(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】配合設計基準値設定方法、及び硬化体配合試験方法
(51)【国際特許分類】
G01N 11/00 20060101AFI20220329BHJP
G01N 33/38 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
G01N11/00 E
G01N33/38
(21)【出願番号】P 2018047716
(22)【出願日】2018-03-15
【審査請求日】2020-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100158883
【氏名又は名称】甲斐 哲平
(72)【発明者】
【氏名】坂本 守
(72)【発明者】
【氏名】志賀 彩
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-323820(JP,A)
【文献】特開2017-119954(JP,A)
【文献】特開2017-193168(JP,A)
【文献】特開2012-215013(JP,A)
【文献】特開2014-048259(JP,A)
【文献】特開2001-246357(JP,A)
【文献】特開2015-121511(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0016523(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00-13/04
G01N 33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体、セメント、及び水を含む材料からなる硬化体における配合設計時の基準値を設定する方法であって、
試験配合に基づく粉体、セメント、及び水を含む材料を混錬することで、ゼロスランプの塑性混練物を生成する混練物生成工程と、
振動盤上に設置された試験容器内に、前記塑性混錬物を詰め込む混錬物詰め込み工程と、
前記振動盤によって前記試験容器内の前記塑性混練物に振動を加えることで、該塑性混練物に含まれる粉体の周囲にセメント及び水を浸透させ、未固結であってゼロスランプである半固化体を生成する半固化体生成工程と、
前記試験容器を抜き取った前記半固化体に対して、あらかじめ設定した条件で前記振動盤によって振動を加え、該半固化体の底面の広がりを示す振動フロー値を得る振動フロー値取得工程と、を備え、
複数種類の試験配合による塑性混練物を使用して試験施工を行い、該試験施工の結果に基づいて複数種類の試験配合の中から最適配合を決定するとともに、該最適配合に対応する振動フロー値を配合設計時の基準となる基準振動フロー値とする、
ことを特徴とする配合設計基準値設定方法。
【請求項2】
粉体、セメント、及び水を含む材料からなる硬化体の配合を判定する試験方法であって、
設計配合に基づく粉体、セメント、及び水を含む材料を混錬することで、ゼロスランプの塑性混練物を生成する混練物生成工程と、
振動盤上に設置された試験容器内に、前記塑性混錬物を詰め込む混錬物詰め込み工程と、
前記振動盤によって前記試験容器内の前記塑性混練物に振動を加えることで、該塑性混練物に含まれる粉体の周囲にセメント及び水を浸透させ、未固結であってゼロスランプである半固化体を生成する半固化体生成工程と、
前記試験容器を抜き取った前記半固化体に対して、あらかじめ設定した条件で前記振動盤によって振動を加え、該半固化体の底面の広がりを示す振動フロー値を得る振動フロー値取得工程と、を備え
前記振動フロー値と、基準となる基準振動フロー値と、を照らし合わせることによって、前記硬化体の前記設計配合の適否を判定する、
ことを特徴とする硬化体配合試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、焼却灰やスラグ微粉末といった「粉体」を利用した硬化体に関する技術であり、より具体的には、硬化体の配合設計に用いる基準値を設定する方法と、硬化体の設計配合の適否を判定する試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
