(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】サイクロイド減速機
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20220329BHJP
【FI】
F16H1/32 A
(21)【出願番号】P 2018048914
(22)【出願日】2018-03-16
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000229335
【氏名又は名称】日本トムソン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598163064
【氏名又は名称】学校法人千葉工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 都至
(72)【発明者】
【氏名】大和 秀彰
(72)【発明者】
【氏名】古田 貴之
【審査官】岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-048852(JP,A)
【文献】特開2017-082993(JP,A)
【文献】米国特許第05123884(US,A)
【文献】特開2003-021198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に隣接して周方向に180°位相を異にする一対の偏心部を備えた入力軸,前記偏心部にそれぞれ外接して回転作動する一対のサイクロイド歯車,前記サイクロイド歯車に隣接して前記入力軸を回転自在に支持する出力軸を構成するボス板,前記ボス板に前記サイクロイド歯車を介して固定され且つ前記入力軸を回転自在に支持する内周ピンホルダー,前記サイクロイド歯車の歯部の外周歯部を転動する複数の外周ピン,一対の前記サイクロイド歯車の間に配設された前記サイクロイド歯車に摺接して潤滑するリング形状の歯車セパレータ用潤滑リング,及び前記サイクロイド歯車に形成された複数の挿通孔をそれぞれ転動し且つ前記ボス板に回転可能に支持された内周ピンを備えた減速機部を有することから成るサイクロイド減速機において,
前記減速機部は,前記入力軸に連結する出力軸を備えた機器が収容された円筒状のハウジング内に配設されており,前記外周ピンは,前記サイクロイド歯車の外周の周方向に隔置して,一端が前記ハウジングに取り付けられた外周ピンホルダー板に且つ他端が前記ハウジングにそれぞれ回転可能に支持されており,前記ハウジングの内周面にはリング形状の外周ピン用潤滑リングが摺動自在に配設されており,前記外周ピンは,前記外周ピン用潤滑リングにそれぞれ回転自在に摺接してすべり軸受を構成し
、
前記外周ピン用潤滑リングは前記ハウジングの前記内周面に形成された環状溝に摺接して配設され、
前記外周ピン用潤滑リングは,前記ハウジングに形成された断面矩形の前記環状溝に隙間を有して嵌入されており,前記外周ピンの回転に伴い前記環状溝内を摺接自在に配設されると共に,前記隙間が潤滑剤溜りに形成されていることを特徴とするサイクロイド減速機。
【請求項2】
前記減速機部は前記ハウジングの端部に形成された円形凹部に配設され
ていることを特徴とする請求項1に記載のサイクロイド減速機。
【請求項3】
前記ハウジングの前記端部には,前記端部に固定された外輪及び前記外輪にローラを介して回転可能な内輪から成るクロスローラベアリングが取り付けられ,前記ボス板は,前記内輪に嵌入屈折して前記内輪に固定された鍔部を備えていることを特徴とする請求項
2に記載のサイクロイド減速機。
【請求項4】
前記外周ピン用潤滑リング及び前記歯車セパレータ用潤滑リングは,潤滑剤を含浸した多孔質成形体から構成されていることを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載のサイクロイド減速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,例えば,移動用装置等のタイヤ部分,ロボット,工作機械等の各種装置に使用することができる小形で軽量なサイクロイド減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,コンベヤや生ごみ処理機等に適用される動力伝達装置として,装置の小形化,省スペース化を実現しながら,同時に,伝達容量の増大,騒音や振動の低減等について被駆動装置から受ける負荷に応じて適切な制御が可能なものが知られている。