、固形分濃度2.0質量%、灰分0.24質量%、叩解度298mL)を対象に本発明における薬品処方による効果試験を実施した。前記各種試料は、清水で0.1質量%に溶解し試験に用いた。又、疎水性ピッチ要因物質として、接着剤等に用いられるエチレン-酢酸ビニル共重合体(ボンドSP-210N、不揮発分52±2質量%、コニシ社製)の2.5質量%溶解液を用意した。
前記模擬段ボール原料100mLをポリビーカーに採取し、エチレン-酢酸ビニル共重合体を対製紙原料500ppm添加し200rpmで15秒撹拌、前記表1の試料Aを対製紙原料50ppm添加、200rpmで50秒撹拌後、前記表2の有機凝結剤試料1を対製紙原料固形分750ppm添加、200rpmで60秒撹拌した。その後、ワットマン濾紙No.41により濾過し、濾液の濁度をHACH社製2100P型により測定した。又、濾液を厚さ0.2mmのカウンティングチェンバー(ヘマサイトメーター)上に採取し、光学顕微鏡1200倍で観察した。ピントを垂直方向にずらしていきながら静止画を複数枚撮影した。カウンティングチェンバー上の異なる5箇所以上で同様の操作を繰り返した。画像処理ソフト(Media Cybernetics,inc.IMAGE-PRO PLUS Ver.5.0)を用い、顕微鏡画像の静止画を取込み、RGB値のレンジ設定をR値(0-190)、G値(0-130)、B値(0-156)に調整することにより、目的とする粒子を抽出した。その抽出した粒子について、解析ソフトを用いてピッチ個数を測定した。この結果を実施例1として表3に示す。
【0041】
(実施例2~7、参考例8)実施例1と同じ模擬段ボール原料を使用し、同様な試験を実施した。これらの結果を表3に示す。
【0042】
(比較例1~8)実施例1と同じ模擬段ボール原料を使用し、本発明の範囲外の処方で同様な試験を実施した。これらの結果を比較例1~8として表3に示す。
【0043】
【0044】
一液目にアニオン性化合物を添加後、有機凝結剤を添加した実施例1~8では、薬品を添加しないブランク(比較例1)に比べて濁度、マイクロピッチ数が低下を示した。一方、本発明外の範囲外の比較例では濁度、マイクロピッチ低減効果が低かった。マイクロピッチ数が比較的低い値でも濁度の値は低下を示さなかった。粗大なピッチ低減には両方の数値を低下させることが必要なため、これら比較例の効果は低い。
【0045】
本発明における一液目としてアニオン性化合物を添加後、二液目に有機凝結剤を添加することで濁度成分、マイクロピッチ数の両方の低減効果が得られることが確認できた。