国や自治体を中心とする様々な取り組みによって、我が国の廃棄物の排出量は近年減少傾向にある。その一方で、石炭灰、ごみ焼却灰、ペーパースラッジ焼却灰、汚泥焼却灰等といった焼却灰やスラグ微粉末などは、緩やかではあるものの増加傾向にあると言われている。焼却灰のうち石炭灰は、主に石炭火力発電所における石炭燃焼により発生するもので、高温の燃焼ガス中を浮遊して集められたフライアッシュと、ボイラー底部にある多孔質な灰の塊を粉砕したクリンカアッシュに大別される。石炭火力発電は、いくつかの電気事業や一般産業で行われており、年間およそ1億トンの石炭が使用され、そのうち約1割が石炭灰として排出される。つまり、石炭灰だけで年間で1000万トンを超える焼却灰が排出されるわけであり、最終処分場の残容量、あるいは焼却灰の排出者が負担する費用、とりわけ環境問題を考えると、焼却灰やスラグ微粉末の処理は極めて深刻な問題である。
【0003】
他方、資源の大量使用により使用済物品や副産物が大量に発生し、再生資源あるいは再生部品となるべき相当部分が利用されずに廃棄されている状況に鑑み、平成12年、再生資源利用促進法が改正されるかたちで「資源の有効な利用の促進に関する法律(以下、単に「リサイクル法」という。)」が制定された。このリサイクル法では、エネルギーの供給又は建設工事に係る副産物であって、その全部又は一部を再生資源として利用促進するものを、特に「指定副産物」として定めており、石炭灰もこの中に含まれている。
【0004】
リサイクル法により指定副産物に定められたこともあって、排出される石炭灰の多くはセメント原料や建設資材として有効利用されている。特に本願の出願人は、石炭灰を主材料とする硬化体を製造するための「超流体工法」を開発しており、石炭灰の再利用に著しく貢献している。例えば、超流体工法によってブロック(以下、「固化ブロック」という。)を製造し、この固化ブロックを造成盛土材として利用したり、人工海底山脈の構築材として利用したり、漁場の藻場として利用している。あるいは、固化ブロックを粉砕したものを盛土材として利用したり、盛土造成地や道路路体として超流体工法による硬化体を構築(いわば、直接現場にて大規模な固化ブロックを形成)したり、多種多様な場面で超流体工法が活用されており、すなわち石炭灰が再利用されている。
【0005】
ここで超流体工法について簡単に説明する。セメントと、石炭灰、最適含水比程度(例えば、最適含水比~最適含水比+10%)の水を混錬すると、非流動性の塑性物、いわば湿った土のような状態(固練り)でゼロスランプ(0スランプ)の「塑性混練物」が得られる。この塑性混練物に対して振動を加えると、ベアリング効果によって粒子間が分離し、粒子の周囲に水分とセメント分がまんべんなく行き渡る。その結果、塑性混練物は有効応力を失って間隙水圧のみとなり、いわゆる液状化現象を起こす。塑性混練物が液状化したものがいわばプリン状の「半固化体(超流体)」であり、未固結(硬化体ほど十分硬化していない)ではあるもののゼロスランプであり、しかも液状化により粒子配置が一様かつ密実となっており、さらに焼却灰中に含まれたケイ素やアルミナ分と水、セメントの水和反応により安定した結晶体が生成されている。そして、この半固化体を養生しながら硬化させることによって、目的の硬化体が得られるわけである。
【0006】
例えば特許文献1では、塑性混練物をブロック用型枠に投入した後、その型枠に振動を加えることで塑性混練物を流動化させるという手法が開示されている。特許文献1のように超流体工法によって製造された固化ブロックは、ひび割れが少なく高強度であり、10-7~10-9(cm/s)オーダーの透水係数が得られる。
【0007】
ところで、硬化体に利用する粉体はその生成過程によって性状が異なる。そして粉体を利用する硬化体(以下、「粉体利用の硬化体」という。)の品質は、使用する粉体に左右される。特に石炭の燃焼によって発生するフライアッシュは、その炭種や燃焼条件によって性状が大きく異なることから、採用するフライアッシュに応じて適切な配合設計を行わなければならない。
【0008】
粉体利用の硬化体の配合を設計するうえでは、リサイクル推進のため可能な限り多くの粉体を使用することが望まれ、そのためには水Wの重量を粉体FとセメントCの重量で除した水粉体比(W/(F+C))はできるだけ小さくする必要がある。また施工現場では、次工程に与える影響軽減などの理由から強度発現までの時間短縮を求めることも多く、この場合もできるだけ小さな水粉体比で配合設計を行う必要がある。そしてその配合の適否を判断するためには、その配合に基づく試料(サンプル)の試験を行うことが合理的である。