該動力伝達装置は,入力される動力を相手機械に伝達可能であり,その動力伝達機構を僅少の歯数差を有する第1外歯歯車及び第1内歯歯車を備え,第1外歯歯車を第1内歯歯車の内側で偏心内接噛合回転自在に組み込んだ第1内接噛合遊星歯車機構と,同じ入力軸と出力軸との間に第1内接噛合遊星歯車機構と動力伝達経路上で並列に配置され,僅少の歯数差を有する第2外歯歯車及び第2内歯歯車を備え,第2外歯歯車を第2内歯歯車の内側で偏心内接噛合回転自在に組み込んだ第2内接噛合遊星歯車機構とで構成すると共に,第1外歯歯車と第1内歯歯車の歯数差と,第2外歯歯車と第2内歯歯車の歯数差に差異を持たせることによって,第1内接噛合遊星歯車機構と第2内接噛合遊星歯車機構の動力伝達特性を相異ならせたものである(例えば,特許文献1参照)。
【0003】
また,本出願人は,サイクロイド減速機として,一対のサイクロイド歯車を備えた移動用装置等のタイヤ部分に使用できる小形で軽量なものを開発し,それを先に特許出願したものがある。該サイクロイド減速機は,外周ピンと内周ピンとを転がり軸受で構成し,外周ピンの外輪にブロック状潤滑部材によって給油して潤滑し,内周ピンの外輪にリング状潤滑部材によって給油して潤滑し,更に,外周ピンと内周ピンとを介して一対のサイクロイド歯車11,12にも給油して潤滑することができる。この減速機は,サイクロイド歯車,外周ピン及び内周ピンを各潤滑部材で潤滑することによって耐久性を向上させ,部品同士の摩擦を小さくして抵抗を減らし,それによって軽量でコンパクトな構造に構成できるものである(例えば,特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-211847号公報
【文献】特開2008-309264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで,従来の動力伝達装置は,並列に配置した歯車を備えた外歯歯車と内歯歯車との歯数差に差異を持たせて動力伝達特性を異ならせており,構造が大形になり,軽量でコンパクトに構成することが難しいものであった。また,本出願人に係るサイクロイド減速機は,外周ピン用の潤滑供給部材を多数設ける必要があり,部品点数が多くなり,複雑になってコスト高になっていた。更に,外周ピンの支持部は転がり軸受に構成されているので,回転性能はアップさせることができるが,転がり軸受を用いるためコスト高になっていた。
【0006】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,移動用装置等のタイヤ部分,ロボット,工作機械等の各種装置に使用することができ,相対移動部材の一方の相手部材に連結した減速機部を機器を収容したハウジング内に配設し,減速機部における外周ピンをすべり軸受に構成してハウジングに組み込み,外周ピンを潤滑する外周ピン用潤滑リングを1個で構成して部品点数を低減し,転がり軸受に構成した内周ピンをサイクロイド歯車間に配設した歯車セパレータ用潤滑リングを通じて潤滑可能にし,更に,ハウジングの端部にクロスローラベアリングの外輪を連結し,該外輪にローラを介して回転自在な内輪に減速機部の出力軸を構成するボス板を固定し,外周ピンと内周ピンを介して一対のサイクロイド歯車にも給油して潤滑し,伝達効率を向上させ,小形で軽量に構成してコンパクトにユニット化したサイクロイド減速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は,軸方向に隣接して周方向に180°位相を異にする一対の偏心部を備えた入力軸,前記偏心部にそれぞれ外接して回転作動する一対のサイクロイド歯車,前記サイクロイド歯車に隣接して前記入力軸を回転自在に支持する出力軸を構成するボス板,前記ボス板に前記サイクロイド歯車を介して固定され且つ前記入力軸を回転自在に支持する内周ピンホルダー,前記サイクロイド歯車の歯部の外周歯部を転動する複数の外周ピン,一対の前記サイクロイド歯車の間に配設された前記サイクロイド歯車に摺接して潤滑するリング形状の歯車セパレータ用潤滑リング,及び前記サイクロイド歯車に形成された複数の挿通孔をそれぞれ転動し且つ前記ボス板に回転可能に支持された内周ピンを備えた減速機部を有することから成るサイクロイド減速機において,
