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  • 特許-痒みを軽減するアトピー性皮膚炎治療剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】痒みを軽減するアトピー性皮膚炎治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4045 20060101AFI20220329BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20220329BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220329BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20220329BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
A61K31/4045
A61P17/04
A61P17/00
A61P37/08
A61K9/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018131745
(22)【出願日】2018-07-11
(65)【公開番号】P2020007286
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】502258635
【氏名又は名称】染井 正徳
(73)【特許権者】
【識別番号】518248125
【氏名又は名称】染井 和子
(73)【特許権者】
【識別番号】518248136
【氏名又は名称】染井 秀
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】染井 正徳
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-081037(JP,A)
【文献】特開2011-001280(JP,A)
【文献】特開2003-137780(JP,A)
【文献】特開2012-072172(JP,A)
【文献】国際公開第2018/037295(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 8/00- 8/99
A61K 9/00- 9/72
A61K 36/00-36/9068
A61P 1/00-43/00
A61Q 1/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(I):
【化1】
(式中、Rは炭素数2~29の飽和脂肪族炭化水素基を表す。)
で示されるN-アシルトリプタミン、又はその薬学的に許容される塩、水和物もしくは溶媒和物を含有するアトピー性皮膚炎治療剤(但し、カカオ抽出物を含有するアトピー性皮膚炎治療剤を除く。)
【請求項2】
アトピー性皮膚炎に伴う痒みを軽減するために用いられる請求項1記載のアトピー性皮膚炎治療剤。
【請求項3】
前記式(I)においてRが炭素数6~17の飽和脂肪族炭化水素基である請求項1又は2記載のアトピー性皮膚炎治療剤。
【請求項4】
外用剤として適用される請求項1~3のいずれか1項に記載のアトピー性皮膚炎治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副腎皮質ステロイドホルモン並みの治療効果があり、副作用が少なく、特に痒みに対して効果を示すアトピー性皮膚炎治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、西欧型ライフスタイルへの変化とともにアレルギー性疾患(アレルギー性鼻炎、花粉症、気管支喘息、アトピー性皮膚炎など)の患者数が増加し、大きな問題となっている。特に、アトピー性皮膚炎は、乳幼児の10%以上の有症率を示すほど、乳幼児に多い疾患であり、成長に伴い他のアトピー性疾患を合併しやすいことなどから、患者、家族の不安が非常に大きい疾患である。
【0003】
アトピー性皮膚炎は、睡眠を障害するほどの痒みを伴うことを特徴としており、引っ掻き、創傷を伴い、更に悪化する。その治療には、副腎皮質ステロイド外用薬、免疫抑制外用薬及び経口抗アレルギー薬が主に用いられている(非特許文献1)。しかしながら、これらの治療薬を使用してもコントロールが不良な症例も多い。この場合は、最も治療効果の高い副腎皮質ステロイド外用薬を長期間使用し治療を行う必要がある。しかし、副腎皮質ステロイド外用薬は、長期間連続使用すると皮膚の委縮、毛細血管拡張、ニキビ、多毛などの副作用が発現すること(非特許文献2)があり、副腎皮質ステロイド外用薬の長期使用は制限されているため、治療が行えなくなり、多くのアトピー性皮膚炎患者は、痒みと苦痛と睡眠不足に耐えつつある現状である。
【0004】
このような状況から、痒みを止め、また副腎皮質ステロイド外用薬並みの治療効果があり、副作用の少ないアトピー性皮膚炎治療剤の開発が求められている。
【0005】
一方、N-アシルトリプタミンは、バンレイシ属(Annona)に属する植物の種子成分として単離構造決定された天然物である(非特許文献3及び4)。これらの植物は、中央アメリカ、エジプト、インド、東南アジア諸国で栽培され、ギュウシンリ(Annona reticulata)、チェリモア(Annona cherimola)、イランイラン(Cananga odorata)などがこの属に属する。カカオ(Theobroma cacao)にも、N-アシルトリプタミン誘導体は含まれている。これらの果実は生食の他、ジャムやママレード、アイスクリームなどに加工されて食されている。
【0006】