【0009】
コンクリートやグラウト材の品質(つまり配合)を確認するには、フレッシュな(まだ固まらない)状態の試料を用いたスランプ試験やロート試験を行うのが主流である。また特許文献2では、コンクリートのワーカビリティを評価する手法として、基準のスランプフロー値になるまでコンクリート試料に振動を加え、その状態のコンクリート試料の上面を観察する技術について提案している。
【0010】
一方、超流体工法などによってゼロスランプの「塑性混練物」から粉体利用の硬化体を製作する場合、フレッシュな状態の試料を試験する適当な方法がこれまでなかった。例えば、超流体工法におけるフレッシュな状態は、既述したとおり「固練りの塑性混練物」であるが、ゼロスランプであってフレッシュなコンクリートやグラウト材のように高い流動性を有していないことから、スランプ試験やロート試験を行うことができない。なお、粉体と水のみ(セメントは含まない)を混合してフロー試験を実施することもあるが、この試験結果で推定した性状は、実際の固練りの塑性混練物のものと比較するとある程度ばらつきが生じることを本願の出願人は確認している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2001-246357号公報
【文献】特開2015-121511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記したとおり、超流体工法などによってゼロスランプの「塑性混練物」から粉体利用の硬化体を製作する場合、フレッシュな状態の試料を試験する適当な方法がないことから、試験結果に基づく配合設計を本施工前に行うことができなかった。そのため、これまでは実際に施工した状態を目視することによって、あるいは巻き出した塑性混練物を締め固めるオペレータの感覚によって、硬化体の品質管理を行い、その結果を配合設計に反映させていたわけである。その結果、完成した硬化体の品質にはばらつきが生じ、巻き出した塑性混練物の締め固め時間も一定しなかった。
【0013】
小さい水粉体比による配合設計が望ましいのは先に説明したとおりであるが、極端に小さい水粉体比で配合すると、塑性混練物の流動性が著しく低下する結果、締固め不足が発生するおそれがある。一方、大きい水粉体比で配合すると、粉体の再利用量が減少するうえ、所定強度を得る(適切な水セメント比を確保する)ために単位セメント量が増え、さらには塑性混練物の流動性が著しく上昇することからブリーディングが発生するおそれもある。ブリーディングは、粒子の沈降に伴って中に含まれる余剰水が表層上に上昇する現象であり、ひび割れを引き起こすなど表層の品質(強度含む)が低下することにつながる。
【0014】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち超流体工法などによってゼロスランプの塑性混練物から粉体利用の硬化体を製作する場合における、適切な配合設計を行うための試験方法と、その試験方法に用いる基準値を求める方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明は、ゼロスランプの塑性混練物を試験容器(例えばコーン)に詰め、試験容器を取り除いた塑性混練物に対して振動を加える試験を行って「振動フロー値」を得る、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0016】
本願発明の配合設計基準値設定方法は、粉体、セメント、及び水を含む材料からなる硬化体における配合設計時の基準値を設定する方法であって、混練物生成工程と混錬物詰め込み工程、振動フロー値取得工程を備えた方法である。混練物生成工程では、試験配合に基づく粉体とセメントと水を含む材料を混錬することでゼロスランプの「塑性混練物」を生成し、混錬物詰め込み工程では、振動盤上に設置された試験容器内に塑性混錬物を詰め込む。また振動フロー値取得工程では、試験容器を抜き取った塑性混練物に対してあらかじめ決定した条件(振動時間や振動回数など)で振動盤によって振動を加え、塑性混練物の底面の広がりを示す「振動フロー値」を得る。そして複数種類の試験配合による塑性混練物を使用して試験施工を行い、この試験施工の結果に基づいて複数種類の試験配合の中から最適配合を決定するとともに、最適配合に対応する振動フロー値を配合設計時の基準となる「基準振動フロー値」とする。