前記減速機部は,前記入力軸に連結する出力軸を備えた機器が収容された円筒状のハウジング内に配設されており,
前記外周ピンは,前記サイクロイド歯車の外周の周方向に隔置して,一端が前記ハウジングに取り付けられた外周ピンホルダー板に且つ他端が前記ハウジングにそれぞれ回転可能に支持されており,
前記ハウジングの内周面にはリング形状の外周ピン用潤滑リングが摺動自在に配設されており,
前記外周ピンは,前記外周ピン用潤滑リングにそれぞれ回転自在に摺接してすべり軸受を構成していることを特徴とするサイクロイド減速機に関する。
【0008】
また,前記減速機部は前記ハウジングの端部に形成された円形凹部に配設されており,前記外周ピン用潤滑リングは前記ハウジングの前記内周面に形成された環状溝に摺接して配設されている。
【0009】
また,前記外周ピン用潤滑リングは,前記ハウジングに形成された断面矩形の前記環状溝に隙間を有して嵌入されており,前記外周ピンの回転に伴い前記環状溝内を摺接自在に配設されると共に,前記隙間が潤滑剤溜りに形成されるものである。
【0010】
また,このサイクロイド減速機は,前記ハウジングの前記端部には,前記端部に固定された外輪及び前記外輪にローラを介して回転可能な内輪から成るクロスローラベアリングが取り付けられ,前記ボス板は,前記内輪に嵌入屈折して前記内輪に固定された鍔部を備えている。
【0011】
また,前記外周ピン用潤滑リング及び前記歯車セパレータ用潤滑リングは,潤滑剤を含浸した多孔質成形体から構成されているものである。
【発明の効果】
【0012】
このサイクロイド減速機は,上記のように,外周ピンが外周ピン用潤滑リングに外接して機器収容用のハウジングにすべり軸受として組み込まれ,内周ピンが転がり軸受に構成されて歯車セパレータ用潤滑リングで潤滑可能に構成され,外周ピンと内周ピンとが潤滑剤を含浸させて外周ピン用潤滑リングと歯車セパレータ用潤滑リングで潤滑されるので,該両潤滑リングに含浸された潤滑剤が滲み出して,外周ピン,内周ピン及びサイクロイド歯車に給油されることによって潤滑剤が各部材に行き渡り,部品同士の摩擦を小さくして抵抗を減らすことができ,潤滑メンテナンスフリーを実現し,更に,モータの出力が伝達される入力軸からサイクロイド減速機を通じてボス板に連結されると共に,クロスローラベアリングの外輪をハウジングに取り付けて外周ピンをすべり軸受に構成し,出力軸となるボス板をクロスローラベアリングの内輪に連結したので,装置そのものが軽量で小形化してコンパクトでユニット化された構成され,サイクロイド歯車,外周ピン,内周ピン等の部品の耐久性を向上させると共に伝達効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明によるサイクロイド減速機から成る減速機部を組み込んだインホイールモータを示す部分破断面を含む外観斜視図である。
【
図2】
図1の線分A-Aにおけるインホイールモータを示す断面図である。
【
図3】
図2の線分B-Bにおけるクロスローラベアリングの外輪を断面化したインホイールモータを示す側面図である。
【
図4】
図2の線分C-Cにおける減速機部の外周ピン用潤滑リングと歯車セパレータ用潤滑リングを示す断面図である。
【
図5】
図1の線分D-Dにおける減速機部のサイクロイド歯車と外周ピンを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下,図面を参照して,この発明によるサイクロイド減速機の実施例を説明する。この発明によるサイクロイド減速機は,その減速機部をユニット化して他の機器を収容するハウジング内に組み込んだものであり,移動用装置のタイヤ等の車輪,ロボット,工作機械等の各種装置に取り付けることができる小形で軽量な構造のものである。この発明によるサイクロイド減速機は,本出願人が先に特許出願した特開2017-309264号公報に係る減速機の改良発明であり,主として,外周ピン6の摺動部分に潤滑剤を含浸した多孔質成形体から成る円形状の潤滑リング9をハウジング3に組み込み,外周ピン6と潤滑リング9とですべり軸受を構成したことを特徴としている。このサイクロイド減速機を構成する減速機部20は,入力軸1が連結されたモータ26を収容した円筒状のハウジング3内に配設されており,軽量にコンパクトに構成されている。また,このサイクロイド減速機におけるサイクロイド歯車11,12及び内周ピン7に係わる構成等は,特開2017-309264号公報に開示されているものとほぼ同等の部品であるので,ここでは,それらの部品については簡単に説明することとする。