N-アシルトリプタミンについては、抗鬱・抗ストレス作用について(特許文献1)、α2受容体遮断剤、血管拡張剤、勃起障害治療及び育毛・増毛作用について(特許文献2)、メラトニン拮抗作用について(特許文献3)、しみ、吹き出物の予防又は改善作用について(特許文献4)、筋肉痛、肩こり、腰痛、関節痛、打撲痛の予防又は改善作用について(特許文献5)、創傷、火傷、ひび割れ、痔の予防又は改善作用について(特許文献6)、それぞれ報告されているが、N-アシルトリプタミンが痒みを軽減し、アトピー性皮膚炎治療効果を有することは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-137780号公報
【文献】特許第3964417号公報
【文献】特開平4-173777号公報
【文献】特許第5380170号公報
【文献】特許第5705939号公報
【文献】特許第5705940号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】アトピー性皮膚炎診療ガイドライン、日本皮膚科学会、119(8)、1515-1534(2009)
【文献】Hengge UR, Adverse effects of topical glucocorticosteroids, J Am Acad Dermatol, 54, 1-15 (2006)
【文献】D. Chavez, L.A. Acevedo, R. Mata, J. Nat. Prod., 62, 1119-1122 (1999)
【文献】U. Maeda, N. Hara, Y. Fujimoto, A. Srivastava, Y.K. Gupta, M. Sahai, Phytochemistry, 34, 1633-1635 (1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、安全性が高く、特に痒みに対して効果を示すアトピー性皮膚炎治療剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)次式(I):
【0011】
【化1】
(式中、Rは炭素数2~29の飽和脂肪族炭化水素基を表す。)
で示されるN-アシルトリプタミン、又はその薬学的に許容される塩、水和物もしくは溶媒和物を含有するアトピー性皮膚炎治療剤。
(2)アトピー性皮膚炎に伴う痒みを軽減するために用いられる前記(1)に記載のアトピー性皮膚炎治療剤。
(3)前記式(I)においてRが炭素数6~17の飽和脂肪族炭化水素基である前記(1)又は(2)に記載のアトピー性皮膚炎治療剤。
(4)外用剤として適用される前記(1)~(3)のいずれかに記載のアトピー性皮膚炎治療剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、安全性が高く、特に痒みに対して効果を示すアトピー性皮膚炎治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明のアトピー性皮膚炎治療剤(クリーム剤)を約8ヶ月使用した女性患者(治療例2)の治療前後の患部(右足)の状態を示す写真である。
図2図2は、本発明のアトピー性皮膚炎治療剤(クリーム剤)を約8ヶ月使用した女性患者(治療例2)の治療前後の患部(左足)の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
前記式(I)においてRで表される炭素数2~29の飽和脂肪族炭化水素基としては、例えば、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基等の直鎖状又は分岐状のC2-29-アルキル基等の炭素数2~29の飽和脂肪族炭化水素基が挙げられる。
【0015】
前記炭素数2~29の飽和脂肪族炭化水素基としては、炭素数6~17の飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。特に、前記式(I)においてRで表される炭素数2~29の飽和脂肪族炭化水素基が炭素数8のオクチル基であるN-ノナノイルトリプタミンが最も強い作用を示し、好適に実施できる。
【0016】
前記式(I)で示される化合物の薬学的に許容される塩としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、ピロ硫酸、メタリン酸等の無機酸、又はクエン酸、安息香酸、酢酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、スルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸)等の有機酸との塩が挙げられる。
【0017】
前記式(I)で示される化合物は、公知化合物であり、合成、又は植物からの抽出により調製することができ、例えば、トリプタミンと各種カルボン酸のハロゲン化物とを反応させるか、あるいはトリプタミンと各種カルボン酸とをカルボン酸の活性化剤共存下に反応させて合成できる(K. Yamada, Y. Tanaka, M. Somei, Heterocycles, 79, 635-645 (2009))。
【0018】
また、前記式(I)で示される化合物を含む植物、バンレイシ属(Annona)植物(例えば、ギュウシンリ(Annona reticulata)、チェリモア(Annona cherimola)、バンレイシ(Annona squamosa))、イランイラン(Cananga odorata)又はカカオ(Theobroma cacao)の種子又は果実を含水エタノールで抽出した後、例えば、非特許文献3に記載の方法に従ってカラムクロマトグラフィーで精製して、N-アシルトリプタミンの混合物を得ることができる。この混合物をそのまま、本発明のアトピー性皮膚炎治療剤の有効成分として使用してもよい。
【0019】