【0017】
本願発明の配合設計基準値設定方法は、半固化体生成工程をさらに備えた方法とすることもできる。半固化体生成工程では、振動盤によって試験容器内の塑性混練物に振動を加えることで塑性混練物に含まれる粉体の周囲にセメント及び水を浸透させ、未固結であってゼロスランプである「半固化体」を生成する。この場合、振動フロー値取得工程では、試験容器を抜き取った半固化体に対して振動を加え、半固化体の底面の広がりを示す「振動フロー値」を得る。
【0018】
本願発明の硬化体配合試験方法は、粉体、セメント、及び水を含む材料からなる硬化体の配合を判定する試験方法であって、混練物生成工程と混錬物詰め込み工程、振動フロー値取得工程を備えた方法である。混練物生成工程では、設計配合に基づく粉体とセメントと水を含む材料を混錬することでゼロスランプの「塑性混練物」を生成し、混錬物詰め込み工程では、振動盤上に設置された試験容器内に塑性混錬物を詰め込む。また振動フロー値取得工程では、試験容器を抜き取った塑性混練物に対してあらかじめ設定した条件で振動盤によって振動を加え、塑性混練物の底面の広がりを示す「振動フロー値」を得る。そして振動フロー値と基準振動フロー値を照らし合わせることによって、硬化体の設計配合の適否を判定する。
【0019】
本願発明の硬化体配合試験方法は、半固化体生成工程をさらに備えた方法とすることもできる。半固化体生成工程では、振動盤によって試験容器内の塑性混練物に振動を加えることで塑性混練物に含まれる粉体の周囲にセメント及び水を浸透させ、未固結であってゼロスランプである「半固化体」を生成する。この場合、振動フロー値取得工程では、試験容器を抜き取った半固化体に対して振動を加え、半固化体の底面の広がりを示す「振動フロー値」を得る。
【発明の効果】
【0020】
本願発明の配合設計基準値設定方法、及び硬化体配合試験方法には、次のような効果がある。
(1)簡易な試験を行うだけで、最適配合(特に水粉体比)を求めることができる。この結果、多くの粉体を再利用することができ、単位セメント量の増加を抑制することができる。
(2)試験結果に基づく配合の材料で施工を行うことから、完成した硬化体の品質と施工品質(例えば締固め時間)が安定する。
(3)巻き出した塑性混練物を締め固める場合、流動性の低下による締固め不足や、流動性の上昇によるブリーディングの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本願発明の配合設計基準値設定方法の主な工程の流れを示すフロー図。
【
図2】振動盤上に設置された試験容器を示す断面図。
【
図3】(a)は塑性混練物を試験容器に詰め込む工程を示すステップ図、(b)は試験容器内の塑性混練物から半固化体を生成する工程を示すステップ図、(c)は半固化体から試験容器を取り外す工程を示すステップ図、(d)は試験容器を取り外した半固化体に対してさらに再度振動を加える工程を示すステップ図、(e)は振動フロー値を取得する工程を示すステップ図。
【
図4】本願発明の硬化体配合試験方法の主な工程の流れを示すフロー図。
【
図5】基準振動フロー値を直径とする基準円が明示された振動盤を示す平面図。
【
図6】(a)は底面に定規体が取り付けられた試験容器を示す断面図、(b)は定規体の外周と基準円が一致するように配置された試験容器を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本願発明の配合設計基準値設定方法、及び硬化体配合試験方法の実施形態の例を図に基づいて説明する。本願発明の配合設計基準値設定方法は「粉体利用の硬化体(以下、便宜上単に「硬化体」という。)」における配合設計時の基準値を設定する方法であり、一方の硬化体配合試験方法は「硬化体」の設計配合の適否を判定する試験方法である。なお、硬化体配合試験方法は、配合設計基準値設定方法による基準値に基づいて判定する方法であり、したがってまずは本願発明の配合設計基準値設定方法について説明し、その後に本願発明の硬化体配合試験方法について説明することとする。