【0015】
この発明によるサイクロイド減速機は,概して,ハウジング3に軸受22等を介して支持された入力軸1の回転が入力されて減速するものであり,軸方向に隔置して180°位相を異にする一対の偏心部42を備えた入力軸1,両偏心部42にそれぞれ外接して回転作動する中心孔を備えた一対のサイクロイド歯車11,12,サイクロイド歯車11,12に隣接して入力軸1を回転自在に支持する出力軸を構成するボス板2,ボス板2にサイクロイド歯車11,12を介して固定され且つ入力軸1を回転自在に支持する内周ピンホルダー5,サイクロイド歯車11,12の歯部47の外周歯形を転動する複数の外周ピン6,一対のサイクロイド歯車11,12の間に配設され且つサイクロイド歯車11,12に摺接して潤滑するリング形状の歯車セパレータ用潤滑リング10,及びサイクロイド歯車11,12に形成された複数の挿通孔36をそれぞれ転動し且つボス板2に回転可能に支持された内周ピン7から成る減速機部20を有するものである。他の機器を収容するハウジング3は,例えば,他の機器がモータである場合にはその内周面に固定された固定子のステータ,及びステータ内に位置して入力軸1に連結された回転可能な回転子のロータから成るモータ26が収容されている。ハウジング3の端部には,コネクタ38等が取り付けられたハウジングエンド29が取り付けられている。
【0016】
この発明によるサイクロイド減速機は,モータ26に限らず,概して,クラッチ,タービン,発電機,発電・電動機等の他の機器(図示せず)を収容するハウジング3内に減速機部20をコンパクトに配設することによって,装置そのものをコンパクトにユニット化した構造に構成したものである。このサイクロイド減速機は,例えば,モータ,発電機等の駆動手段に取り付けられた入力軸1からの駆動力を一対のサイクロイド歯車11,12を介して減速して出力軸であるボス板2に伝達するものである。このサイクロイド減速機は,特に,ハウジング3の端部41に形成された円形凹部50に減速機部20が収容されており,減速機部20を構成する外周ピン6は,その一端の端部49がハウジング3の円形凹部50に形成した環状支持溝40に回転自在に支持され,他端の端部49が環状支持溝40に対向してハウジング3に固定された外周ピンホルダー板4に回転自在に支持されている(
図2)。また,このサイクロイド減速機は,減速機部20を収容するため円形凹部50の内周面に環状溝52を形成している。このサイクロイド減速機を構成する減速機部20では,特に,外周ピン6の両端49をハウジング3と外周ピンホルダー板4にすべり軸受として組み込んで,外周ピン用潤滑リング9をハウジング3の内周面の環状溝52に摺動自在に配設して,外周ピン用潤滑リング9で外周ピン6を潤滑するように構成したことを特徴としている。
【0017】
また,このサイクロイド減速機は,ハウジング3の端部41の円形凹部50には,サイクロイド歯車11,12,外周ピン6,内周ピン7等の減速機部20を配設するため,ハウジング3の円形凹部50に所定の間隔を有して外周ピンホルダー板4を対向配置し,該外周ピンホルダー板4をハウジング3の端部41に固定している。即ち,外周ピン用潤滑リング9は,ハウジング3の内周面51に設けた断面矩形の環状溝52に隙間を有して嵌入され,外周ピン6の回転に伴い環状溝52内を摺動可能に配設されると共に,外周ピン6の外周側の環状溝52の隙間を潤滑剤溜りとして機能するように構成したことである。また,歯車セパレータ用潤滑リング10は,サイクロイド歯車11,12間に組み込まれており,内周ピン7とサイクロイド歯車11,12の端面に接触して給油するように構成されている。歯車セパレータリング30は,POM(ポリオキシメチレンポリアセタール)製であり,2枚のサイクロイド歯車11,12の間に配置されている。歯車セパレータ用潤滑リング10は,歯車セパレータリング30の内側に組み込まれており,歯車セパレータ用潤滑リング10の内周面は,内周ピン7の外輪31の外径面に接触するように構成されている。また,歯車セパレータ用潤滑リング10からサイクロイド歯車11,12の端面に給油した潤滑剤は,サイクロイド歯車11,12と歯車セパレータリング30との滑り接触による摩擦抵抗を低減させるように機能する。また,サイクロイド歯車11,12の端面を給油した潤滑剤は,歯車表面から内周ピン7の外輪31の外径面へと給油されて潤滑することができる。