N-アシルトリプタミンを天然物として含む植物の果実が、食されていることから、その安全性は証明されている。また、本発明者らは、N-ノナノイルトリプタミンについて、Kwl:ICR系マウスを用いて、単回経口投与毒性試験(2,000mg/kg)を14日間にわたり行い、解剖所見にも何ら異常は認められず、致死量は2,000mg/kg以上であり、N-アシルトリプタミンが安全な化合物であることを見出した((株)生活科学研究所、大阪府大阪市西区西本町2丁目5番19号、ニュ―オカザキバシビル、2011年4月)。またヒト皮膚に対してパッチ試験を行い、皮膚刺激指数は0.0であり、安全性を確認した((株)生活科学研究所、2011年6月)。更に、中国内モンゴルで山羊のカシミアの毛の増収を目的とした実験で、N-ノナノイルトリプタミンを、一日1.0mg/50kg/dayの用量で4年間に渡って投与しても、何ら異常がなく、強い繁殖効果、及びカシミアの毛が重量比で1.2~1.7倍に増産されることを見出した(M. Somei, Heterocycles, 75, 1021-1053 (2008)及びその後2年間の実験結果による)。これらの結果から、N-アシルトリプタミンの安全性が確認された。
【0020】
本発明のアトピー性皮膚炎治療剤は、前記したように安全性が高いので、単独あるいは他の医薬もしくは任意の製剤用担体、希釈剤、被覆剤等と混合し、任意の剤形にして投与できる。投与方法としては、経口、非経口、直腸経由、経皮又は他の任意の投与経路を用いることができるが、外用剤として適用することが好ましい。経口投与する場合には、散剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、経口用液体製剤等を例示でき、非経口投与する場合には、注射剤、外用剤(液体製剤、軟膏剤、クリーム剤、塗布剤、貼付剤、噴射剤等)を、直腸投与する場合には、坐剤、カプセル剤等を例示することができる。これらの調製方法は、それぞれ既知の方法に従うことができる。
【0021】
本発明のアトピー性皮膚炎治療剤におけるN-アシルトリプタミンの含有量は、その剤形に応じて最適量が異なるので限定されるものではないが、一般的に製剤当りの含有量を0.001重量%~10重量%、好ましくは0.01~1重量%になるように調整する。
【0022】
成人の場合、N-アシルトリプタミンの用量は、体重1kg及び1日1回当り0.001~100mg、好ましくは0.01~10mgである。この使用量を1日1回又は数回に分けて投与することができる。
【0023】
軟膏剤、クリーム剤、塗布剤、貼付剤、噴射剤等の外用剤として適用する場合は、N-アシルトリプタミンの用量は、体重1kg及び1日1回当り0.001~100mgが好ましく、この使用量を1日1回又は数回に分けて投与することができる。
【実施例
【0024】
以下に、本発明を具体的に説明するため、調製例及び実施例をあげるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
(調製例1)合成方法
染井らの方法(K. Yamada, Y. Tanaka, M. Somei, Heterocycles, 79, 635-645 (2009))に従いN-ノナノイルトリプタミンを合成し、以下の調製例3及び実施例に用いた。
【0026】
(調製例2)植物からの抽出方法
インドネシア産バンレイシ(Annona squamosa)の果実を乾燥し、全体を粉砕した。この粉砕粉末50gに、80%エタノール水溶液を1L加え1時間加熱還流して抽出した。冷却後、抽出液を濾過して不溶物を除き、溶媒を減圧留去、乾燥して、バンレイシ果実の粗抽出物18.4gを得た。この粗抽出物からは、D. Chavez らの方法(非特許文献3)に従ってカラムクロマトグラフィーで精製して、N-アシルトリプタミンの混合物が得られた。
【0027】
(調製例3)アトピー性皮膚炎治療剤の調製
クリーム剤:グリセリン、キサンタンガム、ステアリン酸、スクワラン、ペンチレングリコール、水添パーム油等の混合物に、N-ノナノイルトリプタミンを0.1重量%となるように混和して製した。
【0028】
(実施例1)クリーム剤による治療例1
患者:49才男子
経過:
(1)7歳の時に、アトピー性皮膚炎となる。以来、ステロイド等各種の治療を受けるも、刺激が強くて寝られない。40年間苦しんでいる。
(2)2016年8月4日、調製例3のクリーム剤を購入し、患部に適量を塗布した。前記クリーム剤を塗ったとたん、痒みが止まり、引っ掻かなくなった。
「お陰で傷が治り始めた。夜も眠れるし、体調もよくなった。」と8月23日に報告があった。
(3)2016年9月26日に「痒くなると塗って直ぐに消える。肌もきれいになってきた。」との感謝の電話があった。
(4)2016年11月21日。肌は絶好調。仕事もうまく行きだした。以来、現在(2018年)に至るも肌は絶好調である。
【0029】
(実施例2)クリーム剤による治療例2
患者:38才女性
経過:
(1)2017年11月16日接触
1才の時にアトピー性皮膚炎になった。体全体。入院して医師に治療を受けるも改善せず、以来苦しんでいた。ステロイド治療、アズノール軟膏、アタラックス、ゲンタマイシン、セッカパンピポキシル錠など、多くの治療がなされていたが、刺激が強く、肌もガサガサで寝られない日がずーっと続いていた。全身の包帯から滲出液が漏れたり、苦しい毎日を送っていた。
(2)2017年12月2日,電話報告受信
肌の状態落ち着いている。2017年11月のおどおどした声とは異なり、しっかりはきはきしていた。調製例3のクリーム剤を患部に適量塗布することにより痒みが止まり、掻かなくなり、よく眠れるようになった。
以後写真を、1ヶ月ごとに送付してもらい、2018年も経過を観察中。ひと月ごとによくなり、2018年6月時点で、肌は当初と比べ、飛躍的によくなっている。
前記クリーム剤を約8ヶ月使用したときの治療前後の右足の状態を図1に、左足の状態を図2に示す。
【0030】
(実施例3)クリーム剤による治療例3
皮膚科医師からの報告:
(1)アトピー性皮膚炎
娘がアトピー性皮膚炎であるが、顔の湿疹に夜、調製例3のクリーム剤を適量塗布すると、朝、湿疹が改善していた。
(2)その他の患者
現在はステロイド長期外用で薄くなった皮膚の方にも使用している。
図1
図2