【0023】
1.配合設計基準値設定方法
本願発明の配合設計基準値設定方法について、
図1を参照しながら詳しく説明する。
図1は、本願発明の配合設計基準値設定方法の主な工程の流れを示すフロー図であり、中央の列に実施する工程を示し、左列にはその工程に必要なものを、右列にはその工程から得られるものを示している。
【0024】
本願発明が対象とする硬化体は、粉体利用のものであって、例えば超流体工法に代表されるようにゼロスランプの「塑性混練物」から製作されるものであり、そのため粉体とセメントと水が主材料とされ、さらに混和剤を含むものとすることもできる。したがって、ここでいう「配合」とは、粉体とセメント、水(あるいは混和剤を含む)の配合比率のことを意味する。なお「粉体」とは、焼却灰やスラグ微粉末といった粉状の物であり、さらに焼却灰には石炭灰、ごみ焼却灰、ペーパースラッジ焼却灰、汚泥焼却灰などが含まれる。
【0025】
また本願発明の配合設計基準値設定方法は、あらかじめ複数種類の配合(以下、「試験配合」という。)を用意し、それぞれの試験配合によって得られた材料で施工試験を行い、その結果から最適となる試験配合を求めたうえで基準値を設定する。そのため
図1に示すように、一連の工程(Step101~Step105)が、用意された試験配合の種類の数だけ繰り返し行われる。
【0026】
(混練物生成工程)
はじめに、第1の試験配合にしたがって粉体とセメント、水が投入されて混錬される(Step101)。このとき、超流体工法にしたがって水の量は最適含水比程度(例えば、最適含水比~最適含水比+10%)とするとよい。主材料が混錬される結果、固練りでゼロスランプの「塑性混練物」が得られる。
【0027】
(混錬物詰め込み工程)
塑性混練物が得られると、
図2や
図3(a)に示すように、この塑性混練物Pmを振動盤200上に設置された試験容器100内に詰め込む(Step102)。
図2は振動盤200上に設置された試験容器100を示す断面図であり、
図3は本願発明の配合設計基準値設定方法と硬化体配合試験方法の主な工程を示すステップ図である。
図2に示すように試験容器100は、側壁101を有する中空の筒状のものであり、コンクリートスランプ試験用のコーンなどを利用することができる。また振動盤200は、載置板201と、この載置板201を支持する支持脚202、載置板201に振動を加える加振機203を含んで構成されるもので、実施工として行われる超流体工法と同様の振動条件(例えば、振動数3,000~5,000rpm、振幅0.5~2.0mm)で加振することができる。
【0028】
ここで、混錬物詰め込み工程(Step102)と、後述する振動工程(Step104)、振動フロー値取得工程(Step105)については、超流体工法によらず硬化体を製作するケース(以下、「一般工法によるケース」という。)と、超流体工法によって硬化体を製作するケース(以下、「超流体工法によるケース」という。)で異なる手法とすることができる。したがって、これらの工程(Step102~Step105)に関しては、一般工法によるケースと超流体工法によるケースに分けたうえで説明する。
【0029】
一般工法によるケースでは、通常のフレッシュコンクリートのスランプ試験と同様に、塑性混練物Pmを試験容器100内に詰め込むとよい。具体的には、3層に分けて塑性混練物Pmを試験容器100内に詰め込み、塑性混練物Pmを均一にする目的で各層を突き棒で所定回数(例えば、25回)だけ突き固めることができる。一方、超流体工法によるケースでは、後述するように半固化体を生成する工程(Step103)を経ることから、振動盤200で塑性混練物Pmに振動を加えながら、塑性混練物Pmを試験容器100内に詰め込むとよい。このとき、突き棒による突き固めは省略することもできるし、もちろん突き固めを併用することもできる。
【0030】
(半固化体生成工程)
超流体工法は、ゼロスランプの塑性混練物Pmから半固化体を生成することを一つの特徴としている。したがって、
図1と