【0018】
また,このサイクロイド減速機は,ハウジング3の端部41には,ハウジング3の端部41に配置された外輪14,及び外輪14にローラ16を介して回転可能に配設された内輪15から成るクロスローラベアリング13が取り付けられている。ボス板2は,内輪15の端面から突出して内輪15に固着した鍔部43を備えている。また,ボス板2は,ハウジング3の一方の端部の外径から突出した鍔部43に外輪14が固着されたクロスローラベアリング13を介して回転自在に支持されている。ボス板2は,クロスローラベアリング13の内輪15の外端面から内径即ち内周面に嵌入して固着され,一種の帽子形状に形成されている。
【0019】
また,外周ピン用潤滑リング9及び歯車セパレータ用潤滑リング10は,潤滑剤を含浸した多孔質成形体から構成されているものである。詳しくは,潤滑リング9,10は,例えば,多孔質の焼結樹脂部材であり,パウダー状の状態で押し固めて加熱成形し,その後に,加熱成形体の多孔部に潤滑剤となる潤滑油を含浸して作製されている。また,歯車セパレータ用潤滑リング10は,
図2に示すように,サイクロイド歯車11,12間に配設された歯車セパレータリング30の内周面に嵌合支持されると共に,内周ピン7に接して内周ピン7を潤滑するものである。
【0020】
このサイクロイド減速機において,外周ピン6は,その一端が外周ピンホルダー板4に支持され,他端が外周ピンホルダー板4を支持したハウジング3に形成された環状支持溝40に周方向に隔置してそれぞれ回転可能に支持されている。このサイクロイド減速機は,特に,ハウジング3の内周面51には外周ピン6をそれぞれ回転自在に外接して潤滑するリング形状の外周ピン用潤滑リング9が摺接して配設されていることを特徴としている。外周ピン6と外周ピン用潤滑リング10は,すべり軸受を構成しているものである。
【0021】
このサイクロイド減速機において,入力軸1は,軸受21によってボス板2に回転自在に支持されており,ボス板2と内周ピンホルダー5が位置する部分は小径に,一対のサイクロイド歯車11,12が位置する部分は大径に形成されている。一対のサイクロイド歯車11,12は,入力軸1の偏芯カムから成る偏心部42に偏心部軸受を構成するローラ23を介してそれぞれ外接して回転作動するように構成されている。このサイクロイド減速機は,入力軸1を回転自在に支持する軸受21と偏心部軸受のローラ46との間には,偏心部軸受案内板がそれぞれ設けられている。該偏心部軸受案内板は,摩擦抵抗を減らすため熱可塑性樹脂であるPEEK(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)から作製されている。
【0022】
このサイクロイド減速機は,減速機部20の内部の潤滑剤が入力軸1側から機器側に漏れないように,回転しないハウジング3の内周面51にシール8が配設されている。ハウジング3の内径側の内周面51と外周ピンホルダー板4の内径側の内周面には,ゴム製のシール8が設けられている。シール8のリップ部は,回転する出力軸のボス板2と内周ピンホルダー5の外径側の外周面に接触している。また,減速機部20の潤滑剤が機器側に漏洩しないように,シール8を入力軸1のシャフトに対して配設されている。シール8のリップ部は,入力軸1,ボス板2,内周ピンホルダー5等の回転体に対して接触し,減速機部20側に向けて配設され,減速機部20の内部から潤滑剤が漏洩しないように組み込まれている。
【0023】
このサイクロイド減速機において,ボス板2は,ハウジング3にクロスローラベアリング13を介して支持されている。クロスローラベアリング13は,取付け用ねじ穴35が形成され且つ該取付け用ねじ穴35にねじ45が螺入されてハウジング3に固定された外輪14,ボス板2に固定ねじ39で固定された内輪15,外輪14と内輪15との間に組み込まれた複数個のローラ16,及びローラ16間に配設されている複数個のセパレータ17から構成されている。このサイクロイド減速機は,ボス板2には複数個の取付け用孔(図示せず)が形成され,内輪15には複数個の取付けねじ穴(図示せず)が形成されており,固定ねじ39をボス板2の鍔部43の取付け用ねじ穴に挿通して内輪15の取付けねじ穴に螺入して,ボス板2を内輪15に固定している。また,ハウジング3には,複数個の取付け用孔54が形成されており,外輪14には,ハウジング3に固定するねじ45を螺入するための周方向に隔置して複数個の取付け用ねじ孔35が形成されている。このサイクロイド減速機は,ねじ45をハウジング3の取付け用孔54に通して外輪14の取付け用ねじ孔35に螺入して,ハウジング3に外輪14を固定している。外輪14には,ローラ16とセパレータ17とを外輪14と内輪15との間に組み込むための組込み孔(図示せず)が形成されており,組込み孔には蓋18が嵌合されている。蓋18は,ピン19で外輪14に固定されている。