図3(b)に示す「半固化体生成工程(Step104)は、一般工法によるケースでは行われず、超流体工法によるケースのみ行われる。既述したとおり、塑性混練物Pmに対して振動を加えると、ベアリング効果によって粒子間が分離し、粒子の周囲に水分とセメント分がまんべんなく行き渡る。その結果、塑性混練物は有効応力を失って間隙水圧のみとなり、いわゆる液状化現象を起こす。そして、塑性混練物が液状化したものがいわばプリン状の「半固化体」であり、未固結(硬化体ほど十分硬化していない)ではあるもののゼロスランプであって、しかも液状化により粒子配置が一様かつ密実となっており、さらに焼却灰中に含まれたケイ素やアルミナ分と水、セメントの水和反応により安定した結晶体が生成されている。具体的には、
図3(b)に示すように、振動盤200を利用して試験容器100内の塑性混練物Pmに振動を加えて半固化体を生成する。このとき実施工で予定している振動条件と同じ条件で加振すると、より施工現場に即した基準値を得ることができて好適となる。
【0031】
(振動フロー値取得工程)
一般工法によるケースでは、試験容器100内に塑性混練物Pmが詰め込まれると、
図3(c)に示すように塑性混練物Pmから試験容器100を抜き取り、そして
図3(d)に示すように試験容器100が抜き取られた塑性混練物Pmに対して、振動盤200を利用して振動を加える(Step104)。このとき、振動時間や振動数、振幅などあらかじめ定めた振動条件にしたがって振動を加える。
【0032】
一方、超流体工法によるケースでは、試験容器100内で半固化体Ssが生成されると、
図3(c)に示すように半固化体Ssから試験容器100を抜き取り、そして
図3(d)に示すように試験容器100が抜き取られた半固化体Ssに対して、振動盤200を利用して振動を加える(Step104)。このとき、振動時間や振動数、振幅などあらかじめ定めた振動条件にしたがって振動を加える。
【0033】
一般工法によるケース、超流体工法によるケースともに、振動が加えられると半固化体Ssは徐々に変形していき、
図3(e)に示すように、半固化体Ssの底面が当初よりも拡がる。振動条件による振動が終了すると、加振によって拡がった半固化体Ssの底面の直径(以下、「振動フロー値」という。)を測定する(Step105)。
【0034】
(試験施工)
用意した全ての種類(
図1ではn種類)の試験配合で振動フロー値が得られると(Step106)、試験施工を行う(Step107)。具体的には、全種類の試験配合にしたがってそれぞれ混練物を生成し、実際にその混錬物を巻き出して締固めを行う(あるいは型枠内に打込んで固化ブロックを製作する)。そして、試験配合ごとに、構造物の強度(供試体の一軸強度など)や、構造物の品質(ブリーディングや表面クラックの有無など)、施工性(締固めの容易性を示すコンパクタビリティなど)などを試験施工結果として記録する。
【0035】
(基準振動フロー値の設定)
全種類の試験配合による施工試験が完了すると、最も良好な試験施工結果が得られた試験配合を選出し、これを最適配合とする。さらに、最適配合の材料で得られた振動フロー値を「基準振動フロー値」として設定する(Step108)。この基準振動フロー値が、今後、硬化体の配合設計を行う際の基準となるわけである。
【0036】
2.硬化体配合試験方法
続いて本願発明の硬化体配合試験方法について、
図4を参照しながら詳しく説明する。
図4は、本願発明の硬化体配合試験方法の主な工程の流れを示すフロー図であり、中央の列に実施する工程を示し、左列にはその工程に必要なものを、右列にはその工程から得られるものを示している。なお、既に説明した配合設計基準値設定方法と同様の内容に関しては、ここでは詳しい説明を避けることとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「1.配合設計基準値設定方法」で説明したものと同様である。
【0037】
本願発明の硬化体配合試験方法は、実際に施工で使用する硬化体の材料の配合(以下、「設計配合」という。)の適否を判定する方法であり、本願発明の硬化体配合試験方法で設定される基準振動フロー値を指標として判定する方法である。
【0038】
(混練物生成工程)
はじめに、設計配合にしたがって粉体とセメント、水が投入されて混錬される(Step201)。このとき、超流体工法に基づいて水の量は最適含水比程度(例えば、最適含水比~最適含水比+10%)とされ、主材料が混錬される結果、固練りでゼロスランプの「塑性混練物」が得られる。