【0024】
このサイクロイド減速機において,内周ピン7は,概して,外輪31,内ピン37及びニードルローラ32とから成る転がり軸受53で構成され,ボス板2に内周ピン固定ピン34によって固定されている。外輪31は,例えば,ミニアチュアカムフォロアから構成されている。サイクロイド歯車11,12の挿通孔36に嵌挿した一対の外輪31は,1本の内ピン37で支持されている。内周ピン7の軸方向両端には,金属製の側板33が配置されている。サイクロイド歯車11,12と外周ピンホルダー板4との間,及び側板33とニードルローラ32との間には,例えば,摩擦抵抗を減らすため熱可塑性樹脂であるPEEK(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)製のスラストワッシャ25が配置されている。また,内周ピン7は,隣接する2つのカムフォロアの外輪31の間に金属製のカラーとPEEK製の一対のスラストワッシャ25が配置されている。なお,転がり軸受の内部には,固形潤滑剤を内蔵させることもできる。固形潤滑剤は,例えば,潤滑油と超高分子量のポリエチレンパウダーを混合して焼き固めることによって作製することができる。
【0025】
また,入力軸1は,その一端側がモータ26のロータと一体的構造であり,他端側がサイクロイド歯車11,12を取り付ける領域であって偏芯部42に形成されている。入力軸1の偏芯部42は,その両側がローラ23を保持する保持器24で支持されている。このサイクロイド減速機では,出力軸を構成するボス板2は,クロスローラベアリング13の内輪15に固定ねじ39でねじ止めされている。タイヤ等の相手部材は,固定ねじ39を用いてボス板2と共に共締めすることができる。
【0026】
この減速機は,上記のように構成されており,減速機の動力伝達経路は,概して次のとおりである。この減速機では,例えば,移動用装置等の機械装置のスイッチがONされ,入力軸1が回転する。入力軸1には180°位相がずれている一対の偏心部42が設けられており,偏心部42には,偏心部軸受のローラ46を介してそれぞれ外接して回転作動するサイクロイド歯車11,12が配設されている。入力軸1の回転によって偏心部42を介してサイクロイド歯車11,12が偏心して回転する。サイクロイド歯車11,12には,外周面に歯部47及び挿通孔36が形成されている。外周ピン6は,端部49の一端が外周ピンホルダー板4に支持されており,外周ピン6にサイクロイド歯車11,12の外周面の歯部47が接して回転する。サイクロイド歯車11,12に形成された挿通孔36には,内周ピンホルダー5に固定された内周ピン7が嵌挿されている。そこで,内周ピン7の外輪はサイクロイド歯車11,12の挿通孔36の内周面を転動して回転する。即ち,サイクロイド歯車11,12は,入力軸1の偏心部42の偏心部軸受を介して遊星歯車として高速で公転しながら同時に低速で自転する。遊星歯車としてのサイクロイド歯車11,12が自転すると,サイクロイド歯車11,12の自転に連れて内周ピン7が回転し,回転する内周ピン7を介して出力軸のボス板2が回転することになる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
この発明によるサイクロイド減速機は,移動用装置のタイヤ部分,ロボット,工作機械等の各種装置の動力伝達経路に組み込んで使用される小形で軽量な減速機として好ましいものである。
【符号の説明】
【0028】
1 入力軸
2 ボス板
3 ハウジング
4 外周ピンホルダー板
5 内周ピンホルダー
6 外周ピン
7 内周ピン
9 外周ピン用潤滑リング
10 歯車セパレータ用潤滑リング
11,12 サイクロイド歯車
13 クロスローラベアリング
14 外輪
15 内輪
16 ローラ
20 減速機部
36 挿通孔
41 端部
42 偏芯部
43 鍔部
47 歯部
50 円形凹部
51 内周面
52 環状溝
53 転がり軸受