【0039】
(混錬物詰め込み工程)
塑性混練物が得られると、
図3(a)に示すように混練物詰め込み工程(Step202)が行われる。ここでも本願発明の配合設計基準値設定方法と同様、一般工法によるケースでは、例えば突き棒による突き固めを行いながら塑性混練物Pmを試験容器100内に詰め込み、超流体工法によるケースでは、振動盤200で振動を加えながら塑性混練物Pmを試験容器100内に詰め込むことができる。
【0040】
(半固化体生成工程)
本願発明の硬化体配合試験方法も、本願発明の配合設計基準値設定方法と同様、半固化体を生成する半固化体生成工程(Step203)は超流体工法によるケースのみで行われる。具体的には、
図3(b)に示すように、振動盤200を利用して試験容器100内の塑性混練物Pmに振動を加えて半固化体を生成する。このとき実施工で予定している振動条件と同じ条件で加振すると、より施工現場に即した適否判断を行うことができて好適となる。
【0041】
(振動フロー値取得工程)
一般工法によるケースでは、
図3(d)に示すように試験容器100が抜き取られた塑性混練物Pmに対して所定の振動条件で振動を加え(Step204)、
図3(e)に示すように振動フロー値を測定する(Step205)。一方、超流体工法によるケースでは、
図3(d)に示すように試験容器100が抜き取られた半固化体Ssに対して所定の振動条件で振動を加え(Step204)、
図3(e)に示すように振動フロー値を測定する(Step205)。
【0042】
(設計配合の適否判定)
振動フロー値取得工程によって、その設計配合による振動フロー値が取得されると、その振動フロー値と基準振動フロー値を照らし合わせ、その結果に基づいて当該設計配合の適否を判定する(Step206)。例えば、振動フロー値が基準振動フロー値を下回るとその設計配合は適切と判断し、振動フロー値が基準振動フロー値を上回るとその設計配合は適切でないと判断する。あるいは、振動フロー値が基準振動フロー値を上回るとその設計配合は適切と判断し、振動フロー値が基準振動フロー値を下回るとその設計配合は適切でないと判断することもできるし、基準振動フロー値を基準とした許容範囲内に振動フロー値が収まればその設計配合は適切と判断することもできる。
【0043】
振動フロー値と基準振動フロー値を照らし合わせるに当たっては、
図5に示すように、あらかじめ振動盤200に基準振動フロー値を明示しておくこともできる。具体的には、載置板201の中央付近に基準振動フロー値が直径となる円(以下、「基準円300」という。)を示しておく。この場合、ペンキやマジック等によって載置板201に基準円300を直接記載してもよいし、紙や樹脂を材料として作成された基準円300を載置板201に載置(あるいは貼付)してもよい。
【0044】
基準円300が表示された載置板201上に試験容器100を設置する場合、基準円300の中心と試験容器100の中心(底面中心)が一致するように配置するとよい。ところが、試験容器100の底面は基準円300より小さく、試験容器100を設置する際に基準円300の中心が隠れてしまうため、両方の中心が一致するように試験容器100を設置することはそれほど容易ではない。そこで、試験容器100の底面に、
図6に示す定規体102を取り付けるとよい。定規体102は、その外周が基準円300と一致しているため、基準円300に定規体102を合わせるように配置すると、基準円300と試験容器100の中心が一致するわけである。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本願発明の配合設計基準値設定方法、及び硬化体配合試験方法は、盛土造成地や道路路体の構築、人工海底山脈用の固化ブロックや漁場の藻場としての固化ブロックの製作に、特に有効に実施することができる。本願発明は、いままさに喫緊の課題となっている「資源の有効な利用」に対して好適な解決策を提供することを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明である。
【符号の説明】
【0046】
100 試験容器
101 側壁
102 定規体
200 振動盤
201 載置板
202 支持脚
203 加振機
300 基準円
Pm 塑性混練物
Ss 半固化体